◆ トピックス ◆
Ⅳ 地震・津波・火山に関するきめ細かな情報の提供
Ⅳ-1 初めての「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」発表
(1)はじめに
令和6年(2024年)8月8日16時42分、日向灘(宮崎県の沖合)でマグニチュード(M)7.1の地震が発生しました。この地震により、宮崎県日南市で震度6弱の非常に強い揺れとなったほか、東海地方から奄美群島にかけて震度5強から1の揺れを観測しました。また、四国から九州にかけて津波注意報を発表しており、宮崎県の宮崎港では51cmの津波を観測しました。
この地震に伴い、南海トラフ地震防災対策推進基本計画等に基づく「南海トラフ地震臨時情報」(以下、「臨時情報」という)を令和元年(2019年)5月の運用開始以降初めて発表しました。この臨時情報の発表やそれに基づく政府からの防災対応の呼びかけ、対応の振り返りなど、一連の動きについてご紹介します。

(2)南海トラフ地震臨時情報発表に至るまでの対応
このM7.1の地震の発生を受け、有識者からなる「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」(以下、「評価検討会」という)の臨時会を開催しました。評価検討会の中では、気象庁の観測結果だけではなく各関係機関のデータを踏まえて、南海トラフ地震の想定震源域で新たな巨大地震の発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まっているかどうかについて検討が行われました。またその時点で得られるデータの範囲で、南海トラフ地震の想定震源域全体での地震活動状況などの確認を行いました。これらの検討を経て、この地震の発生に伴って南海トラフ地震の想定震源域では大規模地震の発生可能性が平常時に比べて相対的に高まっていると考えられたことから、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表しました。

(3)南海トラフ地震臨時情報の解説と防災上の呼びかけ
臨時情報発表後、平田直評価検討会会長と気象庁の束田進也地震火山技術・調査課長(当時)による記者会見を開き、最初に発生した地震(最大震度6弱)に続いて大きな地震(M8クラス以上)が発生する可能性や発生した場合の津波や揺れへの備えなどについて解説を行いました。
また、政府による1週間の「特別な注意の呼びかけ」により、社会経済活動を継続した上で、「日頃からの地震への備え※」の再確認、すぐに逃げられる態勢で就寝、非常持出品の常時携帯、などが呼びかけられました。
※日頃からの地震の備え:家具等の固定、避難場所・避難経路の確認、非常食など備蓄の確認、ご家族との連絡手段の確認など

臨時情報を発表した8日以降は、15日まで毎日、南海トラフ地震関連解説情報を発表して地震活動や地殻変動の状況をお知らせしました。そして、あらかじめ定められた1週間が経過した8月15日17時をもって「特別な注意の呼びかけ」は終了し、内閣府と気象庁で合同記者会見を行いました。その後も8月22日、29日、9月6日と継続して臨時情報に伴う一連の南海トラフ地震関連解説情報を発表し、地震活動や地殻変動の状況の解説を行いました。

(4)振り返りや課題
臨時情報の発表に伴う政府の呼びかけや自治体等の防災対応等については、内閣府主導のもと自治体や事業者に対するアンケート等の結果も踏まえて「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」で検証が行われました。この中で、「とるべき行動が分かりにくかった」等の反応も多く、地震発生の可能性が相対的に高まっているという不確実性を含む状況において、平時の取組に加えてどのような行動をとるべきなのかが分かりにくかったことが課題としてあげられました。ワーキンググループでの議論を受け今後の改善方策として平時からの周知・広報の強化、臨時情報発表時の呼びかけの充実等が内閣府(防災担当)より示されたことから、気象庁はこれを踏まえ、今後、臨時情報の制度そのものの周知・広報に加え、特に平時との違いを明確にした上で、臨時情報発表時の行動をあらかじめ自ら考えておくようにすることを目指した周知・広報を強化していきます。また、臨時情報発表時に政府の呼びかけが十分に理解されていなかったことを踏まえ、今後は、内閣府と気象庁が合同で記者会見を開催し、情報の内容や防災対応について、分かりやすい情報発信を行うこととしています。
(5)巨大地震対策に関する平時からの普及啓発の取り組み
気象庁ではこれまで、内閣府等と連携したリーフレット・マンガ冊子の配布、SNSによる情報発信、デジタルメディアと連携したインフォグラフィックの作成、ホームページでの解説、報道機関や自治体と連携した取組、地域の避難訓練や防災研修の機会を活用した取組等、様々な普及啓発を行ってきました。加えて、令和6年8月の初めての臨時情報発表を受けて、気象庁ホームページの臨時情報のページを同年12月にリニューアルしており、情報が出た際にとるべき防災対応について重要なポイントを記載するなど充実を図っています。
昭和19年(1944年)の昭和東南海地震から80年の節目を迎えた令和6年12月7日には、「過去の南海トラフ地震を知り、将来の巨大地震・津波に備える」をテーマとして巨大地震対策オンライン講演会を開催しました。本講演会では、地震・津波に関する情報や防災対応等に加えて、巨大地震・津波のメカニズムや、歴史資料からわかる過去の南海トラフ地震とそれを踏まえた将来への備えについて講演いただきました。各講演の動画は、令和7年(2025年)1月から1年間、YouTubeにてアーカイブ配信しています。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/jishin_bosai/r6_lecture.html#archive

