◆ 特集2◆ 地域防災支援の取組

2 地域防災支援の取組

2-1 地域における気象防災業務に関する検討会

 近年自然災害が相次いで発生しているなか、各地の気象台は警報等の防災気象情報を発表するだけでなく、自らが持つ危機感を住民や自治体に適切に伝え、地域の防災対応に結びつくよう、防災の最前線に立つ市町村を中心に、JETT(気象庁防災対応支援チーム)の派遣や気象防災アドバイザーの活用等、地域の防災力向上を支援する「地域防災支援業務」を推進してきました。今般、この業務の根本的な目的である「住民の生命、財産、安全・安心を守る」ことに立ち返り、気象台が地域防災を担う様々な主体に対しどのような役割を果たしていくべきかについて検討するため、有識者による「地域における気象防災業務に関する検討会」(座長:矢守克也 京都大学教授)(以下、「検討会」という)を令和7年(2025年)6月から開催し、令和8年(2026年)1月に報告書を公表しました。

地域における気象防災業務に関する検討会

 報告書では、地域防災に関わる様々な主体の役割、取組の改善点が体系的に整理され、以下の3つの柱となる支援・連携が示されました(次ページ図)。その基盤として、気象台は地域防災を担う様々な主体と「パートナーシップ」を築き、地域の防災対応支援を推進することが重要であるとまとめられました。

A:都道府県との緊密な連携

 都道府県の災害対策本部等は、都道府県、市町村、災害対策基本法に基づく指定公共機関(ライフライン、通信、交通関係等)等が参加し、現地の災害応急対策の検討・調整がなされる場です。また、甚大な災害時には政府の現地災害対策本部が設置されます。このように、都道府県の災害対策本部等は、気象台が地域防災支援を行うにあたり最も重要な場であり、これを通じた市町村への支援等を有効に機能させるため、気象台は都道府県と平時から密に連携するとともに、災害時に継続的に支援できる体制づくりをすることの重要性がまとめられました。

B:公共性の高い民間主体への支援

 災害対策基本法に基づく指定公共機関や、教育、医療・福祉関係機関等のような「公共性の高い民間主体」は、例えば、災害直前における交通の運休・運航計画の変更や道路の通行止めの検討、災害直後における停電や通信の復旧作業、被災地における支援物資の輸送等を担っており、災害時にその機能が失われると社会の混乱に繋がります。このような民間主体は、直接的でなくとも住民の生命や財産を守る対応を担っていることから、これら主体を気象台が支援することの重要性が確認されました。

C:国の出先機関との連携強化

 地方整備局や地方運輸局等の国の出先機関は、大雨や大雪の際には合同で記者会見を実施するなど、気象台と協働して地域社会に情報を発信しています。また、国の出先機関は、交通やライフライン、物流など関係分野の民間主体を監督する立場でもあります。公共性の高い民間主体への支援にあたっては、当該主体を監督する立場である国の出先機関との連携が効果的であり、このためにも、気象台と国の出先機関は「顔の見える関係」を構築し、一層の連携強化を図ることが望ましいとまとめられました。


 検討会では、災害発生時を中心とした時系列に沿って、災害のおそれがない平時である「事前」、緊急時である「災害直前」(おそれがある場合も含む)及び「災害直後」、災害対応が落ち着いた「事後」の段階に分けて、それぞれの取組の方向性について議論されました。その結果として、気象台は特に「災害直前」におけるホットラインやJETT派遣等による危機感を一層確実に伝える取組が期待され、これが有効に機能するよう、「事前」における知識の習得や訓練等のスキルアップを図る取組を一層推進するとともに、「事後」の検証により改善を図ることが重要であることが示されました。

 加えて、地域防災支援を進めるにあたっては、気象台、民間気象事業者及び気象防災アドバイザーの3者がそれぞれの強みを活かし、連携して取り組むことが重要であること、また、活動について相互に共有、情報交換する場を構築し、日頃からの十分な対話を通じ連携を図りつつ取組を進めていくことが重要であるとまとめられました。さらに、避難行動に時間を要する要配慮者への支援についても、気象台は自治体の福祉部局等と連携して取り組むことが重要とまとめられました。

 報告書の結びとして、気象台は「防災気象情報」を軸に、各主体を繋ぐ「ハブ」の機能を担えるものと考えられ、本検討会の取りまとめにより、地域における関係者の対話が進み、密な連携のもと、気象台、民間気象事業者及び気象防災アドバイザーの取組の推進、さらには自治体や公共性の高い民間主体における適時的確な防災・災害対応に繋がることへの期待が示されました。


