気象業務はいま 2026 はじめに  令和7年(2025年)は気象庁にとって大きな節目の年となりました。明治8年(1875年)に気象業務を開始してから150年を迎えたのです。令和7年6月2日には天皇陛下のご臨席を仰ぎ、記念式典が行われました。我々はこれまでの気象業務を振り返り、先輩たちの偉業をたたえるとともに、歴史的ないきさつからこれまでそのままになっていたものを、新たな時代のために改善しなければ、と決心いたしました。  このようななか、昨年度は重要な業務に関して検討会が開かれ、また、法改正も行われ、いくつかの重要業務の変更の準備が整いました。これを受け、令和8年度(2026年度)は新たなスタート、改善実施の年となります。  そのうちの一つが防災気象情報の改善です。令和6年度(2024年度)に示された検討会の提言をもとに、それを行うための気象業務法及び水防法の一部改正が、令和7年秋の第219回国会(臨時会)にて行われ、令和8年5月29日に新たな防災気象情報の運用開始となりました。この変更は、避難に資するため、警戒レベルとの関係がより明確にわかるように名称を変えるとともに、基準も災害との関係がより強い指標に変わるなど、防災対応を意識した改善となりました。  また、地域防災支援業務についても令和7年度に検討会が開催され、気象台がどの組織をどのように支援すればよいかについて議論が行われ、令和8年1月に提言が出されました。これまでの大災害の経験等から、都道府県の災害対策本部会議へ継続的に支援を行うことの重要性が改めて指摘され、また、公共性の高い民間主体への支援の必要性も指摘されました。このような提言に沿った運用を実現するために、気象台のあり方も含めて変更を一つ一つ実現していくことになります。  他にも、台風情報の高度化に関する検討会は令和7年度に提言が出され、1週間から数か月先の情報の高度化に関する検討会は令和7年度末から開始されました。そして、AIについても導入のための開発が急ピッチで進められています。「気象業務はいま2026」に目を通していただき、気象業務が大きく発展していることを実感していただければ幸いです。 令和8年6月1日 気象庁長官 野村 竜一 トピックスⅠ 気象業務150周年記念式典を挙行しました  明治8年(1875年)6月1日、東京府第二大区(のちの赤坂区)溜池葵町において内務省地理寮の東京気象台が気象 業務を開始してから令和7年(2025年)で150年の節目の年を迎えました。  気象庁は国民生活及び産業の発展に寄与してきた気象業務が150周年を迎えることを寿ぐとともに、最新の科学的知見により技術向上に努め、国民の安心・安全及び業務遂行への思いを新たにするため、令和7年6月2日に、「気象業務150周年記念式典」を挙行しました。  式典にご参列いただいた皆様、開催にあたりご協力をいただいた関係者の皆様、また、日ごろより気象業務に対するご理解、ご支援をいただいてきた皆様に、心より感謝申し上げます。  記念式典には天皇陛下にご臨席いただき、長年にわたり気象業務に携わる関係者への労いと、今後の社会の安寧と人々の安心に貢献することについて「おことば」を賜りました。また、陛下におかれましては、国土交通大臣表彰、気象庁長官表彰を受けられた方々と御懇談されました。  石破茂内閣総理大臣(当時)、額賀福志郎衆議院議長(当時)、関口昌一参議院議長、今崎幸彦最高裁判所長官、中野洋昌国土交通大臣(当時)、国会議員、政府関係者、関係団体等、約350名のご参列をいただきました。  内閣総理大臣、衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官よりご祝辞をいただきました。また、例年6月1日の気象記念日に合わせて実施している表彰式も行われ、気象業務に多大に貢献された個人・団体の代表に対して、国土交通大臣及び気象庁長官より表彰状が授与されました。 トピックスⅡ 気象業務法及び水防法の一部改正について  近年、豪雨等の自然災害が頻発化・激甚化する中で、防災気象情報である予報・警報を高度化・適正化するため、洪水の特別警報や高潮の共同予報・警報の創設、外国法人等による不適切な予報業務に関する規制の強化などを行うことを内容とした「気象業務法及び水防法の一部を改正する法律」が、令和7年臨時国会(第219回国会)において成立し、令和7年(2025年)12月12日に公布されました。本改正法は、令和8年(2026年)5月29日から施行しています。  なお、下記の改正内容(1)及び(2)に関連する取組を特集1(12頁)で、(3)に関連する取組をⅦ-2(77頁)で紹介していますので、併せてご覧ください。 (1)洪水の特別警報等の創設  地域の住民が災害の危険度を理解し、的確な防災対応がとれるよう、自治体が行う避難指示などの避難情報は、5段階の警戒レベルで整理され、認知が進んできました。しかし、防災気象情報と警戒レベルの関係は、洪水や大雨などの現象ごとに異なっており、統一されていませんでした。このため、令和6年(2024年)6月に、有識者・報道関係者等からなる「防災気象情報に関する検討会」において、シンプルでわかりやすい情報体系に向けた改善方針が示され、気象庁と水管理・国土保全局では、防災気象情報の体系の見直しを進めていくこととなりました。  洪水については、降った雨が河川に流れ込み、河川の水位が上昇することで起こる現象であり、その予測には、雨量だけでなく、ダム等による洪水調節の状況や、堤防等のインフラ施設の状況、短い間隔での水位の変動の実態や予想を踏まえて行うことが必要となります。しかし、以前のシステムでは、洪水の予想を精度よく行えないことから、洪水については特別警報を発表していませんでした。  このような中、近年は洪水の予測技術が進展しており、また河川水位の観測体制の拡充と相まって、より精度よく予想が行えるようになったことから、洪水についても、特別警報を創設しました。洪水の特別警報の創設により、大雨等の気象災害と同様、洪水による危険を明確かつ確実に自治体・住民等に伝えることができるようになり、特に警戒レベル5相当になる状況において、適確かつ迅速な防災対応や避難行動などの判断の支援につながることが期待されます。  これに加えて、特別警報を発表するにあたっては、河川管理施設や水位の変動の状況を把握することが必要であるため、洪水の特別警報の創設と併せ、気象庁が特別警報の判断に必要な情報を適切に入手できるよう、国土交通省水管理・国土保全局、都道府県との連携に係る規定について、気象業務法に位置付けました。あわせて、洪水による氾濫が迫っていることを、気象庁や水防関係者にプッシュ型で情報提供するため、河川等の状況を最もよく知る河川管理者等が氾濫による危険の切迫を認める場合に、関係者に通報する制度を、水防法に位置付けました。この通報は、特別警報と相まって、市町村長が発令する警戒レベル5の緊急安全確保措置に直結する極めて重要な情報となります。 (2)高潮の共同予報及び警報の創設  現在、高潮の予報・警報は、気象庁が全国の海岸を対象に行っており、これは、  ・台風などによる気圧の低下によって、海面が吸い上げられる効果  ・台風などの強い風によって、海水が海岸に吹き寄せられる効果 による海面の水位(潮位)の上昇を予想しています。  しかし、実際の高潮による浸水は、潮位の上昇に加えて、押し寄せた波が海岸の地形や堤防などの施設に打ち上がる効果も合わさって発生するものであり、こうした「波の打上げ」の効果も反映することで、より精緻で、実態に即した高潮の予測が行えるようになることが指摘されていました。  こうした中、国土交通省水管理・国土保全局では、波の打上げ高を予測するシステムを開発し、都道府県と協力し、全国の海岸で実証を進めているところ、令和8年度から正式に運用を開始することとしています。このため、  ・潮位や波浪の予想を行う気象庁  ・波の打上げ高の予想を行う国土交通省  ・水位の観測結果や沿岸の地形・施設等の情報を有する都道府県 が共同することで、より精緻な高潮の予報・警報を行うための共同予報・警報の制度を創設しました。共同による高潮の予報・警報は、観測体制の整備状況等も踏まえ、国土交通大臣が高潮により重大な損害が生じるおそれがあるとして指定した海岸を対象として行われることとなります。より精度の高い高潮予測モデルを用いた共同予報・警報を導入することで、今後の高潮に対する警戒避難体制の強化を図ってまいります。 (3)外国法人等が行う予報業務の許可に関する規定の整備  気象業務法では、技術的な裏付けのない予報が広く流通し、利用者が被害を受けることを防止するため、気象庁以外の事業者等が予報を行おうとする場合は、予報業務の許可が必要となります。しかしながら、近年、スマートフォンのアプリケーションなどの情報通信技術等の進展によって、国境を越えて、外国法人等が国内利用者に向けて様々な気象の情報を提供する例もみられるようになり、許可が必要な予報業務を無許可で行っているケースも出てきています。さらに、これらの無許可で行われる予報業務において、気象庁が警報を発表していない状況にも関わらず、誤って警報が通知されている例や、予報業務許可の審査基準を満たさないような手法を用いている疑いがあり、精度の低い予想が提供されている例など、利用者に被害が生じ得るような予報の提供が確認されています。このため、こうした予報が流通することによる国民への被害を防止するべく、外国法人等により無許可で予報がなされないよう措置を講じる必要がありました。  こうした背景の下、外国法人等が許可を申請するに当たっては、国内事業者と同様に、責任の所在を明確化させ、気象庁が指導監督を徹底できるようにするために国内代表者等の指定を義務付けました。また、外国法人等が許可を取得した後に、国内代表者等の所在が分からなくなった場合には、簡易的な手続により許可を取り消すことをできるようにしました。  さらに、気象業務法に違反して、許可を取得せずに、国内向けの予報業務を行う外国法人等に対しては、利用者に適切な情報を提供し、保護を図るという観点から、事業者の氏名や提供するアプリケーションの名称などを公表できるようにしました。  気象庁は、この改正法を通じて防災気象情報をより一層高度化・適正化することにより、災害時における国民の生命及び財産の被害軽減が図られるよう万全を期してまいります。 ◆ 特集1◆ 新たな防災気象情報 1 新たな防災気象情報  国土交通省水管理・国土保全局と気象庁では、令和6年(2024年)6月に取りまとめられた「防災気象情報に関する検討会」の提言を踏まえ、防災関係機関や国民の皆様の避難等の防災対応が一層効果的なものとなるよう、令和8年(2026年)5月から新しい防災気象情報を運用開始しました。  この新たな防災気象情報では、河川氾濫・大雨・土砂災害・高潮に関する警報・注意報を、避難行動に対応した5段階の警戒レベルと整合させ、災害発生の危険度に応じて発表します。これまでの警報・注意報などの情報体系が大きく変わります。  なお、この新しい防災気象情報に関連する気象業務法及び水防法の一部改正について、トピックス(Ⅱ)(10頁)の「(1) 洪水の特別警報等の創設」や「(2) 高潮の共同予報及び警報の創設」で紹介していますので、併せてご覧ください。 1-1 新情報のポイント (1)5段階の警戒レベルへの整合  避難情報に関するガイドラインでは、5段階の警戒レベルにより住民がとるべき行動が設定されています。警戒レベルに相当する河川氾濫・大雨・土砂災害・高潮に関する情報は、これまで警戒レベルとの対応が情報ごとに異なり、分かりにくい点がありました。今般の改善では、情報名称への警戒レベルの数字の付記、河川氾濫に関する特別警報の新設、警戒レベル4に相当する危険警報の創設など、情報の名称や体系を見直します。これにより、国民の皆様がとる防災行動の判断を、より一層支援できるようにします。 (2)情報へのレベルの付記  危機感を適切に伝え、住民がとるべき防災行動をより連想しやすくするため、情報に対応する警戒レベルとの関係を明確にし、情報名称そのものに警戒レベルの数字を付けて発表します。例えば、警戒レベル3相当の大雨警報は「レベル3大雨警報」として発表します。これにより、レベルの数字を見聞きしただけで、現在の気象状況がどのような防災行動をとるべき段階にあるのかが分かりやすくなります。  レベル3の警報やレベル4の危険警報が発表された場合には、自治体からの避難指示等に十分留意 いただくとともに、災害の危険度の高まりを地図で表示する「キキクル」や河川の水位情報を参照して、危険な場所にいる方は早めの避難を心がけてください。 (3)河川氾濫に関する特別警報の新設  河川氾濫については、これまで予測技術が十分ではなかったことから、特別警報を運用していませんでした。しかし、近年の河川水位の観測・予測技術の進展により、特別警報の運用が技術的に可能となってきました。このため、洪水予報河川を対象として、河川ごとに河川氾濫に関する特別警報の運用を新たに開始し、「レベル5氾濫特別警報」として発表します。 (4)レベル4相当情報としての「危険警報」の運用  警戒レベル4相当情報は、自治体や住民が避難指示や避難の判断に用いる重要な情報ですが、これまで統一された名称がありませんでした。また、大雨による浸水害を対象とする警戒レベル4相当の情報がないという課題がありました。このため、警戒レベル4に相当する情報として、新たに「危険警報」を運用することで情報名称の統一を図ります。併せて、大雨に伴う浸水害等についても「レベル4大雨危険警報」を新設します。 (5)気象防災速報、気象解説情報の新設  特別警報や警報、注意報を補足・解説する気象情報については、速やかな防災対応を後押しする情報と今後の防災対応の検討を後押しする情報との区別を明確にするため、短時間の記録的な大雨や線状降水帯による大雨、竜巻の発生など、極端な現象を速報的に伝える情報は「気象防災速報」、その他の情報は気象状況等を網羅的に解説する「気象解説情報」として発表します。 1-2 その他の情報の充実について (1)時系列情報(明日までの警報等の見通し)の提供  時系列情報は、明日までの気象の見通しを提供する予測情報です。レベル3やレベル4などの情報発表が見込まれる時間帯の有無が分かりますので、事前の備えや避難の準備等にご活用ください。時系列情報は、毎日4回(05時、11時、17時、23時)発表され、気象庁ホームページでいつでも最新の情報が確認できます。定時の発表以外にも、今後の見通しが大きく変わった場合などには、必要に応じて臨時に修正情報を発表します。 (2)キキクルについて  キキクルは、大雨の際にどの場所で災害発生の危険度が高まっているのかを5段階に色分けして地図上に表示する情報で、大雨や土砂災害等の5段階の各レベルの情報の発表状況と結びついています。現在の雨の状況と今後の予測を踏まえて10分毎に更新され、どの場所が危険なのかが一目で分かりますので、避難行動の判断に役立ちます。  大雨や土砂災害の情報が発表された場合には、キキクルを確認して、実際にどの場所でどの災害の危険度が上昇しているのかを確認し、自分のいる場所が赤色(レベル3相当)や紫色(レベル4相当)になっている場合には、早めの避難を心がけましょう。今般の情報改善にあわせ、従来の洪水と浸水のキキクルの両方を重ね合わせた大雨キキクルが新しく提供されます。キキクルは気象庁ホームページから誰でも確認できますし、民間事業者からキキクルの危険度をお知らせするアプリも提供されていますので、是非ご活用ください。1-3 新たな防災気象情報の周知広報について  気象庁では、ホームページに新たな防災気象情報に関する特設ページを公開しています。ここでは、情報の概要をはじめ、各情報の運用内容等に関する資料とともに、広報用のチラシやリーフレット等を掲載し、ダウンロードできるようにしています。また、新たな情報は自治体をはじめとする防災機関の皆様の防災対応に深く関連する情報となることから、こうした防災機関の皆様に新しい情報をしっかりと活用いただけるよう、必要なフォローアップを今後も引き続き行っていきます。  防災気象情報は社会のさまざまな場面で活用されています。今回改善する新たな防災気象情報がしっかりと社会に定着し、有効に活用されることが何よりも重要です。気象庁では関係機関と連携しながら、あらゆる機会をとらえて、引き続き新情報の周知広報に取り組んでまいります。  <新たな防災気象情報に関する特設ページ>  https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/keiho-update2026/index.html コラム ●新しい防災気象情報 株式会社 南気象予報士事務所 代表取締役 防災気象情報に関する検討会 委員 気象予報士 技術士(応用理学) 南 利幸  防災気象情報が新しくなりました。これまでは様々な情報が複雑に組み合わさった情報になっていましたが、新たな情報はシンプルで分かりやすくなったのではないでしょうか。新たな情報の特徴を3つ挙げると、1つはレベル4の危険警報が新設されたことです。危険警報はレベル3の警報とレベル5の特別警報の間で、危険な場所にいる人は避難が必要であることを示している情報です。2つ目は河川氾濫に関する情報が、気象の警報や特別警報の範疇に入ったことです。これによりテレビの天気予報の中で大雨の警報等と共に河川氾濫の情報も扱うことになりました。3つ目は情報にレベル5やレベル4等の数字が付いたことです。これは地震の震度情報を意識しています。震度情報は100年以上前から発表されているため、多くの日本人は震度4よりも震度5の方が、揺れが強いことを感覚として分かっています。防災気象情報のレベルも何年後かには感覚として理解できる情報になるはずであるとの思いが込められています。  新たな防災気象情報が状況の把握や避難行動の目安として早く定着することを願いながら、情報の内容を広めるために努力をしなければならないと考えています。 コラム ●新しい防災気象情報への期待とデジタルの伝え手の責務 LINEヤフー株式会社 メディアSBU Yahoo!天気・災害企画 防災気象情報に関する検討会 委員 堤 浩一朗  このたび、防災気象情報は5段階の警戒レベルと完全にリンクする体系へと大きく刷新されます。この変更は、風水害の危険度をより直感的に伝えるための大きな一歩であると考えていますが、Webサイトやスマートフォンアプリを利用した情報伝達を主とするインターネットメディアとして、新しい情報への期待と、変更時の対応についての課題の両方を感じています。  複雑化した防災気象情報の体系が整理されることで、住民の皆さんが直感的に防災行動を判断しやすくなることへの期待は大きいものです。特に、これまでレベル4にあたる情報がなかった気象警報に「レベル4危険警報」が含まれることで、避難情報との紐付けもわかりやすくなるのではないでしょうか。  一方で、現在配信している防災気象情報の体系を変更することについては、伝え手にとっては移行作業の負担を伴うものとなります。例えば、これまで一般向けの警報扱いではなかった指定河川洪水予報が、気象警報と同じ枠組みに統合されることは大きな変更点です。また、レベルが付かない気象警報との併存についても、誤解のない伝え方が必要となります。さらに、新たなXML電文(VPWP50等)への切り替えについても、仕様の読み解きから切り替え当日の対応まで、綿密な設計や多くのパターンを想定したテストが求められるでしょう。  インターネットメディアは、ある程度情報そのものにフィルタをかけることはできても、基本的には配信されたデータをそのままWebサイトに表示したり、スマートフォンアプリに通知したりすることになります。変更後の情報を受け取った方が誤解することのないよう、デザインや文言を工夫したり、変更についての説明ページを別途設けるなど、細心の注意を払う必要があると考えています  ともあれ、今回の情報刷新は、変えることが目的ではありません。Webサイトやスマートフォンアプリを利用する住民の皆さんが、新しい情報を元にいかに適切な防災行動を取ることができるか、デジタルの伝え手としても背負う期待と責任は大きいと感じています。利用者の皆さんの反応を見つつ変更後も気象庁様と連携し、より良い形へとブラッシュアップを図っていきたいと考えています。 ◆ 特集2◆ 地域防災支援の取組 2 地域防災支援の取組 2-1 地域における気象防災業務に関する検討会  近年自然災害が相次いで発生しているなか、各地の気象台は警報等の防災気象情報を発表するだけでなく、自らが持つ危機感を住民や自治体に適切に伝え、地域の防災対応に結びつくよう、防災の最前線に立つ市町村を中心に、JETT(気象庁防災対応支援チーム)の派遣や気象防災アドバイザーの活用等、地域の防災力向上を支援する「地域防災支援業務」を推進してきました。