予報が難しい現象について (線状降水帯による大雨)
正確な予想が困難な気象現象で、社会的影響のあった事例等について、予想の難しさなど、予想技術の現状に関する解説を掲載しています。
線状降水帯による大雨について
【線状降水帯に関わる解説】
- 線状降水帯とは何か
- 線状降水帯の予想はなぜ難しいのか
- 平成29年(2017年)7月の線状降水帯による九州北部地方の大雨の予報が難しかった事例
- 参考 線状降水帯が発生した顕著な大雨事例(「災害をもたらした気象事例」へのリンク)
線状降水帯とは何か
次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなし数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、長さ50~300km程度、幅20~50km程度の線状に伸びる強い降水域を線状降水帯といいます。線状降水帯による顕著な大雨によって、毎年のように数多くの甚大な災害が生じています。発生メカニズムには未解明な点が多く、今後も継続的な研究が必要不可欠です。

なお、「線状降水帯」という用語は専門家の間でも様々な定義が使われています。
気象庁では、線状降水帯の発生をお知らせする「発生情報」、および発生する可能性を事前にお知らせする「直前予測」、「半日前予測」の情報を発表しています。これら情報のうち、発生情報、直前予測は「気象防災速報」、半日前予測は「気象解説情報」としてそれぞれ発表します。 線状降水帯に関する情報が発表された場合は、そのときの状況に応じて適切な防災行動をとることが重要です。
線状降水帯の予想はなぜ難しいのか
線状降水帯の予想が難しい理由として以下の三つが考えられています。
(1)線状降水帯の発生メカニズムに未解明な点がある
これまでの研究により、線状降水帯の発生形態は極めて多様であることが明らかになってきました。その詳細な発生メカニズムについては、いまだ十分に理解されていませんが、代表的なものについては、概ね以下のように考えられています。
- ①大気下層を中心に大量の暖かく湿った空気の流入が持続する
- ②その空気が局地的な前線や地形などの影響により持ち上げられて雨雲が発生する
- ③不安定かつ湿潤な大気状態の中で雨雲が積乱雲にまで発達し、複数の積乱雲からなる積乱雲群ができる
- ④上空の風の影響で積乱雲や積乱雲群が繰り返し発生し、線状に並ぶことで線状降水帯が形成される

このように、線状降水帯の発生には、水蒸気の量や大気の安定度、各高度の風など、複数の要素が複雑に関係しています。しかし、その詳細については未解明な点も多く、線状降水帯を正確に予想することが難しいのが現状です。
(2)線状降水帯周辺の大気の3次元分布が正確にはわかっていない
線状降水帯の発生を予想するためには、線状降水帯に流れ込む水蒸気の量や大気の安定度、各高度の風など、線状降水帯周辺の大気の3次元分布の正確な把握が必要です。大雨のもととなる水蒸気は海上から補給される場合が多いため、特に海上の水蒸気分布の把握が重要です。また周辺の大気の状況については、アメダスや気象台による地上の観測、ゾンデによる高層気象観測などから得ることができますが、海上では陸上に比べて観測データが十分ではありません。このことが線状降水帯の予想を難しくしている一因となっています。
(3)予想のための数値予報モデルに課題がある
現在、気象庁で警報、注意報、天気予報の発表など予報作業で利用している数値予報モデルは、最も高解像度なもので水平解像度は1kmであり、積乱雲の発生・発達をある程度表現できるようになっています。しかし、個々の積乱雲の発生・発達を十分な精度で予想することは依然として困難です。線状降水帯を高い精度で予想するためには、解像度の向上に加え、さらに数値予報モデルに組み込まれている積乱雲を発生、発達させる仕組みも改善する必要があります。
以上の点から、現在の観測、予想技術では、いつどこで線状降水帯が発生し、どのくらいの期間継続するのかを、事前に正確に予想することは困難です。
平成29年(2017年)7月の線状降水帯による九州北部地方の大雨の予報が難しかった事例
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(概要)平成29年(2017年)7月5日から6日にかけての九州北部地方を中心とした大雨が予想できなかった主な要因は次のとおりです。
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7月5日は朝鮮半島南部から中国地方にのびていた梅雨前線がゆっくり南下し、6日昼過ぎにかけて九州北部付近に停滞しました。5日から6日は福岡県から大分県にかけて、線状降水帯が形成されて猛烈な雨が降り続き、福岡県、大分県では大雨特別警報を発表しました。朝倉(福岡県)では、これまでの極値を更新する1時間129.5ミリの猛烈な雨を観測し、福岡県、大分県、佐賀県では3県合計で18回の記録的短時間大雨情報を発表しました。5日から6日までの総降水量は多いところで500ミリを超え、7月の月降水量平年値を超える大雨となったところがありました。また、福岡県朝倉市や大分県日田市等で24時間降水量の値が観測史上1位の値を更新するなど、これまでの観測記録を更新する大雨となりました。


