第4部 最近の気象・地震・火山・地球環境

1章 気象災害、台風など

1節 平成29年(2017年)のまとめ

 平成29年は、梅雨前線が日本付近に停滞した影響で、6月から7月にかけて各地で大雨となりました。特に、7月5日から6日にかけては、対馬海峡付近に停滞した梅雨前線の影響等で、九州北部地方で記録的な大雨となりました。気象庁では、九州北部地方で発生したこの豪雨について「平成29年7月九州北部豪雨」と命名しました。

 9月には、九州、四国、本州へ上陸した台風第18号や日本付近に停滞した前線の影響で、沖縄・奄美から西日本、北海道を中心に大雨や暴風となりました。10月には、台風第21号が静岡県掛川市付近に超大型・強い勢力で上陸し、西日本から北日本の広い範囲で大雨や暴風となりました。

平成29年(2017年)に発生した主な気象災害

2節 平成29年(2017年)の主な気象災害

・平成29年7月九州北部豪雨及び6月7日から7月27日にかけての梅雨前線等による大雨

 6月7日から7月27日にかけて、日本付近に停滞した梅雨前線の活動が断続的に活発となり、また、台風第3号が7月1日から5日にかけて日本に接近・上陸し、各地で大雨となりました。

 6月19日頃から21日頃にかけては梅雨前線上を低気圧が東に進み、近畿地方の多いところで日降水量が400ミリを超えるなど、西日本を中心に大雨となりました。また、6月29日頃から7月6日頃にかけて、梅雨前線の活動が活発となり、台風第3号が日本に上陸し、これらの影響で九州から東北地方で大雨や暴風となりました。特に7月5日から6日にかけては、停滞した梅雨前線に向かって暖かく非常に湿った空気が流れ込んだ影響等で、線状降水帯が形成・維持されました。このため、猛烈な雨が同じ場所で降り続き、期間中の最大1時間降水量が福岡県朝倉市朝倉で129.5ミリに、また、降り始めからの降水量は、福岡県朝倉市朝倉で586.0ミリ、大分県日田市日田で402.5ミリ、中国地方でも300ミリを超えるなど、記録的な大雨となりました。その後、7月22日頃から23日頃にかけては、梅雨前線が北陸地方から東北地方に停滞し、東北地方の多いところで日降水量が200ミリを超える大雨となりました。

 このほか、6月29日に福岡県で、7月7日に鹿児島県で、7月16日から18日にかけて関東地方で、7月27日に沖縄県で竜巻等の突風が発生しました。

 これらの大雨等の影響で、土砂災害や河川の氾濫、浸水害等が発生し、甚大な被害となりました。特に、平成29年7月九州北部豪雨により、福岡県朝倉市を流れる赤谷川等の中小河川の氾濫のほか、土砂災害や浸水害等が相次いで発生するなど、6月30日頃からの梅雨前線による大雨や台風第3号による大雨による人的被害は死者42名、行方不明者2名となりました。また、7月22日頃からの梅雨前線による大雨では、東北地方を中心に河川の氾濫や浸水害等が発生し、雄物川やその支川等が氾濫した秋田県等で住家浸水などの被害が発生しました。(※)

平成29年7月九州北部豪雨による被害

平成29年7月5日から7月6日までの総降水量分布図

※被害状況は以下の情報による。

○内閣府

6月30日からの梅雨前線に伴う大雨及び平成29年台風第3号による被害状況等について(平成30年1月17日12時00分現在)

7月22日からの梅雨前線に伴う大雨による被害状況等について(平成29年8月9日18時00分現在)

○国土交通省

6月30日からの梅雨前線に伴う大雨及び台風第3号による被害状況等について(平成30年1月17日11時00分現在現在)

7月22日からの梅雨前線に伴う大雨による被害状況等について(平成29年8月9日16時00分現在)

○消防庁

平成29年6月30日からの梅雨前線に伴う大雨及び台風第3号の被害状況及び消防機関等の対応状況等について(平成30年1月22日16時00分現在)

平成29年7月22日からの梅雨前線に伴う大雨による被害状況等について(平成30年2月13日16時00分現在)


・平成29年台風第18号及び前線による9月13日から9月19日にかけての大雨及び暴風

 平成29年台風第18号は、9月13日から14日にかけて宮古島付近を北上した後、東シナ海で進路を北東に変えました。台風は、17日11時半頃に鹿児島県薩摩半島を通過し、同日12時頃、鹿児島県垂水市付近に上陸した後、同日16時半頃に高知県西部に再上陸し、更に同日22時頃に兵庫県明石市付近に再上陸しました。台風はその後日本海に抜け、18日3時に佐渡島付近で温帯低気圧となりました。

平成29年9月13日から9月19日までの総降水量分布図

 台風第18号や台風から変わった温帯低気圧、日本付近に停滞した前線の影響で、西日本から北日本にかけて猛烈な雨を観測し、降り始めからの降水量が、宮崎県宮崎市田野では618.5ミリを観測するなど、沖縄・奄美や西日本で500ミリを超える大雨となりました。また、沖縄・奄美や西日本では風速30メートルを超える猛烈な風を観測したところがあり、沖縄地方から北海道地方に至る広い範囲で風速20メートル以上の非常に強い風を観測しました。このほか、この期間中に、宮崎県や高知県、北日本で竜巻等の突風が発生しました。

平成29年台風第18号経路図

 このため、河川の氾濫や浸水害、土砂災害等が発生し、人的被害は死者5名となりました。また、大分県をはじめ西日本を中心に住家浸水などの被害が発生したほか、全国各地で停電や通信設備等のライフラインへの被害、鉄道の運休や航空機・船舶の欠航等の交通障害が発生しました。(※)

9月13日から9月19日までの風の観測値(左:最大風速、右:最大瞬間風速)

※被害状況は以下の情報による。

○内閣府

平成29年台風第18号による被害状況等について(平成29年9月22日18時00分現在)

○国土交通省

台風第18号による被害状況について(平成29年9月22日16時00分現在)

