特集 防災意識社会や社会の生産性向上に資する気象情報

 我が国は、少子高齢化の進行により総人口は減少へと転じ、防災の主たる担い手ともなる生産年齢人口が減少するなど、社会構造の変化が進んでいます。

 我が国では、防災施設の整備等により人々が災害に遭う機会が減少する一方で、毎年のように災害による犠牲者が発生しています。

 また、近年、ICTなどの進展により、気象データの流通が拡大してきている一方で、様々な産業分野での気象データの高度な利用は非常に少ない状況です。

 気象庁は、台風・豪雨等の気象、地震・津波、火山、さらに気候変動などに関する自然現象の観測・予報等を通じて、災害の予防、交通の安全、産業の興隆等に寄与することを任務としています。

 本特集では、そのような社会の変化の中で、災害に立ち向かい、今後とも社会経済を維持・発展させていくため、「大災害は必ず発生する」との意識を社会全体で共有し、これに備える「防災意識社会」への転換を支える気象業務や、社会の「生産性向上」を支える気象情報の利用促進の最新の取組を紹介します。


特集Ⅰ 防災意識社会を支える気象業務

1 はじめに

 我が国はその自然的条件から様々な災害が発生しやすく、これまで幾度となく大災害を経験してきました。

平成28年に相次いで接近・上陸した台風

 地球温暖化に伴う気候変動により、さらなる災害の激甚化が懸念されているなか、近年、雨の降り方が局地化、集中化、激甚化してきており、平成27年9月関東・東北豪雨では、記録的な大雨により鬼怒川の堤防が決壊し、大きな被害をもたらしました。また、平成28年8月には4つの台風が上陸(月4つ上陸は最多タイ)し、中でも台風第10号は北海道・東北地方で大きな被害をもたらしました。


 一方、平成28年(2016年)熊本地震では、4月14日にマグニチュード6.5の地震が発生した後、2日後の4月16日に更に規模が大きいマグニチュード7.3の地震が発生し、いずれの地震においても最大震度7を観測して、大きな被害をもたらしました。また、平成26年9月には御嶽山が噴火し、火山災害として戦後最悪の人的被害をもたらしました。

平成28年(2016年)熊本地震の概要

 国土交通省では、平成27年9月関東・東北豪雨による災害を踏まえ、「水防災意識社会再構築ビジョン」を策定し、施設では守り切れない大洪水は必ず発生するとの前提にたって、逃げ遅れる人をなくす、経済被害を最小化するなど、減災の取組を社会全体で推進していくこととしています。また、このような考えを、洪水のみならず地震や土砂災害など他の災害にも拡大し、ハードを超える巨大災害に立ち向かう「防災意識社会」への転換を図ることとしています。

「防災意識社会」への転換

 気象庁では、災害被害を軽減するため、最新の科学技術、社会動向等を踏まえ、技術開発、わかりやすい情報の提供に努めるとともに、そのような情報が防災対策に効果的に活用されるよう、気象庁が発表する防災気象情報の解説や普及・啓発活動にも精力的に取り組んできているところです。

 ここでは、社会全体で災害に立ち向かう「防災意識社会」を支えるための、気象庁が発表する防災情報の充実・強化や関係機関との連携等を通じた普及・啓発活動などを中心に、最新の取組を紹介します。


2 気象分野における取組

(1)防災気象情報の高度化と利活用の促進

 我が国では、近年、集中豪雨や台風による激しい気象により、平成25年10月の伊豆大島や平成26年8月の広島市で発生した豪雨による土砂災害、平成27年9月関東・東北豪雨、平成28年8月の台風第10号による岩手県や北海道での水害など、大きな被害が発生しています。

 このように、雨の降り方が局地化、集中化、激甚化している状況を「新たなステージ」と捉え、国土交通省が平成27年1月に取りまとめた「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」を受けて、同年7月、交通政策審議会気象分科会によって今後気象庁が進めるべき防災気象情報の改善と観測・予測技術の向上について提言されました。

 この提言では、次の2つの基本的な方向性が示されたうえで、具体的な施策の実施を求めています。

① 社会に大きな影響を与える現象について、可能性が高くなくともその発生のおそれを積極的に伝えていく

② 危険度やその切迫度を認識しやすくなるよう、さらにわかりやすく情報を提供していく

気象庁では、この提言に沿って、大雨等による危険度の高まりのタイミング、エリアなどを分かりやすく伝えるため、「危険度を色分けした時系列」や「警報級の現象になる可能性」の提供、実況情報の提供の迅速化、災害発生の危険度分布を示すメッシュ情報の充実・利活用の促進など、順次施策の実現に取り組んでいます(メッシュ情報の充実についてはトピックスⅠ-3を参照)。


 また、平成28年台風第10号がもたらした水害を教訓とし、避難に関する情報提供の改善方策等について内閣府が検討会を開催し、平成29年1月には、「避難勧告等に関するガイドライン」が改定されました。この改定では、避難情報の名称変更のほか、避難勧告を受け取る立場に立った情報提供の在り方等について内容の充実が図られるとともに、中小河川の水位上昇の見込みを判断するための情報として、平成29年度出水期から提供を開始する流域雨量指数の6時間先までの予測値が位置づけられており、都道府県・市町村等に対してその利用方法について説明を行う等、「理解・活用力向上」のための取組を進めています。加えて、気象庁が発表する防災気象情報が、地方公共団体の防災対策に効果的に活用されるよう、気象予報士等の専門家活用の取組をあわせて進めています。

