第2部 気象業務を高度化するための研究・技術開発
1章 大気・海洋に関する数値予報技術
1節 数値予報とは
数値予報とは、計算機(コンピュータ)を用いて地球大気や海洋・陸地の状態の変化を数値シミュレーションによって予測するものです。具体的には、最初に地球大気や海洋・陸地を細かい格子に分割し、世界中から送られてくる観測データに基づき、それぞれの格子に、ある時刻の気温、風などの気象要素や海面水温・地面温度などの値を割り当てます。次に、こうして求めた「今」の状態から、物理学や化学の法則に基づいてそれぞれの値の時間変化を計算することで「将来」の状態を予測します。この計算に用いるコンピュータプログラムを「数値予報モデル」と呼んでいます。
数値予報を日々の予報作業で利用するためには、複雑かつ膨大な計算を短時間に行う必要があることから、高速なコンピュータ(スーパーコンピュータ)を活用しています。気象庁は昭和34年(1959年)に我が国の官公庁として初めて科学計算用の大型コンピュータを導入し、数値予報業務を開始しました。その後、数値予報技術や気象学などの進歩とコンピュータの技術革新によって高精度できめ細かな予報が可能となり、今日では数値予報は気象業務の基盤となっています。
2節 数値予報モデルの現状
(1)全球モデル、メソモデル、局地モデル
気象庁では予測対象にあわせて複数の数値予報モデルを運用しています。「全球モデル」は、地球全体を対象領域として大気の状態を予測する数値予報モデルで、明後日までの府県天気予報、台風予報、週間天気予報や1か月予報、航空機や船舶向けなどの予報に利用しています。「メソモデル」及び「局地モデル」は、全球モデルより計算を行う格子を細かくし、日本周辺を対象として大雨や暴風などの災害をもたらす現象の予測を行う数値予報モデルで、警報・注意報など防災気象情報や、飛行場予報・悪天予想図など航空機の安全運航のための気象情報の作成などに利用しています。
(2)季節予報モデルと長期再解析
1か月を超える時間スケールの予報では、大気の変動と海洋の変動は互いの影響を強く受けます。このため、3か月予報、暖候期予報、寒候期予報やエルニーニョ現象を予測する「季節予報モデル」には、大気と海洋の変動を一体として予測する大気海洋結合モデルを使用しています。
また、異常気象の分析を含めた気候の監視や季節予報をより的確に行うためには、過去の気候もできるだけ正確に把握しておく必要があります。このため、過去数十年にわたって蓄積した観測データを、最新の数値予報技術により分析する「長期再解析」にて過去の気候データを作成し、気候の監視や季節予報に活用しています。長期再解析JRA-55では昭和33年(1958年)以降の気候データを作成し、平成26年(2014年)から利用しています。
(3)海に関する数値モデル
海洋の様々な現象を把握・予測するために、「波浪モデル」、「高潮モデル」、「海況モデル」、「海氷モデル」といった各種のモデルが使われています。「波浪モデル」は、海上の風の予測値を用いて、海上における波の発達・減衰やうねりの伝播などを予測し、高波時に発表される波浪警報・ 注意報や、毎日の波浪予報、船舶向けの波浪図などに利用しています。「高潮モデル」は、台風の接近時などに海面気圧の変化と海上の風の予測値から潮位の上昇量を予測し、高潮災害が危惧される場合に、高潮警報・注意報が発表されます。「海況モデル」は、黒潮や親潮等の日本周辺の海流や海水温の状態を予測し、 海面水温・海流1か月予報の発表、また水産業等でも使用されています。「海氷モデル」は、オホーツク海南部の1週間先までの海氷密接度の分布を予測して海氷予報や船舶向けの海氷予想図に利用し、海氷の範囲等を発表しています。
(4)物質輸送モデル
大気中の物質の変化や移動などを数式で表した物質輸送モデルを用いて地球環境や気候に影響する二酸化炭素、黄砂、紫外線などの監視と予測を行っています。「二酸化炭素輸送モデル」は、二酸化炭素の世界の大気中の分布状況を図示する情報の作成に利用されています。「黄砂解析予測モデル」は、大陸などでの黄砂の舞い上がり、風による移動、雨などによる地上への降下を考慮して、大気中の黄砂の量や分布を解析、予測し、黄砂情報の作成に利用しています。「化学輸送モデル」は、オゾンやその変化にかかわる物質の風による移動、地上への降下、化学物質や光による反応を通じた変化などを考慮して、上空や地上付近のオゾン濃度を予測し、紫外線情報やスモッグ気象情報の作成に利用しています。
