長官会見要旨(令和6年9月18日)

会見日時等

令和6年9月18日 14時00分~15時00分

於:気象庁記者会見室

発言要旨

 8月に定例会見がなかったので2ヶ月ぶりということもあり、こちらからの話がすこし長くなりますが、冒頭私から3点述べさせていただきます。
 1点目は、7月・8月の大雨の振返りについてです。ここ2か月間ほどの間に、梅雨前線や台風による大雨がありました。
 はじめに、これらの大雨・暴風等でお亡くなりになられた方のご冥福をお祈りいたしますとともに、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。
 また、本日は、台風第14号が沖縄地方に接近しております。沖縄本島地方と大東島地方では高波に警戒し、強風などに十分注意していただきたいと考えています。
 これまでの大雨についてですが、その影響が長期かつ広範囲に及んだ台風第10号についてお話ししますと、この台風は動きが遅くて、また台風に加えて太平洋高気圧の縁を回る暖かく湿った空気の影響が続いたということで、西日本から東日本の太平洋側を中心に記録的な大雨となり、各地で線状降水帯が発生しました。また、台風が非常に強い勢力で九州南部に接近したため、奄美地方を除く鹿児島県の市町村に、暴風、波浪、高潮の特別警報を発表しました。さらに宮崎県をはじめとした全国各地で竜巻等の突風も発生しました。
 気象庁では、この台風の接近に伴い、防災気象情報の発表はもちろんのこと、各地の気象台からは、自治体へのホットラインやJETT(気象庁防災対応支援チーム)の派遣など、積極的に自治体の防災対応の支援を行ったところです。
 今回の台風の進路については、太平洋高気圧が北及び東に偏っていたこともあり、日本付近では進路が定まりにくい状況であり、さらに上空の寒冷渦の周辺を進行したため、日本の南海上をゆっくりと西寄りに進むこととなりました。その後、台風は九州に上陸しましたが、上空の偏西風は日本のさらに北を流れていたため、日本付近で台風を動かす風が弱く、台風は引き続きゆっくりとした速度で進むこととなりました。
 このように台風の進路は様々な気象要因で決まるため、それら要因のわずかな違いで予測が変わる場合があります。今回の台風は進路の予測が新たになる度に徐々に西寄りに変化するとともに、日本に接近・上陸するタイミングが当初の予測より遅くなり、台風が日本に接近した後も、ゆっくりした速度で東に進むことは予測できていましたが、進路の不確実性が大きい予測となりました。この点は、気象庁の予測だけではなく、欧米の予測結果も同様な傾向があったところです。
 気象庁としましては、今回の台風についてしっかりと分析・検証を実施するとともに、台風の予測精度向上にも引き続き取り組んでまいります。
 また、9月4日より「台風情報の高度化に関する検討会」を開催しており、国民の皆様にとって、台風の特徴を踏まえた防災対応がとれるよう、台風情報の改善についても取り組んでまいります。
 引き続き、台風シーズンですので、気象庁や各地の気象台が発表する最新の防災気象情報等に十分注意をいただいて、早めの対応、万全の対策をとっていただきたいと考えております。
 2点目は、「南海トラフ地震臨時情報」の初めての発表についてです。
 8月8日の日向灘の地震を受け、気象庁では「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」を臨時に開催しました。検討の結果、「南海トラフ地震の想定震源域では、大規模地震の発生可能性が平常時に比べて相対的に高まっていると考えられる」と評価されたことから、国の基本計画等に基づき、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を、令和元年5月の運用開始以降初めて発表しました。
