はじめに 「気象業務はいま」は、災害の予防、交通安全の確保、産業の興隆等に寄与するための気象業務の全体像について広く知っていただくことを目的として、毎年6月1日の気象記念日に刊行しています。 気象庁の任務は、台風・集中豪雨等の気象、地震・津波、火山、さらに気候変動などに関する自然現象の観測・予報等と、その情報の利用促進を通じて、気象業務の健全な発達を図ることにあり、このための取組の現状と今後の展望について紹介しています。 昨年は、「平成29年7月九州北部豪雨」による水害など、甚大な災害が数多く発生いたしました。また、昨年10月には霧島山(新燃岳)、今年1月には草津白根山(本白根山)が噴火するなど、多くの火山で活発な火山活動が見られました。 これらの災害により犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、災害に遭われました皆様に心よりお見舞いを申し上げます。 今回の特集では、昨年8月にとりまとめられた「地域における気象防災業務のあり方検討会」報告書について取り上げています。気象庁が発信する防災気象情報等が信頼、理解され、市町村長による避難勧告等の的確な発令や住民の主体的避難に活用されるよう、特に平時から取り組むことが極めて重要であることなど、報告書で示された今後の取組のあり方について紹介しています。 また、最新の取組を紹介する「トピックス」では、提供開始から10年を迎えた緊急地震速報、南海トラフ地震に関連する情報の運用開始、12年ぶりに発生した黒潮大蛇行、気象ビジネス推進コンソーシアムを中心とする気象情報のさらなる活用に向けた取組などを紹介しています。 多くの方々が本書に目を通され、気象業務への皆様のご理解が深まりますとともに、各分野で活用されることを期待しています。 平成30年6月1日 気象庁長官 橋田 俊彦  はじめに  「平成27年9月関東・東北豪雨」や、平成28年の台風第10号に伴う大雨、「平成29年7月九州北部豪雨」による水害・土砂災害等、近年、局地化・集中化・激甚化した大雨等による災害が相次いでおり、また、「平成28年(2016年)熊本地震」や平成27年の口永良部島の噴火、今年の草津白根山の噴火など、各地で地震や火山噴火による災害も発生しています。  全国各地の気象台では、従来から、風水害や地震・火山等に対する各種の防災気象情報の発信を行うとともに、自治体等への気象解説・助言や住民への普及啓発等の取組も進めてきています。  しかしながら、地域の気象防災を一層推進するためには、これまでの防災気象情報等の「発信」の視点に加え、地域の目線に立って自治体や住民等における防災気象情報等の「理解・活用」を支援・促進するなどの取組が一層重要になってきています。  このため、気象庁では「地域における気象防災業務のあり方検討会」(座長:東京大学大学院情報学環 総合防災情報研究センター長 田中淳教授)を開催し、地域の気象防災に一層資する気象台の業務の方向性や取組について検討いただき、報告書をとりまとめていただきました。  ここでは、本報告書で示された今後の取組のあり方について解説するとともに、各地の気象台での具体的な取組等について紹介します。  地域における気象防災の強化に向けた取組 (1)地域における気象防災業務の方向性  気象台が発信する防災気象情報等は、市町村長による避難勧告等の的確な発令や住民の主体的避難に活用されるものであり、緊急時にこれら情報が機能するためには、平時から気象台が発信する情報が信頼され理解されるよう取り組むことが極めて重要です。このことを踏まえ、気象台は以下の方向性により、気象防災の取組を進めていきます。 <地域における気象防災業務の方向性> ①気象台は、「防災意識社会」、地域社会を担う一員であるとの意識を強く持ち、市町村、都道府県、関係省庁の地方出先機関等と一体となって、地域の気象防災に一層貢献する。 ②気象台は、防災の最前線に立つ市町村において、既存の防災気象情報に加え、“危険度分布”等の新たな情報が緊急時の防災対応の判断に一層「理解・活用」(読み解き)されるよう、平時から信頼関係を構築し、これら情報の読み解きを支援する取組を強化する。  このため、気象台は市町村や住民等の立場から見た地域のニーズを対話・コミュニケーションを通じて汲み取り、情報や解説等の改善を絶えず考えていく姿勢で取組を進めていきます。  また、地域が一体となった取組を推進するにあたっては、都道府県や関係省庁の地方出先機関との連携や、大規模氾濫減災協議会、火山防災協議会等の枠組みを活用し、取組がより効果的・効率的に機能するよう工夫しながら取組を進めていきます。加えて、住民も含め地域全体で気象防災力の向上に向けて、市町村や県、関係機関、報道機関等と連携して地域の気象・災害などに係る知識・意識を高める活動を推進していきます。 (2)具体的に推進する取組  (1)で示された方向性のもと、気象庁の組織力を総合的に発揮し、気象防災の関係者と一体となって、地域の気象防災に一層貢献できるよう、以下の具体的な取組を進めていきます。  また取組を進めるにあたり、市町村、都道府県、関係省庁の地方出先機関や協議会等に対し、その目的や内容等について丁寧な説明を行い、十分な理解を得つつ、各地域の実情に応じ、可能なものから順次取り組むとともに、先進的な事例や優良事例を全国の気象台に横展開して取組の一層の拡大を図っていきます。 ① 平時から強化しておくべき取組 ア 防災気象情報等の「読み解き」に資する取組の推進 (ⅰ)自治体向けの研修・訓練等  市町村において、地域の災害リスクを認知し、緊急時には防災気象情報を読み解き、防災対策に活用されるよう、市町村に向けた平時の解説や研修・訓練等の充実を図っていきます。  地域の気象特性や災害リスクの認知のためには、市町村の地形・地質、気象・災害特性、過去に発生した災害の状況等について市町村毎に整理した「気象防災データベース」を構築し、市町村訪問等の様々な機会を捉えて気象台と市町村等の認識を共有しておくことが考えられます。  また、段階的に発表される防災気象情報や災害発生に関連の強い“危険度分布”などの活用が進むよう、各種防災気象情報がどのような背景や意図を持って発表されているかについて、予測技術の現状や限界も含めた知識に加え、実際の情報入手環境を用いた実践的な勉強会や研修等を小まめに開催する取組を進めていきます。  加えて、研修や訓練をより実践的で効果的に実施できるよう、市町村の防災担当者を対象として、防災気象情報をトリガーとした具体的な対応を実践的にシミュレーションできるワークショッププログラムを関係者と連携して開発し広く展開する取組を推進していきます。 (ⅱ)自治体等を対象とした平時からの気象解説  市町村等において、日常的に気象や自然災害等への関心を高めていくためには、メールなどにより、地域の気象、地震、火山、海洋、地球環境に関する旬の話題や中長期のリスク、地域における過去の自然災害などを平時から発信・解説する取組も進めていきます。 ■市町村による避難勧告等の発令を支援するための防災訓練(南大東島地方気象台)  集中豪雨の際や台風の接近・上陸時には、土砂崩れや洪水などが発生して住民の命が危険にさらされる場合があります。気象台では、そのような状況が想定される時に注意報や警報等の「防災気象情報」を発表して、広く注意・警戒を呼びかけます。一方、市町村は、気象台からの防災気象情報を受けて、被害発生のおそれがあると判断した時には、住民に対して「避難勧告」等の発令を行い、地域住民の安全を確保するための行動を起こします。  南大東島地方気象台は、南大東村、北大東村とともに、台風の接近及びその後の避難勧告発令に至るまでを想定した訓練を実施しました。この訓練では、台風の接近に伴って刻々と悪化する天候のイメージを気象台と村役場で共有しつつ、村の防災担当者は気象資料を確認しながら住民への被害発生のおそれを見きわめます。災害発生の可能性が高まってきたと判断される段階で、村長は避難勧告等を発令する検討を行います。同じ頃には、気象台長は村長に対して災害発生が迫る気象状況となっているという危機感をホットラインで伝え、村長の判断を支援する助言を行いました。最終的に、村長が避難勧告を発令し、村民に対して安全を確保するよう呼びかけました。  南大東島地方気象台では、普段から村の防災担当者に対して防災気象情報の理解・活用を促すための勉強会を実施しており、また、気象台長は、いざという時のホットラインがうまく機能するように、村長との顔の見える関係を確立しています。このように、南大東島地方気象台では、日頃から地域の防災力を高める活動を行っています。 イ 地域の気象防災力を向上させるための基盤の強化 (ⅰ)市町村と気象台との「顔の見える関係」の構築  緊急時における地域の気象防災力の向上のためには、平時に防災対応の最前線に立つ市町村と地元気象台との間の信頼関係を深めていくことが重要であり、気象台は、各市町村の気象・災害特性や過去の災害の発生状況等を熟知するとともに、市町村の防災体制の実情などについて理解する取組を進めていきます。  このため、気象台長自らが市町村長を可能な限り訪問して「顔の見える関係」を構築し、地域の気象防災に関する共通認識を得るとともに、気象台が提供する様々な情報に加えて緊急時にはホットラインにより直接危機感を伝達することの趣旨などについて十分な理解を得ておくことが重要です。この際、気象台の取組の単なる説明・解説にとどめずに、緊密な対話やコミュニケーションにより気象台の取組への要望等を聞き取って更なる連携強化に繋げていきます。  また、ホットラインを含めて、緊急時の連携作業が円滑に進むよう、日頃から気象台職員が市町村防災担当者に対し担当者レベルで計画的に訪問して意見交換を行い確認しておくことが必要です。「顔の見える関係」の構築にあたっては、県や関係省庁の地方出先機関等と連携した取組も推進していきます。 ■強風災害を契機とした地元首長及び自治体との連携強化(札幌管区気象台)  平成29年4月18日、発達した低気圧の通過に伴う強風により、道内では重軽傷者14名、住家・非住家被害319棟に加え、多数の農業施設に被害が発生しました。  中でも後志地方では、人的被害や住家被害のほか、ビニールハウスの倒壊など農業被害が著しく、後志地方の町村長で構成される後志町村会では強風に対する防災対策の充実を図ることが喫緊の課題であるとの意識が高まりました。  札幌管区気象台では、これを契機に後志地方への防災対策支援として、自治体の防災担当者や住民が防災気象情報を適切に読み解けるように、後志地方で強風となりやすい気象条件を調査・分析し、「市町村ごとの強風となりやすい地域特性」として取りまとめました。  さらに、後志町村会の首長や防災担当者を対象とした説明会をそれぞれ開催し、この調査結果を今後の防災対策に活用できる支援資料として提供しました。倶知安町では、この結果を広報誌に掲載して住民に広く周知する予定で、住民への防災啓発にも活用される見込みとなっています。 《説明会参加者のコメント》 • 調査結果を説明いただいたことは、大変ありがたい。今後の防災対応に役立てたい。(後志町村会長) • 良い機会をいただいたことに感謝する。地元自治体では、この様に町村ごとに取りまとめた地域特性が分かる資料を求めていた。(町村会事務局) • 調査結果から地域の強風特性を良く理解できた。首長もその調査内容に納得し、たいへん喜んでいた。職員はもとより、広く町民に周知するなどにより、地域の防災対策に役立てていきたい。(倶知安町防災担当者) (ⅱ)市町村毎の気象・災害特性や過去の災害履歴等の把握  気象台が市町村との対話・コミュニケーションを深めるにあたっては、日頃から市町村のことをよく理解し、市町村の立場に立って何が必要かを考えておくことが重要です。このため、気象台において、各市町村の気象特性、地形・地盤の特性、災害特性、過去の災害の発生状況やその際の気象状況及び地震活動・火山活動の状況、市町村の防災体制やニーズなどの情報を整理した「気象防災データベース」を構築し、関連する防災計画や避難勧告等の判断・伝達マニュアル、ハザードマップ、タイムラインなどと併せて整理します。  このようなデータベースを市町村訪問等の機会を捉えて共有することで、市町村と気象・災害への認識を共有することができ、より市町村とのコミュニケーションを深めることができます。また、このデータベースは、気象台が地域に根ざした解説を行うためのツールとしての活用も期待されます。  また、住民等が地域における気象・災害リスクの認知や防災に関する知識習得等に活用できるよう、このデータベースを広く一般に対して提供していきます。 (ⅲ)地域に根ざした気象台職員の育成  気象台が地域の防災機関として信頼されるため、まずは気象等の専門家として市町村等のニーズに沿って適切に解説できるよう技術力の保持・向上に努め、担当する地域の気象や災害特性を熟知するよう努めます。その上で、地域における自治体や関係機関の防災対応について理解を深めていきます。  そのため、協議会等への積極的な参画や、地域の気象防災の有識者等の専門家と定常的なコミュニケーションを図り、地域防災に係る人脈や知見を深め、いざというときの対応力を強化していきます。  また、防災の最前線である市町村を知るには、日頃から市町村の防災の現場に積極的に飛び込んでいくことが有効であり、人事交流等により市町村職員の関心・ニーズなどを把握・理解する取組も推進していきます。  加えて、気象台の人材育成やキャリアパスにおいて、地域に根ざした気象防災の知見や地域におけるコミュニケーション力を育めるよう配慮していくなど、気象庁全体で組織を挙げて人を育てる取組を進めていきます。 ■「防災気象情報の原理」より「その情報の読み方」の説明を 静岡大学防災総合センター教授 牛山 素行  「洪水警報の危険度分布」のように、予測技術、情報伝達技術の進歩に伴い、新たな情報が構築、公開されることは無論歓迎できることだ。ただ、まず強調しておきたいのは、防災気象情報(「気象」に限らないが)は、精度向上や表現の改善が、被害軽減に直結するわけではないということである。「改善」した情報を、まずは情報の受け手に知ってもらわなければ何もかもはじまらない。いわゆる「周知広報」という取組が重要だろう。また、そのやり方にはいろいろと工夫が必要だと思われる。  筆者は各種の会議や研修などで、気象庁の方が防災気象情報についての紹介・説明をする場面に立ち会う機会がしばしばある。その際、大変申し訳ないのだが、「これは本当に聴衆に意味が伝わっているだろうか」と心配になることが少なくない。心配のポイントは下記のようなことである。 • 「聴衆はこれまでの防災気象情報について十分理解している」という前提で、「今回新たに改善した情報」という、いわば「差分の説明」をしていることがよくあるが、その前提は大丈夫だろうか。 • 新たな情報の原理(計算の仕方)から話が始まり、場合によるとそれに終始してしまう。「情報の原理」を理解してもらうことは、短い説明時間の中で重要度の高いことだろうか。「情報の意味、読み方」を知ってもらわねば情報は使われないのではないか。  防災気象情報の「説明」の場に参加している人々も多様な背景があると思われるが、基本的には「サイエンスのイベント」に来ている人ではない。関心があるから来ているのではなく仕事で参加している人、これまでの経緯などは全く承知していない人も少なくなかろう。そうした人たちに情報を活用してもらうためには、何よりもまず、「情報の読み方、使い方」を、「この情報は何を意味しているのか」を説明しなければならないのではなかろうか。  とはいえ、その「説明」を具体化するのはなかなか難しい。たとえば右図は、筆者が昨年夏以降に各種講演や研修で用いている、「洪水警報の危険度分布」「大雨警報(浸水害)の危険度分布」を説明する際のスライドである。背景図には気象庁ホームページ内の図を引用している。このスライドで、下記のような説明をしている。 「洪水警報の危険度分布」 • これまでのレーダーの図(解析雨量)では「今までにどこでどのくらい雨が降ったか」が表示されている。 • 雨は降ったところにとどまらず、低いところに流れて集まり被害をもたらす。「洪水警報の危険度分布」では雨がどこに流れ集まるかが河川ごとに表示される。 • つまり「大雨が降っている場所」ではなく「川が溢れそうなところ(今・これから危険な場所)」、「洪水による被害が出そうなところ」が示される。 • 水位計のない中小河川についても情報が得られるところもメリット。 「大雨警報(浸水害)の危険度分布」 • 「洪水警報の危険度分布」と同様に、「今までにどこでどのくらい雨が降ったか」ではなく「どこに水が集まりそうか」がわかる情報。 • 「洪水警報の危険度分布」とは異なり、「川が溢れそうなところ」ではなく、「付近で降った雨が溜まっていそうな場所」が示される。 • 内水氾濫(一般的によく見られる浸水現象)の危険があるところと考えてもよく、アンダーパス、地下空間などが要注意となる。  