長官会見要旨 (令和2年7月15日)

会見日時等

令和2年7月15日 14時00分~14時52分
於:気象庁会見室


発言要旨

   私から、令和2年7月豪雨について述べさせていただきます。

   最初に、この豪雨によりお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りしますとともに、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げたいと思います。

   7月上旬から続いております、これまでの大雨によりまして、被災地をはじめ、広い範囲で地盤の緩んでいるところがありますので、引き続き、地元市町村や各地の気象台が発表する情報にご留意いただきますよう、お願いいたします。
   また、今後、気温が高くなって参りますので、熱中症予防等の健康管理にも十分留意いただきますようお願いいたします。

   今般の豪雨では、梅雨前線が長期間同じような場所に停滞し、暖かく湿った空気が流れ込み続けたため、広い範囲で大雨となりました。
   気象庁では、今回の一連の大雨に際し、各地の気象台におきまして、随時、防災気象情報を発表したほか、自治体への電話解説及びJETT(気象庁防災対応支援チーム)派遣等を通じて、警戒を呼びかけてきたところでございます。
   加えて、今年度より改善を図ることとしておりました、河川の増水や氾濫への警戒呼びかけのための、気象庁と河川管理者との合同会見につきましても、地方も含めて積極的に行ってきたところでございます。
   一方で、各地で大変甚大な被害が発生しており、特に7月4日の熊本県と鹿児島県の大雨につきましては、予測が難しい線状降水帯が夜間に発生し、大きな被害となりました。
   気象庁といたしましては、予想を大きく超える大雨となったことにつきまして重く受け止め、線状降水帯を含め、大雨の予測精度向上という点につきまして、しっかりと技術開発を進めていく必要があると考えているところでございます。
   併せまして、そのような技術的課題もある中で、我々が段階的に発表いたします情報が十分にご活用いただけたのか、避難行動につながったのかという点についても、関係機関の皆様と今後しっかりと検証していく所存でございます。

   私からは以上です。

質疑応答

Q : 7月4日に熊本県と鹿児島県に大雨特別警報を発表されましたが、大雨特別警報が出る前の前日夕方など、もう少し早い段階で強い警戒を呼びかける対応ができたのかできなかったのか、長官としてはどのように受け止めておられますでしょうか。
A : 7月3日夜から4日にかけて、警報級の大雨となるということは予想がされておりましたので、例えば被災されました球磨村等については、前々日の7月2日17時現在で、まず早期注意情報で警報級の可能性「高」を出させていただき、前日の7月3日11時28分には警報に切り替えるという予告付きの注意報を発表させていただきました。その後も順次夜になりまして大雨警報、土砂災害警戒情報を発表させていただき、その後急に雨量が増えたということで、4時50分に大雨特別警報を発表したという次第でございます。警報の可能性があるという想定の下では、通常の手順を踏んで順次情報発表をさせていただいたのですが、それ以上の警告ができなかったのかということについては、残念ながら、前日夕方の段階で、あるいは夜の段階においても、通常の大雨警報を超えるような非常に大きな災害発生の可能性が極めて高い状況は想定されていませんでした。ここは我々の実力不足でございます。現時点においては、前日夕方の時点では、線状降水帯の発生の可能性を想定することは非常に難しいと考えております。

Q : 一方で、400mmの雨が予測されていたという報道もありますが、それについての長官の受け止めをお願いいたします。
A : そのような報道を私も新聞で読みましたが、我々は前日夜の段階では200mmという予測しかしておりませんので、どういうことで400mmという予測ができたのか我々には分かりません。200mmという予測が当時の予報官の間のコンセンサスだったと理解しております。