今般、この業務の根本的な目的である「住民の生命、財産、安全・安心を守る」ことに立ち返り、気象台が地域防災を担う様々な主体に対しどのような役割を果たしていくべきかについて検討するため、有識者による「地域における気象防災業務に関する検討会」(座長:矢守克也 京都大学教授)(以下、「検討会」という)を令和7年(2025年)6月から開催し、令和8年(2026年)1月に報告書を公表しました。  報告書では、地域防災に関わる様々な主体の役割、取組の改善点が体系的に整理され、以下の3つの柱となる支援・連携が示されました(次ページ図)。その基盤として、気象台は地域防災を担う様々な主体と「パートナーシップ」を築き、地域の防災対応支援を推進することが重要であるとまとめられました。 A:都道府県との緊密な連携  都道府県の災害対策本部等は、都道府県、市町村、災害対策基本法に基づく指定公共機関(ライフライン、通信、交通関係等)等が参加し、現地の災害応急対策の検討・調整がなされる場です。また、甚大な災害時には政府の現地災害対策本部が設置されます。このように、都道府県の災害対策本部等は、気象台が地域防災支援を行うにあたり最も重要な場であり、これを通じた市町村への支援等を有効に機能させるため、気象台は都道府県と平時から密に連携するとともに、災害時に継続的に支援できる体制づくりをすることの重要性がまとめられました。 B:公共性の高い民間主体への支援  災害対策基本法に基づく指定公共機関や、教育、医療・福祉関係機関等のような「公共性の高い民間主体」は、例えば、災害直前における交通の運休・運航計画の変更や道路の通行止めの検討、災害直後における停電や通信の復旧作業、被災地における支援物資の輸送等を担っており、災害時にその機能が失われると社会の混乱に繋がります。このような民間主体は、直接的でなくとも住民の生命や財産を守る対応を担っていることから、これら主体を気象台が支援することの重要性が確認されました。 C:国の出先機関との連携強化  地方整備局や地方運輸局等の国の出先機関は、大雨や大雪の際には合同で記者会見を実施するなど、気象台と協働して地域社会に情報を発信しています。また、国の出先機関は、交通やライフライン、物流など関係分野の民間主体を監督する立場でもあります。公共性の高い民間主体への支援にあたっては、当該主体を監督する立場である国の出先機関との連携が効果的であり、このためにも、気象台と国の出先機関は「顔の見える関係」を構築し、一層の連携強化を図ることが望ましいとまとめられました。  検討会では、災害発生時を中心とした時系列に沿って、災害のおそれがない平時である「事前」、緊急時である「災害直前」(おそれがある場合も含む)及び「災害直後」、災害対応が落ち着いた「事後」の段階に分けて、それぞれの取組の方向性について議論されました。その結果として、気象台は特に「災害直前」におけるホットラインやJETT派遣等による危機感を一層確実に伝える取組が期待され、これが有効に機能するよう、「事前」における知識の習得や訓練等のスキルアップを図る取組を一層推進するとともに、「事後」の検証により改善を図ることが重要であることが示されました。  加えて、地域防災支援を進めるにあたっては、気象台、民間気象事業者及び気象防災アドバイザーの3者がそれぞれの強みを活かし、連携して取り組むことが重要であること、また、活動について相互に共有、情報交換する場を構築し、日頃からの十分な対話を通じ連携を図りつつ取組を進めていくことが重要であるとまとめられました。さらに、避難行動に時間を要する要配慮者への支援についても、気象台は自治体の福祉部局等と連携して取り組むことが重要とまとめられました。  報告書の結びとして、気象台は「防災気象情報」を軸に、各主体を繋ぐ「ハブ」の機能を担えるものと考えられ、本検討会の取りまとめにより、地域における関係者の対話が進み、密な連携のもと、気象台、民間気象事業者及び気象防災アドバイザーの取組の推進、さらには自治体や公共性の高い民間主体における適時的確な防災・災害対応に繋がることへの期待が示されました。  本報告書を受け、気象庁では、各地の気象台における地域防災支援業務の充実・改善に取り組みます。3つの柱を中心として、気象台は防災対応を担う多様な主体と関係を構築するとともに、民間気象事業者と気象防災アドバイザーとの関係を深化させ、この連携体制を基盤として、地域の防災対応支援を強力に推進します。加えて、避難行動に時間を要する要配慮者を対象とした取組も推進します。 コラム ●「地域における気象防災業務に関する検討会」を終えて 京都大学防災研究所 教授 矢守 克也  「各地の気象台が実施する地域の防災力向上を支援する取組について、地域における様々な主体との連携のあり方をはじめ、取組の充実・改善の方向性についての検討を行うこと」が開催趣旨として掲げられた「地域における気象防災業務に関する検討会」。検討会終了後に開催された記者発表の席で筆者が掲げた3組のキーフレーズを通して、この検討会のツボをおさえておきたい。  第1のキーフレーズは、防災気象情報の「作成・発信から利活用・効果検証へ」である。あえて極端な言い方をすれば、よい気象情報と悪い気象情報とを識別する基準として、正確性・迅速性・信頼性よりも、むしろ、普及性・受容性・効果性の方にウェートを置く、という観点である。もちろん前者の基準が蔑ろにされてよいと主張しているのではない。しかし、前者の基準さえクリアしていれば、国民がまったく知らなくても、「わかりにくい」との批判があっても、あるいは、避難行動等にまったく影響を与えていなくても構わない、という姿勢はもはや広く受け入れられないだろう。  第2のキーフレーズは、気象台の「ソロプレーから他機関とのパートナーシップへ」である。効果的な防災行動を、気象台から提供する情報単独で引き起こすことは困難である。たとえば、民間の気象事業者が提供するカスタマイズされた情報との合わせ技を通して、あるいは、鉄道の計画運休、道路の予防的通行止などに見られるように、交通インフラを担う事業者との連携を通じてなど、多様なプレーヤーがパートナーシップを構築してそれぞれの得意技を生かして、社会全体で気象防災業務を進める必要がある。避難行動要支援者向けの対策が喫緊の課題となる今、これまで気象台が密に連携してきたとは言えない介護福祉、医療看護といった分野の関係者とのパートナーシップも今後重要となろう。  第3のキーフレーズは、情報の「コンテンツからオペレーションへ」である。筆者は、この検討会に先だって開催されていた「防災気象情報に関する検討会」においても座長を務めた。この検討会の開催趣旨は、シンプルでわかりやすい防災気象情報の再構築に向け、防災気象情報全体の体系整理や個々の情報の抜本的な見直し、受け手側の立場に立った情報への改善を図ること、であった。情報のコンテンツ(中身)は改善された。しかし、この新たなコンテンツが合格点を頂戴できるかどうかは、ひとえに、情報のオペレーション(運用)にかかっている。  そして、合格点かどうかを判定する際に大切なのは、第1のキーフレーズとして指摘したように、「正確性・迅速性・信頼性よりも、むしろ、普及性・受容性・効果性」という基準である。また、情報のオペレーションの成否を決める鍵は、おそらく、「ソロプレーから他機関とのパートナーシップへ」にある。-というわけで、3つのキーフレーズは相互に関連しあっている。  つまり、筆者自身がご縁をいただく形で相次いで開催された2つの検討会は、検討会自体が相互に密接に関係している。令和8年の出水期から運用される「新たな防災気象情報」の今後は、「地域における気象防災業務」の行く末にかかっているからである。 2-2 全国各地の気象台における取組  近年、自然災害が相次いで発生しており、地域における防災対応力の向上が重要となっています。このため全国各地の気象台では、「あなたの町の予報官」や、「気象防災ワークショップ」、首長訪問など、自治体や関係機関と一体となって災害に備えた平時の取組を進めるとともに、災害時においては自治体や関係機関と速やかに危機感を共有し、その災害対応を支援するため、市町村長へのホットラインや、気象の見通しに応じた説明会、「JETT(気象庁防災対応支援チーム) 」などの取組を進めています。加えて、避難に時間を要する要配慮者を対象とした普及啓発等の取組も進めているところです。 (1)自治体を対象とした取組 ア.あなたの町の予報官  気象台では、自治体の防災業務を支援するため、管轄する地域内を複数の市町村からなる地域に分け、その地域ごとに3名から5名程度の職員を専任チーム「あなたの町の予報官」として担当する体制を敷き、自治体の地域防災計画や避難情報の判断・伝達マニュアルの改定に際して資料提供や助言等を行うとともに、災害発生時などの対応を気象台と自治体が共同で振り返り、更なる改善につなげていく取組を行うなどしています。こうした平時における取組を通じて、自治体と気象台の担当者同士で緊密な「顔の見える関係」を構築し、災害時には、この構築した関係性を活かし、自治体の防災担当者のニーズに合わせた説得力のある適時・的確な助言を行っています。 イ.気象防災ワークショップ  「気象防災ワークショップ」とは、時々刻々と変化する気象状況に応じて発表される防災気象情報を踏まえ、避難情報の発令など自治体が講じるべき防災対応を模擬体験するものであり、ワークショップを通じて、防災気象情報を適切に理解するとともに、体制の強化や避難情報の発令の判断のポイントを学ぶことができます。令和4年度(2022年度)以降、全国の市町村にワークショップに参加いただいており、令和8年(2026年)5月から運用開始した新たな防災気象情報の理解と利用の促進につながるよう、引き続き、各地でワークショップを開催していきます。 ウ.ホットライン、JETT(気象庁防災対応支援チーム)  防災気象情報が自治体の防災上の判断に適切に活かされるよう、気象台では気象の見通しの推移に応じて説明会等を開催し、参加者へ警戒を呼びかけます。また、災害の発生が予想されるような顕著な現象の場合は、気象台が持つ危機感を気象台長から直接市町村長へ電話で伝え、避難情報に関する技術的な助言を行うホットラインを実施します。さらに、気象台からJETT(気象庁防災対応支援チーム)を自治体の災害対策本部等へ派遣し、災害対応現場におけるニーズを把握しつつ、気象の見通し等を説明することにより、災害対応に当たる関係機関の活動を支援しています。  JETTの創設以降、平成30年7月豪雨、令和元年東日本台風(台風第19号)、令和2年7月豪雨、令和6年能登半島地震等の災害において派遣の実績があり、令和8年3月末までに延べ9,400名を超える職員を全国の都道府県や市町村に派遣しました。令和7年(2025年)年8月6日からの大雨災害では、15県に対し延べ120名をJETTとして派遣し、関係都道府県の災害対策本部会議等において、線状降水帯の状況や今後の雨の見通し等を説明するとともに、関係各機関の災害対応支援に繋がるよう、随時に寄せられる問合せへの対応等を行いました。 (2)指定公共機関等との取組  近年の大雨災害など、相次ぐ自然災害の教訓を踏まえ、行政・住民・企業の全ての主体が災害リスクに関する知識と心構えを共有し、洪水・地震・土砂災害等の様々な災害に備える、防災意識の高い社会を構築していくことが必要です。このため、気象庁では、社会経済活動の基盤を担い、災害時には応急・復旧対策にあたるなど、住民の安全・安心な生活・活動を支えている、災害対策基本法に基づく指定公共機関等を主な対象として、防災気象情報の活用方法等の説明や、災害対応をシミュレーションするワークショップを開催するなど、防災気象情報を活用した適切な防災対応の実施を支援しています。 (3)要配慮者への取組  避難に時間を要する障害者や高齢者等の要配慮者が、防災気象情報を適時に入手し、適切な防災対応に繋げるための取組も重要です。気象庁ではこれまで、緊急記者会見時の手話通訳や津波フラッグの導入等、障害者に一層確実に情報を伝達するための取組を進めてきました。加えて、要配慮者の防災気象情報に対する理解が深まるよう、普及啓発活動も進めており、例えば、当事者の意見も伺いつつ、平易な表現を用いた「わかりやすい版」の広報資料の作成などにも取り組んでいます。  要配慮者への取組にあたっては、自治体の福祉部局や関係の障害者団体等と連携して実施することが重要であり、引き続き各地の気象台において関係機関との協力体制を築きつつ取り組んでいきます。 2-3 気象防災アドバイザーの拡充  気象庁では、自治体の防災の現場で即戦力となる気象と防災のスペシャリストである「気象防災アドバイザー」の拡充と活用の促進に取り組んでいます。令和8年(2026年)4月時点で634名の気象庁退職者や所定の研修を修了した気象予報士に、国土交通大臣が気象防災アドバイザーを委嘱しています。令和7年度(2025年度)には、4月時点で37団体において38名の気象防災アドバイザーが任用され、防災気象情報の読み解きや、それに基づく市町村長に対する避難情報発令の進言、地域住民や自治体職員を対象とした防災出前講座等を行っています。 (1)気象防災アドバイザーの育成  気象防災アドバイザーの一層の拡充に向け、気象庁では令和4年度(2022年度)から気象予報士を対象とした「気象防災アドバイザー育成研修」を実施しています。  自治体の防災の現場では、急激な河川増水といった状況の急変を見越して避難情報発令の迅速な判断を下すことが必要とされています。この必要性に応えられるよう「気象防災アドバイザー育成研修」では、内閣府の「避難情報に関するガイドライン」に基づく避難情報発令の判断方法を習得する訓練等を通じて、自治体の職員として、限られた時間の中で予報の説明から避難の判断までを一貫して扱うことのできる即戦力となる人材を育成しています。このため、本研修のカリキュラムでは、「内閣府の「避難情報に関するガイドライン」に基づく避難情報発令の判断」、「地形から災害リスクを読み取る方法」、「想定を超えて降り続く線状降水帯の恐ろしさ」、「大河川からの背水による支川氾濫」に関する知識・技能・姿勢の習得を大きな柱としています。特に、避難情報発令の判断については、自治体の現場で何度も避難情報発令を主導した経験を持つ講師の指導のもと、過去の災害事例を模擬体験できる訓練、実際に首長の判断を補佐した経歴を持つ講師の監修により、首長への説明を再現したロールプレイ形式の演習を実施し、実戦的な内容としています。 (2)気象防災アドバイザーの活用促進  気象防災アドバイザーの活用を促進するため、気象庁では令和5年度(2023年度)から令和7年度にかけて、自治体の防災対応における課題を抽出し、解決策を試行検証する事業を実施してきました。試行検証に協力いただいた8団体では、気象防災アドバイザーの有用性を実感していただいており、この成果を全国の自治体に周知・広報していきます。更に、令和7年度は、自治体と気象防災アドバイザーのコミュニケーションを促進し、自治体が気象防災アドバイザーを任用しやすい環境を構築する事業として、気象防災アドバイザーの活動内容・自治体の活用の声などを紹介する動画、地元の気象防災アドバイザーを知っていただくための名簿を公開するとともに、自治体職員を対象に、気象防災アドバイザーを活用している自治体における実際の活用事例紹介や、気象防災アドバイザーとの意見交換等を行うマッチングイベントを開催しました。イベントに参加した自治体職員からは「他の市の常時任用の事例共有が参考になった」、「避難情報等、市の体制を決定するうえで気象防災アドバイザーの意見は大変参考になると感じた」、「気象防災アドバイザーや他の自治体の方と交流ができてよかった」といった声が聞かれました。  このような取組を通じて、引き続き、気象防災アドバイザーの活用を一層促進していきます。 コラム ●気象防災アドバイザー活用促進事業の取組について 蔵王町 総務課 防災専門監 佐藤 洋一  蔵王町では各地区に婦人防火クラブが組織され、家庭を守る婦人の立場で防火活動を行ってきました。しかし近年では、家庭・生活様式の多様化により停滞が著しかったため、令和7年4月、家庭防火防災クラブに改称し、家庭や身近な防火防災を実践する組織として再スタートしました。今回、会員の学習機会提供と組織活性化を目的に、気象防災アドバイザーによる防災研修を実施しました。実施に先立ち関係各位とのミーティングを実施していただき、その中で、無理なく防災の基礎知識を学べること、家庭の防災対策に役立てられること、そして、担当の気象防災アドバイザーが気象予報士として活躍している方だったため、天気予報に関する裏話をしてもらえると嬉しい、等をリクエストしました。  研修は3回講座とし、講話と、発災時の避難経路確保及びマイタイムライン作成のワークショップを行いました。特筆すべきは1回目で、仙台管区気象台を見学させていただくとともに、施設内にて気象防災アドバイザーの講話を行うという特別プログラムを組んでいただきました。講話は、段階的に内容が深まるよう工夫されており、アドバイザーの話術も相まって受講者が自然と引き込まれ、防災知識やキキクルの使い方等を学べました。また、ワークショップによって、地域の災害傾向や事前準備・早め避難の重要性について自主的に考えることの大切さを知り、家庭防火防災クラブとしての目的意識や積極性を醸成することができました。  今回の事業は、内容、成果、受講者の満足度、どれを取っても『大成功』でした。ひとえに、担当の気象防災アドバイザーが趣旨に沿ってオーダーメイドで講座を組み立てて下さったことに尽きますが、なお、事業形成にあたり綿密な調整業務を担って下さったコーディネーターの存在も大きかったと思います。気象防災アドバイザーは様々な技能・経歴を持つスペシャリストが揃っています。一方、自治体側にも多種多様なニーズがあります。これらをつなげるコーディネーターをセット化できれば、気象防災アドバイザーの有用性がよりいっそう高まるのではないかと感じました。今後、機会に応じて気象防災アドバイザーの協力を仰ぎたいと思います。 ◆第Ⅰ章◆ 気象業務の中長期的な方針 Ⅰ 気象業務の中長期的な方針 Ⅰ-1「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」の補強  気象庁では、気象業務における様々な課題に対応するため、「交通政策審議会気象分科会」を随時開催し、有識者からのご意見をいただきながら施策方針を検討しています。  近年は、平成30年(2018年)8月の気象分科会提言「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」に基づき、線状降水帯の予測精度向上や地域防災支援の強化などの重点課題に取り組んでいます。  一方で、先端AI技術の飛躍的進歩など、同提言の時点では十分に見通せていなかったような社会動向もみられています。そのような近年の技術的進展や社会動向を踏まえ、気象業務が社会的課題の解決に一層貢献していくため、令和7年(2025年)6月、気象分科会において「「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」の補強」がとりまとめられました。  このとりまとめにおいては、これまでの重点施策に引き続き取り組むとともに、近年の社会動向を踏まえた追加施策として、「①台風情報の高度化」、「②気候変動情報の高度化」、「③大規模地震・噴火対策の推進」、「④先端AI技術の活用」、「⑤面的気象情報の拡充」が示されました。加えて、これらの施策に取り組むにあたっては、気象庁が発表する情報が利用者に寄り添ったものになるよう、関係機関との連携や対話の重要性が強調されています。  各施策の背景や具体的な方針については、以下リンク先をご覧ください。  <「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」の補強>  https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/kishou00_sg_000129.html  また、各種施策の最新の取組状況については、この「気象業務はいま」にまとめられていますので、ぜひこの後の記事をご覧ください。 Ⅰ-2「2030年に向けた数値予報技術開発重点計画」の補強・見直し  交通政策審議会気象分科会によりとりまとめられた「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方(提言)」(平成30年(2018年))を受け、気象庁では「2030年に向けた数値予報技術開発重点計画」(以下、「重点計画」という)を策定し、数値予報の技術開発を進めています。  