特集2 火山観測と火山防災の強化

(1)御嶽山の噴火災害を踏まえた気象庁の課題と対応

ア.御嶽山の噴火とその対応

① 御嶽山の噴火の概要

野県と岐阜県の県境にある御嶽山は、昭和54年(1979年)に有史以来始めて噴火し、その後、平成3年(1991年)、平成19年(2007年)に小規模な噴火が発生しました。いずれも噴火の形態は水蒸気噴火と呼ばれる、マグマの関与は間接的で火口直下に蓄えられていた高温高圧の地下水が爆発的に沸騰して火口から岩石などを噴出させるものでした。平成19年(2007年)以降は顕著な地震活動はなく噴煙の状況も火山灰の混じらない水蒸気が主体の白色噴煙のみという落ち着いた状況で推移していました。

御嶽山 火砕流の状況

写真。御嶽山 火砕流の状況

中部地方整備局の滝越カメラによる。2014年9月27日11時56分。
火砕流が流下している様子を捉えています。

平成26年(2014年)8月下旬に入り、火山性地震(体に感じない極めて小規模の地震)が発生し始め、9月10日、11日には一日の火山性地震発生回数が50回を越えました。9月12日以降は地震発生回数は減少していきました。気象庁は火山性地震が活発になった9月中旬以降、「火山の状況に関する解説情報」を3回発表し、関係者に今後の火山活動の推移に注意を促しました。その後の観測では、14日以降、低周波地震が時折発生しましたが、前回の平成19年(2007年)のごく小規模な噴火の前に観測された、火山性微動や山の膨らみが認められませんでした。これらの変化は、前回の噴火前の変化に比べて小さいものでした。噴火直前には、9月27日11時41分頃から火山性微動を観測しました。そして、同45分頃には傾斜計で、山側上がりの変化を、52分頃には、山側下がりの変化を観測し、噴火に至りました。

御嶽山を監視する観測点の配置と観測機器

図。御嶽山を監視する観測点の配置と観測機器

噴火に伴い、火砕流は火口列から南西方向に約2.5キロメートル、北西方向に約1.5キロメートル流下しました。また、気象レーダーの観測から、噴煙は火口縁から約7,000メートルの高さまで上がり、東に流れていったものと推定されています。

この噴火により、死者57名、行方不明者6名、負傷者69名(消防庁 平成26年10月23日現在)の人的被害が発生し、国内の噴火災害としては戦後最悪となりました(死者が発生した国内の噴火は平成3年(1991年)雲仙岳の噴火(死者・行方不明者43名)以来)。

噴火発生の翌日の28日に国土交通省中部地方整備局と陸上自衛隊の協力で実施した上空からの観測では、山頂南西側の北西から南東に伸びる火口列から活発な噴煙が上がっていることが確認され、また、赤外熱映像装置による観測でこの火口列付近に高温域があることを確認しました。噴火はこの火口列から発生したとみられ、大きな噴石が火口列から約1キロメートルの範囲に飛散していることを上空から確認しました。また、27日の噴火発生時に火砕流が流下した地獄谷付近では、樹木等が焦げたような痕跡は認められませんでした。この他、降灰の有無について自治体等に聞き取り調査を行った結果、御嶽山の西側の岐阜県下呂市萩原町から東側の山梨県笛吹市石和町にかけての範囲まで火山灰が運ばれていたことを確認しました。

② 気象庁本庁の対応

気象庁は、9月27日12時00分に噴火に関する火山観測報、12時36分に火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)、13時35分に降灰予報等を順次発表しました。また、同27日から火山機動観測班を現地に派遣し、噴火の状況やガス観測、降灰調査を実施しました。さらに、噴火の状況や影響範囲等を確認するため、国土交通省中部地方整備局、陸上自衛隊、航空自衛隊の協力によりヘリコプターによる上空からの観測を10月16日までに8回実施しました。火山機動観測班は、平成27年(2015年)5月1日現在も2~3名の職員を現地に交代で派遣し、ガス観測等を継続しています。