コラム

■「流域雨量指数の予測値」に寄せる期待


新潟県土木部河川管理課副参事

古川 尚

新潟県土木部河川管理課副参事 古川尚

 昨年8月の台風第10号に伴う豪雨では、岩手県管理河川である小本川が氾濫し、沿川の高齢者福祉施設で9名の死者が出るという痛ましい被害が発生しました。この災害を受けて、県管理河川においても「水防災意識社会再構築ビジョン」に基づく取組を強化しようと、新潟県では二級河川についても減災対策協議会を設置し、沿川市町村等(新潟地方気象台にも参画していただいています)と減災のための目的の共有、ハード・ソフト対策の一体的な推進を図っているところです。

 ソフト対策の中には、堤防等の施設(ハード対策)では守り切れない降雨が発生した場合、いかに住民の方々に避難行動を取っていただくか、更に、県が管理する中小河川では水位上昇が非常に速いため、水位だけを見ていたのでは市町村や住民に対して洪水危険性の周知が困難という課題があります。

 そんな折、気象庁が中小河川の洪水危険度の予測技術として開発を進めている「流域雨量指数の予測値」の存在を知りました。雨の予測のプロがその予測をもとに数時間先の河川ごとの洪水危険度まで予測してしまうという新技術。これなら実際に水位が急上昇する前の早い段階から措置を講ずることが可能となり、減災に大きく寄与するものと思われます。

 新潟県では、市町村や新潟地方気象台と連携し、今後、モデル河川における減災対策協議会での議論なども踏まえ、「流域雨量指数の予測値」の防災・減災への活用手法の検討を推進していきたいと考えています。引き続き、本県で特にリスクが高い梅雨前線による集中豪雨の予測精度なども含め、期待を込めて注視していきたいと思います。


(2)気象観測・予測技術の向上

 気象災害の被害軽減のためには、観測・予測精度の向上が必要です。このため、研究・開発から実用化までを担う気象庁の総合力を発揮できるよう、全力で確実な取組を進めています。昨年11月には「ひまわり8号」と同等の世界最先端の観測機能を有する静止気象衛星「ひまわり9号」を打上げ、これら2つの衛星による長期(15年間)の確実な観測体制を確立しました。

 また、昨年6月には、ひまわり8号等の新たな観測データの活用や予測技術の改良により台風進路予報の精度が向上したことを踏まえ、台風の進路及び暴風警戒域をより絞り込んで予報する改善を行いました。今後もスーパーコンピュータ等を活用した気象予測の精度向上を進めていきます。

待機運用を開始した「ひまわり9号」の初画像

3 地震・津波、火山噴火への取組

(1)地震対策

 気象庁では、大きな地震が発生した場合に、直ちに緊急地震速報、津波警報、地震情報(各地の震度や津波発生可能性の有無)などを発表して、緊急の記者会見を実施して地震や津波などへの警戒を呼びかけるとともに、地震・津波の概要や活動状況などの詳しい解説を行っています。

 緊急地震速報は、平成19年に提供を開始し、強い揺れが到達する前の身の安全確保や機器の制御など、地震災害の防止・軽減に役立てられています。しかし、従来の予測手法では、ほぼ同時に発生する複数の地震を区別できず過大な震度を予測したり、大規模な地震では過小に震度を予測するといった技術的な課題がありました。このため気象庁では、昨年12月に、同時に発生した複数の地震を分離・識別し、より適切に予測できるよう改善しました。また、巨大地震の際に強い揺れをより適切に予測する技術改善と実際の地震での検証等を進めており、準備が整い次第導入していく計画です(詳細はトピックスⅠ-9を参照)。

 また、大地震に伴って発生する長周期地震動は、高層ビル等を大きく揺らし、被害を発生させることがあります。長周期地震動への警戒・注意を呼びかけるため、気象庁では長周期地震動の予測技術、予測情報及び観測情報の提供に関して検討を進めています。今後、長周期地震動に関する情報を有効に活用していただくための普及啓発等にも取り組んでいきます。


(2)津波対策

 気象庁では、地震により津波が発生すると予想される場合には、津波警報を速やかに発表するとともに、沿岸や沖合の潮位データを監視して、津波の実況を津波情報として速やかにお知らせします。さらに、観測データに基づいて津波警報の切替えや解除等の判断を行っています。

 近年、沖合で津波や波浪の観測を行うため海底津波計やGPS波浪計の導入が進められ、気象庁ではこれらの観測施設のデータを用いて沿岸に到達する前の津波の監視や情報発表に活用しています。昨年7月からは、防災科学技術研究所が保有している日本海溝海底地震津波観測網(S-net)の海底津波計125地点、地震・津波観測監視システム(DONET)の海底津波計31地点のデータの活用を開始しました。これにより、より早く津波警報等の更新や津波の実況をお知らせできるようになりました。気象庁は今後も関係機関の協力をいただきながら、迅速かつ的確な津波情報の提供に努めてまいります。

