◆第Ⅰ章◆ 気象業務の中長期的な方針

Ⅰ 気象業務の中長期的な方針

Ⅰ-1「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」の補強

 気象庁では、気象業務における様々な課題に対応するため、「交通政策審議会気象分科会」を随時開催し、有識者からのご意見をいただきながら施策方針を検討しています。

 近年は、平成30年(2018年)8月の気象分科会提言「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」に基づき、線状降水帯の予測精度向上や地域防災支援の強化などの重点課題に取り組んでいます。

 一方で、先端AI技術の飛躍的進歩など、同提言の時点では十分に見通せていなかったような社会動向もみられています。そのような近年の技術的進展や社会動向を踏まえ、気象業務が社会的課題の解決に一層貢献していくため、令和7年(2025年)6月、気象分科会において「「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」の補強」がとりまとめられました。

 このとりまとめにおいては、これまでの重点施策に引き続き取り組むとともに、近年の社会動向を踏まえた追加施策として、「①台風情報の高度化」、「②気候変動情報の高度化」、「③大規模地震・噴火対策の推進」、「④先端AI技術の活用」、「⑤面的気象情報の拡充」が示されました。加えて、これらの施策に取り組むにあたっては、気象庁が発表する情報が利用者に寄り添ったものになるよう、関係機関との連携や対話の重要性が強調されています。

 各施策の背景や具体的な方針については、以下リンク先をご覧ください。

 <「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」の補強>

 https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/kishou00_sg_000129.html


 また、各種施策の最新の取組状況については、この「気象業務はいま」にまとめられていますので、ぜひこの後の記事をご覧ください。

「2030 年の科学技術を見据えた気象業務のあり方(提言)」の補強

Ⅰ-2「2030年に向けた数値予報技術開発重点計画」の補強・見直し

 交通政策審議会気象分科会によりとりまとめられた「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方(提言)」(平成30年(2018年))を受け、気象庁では「2030年に向けた数値予報技術開発重点計画」(以下、「重点計画」という)を策定し、数値予報の技術開発を進めています。

 その後、令和7年(2025年)6月には同分科会により「「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」の補強」がとりまとめられ、近年の社会動向を踏まえ、数値予報技術に関連する追加的施策として、台風情報の高度化、気候変動情報の高度化、先端AI技術の活用、が挙げられました。

 気象庁では、この内容を踏まえて重点計画についても補強・見直しを進め、重点計画の中間フォローアップを実施するとともに、2030年より先の将来も見据え、数値予報モデル開発懇談会での専門家からの助言を頂きつつ最新技術動向を分析し、今後推進すべき技術開発の方向性を検討してきました。

 特に注目すべき技術動向の変化として、スーパーコンピュータの変化と先端AI技術をはじめとする新たな予測技術の登場が挙げられます。前者については、GPU搭載型が事実上の標準となりつつあり、今後は数値予報モデルにおいても、GPUを効果的に利用していくことが更なる改善の鍵となります。後者はさらに急速に進展しており、物理法則に基づく数値予報の計算と異なり、大量の気象データを学習してAIが気象を直接予測する「AI気象モデル」が既に登場しています。AI気象モデルは、台風の進路予測など、一部の予測対象については従来の数値予報の予測精度を上回るとの報告もあります。

 この状況を踏まえ、重点計画の補強・見直しにおいては、数値予報モデル開発と先端AI技術開発を両輪で推進する方向性を掲げています。

 物理法則に基づく数値予報モデルについては、スーパーコンピュータの変化によるGPU計算機への対応を進めつつ、線状降水帯や台風、季節予報スケールの変動といった現象の予測精度向上に向け、観測データ利用の拡大や高度化、予測計算の高度化や高解像度化といった様々な取組を引き続き進めていきます。

 先端AIの活用については、まずは既に有効性が示されているAI気象モデルによる台風予測や、先端AI技術を用いたガイダンスなどの分野から開発と活用を進めていきます。また、AIの開発基盤や体制を強化するとともに、産学官連携を更に推進し、長期的には台風予測以外の様々な分野についても、先端AIの活用が可能なものから取り組みます。AI気象モデルには高精度な学習データが不可欠であり、その大半は数値予報モデルを用いて作成されます。数値予報モデルの開発成果を活かし、過去の長期間にわたる気象データを作成することにより、更なるAIの高度化と高精度化にも取り組みます。

 このように、気象庁は数値予報モデル開発と先端AI技術開発を両輪で推進する方針を掲げ、これらを反映した重点計画の補強・見直しをとりまとめ、間もなく公表を予定しています。数値予報モデルと先端AI技術の利点を最大限に活かすことで、防災気象情報の一層の高度化に取り組んでいきます。


