長官会見要旨(令和7年3月19日)

会見日時等

令和7年3月19日 14時00分~14時25分

於:気象庁記者会見室

発言要旨

 冒頭私から、何点か述べさせていただきます。
 まず、今月で、平成23年東北地方太平洋沖地震による東日本大震災から14年を迎えました。
 改めまして、お亡くなりになった方とそのご家族に対し、心よりお悔やみ申し上げます。
 この東日本大震災の被災地でもあります、岩手県大船渡市の林野火災についてはじめに申し上げたいと思います。
 改めて、この度の林野火災により、お亡くなりになった方のご冥福をお祈りするとともに、被災された全ての方々に心からお見舞い申し上げます。
 大船渡と申しますのは、気象庁にも非常にゆかりがございまして、以前はロケット観測をしておりましたし、今現在は大気環境観測所というところで環境観測をしております。この大気環境観測所も平成31年までは有人で観測しておりまして、地元の方に非常にお世話になりました。そういう意味でも、今回大船渡市でこのような林野火災があり、大きな被害が出たということは、私自身としても非常に残念に思っているところでございます。
 この林野火災に対応するべく、気象庁では、盛岡地方気象台から、岩手県庁や大船渡市へJETT、気象庁防災対応支援チームを派遣するなど、自治体や関係機関の防災対応の支援を積極的に行わせていただきました。
 引き続き、気象庁といたしましては、被災地のニーズを的確に把握し、適時の情報提供など、復旧活動に資する支援を続けてまいります。
 次に、3月の気象等の注意喚起についてでございますが、これは先月も申し上げたところですが、今年は特に山地で積雪が多いところが残っております。今現在でも、2m前後の積雪が山間部を中心に残っております。これから暖かくなってまいりますので、雪崩はもちろんのこと、融雪による土砂災害、それから河川の増水などが起こる可能性が高まります。引き続き、ご留意いただきますようお願いいたします。
 それからいくつか最近のトピックもしくは会議等の結果をご報告申し上げます。
 まず、1つ目は、台風情報の高度化に関する検討会、この中間とりまとめが、14日に公表されました。具体的には2つの大きな柱がございました。一つは、台風発生の可能性について長期的な見通しの発表をするということ、それから、もう一つは、発生後の台風の情報をきめ細かく出すという内容になっています。引き続き、検討会での議論を進めるとともに、情報の高度化の取り組みを行ってまいります。
 次に、17日に行われました交通政策審議会気象分科会でございます。まず、現在我々がよりどころにして業務を行っています、2018年に開かれた気象分科会で取りまとめました、「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」というものがございます。昨年3月の分科会にて、これらを現在にあった形で、重要政策は何かということを抽出して、皆さんにお示ししたところです。
 その時の内容は、現在、特に推進している線状降水帯予測精度向上、地域防災支援の強化に加えて、今後重点的に取り組むべき課題として提示された5つの施策、すなわち「台風情報の高度化」、「気候変動情報の高度化」、「大規模地震・噴火対策」、「先端AI技術の活用」、「面的気象情報の拡充」を示させていただきました。今回は、これらの検討の進捗についてご報告し、どのように今後それを強化していくか、また気を付けるべきことは何かというところをご意見いただきました。
 先生方から頂いた意見で特に目立ったのは、総論的に情報を高度化する、もしくは情報を作る、技術開発をするということは良いが、それらがその情報のユーザーの視点に立っているか、ユーザーはどのような情報を望んでいるのか、その情報を使うことによってユーザーの何がどう変わるのか、という点にもっと目を向けて中身を考えた方がいいのではないかというようなご指摘を何人かの先生から頂きました。そういう点に気を付けて、各柱の内容について必要な内容を加え、5月・6月頃になりますが、この結果を報告したいと考えています。また、柱のうちの一つの気候変動に関しましては、具体的に中村分科会長からご指摘を受けました。具体的には2つのことになります。10年規模、数年先の近未来予測と呼ばれてましたが、10年規模の自然変動に関して、情報を充実させるということ、それから、季節予報と短期予報の間の大体2週間先から1か月の間ぐらいの情報について、数値シミュレーションの精度も高まってきたことから、いろいろ新しい情報をつくれるのではないかというご指摘をいただきましたので、それも内容に含めていきたいと考えております。
 それから、昨日18日、異常気象分析検討会が開かれました。これは昨年の夏の異常気象も分析されましたけれども、改めて、夏の高温について、それからこの冬の天候の特徴、要因を分析していただきました。昨年の夏については、要因として上空の偏西風の北への蛇行、日本近海の高い海面水温、そしてバックグラウンドとして地球温暖化、そういうことが主要な点としてまとめられました。一方、この冬の低温については、その特徴として一度寒気が入るとそれが長続きして、日本海側を中心に各地で大雪になりましたが、この要因についても分析いただきました。
 その要因として、高緯度で強く吹く亜寒帯の偏西風、寒帯前線ジェット気流と言いますが、これと中緯度で強く吹く亜熱帯の偏西風、亜熱帯ジェット気流がともに日本付近で南に蛇行する傾向にあり、北極の上にある寒気が日本付近に南下して、冬型の気圧配置が持続しやすかったこと、更に、その状態を維持させるものとして、2月上旬や中旬後半から下旬前半には、フィリピン付近の積雲対流活動が特に活発となったことの影響等により、2つの偏西風の南への蛇行がさらに強まり、日本付近に強い寒気が南下したことがあげられ、これに伴い、日本海側を中心に各地で大雪になったと分析されました。詳しくは昨日の報道発表資料に載っておりますのでご覧いただければと思います。
 また、大雪については、今期は日本海側の大雪や十勝でも大雪がありました。これらについては、地球温暖化の影響を評価するイベント・アトリビューションという手法を用いました。文部科学省気候変動予測先端プログラムの合同研究チームが、速報的に2月上旬の日本海側の大雪と2月3日~4日の北海道十勝地方の大雪について評価を行ったところ、地球温暖化の影響によって、降雪量が増加した可能性が示唆されました。温暖化の影響で、気温が上がり大気中の水蒸気が増えていたということで、温暖化の要素を入れる場合と入れないで差が出るという結果にもなったということです。
 次に、来週になりますけども26日に「日本の気候変動2025」これを出すことにしております。これは前回2020年に公表いたしましたけども、その内容を踏襲しつつも、今回は、極端な現象、大雨とか高温、その発生頻度とか強度の変化などを新たに掲載しております。地球温暖化と異常気象というのは定性的に以前から関係あると言われておりますけれども、今回は定量的にその頻度がどれぐらい増えるのかということも取り入れられております。詳しくは、来週26日に発表いたします。
 そして最後に、気象業務150周年に関連しまして、上野の国立科学博物館で企画展が開かれるというお知らせでございます。これは来週3月25日から6月15日まで国立科学博物館で開かれますが、企画展の名前、テーマは「地球を測る」というものです。国立科学博物館の日本館1階中央ホールと企画展示室で開かれます。これまで我々が使っていた観測装置なども展示されますけれども、それから私も含めて、「測ることを続けることの重要性」、「150年間で何が変わったのか」ということも講演したり、展示したりするというものでございます。高校生以下は無料でございますので、若い人にぜひたくさん来ていただきたいと思っています。
 長くなりましたが私から以上です。