また「南海トラフ地震臨時情報」と同様、巨大地震発生の可能性が平時よりも相対的に高まっていることを伝える情報である「北海道・三陸沖後発地震注意情報」は、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震を対象としており、地域が異なりますが、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」とその枠組みに類似点が多いことを踏まえ、普及啓発を加速しています。
「南海トラフ地震臨時情報」と「北海道・三陸沖後発地震注意情報」は、情報の発表がないままに突発的に地震が発生することもある、情報が発表されても大規模な地震が発生しないこともある、といった留意点があります。しかしながら、巨大地震はひとたび発生すると甚大な被害をもたらすものです。少しでもその被害を軽減するため、気象庁が発表する各種情報を最大限活用いただけるよう普及啓発を進めるとともに、地震は突発的に発生するという前提に基づく“日頃からの備え”の重要性についてもしっかりと周知を行っていきます。
コラム
●地震・津波の知識を学べる短編動画
地震や津波についてより多くの皆様に知っていただけるように、小学校高学年以上の方を対象とした30秒~1分程度のショート動画をシリーズで公開しています。気象庁マスコットキャラクター“はれるん”も登場しており、はれるんと一緒に地震や津波について学習することができる動画です。地震の揺れを経験して浮かぶ疑問に気象庁の専門家がわかりやすく答える「はれるんと地震を学ぼう!」シリーズを令和6年(2024年)3月に公開し、気象庁の職員から出される津波の知識を学ぶミッションに挑戦しはれるんと一緒に“津波マスター”を目指す「はれるんと目指そう!津波マスター」シリーズを令和7年(2025年)3月に公開しました。
動画はスマートフォンでも見やすい縦長形式としており、1分という短い時間の中にわかりやすい言葉での説明を盛り込みました。多くの方にご覧いただき、「わかった!」と思っていただけるとありがたいです。

Ⅳ-2 令和6年能登半島地震の振り返り
(1)地震の概要
石川県能登地方では、令和2年(2020年)12月から地震活動が活発になっており、活動当初は比較的規模の小さな地震が継続する中、令和4年(2022年)6月にM5.4の地震(最大震度6弱)、令和5年(2023 年)5月に M6.5の地震(最大震度6強)などの規模の大きな地震が発生し、令和6年(2024年)1月には、一連の活動の中で最大規模となるM7.6の地震(最大震度7)が発生しました。この地震に伴い、石川県能登に平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)以来となる大津波警報を発表しました。

その後、M7.6の地震の地震活動域では、時間の経過とともに活動が徐々に低下してきていますが、2024年6月にM6.0の地震(最大震度5強)、11月にM6.6の地震(最大震度5弱)が発生するなど、引き続き規模の大きな地震が発生しています。
今もなお能登地方全体では地震活動が続いていますが、これを踏まえた津波観測体制の強化の取組について振り返りたいと思います。
(2)津波観測体制の強化
内閣府により政府全体の令和6年能登半島地震を踏まえた災害対応の在り方についてとりまとめが行われ、全国の津波観測体制の強化について提言されました。気象庁では、令和6年能登半島地震における日本海沿岸の津波被害や東日本大震災以降の津波防災の知見を踏まえ、国の防災対応の初動のために、全国の津波観測装置の更新の一環として巨大津波観測計を追加整備し、日本全国で大津波を適切に観測可能な体制を構築することとしています。

Ⅳ-3 『津波フラッグ』による津波警報等の伝達
(1)津波フラッグとは
「津波フラッグ」は大津波警報、津波警報、津波注意報(以下、「津波警報等」という)が発表されたことをお知らせする旗です。赤と白の格子模様の旗である津波フラッグは遠方からでも視認性が高く、その色彩は国際信号旗の「U旗」として国際的にも認知されています。このため、聴覚に障害のある方や、波音や風で音が聞き取りにくい遊泳中の方、さらには外国人の方にも津波警報等の発表をお知らせすることができます。

