長官記者会見要旨(平成23年9月15日)

会見日時等

平成23年9月15日(木) 14時00分~14時25分
於:気象庁会見室

発言要旨

 2か月ぶりの会見になります。この間に、7月の終わりに平成23年7月新潟・福島豪雨、さらに9月はじめに台風第12号による甚大な被害が発生し、多くの方々がお亡くなりになり、未だに行方不明の方々も多数おられます。ここにお亡くなりになられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げますともに、被災された方々にお見舞いを申し上げます。
 本日の会見では、はじめに豪雨災害について当庁の対応状況をお話します。次に東北地方太平洋沖地震から半年を経過し、今週、津波警報の改善について方向性をとりまとめましたので、その点と、さらに今後の余震への注意等について触れさせていただきたいと思います。

 先ず、新潟・福島豪雨についてお話します。
 7月27日から30日にかけて停滞した前線により、新潟県と福島県会津を中心に24時間で約500ミリという記録的な大雨となりました。これにより、気象庁は「平成23年7月新潟・福島豪雨」と命名しております。7年前の「平成16年7月新潟・福島豪雨」に比べますと人的被害は少なかったと思いますが、洪水等により床上・床下浸水等甚大な被害が生じております。7年前の豪雨被害を契機として新潟県では関係市町村と連携してハード・ソフト両面からの水害対策を行ってきております。そのため、今回多くの成果が効果を発揮したということが、メディアも含めて多方面から伝えられているところです。地元気象台としましても警報・気象情報等の発表におきまして前回の豪雨災害を引用するなど最大限の警戒を呼びかけたところです。しかしながら、常に我々の情報を点検し改善することが重要ですので、今回の豪雨に際して発表した情報について県・市町村等の利用状況を調査し検証し、更なる改善に向けて努力したいと思います。

 次に、台風第12号についてお話します。
 9月3日に高知県に上陸した台風第12号により全国で甚大な被害が発生しております。特に紀伊半島では、降り始めからの総降水量が1,000ミリを超え、一部の地域では2,000ミリを超えるなど、記録的な大雨となりました。
 このため多くの土砂災害、浸水、河川の氾濫等が発生し、和歌山、奈良、三重の三県を中心に多くの方々がお亡くなりになり、未だ行方不明者の捜索が続けられている状況です。

 台風第12号につきましても、地元気象台では早い段階から大雨警報、洪水警報、さらに土砂災害警戒情報を発表して、県や市町村等へ伝達し、警戒を呼びかけておりました。さらにその後も、警報に加えて気象情報の中で24時間先までの予想雨量を発表するなど、記録的な大雨への一層の警戒を呼びかけてきたところです。しかしながら、誠に残念なことに大きな災害が発生し、多くの尊い人命が失われました。
 現在、奈良・和歌山の両県では、河道閉塞への対応が喫緊の課題となっており、近畿地方整備局からは「土砂災害緊急情報」が関係自治体に通知されています。気象庁としましても、地元気象台等を通して、近畿地方整備局・県等の関係機関と情報交換を密にし、現場で作業を行っている方々や住民の避難を支援するため、警報に加え必要な気象情報について充実強化しているところです。
 例えば、9月8日には奈良県・和歌山県を対象に発表します「大雨警報・注意報」や「土砂災害警戒情報」の発表基準を引き下げております。さらに、近畿地方整備局に大阪管区気象台の職員を派遣し、情報の交換を行うとともに降雨等の気象状況について解説し、雨等の際には警戒をするよう呼び掛けているところです。
 また、被災状況から復旧等にかなり時間を要すると考えられることから、復旧等の支援のため、気象庁ホームページにポータルサイトを設け、市町村毎の予報等を掲載し、支援を強化しているところです。これは東北地方太平洋沖地震のポータルサイトと同様に被災地を支援するということから始めたものです。

 次に、台風第12号による豪雨災害での課題と今後の気象庁としての対応についてお話します。
 気象庁としましては、台風第12号による被害状況を踏まえまして、今回発表した一連の台風情報・警報等について、県・市町村等における利用状況をまず調査したいと考えております。それによって、我々が発信した情報の課題を整理し、検証していきたいと考えています。
 検討にあたっては、市町村等に直接訪問し、気象情報の利用状況について調査したいと考えております。しかしながら、現在も救助・復旧が行われている段階ですので、ある程度落ち着いてきた段階で、防災関係機関と連携しつつ調査を行いたいと考えています。
 これによりまして気象庁の情報が避難勧告等、県・市町村等の防災対策により効果的に活かされるよう、さらには住民等に如何に直接危機感を伝えるかなど、気象情報の改善に結び付けていきたいと思っております。

 次に、「東北地方太平洋沖地震」から半年を経過しましたので、その点について触れたいと思います。
 今月で半年が経過しましたが、未だ行方不明者が4,000人を超えており、今回の震災の凄まじさを痛感しているところです。また、未だ多くの方々が仮設住宅や避難所での不自由な生活を送っています。改めてお見舞い申し上げます。

