トピックス

トピックス1 観測機能を大幅に強化した静止気象衛星「ひまわり8号」

気象庁は、平成26年10月7日に新しい静止気象衛星「ひまわり8号」(以下「8号」という。)を打ち上げました。そして、平成27年7月頃から、「ひまわり7号」(以下「7号」という。)に替えて8号による観測を開始することを計画しています。

8号は世界最先端の次世代型の静止気象衛星で、7号に比べて観測機能が大幅に強化されています。

7号では30分ごとに観測を行っていますが、8号では10分ごとに東アジア・西太平洋地域の広い範囲を観測し、それと並行して日本域や台風付近などの領域を2.5分ごとに観測します。さらに、画像の分解能も2倍に向上します。これにより、台風や大雨をもたらす積乱雲の状況を、より詳細かつ早期に捉えることができます。

また、画像の種類は5種類から16種類に増加します。7号の画像はモノクロでしたが、8号では3種類の可視画像(赤・緑・青の3色の光を観測した画像)を合成することでカラー画像も作成でき、今まで区別できなかった黄砂と雲などがより明瞭に判別できるようになります。

そのほかにも、8号の観測データは、上空の火山灰、海面水温、流氷、積雪分布等の監視強化、数値予報の精度向上といった、幅広い分野で役立つものと期待されています。

「ひまわり7号」と「ひまわり8号」の観測機能の比較

図。「ひまわり7号」と「ひまわり8号」の観測機能の比較

「ひまわり8号」のカラー画像

写真。「ひまわり8号」のカラー画像

「ひまわり8号」が打上げ後に初めて撮影した平成26年12月18日11時40分の試験観測画像。3種類の可視画像を合成したカラー画像。

ひまわり7号と8号の画像の分解能

写真。ひまわり7号と8号の画像の分解能

上図:「ひまわり7号」の可視画像(分解能は約1km)
下図:「ひまわり8号」の可視画像(分解能は約0.5km)

トピックス2 台風第11号に伴う竜巻等の突風について

竜巻等の突風は、現象の規模が小さく継続時間も短いため、気象レーダーや地上気象観測ではその特徴を捉えることが困難です。このため、気象庁では、竜巻等の突風によるとみられる災害が発生した場合には、機動調査班(JMA-MOT)が現地調査を行い、突風の種類やその強さ(藤田スケール)、被害の幅及び長さ等を分析し公表しています。

平成26年(2014年)8月9日から10日にかけて、台風第11号が四国・近畿地方を通過し日本海を北上しました。JMA-MOTによる調査の結果、台風第11号の日本への接近に伴い、8月8日から10日にかけて、宮崎県、高知県、和歌山県、三重県、栃木県で計9個の竜巻等の突風の発生が確認されました。宮崎県では8日、9日と2日続けて突風が発生しました。また、9日には和歌山県から三重県の約50キロメートルの範囲で4個の竜巻等の突風が発生しました。さらに、10日には栃木県で2個の竜巻がほぼ同時に発生し、約17キロメートルにわたって大きな被害をもたらしました。台風に伴う竜巻は、平成25年(2013年)9月の台風第18号に伴い、和歌山県、三重県、埼玉県、群馬県、栃木県、宮城県でも発生しています。

竜巻は、台風から数百キロメートル離れた場所を中心に発生しやすい傾向があり、台風第11号の接近に伴い発生した竜巻等の突風にもその傾向が見られます。台風の接近まで時間がある場合や台風の予想進路から離れた地域でも、台風の接近に伴い突風が発生する可能性があるため注意が必要です。

8月8日から10日にかけての竜巻等の突風発生状況と台風第11号の経路

図。8月8日から10日にかけての竜巻等の突風発生状況と台風第11号の経路

台風経路の実線は台風、破線は熱帯低気圧・温帯低気圧の期間を示す。

突風の現地調査結果(8月8日から10日)

図。突風の現地調査結果(8月8日から10日)

トピックス3 地球温暖化の現状

(1)進む地球大気の昇温傾向 -平成26年(2014年)の世界の年平均気温が統計開始以来最も高くなりました-

気象庁では、明治24年(1891年)以降、世界各地から報告された地上気温データと海面水温データを用いて、世界の気温の長期的な変化を監視しています。

平成26年(2014年)の世界の年平均気温偏差(昭和56年(1981年)~平成22年(2010年)の30年平均値との差)は+0.27℃で、平成10年(1998年)の+0.22℃を超えて、統計を開始した明治24年(1891年)以降では最も高い値となりました。

世界の年平均気温は、長期的には100年あたり0.70℃の割合で上昇しています。特に、1990年代半ば以降は高温となる年が頻繁に現れており、上位10位に入るような高温は、全て1998年以降に記録されています(右上の図)。

地域別に見ると、平成26年(2014年)の年平均気温偏差は、陸域ではアジアやヨーロッパ、海域では北太平洋を中心に広い範囲で大きな正となりました(右下の図)。

また、月別では4月、5月、6月、8月、9月、10月、12月の月平均気温偏差、季節別では3~5月(春季)、6~8月(夏季)、9~11月(秋季)の季節平均気温偏差も、統計を開始した明治24年(1891年)以降で最も高い値となりました。

