気象業務はいま 2021 はじめに  気象庁の任務は、台風・集中豪雨等の気象、地震・津波、火山、さらに気候変動などに関する自然現象の観測・予報等と、その情報の利用促進を通じて、気象業務の健全な発達を図り、これにより安全、強靭で活力ある社会を実現することにあります。  昨年以降、新型コロナウイルス感染症のため、従来と異なる生活様式や業務のあり方が求められていますが、気象庁はそれぞれの現場で工夫しながら、その任務を全うしています。  昨年も、令和2年7月豪雨や台風第10号等により多くの被害が発生しました。災害により犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、災害に遭われました皆様に心よりお見舞いを申し上げます。  気象庁では、このような激甚化・頻発化する自然災害から国民を守るために、防災気象情報を的確に発表するとともに、記者会見等を通して危機感を伝えたり、気象庁防災対応支援チーム(JETT)の派遣等を通して地方自治体の防災対応をきめ細かく支援したりするなど、地域の防災力向上と被害の軽減に向けた取組を進めています。  今後、一層的確な防災対応の推進をはじめ、気象業務をさらに発展させていくためには、技術開発と産学官連携の推進が不可欠です。気象庁では昨年10月に大規模な組織再編を実施し、これらを大きく進めていくため、体制を強化したところです。  技術開発については、多くの豪雨災害を引き起こしている「線状降水帯」の発生等の的確な予測と監視を行うこと、また台風とこれに伴う大雨・高潮等を高い精度で予報することなどが求められています。気象庁では、2030年を目標とする長期的展望に立ち、最新のAI技術等も取り入れながら、野心的な技術開発を進めているところです。  また近年、気象情報・データを活用した多様な民間事業が生まれ、また、大学や研究機関において気象に関連する様々な研究が進められており、気象業務に関わる人々のネットワークが広がりつつあります。こうしたことを背景に、増大・多様化するニーズに産学官全体で対応するための取組が始まっています。  今回の「気象業務はいま」では、豪雨・台風被害を減らすための技術開発と、産学官で歩む新たな気象業務を特集し、最新の取組と展望を紹介します。また、トピックスとして、気象庁ホームページ等での情報発信、防災気象情報の伝え方の改善、気候変動や海洋の監視と情報発信に関する取組を取り上げるとともに、近年の地震・津波・火山に関する取組を振り返ります。  多くの方々が本書に目を通され、気象業務への皆様のご理解が深まりますとともに、各分野で活用されることを期待しています。  令和3年6月1日 気象庁長官 長谷川 直之 特集 特集Ⅰ 新たな予測技術で豪雨・台風被害を減らす 1 はじめに  近年、「平成26年8月豪雨」や「平成29年7月九州北部豪雨」のように、 雨の降り方は実感を伴って局地化・集中化・激甚化の様相を示しつつあります。これらの自然環境や社会環境の変化、先端技術の展望を踏まえ、平成30年(2018年)8月に国土交通省交通政策審議会気象分科会において、「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」が示されました。  本提言では、観測・予測精度向上にかかる技術開発が重点的な取組事項の一つに位置づけられ、これまでの気象庁内での着実な技術開発に加え、大学等研究機関が有する最新の研究成果や知見の取り入れ、民間事業者等が行う多様な観測データの活用、IoTや人工知能(AI)技術といった最先端技術も活用した技術開発の推進が求められています。本提言を受けて、気象庁では平成30年(2018年)10月に策定した「2030年に向けた数値予報技術開発重点計画」において、数値予報の高度化・精度向上について、現在の技術水準に照らして野心的とも言える目標を掲げ、技術開発に取り組んでいます。  こうした中、令和2年7月豪雨において、線状降水帯(2(2)参照)の予測に関する課題が浮き彫りとなったことを受け、気象庁では線状降水帯の予測精度向上を最優先課題と位置づけ、取組を加速していくこととしました。  ここでは、令和2年7月豪雨を受けての課題とその対応策や台風被害に備えた最新の技術に加え、令和12年 (2030年) に向けた技術開発の進展について、中長期の展望も含め紹介します。 2 令和2年7月豪雨を受けて~新たな技術課題とその対応策~ (1)令和2年7月豪雨  7月3日から7月31日にかけて、日本付近に停滞した前線の影響で、暖かく湿った空気が継続して流れ込み、各地で大雨となり、人的被害や物的被害が発生しました。  7月3日から31日までの総降水量は、長野県や高知県の多い所で2,000ミリを超えたところがあり、九州南部地方、九州北部地方、東海地方及び東北地方の多くの地点で、24、48及び72時間降水量が観測史上1位の値を超えました。また、旬ごとの値として、7月上旬に全国のアメダス地点で観測した降水量の総和及び1時間降水量50ミリ以上の発生回数が、共に1982年以降で最多となりました。  この大雨により、球磨川や筑後川、飛騨川、江の川、最上川といった大河川での氾濫が相次いだほか、土砂災害、低地の浸水等により、死者・行方不明者が86名、住家被害は約17,000棟に達するなど、人的被害や物的被害が多く発生しました(被害に関する情報は令和3年1月7日内閣府とりまとめ等による。)。  気象庁は、顕著な災害をもたらしたこの一連の大雨について、災害の経験や教訓を後世に伝承することなどを目的として「令和2年7月豪雨」と名称を定めました。 (2)7月3日から4日にかけての熊本県や鹿児島県を中心とした大雨  7月3日から4日にかけて、九州付近に停滞していた前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み、熊本県や鹿児島県を中心に大雨となりました。3日から4日までの総降水量は熊本県水俣市の水俣で513.0ミリ、熊本県湯前町の湯前横谷で497.0ミリに達しました。この大雨により球磨川が氾濫したほか、芦北町で土砂災害が発生しました。  この時、大量の水蒸気が九州の南西海上から流入しており、線状の強い降雨域が九州の西方海上から球磨川流域にかけて停滞していました。このような線状の強い降雨域が停滞したものを「線状降水帯」と言います。球磨川流域に記録的な大雨をもたらした線状降水帯は東西約280キロメートルとこれまでで最大規模で、継続時間が13時間と長いのが特徴でした。線状降水帯は、南西~北東方向にのびる積乱雲群が東西に複数連なることで構成されていました。そしてこれらの積乱雲群は、風上(南西側)で次々と発生した積乱雲が組織化したもの(バックビルディング型の形成過程)であることがレーダーによる解析から分かりました。  線状降水帯は、次々と発生した積乱雲により、線状の降水域が数時間にわたってほぼ同じ場所に停滞することで、大雨となり、甚大な被害をもたらします。過去には、平成26年8月豪雨での広島市の土石流、平成29年7月九州北部豪雨での土石流や河川の氾濫などの事例でも、線状降水帯が発生していました。 (3)発表した防災気象情報とその課題  熊本地方気象台では、7月2日から気象情報を発表し大雨への警戒を呼びかけていました。その後、危険度の高まりに応じて早期注意情報、大雨注意報・警報、土砂災害警戒情報など段階的に防災気象情報を発表するとともに、指定河川洪水予報では球磨川に氾濫危険情報を発表するなど、厳重な警戒を呼びかけました。また、ホットライン等により気象台から直接市町村長等に危機感を伝えました。この記録的な大雨に対し、4日4時50分に熊本県、鹿児島県に大雨特別警報を発表し、最大級の警戒を呼びかけました。  一方で、前日の夕方の気象情報において、線状降水帯が発生し特別警報級の大雨となることについては、伝えることができませんでした。線状降水帯を構成する個々の積乱雲はスケールが小さいため、現在の数値予報モデルの技術では、線状降水帯がいつどこで発生しどのくらいの期間継続するのか、事前に正確に予測することができません。また、線状降水帯の発達には、下層から流入する水蒸気が重要ですが、特に海上は観測点が少なく、どのくらいの水蒸気が入ってくるかを、正確に観測することが難しいのが現状です。  線状降水帯を正確に予測することは難しいものの、発生の可能性が出てきた段階でいかに危機感を伝え、防災対応につなげていくかが大きな課題となりました。 コラム ■新型レーダーで雨の情報が改善されました  令和2年(2020年)3月、千葉県柏市にある気象庁の東京レーダーを、新型のレーダー(二重偏波気象ドップラーレーダー)に更新しました。従来のレーダーでは、水平方向に振動する電波(水平偏波)だけを発射し、雨粒等からの反射波を受信して雨の強さを推定していましたが、新型レーダーでは、垂直方向に振動する電波(垂直偏波)も同時に発射・受信することができます。これにより、雨雲とノイズ(山などからの反射波)を区別する能力や雨の強さを正確に捉える能力が大幅に改善されました。下図は、新型レーダーによる観測結果で、値が大きいほど雨が強いことを示します。左図(a)は観測したままのデータ、右図(b)は(a)に対しノイズ除去と雨による電波の減衰の影響を補正したデータです。(b)では、山などのノイズが除去されているとともに、補正によって図中左下の降水域においてより強い雨が捉えられていることが分かります。 コラム ■アメダスが新しくなりました  アメダスでは、15年ぶりのアメダス気象計の更新を令和2年(2020年)から開始し、これに合わせ、観測種目等の変更をおこないました。令和3年(2021年)3月から、新たに湿度の観測を開始し、今後、アメダスでは、降水量、気温、湿度、風向・風速及び積雪の深さを観測していきます。新しく開始した湿度観測により水蒸気監視能力が強化され、近年、大きな気象災害をもたらしている線状降水帯の予測に資することが期待されています。また、新しいアメダスでは、風向・風速の測器の方式を駆動部のある風車式から駆動部の無い超音波式に変更しました。これにより凍結、故障による欠測の減少が見込まれ、より安定した観測データの提供を期待されています。さらに、測器から得る観測値以外をアメダスの提供データに加える取組も行っています。日照時間を日照計の観測値から気象衛星観測の成果である推計気象分布の日照時間から得る推計値に置き換えたものが、それに当たります。湿度の観測開始も、日照時間の推計値への置き換えも、測器や気象技術の進歩により、なし得ています。今後も技術の発展とともにアメダスは進化を続けていきます。 (4)豪雨災害の予測精度向上に向けて  気象庁では、令和12年(2030年)を目標として、線状降水帯の発生・停滞の予測精度向上により、集中豪雨の可能性を高い確度で予測し、明るいうちからの避難など、早期の警戒と避難を可能にすることを目標に技術開発を進めてきたところです。  令和2年7月豪雨を踏まえ、上記目標に向けた取組の方向性を改めて下記①~③のとおり整理するとともに、①及び②の予測精度向上につながる取組を加速させ、予測技術の精度を踏まえた情報をできるところから段階的に提供していくこととしました。  ① 大気の状態を正確に把握するための観測の強化  ② スーパーコンピュータを活用した予測技術の高度化  ③ 避難行動に結び付くような防災気象情報の改善 ここでは、上記3つの方針に沿った主要な取組について紹介します。 ① 観測の強化  線状降水帯の予測精度向上に向けては、線状降水帯の発生に結び付く大気の状態、特に水蒸気の流入量を面的かつ時間的に連続して捉えることが重要となります。しかし現状、海上における水蒸気観測は陸上に比べて圧倒的に少なく、また、気象衛星でも雲より下の水蒸気量(湿度)を捉えることは困難です。陸上においても、気象台や測候所などの一部の地点では水蒸気量(湿度)の観測を行っていますが、多くのアメダス観測地点では観測は行っていません。そこで、海上及び陸上の水蒸気量(湿度)を把握するため、海上保安庁と連携した洋上観測の拡充(コラム「線状降水帯の予測精度向上をめざして」参照)と、アメダスへの湿度計導入を進める予定です。これに加え、線状降水帯発生等の実況監視能力を強化するため、最新の二重偏波レーダーへの更新を進めることとしています。 ② 予測の改善(4(1)「豪雨防災への取組」参照)  線状降水帯のメカニズムが十分解明されていないことに加え、現在の数値予報モデルは線状降水帯が再現できるほどの解像度を有していないことから、大学・研究機関との連携を強化しつつ、線状降水帯の構造や発生、持続を表現できるように数値予報モデルの性能を高めるための技術開発を推進する予定です。この技術開発と並行して、予測の不確実性を踏まえ、その不確実性を捕捉可能なアンサンブル予報システムの開発や利用を進めます。 ③ 情報の改善  観測・予測改善の成果を踏まえ、情報の改善もできるところから段階的に実施していく予定です。具体的には、過去に顕著な災害をもたらした事象を基に設定した降水形状や降水量、危険度等の条件を実況で満たし、実際に線状降水帯が形成されて顕著な災害をもたらすおそれが高まってきた場合に、その様な危機感の高まりをお知らせする気象情報を本年出水期より提供する予定です。加えて、令和4年(2022年)には半日前から線状降水帯等による大雨となる可能性の情報を提供し、令和7年(2025年)までには府県単位で大雨予測できるよう精度を向上、そして令和12年(2030年)までに半日前から線状降水帯に伴う集中豪雨を高い確率で予測し、これに伴う災害発生の危険度を面的に提供できるよう取組を進めていきます。 コラム ■線状降水帯の予測精度向上をめざして ~海上保安庁と連携したGNSS観測~  大きな被害がもたらされた令和2年7月豪雨では、洋上からの水蒸気が継続的に補給されて被災地周辺に線状降水帯を形成することにより集中的かつ持続的な豪雨となったことが要因と考えられます。このような災害への対応には、大気中の水蒸気量の把握と線状降水帯の予測精度の向上によって、早期に防災行動を図る必要があります。  このため、気象庁では洋上における水蒸気量を把握するためにGPS等の全球測位衛星システム(GNSS)を用いた観測装置を船舶に搭載して、令和2年7月豪雨等でその要因となった梅雨末期の線状降水帯の予測に必要な水蒸気の観測を実施します。  GNSSを用いた観測装置では、測位衛星の送信電波が大気中の水蒸気によって遅れる性質を利用して洋上大気中の水蒸気量を観測します。  令和3年には、気象庁の海洋気象観測船と海上保安庁の測量船に同観測装置を設置し、線状降水帯への水蒸気の供給源となる東シナ海などの海域において観測を実施する予定です。 3 台風等に備える新たな気象技術 (1)台風に発達する熱帯低気圧の予報を5日先まで延長  平成30年(2018年)6月に更新したスーパーコンピュータシステムによる計算能力の向上や数値予報技術の改善により、台風になる前の熱帯低気圧の段階でもその後の進路や強度の予測精度が向上したことから、令和2年(2020年)9月9日から24時間以内に台風に発達する見込みの熱帯低気圧について、従来の1日先までの予報を5日先までの予報に延長しました。これにより、日本にかなり近づいてから台風に発達し、急に影響を及ぼすような場合でも、台風接近時の防災行動計画(タイムライン)に沿った防災関係機関等の対応を、これまでよりも早い段階から効果的に支援することが可能となりました。  また従来、台風においてのみ発表していた暴風域に入る確率について、令和3年台風シーズンから24時間以内に台風に発達する見込みの熱帯低気圧においても発表するよう、運用を変更します。これにより、より早い段階から暴風域に入る可能性のある時間帯を把握できるようになります。 (2)高潮及び潮位に関する情報の改善  平成30年台風第21号、令和元年房総半島台風、令和元年東日本台風など、近年、台風による高潮被害が相次いで発生しています。令和元年度の有識者等による「防災気象情報の伝え方に関する検討会」で、高潮に対して市町村の早めの防災対応や住民自らの避難判断ができるよう、防災情報の充実を早急に図るべきとの指摘があり、令和2年度に高潮及び潮位に関する情報の改善を実施しました。 〇 「高潮の警報級の可能性」をバーチャート形式の気象情報で5日先まで提供  日本付近に警報級の災害をもたらすおそれがある台風の接近・通過が予想される場合には、より早い段階で高潮に対する備えを始める必要があります。これに活用していただくため、令和2年8月から台風の接近が予想される場合の「高潮の警報級の可能性」について、期間を明後日までから5日先までに延長し、図形式の気象情報等を通じて提供することを開始しました。 〇 過去の最高潮位の提供  令和2年9月から、気象庁の潮位観測所における過去の最高潮位(高い方から1位~10位の値)の提供を開始しました。これを利用することで、予想される高潮が過去の顕著な高潮に匹敵する規模になるかどうかをあらかじめ確認できるようになります。 〇 潮位観測情報の改善  平成30年台風第21号では、台風の移動が速かったことから、潮位が短時間で急激に変化して高潮災害が発生しました。このような急激な潮位の変動を迅速に把握するため、気象庁では高潮の監視に波浪による数分の変動のみを取り除いた潮位データを使用しています。令和3年(2021年)3月からこの潮位データについて、気象庁ホームページ「潮位観測情報」での提供を開始しました。 4 2030年に向けた技術開発の進展  ここでは、平成30年(2018年)10月に策定した「2030年に向けた数値予報技術開発重点計画」に沿った、予測技術開発の中長期的な取組と新しい技術・データ活用の取組について紹介します。 (1)豪雨防災への取組  令和12年(2030年)の目標である線状降水帯の発生・停滞の予測精度向上により、集中豪雨の可能性を高い確度で予測し、明るいうちからの避難など、早期の警戒と避難を可能にするための技術開発を進めています。豪雨をもたらす線状降水帯をより的確に予測するためには、線状降水帯が発生する大気の状態を数値予報モデル(第2部1章1節参照)で精度良く表現すること、線状降水帯の構造や発生・停滞を予測できるように数値予報モデルの性能を高めることが必要です。  大気状態を精度よく表現するため、数値予報モデルの改良により、鉛直方向の風向・風速の差や水蒸気の流入量など、特に豪雨と関連が強いことが知られている気象要素について予測精度を向上させるとともに、風上の海上における水蒸気量や風などの観測データを活用するための開発を行っています。  線状降水帯の構造や発生・停滞の予測に向けては、線状降水帯を構成する個々の積乱雲の振る舞いを予測できるよう、高解像度の予報モデル及びそれに適した大気、海洋、陸地における様々な過程の開発を進めています。  線状降水帯は予測の不確実性が高く、半日程度先の短い予測時間においても予測が非常に難しい現象です。このため、上記の数値予報技術の改善に加え、予測の不確実性を捕捉可能なアンサンブル予報(第2部1章2節(4)参照)と最新のAI技術を併用することで、より高精度の確率プロダクトの作成に取り組んでいます。 (2)台風防災への取組  令和12年(2030年)を目標として、台風や前線による災害発生の3日前から、河川流域の雨量、高潮などの見通しを把握して的確な広域避難を可能にするためには、雨量分布や高潮などについて詳細で高精度な予測情報が必要です。本目標の達成に向けては、地球全体を取り扱う全球モデル、メソモデル及び高潮モデル等(第2部1章2節参照)を一体的に開発する必要があります。  まず、全球モデルの開発については、より詳細な予測値をメソモデルへ引き継ぐために水平格子間隔を10キロメートルよりも高解像度化するとともに、全球モデルによる台風の進路や内部構造の予測を改善するため、乱流、積雲対流、雲などに関する数値計算を高精度化する計画です。加えて、人工衛星や気象レーダー観測等によって得られる気温、水蒸気、風、降水粒子に関する高密度かつ高頻度な観測データを分布状態やその精度に応じて適切に利用できる手法をデータ同化システムに導入します。また、数値計算や観測データの品質管理などでは最新のAI技術を活用する予定です。  これらにより、予測領域の境界を通して全球モデルから詳細な予測値をメソモデルへ引き継ぐことができるようにしつつ、メソモデル、メソアンサンブル予報システム及び高潮モデルについても3日先までの予測を可能にし、台風に伴う大雨や高潮などをより高い精度で予測できるよう開発を進めています。 (3)社会経済活動への貢献  気象庁は、社会的に影響の大きな熱波や寒波等の気象現象を数日先から数か月先まで高精度に予測することで、熱中症、雪害等に対する可能な限り早期の事前対策や物流、農業、水産業等の各産業における気候によるリスクの軽減及び生産性向上に貢献することを目指します。加えて、第4次産業革命の進展に応じて高精度な数値予報の気象ビッグデータを提供することで、国民一人一人の生活に沿った情報の入手・活用や、上述の分野等の産業界における意思決定や業務プロセスの改善に資するなど多様化するユーザーニーズに対応し、 超スマート社会に貢献します。  このために、あらゆる気象情報の基盤となる、大気、海洋、陸面・雪氷、大気微量成分などの地球システムを構成する個々の数値予報モデルの改善を引き続き行います。さらに、これら個々の数値予報モデルを総合的に扱うことができる「地球システムモデル」の開発や人工知能等の技術の活用によって、予測精度のより一層の向上を目指します。 (4)新しい技術・データ活用の取組 ① 統合型ガイダンスの開発  令和12年(2030年)に気象予測の精度を大きく向上させることを目指し、全球モデル、メソモデル、局地モデル等の解像度や予報時間(10時間~5日)が異なる複数の数値予報の結果について、各モデルの精度や特性を踏まえて、AI技術を活用し最適に組み合わせる「統合型ガイダンス」の開発を行っています。  「統合型ガイダンス」により、高精度な降水量、風、気温等の予測情報の提供が可能となることに加え、予測が困難な大雨等の顕著現象についても、誤差の幅やある値を超える確率の情報の提供が可能となることから、集中豪雨等に対し数日前から災害への心構えを高め、早めの防災行動を支援することにつながります。  本技術開発は、国立研究開発法人理化学研究所革新知能統合研究センター(理研AIP)との共同研究として、平成31年(2019年)1月から取り組んでいます。 ② 民間事業者の観測データの有効活用に向けた取組  気象庁では、自らが実施する基盤的な気象観測のデータに加えて、地方自治体や政府機関が実施する気象観測のデータを収集し、監視・予測に係る気象情報を作成してきました。度重なる風水害を予防・軽減するため、更なる監視・予測精度の向上を目指して、民間事業者により行われている気象観測のデータについても気象庁における気象情報の作成等に活用する検討を進めています。  民間事業者においては、それぞれの目的に応じて様々な状況で気象観測が行われています。このデータを気象情報の作成等にも有効に活用するためにはデータの品質や観測環境の様子の確認が必要であり、このための調査を進めています。調査結果を基に、民間事業者の気象観測データを解析雨量や推計気象分布等の気象情報に試験的に取り込んで効果を検証していきます。 特集Ⅱ 産学官で歩む新たな気象業務 1 これまでの産学官による気象業務  気象業務は、気象庁のみならず、民間気象事業者や関係する分野の大学・研究機関等、様々な主体によって営まれており、それぞれが役割を果たすことにより発展してきました。 (1)気象庁の役割と民間気象事業の発展  社会の高度情報化に適合した気象サービスを実現するための指針として、平成4年(1992年)の気象審議会(当時)答申第18号では、気象庁は、国民の生命と財産を守る観点から、警報をはじめとする防災気象情報の発表に注力するとともに、気象庁が業務のために収集・作成した資料やデータ(観測データや数値予報等)について、民間気象事業を支援する観点から提供していくこととされました。また、民間気象事業者においては、各種情報メディアに適合した多様なニーズに応える付加価値のついた様々な気象サービスを提供していくこととされました。  この答申を踏まえ、気象庁では、平成7年(1995年)、気象庁以外の者が行う一般向けの気象・波浪の予報についての業務許可を開始し、以後、技術の進展に伴い、地震動・火山現象、津波、高潮といった現象についても、順次許可の対象としてきました。民間気象事業者等の創意工夫の結果として、社会に提供される気象サービスは、質・量とも各段に充実してきています。 (2)大学・研究機関との連携  気象庁気象研究所をはじめ、様々な大学・研究機関において、気象学に関連する研究開発が進められており、各機関が実施している研究に気象庁が持つ豊富なデータや日々の業務で培われた様々な技術を組み合わせることで、より具体的で大きな研究成果が期待されます。このため、気象庁と公益社団法人日本気象学会は、平成19年(2007年)に包括的な共同研究契約を締結し、以来、気象研究コンソーシアムを運営しており、気象庁が収集・作成したデータを基盤とした様々な共同研究や最新の研究に関する情報の交換等が行われています。 2 産学官連携による気象業務  このように、従前、気象業務を営む産官学が連携した様々な取組が行われており、近年は、産学官がそれぞれの強みを活かして更に連携することで、より効率的・効果的に新たな価値を創出しようとする動きが始まっています。 (1)気象観測・予測へのAI技術の活用  気象庁と国立研究開発法人理化学研究所革新知能統合研究センターでは、気象観測・予測の精度を大きく向上させることを目指し、気象庁が有する気象現象の観測・予測に係る技術や知見と、理化学研究所が有する人工知能(AI)技術に関する技術や知見を相互に持ち寄り、気象観測・予測技術に最先端のAI技術を導入すべく研究開発を実施しています。  これらの研究開発のうち、気象観測技術については、観測データの品質管理手法や面的なデータとする際の推定手法にAI技術を活用することで、高精度な気温等の面的情報を開発し、各種気象情報の高度化を目指しており、気象予測技術については、様々な気象予測データを最適に組み合わせることで、より高精度・高解像度な予測情報の提供等を目指して取り組んでいます。 (2)緊急地震速報、津波警報等の改善  地震分野では、平成7年(1995年)の兵庫県南部地震以降、大学・研究機関と連携した取組が進められており、観測データの一元化や地震情報等への活用が進展しています。  加えて、海域で発生する地震及びそれに伴う津波を的確に捉え、緊急地震速報、津波警報等の情報を迅速に発表していくことも重要です。このため、国立研究開発法人防災科学技術研究所が運用している「地震・津波観測監視システム(DONET)」及び「日本海溝海底地震津波観測網(S-net)」の海底地震計データについて、令和元年(2019年)6月27日より緊急地震速報へ活用しています。これにより、紀伊半島沖から室戸岬沖で発生する地震については最大10秒程度、日本海溝付近で発生する地震については最大30秒程度早く発表できるようになりました。また、津波の早期検知による一層的確な津波警報等の発表が可能となります。 (3)事業者と連携した「キキクル(危険度分布)」通知サービス  内閣府の「避難勧告等に関するガイドライン」や中央防災会議の「平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)」では、住民は「自らの命は自らが守る」意識を持ち、自らの判断で避難行動をとるとの方針が示されるとともに、「住民が自ら行動をとる際の判断に参考となる情報」の発信にあたっては、発信した情報の参考となる警戒レベルが分かるようにすべきとされました。  これを受けて、気象庁では令和元年7月より、土砂災害や洪水等からの自主的な避難の判断に役立てていただくために、土砂災害や洪水等の危険度が高まったときにメールやスマホアプリでお知らせするプッシュ型の通知サービスを民間事業者と連携して実施しています。このサービスにより、キキクルを自主的な避難の判断や離れた場所に暮らしている家族に避難を呼びかけることに活用いただくことが可能となりました。 (4)産業界における気象データ・サービスの利活用促進  平成29年(2017年)には、産業界と気象サービスのマッチングや気象データの高度利用を進める上での課題解決を行うため、産学官連携の気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)が設立されました。気象庁では、WXBCと連携して、気象データを活用したビジネスを普及するためのセミナー等を開催するとともに、気象データとビジネスに関連したデータを組み合わせて分析する能力を持つ「気象データアナリスト」の育成に取り組むなど、産業界における気象データの利活用促進に関する取組を進めています(詳細は第2部4章参照)。 3 気象業務の広がりと社会環境の変化  これまで述べてきたとおり、気象業務に関係する産学官は、それぞれが目的をもって取組を進めることにより多様な気象サービスを創出し、社会に貢献してきました。また、官民が連携して気象情報・データの利活用に取り組むなど、更なる発展を目指した活動にも取り組んでいます。  一方で、近年のAI、ICT(情報通信技術)等の技術の進展により、「産」の分野では、民間気象事業者に加え、気象情報・データをビッグデータの一つとして活用して多様な活動を行う民間事業者が生まれ、「学」の分野では、AI等の技術や気象・気候の影響を強く受ける農学等の分野における気象に関する研究開発が活発になっています。また、国や地方自治体においても、防災、地球温暖化、農業等の天候に影響を受ける分野をはじめ、気象業務に関係する機関も増加しつつあります。  ここで、社会環境に目を向けると、ICTの急速な進展による本格的なデータ活用社会の到来や災害の頻発・激甚化、さらには気象情報・データの利用の裾野の拡大等を背景に、気象業務へのニーズは増大・多様化しており、気象庁は防災気象情報の高度化に注力する必要があることから、多様なサービスを創出する民間事業者の役割はますます増大しています。  増大・多様化するニーズに産学官全体で効率的・効果的に対応すべく、より一層連携して取組を進めていくことが必要となってきています。 4 交通政策審議会気象分科会提言「気象業務における産学官連携の推進」  前述の状況を踏まえ、交通政策審議会気象分科会では、気象業務における産学官が連携して気象業務全体で社会に貢献していくために、どのような取組を進めていくべきか等について計4回にわたって審議を行い、その成果を令和2年12月23日に提言「気象業務における産学官連携の推進」として取りまとめました。  本提言では、気象業務やそれを取り巻く社会環境の変化を概観し、関係者が広がりつつある気象業務において産学官が技術やノウハウ、人材、資金等の貴重なリソースの最適化を実現できる関係性を構築すべきであること、気象庁が気象業務全体を俯瞰し、その調整役としての機能を担うべきとしています。そして、産学官による気象業務の取組にプラスの相乗効果をもたらし、リソースの効率的な活用を可能とするため、気象庁は以下に示す産学官連携を推進するための取組を進めていくべきであるとしています。 (1)産学官の対話の場の構築 ~役割分担から連携の強化へ~  気象業務における産学官が連携を強めていくためには、産学官の対話を継続・強化し、情報共有等を密に行い、相互理解を深めた上で、課題への対応について、技術やノウハウ、人材・資金等のリソースを最適化できるよう協議していくことが必要です。  このため、気象業務に関する幅広い産学官の関係者が対話を行う場を構築し、気象庁の防災情報の改善や、そのための技術開発、収集・作成した気象情報・データの提供、システム機器の整備等についての方向性や具体的な計画を関係者に示すことが重要であるとされています。 (2)人材の交流や育成 ~技術、ノウハウの保有から共有へ~  気象業務全体がより一層社会に貢献していくためには、産学官のそれぞれが有するニーズの共有、気象庁が有する観測・予測に関する様々な技術やノウハウを産学と共有することや、大学・研究機関等による最先端の研究成果を気象庁や民間事業者の業務に活かしていくことが重要です。  これを効果的に推進していくため、産学官の間での人材交流や、産学官が合同で研修を実施するなど、共同での人材の育成等を進めるべきとしています。 (3)産学官共同事業の推進 ~独自の事業から連携事業へ~  近年、民間気象事業者の気象サービスは各段に充実しており、様々な技術・知見を有する民間事業者も増えるなど、気象庁と民間事業者が共同で事業を展開できる環境が整いつつあり、防災や公共の利便性を確保するために業務を行う国と多様なニーズに応える気象サービスを提供する民間事業者が連携することで、社会に対してより多様な貢献が可能となります。学術分野においても、気象学等の分野のみならず、ICT分野をはじめ、気象・気候の影響を強く受ける学術分野など、より広い範囲で気象業務への活用に向けた連携の可能性が生まれています。  このような状況の中、産学官のそれぞれが持つ技術やノウハウ、人材・資金等のリソースを最大限活用し、共通の目的の下、共同で事業を進めていく必要があるとしています。 (4)クラウド技術を活用した新たな気象情報・データの共有環境の構築~データの配信から共有へ~  気象情報・データは、気象業務のみならず様々な主体による社会経済活動の基盤、いわばソフトインフラとなるべきものです。このような中、近年、気象情報・データは飛躍的に増加しており、これらを産学官で有効に活用できるよう、クラウド技術を活用し気象情報・データの共有環境を構築すべきであるとしています。 5 気象業務における産学官連携推進のための気象庁の取組  この提言を受け、気象庁では、今後、気象業務を取り巻く諸課題について、産学官による気象業務全体で社会に貢献していけるよう、産学との対話を繰り返しながら取り組んでまいります。特に、クラウド技術を活用した新たな気象情報・データの共有環境については、社会で活用できる気象情報・データが拡がることにより、産学の研究や技術開発が促進され、新たな気象サービスの展開が期待されることから、産学において気象情報・データを扱う利用者との対話を繰り返しながら構築に向けた取組を進めてまいります。  また、「令和2年7月豪雨」、「平成29年7月九州北部豪雨」など、線状降水帯によりもたらされる豪雨により各地で甚大な被害が発生しており、線状降水帯の予測精度を向上し、防災気象情報を高度化していくことは喫緊の課題となっています。線状降水帯の予測精度を向上するためには、数値予報モデルの技術開発に加えて、大気の状態の正確な把握、特に海上からの水蒸気の流入量を把握することが不可欠です。  このため、気象庁の海洋気象観測船と海上保安庁の測量船4隻に洋上の水蒸気を把握できる高度な観測機器を搭載し、海上での観測の強化に向けた取組を進めているほか、線状降水帯に関する最新の研究の知見を取り入れるため、学術関係者と意見交換するための「線状降水帯予測精度向上ワーキンググループ」を開催するなど、学官挙げての線状降水帯の予測精度向上に取り組んでいます(詳細は、特集Ⅰ.2(4)コラム「線状降水帯の予測精度向上をめざして」参照)。  この他、気象庁では令和3年4月より民間事業者との人材の交流を開始しました。これにより気象庁が有する気象予測技術を民間事業者と共有するとともに、民間事業者が有するAI等の最先端技術を気象庁の技術開発にも取り入れていくことが期待されます。今後も、人材の交流等を通じて、産学官のそれぞれが保有するニーズ、技術やノウハウの効率的な共有に取り組んでまいります。  今後とも、気象庁では、提言に沿った取組を進め、気象業務に関係する産学官が保有する技術やノウハウ、人材、資金等のリソースを最大限活用して、様々な社会課題に対し貢献してまいります。 コラム ■気象業務における産学官連携への期待 交通政策審議会気象分科会会長(東京大学名誉教授) 新野 宏  気象は日々の私たちの生活に大きな影響を与え、時には生命をも左右することがある。人々は古くから「太陽や月がかさをかぶると雨」「カエルが鳴くと雨」「夕焼けは晴れ」など、経験にもとづく言い伝えで天気を予想し、生活や防災に役立ててきた。近代的な気象学・気象技術の発展と共に、将来の気象は観測データと物理学の方程式にもとづき、スーパーコンピュータを使った「数値予報」により客観的に予測されるようになり、はるか上空の人工衛星から雲の分布、気象レーダーから雨の分布をリアルタイムで把握できるようになった。これらの気象情報は、防災や市民の生活、農業、電力、交通、商品管理など幅広い産業分野で利用されている。一方、近年の情報通信に関わる科学・技術の発展に伴い、大量の気象情報をリアルタイムで効率的に活用できる可能性が急速に増大しつつある。気象庁から発表される気象情報を例に取ると、土砂災害や洪水の危険度を地図上に示す、土砂災害警戒判定メッシュ情報や洪水警報の危険度分布には、土砂災害警戒区域等や洪水浸水想定区域なども重ねて表示されるようになり、多言語の説明も加えられるなど、地元の住民だけでなく旅行中の人や外国人などであっても、スマートフォンなどを使って自分のいる場所の危険性が瞬時に把握できるようになってきている。ここでは、気象を例にとったが、海洋、地震、火山に関する観測や情報についても同様の進展が生じてきている。  しかしながら、気象庁から発表される警報・注意報を含む気象情報は、広く一般を対象としたものである。個別の業種や特定の個人が必要とするきめ細やかな情報は民間の気象会社などから提供されており、企業の中には独自に気象情報を解析して業務に役立てているところもある。気象会社や企業は気象庁から提供される情報をもとに独自に工夫・開発して必要な情報を作成しているが、そのような情報の中には実は気象庁から提供可能でありながらデータ量の問題で提供されていなかったり、気象庁の将来計画で提供予定であることが周知されていなかったために、気象会社や企業で無駄に開発の労力をかけてしまうこともあった。また、気象庁が最先端の気象学や人工知能・情報通信技術等を活かした業務を推進するためには、大学等研究機関との協力が不可欠であるが、気象庁が求める知識・技術と大学等研究機関が興味を持って行う研究とが必ずしも一致しないという課題もあった。これらの課題を解決し、産学官全体としての気象業務を発展させるためには、産学官の意思疎通を一層密にすることが必要と思われる。気象庁はこれまでも、核となる観測・予報の技術的業務を行うだけでなく、気象ビジネス推進コンソーシアムや気象研究コンソーシアムなど、産業界や研究コミュニティとの連携を推進する努力はしてきているが、今後、我が国における産官学全体としての気象業務をさらに推進するためには、産官学における気象業務の調整や連携促進にも積極的に貢献していくべきと思われる。そして、このような連携を深めるためには、産学官の対話の場の構築に加え、人材育成に関わる共同研修も含む多様な人材交流、共同事業の実施、クラウド技術等を利用したデータの共有体制の整備などが有用と思われる。世界気象機関(WMO)でも2018年から、気象業務全体の発展のために、産学官のWin-Winの関係による連携を推奨している。  交通政策審議会気象分科会では、上述の方向性に関する議論を約8ヶ月にわたって行い、2020年12月に提言「気象業務における産学官連携の推進」をとりまとめた。気象庁がこの提言を活かして、気象庁のみならず我が国全体の気象業務のさらなる充実を図り、安全・安心で快適な社会の構築に貢献していくことに期待したい。 トピックス Ⅰ 気象情報を様々な形で活用していただくために トピックスⅠ-1 気象庁ホームページでの情報発信 (1)気象庁ホームページをリニューアル  平成14年(2002年)8月から気象庁ホームページに防災気象情報を掲載しました。その後、頻発する災害に対応するために、気象庁は防災気象情報の改善を進めてきており、それに応じて気象庁ホームページに掲載する防災気象情報もコンテンツを拡充してきました。新たな防災気象情報が提供されるたびに、ホームページの掲載情報が充実した反面、多くの防災情報コンテンツから自身に関係する情報が探しにくいという声を多く頂いていました。また、この間、スマートフォン等のデジタルデバイスの急速な普及により、情報取得環境が大きく変化しました。従来の気象庁ホームページは、その多くがスマートフォンで見やすい表示にはなっていなかったため、スマートフォンで閲覧しやすいコンテンツを求めるご意見も多く寄せられてきました。他方、近年激甚化する気象災害を背景に、住民の一人一人が身に迫る危機感を持つことにつながるよう、ホームページにおいても分かりやすい防災気象情報の提供の必要性が指摘されてきました。これらを受けて、気象庁ホームページの防災気象情報を、スマートフォンでも見やすくなるよう、みなさまの関心のある地域に発表されている防災気象情報を一覧できるような構成に一新し、令和3年2月にリニューアルしました。  主な変更点は、以下のとおりです。  ・コンテンツファーストからユーザーファーストへ  みなさまの周囲の状況や気象状況等のこの先の変化が一目で分かり、我が事感を得られるように、選択した都道府県/市町村を対象に1枚のページに複数の情報を並べて一覧できるようになりました。  ・スマートフォンで快適に  あらゆる防災情報コンテンツがスマートフォンで見やすくなりました。  ・ウェブ地図の採用  これまで「危険度分布」などの一部のコンテンツで提供していたウェブ地図による情報表示を全面的に展開しました。みなさまが日常的に利用して慣れ親しんでいる地図アプリと同様の表示や操作で、気象庁の防災気象情報をご覧いただけます。  ・我が町の気象台からの声が届く  他システムで提供していた各気象台・測候所からの解説コメントを、一般にも公開することにいたしました(次ページコラム参照)。  新しくなった気象庁ホームページを普段からご利用いただき、いざというときに、ご自分や大切な人の命を守るためにお役に立てていただければ幸いです。  気象庁ホームページ:https://www.jma.go.jp/ コラム ■「気象台からのコメント」を気象庁ホームページに掲載  気象庁ホームページのリニューアルに合わせて、主に防災関係者のみなさまに向けて、地元気象台がお知らせしたいことを「気象台からのコメント」として掲載します。このコンテンツでは、例えば、気象警報や気象情報等の防災気象情報をより効果的に活用いただけるよう、気象警報・注意報を発表する見込みや注目すべき気象資料のページ等について、その地域の気象状況の特徴や防災事項などを踏まえた解説をします。  地域の防災情報のページから、気象警報の発表状況や雨雲の動き、キキクル(危険度分布等)と並べて確認することができますので、ぜひご活用ください。  気象庁は、この「気象台からのコメント」を通して、これまで以上に地域に密着した気象解説に努めてまいります。 コラム ■多言語での情報発信  外国人材受入れや観光立国実現に向けた取組が進む中、外国人の方が安心・安全に過ごすことができるよう、防災気象情報を取得しやすい環境を整えることは、ますます重要性を増しています。  このため気象庁では、多言語での防災気象情報の提供に取り組んでいます。その一環として、大雨警報や地震情報などの防災気象情報で用いる用語を14か国語(※)に翻訳した「多言語辞書」を作成・公開するとともに、気象庁ホームページにおいても14か国語での情報提供を行っています。 ※日本語、英語、中国語、韓国語、スペイン語、ポルトガル語、インドネシア語、ベトナム語、タガログ語、タイ語、ネパール語、クメール語、ビルマ語、モンゴル語 (2)「学びのページ」の開設  気象研究所では、小・中学生をはじめ、多くの方々に気象研究所で行っている研究について知っていただくために、令和2年(2020年)5月、ホームページ上に「学びのページ」を開設しました。このページでは、気象研究所での見学や一般公開で使用した資料のほか、研究に関わる実験や実験施設について解説した動画などのコンテンツを、「天気」、「地震・火山」、「地球温暖化・海」といった各分野に分けて掲載しています。  以下に、「学びのページ」にしているコンテンツの一部を紹介します。  