長官記者会見要旨(平成31年1月16日)

会見日時等

平成31年1月16日(水) 14時00分~14時27分
於:気象庁会見室


発言要旨

  それでは、よろしくお願いいたします。今日は本年最初の会見ですので、まず、本年の重点的な取組についてお話をいたします。

  昨年も平成30年7月豪雨、それから台風第21号をはじめとする度重なる台風の接近・上陸、北海道胆振東部地震などによりまして、各地で自然災害が発生いたしました。地球温暖化に伴う気候変動や気象の極端化によります水害・土砂災害の頻発・激甚化、さらには地震・津波や火山噴火による災害が懸念されておりまして、現実に災害が多発している状況です。

  気象庁では、近年、地域の防災を支援する気象防災業務を強化してまいりました。具体的には、日頃から自治体との間で顔の見える関係の構築、防災対応力を高めるための学びや研修などに取り組んでおりますし、災害に際しては市町村に危機感を伝えるホットライン、そして防災対応支援チーム(JETT)の派遣などを通じまして地域防災を支援しているところです。本年は、これらの地域防災支援の取組を一層定着・深化させてまいりたいと考えております。

  また、昨年の平成30年7月豪雨の教訓などを踏まえて、「防災気象情報の伝え方」の改善の検討会を開催してきております。その改善として、危機感を効果的に伝える工夫とともに、情報を使いやすくする、あるいは分かりやすくシンプルに伝える取組についても検討を深めてまいりたいと考えております。

  昨年8月には、交通政策審議会気象分科会から「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」が提言されておりまして、安全・強靱で活力ある社会に寄与するため、「国民とともに前進する気象業務」の方向性が示されております。本年は、この提言で示されました「観測・予報精度向上のための技術開発」と「気象情報・データの利活用促進」という、この2つを『車の両輪』として取り組むということについても、前進をさせる年としてまいりたいと考えております。

  そのひとつである「気象情報やデータの利活用促進」の一環として、幅広い産業分野において気象データを利用して社会全体の生産性の向上を目指す、国土交通省の生産性革命プロジェクトである「気象ビジネス市場の創出」にこの2年ほど取り組んできております。本年は「貫徹の年」といたしまして、「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」によるフォーラムやセミナー、気象データ活用の実証実験、マッチングイベントなどを通じて、産業界や地域のニーズに応える気象データの提供、利活用促進を図りまして、気象ビジネスの創出・拡大の一層の支援に取り組んでまいりたいと考えております。

  次に、この「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」の関連のイベントについてご紹介いたします。2月28日に「第3回気象ビジネスフォーラム」を千代田区の一橋講堂で開催いたします。気象ビジネスフォーラムは、気象データを活用した新たなビジネスの創出や生産性の向上を目指して開催してきておりまして、今回は、「気象データが拓く未来のビジネス」をテーマに、気象ビジネス創出に係るこの1年間の成果発表、気象データを活用したビジネス事例の紹介、さらにはAIをテーマにして気象ビジネスの展望に関するトークセッションなどを行う予定です。
  気象データを活用した新たなビジネスの展開へのヒントとなるような企画ですので、ご関心・ご興味のある方は是非ご参加いただきたいと考えております。

