長官会見要旨 (令和4年6月15日)

会見日時等

令和4年6月15日 14時00分~14時35分
於:気象庁会見室


発言要旨

   冒頭、私から2点述べさせていただきます。

   1点目は大雨への備えについてです。
   今日、東北南部と東北北部が梅雨入りしました。これから梅雨明けまで大雨が心配される時期になります。改めて大雨に対する備えをよろしくお願いいたします。
   先月公表しましたが、気象庁ではこの出水期も防災気象情報についていくつか改善を行っています。2つの例をあげますが、1つは、今月1日から、線状降水帯による大雨の可能性について半日程度前からの呼びかけを始めていることです。もう1つは、今月30日から、従前「危険度分布」と言っていた「キキクル」について、「黒」を新設し、「うす紫」と「濃い紫」を一つの「紫」に統合することで、より分かりやすく使いやすい危険度の分布をお伝えします。
   気象庁としては、これからの雨の季節に向けて、こうした改善策も含めて全力で対応してまいります。特に内閣府や国土交通省、そして地方自治体としっかり連携して対応したいと考えております。
   住民の皆さんには、ぜひご自分の命、それから大切な人の命をご自身で守るという意識を持っていただいて、平時からご自身のお住まいの地域などにどういう危険があるのかを「ハザードマップ」などで確認をいただきたいと思います。また、大雨が予想される場合には、ぜひ気象台などが発表する防災気象情報、そして、地方自治体から発表される避難の情報を使って、早め早めの対応をお願いしたいと考えております。

   2点目は「気象防災アドバイザー」の育成研修についてです。
   各地の気象台では、地域の防災力の向上に貢献したいということで、地元の自治体と連携した様々な取り組みを行っております。特に避難情報を発令する立場にある地方自治体の災害対応力を上げていくことは大変重要だと考えております。その1つとして、「気象防災アドバイザー」を地方自治体にご活用いただきたく、取り組みを進めています。
   「気象防災アドバイザー」は、地域の気象と防災に精通しています。このため、地元の気象台としっかりと連携し、自治体の立場に立って気象台からの情報を読み解き、それに基づいて首長をはじめ自治体の対応のために助言をし、適切な災害対応を支援します。また、平時には様々な普及啓発などの支援をします。
   「気象防災アドバイザー」の仕事をしていただける方は現在111名いらっしゃいます。より多くの自治体からのご要望に応えられるようにアドバイザーを育成していきたいと思い、この研修を始めます。
   地元の気象台と一緒に地域の防災のために貢献したいという意欲のある気象予報士にぜひご応募いただきたいと考えております。なお、この研修は、気象については詳しい知識を持っている気象予報士を対象に、主に防災に関する研修を行うものです。

   私からは以上です

質疑応答

Q : 1点目は、線状降水帯について予測精度の向上という課題は残しつつも、半日前の予測を6月1日からスタートされて、住民に早期の備えを促せる期待もあるかと思います。改めて、自治体や住民にはどのように受け止めてもらって、どのように災害対応に生かしてもらいたいかをお聞かせください。2点目は住民に理解をしてもらうことは欠かせないと思いますが、気象庁としては住民への周知などの具体的な対策をお考えになっているかをお聞かせください。
A : 線状降水帯という現象は、短時間のうちに急な大雨で災害の発生の危険度が急速に高まるというものです。このため、線状降水帯の発生の可能性があるという情報が発表された場合には、そのような急激な危険度の悪化が起こり得ることをしっかりご理解いただいて、大雨災害に対する心構えを一段高めていただきたいと思っています。具体的な行動としては、例えば「キキクル」をこまめチェックする、避難場所や避難経路などについてもう一回確認するといった一段高い危機感をぜひ持っていただきたいと思っています。予測精度に課題がまだ残っているとおっしゃいましたが、確かに、いわゆる「空振り」といって、この情報を出したけれども実際には線状降水帯は発生しなかったということもあり得ます。「空振り」かもしれないからといって油断せず、この情報を見たら今申し上げたような対応を取っていただきたいと思います。また、この情報が出ていなくても線状降水帯が発生することもあり得ますし、線状降水帯が発生しなくても大雨災害は起こり得ますので、大雨警報・土砂災害警戒・指定河川洪水予報といった防災気象情報全体を活用いただいて早め早めの対応をしていただきたいと考えています。それからこういった情報について、今申し上げたことを住民の皆さんにご理解いただいて適切に使っていただきたいので、周知は非常に大事だと考えております。私どもとしても、この記者会見の場も含め色々な解説の場を設けることで報道機関の皆さんのご協力を仰いでいます。また、地方自治体を主体とする関係機関にもこの新しい情報についてしっかり説明をしておりますし、今後、ツイッターなどのSNSを活用した周知も進めてまいりたいと考えています。予測精度についても、今のままで良いと考えているわけではもちろんなく、精度向上についての取り組みもこの出水期も含めて進めていきたいと考えております。先月末に報道発表いたしましたが、大学などの研究機関としっかり連携して、精度向上にも努めていきたいと考えております。