○消防庁

平成29年台風第18号による被害及び消防機関等の対応状況等について(平成30年2月13日16時00分現在)


・平成29年台風第21号及び前線による10月20日から10月23日にかけての大雨及び暴風

 平成29年台風第21号は、10月21日から22日にかけて日本の南を北上し、その後、四国沖を北東に進みました。台風は、23日3時頃に静岡県掛川市付近に超大型・強い勢力で上陸した後、関東地方を北東へ進み、23日9時に日本の東で温帯低気圧となりました。

 台風第21号や台風から変わった温帯低気圧、日本付近に停滞した前線の影響により、西日本から東日本、東北地方の広い範囲で大雨となりました。特に近畿地方や東海地方で、降り始めからの降水量が500ミリを超え、和歌山県新宮市新宮では48時間の降水量が888.5ミリを観測し、観測史上1位の値を更新するなど、記録的な大雨となりました。また、西日本や東日本、北海道地方で風速30メートル以上の猛烈な風を観測したところがあり、沖縄地方から北海道地方に至る広い範囲で風速20メートル以上の非常に強い風を観測しました。

平成29年10月20日から10月23日までの総降水量分布図

 このため、西日本から北日本にかけての広い範囲で、河川の氾濫や浸水害、土砂災害が発生し、人的被害は死者8名となりました。また、近畿地方や東海地方を中心に住家浸水などの被害が発生したほか、全国各地で停電や通信設備等のライフラインへの被害、鉄道の運休や航空機・船舶の欠航等の交通障害が発生しました。(※)

平成29年台風第21号経路図

10月20日から10月23日までの風の観測値(左:最大風速、右:最大瞬間風速)

※被害状況は以下の情報による。

○内閣府

平成29年台風21号による被害状況等について(平成29年11月6日16時00分現在)

○国土交通省

台風第21号による被害状況について(平成29年11月6日12時00分現在)

○消防庁

平成29年台風第21号による被害及び消防機関等の対応状況等について(平成30年2月14日18時00分現在)


3節 平成29年(2017年)の台風

 平成29年(2017年)の台風の発生数は平年並の27個(平年値25.6個)でした。7月には8個(平年値3.6個)の台風が発生し、台風の統計を開始した昭和26年(1951年)以降、7月の発生数としては昭和46年(1971年)と並び最多となりました。そのほかの月は平年並か少なめの発生数となり、年間の発生数としては平年並となりました。

 日本への接近数は平年より少ない8個(平年値11.4個)でした。上陸数は、平年値2.7個より多い4個(第3 号、第5 号、第18 号、第21号)でした。

平成29年(2017年)に発生した台風の経路

平成29年(2017年)に発生した台風の一覧

コラム

■平成29年(2017年)の台風の特徴

 平成29年(2017年)の台風の特徴は以下の通りです。


 ◯7月に8個(平年値3.6個)の台風が発生。7月の発生数としては最多タイ(過去には昭和

  46年(1971年))

 ◯8月に上陸した台風第5号の台風期間19.00日(平均値5.3日)は2位タイ(1位は昭和

  61年(1986年)第14号の19.25日)

 ◯10月に上陸した台風第21号は超大型で上陸した初めての台風。上陸日の10月23日は3

  位の遅さ(1位は平成2年(1990年)第28号の11月30日、2位は昭和42年(1967年)

  第34号の10月28日)

 ◯平均発生位置は北緯17.1度、東経131.4度で平年値(北緯16.3度、東経136.7度)よりも

  西

 ◯平均台風期間は4.3日で平年値(5.3日)よりも短い


 7月は、南シナ海からフィリピンの東海上にかけてと南鳥島の東海上で海面水温が平年よりも高かったことなどにより対流活動が活発となり、多くの台風が発生しました(左下図)。そのうち、南鳥島の東海上で発生した台風第5号は、長い期間をかけて日本の南東~南海上を移動したあと和歌山県に上陸し、奄美地方や近畿地方を中心に西日本・東日本の広い範囲に大雨をもたらしました。台風期間が長かったのは、上空の渦や別の台風との相互作用、日本付近の偏西風が北に蛇行していたことなどにより、ゆっくりとした速度で複雑な経路を辿ったためと考えられます(右下図)。

 10月には台風第21号が超大型の勢力で静岡県に上陸し、広い範囲に暴風をもたらすとともに、近畿地方を中心に西日本から東日本、東北地方の広い範囲で大雨となりました。この時期に上陸したのは、台風が日本の南海上にあった頃に、日本の東で上空の高気圧が強まり台風を北上させる流れとなったためと考えられます。

 また、秋に発生したとみられるラニーニャ現象により、秋以降、通常よりもフィリピンに近い海域で台風が発生しやすい状況となり、平均発生位置は平年より西となりました。発生位置が西寄りで陸に近く、台風の勢力のまま長い距離を移動できない台風が多くなり、平均の台風期間は平年よりも短くなりました。

7月の台風発生位置と多く発生した理由

7月の台風発生位置と多く発生した理由第5号の経路とゆっくり進んだ原因

2章 天候、異常気象など

1節 日本の天候

 2017年(平成29 年)は、梅雨の時期に「平成29年7月九州北部豪雨」など記録的な大雨となった所がありました。8月は北・東日本太平洋側で、10月は北~西日本で曇りや雨の日が多く、不順な天候となりました。沖縄・奄美では、夏から秋にかけて顕著な高温が持続しました。

 年平均気温は沖縄・奄美ではかなり高く、北・東・西日本では平年並でした。

 年降水量は、北・東日本日本海側と西日本太平洋側で多かった一方、沖縄・奄美では少なくなりました。北・東日本太平洋側と西日本日本海側では平年並でした。

 年間日照時間は、東日本太平洋側と西日本日本海側でかなり多く、北日本と東日本日本海側、西日本太平洋側では多くなりました。沖縄・奄美では平年並でした。


2017年(平成29年)の各季節の特徴は以下のとおりです。

①冬(2016年12月~2017年2月)は、日本付近への寒気の南下が弱かったため気温の高い日が多く、全国的に暖冬でした。ただし、一時的に強い寒気が南下することがあり、12月前半は北日本中心に、1月中旬~下旬前半は全国で、2月上旬後半~中旬前半は西日本中心にそれぞれ低温となり、気温の変動が大きくなりました。また、西日本日本海側では1月中旬~下旬前半と2月上旬後半~中旬前半に大雪となり、交通障害や農業施設被害などが発生しました。

