◆ トピックス ◆

Ⅴ 火山に関する情報の改善

トピックスⅤ-1 火山噴火等による潮位変化に関する情報の改善について

 令和4年(2022年)1月15日に発生した南太平洋トンガ諸島のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火による潮位変化を踏まえ、火山噴火等による潮位変化に関する情報発信の運用改善を行いました。


(1)トンガ諸島の火山噴火時の対応の課題とメカニズム

 フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の大規模な噴火への一連の対応では、潮位変化が観測され始めた時点ではそのメカニズム等が明らかではなかったため、津波警報等の発表までに時間を要したことや、火山噴火の発生から津波警報等の発表までの間の情報発信が不十分だったこと等の課題がありました。

 そのため、同年2月から3月にかけて、津波・火山・海洋の専門家を交えた「津波予測技術に関する勉強会(座長:佐竹健治 東京大学地震研究所教授)」を開催し、今般の潮位変化は、大規模噴火に伴う気圧波の伝播等によって生じたことや、このうち最も伝播速度が速い気圧波は秒速約300メートルで伝わったラム波(大気と地面や海面との境界に捕捉されて伝わる波)であり、これに伴う潮位変化が日本では最初に発生したと考えられること等をとりまとめました。


(2)火山噴火による潮位変化に関する情報のあり方の検討

 本勉強会で得られた潮位変化のメカニズムの知見等を基に、令和4年(2022年)5月から6月にかけて、津波・火山・防災情報の専門家やメディア、関係省庁からなる「火山噴火等による潮位変化に関する情報のあり方検討会(座長:佐竹健治 東京大学地震研究所教授)」を開催し、火山噴火により発生した気圧波に起因する潮位変化に関する情報のあり方を検討しました。

 本検討会が同年7月27日にまとめた報告書では、火山噴火により発生した気圧波に起因する潮位変化のような稀な現象については、平時から正しく理解していただくことは困難であることから、通常の地震による津波より丁寧な解説や情報提供を行い、住民や自治体等の防災対応につなげていくことが最も重要であるとされました。

 そして、火山噴火により発生した気圧波に起因する潮位変化に対しての情報提供は、

 ・津波警報・津波注意報の仕組みを活用し、注意警戒を呼びかける。

 ・防災対応には理解のしやすさが重要で「津波」として情報提供する。

ことが提言され、それを受けて情報提供の流れを以下のとおりとしました。

 ・噴煙高度約15,000メートル以上の大規模噴火が観測された場合に、当面、「遠地地震に関する情報」を活用し、潮位変化を「津波」と呼称した上で、その発生可能性について情報発表する。

 ・気象衛星ひまわりによる解析で、明瞭で広範囲に伝播する気圧波が観測された場合、「津波発生の可能性が高まった」という内容を含む情報を発表する。

 ・国内での潮位の観測値が津波警報や津波注意報の基準を超えたタイミングで、津波警報・注意報を発表することを基本とする。ただし、明瞭な気圧変化を観測し、それに整合するタイミングで明瞭な潮位変化を観測した場合等、その時点で得られている津波の要因となる観測結果と矛盾しない明瞭な潮位変化を観測した場合には津波注意報を発表し、観測値が基準を超えたタイミングで津波警報を発表する。

 ・気圧波(ラム波)の到達予想時刻を超えた時刻に情報を発表する場合は、津波の観測結果を情報の内容に含める。その際、潮位変化が観測されていない場合は、引き続き注意を継続するよう呼びかける。

 ・気圧波(ラム波より遅い内部重力波)によって生じる潮位変化が観測されなければ、津波の心配はないと言える(地形変化等による潮位変化の可能性は別途考慮する)。

 同年12月4日には、7月に改善を行って以降で初めて、インドネシアのスメル火山で噴煙高度が約15,000メートルまで達する大規模噴火が発生しました。この際に気象庁は「遠地地震に関する情報」により、大規模噴火が発生したことや海外および国内での観測点における有意な潮位変化の有無などについて情報発信を行いました。幸いにも潮位変化は確認されず、津波警報等の発表には至りませんでした。

気象衛星ひまわりによる気圧波の観測

 フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火後、気象衛星ひまわりが10分毎に観測した画像に特殊な処理を加え、地球規模で同心円状に広がる明瞭な気圧波の伝播を捉えました。これは、気圧を直接観測しているものではなく、気圧変化に伴う輝度温度の時間的な変化を可視化したものです。輝度温度変化と気圧変化の量的な関係が明らかではないことから定量的な評価は困難ながら、広範囲に広がる気圧波を迅速に検知する上で有効な手段と言えます。