津波フラッグは、海岸においてライフセーバー等により掲出されることもあれば、海岸近くの建物から垂れ下げて掲出されることもあります。海水浴場等で津波フラッグを見かけたら、速やかに避難を開始してください。
(2)津波フラッグの周知・普及活動
令和2年(2020年)6月に、新たに津波警報等の伝達手段として津波フラッグが定められて以降、多くの自治体の海水浴場で津波フラッグが活用されることを目指して、気象庁では普及活動を全国的に進めています。令和7年(2025年)1月末現在では、海水浴場を有する自治体のうち72%(284市区町村)で津波フラッグが導入されています。こうした中、令和6年(2024年)4月に発生した台湾付近の地震に伴って津波警報が発表された際には、沖縄県内においてライフガードがビーチで津波フラッグを掲出して遊泳者に退水を呼びかけて避難誘導するなど、実際に活用された事例もありました。

また、より多くの方に津波フラッグを覚えていただくために、気象庁では、津波フラッグの周知にも努めており、全国各地の機関・団体と連携して、海開き・避難訓練にあわせた津波フラッグのデモンストレーションや、学校などでの出前講座を行うなど、様々な機会を捉えた周知活動を行っています。また、津波からの避難と津波フラッグについてわかりやすく解説した冊子等を制作して気象庁HPで公開しています。
令和6年度に気象庁が実施した「気象情報の利活用状況に関する調査」では、津波フラッグの認知度について「津波フラッグを知っていて、その意味も知っている」と回答した割合は全体のわずか4.0%に留まっており、「知らない」と回答した割合は81.6%でした。海水浴場への導入は進んでいる中で、継続的に津波フラッグを運用していただく取り組みも重要です。津波フラッグのさらなる認知度向上に努めてまいります。

Ⅳ-4 阪神・淡路大震災から30年
(1)阪神・淡路大震災の概要
平成7年(1995年)1月17日05時46分、淡路島北部(震央地名:大阪湾)の深さ16kmを震源とするマグニチュード7.3の地震が発生しました。この地震により、兵庫県の神戸市と洲本市で震度6を観測したほか、東北地方南部から九州地方にかけての広い範囲で震度5から震度1を観測しました。さらに、その後の現地調査によって、神戸市・芦屋市・西宮市・宝塚市・淡路市(旧北淡町・旧一宮町・旧津名町)の一部地域では震度7に相当する揺れが発生していたことが判明しました。総務省消防庁の統計によると、この地震による被害は、死者6,434名、行方不明3名、負傷者43,792名、住家全壊104,906棟、住家半壊144,274棟、全半焼7,132棟にのぼりました。
気象庁は、この地震の名称を「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」と定めました。また、政府は、被害規模の大きさに鑑みて、この地震によって生じた災害を「阪神・淡路大震災」と呼称することを閣議口頭了解しました。

(2)阪神・淡路大震災を契機とした地震業務の改善
兵庫県南部地震の発生当時は「震度7」の判定は現地調査により決定することとなっていました。しかし、当時「震度7」の判定に時間を要したことを踏まえ、震度計による観測で迅速に「震度7」を発表するとともに、気象庁以外の機関が整備した震度計のデータも取り込むことで、きめ細かい震度情報を発表できるようになりました。また、この地震をきっかけに、政府の地震調査研究推進本部が設置されたことを受けて、気象庁では各機関の地震観測データの一元的な収集や精密な解析処理を行うこととなり、我が国の地震調査研究にも貢献しています。
(3)阪神・淡路大震災特設サイトをリニューアル
令和7年(2025年)1月17日は、甚大な被害となった阪神・淡路大震災(平成7年(1995年)兵庫県南部地震)から30年の節目となりました。
気象庁ホームページでは、過去の災害に学び、今後の地震に備えていただくため「阪神・淡路大震災」特設サイトをリニューアルしました。この特設サイトでは、阪神・淡路大震災を振り返るとともに、将来起こりうる地震に適切に備えていただくために必要な防災知識等の情報を掲載しています。また、大阪管区気象台、神戸地方気象台でも特設サイトを開設しており、当時の被害写真や災害対応に当たられた消防局職員の方のインタビュー記事なども掲載していますので、ぜひご覧ください。
過去の地震災害は、地震や津波の普及啓発のきっかけとして非常に有効となるものです。地震はいつどこで発生するか分からないため、このような節目を契機として気象庁が発表する情報を知っていただくとともに、地震への備えを進めていただく取組を継続していきます。
阪神・淡路大震災関連の特設サイト
(気象庁)
https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/1995_01_17_hyogonanbu/index.html