②春(3~5月)は、日本の南で高気圧の勢力が強く日本の北の低気圧に向かって暖かい空気が流れ込みやすかったことや、晴れて気温の上昇した日が多かったため、春の平均気温は北・東・西日本で高くなりました。ただし、西日本と沖縄・奄美は3月に大陸からの冷たい空気が流れ込んだため、気温の低い時期もありました。本州付近は大陸からの高気圧に覆われて晴れた日が多かったため、北・東・西日本では春の降水量が少なく、日照時間が多くなりました。特に、北・東日本日本海側では降水量がかなり少なく、東日本と西日本日本海側では春の日照時間がかなり多くなりました。

③夏(6~8月)は、本州付近では7月を中心に西よりの暖かい空気が流れ込みやすく、また高気圧に覆われやすかった時期もあり、東・西日本の夏の平均気温は高くなりました。沖縄・奄美は太平洋高気圧に覆われて晴れた日が多かったため、夏の平均気温はかなり高くなりました。特に8月の月平均気温は、平年差+1.4℃と1946年の統計開始以来第1位の高温となりました。梅雨前線の活動が活発となった時期があり、7月5~6日には「平成29年7月九州北部豪雨」が発生しました。また、湿った気流や上空の寒気などの影響で各地でしばしば大雨となりました。北・東日本太平洋側では、8月上~中旬を中心にオホーツク海高気圧による北東からの冷たく湿った気流の影響を受けやすかったため不順な天候となり、北・東日本太平洋側の8 月の月間日照時間はかなり少なくなりました。

④秋(9~11月)は、太平洋高気圧の縁を回って南から暖かい空気が流れ込みやすかった沖縄・奄美では気温がかなり高くなりました。特に、9月の月平均気温は平年差+1.3℃と1946年の統計開始以来2014年と並び第1位タイの高温となり、8月に続き2か月続けて記録的な高温となりました。一方、偏西風の南への蛇行に伴って10月中旬や11月中旬以降を中心に大陸から強い寒気が流れ込んだ北日本では気温が低くなりました。9~10月は日本の南東海上で太平洋高気圧の勢力が強く、南から暖かく湿った空気が流れ込んで西日本付近に停滞する秋雨前線の活動が活発になったため広い範囲で大雨となり、特に10月は北・東・西日本では顕著な多雨・寡照となりました。西日本では、月降水量が太平洋側で平年比334%、日本海側で平年比332%となり、いずれも1946年の統計開始以来10月としては最も多くなりました。また、9月には台風第18号が、10月には台風第21号、第22号が日本に接近あるいは上陸しました。これらにより、秋の降水量は全国的に多く、特に西日本と東日本太平洋側でかなり多くなりました。

地域平均気温平年差の経過

2節 世界の主な異常気象

平成29年(2017年)の世界の異常気象と気象災害

 平成29年(2017年)は、エルニーニョ現象の影響を大きく受けて異常高温が頻発した2016年ほどではないものの、世界各地で異常高温が発生しました(図中①③⑦⑨⑩⑫⑬⑭⑱⑲⑳㉓㉔㉕)。サウジアラビア及びその周辺では4~11月の8か月間異常高温が継続しました(図中⑩)。サウジアラビア南部のジーザーンでは7~11月の5か月平均気温が33.3℃(平年差+1.4℃)でした。このほか、オーストラリア東部、モーリシャスからモザンビーク北東部、西アフリカ南部及びその周辺、米国南西部からメキシコ、インド南部からスリランカでは異常高温が発生した月が6か月以上にのぼりました。

 ヨーロッパ北東部では4、9~10、12月に異常多雨となりました(図中⑪)。ラトビア西部のリエパヤでは9~10月の2か月降水量が358mm(平年比242%)、ウクライナのキエフでは12月の月降水量が129mm(平年比312%)でした。また、イベリア半島から北アフリカ北西部では、3~5、9、11月に異常少雨となりました(図中⑬)。アルジェリア北東部のコンスタンティーヌでは3~5月の3か月降水量が32mm(平年比21%)、同国北部のジェルファでは11月の月降水量が3mm(平年比12%)でした。

 コロンビア南西部からペルー(図中㉒)では、2~4月の大雨によって土砂災害等が発生し、計420人以上が死亡したと伝えられました(コロンビア政府、ペルー政府)。米国南東部からカリブ海諸国(図中㉑)では、8~9月に3つのハリケーン「HARVEY」、「IRMA」、「MARIA」が接近・上陸し、計190人以上が死亡したと伝えられました(米国政府、欧州委員会)。ベトナム(図中⑤)では、9~11月に台風第19号、台風第23号、台風第25号や熱帯低気圧による大雨の影響で、計190人以上が死亡したと伝えられたほか(ベトナム政府)、フィリピン(図中④)では、12月に台風第26号と台風第27号による大雨の影響で、200人以上が死亡したと伝えられました(フィリピン政府)。

 なお、災害の記述は、米国国際開発庁海外災害援助局とルーベンカトリック大学災害疫学研究所(ベルギー)が共同で運用する災害データベース(EM-DAT)や各国の政府機関、国連機関の発表等に基づき、人的被害や経済的損失の大きさ、地理的広がりを考慮して取り上げています。


3節 世界と日本の平均気温

 平成29年(2017年)の世界の年平均気温偏差は+0.38℃で、統計を開始した明治24年(1891年)以降で3番目に高い値となりました。また、平成29年(2017年)は、世界の平均気温を上昇させる傾向があるエルニーニョ現象が発生していない年の中では最も高い年でした。世界の年平均気温は、長期的には100年あたり0.73℃の割合で上昇しています。