Q : 予測精度の向上については、具体的にはどのような形で進めていくことになるのでしょうか。
A : 線状降水帯については、3年前に同じように7月上旬に九州北部豪雨がございまして、その時は線状降水帯が発生したことによって、福岡県朝倉市を中心に大変大きな被害がありました。それを踏まえて、交通政策審議会気象分科会において、今後10年間を見据えた形で技術開発をしていこうという話の中でも、線状降水帯についての技術開発も謳っているところでございます。現状、線状降水帯の予測が難しい理由の一つは、水蒸気量を正確に見積もるという部分です。今回も3年前もそうですが、東シナ海、要は九州の西側から大量の水蒸気が流入してくることをしっかりと捉える、予め知っておくということが非常に重要で、まず観測面の技術開発が重要です。それから、我々のスーパーコンピュータを使った予測のモデルでは、分解能がどうしても足りないということがあります。非常にスケールの小さな現象でございますので、もう少し分解能を上げて計算をしていき、なおかつ、このような現象は我々は決定論や確率論という言い方をするのですが、要するに初期値が決まれば必ずこうなるということは決定論的と言いますが、こういった現象は初期値が同じであっても、最終的には色々な状況によって答えが分かれてしまいます。どうしてもそのような現象なものですから、確率的にしか分からないのですが、確率的に分かるためにも実際には様々な沢山の計算をしなければなりませんので、そのようなところまで技術を高めないと線状降水帯についてある程度予測することは難しいだろうというのが現状です。2030年を目指して確率的な予測をしていこうと考えておりますが、今回の事態もありましたので、可能な限り加速をして、なるべく早く結果を出したいと思っています。

Q : 目処として2年前は2030年までということでしたが、もう少し具体的な目標としては何年度まででしょうか。
A : 基本的には2030年という形で目標を立てています。

Q : 線状降水帯の発生について、今回予測が難しい現象であったというところで、技術的な部分は今ご説明いただいたことで理解できましたが、それを踏まえると、今の技術の範囲内では、梅雨前線の停滞はまだしばらく続くと思いますが、こういった大雨に対してできることとしてはどのような対応を住民の方に取って欲しい考えていますか。
A : 今回の大雨特別警報は4時50分という明け方に発表されましたが、大雨特別警報が発表されてからの避難では間に合わないということはこれまで何度も申し上げているところです。誤解がないように申し上げますと、大雨特別警報が発表されなければ大きな被害が起きないというわけでは決してなく、警報級の現象でも被害が起きるわけですから、そのような意味で、昨年度から導入されました警戒レベル3の段階では避難準備・高齢者避難開始ですし、警戒レベル4では全員避難といったルールがありますので、これを守っていただくしかないかなと思っています。今回の場合で言いますと、昼の段階で大雨警報への切替の予告付きの注意報を出させていただいており、これは警戒レベル3相当にあたりまして、ほぼ警報が発表されたことと同じものでございますので、まずはこれで明るいうちに高齢者の方等は避難していただき、残念ながら警戒レベル4相当の土砂災害警戒情報は夜になってしまい大体22時前後に発表されていますので、この時間帯はもう暗くなっていますので避難は難しいかもしれませんが、まだこの段階であれば、それ程雨は強くなっていませんでしたので、十分避難行動は取れたかなと思います。もちろんこの時点で避難していただくと、かなり空振りが多いということは事実でございます。しかし、ご自身の命でございますので、空振りは覚悟の上で安全な行動を早め早めに取っていただくということ、今はこれしかないかなと思っています。

Q : 今回、大分県等、大雨特別警報が出ていない中で亡くなられた方もいたということも踏まえた上で、空振りがあっても警報や土砂災害警戒情報発表で逃げて欲しいということでしょうか。
A : 警戒レベル4の段階では全員避難となっておりますので、それをしっかり守っていただいて、空振りも覚悟の上で安全な場所に早め早めに避難していただくことが今できることの最善ではないかと思っています。

Q : 水蒸気の観測の現状についてですが、今気象庁で沖縄と鹿児島を往復するフェリーに観測機器を載せる研究をされている段階だと思いますが、この研究をどう発展させていくのか、また実用化に向けて、例えば海上に観測点を設ける必要性や、そのための概算要求を今後必要であればしていくお考えはありますでしょうか。
A : 船にGNSSの端末を置いて海洋での水蒸気量を測ることは観測点がない海の上では非常に有力な方法だと思っています。ただ、研究段階でございますので、こういった研究をいくつか積み重ねて、我々がルーチン的にやっていくこととして最も相応しい方法をこれから見出していくのだろうと思ってます。ただ、観測船を使っても基本的には点や線の情報なので、面的に捉えるとなると気象衛星が非常に強力な武器ですし、それなくしてはなかなか大きな改善は難しいだろうと思っています。しかし現在の気象衛星では、下層の湿りまでは非常に見えにくい状況でございますので、今後水蒸気の鉛直分布、高さ方向の分布を衛星でどう見ていくかということが非常に大きなポイントだと思っています。そして、今後研究を進めて、必要であれば当然予算要求をさせていただきたいと思っています。