 本報告書を受け、気象庁では、各地の気象台における地域防災支援業務の充実・改善に取り組みます。3つの柱を中心として、気象台は防災対応を担う多様な主体と関係を構築するとともに、民間気象事業者と気象防災アドバイザーとの関係を深化させ、この連携体制を基盤として、地域の防災対応支援を強力に推進します。加えて、避難行動に時間を要する要配慮者を対象とした取組も推進します。

地域の気象防災における支援・連携イメージ

コラム

●「地域における気象防災業務に関する検討会」を終えて


京都大学防災研究所 教授

矢守 克也


 「各地の気象台が実施する地域の防災力向上を支援する取組について、地域における様々な主体との連携のあり方をはじめ、取組の充実・改善の方向性についての検討を行うこと」が開催趣旨として掲げられた「地域における気象防災業務に関する検討会」。検討会終了後に開催された記者発表の席で筆者が掲げた3組のキーフレーズを通して、この検討会のツボをおさえておきたい。

 第1のキーフレーズは、防災気象情報の「作成・発信から利活用・効果検証へ」である。あえて極端な言い方をすれば、よい気象情報と悪い気象情報とを識別する基準として、正確性・迅速性・信頼性よりも、むしろ、普及性・受容性・効果性の方にウェートを置く、という観点である。もちろん前者の基準が蔑ろにされてよいと主張しているのではない。しかし、前者の基準さえクリアしていれば、国民がまったく知らなくても、「わかりにくい」との批判があっても、あるいは、避難行動等にまったく影響を与えていなくても構わない、という姿勢はもはや広く受け入れられないだろう。

 第2のキーフレーズは、気象台の「ソロプレーから他機関とのパートナーシップへ」である。効果的な防災行動を、気象台から提供する情報単独で引き起こすことは困難である。たとえば、民間の気象事業者が提供するカスタマイズされた情報との合わせ技を通して、あるいは、鉄道の計画運休、道路の予防的通行止などに見られるように、交通インフラを担う事業者との連携を通じてなど、多様なプレーヤーがパートナーシップを構築してそれぞれの得意技を生かして、社会全体で気象防災業務を進める必要がある。避難行動要支援者向けの対策が喫緊の課題となる今、これまで気象台が密に連携してきたとは言えない介護福祉、医療看護といった分野の関係者とのパートナーシップも今後重要となろう。

 第3のキーフレーズは、情報の「コンテンツからオペレーションへ」である。筆者は、この検討会に先だって開催されていた「防災気象情報に関する検討会」においても座長を務めた。この検討会の開催趣旨は、シンプルでわかりやすい防災気象情報の再構築に向け、防災気象情報全体の体系整理や個々の情報の抜本的な見直し、受け手側の立場に立った情報への改善を図ること、であった。情報のコンテンツ(中身)は改善された。しかし、この新たなコンテンツが合格点を頂戴できるかどうかは、ひとえに、情報のオペレーション(運用)にかかっている。

 そして、合格点かどうかを判定する際に大切なのは、第1のキーフレーズとして指摘したように、「正確性・迅速性・信頼性よりも、むしろ、普及性・受容性・効果性」という基準である。また、情報のオペレーションの成否を決める鍵は、おそらく、「ソロプレーから他機関とのパートナーシップへ」にある。-というわけで、3つのキーフレーズは相互に関連しあっている。

 つまり、筆者自身がご縁をいただく形で相次いで開催された2つの検討会は、検討会自体が相互に密接に関係している。令和8年の出水期から運用される「新たな防災気象情報」の今後は、「地域における気象防災業務」の行く末にかかっているからである。

2-2 全国各地の気象台における取組

 近年、自然災害が相次いで発生しており、地域における防災対応力の向上が重要となっています。このため全国各地の気象台では、「あなたの町の予報官」や、「気象防災ワークショップ」、首長訪問など、自治体や関係機関と一体となって災害に備えた平時の取組を進めるとともに、災害時においては自治体や関係機関と速やかに危機感を共有し、その災害対応を支援するため、市町村長へのホットラインや、気象の見通しに応じた説明会、「JETT(気象庁防災対応支援チーム) 」などの取組を進めています。加えて、避難に時間を要する要配慮者を対象とした普及啓発等の取組も進めているところです。

(1)自治体を対象とした取組

ア.あなたの町の予報官

 気象台では、自治体の防災業務を支援するため、管轄する地域内を複数の市町村からなる地域に分け、その地域ごとに3名から5名程度の職員を専任チーム「あなたの町の予報官」として担当する体制を敷き、自治体の地域防災計画や避難情報の判断・伝達マニュアルの改定に際して資料提供や助言等を行うとともに、災害発生時などの対応を気象台と自治体が共同で振り返り、更なる改善につなげていく取組を行うなどしています。こうした平時における取組を通じて、自治体と気象台の担当者同士で緊密な「顔の見える関係」を構築し、災害時には、この構築した関係性を活かし、自治体の防災担当者のニーズに合わせた説得力のある適時・的確な助言を行っています。