我が国の津波観測網

コラム

■大地震後の呼びかけの改善

 短期間で震度7となる地震が近接する活断層で続発し、さらに地震活動が広範囲に拡大した「平成28年(2016年)熊本地震」を踏まえ、政府の地震調査委員会における「大地震後の地震活動の見通しに関する情報のあり方」(平成28年8月19日報告書)に沿って、気象庁では近傍の活断層等の存在にも留意しつつ、次のような内容の防災上の呼びかけを行うこととしました。

 ・大地震の発生から1週間程度は、大きな地震が発生しやすいことから、過去事例や地域特性を考慮し、大地震と同程度の地震への注意を呼びかけることを基本とし、あわせて最新の地震発生状況も逐次公表する。

 ・大地震の発生から1週間後以降、上記に加え、地震活動の発生傾向から余震の見通しに言及できる場合は、余震発生の可能性について「平常時の△倍」「(大地震発生後)当初の1/○」などの表現を用いて発表する。

 気象庁では、昨年10月21日に発生した鳥取県中部の地震(M6.6、最大震度6弱)では、過去の地震発生事例やこの地域の地震活動の特性を踏まえて、地震直後の1週間程度は「同規模程度の地震」への注意の呼びかけなどを行いました。今後も、地震発生場所の過去事例などについての知見や地震活動データのリアルタイム把握・分析に基づいた適切な情報発信に努めていきます。

平成28年10月21日に発生した鳥取県中部の地震での呼びかけ

(3)火山対策

 平成26年9月に発生した御嶽山の噴火の直後、火山噴火予知連絡会に設けた二つの検討会「火山観測体制等に関する検討会」「火山情報の提供に関する検討会」の緊急提言(平成26年11月)や最終報告(平成27年3月)に沿って、火山の観測・監視、評価体制の強化や情報提供の改善を進めています。

 このうち、火山の観測・監視体制の強化については、水蒸気噴火の兆候をより早期に把握するため火口付近への観測施設を増強するなどの整備を進めており、火山情報の提供については、平成27年8月から新たに噴火速報の発表を開始したり、平成28年3月から噴火警戒レベルの判定基準を、平成28年12月から常時観測火山の観測データを、それぞれ気象庁ホームページで公開するなど順次改善を進めています(トピックスⅠ-10参照)。

 また、昨年4月には、気象庁本庁に火山監視・警報センターを、札幌・仙台・福岡に地域火山監視・警報センターを設置するとともに、我が国を代表する火山の専門家を気象庁参与として任命したり、職員を対象とした研修の充実・強化を図るなど、火山活動の評価体制の強化にも取り組んでいます。

火山監視・評価・情報提供体制の強化の取組

4 地域の防災力向上を支援する取組

 気象庁では、このように最新の科学技術を取り入れつつ、自然現象の監視・予測の成果を情報・知見として発信しています。その発信した情報などが災害の軽減等に繋がるには、わかりやすい内容で適時に発信するとともに、情報の意味や意図が理解され十分に活用されるよう、「伝わる」「使われる」ための取組が極めて重要です。

 このため、全国の気象台では、地方公共団体等の防災関係者、報道関係者等との継続的なコミュニケーションと協力により、「信頼」関係の深化を図りつつ、気象庁が発表する情報の防災面での適切・効果的な利用を推進してきています。


(1)地方公共団体の防災対策の支援

 地方公共団体は、災害対策基本法に基づき、住民への避難勧告等や災害応急対策等の防災対策を実施しており、気象庁は、その防災対策が円滑に行われるように協力・支援に努めています。

 各地の気象台等においては、平常時から地域防災計画の修正への協力や避難勧告等の判断・伝達マニュアルの策定支援、防災訓練への参画等の活動を行っています。引き続き気象庁が発表する防災気象情報が、地方公共団体の防災対策に効果的に活用されるよう「顔の見える関係」を築き、取組を強化していきます。

 また、防災対策における気象情報の理解や活用の重要性を実感していただくため、気象庁では、平成28年度に気象予報士が地方公共団体の防災対策において気象情報をより活用できるよう支援するモデル事業を実施しました。今後も気象の専門家の活躍により、地方公共団体の防災対策がより一層強化されることを期待しています(詳細はトピックスⅠ-2を参照)。


コラム

■三重県と津地方気象台との連携強化

 政府の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(平成26年12月27日閣議決定)では、津地方気象台における防災支援等の機能の充実強化について、関係機関と協議し、三重県の防災人材育成や住民に対する安全知識の普及啓発の推進等を進めることとされました。

 これを受け、三重県における防災対応、人材の育成、安全知識の普及啓発等の防災に係る取組への支援を強化するため、津地方気象台は、三重県と共同で平成28年度に新たに設置する防災施策に関する研究会を通じて、関係者がとるべき防災行動を時系列で整理したタイムラインの策定等を支援することとしました。また、災害時には三重県と協議のうえ県災害対策本部への職員派遣を行います。さらに、みえ防災・減災センターと津地方気象台がそれぞれ取り組んでいる防災を担う人材育成を一体的に実施するとともに、三重県教育委員会が実施する学校における防災教育の取組に対する支援を強化するなどの取組を進めています。