Q : 衛星の観測ですと下層の水蒸気の流入量を精度高く観測することができない、また東シナ海のレーダーの捉え方としても、陸上からのレーダーですと弱く出がちという話も伺いましたが、現地の観測点が九州の西側の沿岸や海上の方で必要なのではないかというような指摘についてどうお考えでしょうか。
A : ご案内のとおり、アメダスには湿度の観測機器をこれから搭載しますので、陸上の湿度観測、水蒸気の観測について今後だいぶ改善されるだろうと思っています。しかし海上には観測点がなく、特に水蒸気は海上からやってくるので、そこをしっかり捉えるということが一番肝心なポイントだろうと思っています。

Q : 今回の豪雨ですが、梅雨末期としては珍しくない現象と言いながら、これだけの豪雨が、2年前の豪雨もそうですが、これは梅雨末期の現象の延長線上として考えればよいのか、あるいは別のステージに変わったのか、我々はそのあたりどのように解釈したらよいのか、長官の見解をお聞かせいただきたいのが一つです。もう一つは、異常気象分析検討会を今後開催される可能性があるのか、この2点をお聞きします。
A : 前者についてはこれからしっかり解析をしていくことかと思いますが、梅雨末期は雨の多い時期であることは間違いありませんが、2年前の平成30年7月豪雨、その前の年の九州北部豪雨といったように、ほぼ毎年のように7月上旬に大変な大雨になっているということは、私の感触ですが、従前とは違うのではないかという意識を持っています。異常気象分析検討会については今後開催も視野に入れて検討していきたいと思っています。

Q : 冒頭で、今後の暑さについて言及がありましたが、被災地の活動もあると思いますが、それを踏まえて改めて呼びかけがあればお願します。
A : 2年前の平成30年7月豪雨を思い起こしていただければ分かりますとおり、大変な雨の後、一気に梅雨明けして、とてつもない暑さであったことは皆様よく覚えていらっしゃるかと思います。今後、被災地の復旧を進めていくにあたって、今は雨が早く上がって欲しいという想いだと思いますが、今度は梅雨明けしますとものすごい暑さになりますので、特に今は新型コロナウイルスの感染対策のために皆様マスクをされたりして、通常より熱中症にかかりやすい状況にございますので、暑さ対策をしっかりしていただいて、復旧復興にあたっていただきたいなという思いでございます。

Q : 情報の出し方について伺いたいのですが、島根県で江の川の氾濫発生情報を、浜田河川国道事務所と松江地方気象台が共同で発表したと思いますが、朝9時半に2か所で氾濫発生情報が発表された後に、10時間経った午後7時半に8か所に増やして上書きをするような出し方をして、メディアの中には速報として、今まさに8か所で氾濫が発生しましたという情報を流し、今すぐに命を守る行動を取ってくださいというニュースが流れた経緯もあるのですが、この氾濫発生情報という性格を鑑みると、このタイミングや出し方についてどう思われますか。
A : 氾濫発生に関しては、なかなか確認が容易ではないと伺っています。基本的には河川管理者の方で判断をして発表される情報だと理解しておりますが、今回の江の川も含めて、実際どこで氾濫が発生しているのか、正確につかむのは簡単ではないと伺っています。今回の遅れて追加した件についての詳細は、私はまだ把握していませんので今後確認させていただきたいと思います。容易ではないということは私も聞いていますが、今回の件が適当であったかどうかという点も含めて充分に詳細を把握しておりませんので、後ほどお答えさせていただきます。

Q : 取材もさせていただいていて、経緯も聞いております。その中で長官も常々おっしゃっているように、気象台も共同で発表するわけなので川のことは知らないとは絶対に言わないという中で、河川事務所の方ではなく地方気象台に聞くと、やはり水位のことはこちらで情報をつかめないので、河川事務所に聞いてくれというような受け答えでした。一方で気象庁は気象台を含めて流域雨量指数はいつでも見られる状態で、これを見てなかったのでしょうかという疑問もありました。そのことについてはいかがでしょうか。
A : 流域雨量指数を見ても氾濫が発生したかどうかまでは判断することはできませんので、氾濫発生については最終的には目で確認する作業がどうしても必要になりますが、共同で発表しておりますので、我々も当然応分の責任は負っていると考えております。従って、気象台で何らかの形で情報をつかめれば、それについては河川国道事務所の方にお知らせをするといった対応は当然させていただくものだと思っています。

