長官会見要旨 (令和5年1月5日)

会見日時等

令和5年1月5日 14時00分~14時36分
於:気象庁会見室


発言要旨

 皆様、新年あけましておめでとうございます。本日付で気象庁長官に就任いたしました大林正典と申します。まず、国民の皆様、報道機関の皆様には気象庁、気象業務にご理解とご協力をいただきまして大変ありがとうございます。
 さて、「安全、強靱で活力ある社会を目指し、国民と共に前進する気象業務」。これは平成30年の交通政策審議会気象分科会において、2030年の科学技術を見据えた気象業務の方向性として提言いただいたものです。これまで長谷川前長官のリーダーシップのもと、気象庁はこの提言を羅針盤として、関係機関との連携を深めながら防災をはじめとした気象業務の強化に取り組んでまいりました。私もこの取り組みを引き継ぎ、2030年を見据えて、技術開発、情報やデータの利活用の促進、そしてこれらを車の両輪とする防災の取り組みを前進させていきたいと考えています。
 風水害に関しては、毎年のように発生する豪雨・台風災害を見ましても、線状降水帯や台風の進路強度の予測技術を改善していくこと、これをしっかり前に進めることが最も重要な課題です。今年は静止気象衛星ひまわりの後継機の整備に着手いたします。線状降水帯の予測に非常に重要な海上の水蒸気の分布を、常時三次元で詳細に観測する機能に大きな期待がかかっておりますので、着実に計画を進めてまいります。線状降水帯には科学的に解明すべきことも多く、昨年夏には多くの研究機関と連携して線状降水帯に関する集中観測を行い、発生・発達・維持のメカニズム解明に関する研究も進められています。このような連携を一層強化して、最新の研究成果も取り込みつつ、予測精度向上を進めていきたいと思っております。
 予測結果をもとに気象庁が発表する防災気象情報について、これまで避難に関する警戒レベルとの対応づけを進めてきましたが、さらにわかりやすく整理していく必要があり、有識者による検討会の議論を踏まえて中長期的な改善も進めていきたいと考えています。
 地震火山分野については、地震や津波、火山噴火がいつ発生しても国民の皆様が適切に対応できるよう、緊急地震速報、津波警報、噴火警報等の情報を的確・迅速に発表することに万全を期したいと思っております。そのための技術やデータは、防災科学技術研究所などの研究機関との多大な協力や連携のもとで得られたものであり、今後もこれら関係機関と連携した技術開発を進めてまいります。
 加えて、南海トラフ地震臨時情報や、昨年末から運用を開始した北海道・三陸沖後発地震注意情報については、対象となる地域の皆様に、情報の意味と取るべき防災対応についてご理解が進むよう、内閣府などの関係機関と連携して普及に努めてまいります。
 また今年は甚大な被害をもたらした関東大震災の発生から100年にあたります。国民の皆様には、改めて地震への備えを再確認する年にしていただきたいと考えております。昨日、気象庁ホームページに特設サイトを開設いたしましたが、様々な機会を捉えて、地震・津波に備えるための普及啓発を図ってまいります。
 各地の気象台では、地域の防災の中核を担うべく、緊急時には気象台長から市町村長へのホットラインの実施やジェット(JETT)と呼んでおります気象庁防災対応支援チームの派遣を行いますし、通常時には各市町村の担当として、いわゆる「あなたの町の予報官」を決めて、日頃からコミュニケーションを図っていくといった取り組みを進めています。また気象予報士や気象台勤務経験者を「気象防災アドバイザー」として委嘱し、市町村において防災気象情報の読み解きやそれに基づく助言等を行っていますが、その活躍を拡大できるよう進めていきたいと考えています。気象台が地域社会からより信頼を得られるよう、また期待に応えられるよう、職員一丸となって努めてまいります。
 現在、社会のデジタル化が急速に進む状況下において、交通政策審議会気象分科会では、DX社会に対応した気象サービスの推進について議論いただいており、気象情報データの作成から流通、利活用までの各フェーズにおいて進めるべき取り組みについて、昨年10月に中間取りまとめをいただきました。これに基づき、観測や予報に関する制度見直しや、クラウド技術を使った気象情報・データの共有環境の構築を進めてまいります。
 最後になってしまい恐縮ですが、お集まりの報道機関の皆様には、日頃から防災気象情報の周知にご協力をいただいており、また、急に開催される記者会見等にも対応いただいていることに改めて感謝を申し上げます。引き続き、国民の皆様にわかりやすく情報を伝えるプロである報道機関の皆様にご指導いただきながら、気象業務を前進させてまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 私からは以上です。