 また、本検討会では、火山噴火による気圧波以外にも山体崩壊等の様々な要因で津波が発生する場合があることから、火山現象や地震により発生する潮位変化に対する情報発表シナリオ及び防災上の留意事項についても取りまとめられました。

火山噴火や地震により発生する潮位変化

 特に、このような発生頻度が低い稀な現象であっても、適切な防災対応につなげるためには、

 ・予測困難で突発的に発生することがある旨を周知する。

 ・典型的な情報発表シナリオやとるべき行動について解説・情報提供する。

といった平時の普及啓発のほか、現象発生時には観測結果を基に津波警報・注意報を発表するとともに、現象の説明や典型的な情報発表シナリオを示すなどした記者会見等での丁寧な解説が重要であるとされています。

気圧波に起因する潮位変化への情報発表シナリオ

 これを受けて、平時からの周知として「地震や火山現象等に伴い発生する津波」のページを気象庁ホームページ※2に公開して平時からの知識の周知に努め、火山噴火等が原因となる潮位変化による災害を軽減する取り組みを行っています。

 さらに、気象業務法の改正によって、火山現象による潮位変化を法律に明確に位置付けて、的確に津波警報・注意報を発表するとともに、中長期的な課題とされた「遠地地震に関する情報」の名称変更、潮位変化の可能性がある噴火の絞り込み、沖合の津波観測点の活用等についても技術開発や検討を進めていきます。

 ※2 https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/tsunami/various_causes.html


トピックスⅤ-2 噴火警戒レベルと火山防災協議会

 噴火警戒レベルとは、火山活動に応じた「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災行動」を5段階に区分した指標です。火山周辺の住民、観光客、登山者等のとるべき防災行動と火山の状況を速やかに把握し、市町村等の防災機関があらかじめ合意した防災対応を迅速に行えることを目的としています。平成19年(2007年)以降、順次運用を開始し、令和4年(2022年)3月には活動火山対策特別措置法に基づき、火山防災協議会が設置されている49活火山すべてで運用となりました。

活動火山対策特別措置法に基づく火山防災協議会、噴火警戒レベル、避難計画の関係について

 噴火警戒レベルの引上げ・引下げの運用は、レベルごとに想定する火山活動に基づいてそれぞれの火山であらかじめ定めた判定基準により、各地域の火山監視・警報センターが担っています。噴火警戒レベルやその判定基準は、火山活動に関する知見の蓄積に基づき随時見直しを行っておりますので、火山周辺の住民、観光客、登山者の皆さまには、気象庁ホームページに掲載する最新の情報に注意していただきますようお願いします。

 気象庁では、わかりやすい情報を発信するための噴火警報文の改善や、49活火山すべてで噴火警戒レベルが導入されたことを契機に、火山防災協議会とも協力して噴火警戒レベルや火山災害に関する知識の普及啓発等、火山災害を軽減するための取り組みを進めています。

噴火警報・噴火予報と噴火警戒レベル

桜島での噴火警報文の改善(2022年11月実施)

コラム

●火山防災協議会における普及啓発活動の取り組み

鍵山 恒臣

京都大学名誉教授(九重山、鶴見岳・伽藍岳、阿蘇山、霧島山火山防災協議会委員(火山専門家))

鍵山 恒臣


 噴火警戒レベルは、台風情報などに比べると、一般の国民の皆さんには少し遠い存在かもしれません。しかし、火山活動の状況がひんぱんに変わっている活火山近傍の自治体にとっては、必須の情報となっています。

 たとえば阿蘇山では、火山活動がやや活発となって火口周辺1㎞付近に被害をもたらす噴火の可能性がでてくると、噴火警戒レベルは2になります。すると、その結果が全国的に報道され、火口から7~8㎞離れた旅館・ホテルなどの予約キャンセルが出てしまうということを繰り返してきました。風評被害を防ぐには、まず現在の火山活動のリスクがどれくらいかを冷静に知ることが重要です。気象庁が出す情報には、どの範囲が危険かといった情報が含まれています。近年、周辺自治体関係者は、このことを理解したうえで、住民や観光客がどの範囲に立ち入ってはいけないのかを分かりやすく発信する努力を続けてきました。こうした努力の積み重ねによって、最近の阿蘇山では過剰な反応は少なくなってきました。火山防災協議会における日頃のやり取りが、こうした健全な状況を作り出してきたと言っても過言ではありません。