Q : 検証してお答えいただければと思いますが、去年の那珂川の時に、氾濫の情報伝達がうまくいかずに、結局情報を出さなかった事案がありました。これは共同で会見等もしましたが、あの教訓があって、それを活かそうということで、その後検討会も開きながら、共同でもっときちんと見ていかなくてはいけない水位計も増やしていこうという動きの中で、これが果たして活かされたのか、目視で確認しないといけないという部分があの時も足かせとなっていて、今回もそうらしいのですが、その辺は改善しないといけないという思いはメディアとしては持っていますが、気象庁としては自分たちではもう手の付けようがないということでしょうか。
A : 詳細をまだ把握していないので申し上げにくいのですが、情報として出す以上、それなりの確度が求められると思います。それをどのように氾濫が発生したかどうかを確認するかということについては色々なやり方があるのだろうと思います。もちろん、できるだけ早くということはそのとおりだと思いますが、一方で、実際どこで氾濫が発生したかは簡単に分かるわけでもないということも事実だろうと思っていますので、そこは努力をした結果かもしれませんし、一方で、情報の出し方が良かったのかということについても検証していきたいと思っています。

Q : 検証を待ちたいと思いますが、一方で球磨川の時には氾濫発生情報を出した後で、堤防の決壊が何か所、越水が何か所という情報がどんどん増えていきましたが、その都度氾濫発生情報の第何号という洪水警報としては出していないですが、今回は警報として19時30分に速報で配信をしているわけです。そうすると、メディアによってはそれを速報で流し、それを聞いて今すぐ何か行動を取るという流れになります。これは、混乱に繋がるのではないかと思いますが、その情報の出し方についてはどうお考えでしょうか。
A : 実際にどういう経緯であったか、詳細に把握していませんが、おっしゃることはよく分かりました。しっかり検証して、また今後どうしていったらよいのか検討していきたいと思います。

Q : 7月3日から続いている梅雨前線の停滞についてですが、予報課の方々が共同取材や記者レク等をやっていただいている中で、このような本州付近での前線の停滞は記憶にないという言い方をされていたと思いますが、その点長官の所感を頂戴できますでしょうか。
A : 私もその会見を拝見していて、私自身も記憶にないと思っていますし、庁内で職員と話している時も記憶にないと言っていました。ただ、しっかり過去の記録を全部一律に調べているわけではないので、それは正式に我々の方で分析した上で、お答えさせていただく方がよいかと思っています。

Q : 週末も雨が見込まれていると思いますが、繰り返し恐縮ですが、改めて住民の方々への注意点について頂戴できますでしょうか。
A : 梅雨前線の活動は徐々に衰えてきていますので、ここ数日も先週に比べればだいぶ雨量等も減ってきたかなと思っています。ただ、今ご指摘がありましたとおり、週末に上空を気圧の谷が通過するということで、また一時的に梅雨前線の活動が活発になると聞いていますので、これまで非常に多くの雨が降って地盤が緩んでいるところもございますので、あるいは氾濫した河川もございますので、引き続き警戒を緩めず、気象台や地元の自治体の情報にしっかり留意していただければと思います。

Q : 7月7日の昼前に九州北部の3県に出されていた大雨特別警報を大雨警報に切り替えられた判断についてお伺いします。当時、夜にかけてもまた活発な雨雲が九州北部にかかる予想がされている中で、昼間に大雨特別警報を切替という判断をされました。実際に夜にかけては記録的短時間大雨情報も発表され、筑後川も再び氾濫して、大分川も氾濫して、地元自治体も警戒レベル5の災害発生情報を出すという事態にまでなっています。そういった予想がある程度事前にされていた段階で、昼前に大雨特別警報を切り替えたということについて、適切であったのかどうかについてはいかがでしょうか。
A : もちろんいったん雨が弱まっても、すぐに雨が強くなると予想されている場合は大雨警報への切替はせずに、大雨特別警報を継続します。実際に福岡等3県に発表した大雨特別警報は翌朝まで長く継続しましたが、一定程度の時間、雨が弱まったり、あるいは雨のやみ間が続くのであれば、今の考えではそこで一旦大雨特別警報を大雨警報に切り替えるということはルールどおりだと私は理解しています。