その後、令和7年(2025年)6月には同分科会により「「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」の補強」がとりまとめられ、近年の社会動向を踏まえ、数値予報技術に関連する追加的施策として、台風情報の高度化、気候変動情報の高度化、先端AI技術の活用、が挙げられました。  気象庁では、この内容を踏まえて重点計画についても補強・見直しを進め、重点計画の中間フォローアップを実施するとともに、2030年より先の将来も見据え、数値予報モデル開発懇談会での専門家からの助言を頂きつつ最新技術動向を分析し、今後推進すべき技術開発の方向性を検討してきました。  特に注目すべき技術動向の変化として、スーパーコンピュータの変化と先端AI技術をはじめとする新たな予測技術の登場が挙げられます。前者については、GPU※搭載型が事実上の標準となりつつあり、今後は数値予報モデルにおいても、GPUを効果的に利用していくことが更なる改善の鍵となります。後者はさらに急速に進展しており、物理法則に基づく数値予報の計算と異なり、大量の気象データを学習してAIが気象を直接予測する「AI気象モデル」が既に登場しています。AI気象モデルは、台風の進路予測など、一部の予測対象については従来の数値予報の予測精度を上回るとの報告もあります。  この状況を踏まえ、重点計画の補強・見直しにおいては、数値予報モデル開発と先端AI技術開発を両輪で推進する方向性を掲げています。  物理法則に基づく数値予報モデルについては、スーパーコンピュータの変化によるGPU計算機への対応を進めつつ、線状降水帯や台風、季節予報スケールの変動といった現象の予測精度向上に向け、観測データ利用の拡大や高度化、予測計算の高度化や高解像度化といった様々な取組を引き続き進めていきます。  先端AIの活用については、まずは既に有効性が示されているAI気象モデルによる台風予測や、先端AI技術を用いたガイダンスなどの分野から開発と活用を進めていきます。また、AIの開発基盤や体制を強化するとともに、産学官連携を更に推進し、長期的には台風予測以外の様々な分野についても、先端AIの活用が可能なものから取り組みます。AI気象モデルには高精度な学習データが不可欠であり、その大半は数値予報モデルを用いて作成されます。数値予報モデルの開発成果を活かし、過去の長期間にわたる気象データを作成することにより、更なるAIの高度化と高精度化にも取り組みます。  このように、気象庁は数値予報モデル開発と先端AI技術開発を両輪で推進する方針を掲げ、これらを反映した重点計画の補強・見直しをとりまとめ、間もなく公表を予定しています。数値予報モデルと先端AI技術の利点を最大限に活かすことで、防災気象情報の一層の高度化に取り組んでいきます。 ※GPU: Graphics Processing Unit (画像処理装置)の略で、元はディスプレイ上に表示する描画処理を行う装置です。動画など、スクリーン上の描画を短時間に行うためには、大量のデータを高速に処理する仕組みが必要ですが、これを通常の科学技術計算にも利用することができます。 Ⅰ-3 先端AI技術を活用した防災気象情報の高度化 (1)先端AI技術活用に関する社会の動向  近年、特に平成22年(2010年)頃からの第3次AIブーム以降のAI技術の進展は著しく、対話型の生成AIの急速な普及などAI技術の活用が社会で広がっています。政府としても令和7年(2025年)6月にはAIのイノベーションを促進しつつリスクに対応するため「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が公布され、同法に基づき12月には、研究開発・活用の促進のために政府が実施すべき施策の基本的な方針となる「人工知能基本計画」が閣議決定されています。AI技術の急速な進展に伴い社会でさまざまなAI活用が広がっており、気象分野においても過去の気象ビッグデータである気象再解析データ等を学習データとしてAIが未来の気象を予測する「AI気象モデル」が登場しました。AI気象モデルは世界各国の主要な数値予報センターや大手民間企業等において急速に開発が進められ、例えば台風予報において、中心気圧などの強度の予測については課題を残しつつも、進路の予測においては従来の数値予報モデルの精度を凌駕するようになってきています。気象予測へのAI技術の活用はまさに日進月歩で進んでいます。 (2)気象庁における先端AI技術の活用に関する取組  気象庁では、常に最新の技術を導入し、防災気象情報の精度向上をはじめとする各種情報の改善を行ってきました。従来からのAI技術である機械学習の分野では、平成8年(1996年)から、スーパーコンピュータを用いた数値予報の結果を予報作業用に加工するプロダクト「数値予報ガイダンス」の作成に、ニューラルネットワークといった技術の利用を開始しています。近年の取組としては、平成31年(2019年)から令和5年(2023年)にかけて、深層学習といった第3次AIブーム以降の先端的なAI技術(以下、「先端AI技術」という)を気象観測・予測で活用するため、理化学研究所革新知能統合研究センターと共同研究を実施し様々な知見を得ました。  令和7年6月には、交通政策審議会気象分科会において「「2030 年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」の補強」がとりまとめられ、追加的施策のひとつとして「先端AI技術の活用」が示されました。さまざまな学習データから高度な推論を行うことができる先端AI技術を活用することで、AI気象モデルと従来の数値予報モデルの併用による気象予測の高精度化や、気象庁の業務の根幹となる観測データの品質向上、観測データを基にした解析や推定の高精度化、AIによる作業支援など、気象庁のさまざまな業務を強化することができる可能性があります。気象庁では、2030 年のみならず更にその先を見据えて、気象業務のあらゆる分野において、観測から解析・推定、将来予測までを含む様々な場面で先端AI技術の活用を推進し、防災気象情報の高度化を図ることとしています。具体の活用イメージの例は以下の通りです。  ・AI気象モデルと従来モデルの併用等による予報精度向上(将来予測)  ・次期ひまわりの最新センサによる膨大なデータのAI処理(解析・推定)  ・AIを利用した地震観測データの高度利用(観測)  一方で、AIの使用にあたっては、処理の過程がブラックボックスになり判断基準の説明が困難になるといったようなリスクがあることや、AIの学習には膨大な計算機資源が必要であることなどが課題です。気象庁では、実現に向けた取組として、AIに学習させるデータとして気象再解析データや気象衛星データ等を活用するとともに、自然科学の知見も活かした先端AIの研究・技術開発を推進し、効率的なAI計算に適したスーパーコンピュータ等の計算機資源の整備に加え、多分野でのAI活用のための技術開発体制の拡充、技術開発における連携、AIのリスクや課題に関する知見共有等のため、産学官連携の強化に取り組んでいくこととしています。  令和7年度は、気象業務における先端AI技術のさらなる活用方策の検討、企画立案機能や先端AI技術を活用するための開発能力の強化とともに、AIの活用に不可欠で膨大な学習データの整備等に取り組みました。今後は、具体の活用イメージの例として挙げられていた項目などの実現に向けて、AI気象モデルの開発をはじめとした本格的な技術開発に着手するなど、先端AI技術のさらなる利活用に向けた取組を進めていきます。 ◆第Ⅱ章◆ 線状降水帯や台風等による気象災害への対策 Ⅱ 線状降水帯や台風等による気象災害への対策 Ⅱ-1 台風第15号による大雨・突風 (1)気象概況  令和7年(2025年)9月4日から5日にかけて、台風第15号が日本列島に接近・上陸しました。これに伴い、西日本から東日本の太平洋側や東北地方の広い範囲で大雨となって、宮崎県、静岡県、神奈川県で線状降水帯が発生し、24時間降水量は宮崎県で450ミリ、静岡県で350ミリを超えたところがあったほか、静岡県、茨城県、高知県では竜巻等の激しい突風が発生しました。  特に、5日の昼過ぎに台風が通過した静岡県では、台風本体や台風周辺の暖かく湿った空気が流れ込んで大気の状態が非常に不安定となり、非常に発達した積乱雲が通過しました。このため、竜巻等の激しい突風が複数の地域で発生したほか、5日に菊川市菊川牧之原で1時間に127.0ミリの猛烈な雨を観測し、また牧之原市静岡空港、熱海市網代、掛川市掛川で1時間降水量や3時間降水量の観測史上1位の値を更新するなど、記録的な大雨となりました。 (2)令和7年9月5日に静岡県で発生した突風について  台風第15号の接近に伴い、静岡県では複数の市町で竜巻などの激しい突風による被害が発生しました。静岡県内で発生した突風被害のうち最も被害の大きかった牧之原市から吉田町では、店舗の外壁材の飛散や電柱の折損などの被害を確認しました。調査の結果、発生した突風の種類は竜巻と認められ、その強さはJEF3(風速約75m/s)に該当することが分かりました。これは、1961年からの統計開始以降で、国内最大級の強さの竜巻となります。  気象庁は、突風被害等を伴う災害が発生した際に、災害発生の要因となった現象と災害との関係等を把握するため、災害が発生した地域に気象庁機動調査班(JMA-MOT:JMA Mobile Observation Team)を速やかに派遣し現地調査を実施します。上述の静岡県で発生した突風による被害が広範囲で確認されたことから、地元気象台である静岡地方気象台に加え、東京管区気象台、名古屋地方気象台、横浜地方気象台からも応援を派遣してJMA-MOTによる現地調査を実施し、6市町で突風被害が相次いで発生したことを確認しました。 Ⅱ-2 令和7年9月18日につくば市で発生した竜巻について  令和7年(2025年)9月18日に茨城県つくば市において竜巻によると認められる突風被害が発生しました。気象研究所ではこの突風被害に着目して、最新型の気象レーダーを用いた解析を行いました。 (1)最新型の気象レーダーによる観測  気象研究所には、主に2種類の気象レーダーがあります。一つはフェーズドアレイレーダーです。平面上に並べた数多くの小型アンテナを用いて、10~30秒という短時間で立体空間を素早く観測することが可能です。もう一つは二重偏波レーダーです。水平方向と垂直方向に振動する電波を用いて、雨・雹・雪といった降水粒子のほかに、突風に伴う飛散物などの非降水粒子を判別することが可能です。いずれのレーダーも降水粒子などから反射される電波のドップラー効果を用いて、レーダーに近づく風の成分と遠ざかる風の成分を測定することができます。 (2)突風被害をもたらした竜巻の様子  これらの気象レーダーを用いて積乱雲に伴う風の様子を詳しく観測したところ、以下のことが明らかになりました。  ①非常に発達した積乱雲が東南東に進みながらつくば市を通過しました。この積乱雲は、後面から前面に向けて流入する強い気流を伴っていました。  ②積乱雲の前面にあったガストフロント(突風前線)と呼ばれる風の急変域が、後面からの気流によって強められ、その付近に3つの渦が作られました。これらの渦は毎秒17メートルから21メートルの速さで南東に進みました。  ③このうちの2つの渦は、14時53分から14時56分にかけて、地上から巻き上げられた飛散物を伴いながら同市の花室(はなむろ)から上広岡(かみひろおか)にかけて通過する様子が気象レーダーの観測によって明らかになり、渦の経路の周辺では竜巻によるとみられる被害や痕跡が確認されました。  これらのことから、この被害をもたらした現象はガストフロントに伴う複数の竜巻であったと推定されました。このような現象を最新型の気象レーダーを用いて至近距離から高解像度で捉え、被害の分布との対応を詳細に確認できたことは珍しく、世界的に見て貴重なデータです。現在、メカニズムの解明に向けて詳しい解析を進めています。 (3)未来の高度な防災技術に向けて  最新型の気象レーダーを用いることによって、局地的な大雨や竜巻などの突風、また集中豪雨や台風などの現象を詳しく捉えることができると考えられます。気象研究所では、このような新しい観測技術とAIなどの先端的なデータ処理技術を組み合わせながら、未来の高度な防災のための研究開発に取り組んでいます。 Ⅱ-3 台風情報の高度化について  気象庁は、台風による災害の防止・軽減に資するため、これまで台風情報の精度の向上と内容の拡充に努めてきました。一方、近年は、台風情報等の防災気象情報を活用した公共交通機関の計画運休、自治体等によるタイムライン(防災行動計画)の策定などが進んでいます。こうした社会の変化を踏まえ、利用者のニーズに応じた台風情報のあり方について議論を行うため、令和6年(2024年)9月から令和7年(2025年)7月にかけて台風や防災の専門家、報道関係者などに参加いただき、「台風情報の高度化に関する検討会」を開催しました。令和7年8月に同検討会の報告書がまとめられましたので、その内容を紹介します。 (1)台風情報の改善について  気象庁は、現在、24時間以内に台風が発生すると予想した時点から進路予報等の台風情報を提供しています。検討会では、更に早い時期からの情報として、①台風シーズンを通した発生数の見通し、②1か月先までの間に台風が存在する可能性の高い領域、③1週間先までの間に熱帯低気圧が台風に発達する可能性を提供する必要性が示されました。これらの情報により、住民がより早くから防災へ備えることや、事業者が事業計画を策定すること等に活用できるようになることが期待されます。  また、台風が発生した後の情報では、①5日先までの進路・強度予報を24時間刻みから6時間刻みへ細かくすること、②風の情報について現状の暴風域・強風域の円表示に加えて警戒・注意すべき範囲・期間がより適確に伝わる詳細な分布情報を提供すること、③高潮・波浪の情報について予報期間を5日先まで延長するとともに、台風の位置・風分布などと整合した分布情報を提供することなどが必要とされました。このように、台風の特徴をより細かく伝える情報を提供することによって、住民の主体的な行動や自治体等の防災対応により一層活用できるようになることが期待されます。  これらの情報改善について、令和12年(2030年)頃に向けて必要な技術開発やシステム整備を進め、順次改善を実現するとともに、その後も技術開発を進め更なる精度向上と情報改善を図ることが必要とされました。また、台風情報の改善を支える基盤的な取組として、静止気象衛星や海洋気象観測船の整備等の観測の強化、数値予報技術の開発等の予測技術の向上を推進していく必要性や、先端AI技術の積極的な活用の重要性が示されました。 (2)台風情報の解説・普及啓発の充実について  住民、自治体等の防災関係機関、航空関係機関や指定公共機関、各種事業者等に早めの備えを促すとともに、様々な事前対策や防災対応がより効果的に行われるためには、情報自体の改善に加えて、発表した情報について利用者に応じた解説や、情報の活用方法について平時からの普及啓発を充実させることも重要です。解説については、台風発生前のより早くからの台風の見通しに関する解説や、より詳細となる台風発生後の情報の解説、それらに資する気象庁ホームページ上での台風災害等に関する解説資料の充実・整理の必要性が示されました。また、普及啓発については、大きく台風情報が変わることになるため、住民に向けて情報の見方や利用方法を様々な媒体を通じてより分かりやすい形で提供することや、専門家に向けて情報の詳細な仕様や精度等を提供すること、国に加えて報道機関や気象予報士等の様々な「担い手」による普及啓発活動を推進していく必要性が示されました。  気象庁では、台風情報がこれまで以上に社会の防災・経済活動において有効に活用されるものとなるよう、報告書で示された台風情報の高度化に向けた取組を着実に進めてまいります。 コラム ●台風情報高度化検討会に重ねた台風発生予測の夢 台風情報の高度化に関する検討会座長(横浜国立大学 教授) 筆保 弘徳  1998年10月、台風第10号が地元・岡山に襲来した。それまで台風被害がほとんどなかった岡山県北部に台風10号は狂暴な強風と大雨をもたらし、国から激甚災害の指定を受けるほどの被害が出た。その地に住んでいた祖父が丹精込めて育てていた稲も、収穫を目前に控えて一面倒れてしまった。被害を受けた田を前に祖父は私にこう語った。「台風が来る一週間前、いや二週間前に分かっていたら、農家は備えることができた」。稲刈りは人手を集め、作業の段取りを組んだ上で数日間かけて行う。一週間前の情報では間に合わず、二週間の猶予がなければ実際の行動にはつながらない。その言葉は、米農家にとっての切実な時間感覚が込められていた。  当時の私は気象学を志し始めたばかりであったが、この「二週間前」という言葉が強く心に残った。台風は、発生してから日本に接近するまでに概ね3~5日を要する。二週間前に備えるには、発生後に追いかけるのでは遅く、そもそも「発生するかどうか」を捉える台風発生予測が求められる。しかし、気象庁による台風発生予測は当時も現在も行われていない。台風発生予測の実現は、私の台風研究人生における大きな目標となった。そして私がポスドク研究員をしていた頃、全球非静力学モデルNICAMを用いた数値実験により、初期値から約二週間後に発生する台風が、現実と同様に再現されている結果を目にした。そのとき、二週間前の台風発生予測は夢物語ではなく、技術的には可能性があることと、社会がその予報情報をどう受け取るかが問われる課題であると感じた。  気象庁から台風情報高度化検討会参画の依頼を受けた際、私の頭に浮かんでいたのもあの「二週間前」という言葉であった。検討会を経て、台風発生予測が今後の情報の在り方として最終報告書に盛り込まれたことは、社会にとって重要な一歩であると同時に、私自身が長年抱いてきた夢が前進した瞬間でもあった。  もっとも、最終報告書の内容は台風発生予測にとどまらない。台風発生後の進路・強度予報の高度化、風・高潮・波浪といった防災情報の充実、普及啓発の重要性など、台風の一生を通じて、様々な立場の利用者が余裕をもって台風に備えるための情報提供の在り方が整理されている。検討会に関わった一人として、この最終報告書は胸を張って示せる内容になったと感じている。  さいごに、本検討会を通じて強く印象に残ったことに触れておきたい。検討会の準備や議論の過程で、座長として力不足を感じる場面は少なくなかった。それでもこうして良い形にすることができたのは、気象庁の、とりわけ若い職員の皆さんが主体的に考え、しっかりと検討会を支えてくれたからにほかならない。彼らから、台風情報を社会に届けるという使命や強い当事者意識を随所に感じた。こうした支えがあったからこそ、本検討会が結実できたことに心より感謝申し上げたい。同時に、気象庁という長年の現業で根ざした組織の確かな力と将来性を、たいへん頼もしく感じた検討会であった。 Ⅱ-4 線状降水帯対策 (1)線状降水帯に関する情報改善の取組  次々と発生する発達した雨雲の一群が、数時間にわたりほぼ同じ場所を通過・停滞することで生じる、強い降水をともなう雨域を線状降水帯といいます。ひとたび線状降水帯が発生すると顕著な大雨をもたらし、災害発生の危険度が急激に高まります。  気象庁は、観測・予測技術の高度化を進め、線状降水帯に関する情報の段階的な改善を実施しています。令和3年(2021年)に、線状降水帯が発生し災害発生の危険度が急激に高まっていることを伝えるため、「顕著な大雨に関する気象情報」の提供を開始しました。また、令和4年(2022年)からは、線状降水帯の発生を半日前から予測し警戒を呼びかける「線状降水帯半日前予測」を運用しています。これらの情報に加えて、令和8年(2026年)からは、線状降水帯発生の予測を、発生の2~3時間前を目標に発表する「線状降水帯直前予測」の運用を開始します。  この情報は、線状降水帯が今後3時間以内に発生する危険性が特に高まった場合に、一次細分区域(府県内をいくつかの地域に分けた区域)を対象に発表します。この情報が発表された場合には、自治体からの避難情報に留意いただくとともに、「キキクル」や河川の水位情報などを確認し、崖や川の近くなど、危険な場所にいる方は、適切な避難行動をとっていただくことが大切です。  あわせて、線状降水帯による大雨のおそれがある領域を地図で示した「線状降水帯予測マップ」の提供を開始します。「線状降水帯直前予測」が発表された際には、気象庁ホームページから、どこに大雨のおそれがあるのかをこの予測マップで確認していただき、適切な行動に繋げていただくことを期待しています。  