気象レーダー

気象レーダー観測の概要

気象レーダーは、アンテナを回転させながら電波(マイクロ波)を発射し、半径数百kmの広範囲内に存在する雨や雪を観測するものです。発射した電波が戻ってくるまでの時間から雨や雪までの距離を測り、戻ってきた電波(レーダーエコー)の強さから雨や雪の強さを観測します。また、戻ってきた電波の周波数のずれ(ドップラー効果)を利用して、雨や雪の動きすなわち降水域の風を観測することができます。さらに、令和2年3月から二重偏波気象ドップラーレーダーの導入を開始しています。二重偏波気象ドップラーレーダーは、水平方向と垂直方向に振動する電波(それぞれ水平偏波、垂直偏波という。)を用いることで、雲の中の降水粒子の種別判別や降水の強さをより正確に推定することが可能です。



気象レーダーによる観測の概要

気象レーダーによる観測の概要

東京レーダー

東京レーダー(千葉県柏市)



二重偏波気象ドップラーレーダーの観測原理

二重偏波気象ドップラーレーダーの観測原理



気象庁は1954年に気象レーダーの運用を開始し、現在、全国に20か所設置しています。気象レーダーで観測した日本全国の雨の強さの分布は、リアルタイムの防災情報として活用されるだけでなく、降水短時間予報や降水ナウキャストといった予報の作成にも利用されています。


最新データ表示

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気象庁のレーダー配置

レーダーの電波は空中を直進するため、進路上に山などの障害物があるとその裏側には届きません。また、地球表面が球面であるため、遠距離では電波が上空を通過し低いところの雨や雪を観測できなくなります。このため、遠くまで観測するためには、レーダーを山の上や鉄塔の上など高い場所に設置する必要があります。
わが国は山地が多いため、レーダーの設置場所によっては各レーダーが観測可能な範囲が地形の影響を受けます。このことを十分に考慮して、わが国の国土のほぼ全域をカバーするようにレーダーを配置しています。


観測所一覧表(令和6年3月現在)
地点名 所在地 緯度
(度分秒)
経度
(度分秒)
アンテナの
海抜高度(m)
地上から
の高さ(m)
周波数
(MHz)
札幌北海道小樽市(毛無山) 43°08′20″141°00′35″749.049.05345.0
釧路北海道釧路郡(昆布森) 42°57′39″144°31′03″121.624.15365.0
函館北海道亀田郡(横津岳) 41°56′01″140°46′53″1141.730.45360.0
秋田秋田県秋田市(秋田地方気象台) 39°43′04″140°05′58″55.349.85365.0
仙台宮城県仙台市宮城野区(仙台管区気象台) 38°15′44″140°53′50″98.060.15365.0
新潟新潟県西蒲原郡(弥彦山) 37°43′07″138°48′58″648.115.65345.0
長野長野県茅野市(車山) 36°06′11″138°11′45″1937.112.45320.0
東京千葉県柏市(気象大学校) 35°51′35″139°57′35″74.055.05357.5
静岡静岡県菊川市(牧之原) 34°44′34″138°08′01″186.029.85300.0
名古屋愛知県名古屋市千種区(名古屋地方気象台) 35°10′05″136°57′55″73.122.05360.0
福井福井県坂井市(東尋坊) 36°14′15″136°08′32″106.926.95350.0
大阪大阪府八尾市(高安山) 34°36′59″135°39′23″497.523.95350.0
松江島根県松江市(三坂山) 35°32′30″133°06′13″552.920.45345.0
広島広島県呉市(灰ヶ峯) 34°16′13″132°35′36″751.517.95360.0
室戸岬高知県室戸市(室戸岬特別地域気象観測所) 33°15′09″134°10′38″207.024.05355.0
福岡佐賀県神埼市(脊振山) 33°26′04″130°21′25″983.217.05365.0
種子島鹿児島県熊毛郡(中種子) 30°38′23″130°58′45″302.524.05365.0
名瀬鹿児島県奄美市(本茶峠) 28°23′39″129°33′07″318.624.75350.0
沖縄沖縄県南城市(糸数) 26°09′12″127°45′54″208.421.95355.0
石垣島沖縄県石垣市(於茂登岳) 24°25′36″124°10′56″533.517.55350.0
※緯度、経度の値は世界測地系による。