 それを受け、その後1週間、日頃からの地震の備えを再確認するなど、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」に伴う政府としての特別な呼びかけがなされました。
 その後、国の基本計画等の基づき、8月15日に特別な注意の呼びかけは終了となりましたが、南海トラフ沿いでは大規模地震の発生の可能性がなくなったわけではないことに留意し、「日頃からの地震への備え」については、引き続き実施していただきたいと考えております。また、南海トラフ沿いの大規模地震だけでなく、我が国ではいつどこで強い揺れを伴う地震が発生してもおかしくありませんので、今回の南海トラフ地震臨時情報発表をきっかけに、国民の皆様が地震への備えを改めて確認いただく機会になればと考えています。
 また、今回が初めての発表でしたので、気象庁としても一連の対応を振り返るとともに、「南海トラフ地震臨時情報」についてより深くご理解いただくため、内閣府等とも連携して一層の普及啓発に努めてまいります。
 3点目は、概算要求についてです。
 8月27日に来年度の概算要求の内容について公表したところです。今回の要求では、次の三本の柱を立てております。
 一本目の柱は、「次期静止気象衛星の整備」です。大気の三次元観測機能など最新技術を導入した次期静止気象衛星は、線状降水帯や台風の予測精度向上のための切り札であり、引き続き、令和11年度の運用開始に向けて着実に整備を進めることが重要と考えております。
 二本目の柱は、「線状降水帯・台風等の予測精度向上等に向けた取組の強化」です。今年の夏も多くの線状降水帯や台風による大雨が発生しましたが、その予測精度向上等に向けて、アメダス更新にあわせた湿度計の整備や気象レーダーの二重偏波化による更新強化、高層気象観測設備の更新を進めるとともに、住民の避難行動を一層支援するための防災気象情報の改善や、自治体の防災活動を直接支援する気象防災アドバイザーの拡充に必要な予算を盛り込んでおります。
 三本目の柱は、「大規模地震災害・火山災害に備えた監視体制の確保」です。「令和6年能登半島地震」等の津波防災の知見を踏まえ、巨大津波計の追加整備などによる津波観測体制の維持強化、地震観測施設の更新、また、火山監視・観測用機器の整備として、鹿児島県中之島の常時観測体制の構築などに必要な要求を盛り込んでおります。
 組織につきましては、当庁における先端AI技術の活用戦略を統括する「AI戦略企画官」の設置を要求するとともに、大規模噴火時の広域降灰対策に資する新たな降灰情報に関する業務を行う「火山灰情報企画調整官」の設置を要求しているところです。
 定員につきましては、昨年度に引き続き、地方気象台の地域防災支援体制の強化に係る要求を行うとともに、6月の「防災気象情報に関する検討会」の最終報告を踏まえ、シンプルでわかりやすい防災気象情報体系の再構築に向けた体制強化に関する要求などもしているところです。
 線状降水帯や台風、地震、津波、火山噴火など、様々な自然災害から国民の皆様を守るため、観測・予測の技術を向上させることで、お伝えする情報を洗練していくこと、更には我々の情報を活用いただく市町村等の防災対応を支援することは、絶え間なく取り組むべき課題と考えております。
 今後、予算編成作業において、政府全体としての検討が進められますが、気象庁としては、必要な予算と人員の確保に向けて全力で取り組んでまいります。
 私からは以上です。

