◆第Ⅳ章◆ 地震・津波・火山に関するきめ細かな情報の提供

Ⅳ 地震・津波・火山に関するきめ細かな情報の提供

Ⅳ-1 トカラ列島近海の地震活動への対応

(1)地震の概要

 鹿児島県のトカラ列島近海では、令和7年(2025年)6月21日から地震活動が活発になり、7月2日に一連の地震活動の中で最大規模の地震であるマグニチュード5.6の地震(最大震度5弱)、7月3日にマグニチュード5.5の地震(最大震度6弱)が発生するなどの規模の大きな地震が発生しました。地震活動は7月20日頃から低下し、規模が大きな地震の回数も減少していますが、令和8年1月現在も活動は継続しています。トカラ列島近海では、過去にも活発な地震活動が数か月継続したことがありましたが、今回の地震活動の回数は、過去のトカラ列島近海の地震活動と比べて非常に多いものとなっています。

トカラ列島近海の地震の過去の地震活動との回数比較(マグニチュード(M)2.5 以上)

トカラ列島近海の地震の最大震度別地震回数(月別)

(2)JETT(気象庁防災対応支援チーム)の派遣

 JETTとは、大規模な災害が発生または予想される場合に、都道府県や市町村の災害対策本部等へ気象庁職員を派遣する取組です。派遣された職員は、現場のニーズや各機関の活動状況を踏まえ、気象等のきめ細やかな説明を行い、各機関の防災対応を支援しています。

 今回の地震活動でも、震度6弱を観測した7月3日以降、鹿児島県庁や十島村役場に気象庁職員をJETTとして派遣しました。派遣された職員は、鹿児島県や十島村役場の災害対策本部で地震活動の状況や気象の見通し等の説明を行い、島民避難等の防災対応を支援しました。

地震活動状況や気象の見通しを説明

Ⅳ-2 地震等に関する知識の広報の取組

(1)地震予知に係る風説への対応

 近年、SNS等において、日時と場所を特定した地震の発生を予知する情報が発信、拡散されることがあります。令和7年(2025年)にも7月に日本に大災難があるという風説が国内外で流行し、国民の不安をあおるだけでなく、一部地域からの訪日観光客の減少など地域経済への悪影響もみられました。非科学的な風説による影響が広がることを避けるため気象庁では、日時と場所を特定した地震の予知は現在の科学技術では不可能であることについて積極的に情報発信を行っています。

 気象庁長官記者会見において、日時と場所を特定した地震の予知は完全にデマであり、そういった情報に振り回されないでいただきたいこと、日本では地震がいつ起こってもおかしくないため日頃から備えが必要であることを呼びかけました。この呼びかけは多くの報道機関で取り上げられました。また、長官記者会見での呼びかけの様子を、英語字幕をつけたメッセージ動画としてYouTubeチャンネル「気象庁/知識・解説」にて発信するとともに、気象庁防災情報Xにおいても日本語及び英語にて同趣旨の呼びかけや、気象庁が作成した地震予知に関するショート動画の紹介を行いました。

長官記者会見に英語字幕を加えたメッセージ動画

(2)地震・津波・火山に関する基本的な知識の普及啓発

 地震や津波に関するデマに代表される、科学的な根拠に乏しい情報に振り回されないようにしていただくためには、科学的根拠に基づく情報とそうでない情報を見極めるための基本的な知識を知ることが重要です。こうした背景を踏まえて、気象庁では、地震・津波・火山に関する基本的な知識の普及啓発を強化する取組を進めています。

 一例として、地震・津波及び火山噴火の基本的な知識、気象庁の防災情報を活用いただくうえで重要となる知識について整理したコンテンツ「地震・津波・火山を知る」を、令和7年11月19日に気象庁ホームページにおいて公開しました。

 これは、地震・津波・火山について体系的に学習いただくことを目的としており、それらを理解する上で前提となる地球そのものの知識についても、順を追って習得できるようになっています。例えば、地球と大地の動きを説明する章では、「地球の構造」、「地球の内部の動き」、「プレート境界」といった内容を扱っており、地球は構成する物質によって「マントル」や「地殻」といった層構造をしていること、地球の表面は「プレート」で覆われていること等を、図やイラストも交えて紹介しています。

