長官記者会見要旨(平成30年5月16日)

会見日時等

平成30年5月16日(水) 14時00分~14時40分
於:気象庁会見室


発言要旨

  それではよろしくお願いいたします。私の方から、四点お話をさせていただきます。

  最初に、気象記念日についてです。きたる6月1日は、第143回気象記念日でございます。気象記念日は、明治8年(1875年)の6月1日に気象庁の前身である東京気象台において気象と地震の観測を開始したことを記念して制定したものであります。気象庁では、毎年、この気象記念日にあわせまして「気象業務はいま」を刊行しております。この「気象業務はいま」は、災害の予防、交通の安全の確保、産業の興隆等に寄与する気象業務の全体像について広く知っていただくことを目的とするものです。後ほど、今年の内容について、担当からご説明いたします。ご活用いただければ幸いです。

  次に、地方公共団体の防災担当者を対象としたワークショッププログラムについてです。地域の気象防災に一層貢献する具体的なツールの一つとして、平成29年度に「地方公共団体防災担当者向け気象防災ワークショッププログラム」を開発してきました。本プログラムでは、土砂災害あるいは洪水災害が発生するおそれがある状況において、地元気象台から発表される防災気象情報を活用した地方公共団体の防災対応についてワークショップ形式により疑似体験をしていただくものであります。このプログラムを通じまして、各種の防災気象情報を理解・活用し、防災対策の強化や避難勧告の発令のタイミングなどの検討と判断のポイントを学んでいただくこということを目指しているものであります。本日、このワークショッププログラムを、気象庁のホームページで公開をいたしました。気象庁では、各地の気象台が進める地方公共団体の防災対応支援の一つとして、このワークショッププログラムを活用していく予定であります。

  三点目は、気象庁がこのたび6月5日から運用を開始する新しいスーパーコンピュータについてです。気象庁のスーパーコンピュータは、目先から数ヶ月先までの気象予測や気候変動の監視・予測に必要な様々な数値計算を行うものであり、各種の気象情報の根幹を支えるものとなっております。このスーパーコンピュータをしっかりと活用いたしまして、台風や集中豪雨対策、あるいは日常生活・社会経済活動の様々な場面で幅広く利活用される各種の気象情報の更なる改善に順次、取り組んで参ります。

  最後に、出水期の大雨、そして熱中症への対応についてであります。沖縄と奄美が既に梅雨入りをいたしました。これから6月にかけて全国的に梅雨に入るシーズンであり、今後、本格的な出水期を迎えます。大雨が予想される場合には、時間をおって段階的に気象情報、注意報、警報等を発表いたします。これらを活用して、早め早めの防災対応を取っていただくことが重要であります。また、この6月下旬からは、15時間先までの降水量予報の提供開始を予定しており、この情報の十分な活用もお願いしたいと考えております。気象庁、各地の気象台では、これらの防災気象情報の理解・活用に向けて取り組んでまいります。報道関係の皆様におかれてもぜひご協力をお願いします。
  今年も既に各地で夏日、真夏日となるところがでてきており、本日も各地で気温が上がっている状況であります。熱中症への備えが必要となる時期になってまいりました。この時期は、まだ暑さに体が慣れていないこともありますので、十分な留意をお願いします。気象庁では、最高気温が概ね35℃を超えると予想される場合には高温注意情報を発表し、また、35℃にならない場合であっても、最高気温が概ね30℃以上となる場合には、天気概況の中で注意を呼びかけることとしております。また、気象庁ホームページには熱中症に関するポータルサイトも設けておりますので、熱中症対策にご活用いただければと考えております。