今後も、幅広い年代の方々に興味をもっていただけるように、楽しく分かりやすいコンテンツを、これからも追加していきたいと考えています。ぜひ「学びのページ」までお越しください。   (URL:https://www.mri-jma.go.jp/Topics/contents/forlearning/forlearning.html)  その他、気象研究所ホームページでは、皆様に知っていただきたい最新の研究トピックスや、一般公開等のイベント情報についても、随時更新しています。常日頃から広く一般の皆様に気象研究所の研究や取組を知っていただけるよう、こうした情報発信にも力を入れていきます。 トピックスⅠ-2 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて  この夏、いよいよ東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。大会を円滑に運営する上で台風や大雨、地震への対策はもちろんのこと、夏の暑さへの対策が大きなテーマとなっており、防災気象情報の果たすべき役割は大きなものとなっています。私たち気象庁も、大会開幕に向けて関係する府省庁や組織委員会と協力しながら情報提供の準備を進めてきました。ここでは東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた気象庁の取組を紹介します。  まずは円滑な大会運営に向けた取組です。大会期間中は組織委員会に気象情報センターが設置され、アスリートや大会運営者等に対して、競技や会場の運営に必要な気象情報等が提供されます。気象情報センターが提供する情報は競技の中断や延期の判断、緊急時の観客の安全な避難等に用いられる重要な情報です。気象庁では、この気象情報センターが円滑に業務を遂行できるよう職員を派遣しています。また、大会期間中は気象情報センターの業務に必要な競技会場周辺の気象状況や予報に関する情報を提供するとともに、台風が接近する場合等の緊急時には連絡を密にして対応を支援する等、組織委員会と連携しながら大会の円滑な運営に協力していきます。  次に、快適に競技を観戦できるようにするための取組です。夏の高温多湿な気候や、夕立等の急な大雨や台風等は、世界中から訪れる数多くの外国人にとって馴染みのないものです。このため厳しい夏の気候に備え、より安全で快適な競技観戦や各地での滞在に役立てていただけるよう、主だった防災気象情報(※)を多言語で提供します。対応する言語は令和2年(2020年)4月に14か国語まで拡充しています(トピックスⅠ-1コラム「多言語での情報発信」参照)。また、観戦準備のため競技が開催される各地の天気予報等の気象情報をまとめた観戦支援ポータルサイトを令和元年(2019年)7月24日に公開しました(右図)。このサイトでは、日本の地理に詳しくない外国人の方でも、観戦する競技名や競技会場名を選択すれば、目的の競技会場付近の気象情報を一覧で閲覧できるよう構成されています。使用言語は基本的に英語と日本語のみですが、前述の多言語化された防災気象情報も本サイトから閲覧できるようになっています。  以上のように、気象庁は大会をホストする国の気象機関として、大会の成功に貢献できるよう取り組んでいます。開幕まで残すところわずかとなりましたが、引き続き一丸となって準備を進めていきます。 ※気象警報・注意報、天気予報、台風情報、危険度分布(キキクル)(土砂災害、浸水害、洪水)、地震情報、津波警報等、噴火警報・予報 コラム ■東京2020オリンピック・パラリンピックにおける気象情報への期待 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 スポーツディレクター ソウルオリンピック シンクロナイズドスイミング ブロンズメダリスト 小谷 実可子  最近のアーティスティックスイミングの大会は、国内では屋内で行われることが多い一方で、ヨーロッパやアメリカなど海外の試合では屋外の炎天下で実施することもあります。本来は、プールに飛び込んだらなるべく泳ぎ進んで、この振りまでに審判の前を通って……とプールパターンを決めて演技をするのですが、屋外だと風に押し戻されて行きたい場所まで行けないとか、採点基準上重要とされるプールをより広く使うことができないとか、大きな影響を受けます。  また、水上に顔を出した時に酸素をどれだけ多く取り込むかが重要なので、雨が降ると、上を向いてたくさん息継ぎをしたいところで顔や口の中に雨粒が当たって呼吸しづらくて大変、といった影響もあります。  それから、日射しも気になります。私は日焼けしやすかったので、日焼けしにくいパートナーと差が出ないように日陰で練習したり……。日焼けの原因となる紫外線について、晴れれば強いと分かっていても、気象庁のオリパラポータルサイトのように色で紫外線の強さが示されると、観客の皆さんも帽子を忘れないようにしようとか日焼け止めをしようとか警戒を怠らないようにしやすいですね。  東京2020大会では、気温や湿度が高い中で競技を実施する可能性があります。コンディションを整えるため、私の経験では、事前の水分補給や移動中に日射しを遮るため帽子を着用するなど対策しましたし、練習後は日焼け止めを怠らないなど、練習の前後もしっかりと備えていました。そして、競技本番に向けては、「ロンドンなら曇り空かな」など開催都市の空模様をイメージしたトレーニングもしていました。  アスリートは本来、湿気を嫌がります。乾燥している方が競技や練習後に疲労から回復しやすいのです。留学したカリフォルニアで練習した際、「同じ演技をしているのに、こんなに疲れないんだ」と練習後に買い物に出かけられる自分にびっくりしたくらいです。逆に、湿度が高い東京での大会に向けて準備している選手に聞くと、高温多湿の場所で走りこんだり、大会時の東京と同じ気温・湿度のテントの中で練習を行ったりして、科学的見地から暑さ・湿度に順応するためのトレーニングを早くから行っているそうです。組織委員会から各国へ提供した東京の過去の気象データを活用して暑さ対策を行ったアスリートはきっと良い成績を残せるでしょうし、気候への順応は金メダルへの近道だと思います。  アスリートは、良いパフォーマンスのために万全の準備をしてきます。しかし、気象条件など人間の力で変えられないことでせっかく準備したパフォーマンスが出せないのが一番残念です。このため、大会時に天気など流動的なことに的確に対処できるよう、アスリートが気象情報を分かりやすく把握できればと考えます。  また、海外の人は地震をとても怖がり、日本に来るのをためらう人もいると聞きます。東京2020大会の選手村は耐震性がありますし、地震について規模によっては安心なことも含めて基本中の基本のポイントを周知するのが大事でしょう。その点は気象庁にも期待したいです。  このように、気象情報の提供はスポーツ界の中でとても大事な要素の一つになっています。組織委員会では気象情報センターを設置し、暑さ対策や天候対策の観点や各競技のきめ細かなニーズに応えるべく大会関係者へ情報提供します。気象関係の専門的な知見はアスリートのパフォーマンス向上のために有効ですので、大会成功に向けてアスリート同様、日本の気象技術としてベストのパフォーマンスが出せるよう期待しています。 トピックスⅠ-3   気象庁は新庁舎に移転しました (1)気象庁庁舎の歴史  気象庁は当時の赤坂区溜池葵町(現・港区虎ノ門)で業務を開始し、再び145年を経て、令和2年(2020年)に千代田区大手町から港区虎ノ門に戻ることになりました。 (2)虎ノ門庁舎整備事業の経緯  今回の事業は、平成19年(2007年)の「国有財産の有効活用に関する検討・フォローアップ有識者会議」において、虎ノ門地区へ移転するとされたことを受け、日本最初の公立小学校である旧鞆絵(ともえ)小学校跡地を庁舎建設地とし、港区立教育センターとの合築施設によるPFI事業が平成22年(2010年)に締結されたものです。その後、法令変更等により2度の事業中断を余儀なくされましたが、約10年の歳月を経て令和2年(2020年)2月末に竣工されました。虎ノ門庁舎への移転は令和2年12月7日に完了しました。 (3)虎ノ門庁舎の概要  新庁舎は防災に重点を置いて建築されており、地下部分の免震層は建物全体の横方向の揺れを軽減し、さらに気象や地震・火山を24時間体制で監視し情報発表等を行うオペレーションルームやサーバー室には床免震構造の採用により上下方向の揺れも軽減するとともに、7日間の業務継続を可能とする燃料タンクや受水槽などが整備され、災害時にも十分な機能性を確保しています。また、「気象科学館」は新庁舎内の港区立「みなと科学館」と併設され、移転より一足早く7月にリニューアルオープンし、防災的かつ科学的な探求心を育む「予報官体験コンテンツ」、日本の四季・自然・気象を体感することができる「気象シアター」などのコンテンツを拡充し、自然災害に対する防災知識の普及・啓発を強化しています。 コラム ■新庁舎開庁式典を開催しました  令和2年12月17日に新庁舎3階講堂にて「新庁舎開庁式典」と「気象防災アドバイザー委嘱状交付式」を挙行しました。式典には赤羽国土交通大臣、岩井副大臣、小林大臣政務官、朝日大臣政務官、鳩山大臣政務官をはじめとする国土交通省関係者の皆様と、来賓として「気象友の会」の最高顧問を務める自由民主党の二階幹事長、公明党の山口代表、港区の武井区長、交通政策審議会気象分科会の新野会長、一般財団法人気象業務支援センターの土井会長、大成建設株式会社の村田代表取締役副会長ほか皆様にご出席いただきました。  式典においては、関田長官の式辞として「コロナ禍の中、私たちは先ず医療従事者への感謝と敬意を、自らの生業に困窮している方々には応援の気持ちを持ち続け、その上で感染症対策に万全を期して業務を継続し、国民の安全・安心や社会経済活動に更に寄与してゆく所存です」と述べました。  続いて、赤羽国土交通大臣からは「原点であるこの地に新庁舎を構え145年の礎の上に新たな歴史を刻み、受け継がれてきた良き伝統に立脚し、研鑽を進め国民の皆様へ情報をわかりやすく提供することにより、安全安心な社会作りに貢献していただくことを期待します」とご挨拶をいただきました。  武井港区長からは「みなと科学館及び気象科学館の連携による教育支援、防災知識の普及啓発等、区民の科学への関心及び防災意識の向上に努めるとともに、再開発により大きく生まれ変わる虎ノ門の街で、気象庁が街の魅力の一翼を担い、多くの区民の皆様に愛され、誇りとなることを心から願っております」とご挨拶をいただきました。   自由民主党二階幹事長からは「災害が発生するたびに、この災害にチャレンジして行くぐらいの気持ちを持って、防災対応をしていかなくてはならない」、「気象庁は、国民の皆様の命と暮らしになくてはならない重要官庁であり、今後大臣を中心に私どもも力を尽くしてまいりたい」とご挨拶をいただきました。  また、新庁舎開庁式典に合わせて、気象防災アドバイザー委嘱状交付式を挙行しました。  激甚化・頻発化する風水害等の災害に備えるためには、気象台からのホットライン・JETT派遣等の地方公共団体を支援する取組に加え、地域の気象の専門家が、地方公共団体の防災業務を直接支援できる体制を構築することが重要であることから、今般、新たに29名の気象台OB/OGを、防災気象情報の読み解きやそれに基づく助言を行う「気象防災アドバイザー」として委嘱することとしたものです。  この交付式では、公明党山口代表から「地方自治体のきめ細かな状況に応じた防災対策が必要であるが、自治体には必ずしも専門知識を持った人がいない」「今日、気象防災アドバイザーの委嘱を受けられる方々に大いなる活躍を期待したい」とご挨拶をいただきました。その後、赤羽国土交通大臣から気象防災アドバイザー代表者へ委嘱状が交付されました。  今後も、各地の気象台が地方公共団体のトップを訪問する機会等を通じて、気象防災アドバイザーに関する周知を進め、地方公共団体が気象防災アドバイザーに業務を委任しやすい環境づくりにも取り組んでいくとともに、順次気象防災アドバイザーを拡充していきます。 Ⅱ 毎年相次ぐ豪雨・台風災害を受けた防災気象情報の伝え方の改善 トピックスⅡ-1   近年の豪雨・台風災害を受けた防災気象情報の伝え方の改善に向けた取組  気象庁では、平成30年7月豪雨の記録的な災害を受け、学識者、報道関係者、自治体関係者、関係省庁による「防災気象情報の伝え方に関する検討会」を開催し、防災気象情報の伝え方に関する課題を整理し、その解決に向けた改善策を「防災気象情報の伝え方の改善策と推進すべき取組」(報告書)として取りまとめました(詳細は「気象業務はいま2020」特集を参照)。  これらの取組を通して、気象庁は市町村や住民に対する防災支援を進めてきたところですが、令和元年も「令和元年房総半島台風(台風第15号)」や「令和元年東日本台風(台風第19号)」などに伴う大雨や暴風等により、相次いで各地で大きな被害が発生し、防災気象情報の伝え方に関する新たな課題が明らかとなりました。  これを受け、令和元年度(2019年度)も「防災気象情報の伝え方に関する検討会」を開催し、主に以下のような課題が示されました。 課題1 大雨特別警報の解除にあたり、解除後も引き続き大河川の洪水に対する警戒が必要であることへの注意喚起が十分でなく、解除が安心情報と誤解された可能性がある。 課題2 「狩野川台風」を引用して記録的な大雨への警戒を呼びかけたが、強い危機感が伝わっていない地域もあった。 課題3 何らかの災害がすでに発生しているという、警戒レベル5相当の状況に一層適合させるよう、大雨特別警報の発表基準や表現の改善が必要である。 課題4 「危険度分布」の認知や理解が依然として不十分である。 課題5 災害危険度の高まりについて、長時間の予測を提供できていない。  令和2年(2020年)3月の報告書では、これらの課題の解決に向けた今後の改善策について示されました。ここでは実際の実施内容を紹介しつつ、解説します。 (1)大雨特別警報解除後の洪水への警戒の呼びかけの改善  大雨特別警報を大雨警報に切り替えた後においても洪水への警戒が必要な場合は、引き続き警戒していただくために、警報への切り替えに合わせて、今後の水位上昇の見込みなど河川氾濫に関する情報を発表します。また、警報への切り替えに先立って、国土交通省水管理・国土保全局と気象庁との合同記者会見等を開催することで、メディア等を通じた住民への適切な注意喚起を図るとともに、SNSや気象情報、ホットライン、JETTによる解説等、あらゆる手段で注意喚起を行います。  令和2年7月豪雨では、4日に熊本県と鹿児島県に、6日には福岡県、佐賀県、長崎県に、8日には岐阜県、長野県にそれぞれ大雨特別警報を発表する大雨となりました。いずれの場合も大雨特別警報を警報に切り替える際に、河川の氾濫が既に発生している、もしくは発生するおそれがあったため、水管理・国土保全局と気象庁で合同記者会見を開催し、河川の氾濫に引き続き厳重に警戒するよう呼びかけました。  令和2年台風第10号においては、非常に強い勢力で日本に接近し被害をもたらしうることが予想されたため、この取組を更に発展させ、台風接近前から合同記者会見を開催して台風による暴風、高波、高潮への最大級の警戒を呼びかけるとともに、大河川でも氾濫の危険が高まっている旨を説明し、早めの避難を呼びかけました。 (2)過去事例を引用した警戒の呼びかけの改善  過去事例と同様な大雨が降ることなどにより、甚大な災害が発生するおそれがあることを伝える目的で、気象庁(気象台)では過去事例を引用して警戒の呼びかけを行っています。この呼びかけについては強い危機感を伝える上で効果的であったことから継続して実施していくとともに、特定の地域のみで災害が起こるかのような印象を与えないよう、過去事例を引用する際には、災害危険度が高まる地域を示すとともに、気象台等においては地元に特化した詳細かつ分かりやすい解説を実施します。  令和2年の出水期では、過去事例を引用して警戒を呼びかけることはありませんでしたが、非常に強い勢力で南西諸島と九州に接近した台風第10号の記者会見においては、どのような災害が起こり得るかイメージできるよう、過去に発生した災害と当時の風速や潮位を参考に示すなどの工夫を行いました。 (3)大雨特別警報の改善  大雨特別警報について、何らかの災害がすでに発生しているという警戒レベル5相当の状況に一層適合するよう、災害発生との結びつきが強い「指数」を用いて新たな基準値を設定し、精度を改善する取組を推進します。  具体的には、令和2年7月29日より土砂災害の発生との結びつきが強い指数を用いた新しい基準値の大雨特別警報の運用を全国で順次開始しました。これにより、10月10日の台風第14号による大雨では、これまでの基準では発表することが困難であった局所的な大雨(東京都三宅村、御蔵島村)に対して大雨特別警報を発表し、最大級の警戒を呼びかけることができました。  また、平成25年(2013年)の特別警報の運用開始より「台風や集中豪雨により数十年に一度の降雨量となる大雨が予想される場合(雨を要因とする基準)」と「数十年に一度の強度の台風や同程度の温帯低気圧により大雨になると予想される場合(台風等を要因とする基準)」に気象庁は大雨特別警報を発表してきました。  その後、令和元年に「警戒レベル」が導入された際、実際の運用状況を踏まえて前者は「警戒レベル5相当」と位置付けられた一方、後者は、「警戒レベル3相当」の大雨警報を大雨特別警報として発表し、早い段階から警戒を呼びかけるものと整理されました。  そこで気象庁では、大雨特別警報と「警戒レベル」の関係が、予測されている大雨をもたらす現象によって異なり、利用者に分かりにくいものとなっていることを踏まえ、「警戒レベル」に基づく自治体や住民の防災行動をよりいっそう的確に支援するため、8月24日より大雨特別警報の発表基準を雨を要因とする基準に一元化しました。  さらに、大雨特別警報の予告等の際には、特別警報を待ってから避難するのでは命に関わる事態になるという「手遅れ感」が確実に伝わる表現を用いることとしました。  実際に大雨特別警報発表後の会見では、「(大雨特別警報が発表された地域では)命を守るために最善を尽くさなければならない状況です」、「今後、他の市町村にも大雨特別警報を発表する可能性があります。特別警報が発表されてから避難するのでは手遅れとなります」などと呼びかけを行いました。 (4)危険度分布の利活用促進  住民自らの避難判断に「危険度分布」をより一層活用していただくため、災害発生の適中率の向上を目指すとともに、「危険度分布」の認知度・理解度を上げるための広報を更に強化します。  また、気象庁ホームページで提供している洪水警報の危険度分布について、令和2年5月28日から本川の増水に起因する内水氾濫の危険度の表示ができるように改善を行いました。さらに、「危険度分布」の通知サービスについて、住民の自主的な避難の判断によりつながるよう、政令指定都市において危険度分布の通知が区ごとに行われるよう準備を進めています。 コラム ■令和2年7月豪雨における気象庁防災対応支援チーム(JETT)の派遣  気象庁では、令和2年7月3日から7月31日までの間、17府県30市町村に対して気象庁防災対応支援チーム(JETT)を派遣しました(延べ479人の職員)。  JETTとして派遣された職員は、現地で開催される災害対策本部会議等に出席し、今後の気象の見通しに関する解説や各関係機関から寄せられる気象に関する問い合わせへの対応など、自治体の防災対応を支援する活動を行いました。また、自衛隊・警察・消防等による救助活動等を支援するため、ヘリコプター等の運行に係る上空の気象状況等の情報提供や、雨や風に関する情報に加え熱中症対策を踏まえた注意喚起も行いました。 トピックスⅡ-2 令和2年度の防災気象情報の伝え方に関する新たな課題への対応  令和2年度は、令和2年7月豪雨では線状降水帯による大雨により甚大な被害が発生し、令和2年台風第10号では、台風接近のかなり前の段階から記者会見を実施し、「特別警報級の台風」という表現を用いて、早めの警戒を呼びかけました。これらの事例における防災気象情報の伝え方について、線状降水帯による大雨への注意喚起や「特別警報の可能性が小さくなった」という表現が安心情報として受け取られた可能性があるなど、新たに様々な課題が明らかとなりました。  内閣府「令和元年台風第19号等を踏まえた避難情報及び広域避難等に関するサブワーキンググループ」(以下「内閣府SWG」という。)においては、警戒レベル5の状況が「災害発生」だけでなく「切迫」も加わるとともに、警戒レベル4の避難情報が避難指示に一本化される方針が示されました。また、警戒レベル3相当情報である大雨警報(土砂災害)について、災害発生を見越したものになっているかとの指摘がなされました。  これらを踏まえ、気象庁では、平成30年度、令和元年度に続き、「防災気象情報の伝え方に関する検討会」を開催しました。検討会では以下のような課題が示されました。 課題1 甚大な被害をもたらし得る線状降水帯について情報発信をするとした場合、有効に活用してもらうためにはどのように伝えるのが良いか。 課題2 台風情報や会見などで「特別警報級の台風」という表現を繰り返し用いていたが、何に警戒すべきか十分には伝わらなかったのではないか。 課題3 「特別警報を発表する可能性は小さくなりました」という文言が、一部で安心情報として受け取られたのではないか。 課題4 大雨特別警報(警戒レベル5相当)と台風等を要因とする特別警報(高潮は警戒レベル4相当、暴風、波浪は位置付け無し)では住民の取るべき行動や市町村が発令すべき避難情報に違いがあることから、住民や地元自治体の防災対応に混乱が生じたのではないか。 課題5 (防災気象情報の信頼度を維持する上での課題)今後も特別警報級の台風が接近した場合などに、多くの方に早めの避難をしてもらうためにはどうすべきか。 課題6 警戒レベル5の状況として「災害発生」に加え「切迫」を含めるとともに、警戒レベル4の避難情報が避難指示に一本化する方向性が示されたことを踏まえ、警戒レベル相当情報をどう整理すべきか。 課題7 住民の避難行動により一層つながる警戒レベル相当情報とするためには、情報全体の体系や個別の情報についてどうあるべきか。  これらの課題について、令和2年12月から令和3年4月にかけて計4回開催された検討会において議論いただくとともに、4月28日に報告書が取りまとめられ、これらの課題について今後気象庁が短期的に取り組むべき対応策と中長期的に検討していくべき事項について示されました。 (1)線状降水帯がもたらす降り続く顕著な大雨への注意喚起  線状降水帯はそれによる大雨で甚大な災害が起こりうる危険な現象であることが認知されつつあることを踏まえ、大雨による災害発生の危険度が急激に高まっている中で、線状の降水帯により非常に激しい雨が同じ場所で降り続いている状況を「線状降水帯」というキーワードを使って解説する情報を提供。中長期的には、記録的短時間大雨情報等の情報と統合して一体的に情報発信していくことも検討するとともに、線状降水帯による大雨を含めた数時間先までの降雨予測の精度向上に努め、半日前から線状降水帯による大雨の可能性について情報提供。 (2)顕著な台風等が接近した際の呼びかけ方の改善  「特別警報級の台風」、「特別警報の可能性が小さくなりました」という表現を使用する場合は、降雨や暴風等によってどのような災害が想定されるのかがより伝わるよう解説を一層強化するとともに、平時と緊急時で伝え方を変えるなど、状況に応じた効果的な解説を一層強化。さらに台風のように長時間のリードタイムを確保できる現象では、社会の関心が高まっているタイミングでしっかりと解説。また、詳細な情報を住民自ら取得してもらえる解説を強化するとともに、安心情報と誤解されないよう、起こり得る災害や引き続き避難行動が必要とされる状況であることの解説を強化。 (3)防災気象情報の信頼度を維持するため、社会的に大きな影響があった現象について検証の実施・公表  令和2年台風第10号においては、台風が接近する前の早い段階から記者会見等を行い、警戒を呼びかけていたことにより、多くの住民が台風への備えや避難行動をとり、広域避難を実施した市町村もあった。しかし、結果として想定されたような被害は発生しなかった。今後、再び同程度の勢力の台風が接近した際に、今回と同様、適切な避難行動をとってもらうためには、気象台等が発表する情報の信頼感を維持或いは高めていく必要があり、社会的に大きな影響があった現象について検証の実施・公表。 (4)内閣府SWGを受けた警戒レベル相当情報の見直しなど  大雨特別警報を警戒レベル5緊急安全確保の発令基準設定例として位置付けるとともに、危険度分布の警戒レベル4相当の紫への一本化・警戒レベル5相当の黒の新設。高潮氾濫危険情報の警戒レベル5相当への変更及び「災害発生の切迫」を含めた高潮氾濫発生情報への名称の一本化。さらに、避難情報の対象とならない地域への大雨警報・洪水警報等の発表を抑止する取組の推進。 (5)警戒レベルを軸としたシンプルでわかりやすい防災気象情報体系へ整理・統合  今後中長期的に、住民の避難行動の支援と密接に結びついた警戒レベルを軸として防災気象情報全体の体系を整理するとともに、個々の防災気象情報がより実効性のある避難情報の発令や住民の主体的な避難等の防災対応につながるよう、発表手法や基準等について見直し。  気象庁では、これらの取組を関係機関と連携して実施するとともに、防災気象情報の伝え方の改善に努めてまいります。 コラム ■危険度分布の愛称が「キキクル」に決定しました  気象庁では、土砂災害や洪水など大雨による身の回りの危険が一目で分かる「大雨・洪水警報の危険度分布」を提供していますが、より多くの皆さまに「危険度分布」を知っていただき、活用していただくため、愛称を募集することにしました。  募集は、令和2年(2020年)9月17日から10月7日にかけて実施し、1,271通もの応募をいただきました。応募いただいた案について、特別選考委員の天達武史さんと井田寛子さんを交えて選考を行い、愛称が「キキクル」に決定しました。  「キキクル」という愛称は、「危機」が「来る」に由来しており、選考に当たっては危険が迫っていることが分かりやすい点や文字数が少なく視認性に優れるため覚えやすい点などが評価されました。愛称の決定を受け、気象庁ではこれまで以上に「キキクル」(危険度分布)の認知度向上及び利用促進に力を入れていきます。 Ⅲ 気候の変動や海洋の動きを捉え対応するために トピックスⅢ-1 気候変動を監視する (1)「日本の気候変動2020」の公表  文部科学省と気象庁は、「気候変動に関する懇談会」の助言を踏まえ、令和2年(2020年)12月、「日本の気候変動2020-大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書-」を公表しました。  この報告書では、大気中の温室効果ガス及び気温、降水、海水温など気候の諸要素について、観測事実から日本におけるこれまでの変化を確認し、世界の平均気温が工業化以前と比べて2℃(パリ協定の2℃目標が達成された場合に相当)又は4℃(現時点を超える追加的な緩和策を取らなかった場合に相当)上昇した場合における21世紀末の日本の将来予測をまとめています。  この報告書は、日本における気候変動に関する自然科学的知見について、「これまで」と「これから」を概観できる資料です。気候変動緩和・適応策の立案・決定や影響評価を行う場合の基盤情報として、また気候変動に関する入門書の一つとして、ご利用ください。 【掲載先】https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ccj/index.html (2)IPCC第6次評価報告書がまもなく公表されます  気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では第6次評価報告書の作成作業が進められており、令和3年(2021年)後半以降、自然科学的根拠に関する第1作業部会、影響・適応・脆弱性に関する第2作業部会及び気候変動の緩和に関する第3作業部会の各報告書並びにこれらを総括する統合報告書が公表されます。  IPCCは、国連環境計画(UNEP)及び世界気象機関(WMO)により昭和63年(1988年)12月に設立された政府間機関で、世界の多くの研究者の協力の下、研究論文誌などに発表された査読付論文の知見等を集約して定期的に評価を行っています。平成25年(2013年)から平成26年(2014年)にかけて公表された第5次評価報告書では「気候システムの温暖化には疑う余地がない」としており、第6次評価報告書では更に最近の気候の変化やその原因、予測されるリスクに関する最新の評価などが取りまとめられる見込みです。  気象庁は、主に第1作業部会について、政府の一員として総会における議論や原稿のレビューに参加し、国内における周知啓発に努めるほか、専門知識を有する職員が執筆者としても貢献しています。その1人である気象庁気象研究所の石井雅男研究総務官(第1作業部会報告書第5章主執筆者(LA))は、「第1作業部会による今次報告書の執筆は、世界各国から選ばれた約200名のLAらにより、平成30年(2018年)6月に始まりました。以降、専門家や政府関係者による査読と最新の科学的知見を踏まえた改訂を3回繰り返し、多角的で充実した最終稿の作成を鋭意進めています」と意気込みを語っています。 (3)地球温暖化の影響に関する気象研究所の取組  気象研究所では、台風や豪雨などの顕著現象に、地球温暖化がどのような影響を与えたかを評価する研究も行っています。以下のコラムでは、近年の研究により地球温暖化の影響が明らかになった事例を紹介します。 コラム ■地球温暖化によって台風の移動速度が遅くなる  地球温暖化によって台風が将来どのように変化するのかという研究は、これまで主に強さや発生数、経路に着目して行われてきました。例えば、地球温暖化に伴い、台風の全世界での発生数は減るものの、猛烈な台風の発生頻度は高くなることなどが予測されています。  一方、台風の移動速度の将来変化を明らかにすることも、非常に重要です。台風の移動速度が遅いと、特定の地点で台風の影響を受ける時間が長くなるためです。例えば、千葉県を中心として強風被害を起こした令和元年房総半島台風(台風第15号)や、記録的な大雨により河川の氾濫等を引き起こした令和元年東日本台風(台風第19号)は、共に日本の太平洋側に接近した時の移動速度が平年値と比べて約40%も遅いという特徴がありました。このことは、被害が拡大したことの要因のひとつであった可能性があります。  そこで、気象研究所を中心とした研究グループでは、地球温暖化により台風の移動速度が将来どう変化するかを、数値シミュレーションを用いて調査しました。その結果、大量の二酸化炭素排出によって、今世紀末に地球の平均気温が工業化以前と比較して4℃上昇した状態では、台風の移動速度が、日本を含む中緯度帯で約10%遅くなることが分かりました。このことは、これらの地域において、台風の大雨や強風の影響を受ける時間がより長くなることを意味しています。  この台風の移動速度の鈍化は、地球温暖化によって大規模な大気の流れが変化し、台風を移動させる台風周辺の風が弱くなることが原因と考えられます。気象研究所では、大学や他の研究機関とも連携して、より詳しく解析を進めていきます。 コラム ■近年の日本の豪雨は地球温暖化のせい?  最近、日本ではほぼ毎年のように大きな被害をもたらす豪雨が発生しており、これらの現象と地球温暖化との関連を問う声も多く聞かれます。こうした疑問に対して、近年、数値シミュレーション技術の進展により、地球温暖化が特定の極端な気象現象に与える影響の度合いを数値で示すことが可能になってきました。具体的には、地球温暖化が進行している現実的な世界と、地球温暖化が進行していない仮想の世界をコンピュータの中で作り出し、それぞれの世界に出現した異常気象を比較することで地球温暖化の影響を評価しており、これを「イベント・アトリビューション」と呼んでいます。  上図右と左は、それぞれ平成29年7月九州北部豪雨(九州北西部)と平成30年7月豪雨(瀬戸内地域)の大雨に対してイベント・アトリビューションを適用した例です。地球が温暖化した状況と、温暖化しなかった状況の、それぞれについて大量の数値シミュレーションを行い、実際の現象に相当する事例の発生確率がどの程度変化したかを定量的に見積もった結果です。大雨特別警報の基準の一つである「50年に一度の大雨」の発生確率が地球温暖化によって、平成29年7月九州北部豪雨では約1.5倍、平成30年7月豪雨では約3.3倍になっていたという結果が得られました。下図は、令和元年東日本台風(台風第19号)について、高解像度モデルを用いて実際の現象を忠実に再現した上で、現在の状態から、地球温暖化に相当する気温上昇分を除去することでイベント・アトリビューションを行った結果です。令和元年東日本台風による図中に示した領域の総降水量は、昭和55年(1980年)以降の気温及び海面水温の上昇(およそ1.0℃)によって10.9%増加していたと評価できました。  これらのほかにも、気象研究所では、様々な数値シミュレーション技術を用いて、地球温暖化の多角的な影響評価に取り組んでいます。 (4)WMO温室効果ガス世界資料センター設立30周年  気象庁が運営している、世界気象機関(WMO)の温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)が、令和2年(2020年)10月で設立30周年を迎えました。WDCGGはWMOの大気化学・地球環境に関する全球大気監視(GAW)計画(1989年開始)の下に設立された世界資料センターの1つで、大気や海洋の温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、フロンガス、一酸化二窒素など)とこれに関連するガスの観測データを世界中から収集・保管し、利用しやすい形で研究者や世界各国の行政機関、一般の方々に公表するなどの業務を担っています。  WDCGGが設立された平成2年(1990年)当時、世界各国からの観測データは、提出用紙やフロッピーディスクによる提出でした。また、WDCGGからのデータの配布・公開も冊子刊行物(1992年~2001年)やCD/DVD-ROM(1995年~2016年)でした。その後、平成8年(1996年)にはウェブサイトを開設し、観測データの取得もメールやFTPに変更しました。平成30年(2018年)には利用者及び観測データ提供者双方の意見を元に抜本的な改善を行った新ウェブサイトを公開し、観測データ登録からデータ配布までを全てウェブサイト上で行う体制に移行しました(https://gaw.kishou.go.jp/jp)。  観測データは当初、地上の観測所で得られたものがほぼ全てでしたが、観測船や航空機を用いた観測データの提出も次第に増え、平成31年(2019年)からは人工衛星のデータの収集・掲載も開始しています。取り扱うガス種はフロン類や六フッ化硫黄などが増え(一部の反応性ガスは平成28年(2016年)に新設された反応性ガス世界資料センターに移管)、全体の登録データ数も増加し続けています。  WDCGGでは、これらの観測データを用いて温室効果ガスの世界平均濃度を算出するなどの解析も行い、詳細をデータサマリーとして公開しています。また、WMOから発行される温室効果ガス年報にもこの世界平均濃度等が掲載されており、これら資料は温室効果ガス排出削減策などを協議する気候変動枠組条約の締約国会議(COP)等での科学的な基礎資料として活用されています。  今後は、観測データのさらなる流通促進や品質情報の拡充などを行うとともに、多種・多様な観測データの検索性を向上させてより利用者が使いやすい形でデータ提供を行うなど、地球環境監視の一翼を担う国際センターとしての責務を果たしてまいります。 トピックスⅢ-2   熱中症警戒アラート (1)熱中症予防対策に資する新たな情報の検討  近年、熱中症搬送者数が著しい増加傾向にあって、生活に大きな影響を及ぼしています。夏の平均気温は、100年で約1.1℃上昇しており、熱中症対策は気候変動への適応の観点からも極めて重要です。これまで、気象庁の高温注意情報や気象情報、環境省の暑さ指数(WBGT)等によって熱中症の予防対策を呼びかけてきていますが、熱中症による死亡者数や救急搬送者数は引き続き多い状態が続いており、どのように情報を発信し、効果的な予防行動につなげるかが課題となっています。  そこで、環境省と気象庁が連携して、「熱中症予防対策に資する効果的な情報発信に関する検討会」(座長:小野雅司 国立環境研究所環境リスク・健康研究センター客員研究員)を開催し、熱中症予防行動につながる情報発信の具体的な方法について検討を行いました。令和2年(2020年)7月からは関東甲信地方において、環境省と共同で熱中症の発症との相関が高い暑さ指数(WBGT)を用いた新たな情報「熱中症警戒アラート(試行)」を発表し、その効果を検証しました。この情報は熱中症の危険性が極めて高い暑熱環境が予測される際に発表するもので、その危険性に対する「気づき」を促し、予防行動につなげることを目的としています。検討会では令和2年度に関東甲信地方で実施したこの情報の効果が確認されおり、令和3年(2021年)4月からは高温注意情報に代わる新たな熱中症予防対策情報として「熱中症警戒アラート」を全国で発表することとしました。 (2)発表の単位、基準  高温注意情報と同様に全国を58に分けた府県予報区等を発表の単位として、発表区域内の環境省の暑さ指数算出地点のいずれかで、熱中症の危険性が極めて高い暑熱環境とされる暑さ指数(WBGT)33以上の値が予測された場合に発表します。  暑さ指数(WBGT)は、Wet-Bulb Globe Temperature(湿球黒球温度)の略称で、人間の熱バランスに影響の大きい気温、湿度、輻射熱の3つを取り入れた暑さの厳しさを示す指標です。 (3)発表のタイミング  発表基準を超えると予測された日の前日17時頃又は当日5時頃に最新の予測を元に情報を発表します。なお、予測対象日の前日に情報を発表した都道府県では、当日の予測が発表基準未満に低下した場合でも5時頃にも情報を発表し、熱中症への警戒が緩むことの無いように注意を呼びかけます。また、当日の暑さ指数(WBGT)の実況値に基づく発表はありません。 (4)発表時の予防行動例  熱中症警戒アラートは、テレビ等の報道機関や関係機関を通じて伝えられます。外出はなるべく避け、室内をエアコン等で涼しい環境にして過ごすなど、以下のように、普段以上に熱中症予防行動が求められます。 1.外出はできるだけ控え、暑さを避けましょう 2.外での運動は、原則、中止/延期をしましょう 3.普段以上に「熱中症予防行動」を実践しましょう 4.熱中症リスクが高い方に声かけをしましょう 5.暑さ指数(WBGT)を確認しましょう トピックスⅢ-3 海洋に関する新たな情報と長期観測 (1)きめ細かな海流・海水温データの提供開始 ~潮位情報の改善~  気象庁では沿岸域における詳細な海流・海水温を把握可能な日本沿岸海況監視予測システム(以下「JPNシステム」という。)を開発し、その運用を令和2年(2020年)10月28日から開始しました。JPNシステムは、世界でも最先端のシステムとして従来の格子間隔10キロメートルから2キロメートルへ高解像度化を図っており、海流や海水温を詳細に予測し、その結果は気象庁ホームページでご覧いただけます。また、これによって海水温、海流の変化による沿岸の潮位変動の予測が可能となったため、異常潮位に関する情報の改善を行いました。今後も海洋データの利活用のため情報提供を行っていきます。 コラム ■きめ細かな海流・海水温データの水産分野への活用 北海道大学大学院水産科学研究院 海洋生物資源科学部門海洋環境科学分野 教授 笠井 亮秀  日本は世界に名だたる水産国で、各地から水揚げされる魚介類は、昔から日本人にとって貴重なたんぱく源でした。また、日本の近海は生物多様性が高いことでもよく知られており、水揚げされる水産物の種類は欧米と比べても格段に多く、数百種を超えるといわれています。そしてその多くがいわゆる天然物で、我々は自然の営みから多大な恩恵を受けているといえます。これを将来にわたって持続的に利用していくためには、水産資源を保護し、適切に管理していく必要があります。多くの魚介類は、数万から数百万粒にも及ぶたくさんの卵を産み、その一部が生き残ればよいという生残戦略を取っています。そのため、産卵直後の外敵から狙われやすい時期に急激に個体数が減るという現象が起き、これを初期減耗と呼んでいます。この時期は遊泳能力が弱く、卵や仔魚(しぎょ)は生息海域の流動場によって受動的に流されますが、餌が多く外敵の少ない好適な海域に流されると、初期減耗が小さくなり多くの仔魚が生き残れるので、結果的に資源量も多くなります。つまり、初期減耗期の流動場が、水産資源の大小に大きく関係しています。  私の研究室では、JPNシステムを用いて、ニホンウナギやスズキなどの卵や仔魚の輸送と生残に関するシミュレーションを行っています。多くの水産重要種は、親魚の生息域と産卵場が大きく離れています。卵や仔魚は黒潮などの強流に乗って数百kmから数千kmも流されながら成長し、最終的には親魚のいる海域へ到達します。その間いつどこに流され、どのように減耗を受けるかを調べることは、天然の水産資源を把握するために非常に重要です。JPNシステムは、これまで不可能であった、きめ細かな時空間スケールでの海流や水温の情報を広域にわたって提供してくれるので、このシミュレーションに最適です。今後このJPNシステムが、水産資源量変動の予測に大いに活用されていくと期待されます。 (2)海洋観測100年 ~新たなフロンティアを求めて~  令和3年(2021年)は海洋気象台(現神戸地方気象台)が、モーターボート「海洋丸」(3トン)を用いて海洋観測をはじめてから、ちょうど100年に当たります。この百年間に、様々なニーズに応じて、先駆的に海洋の諸現象を観測し、 黒潮・親潮の実況把握、エルニーニョ現象発生時の海洋変動の把握、大気海洋間の二酸化炭素交換量の把握、北太平洋の海流変動の把握などの成果を挙げ、その成果は海況予報、エルニーニョ監視・予報、地球温暖化関連情報の提供に大きく貢献してきました。  この10年間は、国際的な枠組の下、日本の気象・気候に大きな影響を与える北西太平洋域(日本近海から赤道や日付変更線までの海域)において、海洋気象観測船「凌風丸」(平成7年(1995年)竣工)及び「啓風丸」(平成12年(2000年)竣工)による海洋観測を季節ごとに実施し、気候・海洋変動の監視に当たっています。観測船は海洋の内部構造や大気海洋の相互作用を捉え、気象予測・地球温暖化予測の精度向上を図る上で欠かせない海洋観測の基盤プラットフォームであり、地球温暖化の進行に影響する海洋の二酸化炭素、深層循環を捉える唯一の観測手段ともなっています。  近年、令和元年東日本台風のような猛烈な勢力の台風や令和2年7月豪雨の集中豪雨による被害が顕在化しています。これらの現象の予測精度向上には、台風や線状降水帯の発生・発達に必要な水蒸気量や熱の供給源である海洋の状況を精度良く把握することが必要です。  海洋観測の新しい世紀を迎えるに当たって、異常気象に影響を与える海洋の状況を精度良く把握できる観測船の能力の充実・強化がますます重要になっています。 Ⅳ 近年の地震・津波・火山の取組 トピックスⅣ-1   東日本大震災から10年~地震・津波分野における気象庁の取組~ (1)はじめに  平成23年(2011年)3月11日14時46分、東北地方太平洋沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震が発生しました。この地震により、東北地方から関東地方にかけての太平洋沿岸を中心に巨大な津波が襲い、甚大な被害を受けました(この地震により引き起こされた災害のことを「東日本大震災」と呼びます。)。気象庁では、東日本大震災で明らかとなった地震・津波分野における情報発表等に関する課題を踏まえ、その解決、改善に向けた取組を進めてきました。本トピックスでは、東日本大震災以降の10年において、気象庁が行った地震・津波分野における取組について紹介します。 (2)津波警報等※の改善に関する取組 ア.津波警報等の運用の見直し(平成25年(2013年)3月)  東日本大震災では、津波による甚大な被害が発生したことから、津波警報等の改善が最優先の取組となりました(※ここでは、大津波警報、津波警報、津波注意報を総称して「津波警報等」とします。)。  東日本大震災では、津波そのものの予測と、情報における伝え方が課題となりました。前者は、地震発生当初、地震の規模(マグニチュード)を小さく見積もってしまったこと、また、強い揺れで広帯域地震計が振り切れてしまったため、その後のマグニチュードの精査ができず、津波警報等の切替えができなかったことが挙げられます。また、後者は、津波警報等で、地震規模を過小評価した中で発表した「予想される津波の高さ3m」という表現や、観測結果である「第1波0.2m」等の情報が避難の遅れにつながった、との指摘が挙げられます。  これらの課題を踏まえて、気象庁では、平成25年(2013年)3月より、巨大地震に対する津波警報等の運用を以下のとおり見直しました。 ① 巨大地震による津波の規模の過小評価の防止  マグニチュード8を超えるような巨大地震の場合は、精度のよい地震の規模をすぐには把握できません。そのため、巨大な地震の可能性を評価する手法を用意しました。即時に決定した地震の規模が過小であると判定した場合には、その海域で発生しうる最大級の津波を想定して、大津波警報や津波警報を発表することとしました。 ② 広帯域強震計を用いたより正確な地震の規模の決定  強い揺れも観測できる「広帯域強震計」を全国80地点に整備しました。これにより、巨大地震の場合にも、地震発生後15分程度で、より正確なマグニチュードを算出することができます。 ③ 「巨大」という言葉を使った大津波警報で、非常事態であることを伝達  巨大地震の可能性がある場合は、第1報の津波警報等では、予想される津波の高さを、「巨大」、「高い」という言葉で発表して非常事態であることを伝えることとしました。 ④ 予想される津波の高さを、1m、3m、5m、10m、10m超の5段階で発表  精度よくマグニチュードが求まった場合、予想される津波の高さを数値に切り替えます。より防災行動をとりやすくするため、以前は8段階で発表していた予想される津波の最大波の高さについて、想定される被害ととるべき行動を整理し、1m、3m、5m、10m、10m超の5段階で発表することとしました。  予想される津波の最大波の高さは、各区分の高い方の値を発表します。例えば、3~5メートルの津波が予想された場合は、「大津波警報」を発表し、「予想される津波の高さは5m」と発表します。 ⑤ 高い津波が来る前は、津波の高さを「観測中」と発表  大津波警報や津波警報が発表されている時には、観測された津波の高さを見て、これが最大だと誤解しないように、一定の数値を下回る高さの場合には、津波の高さを数値で表わさずに、「観測中」と発表することとしました。津波は何度も繰り返し襲ってきて、あとから来る津波の方が高くなることがあります。 ⑥ 沖合で観測された津波の情報をいち早く伝達  沖合の津波観測データを監視し、沿岸の観測よりも早く、沖合における観測値と沿岸での推定値を発表するとともに、予想より高い津波が推定されるときには、直ちに津波警報等を切替えることとしました。 イ.近年の取組  平成28年(2016年)からは、国立研究開発法人防災科学技術研究所が運用するケーブル式海底津波計の観測データ(日本海溝海底地震津波観測網(S-net)及び地震・津波観測監視システム(DONET)の観測データ)を津波の監視に順次活用することとしました。これらデータの活用により、沖合での津波の検知が最大20分程度早くなることから、津波警報等の切替えや沖合の津波観測に関する情報発表の迅速化を図ることができます。  また、平成31年(2019年)3月からは、複数の沖合観測点で観測される津波波形データを用いて、より精度良く津波の高さを予測する手法(tFISH : tsunami Forecasting based on Inversion for initial sea-Surface Height)を新たに導入し、津波警報等の切替えに活用することとしました。これにより、沿岸に到達する津波の高さの予測の精度向上を図っています。 (3)緊急地震速報の改善に関する取組  東日本大震災では、緊急地震速報は地震発生直後に直ちに発表されましたが、マグニチュードを小さく見積もり、実際より小さな震度を予想しました。その後、停電や通信障害による観測データの途絶により、緊急地震速報の未発表が生じ、また、精度も低下しました。さらに、本震後、各地で地震活動が活発になり、様々な地域で地震が同時発生しましたが、このような場合に緊急地震速報を適切な内容で発表できませんでした(計算処理において、同時に発生した2つの地震を同一の地震とみなし、震源やマグニチュードを誤って推定したことが原因です)。  以上の課題を踏まえ、気象庁では、緊急地震速報の技術的な改善に取り組み、同時に複数発生する地震についても精度良く震源を推定することができるIPF法の導入(平成28年(2016年)12月)や、巨大地震の際にも精度良く震度予想ができるPLUM法(周辺の揺れの観測値から震度を予想する手法)の導入(平成30年(2018年)3月)を実施するとともに、いかなるときでも緊急地震速報を適切に発表できるよう、巨大地震発生時における観測データの確保(電源・通信の強化)や活用する観測データの充実にも取り組みました。 ① IPF(Integrated Particle Filter)法の導入  IPF法は、震源決定や同一地震かどうかの判定において、従来別々に用いたデータや手法(地震波の到達時刻や振幅等)を統合的に用いる手法であり、パーティクルフィルタという手法を用いて震源要素を短時間で求めるなどの効率化を行っています。IPF法は、少ない観測点であっても多くの情報を同時に処理に用いるため、緊急地震速報で用いる震源要素の信頼性が向上しました。 ② PLUM(Propagation of Local Undamped Motion)法の導入  PLUM法では、震源や規模の推定をせず、地震計で観測された揺れの強さから直接震度を予想します。これは「予想地点の付近の地震計で強い揺れが観測されたら、その予想地点でも同じように強く揺れる」という考えに従った予想手法であり、予想してから揺れがくるまでの時間的猶予は短時間となりますが、広い震源域を持つ巨大地震であっても精度良く震度を予想することが可能となりました。 ③ 緊急地震速報に活用する観測データの確保・充実  気象庁では、東日本震災直後から震度計、地震計の電源・通信機能強化に着手し、停電時でも72時間の観測が維持できるようバッテリーを強化するとともに、通信障害が生じた際に衛星回線を活用するよう通信機能の強化を実施しました。また、太平洋沿岸を中心に地震観測点を50点増設(平成27年(2015年)3月活用開始)したほか、他機関の観測点の活用も進め、国立研究開発法人防災科学技術研究所が運用しているS-net、DONETや基盤強震観測網(KiK-net)のデータも活用するなど、緊急地震速報に活用する観測データの充実を図っています。このうち、S-netとDONETの観測データの活用は、海域で発生した地震に対する緊急地震速報の迅速化に寄与するものであり、日本海溝付近で発生する地震については最大で30秒程度、紀伊半島沖から室戸岬沖で発生する地震については最大10秒程度緊急地震速報を早く発表できるようになりました。 (4)その他の取組等  東日本大震災では、震源から遠く離れた東京都心や大阪市の高層ビルの上層階において、ゆっくりとした大きな揺れである「長周期地震動」が発生し、エレベータの停止や閉じ込め、内装機材の破損等が生じました。気象庁では、高層ビル内における防災対応に資するよう、地震発生時における高層ビル内の人の行動の困難さや、家具や什器の移動・転倒などの被害の程度から、長周期地震動の強さを4つの段階に区分した「長周期地震動階級」を設定し、平成25年(2013年)3月より、ホームページにおいて長周期地震動の観測情報を提供しています。さらに、長周期地震動の予測情報についても、令和2年(2020年)9月から、民間事業者による予報業務の許可を開始しました。  また、東日本大震災では、聴覚障害者への情報伝達の問題点として、「防災行政無線、サイレン、広報車による呼びかけが聞こえなかった」こと、「停電によりテレビ(字幕)や携帯メール等が使えなかった」ことが挙げられました。このため、気象庁では、聴覚障害者に津波警報等を確実に伝えられるよう、津波警報等の視覚による伝達手段である「津波フラッグ」(赤と白の格子模様の旗)の普及を進めています(トピックスⅣ-2参照)。加えて、東日本大震災での経験・教訓を風化させないよう、地元の気象台と自治体等関係機関・団体が連携した普及啓発活動も進めています(次ページコラム参照)。日本は地震国であり、大きな被害を伴う地震はいつ発生してもおかしくありません。気象庁では引き続き、地震・津波分野における取組を着実に進め、防災・減災につながるよう、適時的確な情報発表に努めてまいります。 コラム ■震災伝承と防災啓発に総がかりで取り組むために~みやぎ防災・減災円卓会議のメッセージ~ みやぎ防災・減災円卓会議共同世話人 宮城教育大学特任教授 武田 真一  「東日本大震災のような犠牲と混乱を繰り返さないようにしたい」。311を経験した被災者、関係者が、発災後からこれまでずっと願い続けているのは、その一点です。復興のステージが最終盤を迎える中、教訓と知見を共有して次なる大災害に備えを進める伝承と啓発こそが、これから被災地の内外で最も必要される取り組みに違いありません。  研究機関、政府機関、自治体、メディア、企業、NPO、それぞれが懸命に個々の発信努力を重ねてきましたが、これらがバラバラではなく、一つの意識や取り組みとしてまとまるならば、それが理想でしょう。2015年から宮城県仙台市で活動を続ける「みやぎ防災・減災円卓会議」は、その理想を求めて被災地に生まれた小さな集まりです。震災10年を経過して風化が懸念されるいま、伝承と啓発に関係機関、関係者が総がかりで取り組もうという円卓会議のメッセージは、改めて重みを増していると受け止めています。  円卓会議は発足から6年間、例会での会員の活動共有と情報交換のほか、①拠点となる公的な組織づくり、②市民向け啓発イベントの提案、③メディアと研究機関の連携強化、という三つの具体的な目標を掲げて活動してきました。②については防災運動会の企画と開催、③は派生組織「みやぎ『災害とメディア』研究会」の結成という形で実現しました。①の拠点組織は継続課題になっています。みやぎ「災害とメディア」研究会には仙台管区気象台の皆さんも参加いただき、年1度の被災地視察研修で新聞社、放送局の記者・デスクとの交流を重ねています(コロナ禍で一部中断あり)。  2020年度は震災10年に向けたプロジェクトに取り組み、震災に寄せる会員の思いとメッセージを集約し記録したほか、震災について会員が2日間にわたって徹底討論する「とことんトーク」も開きました。専門や所属の枠を超えて、研究者や自治体職員、メディア関係者、伝承活動の担い手らが協働する姿を広く発信でき、連携する意義を広くアピールできたものと総括しています。  運営課題は多々ありますが、同様の横断的で緩やかな情報交換や実践の集まりは、あるようでないのが現実です。震災10年以降も引き続き、円卓会議にはプラットフォームとしての機能が期待されるでしょう。311を起点に、災害による犠牲と混乱を繰り返さない誓いを共有する被災地の仲間が、より深く広く連動できるよう努めてまいります。 【みやぎ防災・減災円卓会議】  2015年4月、東北大学災害科学国際研究所の今村文彦所長と当時地元紙・河北新報社に所属していた武田が共同世話人となり、産学官民・メディアなど45団体・70人で発足。「緩やかに連携し、互いの活動を共有し、情報や意見を交換する場の機能を重視する」と活動方針を定め、月1回から隔月で参加団体による活動報告を軸に河北新報社等で例会を開く。規約も会費の徴収もない任意団体。名簿上は現在90団体、200人が参加。 http://entaku.main.jp/entaku/ トピックスⅣ-2 「津波フラッグ」による津波警報等の伝達 (1)「津波フラッグ」とは  気象庁が発表する津波警報等は、テレビやラジオ、携帯電話、サイレン等様々な手段で伝達されますが、令和2年(2020年)6月から、海水浴場等における津波警報等の伝達に、赤と白の格子模様の旗である「津波フラッグ」が活用されるようになりました。津波フラッグは遠方からでも視認性が高く、その色彩(国際信号旗の「U旗」と同様の色彩)は国際的にも認知されています。このため、津波フラッグを用いることで、聴覚に障害をお持ちの方や、波音や風で音が聞き取りにくい遊泳中の方はもちろんのこと、外国人の方にも津波警報等の発表をお知らせできるようになります。  津波フラッグは、海岸や津波避難ビル等においてライフセーバー等により掲出されます。また、海岸近くの建物から垂れ下げることにより掲出される場合もあります。海水浴場や海岸付近で津波フラッグを見かけたら、速やかに避難を開始してください。 (2)津波フラッグの周知・普及  気象庁では、より多くの海水浴場等で津波フラッグが活用されるよう、また、より多くの方々に津波フラッグを覚えていただけるよう、津波フラッグの周知・普及活動を全国的に進めています。関係機関・団体と連携した活動も推進しており、公益財団法人日本ライフセービング協会とは、令和2年(2020年)12月に、津波フラッグの一層の普及に向けた連携を強化することを目的とした協定を締結しました。  気象庁では引き続き、津波フラッグの全国的な普及に向け、しっかりと取り組んでまいります。 コラム ■海岸利用者の迅速な津波避難の実現に向けて 公益財団法人日本ライフセービング協会理事/溺水防止救助救命本部長 国際ライフセービング連盟レスキュー委員、海上保安庁海の安全推進アドバイザー 石川 仁憲  わが国のライフセービング(海岸における水難救助活動)は1961年に始まり、今日では全国約200ヶ所の海水浴場等において有資格者のライフセーバーが活動している。この200ヶ所の総利用者数800~1,200万人に対、毎シーズン2,000~3,000件の救助(心肺蘇生が必要な溺水事故20~30件を含む)、15,000~25,000件の傷病が発生し、ライフセーバーが対応している。一方、海水浴場には地域内外から多くの利用者訪れ、地域によってはピーク時の1日あたりの利用者数は数万人となり、津波来襲時には、このような多くの利用者の迅速な避難が求められる。津波避難に関する日本ライフセービング協会(以下「JLA」という。)の取り組みは、2004年12月のスマトラ島沖地震による大津波災害後に本格的に進められた。各海水浴場における津波対策の実態調査の結果、当時はハザードマップが未整備な海岸も多かったことから、ライフセーバーに津波避難に関する知識の普及・伝達を進めた。その後、2011年3月11日の東日本大震災を受け、再度、津波対策の実態調査を行うとともに、津波警報時のライフセーバーの基本原則と行動を議論するシンポジウムを開催し、「津波に対するライフセーバーの行動ガイドライン(2011年6月)」を策定した。このガイドラインでは、ライフセーバーは十分な予防対策をとるとともに、津波警告時には、地方自治体や地元の人々と協力して自らが率先避難者となり、海岸利用者とともに海岸から安全域まで率先して避難することとしている。ここで、海岸利用者への情報伝達は、放送等により注意喚起を行ってもオンショア(海から陸に吹く風)のコンディションでは海域の利用者に届き難いことから、音(聴覚)だけでなく旗(視覚)による周知が有効であり、海水浴場では、遊泳禁止は赤旗、遊泳注意は黄色旗、遊泳可は青旗を掲揚することは全国的にほぼ統一されている。しかし、当時は津波警報時に掲揚する旗は各地域で様々であった。そこで、JLAでは、国際ライフセービング連盟が推奨する旗の種類のひとつに、Emergency Evacuation(直ちに水域から避難せよ)を意味する赤と白の格子模様の旗があることから、これを津波避難時(注意報、警報発表時)の旗として推奨した(2013年)。これは、この度の気象庁により設定された津波フラッグと同じデザインとなる。この他、音に関する整備として、津波避難時に放送する日本語と英語のアナウンスCDを作成し、各海水浴場に配布した(2018年)。このように、JLAでは海岸域における津波対策を進めてきたが、津波フラッグを活用した迅速かつ確実な避難を実現するためには、海岸管理者、地方自治体、公的救助機関、海水浴場開設者、ライフセーバー、海岸利用者による継続的な避難訓練の実施が求められる。  神奈川県内のライフセーバーが活動する25箇所の海水浴場等では、2020年に津波フラッグの配備が完了した。気象庁とJLAとの協定締結(2020年12月)を受け、水辺の事故ゼロにむけて積極的に津波フラッグの普及展開を全国に進めていきたい。「安全はすべての人に平等でなければならない」。この度の気象庁『津波警報等の視覚による伝達のあり方検討会』での成果は、すべての人にとって安心・安全な海辺空間の実現に進んだと考える。 トピックスⅣ-3 常時観測火山における噴火警戒レベルの導入  「火山活動の状態をレベルで分類し、わかりやすく示す」という仕組みは諸外国でも多く導入されており、防災機関や住民などの関係者が共通の認識を持つための、いわば「ものさし」としての役割を果たしています。以下ではこの「ものさし」に関する気象庁のこれまでの取組を振り返ります。  気象庁では、平成15年(2003年)11月から、浅間山、伊豆大島、阿蘇山、雲仙岳、桜島の5火山について、「火山活動度レベル」の公表を開始し、対象火山を順次拡大してきました。更に、平成19年(2007年)12月には、噴火警報の発表開始に合わせ、「火山活動度レベル」に代わる新たな指標である「噴火警戒レベル」を導入しました。  噴火警戒レベルは、火山活動に応じた「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災行動」を5段階に区分した指標で、各レベルに避難等の具体的な防災対応を示すキーワードを設定しています。噴火警戒レベルは、地元の自治体や関係機関で構成される火山防災協議会での共同検討を通じ、レベルに応じた防災対応が定められた火山において、噴火警報・予報に付して発表されます。噴火警戒レベルを活用することで、住民や登山者の方にとるべき行動を分かりやすく伝えるとともに、市町村等の防災機関は、あらかじめ地域で合意された、統一的な防災対応を行うことができます。  当初は16火山で運用が始まった噴火警戒レベルですが、気象庁が24時間体制で監視・観測を行っている「常時観測火山」(今後100年程度の中長期的な噴火の可能性及び社会的影響を踏まえ火山噴火予知連絡会が選定)のうち、周辺に住民や登山者等がいない硫黄島を除く49火山を対象に、順次運用を拡大しています(令和3年(2021年)3月現在で48火山)。また、噴火警戒レベルの運用を開始した火山においても、火山防災協議会における検討・協議を通じたレベルの改善や、協議会構成機関と連携した噴火警報等の利活用のための普及啓発など、火山災害の軽減のための取組を進めています。 コラム ■新型コロナウイルス感染症対策を行い実施した蔵王山における火山防災訓練  気象庁では、各火山の火山防災協議会と協力し、平時から訓練などの機会を通じて、噴火警戒レベルに応じた防災対応の流れを整理・共有し、理解を深め、有事の対応に備えるための取組を進めています。このような取組の一つとして、令和2年(2020年)11月26日に宮城県蔵王町において、蔵王山火山防災訓練(国土交通省東北地方整備局新庄河川事務所主催)が行われました。  訓練では、火山活動に高まりが見られた場合や噴火が発生した際の対応について、シナリオ(時系列)に沿って、取るべき行動や役割分担を確認するとともに、伝達すべき情報や連携が必要な事項などについて整理を行い、地域全体の防災対応の共有や改善のための検討を行いました。今回の訓練では、新型コロナウイルス感染症拡大の状況を踏まえ、第1会場である蔵王町のほか、山形県山形市及び同県上山市の会場をオンライン接続することで、各会場における参加人数を制限しました。さらに、訓練を短時間で効率的に行えるよう、訓練の進め方の説明動画や山形大学の伴教授による「蔵王山におけるこれまでの火山活動と今後想定される現象」の講演動画が事前配付され、参加者は自己学習を行った上で訓練に臨みました。  訓練には、宮城・山形両県の自治体、警察、消防、自衛隊、整備局、気象台の計18機関が、最寄りの会場から参加しました。訓練会場では、検温、手指の消毒、マスク着用の徹底のほか、広い会場で換気を十分に行う、機関ごとにテーブルを分けてソーシャルディスタンスを確保する、他機関への連絡は付箋に記入して伝えるなど、密を避けるための対策が取られました。  参加者が一堂に集まる対面型の訓練に比べて、参加者間の意見交換が難しくなる、やり取りに時間を要するという面もありましたが、テーブル間・会場間の伝達を支援するためのスタッフを配置する、防災対応等をシートに貼付して全体で共有・整理するなどの工夫により、円滑に訓練を進めることができました。参加者からも、実際の防災対応でもオンラインによる情報交換等が想定されることから、有事に備える有効な訓練であったとの感想や、次回の訓練に向けた改善点が挙げられるなど、今後も同様の形式を望む声が多くありました。感染症対策との両立という難しい面がありましたが、制約がある中でも効果的な訓練ができたものと考えられます。  火山災害が発生する頻度は低いものの、ひとたび噴火が起こると、その影響が広域かつ長期的に渡ることもあるため、日ごろから地域が一丸となった防災対策を進めることが重要です。気象庁では、今後も火山災害から住民や観光客の方々を守るため、オンラインを含めた様々な手段を活用し、関係機関と連携しつつ、火山防災対応の更なる強化に取り組んでいきます。 第1部 国民の安全・安心を支える気象業務 序章 はじめに 1節 気象情報の流れ  気象庁は、気象・海洋や地震・火山などの自然現象を常に監視・予測し、的確な気象情報を提供することによって、自然災害の軽減、国民生活の向上、交通安全の確保、産業の発展などを実現することを任務としています。気象庁では、これらの自然現象に関する防災気象情報を、防災関係機関にオンラインで迅速に伝達すると同時に、テレビ・ラジオやインターネット等を通じて広く国民に発表しています。  気象庁が発表する大雨警報や津波警報などの防災気象情報は、様々な伝達手段を用いて防災機関や住民へ伝達されます。  例えば、気象庁では、防災気象情報をテレビ・ラジオ等の報道機関や気象庁ホームページなどを通じて住民へ提供しているほか、都道府県や消防庁を通じて市町村等防災機関に伝達しています。市町村からは、地域の実情に応じて防災行政無線や広報車の巡回、ケーブルテレビなどを用いて防災気象情報が周知されます。また、携帯事業者の協力を得て、緊急地震速報や大津波警報、津波警報、気象等及び噴火に関する特別警報を、該当する地域にいる一人一人の携帯電話に一斉に配信する「緊急速報メール」等を用いた伝達も行っています。さらに、最近では携帯電話やスマートフォンなどの各種アプリケーションを用いて、一人一人がその地域で必要な防災気象情報を手軽に手に入れることができるようになっています。  気象庁は、防災気象情報を防災機関や住民に効果的に伝達することにより、地域における防災力の強化や気象災害に伴う被害の防止・軽減を図っています。 2節 気象庁ホームページ  気象庁ホームページでは、大雨、地震・津波、火山噴火等に関する防災情報を掲載しています。掲載している防災情報には、警報・注意報や予報等を文字や表で伝えるものや、いつ、どこで洪水や浸水害発生の危険度が高まるのかが分かる「キキクル(危険度分布)」があります。また、これらの防災情報の解説や効果的な利用方法も合わせて掲載しています。令和3年(2021年)2月に、スマートフォンでの閲覧を前提に関心のある地域の防災情報を一覧できるような構成にするなど、全面的なリニューアルを行いました(トピックスⅠ-1参照)。気象庁ホームページは、日頃から防災情報の取得に有効に活用されており、1日で約1,800万ページビュー、特に、台風が接近している時などはアクセス数が増加し、5,000万ページビューを超えることもあります。 3節 防災情報提供センター  国土交通省は、省内の各部局等が保有する様々な防災情報を、国民の皆様へ一つのホームページでインターネットから提供するため、「防災情報提供センター」というウェブサイト(https://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/)を運用しており、その運営は気象庁が担当しています。  このウェブサイトからは、気象庁と国土交通省のそれぞれのレーダーの長所を活かして合成した雨の分布に省内各部局及び都道府県などの雨量計の観測を重ね合わせて表示可能な「リアルタイムレーダー」をはじめ、河川、道路、気象、地震、火山、海洋などの、各種の災害・防災情報を容易に入手することができます。 1章 気象・地球環境の監視・予測 1節 気象の監視と情報発表 (1)気象等の特別警報・警報・注意報及び気象情報 ア.気象等の特別警報・警報・注意報及び気象情報の役割  気象庁は、大雨や暴風などによる災害の防止・軽減のため、気象等の特別警報・警報・注意報及び気象情報などの情報(防災気象情報)を発表しています。災害に結びつくような激しい現象が予想されるときには、まず数日前から気象情報や早期注意情報(警報級の可能性)を発表し、その後の危険度の高まりに応じて注意報、警報、特別警報を段階的に発表することで、都道府県、国の機関等の防災活動、市町村の避難情報、住民の避難行動等の判断を支援しています。これらの内容や発表タイミングについては、平常時から防災関係機関との間で意見交換を行い、効果的な支援となるよう努めています。  特に、平成31年(2019年)3月に内閣府において「避難勧告等に関するガイドライン」が改定され、災害の危険度の高まりに応じて住民が適時的確な避難行動をとれるよう、防災情報(市町村の避難指示や気象庁の防災気象情報等の情報)に警戒レベルを明記して防災情報が提供されることとなりました。この警戒レベルは、住民がとるべき避難行動を5段階に分けて表したもので、例えば、避難指示は警戒レベル4に位置づけられています。気象庁では、この方針を受け、大雨・洪水・高潮の警報等を発表する際にどの警戒レベルに相当するか分かるように提供し、住民自らの判断による避難行動をより一層支援しています。気象に関する防災気象情報の種類を、下に示します。  なお、挙げられた防災気象情報の中でも、特に注目されることの多い大雨特別警報は警戒レベル5相当情報であり、上のような位置づけ・役割を持っています。特別警報が発表されてから避難するのでは手遅れとなります。大雨の際には、特別警報を待つことなく、地元市町村から発令される避難指示等に従って避難などを行うことが大切です。 イ.気象等の特別警報・警報・注意報 ○気象等の特別警報・警報・注意報及び早期注意情報(警報級の可能性)の発表  警報級の現象は、ひとたび発生すると命に危険が及ぶおそれがあります。このため、警報級の現象が発生すると予想される時間よりも前(最大で6時間程度前)に警報を発表することとしており、警報の発表に当たっては危険な時間帯が一目で分かるよう、警報級、注意報級の現象が予想される時間帯を色分けした時系列の表を付しています。また、警報級の現象がおおむね6時間以上先に予想されている場合には、警報の発表に先立って警報に切り替える可能性が高い注意報を発表し、警報級の現象が予想される時間帯を明示しています。こうした、警報等の発表から現象発生までの猶予時間(リードタイム)は、警報等が防災関係機関や住民に伝わり安全確保行動が取られるまでにかかる時間を考慮して設けているものです。ただし、現象の予想が難しい場合にはリードタイムを十分確保できない場合もあります。  また、警報級の現象が5日先までに予想されているときには「早期注意情報(警報級の可能性)」を[高]、[中]の2段階で発表しています。早期注意情報(警報級の可能性)は、警戒レベル1に対応します。 ○キキクル(大雨・洪水警報の危険度分布)  大雨警報や洪水警報が発表されたときに、実際にどの地域で危険度が高まっているかを5段階で示す「キキクル(大雨・洪水警報の危険度分布)」を発表しています。  5段階の危険度のうち最大の「極めて危険」(濃い紫)が出現した段階では、土砂災害がすでに発生していたり、氾濫した水により道路冠水等が発生して屋外への避難が困難となっていたりするおそれがあります。このため、大雨による災害から命を守るためには、土砂災害警戒区域や浸水想定区域、中小河川沿いにお住まいの方は、避難にかかる時間(土砂災害については約2時間等)を考慮し、遅くとも重大な災害となる可能性があるという基準に到達することが予測された「非常に危険」(うす紫)【警戒レベル4相当】が出現した時点で、速やかに避難開始の判断をすることが大変重要です。例えば、「土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)」では2時間先までの予測値が土砂災害警戒情報の基準に到達しているタイミングで避難開始の目安となる「非常に危険」(うす紫)【警戒レベル4相当】が出現し、速やかに土砂災害警戒情報が発表されます。さらに、高齢者等の方が避難を開始する目安となる大雨警報(土砂災害)については、避難にかかる時間を考慮して、土砂災害警戒情報よりも1時間程度早く発表できるような基準を設定しています。土砂キキクルで「警戒」(赤)【警戒レベル3相当】が出現すると、速やかに大雨警報(土砂災害)が発表されます。  また、大雨特別警報や大雨、洪水警報・注意報、土砂災害警戒情報が市町村単位で発表されるのに対し、キキクルは1キロメートルメッシュごとの危険度の高まりを確認することができます。大雨警報等が発表されたときには、自分がいる場所の危険度をキキクルで把握して、避難指示等が発令されていなくても自ら避難の判断をしてください。  なお、危険度が高まっていなくても、自治体から避難指示等が発令された場合には、速やかに避難行動をとってください。 ウ.各災害に関する防災気象情報 ○土砂災害に関する防災気象情報  土砂災害は、建物に壊滅的な被害をもたらし一瞬のうちに尊い人命を奪ってしまう恐ろしい災害です。大雨によって土砂災害発生の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて段階的に、大雨注意報【警戒レベル2】、大雨警報(土砂災害)【警戒レベル3相当】、土砂災害警戒情報【警戒レベル4相当】等を市町村単位で発表しています。このうち、土砂災害警戒情報は、命に危険を及ぼす土砂災害がいつ発生してもおかしくない状況となったときに、市町村長の避難指示や住民の自主避難の判断を支援するために都道府県と気象庁が共同で発表しています。さらに、これらの情報が発表されたときに実際にどこで危険度が高まっているかを把握できるように、地図上で1キロメートル四方の領域(メッシュ)ごとに危険度の高まりを5段階に色分けして表示した「土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)」を常時10分ごとに更新しています。  崖や渓流の付近など、土砂災害によって命が脅かされる危険性があると認められる場所は、都道府県が土砂災害警戒区域や土砂災害危険箇所(以下「土砂災害警戒区域等」という。)に指定しています。こうした区域にお住まいの方は「土砂キキクル」を用いて早めの避難を心がけてください。 ○浸水害に関する防災気象情報  下水道等で排水しきれないほどの大雨が短時間で降ると、河川の氾濫が発生していなくても、周囲より低い窪地や道路のアンダーパス等に雨水が集まって家屋の床上浸水や道路冠水等の浸水害(いわゆる内水氾濫)が発生します。こうした浸水害の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて段階的に、大雨注意報【警戒レベル2】、大雨警報(浸水害)等を発表しています。さらに、これらの防災気象情報が発表されたときや雨が強まってきたときに、どこで危険度が高まっているかを把握できるよう、地図上で1キロメートル四方の領域ごとに危険度の高まりを5段階に色分けして表示した「浸水キキクル(大雨警報(浸水害)の危険度分布)」を常時10分ごとに更新しています。住宅の地下室や道路のアンダーパスは特に危険ですので、「浸水キキクル」を用いて、各自の判断で、こうした場所から離れ、屋内の浸水が及ばない階に移動するなどの安全確保行動をとってください。 ○洪水災害に関する防災気象情報  河川の上流域における降雨や融雪によって洪水災害発生の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて段階的に洪水注意報【警戒レベル2】、洪水警報【警戒レベル3相当】を発表しています。また、これらが発表されたときに実際にどの河川のどこで危険度が高まっているかを把握できるように、危険度の高まりに応じて、地図上で河川流路をおおむね1キロメートルごとに5段階に色分けして表示した「洪水キキクル(洪水警報の危険度分布)」を常時10分ごとに更新しています。洪水キキクルには「指定河川洪水予報」(後述)の危険度も重ねて表示しています。 ・中小河川の洪水害に関する防災気象情報  中小河川は、流域面積が比較的小さく、上流域に降った雨が河川に集まるまでの時間が短いため、短時間のうちに急激な水位上昇が起きやすい特徴があります。洪水危険度の急激な高まりに気付きにくいため、不意を突かれて逃げ遅れることのないよう早めの避難が必要となります。  中小河川であっても氾濫した際には家屋が押し流されたり、場所によっては浸水の深さが最上階の床の高さにまで達したりするおそれがあります。特に、山間部を流れる中小河川(山地河川)は、勾配が急で流れが速く、氾濫する前から水流によって川岸が削られて川沿いの家屋が押し流されるおそれがあるほか、氾濫した際も幅の狭い谷底平野に流路が限定されるため、谷底平野全体が川のようになって水かさが深くなりやすく、破壊力の大きな氾濫流が生じて家屋が押し流されるおそれもあります。「洪水キキクル」では、実際に急激な水位上昇が起きるより前の早い段階から、洪水危険度の急激な高まりの見込みを事前に把握できるようにしています。こうした区域にお住まいの方は「洪水キキクル」を用いて早めの避難を心がけてください。また、上流地点に出現した危険度の高まりは、その後、下流に移動してくる傾向がありますので、上流地点の危険度も含めて確認することで、自らに迫る危険をいち早く覚知して早めの準備や判断ができます。 ・大河川の洪水災害に関する防災気象情報  大河川は流域面積が広く、氾濫が発生すると、大量の氾濫水で周辺の家屋が押し流され、浸水も広範囲にわたり、場所によっては深く浸水した状態が長期間継続します。  流域面積が大きく洪水により大きな損害を生ずる河川については、気象庁は国土交通省又は都道府県と共同で「指定河川洪水予報」を発表しています。発表する情報は、危険度の高まりに応じて「氾濫注意情報」、「氾濫警戒情報」、「氾濫危険情報」、「氾濫発生情報」の4つがあり、河川名を付して「○○川氾濫危険情報」のように発表します。これらの情報と警戒レベルとの対応を図にまとめました。  氾濫が発生したときに水流で家屋が押し流されてしまう場合や浸水の深さが最上階の床の高さまで達してしまう場合等には命に危険が及びます。こうした危険のある家屋等にお住まいの方は自治体の避難情報や河川の水位情報に留意するとともに、指定河川洪水予報の氾濫危険情報が発表された時点で家屋等からの立退き避難を開始し、浸水想定区域の外の安全な場所に避難することが大変重要です。  これら大雨による災害について、危険度の高まりに応じて段階的に発表される防災気象情報、市町村の対応例、住民の方にとっていただきたい行動等の概要を図のようにまとめました。 ○気象等の特別警報・警報・注意報の発表区域と発表基準  気象等の特別警報・警報・注意報や土砂災害警戒情報は、おおむね市町村単位で発表しており、災害発生に密接に結びついた指標(風速、潮位や後述の指数など)を用いて発表基準を設定しています。警報・注意報の基準は、市町村ごとに過去の災害を網羅的に調査した上で、重大な災害が発生するおそれのある値を警報の基準に、災害が発生するおそれのある値を注意報の基準に設定しています。例えば、暴風警報の基準は「風速がこの値以上に到達すると重大な災害が発生するおそれがある」という値を設定しています。土砂災害や浸水害、洪水災害発生の危険度を判断する基準には、過去約25年分の災害データを用いています。例えば、土砂災害警戒情報の基準は「この基準を超えると、過去の重大な土砂災害の発生時に匹敵する状況となり、この段階では命に危険を及ぼす土砂災害がすでに発生していてもおかしくない」という基準を設定しています。地盤が崩れやすく土砂災害が発生しやすい地域では、過去の土砂災害履歴に基づき土砂災害警戒情報等の基準が低く設定されています。このように、大雨、洪水警報等やキキクルの基準には地盤の崩れやすさの違いや河川の貯留施設等の影響なども一定程度反映されています。また、特別警報の基準は、数十年に一度という極めてまれで異常な現象を対象として設定しています。  特別警報・警報・注意報や土砂災害警戒情報は、基準以上に到達する現象が予想されるときに発表します。  なお、強い地震により地盤がゆるんだり、火山噴火により火山灰が積もったりしている地域では、降雨に伴う災害が通常よりも起きやすくなります。このような場合は、通常よりも警戒を高めるため、都道府県などと協議の上で、大雨警報などの基準を暫定的な値に引き下げて運用することがあります。 ○高潮災害に関する防災気象情報  台風や低気圧等の接近に伴う海面の上昇により、高潮災害が発生するおそれがあると予想されるときには高潮警報【警戒レベル4相当】や高潮警報に切り替える可能性が高い注意報【警戒レベル3相当】、高潮注意報【警戒レベル2】を発表しています。これらの警報等には、市町村長による避難指示等の発令区域の判断を支援するため、予想される最高潮位(高潮の高さ)の標高を記載しています。高潮災害で命に危険が及ぶ範囲は高潮の高さによって大きく異なります。自治体のハザードマップなどで潮位(標高)に応じた浸水区域などをあらかじめご確認ください。そして、台風等の接近時に、警報・注意報等で伝えられる予想最高潮位を用いて、どのくらいの高さの高潮が予想されているかを自らご確認ください。高潮発生時に堤防を越えた波浪が家屋を直撃する場合や氾濫した水に家屋が押し流されてしまう場合等には命に危険が及びます。こうした危険のある区域にお住まいの方は、台風や急発達する低気圧の接近が予想されているときには、高潮注意報が発表されたら予想最高潮位の標高を確認し、お住まいの場所が命を守るために家屋等からの立退き避難が必要な場所かどうか確認するようにしてください。  さらに、高潮災害が起こるような台風等の接近時には、潮位の上昇よりも先に暴風が吹き始め、屋外移動が困難となりますので、高潮警報を待つことなく暴風警報が発表された時点で避難を開始する必要があります。そして、暴風が吹き始める段階までには高潮注意報の予想最高潮位に応じた浸水想定区域の外の安全な場所への避難を完了しておくことが大変重要です。 エ.その他の防災気象情報 ○台風情報  気象庁では台風や熱帯低気圧の動きを常時監視し、これらの実況(中心位置、進行方向と速度、大きさ、強さ)と予報(進路や強さ)を「台風情報」でお知らせしています。台風及び24時間以内に台風に発達すると見込まれる熱帯低気圧については、実況と12時間先、24時間先の予報を3時間ごとに、5日先までの24時間刻みの予報を6時間ごとに発表します。さらに、台風が我が国に近づき被害のおそれが出てきた場合には、様々な防災対策に利用できるよう、上記の情報に加えて、台風の実況と1時間後の推定値を1時間ごとに、24時間先までの3時間刻みの予報を3時間ごとに発表します。台風や熱帯低気圧の予報では下の図のように、中心が70%の確率で進む範囲(予報円)と、中心が予報円内に進んだ場合に暴風域(風速(10分間平均)が毎秒25メートル以上の領域)に入るおそれのある範囲(暴風警戒域)を示します。  台風の勢力は、風速を基にして台風の「大きさ」と「強さ」で表現します。「大きさ」は風速(10分間平均)が毎秒15メートル以上の強風の範囲(強風域)を、「強さ」は最大風速を基準にしています。また、5日先までの「暴風域に入る確率」を各地域の時間変化のグラフ(3時間刻み)と日本周辺の分布図で示して6時間ごとに発表します。 ○(全般・地方・府県)気象情報  低気圧や前線などの災害に結びつくような激しい気象現象について、現象の経過、予想、防災上の留意点などを気象情報(「大雨に関する気象情報」など)として発表します。これらの情報では、図表を用いて最も注意すべき点を分かりやすく示す図形式での発表も行っています。また、少雨、高温、低温や日照不足など、長期間にわたり社会的に大きな影響を及ぼす天候についての解説も気象情報(「高温に関する気象情報」など)として発表します。 ○記録的短時間大雨情報  大雨警報の発表中に、数年に一度しか発生しないような短時間の大雨を観測した場合には記録的短時間大雨情報を発表します。この情報が発表された地域では土砂災害や浸水害、中小河川の洪水災害の発生につながるような猛烈な雨が降っていることを意味しています。  この情報が発表されたら、実際にどこで災害発生の危険度が高まっているかをキキクル(大雨・洪水警報の危険度分布)で確認してください。 ○雨の実況と予測情報(解析雨量、降水短時間予報、降水ナウキャスト)  「解析雨量」は、気象レーダー観測で得られた1時間雨量の分布を、アメダスなどの雨量計で観測された雨量で補正し、1キロメートル四方の細かさで解析したもので、10分間隔で更新します。「降水短時間予報」は、解析雨量から雨域の移動や発達・衰弱を推定し、数値予報の予測雨量も用いて、6時間先までの各1時間雨量を1キロメートル四方の細かさで予測し、10分間隔で更新します。さらに数値予報の予測雨量を用いて、7時間から15時間先までの各1時間雨量を5キロメートル四方の細かさで予測し、1時間間隔で更新します。これらは気象庁ホームページの「今後の雨」で提供しています。  一方、積乱雲などの極めて短時間に雨の強さが変化する雨雲に対応するため、きめ細かな雨の実況と予測情報を提供するのが「降水ナウキャスト」です。5分ごとの雨の強さの分布を250メートル四方の細かさ(30分先まで。35分から60分先までは1キロメートル四方の細かさ)で予測するもので、5分間隔で更新します。降水ナウキャストでは、全国20か所の気象ドップラーレーダーのデータに加え、気象庁、国土交通省及び地方自治体が保有する全国約10,000か所の雨量計の観測データ、ウィンドプロファイラやラジオゾンデの高層観測データ、国土交通省レーダー雨量計のデータも活用して、雨域の内部を詳しく解析することにより、きめ細かな解析や予測を実現しています。降水ナウキャストは気象庁ホームページの「雨雲の動き」で提供しています。ボタンで表示を切り換えることで、後述の竜巻発生確度ナウキャストや雷ナウキャストを表示することができます。なお、従前の「降水ナウキャスト」(1キロメートル四方で1時間先までの降水強度(更新頻度5分ごと)と10分間降水量(更新頻度10分ごと)を予測)は令和3年2月の気象庁ホームページリニューアルにより気象庁ホームページ上での提供を終了しましたが、一般財団法人気象業務支援センターからの配信は継続しています。 ○雪の実況(解析積雪深・解析降雪量)  現在の積雪の深さと降雪量の分布を推定した情報として「解析積雪深・解析降雪量」を提供しています。解析積雪深は、解析雨量や緻密な数値予報モデル(局地モデル)による降水量、気温、日射量の予測値などを基に積雪の深さを計算した後、アメダスの積雪深(観測値)で補正することにより、積雪の深さの実況を1時間ごとに約5キロメートル四方の細かさで解析します。