Q : 当時の切り替え前の会見でも、予報課長の方から再び雨が強まって基準に達した場合には、大雨特別警報を再び発表するというご発言があったと思います。同日の夜に、大分県を中心に大雨特別警報の基準に達したものの、発表を見送られたという経緯があったと思います。ここの判断は適切であったのかについてと、今の大雨特別警報の基準では今後も大雨が続く場合ということが一つの基準としてあると思いますが、ここを改めるというお考えはありますでしょうか。
A : 7日夜、九州北部の県で一時的に大雨特別警報の基準に達した時がありましたが、大雨特別警報の基準はその後も大雨が続くということが一つ条件にありまして、それには該当しないということで発表しなかったことはそのとおりでございまして、それはルールどおりなので、私は問題ないと思っています。その点が本当によいのかどうかということについてですが、これまでも何度もそういうことで、一回基準に達したけれど雨がもう弱まってきているので大雨特別警報を発表しなかった例もあります。私は一定程度の合理性を持った基準だろうと思っています。大雨特別警報を発表したがもう雨はどんどん上がっているという段階では、一体その大雨特別警報はどういう意味があるのだろうということもありますので、一定程度の合理性はあると思いますし、それによって大きな問題が発生したとは私は理解していません。

Q : 9月から予定されていると聞いていますが、気象庁ホームページに広告バナーを載せるということに関して、財政が厳しい中で財務省から稼ぐようにと言われているような事情は聞いてますが、防災気象情報という、大げさに言えば命や安全に関わるページの横に、例えば商品の広告が載るということに非常に強烈な違和感を感じます。どのように慎重にこのようなやり方を取るというお考えになったのか、他の官公庁も同じようにやっているならともかく、一つ先例として踏み出すという、そのあたりの動機付けも含めて意図を教えてください。
A : まず、気象庁ホームページへのWeb広告の掲載についての報道を見ていますと、若干誤解されている部分があるのかなと思うので申し上げますが、まず我々の気象業務を遂行するために必要な経費や、併せて高度化をしていくために必要な経費については、これまでもしっかり確保させていただいております。例えば、令和2年度の当初予算においても、臨時特別の措置などによって、しっかりと確保させていただいておりますし、当然今後も確保していきたいと思っています。これはWeb広告があるなしに関わりません。もしWeb広告がないと我々の業務が立ち行かないのではないかというように誤解されているのであれば、それは我々の説明不足で、そういったことでは一切ございません。一方で、我々の業務は国民の皆様の税金を使って遂行させていただいているものでございますので、当然のことながらできる限り無駄を省いて、効率的にやっていく必要があり、これは当たり前の話だと思っています。そういった中で、措置をすることで一定程度の収入が見込めるものがあるにも関わらず、それをやらないことによってその収入が得られないということは、ある意味財産を無駄に使っているとも取れるわけでございまして、我々のホームページはかなりの方にご覧いただいているという事情もあって、Web広告を出すことで一定程度の収入が見込めるだろうということでございますので、国民の皆様の負担を、ほんのわずかではございますが、少なくするためにはこういった措置も必要だろうという考え方で始めたものでございます。

Q : 今のお答えの最初の誤解があるかもという部分で、誤解しているつもりはないのですが、運用型広告を取られるということで、閲覧する人の検索ニーズに従って広告が色々と変わってくるとすれば、防災気象情報に全くなじまないような広告や不適切と思えるような広告が載る可能性もあるかと思いますが、そのあたりの危機管理は広告会社に委託するだけではきちんとできないような気もしますが、そのあたりいかがでしょうか。
A : 当然そういった不適切なものが載らないような形で広告会社とは契約いたします。いくつかガイドラインのようなものはございます。例えば、平成24年に国のWebサイトへのバナー広告掲載要領、関係省庁申し合わせというものもあり、あるいは日本インタラクティブ広告協会が出しているガイドラインなど様々なものがありますので、こういったものを使うことで、不適切な広告が出ないような措置は当然考えています。それから、広告が出ることによって、閲覧性や視認性、速報性等に支障が出るということがあっては本末転倒ですので、我々は元々そういった情報を伝えるためにホームページを運用していますので、それが損なわれることのないような様々な措置は当然取っていくつもりでございます。