  私からは以上です

主な質疑応答

Q : スーパーコンピュータの更新について、一点お伺いいたします。気象情報の根幹を支えるものというようなご発言がありましたが、さらなる改善に向けて、欧米と比べても開発の人員が少ないという指摘もございますが、長官としてはどういった体制で更なる改善に取り組んでいかれるお考えでしょうか。
A : 先ほど私も申しましたけれども、数値予報は、気象庁が発表する様々な気象情報の根幹を支えるものでありまして、この数値予報の精度向上に向けた取組は極めて重要だと思っております。台風あるいは集中豪雨といった激しい現象にたびたび見舞われる我が国におきましては、このような現象に対する精度の良い予測が求められておりまして、我が国の気象庁は諸外国と比較いたしましてもトップレベルの気象サービスを実施できているものと認識しております。一方、今ご指摘ありましたけれども、数値予報精度の国際比較で引用される指標のひとつとして、全球数値予報モデルの500hPa高度面の予測精度がありまして、この指標で見ますと、我が国は最先端のいくつかの欧米諸国に比べて若干見劣りをしているという現状がございます。この全球数値予報モデルは、台風や集中豪雨等の激しい現象を予測する上での基本となる数値予報モデルでありますので、気象庁としては、この予報精度向上の取組に不断に努力を続けていくことが重要だと思っております。開発体制と人員の件もございますけれども、それぞれの国が予報対象としている領域、あるいはその気象の現象、例えばヨーロッパと比べて日本は非常に激しい現象が起こります。こういった発生する気象現象や災害の特徴と、必要とされる気象サービスが大きく異なっているというような状況ですので、一律に人数などの単純な比較をもって数値予報の開発体制や技術力について述べることは難しいのではないか、比較するのは難しく、慎重に見ていく必要があると思っております。いずれにしても、気象庁としましては、わが国の気象災害による被害の軽減に資するよう、数日先までの気象予測や、様々な社会経済活動に影響を与える長期的な気象予測を含めまして、その予測精度の向上に不断に取り組んでいかなければならないと思っております。そのためには国内研究機関などとの更なる連携も必要でしょうし、海外の気象機関への人員の派遣等を通じた数値予報技術者の育成も重要ですので、こういったことを行いながら、必要な体制も整えながら、予測精度の向上に取り組んで参りたいと思っております。

Q : 先月の26日に、硫黄山で二回目の噴火速報が出ましたけれども、噴火速報が出るときというのは、今まで噴火していた火山で、より規模の大きいものとか、警戒レベルを引き上げるようなときに出るという様に周知されていたと思うんですけれども、この間の二回目に関しては、どういった理由で出されたのかというのを教えていただけないでしょうか。
A : お尋ねがありました二回目の4月26日の噴火ですけれども、この噴火は硫黄山のこれまでの想定火口の外側、硫黄山の西側500m付近で発生したものであります。噴火速報の目的でありますけれども、噴火の発生直後に、噴火の発生事実を周辺の方にお伝えするという情報です。この26日の噴火ですけれども、火山防災協議会において、予め協議をして設定をした火口以外の噴火であったということ、あるいはその後の噴火の推移の不確実性もありましたので、噴火の発生事実をとにかく迅速にお伝えするという必要があると判断して、噴火速報を発表したものです。噴火速報について、より的確に防災対応をとっていただくという観点から、どのような場合に噴火速報が発表されるかを、あらかじめ関係者との間でよく共通の認識として持っておくことが重要だと思っております。噴火速報は、噴火警報が出ていないような状況で初めて噴火があるような場合に噴火の事実をお知らせするとか、あるいは既に設定している噴火警戒レベルより、より大きな噴火が想定されるような場合ということでございましたけれども、今回のように想定していた火口以外で発生をし、技術的な観点から言えば、なかなか推移を予想するのが難しい不確実なこともありますので、皆さまに事前にお話をしている以外についても、噴火速報を発表することがありえるんだということもしっかり周知していく必要があると思います。噴火活動をみますと、噴火する火口が違ったり、あるいは噴出物の違いで噴火形態が時々刻々と変わったりということがございます。その状況に合わせて、いかに私どもが、噴火に関する警報、情報を的確に発表し、皆さまにお伝えをし、適切な防災対応をとっていただくかということが非常に重要です。そういう観点から言えば、どういったときに噴火速報を発表するかということについても、その火山全体の具体的な活動の変化に応じて、違ってくる可能性があるということをやっぱりしっかり頭に入れておく必要があると思います。どのような場合に噴火速報を発表するかについて、おおまかな目安はお示しすることはできると思いますけれども、やはり噴火の状況、火山活動の状況に応じて、今の発表の考え方が良いのかどうかということを点検しながら、あるいはそれを点検した上で変化があるならば、地元のみなさんにも共有しながらやっていくということが、あるべき姿なんだろうと思います。そういったことをよく頭に入れながら、よりよい噴火速報を発表できるように、努めていきたいと思います。

