◆第Ⅵ章◆ 航空機や船舶の安全な運航への貢献

Ⅵ 航空機や船舶の安全な運航への貢献

Ⅵ-1 空港事業継続計画(A2-BCP)に資する気象情報の提供

 激甚化・多頻度化する自然災害に強い空港づくりに向け、令和2年(2020年)3月に、国土交通省航空局において空港全体としての機能保持及び早期復旧に向けた目標時間や関係機関の役割分担等を明確化した空港ごとの事業継続計画である「A2(Advanced/Airport)-BCP」策定のためのガイドラインが取りまとめられました。

 本ガイドラインに基づき空港ごとに策定されたA2-BCPに沿って、各空港で災害時の対応や訓練等が実施されており、災害の発生時又は災害の発生が予測される場合にA2-BCPの下に設置される総合対策本部(A2-HQ)の設置基準や対応体制の判断に気象情報が活用されています。

 航空気象官署では、災害発生時におけるA2-HQに対しての情報提供や説明のほか、台風や大雪等の顕著現象が予想される場合には各空港における協調的意思決定(A-CDM)のための情報共有システムやメーリングリストも活用し、関係機関の要員確保や対策本部の立ち上げ等の判断に資するよう、早い段階から関係機関のニーズに応じた情報提供・説明を実施しています。平常時においても関係機関への気象情報の提供や総合対策本部訓練における資料作成(訓練用の台風シナリオ等の提供)等の協力を行っています。さらに、防災対応や気象情報等に関する関係機関との意見交換や勉強会も実施しています。

 令和6年(2024年)6月にはA2-BCPの実効性強化に向け、A2-BCPガイドラインが改訂され、災害対応や訓練等を踏まえた運用面や災害対応等を経験した空港のノウハウの収集整理・横展開等により重点が置かれる形となりました。これを受けて、気象庁では現在の取組を着実に進めるとともに、実効性強化に資する取組を強化していきます。具体的には、災害の事象や災害規模に応じた段階的なA2-HQの体制構築の判断基準作成のための支援や、被災経験者の入れ替わりに対応するための教育への支援等、関係機関のニーズを踏まえた取組の強化を目指します。

コラム

●A2-BCPの取り組みにおける気象情報の活用について


成田国際空港株式会社 空港運用部門オペレーションセンター

危機管理グループアシスタントマネージャー(執筆当時)

林 佳祐


 成田国際空港は、1978年の開港以来、我が国の玄関口として、また国際航空ネットワークの主要拠点として極めて重要な役割を担ってきた。ひとたび災害が発生し空港機能が停止した場合には、国内外の社会活動、国民経済、そして国民生活に多大な影響を及ぼすおそれがある。また、災害発生時の空港には、航空旅客を含むすべての空港利用者の安全・安心を確保するとともに、可能な限り空港機能を維持し、機能停止時には速やかな復旧を図ることが求められる。

 このため当空港では、成田国際空港BCP(業務継続計画)を構築し、災害発生時に空港関連事業者が連携して迅速かつ的確な対応を行うことで、「災害に強い成田国際空港」の実現を目指し、日々取り組みを進めている。

 近年、自然災害は激甚化・多頻度化しており、それらに適切に対処するためには「気象情報」の重要性がますます高まっている。台風の大型化や線状降水帯による集中豪雨などの気象現象が空港の運用をはじめ社会全体に与える影響は年々増大しており、空港においては運用制限や交通アクセスの混乱など空港全体の機能に広範な影響を及ぼすことがある。