「地震・津波・火山を知る」

さらに、ワンポイントコラムとして、地震・津波・火山にまつわるトピックスや気象庁の情報を利活用いただく際にカギとなる知識等の解説も掲載しています。

 今後も、地震のメカニズムや揺れ・津波の特徴、火山活動や噴火の性質といった解説を順次充実していく予定です。

 また、令和7年8月6日及び7日に実施した夏休み子ども見学デーにおいて、来場者の皆様から、地震や津波、火山噴火に関する疑問や質問を募集しました。どうして地震が起きるのか、どういう時に噴火するのかといった素朴なものから、マグニチュードと震度の違いや火山の監視・予測に関するものなど、様々な疑問が寄せられました。これらは、先に紹介したコンテンツ「地震・津波・火山を知る」で扱う内容やワンポイントコラムの参考にさせていただくとともに、気象庁防災情報Xのアカウントでも、疑問にお答えする取組を実施しました。

夏休み子ども見学デーにおける質問募集

(3)地震・津波・火山防災に関するeラーニング教材の公開

 近年、様々な学習・研修の場面においてeラーニングが普及しています。eラーニングは場所や時間の制約が少なく、個々人のペースで繰り返し学習が可能といった利点があります。

 そこで気象庁では、地震・津波及び火山噴火から命を守るため、適切な行動や情報の活用方法などを学ぶことのできる新たなeラーニング教材を関係省庁と連携して制作し、令和8年(2026年)3月に気象庁ホームページにて公開しました。基本的な知識等を学ぶことのできる動画教材に加えて、身の回りの災害リスクや適切な防災行動を一つ一つ確認することのできるワークシート等を準備しており、これらを活用することで、地震・津波及び火山噴火に関する安全知識や防災対応等を身に付けることができます。地震・津波については、自宅周辺における地震と津波のリスク、避難先と避難経路、地震や津波が発生した時に気象庁の情報や周囲の状況に応じてとる行動、さらに日頃からの地震への備えについて、考えていくものです。火山については、火口付近に近づく登山者、火山のふもとにお住まいの方をそれぞれ想定して、事前のリスクの確認や気象庁の情報に応じてとる行動、噴火警戒レベルに応じた行動について、考えていくものとなっています。

 この教材は、個人学習のみならず、学校や企業、自治会等における授業・講座やグループワーク研修など、多くの場面で活用いただける教材を目指して制作しました。お一人での学習、あるいは、身近な人と一緒に複数人での学習といったように、様々なシチュエーションでこの教材をご活用いただき、災害時の避難行動や円滑な防災対応に役立てていただくことが期待されます。

地震・津波・火山防災のe ラーニング教材

Ⅳ-3 カムチャツカ半島東方沖の地震に関する長時間継続する津波への対応

(1)津波の概要

 令和7年(2025年)7月30日8時24分(日本時間、以下同じ)、ロシアのカムチャツカ半島東方沖でマグニチュード8.8の地震が発生しました。この地震に伴って津波が発生し、岩手県の久慈港では最大141センチメートルの津波を観測したほか、太平洋沿岸を中心に北海道から沖縄県にかけての広い範囲で津波を観測しました。気象庁はこの地震に対して津波警報、津波注意報を発表するとともに、その後の津波の状況に応じて、順次、津波注意報への切り替えや津波注意報の解除を行い、31日16時30分には全ての津波注意報を解除しました。

津波を観測した地点

 この地震では、震央から直接伝播してきた津波に加えて、天皇海山列と呼ばれる北太平洋に存在する海底地形で反射した津波が遅れて到達したことなどにより、津波の高い状態が長時間にわたって継続しました。このように、太平洋全体を伝わってくる津波については、海岸や海底地形での反射等により様々な経路をたどって日本にやってくることから、一般的に津波の継続期間が長期化することがあります。この津波に対して気象庁は、令和6年(2024年)4月に公表した「長時間継続する津波に関する情報提供のあり方(報告書)」の提言に沿って、長時間継続した過去の津波事例に言及して今後の見通しを説明し、津波警報、津波注意報を継続している根拠等も含めて津波の状況の推移を説明する等、住民に分かりやすい形で呼びかけを行いました。

天皇海山列

(2)津波フラッグ

 令和7年7月30日に発生したカムチャツカ半島東方沖の地震により津波警報、津波注意報を発表したことから、全国各地の海水浴場で「津波フラッグ」を活用した津波警報、津波注意報の伝達が行われました。 「津波フラッグ」は大津波警報、津波警報、津波注意報(以下、「津波警報等」という)が発表されたことをお知らせする旗です。赤と白の格子模様の旗である津波フラッグは遠方からでも視認性が高く、その色彩は国際信号旗の「U旗」として国際的にも認知されています。このため、聴覚に障害のある方や、波音や風で音が聞き取りにくい遊泳中の方、さらには外国人の方にも津波警報等の発表をお知らせすることができます。