質疑応答

Q:今長官言及された「日本の気候変動2025」ですが、せっかくコメントいただいたので、5年前の知見とか見立てと比べてやはり今回、さらにどこが状況悪くなっているのかですね。その辺を気になって資料を見ているとこなのですけれども、気になる内容ばかりだとは思うのですが、特に長官がこの部分が悪くなっているなと、何か気になっている点がございましたら、伺えますか。

A:まず、一番皆さんもすぐ目につくと思いますけども、100年あたりの気温の上昇率ですね、日本付近のそれが2020のときの1.24から1.4度になりました。長い期間の平均ですので、それが5年間でこんなに変わるっていうのは、ちょっと特別な状況だなと私には感じられました。ご案内の通り、昨年の夏、それから一昨年の夏というのは非常に高い気温になりました。グラフ見ていただきますとこの2年っていうのは平均の上がり方のグラフの棒に比べても極端に離れて、高温側に振れております。最近この異常な夏の高温が、数年後で終わるのかどうか、まだ見てみないとわかりませんけども、最近の夏の高温が相当響いて100年あたりの上昇率が非常に高くなったということは一つあります。それからこれは内容的に少し興味深いのですけれども、日本の南側の海洋に溶け込んでいる酸素の濃度が、減ってきているということもわかりました。実は外洋ですので、その傾きというのは非常に小さいですけども、我々が観測船で日本海も観測しておりますが、そういった閉鎖的な海域ではより酸素の減り方が激しくて、それが外洋でも見えたと言っています。水産への影響という部分は私自身、知見がございませんけれども、水産関係の方もおそらく気にされることじゃないかなと思っております。それから最初に申し上げた通り、頻度について、例えば、1900年頃に100年に1回現れるような高温とか、100年に1回現れるような異常な降水量、そういうものの発生頻度も非常に増えているということが見えてきました。そういう意味でも異常気象が増えている。温暖化によって増えているということが定量的に見えてきました。温暖化を止める取り組みは非常に大事だと思いますけれども、止めるのは非常に難しいと思いますので、異常気象が増えている事も定量的にわかってまいりましたので、それに備える。適応していく計画、それから対策が非常に大事ではないかと感じるところでございます。

