長官記者会見要旨(平成24年3月15日)

会見日時等

平成24年3月15日(木) 14時00分~14時15分
於:気象庁会見室

発言要旨

 本日の会見は、「東日本大震災」から1年ということで、この1年の取り組みや今後の対応などを中心にお話しさせていただきます。

 「東日本大震災」では、1万6千人近くの方々がお亡くなりになり、未だ行方不明の方々も3千人を超え、戦後最悪の未曾有の大災害となりました。被害の甚大さに胸を痛めつつ、この節目の時に際し、ここに改めて犠牲になられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。また、大切なご家族やお知り合いを失われた方々、家屋が甚大な被害を受け、あるいは流失するなど、多くの財産を失われ避難を余儀なくされている方々が未だ34万人を超えており、改めて心よりお見舞いを申し上げます。

 「東北地方太平洋沖地震」とそれに伴う巨大津波は、気象庁が業務を推進していく上で、多くの課題を浮き彫りにしました。

 これらの改善として、はじめに津波警報についてですが、巨大津波による未曽有の被害を教訓としまして、津波監視・予測技術や、津波警報の発表基準及び情報文等の在り方について、全体的な見直しを進めてきたところです。
 昨年6月から有識者による勉強会と検討会を計6回開催し、9月12日には中間報告とも言える「津波警報の改善の方向性」を、引き続き、この2月7日には「津波警報の発表基準等と情報文のあり方」について提言をいただきました。これらを受けて、全体を整理し津波警報の改善の方向性としてとりまとめ、この3月1日に気象庁ホームページで公開したところです。

 今後、気象庁側のシステムの改修のみならず、警報を伝達していただく国、都道府県、市町村、放送機関等の方々のシステムの改修等もありますので、これについて十分調整した上で、できるだけ早く運用を開始したいと考えています。
 さらに、津波警報については、今回の改善策も含めて、その周知・啓発が極めて重要ですので、関係機関とも連携しつつ、全国の気象官署も含めて庁を挙げてその取り組みを強化したいと思っています。

 次に、津波警報の改善にかかわる観測面の強化ですが、可能な限り早期に、広帯域強震計や3式の海底津波計を整備し、運用を開始したいと考えています。また、関係機関と連携して、沖合津波観測等の体制の強化を進め、津波警報の精度向上を図ってまいります。
 また、津波予測の技術面については、例えば、M8を超える巨大地震を早期に検知する技術について様々な取り組みを進めておりますが、これらについての開発や沖合津波計の利用技術などの開発を促進し、技術的に利用可能となった段階で順次、地震・津波の監視業務に取り入れていきます。この点については、昨日(3月15日)の三陸沖の地震において一部適用しました。
 昨日の地震では津波注意報を地震発生から約3分で青森県、岩手県に対して発表しました。さらに23分後に北海道の太平洋沿岸にも注意報を追加しました。
 地震の規模はM6.8で、M7に近い大きな地震でしたので、試験的にですが、長周期の地震波を評価して巨大地震であるかどうかを判定するシステムを適用し、マグニチュードを過小評価していないということをその時点で判断しています。さらに、海洋研究開発機構が釧路沖に設置している海底水圧計のデータを使い、震源地に近く、地震動の影響があったためフィルター処理を施し、地震発生から約7分から12分後に、ピーク・トゥ・ピーク(津波の波の最も低い所と高い所の差)で6~7cmの水位変化を検出しました。地震発生後3分で算出するマグニチュードの大きさから当初は北海道の太平洋沿岸に津波注意報は不要と判断しましたが、モーメントマグニチュードに加えてこの水圧計の値を使って沿岸への津波推算技術を適用すると注意報に格上げすることが適当と判断し、北海道を対象に注意報を発表したところです。
 「東北地方太平洋沖地震」を契機に新たに導入したこれら2つの技術的な改善点を今回の地震に適用しましたが、これらは本来より巨大な津波地震に適用する予定のものですが、その試験的な意味もあり今回のM7クラスの地震に適用して、当初注意報を発表していない北海道の太平洋沿岸に対して注意報を発表したところです。これについては、注意報レベルでも海上あるいは沿岸では危険ですので、気象庁としては、より安全サイドに立って情報を発信しました。
 引き続き「東北地方太平洋沖地震」の余震域やその周辺での地震活動が活発化しており、さらに南海トラフでの大きな地震が懸念されているところですので、地震や津波の規模を過小評価することなく津波警報を速やかに発表できるように、技術開発を進めていきます。さらに技術的に目途が立ったものについては順次地震・津波の監視業務に導入していく姿勢で臨んでいきます。

