トピックス

Ⅳ 社会や生活の中で活かされる気象情報

トピックスⅣ-1 気象予報士と気象データアナリストの活躍

(1)気象予報士の現況

 気象、波浪、高潮の現象の予想を行うには、数値予報資料の解釈など高度な技術を要するため、予報業務許可事業者がこれらの予報業務を行う際は、予報に必要な知識や技能を問う気象予報士試験に合格し気象庁長官の登録を受けた気象予報士が、現象の予想をする必要があります。令和4年(2022年)4月1日現在、11,251人が気象予報士として登録されています。

 気象庁では、今後の民間気象事業の振興策や気象予報士の更なる活躍の場の検討の基礎資料とするため、令和2年度(2020年度)に、気象予報士全員を対象に、気象予報士の現況に関するアンケート調査を行いました。調査の結果、気象予報士の75%が就業し、全体の12%が予報業務許可事業者に就業していることが分かりました。また、全体の8割は気象予報士の資格に満足しており、全体の6割が気象予報士の資格取得が業務や社会活動に役立ったと回答しました。気象予報士の資格は、気象等の現象の予想に加えて、教育活動、報道機関における情報伝達や気象解説、地方自治体における防災の現場でも役立てられていることがわかります。

 また、今回の調査結果からは、地域における防災活動に気象予報士の資格を役立てたいと考えている方が多いことや、気象予報士の資格を防災関連の資格だけでなくデータ分析・情報処理系の資格と組み合わせて活用できると考える方が一定程度いることも分かりました。

気象予報士資格を役立てたい業務

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気象予報士資格と組み合わせて活用できると考える資格等

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 今後、気象予報士の方々が、その専門的な知見を活かして、地域における防災活動を支援したり(トピックスⅠ-3「気象防災アドバイザーの拡充」参照)、産業界の気象データ利活用の分野でも活躍する((2)「気象データアナリスト」参照)機会が広がっていくことが期待されます。気象庁では、こうした気象予報士の活躍を後押しする取組を今後も進めていきます。

 気象予報士に関する現況調査結果については、次のURLをご覧ください。

 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/yohoushi.html#6


(2)気象データアナリスト

 気象データアナリストとは、企業におけるビジネス創出や、持続可能な生産消費や脱炭素といった社会課題解決ができるよう、気象データの知識とデータ分析の知識を兼ね備え、気象データとビジネスデータを分析できる人材のことです。

 気象庁では、気象データアナリストの育成を推進するべく、令和3年(2021年)2月より「気象データアナリスト育成講座認定制度」を開始しました。この制度は、気象・データサイエンス・ビジネスの各分野について学ぶことができる民間のデータ分析講座を「気象データアナリスト育成講座」として気象庁が認定する仕組みで、令和4年(2022年)4月現在、3つの民間講座が開講されています。

 この制度を創設した背景には、産業界全体において気象データやその活用方法が知られていないこと、また、気象データが利活用できる人材が不足していることなどが挙げられます。

 気象データアナリスト育成講座の活用や、これまであまり気象データが活用されてこなかった業種において気象データアナリストと連携することで、新たなビジネスチャンスや、より効率的な経営やコスト削減につながることが期待されます。

 「気象データアナリスト育成講座認定制度」については、次のURLをご覧ください。

 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shinsei/wda/index.html


コラム

■気象データアナリストのすすめ

加藤 芳樹、加藤 史葉

株式会社データミックス「気象データアナリスト養成講座」 講師

加藤 芳樹、加藤 史葉

 気象データアナリストとは、気象の探究でなく、気象から影響を受けることにより返ってくる反応とその結果についてデータから探究し、課題解決へ導くという新しい技術職です。

 気象から影響を受けることとは、私たちの日常生活における些細な意思決定から、企業の売上変動、防災や気候変動に対応する国家政策まで、その領域は幅広いうえ多岐に渡ります。

 例えば、気象による人の意思決定とその背景にある[欲求・バイオリズム・環境条件]などにフォーカスするビジネスを考えるとき、スマホからの情報等も取り込むことで、気象現象の先にある個人のニーズへ個別具体的なソリューションを提供し、ひとりひとりの「天気×SoWhat?」に応えられる可能性を秘めています。