 平成29年(2017年)の日本の年平均気温偏差は+0.26℃で、統計を開始した明治31年(1898年)以降で14番目に高い値でした。日本の年平均気温は、長期的には100年あたり1.19℃の割合で上昇しており、特に1990年代以降、高温となる年が多くなっています。

世界の年平均気温偏差の経年変化

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4節 大雨・短時間強雨

 国内51観測地点における明治34年(1901年)~平成29年(2017年)の117年間の観測値によると、日降水量100mm以上及び200mm以上の大雨の年間日数は長期的に増加しています。

 全国約1,300地点のアメダスによる昭和51年(1976年)~平成29年(2017年)の42年間の観測値によると、1時間降水量(毎正時における前1時間降水量)50mm以上及び80mm以上の短時間強雨の年間発生回数は増加しています。1時間降水量50mm以上の場合、統計期間の最初の10年間(昭和51年(1976年)~昭和60年(1985年))平均では1000地点あたり約174回でしたが、最近の10年間(平成20年(2008年)~平成29年(2017年))平均では約238回と約1.4倍に増加しています。ただし、大雨や短時間強雨の発生回数は年々変動が大きく、それに対してアメダスの観測期間は比較的短いことから、長期変化傾向を確実に捉えるためには今後のデータの蓄積が必要です。

1時間降水量50mm以上の年間発生回数の経年変化

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5節 大気中の二酸化炭素

 二酸化炭素は、化石燃料の消費や森林破壊といった人間活動から生じ、地球温暖化への影響が最も大きな温室効果ガスです。大気中の二酸化炭素の世界平均濃度は工業化(18世紀後半)以前は280 ppm程度でしたが、人間活動により増加を続け、平成28年(2016年)には工業化前の1.5倍ほどの403.3 ppmに達しました。国内も同様であり、綾里(岩手県大船渡市)では観測開始からのおよそ30年間で二酸化炭素濃度は50 ppm以上増加し、平成28年(2016年)には年平均濃度が407.2 ppmとなりました。世界各地の観測データを緯度20度ごとに平均した二酸化炭素濃度のこれまでの変化を見ると、化石燃料が多く消費されている北半球で南半球より全般的に濃度が高くなっています。また植物の光合成活動などが原因で起こる季節による濃度変動も森林の多い北半球で大きくなっています。

国内の大気中の二酸化炭素濃度の経年変化

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世界の大気中の二酸化炭素濃度の経年変化

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6節 その他の温室効果ガス

 二酸化炭素の他に地球温暖化に影響を及ぼす温室効果ガスとして、メタン、一酸化二窒素があります。これらも人間活動に伴い増加しており、大気中の濃度は工業化前の2.6倍、1.2倍にそれぞれ達しています。

 また、エアコンや冷蔵庫で空気を冷却するために使われてきたクロロフルオロカーボン類(いわゆるフロン類:CFC-11、CFC-12、CFC-113など)には、オゾン層を破壊する性質とともに強い温室効果があります。これらは生産や使用の規制により大気中の濃度が近年減少傾向にあります。一方、フロン類の代わりとして使用されているハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC-22など)やハイドロフルオロカーボン類(HFC-134aなど)は、オゾン層を破壊しにくい(あるいは破壊しない)ものの、いずれも強力な温室効果ガスで、これらの大気中の濃度は増加を続けています。

クロロフルオロカーボン類等の平均濃度の経年変化

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7節 海面水温

 平成29年(2017年)の世界の年平均海面水温の平年差(昭和56年(1981年)~平成22年(2010年)までの30 年平均値からの差)は+0.26℃で、統計を開始した明治24年(1891年)以降ではエルニーニョ現象が発生していた平成28年(2016年)、平成27年(2015年)に次いで3番目に高い値となり、エルニーニョ現象が発生していない年の最も高い値(これまでは平成25年(2013年)の+0.13℃)となりました。世界の年平均海面水温は、数年から数十年に及ぶ時間規模の海洋・大気の変動や地球温暖化等の影響が重なりながら変化していますが、長期的には100 年あたり+0.54℃の割合で上昇しています。数年から数十年の時間規模では、1970年代半ばから2000 年前後にかけて顕著な上昇が見られた後、2010年代前半までは停滞していましたが、平成26年(2014年)から平成28年(2016年)まで3年連続で統計開始以降の最高記録を更新しました。この記録更新には、平成26年(2014年)から平成28年(2016年)にかけて発生したエルニーニョ現象も影響したと考えられます。

 平成29年の日本近海の海面水温は、日本海、東シナ海を中心に平年より高く、後半は、日本の南、父島近海、南鳥島近海でも平年より高くなりました。7月は、日本近海のほぼ全域で、8月は、北海道近海、三陸沖を除く日本近海のほぼ全域で平年より高く、広い範囲でかなり高くなりました。沖縄諸島近海では7月から10月にかけて平年よりかなり高い状態が続いていました。種子島から都井岬沖では4~6月に、黒潮の小蛇行に伴う下層の冷水の影響で平年より低い海域がみられました。東海沖では10月以降、黒潮の大蛇行に伴う下層の冷水の影響で平年より低くなり、東海沖ではかなり低い海域もみられました。福島県沖から三陸沿岸では、9~11月にかけて台風による強風や下層の冷水の影響で平年より低くなりました。北海道の近海では、1~6月、10月、11月にかなり低い海域がみられました。

世界の年平均海面水温

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エルニーニョ監視海域の海面水温の変化

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8節 海洋中の二酸化炭素

 海洋は、人間活動により放出された二酸化炭素の約3分の1を吸収していると見積もられており、地球温暖化の進行を緩和しています。気象庁の海洋気象観測船「凌風丸」と「啓風丸」は、昭和59年(1984年)から30年以上にわたって北西太平洋で表面海水中と大気中の二酸化炭素濃度を観測しています。東経137度線に沿った日本の南から赤道域までの海域においては、毎年冬季(1~2月)に表面海水中の二酸化炭素濃度が大気中の濃度より低いことが観測されており、海洋が大気中の二酸化炭素を吸収しています。また、北緯7度から33度で平均した二酸化炭素濃度は、昭和59年(1984年)から平成29年(2017年)まででみて、大気中で1年に1.9ppm、表面海水中で1年に1.7ppmの割合で増加しています。