近年、世界で高温となる年が頻出している要因としては、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化の影響が考えられます。また、世界と日本の平均気温は、数年~数十年程度の時間規模で繰り返される自然変動の影響も受けて変動しており、平成26年(2014年)の世界の平均気温が高くなった要因の一つとして、夏にエルニーニョ現象が発生したことが考えられます。

なお、地球温暖化が進行しても、右上の図からわかるように単調に昇温し続けるわけではありません。また、下の図のようにどの地域でも一様に気温が高くなるわけではありません。

気象庁では、年別・季節別・月別の世界及び日本の平均気温に関する情報を、以下の気象庁ホームページに掲載しています。
http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/index.html

世界の年平均気温の変化

図。世界の年平均気温の変化

図 1891~2014年の世界平均気温の経年変化。黒い細線は各年の基準値からの偏差、青い太線は偏差の5年移動平均、赤い直線は長期変化傾向を示している。基準値は1981~2010年の30年平均値。

平成26年(2014年)の年平均気温偏差の分布図

図。平成26年(2014年)の年平均気温偏差の分布図

図 緯度、経度5度の領域ごとに求めた2014年の年平均気温偏差

(2)太平洋域の海洋酸性化 -もう一つの二酸化炭素問題-

海洋は、人間活動により排出された二酸化炭素の約三分の一を吸収することにより、大気中の二酸化炭素濃度の増加を抑制し、地球温暖化の進行を緩和しています。しかしながら、海洋に蓄積された二酸化炭素が増加してきたことにより、世界的に海洋が酸性化(=水素イオン濃度指数(pH)が低下)していることが明らかになってきました。海洋酸性化の進行は、海洋の生態系に大きな影響を与える可能性があり、水産業や観光産業など、経済活動への影響も懸念されます。また、海洋酸性化が進行すると、海洋の二酸化炭素吸収能力が低下し、地球温暖化を加速する可能性も指摘されています。

今回、気象庁による観測データに加え、国際的な観測データも取り入れ、太平洋域のpHの分布と長期変化傾向を解析しました(図)。その結果、1990年以降太平洋域のpHは約0.04(10年あたり0.016)低下しており、太平洋の広い海域で海洋酸性化が進行していることが分かりました。この低下速度は、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第5次評価報告書で今世紀末までに予測されているpHの低下速度に匹敵します。これらの情報は以下の気象庁ホームページに掲載しています。
http://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/shindan/a_3/pHpac/pH-pac.html

太平洋における表面海水中の海洋酸性化の状況

図。太平洋における表面海水中の海洋酸性化の状況

1990年と2013年の太平洋の年平均水素イオン濃度指数(pH)の分布図。

コラム IPCC第5次評価報告書統合報告書がまとまりました

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的に1988 年に設立された国連の組織で、平成26年(2014年)11月に最新の科学的知見を取りまとめた第5次評価報告書統合報告書を公表しました。本報告書は、「気候変動に関する国際連合枠組条約」などの地球温暖化対策のための様々な議論に、科学的根拠を与える重要な資料として利用されており気象庁は原稿執筆や最終取りまとめにおいて積極的な貢献を行ってきました。報告書は「観測された変化及びその要因」、「将来の気候変動、リスク及び影響」、「適応、緩和及び持続可能な開発に向けた将来経路」、「適応及び緩和」の4つの節に分けられています。特に「観測された変化及びその要因」の節では、気候システムに対する人間の影響は明瞭であり、近年の人為起源の温室効果ガスの排出量が史上最高になっていることや、近年の気候変動が人間及び自然システムに対し広範囲にわたる影響を及ぼしていることが結論づけられています。本報告書の政策決定者向け要約の日本語訳については、気象庁のほか、関係省庁が分担して作成しており、この資料は以下の気象庁ホームページに掲載しています。
http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/index.html

トピックス4 特別警報の運用開始から1年を過ぎて

気象庁は、平成23年の東日本大震災や同年の台風第12号による紀伊半島の土砂災害等において、警報等の様々な情報が防災対応や住民自らの迅速な避難行動に十分には結びつかなかった教訓を踏まえ、平成25年8月30日に「特別警報」の運用を開始しました。この特別警報は、重大な災害の起こるおそれが著しく大きい場合に発表し、その危険性をわかりやすく住民や地方自治体等に伝えるもので、気象現象では、数十年に一度となる記録的な雨量や「伊勢湾台風」級の数十年に一度となる台風の強度などを基準として、発表の判断を行っています。

(1)特別警報の運用実績

運用を開始して1年以上が経過し、その間、気象現象では、平成25年9月の台風第18号による福井県、滋賀県及び京都府での大雨、平成26年7月の台風第8号による沖縄県の暴風、波浪、高潮及び大雨、同年8月の台風第11号による三重県での大雨、及び同年9月の大気不安定による北海道での大雨に対し、それぞれ特別警報を発表しました。

気象庁は、このように運用を開始した特別警報を防災対応に一層活用いただくため、いくつかの改善も実施してきました。例えば平成25年台風第18号に伴う大雨特別警報を受けて実施した市町村へのヒアリング調査において「特別警報の発表時に住民に対してどのように呼びかけるべきか分からない」というご意見があったことを踏まえ、特別警報の発表時に行う気象庁の記者会見において、異常事態であることをわかりやすく伝えるとともに、具体的な呼びかけの内容を記載した記者会見の資料を気象庁ホームページに掲載することとしました。また、住民への伝達をより確実なものとするため、特別警報を発表した際には、気象庁から直接、携帯電話端末で受け取れる緊急速報メールを配信することを予定しています。