 つまり、気象に左右される数多くの産業全て、それぞれの現場にあるデータやドメイン知識と気象データを掛け合わせることで、生産性を高めたり新たな価値・新たなビジネスを創ることができるかもしれません。

 幸いなことに、気象データは気象庁により厳重に品質管理されており、何十年も前から綺麗なデータが蓄積され続け、未来もそれが続けられます。

 こんなに利用価値の高い気象データをフル活用しない手はない、そして多種多様でバラエティに富んだ気象データについて深い理解をもって適切に自在に扱う気象データアナリスト人材が、様々なビジネスの更なる発展やSDGs達成にも大きな貢献をしていくだろうと確信しています。


コラム

■気象データアナリスト講座講師から~気象データ活用の可能性と受講生に期待すること~

小縣 信也

スキルアップAI株式会社

「基礎から学べる気象データアナリスト実践講座」 講師

小縣 信也

 気象の影響を受ける業種は6割以上もあると言われるくらい、気象はさまざまな産業活動と関わっています。気象データをうまく活用できれば、産業活動におけるさまざまなリスクを低減できる可能性がありますし、将来の需要を精度良く予測できる可能性もあります。特に、交通・運輸業、流通業、製造業、農業そして観光業では、気象データを活用できる場面が多くあります。しかしながら、気象データを扱うには専門的な知識が必要となるため、産業界での活用はまだ十分には進められていません。

 昨今、産業の発展や企業の競争力アップのためにはDX(デジタルトランスフォーメーション)が不可欠と言われていますが、自社のデジタルデータと気象データを掛け合わせれば、ビジネスの可能性が大きく広がります。例えば、流通業の場合は気象データを用いることで配送の効率化を図ることができますし、製造業の場合は気象データを用いることで生産計画を最適化できます。

 日本では、データサイエンス人材が大きく不足しています。このため、データサイエンスの技術をもち、かつ、気象データを扱える人材はとても貴重な存在です。すでにデータサイエンスの技術をもっている方は、気象データの知識を身に付けることで、仕事の幅を広げることができます。まだデータサイエンスをやったことがない方は、気象データを中心としたデータサイエンスを学ぶことで、新しい業務に挑戦することができます。

 スキルアップAIでは、こういった方々に向け、気象データを学ぶための講座をつくりました。この講座は気象庁の認定を受けています。この認定講座では、プログラミングの基礎から気象データをビジネスに活用するための勘所までを学びます。講座の中には、実際の気象データを用いたノートブック演習があり、この演習に取り組むことで、気象データ分析の実践力を養っていただくことができます。

 本講座の修了生には、現場で実務をたくさん経験し、ロールモデルとなるような成功事例をどんどん産み出していってくれることを期待しています。


トピックスⅣ-2 産業での気象情報・データ活用

(1)WXBCと連携したオンラインを活用した利活用促進の取組

 産業界と気象サービスのマッチングや気象データの高度利用を進める上での課題解決を行うため、平成29年(2017年)に、産学官連携の気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)が設立されました。気象事業者に加えて、情報通信、農業、小売、金融等の関係する産業界や先端技術に知見のある学識経験者等を構成員とし、会員数は、設立当初は215者、令和4年(2022年)4月には1,170者を超えるなど順調に増えています。

 気象庁では、WXBCと連携して、産業界における気象データの利活用促進に関する取組を進めており、その一環で、気象データのビジネス活用に結び付くよう、セミナーやフォーラムといったイベントを開催しています。

 これらのイベントは、従来は会場で開催していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大のため、令和2年度(2020年度)からオンラインでの開催としています。その結果、会場収容人数の制約がなくなったため、従来と比較して聴講者数が大幅に増えたほか、どこからでも視聴できるオンライン開催の利点もあって、全国各地からご参加いただけるようになり、気象データの活用について知っていただく機会が増えるとともに、産学官の関係者の対話の場が広がっています。

 令和3年度(2021年度)は、「気象データのビジネス活用セミナー」として、気象データを活用したデータ分析手法の解説や、気象衛星「ひまわり」から取得できるデータの紹介、海洋気象データとして気象庁の日本沿岸海況監視予測システムの紹介を行うとともに、企業の方々から、これらのデータなどを活用したビジネス事例をご紹介いただきました。