御嶽山の噴火に伴う降灰調査結果

図。御嶽山の噴火に伴う降灰調査結果

気象庁の聞き取り調査による降灰の状況(9月28日16時現在)

③ 長野・岐阜地方気象台の対応

長野地方気象台及び岐阜地方気象台は、関係機関の救助・捜索等の災害応急活動を支援するため、御嶽山頂付近(高度約3,000メートル)の風の予想と御嶽山周辺(長野県側、岐阜県側)の気象の予測を「災害時気象支援資料」として9月28日から関係機関へ提供するとともに、御嶽山周辺の地元の方々にも広く利用されることを目的に長野地方気象台・岐阜地方気象台ホームページに掲載しました。同資料は、救助・捜索機関の要望等を踏まえ、御嶽山の周辺市町村(王滝村、木曽町、高山市、下呂市)を対象とした支援資料の作成(9月30日~)、御嶽山山頂付近の気温の予測の追加(10月7日~)などの改善を順次図りました。平成27年5月1日現在も、気象支援資料の提供を続けています。

④ 火山噴火予知連絡会での評価・検討

火山噴火予知連絡会では、9月28日に御嶽山の火山活動について検討するため、臨時で火山噴火予知連絡会拡大幹事会を開催し、今後も同程度の噴火が発生し、火砕流を伴う可能性がある旨の見解を発表しました。また、10月23日には第130回火山噴火予知連絡会を開催し、御嶽山の火山活動は低下しつつあるが、今後も同程度の噴火の可能性があると評価しました。さらに、火山噴火予知連絡会の下に、御嶽山の火山活動評価のための各種観測計画等の検討及び総合的な調整、並びに観測の実施と情報共有を目的とした、御嶽山総合観測班(班長:名古屋大学大学院環境学研究科 山岡耕春教授)を設置することとしました。

また、火山噴火予知連絡会は、御嶽山の噴火災害を踏まえ、活火山の観測体制の強化について検討するため「火山観測体制等に関する検討会」(24ページ参照)を、わかりやすい火山情報の提供、火山活動に変化があった場合の情報伝達の方法を検討するため「火山情報の提供に関する検討会」(27ページ参照)を開催し、それぞれの検討会において、平成26年11月28日及び29日に緊急提言を、平成27年3月26日に最終報告を取りまとめました。

これらの検討状況については以下の気象庁ホームページにも掲載しています。

※火山噴火予知連絡会:火山噴火予知計画(文部省測地学審議会の建議)により、関係機関の研究及び業務に関する成果及び情報の交換、火山現象についての総合的判断を行うこと等を目的として、昭和49年6月に設置(委員:学識経験者及び関係機関の専門家、事務局:気象庁)

⑤ 「火山登山者向けの情報提供ページ」の開設

気象庁では、気象庁が発表する最新の火山情報や自治体が作成する火山防災マップといった登山者等が安全確保に必要な情報を個々の火山毎にワンストップで入手できるよう、気象庁ホームページに「火山登山者向けの情報提供ページ」を新たに設け、10月10日から提供を始めました。

http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/activity_info/map_0.html

火山登山者向けの情報提供ページ

図。火山登山者向けの情報提供ページ

気象庁ホームページに火山登山者向けの情報提供ページを開設

コラム 防災対策上重要度の高い火山現象

火山は時として大きな災害を引き起こします。災害の要因となる主な火山現象には、溶岩流、火山灰、降灰後の土石流、火山ガス等様々なものがあります。特に、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流は、噴火に伴って発生して、短い時間で生命に危険が及ぶ可能性があります。このため、避難までの時間的猶予がほとんどなく、生命に対する危険性が高いため、防災対策上重要度の高い火山現象として位置付けられています。大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流により、過去に以下のような災害がありました。

○大きな噴石による被害

阿蘇山(熊本県) 昭和33年(1958年)の活動
昭和33年6月24日に中岳第一火口が突然爆発しました。この噴火により、噴石が火口から1.2キロメートル離れた場所にある阿蘇山測候所まで達し、山腹一帯には多量の灰や砂が降りました。噴石の影響で、死者12名、負傷者28名の人的被害が発生しました。