おそらく「なんと乱暴な説明か」と思われる方もいるのではなかろうか。「それは違う」と思われるかもしれない。筆者も決してこれが万全な説明とは思わない。これは算数と理科が嫌いな筆者が模索した雑な説明例であり、各位においてよりよい説明を考案していただきたい。  正直なところ、「洪水警報の危険度分布」と「大雨警報(浸水害)の危険度分布」が別の図になってしまったことは残念だと思う。似たような情報が増えることは、それだけ情報を処理する(人間の)手間が増えることになり、必ずしもよいことではない。まず見るべきは「洪水警報の危険度分布」かな、とも思うが、このあたりはさらに情報の整理、改善があると良いのかもしれない。  まだまだ課題はあるにせよ、せっかく姿を現した新たな情報である。ぜひ最大限に生かされて欲しいと思う。 ウ 防災の現場における気象防災の専門家の活用促進  平成28年度に実施した「地方公共団体の防災対策支援のための気象予報士活用モデル事業」では、市町村の防災対応の現場において、平時からの気象解説や勉強会等を通じ防災気象情報の「理解・活用」を推進することや、緊急時の防災対応を解説等で支援することにより、気象の専門知識だけでなく自治体の防災対応にも詳しい気象予報士等の気象の専門家がいることの有効性が確認されました。  このため、地域の防災力の向上のため専門家が活用されるよう、当該事業の成果を積極的に市町村に周知するとともに、市町村の防災対応の現場で即戦力となるような「気象防災の専門家」の育成にも関係機関と連携して取り組んでいきます。 ■気象防災の専門家の育成 ~気象防災アドバイザー育成研修~  気象庁は、平成28年度に、「地方公共団体の防災対策支援のための気象予報士活用モデル事業」(本モデル事業の詳細は、https://www.jma.go.jp/jma/press/1704/27a/ yohoushi_project.htmlをご覧ください。)の 実施に際し、派遣気象予報士が派遣市において市町村の防災対応を適切に支援できるようにするため、派遣気象予報士に対し事前研修等を実施し、市町村の防災対応の現場で必要となる防災に関する知識等についても習得させました。今後多くの市町村において、防災に関する知識を兼ね備えた、市町村の防災対応の現場で即戦力となるような気象予報士が活躍できるようにするため、気象庁では平成29年度に「気象防災アドバイザー育成研修」を実施しました。  気象防災アドバイザー育成研修は、気象予報等について高度な知識を持つ気象予報士や気象業務経験者等気象の専門家に対して、我が国の防災制度や地方公共団体の防災対応、最新の防災気象情報の実践的な活用方法等を習得させるための研修で、別表に示す3コースを2~3月の10日間をかけて実施しました。  今後気象庁では、気象防災の専門家の活用を希望する地方公共団体に対し、本研修の実施により育成した気象防災アドバイザーのリストを提供します。また、地域の防災イベント等における講師など、多様な場面における気象防災アドバイザーの活用を図っていきます。  このような気象防災アドバイザーの活用を通じて地域の防災力の強化に貢献してまいります。 ② 緊急時における市町村等の防災対応を一層支援する取組 ア 緊急時における気象解説の充実・強化  平時に蓄積した知見・共通認識等を十二分に活用し、防災気象情報が市町村の防災対応の判断に活かされるよう、現象の推移に応じて、台風説明会や「予報官コメント」等の既存の場・ツールを活用しつつ、ポイントを絞った解説を行っていきます。特に、社会に大きな影響を与える現象が予見される際には、その可能性が高くなくとも、予測の困難性・不確定性も含めて早い段階からその旨を解説し、危機感を共有します。この際、休日・夜間の市町村の対応に配慮するとともに、市町村が緊急性を把握できるよう、緊急時における気象台長から市町村長への電話連絡(ホットライン)の徹底や、緊急時の「予報官コメント」の工夫にも取り組んでいきます。 ■秋田地方気象台長から市町村長へのホットライン  平成29年7月22日、東北地方に停滞する梅雨前線の影響で、秋田県内では朝から激しい雷雨となっていました。午後には雨が一層強まり、19時10分の「洪水警報の危険度分布」では、大仙市南部の楢岡川ならおかがわの上流で、過去の重大な洪水災害発生時に匹敵する“極めて危険”な状況を示す濃い紫色が出現していました。「人命に関わる事態だ。いま電話をかけないと大変なことになる。」と、秋田地方気象台の和田台長は当時をそう振り返ります。和田台長は19時25分に大仙市長に直接電話をして「非常に激しい雨を降らせる雷雲が大仙市にかかり停滞しています。気象庁の「洪水警報の危険度分布」では大仙市の南部(楢岡川の上流)に“極めて危険”を示す濃い紫色が出現しています。隣接する市町村では避難指示(緊急)が発令されているところもあります。」と伝えました。直後の19時45分に大仙市では災害対策本部が立ち上げられ、20時15分に避難勧告が発令されました。一連の大雨で和田台長がこのように「洪水警報の危険度分布」等の活用を呼びかけ、直接電話で危機感を伝えたのは7市5町にのぼっています。秋田県では総雨量300ミリを超える記録的な大雨となり、図の楢岡川を含む多くの中小河川に加え、大河川の雄物川でも氾濫が発生し、計2000棟以上の住宅が被害を受けましたが、死者やけが人が出ることはありませんでした。  和田台長は前年(平成28年)に盛岡地方気象台の台長を務めており、岩手県岩泉町で甚大な洪水災害となった平成28年台風第10号の際、町長に直接危機感を伝えることができませんでした。この教訓から、秋田地方気象台長就任後すぐに県内の全市町村を回り、5月までに市町村長と携帯電話の番号を交換し終えました。また、記録的な大雨を想定したホットラインの訓練を県内の市町村長と行うなど、平常時から「顔の見える関係」が構築できていたことが緊急時に活かされました。  全国の気象台でも、このように地域の防災をこれまで以上に支援する取組を進めていきます。 ■防災判断の支援に向けた防災機関向け「予報官コメント」の改善について(広島地方気象台)  気象台では、市町村や防災機関に防災気象情報を伝達するため、防災情報提供システムを用いてリアルタイムに情報を提供しています。予報官が特に注目してほしいポイントや今後の見通し等の解説を、「予報官コメント」としてこのシステムに随時掲載し、防災機関に伝えています。  従来の広島地方気象台の予報官コメントは、警報等の発表状況のお知らせなどホームページから確認できる「事実の記載」をお知らせすることが多い状況でした。このことに対して、平成28年度に気象庁が実施した「地方公共団体の防災対策支援のための気象予報士活用モデル事業」により広島県廿日市市に派遣された気象予報士と意見交換を行った際、「自治体が各種の防災判断をするためには、伝達される警報文だけでは判断が難しい場合がある。予報官の考えをもっとダイレクトに伝えて欲しい。」といった、予報官コメントへの改善が要望の一つとしてあげられました。  これを受け、広島地方気象台では、予報官コメントをより分かりやすく、使っていただきやすくするための改善に向けた検討を進め、平成28年11月から次のような見直しを行いました。 ◯大雨等の警報・注意報の発表・解除の具体的な見通しを中心に、「いつ頃、どこに注意報の発表を検討中」、「どの地域には注意報の可能性はない」など、できる限り時間帯や場所を明示する。 ◯警報・注意報に関するコメントは、警戒が必要な段階に応じて背景色を変えることにより分かりやすくする(例:注意報段階は黄色、警報段階は赤色など)。 ◯雨が降り止んでも大雨警報・注意報が継続する場合は、その理由を記述する。 ◯「警報級の可能性」について、警戒を要する想定時間をより詳しく記述する(通常の「6時間単位(明日まで)」「1日単位(明後日以降)」の幅を、より短く区切って解説する)。 ◯極端な大雨が予想される場合には、予報官が持つ危機感をしっかりと伝えるために、具体的により強く印象づけられる表現を用いて記述する(例:「平成○年○○豪雨に匹敵する大雨となる可能性がある」など)。  気象台からの予報官コメントは、「地域における気象防災業務のあり方(報告書)」(平成29年8月)においても、緊急時における市町村等の防災対応を一層支援するツールとして更なる工夫を加えていくように提言されています。  広島地方気象台においても、防災機関の支援のため、引き続き予報官コメントの改善に努めていきます。 イ 気象台職員の自治体への迅速な派遣  自治体における災害対応に一層積極的に貢献するため、災害が発生した、または発生が予見される場合に、都道府県や市町村の災害対策本部等に気象台職員を迅速に派遣し、災害対応現場におけるニーズや各機関の活動状況をリアルタイムに把握しつつ、気象状況等をきめ細かに解説する体制を構築します。  このため、現地の気象台を中心として、地域を熟知した管区や近隣の気象台等の職員で構成する「気象庁防災対応支援チーム:JMA Emergency Task Team(JETT)」を、平成30年5月に創設しました。また、派遣を迅速に行うため、予め専門分野や勤務経験等をもとに派遣職員の候補者リストを作成するとともに、派遣時の手続き、気象庁本庁・管区気象台・現地気象台等の役割分担、派遣職員の役割等を定めました。またJETTは、国土交通省のTEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)の一員として活動することとしています。 ■平成29年7月九州北部豪雨における気象支援について(朝倉市総務部防災交通課)  平成29年7月5日、筑後地方から大分県西部にかけて線状降水帯が形成され、九州では初めて大雨特別警報が出されるなど記録的な大雨となりました。今回「線状降水帯」という言葉が話題となり、市内に設置されているアメダス雨量計では、時間雨量129.5ミリ、日降水量516.0ミリを観測し、当地点の観測史上1位を記録しています。また、山間部にある福岡県設置の雨量計でも時間雨量124.0ミリ、累積雨量で800ミリを超える数値を観測しています。  この山間地を中心とした豪雨により多数の山腹崩壊が発生し、大量の土砂と流木が市街地に流入し、被害拡大の要因となりました。これらの被害は甚大で、33人(関連死含む)の尊い命が失われ、2人の行方不明者、そして多くの家屋や施設が被害を受け、市の主要産業である農業にも大きな爪痕を残しています。  今回の災害では、福岡管区気象台から予報官の方に来ていただき、災害対策本部会議の中ではもちろん、常駐していただき随時気象情報の提供を受けました。発災時から自衛隊をはじめ多くの機関が入り、捜索活動・復旧活動を行う中、災害対策本部会議の中で天候について毎日解説していただいたのはもちろん、詳細な情報も見せていただき大変参考になりました。また、発災後の雨や台風接近時についても常時情報を提供していただき、大変心強かったです。予報官の方の常駐については、7月9日から8月16日までと1か月以上におよび、その間、各機関も個別に問い合わせをされていました。発災後の不安定な天候のみならず、夏場はかなりの猛暑となり、熱中症についても助言頂きました。その後も電話による定時の気象解説を出水期が過ぎる10月末までしていただきました。  現在本市では、復旧作業が急ピッチで行われていますが、災害の規模があまりに大きく今年の出水期までに対応することは難しい状況であり、ソフト面での2次災害防止の対応が求められています。また当分の間は、出水期に最大限の注意を払う必要があり、関係機関による協議も始めています。気象台の皆さんにもご協力いただきながら対応を進めていきたいと考えています。  最後になりますが、今回の災害に際し多くの関係者の皆さんにご支援いただいておりますことに感謝申し上げるとともに、今後ともご協力の程よろしくお願いします。 ③ 災害後における緊急時の対応の「振り返り」  緊急時の対応について更なる改善を進めていくためには、気象台がどのような情報提供や解説を行い、それらの技術上の限界はどうだったのか、また、市町村がそれらの情報を防災対応の判断にどのように活用できたのか等、当時の状況やお互いの対応について、気象台と市町村が共同でレビューすることが重要です。その際、より効果的に実施できるよう、県や関係省庁の地方出先機関等の関係者の参画や、協議会等の場を活用することも考えられます。  このような「振り返り」の作業を通じ、市町村と気象台がお互いをより深く知り、具体的な課題を共有し、対応の流れや内容(タイムライン)についてより実効的な工夫を検討することで、地域全体で共に育ち、気象防災力の向上につなげていきます。その際、可能であれば市町村長にも参加を呼びかける場面を設けていきます。また、実際には被害に遭わなかった近隣の市町村にも、「振り返り」への参加を呼びかけ、その好事例や課題等の成果を共有することにより、地域全体での防災意識の向上につなげていきます。加えて、気象庁全体で「振り返り」の成果を共有・確認し、それを踏まえてニーズを把握して、緊急時の気象解説等の内容やタイミングについて更なる充実強化を図るとともに、技術開発や情報改善につなげていきます。 ■平成29年7月九州北部豪雨の「振り返り」  平成29年7月九州北部豪雨では、記録的な大雨となり、福岡県朝倉市・東峰村、大分県日田市において甚大な被害が発生しました。政府は、この災害を教訓とし、特に住民等の避難行動に関し、今後対応すべき事項を明らかにするため、内閣府(防災担当)に「平成29年7月九州北部豪雨災害を踏まえた避難に関する検討会」を設置しました。  当検討会では、有識者のほか、内閣府をはじめとする関係省庁が参加し、現地調査・ヒアリングを行い、そこで得られた情報等を基に当時の状況を振り返りながら、今後取り組むべき事項について議論が行われました。気象庁は、防災を担う省庁の一員として、現地調査・ヒアリングや当検討会に積極的に参加し、当時の気象状況の説明や当時の対応の振り返り等を行いました。  12月に報告された当検討会のとりまとめでは、気象庁に係る取組として、「洪水警報の危険度分布」等の理解・活用に向けた平時からの取組の促進やホットラインによる直接的な助言の促進などが打ち出されています。気象庁では、平成29年7月九州北部豪雨の経験を踏まえ、これらの取組を推進していくほか、今後もこのような検討会などの場を活用し、関係機関と共同で災害発生時の振り返りを行い、緊急時の対応について更なる改善を進めてまいります。 ④ 住民等を対象とした地域全体の気象防災力向上に向けた取組  これまで、主として、地域における防災の最前線である市町村を対象とした取組について紹介してきましたが、「防災意識社会」への転換・貢献の観点からは、最終的な安全確保行動をとる主体である住民の視点は極めて重要です。これは、自然災害とそれに対する住民の心構えや知識が、緊急時における住民の行動に大きく影響するためです。  このため、気象台においては、ホームページなどを活用し、防災気象情報の「理解・活用」に資する解説等を定期的に発信するとともに、関係機関と一体となって住民への周知広報や地域における気象防災力向上の取組への支援をより広範かつ効果的に実施していきます。その際、旅行者や外国人等の地元住民以外の者に対する周知広報についても留意しながら取り組んでいきます。  また、住民へ情報を伝える、住民の主体的な行動を促すためには、気象台と報道機関等との連携が非常に重要です。緊急時においては、後述の市町村と同様、報道機関においても情報の洪水に見舞われる懸念があります。そのような場面において、報道機関が様々な機関から寄せられる点と点の情報を結び、その先にあるリスクを住民にわかりやすいメッセージとして伝えることも重要であることから、平時から気象台や地域の関係機関、報道機関等が集う勉強会などを定期的・継続的に開催し、地域における気象・災害リスクについて共通認識を図ることを推進していきます。 ■みんなで作ろう!マイ・タイムライン(水戸地方気象台)  平成27年9月の関東・東北豪雨による鬼怒川の氾濫を受け、平成28年度に下館河川事務所、常総市、警察署、消防署、茨城県、学識者及び水戸地方気象台は連携して、住民一人一人が「自分の逃げ方」を手に入れることを目的とする検討会を設置し、マイ・タイムラインの検討を行ってきました。  マイ・タイムラインとは、住民一人一人が自分自身に合った避難に必要な情報・判断・行動を把握して作成する避難計画のことです。住民自らが、この検討会が作成したマイ・タイムラインノートという専用ノートを用いて、次の3ステップでマイ・タイムラインを作成していきます。  STEP1:自分たちの住んでいる地区の洪水リスクを知る。  STEP2:洪水時に得られる情報を知り、タイムラインの考え方を知る。  STEP3:マイ・タイムラインを作成する。  ステップどおりに作業を進めることで、洪水のリスクや洪水時に得られる情報を知り、避難すべき場所、避難の手段、避難に要する時間、及び避難時の必需品などに気づくことができ、自分の逃げ方を整理したマイ・タイムラインが完成します。