※GPU: Graphics Processing Unit (画像処理装置)の略で、元はディスプレイ上に表示する描画処理を行う装置です。動画など、スクリーン上の描画を短時間に行うためには、大量のデータを高速に処理する仕組みが必要ですが、これを通常の科学技術計算にも利用することができます。

Ⅰ-3 先端AI技術を活用した防災気象情報の高度化

(1)先端AI技術活用に関する社会の動向

 近年、特に平成22年(2010年)頃からの第3次AIブーム以降のAI技術の進展は著しく、対話型の生成AIの急速な普及などAI技術の活用が社会で広がっています。政府としても令和7年(2025年)6月にはAIのイノベーションを促進しつつリスクに対応するため「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が公布され、同法に基づき12月には、研究開発・活用の促進のために政府が実施すべき施策の基本的な方針となる「人工知能基本計画」が閣議決定されています。AI技術の急速な進展に伴い社会でさまざまなAI活用が広がっており、気象分野においても過去の気象ビッグデータである気象再解析データ等を学習データとしてAIが未来の気象を予測する「AI気象モデル」が登場しました。AI気象モデルは世界各国の主要な数値予報センターや大手民間企業等において急速に開発が進められ、例えば台風予報において、中心気圧などの強度の予測については課題を残しつつも、進路の予測においては従来の数値予報モデルの精度を凌駕するようになってきています。気象予測へのAI技術の活用はまさに日進月歩で進んでいます。

(2)気象庁における先端AI技術の活用に関する取組

 気象庁では、常に最新の技術を導入し、防災気象情報の精度向上をはじめとする各種情報の改善を行ってきました。従来からのAI技術である機械学習の分野では、平成8年(1996年)から、スーパーコンピュータを用いた数値予報の結果を予報作業用に加工するプロダクト「数値予報ガイダンス」の作成に、ニューラルネットワークといった技術の利用を開始しています。近年の取組としては、平成31年(2019年)から令和5年(2023年)にかけて、深層学習といった第3次AIブーム以降の先端的なAI技術(以下、「先端AI技術」という)を気象観測・予測で活用するため、理化学研究所革新知能統合研究センターと共同研究を実施し様々な知見を得ました。

気象庁の業務におけるAI 活用による将来像イメージとAI 活用のための基本理念

 令和7年6月には、交通政策審議会気象分科会において「「2030 年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」の補強」がとりまとめられ、追加的施策のひとつとして「先端AI技術の活用」が示されました。さまざまな学習データから高度な推論を行うことができる先端AI技術を活用することで、AI気象モデルと従来の数値予報モデルの併用による気象予測の高精度化や、気象庁の業務の根幹となる観測データの品質向上、観測データを基にした解析や推定の高精度化、AIによる作業支援など、気象庁のさまざまな業務を強化することができる可能性があります。気象庁では、2030 年のみならず更にその先を見据えて、気象業務のあらゆる分野において、観測から解析・推定、将来予測までを含む様々な場面で先端AI技術の活用を推進し、防災気象情報の高度化を図ることとしています。具体の活用イメージの例は以下の通りです。

 ・AI気象モデルと従来モデルの併用等による予報精度向上(将来予測)

 ・次期ひまわりの最新センサによる膨大なデータのAI処理(解析・推定)

 ・AIを利用した地震観測データの高度利用(観測)

 一方で、AIの使用にあたっては、処理の過程がブラックボックスになり判断基準の説明が困難になるといったようなリスクがあることや、AIの学習には膨大な計算機資源が必要であることなどが課題です。気象庁では、実現に向けた取組として、AIに学習させるデータとして気象再解析データや気象衛星データ等を活用するとともに、自然科学の知見も活かした先端AIの研究・技術開発を推進し、効率的なAI計算に適したスーパーコンピュータ等の計算機資源の整備に加え、多分野でのAI活用のための技術開発体制の拡充、技術開発における連携、AIのリスクや課題に関する知見共有等のため、産学官連携の強化に取り組んでいくこととしています。

 令和7年度は、気象業務における先端AI技術のさらなる活用方策の検討、企画立案機能や先端AI技術を活用するための開発能力の強化とともに、AIの活用に不可欠で膨大な学習データの整備等に取り組みました。今後は、具体の活用イメージの例として挙げられていた項目などの実現に向けて、AI気象モデルの開発をはじめとした本格的な技術開発に着手するなど、先端AI技術のさらなる利活用に向けた取組を進めていきます。

活用イメージの例
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