質疑応答

Q:今回長官に就任されましたが、とりわけ在任中に成し遂げたいことなどの抱負をお聞かせください。
A:まず喫緊の課題として、線状降水帯の予測精度の向上を目指さなければならないと思っております。令和11年の次期気象衛星の運用開始を見据えまして、段階的な情報改善を計画しているところでございますが、これは決して容易に達成できるものとは考えておりません。関係機関とも連携し、気象庁の総力を挙げて改善計画を進めていきたいと考えています。
 次に地震や火山噴火に関しては、退任するまでにあまり大きな事象がなかったと言えるのが一番良いのですが、仮に大きな事象があった場合に、国の防災対応の起点となるのが気象庁の発信する各種情報ですので、日々緊張感を持って業務にあたりたいと考えております。
 また三つ目ですが、近年DX社会が進展する中で気象情報やデータが社会のソフトインフラとして活用されるための気象サービスの推進について交通政策審議会気象分科会で議論いただいているところでございます。これを踏まえまして、民間における観測や予報に関する制度の見直しなどについて着実に進めていきたいと考えています。

Q:線状降水帯に関する情報など新たな情報発信が目立ちますが、その精度や周知に課題があるようにも思われます。こうした課題に対して今後どのように取り組んでいかれるのかお聞かせください。
A:防災気象情報につきましては、近年毎年のように発生した大雨等の災害に対応して、その課題を解決すべく改善を重ねてきたわけですが、それを全体として見ますと、やはり情報の体系が複雑化している、情報が様々あるというようなデメリットも見えてきたところでして、これを何とかしなければならないというようなご意見もいただいているとこでございます。現在、「防災気象情報に関する検討会」というものを開催しておりまして、ここで防災気象情報の体系整理に向けて検討を進めていただいております。この検討会では、一度全体を再構築しようとそのためにじっくり議論していきたいという考えで進めていただいております。基本的な考え方としては、防災気象情報は情報の受け手の判断や対応を支援するものでありますので、情報については、「対応や行動が必要な状況であるということを端的にお伝えする簡潔な情報」と「その簡潔な情報の背景や根拠を丁寧に説明する情報」の二つに大きく分けられるという整理がされたところでございます。まずは警戒レベル相当情報についてサブワーキンググループを開催して、警戒レベル相当情報と、整理すべき現象における予測精度を踏まえた災害発生との対応など、検討を進めているところです。有識者の皆様のご意見もいただきつつ、防災気象情報の体系整理についてしっかり進めていきたいと思います。その中で気象防災気象情報の精度の改善は当然重要な課題と考えておりますので、これについてもしっかり進めていきたいと思っております。

Q:冒頭発言にもありましたが、今年は関東大震災から100年という節目の年になります。首都直下地震など大きな地震の可能性が言われている中で、この節目の年を長官としてどう捉えていらっしゃるか伺います。また迫っている大きな地震の備えについて普及啓発する良い機会だと思いますので、どのように国民に呼びかけていくのか併せて伺います。
A:今年は関東大震災から100年を迎えるという年でありますが、その他にも、日本海中部地震から40年、北海道南西沖地震から30年という節目の年にあたります。突発的に発生する地震や津波には日頃からの備えが非常に重要でございます。そのための知識に加え、「南海トラフ地震臨時情報」や昨年末に運用開始いたしました「北海道・三陸沖後発地震注意情報」といった普段あまり出ない情報についての周知啓発についても様々な機会を捉えて着実に進めていきたいと思っています。その第1弾として、昨日気象庁ホームページに「関東大震災100年」の特設サイトを開設いたしましたので、この中身を徐々に充実させていきたいと思っております。その他、様々イベントなどの機会を捉えて周知啓発に努めていきたいと思っております。

Q:気象庁に入庁されてから現在に至るまでに、職員としての考え方に大きく影響を与えた災害などご経験があればお教えください。また、少々脱線しますがご趣味や土日の過ごし方について教えてください。
A:気象庁に入庁いたしましたのは1985年だったと思います。その後、気象庁の職員としてではないのですが、30歳前後のときに青年海外協力隊に参加し、ドミニカ共和国で2年間活動いたしました。ドミニカ共和国の気象局で仕事をしたのですけれども、日本と途上国の事情の違いを痛感したということと、日本の気象庁で気象の仕事ができるということが世界的に見ると非常に恵まれた状況なのだというようなことを実感いたしまして、日本に帰ってから真摯に気象の仕事に取り組むモチベーションを得られた機会になったと思っています。それから趣味についてですが、私は前職が気象防災監でしたので、緊急参集がいつかかっても良いように都心から離れられないという状況でしたので、比較的歩くのが好きということもあり、休日は国会周辺を歩いたりして過ごしておりました。