令和8年の新たな防災気象情報の開始により、これら線状降水帯に関する情報の名称はそれぞれ、「気象防災速報(線状降水帯発生)」、「気象防災速報(線状降水帯直前予測)」、「気象解説情報(線状降水帯半日前予測)」として発表します。 (2)線状降水帯・台風等に関する機構解明及び予測技術向上に向けた研究  激甚化・頻発化する気象災害の被害防止・軽減に向けて、線状降水帯や台風等の予測精度向上は喫緊の課題です。気象研究所では、令和3年度より線状降水帯とその環境場に関する研究を大学や研究機関と連携しつつ推進してきました。これらの研究から、線状降水帯の発生形態は極めて多様であること、また、線状降水帯による大雨は台風の直接的・間接的影響を受けることも多いことが分かってきています。これらの成果に基づき、気象研究所では今までの取組を更に強化し、令和7~10年度(2025~2028年度)の計画で、緊急研究課題「線状降水帯・台風等に関する集中観測による機構解明及び予測技術向上」を新たに開始しました。  この研究課題では、線状降水帯や台風とそれに伴う激しい気象現象の実態を把握し、そのメカニズムや大気海洋相互作用の役割を明らかにすることで、予測技術の向上を目指します。まず、国内の様々な大学や研究機関と協力し、北西太平洋域などの海洋上も含めた広域で、多様な測器による大気・海洋の集中観測を実施します(第1図)。さらに、集中観測で得たデータや衛星データ等も活用し、データ同化・数値シミュレーション手法の開発・改良により、線状降水帯や台風に伴う大雨や暴風、更に高潮や洪水等の予測技術向上を目指します。  令和7年度には5月下旬から10月に集中観測を実施しました。航空機ドロップゾンデ観測(名古屋大学と共同で実施)では、飛行経路に沿った大気の鉛直構造を取得し、上空の寒気や、下層の暖かく湿った空気が流入する様子が捉えられました(第2図)。また、様々なデータ同化・予測システムの実験環境の構築を進め、実験を試行しました。統計台風強度モデルでは、海洋同化・予測システムによる海面水温や海洋貯熱量の予測値を用いる実験を行い、台風の通過による海面水温低下等の影響が反映されることにより、台風の最大風速の予測が良くなる事例がみられています(第3図)。  今後も、集中観測、及び、その観測データ等を活用した取組を大学や研究機関と連携しつつ推進し、線状降水帯や台風等のメカニズム解明、予測技術向上に貢献していきます。 コラム ●「測れなかった場所」を測る ―台風直下の海域観測― NTT宇宙環境エネルギー研究所 主幹研究員 松原 浩史(写真中) 主任研究員 遠藤 直人(写真左) 主任研究員 小阪 尚子(写真右)  近年、台風による強風・高波・大雨の被害は激甚化しており、進路や発達をより正確に予測することが求められています。被害を少しでも減らすためには、その精度向上が欠かせません。その鍵となるのが、台風が発達する海域での観測データです。台風直下や周辺海域では、台風は海からエネルギーを受け取って発達します。なかでも、そのエネルギーのやり取りが最も活発になるのが、台風中心付近の海域です。しかし、強風や高波のため船舶観測は困難で、十分なデータが得られてきませんでした。  この測れなかった場所を観測するため、無人で、波の力を利用して長期間航行できる海洋観測機器「せいうちさん」(図1)を活用し、各種センサにより大気と海洋を同時に観測します。台風シーズン前から沖縄近海に展開し、進路予報に応じて遠隔で位置を調整することで、人が立ち入ることなく台風直下での観測を実現しています。取得データは衛星通信を通じてリアルタイムに伝送されます。これまでに、沖縄科学技術大学院大学と連携し、2022年の台風第11号、2023年の台風第6号(図2)をはじめ、2024年には複数の台風を連続して観測することができました。  2025年からは、気象研究所との連携へと拡張し、得られたデータをもとに、台風や線状降水帯がどのように生まれ、発達するのかを明らかにする研究に取り組んでいます。  将来的には、NTTが構想する新たな通信網を活用し、より広い海域を同時に観測できる体制の構築をめざし、予測精度のさらなる向上につなげていきます。 (3)数値予報モデルの進化:局地モデルの高解像度化と局地アンサンブル予報システムの運用開始  気象庁では、令和8年3月に局地モデル(LFM)の水平格子間隔を2kmから1kmに高解像度化し、更に局地アンサンブル予報システム(LEPS)の運用を開始しました。これらの数値予報モデルの業務運用に向けては、文部科学省・理化学研究所の協力の下でのスーパーコンピュータ「富岳」の活用や線状降水帯予測スーパーコンピュータの導入によって開発を加速化するとともに、数値予報モデル開発懇談会や線状降水帯予測精度向上ワーキンググループ等において、有識者からのご助言もいただきながら進めてきました。  線状降水帯は、積乱雲の発生や発達がごく小さな気象条件の違いで大きく変わり、場所と時間を特定した予測は困難です。このため、線状降水帯の予測を的確に行うためには、個々の積乱雲を表現する高解像度かつ精緻な数値予報モデルと、豪雨の発生を確率的に予測するアンサンブル予報の両方のアプローチが必要です。  LFMは気象庁が運用する数値予報モデルの中で最も解像度が高く、線状降水帯等による大雨の予測を担っています。今回の高解像度化により、LFMが予測する積乱雲の表現能力が向上し、積乱雲を形成する対流が発生するタイミングの遅れや現実より強い雨を予測する傾向が改善し、降水予測精度が向上します。線状降水帯の位置や降水量の予測が改善する事例を紹介します。  アンサンブル予報は、僅かに条件を変えた多数の予測を行い、その統計的な性質から予測の確からしさを把握し、現象の発生を確率的に捉えて予測する技術です。今回、線状降水帯の構造を細かく表現できるLFMに基づくアンサンブル予報として、LEPSを新たに開発しました。水平解像度2kmのLEPSは、既存の水平解像度5kmのアンサンブル予報(MEPS)よりも、多くの事例で線状降水帯等による大雨を高い確率で予測します。  気象庁では、これらの進化した数値予報モデルの活用や関連する技術開発により、今年の出水期から「気象防災速報(線状降水帯直前予測)」の発表を開始しました。今後も更なる数値予報モデルの改善や、線状降水帯による大雨の可能性に関する半日程度前からの呼びかけの精度向上を進めていくとともに、令和11年度(2029年度)に計画している半日程度前に線状降水帯発生による大雨の可能性が高い市町村を把握できる格子形式の分布図の開発や準備を進めていきます。 (4)海洋気象観測船の一般公開  気象庁は、海洋気象観測船「凌風丸」と「啓風丸」を用いて、気候変動の実態把握や海洋環境の監視のため、海水温や二酸化炭素濃度、塩分などの海洋観測を行っています。また、令和3年からは、線状降水帯の予測精度向上に寄与するため、海上の水蒸気量の観測も行っています。気象庁では、これらの海洋気象観測船とその役割を広く知っていただくための取組を行っています。令和7年は、大分市で開催された「大分みなと祭り」で「啓風丸」を、神戸市で開催された「Techno-Ocean 2025」で「凌風丸」を一般公開しました。 ○一般公開の概要  海洋気象観測船の一般公開では、船を操縦するための操舵室のほか、海洋観測や気象観測に使用する観測機器及び採取した海水などを分析する観測室を公開しました。特に、「凌風丸」は令和6年(2024年)に竣工した海洋気象観測船であることから、最新鋭の操船計器や観測機器をご覧いただきました。現地では船外で乗船を待つ人の列は途切れることがなく、「大分みなと祭り」では1日で850名を超えるなど大変多くの方に乗船いただきました。大人から子どもまで幅広い世代の方が乗船され、「気象庁が船でも観測を行っているなんて知らなかった」、「凌風丸に乗れて良かった」などのコメントをいただきました。  今後も海洋気象観測船の一般公開を通して、気象庁の業務や海洋気象観測船の役割を広く知っていただけるよう、これからも各地で海洋気象観測船の一般公開を実施してまいります。 ◆第Ⅲ章◆ 気候変動対策への一層の貢献 Ⅲ 気候変動対策への一層の貢献 Ⅲ-1 令和7年(2025年)夏(6~8月)の記録的高温について  令和7年(2025年)の夏は、沖縄・奄美を除く北日本から西日本にかけての広い地域で記録的な高温となり、日本の夏平均気温は、統計開始(1898年)以降で、昨年や一昨年の記録を大幅に上回り、3年連続で最も高くなりました。猛暑日(日最高気温が35℃以上の日)となった地点や、酷暑日(日最高気温が40℃以上の日)となった地点の延べ数をみると、比較可能な平成22年(2010年)以降で最も多くなりました。そして、群馬県伊勢崎では、歴代最高の41.8℃も記録しました。また、季節の進行が早く、多くの地方で過去最も早い梅雨明けとなり、7月は記録的な少雨となったところがありました。こうしたことから、令和7年夏の高温や少雨の発生要因について「異常気象分析検討会※」で分析・検討を行い、9月5日にその結果を公表しました。 ※異常気象分析検討会:社会・経済に大きな影響を与える異常気象が発生した場合に、その発生要因について最新の科学的知見に基づいて分析し、その見解を迅速に発表することを目的としています。大学・研究機関等の気候に関する専門家で構成し、平成19年(2007年)6月より運営しています。  本検討会では、令和7年夏の顕著な高温・少雨は、次に挙げる要因が重なってもたらされたと分析されました。 ・太平洋熱帯域の西部で海水温が高く、積乱雲の活動がアジアモンスーン域で早くから活発となり、フィリピンの東海上では平年に比べて極めて活発となった時期もあった。 ・その影響で上空の偏西風が平年より大幅に北を流れ、日本付近はチベット高気圧と太平洋高気圧が重なった背の高い暖かな高気圧に覆われ、下降気流が卓越して晴れて気温が上がった。 ・地球温暖化の影響に加えて、北半球中緯度帯の海面水温がここ数年顕著に高いことも、日本を含む中緯度帯の気温が高いことに寄与した可能性がある。  気象庁では引き続き、気候の監視・予測を行い、異常気象に際しては大学・研究機関等の専門家と連携した分析を行い情報発信に取り組んでまいります。 Ⅲ-2 令和7年夏の記録的な高温や大雨に地球温暖化が寄与  令和7年(2025年)夏(6~8月)の平均気温は、気象庁の統計開始以降1位の記録を更新しました。また、8月前半は九州地方や北陸地方などで記録的な大雨となりました。特に8月10日から11日にかけては九州北部で線状降水帯が複数発生し、熊本県には大雨特別警報が発表されました。これらの高温や大雨に対する地球温暖化の影響を調べるため、イベント・アトリビューション(EA)を行いました。 (1)日本の夏の平均気温への影響  夏の高温のEAは、「地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース」(d4PDF)を応用して開発された、極端現象の発生確率に対する地球温暖化の影響を迅速に見積もる予測型の確率的EA手法を用いて評価しました。その結果、令和7年の海面水温分布の影響と地球温暖化の影響が共存する状況下(実際の気候条件下)では、夏の高温は約38年に一度の稀な現象だったと推定されました。これに対し、地球温暖化の影響が無かったと仮定した状況下では、夏の高温はほぼ発生し得なかったと推定されました。 (2)8月10日から11日の九州北部の大雨への影響  大雨の評価には量的EA手法を用いました。この手法は、実際の大気の状態を基に1kmメッシュで大雨を高精度で再現した結果(再現実験)と、実際の大気の状態から現在までの気温や水温の上昇を除いたうえで大雨を再現した結果(擬似非温暖化実験)を比較することで、地球温暖化の影響を評価しました。いずれの計算ともに、8つの初期時刻(8月9日9時から10日6時まで3時間ごと)から計算した結果を平均することで、シミュレーションのばらつきを軽減させています。  その結果、1kmメッシュの再現実験は九州北部の27時間積算降水量を非常によく再現しました。そして、黄色枠内で平均した27時間積算降水量は、地球温暖化に伴う気温上昇が無かったと仮定した実験に比べ、およそ25%増加したことが分かりました。気温上昇から見積もられる水蒸気量の増加率は約10.5%のため、それよりも多くの降水増加が計算されました。これまでの研究から、工業化以前と近年の気候状態の比較から得られる地球温暖化に伴う降水量の変化率は、背景となる大気の流れ等によって異なることが分かっています。この結果は九州北部を中心とした大雨について、地球温暖化に伴う気温上昇によって降水量が増加した可能性を示唆しています。 Ⅲ-3 黒潮大蛇行の終息  黒潮は、東シナ海を北上し日本の南岸に沿って流れる、世界有数の流れが強い海流です。この黒潮には、四国・本州南方での流路に大きく分けて2種類の安定したパターンがあり、紀伊半島から東海沖で南へ大きく蛇行した流れを「大蛇行流路」、四国・本州南岸にほぼ沿った流れを「非大蛇行流路」と呼んでいます。  黒潮の大蛇行は、1年程度で終わる場合もあれば、数年にわたって継続する場合もあります。近年では、平成29年(2017年)8月以降、紀伊半島から東海沖で大きく離岸して流れ大蛇行の状態となり、令和7年(2025年)4月に蛇行していた黒潮の一部が東海沖で切離するまで7年9か月続き、昭和40年(1965年)以降で過去最長となりました(下表参照)。  黒潮の流路は、船舶の経済的な運航や、魚種・漁場の位置、沿岸の海洋環境等に影響を与えます。また、黒潮が大蛇行になると、黒潮や黒潮から分かれた暖水の影響で、東海地方から関東地方にかけての沿岸を中心に潮位が上昇しやすくなります。令和元年東日本台風が北上した際には、黒潮大蛇行の影響で潮位が上昇していたところに、台風の接近・通過に伴う潮位上昇が重なったため、静岡県や神奈川県などで過去最高の潮位を観測し、高潮による浸水被害が発生しました。  気象庁では、黒潮流路等の把握にご利用いただけるように、黒潮などの海流や海面水温等の現在の状況や約1か月先までの予測情報を気象庁ホームページや「デジタルアメダスアプリ」を通じて提供しています。今後も、黒潮流路の変動を注意深く監視し情報提供を行っていきます。 Ⅲ-4 電力等エネルギー分野における気候情報の利活用について  気象と電力需要には密接な関連があります。特に夏季の高温や冬季の低温による需要増大は電力の需給調整に大きな影響を及ぼし、令和4年(2022年)や令和5年(2023年)夏季には高温に伴う節電要請が実施されるほど電力需要が増えました。このため、電力関係機関と関連省庁は、電力需給見通しについての情報交換を行う打合せを、令和4年以降夏季・冬季の年2回実施しており、気象庁はこの中で最新の週間天気予報及び季節予報について解説しています。また、気候変動が今後更に進行していくと見込まれ、我が国全体として緩和策・適応策に関する取組が進められる中、電力インフラのリスク評価等において気候変動の将来予測を活用する動きが広がりつつあります。  このように電力等エネルギー分野において週間天気予報や季節予報、気候変動の将来予測等(以下、「気候情報」)の重要性が高まる中、気象庁では令和8年(2026年)1月に「電力等エネルギー分野における季節予報及び気候変動に関する将来予測の利活用」をテーマとして、「気候情報の応用技術に関する検討会」(以下、「検討会」という)を開催しました。検討会では、電力分野の民間企業・研究機関・関連省庁等のほか、気象情報や建設分野の民間企業に参加いただき、気象庁から気候情報について情報を提供しつつ、電力等エネルギー分野における気候情報の利活用の現状や課題等について議論を行いました。  検討会では、はじめに「季節予報の利活用」をテーマに議論しました。電力の需給調整等では週間天気予報や季節予報が活用されており、降雪時の電力需要増加を事前に想定するため、1週間以上前の段階で、大雪の可能性に関する予測情報が地域的に詳細な形で提供されていれば有用というご意見をいただきました。また、発電施設の稼働調整のため、気温や降水量等の予測精度向上が必要というご意見をいただきました。気象庁では、令和8年1月から新しい季節アンサンブル予報システムの運用を開始するなど、予測精度の向上に取り組んでおり、今後も改良を重ねて、更なる精度向上を目指していきます。  また、「将来予測の利活用」をテーマにした議論では、気候変動に伴う極端現象の増加が電力インフラの機能や電力供給の変動に影響することや、そのような影響を加味して建物計画を策定する必要があること等を紹介いただきました。気象庁では、検討会でいただいた知見を参考として、気候変動の将来予測に関する情報の更なる改善に取り組んでいきます。 コラム ●気象情報を活用した電力需給管理について 資源エネルギー庁 電力ガス事業部長 久米 孝  我々が活動する上で欠かせない電力は、大量に貯蔵することができないため、需要と供給のバランスがとても重要です。電力会社は将来使用される電力量を事前に予測し、その予測にあわせて発電量を調整する需給管理を適切に行うことで、電力の「消費量(需要)」と「発電量(供給)」の需給バランスを一致させています。仮に需給バランスが崩れると大規模な停電に至る可能性があります。何らかの理由により、需要に対して余力を含めた供給が足りなくなる場合を電力需給ひっ迫と呼び、需給ひっ迫時には、需要家の皆様に節電をお願いする可能性もあります。  需要は急激な気温変化などで大きく増加する可能性があり、また、供給も発電所のトラブルによる停止や悪天候による発電量の減少(降雨時の太陽光発電出力低下など)の可能性があります。太陽光発電などの再生可能エネルギーが広く普及した一方で、異常気象の頻度が増加している現代においては、需給ひっ迫のリスクは高まっており、天候や気温などを正確に予測した上で、不測の事態に備え、想定する最大需要に対して十分な供給力を確保することが重要です。  実際に、2022年3月16日(水)の福島沖地震では、東北地方に所在する複数の火力発電所が緊急停止し、一部はほどなく復旧したものの、地震から2日後の3月18日(金)の時点でも、一部の火力発電所の停止は継続していました。さらに、折悪しく季節外れの寒波が到来していたため、3月22日(火)に想定を上回る寒さとなった場合、暖房需要に起因して電力需要が増大し、需給バランスが崩れるおそれがありました。  このため、資源エネルギー庁、電力広域的運営推進機関(以下、「広域機関」という)及び電力会社は、発電所の高出力運転、他地域から東京エリアへの電力融通などに取り組みました。また、「電力需給ひっ迫警報」を2012年の制度整備後に初めて発令し、官民が各種媒体を通じて広く国民の皆様に節電を要請し、その協力のもと、結果として大規模な停電は回避されました。  この経験を踏まえ、国民生活・経済活動を制限しかねない需給ひっ迫を極力回避するためには、需要や供給の変動をより精度の高い形で予測する必要があるという認識のもと、気象庁に協力を依頼し、正確な気象予報を取り込んだ需給管理を開始しました。具体的には、電力の高需要期である極暑期や厳寒期に資源エネルギー庁、広域機関、電力会社、気象庁による定期的な打ち合わせを開催。専門家のアドバイスのもと、最新の気象予報を活用することで、より緻密な需給管理に努めています。 Ⅲ-5 季節アンサンブル予報システムの更新  気象庁では、3か月予報、暖・寒候期予報、エルニーニョ監視速報(以下、「3か月予報等」という)の作成に用いる季節アンサンブル予報システム(以下、「季節EPS」という)を令和8年(2026年)1月に更新し、同年2月発表の3か月予報等からその利用を開始しました。また、1か月予報においても、同年1月29日の発表分から新しい季節EPSの利用を開始しました。  季節EPSでは、大気だけでなく、エルニーニョ・ラニーニャ現象等のような海洋の変動とそれらの相互作用を考慮するため、大気海洋結合モデルを利用しています。今回の更新では、大気モデルにおいて雲や陸面等の物理過程を改良するとともに、鉛直層数の増強等を行いました。また、海洋モデルの改良等も合わせて実施しました。これにより、大気・陸面・海洋の平均的な予測誤差を軽減し、3か月予報等における高温や低温などの天候の特徴をこれまでよりも精度良く予報できるようになります。  さらに、新しい季節EPSを1か月予報で利用することにより、熱帯域の季節内変動(季節変化より短い周期で強弱を繰り返す大気の変動)等、日本の天候へ影響する現象を、1か月予報で従来利用していた全球アンサンブル予報システム(全球EPS)と比べて精度良く予測できることを確認しました。このため、1か月予報においても季節EPSの利用を開始しました。  気象庁では、引き続き季節EPSの改良に取り組み、季節予報の精度向上を通じて社会経済活動へ貢献していきます。 