降水・降下じん化学成分の品質管理
分析データの品質管理
気象庁では世界気象機関(WMO)が実施している全球大気監視(GAW)計画の一環として、降水のpH(ピーエッチまたはペーハー)をはじめとして地球規模の大気の汚染状況を示す降水の各種イオン濃度などの観測を2020年末まで実施していました。降水試料の採取から分析までの処理及び分析値の品質管理については、WMO(2004)に準拠しています。
降水の採取は綾里(岩手県大船渡市(2011年末をもって観測終了))と南鳥島(東京都小笠原村(2020年末をもって観測終了))で日ごとに行い、月ごとに気象庁本庁へ採取した試料を送付します。本庁では送付された降水試料を分析し、品質管理を行った後にデータを公表しています。
分析データの品質管理は、測定した陽イオン(水素イオン、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン)の当量の合計と陰イオン(塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン)の当量の合計を比較するイオンバランス、及び測定した電気伝導度と水素イオン濃度(pH)及び各種イオン濃度から理論的に計算される電気伝導度を比較する伝導度バランスの合致する程度を元に行っています。イオンバランスと伝導度バランスの両方で基準値以内になった分析データを公表しています。
陽イオンと陰イオンの比較
Ion difference [%] = 100×(CE ? AE) / (CE + AE)
AE: 陰イオン当量(μeq/l)の合計、次式より算出
AE = 1000×[ ∑CAi/ (Eq.Wt.)Ai] + 5.1 / 10(6 ? pH)
CAi: i番目の陰イオンの濃度(mg/l)
(Eq.Wt.)Ai: i番目の陰イオンの当量
5.1 / 10(6 ? pH): 重炭酸塩濃度(25℃、pH>5.0における計算値濃度、μeq/l)
CE: 陽イオン当量(μeq/l)の合計、次式より算出
CE = 1000×[ ∑CCi/ (Eq.Wt.)Ci] + [10(6 ? pH)]
CCi: i番目の陽イオンの濃度(mg/l)
(Eq.Wt.)Ci: i番目の陽イオンの当量
10(6 ? pH): H+イオン濃度(μeq/l)
表1 陽イオン、陰イオン当量重量
陽イオン、陰イオン | 当量重量 (g) |
---|---|
塩化物イオン / Cl? | 35.45 |
硝酸イオン / NO3? | 62.01 |
硫酸イオン / SO42? | 48.03 |
アンモニウムイオン / NH3+ | 18.04 |
ナトリウムイオン / Na+ | 22.99 |
カリウムイオン / K+ | 39.1 |
マグネシウムイオン / Mg2+ | 12.15 |
カルシウムイオン / Ca2+ | 20.04 |
表2 必要とされるイオンバランスの基準値
陽イオン+陰イオン(μeq / l) | Ion Difference許容値 (%) |
---|---|
? 50 | ? ±60 |
> 50 and ? 100 | ? ±30 |
> 100 and ? 500 | ? ±15 |
> 500 | ? ±10 |
電気伝導度の比較
Δk (%) = 100×[ (k ? kmeas)/kmeas]
kmeas: 測定された電気伝導度 (μS/cm)
k : 計算から求めた電気伝導度(μS/cm)
k = ∑ci×Λi0
ci: i番目のイオンのモル濃度(mmol/l)
Λi0: i番目のイオンの1モル又は1当量当たりのイオン伝導度(S cm2/mol)
次式より算出
k = 10(3?pH)×349.7 + c(SO42?)×160.0 + c(NO3?)×71.4
+ c(Cl?)×76.3 + c(NH4+)×73.5 + c(Na+)×50.1 + c(K+)×73.5
+ c(Ca2+)×119.0 + c(Mg2+)×106.0 + c(HCO3?)×44.5
c(HCO3?) = 5.1 / H+(25℃、pH>5.0において、5.1 / 10(3 ? pH))
表3 理想溶液、25℃における1モル又は1当量当たりのイオン伝導度
イオン |
1モル当たりのイオン伝導度 Λi0(Scm2/mol) |
---|---|
水素イオン / H+ | 349.7 |
塩化物イオン / Cl? | 76.3 |
硝酸イオン / NO3? | 71.4 |
硫酸イオン / SO42? | 160.0 |
アンモニウムイオン / NH3+ | 73.5 |
ナトリウムイオン / Na+ | 50.1 |
カリウムイオン / K+ | 73.5 |
マグネシウムイオン / Mg2+ | 106.0 |
カルシウムイオン / Ca2+ | 119.0 |
重炭酸イオン / HCO3? | 44.5 |
表4 必要とされる伝導度バランスの基準値
伝導度測定値(μS/cm) | 許容値Δk (%) |
---|---|
? 5 | ? ±50 |
> 5 and ? 30 | ? ±30 |
> 30 | ? ±20 |
参考文献
WMO, 2004: The Manual for the GAW Precipitation Chemistry Programme, Global Atmosphere Watch Report No.160, WMO/TD-No.1251.
関連情報
降水の酸性度の経年変化
岩手県大船渡市綾里及び東京都小笠原村南鳥島で観測した降水の酸性度(pH)のデータについて解説します。
基礎的な知識
酸性雨に関する一般的な知識です
用語解説
酸性雨の診断情報で使われている用語について解説しています
よくある質問集
酸性雨についてしばしば寄せられる質問およびその回答です
リンク集
酸性雨に関するリンク集です
気象庁が行っている環境気象観測(観測点等の情報)
気象庁が行っている環境気象観測について解説しています