線状降水帯予測精度向上に向けた技術開発・研究の成果について
報道発表日
令和4年12月27日
概要
気象庁は、線状降水帯予測精度向上に向けた技術開発・研究をオールジャパンで実施しています(令和4年5月31日報道発表)。
これまでの解析結果から、線状降水帯の発生しやすい条件及び線状降水帯の内部構造の理解が進展するとともに、高解像度化した数値予報モデルでは線状降水帯の予測が向上する傾向が確認されるなどの成果を得ました。今後も発生要因や内部構造の解明を進め、予測精度向上につながる研究を大学等研究機関と連携して更に進めます。
本文
気象庁は、令和2年12月に「線状降水帯予測精度向上ワーキンググループ」を発足し、線状降水帯の予測精度向上に向けた技術開発・研究における大学等の研究機関との連携を検討してまいりました。本ワーキンググループでの検討等も踏まえて、本年6~10月にメカニズム解明のための集中観測やスーパーコンピュータ「富岳」を活用したリアルタイムシミュレーション実験等を実施しました。これまでに得られた主な成果と今後の取組は下記のとおりです。
●線状降水帯のメカニズム解明研究のための高密度な集中観測
線状降水帯の発生等のメカニズム解明研究を加速化するため、気象研究所が中心となり、大学等の14機関と連携して、線状降水帯の発生しやすい条件や線状降水帯の内部構造を把握するための高密度な集中観測を実施しました。気象研究所では、関係する研究者がオンラインで一堂に会する「線状降水帯の機構解明に関する研究会」をこれまでに6回開催し、集中観測や解析の成果を逐次共有するとともに、今後の課題意識を明確にして研究を進めてきました。
<これまでに得られた主な成果>
- 気象庁の臨時のラジオゾンデ観測に加え、大学等研究機関によるラジオゾンデ、ドロップゾンデ、マイクロ波放射計等の一部の観測データは、リアルタイムで気象庁に送られ現業の数値予報や実況監視に利用されました。
- 鹿児島大学、長崎大学、三重大学の3船合同による東シナ海での稠密観測 の結果を用いた解析により、海面水温の前線による下層大気の気温・風速場の変化が、大雨をもたらす積乱雲の発生に大きく影響する可能性が分かってきました。今後、線状降水帯の発生メカニズムの理解につながることが期待されます。
- 線状降水帯を構成する積乱雲中の降水粒子を直接撮影可能なビデオゾンデ観測について、1事例に限られたものの、山口大学による新規測器(Rainscope)を用いた観測と初期解析に成功しました。今後、線状降水帯の内部構造の理解につながることが期待されます。
- 集中観測等のデータや数値予報モデルによる実験などを通じ、線状降水帯の発生には下層における大量の水蒸気の流入が重要であること、線状降水帯の発達・維持には降雨によって形成された冷たい空気が大きく影響している事例、地形が発生要因の一つである事例があることなどが確認されました。
<今後の取組>
- 線状降水帯の発生要因となる現象は、低気圧、前線、台風等様々であり、これらの現象毎に必要な条件を詳細に調査するためには更なる観測が必要であることから、来年も、共同研究や各種プロジェクトによる連携も視野に、大学等研究機関と協力して観測を実施します。
- 集中観測データ等を用いた今年の事例の解析、過去事例の解析、高分解能モデルを用いた再現実験等によりメカニズム研究を更に進めます。
●スーパーコンピュータ「富岳」を活用したリアルタイムシミュレーション実験
線状降水帯の予測精度向上のための数値予報技術の開発を加速化するため、文部科学省・理化学研究所の全面的な協力により、世界トップレベルの性能を有するスーパーコンピュータ「富岳」を活用して数値予報モデル開発を進めており、6月1日から10月31日までの期間、開発中の高解像度モデルによるリアルタイムシミュレーション実験を実施しました。
<これまでに得られた主な成果>
- 線状降水帯が発生した事例について、気象庁で現在運用しているMSM(メソモデル;解像度5㎞、78時間先まで予測)では予測降水量が実況と比べて過小の場合が多い一方、LFM(局地モデル)では位置ずれ等はあるものの、気象庁で現在運用しているLFM(解像度2km、10時間先まで予測)や「富岳」で開発中のLFM(解像度1㎞、18時間先まで予測)のように高解像度化することによって強い降水を予測できる事例が増えることを確認しました。
<今後の取組>
- LFM(水平解像度2km)の予報時間を現在の10時間から18時間に延長すること(令和5年度末予定)や、水平解像度を現在の2kmから1kmに高解像度化すること(令和7年度末予定)を目指して、モデル内の雲・対流の表現の改善等、引き続きモデル開発を進めて行きます。
これらの技術開発や研究の概要については、別紙を参照ください。
問合せ先
総務部 企画課 田中(全般に関すること)
電話:03-6758-3900(内線2231)
情報基盤部 情報政策課 高橋(予報モデルの技術開発に関すること)
電話:03-6758-3900(内線3117)
気象研究所 企画室 藤原(集中観測に関すること)
電話:029-853-8535(内線203)