津波フラッグ

 津波フラッグは、海岸においてライフセーバー等により掲出されることもあれば、海岸近くの建物から垂れ下げて掲出されることもあります。海水浴場等で津波フラッグを見かけたら、速やかに避難を開始してください。

 令和2年(2020年)6月に、新たに津波警報等の伝達手段として津波フラッグが定められて以降、多くの自治体の海水浴場で津波フラッグが活用されることを目指して、気象庁では普及活動を全国的に進めてきました。令和8年(2026年)1月末現在では、海水浴場を有する自治体のうち80%(319市区町村)で津波フラッグが導入されています。

 カムチャツカ半島東方沖の地震により津波警報等が発表された津波予報区に該当し、かつ津波フラッグを導入している市区町村に対して、各地の気象台を通じて津波フラッグの活用状況を確認したところ、5割を超える市区町村で実際に津波フラッグを活用した伝達が実施されていました。当日は夏の海水浴シーズンの日中であったことから、掲揚された津波フラッグは多くの方々の目に触れたものと考えられます。また、この機会を通じて津波フラッグのことを初めて知ったという声も寄せられました。

津波警報等の発表を受けて掲げられた津波フラッグ

 津波フラッグの認知度については、令和6年度に気象庁が実施した「気象情報の利活用状況に関する調査」で、「津波フラッグを知っていて、その意味も知っている」と回答した割合が全体のわずか4.0%に留まっており、「知らない」と回答した割合は81.6%でした。海水浴場への導入は着実に進んでいる中で、津波フラッグの意味合いや見かけた際の適切な行動の普及啓発を推進することは、継続的に津波フラッグを運用していただくために重要な取組です。

 気象庁は、全国各地の機関・団体と連携して、海開き・避難訓練にあわせた津波フラッグのデモンストレーションや、学校などでの出前講座を行うなど、様々な機会を捉えた周知活動を行ってきました。また、津波フラッグと津波からの避難についてわかりやすく解説したポスターや冊子等を制作して気象庁ホームページで公開しています。今後もより一層、津波フラッグのさらなる認知度向上に努めてまいります。

津波フラッグの周知・普及活動

<地震・津波のビデオ、パンフレット>

https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/eq/index.html


コラム

●津波フラッグの普及啓発と現場から見えた課題


公益財団法人 日本ライフセービング協会 救助救命本部 副本部長

菊地 太


 日本ライフセービング協会では、海浜利用者の命を守るため、津波フラッグの普及啓発に継続して取り組んできました。津波フラッグは、地震発生後に津波警報・注意報が発表された際、視覚的に危険を伝える重要な手段であり、海辺という音が届きにくい環境において、極めて有効な避難情報伝達ツールです。

 2025年度は、7月11日に鎌倉市津波避難訓練、7月12日に横浜市海の公園津波避難訓練、11月8日に藤沢市津波避難訓練に参加しました。各訓練では、ライフセーバーが津波フラッグを掲示しながら海浜利用者に対して避難行動を促すとともに、ドローンに搭載したスピーカーを活用し、広範囲に避難の呼びかけを実施しました。実際の海水浴場では、風や波の音、人の多さにより音声のみでの周知が難しい場面も多く、視覚と音声を組み合わせた情報発信の有効性を改めて確認する機会となりました。

 一方で、課題も明らかになっています。昨年7月30日に発生したカムチャツカ半島東方沖の地震を受け、全国100カ所の海水浴場で活動するライフセーバーを対象にアンケート調査を行いました。その結果、津波フラッグ自体が十分に国民へ周知されておらず、「意味が分からない」「気づかれない」といった声が多く寄せられました。

 さらに、避難行動に関する具体的な問題も浮き彫りになりました。避難ルート上に階段が多く、高齢者や子どもが移動しにくい事例、施錠されている出入口、電車の運休により踏切が開かず通行できなかったケース、津波避難ビルに指定されているにもかかわらず、警備員の制止により建物内へ入れなかった事例も報告されています。また、長時間にわたり避難タワーで待機した結果、熱中症を発症したケースもあり、避難後の安全管理の重要性も改めて認識されました。