 今週9月12日に、気象庁として最重要課題であります津波警報の改善の方向性をとりまとめ、公表したところです。
 気象庁としては、この方向性に沿って、平成24年中を目処に具体化すべくシステムの開発や情報の改善について検討して参りたいと思っております。
 このとりまとめでは、津波の高さ予想の定性的な表現や危機感を如何に伝えるかといったことについて、今後検討するとしております。早ければ今月中に地震・津波等の専門家、報道機関、国・地方自治体等の防災関係機関に協力を求めて検討会を設置したいと思っております。この検討会からご提言をいただいて、年内には具体的な改善方策を決定したいと考えています。

 次に、地震関係の最後として、毎回の繰り返しになりますが、余震への注意のお願いをしたいと思います。
 余震は非常に少なくなってきていますが、今後もマグニチュード7以上の大きな余震が発生する可能性があります。また、規模の小さな余震でも、沿岸域や陸域で発生しますと、場合により最大震度5弱以上の揺れとなる可能性がありますので注意をお願いします。さらに大きな地震の場合は津波注意報・警報を発表することがありますので、地盤が沈下している三陸沿岸では特に引き続き注意をお願いします。

 以上が主な話題ですが、今まさに台風シーズンです。日本の南の海上には台風第15号がありますので、終わりにあたりまして台風への備えについて述べさせていただきます。
 台風接近時には、今回のような大雨のみならず、暴風、高潮、高波についても十分注意が必要です。地震により多くの地域で地盤が脆弱になっておりますので、大雨については土砂災害の観点から極めて注意が必要と考えております。また、三陸沿岸では地盤が沈下しておりますので、高潮への注意も併せてお願いします。
 次に全国の皆様へのお願いですが、台風等に備えるため、事前に避難所や非常用品を確認頂くことが重要です。また、避難ルート等の確認も重要です。それによって台風時等には早めの避難や準備をお願いしたいと思います。また、地元気象台が発表する最新の気象情報や市町村等からの避難勧告等の情報を的確にご利用いただいて避難等の対応をとっていただきたいと思います。
 本日、台風第15号が南大東島の東にあります。今後、沖縄地方、奄美地方、九州南部では暴風、高波、大雨に警戒が必要です。さらに、今回の台風第12号で被災した紀伊半島でも、台風から離れたところにありますが、明日以降大雨が予報されていますので、特に土砂災害の発生等に注意をお願いしたいと思います。
 終わりに、報道機関におかれましては、これまでも常に分かり易く警報等の気象情報を国民にお届けいただき、さらに注意・警戒を呼び掛けて頂いております。引き続き、国民の生命・財産を守るためご協力の程よろしくお願いいたします。

 以上で終わります。




主な質疑応答

Q 津波警報の改善ですが、議論の中でもあったと思うのですが、マグニチュード8より大きいものについては、そのやり方を変えるということですが、それ以下のものについては、従前通りやるのでしょうか。また、注意喚起と迅速な避難という前提に立って今回の議論が行われたと思うのですが、オオカミ少年的になる可能性があるようにも感じられますが、そのあたりについてのお考えをお聞かせください。
A マグニチュード8より小さな通常の地震に関しては、これまでの技術でもマグニチュードの決定が安定していますので、津波の高さの量的な予報も含めて発表しますが、津波の高さの階級やその伝え方、情報文の在り方については、マグニチュード8より小さい場合でも今後の検討によって改善していく考えです。
また、技術的には、基本的には現状のものを使っていく考えですが、オオカミ少年になるのはよくないとご指摘をいただいておりますので、現行の技術についても改善を進めることも極めて重要な課題であると認識しております。

Q 台風情報について被災地の市町村などのお話を聞いて検証を行うということですが、気象庁として現時点においての、今回発表した情報の在り方や情報の伝え方についての所見をお伺いします。
A 台風の進路予報や雨の量的な予想、例えば24時間先の予想では、技術的には今回は最適な予報になっていたと思っています。しかし、その予想を伝えるときに受け手側が気象庁の持つ危機感を共有できるかということが極めて重要ですので、受け手側に立ってどのように情報の中身を改善するのかということが、今後の課題であると思っております。

Q すると、その危機感の共有において、自治体の方の課題だったり、さらに改善すべき課題があるということですか。
A 様々な課題が出てくると思います。具体的には県や地方整備局など様々な機関と協力して検討を進めることになると思います。いずれにしても、深層崩壊など今回の甚大な被害に対して、我々の持っている技術でどう対応できるのかということを検討する必要があると思っています。

