長官会見要旨 (令和4年11月16日)

会見日時等

令和4年11月16日 17時30分~17時55分
於:気象庁会見室


発言要旨

   冒頭、私から3点お話をさせていただきます。1点目は補正予算についてです。
   先日報道発表させていただきましたけれども、令和4年度の補正予算案を公表したところでございます。
   今回の予算案には、線状降水帯の予測精度向上等に向けた取り組みの強化、地震火山観測体制の強化に係る予算を盛り込んでおります。中でも線状降水帯は毎年のように発生して大きな被害をもたらす現象で、その予測精度の向上が喫緊の課題となっているところです。 今年度から線状降水帯予測の第一歩として半日程度前からの呼びかけを開始しておりますが、引き続き早期に精度を向上させる必要がございます。
   こうしたことから次期静止気象衛星について、令和11年、2029年度の運用開始に向けて製作に着手する計画でございまして、そのための経費を計上したところでございます。この次期気象衛星には大気の3次元観測機能など最新技術を導入することとしておりまして、線状降水帯の予測精度向上の最後の切り札になるものと考えております。さらに気象レーダーの更新強化、それからスーパーコンピューターの強化などに取り組んで、来年度からは線状降水帯の発生を今よりも30分程度早くお知らせするという計画です。また半日程度前からの呼びかけについても、段階的に対象地域を絞り込むような改善を進めていく計画です。この補正予算をお認めいただいた暁には、こうしたことについて私ども総力を挙げて取り組んでいきたいと思っています。
   2点目ですけれども、大雪のシーズンになりましたので、その備えについてでございます。
   最新の予報をご覧なっていると思いますが、今年の冬はラニーニャ現象が続くという見込みでございまして、その影響で冬型の気圧配置が強くなる傾向が予測されております。このため、東日本や西日本の日本海側では降雪量が多くなる傾向が予想されておりまして、これらの地方では例年以上に雪に対する注意が必要です。それ以外の地域でも一時的な寒気の強まりや低気圧の通過などにより大雪となることがございます。
   気象庁では雪に関する情報提供や技術開発にしっかり取り組んでまいります。皆様におかれましても注意報や警報、それから比較的新しい情報では「顕著な大雪に関する気象情報」、「今後の雪」これは昨年から始めた6時間先までの降雪量の予測ですが、こういった段階的に発表される情報にご留意いただいて、大雪あるいは風雪への対策・対応をとっていただきたいと考えております。
   最後に、昨日報道発表させていただきました気候講演会についてでございます。
   気象庁では地球環境問題に関する最新の科学的な知見やその対策などについて知識を深めていただくために、広く一般の方々を対象とした気候講演会を平成元年から開催しております。今年度は「気候変動への対応~うみべのまちづくり~」と題しまして、12月15日に開催いたします。沿岸域における気候変動とその影響、適応策などについて専門家から講演をいただき、またパネルディスカッションでは、専門家とともに観光学を学んでいる大学生が参加して、気候変動の影響を踏まえた海辺のまちづくりについて、特に防災と観光の観点から議論をいたします。
   気候変動による海面水位の上昇というのは、島国である日本にとっては関心の高い問題の一つです。対策を取っても長きにわたって沿岸域を中心に影響を及ぼすような課題でもございます。一方、沿岸域というのは、平時ではレジャーなど観光資源としても活用されているなど、防災と観光とが両立するようなまちづくりを考えていくことが重要だと思われます。こうしたことから、気候変動の影響を多く受ける世代となる学生とともに身近な問題として、気候変動を追うとともに考える機会にしたいと考えております。
   私から以上です。

質疑応答

Q : 今日の国会は線状降水帯の予測精度向上についての質疑だったそうですが、どんな質疑で長官はどういう答弁をされたのでしょうか。概略をお話しください。
A : はい。線状降水帯というのは被害をもたらすような現象なので、その予測が重要であるが、気象庁は予測精度向上にどう取り組むのかというのがご質問でした。私からは、線状降水帯の予測精度を向上させて良い情報を出して、みなさんに対応してもらうことが非常に大事であるということ、それから予測精度向上のためには水蒸気などの観測と、スーパーコンピューターによる予測技術の2つをしっかり進めていくことが大事であるということ、そしてそれぞれについてしっかり大学や研究機関などとも連携して進めており、特に観測については次の気象衛星に新しい機能をつけて精度向上させる計画だということについてお話をしました。
Q : 概括的なお話だけですか。
A : はいそうです。