冬季の東経137度線に沿った表面海水中と大気中の二酸化炭素濃度(北緯7 度~ 33 度での平均)の経年変化

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9節 オホーツク海の海氷

 平成29年(2017年)から平成30年(2018年)のオホーツク海の海氷面積は、12月の終わりから3月の初めまで平年より小さく推移しましたが、シーズンの最大海氷域面積は112.41万平方キロメートルで平年の96%でした。

 オホーツク海南部では海氷域は平年と同程度の広がりとなりました。網走では流氷初日(海岸から流氷が観測された最初の日)は平年より7日遅い1月28日、流氷接岸初日は平年と同じ2月2日、海明け(海氷の占める割合が5割以下になり船舶の航行が可能になった最初の日)は平年より6日早い3月14日、流氷終日は平年より11日早い3月31日でした。稚内では流氷初日は平年より7日早い2月6日、流氷終日は平年より33日早い2月7日でした。釧路では流氷は観測されませんでした。

 オホーツク海の海氷域面積は年ごとに大きく変動していますが、最大海氷域面積は昭和46年(1971年)の統計開始以来、10年当たり6.9万平方キロメートル(オホーツク海の全面積の4.4%に相当)の割合で減少しています。

平成30年3月25日(最も面積が大きかった日)の海氷域

3章 地震活動

1節 日本及びその周辺の地震活動

 平成29年(2017年)に震度5弱以上を観測した地震は8回(平成28年は33回)、震度1以上を観測した地震は2,025回(平成28年は6,587回)でした。国内で被害を伴った地震は5回(平成28年は7*回)でした。日本及びその周辺で発生した地震でマグニチュード6.0以上の地震は9回(平成28年は27回)でした。また、日本で津波を観測した地震はありませんでした(平成28年は2回)。

 主な地震活動は下図及び次ページの表のとおりです。

*2016年4月14日以降に、熊本県から大分県にかけて発生した一連の地震活動(「平成28年(2016年)熊本地震」)により生じた被害については1回として扱った。

「マグニチュード6.0以上」、「被害を伴った」、「震度4以上を観測した」、「津波を観測した」のいずれかに該当する地震の震央分布(平成29年)

「マグニチュード6.0以上」、「被害を伴った」、「震度4以上を観測した」、「津波を観測した」のいずれかに該当する地震(平成29 年)


2節 世界の地震活動

 平成29年(2017年)に発生したマグニチュード7.0以上または死者(行方不明者を含む)を伴った地震は17回でした。また、マグニチュード8.0以上の地震は1回でした。最も規模の大きかった地震は、9月8日にメキシコで発生したMw8.1(気象庁による)の地震でした。海外の地震により日本で津波を観測した地震はありませんでした。

 主な地震活動は表のとおりです。


4章 火山活動

 平成29年(2017年)の日本の主な火山活動は以下のとおりです。そのほかの最新の火山活動のとりまとめについては、気象庁ホームページに掲載している火山活動解説資料をご覧ください(https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/monthly_v-act_doc/monthly_vact.phpまたは、「気象庁火山活動解説資料」を検索)。

○北海道駒ヶ岳(北海道) 

11月26日に山頂の浅い所を震源とする規模の小さな地震が増加し、翌日以降は減少したものの、増加する前の状態には戻っていません。この地震増加時にその他の観測データに異常はなく、その後の12月の現地調査でも特段の変化は認められませんでした。

○秋田駒ヶ岳(岩手県、秋田県)

 9月14日に、男女岳の北西約1km付近を震源とする火山性地震を227回観測し(日別地震回数は観測開始以降最多)、5月と12月にも火山性地震の一時的な増加がみられましたが、その他の観測データには特段の変化は認められませんでした。

 3月から11月にかけての上空からの観測(岩手県及び東北地方整備局の協力)と第二管区海上保安本部が上空から撮影した映像では、女岳の山頂付近で以前からの地熱域が引き続き確認されました。

○草津白根山(群馬県)

 東京工業大学によると、湯釜の湖水に含まれる火山活動の活発な状態を示す成分の濃度が、2017年に入って低下傾向に転じていることが確認されました。また、火山性地震は少ない状態で、全磁力連続観測でも地下の温度低下を示す変化が継続しました。これらのことから、山頂火口から1kmの範囲に影響を及ぼす噴火の可能性は低くなったと考えられ、6月7日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。

 一方、湯釜火口の北から北東内壁及び水釜火口の北から北東側の斜面の熱活動と、北側噴気地帯の噴気活動については、いずれも以前からの活発な状態が継続しました。

○浅間山(長野県、群馬県)

 山頂火口からの噴煙は白色で火口縁上概ね800m以下で経過し、夜間に微弱な火映が時々観測されました。2月及び11月の上空からの観測(それぞれ群馬県及び陸上自衛隊の協力)では、11月に火口底の高温領域の縮小が認められました。一方、山頂火口からの火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は、3月までは1日あたり3,000トンを越えることがあり、その後も500~1,000トンと多い状態で経過しています。山頂火口直下のごく浅い所を震源とする火山性地震は概ねやや多い状態で経過し、火山性微動は時々発生しました。塩野山観測点の傾斜計では、2016年12月頃からみられている北または北西上がりの緩やかな変化が継続しました。GNSS連続観測でも、浅間山の西部の一部の基線でわずかな伸びが断続的にみられました。これらの活動状況から、噴火警戒レベル2(火口周辺規制)を継続しました。

○焼岳(長野県、岐阜県)

 8月9日から10日にかけて、空振を伴う低周波地震が発生し、その時間帯に監視カメラ(焼岳の北北西約4km、北陸地方整備局が設置)で、普段は噴気がみられない黒谷火口(山頂西側400m付近)から白色の噴気が100m程度まで上がるのを観測しました。8月27日の信州大学の調査で黒谷火口内で弱い噴気と土砂が噴出された跡が確認され、また8月29日から9月1日にかけての現地調査では、北峰南斜面等での噴気の温度が前回(2016年7月)と比べてやや上昇していました。その後も10月までは黒谷火口で弱い噴気が時々観測されました。