(2)住民の防災力向上を図る取組

 防災対策の目標は「災害から住民の生命と財産を守ること」であり、そのため気象庁の発表する防災気象情報は、住民一人ひとりが当事者意識を持って正しく理解でき、適切な安全確保等の判断に結びつくものとなる必要があります。特に、切迫した状況下では、各自の置かれている状況により取るべき行動が異なることから、緊急時に自らの命を守る行動について日頃から考える習慣の醸成が必要です。

 そのため、気象庁では地方公共団体と密接に連携し、気象・地震等の現象や防災に関して専門知識を有する団体等とも連携を深めながら、住民への安全知識の普及啓発・防災気象情報の利活用推進に積極的・主体的に取り組んでいます。

 このような取組は、学校等の教育機関を通じたアプローチや、出前講座、お天気フェア、各種講演会等の様々な活動を粘り強く継続的・計画的・効率的に行っていく必要があります。

 このため気象庁では、教育機関、報道機関、防災機関などと連携して全国で防災に係る知識の普及啓発活動を展開し、住民への指導的な役割を担う機関・人材への支援や働きかけにより普及啓発活動の裾野を拡大させるべく「地域防災力アップ支援プロジェクト」を進めています。プロジェクトにおいては、防災教材の作成・提供、防災リーダーの育成、緊急地震速報を用いた避難訓練の支援などを行っており、裾野の拡大と共に地域住民の防災意識の向上・適切な防災行動がとれるようにするための様々な取組を行っています(詳細は第1部6章参照)。

 そのような取組の一環として、気象庁では昨年12月には、シンポジウム「メディアとあゆむ気象情報 いま、そして、これから~いのちを守る情報を手元に~」を開催しました。このシンポジウムでは、現在普及が進んでいるスマートフォンメディアに焦点をあて、新たなステージに向けた防災気象情報の改善、各メディアの情報提供の現状について最新の取組を紹介しました。今後もこのようなイベントを開催することで、防災気象情報を自分のこととして身近に感じていただけるよう取り組んでいきます。


コラム

■黒潮町と高知地方気象台の地域防災コラボ2016

黒潮町情報防災課長

松本 敏郎

黒潮町情報防災課長 松本敏郎

 東日本大震災の発生から1年後の2012年3月31日、内閣府中央防災会議から南海トラフ巨大地震の新想定が公表され、黒潮町に衝撃的な情報が伝えられました。

 その内容は、「黒潮町の最大震度7、最大津波高34.4m、高知県には最短2分で津波が来る」というものでした。多くの住民から「あきらめ」の声が広がる中、黒潮町は「対策」ではなく「思想」から入る防災に取り組むこととしました。その理由は、公表された三情報では対策から入るのは不可能だったからです。

 「第一次黒潮町南海トラフ地震・津波防災計画の基本的な考え方」を新想定が公表されてから40日後に公表し、その基本理念を「あきらめない」としました。「あきらめない」ためには、「町は何をしなければいけないのか、地域は何をしなければいけないのか、住民は何をしなければいけないのか。」をそれぞれの立場で考え、具体的な施策へと落とし込む作業を愚直に進めてきたのが黒潮町の取組です。そのために、地域住民とともに実施してきたワークショップ等の回数は、これまでに約1,100回、参加人数約50,000人となっています。

 そのような中、2016年4月に発生した三重県南東沖地震及び熊本地震は、南海トラフ地震への警戒を高めている黒潮町に、ただならぬ緊張感をもたらしました。大西町長は、住民に対して注意喚起の特別放送を行ったほどです。この時、さまざまな情報が交錯する中、私たちが拠り所としたのは、やはり高知地方気象台からの正確な情報でした。

 黒潮町と高知地方気象台は、ここ2年にわたり、単に首長訪問をしていだだくだけではなく、台長と町長そして職員同士が直接意見交換をし、双方の取組に対する理解が得られ、信頼関係ができていたのです。そのため、三重県南東沖地震の際も熊本地震の際も気兼ねをすることなく、地震の解説等を求め連絡を取り合うことができました。

 また、双方の様々なイベントに際しても、互いに協力及び連携をして取り組む関係になっていました。「世界津波の日」元年と言われた2016年は、黒潮町で「世界津波の日」高校生サミットや全町夜間津波避難訓練等が開催されましたが、それぞれの取組に高知地方気象台の支援を得られました。30カ国の高校生が集った「世界津波の日」高校生サミットin黒潮では、緊急地震速報を活用した避難訓練を実施し、高知地方気象台職員の方にその解説と指導を担当していただきました。

2016.11.26「世界津波の日」高校生サミットin黒潮で実施した避難訓練の模様(指導:高知地方気象台)

 それから、町内全域で実施した夜間津波避難訓練においては、夜間の訓練リスクを考慮して、事前学習会を9回実施してまいりましたが、夜間にも関わらず、その全てに荒谷台長と職員のみなさんが往復4時間の道のりを越えて来ていただき、緊急地震速報の活用と地震の揺れに対する備えに絞った講義をしていただきました。その結果、事前学習会に参加した住民は550人、夜間の津波避難訓練へは4,038人(町民の34.5%)が参加する大変中身の濃い訓練となりました。

 自然災害に関する情報の収集は、自治体でも様々な方法で行いますが、やはり地元気象台から、顔の見える関係で得られる情報は特別です。黒潮町と高知地方気象台とは、日常的にそういう関係を構築することができていたと思います。