 津波フラッグの普及は、単に「掲げる」ことが目的ではありません。その意味を社会全体で共有し、確実な避難行動につなげることが重要です。日本ライフセービング協会は、今後も現場の声を行政や関係機関と共有し、津波フラッグのさらなる認知向上と、実効性のある避難体制の構築に向けて取り組んでいきます。海を楽しむすべての人が、いざという時に迷わず行動できる社会の実現を目指していきたいと考えています。

Ⅳ-4 北海道・三陸沖後発地震注意情報

(1)はじめに

 令和7年(2025年)12月8日23時15分、青森県東方沖でマグニチュード(M)7.5の地震が発生しました。この地震により、青森県八戸市で震度6強の非常に強い揺れとなったほか、北海道から近畿地方にかけて震度6弱から1の揺れを観測しました。また、北海道から東北地方にかけて津波警報及び津波注意報を発表し、岩手県の久慈港では最大64センチメートルの津波を観測したほか、北海道から福島県にかけての太平洋側で津波を観測しました。この地震に伴い、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進基本計画等に基づく「北海道・三陸沖後発地震注意情報」(以下、「後発地震注意情報」という)を令和4年(2022年)12月の運用開始以降初めて発表しました。また、令和8年(2026年)には、4月20日16時52分に三陸沖で発生したマグニチュード(M)7.7の地震に伴い、2回目となる後発地震注意情報を発表しました。

 ここでは、この後発地震注意情報の発表やそれに基づく政府からの防災対応の呼び掛けなど、一連の動きについて、令和7年12月8日23時15分の青森県東方沖の地震の事例を用いてご紹介します。

震度分布

(2)北海道・三陸沖後発地震注意情報とは

 千島海溝・日本海溝沿いの領域で規模の大きな地震が発生すると、その地震の影響を受けて新たな大規模地震が発生する可能性が相対的に高まると考えられています。このため、北海道の根室沖から東北地方の三陸沖の巨大地震の想定震源域及び想定震源域に影響を与える外側のエリアでモーメントマグニチュード(Mw)7.0以上の地震が発生した場合には、新たな大規模地震が発生する可能性が平常時と比べて相対的に高まっていると考えられることをお知らせする、後発地震注意情報を発表します。この発表を受けて、政府としての特別な注意の呼びかけが行われます。

巨大地震の想定震源域

(3)北海道・三陸沖後発地震注意情報発表の実際の流れ

 令和7年12月8日23時15分に発生した青森県東方沖の地震(M7.5)の発生場所が、北海道の根室半島から東北地方の三陸沖にかけての巨大地震の想定震源域内だったことから、気象庁において一定精度のMwを推定する作業を行いました。その結果、Mwが7.4と推定され、情報の発表基準を満たしたため、12月9日02時00分に後発地震注意情報を発表しました。同時に、内閣府と気象庁の合同記者会見を行い、気象庁からは後発地震注意情報の説明、その後に内閣府から後発地震注意情報を受けてとるべき防災対応の呼び掛けを行いました。

北海道・三陸沖後発地震注意情報発表後にとるべき防災対応

 後発地震注意情報を発表した9日以降は、15日まで毎日報道発表を行い、青森県東方沖の地震のその後の地震活動状況、千島海溝・日本海溝沿いの巨大地震の想定震源域における地震活動についてお知らせしました。そして、あらかじめ定められた1週間が経過した12月16日00時をもって、後発地震注意情報発表に伴う政府としての特別な注意の呼び掛けの期間は終了しました。同日、内閣府と気象庁で合同記者会見を行い、内閣府から政府としての特別な注意の呼び掛けの期間の終了と日頃からの地震への備えの実施について、気象庁から青森県東方沖の地震の概要や留意事項についてお知らせをしました。

(4)巨大地震対策に関する平時からの普及啓発の取組

 巨大地震対策に関して、気象庁ではこれまで、内閣府等と連携したリーフレット・マンガ冊子の配布、ホームページやSNSによる情報発信、デジタルメディアと連携したインフォグラフィックの作成、報道機関や自治体と連携した取組、地域の避難訓練や防災研修の機会を活用した取組等、様々な普及啓発を行ってきました。また、多言語による情報発信という観点では、内閣府等と共同でリーフレットの多言語化を行ったほか、気象庁ホームページ(英語版、多言語版)での情報発信の充実も実施しています。