  私からは以上です。

質疑応答

Q : 今の長官のお言葉にもありましたけれど、去年の7月の豪雨では、事前に気象庁からは有意な情報が多数出ながらも、大きな犠牲者が出てしまい、気象庁として初めて「伝え方に関する検討会」というものも作られました。年頭に当たって改めて所見をお願いいたします。もう1点お願いいたします。間もなく草津白根山の噴火からちょうど1年になるんですけれど、気象庁の火山に対する体制について、この1年間の取組がどういうものがあったのか、そして、今後、火山監視体制に関して気象庁がどのようにされていくのか。この2点をお願いします。
A : まず第1点目は、昨年の7月豪雨を踏まえた対応です。今お話ありましたように、昨年の平成30年7月豪雨では、広域にわたり大変甚大な被害が発生しました。気象庁からの防災気象情報の発表、あるいは自治体からの避難の呼びかけといったことが行われたわけですけれども、必ずしも住民の避難行動に繋がっていなかったのではないか、といった指摘もございました。こういったことも踏まえまして、気象庁では、避難等の防災行動に役立つための防災気象情報の伝え方を改善していく、その方策を検討するため、昨年、有識者による「防災気象情報の伝え方に関する検討会」を2回開催して、その成果を昨年末、12月26日ですけれども、改善の方向性と推進すべき取組としてとりまとめて公表しているところです。この提言の方向性あるいは取組として示されているものとして、「あなたの町の予報官」の配置、「気象防災アドバイザー」の一層の活用、「地域防災リーダー」の育成を支援するなどの地域防災力の向上を支援する取組、あるいは防災気象情報の理解促進に資する取組を進めてまいりたいと思っております。また、危機感を効果的に伝えていくための記者会見等における情報発信の工夫についても提言をされておりますので、そういったことにも取り組んでまいりたいと思います。それから、わかりやすく伝える、使いやすくするという観点では、土砂災害の危険度分布の高解像度化、5キロから1キロ化ですけれども、などの防災気象情報をより使いやすくするための取組についても、速やかに進めてまいりたいと考えております。
  昨年の末ですけれども、中央防災会議のWGの報告におきまして、住民主体の避難行動を支援する防災情報として、警戒レベルにより提供する取組というものが示されておりますので、その対応につきましても、さらに議論を深めていく必要があると考えております。年度末にかけて、あと2回ほどこの「伝え方に関する検討会」を開催しまして、この内容を深めてまいりたいと思っております。いずれにいたしましても、速やかな改善に向けてしっかりと取り組みまして、豪雨による被害軽減につながるように、次の出水期に備えてまいりたいと考えております。
  以上が昨年の7月豪雨を踏まえた検討状況、今後の取組であります。
  それから、昨年の1月23日に草津白根山の噴火がございました。この噴火は、有史以来噴火の記録がなかった本白根山の方で噴火があったわけです。それも、特段の火山活動の変化が事前に観測されない状況で発生したものでした。こういった状況もありまして、監視カメラをはじめとして、各種の観測データからは噴火時にその発生や噴火の状況が捉えられずに、噴火発生の事実確認あるいは噴火地点の特定、噴火の影響範囲の詳細な把握といったことにつきまして一定の時間を要するなど課題があったものと考えております。こういった噴火を受けまして、気象庁では、まず直後には、草津白根山に臨時の火山観測機器を増設するなどして、監視体制の強化を行いましたし、この草津白根山の火山防災協議会におきまして、従来から危険度が高いと言われておりました白根山の湯釜付近と、昨年1月に噴火した本白根山のそれぞれについて噴火警戒レベルを設定して、噴火警報を発表するようにいたしました。さらに、目撃情報をより一層活用するといった観点で、草津白根山を含め、全国の火山におきましてこの目撃情報を活用して噴火速報を発表できるように、関係機関との一層の連携、それから情報共有体制の強化を図ったわけでございます。一方で、火山噴火予知連絡会におきまして、こういった長期間噴火がなかった、活動を休止していた火口や山体においてどういった調査研究や監視が必要であるかといったことを検討いただいておりまして、昨年の7月にそれを取りまとめていただきました。その内容を反映した形となりますけれども、平成30年度の補正予算案、それから来年度の予算案におきましては、火山に従来から設置されている民間等のカメラの最大限の活用、それからいくつかの火山におきましては、新たな監視カメラの増設などの監視体制の強化を予算案として盛り込んでいただいているところです。また、同じく予算案の中では、火山噴火後の救助活動や防災対応を支援するために、最新の観測データや火山活動状況の即時的な表示、それからそれらを地元の自治体と双方向で情報交換をできるといった「火山噴火応急対応支援サイト」の構築についても盛り込まれております。こういった予算による整備、引き続きの火山観測・監視、情報提供の実施によりまして、火山災害の軽減に努めてまいりたいと考えております。