質疑応答

Q:冒頭のお話にもありました「南海トラフ地震臨時情報」の関係で伺います。改めて、初めての発表でしたので、課題と感じた点、特に今回は国民の関心はこの情報を受けてどのように行動すればいいかというところだったかと思うのですが、制度や防災対応の呼びかけを担う内閣府が当日の会見には同席しなかったので、そのあたりの情報発信の改善点について、改めて長官のご所見をお願いいたします。

A:今回の「南海トラフ地震臨時情報」の発表にあたりましては、あらかじめ定められていた「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」、いわゆる基本計画等の考え方に沿って対応するとともに、「南海トラフ地震臨時情報」発表以降も関連解説資料や報道発表等により丁寧な解説を行うことに努めてきたところです。今回実際に情報を発表したことで結果的に情報について、一定の理解が進んだと考えていますけれども、引き続き、「南海トラフ地震臨時情報」について、より深くご理解いただくことが課題と考えておりまして、内閣府等とも連携して、一層の普及啓発に努めていきたいと考えています。今後気象庁としても、今回の情報発表に関する対応について振り返りを行っていくということと、今般の情報発表を受けた社会の対応などに関しては、政府としても中央防災会議の南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループにおいて振り返り、検証されていくと承知していますので、このワーキンググループに政府の一員として、気象庁もしっかり協力してまいりたいと考えております。
 それから内閣府の同席のことについてお話がありました。ご指摘の内閣府が気象庁会見に同席するというところについては、8月10日以降、気象庁報道発表に関する共同取材であるとか、それから8月15日の政府としての特別な注意の呼びかけの終了の際の記者会見は、内閣府と合同で行ったというところです。これは非常に有効だったと考えていますが、ご指摘があった通り、最初の8月8日に「南海トラフ地震臨時情報」を発表した時や9日のところについては内閣府が同席しなかったところです。これについては、その当時、これは内閣府がいた方が良いという判断をし、気象庁から声かけをして、10日以降同席することとなったということです。今お話ししたところも含めて、振り返りをして、今後同様な事例があった場合に、内閣府と最初の情報発表のときから一緒に会見を行うとか、より一層丁寧な解説ができるよう連携を強化していきたいと考えております。

Q:ありがとうございます。話題変わりましてもう一点。気象予報士が誕生してから30周年の関係で伺います。8月28日に第1回目の予報士試験が始まってから30年となりましたが、合格者も1万人を超えて、それぞれご活躍されています。ただ、気象業務に関わっている人が少ないと言われていることと、なかなか独自の予報というものはなかなか難しく、気象庁の情報を解説するというところにとどまっているという見方もありますが、資格保有者の今後の活躍や、期待することや制度自体のあり方についてご所見をお願いします。

A:今お話があった通り、平成5年、1993年の気象業務法の改正によって、予報士試験が実施されるようになって、今年で30年を迎えることとなりました。この間に約12,000人気象予報士が誕生して、民間による予報業務等を支えていただいているところです。先ほど独自の予報をではないというお話もありましたけれど、確かに一部の許可事業者の中には、せっかく許可を取っているのですが、実際には独自の予報をしていない事業者というのもあるということは承知しています。ただ、多くの許可事業者におかれては、多様なニーズに対応した独自の予報というものを数多く実施していただいていると承知しております。これによって国民生活だけでなく、交通・産業といった多くのビジネス分野でのきめ細かな気象サービスの実現に貢献していただいているというところです。また独自の予報そのものに関わっているということではなくても、例えば、テレビなどでの気象キャスターによる気象解説は、大体気象予報士の資格を持っている方が行っている場合が多いと考えていますけど、その知識をベースにして、国民に対してわかりやすい情報提供に貢献いただいていると考えています。さらに「気象防災アドバイザー」による自治体等の防災対応の支援であるとか、日本気象予報士会などが取り組む出前講座といった普及啓発活動など防災教育の分野を初めとした様々な分野でも、気象予報士にご活躍いただいていると考えています。その他、近年ではDX社会の進展もあり、データ利活用の分野で、「気象データアナリスト」といった形の活躍も期待されているところです。気象庁としてもこのような活動を全般的に引き続き支援してまいりたいと考えております。

Q:今月御嶽山の噴火から10年というところで、火山監視であるとかの変化について、いくつかお伺いしたいのですけれども、まず火山監視の体制であるとか噴火予測の環境が、この10年でどう進展したのかという長官のこの所感、受け止めをお願いします。

A:今お話あった通り、来週9月27日で、平成26年、2014年の御嶽山の噴火から10年となるところです。改めまして、御嶽山の噴火により亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心からお見舞いを申し上げたいと思います。10年というところですけれど、この噴火における課題については専門家等からなる検討会が開催され、その報告を踏まえて、例えば、その火口の周辺に観測機器を設置するなどの観測体制の強化、それから火山監視・警報センターの設置などの監視評価体制の強化、さらに火山監視評価を実施する人材の育成といったものを実施してきたところです。