気象庁のレーダー配置

気象庁のレーダー配置図(令和6年3月現在)

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レーダーデータの見方の例

・寒冷前線付近に観測されるエコー (平成26年9月5日09時)

日本列島に沿う寒冷前線がゆっくりと南下した日のエコーです。北日本から西日本にかけて線状のエコーが観測され、 ところどころでかなり発達したエコー(赤など暖色で表示)が観測されています。寒冷前線付近は対流雲が発達しやすく、 落雷や竜巻などの突風、急な大雨に注意が必要です。

レーダーナウキャスト(全国)_寒冷前線付近に観測されるエコー

レーダー画像(全国)

レーダーナウキャスト(近畿)_寒冷前線付近に観測されるエコー

レーダー画像(近畿)

天気図_寒冷前線付近に観測されるエコー

天気図

衛星画像_寒冷前線付近に観測されるエコー

衛星画像

・夕立によるエコー (平成26年7月20日15時)

日射によって地上付近の大気が暖められて上空との気温差が大きくなり、対流雲が発達した日のエコーです。局所的にかなり発達したエコー(赤など暖色で表示)が観測されています。このようなエコーが表示されるときは落雷や竜巻等の突風、急な大雨に注意が必要です。対流雲が特に発達すると、真夏でも雹(ひょう)が降ることがあります。

レーダーナウキャスト(全国)_夕立によるエコー

レーダー画像(全国)

レーダーナウキャスト(中国地方)_夕立によるエコー

レーダー画像(中国地方)

天気図_夕立によるエコー

天気図

衛星画像_夕立によるエコー

衛星画像

・台風によるエコー (平成26年7月8日12時)

発達した台風が日本に接近しているときのエコーです。発達した台風の中心には降水のない眼と呼ばれる領域があり、これを中心に渦状のエコーが観測されています。台風周辺では暴風・大雨・高波・高潮・雷などに注意が必要です。

レーダーナウキャスト(全国)_台風によるエコー

レーダー画像(全国)

レーダーナウキャスト(沖縄本島地方)_台風によるエコー

レーダー画像(沖縄本島地方)

天気図_台風によるエコー

天気図

衛星画像_台風によるエコー

衛星画像

・冬型の気圧配置による筋状の降水エコー (平成26年12月25日12時)

冬型の気圧配置になると、シベリア大陸から冷たく乾燥した北西の季節風が吹き出します。この空気が日本海上を通過するときに、水蒸気と熱が補給され、不安定になって対流雲が発生します。これが冬の日本海側に降水をもたらす原因です。一方で、山脈を挟んだ太平洋側では降水はあまり見られません。下図では日本海側に筋状のエコーが見られます。このような場合は、発達した対流雲が大雪をもたらすことがあるため注意が必要です。

レーダーナウキャスト(全国)_冬型の気圧配置による筋状の降水エコー

レーダー画像(全国)

レーダーナウキャスト(東北南部)_冬型の気圧配置による筋状の降水エコー

レーダー画像(東北南部)

天気図_冬型の気圧配置による筋状の降水エコー

天気図

衛星画像_冬型の気圧配置による筋状の降水エコー

衛星画像

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気象レーダーを利用する際の注意事項

気象レーダーは、レーダーから発した電波の反射波(エコー)を受信することにより降水を観測しますが、実際には降水がない場所でエコーが観測されたり、実際の降水よりも遥かに強い降水を示すエコーが観測されたりすることがあります。このような降水によらないエコーを判別することで、データの品質管理を行っていますが、まれに品質管理後にもそのようなデータが残ってしまうことがあります。ここでは注意すべきエコーの例をいくつか紹介します。