Q : 先週、中央防災会議の防災対策実行会議が開かれて、菅官房長官が、南海トラフ沿いの地震の防災対応について実効性のある仕組み作りという指示がありました。気象庁で暫定的な措置としている、「南海トラフ地震に関連する情報」について運用の見直しを考えていく予定はありますか。
A : この1年ほどで、中央防災会議の中で私どもの出す「臨時情報」を防災対応に活かしていく方策について検討いただいたものだと承知しております。具体的には、南海トラフの半分でM8クラスの地震が起こる場合、いわゆる「半割れ」ケースや、一部の地域でM7程度の地震が起こるケースなど、それぞれの場合についてどういった防災対応をするかということが検討されて、それらについて具体的に政府側がガイドラインを示すことで、地域の自治体や企業の皆さん、あるいは住民の皆さんもそうですけれども、どのように対応をすれば良いかというようなことを速やかに決めて、対応できるようにしていくと、こういうことが先般の防災実行会議等で方向性として示されたものと承知しております。そういった観点で言えば、「異常な現象」を観測した際に私どもが出す「臨時情報」が、いわゆる「半割れ」ケースとして沿岸等の住民の避難を想定するような場合であるのか、あるいは「一部割れ」としてそれとは違った防災対応をするという方向性なのか、というようなことがはっきりとわかるような形で、お示しをしていくことが非常に大事なのではないかと考えております。なるだけそのことがわかるような形で、よりわかりやすく提供するということについては引き続き検討してまいりたいと思っております。

Q : 最初の質問で出た、レベルの導入を中央防災会議でやるということが決まって、議論をしていきながら年内に検討会が2回予定されているということで、次の出水期には備えていきたいとおっしゃいましたが、その時までにはレベルに対してどこに防災気象情報が入っていくかというところまで落とし込めるということなんでしょうか。
A : 落とし込んでいきたいと思っております。その検討会の有識者の皆さんの意見をあと2回聞く機会がございます。その中で、例えばレベル3の「避難準備」、レベル4の「避難」といったところに、私どもが出す情報がどう対応するかということはしっかりと対応づけて、なるだけ私どもの出す情報がどの警戒レベルに対応するかをわかりやすく示していくということを努力していかなければならないと思います。私どももそうしていく必要がありますし、報道関係の皆さんにお伝えしていただくということも大変重要ですので、すぐにできないこともあるかもしれませんけれども、可能な限り皆さんの協力を得ながら対応してまいりたいと思っております。

Q : 次に、南海トラフの「臨時情報」の見直しというところで、よりわかりやすく、伝わりやすくということですが、具体的には検討会を開いて決めていくのか、それとも今何かイメージしているものがあるのか、そのあたりいかがでしょうか。
A : 現在のところは、すでに「臨時情報」として、私どもが「半割れ」ケース、「一部割れ」ケース等について、一定の情報文の案はこれまでも作成してまいりましたから、その中で今回はどの事象に該当するのかをわかりやすく示すことは継続的に検討をしていく必要があります。ひとまず政府からガイドラインを示して、自治体、あるいは地元の企業の皆さんとが検討に動き出し始める時期があると思いますので、そういったところまでは色々検討しながらいくのだとは思っておりますけれども、地震は待ってくれないかもしれませんから、今すぐ何かがあった場合でもこれまで想定してきた案の中でどのケースに該当するかを示すといいますか、なるだけその中でわかりやすく提供していくことはしていきたいと思います。