 また、令和4年(2022年)2月に開催した「第6回気象ビジネスフォーラム」では、「気象データとグリーン社会」をテーマに、気候変動に関する最新の知見やグリーン社会実現に向けた産業界の取組について、各分野の方からご紹介いただいたほか、産学官それぞれの立場から、グリーン社会に向けた企業の取組と気象の関わりについて活発な議論を行いました。

気象データのビジネス活用セミナーの様子

気象ビジネスフォーラムの様子

(2)気候予測データの産業での活用とその可能性について

 気象庁では、様々な分野の利用者との協力の下、意思決定に活用しやすい気候情報(天候の見通しや監視のデータ)を提供するための応用技術の開発と普及を目的として、農業やアパレル・ファッションや家電、清涼飲料といった様々な産業分野との対話を通じ、気候情報に対するニーズや活用実態の把握と、事業計画などに従来の平年値の代わりに気候予測を用いることの有効性や可能性について検討しています。令和3年(2021年)1月には、「様々な産業界における気候情報の活用可能性」のテーマで、飲食料品の小売り・流通や観光、家電製造といった3か月予報などの季節予報の活用が生産性向上に資することが期待される業界の方々と検討会を開き、気候情報の活用状況やニーズ等について実務者レベルで意見交換を行いました。ここでは、各産業分野の方々に、活用の現状と今後の期待、課題について紹介していただきます。

検討会の様子

コラム

■小売り・流通、観光、家電製造での気候予測データの活用と期待

島原 康浩

一般社団法人 全国スーパーマーケット協会 事務局長

島原 康浩

 当協会は、全国の中堅中小食品スーパーマーケットを中心とした小売業約302社の正会員と、食品メーカー、店舗設備・設計業、情報・販売促進業等約997社の賛助会員を有した小売業の業界団体です(令和3年12月31日現在)。主な事業内容は、スーパーマーケットの販売統計・景況感調査といった統計調査、展示会やセミナー・ビジネスマッチング等の開催、機関誌「セルフサービス」の発行等をしています。天候(気温)によって消費者の暮らしや食生活は大きく変化します。このため、商品仕入現場では、明日や明後日の天気予報や最高・最低気温からお客様ニーズを予測し、気象会社とも提携して仕入れや販売に活かすウェザーマーチャンダイジングを実施しているケースもあります。温度と商品の関係から気温が上がるにつれて売れる昇温商品と、気温が下がるにつれて売れる降温商品の2つに分類し、気温予測を基に販売計画・仕入計画を作成します。季節と売場の関連から週ごとの販売促進計画や棚割計画はマニュアル化もされています。最近は2週間気温予報なども利用できるので、店舗では、これまでの週間天気予報よりも先を見通した作業計画や販売促進も可能になってきています。スーパーマーケットに並ぶ商品選定を行うバイヤーは、品揃え計画、棚割計画、販促計画、仕入計画等を作成するに当たって、特に長期天候(気温)予測を活用しています。このように店舗とメーカーでは、それぞれの対策の準備期間が異なりますが、約半年先の長期間を見据えた気象予測の双方での共有認識は、生産から流通までのサプライチェーンに効率化をもたらし、ついては食品ロスの軽減につながります。長期間の気象予測については、その経済効果が推定しにくく、実利用に至るケースは少ないのが現状ですが、今後の気象予測精度向上と解説充実に期待しています。