大きな噴石

写真。大きな噴石

阿蘇山 平成2年4月20日の噴火に伴う噴石

○火砕流による被害

雲仙岳(長崎県) 平成3年 (1991年)の活動
平成3年2月12日に屏風岩火口において噴火が発生し、3~5月には地獄跡火口と屏風岩火口で頻繁に小さな噴火が起こりました。5月12日からは山頂部で群発地震が観測されるようになって次第に増加し、5月20日に地獄跡火口に溶岩ドームが出現しました。この溶岩ドームが次第に成長し、24日に一部が崩れ落ちて火砕流が発生しました。以後火砕流が頻繁に発生し、6月3日の火砕流は地獄跡火口から約4.3キロメートル流下して、死者・行方不明者43名の人的被害が発生しました。

火砕流

写真。火砕流

雲仙岳 平成6年6月24日に発生した火砕流

○融雪型火山泥流による被害

十勝岳(北海道) 大正15年 (1926年)
大正15年5月24日16時18分頃に発生した噴火で、中央火口丘の北西部が破壊され、熱い岩屑なだれが積雪を溶かして大規模な融雪型火山泥流が発生しました。融雪型火山泥流は山麓に流れ下り、火口から約25キロメートル離れた上富良野村を中心に甚大な被害を及ぼし、死者・行方不明者144名、負傷者約200名の人的被害が発生しました。

融雪型火山泥流

写真。融雪型火山泥流

十勝岳 大正15年(1926年)5月24日の融雪型火山泥流(提供)上富良野町

イ.火山観測体制等に関する検討会のまとめと今後の取り組み

今回、御嶽山では、熱せられた地下水が一挙に水蒸気となって爆発する「水蒸気噴火」が発生しました。この噴火の予兆は乏しく、現在の火山学の知見では、このような水蒸気噴火の発生を予測することは困難です。
これについて、火山噴火予知連絡会では、水蒸気噴火の観測体制の強化を含め、活火山の観測体制の強化策を検討するべく、「火山観測体制等に関する検討会」(委員:学識経験者及び関係機関の専門家)を開催しました。同検討会は平成26年10月から平成27年3月まで6回開催され、「御嶽山の噴火災害を踏まえた活火山の観測体制の強化に関する緊急提言」を平成26年11月28日に、また、「御嶽山の噴火災害を踏まえた活火山の観測体制の強化に関する報告」を平成27年3月26日に取りまとめました。

火山観測体制等に関する検討会

写真。火山観測体制等に関する検討会

第10回火山観測体制等に関する検討会の検討の様子

「御嶽山の噴火災害を踏まえた活火山の観測体制の強化に関する緊急提言」では、緊急的に対処すべき事項として、以下のような観測体制の強化について提言がなされました。

  • 水蒸気噴火の兆候をより早期に把握するため、火口付近への観測機器を設置する等の観測体制の強化
  • 御嶽山の火山活動の推移を把握するための観測強化
  • 常時監視が必要な火山※の見直し(八甲田山、十和田、弥陀ヶ原の追加)

※常時監視が必要な火山:平成21年6月、今後100年程度の中長期的な噴火の可能性及び社会的影響を踏まえ、「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された火山(平成27年5月現在47火山)。

また、「御嶽山の噴火災害を踏まえた活火山の観測体制の強化に関する報告」では、緊急提言に加え、今後速やかに対処すべき事項として、以下のような提言がなされました。

(1)気象庁の監視・評価体制の改善と強化

  • 火山活動や社会的条件を考慮した観測網の充実・維持
  • これまでに発生した事象の経験や学術研究の成果を最大限活用した火山活動の評価体制の強化
  • 現地観測、地元との情報共有、⼤学との意⾒交換の実施体制の強化

