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トピックス

Ⅵ 地震・津波・火山に関するきめ細かな情報の提供

トピックスⅥ-1 「津波フラッグ」による津波警報等の伝達に係る周知・普及について

(1)津波フラッグとは

 気象庁が発表する大津波警報、津波警報、津波注意報(以下「津波警報等」という)は、テレビやラジオ、携帯電話、サイレン等様々な手段で伝達されますが、令和2年(2020年)6月から、海水浴場等における津波警報等の伝達に、赤と白の格子模様の旗である「津波フラッグ」が活用されるようになりました。色彩は遠方からでも視認性が高く、国際的にも認知されています(国際信号旗の「U旗」と同様の色彩)。このため、津波フラッグを用いることで、聴覚に障害をお持ちの方や、波音や風で音が聞き取りにくい遊泳中の方はもちろんのこと、外国人の方にも津波警報等の発表を視覚的にお知らせできるようになりました。

津波フラッグ

 津波フラッグは、海岸や津波避難ビル等においてライフセーバー等により掲出されます。また、海岸近くの建物から垂れ下げられる場合もあります。海水浴場や海岸付近で津波フラッグを見かけたら、速やかに避難を開始してください。

津波避難タワーで津波フラッグを掲出している様子

津波フラッグを建物から垂れ下げている様子

(2)津波フラッグの周知・普及

 気象庁では、より多くの海水浴場等で津波フラッグが活用されるよう、また、より多くの方々に津波フラッグを覚えていただけるよう、津波フラッグの周知・普及活動を全国的に進めています。関係機関・団体と連携した活動も推進しており、関係機関と共同でポスターやリーフレットを作成し、全国の気象台で掲示や配布するなど周知・広報をしています。また、各地での講演会や防災イベント等の他、SNSも活用して積極的にお知らせするようにしています。

 公益財団法人日本ライフセービング協会とは、津波フラッグの一層の普及に向けた連携を強化することを目的とした協定を締結しており、令和3年(2021年)3月に映像資料「津波フラッグは避難の合図」を共同制作し、気象庁のYouTubeチャンネルで公開しました。また、同じく令和3年3月に元ビーチバレーのオリンピック日本代表選手である朝日健太郎国土交通大臣政務官(当時)と、公益財団法人日本ライフセービング協会、一般社団法人日本デフサーフィン連盟の関係者が、聴覚障害者の安心・安全のための視覚による情報伝達の重要性や、津波フラッグの普及に向けた方策等について意見交換をしました。さらに、令和3年7月に公益財団法人日本ライフセービング協会と共同で、港区立みなと科学館でミニ講演会を行うなど、連携して周知・広報の取組を進めています。

 この他、地方気象台と各都道府県ライフセービング協会等においても連携を強化して、各都道府県独自の取組を行っています。

 気象庁では引き続き、関係機関と連携して、津波フラッグの全国的な普及に向け、リーフレットやポスターを充実させて全国の海水浴場で配布・掲示したり、講演会を開催して津波フラッグを含めた津波防災に関するお話しをしたり、防災イベントや企画展等で津波フラッグを展示したりするなど、しっかりと取組をすすめていきます。

津波フラッグの周知・普及活動

トピックスⅥ-2 都市の地震災害への対応

(1)令和3年10月7日の千葉県北西部の地震

 令和3年(2021年)10月7日22時41分に千葉県北西部の深さ75キロメートルでマグニチュード5.9の地震が発生し、埼玉県川口市、宮代町及び東京都足立区で震度5強を観測したほか、東北地方から近畿地方にかけて震度5弱から1を観測しました。この地震により、重傷者6人、軽傷者43人などの被害が生じました。また、火災、ブロック塀倒壊、鉄道の脱輪、停電被害のほか、エレベーターの閉じ込めや帰宅困難者の発生等の都市特有の災害も発生しました(被害に関する情報は令和3年11月26日消防庁とりまとめによる)。今回の地震の震源付近では、平成17年(2005年)7月23日にもマグニチュード6.0の地震が発生しています。この際も東京都内で震度5強を観測し、負傷者38人などの被害が出ています(被害に関する情報は平成17年10月17日消防庁とりまとめによる)。