Ⅲ-6 1週間から数か月先の情報の高度化に関する検討会  気象庁では、スーパーコンピュータを活用したアンサンブル予報などの数値予報技術の改善の成果を活かして、週間天気予報や季節予報の精度の向上、内容の拡充、利活用促進に取り組んできました。  近年、顕著な大雨や大雪、記録的な猛暑などにより、毎年のように各地で被害が発生しており、今後、地球温暖化等の気候変動が進行すれば、災害をもたらすような大雨や極端な高温等の頻度が更に増加することが懸念されています。令和7年(2025年)6月に交通政策審議会気象分科会でとりまとめられた「「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」の補強」では、重点的に講じるべき施策である「気候変動情報の高度化」を求めており、二週間から一か月先までの予報について、予測精度向上と現象の時間スケールに応じた情報提供体系の構築、大雨や大雪等の顕著な現象に関する情報の充実を求めています。  このため気象庁では、熱中症や雪害等に対する早期の事前対策、各産業における気候リスクの軽減や生産性向上など社会の多様なニーズに資するため、今後の週間天気予報や季節予報のあり方について検討する「1週間から数か月先の情報の高度化に関する検討会」を開催しています。本検討会は、様々な産業分野における利用者、学識者、報道関係者等に参画いただき検討を行っており、令和8年(2026年)2月に開催した第1回会合では、これまで実施したニーズ調査の結果の分析に加えて、利用者である委員から各業界のニーズについて幅広い意見をいただきました。今後、予測技術の進展及びニーズを踏まえた予報の高度化について詳細に検討を進め、最終とりまとめを行う予定です。 Ⅲ-7 気候変動対策への更なる貢献に向けて (1)「日本の気候変動2025」の活用支援の強化  気象庁は、国や地方公共団体、事業者等に気候変動対策を効果的に推進していただくための基礎資料として、日本における気候変動の観測結果と将来予測をまとめた「日本の気候変動2025 ―大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書―」を、令和7年(2025年)3月に文部科学省と共同で公表しました。「日本の気候変動2025」は、日本の気候変動に関する基本事項を網羅した「本編」、より専門的に詳しく記載した「詳細編」、特に重要な事項をコンパクトにまとめた「概要版」から成ります。また、より多くの方々に気候変動を身近なものとして知っていただくための入門資料として、気候変動の概要を紹介する解説動画や都道府県別の情報を掲載する都道府県別リーフレットも作成しています。解説動画については、字幕・手話通訳付きの動画も公開しています。さらに、令和8年(2026年)3月には、地方公共団体における活用の支援を強化するための補助資料として「日本の気候変動2025を用いた気候変動解説の手引き」を公表しました。本手引きは気候変動に関する普及啓発の場面での的確な説明を支援するためのもので、「本編」の内容に説明表現の例や注意点等の補足を記載しています。また、説明時に紹介できるような生活等への影響や適応策事例等も、環境省が令和8年2月に公表した「気候変動影響評価報告書」から引用するなどして掲載しています。 <日本の気候変動2025> https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ccj/index.html (2)「日本の気候変動2025」の普及活動について  気象庁は、「日本の気候変動2025」をより多くの方に知っていただくために、普及活動にも努めており、関係省庁や地方公共団体と連携した取組も行っています。様々な分野の方に情報提供を進めるとともに、全国各地において市民向け講習会や講演会等を実施しました。  気候変動を踏まえた今後の気象防災を考えるきっかけとなるよう、「『日本の気候変動2025』と地域防災を考えるシンポジウム」を、令和7年12月18日に文部科学省と共催しました。本シンポジウムでは、気候変動に伴う降水の変化に注目したうえで、国土交通省及び静岡県による流域治水の取組や、倉敷市の過去の災害を教訓とした防災の取組、世論調査を基にした防災意識について、質疑も交えてご紹介しました。気象庁からは気候変動の適応策として、令和8年5月に運用開始予定の新たな防災気象情報についても解説しています。本シンポジウムの様子は動画で配信していますので、ぜひご覧ください。 (3)将来予測データの活用機関との対話・連携の強化  地方公共団体や事業者における気候変動適応の取組の急速な拡大に伴い、インフラ整備や農業などの各分野での気候変動の影響を分析するニーズが高まっています。こうしたニーズに応えるため、気候変動に関する情報の高度化と共に、分析等に用いるデータの利活用促進にも取り組んでいます。  気象庁では、予測データの活用メリットのわかる実例(優良事例)の創出のため、データ活用機関との対話を進めています。実際に調査研究や事業に将来予測データを活用している様々な分野の研究機関や事業者と対話を実施し、予測情報のニーズやデータ活用に必要なこと等の聞き取りを行っています。また、データの活用機関を招いたセミナーや検討会を実施し、活用事例の創出や要望の収集に努めています。  今後も対話や連携強化を実施し、数年・十年・数十年先等、今世紀末までをつなぐシームレスな近未来予測情報等の検討にもその成果を反映させていく予定です。 Ⅲ-8 60年目を迎えた東経137度線の海洋観測  気象庁では、地球温暖化などに大きく関わる海洋の状況把握や長期変動の監視のため、北西太平洋で観測船による海洋観測を実施しています。海洋の長期変動などを見極めるためには、一定の海域を長期かつ継続的に監視することが重要です。このための「観測定線」のうち、東経137度線(現在は北緯34度から北緯3度まで)に沿ったもの(図)は、昭和42年(1967年)1月の観測開始以来、今年で60年目を迎えました。この東経137度線においては、水温、塩分や海流の速さや向きなど、海洋の基本的な観測項目に加え、昭和50年代後半(1980年代)からは、海に溶け込んだ二酸化炭素などの観測も始めました。現在までの観測データは、気候や海洋の変動などに関する国内外の多くの研究成果の礎となっており、気象庁の海洋観測は世界的に高い評価を得ています。  現在では、令和6年(2024年)に竣工した四代目「凌風丸」(写真)が東経137度線などにおける観測航海を行っています。また、凌風丸とともに「啓風丸」も海洋観測に従事しており、現在その代替船建造を進めています。気象庁は、今後も東経137度線をはじめとした海洋観測を継続し、その成果を通じて、海洋変動の実態・メカニズム解明や、地球温暖化予測の精度向上に貢献していきます。 コラム ●第3次気候変動影響評価報告書について 環境省 地球環境局 総務課 気候変動科学・適応室 室長補佐 小穴 倫久  環境省は、気候変動適応法に基づき、気候変動影響の総合的な評価報告書である「第3次気候変動影響評価報告書」(以下「報告書」)を令和8年2月に公表しました。この報告書は、最新の科学的知見を踏まえおおむね5年ごとに作成するもので、農業・林業・水産業、水環境・水資源、自然生態系、自然災害・沿岸域、健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活の7つの対象分野を細分化した80の項目ごとに、重大性(影響の程度、可能性等)、緊急性(影響の発現時期や追加的な適応策への意思決定が必要な時期)、確信度(現在の状況や将来予測の確からしさ)の3つの観点で気候変動の影響を評価しています。  本報告書のポイントとしては、①最新かつ広範な科学的知見を反映したこと、②影響の重大性の評価を2段階から3段階に細分化したこと、③特に強い影響を受ける地域や対象を整理したこと、④適応策及びその効果に関する知見を整理したことです。これらによってどの影響が特に重大なのかより分かりやすくなりました。また、特に強い影響を受ける地域や適応策に関する知見を整理することで、地方公共団体や事業者が、それぞれの関係する地域や対象への気候変動の影響を把握し、その影響に対する適応策を取捨選択・実行する際に参考にしていただけるようになったと思います。  評価結果全体の概要としては、全7分野80項目のうち、23項目(29%)で現状既に「特に重大な影響が認められる」と評価され、50項目(63%)で将来(3~4℃上昇時)において「特に重大な影響が認められる」と評価されました。また、54項目(68%)で「緊急性は特に高い」と評価されました。また、収量や品質の低下が予測されている「水稲」や洪水の発生地点数の増加が予測されている「洪水」など、現状から将来予測にわたって重大性・緊急性・確信度が高いなど特に優先的に対応が必要な項目が明らかになりました。  また、本報告書では、文部科学省及び気象庁の「日本の気候変動2025 ― 大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書 ―」に基づき、日本における気候変動に関する観測結果と将来予測の概要についてもまとめています。  都道府県・市町村等が地域気候変動適応計画を策定・改定する際や、民間企業が気候変動影響に対する対策を講じる際にも本報告書の内容を参考にしていただきたいと考えています。また、令和8年度には、本報告書の内容等を勘案して、政府の気候変動適応計画の改定を予定しており、政府を含む一層の関係主体の適応策の加速化を図っていきたいと考えています。◆第Ⅳ章◆ 地震・津波・火山に関するきめ細かな情報の提供 Ⅳ 地震・津波・火山に関するきめ細かな情報の提供 Ⅳ-1 トカラ列島近海の地震活動への対応 (1)地震の概要  鹿児島県のトカラ列島近海では、令和7年(2025年)6月21日から地震活動が活発になり、7月2日に一連の地震活動の中で最大規模の地震であるマグニチュード5.6の地震(最大震度5弱)、7月3日にマグニチュード5.5の地震(最大震度6弱)が発生するなどの規模の大きな地震が発生しました。地震活動は7月20日頃から低下し、規模が大きな地震の回数も減少していますが、令和8年1月現在も活動は継続しています。トカラ列島近海では、過去にも活発な地震活動が数か月継続したことがありましたが、今回の地震活動の回数は、過去のトカラ列島近海の地震活動と比べて非常に多いものとなっています。 (2)JETT(気象庁防災対応支援チーム)の派遣  JETTとは、大規模な災害が発生または予想される場合に、都道府県や市町村の災害対策本部等へ気象庁職員を派遣する取組です。派遣された職員は、現場のニーズや各機関の活動状況を踏まえ、気象等のきめ細やかな説明を行い、各機関の防災対応を支援しています。  今回の地震活動でも、震度6弱を観測した7月3日以降、鹿児島県庁や十島村役場に気象庁職員をJETTとして派遣しました。派遣された職員は、鹿児島県や十島村役場の災害対策本部で地震活動の状況や気象の見通し等の説明を行い、島民避難等の防災対応を支援しました。 Ⅳ-2 地震等に関する知識の広報の取組 (1)地震予知に係る風説への対応  近年、SNS等において、日時と場所を特定した地震の発生を予知する情報が発信、拡散されることがあります。令和7年(2025年)にも7月に日本に大災難があるという風説が国内外で流行し、国民の不安をあおるだけでなく、一部地域からの訪日観光客の減少など地域経済への悪影響もみられました。非科学的な風説による影響が広がることを避けるため気象庁では、日時と場所を特定した地震の予知は現在の科学技術では不可能であることについて積極的に情報発信を行っています。  気象庁長官記者会見において、日時と場所を特定した地震の予知は完全にデマであり、そういった情報に振り回されないでいただきたいこと、日本では地震がいつ起こってもおかしくないため日頃から備えが必要であることを呼びかけました。この呼びかけは多くの報道機関で取り上げられました。また、長官記者会見での呼びかけの様子を、英語字幕をつけたメッセージ動画としてYouTubeチャンネル「気象庁/知識・解説」にて発信するとともに、気象庁防災情報Xにおいても日本語及び英語にて同趣旨の呼びかけや、気象庁が作成した地震予知に関するショート動画の紹介を行いました。 (2)地震・津波・火山に関する基本的な知識の普及啓発  地震や津波に関するデマに代表される、科学的な根拠に乏しい情報に振り回されないようにしていただくためには、科学的根拠に基づく情報とそうでない情報を見極めるための基本的な知識を知ることが重要です。こうした背景を踏まえて、気象庁では、地震・津波・火山に関する基本的な知識の普及啓発を強化する取組を進めています。  一例として、地震・津波及び火山噴火の基本的な知識、気象庁の防災情報を活用いただくうえで重要となる知識について整理したコンテンツ「地震・津波・火山を知る」を、令和7年11月19日に気象庁ホームページにおいて公開しました。  これは、地震・津波・火山について体系的に学習いただくことを目的としており、それらを理解する上で前提となる地球そのものの知識についても、順を追って習得できるようになっています。例えば、地球と大地の動きを説明する章では、「地球の構造」、「地球の内部の動き」、「プレート境界」といった内容を扱っており、地球は構成する物質によって「マントル」や「地殻」といった層構造をしていること、地球の表面は「プレート」で覆われていること等を、図やイラストも交えて紹介しています。 さらに、ワンポイントコラムとして、地震・津波・火山にまつわるトピックスや気象庁の情報を利活用いただく際にカギとなる知識等の解説も掲載しています。  今後も、地震のメカニズムや揺れ・津波の特徴、火山活動や噴火の性質といった解説を順次充実していく予定です。  また、令和7年8月6日及び7日に実施した夏休み子ども見学デーにおいて、来場者の皆様から、地震や津波、火山噴火に関する疑問や質問を募集しました。どうして地震が起きるのか、どういう時に噴火するのかといった素朴なものから、マグニチュードと震度の違いや火山の監視・予測に関するものなど、様々な疑問が寄せられました。これらは、先に紹介したコンテンツ「地震・津波・火山を知る」で扱う内容やワンポイントコラムの参考にさせていただくとともに、気象庁防災情報Xのアカウントでも、疑問にお答えする取組を実施しました。 (3)地震・津波・火山防災に関するeラーニング教材の公開  近年、様々な学習・研修の場面においてeラーニングが普及しています。eラーニングは場所や時間の制約が少なく、個々人のペースで繰り返し学習が可能といった利点があります。  そこで気象庁では、地震・津波及び火山噴火から命を守るため、適切な行動や情報の活用方法などを学ぶことのできる新たなeラーニング教材を関係省庁と連携して制作し、令和8年(2026年)3月に気象庁ホームページにて公開しました。基本的な知識等を学ぶことのできる動画教材に加えて、身の回りの災害リスクや適切な防災行動を一つ一つ確認することのできるワークシート等を準備しており、これらを活用することで、地震・津波及び火山噴火に関する安全知識や防災対応等を身に付けることができます。地震・津波については、自宅周辺における地震と津波のリスク、避難先と避難経路、地震や津波が発生した時に気象庁の情報や周囲の状況に応じてとる行動、さらに日頃からの地震への備えについて、考えていくものです。火山については、火口付近に近づく登山者、火山のふもとにお住まいの方をそれぞれ想定して、事前のリスクの確認や気象庁の情報に応じてとる行動、噴火警戒レベルに応じた行動について、考えていくものとなっています。  この教材は、個人学習のみならず、学校や企業、自治会等における授業・講座やグループワーク研修など、多くの場面で活用いただける教材を目指して制作しました。お一人での学習、あるいは、身近な人と一緒に複数人での学習といったように、様々なシチュエーションでこの教材をご活用いただき、災害時の避難行動や円滑な防災対応に役立てていただくことが期待されます。 Ⅳ-3 カムチャツカ半島東方沖の地震に関する長時間継続する津波への対応 (1)津波の概要  令和7年(2025年)7月30日8時24分(日本時間、以下同じ)、ロシアのカムチャツカ半島東方沖でマグニチュード8.8の地震が発生しました。この地震に伴って津波が発生し、岩手県の久慈港では最大141センチメートルの津波を観測したほか、太平洋沿岸を中心に北海道から沖縄県にかけての広い範囲で津波を観測しました。気象庁はこの地震に対して津波警報、津波注意報を発表するとともに、その後の津波の状況に応じて、順次、津波注意報への切り替えや津波注意報の解除を行い、31日16時30分には全ての津波注意報を解除しました。  この地震では、震央から直接伝播してきた津波に加えて、天皇海山列と呼ばれる北太平洋に存在する海底地形で反射した津波が遅れて到達したことなどにより、津波の高い状態が長時間にわたって継続しました。このように、太平洋全体を伝わってくる津波については、海岸や海底地形での反射等により様々な経路をたどって日本にやってくることから、一般的に津波の継続期間が長期化することがあります。この津波に対して気象庁は、令和6年(2024年)4月に公表した「長時間継続する津波に関する情報提供のあり方(報告書)」の提言に沿って、長時間継続した過去の津波事例に言及して今後の見通しを説明し、津波警報、津波注意報を継続している根拠等も含めて津波の状況の推移を説明する等、住民に分かりやすい形で呼びかけを行いました。 (2)津波フラッグ  令和7年7月30日に発生したカムチャツカ半島東方沖の地震により津波警報、津波注意報を発表したことから、全国各地の海水浴場で「津波フラッグ」を活用した津波警報、津波注意報の伝達が行われました。 「津波フラッグ」は大津波警報、津波警報、津波注意報(以下、「津波警報等」という)が発表されたことをお知らせする旗です。赤と白の格子模様の旗である津波フラッグは遠方からでも視認性が高く、その色彩は国際信号旗の「U旗」として国際的にも認知されています。このため、聴覚に障害のある方や、波音や風で音が聞き取りにくい遊泳中の方、さらには外国人の方にも津波警報等の発表をお知らせすることができます。  津波フラッグは、海岸においてライフセーバー等により掲出されることもあれば、海岸近くの建物から垂れ下げて掲出されることもあります。海水浴場等で津波フラッグを見かけたら、速やかに避難を開始してください。  令和2年(2020年)6月に、新たに津波警報等の伝達手段として津波フラッグが定められて以降、多くの自治体の海水浴場で津波フラッグが活用されることを目指して、気象庁では普及活動を全国的に進めてきました。令和8年(2026年)1月末現在では、海水浴場を有する自治体のうち80%(319市区町村)で津波フラッグが導入されています。  カムチャツカ半島東方沖の地震により津波警報等が発表された津波予報区に該当し、かつ津波フラッグを導入している市区町村に対して、各地の気象台を通じて津波フラッグの活用状況を確認したところ、5割を超える市区町村で実際に津波フラッグを活用した伝達が実施されていました。当日は夏の海水浴シーズンの日中であったことから、掲揚された津波フラッグは多くの方々の目に触れたものと考えられます。また、この機会を通じて津波フラッグのことを初めて知ったという声も寄せられました。  津波フラッグの認知度については、令和6年度に気象庁が実施した「気象情報の利活用状況に関する調査」で、「津波フラッグを知っていて、その意味も知っている」と回答した割合が全体のわずか4.0%に留まっており、「知らない」と回答した割合は81.6%でした。海水浴場への導入は着実に進んでいる中で、津波フラッグの意味合いや見かけた際の適切な行動の普及啓発を推進することは、継続的に津波フラッグを運用していただくために重要な取組です。  気象庁は、全国各地の機関・団体と連携して、海開き・避難訓練にあわせた津波フラッグのデモンストレーションや、学校などでの出前講座を行うなど、様々な機会を捉えた周知活動を行ってきました。また、津波フラッグと津波からの避難についてわかりやすく解説したポスターや冊子等を制作して気象庁ホームページで公開しています。今後もより一層、津波フラッグのさらなる認知度向上に努めてまいります。 <地震・津波のビデオ、パンフレット> https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/eq/index.html コラム ●津波フラッグの普及啓発と現場から見えた課題 公益財団法人 日本ライフセービング協会 救助救命本部 副本部長 菊地 太  日本ライフセービング協会では、海浜利用者の命を守るため、津波フラッグの普及啓発に継続して取り組んできました。