Q : 広告委託会社はこれから入札かと思いますが、気象庁のホームページの特徴として、他の官公庁のホームページに比べて、特に今回のような大雨が降った場合や地震が起きた場合等に閲覧数が多くなる可能性がありますので、ある程度の閲覧数は見込めるという土壌があるわけです。そうなると入札を掛けたとしても広告会社の広告収入は相当見込まれると思うので、そこに対する民間との関係はどうなのかという感じは持ちます。それと同時に閲覧数などに応じて広告収入が変動するとすれば、例えば今までのホームページの運用とは別に、もう少し閲覧数を高めるための力学のようなものが働いたりする余地はないのか、少しネガティブな質問ばかりで恐縮ですが、そのあたりも含めどの程度慎重に庁内で議論をされた上での決断なのかということを教えてください。
A : 我々が一番気にしていることは、広告が載ることによって閲覧性や速報性等が損なわれるなど、本来我々がホームページを作って情報を伝えるという部分に何らかの支障が生じるということは避けなければいけないので、Web広告の配置場所や、広告動画は使ってはいけないといったことはしっかり議論させていただいております。併せて、国のホームページに載ることが相応しくないような広告は当然最初から排除させていただくというルールにさせていただいております。そこはしっかり議論はさせていただいておりますので、決して閲覧性や速報性が損なわれることがないように措置させていただきますが、仮にそういった支障が出るようなことがあれば、直ちにあらゆる手段を使って改善させていただくことはお約束させていただきたいと思います。

Q : 気にしている点として閲覧性や速報性とおっしゃいましたが、信頼性は損なわれないかという指摘もあるかと思うのですが、それに対しての考えを改めてお願いできますか。
A : 信頼性については、先ほど申し上げましたが、国のホームページに相応しくないような広告が載るということだろうと思いますので、それは当然最初から排除させていただきたいと思っています。

Q : ホームページに限ったことではなく、民間資金の活用について今年度も議論が進んでいる背景には厳しい財政事情もあると思いますが、その点の認識はいかがでしょうか。
A : 厳しい財政事情というのは国の財政事情の観点と理解しましたが、気象庁としては、ここで収入を得るとか得ないということとは無関係に、しっかり必要な予算は確保していくことは当然の話だと思っています。一方で、国として非常に財政が厳しいということであれば、国民の皆様の負担を少しでも減らすためには、収入が得られる部分があるのであれば、収入を得ていくということはあっていいのではないかと私自身は思っています。

Q : 今必要な予算が十分に確保できているということであれば、評論家の方が言っているように信頼性等の懸念がある中で、民間の方に踏み出すという理屈がよく分かりません。
A : 気象庁の予算が足りないからやるということではなく、国として、気象庁ホームページをこれだけの方に見ていただいているおかげで、広告を出せば一定程度の収入が得られるわけですので、それをしないということは、本来得られる収入を無駄にしているということにもなるわけです。そのため、気象庁がどうこうということではなく、国として、これはある意味国民の財産でございますので、そういったものを有効活用していくという観点です。

Q : 本来得られる収入なのかどうかというところにも疑義もありますが、これは積極的にお金を取っていくという、苦肉の策ではなく気象庁として積極的に乗り出した上での施策という理解でよろしいでしょうか。
A : そのような理解で結構でございます。

Q : 今までも、気象庁が技術開発により新たなものを打ち出して、便利な情報として世に送り出したときに、それが民業圧迫だということで引っ込めた事案もかなりあるという認識をしています。それは民間の気象会社が中心です。あとは、民間企業が企業として開発していたものを圧迫したという事例もあったかと思います。そしてこの広告バナーはかなり民業圧迫に繋がると思いますが、ホームページのバナー広告のパイは決まっていて、その山の取り合いの中に、ものすごい閲覧数のある気象庁が国として乗り出すということの違和感も感じていますが、民業圧迫という観点としてはいかがでしょうか。
A : ちょっと意味は違うと思います。我々と民間気象事業者がある程度役割分担を決めて、民間事業者ができる部分についてはお願いをするということは、国の負担がそれだけ減るわけです。我々がもしやれば、それは税金を使ってやることになりますが、一方で彼らがやってくれたら、それはビジネスとして成り立つわけですので、国の支出は全くないわけです。その上でなおかつ、彼らはそれで利益が出ればその分税金として払っていただけるわけですので、国の負担はそれだけ減るわけです。今回も観点としては全く同じです。国の負担が減るわけですから、それは私はやるべきだろうと思っています。併せまして、膨大な広告経費の中のほんのわずかですので、正直ほとんど影響はないと思っています。そんなにとてつもない額が入るわけではございません。