Q : このほど、今シーズンの線状降水帯に関する情報の運用についていろいろ整理をされたと思うのですけれども、その中で半日程度前からの呼びかけについて、今年は呼びかけのあった13回のうち実際に線状降水帯の発生があったのが3回にとどまったということ、また、いわゆる見逃しですけれども、呼びかけがない中で線状降水帯が発生したというケースもいくつかあったと思います。こういった状況についての率直な受けとめ、評価をお聞かせください。
A : 今まさにおっしゃった通りで、いわゆる13回出したうち3回に実際に発生したということ、それから実際に起こった線状降水帯が11回で、そのうちの3回については事前に予測ができたけれども、それ以外についてはできなかったということです。これは、前もって過去の事例で私どもが評価した成績とほぼ同じです。そういう意味では概ね期待していた通りの精度になったということでございます。その線状降水帯ですけれども、発生するといって実際には発生しなかったとはいっても、それはたまたま線状にならなかったものであったり、気象庁の「顕著な大雨に関する気象情報」の定義にぴったり当てはまらなかったというだけで、大雨にはなったというケースが多いです。ですので、皆さんには、この情報が出たときには、精度はあまりないから何もしなくてもいいということではなくて、大雨にはなるんだということで、ぜひ危機感を高めていただきたいと思います。また、事前に予測できなかったものももちろんありますけれども、これらについても雨がどんどん降ってくる状態を捉えて、その後、大雨警報ですとかレベル4に相当するような土砂災害警戒情報をきちんと発表していますので、防災気象情報全体をしっかり使っていただいて身を守ってほしいと思っています。それから当然のことですけれども、冒頭申し上げたように、このままの精度ではなかなか直接避難ということには結びつきませんし、まだまだ改善の余地がありますので、私どもとしては総力を挙げてこの精度を上げることに注力したいと思っております。

Q : 先ほど、線状降水帯予測の最後の切り札と次期気象衛星のことをおっしゃっていましたが、その切り替えが7年後に予定されていて、その間の7年間はひまわり9号の運用とひまわり10号の製作準備の両方を重ねていく段階になっていくと思います。長官から見まして、残り1ヶ月を切ったひまわり9号への切り替えに際しての思いと、次期気象衛星の製作に関しての思いを改めてお聞かせいただければと思います。
A : ひまわり9号ですけれども、いま切り替えに向けて準備を進めているところでございます。おかげさまで9号も8号同様、非常に順調に運用ができておりまして、8号と9号の間にデータの品質についてほとんど差がありません。皆さんに安心してお使いいただける状況だと思います。引き続きしっかり準備をして、問題なく切り替えができるようにしていきたいと思います。この衛星をこれから約7年使っていただきます。これは、裏を返せば8号と同じ品質あるいはその効力を持ったデータが取れるということになります。その次の衛星は、8号9号に比べて水蒸気などについて、先ほど3次元的と申しましたけれども、高さ方向の違いがわかるようなセンサーを計画しております。これを積むことで、線状降水帯や台風の精度が大きく向上することを期待しているということでございます。予算をお認めいただければ、この整備について全力を挙げてやっていきたいというふうに思いますし、衛星を上げただけでは予測が良くなるわけではありませんので、そのデータをしっかり使いこなして、予測に結びつけられるような技術開発もしっかりと進めていきたいと思っております。

Q : 同じく線状降水帯についてなんですけども、13回中3回の的中というところの受け止めについてですが、先ほど、線状にならないだけで大雨になったケースも多いということで、今後の情報の活用では危機感を持ってほしいという長官のお言葉だったのですけども、今年の出水期を終わってみて、長官ご自身の手応えとしては、そういったもう一段階心構えを高めてもらうですとか、危機感を持ってもらうというような当初の狙いが一定程度果たされたかということについて、どのように受け止めてらっしゃいますか。
A : 住民の一人一人が危機感をどのように高めていただけたのかということは、なかなか検証や評価が難しいと思いますけれども、おかげさまで報道機関の皆さんにもこの線状降水帯という言葉をキーワードにした警戒の呼びかけなどを数多くやっていただきました。元々この線状降水帯という言葉を使う動機でもありますけれども、国民の皆さんの中に線状降水帯というのは急激に事態を悪化させるような非常に危険な現象だということが一定程度定着していると考えておりまして、それを前提とするならば、こういう報道をしっかりしていただいたということで、少なくとも国民の皆さんの危機意識というのは上がったのではないかと思っています。