Ⅳ-5 広域降灰対策に資する降灰予測情報に関する検討会
気象庁では、全国の火山を対象とした大規模噴火時の新たな火山灰予測情報の具体的な内容について検討を行うために、令和7年(2025年)1月から3月にかけて、火山や防災情報に関する学識者や報道機関、情報伝達事業者、地方公共団体、関係省庁からなる「広域降灰対策に資する降灰予測情報に関する検討会」を開催しました。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shingikai/kentoukai/2025kouhai/kouhaikentoukai.html

(1)検討の経緯・背景
広域に降り積もる火山灰対策については、令和2年に、中央防災会議の防災対策実行会議の「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」において、富士山の宝永噴火規模の噴火をモデルケースとして対策の基本的な考え方について報告書が取りまとめられました。その後、令和6年から内閣府の「首都圏における広域降灰対策検討会」において、火山灰の状況等に応じた広域に降り積もる火山灰対策の基本方針等が検討され、この中で、被害の様相に応じた住民の行動の考え方が議論されるとともに、大規模噴火時の火山灰への対応のトリガーとなる大規模噴火発生の情報や噴火の推移に応じた火山灰の見通しに関する情報の必要性や検討の方向性が議論されました。
(2)検討課題
本検討会では、内閣府の「首都圏における広域降灰対策検討会」における検討内容を踏まえたうえで、全国の火山を対象にした大規模噴火時の広域に降り積もる火山灰に対応する新たな火山灰予測情報について検討しました。具体的な検討事項として、火山灰の深さに応じた呼びかけ内容、警報として発表すべきかどうか、自治体や関係機関が広域に降り積もる火山灰の防災対応を開始するために気象庁が発表すべき情報内容、噴火の推移に応じた火山灰の見通しに関する情報内容等について議論を行いました。
(3)広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報の改善に向けて
例えば、富士山で宝永噴火規模の噴火が発生した場合には、首都圏において火山灰により木造家屋倒壊の可能性や、交通機関、ライフライン等に大きな影響が生じると想定されています。本検討会では、情報の改善にあたって、首都圏のような火山灰になじみのない地域の方にも必要な内容が伝わるように、シンプルな情報体系とすることや、火山灰の影響や取るべき行動を端的に伝えることが重要であるとの認識が共有されました。本検討会の検討結果を踏まえ、引き続き、広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報の改善を進めていきます。

Ⅳ-6 火山噴火予知連絡会50年を振り返って
(1)火山噴火予知連絡会の発足
昭和48年(1973年)、噴火活動が活発になった桜島火山の活動に鑑み、火山研究の成果を火山防災に役立てるとともに科学的な根拠に基づく火山噴火予知の実現を目指して、文部省測地学審議会(現 文部科学省科学技術・学術審議会測地学分科会)において「火山噴火予知計画の推進について」がまとめられ、関係大臣に建議されました。その建議に基づき、火山噴火の予知に関する観測の情報を交換するとともに、それらの情報の総合的な判断を行い、かつ研究・観測の体制を調整し、それぞれの立場における研究及び業務を円滑に進めるため、大学、気象庁並びに関係省庁間に火山噴火予知連絡会を設け、事務局は気象庁に置くこととなりました。これを受け、昭和49年(1974年)6月に火山噴火予知連絡会が発足し、以降年に3回(令和元年(2019年)以降は2回)の定例会を開催しました。

(2)火山活動への対応
火山噴火予知連絡会では、研究成果を実社会に応用することを念頭に、観測データや現地調査の成果に基づき、火山学の知見を用いた火山活動の科学的な評価を行い、統一見解やコメントなどといった形で発表し、火山災害の軽減に資する情報発信に努めてきました。例えば、平成12年(2000年)有珠山噴火に際しては、地元の火山噴火予知連絡会委員が火山噴火の可能性を地元自治体に伝え、住民避難のきっかけを作るなど、防災対応を支援する役割を果たしてきました。また、必要に応じて部会や観測班などを設置して、気象庁や大学等による観測を強化し、火山活動を集中的に検討し、きめ細かい判断を行ってきました。
(3)検討会による提言
火山噴火予知連絡会の下に設けられた各検討会等では、活火山の定義の見直しや活火山の選定のほか、中長期的な噴火の可能性の評価に基づく火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山(現在51火山)の選定等、様々な検討を行ってきました。
最近では、平成26年(2014年)の御嶽山噴火や平成30年(2018年)の草津白根山(本白根山)の噴火を受けて、火山観測体制等や火山情報の提供、調査研究のあり方の検討を行い、火山活動の評価や観測等の体制強化、火山防災情報の改善、火山防災に関する情報共有の強化等の必要性について提言しました。