3節 数値予報の技術向上と精度向上
防災気象情報の的確な提供や天気予報の精度向上のためには、その基盤となる数値予報技術の向上が不可欠です。数値予報は、1節で述べたコンピュータの性能向上を背景に、数値予報モデルの開発改良によってたゆまぬ進歩を遂げてきました。気象庁では、最新の科学技術を取り入れ、数値予報の更なる精度向上を図る取組を続けています。
その一つは、規模の小さい現象を予測するためにモデルの計算を行う格子の間隔を細かくすること(高解像度化)と、下図に示すような大気、海洋、陸地で発生する様々な過程をより正確に再現する改良です。高解像度化によって計算量が大きく増えるため計算に要する時間が長くなりますが、その一方で、防災気象情報や天気予報で計算結果を用いるためには、所定の時間内に計算を終了させる必要があります。このため、膨大な計算を高速化する方法や、様々な過程を精度良くかつ効率的に計算する方法の開発に取り組んでいます。さらには、これらの過程は互いに影響を及ぼし合っているため、それぞれの過程自体を精度良く扱うだけでなく、それらの相互作用についても考慮し、数値予報モデル全体として予測精度を向上させるための取組も行っています。
さらに、世界中から様々な観測データを集めて「今」の大気の状態を精度よく数値予報モデルに取り込むためのデータ同化技術の高度化も併せて行っています。特に、ひまわりをはじめとする気象観測衛星や地球観測衛星などの人工衛星、航空機、ウィンドプロファイラ、ドップラーレーダーなどから刻々と送られてくるデータをより有効に利用する手法の開発・改良に重点的に取り組んでいます。
4節 地球温暖化予測
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、5~7年おきに、気候変動に関する3つの作業部会(1:自然科学的根拠、2:影響・適応・脆弱性、3:緩和)で、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行い、その結果を評価報告書としてとりまとめています。これらの報告書は、国内外の地球温暖化対策に科学的根拠を与える重要な資料となっており、平成25~26年(2013~2014年)にIPCC第5次評価報告書が公表されました。現在の第6次評価サイクルでは、ホーセン・リー議長をはじめとする新体制の下、各作業部会の報告書のアウトラインや執筆者が決定し、令和3~4年(2021~2022年)の報告書公表に向けて活動中です。世界の研究機関ではこのIPCCの活動にとって必要な地球温暖化予測の情報を提供するために、最新の気候モデルによる予測実験を実施しています。
気象研究所では、大気モデルと海洋モデルを結合した気候モデルに、エーロゾル、オゾンや炭素の循環を表現するモデルを組み合わせた地球システムモデルを開発しています。令和2年度(2020年度)は、IPCC第6次評価報告書に向けて改良したモデルを用いた過去から現在に至る歴史再現実験や21世紀末までの将来予測実験を終え、その結果を公開しました。現在、世界中の研究者が、気象研究所をはじめとした研究機関から提供された予測実験結果の解析を進めています。
また、アジアをはじめとした地域的な気候表現を更に高精度化したモデル実験をもとに、台風の発生頻度や降水現象の将来変化などの研究を進めて、アジア各国の研究者による地球温暖化研究に貢献します。さらに、日本域の詳細な地球温暖化予測を可能とする高解像度の地域気候モデルを開発し、温暖化に伴う地域気候の将来変化を予測することにより、我が国の政府機関や地方公共団体等による温暖化への適応策の策定や立案に貢献していきます。
2章 新しい観測・予測技術
1節 船舶搭載GNSSによる水蒸気観測
米国のGPS等全球測位衛星システム(GNSS)は、国土地理院の電子基準点からスマートフォンの位置情報ツールまで幅広く使われています。GNSSでは測位衛星の送信電波が受信機に到達するまでの時間を利用して位置を解析します。電波は大気中の水蒸気が多いほど遅れるため、その遅れを解析することで、受信機上空の水蒸気の総量(可降水量)を推定できます。気象庁は、国土地理院が全国約1,300地点で運用している地上GNSS観測網である電子基準点の観測データから可降水量を算出しており、これを数値予報モデルに活用して、降水予報精度の向上に役立てています。