 そして、緊急地震速報等の最新技術について、多くの情報に触れることができたことは、「南海トラフ地震では、緊急地震速報の上手な活用がきわめて重要」と考えている黒潮町としては、今後の対策に大きな影響を与えることとなります。


5 今後の取組に向けて

 気象庁は、「防災意識社会」を支える観点から、最新の科学技術を取り入れつつ防災気象情報の充実強化を図り、よりわかりやすい情報となるよう不断に取り組むとともに、一人一人が災害を自分のこととして捉えることができるよう、関係機関と連携を図りつつ、普及啓発に努めてきています。

 一方で、近年の災害の事例からは、気象庁の発信する情報がまだ十分に活用されているとは言い難い状況にあり、「防災意識社会」への転換に貢献していくためには、さらに取組を強化・進化させていく必要があります。

 このため、気象庁では「地域における気象防災業務のあり方検討会」を開催し、気象台の業務のあり方を防災気象情報の「発信」から「理解・活用力の向上」を主軸としたものへと大きく転換を図っていくための気象庁の取組の方向性などについて検討することとしています。


コラム

■「コンテンツ」と「伝達」を担う気象庁への期待

東京国際大学副学長

小室 広佐子

東京国際大学副学長 小室広佐子

 今から16年ほど前になりますが、気象庁の「業務評価」に関する懇談会が立ち上がり、当初より今にいたるまでそのメンバーに加わっています。気象庁の業務が実に多岐にわたることに驚くとともに、気象庁の職員の方々の仕事に対する意識の変化を今、強く感じています。

 まだ業務評価の懇談会が立ち上がったばかりのころ、こんな議論をした覚えがあります。「気象庁の情報の出し方は素人にはわかりにくい。もっと簡潔な言葉で手短に伝えられないのか」「いや、そんな短い言葉では正確な情報は伝わらない。我々専門家は正確な情報を伝えたいのだから」「情報は受け手に理解されて初めて意味があるのではないか?」「いや、情報をわかりやすく伝えるのはマスコミの皆さんの仕事で、気象庁はそこまでは…」といった具合でした。あれから10年以上の月日が流れ、その間に、警報や注意報の出し方、あるいは情報を更新した場合にどこが更新されたかを明確にする工夫、発表文に見出しをつけ、リード文をつけて一目でわかりやすくすること等々、一つ一つの情報の出し方を検討する委員会が設置され、成果を積み上げてきました。

 同時に、社会の情報伝達の仕組みも変わりました。気象庁は市町村などの自治体、警察消防を初めとする防災に直接関わる機関、テレビ新聞といったマスメディア、それらの気象・災害担当者に情報を伝えることが主であった時代から、そうした機関への情報伝達とともに直接市民に情報伝達する時代に入りました。スマートフォン、パソコン等を通じて、市民一人一人が気象情報を直接入手しています。さらには、必要に応じて情報を取りに行かなくても、災害時に情報が押し寄せてくるような設定も可能になったのです。

 2016年12月に開催されたシンポジウム『メディアとあゆむ気象情報  今、そして、これから…~命を守る情報を手元に~』(主催 気象庁、(一財)気象業務支援センター)はまさにそうした時代背景を受けての企画でした。「メディアとあゆむ」「情報を手元に」というテーマは、前述の10年前の議論を思い返すと、実に感慨深いものがあります。情報の内容だけでなく、「伝達」も気象庁の仕事の重要な一分野であると明確に認識されたのです。

 個々人が直接情報を入手する時代になると、情報の種類も個々人のニーズに応じて加工が可能です。例えば、川の近く、あるいは崖下に住んでいる住民は、雨量、川の水位、土砂に関してきめ細かい情報の入手を希望するでしょう。情報のパーソナルなものへの加工は、まずはメディアの側に求められています。ネットによる防災情報を発信しているメディアは、特定の地域への防災情報発信方法など、工夫を凝らし始めています。

 そしてもう一つのニーズは、コンテンツの個々人向け加工だけでなく、表現形態の多様化です。災害情報は文字情報に依存することが多くなりますが、図形、音声、点字、多言語化での発信も求められています。しかし、実は多言語化一つをとっても、日本語をそのまま翻訳すればよいというわけではありません。まず、わかりやすい日本語で最低限必要なことを伝えなくてはなりません。災害に関する日本語は難しいのですが、「わかりやすい日本語」は外国人にとって有益であると同時に、高齢者や子どもにもわかりやすく伝わりやすく、いわば「ユニバーサルな日本語」となるのです。先日、地震直後の津波からの避難に関して、テレビ局は一斉に「逃げろ」とわかりやすい日本語を採用し、その成果の一端が見られました。多言語化、すなわち外国人への情報伝達で注意すべきもう一つの点は、簡単な日本語になおしたとしても、理解されないことがたくさんあるということです。大学で災害情報についての講義をこれまで日本人学生に行ってきましたが、今年は欧州、アメリカ、アジア、中東と多様な国からきた学生を相手に防災についての授業を行いました。話が全くつうじない場面が幾度もありました。「先生、日本人は地震の後、なぜ避難所へ行くんですか?外で寝れば広々として暖かく、何も問題がないのに」。防災用品の備蓄を訴え、特にトイレは被災後の大きな問題となると説明しても、「外は広いし問題ない」とのこと。自分の国には地震も洪水もないと主張する留学生も多くいました。こうした災害に対する経験や社会の仕組みの違いから、日本での災害に関する情報と対応は、万国共通のものではなく、かなり独自性の強いものなのかもしれません。そう考えると、災害時の彼らへの情報伝達はさらに難しくなります。