解析降雪量は、1時間ごとの解析積雪深の増加量を一定時間分積算して作成します。例えば、12時間分積算したものを12時間降雪量と言います。気象庁ホームページで提供している「現在の雪」では、雪の状況を道路・鉄道等の地図情報と重ね合わせて見ることができます。解析積雪深・解析降雪量は、雪の観測が行われていない地域を含めて積雪の深さと降雪量の分布の把握が容易であり、外出予定の変更や迂回経路の選択等に利用することができます。 ○積乱雲に伴う激しい気象現象に関する情報 ・竜巻発生確度ナウキャストと竜巻注意情報  積乱雲に伴う竜巻などの激しい突風から身の安全を確保するための気象情報として、「竜巻発生確度ナウキャスト」と「竜巻注意情報」を提供しています。竜巻発生確度ナウキャストは、気象ドップラーレーダーにより観測される風のデータなどから、竜巻などの激しい突風が発生する可能性(発生確度1・2)を10キロメートル四方の細かさで解析し、その1時間先(10~60分先)まで予測するもので、10分間隔で更新します。竜巻注意情報は、天気予報と同じく各都道府県をいくつかに分けた地域に対して発表しますが、竜巻発生確度ナウキャストが発生確度2と判定した地域に加え、竜巻の目撃情報が得られて引き続き竜巻の発生する可能性が高いと判断した地域にも発表します。竜巻注意情報が発表されたとき、情報発表から1時間程度は竜巻などの激しい突風に対する注意が必要です。 ・雷ナウキャスト  落雷による被害を防ぐための気象情報として、「雷ナウキャスト」を提供しています。雷ナウキャストは、雷監視システムによる雷放電の検知や気象レーダーにより観測される雨雲の発達などから、雷の状況を1キロメートル格子の細かさで解析し、その1時間後(10分~60分先)まで予測するもので、10分間隔で更新します。雷の状況は、活動度1~4で表します。このうち活動度2~4となったときには、既に積乱雲が発達しており、いつ落雷があってもおかしくない状況です。屋外にいる人は建物の中に移動するなど安全の確保に努めてください。 (2)天気予報、週間天気予報、季節予報  天気や気温は、日々の生活と密接に関わっています。例えば、今日は傘を持って行った方がよいか、週末に予定している旅行ではどんな服装をすればよいかといったときに、天気予報が役に立ちます。 ア.天気予報  天気予報は、毎日5時、11時、17時に発表しています。天気予報には、「府県天気予報」、「天気分布予報」、「地域時系列予報」の3種類があります。  「府県天気予報」は、明後日(5時の発表では明日)までの風、天気、波の高さ、最高・最低気温、6時間ごとの降水確率を予報します。対象となる地域の1日ごとの天気をおおまかに把握する場合に適しています。  「天気分布予報」と「地域時系列予報」は、明日24時までの天気などを3時間刻みに予報しますので、府県天気予報よりも詳しい天気を知ることができます。「天気分布予報」では、面的な分布が一目で分かるので、雨が何時ころにどの辺りで降るか、気温が何時ころに何℃になるかといったことを容易に把握することができます。「地域時系列予報」では、対象となる地域の天気、風、気温の時間変化を知るのに便利です。  天気予報の発表時には、府県予報区における防災に関わる事項と、天気経過・予想(天気の実況や今後の推移)に関わる事項を簡潔に示した「天気概況」も発表します。 イ.週間天気予報  週間天気予報では、予報発表日の翌日から1週間先までの日々の天気、最高・最低気温、降水確率を、毎日11時と17時に発表しています。今日や明日の予報に比べ、さらに先の予報については、どうしても不確実性が大きくなります。週間天気予報では、その日の予報がどの程度信頼できるかという情報をお知らせするために、天気の信頼度と最高・最低気温の予測範囲を併せて示しています。信頼度は、3日目以降の予報での降水の有無について「予報が適中しやすい」ことと「予報が変わりにくい」ことを表す情報で、予報の信頼度が高いほうから順にA、B、Cの3段階で表現します。例えば、2021年4月7日11時発表の愛知県の週間天気予報では、13~14日は同じ曇り一時雨という予報ですが、14日は13日よりも信頼度が低く、予報が変わる可能性が比較的高いことを示しています。また、気温の予測範囲は、2日目以降の気温の欄に(15~19)のように括弧を付して記述しています。実際の気温がこの気温の範囲に入る確率はおよそ80%です。 ウ.季節予報  季節予報には、予報期間別に、2週間先までの気温を予報する2週間気温予報、1か月先までを予報する1か月予報、3か月先までを予報する3か月予報、夏や冬の天候を予報する暖候期予報・寒候期予報があります。そのうち1か月予報、3か月予報、暖候期予報・寒候期予報では、予報対象期間の平均的な気温や降水量などを、予報区単位で3つの階級(「低い(少ない)」、「平年並」、「高い(多い)」)に分け、それぞれの階級が出現する可能性を確率で表現しています。2週間気温予報では、代表地点の最高・最低気温の予報も行います。また、2週間気温予報の対象期間に顕著な高温や低温又は大雪が予想されたときには早期天候情報を発表して、注意を呼びかけています。それぞれの予報の発表日時とその内容は表のとおりです。また、北日本、東日本、西日本、沖縄・奄美といった大きな区分で予報する全般季節予報と、図に示す地方ごとに予報する地方季節予報があります。 (3)その他の情報 ア.光化学スモッグなどの被害軽減に寄与するための情報提供  気象庁は、光化学スモッグなどの大気汚染に関連する気象状況を都道府県に通報するとともに、光化学スモッグが発生しやすい気象状況(晴れて、気温が高く、風が弱いなど)が予想される場合には「スモッグ気象情報」や「全般スモッグ気象情報」を発表しています。また、環境省と共同で光化学スモッグに関連する情報をホームページで提供しています。 イ.熱中症についての注意喚起  一般的な注意事項として熱中症も含めた高温時における健康管理への注意を呼びかけることを目的として、日々の天気概況、気象情報の中でも、熱中症への注意の呼びかけを盛り込んで発表しています。  令和元年(2019年)6月からは、週に2回(原則として月曜日及び木曜日)、著しい高温が予想される場合は高温に関する早期天候情報を発表して注意を呼びかけています。  さらに、令和2年(2020年)7月からは関東甲信地方において、環境省と共同で熱中症の発症との相関が高い暑さ指数(WBGT)を用いた、新たな情報「熱中症警戒アラート(試行)」を発表しました。この情報は暑さ指数(WBGT)が33以上と、熱中症の危険性が極めて高い暑熱環境が予測される際に発表するもので、その危険性に対する「気づき」を促し、予防行動に繋げることを目的としています。令和2年度に関東甲信地方で発表したこの情報の効果が確認されており、令和3年(2021年)4月からは高温注意情報に代わる新たな熱中症予防対策情報として「熱中症警戒アラート」を全国で発表します(トピックスⅢ-2参照)。  これらの情報は、テレビ等の報道機関や関係機関を通じて伝えられますので、外出はなるべく避け、室内をエアコン等で涼しい環境にして過ごすなど、普段以上に熱中症予防行動を実践してください。 コラム ■平年値を更新しました  平年値は、その時々の気象(気温、降水量、日照時間等)や天候(冷夏、暖冬、少雨、多雨等)を評価する基準として利用されると共に、その地点の気候を表す値として用いられています。  気象庁では、西暦年の1の位が1の年から続く30年間の平均値をもって平年値とし、10年ごとに更新しています。平成23年(2011年)以降は、1981年~2010年の観測値による旧平年値(2010年平年値)を使用してきましたが、令和3年(2021年)5月からは、1991年~2020年の観測値による現平年値(2020年平年値)の使用を開始しました。平年値の作成においては、単純に30年間の観測値を平均するだけでなく、観測方法の変更や観測所の移転に対応した補正等を行い、現在の観測方法や場所に合致した統計値を作成しています。平年値は、気象庁ホームページの過去の気象データ検索からご覧になれます。  平年値を利用することにより、農業やエネルギー、水資源、土地利用等の様々な分野において、気候に適した計画や対策を立てることができます。 過去の気象データ検索 https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/  2020年平年値の年平均気温は、2010年平年値よりも全国的に0.1~0.5℃程度高くなります。日本の平均気温は、長期的に見て、様々な時間スケールの変動を伴いながら上昇しており、1980年代後半から急速に気温が上昇しています。その背景には、温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化による長期的な昇温傾向と数十年周期の自然変動の影響があると考えられます。こうした地球温暖化や自然変動の影響に加え、地点によっては都市化も影響していると考えられます。また、降水量は多くの地点で5%程度多くなります(右図)。 2節 気象の観測 (1)地上気象観測  気象台や測候所、特別地域気象観測所では、気圧、気温、湿度、風向・風速、降水量、日照時間などの地上気象観測を行っています。また、集中豪雨等の局地的な気象現象を把握することを目的として、これらの気象官署を含む全国各地の約1,300か所で、自動観測を行うアメダス(地域気象観測システム)により、降水量などを観測しています。このうち約840か所では、降水量に加えて、気温、湿度、風向・風速を、また、豪雪地帯などの約330か所では、積雪の深さを観測しています。  地上気象観測により得られるデータは、防災気象情報の発表等に利用されるほか、ホームページなどを通じて広く提供されています。これらの観測データは、各観測地点における気温や降水量等の情報ですが、気象庁では、「今」の気象状況を、広がりをもった情報として見ることができるよう、「推計気象分布」を合わせて提供しています。推計気象分布は、アメダスの観測データに加えて、気象衛星ひまわりの観測データや解析雨量等を用いて気温と天気及び日照時間のきめ細かな分布を算出したものであり、観測点のない場所も含め、気象状況を面的に把握できるようになっています。 コラム ■観測開始からの気象観測データのデジタル化  気象庁では、全国の気象台等における過去の地上気象観測データについて、順次、紙の記録からのデジタル化を進めてきました。これまでに降水量(日降水量・日最大1時間降水量・日最大10分間降水量)と気温(日平均気温・日最高気温・日最低気温)は観測開始から全てのデータのデジタル化が完了し、月別値・年別値等の再計算を行い、気象庁ホームページで公開しています。  これにより、降水量と気温はより長期間の変動の解析が可能となり、地球温暖化を含む気候変動の監視や調査研究、気候変動の影響評価等への利用が期待されています。  また、現在は雪や風など、気温と降水量以外のデータのデジタル化を進めています。これらについても、デジタル化完了後は気象庁ホームページでの公開を予定しています。 (2)レーダー気象観測  気象レーダーは、水平方向に回転するパラボラアンテナから電波を発射し、雨粒等によって反射されて戻ってくる電波を受信することで、どの位置にどのような強さの降水があるかを観測する装置です。気象庁は、全国20か所に設置した気象ドップラーレーダーにより、我が国の陸上全域と周辺の海上における降水の分布とその強さを5分ごとに観測しています。また気象ドップラーレーダーは、反射されて戻ってくる電波のドップラー効果を利用して、風で流される雨粒や雪の動きを観測する機能も備えています。令和元年度からは、東京レーダーを皮切りに、降水の強さをより正確に推定することが可能な「二重偏波気象ドップラーレーダー」への更新を進めています。これらの観測成果は、気象庁ホームページ等で提供されるほか、天気予報や大雨警報などの防災気象情報の発表に不可欠となっています。  昨今、我が国では、再生可能エネルギーの導入を図るため、発電用風車を大規模に設置する計画が推進されています。一方で、風車が気象レーダーの近傍に設置された場合、風車の規模、設置高度等によっては、観測に大きな影響を及ぼし、防災気象情報の的確な発表に支障をきたしかねません。このため、気象庁では、関係省庁等と連携して、風車の建設において配慮すべき事項についてホームページやリーフレットを通じた情報提供・周知に努めるとともに、風力発電事業者との個別相談を行い、風力発電事業との共存を図っています。 (3)高層気象観測 ア.ラジオゾンデ観測  天気予報を精度よく行うためには、上空の大気の動きを知る必要があります。このため、全国16地点で毎日決まった時刻(日本標準時09時、21時)に「ラジオゾンデ」という観測機器を気球に吊るして飛揚させ、地上から上空約30キロメートルまでの気圧(高度)、気温、湿度、風向・風速を観測しています。ラジオゾンデの観測資料は、天気予報のほかに航空機の運航管理や地球温暖化の監視のため重要な役割を果たしています。 イ.ウィンドプロファイラ観測  ウィンドプロファイラは、地上から上空に向けて電波を発射し、気流の乱れや雨粒によって散乱されて戻ってきた電波を利用して上空の風向・風速を観測します。気象条件によっては最大12キロメートル程度まで観測できます。全国33か所に設置したウィンドプロファイラの観測データは、実況監視や数値予報に利用され、大雨や突風等の解析や予測に必要不可欠なものとなっています。 3節 地球環境の監視・予測 (1)異常気象の監視  気象庁は、世界中から収集した観測データなどを基に、我が国や世界各地で発生する異常気象を常に監視し、週・月・季節ごとに、極端な高温・低温や多雨・少雨などが観測された地域や気象災害を取りまとめた情報を発表しています。また、社会的に大きな影響をもたらす異常気象が発生した場合は、その特徴と要因、見通しをまとめた情報を随時発表しています。  なお、気象庁では、原則として「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節等)において30年間に1回以下の頻度で発生する現象」を異常気象としています。  さらに、我が国への影響が大きな異常気象が発生した場合は、異常気象分析検討会を開催します。異常気象分析検討会では、大学・研究機関等の第一線の研究者の協力を得て、最新の科学的知見に基づいた分析を行い、異常気象の発生要因等に関する見解を迅速に発表します。 (2)エルニーニョ/ラニーニャ現象等の監視と予測  エルニーニョ現象は、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象です。逆に、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象はラニーニャ現象と呼ばれ、それぞれ数年おきに発生します。エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、日本を含む世界の様々な地域で多雨・少雨・高温・低温など、通常とは異なる天候が現れやすくなります。また、西太平洋熱帯域やインド洋熱帯域の海面水温の状態も日本や世界の天候に影響を与えます。  気象庁では、エルニーニョ/ラニーニャ現象、西太平洋熱帯域とインド洋熱帯域における海洋変動に関する最新の状況と6か月先までの見通しを、「エルニーニョ監視速報」として毎月10日頃に発表しています。 4節 気候変動の監視・予測  気象庁では、地球温暖化をはじめ気候変動に係わる問題に対処するため、温室効果ガスの変動や、気温、降水量、海面水位等の長期的な変化傾向を監視して、気候変動の現状に関する情報として提供しています。また、地球温暖化に伴う将来の気候について、数値モデルで予測計算を行い、気候変動の将来予測に関する情報として提供しています。 (1)気候変動の監視  気象庁では、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などの温室効果ガスの大気中濃度の観測を行っています。国内3地点(綾里(岩手県大船渡市)、南鳥島(東京都小笠原村)、与那国島(沖縄県与那国町))で地上付近の温室効果ガス濃度を観測しているほか、北西太平洋域において、航空機による上空の温室効果ガス濃度の観測及び海洋気象観測船による洋上大気の二酸化炭素濃度の観測(第3節参照)を行っており、これらのデータを基に我が国周辺の温室効果ガスの変動を監視しています。  上図に示される二酸化炭素等の温室効果ガスの濃度の増加の影響で地球温暖化が進行し、それに伴い、雨の降り方等も変化します。このような気候の変化を監視し、気候変動対策の基盤情報として提供するため、全世界の観測データ等を収集・解析し、その成果を世界の平均気温や降水量の長期的な変化傾向に関する情報として公表しています。また、地球温暖化に伴う国内の気候の変化を監視するため、長期的な観測データ等を基に、全国・地方を対象に平均気温や降水量、猛暑日や大雨などの極端現象の長期的な変化傾向に関する情報を公表しています。  気象庁では全国の検潮所で観測された海面水位データを基に、日本沿岸の海面水位の長期的な変化傾向を監視しています。日本沿岸の海面水位は、1906年~2020年の期間では上昇傾向は見られないものの、1980年代以降、上昇傾向が見られ、この期間でみると、日本沿岸の海面水位の上昇率は世界平均の海面水位の上昇率と同程度になっています。  令和元年(2019年)に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)海洋・雪氷圏特別報告書では、世界平均の海面水位は最近の数十年加速化して上昇しており、今後も上昇速度が増加しながら続いていき、100年に1度発生していた高潮が、2100年頃には毎年どこかで起こるようになるとの予測が示されています。  日本の沿岸でも将来的に海面水位が上昇し、顕著な高潮による災害の頻度が増す可能性もあることから、今後も引き続き海面水位の監視を行うとともに、継続して海面水位に関する情報を公表します。  気象庁は、上記のような我が国と世界の観測に基づく大気や海洋の監視情報を「気候変動監視レポート」として毎年公表しています。 (2)気候変動の将来予測  気候変動対策を講じるためには、将来の気候の状態を予測した情報が必要です。気象庁は、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加に伴って、将来の気候がどのように変化するのかを数値シミュレーションモデルを用いて予測し、気温や降水量等に関する日本全国の予測結果を数年ごとに公表しています。最新の予測情報は、令和2年(2020年)に文部科学省と共に公表した「日本の気候変動2020」です(トピックスⅢ-1(1)参照)。防災分野をはじめとした各分野の気候変動対策に活用されることが期待されます。また、気温の上がり方や雨の降り方の変化は地域によって異なりますので、同様の気候変動の予測データに基づいて、各地方の将来変化に関する予測情報も公表しています。 コラム ■気象庁の気候変動情報の利活用について 損害保険料率算出機構 リスク業務部長 鈴木 郁  私ども、損害保険料率算出機構(以下、料率機構)は「損害保険業の健全な発達と保険契約者等の利益の保護」を目的とし、会員保険会社等から大量のデータを収集し、科学的・工学的アプローチや保険数理の理論等の合理的な手法を駆使して、自動車保険・火災保険・傷害保険等の参考純率および自賠責保険・地震保険の基準料率を算出し、会員保険会社に提供しております。  自然災害による保険金の支払は災害の発生回数や規模に応じ、年度ごとの変動が大きいという特性がありますが、2011年度以降は台風や豪雪などにより保険金の支払いが高額となる傾向が続いており、特に2018年には台風第21号、また翌年の2019年には台風第15号、台風第19号と、台風・豪雨の大規模災害により、各1兆円規模の巨額な保険金支払が2年続けて発生しました。  料率機構としては、これまでも自然災害に関するリスク評価についてはシミュレーションモデルを構築し、保険料率の算出に活用してきました。今後、気候変動の影響により自然災害の激甚化が更に進んだ場合、これまで以上の巨額な保険金支払が発生する可能性があることから、気候変動が保険金の支払に与える影響については極めて高い関心をもっております。  こうした状況から、現在、気候変動予測情報を自然災害リスクの評価に活用すべく、風工学・水工学等の有識者にもご協力いただき、気候変動が保険金支払にもたらす影響に関して組織をあげて分析・研究を進めているところです。 5節 海洋の監視  地球表面の7割を占める海洋は、人間の社会経済活動に伴い排出される二酸化炭素の約3分の1を吸収するとともに、大量の熱や二酸化炭素を蓄えています。そのため、海洋は大気中の二酸化炭素濃度の増加や、それにより引き起こされる地球温暖化の進行など地球環境や気候変動に大きな影響を及ぼしています。また、海洋の二酸化炭素濃度が増加することで海洋の酸性化が進み、海洋の生態系への影響、ひいては水産業等の経済活動への大きな影響が懸念されています。  気象庁は、世界気象機関(WMO)やユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)等による国際的な協力体制の下、海洋がどれだけの二酸化炭素を吸収しているかを調べるため、日本周辺海域及び北西太平洋で海洋気象観測船やアルゴフロートなどによって海洋の観測を実施しています。  海洋気象観測船は、北西太平洋全体の主要な海流を横切るように設定された観測線に沿って、海面から海底までの海流や水温、塩分、二酸化炭素などの温室効果ガスや関連する化学物質(酸素、栄養塩(植物プランクトンが育つための栄養となるリン酸塩、硝酸塩など))の高精度な観測を実施しています。  アルゴフロートは、海面から深さ2,000メートル付近までの水温・塩分の鉛直分布を自動的に観測する機器です。WMO、IOCや各国の関係機関の連携により、全世界の海洋の状況をリアルタイムで監視するとともに、地球温暖化をはじめとする気候変動の実況把握とその予測精度向上を目指す「アルゴ計画」が推進されており、気象庁は、文部科学省などの関係省庁と連携してアルゴフロートによる観測を実施しています。  気象庁では、収集したこれらの観測データなどを用いて、地球温暖化に伴う海洋の変化や、海域ごとの海水温、海面水位、海流、海氷、海洋汚染の状態、変動の要因及び今後の推移の見通しを気象庁ホームページの「海洋の健康診断表」や「海洋の情報」で公表しています。 コラム ■地球温暖化が進行し海洋は熱を貯え続けています  海洋は、地球温暖化により増加した熱エネルギーの約90%を取り込み、地球温暖化の進行に大きな影響を与えています。このため、気象庁では、国際的な協力体制の下、海洋気象観測船やアルゴフロート等による観測を長期継続的に実施するとともに、国内外の観測データを活用して海洋に蓄えられる熱エネルギー(海洋貯熱量といいます)の見積もりを行っています。  図は、1955年以降の世界の海洋の、海面から深さ700メートルまでと、深さ700メートルから2,000メートルまでに蓄積した貯熱量を異なる色で表しています。地球温暖化の影響は海洋の表層だけでなく海洋の内部まで及んでおり、いずれの深さにおいても1990年代半ば以降、貯熱量の増加が加速しています。1955年から2020年までに海洋貯熱量は43×1022J(ジュール)増加し、平均水温は約 0.15℃上昇しました。平均水温の変化は小さいように見えますがその熱量は膨大であり、もし海がなく、この熱量で地球の大気を温めたとすると80℃以上気温が上昇することになります。 6節 環境気象情報の発表 (1)オゾン層・紫外線の監視と予測  上空のオゾン層は、太陽からの有害な紫外線を吸収し、地上の生物を保護しています。気象庁は、国内及び南極昭和基地のオゾン層・紫外線の観測結果や、地球観測衛星のデータ等を解析して、オゾン層・紫外線の毎年の状況や長期変化傾向を監視しています。これらの観測・解析の成果は、気象庁ホームページで公表しており、オゾン層保護の取組などに活用されています。  また、毎日の生活の中で紫外線対策を効果的に行えるように、気象庁ホームページにおいて、翌日までの紫外線の強さの実況値・予測値を毎日提供しています。紫外線の強さは、有害紫外線の人体への影響度を示す指標(UVインデックス)を用いています。 (2)黄砂の監視と予測  黄砂現象とは、東アジアの砂漠域(ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠など)や黄土地帯から強風により吹き上げられた多量の砂じん(砂やちり)が、上空の風に乗って運ばれ日本へ飛来する現象で、春に多く見られます。黄砂が発生すると、洗濯物や車が汚れるといった一般生活への影響があるほか、まれに交通障害の原因となり、全国的に大きな影響を与える場合もあります。  気象庁では、黄砂が日本の各地で広く観測され、その状態が継続すると予測される場合には「黄砂に関する気象情報」を発表して注意を呼びかけています。また、気象庁ホームページにおいて、黄砂の解析予測図や気象衛星ひまわりによる画像をご覧いただけます。これら気象庁の提供する黄砂に関する情報は、環境省と気象庁が共同で運用する「黄砂情報提供ホームページ」からも確認することができます。 (3)ヒートアイランド現象の監視・実態把握  都市化の進んでいる東京、大阪、名古屋などの大都市圏では、アスファルトやコンクリート等に覆われた地域(人工被覆域)の拡大とそれに伴う植生域の縮小や人間活動で生じる熱の影響で、都市の中心部の気温が周辺の郊外部に比べて高くなっており、「ヒートアイランド現象」と呼ばれています。都市化の進展に伴って、ヒートアイランド現象は顕著になりつつあり、熱中症等の健康への被害や、感染症を媒介する蚊の越冬といった生態系の変化が懸念されています。  気象庁では、全国の大都市の気温や熱帯夜日数等の長期変化傾向や、関東・近畿・東海地方等の大都市圏におけるヒートアイランド現象に関する都市気候モデルを用いたシミュレーション結果等、ヒートアイランド現象の実態と最新の科学的知見を気象庁ホームページにおいて公表しています。 2章 地震・津波と火山の監視・予測 1節 地震・津波の監視と情報発表  地震による災害には、主に地震の揺れ(地震動)によるものと、地震に伴って発生する津波によるものとがあります。これらの災害を軽減するため、気象庁は、地震と津波を24時間体制で監視し、地震や津波が発生した時には、予測や観測結果の情報を迅速に発表します。地震発生直後の地震・津波に関する情報は、防災関係機関の初動対応などに活用されています。 (1)地震に関する情報  気象庁は、全国約300か所に設置した地震計や国立研究開発法人防災科学技術研究所や大学の地震計のデータを集約して、地震の発生を24時間体制で監視しています。また、地面の揺れの強さ(震度)を測る震度計を全国約670か所に設置し、地震発生時には、これらの震度計及び地方公共団体や国立研究開発法人防災科学技術研究所が設置した震度計のデータを集約(全国で合計約4,400か所)しています。気象庁は、これらのデータを基に地震発生時には次の情報を発表しています。 ア.緊急地震速報(地震動特別警報・地震動警報・地震動予報)  緊急地震速報は、地震の発生直後に震源に近い地震計で捉えた観測データを自動的に解析して、震源や地震の規模(マグニチュード)を直ちに推定し、これに基づいて各地での主要動の到達時刻や震度を予測し、可能な限り素早く知らせる情報です。また、観測点に揺れが到達し、周辺地域に強い揺れが来ることが予想される場合は、その旨もあわせてお知らせします。緊急地震速報により、強い揺れの前に、自らの身を守ったり、列車のスピードを落としたり、工場等で機械制御を行ったりして、被害の軽減が図られています。気象庁は、最大震度5弱以上の揺れを予想した際には、震度4以上の揺れが予想される地域に対し、緊急地震速報(警報)*を発表し、強い揺れに警戒する必要があることをテレビ・ラジオ・携帯電話等を通じてお知らせします。また、マグニチュードが3.5以上又は最大予測震度が3以上である場合等には、緊急地震速報(予報)を発表します。民間の予報業務許可事業者は、緊急地震速報(予報)の震源やマグニチュードを用いて、特定の地点の主要動の到達時刻や震度を予報し、ユーザーに対して専用端末等を通じ、音声や文字等で強く揺れることを知らせたり、制御信号を発して機械を自動制御したりするといった個別のサービスを行っています。 *震度6弱以上の揺れが予想される場合は地震動特別警報、それ以外の場合は地震動警報に位置づけています。 イ.地震情報  気象庁は、観測した地震波形などのデータから推定した震源の位置、マグニチュードや観測した震度などの情報を迅速に発表しています。地震発生の約1分半後に震度3以上を観測した地域をお知らせする「震度速報」のほか、震源の位置やマグニチュード、各地域や各市町村で観測された震度などをお知らせする「震源・震度に関する情報」など、観測データを基に順次詳細な情報を発表します。震度の情報はテレビやラジオなどで報道されるだけでなく、防災関係機関の初動対応や災害応急対策の基準としての役割があります。そのため、震度の観測においては地面の揺れを的確に観測できるよう検定に合格した震度計を使用し、設置方法等にも基準を設けています。また、地方公共団体の震度計についても同様の基準を満たすよう、気象台が技術的なアドバイスを行っています。さらに、高層ビル等における地震後の防災対応等に資するため、観測された長周期地震動階級などをお知らせする「長周期地震動に関する観測情報」を、気象庁ホームページで提供しています。 (2)津波に関する情報  気象庁は、地震により発生した津波が日本沿岸に到達するおそれがある場合には、大津波警報、津波警報又は津波注意報(津波警報等)を発表するとともに、津波の到達予想時刻や予想される津波の高さを津波情報として発表します。また、気象庁や関係機関が沿岸及び沖合に設置した約410か所の観測施設のデータを活用して津波を監視し、津波が観測されるとその観測結果を津波情報として発表します。 ○大津波警報・津波警報・津波注意報、津波予報、津波情報  海域で規模の大きな地震が発生し、地殻変動によって海底面が大きく持ち上がったり下がったりすることで、津波が発生します。気象庁は、陸域で浸水などの重大な災害が起こるおそれのある津波が予想される場合には「津波警報」(高さ1~3メートル)を、より甚大な災害となるおそれがある場合は特別警報に位置づけている「大津波警報」(高さ3メートル超)を、海の中や海岸、河口付近で災害が起こるおそれのある津波が予想される場合には「津波注意報」(高さ0.2~1メートル)を全国66に分けた津波予報区単位で発表します。なお、地震発生後、津波が予想されるものの災害が起こるおそれがない場合には、「津波予報」(若干の海面変動、0.2メートル未満)を発表します。  ただし、マグニチュード8を超えるような巨大地震が発生した場合は、地震発生から数分程度では地震の規模を精度よく求めることができないため、その海域における最大級の津波を想定して津波警報等の第1報を発表します。このとき、非常事態であることを簡潔に伝えるため、予想される津波の高さを「巨大」(大津波警報の場合)、「高い」(津波警報の場合)という言葉で発表します。このような表現を用いた場合でも、地震発生から15分ほどで地震の規模を精度よく把握できた段階で、それに基づき予想される津波の高さを数値で示す津波警報等を改めて発表します。  津波警報等の発表後、沖合や沿岸の潮位データを監視して、津波警報等の切替えや解除等の判断を行っています。加えて、沖合で津波を観測した場合には、間もなく沿岸に津波が到達する可能性が高いことから、その観測点における第一波の到達時刻、最大の高さなどの観測値に加え、その観測値から推定される沿岸での津波の到達時刻や高さの予想を津波情報(沖合の津波観測に関する情報)で発表します。沿岸で津波を観測した場合には、観測した事実を速やかに知らせるため、第一波の到達時刻、最大の高さなどの観測値を津波情報(津波観測に関する情報)で発表します。 ○津波警報等の伝達  津波警報等は、テレビやラジオ、携帯電話、サイレン、鐘等、様々な手段で伝達されます。令和2年(2020年)6月からは、海水浴場等における津波警報等の伝達に、赤と白の格子模様の旗である「津波フラッグ」が活用されるようになりました。「津波フラッグ」を用いることで、聴覚に障害をお持ちの方や、波音や風で音が聞き取りにくい遊泳中の方、更には外国人の方にも津波警報等の発表をお知らせできるようになります。 (3)「南海トラフ地震に関連する情報」と「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」  令和元年(2019年)5月31日に国の防災対策を検討する中央防災会議において、国の南海トラフ地震に対する防災対策の基本計画(南海トラフ地震防災対策推進基本計画)に、新しい南海トラフ地震に対する防災対応が追加されました。これを受けて、国や地方公共団体、企業等が、この基本計画に基づく防災対応をとりやすくするため、気象庁では、同日から「南海トラフ地震臨時情報」等の南海トラフ地震に関連する情報の提供を開始しました。  「南海トラフ地震に関連する情報」を発表するに当たり、有識者から助言を頂くために「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」(以下「評価検討会」という。)を開催しています。評価検討会には、観測データに異常が現れた場合に南海トラフ地震との関連性を緊急に評価するための臨時の会合と、平常時から観測データの状況を把握するために原則毎月1回開催している定例の会合があります。 コラム ■産業技術総合研究所の地下水等総合観測ネットワーク 国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター 活断層・火山研究部門地震地下水研究グループ 研究グループ長 松本 則夫  2020年6月から国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)の12観測点のひずみ計データが新たに気象庁での常時監視対象となり、南海トラフ沿いにおける地殻変動監視の強化に貢献することになりました。ここでは産総研の地下水等総合観測ネットワークを紹介します。同ネットワークは旧・工業技術院地質調査所時代の1970年代中頃に、東海地震予知研究のための地下水観測網として始まりました。2006年からは、南海トラフ地震の地殻活動モニタリングのために、東海、紀伊半島、四国の各地域に地下水・ひずみ観測点の整備を開始し、2020年12月現在16点を完成させました。この16点の観測点には深度の異なる3つの井戸を整備し、水位計のほかボアホール型ひずみ計、地震計及び気象観測装置などを設置し、リアルタイムで産総研にデータを送るとともに、気象庁及び国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、防災科研)とリアルタイムでひずみ計や傾斜データなどの交換を実施しています。産総研では、気象庁・防災科研・産総研のひずみ・傾斜・地下水位データを用いたゆっくりすべりの検出・解析方法の高度化に取り組むとともに、随時、ゆっくりすべりの解析を実施しています。解析結果は、南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会や地震調査委員会等でのゆっくりすべりの評価に貢献しています。また、産総研が開発したゆっくりすべりの解析手法は気象庁等の解析に用いられています。産総研の観測データのグラフや各委員会等への資料は「地震に関連する地下水観測データベースWell Web」https://gbank.gsj.jp/wellweb/GSJ/index.shtml でご覧いただけます。 2節 火山の監視と情報発表 (1)火山の監視 ア.111活火山と火山監視・警報センター  我が国には火山噴火予知連絡会(同節(5)参照)により選定された111の活火山があります。気象庁では、本庁(東京)に設置された「火山監視・警報センター」及び札幌・仙台・福岡の各管区気象台に設置された「地域火山監視・警報センター」(両者をまとめ、以下「火山監視・警報センター」という。)において、活火山の火山活動を監視しています。活火山のうち、今後100年程度の期間の噴火の可能性及び社会的影響を踏まえ「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された50火山については、観測施設(地震計、傾斜計、空振計、GNSS観測装置及び監視カメラ等)を整備し、関係機関(大学等研究機関や自治体・防災機関)からのデータ提供も受け、24時間体制で常時観測・監視しています。  また、50火山以外の火山も含めて、火山監視・警報センターの火山機動観測班が現地に出向いて計画的に調査を行うほか、活動に高まりが見られた場合には、必要に応じて現象をより詳細に把握するため観測体制を強化します。例えば、平成21年(2009年)に伊豆東部火山群で活動の高まりがみられた際には監視カメラを、平成30年(2018年)の草津白根山(本白根山)の噴火の後には、監視カメラや地震計を増設しました。火山監視・警報センターは、全国の活火山について、観測・監視の成果に基づき、火山活動の評価を行い、「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)を明示して噴火警報を発表しています。 イ.火山活動を捉えるための観測網  噴火の前には、マグマや高温高圧の熱水が地表付近まで上昇するため、普段は見られない様々な現象(地震の群発、微動の発生、地殻変動、噴気温度の上昇、噴煙や火山ガスの増加等)が起きます。こうした現象は先行現象と呼ばれます。  高感度の観測機器を用いて火山現象に応じた適切な監視・観測をすることで、先行現象を捉えることができる場合があります。 ○震動観測(地震計による地震や微動の観測)  震動観測は、地震計により、火山体又はその周辺で発生する地震(火山性地震)や微動(火山性微動)を捉えるものです。地震や微動は、主に地下のマグマや火山ガス、熱水の活動等に関連して発生します。 ○空振観測(空振計による音波観測)  空振観測は、噴火等で生じる空気の振動を捉えるものです。天候不良等により監視カメラで火山の状況を監視できない場合でも、地震波形や空振波形により、噴火の発生と規模を検知することができます。 ○地殻変動観測(傾斜計、GNSS観測装置等による地殻変動観測)  地殻変動観測は、地下のマグマの活動等に伴って生じる山体の膨張・収縮を観測するものです。傾斜計は山体の傾きを精密に観測することができます。また、GNSS観測装置は、他のGNSS観測装置を組み合わせることで2点間の距離の伸縮を計測し、火山周辺の地殻の変形を検出することができます。いずれも地下のマグマ溜まりの膨張や収縮、熱水の動きを知り、火山活動を評価するための重要な手段となります。 ○監視カメラによる観測  監視カメラにより、噴煙の高さ、色、火山噴出物(火山灰、噴石など)、火映などの発光現象等を観測しています。気象庁では、星明かりの下でも観測できる高感度の監視カメラを設置しています。 ウ.現地調査  火山監視・警報センターでは、平常時から計画的に、また、火山活動に変化があった場合に、火山機動観測班を現地に派遣し、調査を行うことで、火山活動の正確な把握・評価に努めています(同節コラム「火山における現地調査のいまむかし ~より深く理解するために~」参照)。 ○熱観測  赤外熱映像装置を用いて火口周辺の地表面温度分布を観測することにより、温度の高まりなど熱活動の状態を把握します。 ○火山ガス観測  火山ガスは、水、二酸化硫黄、硫化水素、二酸化炭素などを主成分としており、これらを測定することで、火山の活動状況や地下のマグマの状態を推定しています。特に、二酸化硫黄は比較的容易に遠隔測定可能であるため、気象庁では火山ガス放出量の指標として火山活動の評価に活用します。 ○上空からの観測  陸上からの観測に加え、関係機関の協力により、ヘリコプターやドローン等による上空からの観測等を実施し、カメラや赤外熱映像装置などを用いて、地上からは近づけない火口内や地熱域等の様子や火山噴出物の分布等を上空から詳しく調査・把握するなど、継続的な火山活動の把握・評価に努めています。 ○噴出物調査  噴火が発生した場合には、噴火の規模や特徴等を把握するため、大学等研究機関と協力して降灰や火山噴出物の調査を行い、火山活動の評価に活用します。 エ.災害を引き起こす主な火山現象  災害の要因となる主な火山現象には、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流、溶岩流、小さな噴石・火山灰、火山ガス等があります。特に、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流は、噴火に伴って発生し、避難までの時間的猶予がほとんどなく、生命に対する危険性が高いため、防災対策上重要度の高い火山現象として位置づけられており、噴火警報や避難計画を活用した事前の避難が必要です。 ・大きな噴石 噴火によって火口から吹き飛ばされるおおむね直径20~30センチメートル以上の、風の影響をほとんど受けずに弾道を描いて飛散する噴石をいいます。。 ・火砕流 噴火により放出された破片状の固体物質と火山ガス等が混合状態で、地表に沿って流れる現象です。火砕流の速度は時速百キロメートル以上、温度は数百℃に達することもあります。火砕流から身を守ることは不可能で、噴火警報等を活用した事前の避難が必要です。 ・融雪型火山泥流 火山活動によって火山を覆う雪や氷が融かされることで、火山噴出物と多量の水が混合して地表を流れる現象です。流速は時速数十キロメートルに達することがあり、谷筋や沢沿いを遠方まで流下することがあります。 ・溶岩流 溶けた岩石が地表を流れ下る現象です。流下速度は地形や溶岩の温度・組成にもよりますが、比較的ゆっくり流れますので歩行による避難が可能な場合もあります。 ・小さな噴石・火山灰 小さな噴石は、噴火によって火口から吹き飛ばされる直径数センチメートル程度の、風の影響を受けて遠方まで流されて降るものをいいます。特に火口付近では、小さな噴石でも弾道を描いて飛散し、登山者等が死傷することがあります。火山灰は、噴火によって火口から放出される固形物のうち、比較的細かいもの(直径2ミリメートル未満)をいいます。風によって火口から離れた広い範囲にまで拡散します。火山灰は、農作物、交通機関(特に航空機)、建造物などに影響を与えます。 ・火山ガス 火山活動により地表に噴出する気体のことです。水、二酸化硫黄、硫化水素、二酸化炭素などを主成分としています。火山ガスを吸引すると、二酸化硫黄による気管支などの障害や硫化水素による中毒を発生する可能性があります。 コラム ■火山における現地調査のいまむかし ~より深く理解するために~  全国の火山監視・警報センターでは、各火山に設置された監視カメラや地震計などの観測機器のデータを用いて、遠隔で24時間体制で火山活動の監視・評価を行っていますが、実際に火山の現地に赴いて行う観測・調査も火山活動の評価には重要であり、各火山監視・警報センターの職員を中心に、地方気象台の協力も得ながら現地調査を実施しています。  今ではデータ伝送により得られた多項目の観測データを、火山監視・警報センターで24時間監視していますが、かつては火山に(多くの場合)1か所だけ設置された地震観測点から送られてくる震動データの監視、測候所等からの目視による監視、現地に赴いて直接火山を観察し、データを集める現地観測・調査が火山観測の3本柱でした。観測者は、地形や噴気をスケッチにとり、音を聞き、噴気や湧水の温度などを直接測定していました。  現在は、地表の様子や噴気に加え、地殻変動、地熱、火山ガス、地磁気の変化などについて、定期的に、また火山活動に変化があれば随時、現地での観測を行っています。