Q : 「気象防災アドバイザー」の育成研修についてお尋ねします。現在は111人の方がアドバイザーになっているということで、気象台OBの方などがなられていると思いますが、今回、気象予報士の方に対して研修に取り組む狙いについて長官からお伺いできればと思います。
A : 「気象防災アドバイザー」について、気象庁は2つのことに取り組んでいるところです。1つはアドバイザーになって働いていただける方の数を増やすという取り組みで、もう1つは市町村の方々にその有効性をご理解頂いて実際に活用していただくという取り組みです。今回の研修は、前者の人数を増やす取り組みです。これまでは気象庁のOB・OGに対して「気象防災アドバイザー」を委嘱しておりました。今後はこれに限らず、すでに気象の高い知見をお持ちの気象予報士にぜひご活躍いただきたいと思い、防災について具体的に助言をしなければならない立場である「気象防災アドバイザー」として必要となる研修を行うものです。
 
Q : 現在111人ということですが、全国に様々な自治体があるなかで、偏りがでてきてしまわないか少し懸念しています。そういった地域の偏在解消や、例えば今年度何人、来年度何人の方になってもらいたいという数値的な目標がありましたら教えてください。
A : せっかく大勢の方に「気象防災アドバイザー」になっていただいても、地域が偏ってしまうと全国の自治体に展開できませんので、許す範囲で地域の偏りが出ないように受講生を募集したいと思っています。今回の募集では約50名の方に受講いただき、当面各県5名程度の「気象防災アドバイザー」に活躍していただくことを目標に人数を増やしたいと考えております。来年度以降どうするかについては、まだ具体的な予定は立っていませんが、人数を増やす取り組みを続けていきたいと考えています。
 
Q : 長期予報では、今年はラニーニャ現象の影響で早い梅雨入りの可能性もあるという話がありましたが、速報値ではあるものの、今日、北海道を除いて全て梅雨入りしたことについて、西日本中心にやや遅めのところが多いという印象です。この要因に何が考えられるのかについて、また、このような状況においてこれから取るべき大雨の備えや心構えで変わってくることはあるかについてお聞かせください。
A : 2つ目のご質問からお答えします。梅雨入りの時期によって、その梅雨の雨の状況、特に大雨がどうなるか決まるものではありません。梅雨入りが早い遅いということにかかわらず、梅雨時期は大雨のシーズンであることに変わりはありませんので、ぜひ備えをしていただきたいと思います。1つ目のご質問については、夏の終わりにもう一度気象の状況を精査して、梅雨入りの日を確定していく作業があります。この作業を通して、どういう状況だったかをしっかり分析することになります。
 
Q : 6月13日から、河川の氾濫が迫っている時に出される「氾濫危険情報」がこれまでよりも早く、予測の段階で発表されるようになりました。この情報についての狙いと、皆さんにどのように備えてほしいのかについて、改めてお聞かせください。
A : これは河川管理者である国土交通省などと連携して行っている指定河川洪水予報の取り組みになります。これまでの「氾濫危険情報」は一定の水位に達したときに、その後の水位の上昇を考えて洪水の危険を知らせするものでした。しかし、河川によっては急激に水位が上がることもありますので、できるだけ早めに情報を出さなければいけないということで、今回、3時間後の水位の予想をした上でこの情報を発表することになりました。この情報の使い方や心構えは、情報の発表が3時間早くなるからといって変わるものではありません。「氾濫危険情報」が出たら避難が必要な状況になっていることをご理解いただいて早めの対応をお願いしたいと思います。