気象研究所では日本の測位衛星である準天頂衛星等、新しい測位衛星から得られる情報を活用し、海洋を航行している船舶上での可降水量解析技術を開発しました。この技術を用いて、大雨との関連性が指摘されている、海上の大気下層からもたらされる湿った空気の寄与について調査するため、平成30年(2018年)12月より、船舶8隻にGNSS装置を順次搭載し、東シナ海での水蒸気観測を開始しました。得られたデータは、高層ゾンデ観測や衛星搭載マイクロ波放射計等、他の水蒸気観測との比較を行い、陸上の観測点と同等の精度を有することが確認できました(左下図)。令和元年(2019年)6月末~7月初めの九州地方の豪雨の事例では、陸上の観測点より西方海上で、陸上より早期に水蒸気量が増加していたことが分かりました(右下図)。
2節 AI技術の活用による「統合型ガイダンス」の開発
気象庁は、2030年までに気象観測・予測の精度を大きく向上させることを目的として、気象の観測や予測への人工知能(AI)技術の活用に向けた共同研究を、平成31年(2019年)1月に国立研究開発法人理化学研究所革新知能統合研究センター(理研AIP)と開始しました。
本共同研究の研究開発テーマの一つとして、「統合型ガイダンス」の開発に取り組みます。気象庁では、1章で説明した数値予報をもとに気象の予報を行っていますが、数値予報モデルの分解能より細かい地形の影響や数値予報モデルの系統的な誤差等があるため、それだけでは精度に限界があることなどから、過去の数値予報と実際の気象の状況の比較によって数値予報データを統計的に補正したガイダンスと呼ばれる予測データを活用しています。このガイダンスも、気象状況によって、もとになる数値予報モデルの得意、不得意などがあり、現状では、その日の状況により、予報官がいくつものガイダンスを使い分けて予報を発表しています。
「統合型ガイダンス」とは、これらのガイダンスを最適に組み合わせて一つに統合したガイダンスのことです。
組合せの手法にAI技術を活用することで、より高精度な統合型ガイダンスを開発することが可能となると期待しており、5年後を目処に特別警報級の豪雨となる確率情報等、早めの防災対応に資する新たな予測情報の提供を目指します。
3章 地震・津波、火山に関する技術開発
1節 地震や津波の災害軽減のための技術開発
気象研究所では、大規模地震発生の切迫性が指摘されている、南海トラフ周辺のプレート境界における深部低周波地震やゆっくりすべりなどの様々な現象に対する検知・解析能力を高めるための研究を行っています(トピックスⅠ-1コラム「ゆっくりすべりを捉える」も参照)。また、大地震の規模やすべり範囲の早期推定、緊急地震速報の迅速化・精度向上、長周期地震動の予測精度向上の研究を行っています。
さらに、沖合でいち早く観測された津波波形データを使って沿岸に押し寄せる津波を即時に精度よく予測するための手法の開発や、津波警報等を適切なタイミングで解除するための研究に取り組んでいます。
2節 火山監視・予測のための技術開発
気象研究所では、火山活動の監視・予測に関する研究を行っており、その一つとして、気象レーダーを用いた火山噴煙の観測技術の開発を進めています。平成28年(2016年)10月8日に阿蘇山で噴火が発生した時には、噴火に伴う噴煙が気象庁の気象レーダーによって捉えられ、上空の風に流され四国上空を通過する様子が確認されました。この噴火事例では、気象レーダーによって噴煙の流される方向や高さを把握することができ、噴火の検知の可能性が改めて示されました。
また、気象研究所では、噴火による火山灰(火山礫も含む。)の拡散予測モデルの開発・改良も進めています。この予測では、日々の天気予報等のために計算されている風の予測結果を用いて、火山灰がどのように流されるかを、スーパーコンピュータを用いて計算します。上述の阿蘇山の噴火の事例では、気象レーダーによる結果を用いて、火山灰が上空の風によって流される様子が精度良く再現されることを確認しています。
気象研究所では、今後も引き続き、気象レーダーを用いた噴火監視技術や火山灰の拡散予測モデルの開発・改良を進め、降灰や大気中の火山灰の予測の精度を高めるための研究に取り組んでいきます。
コラム 火口周辺調査に無人航空機(ドローン)を導入