(2)特別警報の評価と課題

実際に特別警報が発表された自治体や住民の評価として、例えば平成26年台風第8号で特別警報が発表された沖縄県では、「特別警報の発表により危機感が高まった」とした市町村が全体の8割を超えたことは、特別警報の発表が効果的に危機感を伝えたことを示しており、平成25年11月に全国の男女2,800人を対象として実施したアンケート調査でも、9割近くが特別警報を「大いに役立つ」又は「ある程度は役に立つ」と回答しています(「気象業務はいま2014」参照)。

一方で、いくつかの課題も明らかになっています。例えば、平成26年の台風第8号では、特別警報の基準を満たす強度(沖縄では910hPa)で接近・通過すると予想されたため、宮古島地方及び沖縄本島地方に暴風、波浪、高潮及び大雨の特別警報(大雨特別警報は沖縄本島地方のみ)を順次発表しました(下図参照)。結果として台風の強度は予想ほど発達せず予測精度の改善が課題となりました。また、台風が沖縄から遠ざかり、台風による特別警報の基準を満たさなくなったことから、順次、通常の警報・注意報に切り替え後、発達した新たな雨雲が沖縄本島地方にかかり、数十年に一度の大雨になると予想されたため、改めて大雨特別警報を発表しました。いったん警報・注意報に切り替えられた後にこのように特別警報が再度発表された地域の自治体や住民に戸惑いがあったとの指摘もあり、大雨特別警報に雨量に基づくものと台風の強度に基づくものの二つの基準があることについて、十分理解されていてないことが明らかになりました。

また、平成25年10月の伊豆大島や平成26年8月の広島市の大雨では、土砂災害により甚大な被害となりましたが、特別警報の基準を満たさなかったことから大雨特別警報の発表には至りませんでした。特別警報は、最大級の警戒を呼びかけるものであることから、特に異常な現象を高い精度で予測することが重要であり、現在の予測技術においては例えば5キロメートル囲みの格子10箇所以上となる広域なエリアの大雨が予想された場合に大雨特別警報の発表が可能となっています。

(3)特別警報を含む防災気象情報の有効な利活用に向けて

特別警報の基準を満たさない現象であっても重大な災害が発生する場合があることはいうまでもありません。災害から身を守るためには、特別警報の発表を待つのではなく、危険の切迫度に応じ時間を追って段階的に発表される注意報、警報、及び土砂災害警戒情報などを活用して、早い段階から防災対応をとっていただくことが重要です。

自治体や住民の皆様に特別警報を含む防災気象情報が一層活用されるよう、日頃からの周知・広報の取り組みを進めます。また、大雨等を予測する技術向上の取り組みや、技術向上を踏まえた防災気象情報の改善の取り組みも引き続き進めてまいります。

平成26年台風第8号における台風予報と特別警報の発表・切り替え

図。平成26年台風第8号における台風予報と特別警報の発表・切り替え

台風を要因とする特別警報の指標を満たす強度(沖縄では910hPa以下)を予想している時刻の予報円を、紫色にしている。

トピックス5 大雪に対する取り組み

平成26年2月、本州の南海上を発達しながら進んだ低気圧(南岸低気圧)により、関東甲信地方を中心に各地で大雪となりました。気象庁では大雪の可能性はあるものの途中から雨に変わると予想していましたが、雪か雨かの分かれ目となるわずかな気温予測の違いから、事前の予想より雪として降る時間が長くなり、観測史上1位の積雪を更新する記録的な大雪となりました。普段、あまり雪が積もらない地域(少雪地)で大雪となったこともあり、各地でカーポートやビニールハウス等の倒壊が相次いだほか、大規模な交通障害や集落の孤立が発生するなど大きな被害となりました。また、平成26年12月には四国地方でまとまった降雪となり、車輌の立ち往生や集落の孤立が発生しました。

倒壊したカーポート

写真。倒壊したカーポート

平成26年2月15日 群馬県前橋市

倒壊したビニールハウス

写真。倒壊したビニールハウス

平成26年3月10日 長野県佐久市

普段雪の少ない地域での大雪の経験も踏まえ、気象庁では大雪の可能性がある場合の情報提供の充実に取り組んでいます。まず、1~3日先に大雪のおそれがある際には、気象情報を発表し、気象状況の見通し等についてお知らせします。特に南岸低気圧がもたらす降水は雨と雪の境目の気温で降ることが多く、気温が1℃下がるだけで結果が大きく変わって大雪となることがあります。そのため、雪に対する備えに資するよう、特に少雪地等では、雨の予報であっても、予想より気温が低く経過すると大雪となる可能性があると判断した場合には、その旨の注意を呼びかけることとしています。

また、大雪やその後の雨の加重によってカーポートやビニールハウス等が倒壊するおそれがある場合には、気象情報の中で「カーポートなどの簡易な建築物や老朽化している建築物などは倒壊のおそれがあるため、近寄らないよう注意してください」「ビニールハウスは倒壊のおそれがあるので注意してください」等の具体的な文言を用いて注意を呼びかけます。これは、平成26年2月の関東甲信地方を中心とした大雪被害を踏まえ、国土交通省住宅局や農林水産省と気象庁との連携により実現したものです。