また、マイ・タイムラインの作成を通じて、最近の雨の降り方や傾向、洪水時に得られる情報と読み解き方を知ることもできます。  マイ・タイムラインは、鬼怒川の氾濫により甚大な被害を受けた茨城県常総市の住民の皆さんの協力を得て作成され、その後は他の自治体への広がりも見せています。引き続き気象台は、河川事務所や関係機関と連携して、地域の防災力を高める取組を推進していきます。  マイ・タイムラインの詳細は下館河川事務所のホームページに掲載されています。 <下館河川事務所 みんなでタイムラインプロジェクト> http://www.ktr.mlit.go.jp/shimodate/shimodate00285.html ⑤ 都道府県や関係省庁の地方出先機関、既存の協議会と一体となった効果的・効率的な取組の推進  これまで紹介してきた取組について、気象台単独の取組では、地域の防災力向上の効果は限定的です。市町村や、都道府県、関係省庁の地方出先機関、また大規模氾濫減災協議会、火山防災協議会等の既存の協議会など、地域の関係機関が連携し、一体となって取り組むことで初めて地域全体としての防災力向上につながっていきます。  より効果的・効率的に取組を進めるため、関係機関との一層の連携を図り、地域における信頼関係の構築、勉強会・研修の実施、タイムラインの策定やそれに基づく訓練の実施等により、気象情報だけでなく様々な関係機関から提供される情報と防災対応の関係や課題などを、平時から関係者間で認識を共有しながら取組を進めていきます。  おわりに  自然災害が頻発する中、地域の気象防災力を総合的に高め、「大災害は必ず発生する」との意識を社会全体で共有し、これに備える「防災意識社会」への転換に貢献していくため、地域の気象防災に一層資する気象台の業務の方向性や取組について検討し、「地域における気象防災業務のあり方」がとりまとめられました。  各地の気象台では、地域に寄り添い自治体や住民等の防災対応を支援・促進できるよう、この報告書で示された内容に沿って、着実にたゆむことなく取組を実施していきます。  一方、各地の気象台が、市町村や地域住民からの信頼や期待に継続的に応えていくためには、その基盤となる観測・予測技術の向上について、最新の科学技術の進展を取り入れながら不断の努力を積み重ねていく必要があります。  このため、交通政策審議会気象分科会では、本年1月から「2030年の科学技術の進展を見据えた気象業務のあり方」について審議されており、本年夏頃を目途に提言をいただく予定です。 ■これからの市町村支援を考える 東京大学大学院情報学環 総合防災情報研究センター長・教授 田中 淳  平成 29 年8月 に「地域における気象防災業務のあり方」に関する報告書が公表されました。この報告書のとりまとめに際して、個人的に感じていた論点をこの場を借りて整理しておきたいと思います。  ここ2・3年、市町村の判断を支援することへの社会的要請は高まって来ていると感じています。命を守る行動のきっかけとして、避難勧告や避難指示の発令は現実的には大きな役割を果たしていますし、マスメディア等でも注目を集めているからです。しかし、適切に市町村の判断を支援するためにはいくつか留意すべきことがあるようにも感じていました。第1に、市町村の処理能力には限界があるという実態を踏まえて、適切な支援策を考えないと役に立たないということです。これまで多くの被災地に伺い、実態を見てきた経験から、警報が発表されてから被害が出始める時期には、気象庁や河川管理者から予警報や情報が伝えられ、加えて住民から多くの情報が市町村に寄せられます。個々の情報や支援は役に立つことなのですが、すべてを受け取る現場の負担が大きくなります。その緩和には、日ごろから情報の活用を気象台と市町村とで共有しておくことが不可欠だと思っています。その意味で、今回の報告書に平時から信頼関係の構築や実践的な勉強会の実施など、緊急時の情報を活かす平常時の取り組みが書き込まれました。個人的には、加えて国や都道府県などは情報を出したり、伝えたりする際にできるだけまとまった情報へと一元化していくべきだと思っています。河川管理者と共同して地域協議会を活用することは、市町村の負担を減らすために有効な取り組みでしょう。  第2に、気象台が発表できる情報内容や表現と受け手の求める情報内容や表現とが完全には一致していないということです。予測で示される地域的な広さであったり、予測の精度であったり、緊迫感の差であったりします。それらのある部分は現在の技術的な限界に由来しますが、情報の説明の仕方や表現などで緩和されるものもあると感じています。そのためには発表の伝え方などを、現場の実態から不断の見直しが必要でしょう。その意味で、災害後に顕著現象発生当時の対応について気象台と市町村等が共に振り返りを行うフィードバックが報告書に明示されたことは画期的な方向性だと思います。ただし、この取り組みを活かすには、気象台が単なるデータ解析を超えて、予報・解説能力を高めていくことこそ重要だと思います。  最後に、気象現象や地震・火山噴火の予測には技術的な限界もあり、すべての事例で避難勧告や避難指示が間に合うわけではないということを前提に、防災情報の利活用を考えておく必要があるということです。気象庁はこれからも技術開発に努めていくべきですが、同時にできることとできないことを明確に社会に示していく一層の努力を期待します。別の言い方をすれば、異常現象が発生しないと予測できるから情報が発表されないのか、それとも予測自体が難しいから発表できないのかを明示し、そのうえで予測が難しい現象について気象台が危機感を感じているならば、どこまで踏み込んで伝えていけるのかが市町村に最後まで寄り添う支援だと思うからです。 Ⅰ自然のシグナルをいち早く捉え、迅速にお伝えするために トピックスⅠー1  平成30年1月23日に発生した草津白根山(本白根山)の噴火とその対応 (1)草津白根山(本白根山)の噴火の概要  群馬県にある草津白根山(本白根山)で、平成30年1月23日10時02分頃に噴火が発生しました。  草津白根山は、有史以来主に白根山山頂周辺で噴火が発生しており、本白根山は約3000年前に噴火の記録があるものの、最近は目立った火山活動はありませんでした。  1月23日09時59分に振幅の大きな火山性微動が発生し、約8分間観測されました。傾斜計では10時00分から約2分間で本白根山の北側付近が隆起し、その直後の数分間で沈降する変化が観測されました。後日の詳しい解析では、噴火は主に傾斜計で沈降が観測された時間帯に発生したと考えられています。また、噴火した場所は、本白根山の鏡池北火口北側の火口列と西側の火口及び鏡池火口底の火口列と推定され、大きな噴石が火口から1kmを超えて飛散しているのが確認されました。噴火に伴う火山灰などの噴出物量は、火山灰の堆積量の調査から3万~5万トンと推定されています。  降灰の聞き取り調査の結果、本白根山から北東に約8kmの群馬県中之条町で降灰を確認しました。また、噴出した火山灰の調査で、マグマが直接噴出したときに見られる噴出物は認められませんでしたが、火山灰の付着成分の分析から、高温の火山ガスの関与が認められました。  この噴火により、死者1名、負傷者11名(総務省消防庁 平成30年1月29日現在)の人的被害が発生しました。 (2)気象庁の執った措置及び草津白根山(本白根山)の噴火を踏まえた検討  気象庁は、現地の研究者や草津町からの連絡を受け、噴火の事実を確認した後、1月23日11時05分に噴火に関する火山観測報、11時05分に火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)、11時50分に火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)等を順次発表しました。噴火当日以降、現地災害対策本部へきめ細やかな解説資料の提供を行うとともに、地元自治体に職員が常駐し、火山活動や気象状況の解説を実施し、関係機関と連携して防災活動を支援しました。また、火山機動観測班を派遣し、降灰の状況や噴出物の確認、地震計、空振計、監視カメラを設置し観測体制の強化を図りました。  本白根山の火山活動について検討するため、1月26日に火山噴火予知連絡会の拡大幹事会を開催し、本白根山では、当面は1月23日と同程度の噴火が発生する可能性があるとの見解をとりまとめました。  また、草津白根山の今後の活動をより詳細に把握するための観測体制の検討及びきめ細かな火山活動の評価を行うため、火山噴火予知連絡会に「草津白根山部会」を設置するとともに、「火山活動評価検討会」において、常時観測火山を対象に過去の噴火履歴の精査や今後の観測のあり方の検討を進めることになりました。また、噴火を監視カメラで捉えられず、噴火発生の事実確認に時間を要し、噴火速報の発表に至らなかったことから、監視カメラや地震計などで噴火の可能性が否定できないような場合でも、関係者から噴火現象を目撃した旨の通報があるなど、噴火したと推定できる場合には噴火速報を発表することとしました。 ※火山噴火予知連絡会:火山噴火予知計画(文部省測地学審議会の建議)により、関係機関の研究及び業務に関する成果及び情報の交換、火山現象についての総合的判断を行うこと等を目的として、昭和49年6月に設置(委員:学識経験者及び関係機関の専門家、事務局:気象庁)  南海トラフ地震に関連する情報の運用開始  南海トラフ沿いでは、駿河湾から静岡県の内陸部を想定震源域とするマグニチュード8クラスの東海地震について、震源域の固着した領域の一部が地震発生前にゆっくりとすべり始める「前兆すべり」を捉えることで確度高く地震の発生を予測することができる、と考えられてきました。気象庁は、関係機関の協力を得て、東海地域とその周辺の地震活動と地殻変動を24時間体制で監視し、観測データに通常とは異なる変化が観測された場合に東海地震に結びつくかどうか調査した結果を「東海地震に関連する情報」として発表してきました。  現在では、東海地震のみならず、駿河湾から日向灘沖までの南海トラフ沿いのプレート境界で概ね100~150年間隔で繰り返し発生してきた大規模地震である「南海トラフ地震」の切迫性が高まっています。政府は、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえ、科学的に想定しうる最大規模の南海トラフ地震を想定した対策を進めており、この地震による被害を少しでも軽減する観点から、地震発生予測に関する最新の科学的知見を活用した防災対応の検討を進めてきました。このような中で、平成29年8月に中央防災会議防災対策実行会議「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応検討ワーキンググループ」の下に設置された「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会」が公表した報告では、地震発生予測に関する最新の科学的知見について、現時点では、地震の発生時期や場所、規模を確度高く予測することは困難であるとする一方、南海トラフ地震については、地震や地殻変動などの監視からプレート境界の固着状態の変化を示唆する現象を検知することができれば、地震発生の可能性が平常時と比べ相対的に高まっていることを評価することが可能である、と整理されました。  気象庁では、平成29年11月1日から「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」を開催し、南海トラフ地震発生の可能性の高まりを評価した結果をお知らせする「南海トラフ地震に関連する情報」の運用を開始しました。南海トラフ地震発生の可能性が相対的に高まっている旨の情報を発表した際に、政府は国民に対して、日頃からの地震への備えの再確認を呼びかけます。なお、この情報の運用開始に伴い、東海地震のみに着目した従来の「東海地震に関連する情報」の発表は行っていません。 ■南海トラフ地震に関連する情報に寄せる期待 南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会会長(東京大学地震研究所教授) 平田 直 (1)はじめに  日本では、これまでに多くの震災に見舞われ、多くの被害が発生しています。1995年阪神・淡路大震災、2011年東日本大震災などの貴重な経験を経て、防災への取り組みが進んできました。自然災害を減らすためには、地震や津波など、現在何が起きているかを正しく認識し、それに備えることが必要です。南海トラフで巨大地震が発生すると、2011年東日本大震災を上回る大震災になることが予想されています。国難となる可能性のある大震災です。しかし、この震災を軽減するために、私たちにできることはたくさんあります。 (2)「南海トラフ地震に関連する情報」の意義  これまでの、地震予知に基づく地震防災応急対策には、3つの問題点が指摘されていました。一つは、対象とする地域は東海地域だけで良いのか?南海トラフの他の地域で大地震が発生する可能性を考慮する必要はないのか。二つ目は、厳しい対応を取るための、確度の高い地震予知ができるのか?もし、地震が発生しなくても、厳しい対応を取れば、毎日大きな経済損失が発生します。三つ目は、南海トラフで発生する可能性の高い巨大地震では、事前防災を行っても大勢の犠牲者の発生する可能性があり、これをどうしたら減らすことができるかという問題です。例えば、南海トラフでM9程度の巨大地震が発生すると32万人を超える犠牲者が予想されていますが、耐震化率を100%にし、津波避難タワーなどを適切に利用して津波から早期に避難することができたとすると、犠牲者を約5分の1に減らすことができます。しかし、それでも約6万人が犠牲になるとされています。犠牲になる人を少しでも減らすために、地震の予測可能性に関する最新の科学的知見に基づいた情報の活用が必要なのです。  気象庁は、このために「南海トラフ地震に関連する情報」を発表することになりました。このうち臨時の情報は、 ① 観測された現象の調査を開始した場合、② 南海トラフ沿いの大規模な地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まったと評価された場合、③ 相対的に高まった状態ではなくなったと評価された場合に発表されますが、この③の場合でも決して安全宣言ではありません。平常時においても南海トラフ地震の切迫性は高いのです。 (3)情報の利活用と気象庁への期待  「大規模地震の発生の可能性が平常時に比べて高まった」という情報が出たときに、どのような対応を取ると定められたのでしょうか。現時点で決まっていることは、この情報が出た時には、「地震の前にやるべきこと、地震が発生したときにやるべきこと」を再確認するということです。例えば、政府は国民に、家具の固定、避難経路の確認等、日ごろからの地震への備えを再確認するように呼び掛けます。海岸に近いところで、避難するのに時間がかかる人は、たとえ予測通りに地震が発生しなくても、発生の可能性がある場合には、早期に避難する必要があります。しかし、これは国が厳しい規制を作って強制するのではありません。一人ひとりが自分のこととして、「可能性が高くなった」時に何をすべきかを考えて、それを確実に実行する必要があります。気象庁は、南海トラフでどのような現象が発生しているかを監視し、地震発生の可能性が通常より高まったと判断して、国民に知らせます。そのために、1日24時間、1年365日、データを常時監視しているのです。今後、この情報が出たときの対応方法に関して、国としてのガイドラインが作成されていきます。このためにも、気象庁の日常業務は、ますます重要になっていきます。  平成29年7月九州北部豪雨における「洪水警報の危険度分布」  平成29年7月5日から6日にかけて、対馬海峡付近に停滞した梅雨前線に向かって暖かく非常にしめった空気が流れ込み、九州北部地方で線状降水帯が形成・維持され記録的な大雨となりました。この大雨により福岡県朝倉市、東峰村及び大分県日田市で死者・行方不明者が計42人(平成30年2月22日 総務省消防庁とりまとめによる)となる災害が発生しました。気象庁はこの豪雨を「平成29年7月九州北部豪雨」と命名しました。  この災害の特徴として、特に朝倉市の山地部の中小河川では氾濫流により谷全体が川のようになって家屋が流されたことによる犠牲者が多かったことが指摘されています。このような洪水災害は、平成28年にも台風第10号の大雨により岩手県岩泉町の小本川で発生しています。  甚大な被害が発生した朝倉市の赤谷川について、洪水危険度の高まりを表す流域雨量指数が急激に上昇している様子を右に示します。この流域雨量指数は、上流域での雨が河川に集まり流れ下る量(m3/s)の平方根で、洪水危険度の高まりを指数化した指標です。5日12時半から13時半にかけて流域雨量指数が急激に上昇しており、13時14分に洪水警報を発表しました。