 また、令和7年12月6日に「地震津波の情報を知り、様々な場面で活用して自分の命を守る」をテーマとして、巨大地震対策オンライン講演会を開催しました。本講演会では、後発地震注意情報も含めた地震・津波に関する情報や防災対応等の説明に加え、これまで残されてきた観測記録から過去の巨大地震や災害を知り未来の世代へと伝え残す取組、機械の自動制御や列車の緊急停止等に緊急地震速報等を活用している事業者の方々の取組について講演いただきました。各講演の動画は、令和8年(2026年)1月から1年間、YouTubeにてアーカイブ配信しています。


 <アーカイブ配信URL>

 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/jishin_bosai/r7_lecture.html#archive


 また、後発地震注意情報と同様、巨大地震発生の可能性が平時よりも相対的に高まっていることを伝える情報である「南海トラフ地震臨時情報」は、対象となる地域は異なるものの、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」と後発地震注意情報には枠組みに類似点が多いことを踏まえ、相互に連携した普及啓発を加速しています。

 「北海道・三陸沖後発地震注意情報」と「南海トラフ地震臨時情報」は、情報の発表がないままに突発的に地震が発生することもある、情報が発表された場合に必ず後発の大規模な地震が発生するわけではない、といった留意点があります。しかしながら、巨大地震はひとたび発生すると甚大な被害をもたらすものです。少しでもその被害を軽減するため、気象庁が発表する各種情報を最大限活用いただけるよう普及啓発を進めるとともに、地震は突発的に発生するという前提に基づく“日頃からの地震への備え”の重要性についてもしっかりと周知を行っていきます。

Ⅳ-5 津波警報等の対象地域の伝え方の改善について

(1)概要

 気象庁では、津波による災害の恐れがある場合に津波警報等を発表しています。津波警報等は、全国の海岸線を66に区分した「津波予報区」単位で発表します。津波予報区の名称は、平成11年(1999年)に津波警報等の運用を変更したことに合わせて、自治体の意見も伺ったうえで見直しを行っています。また、その境界は、原則としてシミュレーション結果をもとにした津波の地域特性を踏まえており、自治体の意見も考慮して決定しています。

 この津波予報区について、お住まいの地域がどの津波予報区に対応しているのか分かりにくい場合もあるとのご意見をいただきました。こうしたご要望を踏まえ、気象庁では津波警報等の対象地域の伝え方の改善の取組を進めています。ここでは、その取組内容をご紹介します。

(2)報道発表資料の改善

 令和7年(2025年)12月より、津波警報等を発表した際の報道発表資料において、津波予報区に対応する地域が分かるようにする改善を行いました。具体的には、津波予報区の市町村名を明示することとしました。また、北海道の津波予報区については、地元の方が理解しやすい地域の名称も併記することとしています。

 これにより、どこの海岸に津波警報が発表されているか、地元の住民の方に、より分かりやすくお伝えしてまいります。

報道発表資料の改善のイメージ

(3)気象庁ホームページの改善

 令和8年(2026年)3月からは、気象庁ホームページの津波警報等の発表状況を確認できるページにおいても、対応する市町村名を記載したリストを掲載し、広く閲覧いただけるようにしました。これにより、津波警報等を発表した直後から、津波予報区に対応する市町村名を確認いただけるようになりました。また、多言語による情報発信も重要であることから、地震や津波の情報をはじめとする防災気象情報を多言語で確認することができる多言語ホームページにおいても、合わせて改善を実施しています。


 これまでご紹介したような取組以外にも、引き続き、津波警報等の対象地域の分かりやすく伝えることができるよう、情報発信や伝え方の改善に努めてまいります。

Ⅳ-6 霧島山(新燃岳)の噴火活動と気象庁の対応

 霧島山(新燃岳)では、令和7年(2025年)6月22日に、7年ぶりの噴火が発生しました。その後も断続的な噴火になったことから、翌7月に、「火山情報アドバイザリー会議」の臨時会を令和6年の運用開始後初めて開催し、今後の火山活動の着目点等について助言を受けました。また、重要性が増した霧島山(新燃岳)の機動観測について、全国の火山監視・警報センターから職員を派遣する応援体制をとって対応しました。