津波フラッグは、地震発生後に津波警報・注意報が発表された際、視覚的に危険を伝える重要な手段であり、海辺という音が届きにくい環境において、極めて有効な避難情報伝達ツールです。  2025年度は、7月11日に鎌倉市津波避難訓練、7月12日に横浜市海の公園津波避難訓練、11月8日に藤沢市津波避難訓練に参加しました。各訓練では、ライフセーバーが津波フラッグを掲示しながら海浜利用者に対して避難行動を促すとともに、ドローンに搭載したスピーカーを活用し、広範囲に避難の呼びかけを実施しました。実際の海水浴場では、風や波の音、人の多さにより音声のみでの周知が難しい場面も多く、視覚と音声を組み合わせた情報発信の有効性を改めて確認する機会となりました。  一方で、課題も明らかになっています。昨年7月30日に発生したカムチャツカ半島東方沖の地震を受け、全国100カ所の海水浴場で活動するライフセーバーを対象にアンケート調査を行いました。その結果、津波フラッグ自体が十分に国民へ周知されておらず、「意味が分からない」「気づかれない」といった声が多く寄せられました。  さらに、避難行動に関する具体的な問題も浮き彫りになりました。避難ルート上に階段が多く、高齢者や子どもが移動しにくい事例、施錠されている出入口、電車の運休により踏切が開かず通行できなかったケース、津波避難ビルに指定されているにもかかわらず、警備員の制止により建物内へ入れなかった事例も報告されています。また、長時間にわたり避難タワーで待機した結果、熱中症を発症したケースもあり、避難後の安全管理の重要性も改めて認識されました。  津波フラッグの普及は、単に「掲げる」ことが目的ではありません。その意味を社会全体で共有し、確実な避難行動につなげることが重要です。日本ライフセービング協会は、今後も現場の声を行政や関係機関と共有し、津波フラッグのさらなる認知向上と、実効性のある避難体制の構築に向けて取り組んでいきます。海を楽しむすべての人が、いざという時に迷わず行動できる社会の実現を目指していきたいと考えています。 Ⅳ-4 北海道・三陸沖後発地震注意情報 (1)はじめに  令和7年(2025年)12月8日23時15分、青森県東方沖でマグニチュード(M)7.5の地震が発生しました。この地震により、青森県八戸市で震度6強の非常に強い揺れとなったほか、北海道から近畿地方にかけて震度6弱から1の揺れを観測しました。また、北海道から東北地方にかけて津波警報及び津波注意報を発表し、岩手県の久慈港では最大64センチメートルの津波を観測したほか、北海道から福島県にかけての太平洋側で津波を観測しました。この地震に伴い、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進基本計画等に基づく「北海道・三陸沖後発地震注意情報」(以下、「後発地震注意情報」という)を令和4年(2022年)12月の運用開始以降初めて発表しました。また、令和8年(2026年)には、4月20日16時52分に三陸沖で発生したマグニチュード(M)7.7の地震に伴い、2回目となる後発地震注意情報を発表しました。  ここでは、この後発地震注意情報の発表やそれに基づく政府からの防災対応の呼び掛けなど、一連の動きについて、令和7年12月8日23時15分の青森県東方沖の地震の事例を用いてご紹介します。 (2)北海道・三陸沖後発地震注意情報とは  千島海溝・日本海溝沿いの領域で規模の大きな地震が発生すると、その地震の影響を受けて新たな大規模地震が発生する可能性が相対的に高まると考えられています。このため、北海道の根室沖から東北地方の三陸沖の巨大地震の想定震源域及び想定震源域に影響を与える外側のエリアでモーメントマグニチュード(Mw)7.0以上の地震が発生した場合には、新たな大規模地震が発生する可能性が平常時と比べて相対的に高まっていると考えられることをお知らせする、後発地震注意情報を発表します。この発表を受けて、政府としての特別な注意の呼びかけが行われます。 (3)北海道・三陸沖後発地震注意情報発表の実際の流れ  令和7年12月8日23時15分に発生した青森県東方沖の地震(M7.5)の発生場所が、北海道の根室半島から東北地方の三陸沖にかけての巨大地震の想定震源域内だったことから、気象庁において一定精度のMwを推定する作業を行いました。その結果、Mwが7.4と推定され、情報の発表基準を満たしたため、12月9日02時00分に後発地震注意情報を発表しました。同時に、内閣府と気象庁の合同記者会見を行い、気象庁からは後発地震注意情報の説明、その後に内閣府から後発地震注意情報を受けてとるべき防災対応の呼び掛けを行いました。  後発地震注意情報を発表した9日以降は、15日まで毎日報道発表を行い、青森県東方沖の地震のその後の地震活動状況、千島海溝・日本海溝沿いの巨大地震の想定震源域における地震活動についてお知らせしました。そして、あらかじめ定められた1週間が経過した12月16日00時をもって、後発地震注意情報発表に伴う政府としての特別な注意の呼び掛けの期間は終了しました。同日、内閣府と気象庁で合同記者会見を行い、内閣府から政府としての特別な注意の呼び掛けの期間の終了と日頃からの地震への備えの実施について、気象庁から青森県東方沖の地震の概要や留意事項についてお知らせをしました。 (4)巨大地震対策に関する平時からの普及啓発の取組  巨大地震対策に関して、気象庁ではこれまで、内閣府等と連携したリーフレット・マンガ冊子の配布、ホームページやSNSによる情報発信、デジタルメディアと連携したインフォグラフィックの作成、報道機関や自治体と連携した取組、地域の避難訓練や防災研修の機会を活用した取組等、様々な普及啓発を行ってきました。また、多言語による情報発信という観点では、内閣府等と共同でリーフレットの多言語化を行ったほか、気象庁ホームページ(英語版、多言語版)での情報発信の充実も実施しています。  また、令和7年12月6日に「地震津波の情報を知り、様々な場面で活用して自分の命を守る」をテーマとして、巨大地震対策オンライン講演会を開催しました。本講演会では、後発地震注意情報も含めた地震・津波に関する情報や防災対応等の説明に加え、これまで残されてきた観測記録から過去の巨大地震や災害を知り未来の世代へと伝え残す取組、機械の自動制御や列車の緊急停止等に緊急地震速報等を活用している事業者の方々の取組について講演いただきました。各講演の動画は、令和8年(2026年)1月から1年間、YouTubeにてアーカイブ配信しています。  <アーカイブ配信URL>  https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/jishin_bosai/r7_lecture.html#archive  また、後発地震注意情報と同様、巨大地震発生の可能性が平時よりも相対的に高まっていることを伝える情報である「南海トラフ地震臨時情報」は、対象となる地域は異なるものの、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」と後発地震注意情報には枠組みに類似点が多いことを踏まえ、相互に連携した普及啓発を加速しています。  「北海道・三陸沖後発地震注意情報」と「南海トラフ地震臨時情報」は、情報の発表がないままに突発的に地震が発生することもある、情報が発表された場合に必ず後発の大規模な地震が発生するわけではない、といった留意点があります。しかしながら、巨大地震はひとたび発生すると甚大な被害をもたらすものです。少しでもその被害を軽減するため、気象庁が発表する各種情報を最大限活用いただけるよう普及啓発を進めるとともに、地震は突発的に発生するという前提に基づく“日頃からの地震への備え”の重要性についてもしっかりと周知を行っていきます。 Ⅳ-5 津波警報等の対象地域の伝え方の改善について (1)概要  気象庁では、津波による災害の恐れがある場合に津波警報等を発表しています。津波警報等は、全国の海岸線を66に区分した「津波予報区」単位で発表します。津波予報区の名称は、平成11年(1999年)に津波警報等の運用を変更したことに合わせて、自治体の意見も伺ったうえで見直しを行っています。また、その境界は、原則としてシミュレーション結果をもとにした津波の地域特性を踏まえており、自治体の意見も考慮して決定しています。  この津波予報区について、お住まいの地域がどの津波予報区に対応しているのか分かりにくい場合もあるとのご意見をいただきました。こうしたご要望を踏まえ、気象庁では津波警報等の対象地域の伝え方の改善の取組を進めています。ここでは、その取組内容をご紹介します。 (2)報道発表資料の改善  令和7年(2025年)12月より、津波警報等を発表した際の報道発表資料において、津波予報区に対応する地域が分かるようにする改善を行いました。具体的には、津波予報区の市町村名を明示することとしました。また、北海道の津波予報区については、地元の方が理解しやすい地域の名称も併記することとしています。  これにより、どこの海岸に津波警報が発表されているか、地元の住民の方に、より分かりやすくお伝えしてまいります。 (3)気象庁ホームページの改善  令和8年(2026年)3月からは、気象庁ホームページの津波警報等の発表状況を確認できるページにおいても、対応する市町村名を記載したリストを掲載し、広く閲覧いただけるようにしました。これにより、津波警報等を発表した直後から、津波予報区に対応する市町村名を確認いただけるようになりました。また、多言語による情報発信も重要であることから、地震や津波の情報をはじめとする防災気象情報を多言語で確認することができる多言語ホームページにおいても、合わせて改善を実施しています。  これまでご紹介したような取組以外にも、引き続き、津波警報等の対象地域の分かりやすく伝えることができるよう、情報発信や伝え方の改善に努めてまいります。 Ⅳ-6 霧島山(新燃岳)の噴火活動と気象庁の対応  霧島山(新燃岳)では、令和7年(2025年)6月22日に、7年ぶりの噴火が発生しました。その後も断続的な噴火になったことから、翌7月に、「火山情報アドバイザリー会議」の臨時会を令和6年の運用開始後初めて開催し、今後の火山活動の着目点等について助言を受けました。また、重要性が増した霧島山(新燃岳)の機動観測について、全国の火山監視・警報センターから職員を派遣する応援体制をとって対応しました。  ここでは、令和7年6月からの霧島山(新燃岳)噴火に対する一連の対応について紹介します。 (1)霧島山(新燃岳)の噴火活動  霧島山(新燃岳)では、GNSS観測で地下の膨張を示す地殻変動が認められ、火山性地震も増加したことから、令和6年(2024年)12月12日に噴火警報(火口周辺)を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)に引き上げました。その後も地殻変動や地震活動が継続する中、令和7年6月22日に噴火が発生し、宮崎県内の広い範囲で火山灰が確認されました。また、翌23日に実施した観測で火山ガス(二酸化硫黄)放出量の急増が認められたため、同日、噴火警戒レベルを3(入山規制)に引き上げ、警戒が必要な範囲を火口から3キロメートルに拡大しました。令和7年7月2日の噴火では、火山灰に新鮮なマグマ性の物質が少量含まれていることが、産業技術総合研究所により報告され、今後の展開次第ではマグマ噴火の可能性も考えられました。噴火は令和7年7月上旬をピークに9月7日まで断続的に発生しましたが、監視カメラでは大きな噴石の飛散や火砕流の発生は認められませんでした。山体が膨張する変動は停滞し火山ガスの放出量も減少するなど、火山活動が低下してきたことから、令和7年10月17日には、噴火警戒レベルを3から2に引き下げました。 (2)火山灰の採取と産業技術総合研究所との連携  噴火が発生した際には、噴出した火山灰の量と構成物質の調査が重要になります。火山灰が確認された範囲や量の調査で噴火の規模を推定したり、火山灰を構成する物質の分析作業で火山活動の推移を予測できる可能性があります。また、火山灰は降水によって流されてしまうこともあるため、噴火発生後できるだけ速やかに火山灰を採取することが求められます。令和7年6月22日の噴火では、噴火を覚知したのが休日の16時過ぎでしたが、速やかに火山灰の分析が行えるよう、鹿児島地方気象台は緊急的に人員を確保し、当日のうちに現地調査を行い、火山灰を採取しました。火山灰の分析には専門知識が必要なため、採取した試料を産業技術総合研究所に送り、分析を依頼しました。 (3)火山情報アドバイザリー会議  霧島山(新燃岳)は、平成23年(2011年)や平成30年(2018年)にはマグマを噴出する噴火が発生しており、特に平成23年は、風下側に多量の火山灰や小さな噴石を降下させるとともに、爆発的な噴火では空振により窓ガラスが割れるなどの被害も生じました。今回の噴火も同様なマグマを噴出させる活動に移行するかどうかが懸念されました。このような状況を踏まえ、令和7年7月16日に「臨時会」としては初めてとなる九州地方火山情報アドバイザリー会議を、本庁、福岡管区気象台、及び各委員等をオンラインで接続して開催しました。会議では、今回の噴火活動の状況の検討に加え、過去のマグマを噴出する噴火の発生前の状況と比較を行い、「現時点では想定されるシナリオに沿った活動となっているものの、更なる火山活動の活発化も考えられることから、噴出物の組成等に着目し、情報を丁寧に発信していくべき」などの助言をいただきました。 (4)機動観測における広域応援  霧島山(新燃岳)の断続的な噴火活動を踏まえ、火山活動の推移を的確に把握するめに、火山ガス(二酸化硫黄)放出量の観測や噴火発生後の迅速な火山灰採取などの現地調査を高い頻度で実施する必要が生じました。霧島山(新燃岳)については、福岡管区気象台と鹿児島地方気象台、宮崎地方気象台が協力して観測にあたっていましたが、機動観測の実施体制を強化するため、札幌・仙台管区気象台及び本庁の火山監視・警報センターから観測技術を有する職員を派遣する広域応援を実施しました。7月1日から10月1日まで、2名ずつ、のべ14人の応援者が鹿児島地方気象台に駐在しました。広域応援については、派遣された職員においても噴火対応の貴重な経験を積むことができる機会となることから、今後も積極的に実施していくこととしています。 Ⅳ-7 広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報の改善に向けて  火山噴火に伴い空から降ってくる火山灰は、上空の風に運ばれて広い地域に降り積もり、その量に応じて様々な被害をもたらします。宝永4年(1707年)の富士山の宝永噴火のような大規模噴火が発生した場合、広い範囲で火山灰が降り積もり、国民生活や社会経済活動に大きな影響を及ぼすことが懸念されています。  気象庁では、平成20年(2008年)3月から降灰予報の提供を開始し、平成27年(2015年)3月からは噴火後にどの領域にどれだけの量の火山灰が降るかについて情報を提供していますが、主に生活情報として制度設計されているため、大規模噴火に対応した情報体系とはなっていません。  大規模噴火時の広域に降り積もる火山灰対策に資する呼びかけや火山灰予測情報のあり方について、現在の予測技術の限界を確認しつつ、どのような情報体系とすべきかの議論を行うため、学識者、地方公共団体、報道関係者等による「広域降灰対策に資する降灰予測情報に関する検討会」を開催し、令和7年(2025年)4月に「広域に降り積もる火山灰対策に資する火山灰予測情報のあり方(報告書)」(以下、「報告書」という。)をまとめました。 (1)背景  大規模噴火発生時に広域に降り積もる火山灰対策全般については、内閣府により「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」として取りまとめられました。本ガイドラインでは、できる限り火山灰が降る地域内にとどまって自宅等で生活を継続することを基本としつつ、状況によっては直ちに生命の危険がある場合も想定され、避難等の行動をとることの必要性が示されました。降り積もった火山灰の深さに応じて各分野で様々な被害が生じることが見込まれるため、広域に火山灰が降り積もった時の被害の様相を4つのステージに区分し、対策の考え方や留意点等が整理されました。 (2)火山灰量に応じた防災対応の呼びかけ改善  報告書では、住民や地方公共団体等が広域に降り積もる火山灰への対応を迅速に行えるよう、内閣府のガイドラインで示された各ステージの火山灰量の閾値(30センチメートル以上、3センチメートル以上、微量以上)との対応が分かるよう呼びかけや情報の改善(以下、①~④)や、噴火前の防災対応の準備のための情報(以下、⑤)が必要とされました。 ① 火山灰による重大な災害が起こるおそれが高まったことを伝える火山灰警報(仮称)等の導入 ② 火山灰量と防災対応を紐づけた階級表の改善 ③  大規模噴火に伴って広域に降り積もる火山灰への防災対応のトリガーとするために、火山灰警報(仮称)等を活用して呼びかけ ④  噴火の推移に応じた火山灰の見通し情報として、1ミリメートル以上の火山灰量もわかるよう火山灰予測情報を改善 ⑤ 噴火警報や記者会見の中で噴火前における火山灰に対する警戒呼びかけを強化  気象庁では、地方公共団体や報道機関等の関係機関のご意見を伺いながら火山灰に関する情報の改善に向け詳細な検討を進めており、できるだけ早期に提供が開始できるよう取り組んでいきます。 コラム ●新たに導入される火山灰警報(仮称)への期待 気象庁 広域降灰対策に資する降灰予測情報に関する検討会 座長 (山梨県富士山科学研究所 所長、東京大学 名誉教授) 藤井 敏嗣  昨年3月に内閣府が「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」を取りまとめました。ガイドラインでは富士山噴火をモデルケースにしているため、首都圏を対象としていますが、広域降灰は首都圏とは限りません。  わが国では最近百年以上、大規模な火山噴火が発生していません。このために降灰に関する関心も非常に低くなっています。多くの人は桜島火山で頻繁に生じている小爆発に伴う降灰を思い浮かべ、経済活動や日常生活にさほどの影響がないことから安心している感があります。しかし、大噴火となれば降灰量は桜島の小爆発とは大きく異なります。例えば、約300年前の富士山で16日間続いた噴火では、桜島の約200年分に相当する火山灰や火山レキが現在の首都圏に降り積もりました。  我が国のどの火山においても、大規模な爆発的噴火が起これば、短時間に、広域に火山灰が降り積もることは過去の歴史からも明らかです。その際の火山灰量等に応じた防災対応のためには、火山灰の降り積もりの見通し等に関する情報が不可欠です。現在でも気象庁は桜島などで降灰予報を発表していますが、この情報では降灰厚さ1ミリ以上は同一カテゴリーになり、大規模噴火では役に立つ情報とはなり得ません。  このたび気象庁が大規模噴火に備えて、全国の活火山を対象にして火山灰情報の改善を行うことにしたのは、非常に重要なことだと思います。わかりやすく、有用な火山灰情報が導入されることを願っています。◆第Ⅴ章◆ 国際協力と世界への貢献 Ⅴ 国際協力と世界への貢献  大気に国境はなく、台風等の気象現象は国境を越えて各国に影響を与えます。このため、精度の良い天気予報とそれに基づく的確な警報・注意報の発表のためには、国際的な気象観測データの交換や技術協力が不可欠です。また、気象分野のみならず、気候や海洋、地震・津波、火山分野においても国際協力が重要です。このため、気象庁は、国連の専門機関である世界気象機関(WMO)等の国際機関を中心として世界各国の関連機関と連携しているほか、近隣諸国との協力関係を構築しています。  このトピックスでは、令和7年(2025年)に開催されたWMOの執行理事会と臨時総会での議論、WMOにおける次世代の国際的気象データ交換の枠組み、地磁気観測に関する国際的な議論といった、最近の国際的な動向について紹介します。 Ⅴ-1 WMOと気象庁の国際貢献 (1)WMO執行理事会第79回会合  令和7年6月16日から20日にかけて、スイスのジュネーブにあるWMO本部において、WMO執行理事会第79回会合が開催されました。執行理事会は4年に一度開催されるWMO総会で選出された37名の各国気象局長官で構成され、気象庁長官は長年にわたって執行理事を務めています。  