○御嶽山(岐阜県、長野県)

 噴煙活動や山頂直下付近の地震活動は緩やかな低下傾向が続きました。7月の山頂付近の現地調査でも、高温領域の広がりや、噴煙・火山ガスの増加は認められませんでした。これらのことから、火山活動は静穏化の傾向が続いているとの判断で、8月21日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。

 一方、7月及び9月の現地調査では、2014年に噴火が発生した火口列の一部の噴気孔で、引き続き噴気が勢いよく噴出していることが確認されました。

○白山(石川県、岐阜県、福井県)

 11月29日に山頂付近を震源とする火山性地震が多発し、1日あたりの地震回数は370回に達しました(2005年12月1日の観測開始以来最多)。最大の地震はマグニチュード2.8で、白山市白峰で震度1を観測しました。この地震活動のほかにも、3月、4月及び10月に、山頂付近を震源とする微小な地震がまとまって発生しました。監視カメラでは山頂部に噴気は認められませんでした。

○西之島(東京都)

 4月20日に海上保安庁が実施した上空からの観測で、火砕丘の山頂火口からの噴火が確認され、同日、火口周辺警報(入山危険)を発表しました。地震計及び空振計の観測(東京大学地震研究所による)と、気象衛星ひまわりによる熱の観測で、4月18日に噴火が発生し19日には溶岩の流出が顕著になったと推定されています。その後、断続的な噴火の発生と溶岩流出が確認されましたが、山頂火口での噴火は8月11日を最後に、また溶岩流先端の高温域も8月24日を最後に認められなくなりました(海上保安庁、第三管区海上保安本部、海上自衛隊及び気象庁による)。

○硫黄島(東京都)

 火山性地震は概ねやや多い状態で経過し、地殻変動は隆起傾向が続きました。2月と8月の現地調査で(海上自衛隊の協力)、8月に阿蘇台陥没孔で北側約60mにわたり泥の噴出した跡が確認されました。

○阿蘇山(熊本県)

 噴火は2016年10月8日を最後に観測されず、2月には火山活動は低下して火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候は認められなくなったため、2月7日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。

 噴煙は白色で概ね600m以下で経過し、中岳第一火口の湯だまり量は4月以降は火口底の10割で、土砂噴出は認められませんでした。火山性地震は、7月頃から次第に増加しその後は多い状態で経過しました。火山性微動の振幅は概ね小さな状態で、阿蘇山に特有の孤立型微動は概ねやや少ない状態で経過しました。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は、4月中旬まではやや少ない状態でしたが、その後は増減を繰り返しながらやや多い状態で経過しました。

○霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺)(宮崎県、鹿児島県)

 以前から熱異常域の拡大や噴気の量の増加が認められている中で、2016年12月12日に火山性地震の増加と火山性微動及び傾斜変動が観測され、噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。その後、地震は少なく火山性微動と傾斜変動もみられず、1月11日の現地調査と上空からの観測(九州地方整備局の協力)で噴気や熱異常域に大きな変化はなかったことから、13日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。

 4月25日から硫黄山南西観測点で傾斜変動が観測され、5月8日の東京大学地震研究所の現地調査で硫黄山火口内で噴出物が確認されました。小規模な噴火のおそれがあり5月9日に噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。6月以降も活発な噴気活動や傾斜変動が続き、二酸化硫黄の放出量は1日あたり数トン~20トンで、7月中旬以降は噴気が稜線上300m以上に上がりました。9月5日に火山性地震の一時的な増加と傾斜変動が観測されましたが、9月中旬以降は噴気の高さは概ね稜線上100m以下で、10月下旬の現地調査では火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は検出限界未満となり、火口内及び周辺の熱異常域に縮小が認められました。傾斜変動も概ね停滞していました。これらのことから、10月31日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。

 12月17日から21日にかけて火山性地震が一時的にやや増加し、22日には浅い低周波地震も発生しました。硫黄山火口内の熱異常域の高まりは継続し、活発な噴気域も継続しています。なお、硫黄山火口周辺での噴気活動の拡大は過去に活動がみられていた領域に限定されています。

 広域のGNSS連続観測では、2017年7月頃から霧島山を挟む基線での伸びが継続し、霧島山の深い場所でマグマの蓄積が続いていると考えられます。

○霧島山(新燃岳)(宮崎県、鹿児島県)

 以前から続いていた火口内の溶岩のわずかな膨張が2016年夏頃から停滞し、他の観測データと現地調査による火口内の状況に特段の変化がみられないことを確認して、5月26日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)へ引き下げました。


 その後、国土地理院によるGNSS連続観測結果では霧島山を挟む基線で7月頃から伸びの傾向が続きました。9月23日頃から火口直下付近を震源とする火山性地震が増加し、10月4日から振幅も次第に大きくなり、小規模な噴火の可能性があるとの判断で10月5日に噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。9日に火山性微動と傾斜変動が発生し、11日05時34分頃に小規模な噴火が発生しました(新燃岳の噴火は2011年9月7日以来)。火山性微動と傾斜変動は継続し噴火活動が活発化する可能性があるとの判断で、11日11時05分に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から3(入山規制)に引き上げました。噴煙は火口縁上2,000mまで上がり、降灰は宮崎県宮崎市、都城市、小林市、高原町で確認されました(聞き取り調査)。噴火は13日16時頃に一度停止した後、14日08時23分に再開し、噴煙は火口縁上2,300mまで上がりました。14日の降灰は、新燃岳周辺から北東側の高原町、小林市、西都市、新富町、西米良村、日向市、美郷町で確認されました(聞き取り調査)。15日には火山ガス(二酸化硫黄)の放出量が1日あたり11,000トンと急増し、さらに噴火が活発になる可能性があるとの判断で、15日19時00分に噴火警戒レベル3(入山規制)の警戒が必要な範囲を火口から概ね3kmに拡大しました。16日以降、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は減少し、噴火は17日の00時30分頃に停止したとみられます。これらの噴火で火口外に飛散する大きな噴石や火砕流は確認されていません。一方、低周波地震は引き続き発生していたことから、大きな噴石が火口から概ね2kmまで、火砕流が概ね1kmまで達する噴火は発生する可能性があるとの判断で、31日に噴火警戒レベル3(入山規制)の警戒が必要な範囲を火口から概ね2kmに縮小しました。