Q:観測体制についてなのですけど、先ほど概算要求の中でも常時観測体制の話もあったと思うのですが、全てを監視するというのも、なかなか予算的にも難しいのかなと思うのですけれども、その辺り、この監視の拡大をどう今後進めていくのか、やっぱり難しい面があったら、そこは何か予算であるのか、人員なのか長官としてのその難しさの背景にあるもの何かあれば教えてください。

A:火山防災のために監視および観測の体制の充実等を図る必要がある全国の50の常時観測火山において、様々な観測機器を設置して24時間体制で監視・観測しているというところです。先ほどお話しました中之島の件ですけど、本年8月1日に中之島に係る鹿児島県および鹿児島県鹿児島郡十島村が火山災害警戒地域に指定されたというところがありますので、これを踏まえて、中之島についても常時観測火山としての体制を整えるべく予算要求をしているというところです。常時観測火山以外の火山はどうなっているかというと、基本的には広域的な観測網も活用して地震活動や地殻変動に変化がないかを確認している。さらには必要に応じて機動観測を実施するといった形で、火山活動の変化の把握に努めているところです。その他、人材育成も進めておりますけども、その他の火山について、さらに常時観測火山を増やす予定は今のところはないところです。ただ、それは先ほど拡大しにくい理由があるのかというお話がありましたけれど、拡大しにくい理由があるというよりも、必要なものについては体制を強化していくということだと思います。ですから、今後新たにその火山災害警戒地域に指定される火山があれば、それは必要な適切な火山監視観測体制を検討するということになっていくと考えております。

Q:最後になんですけれども、御嶽山の噴火の後に確かにその提言で、気象庁に対するといいますか、この火山監視の課題などが提言されたかと思うのですけれども、この10年でその提言を受けて当時明らかになった課題がどう改善に向かってきたのか、現状はどのあたりまで来たのか最後に受け止めだけお願いします。

A:具体的には課題として考えられたのが、山頂付近での観測体制が十分ではなかった、それから、火山活動を総合的に評価する体制が十分ではなかった、それから噴火前に発表した火山防災情報がわかりやすい情報であったのかどうか、どのようにその情報を伝えたのか、それから火山専門家や防災関係機関との連携は十分なったかと言ったようなご指摘があったと理解しています。それを踏まえて、先ほどありましたように、火口周辺の観測体制の強化とか、総合的評価という意味では火山監視・警報センターを設置したり、さらに人材の育成といったものを進めてきたりしてきたところです。どこまで来たかというのはなかなか難しいところです。あるところまでできるようになれば、もっと上を目指すということかと思いますので、いま何合目まできましたというような形でお答えできるものではないと思います。ただ、これらの取り組みによって、例えば火口周辺の観測体制を強化したということで、火口周辺の微小な地震活動といった、より細かい火山活動の変化を捉えられる事例は出てきました。こういった事例の蓄積ということが非常に大事なところでありまして、データをその評価に繋げるという意味ではまだそのデータの蓄積が足りないと考えています。ですから、今後もデータを蓄積して、それをさらに有効に活用して、より適切な評価ができるということを目標としていきたいと考えております。

Q:関連して御嶽山の噴火から10年ということで質問させてください。今年の4月に火山調査研究の司令塔となる火山本部が文科省に設置されました。引き続き、火山の監視業務ですとか、警報の発出というのは気象庁が担っていくと思うのですけれども、今後その火山本部との連携というものはどういったことを考えていらっしゃるのかご所見をお聞かせください。

A:今ありました通り、活動火山対策特別措置法、いわゆる活火山法が改正されまして、本年4月に火山調査研究推進本部が設置され、その下部組織に火山調査委員会というものがあって、そこで火山活動に関する総合的な評価も実施されることとなりました。気象庁としても、火山本部の総合的な評価というものについて、気象庁の知見で関わっていくということになりますし、火山本部が推進する調査研究の成果については、今度は気象庁における火山業務に活用することになると考えているところです。