Q いまの質問と関連しますが、実際に市町村に出向いて、今回気象庁が発表した情報がどのように市町村に使われたかということを聞き取ることになるのでしょうか。
A そのような聞き取り調査になると思います。
具体的に市町村の担当者とお話しして、災害が発生する状況下では市町村等は防災対応で非常に繁忙を極めますので、利用の実態はどうなっているのか、防災対応の最中において気象庁が例えば的確な雨量予測値を出したとしてもそれがどう情報として伝わっているのかという観点で聞き取りを行いたいと思っています。特に台風の場合は、皆様ご存じのように、非常に膨大な情報が流れて、注意喚起すべき事項も極めて多岐にわたり、その中でポイントを絞って情報をどう盛り込むのか、避難勧告等に結びつく情報にしていくのかというところが重要だと思っています。

Q ヒアリングして集まった材料を基に検討会とかそういうのを立ち上げたりするのでしょうか。
A 検討の方式としてはいろいろあると思います。津波の勉強会のようなやり方もあるでしょうし、検討会もあるし、また個別に有識者にご意見を伺う、あるいは、国・自治体の防災機関の担当者の方々に意見を聞いて気象庁として方針を定めるというようなやり方など、いくつかの選択肢がありますが、現段階では特に決めてはおりません。

Q 職員の方が直接出向いて聞き取りする方法でしょうか。
A そういう形になるかと思います。
ただし、市町村等では、現在も河道閉塞への対応や行方不明者への対応を行っておりますので、もう少し時間を置かないと調査はできないと思っています。

Q 津波警報の見直しの最終とりまとめでは、今回新たに定性的な表現方法を検討するとあるように、気象庁の考え方として発想の転換みたいなものがあったと思うのですが、長官の実感としてはいかがでしょうか。
A これまで量的な予報ということで客観性をもって発表してきましたが、最終的にはやはり受け手側が理解しないと意味がないということで、広く一般の住民の方々も含めて、それを見聞きしたときに、危機感がしっかりわかる必要があるということが重要と考えています。発想の転換という表現が正しいかどうかわかりませんが、受け手側の立場に立ってどう情報を出すかというところに力点を置くことになるという理解です。
いずれにしましても津波警報もそうですし、今回の台風第12号のケースもそうですが、重要な点を受け手側にしっかり受けとって理解していただいて、自らの命を守るという行動に移してもらわなくてはいけませんから、そのことについて今後、気象庁としても重点的に取り組んで行きたいと考えています

Q つまり、気象庁として今後防災側にコミットしていくということにつながっていくのでしょうか。
A もともと気象庁は、防災のために仕事をやっていると思っています。

Q そうであるならば、今は避難勧告などを自治体が出していますが、予報が十分最適なのであれば、それに自信をお持ちなのであれば、気象庁が避難勧告などにもっと強く働きかけることができたら、もしかしたら被害が少なかったかもしれないということが考えられますが、どうでしょうか。
A 避難勧告・指示の場合は、その市町村が判断する基準が必要になりますが、今その基準が曖昧な状況が多く、その整理ができないとなかなか我々の気象等の基準だけで一方的に動くわけにはいかないところが実態です。そのような対応ぶりもしっかり関係機関と調整していく必要があると思っています。つまり、一方的にこちらが話していてもなかなか通じない状況が多々あり、実際の防災対策の計画とリンクしたものでないといけないということです。
一番理想的なものとしては、具体例を申しますと噴火警報があります。これは事前に自治体と調整して情報をレベル化して、そのレベルに合わせて避難指示や勧告が一対一に対応するような仕組みになっております。このような仕組みを参考としながら、より具体的に我々の情報が避難などの行動につながるように改善していきたいと思っています。ただし、大雨等の場合は避難等の基準がかなり複雑で、かなり難しい問題であると思っています。

Q 今週、神奈川県の黒岩知事が気象庁に陳情にお越しになって、今現在の津波警報の伝え方としてはサイレン等ということを省令で明文化していますが、知事はこの方法として旗を使った方法を全国的に広めて行きたいとおっしゃっていましたが、今後、気象庁としてどのように対応していくかお聞かせください。
A 知事とお会いしまして、こちらからは非常に興味深い活動であるというお話しをしました。津波警報を伝える一つの手法としては良いと思いますが、オレンジフラッグ等様々な旗があり、他の自治体では、例えば雷の注意喚起するための旗としても使われています。具体的に各自治体にどのように使われているのか実態を掌握しないと混乱が生じますので、現在、全国の沿岸の自治体にアンケート調査を行っています。
アンケートの調査結果を受けて課題を整理したうえで検討を進めてまいりたいと思います。例えば、我々が規則上でオレンジフラッグを定めてしまいますと、その旗が津波警報以外に使えなくなるということもありますので、慎重な検討が必要です。もう少し周辺の状況を調査して判断していきたいと思います。

Q いつ頃までを目途にしてくお考えですか。
A 調査自体は今月中には終わる予定なのですが、その先についてはそれほど時間をかけずに関係機関とも調整して行こうと思います。ただし、旗が実際にどのくらい効果があるのかなど、技術的な面での調査も必要と思いますので、時期を明言できる段階ではありません。




(以上)

このページのトップへ