(4)火山噴火予知連絡会のあり方の検討
平成13年(2001年)以降、国立大学や国立試験研究機関の法人化、噴火警報業務の開始等の社会情勢の変化により、火山噴火予知連絡会が継続的に火山防災に貢献していくには仕組みを大きく見直す必要がありました。そのため、令和元年に「あり方検討作業部会」を設置し、今後の火山噴火予知連絡会のあり方についての検討が進められました。令和4年(2022年)に最終報告がまとめられ、それを具体化するための「あり方報告の具体化作業部会」において、各検討会の構成や開催条件などが検討されました。これらの検討を経て、令和5年度(2023年度)から、火山活動評価検討会等からなる新体制による運営を開始しました。
(5)火山調査研究推進本部の設置など活動火山対策のより一層の充実
一方、令和5年に改正された活動火山対策特別措置法に基づき、火山に関する観測、測量、調査及び研究を推進することにより、活動火山対策の強化に資することを目的として、令和6年(2024年)4月に火山調査研究推進本部が文部科学省に設置され、我が国の司令塔として火山調査研究が一元的に推進されることとなりました。
火山調査研究推進本部の取組をふまえ、火山噴火予知連絡会では役割の見直しについて検討を行いました。火山噴火予知連絡会の機能のうち、調査研究の推進や顕著な火山災害時等の火山活動評価については火山調査研究推進本部において実施されることになりました。また、気象庁が噴火警報等の火山情報を発表するにあたり火山専門家から火山活動評価等について技術的な助言を受ける機能は「火山情報アドバイザリー会議」として運用するとしたことから、令和6年11月27日に開催した第154回定例会をもって火山噴火予知連絡会は終了しました。気象庁では、新たに運用を開始した「火山情報アドバイザリー会議」からの助言をいただきながら、火山調査研究推進本部等とも連携し、火山災害の防止軽減のため、引き続き、適時適確な火山情報の提供及びこれに必要な火山の監視能力・活動評価能力の向上に努めていきます。

コラム
●火山噴火予知連絡会の発展的解消と火山噴火予知の今後の展望

九州大学名誉教授(火山噴火予知連絡会 6代目会長)
清水 洋
火山噴火予知連絡会(以下「予知連」と略記)は、火山噴火予知に関する「研究・業務成果の情報交換」と「研究観測体制の整備の検討」、「火山活動の総合判断」を任務として、我が国の火山防災対策を推進する中核的役割を50年にわたり果たしてきました。しかし、国として火山調査研究を一元的に推進するための司令塔である火山調査研究推進本部(火山本部)が令和6年度に発足し、これまで予知連が担ってきた火山活動の総合的な評価についても、火山本部において実施されることになりました。このため、予知連は役割の見直しを行い、予知連を発展的に解消して新たに「火山情報アドバイザリー会議」の運用が開始されることになりました。今後気象庁は、火山本部の火山活動評価も参考にしながら、アドバイザリー会議における火山専門家の科学的助言を活用して、火山情報の高度化を推進していくことが期待されます。
火山噴火予知に関する研究については、これまで建議に基づく予知計画によって年次的に進められてきましたが、それに加え、今後は火山本部の総合的な基本施策や調査観測計画に基づいて推進されることになります。火山噴火予知はまだ道半ばであり、火山に関する総合的な評価に資する観測・研究を国として長期継続的に推進する必要があります。さらに、それらを活動火山対策に活かすための研究に分野横断で取り組むことが望まれます。
コラム
●「火山防災シンポジウム」を開催しました
火山噴火予知連絡会50年の歩みと火山防災への展望というテーマで、「火山防災シンポジウム」を令和7年(2025年)2月19日(水)に開催し、歴代会長の方々から以下のとおり講演いただきました。
・井田喜明(東京大学名誉教授)火山噴火予知連絡会が行ってきた噴火対応:伊豆大島、雲仙岳、有珠山、三宅島の噴火
・藤井敏嗣(東京大学名誉教授)浅間山、霧島山、御嶽山など21世紀の噴火対応
・石原和弘(京都大学名誉教授)桜島の活動での対応、予知連設立の経緯や火山噴火予知計画
・清水 洋(九州大学名誉教授)火山噴火予知連絡会の発展的解消と火山噴火予知の今後の展望
会場には歴代の火山噴火予知連絡会の関係者が参加されたほか、一般の方も含めて多数の方にオンラインで視聴いただきました。
