(解説)地殻変動の評価
コメント文の第三パラグラフの解説です。東海及びその周辺地域の地殻変動に関する評価になっています。
国土地理院が設置したGPS(*)データの解析結果によると、今年の3月から6月にかけて、名古屋から御前崎にかけての領域とその内陸部で、平均的(定常的)な変動とは異なる変化が、広域かつ系統的に認められました(国土地理院提供資料)。
日本列島は絶えずプレート運動の影響を受けて変形を続けています。今回の国土地理院の解析では、そうした「定常的」な動きを引き去った後に現れる、「非定常的」な変動を扱っています。もし変動がほぼ「定常的」であれば、それを引き去った後の変動のベクトルはほとんど長さがゼロになり、向きもおのおのの点でバラバラになるはずです。しかし、今年の3月から6月の期間については、上記領域で南東向きの「非定常的」な変動が系統的に認められるというものです。
変動量は1cm程度と、GPS観測で検出できるほぼ下限に相当する小さなものですが、想定される東海地震の震源域の西に隣接した領域で観測されたため、注目をあつめました。
一方気象庁では、地下の岩盤の歪の変化の様子を、体積歪計と3成分歪計という測器で観測しています。いずれも、地下100〜500メートルの深さまで掘った縦穴の底に、岩盤の伸び縮みやその方向を検出するセンサーを埋め込む方式の測器なので、「埋込式歪計」(埋込式歪計の配置図)と呼んでいます。大きな地震の前には、岩盤の歪に異常な変化が現れると考えられており、地震観測とともに東海地震予知のための「切り札的」な観測項目です。
p.2以降の図は、歪の時間変化を表しています。非常に感度の高い観測をしているため、降水の影響がところどころに見られますが、降雨の観測も並行して行っているので、地震の前兆的変化との識別が可能です。また、前兆現象とは関係のない、観測点特有の非常に局所的な歪変化も観測されていますが、観測点毎に「よくある発生パターン」を調べることにより、前兆現象との識別を可能にしています。
気象庁の埋込式歪計以外の地殻変動データ(国土地理院、防災科学技術研究所、産業技術総合研究所など)も判定委員打合せ会では検討されましたが、この期間、特段の異常な変化は観測されていません。
また、GPSで変化が現れた領域とその周辺域の地震活動についても詳細に調査を行いましたが、今年の3月から6月の前後で、特段の地震活動の変化は認められませんでした。
このように、国土地理院のGPS観測データには長期的に見て若干の変化は認められますが、直ちに東海地震に結びつくような変化は観測されていないというのが、今回のとりまとめの要点です。
用語:GPS
Global Positioning Systemの略。人工衛星からの電波を利用して、自分のいる位置を正確に計測するための装置。一般にはカーナビゲーションなどに利用されているが、2台以上の装置で同じ人工衛星からの電波を受信し、特殊な解析を行うことによって2点間の距離をmmオーダーの精度で観測することができる。
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