片道数時間かけて重い観測機器を担いで険しい山を登り、山頂付近の厳しい環境下で観測を行う場合もあります。また、火山周辺の地上からのみならず、関係機関の協力を得ながら上空からも観測を実施する場合もあります。ひとたび噴火が起これば、即座に広範囲にわたる関係機関と協力しながら火山灰などの噴出物の調査も行います。観測で使用する機材や手法は時代とともに進化していますが、現地に立つことの重要さは、今も昔も変わりません。  こうして現地から持ち帰ったデータや試料を解析・分析し、24時間体制の監視で得ている情報に重ね合わせて、今、火山の活動がどんな状況にあるのか、より詳細な活動評価につなげています。また、これらのデータは火山をより深く理解するための資料として蓄積され、今後の火山監視に役立てられます。 コラム ■気象衛星「ひまわり」や海洋気象観測船等が捉えた西之島の活発な噴火活動  西之島は、東京の南方約1,000キロメートル、小笠原諸島の父島の西方約130キロメートルに位置する火山島です。平成25年(2013年)11月に約40年ぶりに噴火し、これ以降、溶岩を流出するような活発な噴火活動を繰り返しており、最近では令和元年(2019年)12月に噴火が確認されました。この噴火再開を受け、気象庁では、噴火警報等を発表して噴火に伴う大きな噴石や溶岩流への警戒を呼びかけるとともに、海上保安庁では、航行警報等を発表して船舶に安全航行を呼びかけました。また、一時期降灰や火山ガスの影響が父島周辺で見込まれた小笠原村には、気象台から西之島の火山活動について随時解説を行いました。  西之島は無人島で電力や通信の施設もないため、気象庁では、気象衛星「ひまわり」により西之島の監視を行っており、火山灰の検知のほか、地表面温度や噴煙高度を監視しています。地表面温度に関しては赤外線センサーを用いて高温域を検知しており、令和元年12月の噴火再開時にも、溶岩流出によると思われる西之島付近の地表面温度の上昇が確認されました。また、関係省庁や大学等の研究機関の観測結果も共有いただいており、海上保安庁による上空からの観測等では、12月以降、断続的に火砕丘から大きな噴石を飛散させるような噴火や溶岩流出が確認されました。  その後、令和2年(2020年)6月中旬以降は大量の火山灰を噴出する活発な噴火活動に移行しました。そこで、7月には、気象庁の海洋気象観測船「凌風丸」及び「啓風丸」による海上からの臨時観測を行い、7月11日夜間の観測では、赤熱した溶岩が火口縁上約200メートルの高さまで噴出している様子や火山雷が確認されました。  令和元年12月に再開した噴火活動では、溶岩流により島の面積が更に拡大(今回の噴火前と比較して約1.4倍)するとともに、島中央部の火砕丘が成長しましたが、令和2年(2020年)8月下旬を最後に噴火は確認されていません(令和3年3月31日現在)。しかし、火砕丘及びその周辺では噴気や高温領域が確認されており、噴火が再開しないかなど火山活動の推移を注視しています。 (2)噴火警報と噴火予報  噴火警報は、噴火に伴って、生命に危険を及ぼす火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等、発生から短時間で火口周辺や居住地域に到達し、避難までの時間的猶予がほとんどない現象)の発生やその危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)を明示して全国の活火山を対象に発表します。  例えば、「警戒が必要な範囲」が火口周辺に限られる場合は「噴火警報(火口周辺)」、「警戒が必要な範囲」が居住地域まで及ぶ場合は「噴火警報(居住地域)」として発表し、海底火山については「噴火警報(周辺海域)」として発表します。なお、「噴火警報(居住地域)」は特別警報に位置づけられています。これらの噴火警報は、報道機関、都道府県等の関係機関を通じて住民等に直ちに周知されるほか、気象庁ホームページに掲載されます。  火山活動の状況が静穏である場合、あるいは火山活動の状況が噴火警報には及ばない程度と予想される場合には「噴火予報」を発表します。  また、噴火警戒レベルが運用されている火山においては、地元の火山防災協議会で合意された避難計画等に基づき、気象庁は噴火警戒レベルを付して噴火警報・予報を発表し、地元の市町村等の防災機関は入山規制や避難勧告等の防災対応を実施します。 (3)噴火警戒レベル ア.噴火警戒レベルの考え方  噴火警戒レベルは、火山活動の状況に応じて「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)と防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分した指標で、平成19年(2007年)12月から運用が開始されたものです。地元の自治体や関係機関で構成される火山防災協議会で、火山活動に応じた「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災対応」が市町村・都道府県の「地域防災計画」に定められた火山で運用を開始しています。噴火警戒レベルが運用されている火山では、噴火警報・噴火予報に噴火警戒レベルを付して発表しています。  市町村等の防災機関では、あらかじめ合意された範囲に対して迅速に入山規制や避難勧告等の防災対応をとることができ、噴火災害の軽減につながることが期待されます。 イ.噴火警戒レベルの設定と改善  平成27年(2015年)12月に施行された活動火山対策特別措置法の一部改正により、常時観測火山の周辺地域では、火山防災協議会の設置が義務付けられました。気象庁では、地元自治体等での具体的な避難計画の策定への助言を通じて、噴火警戒レベルの設定と改善を地元の火山防災協議会と共同で進め、令和3年(2021年)3月現在、48火山で噴火警戒レベルの運用が行われています。また、これらの火山について、噴火警戒レベルの引上げ・引下げの判定基準を精査、順次公表しており、令和3年3月現在、46火山で判定基準を公表しています。 (4)その他の情報等  噴火警報・予報以外にも、火山現象に関する予報として降灰予報と火山ガス予報を発表しています。  このほか、火山現象に関する情報や資料を発表して、火山活動の状況等をお知らせしています。 (5)火山噴火予知連絡会  火山噴火予知連絡会(以下「連絡会」という。)は、「火山噴火予知計画」(文部省測地学審議会(現文部科学省科学技術・学術審議会)の建議)の一環として計画を円滑に推進するため、昭和49年(1974年)に発足しました。  連絡会は、火山噴火予知に関する研究成果や情報の交換や、各火山の観測資料を検討して火山活動についての総合的判断、噴火予知に関する研究及び観測体制を整備するための検討を行っています。  連絡会は、学識経験者や関係機関の専門家から構成され、事務局は気象庁が担当しています。  全国の火山活動について定期的に総合的な検討を行うほか、火山噴火などの異常時には、臨時に連絡会や部会を開催し、火山活動の総合判断を行います。 3節 地磁気観測  気象庁は、茨城県石岡市柿岡に地磁気観測所を置き、女満別(北海道網走郡大空町)、鹿屋(鹿児島県鹿屋市)、父島(東京都小笠原村)の計4地点で地磁気の各成分(大きさと向き)を定常観測しています。柿岡は大正2年(1913年)以来、高精度の地磁気観測を続けており、国際的な地磁気観測網においても、女満別、鹿屋とともに東アジア・西太平洋地域を代表する重要な観測所となっています。各観測点のデータは柿岡に伝送・集約し解析処理した後、国内外の関係機関に提供されます。観測成果は、地球内部の外核での対流活動の解明、太陽活動の長期変動に関する研究、航空機及び船舶の安全運航の確保、人工衛星の安定運用、無線通信障害の警報、火山噴火予測等の広い分野で役立てられています。  現在の東京付近では、方位磁針が指す向きは真北から7~8度西へ偏っていますが、伊能忠敬が地図を作製した200年ほど前にはほぼ真北を向いていました。このような地磁気の長期的な変化(永年変化)は、外核の対流変化が関係しています。また、地磁気は地球外からの影響により、常に短期的に変化しています。 ・社会生活における利用  太陽表面で爆発現象(太陽フレア)が起こると、地球では磁気嵐が発生し、電波通信や送電システムの障害、人工衛星の運用トラブルなど、社会生活に様々な影響が生じます。これらの影響を軽減するため、地磁気観測所では地磁気活動の情報をホームページ上で随時発信しています。 ・火山噴火予測等への活用  火山体内部の温度変化に伴って岩石がもつ磁気が変化する性質を利用して、雌阿寒岳、草津白根山、伊豆大島、阿蘇山での全磁力観測により、火山活動の監視に貢献しています。 3章 交通の安全などのための取組 1節 「空の安全」に欠かせない気象情報  航空機は大気中を飛行しており、空港での離着陸時を含め常に気象の影響を受けます。上空で乱気流に遭遇すると激しい揺れに見舞われることがあり、滑走路上の見通しが悪かったり横風が強かったりすると、安全に着陸できないことがあります。このように、安全性、快適性、定時性及び経済性が求められる航空機の運航のためには、気象情報が必要不可欠です。  これらの気象情報は管制機関や航空会社等の多くの関係者に正確に伝わることが重要です。気象庁は、国際民間航空機関(ICAO)と世界気象機関(WMO)が定める国際的な統一基準に基づいて国際航空のための気象サービスを行うとともに、国内航空のための独自の気象サービスも実施しています。 (1)空港の気象状況に関する情報  航空機の離着陸には、風や視程(見通せる距離)、積乱雲(雷雲)などの気象状況が大きく影響します。気象庁では、全国75空港において気象観測を行い、その成果を管制塔にいる航空管制官や航空会社の運航管理者・パイロットなどの航空関係者へ迅速に提供しています。また一部の空港では、この観測の全てを自動で行っています。  東京や成田などの国内の主要な9空港では、空港気象ドップラーレーダーにより、雷雨の時などに発生する大気下層の風の急変域(低層ウィンドシアー)を監視しています。  さらに、東京、成田、関西の各国際空港においては、空港気象ドップラーライダーを設置して、降水を伴わない場合の低層ウィンドシアーや、離着陸時に影響する建物・地形による滑走路付近の風の乱れを観測しています。低層ウィンドシアーは、離着陸する航空機の安全に影響することから、これらが観測された場合は、低層ウィンドシアー情報として直ちに管制官に通知し、パイロットへ伝達されます。  また、雷監視システム(LIDEN)により、全国30の空港にその検知局を設置し、中央処理局において日本周辺の空域を対象に雷の位置、発生時刻などの情報を作成しています。作成した情報は航空関係者などへ直ちに提供しています。 (2)空港の安全と経済的な運航のために  航空機の飛行計画を立てる際には、出発地の空港、目的地の空港、そして天候不良など何らかの理由で目的地の空港に着陸できない場合に着陸する代替空港の気象情報が必要となります。このため気象庁は、空港の風や雲の量・高さ、視程、天気などの詳細な30時間先までの「飛行場予報」を、国際定期便などが運航している38空港を対象として発表しています。また、航空関係者へ提供される飛行場予報は、航空機材や乗員の運用、地上作業員の安全確保などに利用されています。飛行場予報を発表している空港において、強風や大雪などにより地上の航空機や空港施設及び業務に悪影響を及ぼすおそれがある場合は、「飛行場警報」を発表し、航空関係者に対して警戒を促します。  このほか、航空関係者に対して、各空港や航空路上の気象状況や今後の予想について解説などを行っています。また、日本の空の交通を計画的に管理する業務を行っている航空局航空交通管理センター(福岡市)に対しては、気象庁の航空交通気象センターより、航空交通管理のために必要な気象情報の提供や解説を行っています。 (3)飛行中の航空機の安全を守るために ア.空域の気象情報  飛行中の乱気流や火山灰との遭遇、機体への落雷や着氷の発生は、航空機の運航の安全性と快適性に大きく影響します。気象庁は、このような大気現象について日本や北西太平洋上空の監視を行い、雷電、台風、乱気流、着氷、火山の噴煙等に関する観測・予測情報を「シグメット情報」として随時発表しています。また、約6時間先のジェット気流の位置や悪天域を図によって示した「国内悪天予想図」や悪天の実況を解説した「国内悪天解析図」を提供して運航の支援を行っているほか、小型機の安全と効率的な運航の支援を主な目的として、下層空域の悪天を対象とした「下層悪天予想図」の提供を行っています。 イ.航空路火山灰情報  火山灰は、航空機のエンジンに吸い込まれるとエンジンが停止したり、機体前面に衝突すると操縦席の風防ガラスがすりガラス状になり視界が利かなくなったりするなど、航空機へ多様な影響を与えます。気象庁は、航空機の安全な運航を確保するために、東京航空路火山灰情報センターを運営し、火山噴火と火山灰の監視を行い、火山灰に関する観測・予測情報を「航空路火山灰情報」として発表しています。 (4)より役立つ情報提供を目指して ア.数値予報モデルを用いた精度向上  訪日外国人旅行者数を大幅に増やす政府の目標達成のため、首都圏空港の機能を強化するなどの取組が進められています。こうした取組により更に増大する航空交通需要に対応するために、気象庁は航空気象情報の更なる高度化を図っています。  例えば、もし予期しない強い横風や雷雨などの悪天によって空港に着陸ができなくなる事態が発生した場合、たちまち多数の航空機が空中で待機したり引き返したりすることとなり、航空機の流れを円滑に保つことが極めて困難になります。このため気象庁は、緻密な数値予報モデル(局地モデル)を利用して、飛行場予報や空域の気象情報の精度向上に取り組んでいます。 イ.気象衛星データによる火山灰監視の高度化  東京航空路火山灰情報センターでは、静止気象衛星ひまわりの衛星画像を利用して火山灰の監視を行っています。ひまわり8号・9号は、これまでの静止気象衛星と比べ、高解像度・高頻度の観測が可能となり、観測画像の種類も増加しました。これらの新しい観測データを活用し、より迅速で的確な情報発表を目指していきます。 (5)ISO9001 品質マネジメントシステムの導入  気象庁では、ICAOやWMOからの求めにより、航空機の安全及び経済的な運航のため、航空気象部門にISO9001に準拠した品質マネジメントシステムを導入しています。  ICAOやWMO、航空気象情報の利用者からのニーズは、時代の流れや技術の進歩とともに変化していくことから、品質マネジメントシステムの仕組みの下、適時適切な航空気象サービスを提供し続けられるように努め、また、誤りを低減・防止する取組や情報内容の充実といった改善を重ねることにより利用者の満足度向上を目指した活動を行っています。 2節 船舶の安全などのための情報  船舶の運航には、台風や発達中の低気圧などによる荒天時の安全性の確保のほか、海上輸送における経済性や定時性などの確保が求められるため、気象の情報が欠かせません。このため、国際的な取組として「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)に基づき、世界各国が協力して船舶の安全な運航を図るための気象情報の提供を行っています。気象庁は日本近海に加えて北西太平洋などを担当しており、海上予報、海上警報などを発表しています。これらの情報を、テレビやラジオ、インターネットのほか、外洋の船舶に提供するための通信手段として無線や通信衛星(インマルサット)による衛星放送などにより、さまざまな機関と協力して提供しています。 (1)日本近海を対象とした情報  日本の近海については、沿岸から300海里(およそ560キロメートル)以内を12の地方海上予報区に分け、さらにそれぞれの海域を複数に細分した海域を対象に、地方海上予報・警報を発表しています。また、津波や火山現象に関する予報や警報も提供しています。  日本近海で操業する漁船向けには、台風、高気圧、低気圧、前線などの実況と予想、気象の実況情報を、NHKラジオを通じて提供しています(ラジオ天気図とも呼ばれています。)。また、漁業用海岸局を通じて、天気概況や気象実況、海上予報・警報などを無線通信で提供しています。   これらの海上予報・警報を補足する情報として海上分布予報があります。24 時間先まで6時間ごとの風、波、霧、着氷、天気の分布の予想図を提供しており、気象庁ホームページから見ることができます。 (2)外洋を対象とした情報  気象庁は北西太平洋など(おおむね赤道から北緯60度、東経100度から180度に囲まれる海域)を対象として、低気圧や台風に関する情報や、海上の強風・暴風や濃霧の警報を、通信衛星(インマルサット)を介して、セーフティネット気象予報警報(無線英文放送)として船舶関係者向けに提供しています。  この他に、低気圧や台風などの位置や海上警報の内容を掲載した実況天気図、海上の悪天(強風・濃霧・海氷・着氷)の予想を掲載した予想天気図や、台風、波浪、海面水温、海流、海氷などの実況図や予想図を提供しています。これらは、短波の無線FAX放送による気象庁気象無線模写通報(JMH)で提供しているほか、気象庁ホームページからも閲覧することができます。中でも実況天気図や予想天気図は、テレビなどにおける気象解説にも用いられており、広く親しまれています。 (3)沿岸防災のための情報  気象庁では、高潮、副振動、異常潮位、高波等による沿岸の施設等への被害の防止・軽減のため、全国各地で潮位(潮汐)と波浪の観測を行っています。潮位の観測は検潮所や津波観測点の観測装置、波浪の観測は沿岸波浪計、ブイ、観測船を活用して行っています。また、他機関の観測データも活用してきめ細かい実況の監視に努めています。  一方、スーパーコンピュータを用いた高潮モデルや波浪モデルにより、それぞれ潮位や波浪の予測値を計算しています。これらの資料と実況監視データを用いて、各地の気象台では、高潮特別警報・高潮警報・高潮注意報、波浪特別警報・波浪警報・波浪注意報、気象情報や潮位情報を発表し、沿岸域での浸水等の被害や船舶の海難事故に対する注意・警戒を呼びかけています。 4章 地域の防災力向上へ向けた取組  中央防災会議は、「平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ」の報告書(平成30年(2018年)12月26日公表)において、これまでの「行政主導による防災対策強化」という方向性を根本的に見直し、住民が「自らの命は自らが守る」意識を持って自らの判断で避難行動をとり、行政はそれを全力で支援することで、「住民主体の取組強化」による防災意識の高い社会の構築を目指すとしています。  気象庁では、全国の気象台で気象や地震などを観測し、予報・警報などの防災気象情報を発表、解説するとともに、情報の意味が十分に理解され活用されるための様々な取組を、地方公共団体及び関係省庁の地方出先機関等と一体となって推進しています。 1節 災害に備えた平時の取組 (1)実際の防災行動を行う住民等への普及啓発  住民が「自らの命は自らが守る」意識を持つためには、住民自身が、平時から「災害リスクを正しく知ること」、「リスクに応じた避難行動を考えておくこと」が重要です。このため気象庁では、住民等を対象とした出前講座や緊急地震速報を利用した避難訓練の支援、リーフレット等の作成・配布など、様々な普及啓発活動に取り組んでいます。しかし、自治会等が組織した自主防災組織だけでも全国に約16万5千も存在することから、気象庁自らの取組に加えて、様々な機関と連携した取組も進めています。  例えば、文部科学省、国土交通省及び国土地理院と共同で、教科書・教材出版社を集めた説明会を開催するほか、各地の教育委員会や、「気づき、考え、実行する」を目標に掲げて活動する日本赤十字社等と連携し、児童生徒や教職員を対象とした防災教育の普及に努めています。また、防災・地球環境を含む気象知識の教育・普及に取り組む一般社団法人日本気象予報士会や、防災・交通安全などの様々な啓発活動を行っている一般社団法人日本損害保険協会等とも連携し、地域住民等を対象とした防災知識の普及啓発にも取り組んでいます。さらには、自治体が行う防災知識の普及啓発活動に積極的に関わるとともに、その活動を支援するため、普及啓発活動に協力可能な気象予報士等の専門家をリスト化し都道府県及び市町村へ共有するなどの取組も進めています。  また、自治会や学校等、様々な場面で自由に活用していただけるよう気象庁ホームページ等で教材の公開を進めています。テキスト、パンフレットに加えて、感染症拡大防止策を気にせず学べるよう、YouTubeに専用チャンネルを設け順次動画教材を公開するほか、台風・豪雨から「自らの命は自らが守る」基本的な知識ととるべき行動を学べるeラーニング教材、参加者が「受け身(一方的に『聴く側』)」とならないよう防災気象情報に基づく台風・大雨時の行動を疑似体験するワークショップ関連資料なども公開しています。 (2)防災の最前線に立つ市町村等への支援  住民に対する避難指示等の発令など災害時の現場での意思決定は、市町村長の役割です。平時における災害リスク等の住民周知や、緊急時における避難場所の開設なども市町村の役割となっています。このため、市町村が避難指示等を発令する判断力や平時からの災害の対応力の強化が非常に重要です。  こうした市町村の判断や活動を支援するため、気象庁では地方公共団体職員に対して、防災気象情報を活用し、避難指示等の発令など災害発生時の市町村の防災対応を疑似体験していただく「気象防災ワークショップ」を、関係機関と連携し積極的に開催しています。(詳細は気象庁ホームページ(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jma-ws2/index.html)で公開)。令和2年度は、新型コロナウィルス感染症の拡大防止策を徹底し、十分に参加者間の距離を取った上での開催やオンライン会議システムを活用した開催などにより、のべ264市町村(令和2年度末時点)の防災担当者に参加いただき、防災気象情報の理解やその活用方法の習熟に役立てていただいています。  また各地の気象台が市町村等の活動をより一層支援するため、担当する府県内を複数の市町村からなる地域に分け、その地域ごとに3~5名程度の職員を専任チーム「あなたの町の予報官」として担当する体制づくりを順次進めています。  上図の担当チームは、地域の実情をよく理解した「あなたの町の予報官」として、市町村の立場に寄り添って、地域防災計画や避難勧告等の判断・伝達マニュアルの改定に際して資料提供や助言を行うなど協力していきます。また、関係機関と連携して、市町村等が実施する地域防災リーダーや一般住民を対象とした防災教育や安全知識の普及啓発にも協力していきます。  こうした取組を推進することにより、担当者同士の緊密な「顔の見える関係」を構築・強化することができ、チーム制という強みを活かして、市町村や気象台の担当者の一部が交代する際も切れ目のない的確な支援を継続的に行うことが可能となります。  緊急時には、平時に構築した「顔の見える関係」を活かして、「あなたの町の予報官」が中心となり、説得力を持った適時・的確な気象解説を実施することにより市町村の防災対応を支援します。また、災害の危険度・切迫度に応じて、必要であれば他の地域を担当するチームの応援を得るなどして、気象台の総力を挙げて対応します。  さらに、気象予測に関する高度な技術と防災の知見を兼ね備えた「気象防災アドバイザー」を育成(平成29年度事業)し、市町村等の防災対応力向上に活用いただけるよう広報活動を進めています。さらに、令和3年4月時点で84名の気象台OB/OG等を気象防災アドバイザーとして委嘱するなど、市町村の防災体制を支援できる体制の拡充を進めています。 コラム ■オンライン会議システムを活用した地域防災支援業務の推進  コロナ禍においても、切れ目なく市町村等の防災業務を支援するため、オンライン会議システムを活用した地域防災支援業務を推進しています。  平常時の取組として「気象防災ワークショップ」のweb版プログラムを作成し、実際に運用を開始しているほか、令和2年台風第14号の接近の際には、迅速に職員を派遣することが困難な島しょ部の自治体に対し、オンライン会議システムを用いた遠隔による気象解説を実施しました。 コラム ■市町村における気象予報士の広範な活動について ~防災業務・スマートシティ~ 山口県宇部市 総合戦略局ICT・地域イノベーション推進グループ リーダー(令和3年3月現在) 弘中秀治  宇部市は、令和3年(2021年)市政施行100周年を迎えました。石炭産業の発展とともに人口が急増し、100年前の大正10年11月1日に、宇部村から町制を経ずに宇部市となりました。現在は、人口が右肩下がりで少子高齢化が進行する人口減少社会となっています。このような中で、AI(人工知能)やIoT(情報通信技術)などの新技術の活用により社会課題を解決する超スマート社会「Society5.0」による持続可能な地域を目指して、SDGsやデジタル市役所の推進、スマートシティ等に取り組んでいます。  私は、平成8年(1996年)に、防災危機管理課(当時は県内初となる防災室)へ異動になりました。気象台から届く「大雨に関する山口県気象情報等」の『気象情報』の意味をより深く理解して活用したいと思い、気象予報士になりました。気象予報士として、防災行政に携わる中で、『気象データ』の重要性を学び、市内にある県の雨量計の位置を補完するように、市の雨量計を新たに設置し、これらのデータを10分ごとにホームページに公開するオープンデータ化にも取り組みました。また、過去の災害史を調べて、市内の過去のデータや記録を地域防災計画の資料編にまとめました。  市町村の業務は、多岐にわたります。日常的に、暴風や降雪等による会議やイベント等行事の中止や延期を判断するための気象に関する相談もあります。また、大雨や台風接近時等には、数日前から工事業者への事前対策を求める連絡や給食の食材調達の判断等のための支援のほか、児童が登下校できるかどうかという相談等もあります。これらの中で大切だと思ったことは、「何のために予報が必要かという確認と予報の幅を伝えること」です。確率は小さかったとしても、大きな被害や影響が出る可能性があれば、避難指示や中止等の行動を取らなくてはいけないからです。  現在は、宇部市総合戦略局ICT・地域イノベーション推進グループで、新技術やデータを活用して市民生活をよりよくするためのスマートシティ等も取り組んでいます。Society5.0の実装とも言われるスマートシティは、ドローンやロボット、IoTやビッグデータ等のデジタルの先進技術を活用することによって、地域課題の解決を図るまちづくりの取組です。ICTの急速な進展により、『気象情報・データ』等のビッグデータをAIで分析して活用することが身近になっています。これまで比較的多くの地域等で活用されてきた防災、交通、電力、農業、物流等に限らず、産官学民が連携した取組によって、気象情報・データ等を利活用する分野は、さらに広がるものと期待されています。気象予測等に基づく柔軟な公共交通運行や集客業務等への活用、さらには地域産業への活用も期待されています。スマートシティ宇部では、各種データ等を活用したスマート防災やスマート農業、スマート水産業等に取り組んでいます。私は、気象データの活用等で気象予報士として培った経験を生かして、スマートシティに取り組んでいます。 2節 災害時の市町村等の防災対応を支援する取組  気象台では、平時に蓄積した知見等を十二分に活用し、防災気象情報が市町村の防災対応の判断に活かされるよう、現象の推移に応じて台風説明会を実施することなどにより、警戒を呼びかけます。  また、災害の発生が予想される場合などにおいては、気象台の危機感を気象台長から直接市町村長へ電話で伝え(ホットライン)、避難に関する情報を発令する市町村へ助言しています。  加えて、災害が発生した、又は発生が予想される場合に、気象台は、あらかじめ定めた応援計画に基づき、JETT(気象庁防災対応支援チーム)を都道府県又は市町村の災害対策本部等へ派遣します。JETTは、災害対応現場におけるニーズを把握しつつ、気象の見通しなどを解説することにより、災害対応に当たる関係機関の活動を支援しています。  JETTの創設以降、平成30年7月豪雨、令和元年東日本台風(台風第19号)、令和2年7月豪雨などの災害に対して積極的にJETTの派遣を行い、これまで延べ3,700人日を超える職員を各地の自治体に派遣しました。 3節 次の災害に備えて  緊急時の対応について更なる改善を進めていくためには、気象台がどのような情報提供や解説を行い、市町村がそれらの情報を防災対応の判断にどのように活用できたのか、また気象台の情報の伝え方や精度が的確だったのか等、当時の状況やお互いの対応について、気象台と市町村等が共同で振り返ることが大切です。気象台ではこの「振り返り」についても、積極的に実施しています。  このような「振り返り」の作業を通じ、市町村等と気象台がお互いをより深く知り、具体的な課題を共有し、対応の流れや内容について実効的な工夫を検討することで、平時、緊急時を問わずお互いの取組改善に活かし、地域全体の気象防災力の向上につなげていきます。 第2部 気象業務を支える技術基盤と情報の発信 1章 大気・海洋に関する数値予報技術 1節 数値予報とは  数値予報とは、計算機(コンピュータ)を用いて地球大気や海洋・陸地の状態の変化を数値シミュレーションによって予測するものです。具体的には、最初に地球大気や海洋・陸地を細かい格子に分割し、世界中から送られてくる観測データに基づき、それぞれの格子に、ある時刻の気温、風などの気象要素や海面水温・地面温度などの値を割り当てます。次に、こうして求めた「今」の状態から、物理学や化学の法則に基づいてそれぞれの値の時間変化を計算することで「将来」の状態を予測します。この計算に用いるコンピュータプログラムを「数値予報モデル」と呼んでいます。  数値予報を日々の予報作業で利用するためには、複雑かつ膨大な計算を短時間に行う必要があることから、高速なコンピュータ(スーパーコンピュータ)を活用しています。気象庁は昭和34年(1959年)に我が国の官公庁として初めて科学計算用の大型コンピュータを導入し、数値予報業務を開始しました。その後、数値予報技術や気象学などの進歩とコンピュータの技術革新によって高精度できめ細かな予報が可能となり、今日では数値予報は気象業務の基盤となっています。 2節 数値予報モデルの現状 (1)全球モデル、メソモデル、局地モデル  気象庁では予測対象に合わせて複数の数値予報モデルを運用しています。「全球モデル」は、地球全体を対象領域として大気の状態を予測する数値予報モデルで、明後日までの府県天気予報、台風予報、週間天気予報や1か月予報、航空機や船舶向けなどの予報に利用しています。「メソモデル」及び「局地モデル」は、全球モデルより計算を行う格子を細かくし、日本周辺を対象として大雨や暴風などの災害をもたらす現象の予測を行う数値予報モデルで、警報・注意報など防災気象情報や、飛行場予報・悪天予想図など航空機の安全運航のための気象情報の作成などに利用しています。 (2)季節予報モデルと長期再解析  1か月を超える時間スケールの予報では、大気の変動と海洋の変動は互いの影響を強く受けます。このため、3か月予報、暖候期予報、寒候期予報やエルニーニョ現象を予測する「季節予報モデル」には、大気と海洋の変動を一体として予測する大気海洋結合モデルを使用しています。  また、異常気象の分析を含めた気候の監視や季節予報をより的確に行うためには、過去の気候もできるだけ正確に把握しておく必要があります。このため、過去数十年にわたって蓄積した観測データを、最新の数値予報技術により分析する「長期再解析」にて過去の気候データを作成し、気候の監視や季節予報に活用しています。長期再解析JRA-55では昭和33年(1958年)以降の気候データを作成し、平成26年(2014年)から利用しています。 (3)海に関する数値モデル  海洋の様々な現象を把握・予測するために、「波浪モデル」、「高潮モデル」、「海況モデル」、「海氷モデル」といった各種のモデルが使われています。「波浪モデル」は、海上の風の予測値を用いて、海上における波の発達・減衰やうねりの伝播などを予測し、高波時に発表される波浪警報・ 注意報や、毎日の波浪予報、船舶向けの波浪図などに利用しています。「高潮モデル」は、台風の接近時などに海面気圧の変化と海上の風の予測値から潮位の上昇量を予測し、高潮災害が危惧される場合に、高潮警報・注意報が発表されます。「海況モデル」は、黒潮や親潮等の日本周辺の海流や海水温の状態を予測し、海面水温・海流1か月予報の発表、また水産業等でも使用されています。「海氷モデル」は、オホーツク海南部の1週間先までの海氷密接度の分布を予測して海氷予報や船舶向けの海氷予想図に利用し、海氷の範囲等を発表しています。 (4)アンサンブル予報システム(全球、メソ、季節、波浪)  アンサンブル予報とは、数多くの数値予報を並行して実行するものです。個々の予報をメンバーといいます。個々のメンバーは、人工的なばらつき(誤差)を初期値に与えること等により、それぞれ異なる数値予報結果となります。メンバー間で予測のばらつきが大きい場合は予測の不確実性が高く、ばらつきが小さい場合は予測の信頼性が高いとみなします。数値予報の初期値には誤差が含まれ、また数値予報モデルの予測計算が完全ではないことから、予測結果には誤差が含まれます。アンサンブル手法から得られる予測のばらつきから、誤差を含む数値予報について確率的な予測が可能になります。  全球モデル、季節予報モデル、波浪モデルのアンサンブル予報は、台風予報の予報円や週間天気予報の信頼度等の予測の不確実性に係る情報の作成に利用されています。また、令和元年(2019年)6月に運用を開始したメソモデルのアンサンブル予報は、線状降水帯の豪雨予測等への活用が期待されています。 (5)物質輸送モデル  大気中の物質の変化や移動などを数式で表した物質輸送モデルを用いて地球環境や気候に影響する二酸化炭素、黄砂、紫外線などの監視と予測を行っています。「二酸化炭素輸送モデル」は、二酸化炭素の世界の大気中の分布状況を図示する情報の作成に利用されています。「全球エーロゾルモデル」は、大陸などでの黄砂の舞い上がり、風による移動、雨などによる地上への降下を考慮して、大気中の黄砂の量や分布を解析、予測し、黄砂情報の作成に利用しています。「化学輸送モデル」は、オゾンやその変化に関わる物質の風による移動、地上への降下、化学物質や光による反応を通じた変化などを考慮して、上空や地上付近のオゾン濃度を予測し、紫外線情報やスモッグ気象情報の作成に利用しています。 3節 数値予報の技術向上と精度向上  防災気象情報の的確な提供や気象・気候予測の精度向上のためには、その基盤となる数値予報技術の向上が不可欠です。数値予報は、1節で述べたコンピュータの性能向上を背景に、数値予報モデルの開発改良によってたゆまぬ進歩を遂げてきました。気象庁では、最新の科学技術を取り入れ、数値予報の更なる精度向上を図る取組を続けています。  その一つとして、規模の小さい現象を予測するためにモデルの計算を行う格子の間隔を細かくすること(高解像度化)と、大気、海洋、陸地で発生する様々な物理現象をより正確にシミュレーションする改良を行っています。また、数値予報の精度は「今」の大気・海洋等の状態(初期値)の精度に依存するため、世界中から様々な観測データを集めて適切に取り込むためのデータ同化技術の高度化も行っています。そして、計算結果を防災気象情報や天気予報等で用いるためには所定の時間内に計算を終了させる必要があり、膨大な計算を精度良くかつ効率的に計算する方法の開発に取組んでいます。これら改良は、相互に互いに影響を及ぼし合うため、数値予報モデル全体として予測精度を向上させるための取組も行っています。  これら精度向上の取組は、平成30年(2018年)8月に交通政策審議会気象分科会の提言「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」に示された方向性に基づき、気象庁は防災分野を始め社会における情報サービスの基盤である数値予報の技術開発を強力かつ着実に推進していくために、同年10月に策定した「2030年に向けた数値予報技術開発重点計画」に基づき行っています。この重点計画では、プライオリタイゼーション、実証的根拠に基づく開発、開発全体の最適化を開発指針におき、豪雨防災、台風防災、社会経済活動、温暖化への適応策といった分野ごとに目標を定めています。そして、この目標に向け数値予報技術をより一層向上させるため、気象庁は、予測対象等によって部署ごとに分かれていた開発部門を、令和2年(2020年)10月に数値予報開発センター(茨城県つくば市、「コラム 数値予報開発センターを設置しました」参照)へ集約し、同敷地にある気象研究所を含めて、これまで以上に一体的に開発を進めていきます。また、「数値予報モデル開発懇談会」で大学等研究機関の専門家からいただいている、数値予報の精度向上や気象庁と大学等研究機関の連携強化のための貴重なご意見を踏まえて、大学等研究機関と一層の連携強化を進めています。さらに、国際的な学術会議への参加や海外気象機関への職員の派遣等を通じて海外の数値予報センターとも連携した開発を進めています。 4節 気候変動予測  近年、気温や海水温の上昇、大雨の頻度増加、海面水位の上昇など、地球温暖化に伴う気候変動が世界及び各地域で進行しており、今後更に進行することが懸念されています。そのため、温室効果ガスの排出削減による温暖化抑制に向けた様々な取組(緩和策)と、気候変動の社会影響の軽減に向けた様々な取組(適応策)が世界各地で進められています。こうした気候変動対策は、気候変動の科学的知見に基づいて実施される必要があります。  気象庁は季節予報や気候変動予測の研究推進を目的とした「世界気候研究計画(WCRP)」等の国際的な研究活動に積極的に参加し、各国の専門家と協力して気候変動予測の向上に取り組んでいます。例えば、気象研究所では、地球の大気全体の動きを表現する大気モデルと、海洋全体の動きを表現する海洋モデルを結合した気候モデルに、エーロゾル、オゾン、炭素循環をそれぞれ表現するモデルを組み合わせた地球システムモデルを開発して、予測結果を提供しています。そして、各国機関のモデルによる予測結果の相互比較などを通じて、気候変動予測の不確実性の評価を進め、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書の作成等にも貢献しています(トピックスⅢ-1(2)参照)。  日本列島は、北は亜寒帯から南は亜熱帯まで南北に長く、四方を暖流や寒流が流れる海に囲まれ、高い山々が連なるなど複雑な地形を有しており、気候は地域ごとに大きく異なります。したがって、気候変動適応策を実施するには、気候変動を地域ごとに詳しく予測する必要があります。このため気象研究所では、日本を対象とした空間解像度の高い地域気候モデルも開発し、温暖化による日本の気候変動を予測して、我が国の政府機関や地方公共団体などによる適応策の立案・策定を支えています。この地域気候モデルによる予測結果は、「日本の気候変動2020 -大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書-」でも公表しています(トピックスⅢ-1(1)参照)。アジア各国でも気候変動への適応が重要な課題となっており、地域気候の詳しく正確な予測が求められています。このため、台風の発生頻度や降水現象の将来予測の研究なども進めて、アジア各国の研究者による気候変動の研究にも貢献しています。 コラム ■数値予報開発センターを設置しました  令和2年(2020年)10月の気象庁組織再編に伴い、茨城県つくば市の高層気象台庁舎内に「数値予報開発センター」を設置しました。数値予報開発センターは、数値予報モデル基盤技術開発室、数値予報モデル技術開発室、地球システムモデル技術開発室から成ります。  第2部1章3節のとおり、防災気象情報の的確な提供や天気予報の精度向上のためには、その基盤となる数値予報技術の飛躍的向上が必要です。このため、気象庁は、令和2年10月に行われた気象庁組織再編において、茨城県つくば市の高層気象台庁舎内に数値予報開発センターを設置し、これまで全球モデル、メソモデル、局地モデル、季節予報モデル、海洋モデル、物質輸送モデルなど予測対象等によって部署ごとに分かれていた数値予報モデルの開発部門を統合して分野横断的に開発できる体制を整備し、同敷地にある気象研究所を含めて、これまで以上に気象庁として一体的に数値予報モデルの開発を進める体制を構築しました。短期から週間の天気予報や気象情報・警報等に基礎資料を提供する全球モデル、メソモデルなどの開発を数値予報モデル技術開発室が担当し、地球環境・気候・海洋に関する情報の基盤となる多種多様な数値予報モデルの開発を地球システムモデル技術開発室が担当します。  また、数値予報精度の大幅な改善には、AI等の最新技術の導入や観測ビッグデータの有効活用など、抜本的に見直した開発手法の導入も不可欠です。そのために研究機関が集積しているつくば市の地の利を生かして、大学等研究機関とのさらなる連携推進を目指しています。そして、開発や連携を推進するために、横断的に必要となる実験システムや検証ツールなどの開発等も行っています。これら連携推進と関連する開発及びAIに関連が深いガイダンスの開発を数値予報モデル基盤技術開発室が担当します。  一方、気象庁本庁(東京都港区虎ノ門。トピックスⅠ-3参照)の数値予報課では、数値予報モデルの予測結果が防災気象情報等に効果的に活用されるよう、モデルの予測結果を日々監視し、災害をもたらした顕著事例の予測結果を分析することで、予報担当者へモデルの予測特性や利用上の留意点などの解説を行っています。また予報担当者の声を集めて数値予報モデルへの開発のフィードバックも行っています。  数値予報の開発体制が2か所に分かれることになりましたが、数値予報開発センターの執務室や会議室にはウェブ会議システムを整備して、気象庁本庁(東京都港区虎ノ門)と常に情報共有を行える環境を整えました。また、この設備を利用して、数値予報課コロキウムやモデル研究会など、大学等研究機関とモデル開発に関する議論等を随時行っています。  気象庁では、この新しい体制で、気象災害の防止・軽減、社会経済活動における生産性向上に資するよう、大学等研究機関と連携しながら、数値予報の技術開発を強力かつ着実に推進してまいります。 2章 気象衛星による気象等の監視  気象を観測する衛星には様々なものがあり、目的によって地球を周回する高度や軌道が異なります。赤道上空約35,800キロメートルの静止軌道上に位置する静止気象衛星は、地球の自転周期に合わせて周回するため、同じ地域を連続して観測できることが強みです。気象庁が運用している静止気象衛星「ひまわり」は、常に東経140度付近の上空にあって、日本を含む東アジア・西太平洋地域の広い範囲を24時間、常時観測しており、特に海上の台風の監視などに不可欠な観測手段となっています。  気象庁は、昭和53年(1978年)の初号機の運用開始以来40年以上、静止気象衛星「ひまわり」による観測を続けてきました。現在は、世界最先端の観測機能を持つ「ひまわり8号・9号」が観測を行っています。「ひまわり8号・9号」の二機体制により、令和11年(2029年)までの長期にわたって安定した観測を継続することにより、国民の安全安心の確保や、アジア・太平洋地域の防災力の向上、気候変動の監視などに貢献します。  気象庁では、「ひまわり」のデータを使って雲や台風の解析などを行うほか、同じ地域を高頻度で常時観測できる「ひまわり」の利点を最大限に活かして、連続した複数枚の衛星画像から雲が移動する様子を解析することで、上空の風(風向・風速)を算出しています。この風のデータは、特に海上のように地上の観測所が存在しない地域を含む広い範囲で算出されるため、数値予報の精度向上のためになくてはならないデータとなっています。  