さらに、積雪の観測結果等から、異例の降雪(普段雪の少ない地域での大雪、極めて急速な積雪の増大等)となると判断した場合には「数十年に一度の大雪」等の言葉を用いた臨時の気象情報を発表し、緊迫した状況を伝えて警戒を呼びかけるとともに、状況に応じて緊急の記者会見を行い一層の警戒を呼びかけます。昨冬は「異例の降雪に対する国土交通省対策本部」(平成26年12月設置)において、関係各局が連携してドライバー等に対し車輌の立ち往生等への警戒を呼びかける緊急の本部発表を行うこととしており、12月31日から1月3日にかけての大雪と暴風雪を対象として、12月31日に緊急発表を行いました。

以上のような取り組みを進めるうえで最も重要なのは、技術的な基盤となる雪の予測精度の向上です。雪の予測精度の向上には、雪か雨かの分かれ目となるわずかな気温の違いや、雪雲からの降水の量を正確に把握・予測する技術が必要です。気象庁では、引き続き、降雪量の実況解析技術の開発、数値予報モデルの改良、及び予報官の技術力向上を着実に進めてまいります。

また、雪の観測データは、とりわけ少雪地では限りがあるため、自治体や消防等関係機関から雪の情報を入手し気象情報等の発表に活用しています。引き続き、新たな情報入手先の確保により、雪の実況監視の強化に努めています。

立ち往生した車輌

写真。立ち往生した車輌

平成26年2月16日 群馬・長野県境付近

コラム 大雪に関する異常天候早期警戒情報 ~1週間前の事前対策に向けて~

強い冬型の気圧配置が続くと日本海側では連日雪が降り続き大雪となります。これには地球規模の偏西風の大きな蛇行が関係しているため、1週間程度前から予測できる場合があり、強い冬型の気圧配置に伴う大雪が予測された場合には、日本海側の地方を主な対象として「大雪に関する異常天候早期警戒情報」を発表します(下図)。この情報は、概ね1週間後からの7日間に降る雪の深さの合計が「かなり多く」*なる可能性が大きいことを伝えるものです。情報発表日から対象となる現象が現れるまでに1週間程度の猶予があるため、道路や屋根、農業施設等に既に積もっている雪の除排雪の実施や今後の除排雪計画の策定、耐雪対策の実施など、さまざまな雪害への事前対策に役立てることができます。

*「かなり多い」とは、統計的に10%の確率(その時期として10年に1回程度)でしか発生しない現象です。地域や時期により「かなり多い」降雪量は大きく異なります。

気象庁HPにおける大雪に関する異常天候早期警戒情報の表示例

図。気象庁HPにおける大雪に関する異常天候早期警戒情報の表示例

トピックス6 防災気象情報を避難に活用する取り組み

急傾斜地や渓流の付近、河川や海岸周辺の低地などでは、大雨・暴風・高潮などの激しい現象により土砂災害・水害・高潮災害等が発生しやすくなり、ときに生命や身体に危険が及ぶ状況となります。このため、自治体の公表しているハザードマップやお住まいの地域で過去に発生した災害の記録を参考に、それぞれの地域にどのような危険の可能性があり、命を守るためにはどのような避難行動をとる必要があるのか、日頃からしっかり認識しておくことが大切です。その上で、報道・ホームページ・自治体等を通じて提供される防災気象情報を活用し、自治体が発令する避難勧告等にご留意ください。ここでは、気象庁が時間を追って段階的に発表する気象情報、注意報、警報などを活用して早めの避難行動をとる方法について解説します。

台風や発達した低気圧など、水平規模が数百キロメートル以上の現象に伴う大雨・暴風・高潮については、精度の良い予測が可能なため、比較的早い段階から注意や警戒を呼びかける場合があります。1~3日程度先に災害に結びつくような激しい現象が予想されるときには、気象庁は警報・注意報に先立って「気象情報」を発表します。この段階では、土砂災害・水害・高潮災害等に備えて、避難場所や避難ルート、持ち出し品等の確認をしておくことが重要です。

災害に結びつくような激しい現象が予想される半日~数時間前には、気象庁は大雨などの「注意報」を発表します。この段階では、その後の危険の切迫度に応じて発表される警報等に留意していただくとともに、特に、夕方に発表されている大雨・洪水・高潮の「注意報」の中に、夜間に「警報発表の可能性がある」と記載されている場合、水害・高潮の浸水想定区域や土砂災害警戒区域等にお住まいの方は、早期避難を検討することが重要です。

災害に結びつくような激しい現象が予想される数時間~2時間程度前には、気象庁は「警報」を発表するようにしています。この段階になると、市町村から避難準備情報や避難勧告が発令される場合がありますので、まずはそれに従い、速やかに安全確保の行動をとることが重要です。

気象庁が段階的に発表するこれらの防災気象情報を市町村の避難勧告や住民の自主避難に活用する取り組みについては、内閣府において作成された「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」(平成26年9月改定)にも記載されています。このガイドラインでは、土砂災害・水害・高潮災害・津波災害によって、生命に危険が及び、避難行動が必要となるタイミング(判断基準)とエリア(対象区域)の考え方が具体的に示されています。

