流域雨量指数

流域雨量指数とは

 流域雨量指数とは、河川の上流域に降った雨により、どれだけ下流の対象地点の洪水危険度が高まるかを把握するための指標です。

 流域雨量指数は、全国の約20,000河川を対象に、河川流域を1km四方の格子(メッシュ)に分けて、降った雨水が、地表面や地中を通って時間をかけて河川に流れ出し、さらに河川に沿って流れ下る量を、タンクモデルや運動方程式を用いて数値化したものです。流域雨量指数は、各地の気象台が発表する洪水警報・注意報の判断基準に用いています。

 流域雨量指数そのものは相対的な洪水危険度を示した指標ですが、流域雨量指数を洪水警報等の基準値と比較することで洪水災害発生の危険度(重大な洪水災害が発生するおそれがあるかどうかなど)を判断することができます。この洪水警報等の基準値は、過去の洪水災害発生時の流域雨量指数値を調査した上で設定しているため、指数計算では考慮されていない要素(堤防等のインフラの整備状況の違いなど)も基準値には一定程度反映されています。洪水災害発生の危険度を判定した結果は「洪水警報の危険度分布」で確認できます。

(関連する情報)

流域雨量指数の計算

  • 流域雨量指数の計算は、全国の約20,000河川を対象としています。地表面を1km四方に分けて、まず、各河川の上流における降雨が河川に流出する量をタンクモデルを用いて計算します(流出過程)。次に河川に流出した雨水が河川を流下する量を運動方程式等を用いて計算します(流下過程)。こうして計算される流下量の平方根をとった値が流域雨量指数です。なお、計算に必要となる地理的な資料には、国土数値情報の河川流路、地質、傾斜、土地利用などを使用しています。

流域雨量指数

 この流域雨量指数の計算手法について次のとおり解説します。

 雨が降ると、雨水は地中に染み込んだり、地表面を流れたりして、川に流れ込みます。流域雨量指数の流出過程の計算には、下図に示すように、降った雨が河川に流出する様子を孔の開いたタンクを用いてモデル化した「タンクモデル」を使用します。タンクモデルは、複数に連ねたタンクによって、雨水の地中への浸透や河川への流出の様子を模式化したものです。

 降った雨は、通常は、地中に染み込んで地下水となったり、地表面を流れたりして河川に流れ込みますが、都市域では、地面がコンクリートで覆われているため、ほとんどが地表面を流れます。このように、浸透や流出は「地表面の被覆状態(自然の土の状態か、アスファルトに覆われているか)」や「雨水の浸み込みやすさに関わる地質」に大きく左右されることから、都市用と非都市用の性質が異なるタンクモデルを土地利用に応じて使い分けています。このため、都市域では、表面流出が主体の5段タンクモデルを用い、非都市域では、直列3段タンクモデル(地質に応じた5種類の流出特性の異なるモデル)を用いています。両者は、1km四方の中の地面の状態(コンクリート舗装、水田、畑、山林など)の比率に応じた重みをかけて使い分けています。

 また、流出過程により河川に流入する雨水の量が算出されるので、次に流入した雨水の流れを計算します。具体的には、「運動方程式(勾配が大きく水深が深いほど流れが速くなることを表すマニングの平均流速公式)」と、「連続の式(水量の保存則)」を用いて、1km格子単位で流下する雨水の量の時間変化を求めます。また、河川が合流する格子ではそれぞれの流下量を足し合わせて合流後の流下量とします。

 こうして計算される流下量(立方メートル/秒)の平方根をとった値を、当該河川の対象地点での流域雨量指数としています。

流域雨量指数

流域雨量指数の計算式

 1つの1km格子内の河道を、流れに沿って6領域に分割して、下に示すような方程式を用いて流下過程の計算を行っています。

流域雨量指数

マニング式は、河川の勾配が大きく水深が深いほど流れが速いこと等を表す式です。
連続方程式は、河川を細かく区切った区間を出入りする水の量(上流から流れてくる水、下流へ流れる水、その地点の降雨によって増える水)の増減を表す式です。
タンクモデルによる流出量の算出方法については、参考文献「大雨警報における浸水雨量指数の適用可能性-タンクモデルを用いた内水浸水危険度指標」のP4~P6ををご参照ください。

水位上昇のおそれを判断するための流域雨量指数の予測値(平成28年台風第10号における岩泉町の事例)

 平成28年台風第10号による大雨により8月30日に発生した岩手県岩泉町小本川の洪水災害の事例における流域雨量指数の予測値を以下に示します。上段が小本川の赤鹿観測所の水位の変化、下段が同じ場所の流域雨量指数の変化を示しています。流域雨量指数は、6時間先(未来)までの予測値を破線で表示しています。

 水位と流域雨量指数の上昇するタイミングやピークの時間帯などグラフの形状が近似しており、両者の相関が良いことが分かります。また、まだ水位が上昇していない14時の時点で、5時間先(未来)の流域雨量指数の予測値が警報基準を大きく超過した基準(過去のデータから重大な災害となる可能性が高い基準)に到達しており、この時点で、このあと急激な水位上昇により危険度が高まり、重大な洪水災害が発生する可能性が高いことが予測されていることが分かります。そして、17時20分の時点で氾濫注意水位に到達したことで、流域雨量指数の予測値と合わせて「避難勧告等に関するガイドライン」(平成29年1月、内閣府)における避難勧告の判断基準を満たし、今すぐ避難を開始しなければ、洪水災害発生までに間に合わなくなるおそれがある状況となっています。この時点においても、流域雨量指数の予測値では、今後の急激な水位上昇により危険度が高まることを予測しています。実際、このあと急激に増水し、わずか50分後の18時10分には、計画高水位を越えた後、小本川の氾濫により高齢者福祉施設「楽ん楽ん」に大量の水が一気に流れ込んできたと報告されています(「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドラインに関する検討会」(内閣府))。

小本川の赤鹿観測所の水位と流域雨量指数の変化(平成28年台風第10号)平成28年8月30日の大雨の事例について事後検証したもの。水防団待機水位、氾濫注意水位、計画高水位は当時の値。

[参考文献]

流域雨量指数による洪水警報・注意報の改善,測候時報 75.2 2008

大雨警報における浸水雨量指数の適用可能性-タンクモデルを用いた内水浸水危険度指標-,Journal of Meteorogical Research Vol.65 気象庁研究時報 65巻 2015

Ishihara, Y. and S. Kobatake (1979): Runoff Model for Flood Forecasting, Bull.D.P.R.I., Kyoto Univ., Vol.29, 27-43