火山活動を評価する上で、地熱域の広がりや噴火による噴石・火砕流の影響範囲など火口周辺の状況を詳細に確認することが重要です。一方、火山活動が高まって噴火が発生するおそれがある火山では、火口付近に近づくことが危険になります。このような状況においても、可視カメラと赤外カメラを搭載したドローンを用いることで、危険な場所に立ち入らずに、火口周辺の状況を詳細に把握することが可能となります。このため、気象庁では、令和元年度(2019年度)から民間のドローンを用いた火口周辺調査を開始し、これまでに草津白根山、霧島山、阿蘇山、口永良部島の4火山で実施しました。
一例として、令和元年(2019年)9月24日に草津白根山の湯釜付近を対象として実施した火口周辺調査を紹介します。ドローンの離発着は湯釜火口から約1.5キロメートル離れた立入規制(火口周辺から概ね1キロメートル)の範囲外で行い、火口周辺の噴気の状況や湯釜火口内及びその周辺の地熱域の広がりを詳細に把握することができました。
4章 大学や研究機関と連携した研究・技術開発
数値予報は日々の天気予報や防災気象情報の基盤技術であり、年々高度化・複雑化しています。気象庁は、気象・気候予測の根幹である数値予報の技術開発を推進していくため、平成30年(2018年)10月に「2030年に向けた数値予報技術開発重点計画」を策定しました。この計画は、平成30年8月に交通政策審議会気象分科会からご提言いただいた「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」に示された気象・気候分野に関する技術開発を推進するための計画にもなっています。気象庁は、この計画に基づき、集中豪雨発生前に早期避難を実現するための「豪雨防災」、数日先予測の高精度化を目指した「台風防災」、生産・流通計画の最適化等に役立つ高精度な気象・気候予測を実現する「社会経済活動への貢献」、国や自治体当の適応策策定に貢献する「温暖化への適応策」を重点分野として、数値予報の高度化・精度向上の取組を強力に推進しています。
数値予報の更なる精度向上を目指すには、気象庁内の開発のみならず、大学等研究機関が持つ最新の研究成果や知見を結集して数値予報モデル開発に取り組むことが不可欠となっています。このため、気象庁では国内の大学等の研究機関や諸外国の気象機関などとも情報や意見の交換を行いながら研究・技術開発を進めています。また、数値予報モデルの技術開発の向上のため、様々な連携を行っています。
例えば、我が国の気象研究の発展、大学等における気象研究分野の人材育成及び気象庁の数値予報の精度向上を目的として、公益社団法人日本気象学会と、気象庁データの利用に関する枠組みである「気象研究コンソーシアム」を運営しています。「気象研究コンソーシアム」の参加者は、気象庁が保有する数値予報による解析・予測データや、気象衛星による観測に基づくデータ等の提供を受け、気象学に関する様々な研究に活用することができます。気象研究コンソーシアムでは約50の研究課題が実施されており、これらの研究が、気象庁による一層精度の高い気象情報の提供や、気象学の将来を担う人材の育成につながることが期待されます。また、数値予報モデル開発に関しては、気象予測や数値シミュレーションのために数値予報モデルを利用する研究者に対し、気象庁が実際の予報に使用している数値モデルを貸与し、数値予報技術を用いた研究を推進しています。さらに、毎年「気象庁数値予報モデル研究会」を開催し、大学等研究機関の研究者との交流を図っています。平成29年からは大学等研究機関の専門家による「数値予報モデル開発懇談会」を開催し、数値予報の精度向上や気象庁と大学等研究機関の連携強化のための貴重なご意見をいただいています。特に、「数値予報技術開発重点計画」の策定に当たっては、最新の科学的知見に基づくご検討をいただきました。令和元年(2019年)12月に開催した「数値予報モデル開発懇談会(第4回)」では、「数値予報技術開発重点計画」や大学等研究機関との連携に関する気象庁の取組について、「気象庁が持つ課題と大学等研究機関の研究とのマッチングのための意見交換を通じて、意思疎通を深めて共同研究を実施していくことが重要」等の様々なご意見をいただきました。気象庁は、これらのご意見を踏まえて、大学等研究機関との一層の連携強化を進めてまいります。
また、気象庁は、猛暑や豪雪等の社会・経済に大きな影響を与える異常気象が発生した場合に、その発生要因について最新の科学的知見に基づく分析結果を発表するため、大学等研究機関の専門家と連携して分析を行う「異常気象分析検討会」を運営しています。
コラム 気象研究所中期研究計画