Q:先ほどの質問でもあったと思うのですけれども、御嶽山の噴火を受けて気象庁では国内の常時観測火山の観測点の更新というところに非常に積極的に取り組んできたというふうに思うのですが、専門家の方たちも話を聞くと気象庁の取り組みというのは評価しつつも、やっぱりまだまだその観測点の機器の更新や整備というのは、追いついていないという話も拝見します。なかなかその予算的な制約がある状況であると思うのですが、今後のその観測点の整備やその更新の方針についてお考えを聞かせください。

A:常時観測火山は50あって、今後中之島を加えていこうとしているわけですけど、老朽化した観測点については、計画的に更新をするというところでありまして、今後もしっかり計画的な更新により監視・観測が継続できるようにしていきたいと考えております。また、火山本部において「火山に関する観測、測量、調査および研究の推進に係る総合基本政策」であるとか、それから「火山に関する総合的な調査観測計画」というものが検討されることになりますので、これらの検討にしっかりと協力して、気象庁のみならず我が国として、観測監視体制というところの構築に貢献してまいりたいと考えております。

Q:最後に、大学が各火山で持っているその観測点についてなんですけれども、これまでの研究の積み重ねがある大学の観測点というのが、2004年の国立大学の法人化に伴って弱体化に歯止めがかかっていないという声もあります。一部で気象庁が大学の観測点についても更新を肩代わりしたような話も聞こえてくるのですけれども、今後その大学の観測の支援や連携についてお考えはいかがなのかお聞かせください。

A:先ほど、私は我が国としても、その観測監視網の構築に貢献していきたいと申し上げたところですが、大学もまさにその観測網の一翼を担っておられ、そのデータについては全てではありませんけど、相当数、気象庁の業務に活用させていただいているところです。そういった意味で、その大学の観測点というものも非常に重要と認識しています。気象庁では大学による観測機器についても、例えば、データ提供いただいている機器については、データに異常があるということは、気象庁で見ていればわかることがありますので、その場合は各機関にその旨ご連絡する。それから気象庁の職員がそれぞれの火山に出向く際には、気象庁の観測機器だけではなくて、大学の観測機器についても、動作状況の確認を行うことや、必要があれば、電源の入れ直しなどで観測を復旧させるなどの対応をする場合もありますし、そういう作業面では、可能な限り協力するということにしています。また、火山本部においても先ほどお話した総合基本政策や調査観測計画の検討の中で、国全体の観測体制について議論がされており、この中で、大学の火山観測点についても検討されると承知しています。気象庁では、今後とも大学等との協力関係を継続するとともに、火山本部における検討も踏まえて、連携をさらにしていきたいと考えております。

Q:「南海トラフ地震臨時情報」についてなのですけども、気象庁としても一連の対応を振り返るということをおっしゃっていたかと思うのですが、内閣府でやっているワーキングで南海トラフ地震のアンケートや、検証作業を進めていると思うのですけれど、それとはまた別に、気象庁独自で何らか南海トラフ地震臨時情報の出し方みたいなのを検証するということなのでしょうか。

A:分けてお話をすると、内閣府が事務局をしている中央防災会議のワーキンググループは政府としての対応全体の振り返りをするわけですので、それに対して「南海トラフ地震臨時情報」を発表している気象庁として協力をしていくということです。気象庁としての振り返りは、まさに「南海トラフ地震臨時情報」を発表したわけですので、その一連の流れであるとか、発表した後の対応が適切であったかということを振り返りたいという意味です。情報発表についてはそもそものスキームがあるので、つまり今回の地震は、マグニチュードの暫定値が7.1で、基準に照らして、臨時の評価検討会を開催しました。その中でモーメントマグニチュードが7.0以上であることなどを精査し、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表するところまではスムーズにできたと考えています。ただ、その後の対応のところでは、予めスキームというか完全に決まっていたものではなくて、いくつか話をすると、例えば、最初の1週間、つまり政府としての特別な呼びかけが行われている間は、毎日、想定震源域内の地震活動とか地殻変動の状況を発表しました。それから1週間経って、特別な呼びかけが終わった後は、1週間に1回発表しました。その後、9月に入って、今度は定例の評価検討会があり、その段階で特段の異常はないという状況であったことから通常の評価モードにして、月1回の定例のところで評価しようとしたという経過となりました。今のところ問題があったという話は聞いていないですけれど、この手順でよかったのかどうかというところがあります。それから伝え方として、最初の会見から内閣府が同席して、会見や取材を行ったほうが良いかどうかといったところなど、「南海トラフ地震臨時情報」そのものに関連したところで、振り返るべきところについて気象庁として振り返りたいと考えているとこういう趣旨です。