 ここでは、令和7年6月からの霧島山(新燃岳)噴火に対する一連の対応について紹介します。

(1)霧島山(新燃岳)の噴火活動

 霧島山(新燃岳)では、GNSS観測で地下の膨張を示す地殻変動が認められ、火山性地震も増加したことから、令和6年(2024年)12月12日に噴火警報(火口周辺)を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)に引き上げました。その後も地殻変動や地震活動が継続する中、令和7年6月22日に噴火が発生し、宮崎県内の広い範囲で火山灰が確認されました。また、翌23日に実施した観測で火山ガス(二酸化硫黄)放出量の急増が認められたため、同日、噴火警戒レベルを3(入山規制)に引き上げ、警戒が必要な範囲を火口から3キロメートルに拡大しました。令和7年7月2日の噴火では、火山灰に新鮮なマグマ性の物質が少量含まれていることが、産業技術総合研究所により報告され、今後の展開次第ではマグマ噴火の可能性も考えられました。噴火は令和7年7月上旬をピークに9月7日まで断続的に発生しましたが、監視カメラでは大きな噴石の飛散や火砕流の発生は認められませんでした。山体が膨張する変動は停滞し火山ガスの放出量も減少するなど、火山活動が低下してきたことから、令和7年10月17日には、噴火警戒レベルを3から2に引き下げました。

噴火の状況

(2)火山灰の採取と産業技術総合研究所との連携

 噴火が発生した際には、噴出した火山灰の量と構成物質の調査が重要になります。火山灰が確認された範囲や量の調査で噴火の規模を推定したり、火山灰を構成する物質の分析作業で火山活動の推移を予測できる可能性があります。また、火山灰は降水によって流されてしまうこともあるため、噴火発生後できるだけ速やかに火山灰を採取することが求められます。令和7年6月22日の噴火では、噴火を覚知したのが休日の16時過ぎでしたが、速やかに火山灰の分析が行えるよう、鹿児島地方気象台は緊急的に人員を確保し、当日のうちに現地調査を行い、火山灰を採取しました。火山灰の分析には専門知識が必要なため、採取した試料を産業技術総合研究所に送り、分析を依頼しました。

令和7年6月22日の噴火による火山灰

(3)火山情報アドバイザリー会議

 霧島山(新燃岳)は、平成23年(2011年)や平成30年(2018年)にはマグマを噴出する噴火が発生しており、特に平成23年は、風下側に多量の火山灰や小さな噴石を降下させるとともに、爆発的な噴火では空振により窓ガラスが割れるなどの被害も生じました。今回の噴火も同様なマグマを噴出させる活動に移行するかどうかが懸念されました。このような状況を踏まえ、令和7年7月16日に「臨時会」としては初めてとなる九州地方火山情報アドバイザリー会議を、本庁、福岡管区気象台、及び各委員等をオンラインで接続して開催しました。会議では、今回の噴火活動の状況の検討に加え、過去のマグマを噴出する噴火の発生前の状況と比較を行い、「現時点では想定されるシナリオに沿った活動となっているものの、更なる火山活動の活発化も考えられることから、噴出物の組成等に着目し、情報を丁寧に発信していくべき」などの助言をいただきました。

九州地方火山情報アドバイザリー会議

(4)機動観測における広域応援

 霧島山(新燃岳)の断続的な噴火活動を踏まえ、火山活動の推移を的確に把握するめに、火山ガス(二酸化硫黄)放出量の観測や噴火発生後の迅速な火山灰採取などの現地調査を高い頻度で実施する必要が生じました。霧島山(新燃岳)については、福岡管区気象台と鹿児島地方気象台、宮崎地方気象台が協力して観測にあたっていましたが、機動観測の実施体制を強化するため、札幌・仙台管区気象台及び本庁の火山監視・警報センターから観測技術を有する職員を派遣する広域応援を実施しました。7月1日から10月1日まで、2名ずつ、のべ14人の応援者が鹿児島地方気象台に駐在しました。広域応援については、派遣された職員においても噴火対応の貴重な経験を積むことができる機会となることから、今後も積極的に実施していくこととしています。

火山灰の採取 火山ガス観測

Ⅳ-7 広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報の改善に向けて

 火山噴火に伴い空から降ってくる火山灰は、上空の風に運ばれて広い地域に降り積もり、その量に応じて様々な被害をもたらします。宝永4年(1707年)の富士山の宝永噴火のような大規模噴火が発生した場合、広い範囲で火山灰が降り積もり、国民生活や社会経済活動に大きな影響を及ぼすことが懸念されています。