14時50分頃には、重大な洪水災害が発生しうる警報基準を超過し、15時頃にこの地区で浸水が始まった家屋があったことが報告されています(内閣府「平成29年7月九州北部豪雨災害を踏まえた避難に関する検討会」)。その後も流域雨量指数は急激に上昇し、流域雨量指数がピークにさしかかった18時頃、別の家屋が浸水開始後すぐに氾濫流によって崩壊したと報告されています(同)。このとき、流域雨量指数は平成24年7月九州北部豪雨時の値をはるかに上回り、洪水警報基準の約1.6倍もの値となっていました。  地図上で、この流域雨量指数の警報基準等への到達状況を5段階に色分けして示したものが「洪水警報の危険度分布」です。流域雨量指数の実況値が警報基準以上となってからでは、氾濫による重大な災害がすでに発生していてもおかしくない状況となるため、災害の発生前に避難等の防災行動がとれるように色分けには3時間先までの予測値を用いています。つまり、「洪水警報の危険度分布」を確認すれば、現在の危険度だけでなく3時間先の未来まで含めた危険度を把握することができます。赤谷川上流部では、13時30分の段階で、3時間先までに重大な災害が発生する可能性が高いことを示す「薄い紫色」が出現していました。実際、危険度は急上昇し、このわずか55分後の14時25分には、赤谷川で氾濫が発生したという通報が住民からもたらされました。  このように、中小河川では洪水危険度が急激に高まるため、水位計などの現地情報に加え、水位上昇の見込みが把握できる予測情報(洪水警報の危険度分布等)も合わせて活用する必要があります。重大な災害がすでに発生しているおそれが高い「濃い紫色」が出現してからでは、氾濫による冠水等で避難が困難となるため、遅くとも「薄い紫色」が出現した時点で、水位計や監視カメラ等で河川の現況も確認し、速やかに避難開始の判断をすることが重要です。  九州北部豪雨災害を受け、内閣府において検討会が開催され、内閣府と消防庁から全国の自治体に向けて次の2点の内容を含む通知が発出されました。①水位が急激に上昇する傾向がある山地部の中小河川について、水位計がない場合も、水位上昇の見込みを早期に把握するための情報として「洪水警報の危険度分布」の活用が有効であること。②洪水予報河川・水位周知河川以外の「その他河川」についても、流域雨量指数の予測値(洪水警報の危険度分布)を活用して、住民が安全に避難するための時間を考慮した避難勧告等が発令できる基準を策定すること。この通知も踏まえ、気象庁においても「洪水警報の危険度分布」の理解・活用に結びつく解説を充実し、市町村における避難勧告等の発令基準の策定を促進していきます。このように、今後も関係省庁と連携し、中小河川の洪水対策を推進していきます。 ■線状降水帯の発生メカニズム  集中豪雨発生時には、気象レーダー画像に線状の降水域がよく見られます(上図)。このような線状の降水域は、その見た目の特徴から、最近では「線状降水帯」と呼ばれています。大きな災害をもたらした近年のいくつかの集中豪雨(平成29年7月九州北部豪雨、平成27年9月関東・東北豪雨、平成26年8月の広島県の大雨など)も、線状降水帯によって引き起こされたことがわかっています。現時点で、線状降水帯に厳密な定義はありませんが、気象庁では、線状降水帯を「次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域」と説明しています。すなわち、線状降水帯は単一の積乱雲の塊ではなく、複数の積乱雲が一列に並ぶことで形成される積乱雲の集合体と言えます。  これまでの数多くの研究によって、線状降水帯の発生メカニズムは以下のように考えられています(下図)。 ①多量の暖かく湿った空気が、およそ高度1キロメートル以下の大気下層に継続的に流入する。 ②前線や地形などの影響により、大気下層の暖かく湿った空気が上空に持ち上げられ、水蒸気が凝結し積乱雲が発生する。 ③大気の成層状態が不安定な中で、発生した積乱雲が発達する。 ④上空の強い風により、個々の積乱雲が風下側へ移動して一列に並ぶ。  一つの積乱雲では寿命は30分~1時間程度で、50ミリ程度の雨しか降らせないのに対し、①~④のメカニズムが持続すると、線状降水帯は長時間にわたってほぼ同じ場所に停滞することとなり、結果として数百ミリの雨をもたらすことになります。ただし、線状降水帯の発生メカニズムにはまだまだ未解明な点も多く、その理解は十分とは言えません。今後も、継続的な研究が必要不可欠です。 トピックスⅠー4  気象レーダーの観測機能強化~二重偏波レーダーの導入~  気象庁は、全国20か所に気象ドップラーレーダーを設置して、我が国の陸上全域とその周辺海域における降水の分布やその強さを観測しています。加えて、雨粒等で反射して戻ってくる電波のドップラー効果を利用することにより、雲の中の風の分布も観測しています。気象レーダーによる観測は、防災情報にとってなくてはならないものとなっています。  気象庁は、20か所の気象レーダーのうち、千葉県柏市にある東京レーダーを、平成32年3月までに「二重偏波気象レーダー」と呼ばれる新たな機能を持つレーダーに更新することを計画しています。残りの気象レーダーについても、順次、二重偏波機能を持つレーダーに更新していく予定です。  従来の気象レーダーは、水平方向に振動する「水平偏波」という電波のみを用いて観測を行っておりましたが、二重偏波気象レーダーは、この水平偏波に加え、垂直方向に振動する「垂直偏波」という電波も同時に発射します。そして、雨粒などに反射して戻ってくる水平・垂直の2種類の電波の違いを解析することで、従来の気象レーダーではわからなかった雨粒などの大きさや形を推定します。これにより、雲の中の雨、雪、あられ、ひょうなど様々な種類の降水粒子の三次元分布を詳細に把握することが可能になり、降水の強さをより高精度に推定することができます。  二重偏波気象レーダーは、正確な雨量の把握によって防災気象情報の充実に貢献することに加え、雲の中の降水粒子の正確な分布の情報と、ドップラー速度観測により得られる風の三次元データを組み合わせることにより、積乱雲の発達・衰弱といった過程も把握できるようになることから、竜巻や局地的な大雨などの監視や、高解像度降水ナウキャストによる予測の高精度化など、様々な改善がもたらされることが期待されています。 トピックスⅠー5  緊急地震速報の提供開始から10年  気象庁は平成19年10月に緊急地震速報の一般提供をはじめました。この一般提供から10年が経ち、緊急速報メールや当時は想像もしなかったスマートフォンの急速な普及によって受信アプリ等が利用されるようになり、誰もがいつでも容易に緊急地震速報を受信できる時代になりました。この10年余りの間に緊急地震速報(警報)は190回、緊急地震速報(予報)は11,901回発表しています(平成29年12月時点)。日本全国のどの都道府県でも3回以上の警報が発表されており、緊急地震速報は国民の90%以上に認知されるようになりました(平成30年1月時点)。 ■PLUM法の導入~緊急地震速報の精度向上(巨大地震への対応)~  平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震はマグニチュード(M)9.0の巨大地震で、震源から遠く離れた関東地方などでも強い揺れを観測しましたが、緊急地震速報ではこの揺れを精度良く予測することはできませんでした。このような巨大地震に対応するため、気象庁はPLUM法を平成30年3月に導入しました。この手法では、震度予測地点周辺で観測した揺れの強さから直接震度を予測します。震源の場所や規模に依存しないため、猶予時間は短くなるものの、巨大地震の場合でも精度良く震度を予測することができます。猶予時間が確保できる従来の震源や規模を用いた震度予測と併せて運用することで、情報発表の迅速さと予測の精度向上の両立を図ります。  また、PLUM法導入とともに、過大な震度予想を防ぐため、従来の手法により推定した地震の震源・規模が妥当かどうかを実際の揺れから評価する機能を緊急地震速報に導入しました。 トピックスⅠー6  40年にわたり地球を見つめる「ひまわり」  気象衛星は、地球の広い範囲を一様に観測できることから、全球的な気象監視のために大変有効です。気象衛星による観測は世界気象機関(WMO)の推進する世界気象監視(WWW)計画の最も重要な柱のひとつであり、静止気象衛星や極軌道気象衛星を効果的に組み合わせて地球全体を観測する世界気象衛星観測網が形成されています。  「ひまわり」もこの一翼を担っており、昭和52(1977)年7月14日に我が国初の実用衛星として打ち上げられ、軌道上試験を経て翌年の昭和53(1978)年4月6日より運用を開始しました。その後、ひまわりは観測機能を充実させながら、40年にわたって観測を続け、そのデータはわが国の防災に大きく貢献するとともに、アジア・西太平洋諸国の気象業務にも役立てられています。平成27(2015)年7月7日に世界に先駆けて運用を開始した新世代の静止気象衛星であるひまわり8号は、格段に強化された観測機能により、台風監視能力の向上などに大きな成果を挙げています。  気象庁は、国民の安全安心の確保や、アジア・太平洋地域の防災力の向上、さらには気候変動の監視などの国際貢献のため、これからもひまわりの運用に万全を期していきます。 ■気象現業と先端研究のはざまで 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 地球観測研究センター長 気象学・大気科学国際協会(IAMAS)事務局長 東京大学 名誉教授 中島 映至  気象庁というのは、つくづく真面目な組織だと思う。1990年代に、エアロゾルの衛星リモートセンシング・アルゴリズムを作ったので、「ひまわり」のデータをくれと言って、気象衛星センターから断られた。大学のわがままな助教授が訳のわからない事を言っているのだから当然である。それでも、コピーに来るならば良いよということで、学生が磁気テープを入れたリュックを背負ってデータをもらいに行った。解析がうまく行って大量データを処理する頃には、国際雲気候計画(ISCCP)プロジェクトにおいて、「ひまわり」データが、気象庁からNASA/GISS研究所にきちんと送られていて、世界の雲統計の作成に大きく貢献していることがわかったので、我々もこのデータを米国経由で入手することを考えた。結局、これはややこしいので断念して、米国海洋気象局のNOAA衛星のデータを米国からたくさん買って、エアロゾルの光学的厚さとオングストローム指数に関する世界初の全球海上分布の導出に成功した。1998年のことだった。気象衛星センターでも、このような大学での仕事を勉強していて、「ひまわり6号」になってからの可視チャンネルデータの放射較正技術を確立すべく、千葉大学や東京大学気候システム研究センターとの共同研究が立ち上がった。  現在では、新しい「ひまわり8号」のデータがクラウド上に置かれ、非営利であれば誰でもこれらのデータを自由に使えるようになっている。また、気象学会との気象研究コンソーシアムを通して、気象庁のいろいろな解析データも我々が使えるようになっている。隔世の感があるが、当時の、衛星データ頂戴の私のわがままに付き合ってくれた職員の皆さんも含めて、この30年くらいデータ公開について、気象庁が真面目に考えてくれていたような気がする。びっくりするのは、今では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共同研究によって、JAXAのエアロゾル・リモートセンシング・アルゴリズムも気象衛星センターで使われるようになったことである。  似たようなことを感じたのは 気象研究所の将来構想を議論する場面でもあった。大学では最近、モデリングと応用の研究に力点が置かれて、観測・実験装置の整備やそれを利用した、例えば雲物理のような研究は、すっかり下火になってしまった。ところが、気象研究所の将来構想には、地球温暖化予測と防災気象情報の精度向上のために、エアロゾルや雲の微物理過程の観測・実験が研究項目として、きちんと書き込まれており、実際に雲チェンバーや電子顕微鏡などの機器が整備されて、地道な実験の努力が行われているのである。真面目なものである。このようにして得られる地上と衛星からのデータは、気象データと同様にモデル開発や同化解析にも使われている。こうなると、生真面目な気象職人の凄みを感じたので、気象研究所の会議ではそのような発言をさせて頂いた。  これからも、このような地道な努力が花開くように、努力を継続してもらいたいと思う。IPCCが設置された1980年台後半以降、地球温暖化研究が盛んになって、どの国の気象機関もものすごく魅力的なスローガンを掲げて、気候研究への予算と組織を拡充して元気である。イギリスでは、ハドレーセンターと大学等、研究コミュニティが共同研究するNERC/NCASが作られていて、気象機関と大学などの基礎研究機関が共同研究をするシステムができている。大学研究者は、公募に応募してイギリス気象局の職人技のモデル・解析ツール・データを利用できる。その分、大学研究者はもっと遠い将来役立つ基礎研究や応用研究に専念できる。その点、日本の気象庁ではそんな大風呂敷を広げるわけでもなく、与えられた自分の任務を果たすべく一生懸命やっているように見える。  予算縮減と国際環境の大きな変化の中で、我が国の気象業務と先端研究をどのように進めて行くかは、難しいところであるが、1つの方向として、気象庁の職人技を研究機関に開放してもらうことも考えられる。気象場などの同化システムや観測・実験装置の整備と運用などはその最たるものだろう。こんな大変なことは気象庁でしかできない。こうやって考えてくると、気象庁と基礎研究機関がタッグを組んだオールジャパンなシステムづくりのイメージが湧いてくる。おそらく、生真面目な気象庁は、この辺のところもすでに検討していることと思う。 ■ひまわり8号の高頻度観測データによる予報精度向上  平成27年(2015年)7月に運用開始したひまわり8号では、地球規模での10分毎の通常観測に加えて、日本域を2.5分毎の高頻度観測を実施しています。画像からわかる雲の移動から水平風を求めることが可能で「大気追跡風」と呼びますが、高頻度観測を活用することにより、高精度・高密度な風分布が捉えられるようになりました。数値予報では、ある時刻の大気の状態(初期値)から数値予報モデルを実行して将来の状態を予測しますので、初期値を現実に近づけることが重要です。気象庁では、初期値の作成にひまわり8号の通常観測の大気追跡風を用いることで予報精度を向上させてきましたが、ここでは、さらなる精度向上を目指して行った高頻度観測の大気追跡風の利用結果を報告します。  平成27年(2015年)に発生した関東・東北豪雨の9月10日0時の前3時間積算雨量は、南北にのびる降水域により、栃木県では3時間に100ミリ以上の大雨になりました(上図)。この時刻の12時間前の9日12時の大気追跡風では、関東地方から南にのびる雲域に収束している東側からの南東風と西側からの南南西風について、高頻度観測の方がより明瞭な収束域を捉えています(中央図)。  次に、これらの大気追跡風を初期値作成に用いた数値予報モデルの実行結果(下図)と上図を比較すると、南から北にのびる降水域が再現されています。しかし、よく見てみると、通常観測の結果では降水域の位置が西にずれていますが、高頻度観測ではその位置がやや東になって、さらに観測に近づいています。このように、ひまわり8号の高頻度観測データを数値予報に用いることで、豪雨の予測精度がさらに向上していくことが期待できます。気象庁では引き続きひまわり8号の観測データの有効な利用法の開発を推進していきます。 ■静止気象衛星「ひまわり」による新たな国際協力  ~外国気象機関からのリクエストに応じた観測サービスの開始~  静止気象衛星「ひまわり」による新たな国際協力として、外国気象機関からリクエストされた領域に対して、2.5分毎の観測を実施するサービス「HimawariRequest(ひまわりリクエスト)」を、平成30年1月18日から開始しました。  ひまわり8号及び9号では、衛星から見える地球の全ての範囲をカバーする観測(フルディスク観測)を10分毎に実施しており、日本はもとより、東アジア・西太平洋地域内の天気予報や台風・集中豪雨、気候変動などの監視・予測、船舶・航空機の運航の安全確保に貢献しています。また、このフルディスク観測と並行して、日本列島をカバーする観測(日本域観測)と、観測場所が変更可能な観測(機動観測)をそれぞれ2.5分毎に実施しており、これらの高頻度の観測は、火山や熱帯低気圧等の集中的な監視に効果を発揮します。  ひまわり8号の運用開始以降、機動観測では、主に日本の災害に直結する東アジア・北西太平洋地域の台風等の観測を行ってきましたが、国際的な有効活用をより一層進めるために、世界気象機関(WMO)と協力して検討を進めた結果、外国気象機関からリクエストされた領域に対して機動観測を行うサービス「ひまわりリクエスト」を開始しました。