以下、避難行動をとる際に参考にしていただきたい事項を記載します。

<土砂災害>

  • 土砂災害警戒区域等にお住まいで避難行動に支援を必要とする方(高齢の方や障がいをお持ちの方)は、「大雨警報」が発表されたときには、「土砂災害警戒判定メッシュ情報」(16ページ参照)を活用して土砂災害発生の危険度の分布を確認していただき、荒れた天気となる前に土砂災害から命を守るための避難行動をとることが重要です。
  • 大雨により過去の土砂災害発生時に匹敵するほどの極めて危険な状況になると予想されたときには、気象庁は都道府県と共同で「土砂災害警戒情報」を発表します。市町村から避難勧告等が発令された場合には、速やかに必要な避難行動をとることが重要です。
  • また、土砂災害警戒判定メッシュ情報で「予想で土砂災害警戒情報の基準に到達」となった領域内の土砂災害警戒区域等では、命に危険を及ぼす土砂災害がいつ発生してもおかしくない非常に危険な状況となっています。そのような区域にお住まいの方は、区域外の少しでも安全な場所へ避難することが重要です。このほか、数年に一度程度しか発生しないような短時間の大雨をお知らせする「記録的短時間大雨情報」が発表された場合にも同様に速やかな避難行動をとることが重要です。
  • そうした状況下でさらに土砂災害警戒判定メッシュ情報で「実況で土砂災害警戒情報の基準に到達」となった場合、土砂災害が発生する可能性が一層高まり、過去の土砂災害発生時に匹敵する極めて危険な状況(既に土砂災害が発生しているおそれがある状況)となっています。土砂災害警戒区域等にお住まいの方は、この段階までには避難を完了しておくことが重要です。市町村からの避難勧告等の発令がない場合であっても、少しでも危険を感じたら躊躇せず自主的に避難行動をとることも重要です。

段階的に発表される気象警報等の活用

図。段階的に発表される気象警報等の活用

大雨特別警報の発表を待つことなく、現象の進行に応じて時間を追って段階的に発表される注意報、警報、土砂災害警戒情報や土砂災害警戒判定メッシュ情報などを活用して早めの避難をお願いします。

<水害>

  • 水害の浸水想定区域にお住まいで避難行動に支援を必要とする方は、「洪水警報」や「はん濫警戒情報」が発表されたときには、命を守るための避難行動(自治体の公表している洪水ハザードマップに示された浸水の深さに応じて、建物からの立ち退き避難が必要か、建物の2階などへの移動で命の安全が確保できるかが異なります)をとることが基本です。

<高潮災害>

  • 高潮の浸水想定区域にお住まいの方は、「暴風警報」又は「高潮警報」(又は暴風特別警報又は高潮特別警報)が発表されたときには、警報や気象情報に記載されている予想最高潮位(高潮の高さ)を確認してください。
  • 高潮災害から命を守るためには、予想最高潮位に応じた浸水想定区域の外へ速やかに避難することが基本です。「暴風警報」(又は暴風特別警報)は、暴風となる数時間前に暴風警戒期間を明示して発表しています。高潮の浸水想定区域だけでなく、水害の浸水想定区域や土砂災害警戒区域等にお住まいの方も、暴風警戒期間に留意し、暴風で屋外に避難できなくなる前の早めの避難が重要です。

コラム いつどこに避難すべきか考えておきましょう(内閣府(防災担当))

「避難勧告」が発令されたら、どのような行動をすればよいか、ご存じでしょうか? 大半の方々が小学校や公民館などの避難所に移動することを想像されると思います。実は、災害によって、時間によって、避難先が異なります。最近よく発生している土砂災害の場合は、命に関わるケースが多いため、土砂災害の危険のある区域(土砂災害警戒区域等)から少しでも離れたところに少しでも早く移動することが重要です。ただし、既に大雨で外を移動することが危険な場合は、自宅の中でもできるだけ山から離れた部屋(2階の崖や沢と反対側など)や近くのコンクリートで囲まれた堅牢な建物等に待機することが次善の策になります。

水害の場合は、自宅で想定される浸水の深さが2階以上にまでいくようなところや堤防に近いところであれば家にいる方が危険なため、浸水が想定される区域から少しでも離れたところに少しでも早く移動する必要があります。一方、浸水の深さが浅いところであれば、浸水している危険な中を避難するよりも自宅の2階以上に待機した方が命は助かります。このように、「避難行動」とは、自らの命を救うために行う行動であり、いつ、どのような情報をもとに、どのような行動をとるかについてあらかじめ決めておくことが重要です。

市町村が発令する避難勧告等の情報は、「災害が発生しそうだ」というアラート情報です。避難勧告が自宅のある地域に発令されれば、数分か数時間後に災害が発生するおそれが高い、という警告です。したがって、住民の皆さんは、避難勧告が発令されれば、その時点で最適な避難行動をすぐさま取るように心がけておくことが基本です。ただし、最近は事前の予測が困難な狭い範囲で急激に降る激しい雨が多発し、市町村の避難勧告の発令が間に合わないケースも見受けられます。雨の降り方や川の水位など、避難勧告に頼らずとも、危険な状況だと思えば、自らの判断で避難行動を取っていただくことが重要です。

このように、自宅がどの災害のおそれがあるのか、どの情報を見て、いつ、どこに避難すべきかについては建物毎に異なります。このため、内閣府のガイドラインでは、住所・建物毎に、各自が「災害・避難カード」を作成していただくことを提案しており、この「災害・避難カード」の普及・作成を通じて、全国各地の防災意識の一層の向上に寄与したいと考えています。
内閣府(防災担当)

災害・避難カード(例)

