風力発電施設が気象観測レーダーに及ぼす影響
我が国では、気候変動対策やエネルギー需給構造の変化を背景に、再生可能エネルギーの導入が積極的に推進されています。このうち風力発電施設については、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な方針(令和元年5月に閣議決定)」に基づき、従来に比べてはるかに巨大な発電用風車を多数設置する計画が国内各地で進められるなど、今後導入の加速化が予想されています。
この風車が気象レーダーの近傍に設置された場合、風車の規模、設置高度、気象レーダーまでの距離等に応じて、気象レーダーの電波を遮蔽したり、偽のエコー(降水以外からのエコー、「非降水エコー」という) を発生させたり、時には気象レーダーの受信機を破損させるなど、観測に大きな影響を及ぼす可能性があります。気象レーダーの観測データは警報の危険度分布の作成において最も重要なデータの一つとなっているため、防災気象情報の発表に支障をきたしかねません。そして、正当な理由なく、気象庁が設置している気象レーダーの効用を害する行為は、気象業務法第三十七条の規定により禁止されています。
このホームページでは、気象レーダーと風力発電施設が共存することを目的に、風車立地計画の検討において事前に考慮すべき事項を取りまとめました。気象レーダーの近傍に発電用風車の立地を計画される際は、以下の「風車立地計画において考慮すべきこと」を活用いただくとともに、お早めに連絡先にご相談をお願いします。
風車立地計画において考慮すべきこと
風車が気象レーダーに及ぼす影響
気象レーダーの送信波が風車にあたると、以下の影響が生じるおそれがあります。
- 送信波が遮蔽される
- 多重散乱により偽のエコーが発生
- 強い反射波をレーダーが受信
風車が気象レーダー観測に及ぼす影響は、主に両者間の距離に依存します。そこで世界気象機関(WMO)は、両者間の距離に応じた影響の大きさと風車の立地に対する指針を示しています(次表参照)。気象レーダーから距離5km圏内には、風車を立てるべきではないとされており、また5km以遠においても、距離が近いほど、また風車が大型であるほど気象レーダーの観測への影響が表れやすいため、距離に応じて影響の度合いの分析と協議を行うことや、風車の建設をレーダー側に通知することが推奨されています。
レーダーから 風車までの距離 |
風車が気象レーダー観測に与え得る影響 | 風車設置に対する指針 |
---|---|---|
0–5 km | 風車は、レーダー観測を完全又は部分的に遮り、回復できない著しいデータ欠落を引き起こしうる。 |
強く影響を受ける領域: この領域には風車を立てるべきではない。 |
5–20 km | 多重散乱又はマルチパス散乱によって複数の仰角に偽エコーを作りうる。動くブレードによってドップラー速度観測に障害を来す可能性がある。 |
中程度の影響を受ける領域: 地形によって影響の度合いが変わりうる。影響の度合いの分析と協議を行うことが推奨される。個々の風車の位置や配置を変えることで影響を軽減できる可能性がある。 |
20–45 km | 通常、最低仰角で風車が観測される。反射強度データにおいて地形クラッタのようなエコーが観測される。動くブレードによってドップラー速度観測に障害を来す可能性がある。 |
影響が低い領域: 風車の建設をレーダー側に通知することが推奨される。 |
> 45 km | 通常はレーダーに観測されないが、電波の伝搬の状況によっては映りうる。 |
一時的に影響を受ける領域: 風車の建設をレーダー側に通知することが推奨される。 |
気象レーダーへの影響評価
風車立地計画についてご相談いただいた際には、その設置予定位置・諸元に対して、以下のa~cの評価を行います。評価の結果、気象レーダーに影響がある場合には、風車の設置予定位置等の変更が必要となります。
- a. 気象レーダーと風車の距離
- 風車が気象レーダーの近くに設置される場合、強い反射波によりレーダーの受信機が故障してしまうおそれがあります。このため、風車の位置がレーダーの5km圏内かどうか評価します。なお、気象レーダーと風車に高低差があり、レーダーの電波が風車に全く当たらない場合には、5km圏内でも影響がないと評価する場合もあります。
- b. 送信波の伝搬経路に対する風車の干渉の有無
- 気象レーダーの発射した電波が、風車に強く反射されると、偽の強い降水域として観測されることがあります。このため、気象レーダーの送信波(降水観測用の最大仰角)のメインローブが、風車と干渉しないかを評価します。