Q : 確認ですが、国の財政が厳しいので、取れるものは取るということは、取ったものは国庫に戻すのでしょうか、気象庁が使うのでしょうか。
A : これは気象庁ホームページの経費の全体ではなく一部に充てます。

Q : 国の負担が減るということをおっしゃるのですが、そもそも税金でやるべき取組を気象庁がされているのではないかという認識で問題意識を持っているのですが、ホームページの経費というのは税金でやるべきことではないという認識でしょうか。
A : いえ、バナー広告で得た収入を、気象庁ホームページの経費の一部、全額充てるわけではなく、あくまで一部に充てるだけですので、残りの部分については税金でやります。本来税金でやるものだということはそのとおりです。一方で、収入が得られるのであれば、その分税金の負担が減るということです。もし、Web広告ができない、あるいは閲覧数が少なくてとても収入にはならないのであれば、それは当然全額税金でやるものだと思っています。

Q : そういった民間資金の活用の中では、税金でやるべきことなのかどうか判断した上でやってらっしゃるのでしょうか。つまり、民間の資金でやるべきことと、そうでないこととを分けて考えておられますでしょうか。
A : 気象庁の業務は国として必要な業務ですので、原則すべて税金でやるものだと思っています。一方で、気象庁の業務の中で、今回のバナー広告のように何らかの形で収入が得られるのであれば、その分税金の負担が減りますから、それは収入としてやりましょうというわけです。

Q : 気象庁のホームページの閲覧数が多いのは分かるのですが、命に関わる緊急性を要するページ、例えば危険度分布のページを見ようとした瞬間にまず何かの広告が出ないとそのページに行かないとか、あるいは地図を見ようと思ったら必ずどこかに広告が映り込んでいるとか、それによって地図が隠されてしまうとか、そういったことは絶対にないということは約束していただけるのでしょうか。
A : はい。そうならないように色々と措置等をさせていただいています。

Q : 少なくとも危険度分布のページや、一連の命に関わるような情報のページには出てこないということでよろしいでしょうか。
A : (予報部担当官)危険度分布のページも含めて広告は掲載されますが、先ほど長官から説明がありましたとおり、情報が見づらくならないように、重ならないように、あるいは情報の表示が遅くならないように、十分配慮して広告の掲載を行いますので、そこは気象庁の条件として業者にお願いをする形で運用を進めるということで計画を予定しております。

Q : 今の回答でまだ答えになっていない気がしますが、広告が入るスペースを割かれるために、画面に入る地図の大きさが小さくなるといったことはありますか。
A : (予報部担当官)情報が見えづらくなるということはなく、ホームページのスペースを上手く活用して広告を掲載するといった形になります。そのため、今表示されているコンテンツが小さくなったりとか、あるいは広告と重なって見えなくなるといったようなことはないように対応して参りたいと思っております。
A : 今あるスペースの中に埋めるという形ですので、今あるコンテンツには変わりなしということです。

Q : 気象庁ホームページのトップページには、危険度分布のバナーが見やすく入っていると思いますが、広告はどうしても鮮やかなものが入りますので、それによって重要なバナーが見えづらくなるという恐れはどうでしょうか。
A : それはないと私は思っていますが、もちろん今までとは画面の様子が変わるので、しばらく違和感があることはあるのかもしれませんが、それによってバナーが見つけにくくなるということはないだろうと思っています。

Q : 我々もそこは必ず注視していくしかないと思いますので、おかしなことにはならないと思いますが。
A : 基本的に、速報性や閲覧性、視認性等が損なわれないということが第一の条件ですので、そこがもし仮に支障があるということであれば、しっかり改善していきたいと思っています。