これにより、東アジア・西太平洋各国の火山噴火の早期検出や噴火直後の噴煙、熱帯低気圧の構造変化の機動的かつ詳細な監視能力の向上等が期待されます。  このほかにも気象庁では、ひまわり8号及び9号のデータ配信サービスとして、それぞれインターネットと通信衛星を用いた「HimawariCloud(ひまわりクラウド)」及び「HimawariCast(ひまわりキャスト)」を外国気象機関等へ提供しており、これらのサービスと共に「ひまわりリクエスト」は、静止気象衛星「ひまわり」による国際協力として、東アジア・西太平洋地域内の災害リスク軽減に貢献しようとするものです。 Ⅱ 長期の監視から地球の今を知り、将来に備えるために トピックスⅡ-1  気候変動の影響への適応に関する気象庁の取組 ○気候変動の影響への適応策とは  平成28年(2016年)に国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のパリ協定が発効し、平成32年(2020年)から先進国も途上国も含めたすべての国の参加による地球温暖化対策の実施に向けて現在そのルール作りが進められています。パリ協定では、温室効果ガスの排出削減と吸収の対策(緩和策)と気候変動の影響への適応(適応策)のふたつが柱になっています。後者の適応策は、既に現れている、あるいは今後緩和策を実施しても中長期的に避けられない地球温暖化の影響に対して能動的に被害を回避・低減する対策です。具体例には、水稲や果樹の高温品種への改良(農林水産業)、堤防や下水道などの施設の運用・整備による減災(防災)、熱中症対策(健康)などがあり、様々な分野にわたってハード・ソフトの両面からの多種多様な手法により取り組まれています。 ○気候変動の影響への適応に関する気象庁の役割  我が国は、気候変動による様々な影響に対し、政府全体として整合のとれた取り組みを計画的かつ総合的に推進するために「気候変動の影響への適応計画」を策定しました(平成27年11月閣議決定)。この中では、基本的な進め方として、以下①~④のサイクルを繰り返し行うこととされています。 ①気候変動の観測・監視や予測を行い、 ②気候変動影響評価を実施し、 ③その結果を踏まえ 適応策の検討・実施を行い、 ④進捗状況を把握し、必要に応じ見直す。  上記①の気候変動の観測・監視について、気象庁は、陸海空を総合的に捉える観測・監視体制を構築・維持し、世界気象機関(WMO)等の国際的な枠組みの中で、アジアを中心としたデータの標準化、品質管理、データ提供に関する地域センターを運用し、国際的なデータの流通促進、品質向上を図っています。また、これらの高精度な観測データを用いて、気候変動の実態やその要因を解析した成果を「気候変動監視レポート」や「海洋の健康診断表」として、出版物やホームページを通じて国民の皆さんに提供しています。  また、①の気候変動の予測について、気象庁は、気象研究所が開発した気候モデルを使って、温室効果ガスの増加によって地球温暖化が進んだ場合における我が国の気温や降水の将来変化を予測し、その成果を「地球温暖化予測情報」として、観測・監視の成果同様、出版物やホームページを通じて提供し、広く利用いただいています。特に農林水産業、自然災害、健康などの各分野への影響の定量的な評価をするためには、将来どの地域で気温がどのくらい上がるのか、雨の降り方がどのように変わるのかといった予測データが必要であることから、適応計画の作成にとって非常に重要な情報となります。 ○地域の気候変動の影響への適応に関する取り組みと気象庁の貢献  「気候変動の影響への適応計画」では、地域における適応の取り組みが重要戦略のひとつとして位置付けられています。これは、気候変動の影響は、影響を受ける側の気象、地理、社会経済などの地域特性によって大きく異なるためです。地域における適応の取り組みの中心となる地方公共団体等に対して、環境省、国土交通省、農林水産省の連携による「地域適応コンソーシアム事業」、農林水産省の「ブロック別気候変動適応策推進協議会」など、関係各省は様々な形で支援活動を行っています。  気象庁は、地方の気象台を中心として、これらの枠組に積極的に参加し、気候変動の観測・監視を基にした各地域の気候変動の実態やきめ細かで精度の高い気候の将来予測に関する情報の提供や助言などを通じて、適応策の推進に貢献しています。  12年ぶりの黒潮大蛇行  黒潮は、日本の南岸に沿って流れる世界有数の強い海流です。黒潮の流路は、平成29年(2017年)8月下旬以降、潮岬、東海沖で大きく離岸し大蛇行となりました。大蛇行となったのは、平成17年(2005年)8月以来12年ぶりです。気象庁では、海洋気象観測船により大蛇行している黒潮流域の海洋内部の水温や海流等をきめ細かく観測するなど、監視を強化しています。  黒潮の大蛇行は、海運業、水産業等に影響を及ぼすことが知られています。また、大蛇行期間中は、東海から関東地方の沿岸潮位が上昇する傾向があります。平成29年(2017年)の台風第21号通過時には、大蛇行による潮位上昇に、台風に伴う強風や気圧低下、大潮の時期、満潮時刻が重なり、高潮、高波による被害が各地で発生しました。  黒潮の大蛇行は、過去の例では、1年から数年程度継続しています。気象庁では、大蛇行期間中、「黒潮の大蛇行関連ポータルサイト」を開設し、最新の解析結果や予測、海洋気象観測船による観測結果等の情報をまとめて掲載します。 (黒潮の大蛇行関連ポータルサイト: https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/db/kaikyo/etc/kuroshio_portal_201710.html) トピックスⅡ- 3  太陽フレアによる地磁気変化がもたらす社会への影響と情報提供  平成29年(2017年)9月6日20時53分にX9.3の大規模な太陽フレアが観測されました。X9クラスの太陽フレアはおよそ11年ぶりのことです。太陽フレアとは、太陽表面のコロナ(大気)の中で起こる爆発現象のことで、強い紫外線、X線、電波などの電磁波が放射されます。これらが地球の電離層(高度80km以上)の大気を電離させ荷電粒子が増加し、その領域を伝わる通信電波が吸収されて通信障害を発生させたりします。これをデリンジャー現象といいます。地球が太陽に面している昼側では、電離層に流れる電流による地磁気の日変化が毎日見られます。太陽フレアが発生すると、強い電磁波を受ける昼側の電離層内では荷電粒子が増加し電流が大きくなって、地磁気も特徴的な変化をします。  また、太陽フレアが発生した際に、非常に高いエネルギーを持ったガスのかたまりが磁力線といっしょに噴出されることがあります。これらが1日から数日かけて地球に到達すると、地磁気と相互に作用して磁気嵐を起こす原因となります。磁気嵐が発生すると電波障害が起きたり、地磁気の急変化に伴って送電線に大電流が流れ電源設備に障害を与えたりすることがあります。また、放射線(高いエネルギーを持つ粒子)が地球近くまで侵入してくるため、人工衛星の運用や航空機の運航が影響を受けたり、GPS測位の誤差が大きくなる場合もあります。地磁気観測所では、顕著な太陽フレアに伴う地磁気変化を観測した際には、磁気嵐に備えて情報を提供しています。  太陽フレアの規模は、放射されるX線強度の小さな方からA → B → C → M → X の順にクラス分けされ、ひとつ上位のクラスになる毎にX線強度は10倍になります。文字に続く数字は倍数を表わし、例えばM3.2はM1.0の3.2倍となります。 トピックスⅡ- 4  小笠原諸島における気象業務50年  気象庁は、小笠原諸島が日本に返還された昭和43(1968)年に父島と南鳥島に気象観測所を設置しました(※1)。日本最東端にある南鳥島や台風の日本接近ルート上にある父島は、北西太平洋上の貴重な定常観測点として、地上気象観測、高層気象観測を実施しています。また、南米チリ等の遠地で発生する地震による津波をいち早く捕らえ津波注意報・警報を迅速に発表するため、父島は昭和50(1975)年、南鳥島は平成8(1996)年から潮位観測もしています。  これに加えて一般住民が居住しない南鳥島では、人間活動の影響を直接受けないことから、平成5(1993)年より温室効果ガスなど地球環境の観測を開始しており、地球環境の長期変化を監視する世界的にも貴重なデータの提供を続けています。  こうした観測を続けるためには、本土と異なり、島内の発電、上下水道等生活するために必要な施設の維持管理も行わなければなりません。食料や燃料の補給時には、当庁職員と自衛隊員等の全員が協力して炎天下の中、観測業務以外にも作業を行っています。また、位置的に台風の影響を受けることも多く、島の面積が1.51平方キロメートルで、もっとも標高が高いところでも9メートルの南鳥島では、台風の接近により大きな被害が見込まれた際の全島避難をこの50年の間に2回経験しています。特に被害の大きかった平成18(2006)年は屋外の観測機器などが海水に浸かり、観測を再開するまでに約1ヶ月を要しました。  年間通して温暖で、島々の美しく豊かな自然を大切にしつつ、これからも高精度で信頼性の高いデータを提供していきます。  注)※1:太平洋戦争以前の父島では明治29(1896)年から気象観測をおこなっています。 Ⅲ 気象情報の活用により、より豊かな暮らしを実現するために トピックスⅢー1  気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)セミナー等の開催  WXBCの人材育成ワーキンググループ(WG)では、気象データを活用したビジネスの構想と実現に必要な3つのスキル(①気象データ理解力、②IT活用力、③ビジネス発想力)を身に付けていただけるような人材の育成策として、セミナー・勉強会を企画・実施しています。2017年は、セミナーを東京で5回、札幌・仙台・名古屋・大阪・福岡・那覇で計7回開催し、全国で約1,200名にご参加いただきました。また、気象データとオープンデータを掛け合わせて実際に分析を行うテクノロジー研修第一弾「気象データ分析チャレンジ!」を東京で開催しました。いずれも参加者から好評をいただいており、引き続き、人材育成のための取り組みを進めていきます。 ■人材育成WGの取り組みを通して WXBC人材育成WG座長(先端IT活用推進コンソーシアム副会長) 田原 春美  平成29年6月に人材育成WGが発足して8ヶ月、気象ビジネスの創出と市場拡大の礎となる人材の育成を目指し、WXBCセミナーの全国展開に加え、「気象データ分析チャレンジ!」の研修パッケージ開発から実施まで、WG全員で全力疾走してきました。想定以上に忙しくも活気溢れるスタートアップとなりましたが、それは気象庁様が全庁あげて気象データの利用推進に本気で取り組んでおられる熱い思いが我々を突き動かしたからに他なりません。WGの活動を全力で支えてくださった総務部情報利用推進課を核とする事務局の皆様、ご協力くださった本庁各部署そして管区気象台の皆様に心から御礼申しあげます。WGにとって初年度はまさに試行錯誤の連続でしたが、これまでお付き合いのなかった様々な業種や職種の方々と出会い、刺激的な協業を楽しみながら、沢山の「学び」と「気付き」を得ることができました。2年目はこの「学び」と「気付き」を糧に、セミナーでは対象者を明確にし業務に役立つ情報のご提供、勉強会では気象データ分析を中心にIoTやAIにも取り組むなどして、人材育成のための活動を進化・深化させていきたいと考えています。  気象データは万人にとって生活と命に直結する最も身近な情報であるだけに、気象ビジネスの源泉はその一人一人にあり、関係する人の多様性こそが重要だと考えます。昨年の「気象データ分析チャレンジ!」には男性に加え、多くの女性に参加いただきました。また、年齢や経験といった点でも多様な方々が参加され、データ分析のグループワークでは性別や年齢の多様性を活かしつつ、アイデアを出し合いながら仮説検証を繰り返し、本質の理解に近づこうとする協働作業を目の当たりにしました。2年目は同様の勉強会を全国展開し、多様な方々が様々な「気付き」を得、他者と共有いただくことで、それぞれの特性や感性を活かした気象ビジネスを発想するきっかけにできたらと考えています。  近々、今後の目玉となる新しい活動を開始します。それは「WGメンバーによる、WGメンバーのための学びの場」であり、人材育成WG自体が人材育成の場となることを目指すものです。「人材育成」を命題とするこのWGなら「個々のビジネスの枠を超えて、考え、協力し合う」ことが可能なはずです。多くの新しいメンバーをお迎えし、更にパワーアップ!WGメンバーの知見と総力を結集し、気象ビジネスの構想と実現のため有用性の高い活動へ進化させていきたいと祈念しております。 トピックスⅢ- 2  お天気データで未来を描くアイデアコンテストの開催  気象庁と気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)は、2018年1月19日に「降っても晴れてもHAPPY♪ お天気データで未来を描くアイデアコンテスト」を開催しました。これは、気象情報を活用して人々の生活を豊かにする未来のサービスやビジネスソリューションを考えるワークショップ形式のアイデア創出イベントです。  コンテストでは、学生、WXBC会員企業及び気象予報士からなる8つのグループを作り、楽しみながらチーム毎にアイデアを考えました。考案されたアイデアの中には、天気や気温の変化に合わせて最適な旅行プランを提案するスマホアプリや、傘や家電製品にセンサーを埋め込み日々の生活を便利にするためのサービスアイデアなど、とても斬新で柔軟な面白いアイデアが発表されました。  WXBCでは、今後もこのようなイベントの開催を通じて気象データの活用の場を拡大していきます。 ■アイデアコンテストに参加して ~気象予報士からの視点~ 株式会社ウェザーマップ 長谷部 愛  今回、コンテストに参加してみて、年代や職種を超えて話し合う場がとても有意義であることを実感しました。私達のグループでは、気象の過去から現在までを知ること、実際に見て触れることが出来ることという2点を強く意識して「クラウドボール」というものを発想しました。手の中で地球を再現し、雲、虹など天気の流れを知ることが出来る他、その場所の気温や匂い、更に、雪や霜柱等にも実際に触れることもできるなど、五感で天気を感じられるアイデアです。実現することは難しくも思えるのですが、一つ一つはすでに実現されていたり、実現可能なものとなっています。子どもたちの防災教育、観光誘致など様々な利用方法がありますが、何よりも楽しさを通して気象の魅力を感じてもらうことを大切にし、「気象の世界に多くの人を引き込むきっかけを作りたい」という思いを込めました。  こうした発想に至ったのは、グループだったからこそだと思っています。一人が出した意見を、他者がさらに高めることで一つのアイデアとして昇華させることができました。また、気象予報士や社会人としての考え、大学生の柔軟な発想などそれぞれの立場ならではの意見を生かすことができました。  気象予報士は、情報を提供する先、メディアならば視聴者や聴衆者と近い場所にいて日々、どのような情報を届けるか試行錯誤をしています。その中で発想の種は蓄積されていますが、普段の業務では、主に予報業務に向き合っていたり、現場には気象予報士が一人ということが多く、意見を交わす機会はあまりありません。今回の試みは、それぞれの中に眠っているものを掘り起こし、さらに、世代と職種の壁を越えて話し合うことで社会に役立つ画期的なアイデアを生みだすことができるものだと思います。 ■飲料事業者からみた気象情報の活用と今後の期待 一般社団法人 全国清涼飲料連合会 環境部長 瀧花 巧一  飲料製造事業者や飲食料品小売業において気象の影響が大きいことは容易に推定できるが、過去のデータや経験、勘で対応していることも多い。そのような中、気象庁の事業で、清涼飲料自動販売機の管理に気候情報をどう活かすかという検討に取り組むことができた。この分析によると、屋外自動販売機の販売数と気温との相関関係は他の要素と比べても特に高く、再認識させられる結果となった。また、需要を2週先までの気温予測も用いてより正確に予測し、自動販売機のHOT・COLD販売の切り替え等の事前判断に使うといった気象情報の活用検討も行なった。その結果、販売機会ロス・商品廃棄ロスの削減につなげる可能性も知ることができ、経済効果も大きいことが示され、大きな成果となった。  全国清涼飲料連合会は気象庁を事務局とする産官学連携組織「気象ビジネス推進コンソーシアム」に発起人として参画し、また多くの飲料事業者もメンバーとして参加している。飲料の生産調整や物流、マーケティングなど一貫した事業活動の中でより精度の高い気象情報を活用し、予測誤差によるミスマッチを減らし、製品廃棄や返品などのムダをなくすことによって、より持続可能社会の実現を目指すべきという使命感をもってこの取組を業界あげて推進したいと思っている。 ■家電業界における気象データの利活用 大手家電流通協会 事務局長 髙橋 修  平成28年より2年間にわたり気象庁の皆様と「家電流通分野における気候リスク管理技術に関する調査」について取り組んで参りました。夏はエアコン、冬は暖房器具などを「季節商品」と名づけて販売管理をしています。当然、夏は暑く、冬は寒ければ売上は伸びます。毎年、猛暑なのか冷夏なのか、寒冬なのか暖冬なのか、で一喜一憂することから電気屋は“天気屋”などとも揶揄されます。このように家電業界の売上は気候に大きく左右されることから、エルニーニョ現象といった気象用語は他の業界の方々よりも身近な用語となっています。そういった意味合いからも今回、家電流通業界における気象データの利活用を調査検討するということについては大変期待感を持って取り組みさせていただきました。調査は、気温が何℃になると売れ始めるのかといった販売のピークを割り出すことで、機会ロスを減らすことにつなげられないか、というのが主眼でした。検証では気候予測データを用いた販売予測に基づき、在庫の持ち方や広告媒体への反映、店頭演出や人員配置の事前準備等、活用が実感できたことは大きな成果だったと思います。現段階では2週間先の予測の活用ですが、流通サービス産業の生産性向上が叫ばれる中、1か月、3か月と更に長期で確度の高い予測が可能となれば、間違いなくサプライチェーン全体の生産性向上につながりますので、今後の長期予報の改善に期待しています。 Ⅳ 最新の科学技術を導入し、気象業務の健全な発達を図るために トピックスⅣ-1 オールジャパンでの数値予報モデル開発  数値予報は、日々の天気予報や防災気象情報の基盤技術であり、年々高度化・複雑化しています。これに対して気象庁では、気象庁がみずから行う開発にとどまらず、大学等の研究機関が持つ最新の研究成果や知見を結集して数値予報モデル開発に取り組み、数値予報の精度向上に資することを目的として、平成29年から、大学等研究機関の専門家による「数値予報モデル開発懇談会」(会長:新野宏 東京大学大気海洋研究所客員教授)を開催しています。  これまで、平成29年7月20日(木)に第1回、同年12月26日(火)には第2回懇談会を開催しました。これらの懇談会では、台風・集中豪雨の予測に関する社会の要請を受けて目指すべき目標設定、その実現に向けた課題、評価の指標、開発を進めるための計算機や体制等の基盤を強化する必要について意見が交わされると共に、それらの課題に大学等研究機関と気象庁が緊密に連携して取り組んでいくために、海外気象機関の例や連携形態の整理、人材交流や共通の作業基盤等に関する議論が行われています。  本懇談会は、今後も継続的に開催し、引き続き、気象庁の数値予報モデル開発に関する計画や具体的な開発課題に関する懇談をいただく予定です。気象庁は、本懇談会の議論を踏まえ、社会の要請に基づく目標を達成するための数値予報の精度向上に向けて、数値予報技術開発を引き続き推進していくと共に、大学等研究機関の研究成果や知見を活用するための連携強化に資する方策を進めて行きます。そして、本懇談会の運営を通じて、本懇談会が大学等研究機関と気象庁の連携強化のかなめとなり、数値予報技術開発に関するオールジャパン体制創出の原動力となっていくことを目指します。  なお、数値予報モデル開発懇談会の詳細は、気象庁ホームページでご覧いただけます (https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shingikai/kondankai/suuchi_model_kondankai/suuchi_model_kondankai.html)。 ■「数値予報モデル開発懇談会」への期待 数値予報モデル開発懇談会会長(東京大学大気海洋研究所客員教授) 新野 宏  数値予報は、大気の複雑な物理法則を表現する数値モデルと全球の観測データにもとづき、スーパーコンピュータを使って客観的に将来の大気の状態を予測する手法であり、現在の天気予報の根幹をなすものです。数値モデルは、また、時々刻々、地球上の様々な場所で観測される多様な気象要素と組み合わせることにより、「客観解析データ」と呼ばれる、ある時刻の最も信頼できる大気の状態を求める上でも本質的な役割を演じています。この「客観解析データ」は、気象学・大気科学の様々な現象を研究する上でかけがえのない基盤的データセットです。従って、より優れた数値モデルの開発とその数値モデルを稼働させる最先端のスーパーコンピュータの整備は、天気予報の精度向上と気象学の発展の両方にとって不可欠です。また、気象庁の数値モデルは、様々な気象条件において、長期間にわたって、日々その予報精度が検証されるため、大気中で起きる諸現象のメカニズムの理解にとっても貴重なデータを与えます。  現在、日本の気象庁を含め、独自の数値モデルを開発・保有する世界の主要な気象予報センターでは、予報精度の向上にしのぎを削り、互いに情報交換を行いつつも切磋琢磨しています。各センターでは、予報センターを管轄する省庁と大学等研究機関が共同で研究センターを作るなど、各国それぞれの方法で、人材交流・データの相互利用・最新の気象学や数値モデルの信頼できる初期値を作成するデータ同化の研究成果の現業数値予報への導入、などを円滑に行う体制の整備に努めています。  2016年度の本書のコラム欄でも触れましたように、世界と肩を並べる天気予報と気象学研究を続けていくためには、我が国でも気象庁と大学等研究機関の協力をより一層強化して、数値モデルやデータ同化手法、予報の不確定性の情報を与えるアンサンブル予報手法などの改善を進めていくことが必要ではないかと思います。「数値予報モデル開発懇談会」が、コミュニティや組織の垣根を越えて、我が国の気象業務と気象学研究の推進に貢献し、将来の防災気象情報や社会活動に有用な情報の改善に寄与することに期待しています。 トピックスⅣ- 2  海上の水蒸気観測による豪雨予測精度向上  カーナビなどで利用されているGPS(全球測位システム)等測位衛星から送られる電波は、地上の受信装置に到達するまでの時間が、大気中に含まれる水蒸気の量が多くなると遅れるという性質があります。受信した複数衛星の電波の遅れを組み合わせることによって、受信装置の真上にある水蒸気の総量(可降水量)を得ることができます。気象庁では、国土地理院が全国約1,300地点で運用している電子基準点(GPS衛星等からの電波を連続的に観測する施設)の観測データから可降水量を算出し、数値予報モデルに活用することにより、降水予報精度の向上に役立てています。  海に囲まれた日本では、海上から近づく湿った空気が豪雨等をもたらすことが多く(右図)、海上での水蒸気観測は重要な課題です。GPS等による可降水量の解析では、受信装置の正確な位置が必要で、これまでは陸上に固定された受信装置(陸上固定点)で行われてきました。気象研究所では、準天頂衛星等新しい測位衛星から得られる情報を活用することで、海洋を航行している船舶上での可降水量解析技術を開発しました(左下図)。この技術によって得られた解析データは、気球に取り付けた気象測器を用いた高層ゾンデ観測と比較することで、陸上固定点と同等の精度であることが確認できました(右下図)。  これらの成果を踏まえ、平成30年(2018年)度より複数の船舶を利用した可降水量の解析から、豪雨の予測精度向上に関する研究開発を開始します。 トピックスⅣー3  長周期地震動の実証実験  気象庁は、高層ビルなどを大きく揺らす長周期地震動に関する情報の提供についてこれまで検討を進めてきました。高層ビルでの長周期地震動による揺れの大きさは、震度では十分に表現できないため、4つの階級に区分した「長周期地震動階級」という別の指標で表すこととし、平成25年3月から、観測された長周期地震動階級などを気象庁ホームページで試行的に提供しています。  また、気象庁では、重大な災害を引き起こす長周期地震動の発生が予想される場合には、今後、緊急地震速報として警戒を呼びかけることを検討しています。また、個別のビルなどの予測情報の提供においては、民間の役割が重要です。このため、国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、防災科研)と共同で、平成29年から長周期地震動の予測情報を提供する実証実験を行っています。   実証実験は、防災科研が開発したシステムを利用し、気象庁が発表する緊急地震速報をもとに推定された長周期地震動階級の予測結果等をリアルタイムで利用者に提供しています。実証実験には、長周期地震動モニタというwebページを活用した実験と、数値データとして長周期地震動の予測結果等を提供し、参加者でデータを加工してどのような利用が可能かなどについて検討する実験の2種類があります。  気象庁ではこれらの実験の成果を平成30年度中に取りまとめ、長周期地震動の予測情報の利活用方法や提供する際の課題などの整理に用いたいと考えています。 第1部 国民の安全・安心を支える気象業務 序章 はじめに 1節 気象情報の流れ  気象庁は、気象・海洋や地震・火山などの自然現象を常に監視・予測し、的確な気象情報を提供することによって、自然災害の軽減、国民生活の向上、交通安全の確保、産業の発展などを実現することを任務としています。気象庁では、これらの自然現象に関する防災気象情報を、防災関係機関にオンラインで迅速に伝達すると同時に、テレビ・ラジオやインターネット等を通じて広く国民に発表しています。  気象庁が発表する大雨警報や津波警報などの防災気象情報は、様々な伝達手段を用いて防災機関や住民へ伝達されます。  例えば、気象庁では、防災気象情報をテレビ・ラジオ等の報道機関や気象庁ホームページなどを通じて住民へ提供しているほか、都道府県や消防庁を通じて市町村等防災機関に伝達しています。市町村からは、地域の実情に応じて防災行政無線や広報車の巡回、ケーブルテレビなどを用いて防災気象情報が周知されます。また、携帯事業者の協力を得て、緊急地震速報や津波警報、気象等及び噴火に関する特別警報を、該当する地域にいる一人ひとりの携帯電話に一斉に配信する「緊急速報メール」等を用いた伝達も行っています。さらに、最近では携帯電話やスマートフォンなどの各種アプリケーションを用いて、一人ひとりがその地域で必要な防災気象情報を手軽に手に入れることが出来るようになっています。  気象庁は、防災気象情報を防災機関や住民に効果的に伝達することにより、地域における防災力の強化や気象災害に伴う被害の防止・軽減を図っています。 2節 気象庁ホームページ  気象庁ホームページでは、大雨、地震・津波、火山噴火等に関する防災情報を掲載しています。掲載している防災情報には、警報・注意報や予報等を文字や表で伝えるものに加え、平成29年7月からは、いつ、どこで洪水や浸水害発生の危険度が高まるのかがわかる「危険度分布」の提供も開始しました。また、これらの防災情報の解説や効果的な利用方法も合わせて掲載しています。気象庁ホームページは、日頃から防災情報の取得に有効に活用されており、特に、台風が接近している時などは、アクセス数が増加し、1日で5,000万ページビューを超えることもあります。 3節 防災情報提供センター  国土交通省は、省内の各部局等が保有する様々な防災情報を集約して、インターネットを通じて国民の皆様へ一つのホームページから提供するため、「防災情報提供センター」というウェブサイト(http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/)を運用しており、その運営は気象庁が担当しています。  このウェブサイトからは、気象庁と国土交通省の各レーダーそれぞれの長所を活かして統合した雨の分布に、省内各部局及び都道府県などの雨量情報を重ね合わせて表示可能な「リアルタイムレーダー」をはじめ、河川、道路、気象、地震、火山、海洋などの各種の災害・防災情報を容易に入手することができます。  また、携帯端末向けのホームページ(http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/i-index.html)では、屋外などパソコンが使えないような場所でも、これらの災害・防災情報を入手できるようにしています。 1章気象の監視・予測 1節 気象の監視と情報発表 (1)気象等の特別警報、警報、注意報及び気象情報 ア.気象等の特別警報・警報・注意報及び気象情報の役割  気象庁は、大雨や暴風などによって発生する災害の防止・軽減のため、気象等の特別警報・警報・注意報及び気象情報(以下「防災気象情報」)を発表しています。災害に結びつくような激しい現象が予想されるときには、まず数日前から気象情報を発表し、その後の危険度の高まりに応じて注意報、警報、特別警報を段階的に発表することで、市町村、都道府県、国の機関等の防災関係機関の活動や住民の安全確保行動の判断を支援しています。これらの内容や発表タイミングについては、平常時から防災関係機関との間で意見交換を行い、効果的な防災活動の支援となるよう努めています。特別警報・警報・注意報及び気象情報には、以下のようなものがあります。 種類情報の種別それぞれの役割 特別警報大雨(土砂災害、浸水害)、暴風、 暴風雪、大雪、波浪、高潮・重大な災害が発生するおそれが著しく大きい場合に発表警報大雨(土砂災害、浸水害)、洪水、暴風、暴風雪、大雪、波浪、高潮・重大な災害が発生するおそれがある場合に発表注意報大雨、洪水、強風、風雪、大雪、波浪、高潮、雷、融雪、濃霧、乾燥、なだれ、低温、霜、着氷、着雪・災害が発生するおそれがある場合に発表気象情報※・警報の危険度分布 ・大雨に関する気象情報 ・台風情報 ・竜巻注意情報 ・記録的短時間大雨情報・警報級の可能性 ・長期間の高温に関する 気象情報 など・警報等を補足する情報として、危険度が高まっている場所を示した分布図を常時10分毎に発表 ・警報等を発表する数日前から注意を呼びかけ、また、警報等の発表中に現象の経過、予想、防災上の留意点等を解説するため必要に応じて随時発表 ・警報等の対象ではない、社会的に影響の大きな天候の状況なども必要に応じて随時発表 イ.気象等の特別警報・警報・注意報 ○気象等の特別警報・警報・注意報の種類  現在、気象等の特別警報は6種類、警報は7種類、注意報は16種類あります。 特別警報、警報、注意報の種類対象となる災害の概要大雨、大雨、大雨大雨による土砂災害や低地の浸水害。洪水、洪水河川の上流域での降雨や融雪等によって下流で生じる増水・氾濫による洪水害。高潮、高潮、高潮異常な潮位上昇による沿岸部の浸水害。台風による吸い上げと吹き寄せによる場合が多い。暴風、暴風、強風強風による物の飛散や交通障害。低気圧の発達等に伴い発生。大雪、大雪、大雪降雪、積雪による住家等の被害、交通障害。暴風雪、暴風雪、風雪強風による災害に加え、強風で雪が舞い、視界が遮られることにより生じる交通障害等。波浪、波浪、波浪高波による遭難や沿岸施設の被害。低気圧の発達等に伴い発生。雷落雷のほか、急な強い雨、竜巻などの突風、降ひょうといった積乱雲の発達に伴い 発生する激しい気象現象による人や建物への被害。濃霧濃い霧により見通しが悪くなり、交通障害が発生する。乾燥大気が乾燥し、火災・延焼しやすい。なだれ山などの斜面に積もった雪が崩落し、人や建物を巻き込む。着氷水蒸気や水しぶきの付着・凍結による通信線・送電線の断線、船体着氷による転覆 沈没等の被害。着雪雪が付着することによる電線等の断線や送電鉄塔等の倒壊。気温0℃付近で起こりやすい。融雪積雪が融解することで、土砂災害や河川の増水による洪水が発生する。霜春・秋に気温が下がって霜が発生することによる農作物や果実の被害。低温農作物への被害や水道管の破裂。冷夏の場合にも発表。 ○気象等の特別警報・警報・注意報の発表区域と発表基準  気象等の特別警報・警報・注意報は、市町村単位で発表しており、災害発生に密接に結びついた指標(風速、潮位や後述の指数など)を用いて発表基準を設定しています。警報・注意報の基準は、市町村ごとに過去の災害を網羅的に調査した上で、重大な災害が発生するおそれのある値を警報の基準に、災害が発生するおそれのある値を注意報の基準に設定しています。例えば、暴風警報の基準は「風速がこの値以上に到達すると重大な災害が発生するおそれがある」という値を設定しています。また、特別警報の基準は、数十年に一度という極めて希で異常な現象を対象として設定しています。そして、特別警報、警報、注意報は、基準以上に到達する現象(以下、特別警報級、警報級、注意報級の現象)が予想されるときに発表します。  なお、強い地震により地盤がゆるんだり、火山噴火により火山灰が積もったりしている地域などでは、降雨に伴う土砂災害が通常よりも起きやすくなります。こうした地域等については、通常よりも警戒を高めるため、都道府県などと協議の上で、大雨警報などの基準を暫定的な値に引き下げて運用することがあります。 ○気象等の特別警報・警報・注意報及び警報級の可能性の発表  警報級の現象は、ひとたび発生すると命に危険が及ぶおそれがあります。このため、警報級の現象が発生すると予想される時間よりも前(最大で6時間程度前)に警報を発表することとしており、警報の発表にあたっては危険な時間帯が一目で分かるよう、警報級、注意報級の現象が予想される時間帯を赤色、黄色で示した時系列の表を付しています。また、警報級の現象が概ね6時間以上先に予想されている場合には、警報の発表に先立って警報に切り替える可能性が高い注意報を発表し、警報級の現象が予想される時間帯を明示しています。例えば、警報級の現象が翌日明け方に発生すると予想される場合には、あらかじめ夕方の時点で注意報を発表し、警報級の予想となっていることが一目で分かるように明け方の時間帯を赤色で表示して「明け方までに○○警報に切り替える可能性が高い」と記載しています。こうした、警報等の発表から現象発生までの猶予時間(リードタイム)は、警報等が防災関係機関や住民に伝わり安全確保行動がとられるまでにかかる時間を考慮して設けているものです。ただし、現象の予想が難しい場合にはリードタイムを十分確保できない場合もあります。  また、警報級の現象が5日先までに予想されているときには「警報級の可能性」を[高]、[中]の2段階で発表しています。警報級の現象は、ひとたび発生すると命に危険が及ぶなど社会的影響が大きいため、可能性が高いことを表す[高]だけでなく、可能性が高くはないが一定程度あることを表す[中]も発表しています。なお、[高]や[中]が発表されていなくても、天候の急激な変化に伴って警報発表となる場合もあります。 ウ.各災害に関する防災気象情報 ○土砂災害に関する防災気象情報  大雨によって土砂災害発生の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて段階的に、大雨注意報、大雨警報(土砂災害)、土砂災害警戒情報等を市町村単位で発表しています。このうち、土砂災害警戒情報は、命に危険を及ぼす土砂災害がいつ発生してもおかしくない状況となったときに、市町村長の避難勧告や住民の避難開始の判断を支援するために都道府県と気象庁が共同で発表しています。また、数年に一度しか発生しないような短時間の大雨を観測した場合には記録的短時間大雨情報を発表します。この情報は土砂災害等の発生につながるような猛烈な雨が降っていることを意味しています。さらに、これらの情報が発表されたときに実際にどこで危険度が高まっているかを把握できるように、地図上で5km四方の領域(メッシュ)ごとに危険度の高まりを5段階に色分けして表示した「土砂災害警戒判定メッシュ情報」を常時10分毎に更新しています。  大雨に伴って発生する土砂災害には、現在降っている雨の量だけでなく、これまでに降った雨による土壌中の水分量も深く関係していることから、土砂災害発生リスクの高まりを把握するに当たっては、60分間積算雨量とともに、雨が土壌中に浸み込んで溜まっている量を指数化した「土壌雨量指数」を用いています。  また、土砂災害発生の危険度を判断する基準には、過去約25年分の土砂災害データを用いています。特に、土砂災害警戒情報の基準は「この基準を超えると、過去の重大な土砂災害の発生時に匹敵する状況となり、この段階では命に危険を及ぼす土砂災害がすでに発生していてもおかしくない」という基準を設定しています。土砂災害警戒判定メッシュ情報では、この基準を超えると、5段階の危険度のうち最大の「極めて危険」(濃い紫色)が出現しますので、この濃い紫色が出現する前の段階で避難を開始し、安全な場所への避難を完了しておく必要があります。  従って、土砂災害から命を守るためには、避難にかかる時間(約2時間)を考慮し、2時間先までに土砂災害警戒情報の基準に到達することが予測された時点で速やかに避難を開始する必要があります。土砂災害警戒判定メッシュ情報ではこのタイミングで避難開始の目安となる「非常に危険」(薄い紫色)が出現し、速やかに土砂災害警戒情報が発表されます。さらに、高齢者等の方が避難を開始する目安となる大雨警報(土砂災害)については、避難にかかる時間を考慮して、土砂災害警戒情報よりも1時間程度早く発表できるような基準を設定しています。土壌雨量指数の2時間先までの予測値がこの基準に到達しているとき、土砂災害警戒判定メッシュ情報では「警戒」(赤色)が出現し、速やかに大雨警報(土砂災害)が発表されます。地盤が崩れやすく土砂災害が発生しやすい地域では、過去の土砂災害履歴に基づき土砂災害警戒情報等の基準が低く設定されています。この様に、土砂災害警戒情報等の基準には地質や地盤の崩れやすさの違いなども反映されています。  土砂災害は、建物に壊滅的な被害をもたらし一瞬のうちに尊い人命を奪ってしまう恐ろしい災害です。崖や渓流の付近など、土砂災害によって命が脅かされる危険性があると認められる場所は、都道府県が土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域(以下「土砂災害警戒区域等」)に指定しています。土砂災害警戒区域等にお住まいの方は、可能な限り早めの避難を心がけていただき、高齢者等の方は遅くとも土砂災害警戒判定メッシュ情報で「警戒」(赤色)が出現した時点で、一般の方は遅くとも「非常に危険」(薄い紫色)が出現した時点で速やかに避難を開始し、「極めて危険」(濃い紫色)に変わるまでに避難を完了しておく必要があります。  大雨による土砂災害について、危険度の高まりに応じて段階的に発表される防災気象情報、市町村の対応例、住民の方にとっていただきたい行動等の概要を図のようにまとめました。 ○浸水害に関する防災気象情報  下水道等の排水能力を超えるような短時間の強い雨が降ると、周囲より低い窪地や道路のアンダーパス等に雨水が集まって家屋の床上浸水や道路冠水等が発生します。こうした浸水害の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて段階的に、大雨注意報、大雨警報(浸水害)等を発表しています。また、数年に一度しか発生しないような短時間の大雨を観測した場合には記録的短時間大雨情報を発表し、浸水害等の発生につながるような猛烈な雨が降っていることを迅速に知らせています。さらに、これらの防災気象情報が発表されたときや雨が強まってきたときに、どこで危険度が高まっているかを把握できるよう、地図上で1km四方の領域ごとに危険度の高まりを5段階に色分けして表示した「大雨警報(浸水害)の危険度分布」を常時10分毎に更新しています。この危険度分布は、下水道等で排水しきれないほどの大雨が短時間で降ったことが原因で、河川の氾濫とは関わりなく発生する浸水害(いわゆる内水氾濫)の危険度の高まりを示しています。住宅の地下室や道路のアンダーパスは特に危険ですので、各自の判断で、こうした場所から離れ、屋内の浸水が及ばない階に移動する等の安全確保行動をとってください。 ○洪水害に関する防災気象情報  河川の上流域における降雨や融雪によって洪水害発生の危険度が高まるときには、危険度の高まりに応じて段階的に洪水注意報、洪水警報を発表しています。さらに、これらが発表されたときに実際にどの河川のどこで危険度が高まっているかを把握できるように、危険度の高まりに応じて、地図上で河川流路を概ね1kmごとに5段階に色分けして表示した「洪水警報の危険度分布」を常時10分毎に更新しています。この危険度分布には「指定河川洪水予報」(後述)の危険度も重ねて表示しています。 ・中小河川の洪水害に関する防災気象情報  中小河川は、流域面積が比較的小さく、上流域に降った雨が河川に集まるまでの時間が短いため、短時間のうちに急激な水位上昇が起きやすい特徴があります。洪水危険度の急激な高まりに気付きにくいため、不意を突かれて逃げ遅れることのないよう早めの避難が必要となります。  中小河川であっても氾濫した際には家屋が押し流されたり、場所によっては浸水の深さが最上階の床の高さにまで達したりするおそれがあります。特に、山間部を流れる中小河川(山地河川)は、勾配が急で流れが速く、氾濫する前から水流によって川岸が削られて川沿いの家屋が押し流されるおそれがあるほか、氾濫した際も幅の狭い谷底平野に流路が限定されるため、谷底平野全体が川のようになって水かさが深くなりやすく、破壊力の大きな氾濫流が生じて家屋が押し流されるおそれもあります。こうした区域にお住まいの方は「洪水警報の危険度分布」を用いて早めの避難を心がけてください。「洪水警報の危険度分布」では、避難にかかる時間等を考慮して3時間先までの予測値を用いることで、実際に急激な水位上昇が起きるより前の早い段階から、洪水危険度の急激な高まりの見込みを事前に把握できるようにしています。また、上流地点に出現した危険度の高まりは、その後、下流に移動してくる傾向がありますので、上流地点の危険度も含めて確認することで、自らに迫る危険をいち早く覚知して早めの準備や判断ができます。ただし、5段階の危険度のうち最大の「極めて危険」(濃い紫色)が出現した段階では、すでに氾濫した水により道路冠水等が発生して屋外への避難が困難となっているおそれがあります。中小河川の水位上昇は非常に急激なため、遅くとも「非常に危険」(薄い紫色)が出現した時点で、水位計や監視カメラ等で河川の現況も確認した上で、速やかに避難開始の判断をすることが大変重要です。また、危険度がそこまで高まっていなくても、自治体から避難勧告が発令された場合や河川管理者から氾濫危険情報が発表された場合には、速やかに避難行動をとってください。 ■大雨・洪水警報は何が変わったの?  気象庁では、土砂災害、浸水害、洪水災害の発生が予想されるときには、大雨警報や洪水警報を発表しています。以前は「雨量」そのものを用いて危険度の高まりを評価し、大雨警報や洪水警報を発表していましたが、平成29年7月以降は、これらの警報の発表に、災害との結びつきが強い三つの「指数」(土壌雨量指数、表面雨量指数、流域雨量指数)を用いるようにしたことで、より的確な警報の発表が可能となりました。さらに、これらの「指数」の技術を活用して、現在の危険度だけでなく、数時間先の未来までの危険度をも地図上で把握できる新たな情報の提供を開始しました。  土壌雨量指数は、雨が土壌中に溜まっている量を数値化したものです。表面雨量指数は、地表面の被覆状況・地質・地形勾配も考慮した計算を行い、雨が地中に浸み込まずに地表面にどれだけ溜まっているかを数値化したものです。地表面の多くがアスファルトで覆われ、山地や傾斜地と比べて雨水が地表面に溜まりやすい都市部の平坦な場所では大きな値となります。流域雨量指数は、全国の約20,000河川を対象に、上流域の雨が地表面や地中を通って河川に集まり河川を流れ下る量を計算し、下流の対象地点の洪水リスクがどれだけ高まるかを数値化したものです。これらの「指数」を用いることで、「雨量」の大小のみならず、地面に到達した後の雨水の振る舞いや、その土地がもともと持っている災害に対する弱さ(素因)も考慮されるようになり、大雨警報や洪水警報が発表されたときに災害が発生しないという状況(空振り)を大幅に減らし、より的確に警報を発表できるようになりました。これまで以上に、お住まいの場所の地域特性が反映された警報をご利用いただけます。  さらに、これら三つの「指数」は、数時間先の未来までの値を計算しています。日本全国をくまなく格子(メッシュ)に分けて計算していますので、どの格子で警報の基準値に到達するのかを地図上で色分けして示すことで、土砂災害、浸水害、洪水災害の危険度が高まっている詳細な場所の情報提供が可能となりました。これが、大雨・洪水警報の危険度分布です。大雨警報や洪水警報が発表されたときには、これらの危険度分布を確認することで、どこで危険度が高まっているかが一目瞭然となりました。 ■中小河川の洪水は何に気をつけないといけないの?  流域の面積が大きく、洪水による重大な損害を生じるおそれがある河川は洪水予報河川に指定されています(図中の太い河川)。中小河川とは、洪水予報河川以外の河川を指し(図中の細い河川)、洪水予報河川に比べて数が多く、私たちの身近な河川も含まれています。  特に、山地部の河川(山地河川)は勾配が急で、河川の幅が狭い場所では流れが深く速くなりやすいため、中小河川であっても洪水時には家屋等を押し流すほどの破壊力の大きな氾濫流となることもあり得ます。平成23年の和歌山県那智川、平成28年の岩手県小本川、そして平成29年の福岡県赤谷川等で発生した甚大な洪水災害はいずれも山地河川で発生しています。  また、中小河川は流域の面積が大きくないため、降った雨水が河川に集まるまでの時間が短く、急激な水位上昇が起こります。避難勧告等の発令は氾濫の発生後になることが多く、その時点から避難するとかえって危険であるという課題が、平成28年3月中央防災会議「水害時の避難・応急対策検討ワーキンググループ」においても指摘されてきました。このため、中小河川の洪水から命を守るためには、水位が上昇する前の早い段階から、水位上昇の予測に関する情報を活用する必要があります。これを地図上に表示したのが「洪水警報の危険度分布」で、3時間先までの洪水危険度の予測を10分間隔で更新しています。危険度の高まった紫色や赤色の表示は上流から下流へ移動してくる傾向がありますので、自分のいる場所より上流地点の危険度も含めて確認することが大切です。そして「極めて危険」(濃い紫色)が出現した段階では、すでに氾濫した水により道路冠水等が発生し、避難が困難となっているおそれがあります。このため、遅くとも「非常に危険」(薄い紫色)が出現した時点で、水位計・カメラ画像等で河川の現況も確認し、速やかに避難開始の判断をすることが重要です。 ・大河川の洪水害に関する防災気象情報  大河川は流域面積が広く、氾濫が発生すると、大量の氾濫水で周辺の家屋が押し流され、浸水も広範囲にわたり、場所によっては深く浸水した状態が長期間継続します。  流域面積が大きく洪水により大きな損害を生ずる河川については、気象庁は国土交通省又は都道府県と共同で「指定河川洪水予報」を発表しています。発表する情報は、危険度の高まりに応じて「氾濫注意情報」、「氾濫警戒情報」、「氾濫危険情報」、「氾濫発生情報」の4つがあり、河川名を付して「○○川氾濫危険情報」のように発表します。  氾濫が発生したときに水流で家屋が押し流されてしまう場合や浸水の深さが最上階の床の高さまで達してしまう場合等には命に危険が及びます。こうした危険のある家屋等にお住まいの方は自治体の避難情報や河川の水位情報に留意するとともに、指定河川洪水予報の氾濫危険情報が発表された時点で家屋等からの立退き避難を開始し、浸水想定区域の外の安全な場所に避難することが大変重要です。 ○高潮災害に関する防災気象情報  台風や低気圧等の接近に伴う海面の上昇により、高潮災害が発生するおそれがあると予想されるときには高潮警報や高潮注意報を発表しています。これらの防災気象情報では、市町村長による避難勧告等の発令区域の判断を支援するため、予想される最高潮位(高潮の高さ)の標高を記載しています。高潮災害で命に危険が及ぶ範囲は高潮の高さによって大きく異なります。自治体のハザードマップなどで潮位(標高)に応じた浸水区域などをあらかじめご確認ください。高潮発生時に堤防を越えた波浪が家屋を直撃する場合や氾濫した水に家屋が押し流されてしまう場合等には命に危険が及びます。こうした危険のある区域にお住まいの方は、台風や急発達する低気圧の接近が予想されているときには、高潮注意報が発表されたら予想最高潮位の標高を確認し、お住まいの場所が命を守るために家屋等からの立退き避難が必要な場所かどうか確認するようにしてください。  さらに、高潮災害が起こるような台風等の接近時には、潮位の上昇よりも先に暴風が吹き始め、屋外移動が困難となりますので、高潮警報を待つことなく暴風警報が発表された時点で避難を開始する必要があります。そして、暴風が吹き始める段階までには高潮注意報の予想最高潮位に応じた浸水想定区域の外の安全な場所への避難を完了しておくことが大変重要です。なお、暴風警報は、暴風の吹き始める概ね3~6時間前に、暴風の吹き始める時間帯を明示して発表しています。 エ.その他の防災気象情報 ○台風情報  気象庁では台風の動きを常時監視し、台風の実況や、その台風がいつ頃どこにどの程度の強さで接近するかを「台風情報」でお知らせしています。通常は3時間ごとに台風の中心位置、進行方向と速度、大きさ、強さの実況と最大3日先までの予報を、観測時刻の約50分後に発表します。予報では、台風の中心が70%の確率で進む範囲(予報円)と、台風の中心が予報円内に進んだ場合に暴風域(平均風速が毎秒25メートル以上の領域)に入るおそれのある範囲(暴風警戒域)を示します。更に、3日先以降も台風であると予想される場合には5日先までの進路予報を6時間ごとに行い、観測時刻から約90分後に発表します。  台風の勢力は、風速をもとにして台風の「大きさ」と「強さ」で表現します。