線状降水帯予測精度向上に向けた技術開発・研究の取組について

報道発表日

令和6年12月25日

概要

 気象庁は、線状降水帯の予測精度向上に向けた技術開発・研究の取組を進めています(令和6年6月13日報道発表 )。
 本日開催した「線状降水帯予測精度向上ワーキンググループ」において、観測・予測の強化に係る取組や線状降水帯の機構解明研究の成果について議論するとともに、今年度の線状降水帯が発生した気象場の特性や予測精度の検証結果について報告し、今後の改善方策等について学官連携の観点も含め意見交換を行いました。

本文

 気象庁は、令和2年12月に「線状降水帯予測精度向上ワーキンググループ」を設置し、本ワーキンググループでの検討等に基づき、線状降水帯の予測精度向上に向けて、大学や研究機関と連携した機構解明研究、数値予報技術開発を推進しています。今年度のこれまでに得られた主な成果と今後の取組等について、本日、本ワーキンググループの第9回会合を開催し、以下のとおり報告・議論を行いました。

●観測・予測の強化
 線状降水帯予測に必要となる水蒸気等の観測を強化するため、アメダスへの湿度観測の追加や二重偏波レーダーへの更新強化、令和6年3月に更新された海洋気象観測船「凌風丸」による水蒸気等の機動観測を実施するとともに、観測能力を強化した次期静止気象衛星「ひまわり」(令和11年度運用開始予定)の整備を進めました。
 また、水平解像度2kmの数値予報モデル(局地モデル)について、令和7年度末に予定している高解像度化(水平解像度2kmから1km)及び局地アンサンブル予報システムの運用開始に向け、スーパーコンピュータ「富岳」を活用したリアルタイムシミュレーション実験を実施するとともに、数値予報の予測精度向上や予測計算の高速化に関する開発を進めました。
 今後は、次期静止気象衛星の整備等を引き続き進めるとともに、数値予報モデルの高解像度化等に関する開発を更に進めます。

●令和6年の気象場の特性及び線状降水帯予測の検証
 これまでの調査によると、令和6年出水期に線状降水帯が発生した時の気象場と数値予報モデルの精度の特徴は、以下のとおりでした。

  • 令和6年は令和3~5年と比較して、台風接近時を除くと大気不安定による規模の小さい現象が多く、予測可能性の低い(決定論的予測で現象を捕捉することが困難な)気象場であり、数値予報モデルでの予測が難しい事例が多かった。
  • 総観スケールの前線本体や台風に伴う線状降水帯事例について、数値予報モデルでの予測が難しい事例が散見された。

 これらの特徴により、令和6年5月から運用を開始した、府県単位での線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけの実績においては、運用開始前の想定に比べて、適中率(呼びかけ「あり」のうち発生「あり」の割合)は15ポイント低く、捕捉率(発生「あり」のうち呼びかけ「あり」の割合)は12ポイント低い結果となりましたが、呼びかけ「あり」のうち3時間降水量が100mm以上の大雨となった割合は4割を超えていました。
 気象庁では、夜間に線状降水帯による大雨の可能性が予想された場合などに、明るいうちから早めの避難につなげられるよう、引き続き、数値予報モデルの改良等による予測技術の向上等に努めてまいります。

●線状降水帯の機構解明研究
 気象庁では、大学や研究機関と協力して、水蒸気をはじめとする線状降水帯の発生環境や線状降水帯を構成する積乱雲群等の内部構造に着目した集中観測を実施するとともに、高解像度の数値モデルや高頻度・高密度データを用いて、線状降水帯の発生要因や維持等のメカニズムに着目した事例解析を実施しました。主な成果は以下の通りです。

  • 梅雨前線等に伴う降水システムを対象に、「降水粒子撮像ゾンデ」を用いた観測を山口大学により実施し、雲内部の降水粒子の形状や大きさに関する貴重な画像データを取得しました。本取組で得られた降水粒子画像は、降水システムの内部構造の把握や、二重偏波レーダーによる降水粒子判別手法の高精度化に向けた資料として活用されています。
  • 東シナ海における海面からの熱・水蒸気供給に関する観測を鹿児島大学により実施し、得られた観測データの品質管理手法を確立しました。今後、線状降水帯の発生環境場となる海上の熱・水蒸気供給量の把握及び数値予報の検証を進めます。
  • 線状降水帯に関して集約された知見を、線状降水帯の発生形態の分類や発生環境場、内部構造に着目して整理し、体系的な理解を進めました。本取組は大学や研究機関と連携して進められ、研究成果は日本気象学会等で公表されています。今年度の事例についても整理を行った上で、今後、線状降水帯予測の精度向上に役立てていきます。

 本研究で得られた成果を大学や研究機関と共有して線状降水帯のメカニズム解明等に資する知見の集約を図るなど、今後も引き続き機構解明に向けた取組を推進します。
 これらの技術開発や研究の概要については、別紙を参照ください。

問合せ先

全般に関すること
総務部 企画課 國井
 電話 03-6758-3900(内線2232)

数値予報技術の開発に関すること
情報基盤部 数値予報課 北村
 電話 03-6758-3900(内線 3335)

機構解明研究に関すること
気象研究所 企画室 藤村
 電話 029-853-8536(内線203)

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