森岡 順子

公益社団法人 日本観光振興協会 観光情報部長

森岡 順子

 当協会は、我が国の観光事業に関する中枢機関として、観光立国の実現に向けた取組や内外の観光振興による地域の活性化、さらに観光交流による国民の生活、文化向上に寄与することを目的として活動しています。主要取組の一つである「価値創造とイノベーションの追求」の中で、最新のマーケティングデータを活用した「観光予報プラットフォーム」の運営に取り組んでいます。複数の旅行会社が持つ個人宿泊実績や予約のビッグデータによる宿泊実績、動向、6か月先の宿泊予測、属性が市町村ごとに分析可能です。伊勢で100年続く老舗飲食店の来客予測アルゴリズム開発や湯河原町など多くの地域において観光戦略に活用されています。飲食店の来客数予測を行うことは、経営、生産性向上の観点からも不可欠であり、食材の仕込みの目安、提供時間の短縮、結果的にフードロス対策にもつながります。更に先の1週間、1か月の見通しも立てられ、人材配置や休業日設定の指標にもなります。飲食店をはじめ地域や観光関係事業者において、これまでの来客・宿泊者数予測は、現場で長年の経験を持つ者が自身の経験に基づいて判断してきましたが、ビッグデータ、オープンデータ活用の時代となり、様々なデータの融合によるデータ根拠に基づく戦略が進められています。平成30年、気象庁との連携事業にて、スノーリゾートエリアに焦点を当てた気象データを取り込んだAI機能による宿泊需要予測システムを構築し、予測の精度の向上、観光産業の業務効率化に寄与しました。本予測システムは他エリアにも拡大しています。気象情報の利便性と観光客の動向と気象データの親和性が高いことから、今後、観光分野において、半年程度の長期気象予測を活用した需要予測システムにより、営業、仕入れ、人員配置など業務の効率化の実現が期待されます。


梅本 佳伸

一般財団法人 家電製品協会 管理部長

梅本 佳伸

 家電業界では、エアコンや暖房器具といった季節商品の販売量は、夏冬の気候により大きく左右されます。例えばエアコンでは、7月が猛暑か冷夏による販売量の差は、冬場1か月の販売量に相当することがあります。猛暑の場合、在庫が品薄になるだけでなく据付工事も追い付かなくなり、本来商品が必要とされる暑い時期に据付が間に合わないという事態になります。昨今、熱中症の問題もクローズアップされており、潤沢な商品供給が望まれています。家電製品は、部品点数が多く、部品の中には長納期部品があり、海外から調達する部品も多くあります。さらに、海外で生産し国内に持ち帰る製品もあります。このような中、家電メーカーは、半年以上前から各社の事業計画や経験則等をもとに生産計画を立案し、部品を発注し人員計画を策定しています。そして、気象庁発表の暖・寒候期予報や3か月予報、1か月予報等を参考に生産計画を見直し、部品や人員の調整を行い、需要期に潤沢に商品を供給できるよう努めています。過去の気象データと今後の気象予報は、非常に重要な指標になっており、いかに有効活用するかが各社の課題になっています。そのような中、生産計画は半年以上前から立案するため、より長期の気象予報が望まれます。現在、気象庁から6か月先までを見通した暖・寒候期予報を発表いただいていますが、9か月先までの予報を是非検討いただきたいと考えています。また、気象予報の精度向上と、定性的な予報から定量的に活用できる予報の検討を期待しています。家電製品協会としましても、より有効活用できる気象予報になるよう、気象庁と連携して参ります。

 最後に、夏場のエアコンの故障による熱中症対策として、4月から5月の夏シーズン前にエアコンの試運転をお願いします。異常があれば、家電販売店やメーカーサービスに早めにご相談願います。


トピックスⅣ-3 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を支援しました

 令和3年(2021年)7月から9月にかけて、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されました。大会の安全で円滑な運営を支援するため、気象庁は、東京2020大会組織委員会や関係省庁と協力しながら様々な取組を行いました。ここでは代表的な取組を紹介します。

 まず、大会運営に当たっては、競技の安全で公平な実施をはじめ多くの場面できめ細かな気象情報が求められます。そこで、気象庁は、組織委員会に職員4名を派遣し、大会運営に不可欠な気象情報等の提供の中核を担いました。また、気象庁では、急発達する夏の積乱雲(雷雲)をいち早く捉えるために、静止気象衛星「ひまわり」により30秒間隔で観測を行いました。さらに、気象の影響を受けやすいセーリング等の一部の競技会場について、気温や風を詳しく予測しました。これらの観測データや気象予測資料は、組織委員会の気象情報センターに提供され、同センターでの気象情報等の作成・提供を通して、時々刻々と変わる気象条件を踏まえた競技運営の判断に活かされました。

会場ごとの気象情報等を提供したポータルサイト

 また、気象庁では、観客など多くの方に、各競技会場周辺の気象状況や天気予報、紫外線情報等を手軽に確認していただけるよう、ポータルサイトを開設しました。ポータルサイトは、日本の地理に不慣れな海外の方も利用しやすいよう、日英2言語に対応したほか、数字やアイコン等で直感的に内容が分かるように配慮しました。大会期間中は、大会関係者も含めて多くの方にご覧いただきました。