Q : 細かいところで恐縮なのですが、中央防災会議の報告書の中では、例えば「半割れ」みたいなケースだったら、第一号まで30分待たなくても出せるんじゃないかというようなご意見もあったかと思うのですが、当初はやっぱり色々な判定をするためには30分ぐらいは必要でその時機にあわせて出したいと、暫定の運用の中ではお話を聞いていたんですが、早められるというような実感というか、実務的には早く出すことは可能なのでしょうか。そのあたりの気象庁側からのコメントというのが検討会の中では出ていなかったのでその辺はどうお考えでしょうか。
A : 実際に、いわゆる「半割れ」ケースというのは、M8クラスの地震が起こっているわけでして、気象庁からは一連の情報の流れとしては、緊急地震速報、震度速報、津波警報等、だいたいこの地震のイメージがどんなものかというのを5分とか10分の間には皆さんにお伝えしているような状況になるのだと思います。そういう中で、いわゆる検討を開始しますという「臨時情報」の第一号については、もうその時点では検討を開始しているのは間違いないわけで、何らかの形でお伝えできうるとは思っております。問題は、実際にそういう大きな災害がすでに発生している、あるいは津波等が押し寄せてきている状況の中で、隣接側といいますか南海トラフ沿いの割れていない側の方についても、その注意が必要ですということをどういうタイミングでお知らせしていくことが円滑な防災対応になるのか、ということがありますので、そういった点も踏まえながら、お知らせをしていく必要があるのだと思います。M8クラスの地震が起こりますと、広範囲に津波警報が出ますので、10分、15分、30分という時間を経て解析的に見れば、だいたい地震のイメージが出てきます。南海トラフのどの領域が割れているのか、裂けているのか、「半割れ」なのか、そういうことを踏まえますと、もちろん「半割れ」ケースであるという認定はできるのだと思います。それを15分とか30分という中でできたとして、一連の防災の呼びかけの中にどのように入れていくか、その時点では割れていない側も津波警報が出て避難をしている状況ですので、そういったことを誤解のないように、円滑に伝えていくということが大変重要なのだと思っております。

Q : そのあたりはまだ議論の余地があるのでしょうか。
A : 色々とシミュレーションといいますか、試行錯誤をして検討していくことが重要なのではないのかと思っております。

Q : レベル化について質問します。マスコミの方でどう伝えるのかということが非常に大切になってくると思うんですけれども、それはマスコミに気象庁から出される情報、例えば警報ですとか注意報というものがレベル何相当なのかということが付いた電文のようなものが、おそらく夏までに来るようにはならないと思うんですが、気象庁が出す情報が何のレベルに当たるのかということが、マスコミにちゃんと行きわたるような仕組みができるようになるのはいつ頃になるのか、見通しをお願いします。
A : まさに皆さんとお話をしながら考えていく話だと思います。例えば、マスコミの皆さんは、私どもが出したXML(拡張可能なマーク付き言語)電文をシステムで解読して、自動で表示するということをされているのだろうと思います。そういったときに、私どもが電文を改修したときに皆さんができない状態であるかもしれませんし、一方で電文では改修しないけども何らかの形で、例えば平文の形として警報発表とあわせてレベルいくつですとお伝えをするということは可能な部分もあるかと思います。それはよく意見を聞きながら、段階的になるかもしれませんけれども、可能な限り皆さんの意見を聞きながら進めてまいりたいと思っております。

Q : 気象庁の方からそういった形で示されないまま、我々がレベル何相当というのを判断しなければならないという事態が想定されうるというのが懸念としてあるんですけれども、そのあたりはいかがでしょうか。
A : いくつかの場合が想定されうると思います。例えば、私どもの出す情報がレベルいくつであるかという対照表を共通で持っていただいて、いくつですと翻訳をして報道いただく、周知いただくという場合もあれば、私どもが出すその情報文の中にレベルいくつですと入れてする対応もあれば、XML電文の中にそうやって入れるなど、色々な段階がありますので 、それはやはり皆さんがどういうようにお伝えできるかということをお聞きしながらやっていくのだと思います。まずその前に、「伝え方検討会」がありますので、有識者の皆さんの意見も聞きながら進めるということになるのではないかと思います。

Q : 「伝え方検討会」の方で話し合われて、どのレベルにどの情報をというのは決定されると思うのですが、そういった伝える側として対照表を持っていちいちやるということになると、報道現場でかなり煩雑になることも考えられうるので、そこの点について我々と気象庁側の方で話し合いということもおっしゃっていただきましたけども、そういった場を設けて頂かないと、次の出水期に向けてかなり混乱を生じることが懸念されます。その点について今ここでなかなか回答は難しいとは思いますが、いかがでしょうか。
A : そのようなご意見といいますか、ご要望があるということは十分理解できますし、承知していますので、それを踏まえて対応を前向きに考えてまいりたいと思っております。

(以上)

このページのトップへ