「ひまわり6号・7号」では、5バンド(可視1、赤外4)による1時間ごとの全球観測を行っていましたが、「ひまわり8号・9号」では、世界に先立って16バンド(可視3、近赤外3、赤外10)による10分ごとの全球観測に加え、2.5分ごとの日本周辺観測、さらには台風や火山の噴煙など必要に応じて場所を決め、2.5分ごとに観測を行う機動観測が可能になり、また、空間分解能も可視1キロメートル、赤外4キロメートルから、可視0.5キロメートル、赤外2キロメートルに向上しました。  観測機能の大幅な向上によって短い時間間隔で高い空間分解能の画像を撮影でき、観測バンドの種類も増えたため、従来よりも高い頻度、高い密度、高い精度で上空の風を算出できるようになり(右上図)、これは台風の進路予報等の精度向上にもつながっています。また、8号・9号では、16に増加した観測バンドを組み合わせることで、カラー画像から黄砂や火山噴火による噴煙等を監視したり、赤外バンドを組み合わせることで海氷や火山ガスを抽出して監視したり、海面水温の算出が可能になるなど、これまでの「ひまわり」では検知できなかった様々なことが検知できるようになりました。右図は、ひまわり8号で西之島の噴煙を捉えた事例です(第1部2章2節コラム「気象衛星『ひまわり』や海洋気象観測船等が捉えた西之島の活発な噴火活動」参照)。このように「ひまわり」は、大気現象の監視のみならず幅広く気象業務の根幹を支えています。  「ひまわり」データの利活用は国内にとどまらず、国外でも広く利用されています。右図の通り、「ひまわり」の観測範囲に入っている多くの国がそのデータを利用しており、諸外国における気象災害リスクの軽減に貢献しています。「ひまわり」を利用した国際貢献として、気象庁では、ひまわり8号・9号の観測機能の向上により可能となった機動観測機能を活用し、我が国の防災業務に支障のない範囲内で外国の気象機関からの要請(リクエスト)に応じて観測を行う「ひまわりリクエスト」を平成30年(2018年)1月から実施しています。これはアジア・太平洋域内各国に利用されており、それらの国における気象等の監視に大きく貢献しています。例えば、令和元年(2019年)よりオーストラリア東部で発生した大規模な森林火災に対しては、オーストラリア気象局の要請を受けて、オーストラリア東部を対象に森林火災を監視するための観測を行いました(右図)。観測データは現地気象局を通じて、オーストラリア政府による森林火災の発生域の特定に大きく役立てられました。  このほか、「ひまわり」には、その観測範囲内であればどこからでもデータを中継できる通信機能があり、国内外の離島や山岳地帯などに設置された観測装置で得られた気象データや潮位(津波)データ、震度データ等の収集に活用されています。 質問箱 ■運用が終了した衛星はどうなるのですか?  役割を終えた人工衛星は、他の衛星と衝突することを避けるために適切に処分する必要があります。極軌道衛星のように、高度500キロメートル程度の比較的低い軌道を周回する衛星は、空気抵抗により自然に高度を下げ、やがて地球の大気圏に突入して燃え尽きてしまいますが、「ひまわり」のような静止衛星は、地表から遠く離れているためそのようにいきません。このため、運用が終了した静止衛星は、最後に残った燃料を噴射して静止軌道よりも高度を200~300キロメートル上げ「墓場軌道」とよばれる軌道に移動させます(リオービット)。これまでの「ひまわり」も無事にリオービットに成功しており、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の低減に寄与しています。 コラム ■気象衛星ひまわりのPFI運用事業設立から10年を迎えて 気象衛星ひまわり運用事業株式会社 代表取締役社長 星 二郎  当社は、気象庁とのPFI事業契約「静止地球環境観測衛星の運用等事業」に基づき2010年8月16日に設立した民間の特別目的会社(SPC)です。本事業は、①地上設備の整備業務(気象衛星ひまわり8号/9号での地球環境観測と観測データの提供に必要な地上局施設と設備を整備する)、②地上設備の維持管理業務(整備した地上局施設と設備を維持管理する)、③気象衛星ひまわり8号/9号の運用業務(地上局設備/装置を使ってひまわり8号/9号の管制を行い、地球環境観測と受信した観測データを気象庁へ提供する)といった三つの業務が柱となっています。  事業開始から約4年半かけて地上局施設と設備の整備を行い、2015年3月に主局と副局の2か所が完成しました。大規模災害等の同時被災を避けるために、主局を関東(東京都板橋区と埼玉県鳩山町)に、副局を北海道(江別市)としました。両地上局施設は、稼働開始して約6年となりますが、様々なトラブルに即応できるしっかりとした維持管理体制を構築することで、地震や台風等の大規模災害や、大雪や局地的大雨等の自然災害、ネットワーク機器の不具合等の影響を受けることなく、常に健全な状態で衛星運用に寄与しています。特に、2018年の胆振東部地震後の北海道地方の大停電時においても、自家発用燃料の確保や非常用電源の確保に向けて気象庁様と連携して対応し副局施設の安定稼働を実現しました。  本事業において最も重要となるのが運用業務です。ひまわり8号は2014年10月7日に、ひまわり9号は2016年11月2日にそれぞれJAXA種子島宇宙センターからH-Ⅱロケットで打ち上げられました。運用者は、地球から約36,000キロメートル離れた静止衛星軌道を飛行するこの2機の気象衛星ひまわりを24時間体制で管制し、衛星に搭載された放射計センサで雲の画像を撮影、その観測データを24時間・365日休むことなく気象庁(気象衛星センターと大阪管区気象台)へ送り届けております。気象衛星ひまわりで撮像する雲の画像は中断が許されないため、運用者は常に緊張感を持った状態で業務に取り組んでおり、主局と副局で同時に受信した観測データはそれぞれ2式(計4式)の画像処理・伝送用計算機を駆使して確実に提供できる体制としています。  当社は2020年度に会社設立10周年を迎えました。本事業はまだ中間点を過ぎたばかりですが、一般市民の生活インフラとしての浸透度、アジア・オセアニアを中心とするその国際貢献度は、ますますその役割の重要性が増しております。本事業の安定運用についてその責任の重さを改めて認識し、引き続き、安定的かつ持続的に気象データを送り届け、これからも社会に貢献してまいります。 3章 気象・地震・火山等に関する技術開発  気象研究所をはじめ各研究機関では、気象・地震・火山等に関する様々な技術開発を行っています。以下のコラムでは、最新の技術開発について紹介します。 コラム ■「災害発生が差し迫った線状降水帯をリアルタイムで把握する取組」について 国立研究開発法人防災科学技術研究所 主任研究員 清水慎吾、主任研究員 前坂剛 一般財団法人日本気象協会 技術戦略室長 増田有俊  強雨が数時間以上にわたって継続し、河川氾濫や土砂災害等の深刻な被害を引き起こす集中豪雨の発生が近年多発しています。最近の研究によると、台風を除く集中豪雨の6割以上は線状降水帯によって引き起こされているといわれています。 2017年7月5日は九州北部で、2018年7月6日は西日本を中心に広範囲で、2019年8月28日は九州北部で、2020年7月4日は熊本県で、同年7月6日は九州北部で、など毎年のように線状降水帯が発生し、甚大な水害・土砂災害が報告されており、線状降水帯をリアルタイムで把握する技術開発は喫緊の課題となっています。  内閣府による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の1課題である「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」において 平成30年度から実施されている、線状降水帯の観測・予測システムの開発プロジェクト(研究代表者:防災科学技術研究所 清水慎吾)では、SIPに参画する日本気象協会が中心となって、「災害が差し迫った線状降水帯」をレーダー情報から自動的に検出する技術開発を行ってきました。  線状降水帯は、 次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなし数時間にわたってほぼ同じ場所を通過又は停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300キロメートル程度、幅20~50キロメートル程度の強い降水をともなう雨域です。線状降水帯の形成・維持のメカニズムには未解明の点が多いことに加え、“線状に延びる降水域”を認識でき、かつ、災害につながる雨量の具体的な閾値は地域によって幅が大きいことから、その明確な定義は難しいとされています。一方で、防災上の様々な対応に向けた実用的視点からは、“災害を引き起こす”線状降水帯を定義し、その検出に基づく情報提供が求められています。  そこで、SIPプロジェクトで開発された技術をベースに気象庁と協力することで、「災害が差し迫った線状降水帯」を適切に捉えることが可能となる自動検出技術の開発を進めてきました。  開発した検出技術を用いることで、図1のように、2020年7月4日の線状降水帯を検出することができるようになりました。SIPで開発・実証した技術を活用して、2021年の出水期において、気象庁において線状降水帯に関する新しい情報提供を開始することになっています。この情報発信によって、線状降水帯による大雨災害の被害を軽減させるための強力なツールとなることを期待しています。 コラム ■水蒸気ライダーによる局地的大雨・集中豪雨のメカニズム解明  土砂崩れや洪水など大きな災害を引き起こす局地的大雨や集中豪雨の発生時刻、場所、降水量には、大気下層のおおむね高さ1.5キロメートルまでの水蒸気分布が、大きく影響すると考えられます。  気象研究所が運用している水蒸気ライダーは、この大気下層の水蒸気量の鉛直分布を連続的に測定できる最新の観測装置です。この装置では、レーザー光線を上空に向け発射し、大気中の水蒸気や窒素分子から反射されて戻ってくる光(ラマン散乱光)の強さと戻るまでの時間を測ることで、水蒸気量の高度分布を測定することができます。  平成29年(2017年)から令和元年(2019年)にかけての夏には、東京湾岸にこの装置を設置し、首都圏で発生する局地的な大雨の観測を行いました。また、令和2年(2020年)の夏からは長崎県西部において、九州北部で発生する線状降水帯をターゲットとして観測を行っています。この結果、同年6月25日に長崎県北部で発生した線状降水帯では、線状降水帯が発生する前に高度1キロメートル以下で水蒸気が増加しはじめ、発生中には高度500メートル以下で更に大きく増加していたことが分かりました。これは、線状降水帯の発生に先行する水蒸気の増加を捉えることができた初めての事例です。  気象研究所では、今後も水蒸気ライダーを活用し、大雨が発生する詳細なメカニズムの解明につなげ、局地的大雨や集中豪雨の予測に役立てるための知見の収集を進めていきます。 コラム ■民間旅客機を活用した大気観測によって捉えられる二酸化炭素濃度変動  気象研究所では、国立研究開発法人国立環境研究所、日本航空株式会社、株式会社ジャムコ、公益財団法人JAL財団と共同で、日本航空の国際線旅客機に自動観測装置や自動大気サンプリング装置を搭載して、上空の温室効果ガスの分布や時間変動を観測するプロジェクトを実施しています。これは旅客機により、上空の広域で、しかも数分かつ数十キロメートル以下の短い間隔で、二酸化炭素濃度を精密に観測している世界で唯一のプロジェクトです。令和2年(2020年)のコロナ禍による旅客機の大幅減便で、観測の継続が危ぶまれましたが、日本航空株式会社はじめ関係者の尽力により、観測を維持しています。平成5年(1993年)に開始された前身のプロジェクトから続く上空の二酸化炭素濃度の長期観測により、地上とは異なる上空の二酸化炭素濃度の季節変化、年々変化、緯度分布、鉛直分布などを明らかにし、二酸化炭素の循環過程も明らかにできました。さらに、この観測成果を、人工衛星からの二酸化炭素観測や、スーパーコンピュータによる二酸化炭素循環の数値シミュレーションの検証などにも役立てています。  地球温暖化対策の新しい国際枠組みであるパリ協定が令和2年(2020年)から実施段階に入り、人為的な二酸化炭素排出の70%を占める大都市からの排出量を、より正確に推定することも急務となりました。この観測では、上空の水平飛行時のほか、大都市近郊の主要空港の離発着時にも、二酸化炭素濃度鉛直分布を観測できることから、こうした都市スケールでの排出量推定への活用についても検討が始まっています。図から、世界34都市の空港上空では、二酸化炭素排出量の大きな都市域ほど二酸化炭素濃度が大きく変動していることが分かります。近隣都市からの二酸化炭素排出が大きいほど、その影響が大きく現れていると考えられます。このことは、各都市域の二酸化炭素排出量を観測データからも監視できる可能性を示しています。今後とも、民間旅客機というユニークな観測手段の特徴を活かし、都市域から世界的な規模まで長期的に観測を継続し、温室効果ガス変動の実態把握と予測に役立てていきます。 コラム ■最新の気象レーダーを用いた竜巻の研究  令和元年(2019年)10月12日、令和元年東日本台風が接近する中で、千葉県市原市で竜巻によるものと推定される突風被害が発生しました。気象研究所では、最新式気象レーダーである「フェーズドアレイ気象レーダー」及び「二重偏波レーダー」の観測データを用いて、この竜巻の解析を行いました。  千葉県千葉市に設置された日本無線株式会社所有のフェーズドアレイ気象レーダーは、竜巻を近傍から捉えました。このレーダーによる高頻度・高解像度の観測データの解析では、台風に伴う竜巻の発生過程を、世界で初めて30秒単位で追跡することに成功しました。分析結果の概要は以下のとおりです。  ① 台風の中心からおよそ500キロメートル離れた降雨帯で、上空にメソサイクロンと呼ばれる直径数キロメートルの渦を伴う積乱雲が北西に進んでいました。  ② 積乱雲の後面で生じた下降気流に伴って、メソサイクロンの下方に、直径1キロメートル未満の小さな渦が作られました。この渦は上方に進展してメソサイクロンと結合し、その1分後から2分後にかけて強化されました。  ③ 強化された小さな渦は、さらに1分から3分かけて下方に成長し、被害域にて地面に達する竜巻となりました。  また、気象庁が羽田空港及び成田空港に設置している二重偏波レーダーによる観測データを解析したところ、竜巻によって巻き上げられた飛散物が、上空の渦とともに移動しつつ、水平方向及び高度方向に拡がる様子を捉えていたことが分かりました。2台の二重偏波レーダーにより同時に竜巻飛散物を鮮明に捉えたのは国内初となります。  従来型の気象レーダーではこのような竜巻による飛散物の特徴を解析することができませんでしたが、最新の二重偏波レーダーを用いることで、粒子の形状やばらつきの情報が得られるようになり、竜巻飛散物の分布を捉えることが可能となりました。竜巻飛散物に注目することで、竜巻やその周囲の詳細な構造の理解が進むと期待されています。  今後も、最新の観測技術と精度の高い解析手法を用いて、竜巻のメカニズム解明や、実況監視・被害規模推定等の高度化のための研究を進めていきます。 コラム ■津波地震とその規模推定  海底下で大きな地震が起きると、断層のずれにより海底が隆起又は沈降します。これにより、その上の海水が急激に上昇又は下降してそれが大きな波として周囲に伝わる「津波」が発生します。通常、地震による揺れが大きいと、津波も大きくなる傾向がありますが、まれに、地震の揺れに比べて異常に大きな津波が発生する場合があります。揺れが弱かったにも関わらず大津波が来襲し、死者・行方不明者2万人を超える被害を生じた明治29年(1896年)の明治三陸地震はその典型で、このような地震を「津波地震」と呼んでいます。  気象庁では、津波から迅速に避難できるよう、地震が発生すると直ちに震源の位置・地震の規模(マグニチュード)を推定し、震源が海底直下の場合は津波予測を行い、その結果に基づいて津波警報等を発表します。しかし、津波地震の場合、その規模を短時間で正確に推定することは容易ではありません。  これまでの研究で、津波地震は海のプレートが沈み込み始める海溝付近で発生することが多く、断層が通常の地震に比べると何倍も長くゆっくり時間をかけてずれることが分かってきました。このような断層の動きでは、長周期の地震波が生じやすい一方、人が揺れを感じるような短周期の地震波が生じにくく、地震計が捉える揺れも小さくなってしまいます。このため通常の地震と同じように津波予測を行えば、津波も過小に予想してしまいます。そこで気象庁では、津波地震が想定される海域で地震が発生し、長周期の地震波が目立つなどの特徴が見られ、推定した地震の規模が過小評価であると判定した場合には、より規模の大きな地震として扱って津波警報等を発表することとしていますが、本来は規模を正確に推定できることが重要です。  気象研究所では、発生した地震が通常の地震なのか津波地震のような断層がゆっくりとずれる地震なのかに関わらず、短時間で正確に規模を推定することができる手法の開発を行っています。地震波は、断層がずれるのにかかった時間によって、その大きさの特徴が変化します。そこで、あらかじめ地震の規模を設定した上で、断層がずれる時間の長さが様々なケースを想定して地震波の大きさの特徴を数値計算しておき、これらの結果と、実際に観測された地震波を照合して、最も特徴が合うものを選びます。そして両者の大きさの差を基に、あらかじめ設定していた規模を修正することにより地震の規模を推定します。照合を行うことから、短周期の地震波が生じにくい津波地震であっても適切に規模を推定することが期待できます。  津波警報等は一刻一秒を争い、地震の揺れが続いている中で行う必要も出てきます。そのような場合でも津波地震の規模を正確に推定できるか注意を払いながら、手法の検証を行っています。 コラム ■気象レーダーで噴煙を診る  気象レーダーは、通常、雨や雪などを観測するものですが、火山噴煙も観測できることが知られています。有名なものでは、昭和55年(1980年)のセントへレンズ火山(米国)、平成22年(2010年)のエイヤフィヤトラヨークトル火山(アイスランド)、我が国においても平成23年(2011年)の霧島山(新燃岳)の噴火などで観測事例があります。気象研究所では、火山監視能力の向上及び降灰予報の高度化を目指し、気象レーダーにより噴火現象を検知する手法や、噴煙内部にどのくらい火山灰が含まれるかを推定する手法の開発を行っています。  令和2年(2020年)6月4日に鹿児島県の桜島で発生した、大きな噴石及び空振を伴う噴火では、桜島上空が雨雲に覆われており、監視カメラでは噴煙全体を確認することができませんでした。しかし、気象庁の気象レーダー観測網で、噴煙・火山灰雲が捉えられており、このデータを気象研究所が開発した手法を用いて解析した結果、噴煙は火口上約8,000メートル以上に達していたと推定されました。この手法は、平成26年(2014年)御嶽山の噴火などの事例でも適用され、火山活動の評価に役立ってきました。  現在、気象庁では、全国の気象レーダーを、降水強度を従来よりも正確に観測できる二重偏波気象レーダーに順次更新しています。二重偏波レーダーは観測したい粒子の形状を認識できるため、噴煙と降水の識別・火山灰量推定へ応用することも期待されます。気象研究所ではこの更新に先立ち、桜島で二重偏波レーダーによる観測を行い(図)、火山灰量を推定する手法の開発を進めています。  これらの技術が実用化されれば、噴火の監視能力の向上だけでなく、噴火後の避難など応用も期待できます。気象研究所では、実用化に向けて、気象レーダー以外の観測データも用いて噴煙の高さや火山灰の量の精度についての検証も行い、データの質の確保に取り組んでいます。 4章 基盤技術と情報を活かした産業の興隆 1節 生産性向上に向けた取組 (1)はじめに  IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット・センサーの技術的ブレークスルーを活用する「第4次産業革命」により、社会的課題の解決や、消費者の潜在的ニーズを呼び起こす新たなビジネスの創出が期待されています。  また、「成長戦略フォローアップ」(令和元年(2019年)6月21日閣議決定)では、気象データの利活用に関して提言・助言等を行う専門技術者の育成や確保の仕組みについて、「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」(以下「WXBC」という。)の活動を通じて検討を進めることとしています。さらに、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(令和2年(2020年)7月17日閣議決定)では、気象情報の利活用の促進の一環として、産学官によるWXBCの取組や、基盤的な気象観測・予測データの公開を通じ、観光、物流、農業など様々な産業分野での気象情報の利活用を促進することとしています。  このように、様々な産業活動における気象データの利活用が注目されています。 (2)産業界で進む気象データの活用 ア.基盤的気象データの高度化・オープン化  気象庁は、日々自然現象を観測し、収集したデータを解析することにより、状況の把握や予測を行い、様々な基盤的な気象データを作成・提供しています。気象データには、アメダス、天気予報、警報・注意報など、地点や領域についての情報をもつ容量が小さいデータのほか、気象衛星データや数値予報データなど、面的・立体的(2次元・3次元)な広がりを持つ容量の大きいデータがあります。  気象データは、近年の気象観測・予測技術の高度化に伴って、高頻度・高解像度になったり、例えば、令和2年(2020年)9月に追加された面的な日照時間の分布を推計した推計気象分布(日照時間)や令和3年(2021年)3月に追加された地域気象観測所(アメダス)で観測する湿度データなど、新たな気象データの提供が開始されたりします。これらの気象データはオープン化された公的データであるとともに、まさにビッグデータと言えます。 イ.気象データの活用事例  気象は、人の行動や農業、製造、交通等の各種社会経済活動に大きく影響を与えていること、物理法則に基づいた予測が可能であること、さらに、そのデータはオープン化されたビッグデータであることから、過去の気象データを様々な企業独自のデータと組み合わせて分析し、その関係性を用いてリアルタイムの気象の観測・予測データ等を用いる新たなビジネスが誕生しつつあります。例えば、電力分野での電力需要予測、アパレル分野でのコーディネートを提案するサービス、農業分野での農作業時期の予測による営農の効率化、飲食分野での廃棄ロス削減、エンターテイメント分野での天候に合わせて値段を変更するダイナミックプライシング等、様々な産業分野で気象データ利活用の動きが見られます。 ウ.気象データの活用の状況と課題  令和2年版情報通信白書(総務省)では、気象データを活用している企業の割合が、平成27年版情報通信白書(総務省)の1.3%から大きく進展しましたが、いまだ1割未満となっています。  また、気象庁が令和元年度(2019年度)に産業での気象データの利活用実態を把握するために行った様々な産業の10,000社を対象としたアンケート調査では、回答のあった企業のうち約7割が事業活動に気象の影響を受けているものの、そのうち約半数は影響を受けることを認識していても気象に応じた事業活動の変更を行っておらず、変更を行っている企業も、大半が経験と勘を基にしたもので、気象データを定量的に分析してサービスを変更する等の事業運営を行えている企業は全体の約1割と多くないことが分かりました。気象データが十分に企業で活用されていない課題として、気象データを扱える専門的な人材の不足や気象データの利活用方法が分からないこと等が挙げられ、気象データの利活用に関しては未だ課題があることが分かりました。 (3) 気象データ利活用促進による社会の生産性向上に向けた取組の推進 ア.気象データを扱う事業者に対する支援  気象庁は、自らが保有する気象データを、民間気象業務支援センターを通じて、気象データの利用を希望する事業者等へ迅速かつ確実に提供しています。これらの気象庁データは、事業者が提供する気象サービスの基礎資料となるだけでなく、他のビッグデータとの分析に用いることによって、産業界の多様な活動やサービスに活用されています。  また、高度化する気象データが更に活用されるよう、気象データを扱う事業者を対象に最新の技術や気象情報について解説する講習会を開催するほか、気象庁ホームページに「気象データ高度利用ポータルサイト」を設けています。このページには、気象庁が提供する高度化した気象データを利用するために必要な情報のほか、気象庁ホームページからダウンロードできる気象データについての情報を掲載しています。  気象庁では、引き続き、利用者の意見を把握しつつ、これらの取組の更なる推進や新たなデータの提供等の基盤的データの高度化・オープン化の取組を進めていきます。 イ.「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」と連携した気象データ利活用の促進  産学官関係者の対話や連携を強化して、新たな気象ビジネスの創出を実現するため、平成29年(2017年)3月にWXBCが設立されました。気象事業者に加えて、情報通信、農業、小売、金融等の関係する産業界や先端技術に知見のある学識経験者等を構成員とし、会員数は、設立当初は215者、 令和3年(2021年)4月には1,026者を超えるなど順調に増えています。  WXBCでは、二つのワーキンググループ(WG)を設置しています(人材育成WG、新規気象ビジネス創出WG)。人材育成WGでは、ビジネス発想力・気象データ理解力・IT活用力の向上を目指し、気象データとオープンデータを掛け合わせてデータ分析を行う勉強会等を開催するとともに、成長戦略フォローアップで示された専門技術者「気象データアナリスト」の育成について気象庁と共同で検討をしています。新規気象ビジネス創出WGでは、気象データを利活用したビジネス事例の創出を目指し、企業等の出会いの場の創出、気象データを活用したビジネスを紹介する「気象データの利活用事例集」の作成に取り組んでいます。また、両WGで連携し、気象データのビジネス活用に結び付くよう、セミナーイベントの企画を行い開催しています。  令和2年度(2020年度)は、新型コロナウイルスの感染拡大のため、これまで会場で開催していたイベントや会合をオンライン化した結果、全国各地の方に活動に参加していただけるようになりました。これまで以上に、気象データの活用について知っていただく機会が増えるとともに、産学官の関係者の対話の場が広がっています。 コラム ■様々な機関の情報も組み合わせた気象情報利活用の促進セミナー  気象庁では、全国都道府県の農業試験場や普及指導センター、病害虫防除所等の農業指導現場で実務者を対象にセミナー等を実施し、農作物の生産や管理における気候情報の活用可能性について意見交換を行っています。その結果、例えば、向こう2週目に予測された極端な高温と週間天気予報を参考に野菜の収穫日を決定したなど、短期予報から中・長期予報のシームレスな活用が広がってきています。ここでは、令和元年(2019年)12月に、群馬県にて、国立研究開発法人防災科学技術研究所や国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」という。)と連携、共催して実施したセミナーについて、群馬県担当者からの感想とともに紹介します。 国立研究開発法人防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門 主幹研究員 横山 仁  防災科学技術研究所は、群馬県でのセミナー前年の平成30年12月に、気象庁、農研機構との共催により、栽培支援から災害対策までの情報をパッケージにした「農業に役立つ気象情報の利用に関するシンポジウム」を気象庁講堂にて開催しました。セミナーは、ここで得られた知見やノウハウの普及を目指したもので、群馬県職員のほかJA等関連団体も含めた約90名参加のもと群馬県庁にて行われました。当日、群馬県からは近年の農業気象災害への対応や気象情報の活用等に関する報告があり、気象庁からは長期予報とその活用に関する現状、また、農研機構からはメッシュ農業気象データを活用した栽培管理支援システムについてそれぞれ話題提供がありました。当研究所からは、群馬県でも多発するひょう害等極端気象による農業気象災害の軽減に向けた研究や、気象リポートシステム「ふるリポ!」等の取組を紹介しました。最後には活発な総合討論が行われ、非常に有意義なセミナーとなりました。当研究所では令和2年に、局地的な災害を引き起こす激しい気象のきめ細かいリアルタイム情報を見える化したWeb-GISシステム「ソラチェク」の公開を始めましたが、ひょうに関しては、被害後の早期の農薬散布や被害調査の初動への活用を想定しており、本セミナーの成果が生かされています。今後とも、気象庁等他機関とのこうした連携により、農業気象災害のさらなる軽減に向けた取り組みを進めていく予定です。 群馬県 農政部 技術支援課長(令和3年3月現在) 藤井 俊弘  当県では、全県145名の普及指導員がJA等と連携し、生産者への農業技術指導を行っています。当県の農業は、野菜や果物の栽培が盛んですが、凍霜害や雹害、雪害と、年間を通して様々な気象のリスクに晒されています。農業指導現場では、これらに対応するため、気象に関連した情報をいち早く取得し、事前・事後の技術対策を周知及び指導しています。また、日頃の指導においても、気温等のアメダスデータを活用し、生育ステージの予測や病害発生予測等を行っています。本セミナーでは、様々な気象分野の専門家から、最新の知見も交えた気象に関するご講演をいただき、農業現場で指導する職員にとって非常に良い機会となりました。若手職員を含めて質疑応答でも盛り上がり、閉会後もしばらく続いていたことを記憶しております。本セミナーをきっかけとして、これまで以上に気象データを有効活用してくれることを期待しています。また、今後農業にとって、気象は益々重要な課題になります。今回のようなセミナーを継続して開催し、研究機関と現場担当者の意見交換を繰り返していくことで、両者のレベルアップにつながるものと確信しています。 コラム ■気象予測データの応用技術の高度化に向けた議論と今後の展望  気象庁では、毎年、意思決定に活用しやすい気候情報作成のための応用技術の開発と普及を目的として、農業やアパレル・ファッションや家電、清涼飲料といった様々な産業分野との議論を通して、気候情報のニーズや活用現状の把握とその有効性や可能性について検討しています。農業においては、水稲の収穫適期予測や果樹の開花時期予測、病害虫防除適期予測での気候情報の活用が進む現状から、各専門家も交えてその有効性を検証しました。ここでは、農研機構の各専門家に、気象予測データの高度利用の展望もふまえて紹介していただきます。 農研機構 果樹茶業研究部門 生産・流通研究領域 園地環境ユニット 園地環境ユニット長(令和3年3月現在) 杉浦 俊彦  平成31年1月に、気象庁にて、栃木県や山梨県等の都道府県で果樹の発育予測に従事する担当者も含めた検討会を実施し、当機構で開発を進める発育予測モデルと最新の気象予測データの連携事例を確認できました。果樹の発育予測モデルとは、例えば、前年秋から春にかけての気象データを入力することで開花期といった発育ステージを推定することができる数式です。ナシやモモといった果樹の開花時期では、受粉や摘らいなどの作業計画やそれに伴う雇用計画の決定に利用されます。今回の検討と議論によって、中・長期予測データの活用可能性と今後の期待が見出されました。温暖化により発生頻度が増している果実の着色不良や日焼けは、2、3か月先の気温予測情報をもとに被害予測をすれば、より効果的な対策ができます。そのため、農研機構ではこうした被害予測技術の開発も鋭意進められています。今後、スマート農業の進展のなかで、こうした2週間気温予報のみならずその先の気象予測情報が農業経営に活かされる機会は確実に増加すると考えられます。 農研機構 中央農業研究センター 虫・鳥獣害研究領域 研究領域長(令和3年3月現在) 松村 正哉  都道府県の病害虫防除所では、病害虫の発生状況を調査したうえで気象平年値や1か月予報や3か月予報も根拠に防除計画の参考となる発生予察情報を作成、提供しています。最近の極端な暖冬や暑夏といった年々の気候の違いによる害虫の発生時期や発生量の変動や、海外から上空の風によって運ばれるウンカなどの害虫がもたらす被害を防ぐために、早急な対応が必要となっています。また、地球温暖化による病害虫の発生地域や時期の変化にも対応が求められています。このためには、迅速な病害虫の発生実態の把握と、より精密な気象データを使った病害虫の発生予測が重要となります。発生実態の把握には、最近はドローンやAI技術を活用した画像診断が使われ始めています。また、精密な気象データを使った発生予測には、当機構が開発したメッシュ農業気象データといった詳細な面的情報が有効と考えられます。気象庁で実施した都道府県の防除所職員も含めた検討会では、現在取り組む新技術に、高精度な長期気象予測が加われば、より精度の高い防除対策のための情報提供が可能となることが論議されました。 コラム ■気象データアナリストの育成・確保  産業界ではいま、急速にデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいます。そして、このDXの進展に伴って、あらゆるビジネスの6割以上に影響を与える気象のデータについても、活用可能性が高まっています。一方で気象データは、データ自体の種類の多さや、観測や予測といった概念、予測誤差があるため確定論的に扱うことができないなど、他のデータと異なる特徴があります。実際に、気象データを扱っている方々からも、気象データを適切に扱うためには、気象データ特有の専門的な知識について学ぶ必要があることについて指摘されてきました。  これらの状況を踏まえて気象庁と気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)では、気象データの知識とデータ分析の知識を持ち、気象データとビジネスデータを分析して新規事業創出や課題解決ができる人材「気象データアナリスト」の育成に向けて議論を重ね、今般、こうした人材を育成できる講座を認定する制度を令和3年(2021)2月に創設しました。この制度は、気象庁とWXBCが検討したスキルセットや標準的なカリキュラムに準ずる民間講習を認定し、一定以上の品質が担保された民間講習の実施を後押しすることを通じて、気象データアナリストを増やしていこうというもので、令和3年10月以降、気象庁の認定を受けた講座が順次開講します。  この制度のベースとなっているスキルセットや標準的なカリキュラム検討に当たっては、大学教員、データサイエンスや気象データに関する有識者の知見に加え、試験的に行った講習の受講生からの意見も取り入れたほか、経済産業省第四次産業革命スキル習得講座認定制度や一般社団法人データサイエンティスト協会のスキルチェックリストも活用するなど、「ビジネスで本当に役に立つ内容」となることを追求しました。その検討の結果、カリキュラムガイドラインを作成しました。  このカリキュラムガイドラインは、上記のスキルセットと標準カリキュラムの内容を総合的に示す、いわば気象データアナリスト育成のための学習指導要領となっています。  このカリキュラムガイドラインでは、まず気象データアナリストとして必要なスキルを明らかにするとともに、そのスキルを身に着けるために必要な講習内容や講習形式についての指針を示しています。また、これらを行うためにモデルとなる標準的なカリキュラムも示しています。これらを指針とすることで、一定の品質が担保された講座を開講できることが期待できます。  また、技術の進展や気象データアナリストへのニーズの変化に応じて、このカリキュラムガイドラインは、随時更新していくものとしています。  本ガイドラインが、気象データ活用によるDXを加速させ、もって産業の興隆に資することを願っております。 コラム ■産業での気象データの利活用に向けた人材の育成 岐阜大学工学部附属応用気象研究センター センター長・准教授 吉野 純  気象データをビジネスで活用するために必要な能力とは何か?私は、気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)の人材育成ワーキンググループ(WG)の一員として、また、気象データアナリストのスキルセット検討委員会の一委員として、気象データアナリストのあるべき人材像について検討する機会をいただきました。そして、議論を通じて、気象データをビジネスに活用できる専門家には、次の3つの「力」が必要になるのではないかと考えるに至りました。  1つ目は、「気象データの理解力」です。例えば、気象要素の1つである「降水量」といっても様々な種類のデータがあり、データによって観測や予測の方法はまちまちです。気象データの持つ特性やそれに応じた誤差を正しく理解して取り扱わないと本質を見誤った分析をしてしまうことになります。つまり、気象データアナリストは気象データに対する「気象学的理解」を一定のレベルで有している必要があるのです。防災気象情報を読み解く専門家である気象予報士も「気象データの理解力」を要しますが、利用する気象データはアナログ的な天気図に限られます。一方で、気象データアナリストは、目的に応じた分析や予測を行うために気象データをデジタル的に処理する必要があり、GRIB2形式やBUFR形式といった気象分野に特有なデータフォーマットを理解しデータハンドリングの技術を修得していなくてはなりません。よって、気象データの「気象学的理解」に加えて「情報学的理解」も重要となってくるのです。  次に、「データサイエンスの活用力」です。気象予報士の能力として、気象に関する物理学の知識は問われますが、統計学の知識はほとんど問われません。一方、気象データとビジネスデータを組み合わせた分析を行い、ビジネス上の課題を解決するためには、データを統計学的に俯瞰できる能力も不可欠となります。つまり、データサイエンスの手法として用いられる確率・統計的検定、回帰分析、可視化、時系列分析、機械学習などを活用できる能力が必要となるのです。よって、PythonやRといった統計処理に適したプログラミング言語を自在に使いこなせることも気象データアナリストの基盤的能力の1つとして位置付けられるでしょう。  そして、最後に「ビジネスの発想力」です。気象予報士の活動は気象を予測し防災につなげるという明確な目的がありますが、気象データアナリストの活動の目的は対象とするビジネス事例によって異なります。「気象データ」も「データサイエンス」も課題解決のための手段にすぎません。ビジネスにおけるリスクや利益を経済学的に評価し、課題解決のための仮説を立てる能力が求められます。これは、実務経験の積み上げによって修得できるスキルではありますが、WXBC人材育成WGで開催している「気象データ分析チャレンジ!」のような課題解決型学習による教育効果が期待されます。  これら3つの「力」を育成するよう設計された「気象データアナリスト育成講座」がいよいよ始まります。3つの力を有する気象データアナリストが、既存の業界の枠から飛び出し、真の異業種交流を実現することにより革新的な気象ビジネスを創出できると信じています。そして、未来の先鋭的な気象データアナリストが、ポストコロナ時代の超スマート社会や持続可能社会の推進力となることを期待しています。 2節 民間の気象事業  気象等の現象は、交通、電力、農業、食品や衣料品販売等様々な産業に影響を与え、国民の生活に密接に関わっており、国民及び産業界には気象情報に対する幅広いニーズが存在しています。また、近年では、高速インターネットやスマートフォンをはじめとする携帯端末の普及等、情報通信技術の目覚ましい発展と相まって、多くの国民が、情報を一方的に受けるだけでなく、自らの判断で必要とする情報を入手できるようになってきました。このような社会情勢を踏まえた多様なニーズに応えるため、様々な民間気象事業者が活躍しており、今後、その役割はますます重要になってきます。  ここでは、民間気象事業者による適切な気象サービスの提供を支える、予報業務の許可制度や気象予報士制度について解説します。 (1)予報業務の許可制度  気象等の情報は国民の生活に深く関わりがあり、社会の混乱を防ぐため、民間気象事業者から提供される情報は技術的に裏付けられたものである必要があります。そこで、民間気象事業者が気象、波浪、地震動、火山、津波、高潮の現象の予報業務を行う場合は、事前に施設、要員、技術上の基準等を審査する予報業務許可制度を設けており、様々な事業者が許可を取得しています。  気象庁では、観測・予測技術の進展や社会情勢の変化に応じて予報業務許可に関する規制の一部を見直す取組を進めており、令和2年には民間気象事業者による長周期地震動の予報も可能となりました。 (2)気象予報士制度  気象、波浪、高潮の現象の予想を行うには、数値予報資料の解釈など高度な技術を要します。このため、民間気象事業者がこれらの予報業務を行うためには、予報に必要な知識や技能を問う気象予報士試験に合格し、気象庁長官の登録を受けた気象予報士に現象の予想を行わせなければなりません。また、気象予報士には、報道等を通じた解説や住民を対象とした防災講演会に加え、気象データの分析を経営に生かすビジネス分野での活躍も期待されています。令和3年(2021年)4月1日現在、10,953人が気象予報士として登録されています。  なお、地震動、火山、津波の予報業務については、気象予報士ではなく技術上の基準を定めています。民間気象事業者が予報業務を行うためには、この基準を満たす必要があります。 第3部 気象業務の国際協力と世界への貢献  大気に国境はなく、台風等の気象現象は国境を越えて各国に影響を与えます。このため、精度の良い天気予報とそれに基づく的確な警報・注意報の発表のためには、国際的な気象観測データの交換や技術協力が不可欠です。また、気象分野のみならず、気候や海洋、地震・津波、火山分野においても国際協力が重要です。このため、気象庁は、世界気象機関(WMO)等の国際機関を中心として世界各国の関連機関と連携しているほか、近隣諸国との協力関係を構築しています。 1章 世界気象機関(WMO)を通じた世界への貢献  WMOは、世界の気象業務の調和的発展を目標として設立された国際連合の専門機関の一つであり、我が国は昭和28年(1953年)に加盟しました。世界気象会議(全構成員が出席)を4年ごとに開催し、向こう4年間の予算や事業計画を審議するほか、執行理事会(世界気象会議で選出された37名が出席)を毎年開催し、事業計画実施の調整・管理に関する検討を行っています。我が国はWMOの主要な資金拠出国であり、アジア地区における気象情報サービスの要として、国際的なセンター業務を数多く担当するなど中心的な役割を果たしています。また、歴代の気象庁長官が執行理事としてWMOの運営に参画しているほか、当庁の多くの専門家が専門委員会や地区協会の活動に貢献しています。  世界の国々が効率的な気象業務を行うためには、統一された方法による大気や海洋の観測、データの迅速な交換、高度なデータ処理に基づく気象情報の作成・提供が必要です。  例えば、気象庁はアジア地区を担当する地区測器センターに指名されており、各国の観測データの品質が保たれるよう、基準となる気象測器の管理や、気象測器の比較校正の支援及び保守等の指導を行っています。この活動は、各国における観測技術の向上に寄与するだけでなく、品質の良い観測データを得ることによって、気象庁が行う天気予報等の精度向上につながるものです。  観測データ等を国際的に迅速に交換するためには、全世界的な気象通信ネットワークが不可欠です。気象庁は、全球情報システムセンター(GISC東京)及びアジア地区通信中枢(RTH東京)として様々な気象・気候データを確実に流通させ、東アジア地域におけるデータ交換の中継を担っています。