令和3年10月7日の千葉県北西部の地震の震度分布

 首都圏を襲った巨大地震である大正12年(1923年)の関東大震災が発生してからもうすぐ100年です。関東大震災の死者・行方不明者は10万人以上、その9割が大規模火災による犠牲者でした。また家屋の倒壊も10万棟以上発生しています。当時は木造の住家が多く、このことが被害を大きくする要因となりました。火災や建物の倒壊による被害だけではなく、土砂災害、津波などによる様々な被害が発生しています。関東大震災からおよそ100年が経ち、建物の耐震性は向上してきましたが、通電火災(地震等に伴う停電から復旧した際に生じる火災)による新たな被害が懸念されています。また、戦後、首都圏の開発が急速に進み、高層ビルが増加しています。関東大震災クラスの巨大地震では、高層ビルなどを大きく長く揺らす長周期地震動による被害が指摘されるようになってきました。大きな地震が起きてもしっかり対応出来るよう、日頃からの備えを再確認しておきましょう。


(2)長周期地震動の情報提供

ア.長周期地震動とは

 大きな地震による揺れには、周期(揺れが1往復するのにかかる時間)が長い大きな揺れが含まれます。この長い大きな揺れを「長周期地震動」といいます。この揺れには、地震の規模(マグニチュード)が大きいほど発生しやすい、短い周期の揺れよりも収まりにくい、遠くまで伝わりやすい等の特徴があり、高層ビル等を大きく揺らし、被害を発生させることがあります。平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震では、東京都内や大阪市内の高層ビルが長周期地震動により大きく長く揺れ、高層階で家具類の転倒・移動等の被害があったことが確認されています。近年、高層ビル等のような長周期地震動の影響を受けやすい構造物が増加していますが、一方で、このような長周期地震動による被害は、震度から把握することは困難です。

短い周期の地震動と長周期地震動による揺れとの違い

イ.長周期地震動の情報提供に関する検討の経緯

 気象庁は、長周期地震動の特徴を踏まえ、平成23年度以降、長周期地震動に関する有識者による検討会等を開催し、長周期地震動に関する情報のあり方を検討してきました。平成25年(2013年)には、地震時の人の行動の困難さの程度や、家具類の移動・転倒などの被害の程度を基に長周期地震動による揺れの大きさを4つの階級に区分した「長周期地震動階級」を導入しました。平成29年(2017年)には、長周期地震動の観測結果について、平成25年に開始していたホームページでの提供に加え、オンラインでの提供の必要性が示されました。また、地震発生直後に強い揺れを予測する緊急地震速報と同様に、長周期地震動による揺れの予測については、南海トラフ沿いの巨大地震で想定されるような重大な災害が起こるおそれのある長周期地震動による揺れを予測し、気象庁が国民に警戒や注意を呼びかける予測情報を発表することのほか、高層ビル等の在館者への情報提供、高所作業の安全確保、エレベーター等の制御など多様なニーズに対応するために、個々の高層ビル等の特性まで考慮した詳細な揺れの予測情報が必要であり、民間の役割が重要とされました。

長周期地震動階級関連解説表

ウ.長周期地震動に関する予測情報 ~緊急地震速報への長周期地震動による発表基準の導入~

 長周期地震動に対して、揺れの予報を発表することにより、高層ビル内等の方々の安全の確保等が図れることが期待されること、また、長周期地震動の揺れの大きさを予測する技術が実用化していることから、イで述べたとおり予測情報について検討してきました。また、気象庁が高層階の揺れを再現して行った長周期地震動のシミュレーションや、国立研究開発法人防災科学技術研究所が行った実験によると、長周期地震動階級3及び4で家具類の移動や転倒が発生して重大な災害につながるおそれがあることが示されました。

 このうち、多様なニーズに対応する予測情報においては、民間の役割が重要であることから、令和2年(2020年)9月24日から、民間事業者による予報業務の許可を開始しました。これにより、許可を受けた民間事業者は長周期地震動の予報業務を行うことができるようになりました。

