気象庁精密地震観測室技術報告 第29号 103~107頁 平成24年3月

2011年6月30日の「長野県中部の地震」における現地調査

精密地震観測室・松代地震センター

Field survey report of the earthquake in central Nagano prefecture on June 30,2011

Matsushiro Seismological Observatory, Matsushiro Earthquake Center

1.はじめに

 平成23年6月29日から30日にかけて長野県中部を震源とする震度1以上の地震が23回発生し,このうち30日8時16分の地震では長野県松本市で震度5強が観測され,松本市内の各所で被害が発生した.この地震について精密地震観測室および松代地震センターでは,長野地方気象台と共同で現地の被害調査と,自治体関係者や地元住民などから揺れや被害状況について聞き取り調査を実施したので,結果を報告する.

2.地震の概況

 長野県中部では震度1以上の地震が6月29日の夜から発生し始め,30日8時16分には今回の地震活動で最大となるマグニチュード5.4(深さ約4km)の地震が発生した.この地震により長野県松本市で震度5強,同山形村で震度4を観測したほか,関東地方から近畿地方にかけて震度1以上の揺れを観測した(図1).推計震度分布図によると,松本市市街地の震度5強の観測点近傍で震度5強および震度5弱,その周辺で震度4の地域がみられた(図2).この地震は牛伏寺断層の西側で発生し,余震は北北西-南南東方向と東南東方向に分布している(図3).発震機構は北西-南東方向に圧力軸を持つ横ずれ断層型であった. 長野県危機管理部の調べによると,この地震による人的被害は死者1名・負傷者17名,住家被害は半壊18棟,一部損壊5129棟が報告されている(表1).地震発生当日から7月11日まで,松本市役所内に松本市災害対策本部が設置され,一部住民は公民館などの避難所へ自主避難した.また,ライフラインへの影響は軽微であったため,鉄道などの交通機関は翌日には平常に戻っている.

3.調査概要

 地震発生の当日に,震度5強を観測した松本市役所とその周辺の調査を長野地方気象台が担当し,当室は同市南部の調査を行った(図4).

 調査員    精密地震観測室:高山,大塚,渋谷

 長野地方気象台:福田,井口,松澤,野崎

 当室行程と被害状況

  11:30 精密地震観測室出発

  12:00 長野地方気象台と合流

  13:20 松本市役所

     ・震度計の設置状況確認

     ・松本市内の被害状況の情報収集

  13:40 長野地方気象台と別行動

     松本市中央

     ・商業施設外壁の落下

     ・瓦屋根の破損

  14:00 出川

     ・多賀神社石柱の倒壊

     ・瓦屋根の破損

  14:20 寿北

     ・松本障害者雇用支援センターの室内ガラス破損と空調機破損

     ・スーパー外壁の一部落下

     ・瓦屋根の破損

  14:50 村井

     ・公務員宿舎内の家具類の転倒

  15:10 中山台から塩尻市広丘

     ・住家外部の被害なし

  15:40 二子

     ・瓦屋根の破損

     ・二子橋の橋脚一部破損(一時通行止)

  16:10 平田

     ・平田駅構内の照明器具の破損

     ・跨線橋の一部破損

     ・瓦屋根の破損

  16:30 調査終了

  18:10 精密地震観測室到着

4.調査結果

4.1 被害状況  当室と長野地方気象台で行った被害調査の場所(図5)と状況を写真1~11に示す.

 調査結果によると,震央(松本市の南部)の東側を中心に,建物被害(瓦屋根の破損や外壁の落下など)とブロック塀や神社の石柱の倒壊が多くみられた.

4.2 アンケート調査

 気象庁などで設置した震度計によると,震央の北側で震度5弱以上を観測しているが,それ以外では震度4以下となっている(図6).現地調査からは松本市中心部より震央付近の被害が目立つため,気象庁の聞き取り調査票を使って自治体関係者と住民から地震の揺れ方と住家状況のアンケートを行い,アンケートから揺れの傾向を調べた.調査当日と数後日に行ったアンケートの回答の総数は23件であった.それによると,地震発生時は出勤などで人が活動し始める時間帯であったが,回答者の多くが震度5強以上の揺れを感じていた(図7).さらに,屋内等の被害状況の回答結果を気象庁の震度階級に当てはめた場合,松本市役所とその周辺では震度5弱程度,市の南部の地域では震度5強または所により6弱程度の揺れであったと推定される(図8).今回の地震では,震央付近に震度計が設置されていないので,震央付近の正確な計測震度は分からないが,震源が比較的浅かったこともあり,震央付近では市役所などの震度計で観測された震度以上の揺れを感じた地域もあったと考えられる.

5. まとめ

 今回の地震は都市部の浅いところで発生していたため,地震の被害は震央付近の狭い範囲で多くがみられた.震度計の設置場所から離れたところでも,住民アンケートから局所的に震度計の数値以上の揺れが起こっていたことも推定される結果となった.

謝辞

 松本市住民の方々にはアンケートにご協力いただきました.また,精密地震観測室の皆様には有益な助言をいただきました.合わせて感謝申し上げます.本報告の地図は,国土地理院の電子ポータルを利用しました.

参考文献

 国土地理院,電子国土ポータル http://portal.cyberjapan.jp/index.html

 長野県危機管理部,2011,災害防災情報「長野県中部の地震による県内への影響」 http://www.pref.nagano.jp/kikikan/saigai.htm

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