 もちろん、上記に述べたような情報のパーソナル化、表現形態の多様化は、まずはメディアが取り組む課題であり、実際取組を始めています。しかし、そうしたニーズがあり、応えていかなくてはならないということは、情報の出し手であり、今や「伝達も任務のうち」と自負する気象庁にも、今後、念頭に置いていただきたい課題です。


 情報の伝達についての期待と感慨を述べてきましたが、自然現象の観測、監視という気象庁の基本業務への期待も一層高まっていることは言うまでもありません。気温、雨量などがこれまでになく振れ幅が大きくなり、我々の社会生活が緻密になった分、大雨、台風、雷、竜巻などによる被害は甚大になっています。それを少しでも軽減するのは、自然現象の観測と予報精度向上のための研究です。火山や地震についても同様です。地震学の専門家でない我々は、地震直後にテレビが震源やマグニチュードを速報してくれるため、地震が起きたら即座に地下で何が起こったか手にとるようにわかると思いがちです。しかし、実はそうでもないと最近改めて伺いました。例えば、南海トラフ大地震規模の地震が起きたとき、海底のどこがどのよう割れて、どこが割れ残っているという地下の状況が瞬時に分かるわけではないと。地震の予測はもとより、実際の地震後の現状把握さえ、実は簡単ではないということです。発災後、情報が途絶えた中で社会は何を優先的に対応すべきか判断するために、自然現象の現状解析、そして次に起こる事象の予測はこれまで以上に求められています。気象庁は今、基本の観測と予測研究による気象情報の精緻化と、その効率的確実な伝達という両側面を担うことが期待されています。


特集Ⅱ 社会の生産性向上に資する気象データとその利用の推進

1 はじめに

 IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、人工知能、ロボット・センサーの技術的ブレークスルーを活用する「第4次産業革命」により、社会的課題の解決や、消費者の潜在的ニーズを呼び起こす、新たなビジネスの創出が期待されています。

 「日本再興戦略2016」では、この「第4次産業革命」を最大の鍵として、新たな価値の提供や社会的課題の対応により、潜在需要を開花させるとともに、人口減少社会での供給制約を克服する「生産性革命」を強力に推進することとしています。国土交通省においても、平成28年を「生産性革命元年」と位置づけ、社会全体の生産性向上に繋がる施策を推進しており、国土交通省の「生産性革命プロジェクト」のひとつとして、「気象ビジネス市場の創出」が選定されました。

 気象庁では、産業界と気象サービスのマッチングや気象データの高度利用を進める上での課題解決を行う「気象ビジネス推進コンソーシアム」を立ち上げるとともに、利用者にとって使い勝手のよい気象情報の提供や気象サービスを支援する環境整備など、新たな気象ビジネス市場の創出・活性化を促進する取組を進めることとしており、ここでは気象データの活用状況の現状と、利活用促進等に向けた最新の取組を紹介します。

IoT・ビッグデータ・AIが創造する新たな価値

2 産業界での気象データの活用状況

(1)ビッグデータ化する気象データ

 気象庁は、日々自然現象の観測を行い、観測データの収集を行い、データ解析による監視・予測を行い、情報の作成・提供を行っています。気象データは、アメダス、天気予報、警報・注意報など、個々の容量は小さいが日本全国に広がりデータの種類や数が多いものや、気象衛星データや数値予報データなど、面的・立体的(メッシュ状・3次元)な広がりを持ち、近年の気象観測・予測技術の高度化に伴い、より高頻度・高解像度なデータで容量が大きいものがあります。

 例えば気象衛星は、平成27年7月より正式運用を開始した静止気象衛星「ひまわり8号」により、搭載されたカメラのバンド数が従来の5バンドから16バンドに増加するほか、観測間隔も従来の30分毎から10分毎(日本域は2.5分毎)に高頻度化、水平分解能も従来の2倍になり、世界最高水準の観測機能を有しています。そのデータ量は1日分で数百GBに達し、飛躍的に増加しています。

 これらのデータは、機械判読に適した形式(XML形式、CSV形式等)や国際ルールに基づいた形式(BUFR形式、GRIB形式等)で提供しており、データ自体は無償で、商用利用や二次配布に制限を設けていません。気象データは、オープン化された公的データであるとともに、まさにビッグデータと言えます。


(2)先端技術を用いた気象データの活用事例

 近年のAI、IoT、ビッグデータ解析技術の発展により、多種多量なデータをリアルタイムで収集・蓄積・分析することが可能となってきており、利用者個々のニーズに即したサービスの提供や業務運営の効率化等により、新産業の創出や生産性の飛躍的向上等が期待されています。

 また、気象は、個人の日々の行動や農業、製造、交通等の各種社会経済活動に大きく影響を与え、物理法則に基づいた予測可能性があるとともに、そのデータはオープン化されたビッグデータであるため、多様な現象を分析する際の基盤的なデータとして活用することが可能です。