 こうした気象庁の取組は、国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会が共同で実施した記者ブリーフィングや、世界気象機関(WMO)のウェブサイト・ツイッターでも紹介されました。

 大会閉幕後には、組織委員会の小谷実可子スポーツディレクターが気象庁を来訪され、正確な気象情報は我が国の大きな強みであるとの評価をいただきました。オリンピック・パラリンピック大会では、関連する取組を一過性のものとせず、有益な遺産(レガシー)として発展させていくことが奨励されていますが、「我が国の大きな強み」である気象情報が、スポーツ分野でも一層活用されるよう、気象庁は、大会に携わったスポーツ関係者や民間気象事業者などとの連携を更に深め、今後も分かりやすい情報の提供と利活用促進に取り組んでいきます。

組織委員会 小谷実可子スポーツディレクターの気象庁来訪(令和3 年9 月)

コラム

■東京2020大会 気象情報提供業務体験記

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 気象情報センター長(大会当時)

西潟 政宣

 前ページに記載のように、東京2020大会では大会組織委員会に気象庁職員が派遣され、その一人として気象情報の提供業務に従事することとなりました。

 屋外会場の競技は天気の影響を受けやすいですし、競技によってはわずかな雨でも滑りやすくなり安全性が、また、風の向きや強さの変化によって公平性がそれぞれ確保できなくなることから、詳細な気象観測・予測が必要とされます。加えて、大規模大会ゆえに膨大な選手・関係者が行動するため、屋内会場であっても台風や雷雨、強風、暑さ等による影響がとても大きくなります。

 これらの観点から、組織委員会に気象情報センターが設置され、全43競技会場や選手村を対象としたピンポイントかつ1時間ごとの気象予測を行いました。また、大会運営本部で1日5回実施される定例会議において気象情報センター長から解説を行うなど、大会運営全体を俯瞰する視点で、組織委員会各部局が把握すべき重要な気象の見通しを報告しました。大会期間中、台風や暑さなど様々な気象条件となった中で、IOC、国際競技連盟、競技会場担当者、大会運営本部など組織委員会各部局が連携し、臨機応変に競技日程が変更(オリンピックで10回、パラリンピックで3回)されるなどして、大会期間中に全ての競技を実施することができました。特に、数日後に天気が悪化との予測を踏まえ、競技日程を延期ではなく前倒しの変更を行ったケースは、予定どおりの日程で進行したいはずの競技責任者が、気象予測に信頼を重く置いて果敢に判断したからこそ実現した、と考えています。

 このように気象の影響を最小限にできた要因の一つとして、大会前に組織委員会や大会関係者で数多く実施したテスト大会や訓練を通じて、気象情報を利活用するスキルが高まっていたと考えられます。各部局で気象情報の意味合いが的確に理解され、いつどのように判断すると円滑に大会が運営できるかといった“相場観”が共通の認識となっていた点が大きかったです。

メインプレスセンターでの記者会見の様子

 オリンピック開会式の5日前(7月18日)には、メインプレスセンターでの記者会見において新型コロナ対策や暑さ対策とともに、気象情報提供に関する組織委員会の取組を紹介しました。気象庁の協力による「ひまわり」30秒間隔特別観測などを用いた、より正確な予測やタイムリーな伝達といった技術活用はオリンピック・パラリンピック史上初の取組であり大会運営に貢献できる旨を説明したところ、報道機関のみならずIOCから強い関心が寄せられ、後日の会見でもIOCは折に触れて日本の気象技術の高さを評価していました。上述した競技日程の変更にあたりIOCがスムーズに理解したのは、気象技術に対する信頼を得たからでは、と想像しています。

 こうした日本の気象技術は、気象庁だけでなく、気象情報センターで精緻かつ的確な気象情報の作成・提供に従事した民間気象事業者の日頃の努力で積み上げられたものです。大会を通じて得た組織・人とのつながりを活かしながら、スポーツさらにはその他の分野で気象情報が今後更に利活用されるよう努めていきたいと考えています。