Q:来月から予定されている長周期地震動に関する情報提供について伺います。予測の情報を初めて緊急地震速報の中にも取り込むという点、それから、これまでも出してきた観測情報についても新たにオンライン配信を始めるという点、これらの狙いと防災上どのような期待ができるのか、お考えをお聞かせください。
A:長周期地震動につきましては、東日本大震災のときに、高層ビルの上層階においてキャスター付きの家具が大きく移動したり、エレベーターの障害が起きたりと、大きな被害がありました。南海トラフ沿いの地震や日本海溝・千島海溝の巨大地震においても大きな長周期地震動が生じると想定されております。2月1日から長周期地震動を含んだ地震緊急地震速報の提供を開始するわけですが、緊急地震速報を受け取ったときの対応は、その場で命を守るための行動を即座に取るというのが基本でございまして、これは普通の地震動も長周期地震動も共通でございます。長周期地震動が到達する前の限られた時間ではありますが、高層ビルの高い階にいる方は身を守る行動をとっていただけたらと思っております。また、観測情報の提供時間を早めてオンラインで提供することについては、長周期地震動が実際にどの範囲でどの程度あったのかということがわかります。どの辺りのビルで被害が起きている可能性があるのかが概観できますので、それに基づいて点検等を行うことで迅速な対応をとっていただけるのではないかと期待をしているところです。

Q:長周期地震動やその震度階級というものが一般に認知されているとは思えない中で、今までやってきた通常の地震動の揺れや震度と違う物差しが出てきますので、この辺りを混乱しないように、伝え方などの工夫をする余地があるかと思いますがいかがですか。
A:緊急地震速報に関しては、長周期地震動による揺れなのか普通の地震の揺れなのかという区別していませんので、速報を聞いたらその場でできる限りの身の安全を図る行動をとっていただきたいということになると思います。その後の観測情報につきましては、例えばビルの復旧作業や救助の必要性のあるところをチェックするといった使い方が第一段階としてあるのだろうと思っています。もちろん、長周期地震動で例えば階級3以上になったら室内でどのようなことが起こり得るのかといったことについて周知啓発を行っていきますので、家具の固定など日頃からの備えを再確認していただく機会にしていただけたらと思います。

Q:環境省が、次期通常国会に熱中症対策を盛り込んだ気候変動適応法改正案を提出する予定だそうです。熱中症特別警戒アラートを発表する基準などはこれから検討するとのことですが、誰がどのように発表するかといった運用面での課題が指摘されています。気象庁はこの動きにどのように絡んでいくおつもりでしょうか?
A:熱中症対策につきましては、関係府省庁が連携して政府一体となって取り組んでおりまして、当庁は環境省と共同して熱中症警戒アラートを発表することで、政府の取り組みに参画しているところでございます。熱中症特別警戒アラートについては、極端な高温現象によって国民の健康に重大な支障を及ぼす事態が生じるような場合に発表するというコンセプトになっておりまして、その際に、冷房が完備された施設であるクーリングシェルターを利用できるようにするための情報として案が考えられていると承知しております。ただその中身については、どのように発表するのか、どのような基準とするのか、どのような呼びかけをするのか、これから議論をしていく段階ですので、その中で当庁として貢献できることをしっかり検討したいと思います。

Q:長官は1985年入庁ということでしたけれども、そもそも気象庁に入ろうと思われた動機を教えてください。また、時間が経って気象庁の業務もいろいろ変わってきていると思うのですが、入庁当時と比べて今一番変わっていると思うところについて教えてください。
A:入庁当時の1985年は、バブルに向かってまだ高度経済成長の最後の段階のようなイメージだったと思いますが、あまりお金になりそうもないようなことをやってみたいということもありまして、「地球物理学は見るからにお金持ちになりそうな感じがしないし地道にやろう」というような考えで地球物理学を専攻し、それを使うということで気象庁に入庁しました。その当時は、「ぜひとも気象庁をこうしてやろう」といったような大それた考えは持っていなかったように思います。気象庁の仕事は、現象を観測し、それを分析し、情報発表する、これは変わらないわけですが、その後の情報通信の急激な発達というものが気象業務にもの凄く影響を与えたと思っています。当時もスーパーコンピューターと名前のつく計算機はありましたが、それは今のスマホにも遠く及ばないような性能でしたし、通信速度もとても画像を送れるようなものではありませんでした。情報通信の発展の中で気象情報も高度化し、より細かく予測して情報として出すことが実現しつつあるものと思っております。ただ、これが最終形態かというとまだまだそうではなくて、30年経っても予測精度については満足が得られるレベルに達していない現象が多いということでございますので、引き続き技術開発を進めていかなければならないと思っております。