 また、国民に広く警戒・注意を呼びかける予測情報については、令和4年度(2022年度)後半に、気象庁が発表する緊急地震速報の発表基準に長周期地震動階級3以上の予測を加え、長周期地震動で大きな揺れが予測された場合にも緊急地震速報として警戒・注意を呼びかける予定です。長周期地震動に対しても従来の緊急地震速報と同様に安全な場所で揺れに備えることが重要です。


エ.長周期地震動に関する観測情報

 長周期地震動に関する観測情報は、高層ビル等における地震後の防災対応等の支援を図るため、長周期地震動による高層ビル内での被害の発生可能性等についてお知らせするものです。

 平成25年(2013年)3月より、気象庁ホームページへの掲載を開始しました。令和4年度後半には、オンライン配信での情報提供を予定しています。

長周期地震動に関する観測情報の発表イメージ

コラム

■長周期地震動と高層ビル

福和伸夫

名古屋大学 名誉教授

福和伸夫

 私が初めて長周期の揺れを体験したのは昭和58年(1983年)日本海中部地震のときでした。当時、私は大手建設会社に勤めており、東京・内幸町に建つ29階建て、高さ120メートルのビルの27階で耐震研究を行っていました。東京は震源から500キロメートルも離れていたので、震度は発表されませんでしたが、正午過ぎにブラインドが大きく揺れ始め、とても驚いたのを覚えています。減衰の小さい高層ビルが、長周期地震動で揺さぶられやすいことを実体験しました。

 その後、大学に異動して、東海地震対策などに関わり、平成15年(2003年)十勝沖地震での

石油タンク火災などを経験する中、私は、長周期地震動の予測や、高層ビルや免震ビルの地震対策に取り組んでいました。そして、平成23年(2011年)3月11日を迎えます。


 私は、東北地方太平洋沖地震が起きたとき、東京・青山にある23階建ての高層ビルの15階で、建築構造技術者向けに高層ビルの長周期地震動対策の講義をしていました。最初はとても小さな揺れでしたが、徐々に揺れが強くなり、最後には恐怖を感じるような揺れになり、いつまでも

揺れ続けました。まさに、低減衰長周期構造物の揺れの特徴で、講義で解説した通りの揺れでした。震源から700キロメートル以上離れた大阪では、地表の震度は3だったのですが、ある高層ビル(写真)は、共振によって1.4メートル弱も揺れました。このため、震災後には、高層ビルの長周期地震動対策が本格化しました。

大阪府の高層ビル

 規模の大きな地震は、長周期の揺れをたっぷり放出します。長周期の揺れは波長が長いので、減衰せずに遠くまで伝わります。そして、堆積層が厚い大規模平野は長周期の揺れを大きく増幅させます。そこに大都市があり、長周期で揺れやすい高層ビルが林立しています。気象庁が発表する震度は、人間が感じやすい周期の揺れの強さを表すので、震源から離れた場所では、地表の震度は小さいのに、高層ビルだけが強く揺れるようなことが起きます。

 そういった高層ビルが激増しています。私が最初に長周期の揺れを体験した昭和58年には、高さ100メートル以上の超高層ビルの数はわずか50本程度でした。それが、十勝沖地震があった平成15年に約500本、東日本大震災があった10年前に約850本、現在では1,150本以上になりました。今では、長周期の揺れに影響される人の数は、一般の県の人口を上回っています。日本一高い「あべのハルカス」は、高さ300メートルで、固有周期は5.6秒です。このため、こういった長周期の揺れの強さを示す新たな指標が必要になりました。

 そこで、気象庁は、東日本大震災以後、長周期地震動の情報提供について検討を始め、平成25年(2013年)から4階級の「気象庁長周期地震動階級」を導入し、観測情報を試行的に運用しました。そして、平成31年(2019年)から本運用を開始し、昨年令和3年(2021年)2月13日の福島県沖地震で本運用後はじめて「階級4」を観測しました。この地震では、首都圏のタワーマンションの

住民の多くが、長周期地震動による揺れの怖さを感じたようです。

 残念ながら、長周期地震動階級は、地震が発生してからしばらくたった後にしか発表されません。今後、南海トラフ地震を始め、巨大地震の発生が心配されます。南海トラフ地震では、高層ビルが林立する三大都市が長周期の揺れに揺さぶられます。早期に緊急行動がとれるよう、長周期地震動の影響を考慮した緊急地震速報の実現が望まれます。