- c. 風車により送信波が遮蔽される影響
- 気象レーダーの発射した電波が、風車によって遮られると、遠方の観測ができなくなります。このため、気象レーダーの送信波が風車に遮蔽される割合(遮蔽率)を評価します。気象レーダーの観測精度はWMOで定められており、それを満たすためには遮蔽率が10%以下となる必要があります。
根拠となる法律
(気象測器等の保全)
第三十七条 何人も、正当な理由がないのに、気象庁若しくは第六条第一項若しくは第二項の規定により技術上の基準に従つてしなければならない気象の観測を行う者が屋外に設置する気象測器又は気象、地象(地震にあつては、地震動に限る。)、津波、高潮、波浪若しくは洪水についての警報の標識を壊し、移し、その他これらの気象測器又は標識の効用を害する行為をしてはならない。
- 気象業務法全文は、気象業務法条文(e-Govのサイトに移動)をご覧ください。
気象レーダーから離れた風車の影響と対策
気象レーダーから45km以遠にある風車でも、大気の状態によっては電波が風車に当たり非降水エコーとして観測されることがあります。気象庁では、この非降水エコーを除去する対策を行いますので、新たに風車を設置する際は、レーダーより45km以遠であっても、連絡先に情報提供をお願いいたします。
遠方の風車の影響
気象レーダーの発する電波は通常なら直進しますが、大気の状態によって、稀に地上方向に曲げられることがあります。この現象を「異常伝搬」といいます。似た現象として、地平線に隠れて見えないはずの風景が浮き上がって見える蜃気楼があります。
気象レーダーの発する電波は通常なら直進するため、地表面が湾曲していることから、レーダーから遠方の風車ほど電波が当たりにくくなりますが、電波の異常伝搬が発生した際は、気象レーダーから45km以遠にある風車であっても、電波が回転する風車のブレードにあたり反射され、非降水エコーとして観測されることがあります。
非降水エコーは、気象レーダーから発射された電波が、地表面や地表の構造物などに当たって反射されることで発生します。気象庁では、この非降水エコーの混入を防ぐため、反射物が動いているか止まっているかを識別し、止まっているものを除去しています。しかしながら風車のブレードは回転するため動いているものと識別され、誤って降水エコーと判別されてしまいます。
下図は、気象庁の新潟レーダーが、250km離れた秋田県において、異常伝搬が原因で風車とみられる非降水エコーを一時的に観測した事例です。
風車による非降水エコーへの対策
気象庁のレーダーでは、風車の設置場所など非降水エコーの生じやすい箇所に、予め非降水エコーを除去するフィルタをかけています。ただし、本物の降水を捉えられなくなることを防ぐために、フィルタの設定は過去のデータを確認しながら慎重に行います。
新たに風車が設置される際も、フィルタも新たに設定する必要があります。このため、新しい風車の設置場所が気象レーダーから45km以遠であっても、連絡先への情報提供をお願いしています。
参考となる資料
関連リンク
風車が気象レーダー等に及ぼす影響
- 世界気象機関(WMO)が作成した風車が気象レーダーに及ぼす影響と共存のためのガイドライン(ANNEX 7.C)(外部リンク、英語)
- 米国海洋大気庁(NOAA)による風車が気象レーダーに及ぼす影響の解説(外部リンク、英語)
- 米国におけるレーダーと発電用風車の共存に関する取り組み(pdf形式)(外部リンク、英語)
- 風力発電施設の建設に関するお問い合わせ(外部リンク、内閣府)
- 風力発電設備が自衛隊・在日米軍の運用に及ぼす影響及び風力発電関係者の皆様へのお願い(外部リンク、防衛省)
政府基本方針・ガイドブック
- 海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な方針(外部リンク、内閣府)
- 事業計画策定ガイドライン(風力発電)(外部リンク、資源エネルギー庁)〔PDF約2.3MB〕
- 再生可能エネルギー事業支援ガイドブック(外部リンク、資源エネルギー庁)〔PDF約8.3MB〕
- 風力発電に係る地方公共団体によるゾーニングマニュアル(外部リンク、環境省)〔PDF約2.9MB〕
- 農山漁村再生可能エネルギー法Q&A(外部リンク、農林水産省)〔PDF約1.9MB〕
- 小規規風力発電事業のための環境アセスメントガイドブック(外部リンク、日本風力発電協会)〔PDF約5.6MB〕