Q : 長官は今ビジネスとおっしゃいましたが、ビジネスはWIN-WINの関係で成り立っていて、利害関係の世界だと思います。そういった利害関係を超えて、これから先も、気象庁は国の防災機関として適切な情報発信を続けられるのでしょうか。
A : ご質問の意図が分かりませんでしたが、先ほど申し上げたことは、官民の役割分担、つまり我々国がやることと民間がやることがあり、これは我々の方で色々と役割分担をして、「ここまでは国がやります。民間はここをお願いします。」というやり方で、今まで気象業務は進んできました。気象業務というものは国もやっているし、民間もやっているという事情があります。しっかり役割分担をしないと、民間としては、自分たちがやっている事業を国が急に乗り出して来たら、事業ができなくなるわけですから、それがまさに民業圧迫になりかねないという話です。その中で、防災に関しては国にやらしてください、国が必ずやります、ということは常に申し上げて来ているところでございます。先日の交通政策審議会気象分科会の中でも、気象庁がやっていくべき仕事に関して、防災は国自らがやっていくものとされており、一方で、ビジネスに関わるような気象情報については、ぜひ民間の方に頑張っていただき、今まで以上に気象情報を使ってより良いビジネスをしてください、というような仕分けをさせていただいているので、基本的にはその線で今後も行くだろうと思いますし、それは非常に合理的なやり方だと私は思っています。

Q : 国の一番の防災機関として気象庁という組織が成り立っていて、そこがビジネスにある意味踏み込んでいくということに対しては、怖さや懸念というものはないのでしょうか。
A : ビジネスに踏み込んでいくというように我々は意識していません。例えれば、通常は国が行事用に使うために管理している建物を、空いている時に、例えばコンサート会場として、使用料を払っても使いたいという人がいれば、当然空いていても無駄ですので、有料で使っていただくと思います。私はそれと変わらないと意識しています。本来の我々の業務に支障がなく、かつ一定程度それを使いたいという人がいて、それによって収入が得られるのであれば、躊躇することはないのだろうと私は思っています。

Q : 今の話で二つ懸念があるのですが、まずバナーの位置はとても重要で、どこに載せるかによってお金も変わってきます。つまりより良い土地が欲しいわけです。そしてそこに広告代理店が入ると、より高く売って自分たちの収入も上げようとします。気象庁ホームページで一番どこが高いと思われますか。トップページですか。
A : そのような知識がないので、お答えできません。

Q : それは防災情報です。皆がよりアクセスする場所です。そこに皆が入りたがり儲けようとするのが民間です。より防災情報の重要なページであればあるほど、アクセス数を稼げるページに皆が載せたがるということが一つの懸念です。その場合、NHKさんはデータを直接取って、自分たちで危険度分布により近い図を作図していますが、我々民間放送は気象庁ホームページをリアルタイムで取り込んで、防災情報として見方も含めて周知徹底する放送をさせていただいているつもりですが、そのページに広告が出てしまうと、民間放送の原資も広告ですので、競合他社ということが出てきてしまいます。そういう懸念もありますが、その辺は十分考慮されてやっていることなのでしょうか。
A : (予報部担当官)ページのどこに広告を貼るかということについては、気象庁があらかじめ、情報の閲覧性、速報性に支障がないように、気象庁が指定した位置に広告の枠を設定し配信していただくということが条件の一つとなっておりますので、契約した広告運用会社が好き勝手に収入が上がるような位置に広告を置いたりということはございません。

Q : 危険度分布のページには置きますか。
A : (予報部担当官)はい。掲載するページとしては危険度分布のページも対象としております。

Q : 我々は撮り切れなくなってしまいます。そのページを映せなくなってしまいます。
A : (予報部担当官)ここの部分は広告を掲載する予定ですが、例えば、ブラウザの拡張機能で広告を非表示にするといったこともできると聞いておりますので、工夫としてはそういったことが一つあり得るかなと考えております。

Q : きっちり議論してからやった方がいいと思います。財務省のプレッシャーという話も出ていますが、国の財政をなぜ防災の主幹である気象庁が補うようなことをしなくてはならないのでしょうか。もしも、気象庁の技術開発や衛星やスパコンの維持費が現状の予算でどんどん削られている中で逼迫しているのであっても、国民の命を守る国の主幹の機関として、国と闘うべきではないかなと思います。そこを曲げたら、この省庁の存在意義に関わるということを認識して、広告を入れてお金を稼いでもそれほどの額ではないですよ、と言うのであれば、よっぽどやめた方がいいと思います。
A : おっしゃられたように、そんな額ではないです。これがあるから気象衛星ひまわりが打ち上がるとかそういったものでは全くありません。私としては、一定の収入が得られるものがあれば、それは有効活用することが我々の責務だと私は思っています。

Q : 誰に対しての責務ですか。
A : 国民に対してです。それだけ国民の負担が減るわけですので。


(以上)

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