トピックスⅥ-3 火山に関する情報の改善

(1)噴火警戒レベルの運用状況と判定基準の公表について

 噴火警戒レベルは、火山活動に応じた「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災行動」を5段階に区分した指標です。各レベルにキーワードを設定し、火山周辺の住民、観光客、登山者等のとるべき防災行動を一目で分かるようにしています。噴火警戒レベルにより、住民や登山者等は速やかに火山の状況を把握することができ、また、市町村等の防災機関でも、あらかじめ地域で統一的な防災対策として合意した対応を行うことができます。

噴火警報・噴火予報と噴火警戒レベルの対応

 噴火警戒レベルは、平成19年(2007年)の導入以降、地元の自治体や関係機関で構成される火山防災協議会で協議され、レベルに則した防災対応が定められた火山において順次運用されています。令和4年(2022年)3月には、活動火山対策特別措置法に伴う火山災害警戒地域に指定されている49火山全てで運用しています。

 噴火警戒レベルは、噴火警報・予報に付して発表されますが、レベルの引上げ・引下げは、それぞれの火山において、各レベルに対し想定する火山活動に基づいて定めた火山性地震の回数等の基準(噴火警戒レベルの判定基準)により判定しています。この基準については、平成26年(2014年)9月の御嶽山の噴火を受け、最新の科学的知見を反映するなどの精査を行うとともに、どの様な場合に引き上げ、引き下げられるか、住民や登山者等に確認いただけるよう公表を進めてきました。令和4年3月現在、噴火警戒レベルを運用している49火山全てにおいて、噴火警戒レベル判定基準とその解説を気象庁ホームページに掲載しています。

 噴火警戒レベルについては、引き続き、火山防災協議会における検討・協議を通じた改善を図るとともに、活動に関する知見の蓄積に合わせた判定基準の見直しを実施します。これに加えて、協議会構成機関と連携した噴火警報等の利活用のための普及啓発等、火山災害の軽減のための取組を進めます。

噴火警戒レベルを運用している火山及び噴火警戒レベルの判定基準を公表している火山


コラム

■北海道における火山防災対策 ~火山噴火総合防災訓練~

主査 平山陽介

北海道総務部危機対策局危機対策課(執筆当時)

主査 平山陽介

 北海道には北方領土を含め31の活火山があり、この内9火山(アトサヌプリ、雌阿寒岳、大雪山、十勝岳、樽前山、?多楽、有珠山、北海道駒ヶ岳、恵山)が常時観測火山に位置付けられ、道や市町村、防災関係機関、火山専門家等で構成される各火山防災協議会により、警戒避難体制の整備や訓練の実施等、火山防災対策が進められています。

 こうした中、平成12年(2000年)有珠山噴火災害の教訓を踏まえ、平常時からの噴火災害に対する地域住民の防災意識の向上、防災関係機関相互の連携体制の充実・強化を図ることを目的として、平成13年度(2001年度)から、いくつかの常時観測火山の持ち回りで、「火山噴火総合防災訓練」を実施しています。

火山噴火総合防災訓練実施状況

 令和3年度(2021年度)は、火山防災協議会の主催により、10月15日に有珠山で本訓練を開催し、道及び関係市町、防災関係機関、住民等約600名のほか、火山専門家や感染症対策に係る有識者にもご参加いただき、情報伝達や初動体制の構築、広域避難を含めた住民避難、感染症対策を講じた避難所の開設・運営、現地災害対策本部設置・運営等に係る訓練を実施しました。

 有珠山では、令和元年度(2019年度)末に噴火警戒レベルが改定され、令和3年7月に避難計画が策定されたところ、今回の訓練はその検証も兼ねており、地元の伊達市防災センターで実施した現地災害対策本部設置・運営訓練では、改定された噴火警戒レベルに応じた各機関の防災対応について改めて確認することができました。また、有珠山は、約30年周期で噴火を繰り返すと言われており、前回の噴火から20年余りが経過、令和3年3月には一時的な火山性地震の増加等もあり、次の噴火への備えと火山防災対策の一層の充実・強化に向けた積極的な取組の必要性を関係機関共通の認識としたところです。