Q : 今回、その想定する火口以外のところで噴火したので、推移が不確実だったから出されたということで、その周知もこれからしていきたいとおっしゃいましたけれども、これは何か例えばホームページとか一般に周知していくということをお考えですか。
A : ホームページには二つの例について書いていますけれども、今回のような場合についてもなるだけわかりやすく、こういう場合もありますよと、わかりやすく個別具体的になかなか書きづらいということがありますが、ホームページに何らかの記述は加えていく必要があるんだろうとは思っております。そこのあたりは難しいところもあって、現在書いていないというところはあるんですけれども、例えば、内規には三番目として、バスケットクローズ的にその他必要がある場合というようなことを書いています。その他必要がある場合という中に、社会的影響が大きいといったような文字がありますけれども、社会的影響が大きいことが確定してからというより、そういう恐れが想定されるなどとか。火山の状況に応じていかに的確に出していくか非常に難しいとかありますので、その都度その都度現状がどうなっているか、こういうときに、こんなことが起こったら出すというようなことを、その都度その都度考えながらやっていくというようなことが現実的なオペレーションなのではないかなと思います。一般論として典型的な二つ、二つというのは噴火警報が出ていないような場合で初めて噴火するような場合とか、警報が出ていても設定したレベル同等かそれ以上のような場合とか、そういう二つ以外にも噴火速報が出るんだというようなことが何らかの形でホームページでわかるようにはしておきたい、というのが一つです。それから、時々刻々活動状況が変わり得ますので、この山についてはこういうときに出す可能性がありますよ、ということをその都度点検しながら、必要な情報共有を可能な限り図りながらやっていくことが必要なのではないかと思います。

Q : この山のときには、こういうときに出すとか、いわゆる三番目のバスケットクローズ的なところというのは、結構その時々の判断が求められるかなと思うのですけれども、噴火速報というのはすぐに噴火した事実を防災行動をとってもらうために、すぐに出さないといけないという意味では、そういった判断が求められるような出し方の情報だとなかなか運用としても難しいのではないかなと思うんですけどもそのあたりは。
A : 今回の4月26日の噴火速報についても、結果として噴火の規模は小さいし、継続時間も非常に短かったわけでありますので、出さなくても良かったのではないかというようなことを思われる方がきっといらっしゃるのではないかと思うんですけれども、被害を軽減するという観点から、後から見ると空振りのようなことがあったとしても、技術力を高めていきますけれども、当面はそういうことがあるということもある程度知っておいていただく必要があるとは思います。

Q : 速報を出すときに、ある程度判断が求められるような曖昧なところがあると、速報を出すのに、ある程度シンプルな基準で出さないと、すぐに出すのは難しいのかなと思うのですけどもそのあたりはどうなんでしょう。
A : 一般的に記述できる基準と、その山その山に応じて、その活動その活動に応じて出す基準というのでしょうか、発表する目安というのでしょうか、その後者については具体的にシンプルな基準を設けざるを得ないだろうと、速やかに出す必要がありますから。そのときに、影響を確認してから出すのではなくて、こういうことが起こった、今回であれば想定している火口以外で噴火するならこれは出したほうがいいのだと決めて出すということになるのではないかと思います。そういう決めはしっかりと具体的にやらないと現場ではオペレーションができないという認識は持っております。そういうことをやると、噴火速報とはすぐ出すものですから、結果として後で見ると出さなくても良かったのではないかということは起こりえるので、結果として空振りであったという評価もあるかもしれませんけれども、空振りと言われてもしっかりとやっていくことが重要だと思いますので、そのあたりもみなさんと可能な限り情報共有しながら、その都度やっていく必要があるのだと思います。