また、世界各国との技術協力や主に東南アジア地域を対象とした技術支援を通じて気象通信技術の高度化を推進し、観測データ等の効率的な国際交換・提供に貢献しています。  こうして収集した世界の観測データ等を活用して気象庁が作成したプロダクトは、再び気象通信ネットワークを通じて各国に提供され、各国が行う気象予測や防災活動のために利用されています。気象庁が、北西太平洋域の熱帯低気圧に関する熱帯低気圧地区特別気象センター(RSMC)東京センターとして提供する情報もその一つです。責任領域内の熱帯低気圧について、解析や予報、予報の根拠、数値予測の情報等をリアルタイムに提供することで、同領域内の各国が行う解析・予報を支援しています。また、地区気候センター(RCC東京:TCC)として、アジア太平洋地域における気候関連業務に関する技術協力を行っています。  さらに気象庁は、WMOのプロジェクトやこれらのセンター業務の一環として、アジア地区の気象機関職員を主な対象とした研修やワークショップを実施することで、人材育成支援、技術移転等を積極的に進めています。  このほか、気象庁は温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)として、世界各地で観測された温室効果ガスのデータを収集しています。WDCGGで解析した温室効果ガスの世界平均濃度は、気候変動に関する国際連合枠組条約締約国会議(COP)の交渉などにおいて、重要な科学的根拠として用いられています。  このように、WMOの枠組みの下で行う国際協力は、気候変動対策をはじめとする国際的な取組に貢献しているほか、世界の観測データ等を確実に入手して精度の良い天気予報等を行い、我が国の防災に資するものです。また、開発途上国等の気象業務サービスの向上を支援することによって、海外で活動する日系企業や在外邦人の安全確保にも貢献しています。 コラム ■世界気象機関(WMO)における日本のプレゼンスの向上 現 国土交通省 海事局 総務課 企画官 前 ジュネーブ国際機関日本政府代表部 参事官 金籠 史彦  WMOの活動の中核を担うのは、気象や気候に関する専門家です。日本からも、主に気象庁から専門家が様々な活動に貢献しています。またジュネーブに本部を置くWMO事務局では、気象庁出身者を含む日本人の職員も専門分野における知識や経験を活かして活躍しています。  日本は、台風・豪雨、熱波・寒波、地震・火山・津波等々をはじめとした数々の自然災害と向き合ってきた国です。こうした災害経験を通じて培ってきた豊富なノウハウ、産学官連携の仕組み、そしてソフト・ハード両面に渡る国際協力の実績は、WMO側からも高く評価され、今後の貢献が強く期待されています。  私は、ジュネーブ国際機関日本政府代表部における勤務にあたり、WMOの総会や執行理事会の際に日本が主催するイベント等の機会をとらえて、日本が持つノウハウや実績を積極的に発信することを心がけてきました。さらに、気象庁にて気象業務の最前線で活躍されてきた方々をWMO事務局に派遣するための制度運用にも携わりました。これにより、日本が持つノウハウの世界への共有が更に可能になるとともに、WMOにおける人的ネットワークを強化し、日本とWMO事務局及びWMOに加盟する諸外国との間のコミュニケーションの更なる深化が期待されます。  引き続き気象庁のみなさまが、WMOの様々な分野にわたる活動において各々の専門性を生かした貢献や活躍を通じ、更に「日本のプレゼンス」を高めていただくことを強く願っております。 2章 国連教育科学文化機関(UNESCO)を通じた世界への貢献  UNESCO政府間海洋学委員会(IOC)は、世界気象機関(WMO)とも協力し、各国の海洋に関する科学計画の調整を行っています。気象庁は、海洋・津波分野で技術的貢献をしています。 ・北東アジア地域海洋観測システム(NEAR-GOOS)地域リアルタイムデータベースの運営  中・韓・露と協力して、北東アジア域の海洋と海上気象のデータの収集・解析・提供を行っています。 ・北西太平洋津波情報センター(NWPTAC)の運営  北西太平洋における地震を監視し、津波を発生させるおそれのある大きな地震が発生すると、地震や津波に関する情報を速やかに周辺各国に提供しています。その情報は、各国の津波防災対応に活用されています。 3章 国際民間航空機関(ICAO)を通じた世界への貢献  国連の専門機関の一つである国際民間航空機関(ICAO)は、国際民間航空業務の健全な発達のために設立されました。気象庁は、ICAOが主催する航空気象に関する会合に積極的に参加し、航空気象業務の国際的な統一基準の策定や高度化に向けた検討に参画しています。また、ICAOの指定を受けて、航空路火山灰情報センター(VAAC)、熱帯低気圧情報センター等の国際的なセンター業務を担当し、世界の航空機の安全運航に貢献しています。 4章 各国気象機関等に対する人材育成支援・技術協力  気象庁は、開発途上国に対し、上で述べたWMO等の枠組みのほか、国際協力機構(JICA)等と協力して専門家派遣や研修等を実施することにより、気象、海洋、地震・火山などの様々な分野における人材育成支援・技術協力を行っています。 (1)国際協力機構(JICA)と連携した協力  JICAの課題別研修の一つである「気象業務能力向上」では、各国気象機関の職員を毎年8名程度、約3か月間にわたって気象庁にて受け入れ、気象庁職員が講師となり、気象業務に直結する技術の習得及び研修成果の母国での普及を目的として、講義・実習を行っています。受講者数は、研修を開始した昭和48年度(1973年度)以降、計77か国356名にのぼり、その多くは帰国後、母国の気象業務の発展に主導的な役割を果たしています。  また、JICAは、各国気象機関の現状を確認しつつ、観測機器の設置に係る協力や、「気象観測・予報・警報能力向上」などの技術協力プロジェクトを進めており、その中で気象庁は、各プロジェクトのコンサルタントとも連携しながら専門家派遣や研修を行っています。 (2)気象衛星「ひまわり」を活用した協力  気象衛星「ひまわり」は、広く東アジア・太平洋を観測し、観測データは約30か国で利用されています。気象庁は、WMO・JICAと連携して、開発途上国20か国に観測データの受信環境を整備しました。また、世界最先端の観測機能を持つ気象衛星「ひまわり」の観測データを効果的に活用して気象現象等の監視・予測及び防災活動に役立ててもらえるように、気象庁は職員を諸外国に派遣し、実例を用いた解析や、提供した気象衛星画像等の表示解析ソフトの使い方などの研修を行いました。本研修は各国から歓迎され、今後も継続して行うこととしています。  また、平成30年(2018年)1月から、気象衛星「ひまわり」による新たな国際協力として、外国気象機関からリクエストされた領域に対して2.5分ごとの観測を実施するサービス「ひまわりリクエスト」を行っています。この高頻度観測は熱帯低気圧や火山等の集中的な監視に効果を発揮します。令和元年(2019年)11月から令和2年(2020年)2月にかけて、オーストラリア気象局からの要請に応じて同国の森林火災を対象とした集中観測を継続的に実施し、同国から謝意が寄せられました。 5章 我が国の質の高い観測機器の海外展開支援  我が国メーカーは、低ランニングコスト、安定運用、電波資源の有効利用等の特長を持つ「固体素子気象レーダー」を世界に先駆け製造・販売しています。また、空港周辺の風を観測する「空港気象ドップラーライダー」、小型で安価な高層気象観測機器「ラジオゾンデ」等も、日本が世界をリードする優れた観測機器です。気象庁は、政府の「質の高いインフラ」の海外展開の一環として、当庁の観測・予報等の技術支援と組み合わせながら、これら企業による海外展開の支援に取り組んでいます。 コラム ■ひまわりキャスト受信装置の海外普及を通じた国際貢献 東洋電子工業株式会社 代表取締役社長 林 夕路  不意に発生する自然災害は、社会発展を阻害し、人びとに不幸をもたらすだけでなく、地域紛争や国際紛争の火種を生むことさえあります。その被害を最小限に抑えることは安寧と成長を希求してきた古代人類以来の課題です。それは的確な気象予測なくして成り立ちません。確度の高い気象予測を支える三要素である①観測、②分析、③伝達のうち、わが社では主に①と③の分野で、得意とする専門技術を活かし国際協力に参加しています。  弊社が気象衛星ひまわりデータの受信のための取組を始めたのは今から30年ほど前です。それは高解像度衛星画像受信装置の開発でした。当時は人工衛星の運用寿命が5年程度と短く、時々の新技術を消化するのに大変苦労しました。現在のひまわり8/9号は、約15年間という長い運用寿命が実現し、腰を据えた取組が可能になりました。一方で飛躍的な性能の向上により得られる膨大な観測データを欠落や遅延なく利用者に届けるのは容易ではありません。  弊社では気象庁の「ひまわりキャスト」による画像配信の地上受信装置を開発・製造しており、現在アジア・太平洋圏の17か国の気象局に納入しご利用いただいています。また、気象データの国際交換に関しては、WMO全球通信システム/ WMO 情報システム(GTS/WIS)のための機器を開発・製造しており、アジア・太平洋の各国でご利用いただいています。これらはいずれも気象庁とWMOの多角的な支援によって支えられています。  このように、弊社では地上観測を含めた多方面の技術の横断的な融合を今後の課題と捉えており、さらなる技術開発を続けていきたいと考えています。 第4部 最近の気象・地球環境・地震・火山 1章 気象災害、台風など 1節 令和2年(2020年)のまとめ  令和2年(2020年)5月9日から7月31日にかけて、活動の活発な梅雨前線や発達した低気圧の影響により、沖縄地方から東北地方にかけての各地で大雨となりました。特に、7月3日から7月31日にかけて、日本付近に停滞した前線の影響で、暖かく湿った空気が継続して流れ込み、各地で大雨となり、人的被害や物的被害が発生しました。気象庁は、顕著な災害をもたらした7月3日から7月31日までの一連の大雨について、災害の経験や教訓を後世に伝承することなどを目的として「令和2年7月豪雨」と名称を定めました。 2節 令和2年(2020年)の主な気象災害 (1)令和2年7月豪雨  7月3日から8日にかけて、梅雨前線が華中から九州付近を通って東日本にのびてほとんど停滞しました。前線の活動が非常に活発で、西日本や東日本で大雨となり、特に九州北部地方や九州南部では線状降水帯が形成され、4日から7日は記録的な大雨となりました。また、岐阜県周辺では6日から激しい雨が断続的に降り、7日から8日にかけて記録的な大雨となりました。気象庁は、熊本県、鹿児島県、福岡県、佐賀県、長崎県、岐阜県、長野県の7県に大雨特別警報を発表し、最大級の警戒を呼びかけました。  その後も前線は本州付近に停滞し、西日本から東北地方の広い範囲で雨の降る日が多くなりました。特に13日から14日にかけては中国地方を中心に、27日から28日にかけては東北地方を中心に大雨となりました。 (2)台風第10号による大雨・暴風等(9月4日~9月7日)  台風第10号は、9月4日から5日にかけて猛烈な勢力で沖縄地方に接近し、5日から7日にかけて非常に強い勢力を保って奄美地方や西日本に接近した後、朝鮮半島に上陸し、8日3時に温帯低気圧に変わりました。  風については、長崎県長崎市野母崎で最大風速44.2メートル、最大瞬間風速59.4メートルとなったほか、南西諸島や九州を中心に猛烈な風又は非常に強い風を観測し、観測史上1位の値を超えるなど、記録的な暴風となりました。  また、雨については、宮崎県美郷町神門で4日から7日までの総降水量が599.0ミリとなり、宮崎県の4地点で24時間降水量が400ミリを超えたほか、台風の中心から離れた東日本の太平洋側など広い範囲で24時間降水量が200ミリを超える大雨となりました。 (3)台風第14号による大雨・暴風等(10月7日~10月11日)  台風第14号は、10月7日から8日にかけて強い勢力で日本の南を北上し、9日には四国の南を北東に進みました。台風は10日から11日にかけて勢力を弱めながら東海道沖を東へ進み、伊豆諸島に接近した後、進路を南よりに変えて、伊豆諸島から遠ざかり、12日9時に熱帯低気圧に変わりました。また、台風の接近に伴い、10日を中心に東海道沖から伊豆諸島にのびる前線の活動が活発となりました。  前線や台風接近の影響で、10月7日から11日までの総雨量は、紀伊半島から東海地方にかけての太平洋側や伊豆諸島の多いところで400ミリを超えました。特に、東京都八丈町八丈島で700ミリを超えるなど、伊豆諸島南部では記録的な大雨となり、三宅村と御蔵島村に一時、大雨特別警報を発表しました。 3節 令和2年(2020年)の台風  令和2年(2020年)の台風の発生数は平年より少ない23個(平年値※25.6個)でした。7月までの台風の発生数は2個と平年よりも少なく、第3号は台風の統計を開始した1951年以降で2番目に遅い発生となりました。この要因としては、7月までインド洋において海面水温が高く対流活動が活発で、台風が発生する南シナ海やフィリピンの東側の海域において相対的に対流活動が不活発になったことが挙げられます。一方で、8月以降の発生数は21個で、平年より多くなりました。  日本への台風の接近数は平年より少ない7個(平年値※11.4個)で、日本への台風の上陸数は0個(平年値※2.7個)でした。上陸がないのは2008年以来で、1951年以降では5回目でした。 ※ 平年値は1981年~2010年の平均値。 2章 天候、異常気象など 1節 日本の天候  令和2年(2020年)は、ほぼ年間を通して気温の高い状態が続いたため、年平均気温は全国的にかなり高く、東日本で平年差+1.2℃と、1946年の統計開始以来、最も高くなりました。特に全国的に暖冬で、東・西日本では冬の平均気温の最も高い記録を更新しました(統計開始は1946/47年冬)。また、全国的に冬の降雪量はかなり少なく、北・東日本日本海側では冬の降雪量の最も少ない記録を更新しました(統計開始は1961/62年冬)。一方、7月は、活発な梅雨前線の影響で、東・西日本を中心に各地で長期間にわたって大雨となり(「令和2年7月豪雨」)、月降水量は東日本太平洋側、西日本で7月として最も多い記録を更新しました。月間日照時間も東・西日本で7月としてもっとも少ない記録を更新しました(統計開始はともに1946年)。梅雨明けは沖縄地方を除く各地方で遅くなりました。 2020年(令和2年)の各季節の特徴は以下のとおりです。 ① 冬(2019年12月~2020年2月)は、冬型の気圧配置が続かず、全国的に寒気の流入が弱かったため高温となる時期が多く、東日本以西では冬の平均気温がかなり高くなりました。特に東・西日本では最も高い記録を更新しました(統計開始1946/47年冬)。また、全国的に冬の降雪量はかなり少なく、北・東日本日本海側では最も少ない記録を更新しました(統計開始は1961/62年冬)。 ② 春(3月~5月)は、3月から4月にかけて、西日本を中心に移動性高気圧に覆われる日が多かったことから、春の日照時間は、東日本太平洋側と西日本でかなり多くなりました。一方、北日本では、発達しながら通過した低気圧や前線、湿った空気の影響を受けやすかったため、沖縄・奄美では3月と5月に前線や暖かく湿った空気の影響を受けやすく、春の降水量は多くなりました。3月と5月は、南からの暖かい空気が流れ込みやすかったため、春の平均気温は北日本でかなり高くなりました。 ③ 夏(6月~8月)は、7月は活発な梅雨前線の影響で、東・西日本を中心に各地で長期間にわたって大雨となりました(「令和2年7月豪雨」)。梅雨明けは沖縄地方を除き全国的に遅く、東北北部では梅雨明けが特定できませんでした。7月の月降水量は東日本太平洋側、西日本日本海側、西日本太平洋側で7月として最も多い記録を更新しました。7月の月間日照時間も東・西日本(それぞれ日本海側、太平洋側)で7月としてもっとも少ない記録を更新しました(統計開始はともに1946年)。このため、東・西日本の夏の降水量はかなり多くなりました。また、沖縄・奄美では、期間を通して前線や湿った空気の影響を受けやすかったため、降水量はかなり多くなりました。暖かい空気に覆われる時期が多かったため、全国的に夏の平均気温は高く東日本と沖縄・奄美ではかなり高くなりました。特に6月と8月の平均気温は東・西日本でその月としてもっとも高い記録を更新しました(統計開始は1946年、西日本はともにタイ記録)。 ④ 秋(9月~11月)は、西日本太平洋側では、9月上旬に大型で非常に強い勢力で接近した台風第10号をはじめ、秋の前半を中心に台風や低気圧と前線などの影響を受けたため、秋の降水量は多くなりました。一方、北日本太平洋側と東日本日本海側、沖縄・奄美では、低気圧の影響を受けにくかったため、秋の降水量は少なくなりました。北日本では9月前半と11月後半を中心に南から暖かい空気が流れ込みやすかったため、沖縄・奄美では11月を中心に暖かい空気に覆われたため、秋の平均気温はかなり高くなりました。 2節 世界の主な異常気象  令和2年(2020年)は、世界各地の広い範囲で異常高温が発生し(図中①⑤⑧⑩⑫⑯⑱㉑㉔㉕㉖)、各国の月平均気温や季節平均気温の記録更新が頻繁に伝えられました。シベリア及びその周辺では1月~11月に異常高温となり(図中①)、ロシアの2020年の年平均気温は、1891年以降で最も高くなりました。異常低温は、南アジア及びその周辺で9月~12月に発生しました(図中⑨)。  ヨーロッパ西部から南部では2月~3月、6月、8月、10月、12月に異常多雨となりました(図中⑪)。英国の2月の月降水量は、2月としては1862年以降で最も多くなりました(英国気象局)。一方、アルゼンチン北部からブラジル南部では2月~3月、5月、9月~11月に異常少雨となりました(図中㉓)。  中国では、6月~8月に長江中・下流域などで大雨となり(図中④)、死者と行方不明者が合計で270人以上になったと伝えられました(中国政府)。フィリピンからインドシナ半島では、10月~11月の大雨や台風第15号~第19号、第22号により(図中⑥)、合計で340人以上が死亡したと伝えられました(フィリピン政府、ベトナム政府、欧州委員会)。南アジア及びその周辺では、6月~10月の大雨により(図中⑦)、合計で2,700人以上が死亡したと伝えられました(インド政府、ネパール政府、パキスタン政府、EM-DAT※)。イエメン西部では6月~8月の、スーダン、ニジェールでは6月~9月の大雨により(図中⑭)、合計で370人以上が死亡したと伝えられました(国連難民高等弁務官事務所、EM-DAT)。米国西部では、8月~9月の森林火災(図中⑳)により合計で30人以上が死亡したと伝えられました(米国政府)。米国南部から中米では、8月のハリケーン「LAURA」や11月のハリケーン「ETA」、「IOTA」により(図中㉒)、合計で360人以上が死亡したと伝えられました(米国政府、国際連合人道問題調整事務所、欧州委員会)。 ※EM-DATは、米国国際開発庁海外災害援助局及びルーベンカトリック大学災害疫学研究所(ベルギー)による災害データベースです。 3節 世界と日本の平均気温  世界の年平均気温は、長期的には100年あたり0.75℃の割合で上昇しています。令和2年(2020年)の世界の年平均気温の基準値(昭和56年(1981年)~平成22年(2010年)の30年平均値)からの偏差は+0.45℃で、統計を開始した明治24年(1891年)以降で、平成28年(2016年)と並び最も高い値となりました。最近7年(平成26年(2014年)~令和2年(2020年))は、すべて歴代7位以内でした。  日本の年平均気温は、長期的には100年あたり1.26℃の割合で上昇しています。令和2年(2020年)の日本の年平均気温の基準値からの偏差は+0.95℃で、統計を開始した明治31年(1898年)以降最も高い値となり、2年連続で最高値を更新しました。 4節 大雨・短時間強雨  国内51観測地点における明治34年(1901年)~令和2年(2020年)の120年間の観測値によると、日降水量100ミリ以上及び200ミリ以上の大雨の年間日数は長期的に増加しています。  全国約1,300地点のアメダスによる昭和51年(1976年)~令和2年(2020年)の45年間の観測値によると、1時間降水量(毎正時における前1時間降水量)50ミリ以上及び80ミリ以上の短時間強雨の年間発生回数は増加しています。1時間降水量50ミリ以上の場合、最近10年間(平成23年(2011年)~令和2年(2020年))の平均年間発生回数(1,300地点あたり約334回)は、統計期間の最初の10年間(昭和51年(1976年)~昭和60年(1985年))の平均年間発生回数(1,300地点あたり約226回)と比べて約1.5倍に増加しています。ただし、大雨や短時間強雨の発生回数は年々変動が大きく、それに対してアメダスの観測期間は比較的短いことから、長期変化傾向を確実に捉えるためには今後のデータの蓄積が必要です。 5節 大気中の二酸化炭素  二酸化炭素は、化石燃料の消費や森林破壊といった人間活動から生じ、地球温暖化への影響が最も大きな温室効果ガスです。大気中の二酸化炭素の世界平均濃度は、工業化以前は約278ppm※(1750年)でしたが、人間活動により増加を続け、令和元年(2019年)には工業化以前の約1.5倍の410.5ppmに達しました。世界各地の観測データを緯度20度ごとに平均した二酸化炭素濃度のこれまでの変化を見ると、化石燃料が多く消費されている北半球で南半球より全般的に濃度が高くなっています。また植物の光合成活動などが原因で起こる季節による濃度変動も森林の多い北半球で大きくなっています。 ※ppm(ピーピーエム)は、大気中の分子100万個中にある対象物質の個数を表す単位です。 6節 その他の温室効果ガス  二酸化炭素の他に地球温暖化に影響を及ぼす温室効果ガスとして、メタン、一酸化二窒素があります。これらも人間活動に伴い増加しており、大気中の濃度は工業化以前の約2.6倍、約1.2倍にそれぞれ達しています。  また、エアコンや冷蔵庫で空気を冷却するために使われてきたクロロフルオロカーボン類(いわゆるフロン類:CFC-11、CFC-12、CFC-113など)には、オゾン層を破壊する性質とともに強い温室効果があります。これらは生産や使用の規制により大気中の濃度が近年減少傾向にあります。一方、フロン類の代わりとして使用されているハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC-22など)やハイドロフルオロカーボン類(HFC-134aなど)は、オゾン層を破壊しにくい(あるいは破壊しない)ものの、いずれも強力な温室効果ガスで、これらの大気中の濃度は増加を続けており、監視を続けることが重要です。 7節 海面水温  令和2年(2020年)の世界の年平均海面水温の平年差(昭和56年(1981年)~平成22年(2010年)までの30年平均値からの差)は+0.31℃で、統計を開始した明治24年(1891年)以降では平成28年(2016年)、令和元年(2019年)に次いで3番目に高い値となりました。世界の年平均海面水温は、数年から数十年に及ぶ時間規模の海洋・大気の変動や地球温暖化等の影響が重なりながら変化していますが、長期的には100年当たり+0.56℃の割合で上昇しています。数年から数十年の時間規模では、1970年代半ばから2000年前後にかけて顕著な上昇が見られた後、2010年代前半までは停滞していましたが、平成26年(2014年)から平成28年(2016年)まで3年連続で統計開始以降の最高記録を更新するなど、過去7年間(2014年~2020年)の値は、すべて歴代7位以内の値となりました。  令和2年(2020年)の日本近海の海面水温は、年を通して平年より高い海域が広く見られました。1~3月は海面水温が平年よりかなり高い海域が広く見られました。6月は北海道南東方や東経140度以西を中心に海面水温が平年よりかなり高い海域が見られました。8月は日本の南を中心に海面水温が平年よりかなり高い海域が広く見られ、関東南東方、四国・東海沖、沖縄の東では、解析値のある1982年以降で最も高くなりました。9月は東経135度以東と沖縄の南で海面水温が平年よりかなり高い海域が広く見られ、日本海西部と東シナ海では海面水温が平年よりかなり低い海域が見られました。12月は日本近海で海面水温が平年より高い海域が広く見られ、日本の南では海面水温が平年よりかなり高い海域も広く見られました。なお、黒潮は平成29年8月以降継続して大蛇行流路となっています。 8節 海洋中の二酸化炭素  海洋は、人間活動により放出された二酸化炭素の約3分の1を吸収していると見積もられており、地球温暖化の進行を緩和しています。気象庁の海洋気象観測船「凌風丸」と「啓風丸」は、昭和59年(1984年)から30年以上にわたって北西太平洋で表面海水中と大気中の二酸化炭素濃度を観測しています。東経137度線に沿った日本の南から赤道域までの海域においては、毎年冬季(1~3月)に表面海水中の二酸化炭素濃度が大気中の濃度より低いことが観測されており、海洋が大気中の二酸化炭素を吸収しています。また、北緯7度から33度で平均した二酸化炭素濃度は、昭和59年(1984年)から令和2年(2020年)までで見て、大気中で1年に1.9ppm、表面海水中で1年に1.8ppmの割合で増加しています。表面海水中の二酸化炭素濃度は大気と比べると年々の変動は大きいものの大気中の濃度同様に増加しています。 9節 オホーツク海の海氷  令和2年(2020年)~令和3年(2021年)のオホーツク海の海氷域面積は、12月上旬と中旬は平年より小さく、12月下旬から2月上旬まで平年並で推移しました。2月中旬から下旬にかけ海氷域が縮小し、海氷域面積が平年より小さくなりましたが、その後は平年並で経過しています。シーズンの最大海氷域面積は114.85万平方キロメートル(速報値)で、平年の98%でした。  オホーツク海の海氷域面積は年ごとに大きく変動していますが、最大海氷域面積は昭和46年(1971年)の統計開始以来、10年当たり6.1万平方キロメートル(オホーツク海の全面積の3.9%に相当)の割合(速報値)で減少しています。 3章 黄砂、紫外線など 1節 黄砂  令和2年(2020年)の国内のいずれかの気象台で黄砂現象を観測した日数(黄砂観測日数)は5日でした。  日本への黄砂の飛来は、例年3月~5月に集中しています。この時期は、①東アジアの砂漠域のような黄砂の発生源となっている地域で地面を覆う積雪がなくなる一方、まだ植物が芽吹いていないため乾燥した地面がむき出しで、砂じん(砂やちり)が舞い上がりやすいこと、②大量の砂じんを舞い上げ、運ぶ強風の原因となる低気圧が通りやすい季節であることから、黄砂が多く飛来します。この時期以外にも、黄砂の発生源となっている地域が乾燥していて上空の風が日本へ向いて吹いているなどの条件がそろえば、日本に黄砂が飛来します。  令和2年の月別黄砂観測日数は、全ての月で平年を下回りました。 2節 オゾン層・紫外線  上空に存在するオゾンは、フロン等による大規模なオゾン層破壊の影響で、1980年代から1990年代半ばにかけて世界的に大きく減少しました。その後は、国際的なオゾン層保護の取組により、わずかに回復しています。国内でも、つくばなどの地点で地上から上空までのオゾンの総量(オゾン全量)を観測していますが、同様な傾向が見られます(第1部1章6節(1)参照)。  オゾン層破壊の指標である南極オゾンホールの令和2年(2020年)の最大面積は、南極域上空の成層圏の気温の低い領域が広かったため、最近10年間の平均より大きくなりました。南極オゾンホールの長期変化では、2000年以降の年最大面積は統計的に有意な縮小傾向を示しています。  紫外線の人体への影響度を示す紅斑(こうはん)紫外線量は、つくばでは観測を開始した1990年から緩やかに増加しています。一般に、上空のオゾン量が減少すると地表に到達する紫外線は増加しますが、この期間、国内ではオゾン量は減少していません。大気中の微粒子が減少して紫外線が地上に到達しやすかったことなどが紅斑紫外線量の増加の原因と考えられています。 3節 日射と赤外放射  地球の大気や地表は、太陽からの放射(日射)によって暖まり、大気外への地球放射(赤外放射)によって冷えます。大気中にわずかに含まれる二酸化炭素やメタン等の温室効果ガスは、地表面から地球の外に向かう赤外放射を吸収し、再びあらゆる方向に赤外線を放射しています。そのため、温室効果ガスが増加すると、これまで地球の外に出ていた赤外放射の一部が地表面に戻り(地表面に向かう(下向き)赤外放射が増加し)、地表面や大気が暖まります。一方、地表面に達する日射の量は、雲、水蒸気、エーロゾルなどの量によって変わります。例えば、火山噴火で成層圏のエーロゾルが大幅に増加すると、噴火後数年間にわたって地表面に到達する日射が減少し、全球の平均気温が低下することがあります。日射及び赤外放射の変化は、気候変動の要因のひとつですが、そのメカニズムについてはまだ十分に解明されていません。  日射及び赤外放射の地球環境や気候への影響を把握するため、気象庁では、1931年から行ってきた日射観測の観測要素を拡充した精密日射放射観測(直達日射、散乱日射、下向き赤外放射)を2010年から国内5地点で実施しています。これらの観測データは、世界気象機関(WMO)をはじめとした国内外の関係機関にも提供され、気候変動の監視や温暖化予測モデルの精度向上に貢献しています。また、温暖化対策や再生可能エネルギーに関する研究や技術開発にも信頼性の高い高精度なデータの提供を通じて貢献しています。  世界の多くの地域における全天日射量は、1960年頃から1980年代後半まで減少し、その後、2000年頃まで急激に増加し、その後は大きな変化が見られないという傾向が報告されています。  日本における変化傾向(国内5地点平均)を見ると、1970年代後半から1990年頃にかけて急激に減少し、1990年頃から2000年代初めにかけて急激に増加し、その後は大きな変化は見られません。これは、世界的な変化傾向とほぼ整合しています。 4章 地震活動 1節 日本及びその周辺の地震活動  令和2年(2020年)に震度5弱以上を観測した地震は7回(平成31年/令和元年(2019年)は9回)、震度1以上を観測した地震は1,714回(平成31年/令和元年は1,564回)でした。国内で被害を伴った地震は5回(平成31年/令和元年は6回)でした。日本及びその周辺で発生した地震でマグニチュード6.0以上の地震は13回(平成31年/令和元年は18回)でした。また、日本で津波を観測した地震はありませんでした(平成31年/令和元年は1回)。  主な地震活動は下図及び次ページの表のとおりです。 2節 世界の地震活動  令和2年(2020年)(以下、日本時間を基準とする。)に発生したマグニチュード7.0以上又は死者(行方不明者を含む)を伴った地震は16回でした。また、マグニチュード8.0以上の地震はありませんでした。最も規模の大きかった地震は、7月22日にアラスカ半島で発生したモーメントマグニチュード(Mw)7.8(気象庁による)の地震でした。海外の地震により日本で津波を観測した地震はありませんでした。  主な地震活動は表のとおりです。 5章 火山活動  令和2年(2020年)は、西之島、硫黄島、阿蘇山、桜島、薩摩硫黄島、口永良部島、諏訪之瀬島の7火山で噴火が発生しました。また、火山活動の推移に伴い、4火山に対して火口周辺警報を計5回発表しました。  令和2年の日本の主な火山活動は以下のとおりです。そのほかの最新の火山活動の取りまとめについては、気象庁ホームページに掲載している火山活動解説資料をご覧ください(https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/monthly_v-act_doc/monthly_vact.php)。 ○ 草津白根山(白根山(湯釜付近))  湯釜付近浅部を震源とする火山性地震は増減を繰り返しながら推移し、3月28日から29日及び4月30日から5月1日には一時的に増加しました。また、3月28日には振幅の小さな火山性微動や傾斜変動が観測され、6月29日及び11月12日にも振幅の小さな火山性微動が観測されました。噴火は発生していませんが、火山活動は高まった状態で経過していると考えられるため、噴火警戒レベル2(火口周辺規制)を継続しました。なお、湯釜湖水の成分分析では、湯釜への高温の火山性流体の供給が続いていると見られますが、増加を示す傾向は認められていません。地殻変動では、令和元年(2019年)9月上旬頃から湯釜付近の浅部の膨張を示す傾斜変動が観測されていましたが、5月頃から季節変動を超える変動は認められなくなりました。全磁力繰り返し観測では、平成30年(2018年)に、水釜周辺地下の温度上昇を示唆する変化が観測されましたが、それ以降明瞭な変化は認められていません。 ○ 浅間山  令和元年(2019年)10月以降、火山活動は静穏に経過していましたが、6月20日頃から浅間山の西側での膨張を示すと考えられる傾斜変動が観測され、山体浅部を震源とする火山性地震が増加しました。また、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量の増加や火口底温度の上昇も認められました。このように火山活動が高まり、山頂火口からおおむね2キロメートル以内に影響を及ぼす小噴火の可能性があることから、6月25日に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。その後、噴火は発生しませんでしたが、山体浅部を震源とする火山性地震は、増減を繰り返しながら引き続き発生し、噴煙量、火山ガス放出量も6月以前と比べ増加した状態が継続したほか、微弱な火映が時々観測されました。傾斜計による観測では、6月下旬頃から浅間山西側での膨張を示すと考えられる傾斜変動がみられましたが、8月中旬頃からほぼ停滞しました。10月頃から再びわずかながらも同様の変化がみられましたが、11月下旬には認められなくなりました。GNSS連続観測では、7月頃から浅間山の西側を挟む基線でわずかな伸びの変化がみられましたが、8月頃からほぼ停滞しています。 ○ 西之島  令和元年(2019年)12月から噴火が継続していた西之島では、6月中旬以降、溶岩流出と大量の火山灰噴出を伴う活発な噴火が確認されました。その後、7月に入り溶岩流出は減少し、噴火活動は火山灰噴出が主体となって8月まで継続しました。上空や海上からの観測(海上保安庁、国立研究開発法人防災科学技術研究所、東京大学地震研究所、国立研究開発法人海洋研究開発機構、気象庁)及び気象衛星ひまわりの観測では、8月下旬以降、噴火は確認されず、西之島付近の地表面温度も低下し、8月以降は周囲とほとんど変わらない状態となりました。一方、山頂火口内に噴気や高温領域が確認されており、噴火が再開する可能性があります。これらのことから、12月18日に火口周辺警報(入山危険)及び海上警報を発表し、警戒が必要な範囲を山頂火口からおおむね2.5キロメートルからおおむね1.5キロメートルに縮小しました。 ○ 硫黄島  GNSS連続観測では、長期的に島全体の隆起を示す地殻変動がみられています。火山性地震は、4月2日に一時的に増加しましたが、それ以外の期間は、おおむね少ない状態で経過しました。12月28日に、阿蘇台陥没孔でごく小規模な噴火が発生し、海上自衛隊の現地調査によると、阿蘇台陥没孔から100メートル程度まで噴石が飛散していたほか50メートル程度までの泥の堆積が確認されました。硫黄島の島内は全体的に地温が高く、多くの噴気地帯や噴気孔があり、過去には各所で小規模な噴火が発生しています。火山活動はやや活発な状態で推移しており、火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生すると予想されることから、火口周辺警報(火口周辺危険)を継続しました。 ○ 阿蘇山  中岳第一火口では、6月中旬まで噴火が断続的に継続し、風下側の地域では、噴火による降灰が観測されました。夜間には、高感度監視カメラにより火映が2月20日までの間、阿蘇火山博物館の火口カメラにより火口底の一部での火炎が5月15日までの間、時々、観測されました。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は5月頃まで多い状態で推移しましたが、6月頃より減少傾向となり、やや少ない状態で経過しています。火山性微動の平均振幅は5月頃まで一時的に大きくなることがありましたが、その後はおおむね小さい状態で推移しています。傾斜計では、火山活動に伴う特段の変化は認められず、GNSS連続観測では、深部にマグマだまりがあると考えられている草千里を挟む基線において、7月頃からわずかな縮みの傾向がみられています。6月下旬以降噴火の発生はなく、火山活動が低下した状態で推移したため、8月18日に噴火予報を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。 ○ 霧島山(新燃岳)  新燃岳火口直下を震源とする火山性地震は、令和元年(2019年)11月以降増減を繰り返しており、1月2日から増加し多い状態となりました。そのため1月2日に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。その後、噴火は発生しませんでしたが、地震活動は時々活発な状態となることがありました。現地調査では、新燃岳の西側斜面の割れ目付近において、2月から3月頃にかけて噴気や地熱域の拡大が認められました。また、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は4月に増加し、その後の観測でも同程度の放出量を確認しました。10月中旬以降、地震回数は少ない状態になり、噴気や地熱域の拡大傾向及び火山ガス放出量の特段の変化が認められないことから、12月11日に噴火予報を発表し噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。その後、12月18日から再び地震回数が増加したため、12月25日に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。GNSS連続観測では、霧島山の深い場所でのマグマの蓄積を示すと考えられる基線の伸びは令和元年(2019)年2月以降停滞し、同年7月頃から基線の縮みが認められていましたが、令和2年(2020)年11月頃から停滞しています。 ○ 桜島  南岳山頂火口では、噴火活動が令和元年(2019年)9月以降活発となり、3月から6月にかけて噴出規模の大きな噴火の頻度が増加しました。6月4日に発生した爆発では大きな噴石が火口より南南西約3キロメートルの地点まで飛散しているのを確認しました。その後、7月には、噴火回数が減少し噴火活動は低下しましたが、8月以降、噴火活動は緩やかに活発化の傾向を示しています。年間で噴火が432回発生し、このうち爆発は221回でした。噴煙は最高で火口縁上5,000メートルまで上がりました。同火口で夜間に高感度の監視カメラで観測されている火映は、4月以降観測される頻度が減少し、6月3日から観測されなくなりましたが、9月9日以降は再びほぼ連日観測されるようになりました。昭和火口では、噴火は観測されませんでした。火山ガス(二酸化硫黄)の1日あたりの放出量は、おおむね多い状態で経過していましたが、4月から減少傾向となりました。8月以降は増加傾向がみられ、9月下旬から再びおおむね多い状態で推移し、特に10月は20日に6,600トンを観測するなど時々非常に多い状態になりました。鹿児島県が実施している降灰の観測データから推定した火山灰の月別噴出量は、噴火活動が低下した7月以降、減少しました。桜島島内の伸縮計及び傾斜計では、令和元年(2019年)9月上旬以降、ゆるやかな山体の膨張・隆起が観測されていましたが、4月頃からおおむね停滞しました。一部の傾斜計及び伸縮計では、6月下旬から山体膨張を示す緩やかな地殻変動が観測されていましたが、7月下旬以降はおおむね停滞しました。GNSS連続観測では、令和元年(2019年)9月以降桜島島内の基線における山体の隆起・膨張に伴うと考えられる変化が認められましたが、4月頃から停滞しています。広域のGNSS連続観測では、令和元年(2019年)9月以降、姶良カルデラ(鹿児島湾奥部)の地下深部の膨張を示す一部の基線のわずかな伸びが認められており、姶良カルデラ(鹿児島湾奥部)の地下深部では、長期にわたり供給されたマグマが蓄積した状態となっています。桜島では活発な火山活動が継続しており、噴火警戒レベル3(入山規制)を継続しました。 ○ 薩摩硫黄島  硫黄岳火口では、噴煙が時々高く上がり、夜間に高感度の監視カメラで火映を時々観測するなど、長期的には熱活動が高まった状態で推移しました。4月29日に噴火が発生し、噴煙は火口縁上1,000メートルまで上がりました。10月6日の噴火では噴煙は火口縁上200メートルまで上がりました。これらの噴火に伴う火砕流や大きな噴石、空振は観測されませんでした。火山性地震は少ない状態で経過しました。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量はおおむねやや多い状態で経過しています。これらのことから、噴火警戒レベル2(火口周辺規制)を継続しました。 ○ 口永良部島  新岳火口では、断続的に噴火が発生しました。2月3日に発生した噴火では、大きな噴石が火口から約600メートルまで飛散し、火砕流が火口から南西側へ最長1.5キロメートル流下しました。気象衛星では火口縁上約7,000メートルの噴煙が観測されました。その後も、ごく小規模な噴火が時々発生しましたが、8月29日のごく小規模な噴火を最後に観測されていません。火山性地震は3月まで、噴火前に増加するなど、増減を繰り返しましたが、6月頃からおおむね少ない状態となりました。8月頃から再び増減を繰り返しましたが、11月頃から減少傾向となっています。火山性微動は、噴火に伴い、時々発生しました。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は5月頃まで増加傾向で多い状態で推移しましたが、6月頃より減少傾向となりました。8月以降はやや多い状態で経過しています。GNSS連続観測では、島内の基線において、令和元年(2019年)10月頃から平成27年(2015年)の噴火発生前の状態に匹敵するような伸びが観測されていましたが、令和2年(2020年)5月頃から鈍化又は停滞の傾向がみられています。これらのことから、噴火警戒レベル3(入山規制)を継続しました。 ○ 諏訪之瀬島  御岳火口では、活発な噴火活動が続いています。特に、4月下旬と10月下旬以降には一段と活発な活動がみられました。4月28日から30日にかけて爆発は116回発生し、大きな噴石が同火口から最大で約800メートルまで飛散しました。また、28日と29日には断続的に空振を伴う振幅の大きな火山性微動が発生し、火口近傍に噴石を飛散させました。このような現象が発生したのは2017年8月以来です。10月下旬以降も活動が活発化し、特に、12月21日から29日にかけては爆発が増加し、433回発生しました。28日には、大きな噴石が火口から南東方向に約1.3キロメートルまで達するような爆発が発生したことから、火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から3(入山規制)に引き上げました。火山性地震は時々増加したものの、おおむね少ない状態で経過していましたが、10月下旬以降、噴火活動の活発化に対応して増加しました。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は3月頃までおおむね多い状態で経過しましたが、4月以降はおおむねやや多い状態で推移しています。十島村役場諏訪之瀬島出張所によると、同火口から南南西4キロメートルの集落で、噴火に伴う降灰、鳴動、爆発音が時々確認されました。 