 当空港では、当該BCPの運用において、地震や台風等の自然災害が発生した際、必要な防災体制を確立し、旅客対応、災害応急対策、災害復旧等に空港関連事業者と連携して対応するため、官公庁、航空会社、アクセス事業者等の空港関連48機関で構成する「総合対策本部」を設置することとしている。総合対策本部では、今後の気象予報も踏まえた対応を検討する必要があることから、成田航空地方気象台にも参画いただいている。さらに、成田空港では、台風や降雪など警報級の気象現象が予想される場合、成田航空地方気象台による空港関係者向け説明会を開催いただいており、提供される気象情報としては、実況の解説はもちろんのこと、今後の気象予報について「メインシナリオ」に加えて「サブシナリオ」も提示されている。これにより、常にワーストケースを視野に入れた検討や意思決定が可能となり、先見性をもった対応に大きく役立っている。具体的には、気象予報から鉄道等のアクセスが停止する可能性が判明した場合には、社内体制を構築し、お客様が安全で安心して空港内で滞在できるような環境を確保するために必要な社員動員を行う。また、滞留者の増加により館内の安全確保が困難になると想定される場合には、着陸機の制限といった判断を行うなど、気象情報に基づいた具体的な対策を展開している。

 気象災害を完全に避けることはできないが、その影響を可能な限り軽減し、安全で安定した空港運用を継続するためには、気象情報の積極的かつ的確な活用が不可欠である。今後、空港運用に関する意思決定のさらなる高度化を図るためにも、より高精度で速報性に優れた気象情報の一層の充実に期待したい。

気象機関から提供される気象情報(一例) 災害時におけるターミナルビル内の様子

Ⅵ-2 船舶の安全などに関するきめ細かな情報の提供

 海上輸送においては、台風や発達中の低気圧などによる荒天時の安全性の確保のほか、消費燃料や運航時間(目的地到着時間)も加味した判断が求められるため、船舶の運航計画立案や海上における航行判断に気象の情報が欠かせません。このため、国際的な取組として「海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)に基づき、世界各国が協力して船舶の安全な運航を図るための気象情報の提供を行っています。気象庁は日本近海に加えて北西太平洋などを担当(下図「イリジウム衛星経由の情報提供開始」参照)しており、海上予報、海上警報などを発表しています。これらの情報は、様々な機関と協力し、テレビやラジオ、インターネットのほか、外洋航行中の船舶に提供するための通信手段として船舶無線や通信衛星による衛星放送なども活用して提供しています。

(1)イリジウム衛星による海上予報・海上警報の提供開始

 これまで海上安全のための通信衛星としては、IMO(国際海事機関)によってインマルサット衛星(静止衛星)が唯一認証されていましたが、近年、イリジウム衛星(非静止衛星)も新たに認証されました。これにより、いままでカバーできていなかった極地(北極・南極)で通信が可能となるなど、海上安全のための通信手段に多様性が生まれ、利用者にとって選択肢が拡大しました。気象庁は、この国際的な枠組みの変更に対応し、より確実な情報提供体制を構築するため、イリジウム衛星による海上予報・海上警報の提供を令和7年(2025年)7月より開始しました。

 また、イリジウム衛星に続き新たな衛星が海上安全のための通信衛星として認証され、運用開始に向けて国際的な調整が行われています。気象庁は、この新たな認証衛星経由でも海上予報・海上警報の提供を行うべく、準備を進めているところです。

イリジウム衛星経由の情報提供開始

(2)海上予報・海上警報の改善(新たな要素の提供開始)

 国際的な海上気象サービスの基準は、世界気象機関(WMO)の「海上気象サービスマニュアル(WMO-No.558)」で定められています。気象庁では、船舶の安全航行に重大な影響を及ぼす船体着氷や波浪など、このマニュアルにおいて海上予報・海上警報に含めるべきとされる情報について、発表に必要な準備が整ったことから、令和8年(2026年)7月頃から全般海上警報に追加して提供します。改善のポイントは次の3点です。

 ①船体着氷に関する警報を追加し、着氷による航行リスクを早期に周知

 ②風と波浪に関する予報を海域毎に発表し、航海計画の精度向上に寄与

 ③アジア太平洋地上天気図(ASAS)に、着氷警報域を追加し、面的な状況把握を支援

 これらの改善により、より安全で信頼性の高い海上気象情報の提供が可能となります。気象庁は今後も、利用者のニーズに応えるサービス向上に取り組んでいきます。

アジア太平洋地上天気図(ASAS)
Adobe Reader

このサイトには、Adobe社Adobe Readerが必要なページがあります。
お持ちでない方は左のアイコンよりダウンロードをお願いいたします。

このページのトップへ