●非降水エコー

・異常伝搬に伴うエコー
気象レーダーの発する電波は、通常なら直進して山岳などの上空を通過しますが、大気の屈折率の分布状態に応じて電波が曲げられ、通常の伝搬経路から大きく外れることがあります。この現象を「異常伝搬」と呼びます。送信電波が曲げられて地表面や地表の構造物などに当たって反射すると、降水がないところに強いエコーが現れる場合があります。この現象は電波を用いた観測の特性上避けられないもので、データの品質管理において完全に取り除くことはできません。
大気の屈折率は気温や湿度などにより決まります。異常伝搬は、気温が高度とともに急増するなど屈折率が高さ方向に大きく変化する場合に発生します。具体的な気象条件として、高気圧内の下降気流や夜間の放射冷却、海陸風による温度の異なる空気の移流などが挙げられます。また海上は地形の起伏がない分、異常伝搬の原因となる大気構造を安定して形成しやすいといった特徴があります。


電波の異常伝搬についての説明

気象レーダーの電波の異常伝搬についての説明



・グランドクラッタ
異常伝搬の項では電波が曲げられて地表面や地表の構造物などに当たり、強いエコーが現れる例を紹介しましたが、電波が曲げられなかった場合でも地形の影響で山岳や地表の構造物などに電波が当たってしまい、降水のないところに強いエコーが現れることがあります。地形のように動かないものが原因のグランドクラッタは降水のエコーと区別して取り除くことができます。しかし、風で揺れる樹木や大型の風車の羽やスキー場のリフトなどのように動くものが原因のグランドクラッタや、エコー自体が非常に強い場合は、データの品質管理において完全には取り除くことはできません。

グランドクラッタ

グランドクラッタの例

・シークラッタ
グランドクラッタと同様の現象ですが、電波が海上で波しぶきに当たって降水のないところに強いエコーが現れることがあります。 波しぶきの立ちやすい強風時に多く発生します。シークラッタもデータの品質管理において完全には取り除くことはできません。

シークラッタ

シークラッタの例 台風周辺の強風域で発生


●降水を過大評価するエコー

・ブライトバンド
気温の低い上空において雪片であった降水粒子は、落下して周囲の気温が上昇し、気温0度となる高度を通過すると、融けて雨滴になります。雪片から雨滴に融ける途中の状態は、いわゆる「みぞれ」ですが、雨滴よりも粒が大きい上、液体に覆われています。降水粒子には、固体(雪やあられ)の状態であるよりは液体(雨)である方が、また粒が大きい方が、気象レーダーの電波をよく反射するという性質があります。このため「みぞれ」は、上空の雪片よりも、また下層の雨滴よりもよく電波を反射します。気温が0度となる高度付近の、みぞれが存在している領域は融解層と呼ばれ、それよりも上層・下層と比べて局所的に強いエコーが気象レーダーによって観測されます。これをブライトバンドと呼びます。このような融解層(ブライトバンド)が水平に広がりを持っている場合、気象レーダーのアンテナをある仰角で水平に回転させて観測すると、強いエコーがレーダーを中心とする環状の領域に観測されます。ブライトバンドの領域においては、雨の強さを実際よりも強く推定してしまう可能性があります。

ブライトバンド

ブライトバンドの例 環状の強いエコーが観測されている



●降水を過小評価するエコー

・降水による減衰
レーダー観測では、雨や雪の粒に反射された電波の強さから降水の強度を観測します。しかし、電波が反射されてアンテナまで戻ってくる経路上に強い降水がある場合(左図)や、レーダーサイト付近で降水が強くレドーム(アンテナを風雨や雪などから守る覆い)に水の膜ができているようなとき(右図)には、電波が減衰してしまい実際の降水よりも弱いエコーとして観測される点に注意が必要です。

減衰_降水とアンテナの間に強い降水があるとき

降水とアンテナの間に強い降水があるとき

減衰_レドームに水の膜ができているとき

レドームに水の膜ができているとき


気象庁は異常エコーの除去など品質管理に関する処理の精度を高めるべく、日々技術開発に取り組んでいます。


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