現地災害対策本部設置・運営訓練

広域避難を含めた住民避難訓練

避難所開設・運営訓練

 北海道では、近年、大きな火山災害は発生しておりませんが、火山防災対策の実効性を高めるうえでも訓練を通じて課題等を把握し、必要な対策を講じていくことが極めて重要であると考えておりますので、今後も火山噴火総合防災訓練の一層の充実を含め、火山防災に係る訓練の促進を図ることとしています。訓練の実施にあたり、気象台にはこれまでもシナリオの検討等ご協力いただいているところ、今後も引き続き、気象台をはじめとする防災関係機関や住民等と連携した、より実践的な訓練の実施を通して、北海道における火山防災対策の更なる推進に取り組んでいきたいと考えています。


(2)降灰予報の改善について

 火山噴火に伴い空から降る火山灰(降灰)は、上空の風に運ばれることにより広い地域に及びます。その影響は、降灰量によって異なり、積もった灰の重みによる建物の倒壊、路面や線路に灰が積もること等による交通障害、作物に灰が付着すること等による農林水産業の被害、水道の濁りや下水道の詰まり、停電等ライフラインへの影響、呼吸器系疾患の悪化のような健康被害など多岐にわたります。また、小さな噴石が風に流されて落下し、窓ガラスが割れるなどの被害も生じます。

 このような降灰による被害の防止・軽減や周辺住民への生活情報提供を目的として、気象庁では、降灰量や風に流されて降る小さな噴石の落下範囲を予測する「降灰予報」を運用しています。

 これまでの降灰予報では、例えば阿蘇山では「中岳第一火口」といった、各火山における代表的な火口からの噴火を対象としていました。しかし、平成30年(2018年)の草津白根山の噴火において、有史以来噴火の記録がなかった「本白根山」から噴火したことを受け、代表的でない火口からの噴火に対しても、より的確な降灰予報を発表することが必要となりました。そこで、噴火した火口の位置に関わらず降灰予報を発表できるようシステムを更新するとともに、監視カメラ等を用いて速やかに火口位置を推定して降灰予報を発表する体制の整備を進め、令和3年(2021年)6月から、代表的でない火口から噴火した場合でも、実際の噴火状況に即した降灰予報を直ちに提供できるようになりました。

 代表的な火口(山頂の火口)とは異なる火口(山腹の火口)から噴火した場合に、降灰の予測とそれによる影響の想定がどのように改善するか、下図を使ってイメージしてみましょう。山頂の火口を対象とした予測(左:改善前)では山体東側を中心に降灰が予想されていますが、地上からの高さによって風向・風速が変化することなどが要因となり、山体北側を中心とした実際の降灰分布と予想が大きく異なっています。一方、山腹の火口を対象とした予測(右:改善後)をみると、実際の降灰分布に近い予想となっており、降灰によって今後生じ得る影響のより正確な把握につながることがわかります。

改善のイメージ代

 このように、気象庁では、降灰予報の改善を通じて、住民や登山者の避難行動支援や、自治体による救助・救難活動支援に、一層貢献していくことを目指しています。


トピックスⅥ-4 福徳岡ノ場の噴火対応

(1)福徳岡ノ場の噴火について

 福徳岡ノ場は、東京から南へ約1,300キロメートル、小笠原諸島にある海底火山です。この福徳岡ノ場で、令和3年(2021年)8月13日から15日にかけて大規模な海底噴火が発生しました。噴煙高度は気象衛星「ひまわり」の観測から52,000フィート(16,000メートル)以上に達したと見られます。噴火は、初めは連続的に、その後は間欠的になって、2日半ほど継続しました。

 この噴火は激しいものであったため、約50キロメートル離れた硫黄島の火山観測点でも、噴火活動に起因すると思われる地震動が観測されました。また、約320キロメートル離れた父島の検潮所では、消長を繰り返しながら継続する微弱な潮位変化(噴火に伴うとみられる津波)がみられました。