(2)観測データの品質向上のための技術開発の推進と新たな観測技術の導入

  • 気象庁及び大学・研究機関等による新たな監視・観測技術の開発
  • リモートセンシング等最新技術の利活⽤の推進

(3)調査研究の着実な推進

  • 大学・研究機関等の連携による研究の推進
  • ⾏政機関と大学・研究機関等の協⼒による学術的研究の戦略的な推進

(4)人材育成を含めた調査研究体制の強化に対する貢献

  • ⼤学・研究機関等による優秀な⼈材育成への努⼒。気象庁等⽕⼭防災に関わる⾏政機関による、これら⽕⼭学の知識を有する⼈材の効果的な活⽤の積極的な実施、キャリアパスの確⽴
  • 気象庁による大学等の観測点の保守・維持等への協⼒

気象庁では、これらの提言を踏まえ、必要な観測機器の整備や評価体制の強化を進め、火山観測体制の強化に取り組んで参ります。

コラム 火口付近の観測を増強する観測機器について

「火山観測体制等に関する検討会」における緊急提言(平成26年11月28日に取りまとめ)に基づき、火山観測体制の強化(24ページ参照)を図るため、今後、火山の火口付近に熱映像監視カメラ、火口監視カメラ、傾斜計、及び広帯域地震計を設置する予定です。また、水蒸気噴火の可能性がある火山の火口付近の熱・噴気の状態変化、火山体内の火山ガスや熱水の流動等による山体の変化を常時監視し、今回の水蒸気噴火の前には捉えられなかったわずかな予兆(先行現象)を検知するための観測施設も増強します。

○熱映像監視カメラ

人の目では見えない赤外線を捉えることのできるカメラで、火口付近の表面温度分布を常時監視することにより、水蒸気噴火の先行現象や噴火現象を可能な限り早く捉えることを目的としています。

熱映像監視カメラ

図。熱映像監視カメラ

火口付近の温度変化を監視します。

○火口監視カメラ

火口付近に監視カメラを設置し、山麓からは確認できない火口付近で発生する噴気の状態変化を常時監視することにより、水蒸気噴火の先行現象や噴火現象を可能な限り早く捉えることを目的としています。

火口監視カメラ

写真。火口監視カメラ

火口付近の噴気の状態変化を監視します。

○傾斜計

地下(10~30メートル)に設置したごく微小な傾斜変化を捉えるセンサーを用いて、火口直下の熱水や火山ガスによる山体の膨張に伴う傾斜変化を常時監視することにより、水蒸気噴火の先行現象や噴火現象に伴う傾斜変化を可能な限り早く捉えることを目的としています。

傾斜計

写真。傾斜計

火口直下の熱水や火山ガスによる山体の膨張による傾斜変化を監視します。

○広帯域地震計

短い周期の揺れから、120秒程度の長い周期の揺れまで、人が感じることが出来ない非常にゆっくりした揺れも捉えることができる地震計です。火山体内の火山ガスの圧力変化や熱水の流動によって生じる長周期の振動を監視することにより、水蒸気噴火の先行現象や噴火に伴う振動を可能な限り早く捉えることを目的としています。

広帯域地震計

写真。広帯域地震計

長周期の振動も捉える地震計です。

ウ.火山情報の提供に関する検討会のまとめと今後の取り組み

今回の御嶽山噴火災害では、火山活動の変化に関する情報提供についても、わかりやすさや伝達方法について、課題が指摘されました。

そのため、火山噴火予知連絡会では「火山情報の提供に関する検討会」(委員:学識経験者、自治体、登山・観光関係者及び報道機関)を開催し、「わかりやすい火山情報の提供」、「火山活動に変化があった場合の情報伝達の方法」について検討を行いました。検討会は平成26年10月から平成27年3月までに6回開催され、火山情報の提供に関する緊急提言を平成26年11月29日に、また、最終報告を平成27年3月26日に取りまとめました。

検討会では、「わかりやすい情報であったか」、「どのようにその情報を伝えたのか」、「火山防災に携わる地元関係機関と連携して具体的な防止対応を十分実施できたか」の3つの観点から検討を進め、最終報告を取りまとめました。