今回の執行理事会では、人工知能(AI)の気象業務への活用の推進と、そのための官民連携のあり方に関する議論に多く時間が割かれました。議論の結果、WMOのAIに関する活動全体を監視・調整する横断的な諮問部会を設置すること、加盟国・領域間で気象予測データを共有するためのWMO統合処理・予測システム(WIPPS)の今後の方向性に関し、AIの導入を念頭においた新しい戦略を立案することなどを合意しました。  また、令和7年に我が国で気象業務150周年を迎えたという機会を捉えて、会期中のランチタイムに日本が主催するレセプションを開催し、執行理事等200名以上に参加いただきました。会場では、ポスター展示やパンフレットの配布を通して、我が国における150年間の気象業務の歩みや、気象庁と国際協力機構(JICA)の実施している国際協力をアピールしました。 (2)WMO2025年臨時総会  令和7年10月20日から23日にかけて、スイスのジュネーブにあるWMO本部において、WMOの臨時総会が開催されました。  WMOの最高議決機関である総会は4年ごとに開催され、向こう4年間の運営方針・事業計画・予算を決定するとともに、WMOの役員(総裁、副総裁及び執行理事)や事務局長の選出を行います。これに加えて、重要な事項について審議・決定するため、次の総会を待たずテーマを絞って臨時総会を開催することがあります(過去には平成24年(2012年)、令和3年(2021年)に開催されました)。  今回は、国連早期警戒イニシアチブ「すべての人々に早期警戒を(Early Warnings for All:EW4All)」へのWMOの貢献や、2026~2027年のWMOの改定予算案等について審議するために開催され、119の加盟国・領域が参加しました。  EW4Allは、開発途上国を中心に、警報を含む防災気象情報が必ずしも有効に活用されていない、その提供自体ができていないという状況を踏まえ、アントニオ・グテーレス国連事務総長の主導により立ち上げられたイニシアチブで、「2027年までに世界中の人々が早期警戒システムにアクセス(警報等を入手)できる」ことを目指すものです。今回の臨時総会では、各国で提供される警報等の早期警戒サービスが満たすべき基本的な要件を定めた決議を採択し、各加盟国・領域は2027年までにこの要件を満たすべきこと、進捗管理体制の構築などを決定しました。気象庁は、WMOの枠組みの下で様々な全球/地区センターを運営し、アジア・太平洋地域を中心に多くの国の気象業務を支援しています。こうしたWMOセンターとしての活動やJICAを通じて、開発途上国が、今回定められた早期警戒サービスに関する基本的要件を遵守できるよう、支援してまいります。  このほか、WMOとして気象業務におけるAIの利活用推進のため、産学官連携に関する基本的な理念・方策を定めた決議や、WMOや各国気象水文機関の活動へのユース(WMOの定義では18~35歳)の関与を一層促進するための具体的な活動や目標を定めた「WMOユース行動計画」の採択など、今後の気象業務の発展にとって重要な様々な審議が行われました。 コラム ●日本でのWMOユースフォーカルポイント調整会合 WMO事務局 Theophilus Wellington  私にとって、2026年1月に日本で開催された「WMOユースフォーカルポイント調整会合」は、WMOのユースコーディネーターとして2回目の外国出張で、初めてのアジア、そして日本への訪問となり、公私ともに意義深い経験となりました。最も印象に残ったのは、組織においてガバナンスが、いかに中核的な役割を担っているかということです。WMO2025年臨時総会でユース行動計画が採択され、今後の活動の進め方を調整する「WMOユースフォーカルポイント調整会合」の日本開催まで、組織化された協議が、WMOの重視する加盟国主導の正式な意思決定へと発展していく過程を目の当たりにしました。  そして、4日間にわたるユースフォーカルポイント調整会合で議事を進行する中で、調整とは議題に沿って進行するだけではなく、異なる声、現状、各国の視点に耳を傾けることだと気づかされました。異なる背景を持つ人々が率直に経験を共有することで、議論はより豊かになり、意思決定はより強固でバランスの取れたものになるのです。多様性は、ガバナンスを遅らせるのではなく、むしろ強化するものだとはっきりと理解しました。  私にとってのハイライトは、会合初日の議論終了後に気象庁が開催したレセプションで、まさに、WMOにとって画期的な出来事が起こっていると実感したことを覚えています。これまでオンラインで顔を合わせていた参加者が初めて対面で語り合い、気象庁からの温かい歓迎も受け、特別な時間になりました。ユース行動計画は、若手専門家のためだけのものではなく、WMOの活動がこの先の数十年にわたって、活発で革新的であり続けるための基盤となるものだと感じました。  準備段階から気象庁と密接に協力できたことは光栄でした。気象庁の方々のきめ細かな対応によって、会合は成功裏に終了しました。また、真剣さと熱意を持って新たな役割に取り組み、充実した4日間の議論に貢献してくれた地区ユースフォーカルポイントにも感謝しています。  ユース行動計画に関する調整は、責任感を感じるとともに名誉なことでもあります。この計画が、紙上の枠組みから、WMO全体にわたって意義のあるユースの行動へと発展していくことを楽しみにしています。  ありがとうございました。 コラム ●JICAプロジェクトを通した気象庁の開発途上国支援について 元JICA国際協力専門員 石原 正仁  気象庁は国際協力の一環として、独立行政法人国際協力機構(JICA)と連携し、気象・地震・火山・海洋・地球温暖化の分野で、技術支援や人材育成を通じて国際協力を行っています。ここでは気象分野の国際協力についてお話しします。  JICAは技術協力、資金協力、ボランティアを軸として政府開発援助(ODA)を実施している機関です。その一環として気象庁と連携した課題別研修「気象業務能力向上」を実施しています。JICAは運営や宿泊施設の提供を担当し、気象庁は研修の実務を分担しています。1973年から始まったこの研修には、近年では毎年10~12名ほどの各国気象機関の職員が来日し、2025年までに79か国・計413名が参加しました。約3か月間にわたるこの研修で、最新技術の習得から地方官署の運営状況の視察まで幅広く学び、最後には自国に適した将来計画を立案します。そして、彼らは帰国後、自国の気象業務の発展を支えています。私が海外気象機関に訪れた際、そこに研修参加経験者がおり、「あの研修では技術習得はもちろんだったが、他国の仲間と親しくなれたことがとても有意義だった。」と笑顔で語ってくれたことが深く印象に残っています。気象庁の現役職員が日常業務の傍ら、汗を流して講師として臨むこの研修は、まさに「人と人の交流」の大切さを実感させてくれる場です。  気象の専門家が数年間にわたり日本と相手国を往来して実施する「技術協力プロジェクト」も、JICA事業の重要な柱です。2005年以降、アジア、大洋州、アフリカの計13か国において、各国の気象機関の現状に即したきめ細かな技術支援を展開してきました。こうしたプロジェクトでは、気象庁の現役職員が最新の気象技術を指導するため短期的に渡航するとともに、気象庁を定年退職した専門家が参画しており、気象庁の業務を通じて培ってきた技術と豊富な経験は、相手国の能力向上を支える大きな力となっています。  資金協力の面では、JICAは1980年代からアジアを中心に「無償資金協力」事業による気象レーダーの整備を推進してきました。これまで8か国に延べ29台の気象レーダーを設置し、それらはサイクロンや大雨の監視に威力を発揮してきました。この協力事業では、気象庁の現役職員が計画段階の現地調査に加わり、世界をリードする日本の気象レーダー技術をもとに、最適な設置場所や技術仕様の選定に協力してきました。  こうした国際協力によって開発途上国の能力向上を支える力となることは、現役の気象庁職員だけでなく私のように気象庁を退職した者にとっても、気象業務の醍醐味を感じられる絶好の機会だと思います。世界の気象業務がさらなる発展を遂げるためにも、日本の気象分野に携わる多くの方々が、一人でも多く国際協力の舞台へ参加してくださることを切に願っています。 Ⅴ-2 次世代の国際的気象データ交換の枠組(WIS2.0)の実現に向けて (1)国際的な気象データ交換の協力  地球上の大気は国境を越えてつながっていて、気象予測のためには地球全体の気象状態を把握する必要があります。世界気象機関(WMO)の枠組みのもと、世界各国の気象機関は観測データや予測情報を迅速に共有しています。  全球気象通信網(GTS:Global Telecommunication System)は各国が分担して構築した各国を一対一で結ぶ通信網を活用して気象情報を共有する枠組みで、昭和42年(1967年)に初めて計画が採択されて構築されてきました。その後、観測技術の進歩により取り扱うデータの種類や量が急増しているなかで、従来の一対一の通信方式のため各国との個別調整やデータが届かない場合の状況把握に手間を要するようになり、円滑なデータ交換が難しくなってきました。これをふまえWMOは平成24年(2012年)に、GTSでのデータ交換は継続しつつ、インターネットを活用することで気象だけでなく海洋や気候などの新たなデータも交換できる「WMO情報システム(WIS)」の運用を開始しました。  これまでのWIS(通称WIS1.0)ではGTSの仕組みを維持しつつデータカタログなど最低限の機能拡充を行ってきましたが、GTSの従来型の仕組みは専用技術に依存しており、増え続けるデータ量や新たなニーズの中で持続が難しくなりつつあります。そこでより簡潔で拡張しやすい次世代の通信技術標準「WIS2.0」への移行が令和15年(2033年)までの計画で進められています。 (2)現行システムと次世代システム  WIS1.0は、全球情報システムセンター(GISC:Global Information System Centre)がハブとなって国家センター(NC:National Centre)やデータ収集・作成センター(DCPC:Data Collection or Production Centre)が発信するデータを中継します。中継は多くの国が運営するセンターが関わるため、どのデータをどこに送るかという設定は自動化された仕組みではなく各国間でやりとりしながら人手で調整してきました。このため設定の追加や変更に時間がかかったり、全体の経緯がわかりづらくなることが課題とされてきました。  WIS2.0は、インターネットで実証済みの技術を活用し、図のようなグローバルサービスを組み合わせてより簡明で効率的な構造に再設計されています。無制約で配布可能なデータは、提供者からグローバルキャッシュが取得(図の①)し、世界中のデータコンシューマーが取得します(②)。この流れに先立ちグローバルデータカタログへの掲載(③)が必須とされているため、データの利用制約や問合せ先が把握できる状態が担保されます。継続的に取得すべき情報はグローバルブローカーが中継する更新通知を契機として取得することにより、送信に近い即時性が確保できます。データ取得や更新通知はいずれも、従来の送信と異なり利用側が接続を開始して要望するデータを指示する手順なので、利用者が欲しいデータを流通経路の各機関との設定変更調整を要さずに取得開始・終了することができるなどの効果が期待されています。 (3)気象庁の貢献  気象庁は、WIS2.0のグローバルサービスの一つであるグローバルキャッシュを担当し、世界の気象データ流通の安定性を確保する役割を果たしています。これにより、世界のデータ流通に貢献するとともに、世界中のデータを当庁が収集・利用できる環境を担保できるようになります。  また、WIS2.0ではGISCの役割が再定義され、責任域内の諸国に対する技術指導が中心となりました。気象庁はこの責務を果たすため、アジア諸国を対象に定期的にワークショップを開催し、移行に必要な知識や技術を共有しています。 (4)ワークショップの取組  令和7年(2025年)11月、東京で開催された第8回WISワークショップには東南アジアを中心とした9か国が参加しました。対面及びオンラインのハイブリッド形式で実施されたこのワークショップでは、WIS2.0のアーキテクチャやグローバルサービス、メタデータ要件(WCMP2)、移行タイムラインについて解説し、WIS2.0の機能を有するソフトウェアを用いた演習を通じて、データ公開や検索の実務を体験しました。  参加国からは、インフラの質的不足や人材不足といった課題が報告され、気象庁は今後も技術支援を継続することを表明しました。WIS2.0への移行は、気象の国際協力を維持発展させていくための重要なステップであり、気象庁はその実現に向けて積極的に貢献してまいります。 Ⅴ-3 第21回IAGAワークショップの国内開催への取組  令和6年(2024年)5月、太陽フレアに伴う強力な太陽風が地球に到達し、大規模な磁気嵐が発生したことで、国内でも広範囲にわたってオーロラが見られました。地磁気は地球や宇宙環境との相互作用によって絶えずダイナミックに変動していますが、私たちの日常ではほとんど意識されることのない存在です。しかし、現代のデジタル生活を支える無線通信、人工衛星、航空、測位、電力網といった社会基盤は、磁気嵐をはじめとする宇宙天気現象に対し非常に脆弱な側面を持っています。こうした現象を的確に監視するため、気象庁では所掌業務の一つとして地磁気の定常観測を実施してきました。また、各国の地磁気観測機関が一堂に会する 「IAGA地磁気観測所観測機器、データ取得・処理に関するワークショップ」(以下、「IAGAワークショップ」という)にも継続して出席し、国際的な連携も積極的に進めてきました。この度、気象庁が主体となりこのIAGAワークショップを20年ぶりに柿岡へ招致することとなりましたので、本稿ではその開催に向けた取組と、国際的な枠組みの中での地磁気観測所の発展について紹介します。 (1)ワークショップ概要と準備  国際地球電磁気学・超高層物理学協会(IAGA)は、地磁気を通じて地球と宇宙の環境を監視する国際的な基盤を築くため、昭和61年(1986年)にカナダ・オタワで第1回IAGAワークショップを開催しました。以来、このワークショップは隔年で各国の観測機関が招致し、観測機器の相互検定や観測技術の向上を目的とした技術会合として発展してきました。次なる第21回は、令和8年(2026年)10月25日から30日にかけて、地磁気観測所が所在する石岡市で開催される予定です。  IAGAワークショップでは、地磁気観測従事者、地球科学者、測器開発業者など多様な参加者が国境や専門分野を越えて交流し、地磁気観測機器の開発や観測データの処理・配信技術に関する最新の成果を交換します。石岡市の会場で行われる学会形式の講演会では、データ標準化、機器性能の向上、解析手法の革新などに関する最新の研究成果が議論され、参加者が協力して観測の質を高めることを目指します。一方、地磁気観測所の構内では、観測網の整備が遅れている国々の人材育成を支援する技術研修や、各国が持ち寄った観測機器の比較観測による相互検定が実施されます。  既に開催年に入り、主催者であるIAGAや国内有識者からなる国内組織委員会と連携し、準備作業を急ピッチで進めています。技術研修と相互検定の会場となる地磁気観測所では、職員が自ら新たな観測設備の整備・調整を行っています。また、地元・石岡市の後援を受け、講演会会場となる公共施設の準備も進行中です。さらに、海外参加者が地域の産業や文化に触れられる体験型エクスカーションや、市内での交流を深めるレセプションの企画も進めており、充実した受け入れ体制の構築を図っています。海外からの参加者を温かく迎える日本らしいおもてなしを通じて、柿岡ひいては気象庁の存在感を一層高めるとともに、地磁気観測の国際的枠組みにより深く貢献できるよう、万全の準備を進めてまいります。 (2)地磁気観測所のあらましと国際貢献  地磁気観測所は、明治16年(1883年)に第1回国際極年(1stIPY)に呼応する形で東京・赤坂の臨時観測所で始めた地磁気観測を起源としています。当時より地磁気は気象観測の重要な項目の一つと考えられていました。明治30年(1897年)には皇居の旧本丸の中にあった中央気象台構内へ移り、そこで本格的な観測を開始しました。しかし、都市の発展に伴って電気雑音が増え、精密な観測が難しくなったため、大正元年(1912年)に現在の茨城県石岡市柿岡へ移転し、翌年から観測を始めました。その後、大正13年(1924年)に当時の国際学術協会によって早くも国際標準観測所の一つに認定されています。戦前・戦後を通じて観測内容は拡大し、地磁気だけでなく地電流や空中電気、地震などの観測も行うようになりました。さらに昭和47年(1972年)には独自開発による革新的なデジタル収録を実現する総合観測システムを導入し、翌年には地球規模の地磁気擾乱を示す指数を決定する世界4観測所の一つとなりました。現在、柿岡は世界的にも最高品質の地磁気データを提供する観測拠点として高く評価され、女満別と鹿屋の観測所、および父島の無人観測点とともに、地球磁場の変動を長期的かつ高精度に記録し続けています。また、日本で唯一の磁気計測器の検定機関としての重要な役割も担っています。  こうした長い歴史と高い観測精度を背景に、地磁気の全球的な観測体制の中でも大きな貢献をしています。柿岡・女満別・鹿屋は、世界中の観測機関が共通の基準でデータを交換する国際地磁気リアルタイム観測ネットワーク計画(INTERMAGNET)の認定観測所として、それらの地磁気観測データは準リアルタイムで世界へ提供されています。また、IAGAに対しては、国際標準地球磁場モデル(IGRF)の作成に欠かせない地磁気の確定データを提供し、地球規模の地磁気基準点として貢献しています。そして平成16年(2004年)には、日本学術協会と連携して第11回IAGAワークショップを開催しました。INTERMAGNETとIAGAは互いに連携しながら地磁気観測の標準化や拡充を進めており、その中で“Kakioka”は世界の行政機関や研究者が信頼する中核的な観測拠点として重要な役割を果たしています。◆第Ⅵ章◆ 航空機や船舶の安全な運航への貢献 Ⅵ 航空機や船舶の安全な運航への貢献 Ⅵ-1 空港事業継続計画(A2-BCP)に資する気象情報の提供  激甚化・多頻度化する自然災害に強い空港づくりに向け、令和2年(2020年)3月に、国土交通省航空局において空港全体としての機能保持及び早期復旧に向けた目標時間や関係機関の役割分担等を明確化した空港ごとの事業継続計画である「A2(Advanced/Airport)-BCP」策定のためのガイドラインが取りまとめられました。  本ガイドラインに基づき空港ごとに策定されたA2-BCPに沿って、各空港で災害時の対応や訓練等が実施されており、災害の発生時又は災害の発生が予測される場合にA2-BCPの下に設置される総合対策本部(A2-HQ)の設置基準や対応体制の判断に気象情報が活用されています。  航空気象官署では、災害発生時におけるA2-HQに対しての情報提供や説明のほか、台風や大雪等の顕著現象が予想される場合には各空港における協調的意思決定(A-CDM)のための情報共有システムやメーリングリストも活用し、関係機関の要員確保や対策本部の立ち上げ等の判断に資するよう、早い段階から関係機関のニーズに応じた情報提供・説明を実施しています。平常時においても関係機関への気象情報の提供や総合対策本部訓練における資料作成(訓練用の台風シナリオ等の提供)等の協力を行っています。さらに、防災対応や気象情報等に関する関係機関との意見交換や勉強会も実施しています。  令和6年(2024年)6月にはA2-BCPの実効性強化に向け、A2-BCPガイドラインが改訂され、災害対応や訓練等を踏まえた運用面や災害対応等を経験した空港のノウハウの収集整理・横展開等により重点が置かれる形となりました。これを受けて、気象庁では現在の取組を着実に進めるとともに、実効性強化に資する取組を強化していきます。具体的には、災害の事象や災害規模に応じた段階的なA2-HQの体制構築の判断基準作成のための支援や、被災経験者の入れ替わりに対応するための教育への支援等、関係機関のニーズを踏まえた取組の強化を目指します。 コラム ●A2-BCPの取り組みにおける気象情報の活用について 成田国際空港株式会社 空港運用部門オペレーションセンター 危機管理グループアシスタントマネージャー(執筆当時) 林 佳祐  成田国際空港は、1978年の開港以来、我が国の玄関口として、また国際航空ネットワークの主要拠点として極めて重要な役割を担ってきた。