Q:そうすると例えば何らか気象庁内に検討会なり、台風の検討会じゃないですけど、何らか我々が見える形でその振り返り作業みたいなものがわかるものなのでしょうか。何かその会議体があって、そこを我々も傍聴することができたり、何か経過が見られたりするのでしょうか。

A:振り返りの結果どうだったのかということについては何らかの形で、皆様に見えるようにしたいと考えます。ただ、何か検討会を開くのかということではなく、一部は評価検討会として振り返るということもあると思いますし、内閣府と一緒に会見をやるべきかどうかなどは、最初から気象庁と内閣府で会見をしましょうというのが自然な流れだと思いますので、それについて何か有識者にお伺いするものでもないと考えています。

Q:「南海トラフ地震臨時情報」を出すまでの手続きとかの技術的な部分ではなくて、出した後の例えば解説情報を毎日出すことや会見に内閣府が同席するとかなど、決まってなかった所について気象庁としての情報発信がどうやるのが良かったかということを振り返るみたいなイメージでよろしいわけですかね。

A:そうです。

Q:火山のことに話が戻るのですけれども、火山観測監視に力を入れるようになってきて、その人材育成の部分も先ほど課題というふうにおっしゃっていたと思うのですけれども、実際この10年ぐらいで国としてもいろんなプログラムとか、今年の夏、公募が始まったりしていると思うのですけれども手応というものは何かあるのでしょうか。

A:人材育成については、そもそもその道の専門家が少ないということもあります。御嶽山の噴火を契機に、例えば気象庁で、火山担当職員の定員を増やしたことであるとかもありますし、担当者が増えても知見を持った職員にならないといけないわけであって、まさに育成しないといけないっていうことになります。一つは気象庁の中で育てるということもありますので、御嶽山の噴火の後、火山学者の方に気象庁の参与となっていただいて、専門的な知見を用いてご指導いただいて、職員を育てるといったようなこともやっています。そのほか、気象庁で独自の研修というのも強化しています。もう一つは、今いろんな人材育成のプログラムもあり、まさにおっしゃるような文部科学省のところの火山の専門家の人材育成プロジェクトというものがありますので、そこを育てられた方を気象庁で採用するということもあります。中で育てることもありますし、育てられた方を採用するというようなこともありますし、そういった形を合わせ込んで、人材育成を進めてきたところで今後もそれは継続していきたいというふうに考えております。

Q:冒頭もお話しくださってはいるのですけれども、改めまして、大型の台風14号について特徴であるとか、もう少し警戒、注意点の部分を詳しく頂戴できますでしょうか。

A:この台風の特徴っていうのは、勢力的には強いといったものではないのですけども、大型だということで影響する範囲が広いということと、速度が速いということで、発生してから割と早く北上していますので、離れていると思っていても、意外と短い時間で近づいてきて、風とか波が強くなるというところが特徴的だというふうに言えます。ですから、沖縄地方の方々については高波に警戒していただきまして、強風などには十分注意していただきたいというところです。

Q:二つあるのですけれども、一つはAI戦略企画官について、AIについてこの場でも何度か伺ってきたと思うのですが、割と控えめなお答えだったと思うのですけども、今度戦略企画官を置くことによってもう一段物事が進むのかなと思うのですけども、どういったことを期待されているのか。この企画官によって何が進むと考えればいいのかを伺えればと思います。