Q:もう一点伺います。気候変動に関して、やはり憂慮すべきことが今アメリカの政権交代ですね、かなり乱暴に政府機関の人員削減をしたり、あるいは予算等のこれから削減されるかもしれない、何が起きるかわからない状況になっていて、特に気候変動への対策がアメリカで今後どうなるのか、あるいは気象業務がどうなるのかですね、非常に危惧されると思うのですけどもアメリカがやってきたことをやらなくなると、当然世界が影響を受けますし、日本も影響を受けますし、日本の気象庁もいろいろ影響を受けるかもしれないという中でいろいろ憂慮されていることも長官の中におありじゃないかと思うのですがいかがでしょうか。

A:私自身、アメリカの気候変動に関する取組がどうなっていくのかということはよくわからない部分も多々あります。ただ、温暖化に関してはサイエンスの部分についてアメリカが非常にリーダーシップをとり、また非常に大きなプロジェクトも実施し、世界をリードしているということは事実でございます。我々も一緒にやっていてパートナーとしても、非常に有意義なパートナーだなと思っておりますけれども、その部分がどう変わるかわかりませんけども、大規模な観測、それから予測技術の向上と、これからもアメリカにはリーダーシップをとっていただきたいと思います。また、我々日本も重要な役割を果たしていくということになろうかと思います。我々自身は温暖化に伴う異常気象の観測予測等々を引き続きしっかりとやってまいりたいと思いますし、国際的な中でも、リーダーシップをとってまいりたいと思います。もしかしたら我が国の観測予測技術それからモニタリングの重要性というが非常にまた増していくと思いますので、そういう点一生懸命やってまいりたいと思っております。

Q:北海道・三陸沖後発地震注意情報がですね、やっぱりそういった名称、まだ一度も運用されていない、出されていないというところで、認知度の問題もあって名称変更というところも指摘されていますけれども、これの受け止めとですね、今後こういった名称を変更していくのであれば、内閣府が行うのかそれとも気象庁も、どうその検討に参加していくのかというところがあれば教えてください。

A:坂井防災大臣が閣議後会見で名称について、普及がなかなか進んでいない要因ではないかというご発言された事は承知しております。この北海道・三陸沖の情報は、最終的には、住民の方、自治体の方がこの後発地震についてしっかりと対策をとっていただくということが一番の目的だと思います。名前そのものを記憶することが目的ではないと思いますので、最終的に防災対応をしっかりとっていただくにはどのような形がいいのかということは内閣府とも今後議論を進めてまいりたいと思います。ただ、実際、今の名前自体もそういう観点で、議論されて決まったと承知していますので、その点、この先また考え方が変わるのかどうかそれは内閣府とそれから有識者の方々とのいろんな相談で決まっていくのかなと思っているところでございます。我々だけということではなく、最終的に防災対応にとってどういう形がいいのかということですので、内閣府がこのスキームについても全体について責任持っておりますので、内閣府と一緒に考えていくことになろうかと思います。

Q:ちなみにもう4月から次の年度ですけれども、内閣府とともに有識者と新たにまた検討会を作るであるとか、そのあたりは何かこの具体的なイメージや動きはあるのでしょうか。

A:まだ具体的にどうしていくということ自体は内閣府から連絡はいただいておりません。今後動きがあれば、適切に対応していくことを考えております。

Q:「日本の気候変動2025」に関して伺いたいのですけれど、先ほど長官から温暖化の異常気象への影響が定量的に見えてきたという今回の意義を教えていただきましたけれども、改めて今回の改定といいますか、最新版が出ることでどういう使い方をされてほしいかと、特にこういう人たちに、とか将来的にこういうふうに活用してほしいとか、その辺りを改めて伺ってもよろしいでしょうか。

A:前回もそうだったのですけども、「日本の気候変動2020」のときもそうですが、「日本の気候変動2025」も地域別の資料も出てまいります。先ほども申し上げた通り、気候変動に適応していく必要がより一層強くなってまいりました。農業もそうですし、いろんな産業もそうだと思います。そういう意味でこの情報をですね、我々とか、省庁の関係者だけではなく、全国のいろんな地域の関係者にしっかりとお伝えして、対策が必要であること、またどのような対策をとっていくのか考える一助にしていただければというふうに考えております。そういう意味で、我々気象庁は地方に組織がございますので、そういうところからもしっかりと地元に説明をしてまいりたいと思っています。それからもちろん高度な利用される方、気候変動に関して、例えば農業の研究者とかですね、そういう方にはそういう方への詳しい情報をお伝えするというようなチャンネルもしっかり持ちたいと思っております。

(以上)