Q : 結果として小さかったから出さなくても良かったとは決して思いません。であるからこそ、やはり周知するためには早く出すことが必要かと思います。今回の26日でいうと、噴火してから11分かかっているという事実があります。このあたりについてどうお考えなのか。それは何を確認していたから、そこまで遅くなったのかを現場の方に聞いてもきちんとした答えがなかったので、ですからシンプルな基準で、例えば想定外だったらもう出すと決めたならもっと早く出せたと思うのですが、何を逡巡していたかというところが大事ではないかなと思うのですがそのあたりはいかがでしょう。
A : 噴火そのものを認定するというのは大変難しいと思うのです。もともとは水蒸気というか、白い湯気というかが出ておりましたので、それをずっと噴煙をモニターする中で色が変わってくるというものを、どの段階で噴火と認定するかというようなことが、それぞれの事象に応じて大変難しいと思いますので、5分程度を目標に出すということではありますけれども、結果として噴火だと認定できるようになった時に10分かかったというケースは当然ありえると思います。まして1月の草津白根山については、多くの皆さまから噴火速報が出なかったことについて様々なご意見をいただいておりまして、実際にモニターをする、把握するのに時間がかかるわけで、草津白根山の場合に限り、出したとしても1時間とは言わなくても相当な時間がかかっていた可能性があるわけです。シンプルに決めて、例えば、関係者からの通報を受けて出すと決めたとしても、必ずしも5分で出せるということではない、噴火を確認できれば速やかに出すという行為については、なんら変わらないだろうというように思いますので、先般の4月26日についても、11分かかったということについては、次第に噴気の色が変わる、私自身が色の変化を11分間見ておりませんけれども、これは噴火と認識するというところに一定の時間を要したのではないだろうかと思います。いずれにしてもシンプルな基準を設けて、噴火速報についてはやる必要があると思います。噴火速報は、ご案内のように、御嶽山を踏まえて運用を開始してまだ計5回目の発表ということで、それぞれの事案が、それぞれ違うというような状況にありますので、引き続き私どもも技術を磨きながら、あるいは皆さまのご意見いただきながら、いいものにしていきたいと思っております。

Q : 出水期に向けて、防災活動を行う上で、地方気象台と地方自治体との連携強化がすごく大事になってくると思うんですが、今月からJETTが始まったり、ワークショップなどがあるんですけれども、今後、より地域との連携強化に取り組むためには、去年の秋田地方気象台長の各市町村長との直接の電話のやり取りが話題になりましたけれども、何か連携強化に向けて、こういうことをやって欲しい、地方気象台に求めたいことはありますか。
A : 求めたいことというか、既に指示はしているのですけれども、先ほどご紹介のありました、秋田の昨年度の地方気象台長のお話ですけれども、平時からの関係をしっかりと構築していくことが非常に重要だと思っております。顔の見える関係ということだと思いますけれども、昨年の8月に「地域における気象防災業務のあり方検討会」でいただいた提言の中でも、「平時こそ大事である」ということをしっかり言われておりまして、平時から顔の見える関係があり、いざという時に電話をしてもすぐ通じる、平時から先ほどのワークショッププログラムじゃないですけれども、防災気象情報の理解・活用、いわゆる読み解きをしていただく能力を一緒になって高めていかなければならない、あるいは、平時からそれぞれの地域における災害リスクをともに学ぶ、ともに理解する、というようなことを、平時からの取組をやるように指示しておりますので、そういったことをしっかりとやっていきたい。特に4月、5月は出水期を迎えるにあたって、各地方気象台では、県や自治体等との関係する機関との連絡会を開催しておりますし、会議、それぞれ個々に回って顔の見える関係の構築というようなことを、この時期に特にやって、出水期に備えていきたいと思っております。

Q : 各市町村長と各地方気象台長の直接の携帯電話の電話番号の交換は、義務化というか、指示されているのでしょうか。
A : 進めてくださいと言っておりまして、非常に大きな自治体では、首長さんそのものより、防災監のような方がいらっしゃって、そこと実質やってほしいというようなところもありますけれども、そういうところも合わせて、ほぼ全ての市町村と言っていいくらいのところで、電話番号の交換等が終わっていると認識しております。