気象庁(気象台)では、災害に結びつくような顕著な現象の発現が予想される場合などに、円滑な防災活動を支援するため、気象情報を発表して現象の経過や予想、警戒すべき事項等を解説します。大雨となった前日の4日時点で、九州北部地方には大雨に警戒を呼びかける気象情報は発表していませんでした。大雨直前の5日昼前に発表した気象情報では、予想降水量は1時間に40ミリ、6日12時までの24時間に100ミリ程度で、5日から6日の記録的な大雨を予想することはできませんでした。
防災気象情報等を作成するための予報作業に利用した数値予報モデル(水平解像度5kmのメソモデル(MSM))では、線状降水帯の予想はもとより、大雨となる予想はありませんでした。また、大雨直前に利用可能なより精細な数値予報モデル(水平解像度2kmの局地モデル(LFM))では、九州北部地方に帯状の降水域を予想していましたが、実際に線状降水帯が形成された場所とは位置がずれており、降水量も少なく不十分でした。
このように、線状降水帯による大雨の予想は、場所、時間を正確に予報することは困難と言えます。

事後の調査により、この大雨の要因は以下のように考えられています。
- 対馬海峡付近に停滞した梅雨前線に向かって大気下層に大量の暖かく湿った空気が流入するとともに、上空に平年よりも気温が低い寒気が流入したため、大気の状態が非常に不安定となっていた。
- このような大気状態が持続する中、地表の温度傾度帯(冷たい空気と暖かく湿った空気の境界)付近で積乱雲が次々と発生した。
- 上空の寒気の影響でそれらが猛烈に発達し、東へ移動することで線状降水帯が形成・維持され、同じ場所に猛烈な雨を継続して降らせた。線状降水帯のこのような形成過程を「バックビルディング型形成」と呼ぶ。

この例からもわかるように、線状降水帯による大雨を正確に予想するには、海上から流れ込む大量の水蒸気や風の流れを正確に把握することが重要です。また、線状降水帯の発生、強化、維持のメカニズムを解明して数値予報モデルで再現できることが必要です。この事例では、前日段階では、数値予報モデルでも線状降水帯の発生を示唆する予想はありませんでしたが、局地的に積乱雲が急激に発達し始め線状降水帯が形成されました。このように現在の観測・予想技術では、線状降水帯による大雨を予想することが非常に難しいと言えます。
参考 線状降水帯が発生した顕著な大雨事例(「災害をもたらした気象事例」へのリンク)
- 平成26年(2014年)8月豪雨(広島)
- 平成27年(2015年)9月関東・東北豪雨
- 平成29年(2017年)7月九州北部豪雨
- 平成30年(2018年)7月豪雨(西日本豪雨)
- 令和2年(2020年)7月豪雨
- 令和3年(2021年)7月1日から3日の東海地方・関東地方南部を中心とした大雨
- 令和3年(2021年)前線による大雨
- 令和4年(2022年)台風第14号による大雨
- 令和4年(2022年)台風第15号による大雨
- 令和5年(2023年)梅雨前線及び台風第2号による大雨
- 令和5年(2023年)梅雨前線による大雨
- 令和6年(2024年)台風第10号による大雨、暴風及び突風
- 令和7年(2025年)低気圧と前線による大雨