 火山性地震はその後は概ね少ない状態ですが、11月25日から29日にかけて継続時間の短い振幅の小さな火山性微動が時々発生し、29日から12月4日にかけて、火山性地震が一時的に増加しました。10月23日の上空からの観測(九州地方整備局の協力)では、火口内で噴火に伴う新たな噴出物の堆積と、複数個所から上がる白色噴煙を確認しました。

 広域のGNSS連続観測では、2017年7月頃から霧島山を挟む基線での伸びが継続し、霧島山の深い場所でマグマの蓄積が続いていると考えられます。

 2018年3月1日11時頃に再び噴火が発生し、6日から12日にかけて爆発的噴火が断続的に発生しました。6日から9日にかけて溶岩が噴出し、10日には爆発的噴火に伴い大きな噴石が火口から1.8kmまで達するなど噴火活動が活発化しましたが、その後噴火活動は低下傾向にあります(3月15日現在)。

○桜島(鹿児島県)

 2016年7月26日の昭和火口の爆発的噴火の後、しばらく噴火はありませんでしたが、南岳山頂火口では3月から、また昭和火口では4月から噴火活動が再開しました。

 昭和火口では、4月26日の噴火以降10月中旬頃まで活発な噴火活動が継続し、特に8月中旬以降は活発な状況でした。年間の噴火は394回(2016年:142回)、このうち爆発的噴火は77回(2016年:47回)で、5月2日の噴火では、桜島の西側から北西側の鹿児島市から日置市及びいちき串木野市にかけての広い範囲で降灰を確認し、9月29日と10月1日の爆発的噴火では大きな噴石が4合目まで達しました。


 南岳山頂火口では、3月25日の噴火で小規模な火砕流が南側へ約1,100m流下しました。噴火活動はその後、5月、8月~11月には活発な状態で経過しました。年間の噴火は12回(2016年:11回)、このうち爆発的噴火は4回(2016年:なし)で、大きな噴石が最大で5合目まで達しました。

 火山性地震の年回数は7,295回で、前年(1,656回)に比べ増加しました。8か月ぶりの噴火が発生した3月頃や、噴火回数の多かった8月及び9月頃に地震回数の増加がみられました。火山性微動の継続時間の年合計は約290時間で、前年(約32時間)に比べ増加しました。桜島島内の傾斜計、伸縮計による観測では、8月中旬以降の噴火活動の活発化に関連するとみられる変化や、11月13日の爆発的噴火に関連するとみられる山体の膨張、収縮の変化が捉えられました。GNSS連続観測では、姶良カルデラ(鹿児島湾奥部)の地下深部の膨張が続いています。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は3月まで少ない状況でしたが、3月25日の南岳山頂火口の噴火以降はやや増加し、7月中旬以降は概ね1,000トンで、12月は1,000~1,800トンとさらに増加しました。鹿児島県の降灰量観測データをもとに解析した2017年の総降灰量は、約91万トン(2016年:約87万トン)でした。

 これらの活動状況から、噴火警戒レベル3(入山規制)を継続しました。

○薩摩硫黄島(鹿児島県)

 1月1日から火山性地震が増加し、小規模な噴火の可能性があるとの判断で、5日に噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。7日から9日にかけて一時的に火山性地震の日回数が50回以上となりましたが、下旬からは徐々に減少し、2月5日以降は少ない状態で経過しました。地殻変動観測では特段の変化は認められず、1月から2月にかけての現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量はやや少ない状態で、1月5日及び2月21日の上空からの観測(鹿児島県の協力)では、噴煙や熱異常域に特段の変化は認められませんでした。これらのことから、2月24日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。

○口永良部島(鹿児島県)

 新岳火口の噴煙活動は白色で概ね火口縁上500m以下の高さで経過しました(最高:900m)。期間中に山麓から実施した現地調査、古岳山頂付近からの新岳の現地調査、及び12月14日の上空からの観測(海上自衛隊第1航空群の協力)では、火口周辺の地形や噴気及び熱異常域には特段の変化は認められませんでした。

 火山性地震は、10月までは概ね少ない状態で経過しましたが、11月以降は概ね多い状態となり、年回数は1,527回と昨年(435回)より増加しました。微小な火山性地震も6月頃から多い状態で経過しており、火山活動がやや高まった状態であると考えられます。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は、1日あたり30~500トンで2014年8月の噴火前(1日あたり概ね100トン以下)よりもやや多い状態で経過しています。4月以降は、1日あたり400トン以上が時々観測されるなど、わずかに増加しています(東京大学大学院理学系研究科、京都大学防災研究所、産業技術総合研究所、屋久島町及び気象庁による観測)。これらの活動状況から、噴火警戒レベル3(入山規制)を継続しました。

○諏訪之瀬島(鹿児島県)

 御岳火口では引き続き噴火が時々発生し、爆発的噴火は32回(2016年:77回)で、活発な火山活動が継続しました。火口付近に飛散する大きな噴石を時々確認しました。8月3日の噴火では噴煙が火口縁上2,800mまで上がりました(2003年の観測開始以降の最高、前年の最高2,700m)。概ね年間を通して夜間に高感度の監視カメラで火映を観測し、12月8日の集落(御岳の南南西約4km)での現地調査で肉眼でも火映を確認しました。十島村役場諏訪之瀬島出張所によると、集落や切石港(御岳の南約3.5km)で降灰を確認した日数は9日(2016年:20日)でした。12月14日の上空からの観測(海上自衛隊第1航空隊の協力)では、火口周辺の状況に特段の変化は認められませんでした(前回:2016年5月31日)。これらの活動状況から、噴火警戒レベル2(火口周辺規制)を継続しました。


