気象業務はいま 2021
はじめに
気象庁の任務は、台風・集中豪雨等の気象、地震・津波、火山、さらに気候変動などに関する自然現象の観測・予報等と、その情報の利用促進を通じて、気象業務の健全な発達を図り、これにより安全、強靭で活力ある社会を実現することにあります。
昨年以降、新型コロナウイルス感染症のため、従来と異なる生活様式や業務のあり方が求められていますが、気象庁はそれぞれの現場で工夫しながら、その任務を全うしています。
昨年も、令和2年7月豪雨や台風第10号等により多くの被害が発生しました。災害により犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、災害に遭われました皆様に心よりお見舞いを申し上げます。
気象庁では、このような激甚化・頻発化する自然災害から国民を守るために、防災気象情報を的確に発表するとともに、記者会見等を通して危機感を伝えたり、気象庁防災対応支援チーム(JETT)の派遣等を通して地方自治体の防災対応をきめ細かく支援したりするなど、地域の防災力向上と被害の軽減に向けた取組を進めています。
今後、一層的確な防災対応の推進をはじめ、気象業務をさらに発展させていくためには、技術開発と産学官連携の推進が不可欠です。気象庁では昨年10月に大規模な組織再編を実施し、これらを大きく進めていくため、体制を強化したところです。
技術開発については、多くの豪雨災害を引き起こしている「線状降水帯」の発生等の的確な予測と監視を行うこと、また台風とこれに伴う大雨・高潮等を高い精度で予報することなどが求められています。気象庁では、2030年を目標とする長期的展望に立ち、最新のAI技術等も取り入れながら、野心的な技術開発を進めているところです。
また近年、気象情報・データを活用した多様な民間事業が生まれ、また、大学や研究機関において気象に関連する様々な研究が進められており、気象業務に関わる人々のネットワークが広がりつつあります。こうしたことを背景に、増大・多様化するニーズに産学官全体で対応するための取組が始まっています。
今回の「気象業務はいま」では、豪雨・台風被害を減らすための技術開発と、産学官で歩む新たな気象業務を特集し、最新の取組と展望を紹介します。また、トピックスとして、気象庁ホームページ等での情報発信、防災気象情報の伝え方の改善、気候変動や海洋の監視と情報発信に関する取組を取り上げるとともに、近年の地震・津波・火山に関する取組を振り返ります。
多くの方々が本書に目を通され、気象業務への皆様のご理解が深まりますとともに、各分野で活用されることを期待しています。
令和3年6月1日
気象庁長官 長谷川 直之