気象研究所は、気象庁の施設等機関として、気象庁が発表する各種情報の改善に資する研究や、気象業務の将来を見据えた基盤的な研究など、我が国の気象業務を支える科学技術を研究・開発の面で担う研究機関です。
平成29年(2017年)からの2年間だけをとっても、平成29年7月九州北部豪雨、平成30年7月豪雨、平成30年台風第21号などにより、洪水・土砂・暴風・高潮などによる大きな災害が発生しています。また、平成30年の夏は、地球温暖化の影響も受けた「災害級」の異常高温となりました。地震については、平成30年6月の大阪府北部の地震、平成30年北海道胆振東部地震が発生しました。さらに、火山については、草津白根山(本白根山)、霧島山(新燃岳)、口永良部島の噴火など活動が活発になっています。
このように災害を引き起こす様々な自然現象が頻繁に発生している状況を背景に、平成30年8月には交通政策審議会気象分科会から、2030年を展望し、科学技術の進展を見据えた気象業務のあり方について提言をいただきました。提言では、観測・予測精度向上のための技術開発、気象情報・データの利活用推進、及びこれらを「車の両輪」とする防災対応・支援の推進について取組を進める旨が示されています。自然災害や地球温暖化といった国民的課題を見据え、この提言に応えていくために、研究開発を担当する気象研究所の役割はきわめて大きいものがあります。
一方、科学技術を取り巻く環境は、ビッグデータを創出する新たな観測手段の出現と計算科学の進展、人工知能(AI)技術の進展に伴うデータ利用に関する応用分野が急速に拡大しています。気象研究分野でも、このように急激に変化する環境への速やかな対応が求められています。
このような近年の気象庁を取り巻く状況の急速な変化を踏まえ、気象研究所は気象庁の技術基盤の研究開発の中核を担う施設等機関として気象業務への実用的技術の提供を目指し、令和元年度(2019年度)から令和5年度(2023年度)までの5年間を対象とした新たな気象研究所中期研究計画を策定しました。新たな中期研究計画では、台風・集中豪雨等対策、気候変動・地球環境対策及び地震・津波・火山対策の強化に資する研究を遂行するため、基盤技術研究、課題解決型研究、応用気象研究の3つに分類される研究を、最新の科学技術を反映した世界最高の技術水準で取り組んでいます。
・基盤技術研究:最先端の科学技術を2030年の気象業務に応用するための先進的・基盤的研究
・課題解決型研究:災害の防止・軽減や地球温暖化への対応等の気象庁が取り組むべき喫緊の課題に貢献する研究
・応用気象研究:現業機関の持つ観測・予測基盤から得られるビックデータや研究成果を用いた生産性向上に関する社会応用を促進する研究
また、この中期研究計画の遂行に当たり、様々な研究分野を有機的に結合し効果的に研究を実施するため、研究部の組織を図のとおり再編しました。さらに令和2年(2020年)3月には、スーパーコンピュータを更新して、研究体制を整えました。
新たな中期研究計画では、図に示す経常的な研究課題の分野融合かつ手法連携による効率的・効果的な研究推進を目指して、研究部の組織を越えた横断的な相互連携を推進し、各研究部の総力を挙げて実施します。また、実用化を目指す研究課題の実行に当たっては、気象庁各部とも密接に連携し、気象業務におけるニーズを的確に把握して研究課題に反映させていきます。さらに、共同研究などの制度を活用し、国内外の大学や研究機関との円滑かつ緊密な連携を推進し、効果的、効率的な研究を進めます。その他、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)や官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)などの他省庁が総括する大型研究プロジェクトにも積極的に参画し、研究開発を進めていきます。
このように、気象研究所は、新しい組織で新たな研究計画に取り組むことで、地球科学分野における我が国の総合的専門家集団として研究能力の一層の向上を図りつつ、気象業務の発展を研究・開発面から支えてまいります。また、自然災害や地球環境に関する国民へのアウトリーチ活動や気象データ・情報の産業界等における利活用推進について、専門的な知見を踏まえた役割を果たし、国民の皆様の期待に応えられるよう、努力してまいります。
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