イ.気象防災ワークショップ

 「気象防災ワークショップ」とは、時々刻々と変化する気象状況に応じて発表される防災気象情報を踏まえ、避難情報の発令など自治体が講じるべき防災対応を模擬体験するものであり、ワークショップを通じて、防災気象情報を適切に理解するとともに、体制の強化や避難情報の発令の判断のポイントを学ぶことができます。令和4年度(2022年度)以降、全国の市町村にワークショップに参加いただいており、令和8年(2026年)5月から運用開始した新たな防災気象情報の理解と利用の促進につながるよう、引き続き、各地でワークショップを開催していきます。

ウ.ホットライン、JETT(気象庁防災対応支援チーム)

 防災気象情報が自治体の防災上の判断に適切に活かされるよう、気象台では気象の見通しの推移に応じて説明会等を開催し、参加者へ警戒を呼びかけます。また、災害の発生が予想されるような顕著な現象の場合は、気象台が持つ危機感を気象台長から直接市町村長へ電話で伝え、避難情報に関する技術的な助言を行うホットラインを実施します。さらに、気象台からJETT(気象庁防災対応支援チーム)を自治体の災害対策本部等へ派遣し、災害対応現場におけるニーズを把握しつつ、気象の見通し等を説明することにより、災害対応に当たる関係機関の活動を支援しています。

 JETTの創設以降、平成30年7月豪雨、令和元年東日本台風(台風第19号)、令和2年7月豪雨、令和6年能登半島地震等の災害において派遣の実績があり、令和8年3月末までに延べ9,400名を超える職員を全国の都道府県や市町村に派遣しました。令和7年(2025年)年8月6日からの大雨災害では、15県に対し延べ120名をJETTとして派遣し、関係都道府県の災害対策本部会議等において、線状降水帯の状況や今後の雨の見通し等を説明するとともに、関係各機関の災害対応支援に繋がるよう、随時に寄せられる問合せへの対応等を行いました。

JETT 派遣

(2)指定公共機関等との取組

 近年の大雨災害など、相次ぐ自然災害の教訓を踏まえ、行政・住民・企業の全ての主体が災害リスクに関する知識と心構えを共有し、洪水・地震・土砂災害等の様々な災害に備える、防災意識の高い社会を構築していくことが必要です。このため、気象庁では、社会経済活動の基盤を担い、災害時には応急・復旧対策にあたるなど、住民の安全・安心な生活・活動を支えている、災害対策基本法に基づく指定公共機関等を主な対象として、防災気象情報の活用方法等の説明や、災害対応をシミュレーションするワークショップを開催するなど、防災気象情報を活用した適切な防災対応の実施を支援しています。

指定地方公共機関向け講習会

(3)要配慮者への取組

 避難に時間を要する障害者や高齢者等の要配慮者が、防災気象情報を適時に入手し、適切な防災対応に繋げるための取組も重要です。気象庁ではこれまで、緊急記者会見時の手話通訳や津波フラッグの導入等、障害者に一層確実に情報を伝達するための取組を進めてきました。加えて、要配慮者の防災気象情報に対する理解が深まるよう、普及啓発活動も進めており、例えば、当事者の意見も伺いつつ、平易な表現を用いた「わかりやすい版」の広報資料の作成などにも取り組んでいます。

 要配慮者への取組にあたっては、自治体の福祉部局や関係の障害者団体等と連携して実施することが重要であり、引き続き各地の気象台において関係機関との協力体制を築きつつ取り組んでいきます。

新たな防災気象情報に関する説明資料( わかりやすい版)

2-3 気象防災アドバイザーの拡充

 気象庁では、自治体の防災の現場で即戦力となる気象と防災のスペシャリストである「気象防災アドバイザー」の拡充と活用の促進に取り組んでいます。令和8年(2026年)4月時点で634名の気象庁退職者や所定の研修を修了した気象予報士に、国土交通大臣が気象防災アドバイザーを委嘱しています。令和7年度(2025年度)には、4月時点で37団体において38名の気象防災アドバイザーが任用され、防災気象情報の読み解きや、それに基づく市町村長に対する避難情報発令の進言、地域住民や自治体職員を対象とした防災出前講座等を行っています。