 近年、気象データを、POSデータ、SNSデータ、位置データ、農業関連データ等の多様なデータと組み合わせて分析することにより、生産・供給管理や需要予測等を行い、生産・製造・物流・販売等のサービス全体のプロセスの最適化を目指す取組が進み始めており、このような取組が今後さらに拡大していくことが期待されています。

(一財)日本気象協会 「需要予測の精度向上による食品ロス削減および省エネ物流プロジェクト」

コラム

■国家プロジェクトを追い風に 転換期を迎える気象ビジネス市場

(株)三井物産戦略研究所 技術・イノベーション情報部 知的財産室

シニアマネージャー 平田 祥一朗

(株)三井物産戦略研究所 技術・イノベーション情報部 知的財産室 シニアマネージャー 平田祥一朗

 昨年11月、気象庁は、国土交通省による「生産性革命プロジェクト」の一環として、気象ビジネス市場の創出を推進するための新たなプロジェクトの立ち上げとともに、本年3月に、産学官で「気象ビジネス推進コンソーシアム」を新たに組織し、気象事業者と企業のビジネスマッチングを促進する計画を発表しました。

 気象データは、以前より農業をはじめとする特定の産業において活用されてきましたが、総務省が発行した「情報通信白書(平成27年度)」によると、「データ分析を行っている企業」のうち、「顧客データ」は46.7%の割合で活用されている一方、「気象データ」は1.3%に留まっており、幅広い産業において十分に活用されているとは言えないのが現状です。

 しかし、ここ数年、気象データに基づいた高度な予測を行う企業が登場し、にわかに注目を集めています。例えば、AIを活用して、気象データを他のデータと併せて解析することにより、気温などに売上げが左右されやすい飲食料品の廃棄ロスを削減することに成功した取り組みや、交通機関の利用者数を予測する取組等が挙げられます。

 また、国内外において、これまであまり見られなかった業界再編の動きも活発になっています。特に、昨年、世界最大のIT企業が人工知能システムを活用した高精度な気象予報サービスの提供を発表したことは、気象データのポテンシャルが広く一般に認識されるに至った証左と言えます。

 米国では、気象の影響を受けやすい産業はGDPの約30%を占め、気象の変化による経済効果は4,850億ドルに上ると試算されており、気象が与える経済的影響は非常に大きいことが知られています。今後は、イノベーションの創造や社会ニーズの変化等に対応するために、気象データを活用した新たなビジネスの創出が予想されます。各国の気象事業者がしのぎを削る中、日本でも国が主導する取組等により、気象ビジネス市場の更なる拡大が期待されます。


(3)気象データの活用状況と課題

 このように、先端技術を用いた気象データの利用が進められつつあることと、情報通信技術の発展を背景に、平成27年版情報通信白書(総務省)における我が国企業のデータ流通量の推計結果によると、気象データの流通量は年々増加していることが分かりました。一方で、企業等がどのような種類のデータを分析に活用しているかの調査では、気象データを活用している企業の割合は1.3%と、GPSデータやセンサーデータなどの機械同士が人間を介在せずに相互に情報交換するM2M(Machine to Machine)が得意な他のデータとともに、その割合がとても少ないことが分かりました。

 気象データは、先端技術や他データと組み合わせた活用による生産性向上の潜在力はあるが、使われてない「ダークデータ」の状況にあると言えます。気象庁では、この課題を克服するためには、産業界が求める気象データを活用したビジネス支援サービスの提供や、IoT・AI技術等を駆使し、気象データを高度利用した産業活動を実現する対話・連携を促進することが重要と考えています。

気象データの流通量と分析している企業の割合

3 気象データの利活用促進による社会の生産性向上に向けた取組の推進

(1)国土交通省生産性革命プロジェクト「気象ビジネス市場の創出」

 国土交通省では、我が国が人口減少時代を迎える中、経済成長の実現に向け、関係部局の緊密な連携の下に、生産性革命に資する国土交通省の施策を強力かつ総合的に推進するため、「国土交通省生産性革命本部」を設置し、省を挙げて「社会のベース」、「産業別」、「未来型」の3つの分野の生産性向上に取り組み、我が国経済の持続的で力強い成長に貢献します。

 気象庁は、ビッグデータの一つである気象データを分析している企業の割合が低い状況を、社会経済活動の生産性を高めることができる伸び代と捉え、「気象ビジネス市場の創出」として課題解決に向けた取組を実施し、新たな気象ビジネス市場の創出・活性化を強力に推進していきます。

「気象ビジネス市場の創出」の概要

(2)気象ビジネス推進コンソーシアムの設立

 特に、産学官関係者の対話・連携の強化を図り、新たな気象ビジネスの創出を実現するため、平成29年3月7日に、気象事業者に加えて、情報通信、農業、小売、金融等の関係する産業界や先端技術に知見のある学識経験者等を構成員とした「気象ビジネス推進コンソーシアム」が207者の会員により設立されました。

 コンソーシアムでは、IoT、AI等の先端技術を活用した先進的なビジネスモデルを創出するため、気象衛星・レーダー等の技術的進歩に対応した新しい気象情報の利活用を促進し、世界最高水準の気象ビジネスへと展開するとともに、気象情報高度利用ビジネスを推進するため、継続的な情報改善や人材育成などの環境整備を実施していきます。当面は会員と気象庁が連携して、気象データに関する概要や利活用方法のセミナー等を開催し、気象データの情報・知見を共有していきます。また、気象データ利用の先端事例の創出を目指した実証実験や、気象データ利活用に向けた課題に関するヒアリングと対応策の検討、コンソーシアム活動の全国展開等を進めていきます。