 福徳岡ノ場は、これまでにも上空からの観測で海面に変色水が確認されることがしばしばあり、海底では火山活動が活発であるとみられていたことから、噴火警報の運用を開始した平成19年(2007年)以来、小規模な海底噴火への警戒を促す噴火警報(周辺海域)を発表していました。今回、8月13日から活発な噴火活動が継続し、今後も継続する可能性があることから、海底噴火による浮遊物(軽石等)への警戒だけでなく、噴火に伴う大きな噴石やベースサージ(横なぐりの噴煙)への警戒が新たに必要となり、8月16日に噴火警報(周辺海域)の内容を切り替えました。

 今回の噴火では、大量の軽石が噴出しました。噴出物の総量は、産業技術総合研究所の推定によれば、1億から5億立方メートルにも及び、20世紀以降に発生した日本の噴火では、大正3年(1914年)の桜島の大正噴火に次ぐもので、過去100年間に発生した日本国内の噴火では、最大規模であったと言えます。

気象衛星「ひまわり」で観測された福徳岡ノ場の噴煙(8 月13 日15 時00 分)

 噴火に伴う大量の噴出物によって、直径1キロメートルほどの馬蹄形の新島が作られたことが、8月15日の海上保安庁の観測で確認されました。福徳岡ノ場で噴火によって新島が出現したのは昭和61年(1986年)以来のことです。その後、噴火は確認されておらず、新島は、波浪によって消滅しつつあり、12月下旬には衛星から確認するのが困難なほど小さくなっています。


(2)福徳岡ノ場の噴火による軽石への対応

 気象庁では、福徳岡ノ場の噴火によって海面に漂う軽石について、令和3年8月中に海洋気象観測船「啓風丸」により採集しました。採取した軽石の大きさは最大で約40センチメートルで、主に白色、灰色及び暗灰色であり、表面には気泡が見られました。それらの特徴は、昭和61年の福徳岡ノ場の噴火による噴出物に類似しています。

福徳岡ノ場の軽石

 これらの軽石は、海流等によって福徳岡ノ場から西に流され、10月上旬には沖縄県の北大東島・南大東島や鹿児島県の奄美群島喜界島等に多量の軽石の漂着が確認されました。その後も長期間にわたり沖縄県付近に滞留したほか、本州付近にも流され静岡県や東京都へ漂着しました。軽石の漂着や漂流により、定期航路の運休や水産業被害の発生など、地域の経済活動・生活に大きな影響をもたらしました。このため、港湾管理者等である地方自治体では、軽石の侵入を防ぐオイルフェンスの設置や港湾等に漂着した軽石の除去等の対応に追われました。気象庁としても、これらの方々を支援するため、被害が本格化した10月下旬にポータルサイト「福徳岡ノ場の軽石漂流の関連情報」を開設し、情報提供を開始しました。ポータルサイトでは、沖縄県や鹿児島県のニーズに応じて、時系列の天気予報などをまとめた気象支援資料や、海流予想図、海上分布予報、潮位観測情報、軽石等の漂流物をとらえる可能性のある気象衛星「ひまわり」の画像等を広く提供しています。引き続き、関係機関とも連携し、気象庁として対応可能な協力・支援を最大限実施していきます。

ポータルサイトにおける情報の提供事例

トピックスⅥ-5 フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火に伴う潮位変化と気象庁の対応

(1)観測された噴火現象

 トンガ諸島付近のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山において、令和3年(2021年)12月から令和4年(2022年)1月にかけて噴火が発生しました。一連の噴火活動は12月20日の爆発的な噴火で始まり、1月に入って活動は低下したものの、1月14日、15日に規模の大きな噴火が発生し、その際の噴煙は気象衛星「ひまわり」でも観測されました(下図)。

気象衛星「ひまわり」で観測された噴煙(1月15日14時30分)

 特に、15日の噴火は非常に大規模であり、ニュージーランドのウェリントン航空路火山灰情報センターによると、噴煙は高度約52,000フィート(約16,000メートル)に達し、また、噴煙の上部が直径600キロメートル以上にも広がりました。米国スミソニアン自然史博物館によれば、この噴火により、フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山から70ないし100キロメートル東にある島々において、かなりの降灰があったと報告されています。