Q : 最近、豪雨や熱波と温暖化との関係をイベントアトリビューションで関連付けて解明していく研究が急速に進んでいます。大雨シーズン前に温暖化と関係した豪雨が増えているとされていることについてどのようにお考えなのかお聞かせください。また、「気象防災アドバイザー」について、防災士は国家資格ではないものの、防災士の方で気象の知識を持っている方も増えてきています。防災士との連携についてどのようなことが考えられるかお考えがありましたら教えてください。
A : 大雨災害をもたらすような極端な現象について、地球温暖化の影響がどの程度寄与しているのかを、コンピューターのシミュレーションを活用して調べるイベントアトリビューションの研究が今進められていると理解しています。何十年前の状況に比べ極端な現象が増えていることや、より極端になっている状況だということを踏まえた上で、大雨の備えをぜひお願いしたいと思っています。珍しさが変わってきていると理解いただくとよろしいかと思います。本当に珍しい、めったに起こらないことだと昔考えていたことが頻繁に起こるようになってきているということですので、そのような意識を持ってぜひ大雨への備えをよろしくお願いしたいと思います。それから「気象防災アドバイザー」を防災士の方にもお願いすることについて、私どもは必ずしも「気象防災アドバイザー」は気象予報士や気象台のOB・OGでなければならないと考えているわけではなく、気象の知識と防災の知識の両方を持っている人がふさわしいと考えています。気象予報士については、今回計画している研修でうまく防災の知識を身につけていただけると思っています。防災士のみなさんにどう活躍していただくかについては、今後の課題としたいと思いますが、防災の知識がすでにある方に気象の知識を付けていただくという考え方は、可能性としてはもちろんあることだと思います。

Q : 「キキクル」に「黒」が採用される件について伺います。これまでの「濃い紫」よりもはるかに高い基準、特別警報の基準などを用いて6月30日以降に「黒」を採用されることと承知しておりますが、もし6月30日以降に「キキクル」を見ていて「黒」が現れていたら、その地域はどういう状態になっていると捉えるべきでしょうか。
A : キキクルの「黒」は、いわゆる大雨の警戒レベルの5に相当するものとして、警戒レベル5で使われている黒と同じ色を「キキクル」についても表現することにしました。このレベル5というのは、すでに災害が発生していてもおかしくない状況ですので、「キキクル」を見ていて「黒」が出てきたならば、その地域はいつ災害が発生してもおかしくはない、あるいはもうすでに災害が発生しているような危険な状態だとご理解をいただきたいと思います。従いまして、「黒」が出てきてから逃げるのではなく、レベル4の「紫」の段階でぜひ避難をしていただきたいと思います。
 
Q : 今の長官の話ですと、キキクルの「黒」は災害が起きていてもおかしくない状態だということですが、「キキクル」の説明の中に、「紫」が「危険」で「黒」が「災害切迫」であると表示されています。この危険と切迫にそれほど違いが感じられないという意見もあり、切迫という言葉はまだ起きていない状態で、今長官の話にあった、災害が起きているかもしれないという状態は、切迫よりもさらに進んだ状態も含むのかなという印象があるのですが、そのあたりいかがでしょうか。
A : レベル4を代表する言葉として危険という言葉を使っています。これは今すぐに避難をしてほしいという意味合いです。そしてレベル5の切迫というのは、切迫しているだけでまだ災害が起きていないことを表しているわけではありません。もともとレベル5は災害発生と位置付けられていたのですが、それにいつ災害が起きていてもおかしくないことも含めた形で今はレベル5が定義されています。従って、まだ災害が起きてないということではなく、すでに起きている可能性といつ起きてもおかしくない状況をレベル5として表しています。そのため、避難を促す立場からするとそのような状況になる前に逃げていただきたいと思います。

Q : これまで我々は、報道する際に「うす紫」の段階で少なくとも逃げてください「濃い紫」になる前に「うす紫」の段階で少なくとも逃げてくださいという伝え方をしていましたが、色が変わることによって6月30日以降はどう捉えればよろしいでしょうか。
A : 「紫」になったら逃げてくださいと捉えてください。非常に単純化して申し上げますが、危険なところにいる人がハザードマップなどで確認して、ここは危ないという場所にいる方々皆さんが安全なところに避難していただきたいというのが「紫」です。また、高齢者の方をはじめ避難に時間のかかる方や支援を必要とする方々はレベル3の「赤」で逃げ始めないと間に合いませんが、そうでない方々にとって「赤」はいつ「紫」になってもいいように避難の準備をして下さいというメッセージでもあります。そして、「紫」になったらいよいよどなたも逃げていただかないと危ないということになります。
 
Q : 様々な予測情報を出すことで早めの避難行動につなげてほしいということだと思うのですが、先ほどおっしゃっていたSNSでの周知等を行うことについて、行動に移してもらうために、今後、新たにやっていきたい周知の方法がもしあれば教えてください。もしなければ、気象庁として行動に移してもらうために重点的に発信していきたいメッセージについて長官の考えがあれば教えてください。
A : これまでもやっていることを続けていくことになりますが、とにかく様々な機会を捉えて、皆さんに今お話したような「キキクル」やその色の考え方、警戒レベルの考え方についてしっかり周知をしていきたいと思っています。今すぐに何か梅雨末期に向けて特別なことを行うわけではありませんが、毎年行っている周知の活動をしっかり行いたいと思っています。また、危険な状況の時には警報の発表といった定型のことに加え、今どういう状況になっているかをSNSでもお知らせするようにしています。さらに、これまでも報道の皆さんにやっていただいていますが、報道機関の発信力は非常に強いので、ぜひご協力いただければと思います。なお、気象庁は、気象の状況をお伝えし、雨の降り方としては避難指示が出てもおかしくない状況だということをお知らせします。避難指示などについては自治体から出されますので、そちらに従ってしっかり行動していただくことも大変重要だと思います。その点についてもよろしくお願いいたします。