図。災害・避難カード(例)

トピックス7 第3回国連防災世界会議への対応

平成27 年3 月14 日から18 日にかけて宮城県仙台市において開催された第3回国連防災世界会議は、グローバルな防災戦略を策定する国連主催の会議であり、本件会議には187の国連加盟国が参加し、首脳・閣僚級を含め6,500人以上、関連事業を含めると国内外から延べ15万人以上が参加した、日本で開催された史上最大級の国連関係の国際会議となりました(参加国数では過去最大)。

気象庁はこの第3回国連防災世界会議において、世界気象機関(WMO)や国連教育文化科学機関政府間海洋学委員会(UNESCO/IOC)等の国際機関と協力し、早期警報、巨大災害に関するワーキングセッションの共催、WMO 主催の早期警報シンポジウムへの協力、津波に関するパブリックフォーラムの主催、展示の実施等により、我が国の気象業務の価値・先進性のアピールや、気象業務の改善に向けた国際協力の推進に努めました。

特に巨大災害に関するワーキングセッション「巨大災害からの教訓」では、気象庁長官から震災を踏まえた津波警報の改善を各国に紹介するとともに、東日本大震災のような甚大な被害をもたらす自然災害は、発生頻度が非常に低いことから、その対応手順については、理念だけでは無く実際の災害時に有効に働くか否かが肝要であって、平常時の業務の積み重ねが重要であることを主張しました。更に、日本の気象庁では、気象や地震・火山、海洋など多くの分野を担当しており、このことが、例えば大きな地震が発生して地盤が緩んでいる時に、大雨警報の警報基準を下げる、といった総合的で臨機の対応を可能としていること、多様な自然災害に関する対応が整っていることを紹介し、他の国々でも参考にしていただきたい、ということを発言しました。

「巨大災害からの教訓」で発言する気象庁長官

写真。「巨大災害からの教訓」で発言する気象庁長官

気象庁主催の津波に関するパブリックフォーラム

写真。気象庁主催の津波に関するパブリックフォーラム

トピックス8 緊急地震速報に新手法の導入を決定

緊急地震速報は、平成19年10月に広く一般の皆様への提供を開始し、強い揺れの前の身の安全確保、機械・機器の制御等、地震災害の防止・軽減に役立てられています。

一方、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震では、緊急地震速報(警報)を発表した地域が実際に強く揺れた地域よりも狭い範囲にとどまりました(次頁の下図を参照)。また、その後の広域にわたる特に活発な余震活動が続いた期間では、予想震度が過大な緊急地震速報を発表する事例が相次ぎました。

これらを受けて気象庁では、緊急地震速報の精度向上のための技術的改善を計画しています。

(1)同時に複数の地震が発生した場合でも、別々の地震として震源を精度よく推定
~パーティクルフィルタを用いた統合震源決定手法(IPF法)の導入~

右図は東北地方太平洋沖地震の翌日、福島県沖(M4.8)と長野県北部(M3.5)で相次いで地震が発生した際に観測された震度分布です。当時、緊急地震速報を発表するためのプログラムではこれらを1つの大きな地震(M6.9)による揺れであると自動的に判断し、過大な震度予測の緊急地震速報(警報)を発表しました。

このように複数の地震が同時に発生した場合でも別々の地震として処理し、震源を精度よく推定するために開発を進めているのがIPF法(Integrated Particle Filter法)です。IPF法では、地震の揺れの観測データから、「揺れ始めの時刻」「震源までの推定距離」「推定した震源の方向」「観測された振幅」など解析結果を総合的に判断して、一番確からしい震源の位置を推定します。

右図のケースの場合、IPF法を用いることにより、複数の場所で地震が発生したと判断し、それを基に各地の震度を適切に推定できることが確認できました。

このように、IPF法の導入により震源の推定精度が上がり、複数の地震がほぼ同時に発生した場合でも、それらを別々の地震として処理して震度を適切に推定できる可能性が高くなります。

複数の地震がほぼ同時に発生した例

図。複数の地震がほぼ同時に発生した例

平成23年3月12日6時34分頃に相次いで発生した地震で観測された震度の分布

(2)巨大地震発生の際に強く揺れる地域をより適切に予想
~近傍で観測された揺れから震度予想をする手法(PLUM(プラム)法)の導入~

東北地方太平洋沖地震では、震源断層の破壊開始点で破壊が始まってから、約3分かけて北は三陸沖まで、南は茨城県の沖合まで断層の破壊が続き、その結果、東北地方だけでなく関東地方でも広い範囲で非常に強い揺れを観測しました。一方、緊急地震速報の現在の手法では、震源断層の破壊開始点が推定された段階で、その地点を震源と仮定して各地の震度を予想し、迅速に緊急地震速報(警報)を発表します。このため、東北地方太平洋沖地震の時の緊急地震速報(警報)の発表対象地域は、推定した震源(震源断層の破壊開始点)に比較的近い東北地方の一部にとどまりました。(下の図)

こうした状況を踏まえて開発を進めているのがPLUM法(Propagation of Local Undamped Motion法)です。PLUM法は「ある場所で強い揺れを観測したら、その周辺でも同じように強く揺れる」という考え方に基づき震度を予想する方法で、東北地方太平洋沖地震のような巨大地震の場合でも震源から離れた場所での強い揺れを適切に予想することができます。