A:控えめな発言が多かったというか、どこまで活用できるのかがわからない部分があるというところかと考えています。今まさにAIで頑張っていこうという時代になってきているのだと思います。気象庁としてもこれまでも機械学習など一部でAIを使っていましたけど、深層学習であるとか、生成AIですとか、そういったものがどこまで活用できるのか。それがうまく活用できれば、防災気象情報の高度化や精度の向上等に役立つのではないかということや、人が判断するより短い時間で判断できるのではないかという期待もあります。ただ、そのAIの難しいところは、何か過去のものを学ぶことによって、パターン分析等を行って、結果を出してきてくれるわけですけど、なぜこの答えになるのかわからないという部分があると思います。どういう理屈かわからないけれど、何か答えが出てきて結果的にそれが合っていることもあるという、過程がいわゆるブラックボックスになるという点があります。あと事例が少ないものについてはそもそも苦手とする面もあると考えています。一方で、昨年度末開いた交通政策審議会の気象分科会でも、次世代気象業務の柱として、やっぱりAIっていうのは避けられないといいますか、積極的に活用していくべきだということでありますので、気象庁としてもまずは切り口というか突破口を開こうというところで、まずそこで統括する組織を要求させていただいているというところです。

Q:この企画官は民間との橋渡し役のようなことも果たしていくのでしょうか。専門の会社がいっぱいあると思うのですけども、そういうところと組んでやっていく上での仲立ちみたいな役割もするのですか。

A:民間と気象庁とで分担してやるのか、それともどちらかの知見をどちらかに活用するということなのかによって、民間との関わり方は変わってくるのだと思いますが、適切な官民の分担の中で、それぞれがAIをうまく活用できるようになれば、国としては良いということになるのだと思います。

Q:もう一つは冒頭の台風情報の関連で伺いたいのですけども台風情報が大きな社会的な影響を与えたものはおそらく台風7号と台風10号の二つかなと思うのですけど、いずれも新幹線の計画運休などがあり、7号の場合はあれほど新幹線止めなくてもよかったのではないかという意見もありましたし、10号の場合は予測が変わるたびに運休の計画も変わっていって割と情報に振り回されるような部分もあったのですけど精度が限られる中でこういった台風情報の使われ方について今回の状況を見ていて、どのような感想をお持ちになったか、伺えればと思うのですが。

A:台風の進路予測も過去と比べると、一定程度良くなっていると考えます。例えば、最近でも予報円の半径を小さくしたりしていますし、これは精度向上ができたから小さくできているということです。また、社会への影響の方では、混乱を少なくするための一つとしてあるのが、例えば計画運休なのだと思います。事前に運休だと聞いていればそれを踏まえて行動されるだろうということだと思います。ただ今お話があった通り、例えば台風第7号で言えば、予報円の範囲内ではありますが、東寄りを通ったことで陸地より離れたところを通った関係で中心付近の強い雨雲がかからずに済んだということで、もっと西の陸側を通ったりするよりは、影響は少なくなったのだと思います。ただ、予報円の中で西寄りになれば、結果が全然違ってしまったということだとは思います。自然現象の予測として、2つ必要なものがあって、1つは精度向上について技術開発を引き続き頑張っていくということで、技術開発も必要ですし、次期静止気象衛星は典型的な例だと思いますが、その基になる観測強化も必要です。そのうえで、もう一つは、誤差というのは免れないものがありますので、どのように見せていくのか、伝えていくのかということが大事ということで、それが今月から始めた「台風情報の高度化に関する検討会」だと思います。ですから、台風第7号や第10号の事例も見せ方、伝え方のところで、工夫ができるのではないかというご議論、ご意見というのは出されるだろうし、ぜひお願いしたいと考えているところです。

Q:わかりました。まだ見せ方というところは変える余地は大きい。かなりあると思いますか。

A:あくまでも技術の範囲内での話であると思います。見せ方、伝え方だけだとこういう情報があるといいよねということは、もちろん言えるのですが、技術がここまでしかないところで、どう見せるか、伝えるかということであると思います。もちろん今後の一定の技術向上は見据えた上で、見せ方、伝え方を検討していくということになると思います。