 一方で、「東北地方太平洋沖地震」では、首都圏や大阪府などで、長周期地震動による被害が発生しました。さらに、南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動による被害も懸念されていますので、気象庁では、昨年11月から有識者による検討会を開催し、長周期地震動に関する観測情報のあり方についてご議論いただいております。
 今月中にあと1回の開催を予定しており、この最後の回において、検討会の初期の目標としていました観測結果についての情報のあり方について、その方向性を提言いただきたいと思っています。この提言を踏まえ、来年度末には、観測結果を情報として発表を開始できればと思っています。
 さらに、来年度は、予測結果についての情報のあり方について検討を進めたいと思っています。

 「東北地方太平洋沖地震」では、観測ネットワークが甚大な被害を受けたことや気象官署自らが被災したことに加え、地震・津波観測施設やアメダスなどの観測ネットワークも大きな被害を受け、その復旧が重要な課題となりました。このため、通信の二重化や電源の強化という点で、災害に強い観測ネットワーク作りを進めてきたところです。
 また、観測ネットワーク全体の強化という点では、地震津波観測網の強化については先ほどお話しましたが、気象の面でも秋田の気象レーダーをドップラー化し、引き続き長野、静岡及び名瀬について気象レーダーをドップラー化する予定です。これによって全国20か所すべてにドップラーレーダーが展開され、ナウキャスト等の予測精度向上や大雨の監視において非常に力を発揮できるものと考えています。

 また、被災地向けの気象情報についても強化しております。
 例えば、地震により地盤が脆弱になっており、大雨警報や土砂災害警戒情報の基準を下げること、あるいは地盤沈下により異常潮や高潮も極めて重要ということで、被災地へ雨や潮位についての情報の提供を推進してきました。
 これらの情報については極めて重要と考えており、引き続き復旧・復興の進展状況と利用者のニーズを十分勘案して、必要に応じて充実等の強化を図っていきます。

 最後に、余震やなだれへの注意のお願いです。
 「東北地方太平洋沖地震」の余震については、1年が経過して次第に少なくなってきましたが、昨日のように津波注意報をもたらす地震と震度5強の余震が同じ日に発生することもありますので、引き続き余震あるいは周辺地域での地震活動には十分な注意をお願いします。
 また、3月に入り気温が高くなる日も多くなり、融雪期ということでなだれや洪水に加え、新潟県上越市で地滑りが報道されたように、土砂災害へも注意を喚起する必要があります。このため、気象庁としまして、天気予報、特に気温や雨の情報を的確に提供したいと考えております。

 以上、私からのお話を終わらせていただきます。


主な質疑応答

Q 海底の水圧計を使ったのは初めてとのことですが、計算式が準備できたので運用の目途が立ったということが3月9日から利用開始した理由でした。用意していた計算式どおり、想定していた式どおりに使えたという感じでしょうか。
A フィルター処理がメインです。生のデータから津波を検出することができ、実際に襟裳岬で20cm程度の津波が観測されたということで、フィルター処理も十分利に叶った、技術的に問題が無かったということだと思います。
 具体的に担当の方から何かありますか。

(地震火山部担当)沖合の水圧計データのピーク・トゥ・ピークで6~7cmですから津波の高さとして3~4cm程度、沿岸ではその7~8倍と考ており、これから20cmと推定しましたので、妥当な結果が得られたと思います。

 今回の注意報クラスの津波で技術的に検証ができたという点もあると思います。津波は観測される事例がかなり少ないということもあり、小さな津波も含めて、できるだけ事例を蓄積して将来に結び付けていくことが重要だと思います。

Q 震災から1年を過ぎたわけですけれども、余震域と周辺では地震の活発な状況が続いているのかということと、水圧計の利用を含めてどのように沿岸や被災地への注意呼び掛けをされていかれるか、お伺いできますか。
A 余震域や周辺地域で地震が活発な状況が昨年3月11日以降続いており、次第には収まってきていますが引き続き活発な状況にあります。引き続き、大きな余震あるいは地震等へ注意をお願いします。日本は、今回の余震域や周辺域だけではなくその他の地域においても、いつどこで地震が起きても不思議はないということですので、常に日頃から事前の備えを怠りないようお願いします。
 また、昨日(3月14日)、津波注意報を発表しました。東北地方の沿岸域では地盤沈下しており、復旧は進んでいるようですが、堤防が損壊している状況もありますので、津波注意報が発表されましたら十分に注意して、沿岸近くの場合は避難する等の対応をお願いします。また、沖合の津波計等のデータを使って、引き続き的確な地震監視に努め、必要に応じて津波注警報等を発表してまいります。
     


(以上)

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