 気象庁では、平成20年(2008年)3月から降灰予報の提供を開始し、平成27年(2015年)3月からは噴火後にどの領域にどれだけの量の火山灰が降るかについて情報を提供していますが、主に生活情報として制度設計されているため、大規模噴火に対応した情報体系とはなっていません。

 大規模噴火時の広域に降り積もる火山灰対策に資する呼びかけや火山灰予測情報のあり方について、現在の予測技術の限界を確認しつつ、どのような情報体系とすべきかの議論を行うため、学識者、地方公共団体、報道関係者等による「広域降灰対策に資する降灰予測情報に関する検討会」を開催し、令和7年(2025年)4月に「広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報のあり方(報告書)」(以下、「報告書」という。)をまとめました。

報告書の手交式

(1)背景

 大規模噴火発生時に広域に降り積もる火山灰対策全般については、内閣府により「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」として取りまとめられました。本ガイドラインでは、できる限り火山灰が降る地域内にとどまって自宅等で生活を継続することを基本としつつ、状況によっては直ちに生命の危険がある場合も想定され、避難等の行動をとることの必要性が示されました。降り積もった火山灰の深さに応じて各分野で様々な被害が生じることが見込まれるため、広域に火山灰が降り積もった時の被害の様相を4つのステージに区分し、対策の考え方や留意点等が整理されました。

ステージに応じた被害の様相と広域降灰対策の基本的な考え方

(2)火山灰量に応じた防災対応の呼びかけ改善

 報告書では、住民や地方公共団体等が広域に降り積もる火山灰への対応を迅速に行えるよう、内閣府のガイドラインで示された各ステージの火山灰量の閾値(30センチメートル以上、3センチメートル以上、微量以上)との対応が分かるよう呼びかけや情報の改善(以下、①~④)や、噴火前の防災対応の準備のための情報(以下、⑤)が必要とされました。

① 火山灰による重大な災害が起こるおそれが高まったことを伝える火山灰警報(仮称)等の導入

② 火山灰量と防災対応を紐づけた階級表の改善

③  大規模噴火に伴って広域に降り積もる火山灰への防災対応のトリガーとするために、火山灰警報(仮称)等を活用して呼びかけ

④  噴火の推移に応じた火山灰の見通し情報として、1ミリメートル以上の火山灰量もわかるよう火山灰予測情報を改善

⑤ 噴火警報や記者会見の中で噴火前における火山灰に対する警戒呼びかけを強化


 気象庁では、地方公共団体や報道機関等の関係機関のご意見を伺いながら火山灰に関する情報の改善に向け詳細な検討を進めており、できるだけ早期に提供が開始できるよう取り組んでいきます。

新たに発表する火山灰警報(仮称)等 火山灰予測情報の改善イメージ

コラム

●新たに導入される火山灰警報(仮称)への期待


気象庁 広域降灰対策に資する降灰予測情報に関する検討会 座長

(山梨県富士山科学研究所 所長、東京大学 名誉教授)

藤井 敏嗣


 昨年3月に内閣府が「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」を取りまとめました。ガイドラインでは富士山噴火をモデルケースにしているため、首都圏を対象としていますが、広域降灰は首都圏とは限りません。

 わが国では最近百年以上、大規模な火山噴火が発生していません。このために降灰に関する関心も非常に低くなっています。多くの人は桜島火山で頻繁に生じている小爆発に伴う降灰を思い浮かべ、経済活動や日常生活にさほどの影響がないことから安心している感があります。しかし、大噴火となれば降灰量は桜島の小爆発とは大きく異なります。例えば、約300年前の富士山で16日間続いた噴火では、桜島の約200年分に相当する火山灰や火山レキが現在の首都圏に降り積もりました。

 我が国のどの火山においても、大規模な爆発的噴火が起これば、短時間に、広域に火山灰が降り積もることは過去の歴史からも明らかです。その際の火山灰量等に応じた防災対応のためには、火山灰の降り積もりの見通し等に関する情報が不可欠です。現在でも気象庁は桜島などで降灰予報を発表していますが、この情報では降灰厚さ1ミリ以上は同一カテゴリーになり、大規模噴火では役に立つ情報とはなり得ません。

 このたび気象庁が大規模噴火に備えて、全国の活火山を対象にして火山灰情報の改善を行うことにしたのは、非常に重要なことだと思います。わかりやすく、有用な火山灰情報が導入されることを願っています。

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