Q:最近、地球温暖化が背景にあるとみられる極端気象が増えていますけども、温暖化が進んでいることに対する危機感ありましたら教えていただけますか。また、先ほど言及されたDX化については非常に大事だと思うのですが、特に災害リスクについてはAIを使った分析や予測など民間含めて多様な情報が今増えています。こういう情報をどのように統合・活用、あるいは棲み分けていくのか、お考えをお聞かせください。
A:まず温暖化に関してですが、ここ10年で地球温暖化に対する考え方が社会全体としてずいぶん変わってきたと思っています。今運用している気象衛星は平成20年ぐらいに予算を取りに行ったのですが、その時は、「地球環境をモニターする機能も持っています」というような説明に対して、懐疑派というか地球温暖化が本当に起こるのかといった議論をされる方も結構多くいました。ご存知のように、政府として、2050年にカーボンニュートラルを目指すという方向性がはっきりと決まったというこの10年の変化は非常に大きかったと思っています。やはり、毎年のように起きる豪雨といった災害が以前とは違ってきているという国民の皆様の受けとめ方が根底にあり、それが、気候が変わってきているという実感に繋がっているのではないかと思っています。気象庁のデータでも、短時間強雨が増えているということが数字として表れています。様々なモデルの予測等を勘案しますと、将来的に極端現象は増加の傾向にありますので、CO2の排出を削減する「緩和策」、それから緩和策を取ってもなお影響の残る温暖化に対してきちんと適応していく「適応策」をしっかり進めていかなければならないと思っております。これは政府一丸となって政策が進められていくと理解しています。
 次にDX化ですが、交通政策審議会の議論でも、いろいろ流通しているデータの品質を確保するということは非常に重要という提言をいただいています。現在、気象業務法の中では、例えば観測には一定の制約をかけて高品質のデータだけが流通するようにしているわけですが、その中で様々な新しいセンサーが出てきたときにどのような形でデータを流通させていくのか、一定の品質確保しつつ新たなIoTセンサーのようなものをどう取り込んでいくのかといったことについて検討している状況です。これは、私自身なかなか難しい問題だと思っております。あまり規制をかけすぎるのも問題ですし、ある一定の防災対応を広く促さなければいけないものについては規制が必要だと思っております。この辺りの制度設計について、内部的に議論を進めているところでございます。

Q:これまでもいろいろな役職を経験されてきた中で、今日長官に就任された率直なお気持ちについて教えてください。
A:長官として組織を率いていくという立場になって、責任の重さを実感しているところではあります。ただ、長官になったから急に人が変わるというわけではありませんので、私のできることをしっかりやっていく、組織として気象庁の力を出せるようにやっていくということに尽きるのかなと思っております。

Q:南海トラフ地震の臨時情報は2019年5月から本格的に運用が開始されましたけれども、自治体のアンケートでも周知啓発がなかなか進んでいないという状況があります。この現状の受け止めと、具体的にどのような対策をとっていくのか、お考えがあればお聞かせください。
A:南海トラフ地震臨時情報につきましては、対象となる地域の皆様に情報の内容や情報が出たときに取るべき対応について、より一層の周知啓発を進める必要があると思っております。緊急地震速報などある程度見聞きする情報と比べ、3年経っても1回も発表されないというような情報ですので、やはり地道に普及啓発の取り組みを進めていくしかないと思っています。先月に運用を開始した北海道・三陸沖後発地震注意情報も同様な課題を持っていますので、この新たな情報の運用開始をきっかけとして、2つの情報を合わせてホームページで周知する、マンガ冊子を作る、イベントやシンポジウムを開催する、さらには「関東大震災100年」の特設ページなども活用するなど、あらゆる機会を捉えて内閣府や関係機関とも協力しながら周知広報に努めていきたいと考えています。

(以上)

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