トピックスⅣ-4 コロナ禍における情報発信・普及啓発

(1)オンライン会議システム等を活用した地域防災支援の取組

 オンライン会議システムは、コロナ禍のため現地へ移動し直接顔を合わせながら活動することが困難な場合でも、気象台内において迅速かつ円滑に市町村等とコミュニケーションを取ることができるため、市町村等の防災業務を支援していく上で有効なツールとなっています。また、交通事情等により気象台から迅速に現地へ駆けつけられないような状況下でも有効です。

 各地の気象台では、対面でのコミュニケーションに加え、オンライン会議システムも活用して市町村や関係機関との情報交換を推進しています。

ア.平常時の取組み

 各地の気象台は、気象台長と市町村長との意見交換をはじめ、市町村の防災担当者がプレイヤーとなって時々刻々と変化する気象情報に応じて防災対応の判断を疑似体験していただく「気象防災ワークショップ」の実施、防災気象情報の利活用方法に関する説明会や自治体における災害対策本部設置訓練等の様々な場面において、地元関係機関と連携しつつオンライン会議システムを活用しています。

 また、自治会、学校等の地域の関係機関が防災教育の観点で様々な場面において有効に活用いただけるよう、気象庁で作成したテキスト、パンフレット、ワークショップの教材等の資料や動画のデータは気象庁ホームページ等で公開しています。

気象台と自治体との顔の見える関係づくり

自治体と連携した災害対策本部設置訓練

イ.災害時の取組み

 災害発生時又は災害の発生が予想される場合、気象台長から直接市町村長へ電話連絡(ホットライン)を実施するとともに、オンライン会議システムやメール等も活用し、都道府県・市町村や関係機関が迅速かつ的確な防災対応を行えるよう、今後の気象の見通し等について解説を行っています。

気象台の危機感を直接伝えるホットライン
自治体や関係機関への気象解説

(2)オンラインでの広報・普及啓発の取組

 新型コロナウイルス感染症の拡大やこれに伴うオンラインサービスの普及を受け、各地の気象台でも、オンラインによる様々な広報・普及啓発活動を行っています。

 例えば、防災気象情報の正しい理解と利用のために、各地の気象台では、毎年夏に「お天気フェア」を開催していますが、令和3年(2021年)は、YouTube等を活用したオンライン方式により開催しました。気象の監視や予報の発表等を行う現業室の様子や、ラジオゾンデを気球により飛揚する様子など、オンラインでの動画配信の良さを活かし、普段なかなか見ることができない場面も紹介しました。


○オンラインを活用した「夏休みこども見学デー」

 気象庁本庁では、毎年8月に「夏休みこども見学デー」を開催しており、令和3年(2021年)は虎ノ門庁舎移転後初めての開催となりました。虎ノ門庁舎は、港区立みなと科学館が併設されており、「気象庁・みなと科学館 夏休みこども見学デー2021」として、共催で執り行いました。もう一つの新たな試みとして、新型コロナウイルス感染予防対策のため、オンラインを活用したイベント開催となりました。

「夏休みこども見学デー」の様子

 イベントは、YouTubeを用いたライブ配信により行いました。普段立ち入ることのできない長官室や南極昭和基地、天気予報や地震火山の情報を出す仕事の様子を中継でお届けするなど、オンラインならではのイベントとなりました。チャット機能を用いて、全国からの質問にリアルタイムでお答えするなど、気象庁や防災について楽しく知っていただく良い機会となりました。また、たくさんの質問や楽しいコメントも寄せられ、盛況のうちに終えることができました。


(3)緊急記者会見の改善(口元の見えるマスクの着用)

 気象庁では、緊急記者会見の際に平成31年(2019年)3月より、手話通訳者を配置しています。昨年、耳の不自由なみなさまから「会見者の口元が見えるようにして欲しい。」等のご要望をいただき、令和3年10月以降、口元の見えるマスクの着用を開始しました。

 口元の見えるマスクによって、新型コロナウイルス感染予防対策の徹底を図ると同時に、会見者の表情や発言内容をより分かりやすく伝えられるようになりました。口元の見えるマスクの使用開始以来、新聞やネットニュースなど様々なメディアでこの取組が取り上げられ、好意的な反応が寄せられています。

口元の見えるマスクを着用した会見の様子
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