アンサンブル予報

数値予報結果の誤差の原因は大きく2つに分けられ、ひとつは初期値に含まれる誤差が拡大すること、もうひとつは数値予報モデルが完全ではないことです。

数値予報では、わずかに異なる2つの初期値から予報した2つの予報結果は、初めのうち互いによく似ていますが、その差は時間の経過とともに拡大します。これは、大気の運動にある特徴的な性質「初期値の小さな差が将来大きく増大する」というカオス(混沌)的な振る舞いのひとつです。実際の数値予報では、観測データの誤差や解析手法の限界から、初期値に含まれる誤差をゼロにすることはできず、時間とともに誤差が拡大することを避けることはできません。

また、数値予報では、計算機の性能の限界により、ある大きさの格子を用いた近似式で気温や風等の予測計算を行います。このように近似式を使っていることからも、予報結果に誤差が生じます。

このような誤差の拡大を事前に把握するため、「アンサンブル(集団)予報」という数値予報の手法を利用しています。この手法では、ある時刻に少しずつ異なる初期値を多数用意するなどして多数の予報を行い、平均やばらつきの程度といった統計的な情報を用いて気象現象の発生を確率的に捉えることが可能となります。

現在は、防災気象情報や明日までの天気予報、航空気象予報にメソアンサンブル予報システムを、5日先までの台風予報、1週間先までの天気予報、早期注意情報(警報級の可能性)に全球アンサンブル予報システム及び波浪アンサンブル予報システムを、それより長期の天候予測に全球アンサンブル予報システム及び季節アンサンブル予報システムを利用しています。

下図は、アンサンブル予報から得られた台風進路の5日予報の例です。初期状態のわずかな違いで、時間とともに台風の進路が広がっていくことが示されています。初期値に含まれる誤差を摂動として与えていない予報(青色の線)では実際の進路(黒色の線)より西よりの進路を予測しているものの、誤差を考慮した予報(橙色の線)をみると、実際の進路が予測のばらつきの範囲内に含まれていることがわかります。

台風進路のアンサンブル予報

台風進路のアンサンブル予報の例、2018年8月4日9時を初期値とした台風第13号の5日予報
台風解析による進路(黒色の線)、摂動を加えないコントロールラン(青色の線)と、摂動を加えた個々のアンサンブルメンバーの予報進路(橙色の線)

参考リンク

もっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。