ひとたび災害が発生し空港機能が停止した場合には、国内外の社会活動、国民経済、そして国民生活に多大な影響を及ぼすおそれがある。また、災害発生時の空港には、航空旅客を含むすべての空港利用者の安全・安心を確保するとともに、可能な限り空港機能を維持し、機能停止時には速やかな復旧を図ることが求められる。  このため当空港では、成田国際空港BCP(業務継続計画)を構築し、災害発生時に空港関連事業者が連携して迅速かつ的確な対応を行うことで、「災害に強い成田国際空港」の実現を目指し、日々取り組みを進めている。  近年、自然災害は激甚化・多頻度化しており、それらに適切に対処するためには「気象情報」の重要性がますます高まっている。台風の大型化や線状降水帯による集中豪雨などの気象現象が空港の運用をはじめ社会全体に与える影響は年々増大しており、空港においては運用制限や交通アクセスの混乱など空港全体の機能に広範な影響を及ぼすことがある。  当空港では、当該BCPの運用において、地震や台風等の自然災害が発生した際、必要な防災体制を確立し、旅客対応、災害応急対策、災害復旧等に空港関連事業者と連携して対応するため、官公庁、航空会社、アクセス事業者等の空港関連48機関で構成する「総合対策本部」を設置することとしている。総合対策本部では、今後の気象予報も踏まえた対応を検討する必要があることから、成田航空地方気象台にも参画いただいている。さらに、成田空港では、台風や降雪など警報級の気象現象が予想される場合、成田航空地方気象台による空港関係者向け説明会を開催いただいており、提供される気象情報としては、実況の解説はもちろんのこと、今後の気象予報について「メインシナリオ」に加えて「サブシナリオ」も提示されている。これにより、常にワーストケースを視野に入れた検討や意思決定が可能となり、先見性をもった対応に大きく役立っている。具体的には、気象予報から鉄道等のアクセスが停止する可能性が判明した場合には、社内体制を構築し、お客様が安全で安心して空港内で滞在できるような環境を確保するために必要な社員動員を行う。また、滞留者の増加により館内の安全確保が困難になると想定される場合には、着陸機の制限といった判断を行うなど、気象情報に基づいた具体的な対策を展開している。  気象災害を完全に避けることはできないが、その影響を可能な限り軽減し、安全で安定した空港運用を継続するためには、気象情報の積極的かつ的確な活用が不可欠である。今後、空港運用に関する意思決定のさらなる高度化を図るためにも、より高精度で速報性に優れた気象情報の一層の充実に期待したい。 Ⅵ-2 船舶の安全などに関するきめ細かな情報の提供  海上輸送においては、台風や発達中の低気圧などによる荒天時の安全性の確保のほか、消費燃料や運航時間(目的地到着時間)も加味した判断が求められるため、船舶の運航計画立案や海上における航行判断に気象の情報が欠かせません。このため、国際的な取組として「海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)に基づき、世界各国が協力して船舶の安全な運航を図るための気象情報の提供を行っています。気象庁は日本近海に加えて北西太平洋などを担当(下図「イリジウム衛星経由の情報提供開始」参照)しており、海上予報、海上警報などを発表しています。これらの情報は、様々な機関と協力し、テレビやラジオ、インターネットのほか、外洋航行中の船舶に提供するための通信手段として船舶無線や通信衛星による衛星放送なども活用して提供しています。 (1)イリジウム衛星による海上予報・海上警報の提供開始  これまで海上安全のための通信衛星としては、IMO(国際海事機関)によってインマルサット衛星(静止衛星)が唯一認証されていましたが、近年、イリジウム衛星(非静止衛星)も新たに認証されました。これにより、いままでカバーできていなかった極地(北極・南極)で通信が可能となるなど、海上安全のための通信手段に多様性が生まれ、利用者にとって選択肢が拡大しました。気象庁は、この国際的な枠組みの変更に対応し、より確実な情報提供体制を構築するため、イリジウム衛星による海上予報・海上警報の提供を令和7年(2025年)7月より開始しました。  また、イリジウム衛星に続き新たな衛星が海上安全のための通信衛星として認証され、運用開始に向けて国際的な調整が行われています。気象庁は、この新たな認証衛星経由でも海上予報・海上警報の提供を行うべく、準備を進めているところです。 (2)海上予報・海上警報の改善(新たな要素の提供開始)  国際的な海上気象サービスの基準は、世界気象機関(WMO)の「海上気象サービスマニュアル(WMO-No.558)」で定められています。気象庁では、船舶の安全航行に重大な影響を及ぼす船体着氷や波浪など、このマニュアルにおいて海上予報・海上警報に含めるべきとされる情報について、発表に必要な準備が整ったことから、令和8年(2026年)7月頃から全般海上警報に追加して提供します。改善のポイントは次の3点です。  ①船体着氷に関する警報を追加し、着氷による航行リスクを早期に周知  ②風と波浪に関する予報を海域毎に発表し、航海計画の精度向上に寄与  ③アジア太平洋地上天気図(ASAS)に、着氷警報域を追加し、面的な状況把握を支援  これらの改善により、より安全で信頼性の高い海上気象情報の提供が可能となります。気象庁は今後も、利用者のニーズに応えるサービス向上に取り組んでいきます。 ◆第Ⅶ章◆ 民間気象業務に関する取組 Ⅶ 民間気象業務に関する取組 Ⅶ-1 気象ビジネスにおけるデータ利活用促進の取組 (1)気象データ利用ガイド  気象庁及び気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)は、ビジネスにおける気象データ活用を促進するため、気象データの活用事例や利用手順、入手方法等をとりまとめたウェブサイト「気象データ利用ガイド~先を読むビジネスへ~」を令和6年(2024年)から公開しています。  https://www.data.jma.go.jp/developer/weatherdataguide/index.html  本サイトでは、データの基本的な使い方、個別データの解説、実際の活用事例など、気象データをビジネスに活用するためのヒントを多数紹介しています。これから気象データを活用したビジネスを始める方、業務で気象データを使っている方など、幅広い分野で活躍される皆さまの一助となるよう、内容の充実を図ってまいりますので、本サイトをぜひご活用ください。 (2)気象データアナリスト  気象データアナリストとは、気象データを活用して企業におけるビジネス創出や課題解決を行うため、気象データの知識とデータ分析の知識を兼ね備え、気象データとビジネスデータを分析できる人材です。気象庁では、民間事業者等が人材を育成するための「気象データアナリスト育成講座」の認定を行っています。  「気象データアナリスト育成講座」は、「気象」、「データサイエンス」、「ビジネス」に関して修得すべき知識・技術(スキルセット)等を示した「カリキュラムガイドライン」(気象庁が気象ビジネス推進コンソーシアム協力のもと作成)に適合し、経済産業省の「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」(Reスキル講座)として認定された講座を気象庁が認定するものです。  令和8年(2026年)1月現在、 4事業者で6つの認定講座が開講中です。気象データを含むデータを活用したビジネスに関心のある方は、ぜひ認定講座をご活用ください。 コラム ●電気事業に貢献する気象データアナリストを目指して 株式会社 電力計算センター 増田 南波  私は、電力中央研究所のパートナーとして設立された会社に勤務しております。電気事業の研究開発に関わる情報処理・数値解析等を実施しており、主に気象流体分野の研究開発を支える技術サポートとして、数値気象モデルや数値流体解析ソフトウェアを用いた現象の再現や解析に携わっています。電気事業に関係する気象解析の対象は多岐にわたり、送電線など電力設備への雪害・塩害・高波・高潮対策等の防災支援、再生可能エネルギーの発電量予測、地球温暖化の解析などが含まれます。こうした各分野の目的に応じて、観測データからモデルデータまで、様々な気象データを取り扱っています。  近年、機械学習を用いた解析依頼も増加してきました。そのため、社内で輪読形式の勉強会を続けてきましたが、実際の生データを扱いながら学ぶ機会は多くありませんでした。そこで、気象データの取り扱いから機械学習の活用までを、実際に手を動かしながら体系的に学ぶ機会が必要と思い、気象データアナリスト講座を受講することとしました。  講座は統計学に始まり、機械学習・深層学習を段階的に学び、最後に気象データを扱って実務に必要な力を培う構成でした。各講義では様々なデータや学習手法について手を動かして学ぶことにより、ビジネス課題やデータに幅広く対応できる実践的な力を身に着けることができました。   特に、機械学習を用いれば必ずしもすぐに高精度なモデルが得られるわけではないという実感を得られたことは大きな収穫でした。データに触れながら試行錯誤を繰り返し、課題への対処法や考え方を体系的に理解できたことで、実務に役立つ力が身についたと感じています。実務においても同様な場面に直面することがあり、その経験が活かされています。  講習終了後は、機械学習を用いた太陽光・風力発電量や需要量予測、気象モデルのバイアス補正の業務を担当しました。講習の演習を通して身に着けた、データの整理から予測モデルの構築、結果のまとめまでの一連の流れを、実務で活かすことができています。また、機械学習を用いない様々な業務においても、気象データのハンドリング技術は役立っております。  今後は、弊社に長年のノウハウとして蓄積されている数値解析モデル・シミュレーションと、機械学習の組み合わせが非常に役立っていくのではと考えています。近年、気象モデルの代替として学習モデルを用いることも世界中で検討されていますし、気象モデルの予測誤差を学習モデルで補正する手法、気象モデルのインプットを学習モデルで作成する手法など、様々な組み合わせ手法があると思います。これからも、気象モデルも計算できる気象データアナリストとして、活躍していきたいと思います。 コラム ●AI時代においても信頼される天気予報を届けるために 株式会社 ヤマテン 気象予報士 浅井 丈昭  私は、株式会社ヤマテンが運営する登山者向けの天気予報サービス「山の天気予報」において、日々の予報業務を担当しています。加えて、気象データを活用した予報支援資料の開発や、新しいサービスのシステム設計にも携わっています。こうした業務に取り組めるようになった背景には、気象データアナリスト講座での学びが大きく影響しています。  そもそも私がこの講座を受講しようと考えたきっかけは、業務工数の削減でした。実際の予報業務では、観測資料や各種予報支援資料があちらこちらに散在しており、それらを探し、確認し、組み合わせて予報を構築していくだけでも多くの時間を要していました。資料を一元的に管理し、予報にかかる工数を減らしたい。そのためには、気象そのものの知識だけでなく、システムを制御・設計する技術が必要だと感じ、独学で試行錯誤を始めました。  しかし、気象データの取り扱いは想像以上に難解で、「このやり方で本当に合っているのか」という不安が常につきまといました。深層学習による予報支援資料の開発にも関心はありましたが、背景知識が不足している状態では、計算結果に責任を持てず、手を出すことに躊躇もありました。そうした折に出会ったのが、気象データアナリスト講座でした。  講座では、気象学・統計学・深層学習といった分野を基礎から応用まで体系的に学ぶことができ、気象データのハンドリングや予測モデルの開発、さらにはビジネスにおける意思決定を支援する資料作成にも実践的に取り組むことができました。特に印象的だったのはグループワークで、異なる分野の受講生と議論することで、自分にはなかった視点や考え方に触れられたことです。視野が広がると同時に人とのつながりも生まれ、修了後も相談し合える関係が続いています。  講座で得た知識や考え方は、現在の業務に確実に活かされています。実運用の段階では、システム構築に苦労する局面もありますが、生成AIの活用や、講座を通じて知り合った方々や仲間の助けを借りながら、そうした課題を一つずつ乗り越えていける環境にあります。今後も、各種天気図やAI予報モデルをはじめとした予報支援資料の作成や、予報と実況を検証するツールの開発を継続的に進めていきたいと考えています。  生成AIを活用することで、システム構築にかかる時間は大きく短縮され、様々なデータを簡単に入手することができるようになってきました。一方で、AIに「頼り切らない」こと、そして各データに内在するクセを見抜くことの重要性も強く感じています。観測データにはノイズが含まれ、物理予報モデルであれAI予報モデルであれ、分解能の制約や時間発展に伴う不確実性は避けられません。計算結果はあくまで参考資料として捉え、その品質を自ら精査した上で、登山者にとって本当に信頼できる情報を今後も提供していきたいと考えています。 Ⅶ-2 外国法人等規制強化 (1)予報業務許可制度について  経済の発展や、災害の激甚化・頻発化に伴い、気象情報は日常生活や企業活動、防災対策等において、ますます重要な役割を果たすようになっています。こうした中、気象庁は、皆様に広く利用いただける気象情報や、防災関係機関の活動や住民の安全確保行動の判断を支援するため警報等を発表しています。また、気象庁以外の民間事業者等も、交通、エネルギー、防災等の幅広い分野において、ユーザーの多様なニーズに応じて個別にカスタマイズした予報サービスを創出・提供しています。  一方で、気象等の予報は人々の行動や判断に密接に関連した情報であるため、技術的裏付けのない予報が社会に広く流通した場合、社会に混乱や被害を招き、生活の安全・安心を損なうおそれがあります。このため、気象業務法では、気象庁以外の者が予報業務を行う場合には、気象庁長官の許可を受けることを義務付けており、気象庁が技術的な審査を行い、許可後も随時監督することにより、その予報サービスの技術的裏付けを担保し、安心して利用できる気象情報が流通するよう努めています。 (2)気象業務法の改正  近年、情報通信技術の進展により、国境を越えて、外国法人等が国内の利用者に向けて気象情報を提供する事例が増えており、本来許可が必要な予報業務を無許可のまま行っているケースも見受けられるようになりました。さらに、その中には、気象庁が警報を発表していない状況にも関わらず、誤って警報が通知されている例や、予測精度が低くその予測手法が審査基準を満たしていないことが疑われる例など、利用者に被害が生じ得るような予報の提供が確認されています。  こうした外国法人等による予報サービスについても技術的裏付けを担保し、国内利用者を適切に保護する必要があるため、気象業務法を改正し、外国法人等が行う予報業務の許可に関する規定を整備しました。具体的な改正内容は、トピックス(Ⅱ)(10頁)を参照ください。 (3)今後の取組  気象庁では、今回の法改正も踏まえ、外国法人等に対して予報業務許可制度を周知し、本制度が適切に遵守されるよう取り組んでいきます。  また、民間事業者との連携等により、違法性が疑われる予報業務に関する情報収集を行い、その実態確認や指導を進めていきます。その際に、指導に従わず違法な予報業務を継続する事業者を公表し、技術的裏付けが確認できていない予報であることを広くお知らせしてまいります。  加えて、許可を受けており信頼できる事業者について皆様に一層周知していくことも必要であると考えております。すでに気象庁ホームページに予報業務許可事業者の名称を掲載しておりますが、今後、許可を受けた事業者であることがより分かりやすくなるような環境づくりを検討してまいります。  皆様においては、予報アプリ等を利用される際には、予報業務許可を受けた信頼できるサービスをご利用いただくようお願いいたします。気象庁は、今後も関係者と連携しながら、信頼できる情報の流通と国民の安全・安心の確保に努めてまいります。◆第Ⅷ章◆ 気象業務の周知啓発 Ⅷ 気象業務の周知啓発 Ⅷ-1 広報・普及啓発の取組  気象庁では、より多くの人に気象業務に関心を持っていただくため、様々なイベントを実施しています。本章では、広報・普及啓発に関する最新の取組を紹介します。 (1)夏休みこども見学デー  各地の気象台では、防災気象情報の正しい理解と利用を目的として、毎年夏休みの時期に「お天気フェア」を開催しています。令和7年(2025年)は多くの気象台で実地開催し、一部プログラムではコロナ禍での経験を活かしてオンラインも併用しました。 ○ イベント目白押しだった「夏休みこども見学デー」  気象庁本庁では、毎年「夏休みこども見学デー」を開催しています。令和7年は2日間で2,155名の方にご来場いただきました。会場では、気象や地震等に関連する展示や実験、イベント会場各所を巡るスタンプラリーのほか、天気予報や地震・火山の情報を発表する各オペレーションルームをめぐる見学ツアー、南極の昭和基地との中継イベント等を実施しました。また、はれるんとのコラボイベントとして「熊本県営業部長」兼「熊本県しあわせ部長」であり「復興応援“絆”大使」でもあるくまモンとのステージイベントや、東京消防庁のキュータとのグリーティングも行いました。来場者アンケートでは、皆様から「とても楽しかった」「楽しかった」と回答いただき、大盛況のうちに終えることができました。 (2)はれるんカード  令和4年(2022年)6月より、気象庁の施設を訪れた方が入手できる「はれるんカード」を開始しました。「はれるんカード」は、施設に掲示されている二次元コードから、スマートフォン等を用いてダウンロードできるデジタルカード(画像データ)で、施設の紹介や豆知識を記載しています。詳細な情報は以下URLからご覧ください。  https://www.e-watcherstomo.com/はれるんカード/ (3)ポスターコンクール  気象庁では、本庁庁舎の港区への移転を契機に、港区教育委員会・気象友の会と共催し、令和3年(2021年)よりポスターコンクールを実施しています。ポスター作成をきっかけとして防災について家族で話し合っていただくこと等を目的とし、港区立の小中学生を対象として作品を募集しています。令和7年度は、文部科学省と気象庁が「日本の気候変動2025 ―大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書―」を令和7年3月に公表したことを契機に、「地球温暖化について考えてみよう」をテーマにポスターを募集しました。応募いただいた99作品に対して、共催の三者で審査を行い、入賞及び入選作品を決定しました。令和7年度の気象庁入賞作品は以下のとおりです。 (4)気象科学館の新規展示製作  気象科学館は、気象、地震、火山などの防災知識について学べる装置や展示物などがあり、無料で利用できる施設です。  令和7年の気象業務150周年を契機に展示装置の更新を進めており、令和8年(2026年)3月には展示装置「活火山クエスト」を新設しました。「活火山クエスト」は、噴火警戒レベルや火山防災について、気象庁火山防災マスコットキャラクター「ぼるけん」とともに、クイズとミニゲームで楽しく学ぶゲーム形式の展示です。小学生から中学生を中心に遊んで学べる内容とし、火山の近くにお住いの方もそうでない方も、火山防災に必要な知識を我が事感をもって学習できる工夫をしています。お近くにお立ち寄りの際には、ぜひ体験してみてください。 (5)気象友の会  「気象友の会」は、気象・海洋・地震・火山など地球をとりまく自然現象に関心のある方々が集う会で、どなたでも入会いただけます。気象庁との交流やイベントなどを通じた会員相互の親睦を通じて、気象知識の向上や、地球環境への関心と防災への意識を高めることを目指しています。  詳しくは、気象友の会のホームページをご確認ください。  https://www.e-watcherstomo.com/ (6)「昭和100年」関連施策  令和8年に昭和元年(1926年)から起算して満100年を迎えたことを踏まえ、関係府省が連携して「昭和100年」関連施策を推進しています。  気象庁でも、気象科学館において、昭和期の気象業務や気象測器等の特設展示を設けるなど関連施策に取り組んでいます。また、昭和期の気象業務の発展は、令和7年に編纂した「気象百五十年史」等でも知ることができますので、ぜひご参照ください。  <気象百五十年史>  https://www.jma.go.jp/jma/kishou/info/150th/chronicle.html