 2022年11月、阿蘇山では、有史時代には発生したことのない大規模噴火を想定した防災訓練が行われました。その時に、気象庁はどのような情報を出すか、情報を受け取った自治体、関係機関はどのように対応していくべきかなどがワーキンググループで検討されました。大分県でも、2022年7月に鶴見岳・伽藍岳で初めて噴火警戒レベルが2に引き上げられ、火山防災協議会の役割が重要であると認識されました。こうした顔が見える関係の中で、より強固な防災体制が構築できると思います。


トピックスⅤ-3 火山噴火予知連絡会の体制変更について

(1)火山噴火予知連絡会が将来的に目指すべき体制 ~「あり方検討作業部会」における検討結果

 火山噴火予知連絡会(事務局:気象庁。以下「予知連」という。)は、昭和49年(1974年)に以下の3つの任務を掲げて発足して以降、我が国の火山対策を推進する中核的役割を担い、平成12年(2000年)の有珠山噴火をはじめとする火山防災対応に大きく貢献してきました。

 ○関係諸機関の研究及び業務に関する成果及び情報を交換し、それぞれの機関における火山噴火予知に関する研究及び技術の開発の促進を図ること。

 ○火山噴火に関して、当該火山の噴火現象について総合判断を行い、火山情報の質の向上を図ることにより防災活動に資すること。

 ○火山噴火予知に関する研究及び観測の体制の整備のための施策について総合的に検討すること。

 しかし、国立大学や国立試験研究機関の法人化等、近年の予知連参画機関を取り巻く情勢の変化から、今後もその任務を発足当初の仕組みで果たしていくことが困難となっていました。このため、令和元年度(2019年度)に「火山噴火予知連絡会あり方検討作業部会」(主査:森田裕一 東京大学名誉教授。以下「作業部会」という。)を予知連の下に設置し、火山国日本において火山調査研究を推進して、その成果を今後も防災に役立てるための持続可能な体制に向けた検討が進められてきました。そして、令和4年8月24日、これまでの検討結果が作業部会の最終報告として公表され、予知連が将来目指すべき体制について提言がなされました。

火山噴火予知連絡会が将来的に目指すべき体制

 提言では大きく分けて2つの提案が述べられています。1つ目は、予知連発足当時からの3つの任務は継続することとし、予知連の役割について明確化した上で3つの独立した会議体を予知連の下に置き、それらを連携して火山防災情報の高度化を推進することです。2つ目は、1つ目の提案を踏まえつつ、予知連以外の既存の会議体や他省庁の取り組みとの連携を推進することを将来的に目指すことです。

(2)令和5年度(2023年度)からの当面の火山噴火予知連絡会の体制

 作業部会の提言を受け、当面の新体制について、「火山噴火予知連絡会あり方報告の具体化作業部会」(主査:井口正人 京都大学防災研究所教授) を開催して検討を進めてきました。令和4年(2022年)12月27日に、この検討結果が「あり方報告の具体化作業部会報告」として取りまとめられ、令和5年度からの体制が示されました。この提言を受け、予知連の下に3つの会議体を設置します。

火山活動評価検討会:平時の火山活動評価を行います。大学等の研究者の平時の負担を軽減するため、気象庁主体で運営し、定期的な会合は開催せず、火山活動の状況によって必要な場合に、臨時で地域会合を開催します。

火山調査研究検討会:平時の研究等成果の情報交換と研究・観測体制整備の検討を行い、火山噴火災害検討会の活動に備え、平時の知見の蓄積等を行うこととします。当面は検討会を始めるための準備作業を進めます。

噴火災害特別委員会:上記2つの検討会の成果に基づき、大規模な火山噴火災害対応にあたります。気象庁をはじめとする関係行政機関と大学等の研究者がオールジャパンの体制で火山噴火災害対応にあたります。

 上記のほか、相互に独立したこれらの会議体を有効に機能できるような情報共有の場を提供するために、定期的な会合を当面年2回開催します。また、必要に応じて、総合観測班あるいは調査観測班を設置できることとしています。

 令和5年度(2023年度)からの予知連の新体制においては、平常時には気象庁が主体的に火山活動評価を実施する体制となるとともに、火山災害発生時もしくはそのおそれがあるときには、関係行政機関や大学等の研究者が一丸となって火山災害対応にあたる体制となることにより、今後の火山防災対策がより一層充実して推進されることが期待されます。

令和5年度からの当面の火山噴火予知連絡会の体制
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