最終報告の主な点は以下のとおりです。

火山情報の提供に関する検討会

写真。火山情報の提供に関する検討会

第2回火山情報の提供に関する検討会の様子

①わかりやすい情報提供

  • 噴火警報を発表する基準の公表
  • 火山活動に変化があった場合、気象庁は、火山活動の状況とともに気象庁の対応状況等を記載し、臨時であることを明記したわかりやすい「火山の状況に関する解説情報」を発表
  • 臨時の機動観測の適切な実施
  • 噴火警戒レベル1におけるキーワード「平常」の表現を、「活火山であることに留意」との表現に変更
  • 気象庁ホームページの充実
  • 火山噴火の事実を迅速に伝える「噴火速報」の発表
  • 観測データの急激な変化が噴火発生や噴火初期の変動を捉えたものであるかどうかを短時間で判別するためのデータ処理手法の改善など

②情報伝達手段の強化

  • 地元自治体等の関係機関と連携し、登山者等に確実に最新の火山情報が伝わるよう、平素からの火山関係者との情報共有
  • 携帯端末の活用を意識した情報内容とするとともに、具体的な伝達方法について関係する事業者との調整

③気象庁と関係機関の連携強化

  • 火山防災協議会における定期的な火山活動状況の情報共有
  • 火山に登山するにあたっての知識や留意事項についての周知啓発活動
  • 火山活動の推移、及びその推移に応じた気象庁の対応について、火山防災協議会を通じた関係機関との共有
  • 気象庁の対応に応じた地元関係機関の防災対応の流れについて検討し、「火山防災対応手順」として関係者間で整理・共有
  • 火山防災対応手順を参考にした防災対応を関係機関が連携して実施

気象庁では、これらの最終報告を踏まえ、火山情報の提供についての強化のため具体化する取り組みを進めて参ります。

コラム 御嶽山噴火時の国や関係機関の対応と今後の火山防災対策の推進に向けた取り組み(内閣府(防災担当))

平成26年(2014年)9月27日の御嶽山の噴火を受け、長野・岐阜両県や関係市町村が対策本部等を設置したほか、国においても先遣チームや政府調査団を派遣するとともに、災害対策基本法に基づき政府に「平成26年(2014年)御嶽山噴火非常災害対策本部」を設置し、その一環として、長野県庁に「平成26年(2014年)御嶽山噴火非常災害現地対策本部」を設置して、情報の共有と災害対策にあたりました。現地対策本部では、政府と自治体間の情報共有・調整が行われるとともに、政府の非常災害対策本部や火山専門家との連携、救助部隊の活動支援、降雨や火山ガスに対する活動基準の策定、居住地域への二次災害(降灰後の土石流等)防止のための対応等が行われました。

また、10月28日の非常災害対策本部では、「火山噴火に関して緊急的に行う被害防止対策」が決定されました。これを受けて、関係府省庁は関係機関と連携しながら、情報伝達手段や避難施設の整備状況に関する緊急調査、常時観測火山(47火山)全てにおける火山防災協議会の設置、登山者や旅行者に対する適切な情報提供と安全対策、火山観測体制の強化等、緊急的な対策を進めています。火山防災協議会については、平成27年3月に47火山全てに設置されました。

長野県庁に設置された非常災害現地対策本部

写真。長野県庁に設置された非常災害現地対策本部

火山防災対策推進ワーキンググループ

写真。火山防災対策推進ワーキンググループ

さらに、今回の御嶽山の噴火で明らかとなった教訓を今後の火山防災対策の更なる推進につなげるため、中央防災会議※の下に「火山防災対策推進ワーキンググループ」が設置されました。ワーキンググループでは、火山噴火予知連絡会などの関係検討会での議論も踏まえつつ、有識者や関係省庁による議論を経て、平成27年3月に「御嶽山噴火を踏まえた今後の火山防災対策の推進について(報告)」がとりまとめられました。この報告には、火山防災対策を推進するためのしくみ、火山監視・観測体制、火山防災情報の伝達の他、登山者等の安全確保のための退避壕等の整備などを組み合わせた火山噴火からの適切な避難方策、火山防災教育や火山に関する知識の普及、火山研究体制強化と火山専門家の育成についての提言がまとめられています。今後、これに基づき関係府省庁や地方公共団体、火山地域の関係者等が連携して火山防災対策を一層推進していく必要があります。(内閣府(防災担当))