 また、産学官関係者が一堂に会する対話の場を設け、気象事業者と産業界のマッチングを図るため、気象ビジネスフォーラムを開催します。第1回フォーラムは平成29年3月7日に開催しました。コンソーシアム会長の東京大学越塚登教授による基調講演、パネルディスカッションを含めたシンポジウム、気象に関する取組・サービスを紹介する展示会が催され、約400名の参加者による情報共有・交換が行われました。

気象ビジネスフォーラムの様子

コラム

■データオリエンテッドからビジネス・サービスオリエンテッドへ

株式会社三菱総合研究所 社会ICT事業本部ICT・メディア戦略グループ

主席研究員 村上 文洋

株式会社三菱総合研究所 社会ICT事業本部ICT・メディア戦略グループ 主席研究員 村上文洋

 2017年3月7日、気象ビジネス推進コンソーシアムが正式に発足し、気象ビジネスフォーラムが開催されました。フォーラム後半のパネルディスカッションでは、(株)ローソンの秦野さんから、2016年からローソンが導入した、気象データなど約100のパラメータを使った半自動発注システムが紹介されました。また、(株)ハレックスの越智さんからは、気象データと手持ちの洋服の情報をもとに、着ていく服のアドバイスをしてくれるウェブサービスが紹介されました。これまで私たちは、天気予報などの気象データを見て、商品の発注量や着ていく洋服を考えていましたが、その判断を機械が支援してくれる時代になったわけです。

 これからは、「気象データをどう使うか」ではなく「業務システムやサービスに気象データをどう組込むか」へと視点を変える必要があります。ビジネスやサービスの観点から、気象データの新しい価値や活用方法を発見するわけです。換言すれば、データオリエンテッドから、ビジネス・サービスオリエンテッドへの発想の転換です。気象データは、判断やサービスを行うために用いる多種多様なデータのひとつ(しかし最も重要なデータのひとつ)となります。農業、運輸、教育、医療、介護、観光、子育て、働き方、行政など、今後、様々な分野で、気象データの活用が急速に進む可能性があります。

 そしてそのためには、気象データのAPI(Application Programming Interface= コンピュータ同士が自動でやりとりする仕組み)提供を充実させていく必要があります。業務システムやサービスに気象データを組込むためには、人の介在なしにコンピュータ同士でデータを自動的にやりとりする必要があるからです。

 今回、設立された気象ビジネス推進コンソーシアムは、気象庁や気象サービス会社などの気象データ提供側と、製造業、サービス業など様々な分野の気象データ活用企業が一堂に介して、気象データを活用したビジネスの創出・高度化を考える場でもあります。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催時には、今では予想もつかなかった新しいサービスが多数登場して、世界の人々を驚かせるのではないでしょうか。


(3)気象データ利用環境の高度化

 気象データを活用した新たなビジネスを作り出すためには、担当者が商品・サービス等の開発時に、まずは気象データに触れて、理解することが重要です。これまでも、気象庁には手軽に気象データに接することができる環境や、気象データの解説資料の提供に関する要望が多く寄せられていました。

 そこで気象庁は、気象ビジネス推進コンソーシアムの取組や気象情報利用促進を支援するため、平成29年3月3日に、気象庁ホームページに新たに「気象データ高度利用ポータルサイト」を開設しました。本ページでは、「気象庁が発表する気象データ」「気象データの取得」「気象データと組み合わせて利用するデータ」「気象データの利活用事例」のコンテンツを提供しています。

 一つ目のコンテンツでは、気象庁が提供する各種情報を整理した「気象庁情報カタログ」や、気象庁が提供する情報の技術的な解説資料である「配信に関する技術情報」を掲載しています。二つ目のコンテンツでは、気象警報や天気予報をはじめとするXMLフォーマットの気象データを逐次掲載するとともに、Atomフィードで更新情報も掲載していますので、発表後のデータを利用者が容易に取得することができます。また、アメダス観測データや1か月予報に関する気温予測データをCSV形式で取得できるほか、数値予報データのファイル形式等を確認して頂く為にサンプルデータを掲載しています。三つ目及び四つ目のコンテンツでは、気象庁の気象観測地点の位置情報や、気象庁がこれまで関連団体と取り組んできた気候リスク評価に関する調査・研究結果について掲載しています。

 今後も、気象ビジネス推進コンソーシアムの取組等を通じて把握した利用者の意見など踏まえて、コンテンツの拡充や気象庁の持つ情報の利用環境改善を進めていきます。


4 今後の取組に向けて

 気象データは、既に様々な分野において利用が進んでいますが、今後のICTの発達等により、益々その重要性は増し、一層利用が拡大していくことが期待されます。国土交通省は平成29年を生産性革命「前進の年」としています。気象庁は、気象データの高度利用の拡大による産業活動の創出と活性化を一層推進するため、気象ビジネス推進コンソーシアムの活動が発展するよう支援するとともに、利用者との対話・連携を通じて、気象データのこれまで以上に利用しやすい形での提供と、利用しやすい環境の整備に取り組んでいきます。

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