Q : 2か月前の会見でも同趣旨のことを聞いていて大変恐縮なのですけれども、この出水期を終えて改めて気象庁の危機感を伝えることについて、長官のご意見をお伺いしたいと思います。記者会見などで再三にわたって気象庁は危機感というものを予測に基づいて伝えてきていると思います。今まで防災気象情報に関する検討会で専門家の方からいただいているご意見などを踏まえて改善に取り組んできたと思うのですが、特に今年の台風14号、大きな台風が来たときの呼びかけについてどうだったか、改めてお考えを伺います。
A : 台風14号のときには、台風の統計期間の中で経験のないような勢力で上陸を予想していたということで、最大限の警戒を呼びかけるという形にしました。多分おっしゃっているのは上陸した後、予想よりも勢力が弱くなったことを踏まえて、その手前の呼びかけの仕方がどうだったのかというご趣旨ではないかと思います。もちろん結果的にはそうでしたが、私どもがその時点で最善を尽くした予想が史上最高みたいなことになるのであれば、それにふさわしい呼びかけをするのが正しい判断だったと考えています。実際の上陸後の中心示度などを見れば、予想よりも勢力が弱いということではありましたけれども、記録的な雨になりましたし、暴風についても記録を更新するような最大瞬間風速が数多く観測されていますので、まったく雨も風も大したことが無かったということではないと認識しています。この台風第14号の呼びかけがどうだったかということについては、むしろ台風の強度や進路の予測精度をしっかり上げていくことが根本的な解決なのかなというふうに思っています。

Q : 線状降水帯について伺います。冒頭でも発生情報を30分早く発表するというようなお話がありましたけれども、2029年に向けて段階的に精度向上されていかれると思いますが、改めて精度向上についてどのように考えられているかということと、最終的にこの予測情報はどのような情報を目指していくのかついて、長官のお考えを伺います。
A : 私どもは線状降水帯の予想について2つのアプローチを考えています。1つは、明け方あたりに発生する線状降水帯について明るいうちから早めに避難をしていただくためのもの、それからもう一つは、線状降水帯が発生したあるいは発生間際について、直ちに迫りくる危機から逃れていただく、そういう2つのアプローチで進めていこうと考えています。冒頭申し上げた”来年には”というのは後者の方にあたります。こちらについては来年には今よりも30分程度早く線状降水帯の発生をかなりの高い確度で地域も絞った上でお伝えしていくということです。これについては、令和8年度に今よりも2時間から3時間早く同じようなことができるようにしたいと思っています。このあとでお話する方もそうですけれども、この情報を実際にどういう形でお伝えしていくかということについては、有識者の方々のご意見なども踏まえてこれから検討したいと考えています。それから、もう1つの半日前からという方については、四国とか九州南部といった広い地域の中で発生を予測するものですけれども、これについては、令和6年度には県単位、令和11年度には市町村単位で危険度が把握できるような情報提供を目指しています。

Q : 以前、出水期の後に、避難指示への一本化とか気象情報の伝達などで自治体に聞き取りなどをされたことがあったと思うのですけど、今年も行う予定ありますでしょうか。
A : 今、各地の気象台で、いわゆる振り返りと呼んでいますけれども、自治体の方々と一緒に大雨時の対応がどうだったのかということについて振り返りをやらせていただいています。
Q : 線状降水帯の予測向上のための水蒸気の観測、今年は大学等とも協力して観測したと思うのですけれども、今年の成果も踏まえて、来年もまた行うとかそういう予定についてどう考えていらっしゃいますか。
A : 来年どうするかということにつきましては、今年のデータをまずしっかり見て、その上で計画を立てていきたいと考えています。
Q : 気象衛星ひまわりに関してですけれども、8号がバックアップに回るということになると思うのですが、エジプトで今行われているCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)で、グテレス国連総長が5年以内に世界中の人々に早期警戒システムのアクセスをというふうな話をしています。例えば切り替わったバックアップとしての役割を果たす8号を、より機動的に、例えば日本の周りの国の気象災害に対応させるといった運用をするお考えがあったりするでしょうか。
A : 9号にスイッチした後の8号については、これまでの9号と同じで、まさに待機衛星としてしっかり待機させることを考えておりまして、別な目的のために使うという計画はございません。

Q : 国連早期警戒イニシアティブというところに気象庁は参加していますけれども、これに対して気象庁はどういうふうに取り組むのでしょうか。
A : 国連のイニシアティブは、今後5年間で世界の全ての人が警報にアクセスできるようにということで国連が進めようとしているもので、世界気象機関WMOが主導して行動計画を作ったというのが今の状態です。気象庁もこの趣旨に賛同しております。気象庁はこれまでもWMOの中で、気象衛星ひまわりの観測データや数値予報と呼ばれるスーパーコンピューターを使った予測データを各国に配信して、そこでの防災情報に使ってもらうというような取り組みをしてきています。それから、台風などについても地区のセンターとして役割を果たしてきています。こういった取り組みをしっかり進めていく、あるいはこのイニシアティブが実施されていけば、その中で役割というものもまた出てくるかもしれませんけども、こういったWMOの枠組みでの役割をきちんと果たすということ、それからもう一つが、JICA(国際協力機構)と協力しなければいけませんが、いわゆる途上国に対する様々な支援、気象庁としては技術的な知見をしっかりインプットしていくような役割を果たす、私どもとしてはこういったことを進めることでイニシアティブに貢献をしたいと思っています。

(以上)

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