予測に伴う誤差とアンサンブル予報

予測に伴う誤差

大気モデルや大気海洋結合モデルのように数値予報を使って将来の天候を予測しても、長期間の予報は困難であり、不確定さを避けることはできません。不確定さの要因として、大気自身の持つ性質や、観測データの不足、数値予報モデルの限界などが挙げられます。

天候予測の不確定さの要因

科学的・技術的な限界 説明
大気自身の持つ性質 大気の振る舞いにはカオス性といって、将来の状況を断定的には予測できないという性質があります。
観測データの不足 大気の振る舞いに影響を与える海洋や陸面の状況が観測データの不足から十分に把握できず、予報を始める初期の状態に不確かさが残ります。
数値予報モデルの限界 モデル格子の細かさには限界があり大気の振る舞いを完全には表現できません。

これらの天候予測の不確定さの要因は短期予報にも含まれていますが、予報期間が長くなるにつれて予測の不確定さも大きくなっていきます。また、観測データの不足や、数値予報モデルの限界は、技術が向上すればある程度は改善されますが、カオス性による誤差はいくら技術が向上してもゼロになることはありません。

アンサンブル予報

予測に伴う不確定さを考慮することで将来の予測を可能にする手法の一つにアンサンブル予報という手法があります。

アンサンブル予報とは、わずかに異なる複数の数値予報を行ってその結果を統計的に処理することで、不確定さを考慮した確率的な予測を可能にするものです。季節予報では、初期値にわずかなバラツキを与えた複数の数値予報(1か月予報では50例、3か月、暖・寒候期予報では51例の数値予報)を行い、その結果を統計的に処理することで将来の予測を行っています。複数の数値予報の結果を平均(アンサンブル平均)することにより、一つ一つの数値予報結果に含まれる誤差(予測の不確実性が高い部分)同士が打ち消しあって平均的な大気の状態の予測精度を上げることができます。 また、複数の予報を行うことで、それぞれが同じような状態を予測していれば、その状態が発生する可能性が高いと判断でき、逆にぞれぞれがバラバラの状態を予測していれば、予測精度が低いと言えます。このように、アンサンブル予報を用いることで予測の不確定さの大きさを見積もることも可能になります。明日・明後日のような短期間の予測では誤差がそれほど大きくならないため、アンサンブル予報を用いない予測が可能ですが、季節予報のような長期間の予測では、予測ができなくなってしまうほど誤差が大きくなるため、アンサンブル予報を用いる必要があります。

下の図に1か月予報におけるアンサンブル予報の例を示します。ここでは850hPa(地上約1,500m)の気温の平年差の予測を示しています。50本の細い実線は個々の予測結果です。初期値にわずかなバラツキを与えただけで、50個全ての予報が異なる予測結果を示していることが分かります。黒の太い実線は50本の細い線を平均したもので、これがアンサンブル平均の予測結果です。この例では、向こう1か月間のはじめは高温となり、その後は平年より低く経過すると予測されています。また、50個の予測のばらつき方は前半に比べ後半では大きくなっており、予報時間が延びるとともに予測が難しくなることを示しています。なお、図の気温は7日間の移動平均であり、たとえば初期日(0日目)から6日目までを平均した予測結果は3日目のところに示してあります。

アンサンブル予報の例