Q : スパコン導入について、2点コメントいただきたいのですが、まず、今回が10代目ということで、これまでの進化を踏まえられて、今回の更新の意義というか位置づけというか、特にひまわり8号など観測側の技術革新が進んだと思いますけれども、そういったものへの対応などについて教えてください。もう一点ですけれども、AIであったり、IoTの進展で民間企業が商品の需給予測だったり、電力の予測だったり、そういったことに気象情報を活用する機会が今後ますます増えていくかと思うんですけれども、そういったものへの対応など、どう考えておられるか教えてください。
A : スーパーコンピュータは、これまで更新を繰り返してきて、最初はスーパーコンピュータとは言わないですけれども、10代目ということで、今運用している9代目と比べても計算能力がほぼ10倍に上がるということになります。数値予報の向上という観点では、このように計算機資源をしっかり確保して、それも24時間途切れることなくオペレーションできるという計算機を確保して、日々のオペレーションをする必要がありますし、また、その合間合間を縫って、計算機を使って、精度向上のための開発をしていかなければならないわけです。そのためには、数値予報の中で扱っている物理過程をより精緻なものにするということもございますし、それからひまわりの話がありましたけれども、最近ですとひまわりを始め、様々な衛星のデータがございますので、そういったデータを、データ同化といいますか、よりよく利用するという技術開発もあります。それから、やはり数値予報はメッシュが細かくなるといいますか、計算の解像度を上げるという必要があります。解像度を上げれば単によくなるわけではなくて、解像度を上げるなりの工夫といいますか、物理過程をパラメータ化するだけでなくて、新たな計算をしなきゃならないということも出てまいりますので、そういったことをしっかりと、計画的に、推進しながら数値予報の精度を上げていくということが非常に重要ですので、それをしっかりやっていきたいと思います。
  それから、主に私どもは、数値予報を計算するにあたって、防災という観点で必要ですので、より精緻なモデル、より精度の高い計算をするわけですけれども、そういう計算をしますと、結果として、様々なプロダクトが同時に出てまいります。例えば、日射の予測がどうなるのかというようなことについても、一工夫すれば、日射予測データというのも精緻なものが計算できるようになります。昨年の12月ですけれども、日射予測データを配信させていただくこととしました。それは、防災に限らず、様々な産業分野で直接ご利用いただく、あるいは、民間の気象事業者の皆さまが、よりきめ細かなサービスをするための土台となるというか、基礎となる日射予測データというものを提供し、例えば、ベストミックスな電力の発電の運営をするというために使っていただくというようなこともあると思います。そういった電力の話もありますし、様々な産業分野、例えば農業、小売業、製造業等の様々な分野の活動が気象の影響を受けているのは間違いないわけですので、そういった活動の中で、よりよく気象データを使っていただくということが大変重要ですので、気象庁が是非作らなければならない気象データは気象庁として作る、あるいは活用するにあたって、こういうように活用するといいですよという、技術的な助言をしていかなければならないと思います。先ほど具体的に日射予測のことを言いましたけれども、例えば、6月下旬から提供する予定の15時間先までの降水量予報につきましても、今までは6時間だったものが15時間に延びますので、より長い期間、例えば交通に係る運行への利用もできると思います。それから、今年度の予算で整備をし、準備をすることとなっておりますけれども、2週間先までの気温の予想を提供するというためのシステムが、平成30年度の予算で認められておりますので、準備を進めて、実際には来年の6月くらいに正式な運用となると思いますけれども、2週間先までの気温予報の提供が始まるとそれぞれの分野ですぐにご利用いただけるように、年内には試行的なデータ提供も始めたいと思っております。そういうことで、様々な産業分野のニーズ、それから実際に気象サービスをする民間の気象事業者やIT業者の皆さまのお話もよく聞きながら、気象庁として必要な情報提供を引き続きやっていくこととしています。