【参考】「火山防災対策推進ワーキンググループ」に関するホームページ(内閣府ホームページ)
http://www.bousai.go.jp/kazan/suishinworking/index.html

※中央防災会議:災害対策基本法に基づいて内閣府に設置された防災に関する重要政策を決定する国の会議。防災基本計画の作成・実施推進、防災に関する重要事項の審議などを行う。内閣総理大臣、防災担当大臣をはじめとする全閣僚、指定公共機関の代表者、学識経験者により構成される。

コラム 連携した火山防災の対応 ―火山防災協議会について―

(1)火山災害の軽減のために

内閣府は、火山噴火時等における効果的な避難体制など、火山防災対策の充実を図るため、平成20年(2008年)3月、「噴火時等の避難に係る火山防災体制の指針」をとりまとめました。この中で、市町村長は気象庁が発表する噴火警報(噴火警戒レベル)に応じた入山規制や避難勧告等の防災対応を行うこと、地元の関係機関で構成される火山防災協議会で、平常時から関係機関との共同検討を推進することなどが示されました。その後、国が策定する防災基本計画(中央防災会議が作成する政府の防災対策に関する基本的な計画)でも、火山防災協議会の設置等の体制の整備や平常時からの共同検討が定められました。

これを受けて、気象庁をはじめとする国の火山関係府省庁は、各火山周辺の地方公共団体等の防災関係機関に働きかけて火山防災協議会の設置や運営を推進し、火山災害から登山者や住民の生命を守るための取り組み(噴火シナリオ、火山ハザードマップ、噴火警戒レベル、避難計画、防災マップ、防災訓練等の作成や実施)を共同で進めています。

(2)火山防災協議会の役割

火山防災協議会は、都道府県、市町村、気象台、砂防部局及び火山専門家等の地元関係機関で構成されます。役割は、平常時には噴火警戒レベルに対応した「避難計画」(誰が・いつ・どこからどこへ・どのように避難するか等)の共同検討を進め、緊急時には避難対象地域の拡大等の助言を市町村長に対して行うことです。また、避難訓練の実施や避難計画の住民への周知も火山防災協議会で行われます。

火山防災協議会でのこうした共同検討は、地域の関係者の間で「顔の見える関係」(相手が決めることについてもお互いに意見を言い合える信頼関係)と「防災対応のイメージ共有」(噴火警戒レベルに応じた具体的な防災対応についての認識の共有)を確立することにつながり、噴火時等に関係機関が連携して避難計画に基づく防災対応を行うために不可欠となっています。

防災基本計画に基づく火山防災協議会の体制

図。防災基本計画に基づく火山防災協議会の体制

火山防災協議会での共同検討

図。火山防災協議会での共同検討

(3)火山防災協議会の設置や開催の推進の取り組み

火山防災対策の構築に向けた取り組みの更なる推進のため、内閣府をはじめとする関係機関は検討を重ねてきました。内閣府は、平成24年度に「噴火時等の具体的で実践的な避難計画策定の手引」、「火山防災マップ作成指針」を取りまとめ、平成25年度には「大規模火山災害対策への提言」を取りまとめるとともに、地方公共団体等に向けて「火山防災ポータルサイト」の運用を開始し、火山地域の地方公共団体の防災担当者が、火山防災に関する情報を収集、共有し、火山防災に関する知見を深めることができるようにしました。