ただし、その仕組み上、PLUM法により強い揺れを予測してから実際に強く揺れるまでの猶予時間はわずかです。このため、PLUM法を実際に運用する場合は、推定した地震の震源とマグニチュードから震度を推定する手法(IPF法など)と組み合わせて運用することで、迅速かつ確実に緊急地震速報を発表できるようになります。

気象庁では、これらの技術的改善について、実際に発生した地震による検証等を経て準備が整い次第、早ければ平成27年度から平成28年度にかけて運用を開始する予定です。あわせて、研究機関等が太平洋沖に整備している海底地震計などをさらに活用して緊急地震速報を迅速化するなどの取り組みを進めていきます。

東北地方太平洋沖地震の震源域及び観測震度と緊急地震速報(警報)発表地域

図。東北地方太平洋沖地震の震源域及び観測震度と緊急地震速報(警報)発表地域

(左)平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の震源域と観測された震度  (右)緊急地震速報(警報)発表地域
東北地方太平洋沖地震では、南北約500kmにわたる震源域が日本の広い範囲に強い揺れをもたらしたが、緊急地震速報(警報)の発表地域は東北地方にとどまった。

トピックス9 長野県北部の地震について

平成26年(2014年)11月22日22時08分、長野県北部を震源とするマグニチュード6.7の地震が発生しました。この地震により、長野県で震度6弱を観測したほか、東北地方から中国地方の一部にかけての広い範囲で震度1以上を観測し、負傷者46人、住家全壊77棟などの被害が生じました(平成27年1月5日現在、総務省消防庁による)。

気象庁は、気象庁機動調査班(JMA-MOT)を派遣し、震度6弱~5弱を観測した震度観測点及びその周辺を中心に、地震動による被害状況の現地調査を行いました。調査の結果、長野県白馬村で多数の家屋の倒壊や道路の陥没、亀裂等の顕著な被害が確認されました。

(1)余震活動の状況

平成26年11月末までに、震度1以上を観測した余震は100回発生しましたが、活動は次第に低下しました。今回の地震の余震活動を、平成19年7月16日に発生した「平成19年(2007年)新潟県中越沖地震(M6.8)」や、平成23年(2011年)3月12日に発生した長野県北部の地震(M6.7)など、過去に内陸や沿岸で発生した同程度の規模の地震と比べると、余震活動は低調でした。

震央分布図

図。震央分布図

(左)今回の地震および2004年以降に周辺で発生したM6.7以上の地震の震央(右)2014年11月22日~12月31日までに発生したM2.0以上で深さ30km以浅の地震の震央。○の大小でマグニチュードの大きさを示す。

過去に発生した主な地震の余震回数比較

図。過去に発生した主な地震の余震回数比較

11月22日の長野県北部の地震(赤線)と、過去の主な地震の余震回数を本震発生後30日間で比較した図

(2)活断層がずれ動いた地震

長野県北部から山梨県南部にかけては、南北に「糸魚川-静岡構造線活断層系」という活断層帯が延びています。今回の地震について、政府の地震調査研究推進本部の地震調査委員会は糸魚川-静岡構造線活断層系の一部である神城(かみしろ)断層が活動したと考えられると評価しました(コラム「神城断層」参照)。震源地付近の長野県白馬村では、地震を起こした断層の一部が約9キロメートルにわたって地表に現れました。

地震動による被害及び地表に現れた断層

写真。地震動による被害及び地表に現れた断層

(左)家屋の倒壊(長野県白馬村神城堀之内)(右) 長野県白馬村で確認された地表地震断層(松代地震観測所の調査による)

コラム 神城断層

地震調査研究推進本部(以下、地震本部、91ページ参照)では、M7 程度以上の規模の大きい地震が発生する可能性があり、社会的、経済的に大きな影響を与えると考えられる活断層帯を主要活断層帯として選定し、その調査や評価などを行っています。平成26年(2014年)11月22日に発生した長野県北部の地震について、地震本部の地震調査委員会は、翌日に開いた臨時会と翌月9日の定例会において、本震発生前後の地震活動と地殻変動の観測結果や地表地震断層の現地調査結果に基づき活断層との関係について「この震源域付近には糸魚川-静岡構造線活断層系の一部である神城断層が存在している。今回の地震は神城断層の一部とその北方延長が活動したと考えられる。」と評価しました。糸魚川-静岡構造線活断層系は日本列島のほぼ中央部に位置し、北は長野県北部から南は山梨県南部に達する全長140~150kmの活断層系です。神城断層はこの活断層系の北部の区間のうち北側に位置しています(北部区間の南側に松本盆地東縁断層が分布しています)。糸魚川-静岡構造線活断層系(牛伏寺断層を含む区間)は、これまでの調査により平均活動間隔は約1千年、最新活動時期は約1200年前と評価されています。なお、糸魚川-静岡構造線活断層系については、近年いろいろな調査結果が出てきたため再評価のための議論が進められています。

今回の地震は、内陸で起きた規模の大きな地震でしたが、死者がなかったことは幸いでした。今回のような既知の活断層だけでなく、地表付近に活断層が確認されていない場所でも、その地下には活断層が存在して、将来地震を発生させる可能性があります。日頃から家屋の耐震化、家具類の固定、食糧備蓄などの地震に対する備えをしておくとともに、地域住民で助け合える地域づくりもあわせて推進することが大切です。