全国気象官署等一覧 (令和3年4月1日現在) 気象官署名 郵便番号 所在地等 電話番号 気象庁 105-8431 港区虎ノ門3-6-9 03-6758-3900 気象研究所 305-0052 つくば市長峰1-1 029-853-8552 気象衛星センター 204-0012 清瀬市中清戸3-235 042-493-1111 高層気象台 305-0052 つくば市長峰1-2 029-851-4125 地磁気観測所 315-0116 石岡市柿岡595 0299-43-1151 気象大学校 277-0852 柏市旭町7-4-81 04-7144-7185 札幌管区気象台 060-0002 札幌市中央区北2条西18-2 011-611-6127 函館地方気象台 041-0806 函館市美原3-4-4 函館第2地方合同庁舎 0138-46-2214 旭川地方気象台 078-8391 旭川市宮前1条3-3-15 旭川合同庁舎 0166-32-7101 室蘭地方気象台 051-0012 室蘭市山手町2-6-8 0143-22-2598 釧路地方気象台 085-8586 釧路市幸町10-3 釧路地方合同庁舎 0154-31-5145 網走地方気象台 093-0031 網走市台町2-1-6 0152-44-6891 稚内地方気象台 097-0023 稚内市開運2-2-1 稚内港湾合同庁舎 0162-23-6016 仙台管区気象台 983-0842 仙台市宮城野区五輪1-3-15 仙台第3合同庁舎 022-297-8100 青森地方気象台 030-0966 青森市花園1-17-19 017-741-7412 盛岡地方気象台 020-0821 盛岡市山王町7-60 019-622-7869 秋田地方気象台 010-0951 秋田市山王7-1-4 秋田第2合同庁舎 018-824-0376 山形地方気象台 990-0041 山形市緑町1-5-77 023-624-1946 福島地方気象台 960-8018 福島市松木町1-9 024-534-6724 東京管区気象台 204-8501 清瀬市中清戸3-235 042-497-7182 水戸地方気象台 310-0066 水戸市金町1-4-6 029-224-1107 宇都宮地方気象台 320-0845 宇都宮市明保野町1-4 宇都宮第2地方合同庁舎 028-633-2766 前橋地方気象台 371-0026 前橋市大手町2-3-1 前橋地方合同庁舎 027-896-1190 熊谷地方気象台 360-0814 熊谷市桜町1-6-10 048-521-7911 銚子地方気象台 288-0001 銚子市川口町2-6431 銚子港湾合同庁舎 0479-22-0374 横浜地方気象台 231-0862 横浜市中区山手町99 045-621-1563 新潟地方気象台 950-0954 新潟市中央区美咲町1-2-1 新潟美咲合同庁舎2号館 025-281-5873 富山地方気象台 930-0892 富山市石坂2415 076-432-2332 金沢地方気象台 920-0024 金沢市西念3-4-1 金沢駅西合同庁舎 076-260-1461 福井地方気象台 910-0857 福井市豊島2-5-2 0776-24-0096 甲府地方気象台 400-0035 甲府市飯田4-7-29 055-222-3634 長野地方気象台 380-0801 長野市箱清水1-8-18 026-232-2738 岐阜地方気象台 500-8484 岐阜市加納二之丸6 058-271-4109 静岡地方気象台 422-8006 静岡市駿河区曲金2-1-5 054-286-6919 名古屋地方気象台 464-0039 名古屋市千種区日和町2-18 052-751-5577 津地方気象台 514-0002 津市島崎町327-2 津第2地方合同庁舎 059-228-4745 成田航空地方気象台 282-0004 成田市古込字込前133 成田国際空港管理ビル内 0476-32-6550 東京航空地方気象台 144-0041 大田区羽田空港3-3-1 03-5757-9674 中部航空地方気象台 479-0881 常滑市セントレア1-1 0569-38-0001 大阪管区気象台 540-0008 大阪市中央区大手前4-1-76 大阪合同庁舎第4号館 06-6949-6300 彦根地方気象台 522-0068 彦根市城町2-5-25 0749-23-2582 京都地方気象台 604-8482 京都市中京区西ノ京笠殿町38 京都地方合同庁舎 075-823-4302 神戸地方気象台 651-0073 神戸市中央区脇浜海岸通1-4-3 神戸防災合同庁舎 078-222-8901 奈良地方気象台 630-8307 奈良市西紀寺町12-1 0742-22-4445 和歌山地方気象台 640-8230 和歌山市男野芝丁4 073-432-0632 鳥取地方気象台 680-0842 鳥取市吉方109 鳥取第3地方合同庁舎 0857-29-1312 松江地方気象台 690-0017 松江市西津田7-1-11 0852-21-3794 岡山地方気象台 700-0984 岡山市北区桑田町1-36 岡山地方合同庁舎 086-223-1721 広島地方気象台 730-0012 広島市中区上八丁堀6-30 広島合同庁舎4号館 082-223-3950 徳島地方気象台 770-0864 徳島市大和町2-3-36 088-622-2265 高松地方気象台 760-0019 高松市サンポート3-33 高松サンポート合同庁舎南館 087-826-6121 松山地方気象台 790-0873 松山市北持田町102 089-941-6293 高知地方気象台 780-0870 高知市本町4-3-41 高知地方合同庁舎 088-822-8883 関西航空地方気象台 549-0011 大阪府泉南郡田尻町泉州空港中1番地 072-455-1250 福岡管区気象台 810-0052 福岡市中央区大濠1-2-36 092-725-3601 下関地方気象台 750-0025 下関市竹崎町4-6-1 下関地方合同庁舎 083-234-4005 佐賀地方気象台 840-0801 佐賀市駅前中央3-3-20 佐賀第2合同庁舎 0952-32-7025 長崎地方気象台 850-0931 長崎市南山手町11-51 095-811-4863 熊本地方気象台 860-0047 熊本市西区春日2-10-1 熊本地方合同庁舎 A棟 096-352-7740 大分地方気象台 870-0023 大分市長浜町3-1-38 097-532-0667 宮崎地方気象台 880-0032 宮崎市霧島5-1-4 0985-25-4033 鹿児島地方気象台 890-0068 鹿児島市東郡元町4-1 鹿児島第2地方合同庁舎 099-250-9911 福岡航空地方気象台 812-0005 福岡市博多区大字上臼井字屋敷295 092-621-3945 沖縄気象台 900-8517 那覇市樋川1-15-15 那覇第1地方合同庁舎 098-833-4281 宮古島地方気象台 906-0013 宮古島市平良字下里1020-7 0980-72-3050 石垣島地方気象台 907-0004 石垣市字登野城428 0980-82-2155 南大東島地方気象台 901-3805 沖縄県島尻郡南大東村字在所306 09802-2-2535 用語集 C COSMETS(Computer System for Meteorological Services)  気象資料総合処理システム。国内外の気象などの観測データを集信し、大気の状態を解析・予測し、その結果を国内外に配信する総合的な電子計算機システム。気象資料の編集・中継などの通信処理、端末でのデータ利用のための業務処理をするための気象情報伝送処理システム(アデス)と、解析・予測をするためのスーパーコンピュータシステムから構成されている。 E EPOS(Earthquake Phenomena Observation System)  地震活動等総合監視システム。気象庁において日本全国における地震や津波の観測データをリアルタイムで監視し、緊急地震速報、大津波警報・津波警報・津波注意報、南海トラフ地震に関連する情報や地震・津波に関する情報等を防災機関、報道機関等に迅速に発表するシステム。 G GISC(Global Information System Centre)  全球情報システムセンター。WMO情報システム(WIS)において世界の気象通信網の中核をなし、気象に関する各種データの交換や資料の管理を行う。気象庁はWMOからの指名を受け、世界に先駆けて平成23年8月から運用を開始した。 GNSS(Global Navigation Satellite System(s))  GPS(全地球測位システム)をはじめとする衛星測位システム全般を示す呼称。人工衛星を用いて位置を決定するシステムで、一般にはカーナビゲーションシステムへの利用でなじみ深い。高い精度での位置決定が可能な GNSSを用いることにより、地震、火山現象などに伴う地殻変動の観測やラジオゾンデによる高層観測に利用している。また、大気中の水蒸気により電波の遅延が生じることを利用して、このシステムから得られる水蒸気に関する情報を数値予報に活用している。 GTS(Global Telecommunication System)  全球通信システム。世界気象機関(WMO)の世界気象監視(WWW)計画の下で、気象資料の国際的な交換、配信を行うために構築された全世界的な気象通信ネットワーク。 I ICAO(International Civil Aviation Organization)  国際民間航空機関。昭和19年(1944年)の国際民間航空条約(シカゴ条約)に基づいて設立された、民間航空に関する国際連合の専門機関の一つ。 IOC(Intergovernmental Oceanographic Commission)  政府間海洋学委員会。昭和35年(1960年)、国連教育科学文化機関(ユネスコ)内に設立された機関。海洋と沿岸域の性質と資源に関する知識を深め、その知識を加盟国における海洋環境の管理と持続可能な開発、保護及び政策決定プロセスに適用するために、国際協力を推進し、関連の研究やサービス及び能力開発のプログラムを調整している。 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)  気候変動に関する政府間パネル。昭和63年(1988年)にWMO(世界気象機関)とUNEP(国連環境計画)のもとに設立された組織であり、195か国・地域が参加している。気候変動に関する最新の科学的知見(出版された文献)についてとりまとめた報告書を作成し、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的とする。 J JETT(JMA Emergency Task Team)  → 気象庁防災対応支援チーム(JETT:JMA Emergency Task Team)参照 L LIDEN(Lightning Detection Network System)  雷監視システム。雷により発生する電波を受信し、その位置、発生時刻等の情報を作成するシステム。 N NEAR-GOOS (North-East Asian Regional Global Ocean Observing System)  北東アジア地域海洋観測システム。全球海洋観測システム(GOOS)の北東アジア地域プロジェクトであり、参加各国が行った海洋観測のデータなどを即時的に国際交換するためのデータベースを運用している。日本、中国、韓国、ロシアが参加している。  GOOSは全世界の海洋の環境や変動を監視してその予測を可能にするための長期的で系統的な海洋観測システムを構築する国際的な計画であり、国連教育科学文化機関(ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)、世界気象機関(WMO)などが共同で推進している。 NWPTAC(Northwest Pacific Tsunami Advisory Center)  北西太平洋津波情報センター。政府間海洋学委員会(IOC)の下部組織である太平洋津波警戒・減災システムのための政府間調整グループ(ICG/PTWS)の枠組みにおける地域津波情報センターとして、平成17年(2005年)に気象庁に設置された。北西太平洋における地震・津波を24時間体制で監視し、北西太平洋沿岸各国に津波情報を提供している。 P PLUM法(Propagation of Local Undamped Motion 法)  緊急地震速報の震度予測に用いる手法のひとつ。震源の位置や規模の推定を行わず、観測された揺れの強さから直接、予測地点の震度を推定する。「予測地点の付近の地震計で強い揺れが観測されると、その予測地点も同じように強く揺れる」という考え方に従っている。 R RCC(Regional Climate Centre)  地区気候センター。WMOの各地区内の気象機関に対して気候業務の支援を行うため、監視・予測資料の提供や教育訓練等を実施する。気象庁は平成21年(2009年)にアジア地区のRCCとなった。 RSMC(Regional Specialized Meteorological Centre)  地区特別気象センター。担当地域内の気象機関を支援するため、気象・台風の解析・予報資料の提供、研修、環境緊急対応の活動等を行っている。気象庁は主にアジア地区でRSMCを担っている。 V VAAC(Volcanic Ash Advisory Center)  航空路火山灰情報センター。国際民間航空機関(ICAO)は世界気象機関(WMO)の協力の下、世界に9か所のVAACを指名し、国際的な航空路火山灰の監視体制を構築している。気象庁は、東アジア、北西太平洋及び北極圏の一部を担当する東京VAACとして、民間航空会社、航空関係機関、気象監視局などに航空路火山灰情報(VAA)を提供している。 VOIS(Volcanic Observation and Information System)  火山監視情報システム。気象庁において日本全国の火山活動をリアルタイムで監視し、噴火警報、噴火速報等を防災機関、報道機関等に迅速に発表するシステム。 W WDCGG(World Data Centre for Greenhouse Gases)  温室効果ガス世界資料センター。世界気象機関(WMO)の全球大気監視(GAW)計画の下に設立された世界資料センターの一つで、気象庁において運営している。大気や海洋で観測された温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、フロン類等)と関連するガス(一酸化炭素)のデータを収集・保管・配布している。 WMO(World Meteorological Organization)  世界気象機関。世界の気象事業の調和的発展を目標とした国際計画の推進・調整を行うため、昭和25年(1950年)に世界気象機関条約に基づいて設立され、翌昭和26年(1951年)に国際連合の専門機関となった。令和3年(2021年)4月1日現在、187か国と6領域が構成員として加盟している(日本は昭和28年(1953年)に加盟)。事務局本部はスイスのジュネーブに置かれている。 WXBC(Weather Business Consortium)  →気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC:Weather Business Consortium)参照 ア アデス  気象庁本庁及び大阪管区気象台に設置された気象情報伝送処理システム。気象資料の編集・中継などの通信処理、端末でのデータ利用のための業務処理を行っている。 アメダス(AMeDAS:Automated Meteorological Data Acquisition System)  全国約 1,300か所に設置した観測所で、気温や降水量などを自動的に観測するシステム。アメダスはこのシステム(地域気象観測システム)の英語名の頭字語である。 アルゴ計画  世界気象機関(WMO)及び国連教育科学文化機関(ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)などの協力の下、国際的な枠組みにより、世界の海洋を内部(海面から深さ2,000メートル)まで含めて常時観測するシステムとして、気候に大きく影響する海洋の状況をリアルタイムに把握することを目的に、アルゴフロート(中層フロート)を全世界の海洋におよそ4,000台投入している。アルゴとは、ギリシャ神話に出てくる船の名前(Argo)にちなんだもの。  アルゴフロートから通報されたデータは、直ちに気象データ交換のための全球通信システム(GTS)を通じて国際的に交換され、海水温予測やエルニーニョ現象の監視・予測などの気象・海洋業務に利用されている。 アンサンブル手法  初期値に含まれる誤差や数値予報モデルが完全ではないことにより生じる、予測結果の不確実性に関する情報を、多数の予測計算から抽出する方法。初期値の誤差を考慮する手法を「初期値アンサンブル手法」、数値予報モデルの不完全性を考慮する手法を「モデルアンサンブル手法」と呼ぶ。気象庁では初期値アンサンブル手法とモデルアンサンブル手法の両方を用いている。 イ 異常気象  一般に、過去に経験した現象から大きく外れた現象のこと。大雨や強風等の激しい数時間の現象から数か月も続く干ばつ、極端な冷夏、暖冬なども含む。また、気象災害も異常気象に含む場合がある。気象庁では、気温や降水量などの異常を判断する場合、原則として「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節等)において30年間に1回以下の頻度で発生する現象」を異常気象としている。 異常潮位  高潮や津波とは異なり、比較的長期間(1 週間から 3 か月程度)継続して、潮位が平常より数十センチメートル程度高く(もしくは低く)なる現象。原因は、気圧配置・海水温・海流の変動など多岐にわたり、これらが複合して発生すると考えられている。 ウ ウィンドシアー(wind shear)  大気中の 2 地点で風の強さや向きが異なる状態のことで、風の空間的な急変域をいう。航空機の飛行に大きな影響を与える場合があり、航空路や空港での観測や予測が重要とされている。 ウィンドプロファイラ(wind profiler)  電波を地上から上空に向けて発射し、主に乱流に起因する空気屈折率の不均一によって後方に散乱された電波を受信し、処理することにより、観測点上空の風向・風速を測定するレーダー。 エ エーロゾル(aerosol)  大気中に浮遊している固体あるいは液体の微粒子。地表や海洋から舞い上がるものや、工業活動によって排出される煤煙などがある。太陽光の吸収・散乱や雲の生成などに影響する。 エルニーニョ現象  太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象で、数年おきに発生する。エルニーニョ現象は、日本を含め世界中での異常な天候の要因となり得ると考えられている。 オ オゾンホール(ozone hole)  フロンガスなどのオゾン層破壊物質の排出により、1980年代初めから南極域で春季にあたる9、10月頃を中心に成層圏のオゾン量の顕著な減少が観測されるようになり、この現象は、南極大陸を中心にオゾン層に穴のあいたような状態となることからオゾンホールと呼ばれている。 温室効果ガス  地表面から放出される赤外線を吸収して大気を暖める効果(温室効果)をもつ気体(ガス)の総称。水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などがある。このうち、水蒸気を除くガスは人間活動に伴って増加しており、地球温暖化の原因物質として知られている。 カ 解析雨量  アメダスや自治体等の雨量計による正確な雨量観測と気象レーダーによる広範囲にわたる面的な雨の分布・強さの観測とのそれぞれの長所を組み合わせて、より精度が高い、面的な雨量を1キロメートル格子で解析したもの。 ガイダンス  天気、最高気温、雨量などの予報要素を直接示す予測資料。数値予報データ及び観測・解析データを利用し、統計手法を用いて作成される。 海氷  海に浮かぶ氷の総称。ただし、国際的には海水が凍結したものを海氷と分類し、氷山など淡水由来の氷と区別することもある。 海洋気象観測船  海洋及び海上気象等の観測を行う船。気象庁では、地球温暖化の予測精度向上につながる海水中及び大気中の二酸化炭素を監視し、海洋の長期的な変動を捉え気候変動との関係等を調べるために、北西太平洋及び日本周辺海域に観測定線を設け、凌風丸及び啓風丸の2隻の海洋気象観測船によって定期的に海洋観測を実施している。 海洋の酸性化(海洋酸性化)  大気中に放出された二酸化炭素を海洋が吸収することにより、海洋の水素イオン濃度指数(pH)が長期間にわたって低下する現象。現在の海水は弱アルカリ性(海面においてはpH約8.1)を示しているが、二酸化炭素は水に溶けると酸性としての性質を示し、pHを低下させる。大気中の二酸化炭素濃度は増加し続けていることから、海洋はさらに多くの二酸化炭素を吸収することになるため、より酸性側になることが懸念されている。 海流  海洋のほぼ決まった場所をほぼ定常的に流れる大規模な流れ。代表的なものに日本の南岸を流れる黒潮や北大西洋のメキシコ湾流がある。 火映  高温の溶岩や火山ガス等が火口内や火道上部にある場合に、火口上の雲や噴煙が明るく照らされる現象のこと。一般的には夜間に観察される。 火砕流  噴火により放出された破片状の固体物質と火山ガス等が混合状態で、地表に沿って流れる現象のこと。火砕流の速度は時速数百キロメートル以上、温度は数百℃に達することもあり、破壊力が大きく、重要な災害要因となりえる。 火山ガス  火山活動により地表に噴出する気体のこと。噴火によって溶岩や破片状の固体物質などの火山噴出物と一体となって噴出するものを含む。「噴気」ともいう。水、二酸化硫黄、硫化水素、二酸化炭素などを主成分とする。火山ガスを吸引すると、二酸化硫黄による気管支などの障害や硫化水素による中毒等を発生する可能性がある。 火山性微動  火山体またはその周辺で発生する火山性地震よりも継続時間の長いもの。振動の始まりと終わりがはっきりしない。地下のマグマや火山ガス、熱水などの流体の移動や振動が原因と考えられるものや、微小な地震が続けて発生したことによると考えられるものがある。火山活動が活発化した時や火山が噴火した際に多く観測される。 火山噴火予知連絡会  火山噴火予知計画(昭和48年文部省測地学審議会(現文部科学省科学技術・学術審議会測地学分科会)建議)により、関係機関の研究及び業務に関する成果及び情報の交換、火山現象についての総合的判断を行うこと等を目的として、昭和49年に設置された。この連絡会は、学識経験者及び関係機関の専門家から構成されており、気象庁が事務局を担当している。 活火山  概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山(火山噴火予知連絡会によって、平成15年(2003年)に定義)のこと。日本には111の活火山がある。 キ 気候変動  ある地点や地域の気候が変わること。ある時間規模から見て一方向に変化することを「気候変化」、可逆な変化を「気候変動」として区別することもある。地球の気候システムの内部変動に起因する数年規模の変動から、外部強制力による数万年以上の規模の変動までを含む。 気候モデル  気候を形成する大気、海洋、陸面などの諸因子を数値モデル化し(それぞれ大気大循環モデル、海洋大循環モデル、陸面モデルという)、これらを組み合わせコンピュータで計算して気候を予測する数値予報モデル。 気象庁防災対応支援チーム(JETT:JMA Emergency Task Team)  近年相次ぐ災害をふまえて、地方公共団体の防災対応への支援を強化すべく、気象庁が平成30年5月に創設したチーム。災害が発生した場合または災害の発生が予想される場合に、都道府県や市町村の災害対策本部等へ気象庁職員を派遣し、現場のニーズや各機関の活動状況を踏まえ、防災気象情報等の「読み解き」の支援や市町村長が避難勧告等を行う際の助言等、地方公共団体や各関係機関(自衛隊、警察、消防等)の防災対応を支援する。なお、気象庁防災対応支援チームは国土交通省の緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)の一員である。 気象データアナリスト  気象データの知識とデータ分析の知識を持ち、気象データとビジネスデータを分析して新規事業創出や課題解決ができる専門的人材。気象庁は、気象データアナリストの育成を推進するため、所定の基準に適合する民間講座を「気象データアナリスト育成講座」として認定することとしている。 気象防災アドバイザー  地域の気象と防災に精通する者として国土交通省より委嘱した者であり、平常時や災害発生が見込まれる際において地域の特性を踏まえた気象解説を実施するなど、気象台と連携して自治体の防災業務を支援する者。 気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC:Weather Business Consortium)  業界における気象データの利活用を一層推進するとともに、IoT・AI技術を駆使し、気象データを高度利用した我が国における産業活動を創出・活性化するため、平成29年3月7日に産学官連携で設立された。事務局は気象庁が担っている。 緊急地震速報  地震波は主に2種類の波があり、速いスピード(毎秒約7キロメートル)で伝わる波をP波、伝わるスピードは遅い(毎秒約4キロメートル)が揺れは強い波をS波という。緊急地震速報は、P波とS波の伝わる速度の差を利用して、震源に近いところにある地震計がP波を検知すると、震源の位置や地震の規模、震度等を瞬時に計算して予想し、S波が伝わってくる前に強い揺れが来ることをお知らせするもの。また、観測点に揺れが到達し、周辺地域に強い揺れが来ることが予想される場合は、その旨あわせてお知らせする。 ク 空振  噴火などによって周囲の空気が振動して衝撃波となって大気中に伝播する現象のこと。空振が通過する際に建物の窓や壁を揺らし、時には窓ガラスが破損することもある。火口から離れるに従って減速し音波となるが、瞬間的な低周波音であるため人間の耳で直接聞くことは難しい。 クロロフルオロカーボン類(chlorofluorocarbons)  塩素、フッ素、炭素からなる化合物で、オゾン層を破壊する性質とともに強い温室効果がある。代表的なものとしてCFC-11、CFC-12などがある。フロン類ともいう。 ケ 傾斜計  地盤の傾斜を精密に計測する機器のこと。火山体直下へのマグマの貫入等により山体の傾斜変化が観測されることがある。 コ 光化学スモッグ  大気が安定で、風が弱く、日射が強く、気温が高いなどの気象条件下で、光化学反応により地表付近の光化学オキシダント濃度が高くなるようなときに視程が悪くなる現象。 黄砂  アジア域の砂漠地帯(ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠)や黄土高原などから舞い上げられた砂塵が、上空の強い風によって東方へ輸送され、徐々に降下する現象。日本における黄砂現象は、春先から初夏にかけて観測されることが多く、空が黄褐色に煙ることにより、一般にもよく知られた現象である。現象が著しいときは、視程の悪化により交通機関へ影響を与える場合がある。 シ 地震計  地震動を計測する機器。複数の観測点における、地震波が到達した時刻や地震波の振幅などから、地震の発生場所、深さ、規模(マグニチュード)が推定できる。 地震動  地震波が地表に到達したときの地面の揺れ。 地震波  地下で生じる岩盤の破壊は、ある面(断層)を境に互いがずれるように起こる。これを断層運動といい、それに伴い地震波が生じる。地震波は、地球の内部を伝わる縦波(P波)と横波(S波)、地球の表面に沿って伝わる波(表面波)に大別できる。 震源  断層運動の際に、岩石の破壊(ずれ)が始まり地震波を発生させた最初の地点。震源域は、断層運動により地震波を発生させた領域全体を指し、断層運動によって生じた岩石の破壊面とほぼ同じである。震源域の長さ(差し渡し)は、マグニチュード7の地震で数十キロメートル程度、マグニチュード8では100キロメートルを超えることがある。 震度  地震動の強さを表す尺度であり、地表での揺れの程度を意味する。震度は揺れの強い方から「7」、「6強」、「6 弱」、「5 強」、「5 弱」、「4」、「3」、「2」、「1」、「0」の10段階の階級で表現する。一般に、地震の震源域に近い場所ほど震度は大きく、またマグニチュードが大きい地震のときほど、各地の震度は大きくなる。 震度計  地震動を計測し、観測地点における震度(計測震度)を自動的に算出する機器。計測震度の算出には、計測した地震動の加速度の振幅や周期等を用いる。 ス スーパーコンピュータシステム  数値予報モデル等による解析・予測および静止気象衛星(ひまわり)に代表される衛星データ処理に用いるスーパーコンピュータを中核としたシステム。 数値予報  物理の法則に基づき、将来の気温、気圧、風などの大気や海洋の状態を数値として予測する技術。この計算には、膨大な演算処理が必要であるため、スーパーコンピュータが使われる。計算に用いられるプログラムを数値予報モデルと呼ぶ。 セ 静止気象衛星  赤道上空約35,800キロメートルの高さにあって、地球の自転と同一周期で地球を周回しながら、常に地球上の同じ場所の気象観測を行う衛星。我が国の「ひまわり」のほか、米国のGOES、欧州のMETEOSAT などが運用されている。 静止気象衛星「ひまわり」(Himawari)  気象庁の運用する静止気象衛星「ひまわり」8号及び9号を指す。従来の「ひまわり」という和名の愛称を受け継ぎ、8号及び9号から英名も「Himawari-8」「Himawari-9」とした。「ひまわり」8号及び9号の気象観測機能は、「ひまわり」6 号及び 7 号と比べ、画像分解能が向上、観測間隔が短縮、画像の種類が増加し、防災のための監視機能を強化すると共に、気候変動や地球環境の監視機能も強化する。8号を平成26年(2014年)に、9号を平成28年(2016年)に打ち上げ、2機あわせて15年間の観測を行う。 成層圏  対流圏と中間圏の間にある大気圏。昭和36年(1961年)に世界気象機関(WMO)は、「対流圏界面(高さ6~18キロメートル)と成層圏界面(50~55キロメートル)との間にあり、一般に気温が高さとともに高くなる領域」と定義した。 世界気象機関  →WMO(World Meteorological Organization)参照 積乱雲  強い上昇気流によって鉛直方向に著しく発達した雲。雲頂の高さは1万メートルを超えて、成層圏まで達することもある。夏によく見られる入道雲も積乱雲の一つである。  一つの積乱雲の水平方向の広がりは数キロメートルから十数キロメートルの大きさで、単独の積乱雲からもたらされる現象は、短時間で局地的な範囲に限られる。一方で、発達した積乱雲により非常に強い雨や、竜巻などの激しい突風、雷やひょうなどの激しい現象が発生する場合がある。 線状降水帯  次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300キロメートル程度、幅20~50キロメートル程度の強い降水をともなう雨域。 全磁力  地磁気の強さのこと。岩石磁気(磁性)は、温度や応力によって変化するため、地下の岩石の温度や応力状態の変動に伴って地上の全磁力が変化する場合がある。日本付近の火山では火口直下で温度が上昇すると、全磁力値が火口の北側で増加し、南側で減少する。 タ 台風  北西太平洋または南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち、低気圧域内の最大風速がおよそ毎秒17メートル以上のもの。 タイムライン  災害の発生を前提に、防災関係機関が連携して災害時に発生する状況を予め想定し共有した上で、「いつ」、「誰が」、「何をするか」に着目して、防災行動とその実施主体を時系列で整理した計画のこと。防災行動計画あるいは災害対応プログラムとも。 高潮  主に台風など強い気象じょう乱に伴う気圧降下による海面の吸い上げ効果と風による海水の吹き寄せ効果のため、海面が異常に上昇する現象。 竜巻  積雲や積乱雲に伴って発生する鉛直軸を持つ激しい渦巻きで、漏斗状または柱状の雲や、陸上では巻き上がる砂塵、海上では水柱を伴うことがある。地上では、収束性や回転性を持つ突風や気圧降下が観測され、被害域は帯状・線状となることが多い。 チ 地磁気  地球をとりまく磁場を地磁気と呼び、地球内部起源のものと外部起源のものに分けられる。地球内部起源の磁場は、主に地球外核の金属流体の対流によると考えられており、数年から数十年以上の時間スケールで緩やかに変化(永年変化)している。一方外部起源の磁場は、太陽活動などを起源とするものである。地磁気の単位はナノテスラ(nT=10の-9乗T)を用いる。 潮位  基準面から測った海面の高さで、波浪など短周期の変動を除去したもの。 長周期地震動  大きな地震が発生したときに生じる、周期が長い揺れ。長周期地震動により、高層ビルは大きく長時間揺れ続ける。また、長周期地震動は遠くまで伝わりやすい性質があり、地震が発生した場所から数百キロメートル離れたところでも大きく長く揺れることがある。長周期地震動による大きな揺れにより、家具類が倒れたり・落ちたりする危険に加え、大きく移動したりする危険がある。 長周期地震動階級  長周期地震動の揺れの大きさの指標で、高層ビルの高層階における人の行動の困難さの程度や家具類等の移動・転倒などの被害の程度から区分したもの。揺れの大きい方から「階級4」、「階級3」、「階級2」、「階級1」の4段階で表現する。 ツ 津波  海底下の浅いところで大きな地震が起きると、海底が持ち上がったり下がったりする。その結果、周辺の広い範囲にある海水全体が短時間に急激に持ち上がったり下がったりし、それにより発生した海面の変動が波として周囲に広がっていく現象。津波が陸地に近づき水深が浅くなると、速度は遅くなるとともに、津波の高さは急速に高くなる。 テ データ同化技術  気象台などが行う地上気象観測や高層気象観測のように、ある決まった時刻に行われる観測に加えて、衛星観測のように特に観測時刻が定まっていない観測など、様々な観測データを数値予報の「初期値」(予測計算を開始する時刻の気温や風速などの大気の状態を表す物理的な数値)として活用するための手法。 ナ 南海トラフ地震  駿河湾から日向灘沖にかけての南海トラフ沿いのプレート境界を震源域として発生する大規模な地震。概ね100~150年間隔で繰り返し発生しており、昭和東南海地震(1944年)及び昭和南海地震(1946年)が起きてから70年以上が経過した現在では、次の南海トラフ地震発生の切迫性が高まってきていると考えられている。発生する地震の震源域には多様性があると考えられており、従来想定されてきた東海地震の震源域も含まれる。 南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会  気象庁が南海トラフ全域を対象として地震発生の可能性を評価するにあたって、有識者から助言いただくために開催する。学識経験者(現在は6名)から構成され、異常な現象を観測した際に開催する臨時の会合と、毎月開催する定例の会合がある。 ネ 熱帯低気圧  熱帯または亜熱帯地方に発生する低気圧の総称。低気圧域内の最大風速がおよそ毎秒 17 メートル未満で台風に満たないものを指すこともある。 ハ ハザードマップ(hazard map)  ある災害に対する危険な地区が記入されている地図。火山噴火、地すべり、山崩れ、洪水、高潮、土石流、なだれなどの現象に対して、それぞれ作成されている。 波浪  海面の波のうち、風によって引き起こされるものの総称。その場所で吹いている風によって起った「風浪」と、他の場所で風によって生じた波がその場所まで伝わって来た「うねり」がある。 ヒ ひずみ計  地下の岩盤の伸び・縮みを非常に高感度で観測する装置。気象庁では、南海トラフ地震発生の可能性が相対的に高まったと評価されるようなプレート間の固着状態の変化を示唆する地殻変動を捉えることを目的として、地下数百メートル程度の深さに円筒形のセンサーを埋設し、周囲の岩盤から受ける力によって変形する様子を極めて高い精度で検出し、監視している。センサーには、変形による体積の変化を測定する体積ひずみ計と、水平面内の方位ごとの変形の量も測定できる多成分ひずみ計がある。 ヒートアイランド現象(heat island phenomenon)  人工的な熱の排出や、人工的な地表面及び建築物の増加により、都市の気温が周囲よりも高い状態になる現象。等温線が都市を丸く取り囲んで、気温分布が島のような形になることから、このように呼ばれる。 フ 副振動  日々くり返す満潮・干潮の潮位変化を主振動としてそれ以外の潮位の振動に対して名づけられたものであり、湾・海峡や港湾など陸や堤防に囲まれた海域等で観測される、周期数分から数10分程度の海面の昇降現象をいう。主な発生原因は、台風、低気圧等の気象じょう乱に起因する海洋のじょう乱や津波などが長波となって沿岸域に伝わり、湾内等に入ることにより引き起こされる強制振動である。 プレート  地球表面を覆う厚さ数10キロメートルから100キロメートル程度の固い岩石の層。地球表面は大小合わせて十数枚のプレートで覆われており、日本周辺は、太平洋プレート、フィリピン海プレート、北米プレート、ユーラシアプレートの4枚のプレートが接する境界に位置している。 噴火警戒レベル  火山活動の状況に応じて「警戒が必要な範囲(生命に危険を及ぼす範囲)」と、防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分した指標のこと。噴火警報、噴火予報に付して発表する。各火山の地元都道府県等が設置する火山防災協議会で検討を行い、噴火警戒レベルに応じた「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災対応」が市町村・都道府県の地域防災計画に定められた火山で運用を開始する。 噴火警報  噴火に関する重大な災害の起るおそれのある旨を警告して行う予報のこと。生命に危険を及ぼす火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等、発生から短時間で火口周辺や居住地域に到達し、避難までの時間的猶予がほとんどない現象)の発生が予想される場合やその危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に火山名、警戒が必要な範囲(生命に危険を及ぼす範囲)等を明示して発表する。噴火警戒レベルを運用している火山では、噴火警戒レベルを付して発表する。 噴火速報  登山者や周辺の住民に対して、噴火の発生を知らせる情報のこと。火山が噴火したことを端的にいち早く伝え、身を守る行動を取っていただくために発表する。 噴石  気象庁では、噴火によって火口から吹き飛ばされる防災上警戒・注意すべき大きさの岩石を噴石と呼んでいる。火山に関する情報では、防災上の観点から、「大きな噴石」および「小さな噴石」に区分して使用している。 ヘ 平年値  その地点での気候を表す値で、その時々の気象(気温、降水量、日照時間など)や天候(冷夏、暖冬、少雨、多雨)を評価する基準として利用される。気象庁では、西暦年の1の位が1の年から続く30年間の平均値をもって平年値とし、10年ごとに更新している。現在は、1991~2020年の観測値による平年値を使用している。 ホ 暴風域  台風の周辺で、平均風速が毎秒25メートル以上の風が吹いているか、地形の影響などがない場合に、吹く可能性のある領域。通常、その範囲を円で示す。 マ マイクロバースト  積雲や積乱雲から生じる強い下降気流を指し、地面に衝突し周囲に吹き出す突風を生じる。地上では、発散性の突風のほか強雨・ひょうとともに露点温度の下降を伴うことがある。被害域は円または楕円状となることが多い。また、強い低層ウィンドシアーを起こす現象の一つであり、航空機の離発着に大きな影響を与える。周囲への吹き出しが4キロメートル未満のものをマイクロバースト、4キロメートル以上のものをマクロバーストとも呼ぶ。 マグニチュード(magnitude)  地震(断層運動)の規模の尺度。一般に M という記号で表され、観測された地震波をもとに算出される。Mの値が1大きくなると地震のエネルギーは約30倍になる。 ミ 民間気象業務支援センター  気象庁は、予報業務許可事業者その他民間における気象業務の健全な発達を支援し及び産業、交通その他の社会活動における気象情報の利用促進を図るため、「民間気象業務支援センター」を指定できることになっている。現在、一般財団法人気象業務支援センターが気象庁長官よりその指定を受けている。 ユ 有害紫外線  紫外線の中でも特に、波長280~315ナノメートル*の紫外線(B領域紫外線、UV-B)は、オゾンによる吸収が大きいことからオゾン層の破壊の影響を最も強く受け、かつ、生物にとって有害であることから、一般に有害紫外線と呼ばれている。オゾン層破壊に伴い、地上に到達する有害紫外線量の増加による皮膚がん、白内障など健康被害の増加が懸念されている。 *:1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1(10億分の1メートル) ラ ライダー(lidar : Light Detection and Ranging)、ドップラーライダー  レーザー光の短いパルスを大気中に発射し、雲、エーロゾル、大気分子からの散乱光を受信することによりそれらの濃度の高度分布を遠隔測定する装置のことをいう。レーザーレーダーとも呼ばれる。また、ドップラー効果を利用して上空の風の情報を得る機能を備えた装置をドップラーライダーという。 ラジオゾンデ(radiosonde)  センサーと無線発信器を一体とした気象測器のこと。水素又はヘリウムを詰めた気球に吊して上空に飛揚し、気圧・気温・湿度・風など大気の状態の測定に使用する。 ラニーニャ現象  エルニーニョ現象(エの項を参照)とは逆に、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より低くなり、その状態が 1年程度続く現象で、数年おきに発生する。ラニーニャ現象は、日本を含め世界中での異常な天候の要因となり得ると考えられている。 レ レーダー(radar:Radio Detection and Ranging)、ドップラーレーダー、二重偏波気象レーダー  パルス状の電波を大気中に発射し、雨粒や雪からの反射波を受信することにより降水の水平分布や高度などを遠隔測定する装置のことをいう。また、降水の分布や強さなどの観測に加え、電波のドップラー効果を利用して上空の風の情報を得る機能を備えたレーダーをドップラーレーダーという。さらに、水平方向と垂直方向に振動する電波(水平偏波、垂直偏波という。)を用いることで、雲の中の降水粒子の種別判別や高精度な降水の強さの推定が可能なレーダーを二重偏波気象ドップラーレーダー(通称 二重偏波レーダー)という。 「気象業務はいま2021」の利用について  「気象業務はいま2021」に掲載されている図表・写真・文章(以下「資料」といいます。)は、第三者の出典が表示されているものを除き、資料の複製、公衆送信、翻訳・変形等の翻案等、自由に利用できます。ただし、以下に示す条件に従っていただく必要があります。 ・利用の際は、出典を記載してください。  (出典記載例)  出典:気象庁「気象業務はいま2021」より ・資料を編集・加工等して利用する場合は、上記出典とは別に、編集・加工等を行ったことを掲載してください。また編集・加工した情報を、あたかも気象庁が作成したかのような様態で公表・利用することは禁止します。  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