(1)気象防災アドバイザーの育成

 気象防災アドバイザーの一層の拡充に向け、気象庁では令和4年度(2022年度)から気象予報士を対象とした「気象防災アドバイザー育成研修」を実施しています。

 自治体の防災の現場では、急激な河川増水といった状況の急変を見越して避難情報発令の迅速な判断を下すことが必要とされています。この必要性に応えられるよう「気象防災アドバイザー育成研修」では、内閣府の「避難情報に関するガイドライン」に基づく避難情報発令の判断方法を習得する訓練等を通じて、自治体の職員として、限られた時間の中で予報の説明から避難の判断までを一貫して扱うことのできる即戦力となる人材を育成しています。このため、本研修のカリキュラムでは、「内閣府の「避難情報に関するガイドライン」に基づく避難情報発令の判断」、「地形から災害リスクを読み取る方法」、「想定を超えて降り続く線状降水帯の恐ろしさ」、「大河川からの背水による支川氾濫」に関する知識・技能・姿勢の習得を大きな柱としています。特に、避難情報発令の判断については、自治体の現場で何度も避難情報発令を主導した経験を持つ講師の指導のもと、過去の災害事例を模擬体験できる訓練、実際に首長の判断を補佐した経歴を持つ講師の監修により、首長への説明を再現したロールプレイ形式の演習を実施し、実戦的な内容としています。

(2)気象防災アドバイザーの活用促進

 気象防災アドバイザーの活用を促進するため、気象庁では令和5年度(2023年度)から令和7年度にかけて、自治体の防災対応における課題を抽出し、解決策を試行検証する事業を実施してきました。試行検証に協力いただいた8団体では、気象防災アドバイザーの有用性を実感していただいており、この成果を全国の自治体に周知・広報していきます。更に、令和7年度は、自治体と気象防災アドバイザーのコミュニケーションを促進し、自治体が気象防災アドバイザーを任用しやすい環境を構築する事業として、気象防災アドバイザーの活動内容・自治体の活用の声などを紹介する動画、地元の気象防災アドバイザーを知っていただくための名簿を公開するとともに、自治体職員を対象に、気象防災アドバイザーを活用している自治体における実際の活用事例紹介や、気象防災アドバイザーとの意見交換等を行うマッチングイベントを開催しました。イベントに参加した自治体職員からは「他の市の常時任用の事例共有が参考になった」、「避難情報等、市の体制を決定するうえで気象防災アドバイザーの意見は大変参考になると感じた」、「気象防災アドバイザーや他の自治体の方と交流ができてよかった」といった声が聞かれました。

 このような取組を通じて、引き続き、気象防災アドバイザーの活用を一層促進していきます。

気象防災アドバイザーの任用支援事業

コラム

●気象防災アドバイザー活用促進事業の取組について


蔵王町 総務課 防災専門監

佐藤 洋一


 蔵王町では各地区に婦人防火クラブが組織され、家庭を守る婦人の立場で防火活動を行ってきました。しかし近年では、家庭・生活様式の多様化により停滞が著しかったため、令和7年4月、家庭防火防災クラブに改称し、家庭や身近な防火防災を実践する組織として再スタートしました。今回、会員の学習機会提供と組織活性化を目的に、気象防災アドバイザーによる防災研修を実施しました。実施に先立ち関係各位とのミーティングを実施していただき、その中で、無理なく防災の基礎知識を学べること、家庭の防災対策に役立てられること、そして、担当の気象防災アドバイザーが気象予報士として活躍している方だったため、天気予報に関する裏話をしてもらえると嬉しい、等をリクエストしました。

 研修は3回講座とし、講話と、発災時の避難経路確保及びマイタイムライン作成のワークショップを行いました。特筆すべきは1回目で、仙台管区気象台を見学させていただくとともに、施設内にて気象防災アドバイザーの講話を行うという特別プログラムを組んでいただきました。講話は、段階的に内容が深まるよう工夫されており、アドバイザーの話術も相まって受講者が自然と引き込まれ、防災知識やキキクルの使い方等を学べました。また、ワークショップによって、地域の災害傾向や事前準備・早め避難の重要性について自主的に考えることの大切さを知り、家庭防火防災クラブとしての目的意識や積極性を醸成することができました。

 今回の事業は、内容、成果、受講者の満足度、どれを取っても『大成功』でした。ひとえに、担当の気象防災アドバイザーが趣旨に沿ってオーダーメイドで講座を組み立てて下さったことに尽きますが、なお、事業形成にあたり綿密な調整業務を担って下さったコーディネーターの存在も大きかったと思います。気象防災アドバイザーは様々な技能・経歴を持つスペシャリストが揃っています。一方、自治体側にも多種多様なニーズがあります。これらをつなげるコーディネーターをセット化できれば、気象防災アドバイザーの有用性がよりいっそう高まるのではないかと感じました。今後、機会に応じて気象防災アドバイザーの協力を仰ぎたいと思います。

講演会の様子
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