※平成8年9月11日公表の長期評価に基づく

主要活断層帯(平成27年1月1日現在)

図。主要活断層帯(平成27年1月1日現在)

地震調査研究推進本部ホームページより引用

トピックス10 東南アジアに対する気象レーダー分野の技術支援

頻繁に大雨災害に見舞われる東南アジアで被害を軽減するには、気象レーダーを活用した雨雲の監視と適切な警報・予報が有効です。これらの多くの国では、気象レーダーを整備・運用しています。気象レーダーの観測結果から電波の混信等によるノイズを軽減するなどの観測精度維持・向上の技術は、観測結果を定量的に活用する上で欠かせませんが、多くの国ではこのような処理を自ら行う技術の蓄積が不足しています。また、複数の気象レーダーを設置した場合、効率的な監視のためにはこれらの観測結果を統合された画像に合成する技術(レーダー合成)も必要です。近年、我が国を含む先進国に対するこのような技術移転・人材育成へのニーズが高まっています。

気象庁では、これまで長年培った技術を基に、東南アジア各国への気象レーダーに関する技術支援や人材育成の取り組みを進めています。気象庁は、既に多くの気象レーダーを運用しているタイ気象局の技術者を平成24年(2012年)から毎年日本へ招へいし、レーダー合成技術の移転に向けた指導を進めています。また、平成26年(2014年)2月から3月には、日・東南アジア諸国連合(ASEAN)統合基金(JAIF)を活用した、ASEAN7か国の気象局の技術者を対象とした気象レーダーに関する研修ワークショップがタイ・バンコクで開催され、日本より気象庁・国際協力機構(JICA)・大学・気象レーダーメーカーから講師を派遣して、気象レーダーの基礎理論、維持管理、活用に関するノウハウの伝授に努めました。さらに、毎年実施しているJICA集団研修「気象業務能力向上」では、気象レーダーの予報・警報への利活用に関する講義・実習を開発途上国の研修員に対して行っているほか、日本の無償資金協力により気象レーダーを供与するプロジェクトでは、設置に関する技術的助言を行うなど、東南アジアをはじめとする開発途上国で気象レーダーがより効果的に活用されるための取り組みを行っています。さらに、日本の優れた気象レーダーの技術が各国の防災能力の向上に資するよう、国土交通省・気象庁・総務省・国内気象レーダー製造事業者が共同で「気象・降水観測レーダー海外普及官民連絡会議」を開催し、各国への情報発信等に努めています。

これらの技術支援により各国の気象監視能力が向上することは、効果的な予報・警報の発表を通じて東南アジアでの大雨被害の軽減に貢献し、ひいては海外で活動する日系企業や在留邦人の安全確保、災害リスク軽減につながることが期待されます。

JAIF/ASEAN気象レーダー研修ワークショップ

写真。JAIF/ASEAN気象レーダー研修ワークショップ

日本の技術により不自然なレーダーエコーを除去して作成されたタイの気象レーダー合成図

図。日本の技術により不自然なレーダーエコーを除去して作成されたタイの気象レーダー合成図

提供:タイ気象局

トピックス11 気象情報の産業利用促進のためのワークショップを開催

交通、電力、農業、食品や衣料品販売等様々な産業では気象等の現象の影響をうけており、気象情報が利用されています。効果的に気象情報を利用していただくためには、気象庁と気象情報の利用者をつなぎ、情報の翻訳や加工などを行う民間気象会社やコンサルタント会社等の役割が重要です。これらの方々には、気象情報の精度や特性、利用者のニーズなどを十分に理解していただく必要があります。そのためには情報共有や意見交換により相互理解を深めるとともに、気象庁が保有する気象情報の利用に関する技術の移転が重要となります。

このため、新たな取り組みとして、気象庁、一般財団法人気象業務支援センター、気象振興協議会の共催により、「気象情報の産業利用促進のためのワークショップ」(以下、「ワークショップ」)の第1回を2014年12月12日に、第2回を2015年3月2日に実施しました。

ワークショップには、民間気象会社の他、損保会社、コンサルタント会社、アパレル業界などの既に気象情報を先進的に活用している企業や関係省庁などの幅広い分野から出席いただきました。

今回の2回のワークショップでは、季節予報をテーマとして取り上げ、農業やアパレル業界、損保業界などにおける季節予報や温暖化予測データの活用事例や、当庁が行っている季節予報の産業利用促進のための取り組みなどを紹介しました。また、季節予報を活用した事業展開の可能性について意見交換を行い、季節予報は産業利用のポテンシャルが高く、少しの工夫・加工を施すことで企業活動の意思決定などに十分活用できる情報となりうることを認識いただけました。一方で、利用者のニーズと予測技術の隔たり、季節予報に関する専門家・専門知識の不足などが課題として挙げられ、利用者向けの普及・啓発のさらなる促進などの必要性が指摘されました。

今後は、今回のワークショップから得られた課題を整理しつつ、本ワークショップが当庁、民間気象会社、気象情報利用者のコミュニケーション・情報共有の場として、また、気象庁が保有する技術の移転などによる技術力の向上や人材育成を通じて気象情報の産業利用促進に資するものとなるよう、継続して開催していく予定です。

ワークショップ資料は気象庁ホームページに掲載しています。
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/srs_ws.html

第1回ワークショップ

写真。第1回ワークショップ

ワークショップの様子。参加者からは数多くのご意見をいただきました。

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