コラム

■海洋気象観測船「啓風丸」で観測された西之島の火山活動

 火山活動の解明には火山表面で発生する現象を観測することが有用です。また、火山活動の評価には、火山の火口から放出される噴煙に含まれる様々な成分の火山ガスのうち地下のマグマと強い関係がある二酸化硫黄の量を測定するが重要です。

 小笠原諸島の活火山西之島では、平成25年(2013年)11月から活発な噴火活動が継続しました。この噴火により噴出した膨大な量の溶岩によって、新たな陸地を形成しその面積は約3平方キロメートルにも拡大し高さは130メートルを超えましたが、平成29年(2017年)8月頃には活動を停止しました。

 西之島は人が住まないため電気も通信線もないうえ、活発な噴火が続くため観測装置を設置して監視することも困難です。そこで、活躍するのが船舶です。気象研究所では気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」を用いて、西之島の専門的な観測を断続的に実施しています。

西之島の噴火の様子

 平成29年5月の観測では3つの特徴的な噴火のタイプであることがわかりました。具体的には、1時間に1回程度大きな音と空気の振動を伴って発生する爆発的な噴火(ブルカノ式噴火)、1分に1回程度灼熱した溶岩の塊を噴き飛ばすやや弱い噴火(ストロンボリ式噴火)、しずしずと流れ出る溶岩流です。上図左は、西之島を夜間の撮影で捉えたストロンボリ式噴火と溶岩流の様子です。上図右は、温度分布を測定することができる特殊なカメラ(熱赤外カメラ)で撮影した西之島の様子です。山頂からの噴煙や飛び散る噴石、山頂近くから流れ出して海岸に流入する溶岩流の温度が高いことがわかります。

 また、断続的に二酸化硫黄を観測したところ、噴火の停止期間には検出されず、噴火期間中には1日あたり400~900トンもの量が放出されていることがわかりました(下図)。この二酸化硫黄の量は、我が国で長期的に活発な噴火活動が続いている桜島(鹿児島県)の最近の量と同じレベルでした。

 これら撮影や二酸化硫黄の定量的評価の他にも、火山で発生する地震活動を捉えるために観測船で海底地震計を海底に沈めて臨時観測を行うなど、様々な手法で更なる火山活動の解明を試みています。こうした成果は、離島火山が噴火した際の火山監視手法として、今後活用されることが期待されます。

西之島から放出される噴煙中の二酸化硫黄の時間変化

5章 黄砂、紫外線など

1節 黄砂

 気象庁では、国内59か所(平成30年(2018年)3月31日現在)の気象台や測候所で、職員が上空の状態を目で確認して黄砂を観測しています。平成29年(2017年)の黄砂観測日数(国内のいずれかの気象台や測候所で黄砂現象を観測した日数)は3日でした(平年は24.2日)。黄砂観測日数はその年の黄砂の頻度を表す指標のひとつですが、年ごとの変動が大きく、長期的に増減しているのかどうか確実に知るためにはもっと観測データを蓄積することが必要です。

日本における年別の黄砂観測日数(昭和42年(1967年)~平成29年(2017年))

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 日本への黄砂の飛来は、例年3月~5月に集中しています。この時期は、①東アジアの砂漠域のような黄砂の発生源となっている地域で地面を覆う積雪がなくなる一方、まだ植物が芽吹いていないため乾燥した地面がむき出しで、砂じんが舞い上がりやすいこと、②大量の砂じんを舞い上げ、運ぶ強風の原因となる低気圧が通りやすい季節であることから、黄砂が多く飛来します。この時期以外にも、黄砂の発生源となっている地域が乾燥していて上空の風が日本へ向いて吹いているなどの条件がそろえば、日本に黄砂が飛来します。

平成29年(2017年)の月別黄砂観測日数

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 平成29年(2017年)は4月まで国内で黄砂が観測されず、5月に初めて観測されました。1月から4月まで観測されなかったのは、統計を開始した昭和42年(1967年)以降初めてのことでした。


2節 オゾン層・紫外線

 上空に存在するオゾンは、フロン等による大規模なオゾン層破壊の影響で、1980年代から1990年代半ばにかけて世界的に大きく減少しました。その後は、国際的なオゾン層保護の取り組みにより、わずかに回復しています。国内でも、つくばなどの地点で地上から上空までのオゾンの総量(オゾン全量)を観測していますが、同様な傾向が見られます。また、オゾン層破壊の指標である南極オゾンホールの2017年の面積は、成層圏の気温が例年より高くオゾン層破壊が進まなかったため、最近10年間の平均よりも小さい状態が続き、最大面積(1,878万平方キロメートル(南極大陸の約1.4倍))は1988年以来の小さな値でした。

南極オゾンホール

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 紫外線の人体への影響度を示す紅斑(こうはん)紫外線量は、国内では観測を開始した1990年代初めから緩やかに増加しています。一般に、上空のオゾン量が減少すると地表に到達する紫外線は増加しますが、この期間、国内ではオゾン量は減少していません。大気中の微粒子が減少して紫外線が地上に到達しやすかったり雲が少ない天候が多かったことなどが紅斑紫外線量の増加の原因と考えられています。

日本国内の紅斑紫外線量年積算値の経年変化

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3節 日射と赤外放射

 気象庁では、日射と赤外放射について地球環境や気候への影響を把握するため国内5地点(札幌、つくば、福岡、南鳥島、石垣島)で精密な日射放射観測を行い、全天日射、直達日射、散乱日射および下向き赤外放射の経年変化を監視しています。

全天日射量の経年変化

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 世界の多くの地域における全天日射量は、1960年頃から1980年代後半まで減少し、1980年代後半から2000年頃まで急激に増加し、その後は大きな変化が見られないという傾向が報告されています。

 日本における変化傾向(国内5地点平均)を見ると、1970年代後半から1990年頃にかけて急激に減少し、1990年頃から2000年代初めにかけて急激に増加し、その後は大きな変化は見られません。これは、世界的な変化傾向とほぼ整合しています。

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