Q:両輪ということですか。

A:そうです。

Q:改めて「南海トラフ地震臨時情報」についてお聞きします。まず、シンプルな感想をお聞きしたいのですけれども、初めてのこの発表が社会に主に一般の方々にどういうふうに受け止められたという感想をお持ちでしょうか。

A:これまで、「南海トラフ地震臨時情報」の課題で言われてきたのは、認知度が低いということだったわけです。実際に出したことで認知度は上がったのだと思います。ただ、逆に言うと、今まで知らなかったものを認知したわけなので、次は、その情報でどうしたらいいのですかというところについて、戸惑いが多かったというのは、事実ではないかと思います。それは国民の皆様一人ひとりでもそうでしょうし、例えば、旅行をどうしようか、事業者とか自治体などの方々から見たところでも、どこまでやればいいのかというところで対応がわかれたということは報道でも承知しています。ほかには、花火大会をやるのかどうか、海水浴場を閉鎖するのかしないのか、お祭りをやっていいのかどうかということ等もあったと思います。情報の認知度というのは引き続き、向上するように普及啓発していかないといけないですが、それとあわせて、情報が出たときにどうすればいいのか、日頃からの備えの再確認に加えて、どのような行動をしたらいいですかということが課題になったと思っています。この部分については、政府全体の振返りのところがあるでしょうから、内閣府が事務局をしているワーキンググループにおいて振り返りをされると承知していますので、気象庁としては先ほど申し上げた通り、これに協力していくということになると考えています。

Q:一定程度の認知と理解が進んだということはわかるのですけれども、実際に情報が1回出てみないと進まないという部分については、運用開始から5年間あったわけで、かねてから認知度低いというのは、散々言われてきたと思うのですけど、これについてはどう振り返ってらっしゃいますか。

A:様々に普及啓発をしてきたところですが、今回の事例を振り返って、こういうやり方をしたら、情報を発表していなかったこの5年間の状況下においても、普及啓発がもっと進んだのではないのかというやり方が出てくれば、今からでも活用するということであると思います。「南海トラフ地震臨時情報」については、さらに認知度を上げていく必要がありますし、類似する「北海道・三陸沖後発地震注意情報」については、引き続き認知度が低いままであろうと考えます。ですから、今回、「南海トラフ地震臨時情報」の認知度が一定程度上がったということを受けて、今回の情報を他人事だと思われていた地域の方々についても、同様の情報が発表されることがあるのですよということも周知していかないといけないと思います。今回の事例をうまく活用して、より効果的な普及啓発を進めていく必要があると考えております。

Q:あと、その社会の受け止めに関してもう一つですが、このあと地震が1週間以内に起きるのだというような形の予知的な情報として伝わったっていうようなことが一部のアンケートなんかでも浮かんできていますけど、この点の課題をどういうふうにお考えでしょうか。

A:先ほど、「南海トラフ地震臨時情報」の発表に対する戸惑いがあったのではないかと申し上げましたけど、その戸惑いがあった方の中には、地震の予知に関する情報ではないかと思われた方もいるのではないかと思います。この情報と地震の予知との違いは、実はなかなか難しいところですが、いつ、どこで、どの程度の地震が起こるか、ということが言えないと予知とは言わないと考えています。一方で、「南海トラフ地震臨時情報」が出たら何か一定の危険性やリスクがあるということは、ある意味で言っているわけです。予知というのは確度の高いもので、「南海トラフ地震臨時情報」は不確実性が高い情報であるということ。この違いというのを意識したうえで発表しているわけですが、この違いを理解していただくことについては、先ほどから申し上げているような認知度を上げていくという話よりももっと難しいところがあるのかもしれません。地震の予知ではないけれど、一定の危険性をお知らせし心構えを持っていただきたいということが「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」であるということですので、この違いをご理解いただいて、それを行動に結び付けていただくにはどうすればいいかというあたりも、内閣府さんと相談しながら進めていかないといけないと考えております。

(以上)