Q : スパコンの更新にあたって、先日、気象研究所でも積乱雲の詳細な観測ができたということで、局所的な現象、特に集中豪雨に関して、このスーパーコンピュータの更新によって、メソアンサンブル予報も組み込まれるということで、例えば線状降水帯であるとか、集中豪雨の予測・予報というのができると、非常に防災的には役立つと思うのですが、このあたりの期待、来年度始めごろにはというようなお話をいただいていますが、集中豪雨、防災に関してのスーパーコンピュータの活躍の期待について、長官からありますでしょうか。
A : おっしゃるとおり期待は非常に高いです。今、ご紹介ありました、メソアンサンブルは、初期値が変わると様々な答えが出てくるわけでして、ちょっと言い方が難しいですけど、何種類か計算した中には、実際に似ているようなものがあるということは、予測の可能性がどんどん高まってくるわけですので、メソアンサンブルで予想されたものをどのように使って皆さまにお伝えしていくかということが、大変重要な課題であると思っております。もちろん、メソアンサンブルを計算する5kmのモデルそのものの物理過程をよくするとかありますけれども、アンサンブルとして計算されたものが、たくさん色々なパターンの予測結果が出てきたものを、どのように調理をするといいますか、そのまま生で出してもいいんですけれども、調理をし、利用者の皆さまが、それをなるほどと思って使っていただく、この翻訳といいますか、インターフェースは大変難しいことと思っています。庁内では、作成するところ、利用するところの間で、ずっとどうやって使ったらいいのか、あるいは地方気象台等の現場においてもどう利用するといいのかということを意見交換をし、どのように皆さまにお伝えするのがいいのかということを研究しているところなので、いい使い方をしていかなければならないという意味での期待が大変大きいですし、責任も大きいと思っております。

Q : 将来的には予測というのは、できる可能性は高いのでしょうか。
A : 徐々に精度が上がっていくことは間違いないと思うのですけれども、どこまでいっても不確定要素はあるわけです。例えば平成27年8月に交通政策審議会から「新たなステージに対応した防災気象情報のあり方」ということで提言をいただきました。その中でも言われているのは、「社会的影響があるような場合は、可能性が低くてもしっかり伝えていく」ということをやりなさいと言われているわけで、可能性・確度をどの程度であるかということをよく把握しながら、可能性もお伝えするし、可能性が小さくてもいわゆるインパクトがある、よく「Impact Based Forecast」とか「Impact Based Warnings」とか言いますけれども、社会に影響があるようなものについては、しっかりとお伝えしていくという基本を持ちながらやっていきたいと思っております。

Q : スパコンの人員に関してですが、単純な各国との比較はできないとおっしゃいましたが、例えばイギリスについて考えてみますと、日本よりも、台風であったり集中豪雨であったりのリスクがない国ではありますが、イギリスの気象局は200人程の体制でしているかと思います。それに比べて、日本は数値予報課、気候情報課合わせて70人程の体制だと。より激しい現象が、日本の場合だとリスクがあるという中で、この人員の差というのは、埋めるべきものなのか、それとも人員とはまた別のもので、予報の改善を図っていくものなのかという、長官のお考えをお聞かせください。
A : 少し補足させていただきますと、イギリスは、例えば航空分野で言えば、世界のセンターになっていて、世界を対象としていかに精度を上げていくかというようなことがあります。確かに、日本の気象庁においても数値予報の全球モデルを見る場合に、全世界の精度がどうなっているか、もちろん見ますけれども、具体的なサービスを見たときに、世界を最初から視野に入れているというようなことがあるので、先ほども言いましたけれども、日本人が最初から世界を全部俯瞰して、全てのところに気象サービスするような目で見ているかと言えば、必ずしもそうなっていないということです。それから、例えば、イギリスは気候変動にすごく熱心なようでもありまして、気候変動に係る技術開発というのも、イギリスは一生懸命やっております。もちろん日本の気象庁も本庁に加えて気象研究所でやっておりますけれども、日本の場合は、大学あるいは国立の独立行政法人の研究機関等においても、研究をしているということがございます。そういう意味で、例えば、イギリスの気象局が何人、日本が何人というように単純に比較するのは、とても乱暴なのではないかという印象を持っております。とはいえ、例えば全球モデルでいうと、私は若干のビハインドだと思うんですけれども、やや見劣りはしているという状態があって、かつ全球モデルがより精度よく計算されてこそメソなどの領域モデルの精度が上がるということがありますので、全球モデルの精度をしっかり上げていくことはやっぱり重要であり、それに見合うだけの投資をしていく、あるいは関係機関との連携を強化していくという必要があるんだろうと思います。

(以上)

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