このほか、火山防災の推進のため、全国の火山周辺の地方公共団体等の防災関係機関が集結する「火山防災協議会等連絡・連携会議」が平成24年12月に発足しました(内閣府、気象庁、国交省及び消防庁の共同事務局)。発足以降、毎年開催しており、平成26年11月には気象庁で開催しました(93機関156名が参加)。同会議は、個別の火山を越えた意見交換を通じて全国各地域の火山防災対策の取り組みや課題等を共有することにより、火山防災協議会の設置の促進や運営の活性化が期待されます。

第3回火山防災協議会等連絡・連携会議(平成26年11月20日)

写真。第3回火山防災協議会等連絡・連携会議(平成26年11月20日)

(2)火山噴火に伴う被害軽減に資する降灰予報の高度化

火山噴火により噴出した火山灰は、上空の強い風により遠くまで運ばれて地上に降り積もります(降灰)。降灰は広い地域に、建物倒壊、交通障害、ライフラインや農林・水産業への被害、呼吸器系疾患などの大きな被害を及ぼすことがあります。気象庁は、降灰による被害を防止・軽減するため、噴煙の高さと上空の風から、今後の降灰の状況を予測する降灰予報を発表しています。

ア.降灰予報とその改善

これまでの降灰予報は降灰予想範囲を提供するもので、技術的な問題から降灰量の情報は含まれていませんでした。一方で、交通やライフライン、農作物、人体等に対する被害の程度は、降灰量ごとに異なり、とるべき対策も異なります。このことから、降灰の範囲だけでなく降灰量を予報することが防災上、重要な情報になります。

近年、降灰量の予測に向けた技術的な進展が図られつつあることから、気象庁は、降灰予報を防災情報としてより適切な内容とするため、降灰を経験している方々に対する降灰予報についてのニーズ調査や、噴火活動の活発な桜島をモデルケースとした新しい降灰予報の試験的な提供を進めてきました。また、平成24年度に有識者と関係機関から構成される「降灰予報の高度化に向けた検討会」を開催し、検討結果を「降灰予報の高度化に向けた提言」として取りまとめました。気象庁はこの提言を踏まえて、情報発表に必要なシステム整備を行い、平成27年(2015年)3月より「降灰量」や「風に流されて降る小さな噴石の落下範囲」の予測を含めた新しい降灰予報の運用を順次開始しました。

イ.新しい降灰予報

新しい降灰予報の特徴は以下のようなものです。

  1. 噴火の前と後や時間経過に応じて求められる情報が異なることから、
    • 噴火のおそれがある火山周辺の住民が計画的な対応行動をとれるようにするための「降灰予報(定時)」
    • 火山近傍の住民が噴火後すぐに降り始める降灰や小さな噴石に対する対応行動をとれるようにするための「降灰予報(速報)」
    • 火山から離れた地域の住民も含め降灰量に応じた適切な対応行動をとれるようにするための「降灰予報(詳細)」
    の3種類の情報を発表します。
  2. 「降灰予報(定時)」は、噴火警報を発表中で、想定される噴火により住民等に影響を及ぼす降灰が発生するおそれがある火山を対象として発表します。「降灰予報(速報)」及び「降灰予報(詳細)」は、予想される最大降灰量が基準値を超えた場合に発表します。「降灰予報(定時)」及び「降灰予報(速報)」については、風に流されて降る小さな噴石の落下範囲の予測も行います。
  3. 新しい降灰予報では、降灰量の状況や影響、必要な対応行動をわかりやすく利用者へ伝えるために、降灰量を降灰の厚さによって「多量」「やや多量」「少量」の3階級で表現します。
  4. 新しい降灰予報は、利用者の防災対応をよりきめ細かく支援することを目的として、従来の都道府県ごとの予報から市町村ごとの予報に変更して提供します。

降灰予報は、気象庁ホームページで提供するほか、テレビやラジオを通じて伝えられます。降灰が予想される場合に外出や車の運転を控えるよう心がけていただきたいと考えています。もし外出する際は傘やマスクを用いて火山灰をなるべく吸わない対策をとっていただくことが大切です。

降灰予報発表の流れ

図。降灰予報発表の流れ

降灰予報で用いる降灰量階級表

図。降灰予報で用いる降灰量階級表
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