Q : ここ数年、7月上旬にかなり大規模な災害級の大雨が発生しています。西日本豪雨や昨年の熱海の土石流災害も7月上旬でした。長官として、7月上旬という時期をどのようにと考えていらっしゃるかということと、今年もまた数週間後には7月上旬を迎えますが、どのように向き合っていきたいかについてお聞かせください。
A : 7月上旬は多くの地域にとって梅雨の後半にあたります。災害をもたらすような集中豪雨が梅雨の末期に多く見られるため、私たちもよく「梅雨末期の豪雨に注意を」というような言い方をしているかと思います。しかしそれは一般論であり、去年もそうだったかと思いますが、実際には梅雨入りした直後に災害をもたらすような大雨になることもありますので、梅雨に入ったばかりだから大丈夫だということでは決してなく、ぜひ防災気象情報を活用して適切な対応をお願いしたいと思います。
 
Q : 「氾濫危険情報」の新たな運用が始まった点について、今回対象となるのが国管理河川ということで、当然、自治体が所管する中小河川にも「氾濫危険水位」があり、気象庁では「洪水キキクル」で危険度を示すような運用もされています。将来的に、この中小の河川についても予測で「氾濫危険情報」を出していくような余地があるのかについてお考えを聞かせてください。
A : 気象庁ではお話いただいたように「洪水キキクル」があります。それには雨量の予想も加味した形で危険度が表示されています。これと国土交通省が今運用している「水害リスクライン」と呼ばれる取り組みとを統合して皆さんにお伝えする必要があるだろうということで鋭意準備を進めています。開始時期はまだ申し上げられませんが、なるべく早期に実現したいと考えています。その上で、県と気象台が洪水予報を行っているような中小河川についてどうしていくのかについては今後の課題と考えています。これは今行っている防災気象情報の改善に関する検討の方向性も踏まえて検討すべきこと思います。
 
Q : 「水害リスクライン」との統合した表示は、間に合えば今出水期にできる範囲で対応していくという考えで変わっていないでしょうか。
A : 今のところ今出水期に間に合うという目途が立っておりません。実施時期については改めてお知らせしたいと思います。
 
Q : 「キキクル」の改善について、6月30日の切り替えのタイミングでもうすでに大雨が降っていて、災害級の大雨になっている場合に、それでも関係なく決められた日時で切り替えを行うのか、少し先延ばしにするのかといった運用方針をお聞かせください。
A : 雨の状況によっては延期する可能性もあると認識しています。大気海洋部、どうですか。
(大気海洋部)
 状況によって、例えば特別警報が出ている場合に延期する可能性はあるとは思いますが、「キキクル」の場合、通知サービスや部外で「キキクル」を表示していただいている方々も今回「黒」に変える、「紫」を統合するという対応していただくことにしており、長官からお話いただいたように旧来の「うす紫」変更後の「紫」で避難していただくという大きいメッセージは変わらないといったことにかんがみ、状況を見ながら切り替えを行うのか総合的に判断していくことになろうかと考えております。
 
Q : 北海道を除いて、今日全国で梅雨入りをしましたが、先週くらいから熱中症のニュースも見受けられております。暑さに体が慣れてないというところがあるかと思います。今後、梅雨でも晴れ間がのぞく日などもあると思うのですが、注意喚起などをお願いできますか。
A : 梅雨入り前、あるいは梅雨の期間中でも気温が上がることがございます。今おっしゃったように体が暑さに慣れてないということもありますので、一般的には本当に暑くなるのは梅雨明け後ですが、その前でも熱中症の可能性は十分ありますので、ぜひ注意をしていただきたいと思います。昨年度に全国で提供を開始した「熱中症警戒アラート」は、暑さ指数が33以上という非常に危険な状況の時に初めて出される情報です。この情報が出た時は熱中症の対策を徹底していただきたいのですが、そこまでに至らなくても体が慣れていなかったり、活動している状況によっては十分熱中症の危険があったりします。このため、例えば環境省がホームページで提供している暑さ指数や、気象庁が毎日提供している最高気温予想を参考にしていただき、梅雨入り前、梅雨の期間も含めて熱中症には警戒していただきたいと思います。

(以上)

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