(2)観測された潮位変化とそれに基づく情報発表

 フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山近傍のヌクアロファ(トンガ)で15日13時25分頃(日本時間)から火山噴火に伴うとみられる潮位変化が観測されました。日本でも潮位変化が生じる可能性が予想されたことから、気象庁は、同日18時00分に遠地地震に関する情報(日本への津波の有無を調査中)を発表しました。その後、日本への伝播経路上の海外の潮位観測点での潮位変化は小さかったことから、同日19時01分に遠地地震に関する情報(日本沿岸で若干の海面変動あり)及び19時03分に津波予報(若干の海面変動)を発表しました。ところが、日本国内の潮位観測点で、通常の地震による津波から予想される到達時刻よりも2時間以上も早く潮位変化が観測され始め、これらの潮位変化が大きくなる傾向が見られました。このため、災害が発生するおそれがあり、警戒・注意を呼びかける必要があることから、16日00時15分に奄美群島・トカラ列島に津波警報、北海道太平洋沿岸部東部から宮古島・八重山地方までの太平洋沿岸などに津波注意報を発表しました。さらに、同日02時54分には岩手県の津波注意報を津波警報に切り替え、同日04時07分に長崎県西方と鹿児島県西部に津波注意報を発表しました。その後、潮位変化が小さくなったことから、同日07時30分に奄美群島・トカラ列島の津波警報を津波注意報に、同日11時20分には岩手県の津波警報を津波注意報に切り替えました。そして、さらに潮位変化が小さくなったため、同日14時00分に全ての津波予報区に対して津波注意報を解除し、津波予報(注意喚起付きの海面変動)へ切り替えました。その後も海面変動は続いたことから、1月17日、18日にも津波予報(若干の海面変動)を継続して発表しました。この潮位変化を津波の高さの測定方法で測ると、鹿児島県の奄美市小湊で134センチメートル、岩手県の久慈港(国土交通省港湾局所属)で107センチメートルを観測するなど、全国で潮位変化が観測されました(右図参照)。国土交通省災害情報(令和4年1月17日)によれば、この潮位変化に伴い複数の県で船舶の被害が確認されました。

国内で観測された潮位変化の最大の高さ

 今回の潮位変化は、通常の地震による津波到達時間よりも2時間以上も早かったこと、トンガから日本への経路上の観測点での潮位変化が小さかったことなどから、通常の地震に伴う津波とは異なるものでありましたが、国民に防災行動を呼びかけるため、津波警報等の仕組みを利用して警戒を呼びかけました。なお、潮位変化が観測された時刻において、日本の地上気象観測点で約2ヘクトパスカルの気圧の変化が観測されました。


(3)その後の気象庁の対応

 今回の一連の対応では、観測された時点では潮位変化のメカニズム等が明らかでなかったため津波警報等の発表までに時間を要したことや、噴火発生から津波警報等の発表までの間の情報発信が不十分だったこと等の課題がありました。

第20回「津波予測技術に関する勉強会」の様子

 気象庁では、これらの課題を踏まえ、当面の対応として、海外で大規模噴火が発生した場合や、大規模噴火後に日本へ津波の伝わる経路上にある海外の津波観測施設で潮位変化が観測された場合に、「遠地地震に関する情報」により、日本でも火山噴火等に伴う潮位変化が観測される可能性がある旨をお知らせする措置を2月から講じており、3月8日のマナム火山(パプアニューギニア)の噴火の際に、このお知らせを発表しました。また、今般の噴火を踏まえた火山噴火等に伴う潮位変化に対する情報のあり方の議論に資するよう、今回の潮位変化がどのようなメカニズムで発生したのかを「津波予測技術に関する勉強会」にて検討いただき、今回の潮位変化が海洋と大気の相互作用によって発生したと考えられること等が報告書として4月にとりまとめられました。この報告書を踏まえ、5月から、大規模噴火等が発生した際の潮位変化に関する情報のあり方について、津波、火山、防災情報等に関する有識者や自治体の防災関係者、情報を伝える報道関係者も参加した検討会において検討を進めています。

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