「大きさ」は平均風速が毎秒15メートル以上の強風の範囲(強風域)を、「強さ」は最大風速を基準にして表現を使い分けています。  台風が我が国に近づき、被害のおそれが出てきた場合には、様々な防災対策に利用できるよう、上記の情報に加えて、台風の実況と1時間後の推定値を1時間ごとに、24時間先までの3時間刻みの予報を3時間ごとに発表します。また、72時間先までの「暴風域に入る確率」を各地域の時間変化のグラフ(3時間刻み)と日本周辺の分布図で示して6時間ごとに発表します。 ○(全般・地方・府県)気象情報  低気圧や前線などの災害に結びつくような激しい気象現象について、現象の経過、予想、防災上の留意点などを気象情報(「大雨に関する気象情報」など)として発表します。これらの情報では、図表を用いて最も注意すべき点を分かりやすく示す図形式での発表も行っています。また、少雨、高温、低温や日照不足など、長期間にわたり社会的に大きな影響を及ぼす天候の状況についても気象情報(「高温に関する気象情報」など)として発表します。 ○記録的短時間大雨情報  大雨警報の発表中に、数年に一度しか発生しないような短時間の大雨を観測した場合には記録的短時間大雨情報を発表します。この情報が発表された地域では土砂災害や浸水害、中小河川の洪水害の発生につながるような猛烈な雨が降っていることを意味しています。  この情報が発表されたら、実際にどこで災害発生の危険度が高まっているかを大雨・洪水警報の危険度分布で確認してください。特に土砂災害警戒区域等、これらの災害で命に危険が及ぶおそれが認められる区域にお住まいの方は、地元自治体の発令する避難情報に留意し、速やかに安全確保行動をとってください。 ○雨の実況と予測情報(解析雨量、降水短時間予報、高解像度降水ナウキャスト)  「解析雨量」は、降水量分布を把握できるように、気象レーダー観測で得られた雨の分布を、アメダスなどの雨量計で観測された実際の雨量で補正し、1時間雨量の分布を1km四方の細かさで解析し、30分間隔で発表します。平成29年度からは「速報版解析雨量」を10分毎に発表しています。  「降水短時間予報」は、目先数時間に予想される雨量分布を把握できるように解析雨量をもとに、雨域の移動、地形による雨雲の発達・衰弱を考慮し、また数値予報の予測雨量も用いて、6時間先までの各1時間雨量を1km四方の細かさで予測し、30分間隔で発表します。平成29年度からは「速報版降水短時間予報」を10分毎に発表しています。  さらに、極めて短時間に変化する雨にも対応するため、より即時的にきめ細かな雨量の予測情報を提供するのが「高解像度降水ナウキャスト」です。5分ごとの降水の強さと降水量の分布を250m四方の細かさ(30分先まで。35分から60分先までは1km四方単位)で予測するもので、情報は5分間隔で更新されます。また、30分後までの「強い降水域」や、竜巻・落雷の危険が高まっている「竜巻発生確度2又は雷活動度4」等の領域を1枚の画像に重ねて表示することができます。高解像度降水ナウキャストの解析・予測には、全国20カ所の気象ドップラーレーダーのデータに加え、気象庁・国土交通省・地方自治体が保有する全国約10,000カ所の雨量計の観測データ、ウィンドプロファイラやラジオゾンデの高層観測データ、国土交通省のXRAINのデータも活用しています。また、最新の技術を用いて降水域の内部を立体的に解析することにより精度向上を図っています。 ○積乱雲に伴う激しい気象現象に関する情報 ・竜巻発生確度ナウキャストと竜巻注意情報  積乱雲に伴う竜巻などの激しい突風から身の安全を確保していただくための気象情報として、竜巻発生確度ナウキャスト及び竜巻注意情報を発表しています。竜巻発生確度ナウキャストは、気象ドップラーレーダーの観測などを基に、竜巻などの激しい突風が発生する可能性の程度を10km格子単位で解析し、その1時間後(10~60分先)までの予測を行うもので、10分ごとに発表します。  竜巻発生確度ナウキャストを利用することにより、竜巻などが発生する可能性の高い地域や刻々と変わる状況を詳細に把握することができます。竜巻注意情報は、竜巻発生確度ナウキャストで発生確度2が現れた地域に発表しているほか、竜巻の目撃情報が得られて竜巻の継続や新たな竜巻の発生するおそれが高い状態が続くと判断した場合にも発表しています。竜巻注意情報が発表されたときには、情報の発表から1時間程度は竜巻などの激しい突風に対する注意が必要です。 ・雷ナウキャスト  落雷による被害を防ぐための気象情報として、雷ナウキャストを発表しています。雷ナウキャストは、雷監視システムによる雷放電の検知及びレーダー観測などを基に、雷の激しさや雷の可能性を1km格子単位で解析し、その1時間後(10分~60分先)までの予測を行うもので、10分ごとに発表します。雷の激しさや雷の発生可能性は、活動度1~4で表します。このうち活動度2~4となったときには、既に積乱雲が発達しており、いつ落雷があってもおかしくない状況です。屋外にいる人は建物の中に移動するなど安全の確保に努めてください。 (2)天気予報、週間天気予報、季節予報  天気や気温は、日々の生活と密接にかかわっています。例えば、今日は傘を持って行った方がよいか、週末に予定している旅行ではどんな服装をすればよいかといった時に、天気予報が役に立ちます。また、大雨や暴風といった命に危険を及ぼすような現象について、5日先までに発生が予想されるかどうかを「警報級の可能性」として天気予報や週間天気予報の発表に合わせて発表し、[高][中]という2段階でその可能性をお知らせしています。 ア.天気予報  天気予報は、毎日5時、11時、17時に発表しています。天気予報には、府県天気予報、地方天気分布予報、地域時系列予報の3種類があります。  府県天気予報は、明後日(5時の発表では明日)までの風、天気、波の高さ、最高・最低気温、6時間ごとの降水確率を予報します。対象となる地域の1日ごとの天気をおおまかに把握する場合に適しています。  地方天気分布予報と地域時系列予報は、発表時刻の1時間後から向こう24時間(17時の発表では、向こう30時間)の天気などの分布を3時間刻みに予報するもので、府県天気予報よりも詳しい天気を知ることができます。地方天気分布予報では、面的な分布が一目で分かるので、雨が何時ころにどの辺りで降るかといったことを、容易に把握することができます。  地域時系列予報では、対象となる地域の天気、風、気温の時間変化を知るのに便利です。 イ.週間天気予報  週間天気予報では、予報発表日の翌日から1週間先までの日々の天気、最高・最低気温、降水確率を、毎日11時と17時に発表しています。今日や明日の予報に比べ、さらに先の予報については、どうしても不確実性が大きくなります。この不確実性は、予報初期の大気の状態や予測される大気の流れ(天候や気圧配置など)によって異なります。このため、その日の予報がどの程度確実かという情報をお知らせするために、天気の信頼度と最高・最低気温の予測範囲を併せて示しています。信頼度は、3日目以降の予報での降水の有無について「予報が適中しやすい」ことと、発表毎に「予報が変わりにくい」ことを表す情報で、予報の確実性が高いほうから順にA、B、Cの3段階で表現します。例えば、1月10日11時発表の島根県の週間天気予報では、14~16日は同じ曇り時々晴れという予報ですが、16日は14,15日よりも信頼度が低く、予報が変わる可能性が比較的高いことを示しています。また、気温の予測範囲は、2日目以降の気温の欄に(11~16)のように括弧を付して記述しています。実際の気温がこの気温の範囲に入る確率はおよそ80%です。 ウ.季節予報  季節予報には、予報期間別に、2週間程度先までを予報する異常天候早期警戒情報、1か月先までを予報する1か月予報、3か月先までを予報する3か月予報、6か月先までを予報する暖候期予報・寒候期予報があり、それぞれの期間について、平均的な気温や降水量などを、予報区単位で予報しています。平均的な気温や降水量などは、3つの階級(「低い(少ない)」、「平年並」、「高い(多い)」)に分け、それぞれの階級が出現する可能性を確率で表現しています。「異常天候早期警戒情報」については、2週間程度先までの7日間平均気温や7日間降雪量が平年から大きく隔たる可能性が高いと予測した場合に発表します。それぞれの予報の内容と発表日時は表のとおりです。また、地方季節予報で用いる予報区分は図のとおりです。 (3)その他の情報 ア.光化学スモッグなどの被害軽減に寄与するための情報提供  気象庁は、晴れて日射が強く、風が弱いなど、光化学スモッグなどの大気汚染に関連する気象状況を都道府県に通報するとともに、光化学スモッグが発生しやすい気象状況が予想される場合には「スモッグ気象情報」や翌日を対象とした「全般スモッグ気象情報」を広く一般に発表しています。また、環境省と共同で光化学スモッグに関連する情報をホームページで提供しています。 イ.熱中症についての注意喚起  一般的な注意事項として熱中症も含めた高温時における健康管理への注意を呼びかけることを目的として、高温注意情報、異常天候早期警戒情報や日々の天気概況、気象情報の中でも、熱中症への注意の呼びかけを盛り込んで発表しています。  平成27年度からは、高温注意情報(概ね35℃以上※の高温が予想される場合)の発表を5時頃から17時頃の間に随時発表するように、又、高温注意情報を発表した場合だけでなく概ね真夏日(最高気温30℃以上)が予想される場合にも日々の天気概況で注意を呼びかけるよう改善を図りました。  地方別、都道府県別の高温注意情報の発表状況、内容、気温予想グラフは気象庁ホームページで確認できます(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kurashi/netsu.html)。また、テレビ等の報道機関や関係機関を通じて伝えられますので、暑さを避け、水分をこまめに補給するなど、特に健康管理に十分気をつけてください。  ※一部の地域では35℃以外を用いています。 2節 気象の観測 (1)地上気象観測  気象台や測候所、特別地域気象観測所では気圧、気温、湿度、風向・風速、降水量、日照時間などの地上気象観測を行っています。また、集中豪雨等の局地的な気象の把握を目的として、これらの気象官署を含めた全国各地の約1,300か所で、自動観測を行うアメダス(地域気象観測システム)により、降水量などを観測しています。このうち、約840か所では降水量に加えて、気温、風向・風速、日照時間を、また、豪雪地帯などの約320か所では積雪の深さを観測しています。  地上気象観測で得られるデータは、防災気象情報の発表等に利用されるほか、ホームページなどを通じて、広く提供されています。これらの観測データは、各観測地点での気温や降水量等の情報ですが、気象庁では、「今」の気象状況を、広がりをもった情報として見ることができるよう、あわせて、「推計気象分布」を提供しています。この情報は、アメダスに加えて気象衛星ひまわりの観測データ等をもとに気温と天気のきめ細かな分布を算出して作られており、観測点のない場所も含めて、気象状況を面的に把握できるようになっています。 (2)レーダー気象観測  気象レーダーは、水平方向に回転するパラボラアンテナから電波を発射し、雨粒等によって反射されて戻ってくる電波を受信することで、どの位置にどのような強さの降水があるかを観測する装置です。気象庁は、全国20か所に設置した気象レーダーにより、我が国の陸上全域と周辺の海上における降水の分布とその強さを5分毎に観測しています。また気象レーダーは、反射されて戻ってくる電波のドップラー効果を利用して、風で流される雨粒や雪の動きを観測する機能も備えており、集中豪雨や竜巻などの突風をもたらす積乱雲内部の詳細な風の分布の把握に威力を発揮します。これらの観測成果は、気象庁ホームページ等で提供される他、天気予報や大雨警報などの気象情報の発表に利用されています。 (3)高層気象観測 ア.ラジオゾンデ観測  天気に影響する低気圧や高気圧などの予測を精度よく行うためには、これらの動きに大きく関連している上空の大気の観測が必要になります。このため、全国16地点で毎日決まった時刻(日本標準時09時、21時)に「ラジオゾンデ」という観測機器を気球に吊るして飛揚させ、地上から約30キロメートル上空までの気圧(高度)、気温、湿度及び風を観測しています。  ラジオゾンデの観測資料は、天気予報のほかに航空機の運航管理などにも利用されています。また、近年は、地球温暖化をはじめとした気候問題への関心が高まり、対流圏や成層圏の気温変化の監視など気候分野においても重要な役割を果たしています。 イ.ウィンドプロファイラ観測  ウィンドプロファイラは、地上から上空に向けて電波を発射し、気流の乱れや雨粒によって散乱されて戻ってきた電波を受信し、ドップラー効果を利用して上空の風向・風速を300メートルの高度間隔で10分毎に観測します。気象条件によって観測データが得られる高度は変動しますが、最大12キロメートル程度までの上空の風向・風速が観測できます。全国33か所に設置したウィンドプロファイラの観測データは、実況監視や数値予報に利用され、大雨や突風等の解析や予測に必要不可欠なものとなっています。 (4)静止気象衛星ひまわり  気象を観測する衛星には様々なものがあり、目的によって地球を周回する高度や軌道が異なります。赤道上空約35,800キロメートルの静止軌道上に位置する静止気象衛星は、地球の自転周期に合わせて周回する為、同じ地域を連続して観測できることが強みです。気象庁が運用している静止気象衛星「ひまわり」は、常に東経140度付近にあって、日本を含む東アジア・西太平洋地域の広い範囲を24時間、常時観測しており、特に海上の台風の監視などに不可欠な観測手段となっています。  気象庁は、昭和53年(1978年)の初号機の運用開始以来40 年にわたって、静止気象衛星「ひまわり」による観測を続けてきました。現在は、世界最先端の観測機能を持つ「ひまわり8号・9号」が観測を行っています。「ひまわり8号・9号」の二機体制により、平成41年(2029年)までの長期にわたって安定した観測を継続することにより、国民の安全安心の確保や、アジア・太平洋地域の防災力の向上、気候変動の監視などに貢献します。  気象庁では、「ひまわり」のデータを使って雲や台風の解析などを行うほか、同じ地域を高頻度で常時観測できる「ひまわり」の利点を最大限に活かして、連続した複数枚の衛星画像から雲が移動する様子を解析することで、上空の風(風向・風速)を算出しています。この風のデータは、海上や山岳地帯、砂漠など地上の観測所が存在しない地域を含む広範囲で一様に算出可能であるため、数値予報の精度向上のためになくてはならないデータとなっています。「ひまわり8号」は、短い時間間隔で高い空間分解能の画像を撮影でき、また画像の種類も増えたため、従来よりも高い頻度、高い密度、多様な高度、高い精度で上空の風を算出できるようになり(下図)、これは台風の進路予報等の精度向上につながっています。  また、「ひまわり」の観測データは、黄砂や火山灰の監視、海面水温の算出や流氷の監視など幅広い用途に利用されています。さらに、これらのデータは日本のみならずアジア・太平洋地域を中心とした世界各国でも利用されています。  このほか、「ひまわり」にはデータを中継する通信機能があり、国内外の離島などに設置された観測装置で得られた気象データや潮位(津波)データ、震度データなどの収集に活用されています。 2章 地震・津波と火山の監視・予測 1節 地震・津波の監視と情報発表  地震による災害には、主に地震の揺れ(地震動)によるものと、地震に伴って発生する津波によるものとがあります。これらの災害を軽減するため、気象庁は、地震と津波を24時間体制で監視し、地震や津波が発生した時には、予測や観測結果の情報を迅速に発表します。地震発生直後の地震・津波に関する情報は、防災関係機関の初動対応などに活用されています。 (1)地震に関する情報  気象庁は、全国約300か所に設置した地震計や国立研究開発法人防災科学技術研究所や大学の地震計のデータを集約して、地震の発生を24時間体制で監視しています。また、地面の揺れの強さ(震度)を測る震度計を全国約670か所に設置し、地震発生時には、これらの震度計及び地方公共団体や国立研究開発法人防災科学技術研究所が設置した震度計のデータを集約(全国で合計約4,400か所)しています。気象庁は、これらのデータを基に地震発生時には次の情報を発表しています。 ア.緊急地震速報(地震動特別警報・地震動警報・地震動予報)  緊急地震速報は、地震の発生直後に震源に近い地震計で捉えた観測データを解析して、震源や地震の規模(マグニチュード)を直ちに推定し、これに基づいて各地での主要動の到達時刻や震度を予測し、可能な限り素早く知らせる情報です。また、観測点に揺れが到達し、周辺地域に強い揺れが来ることが予想される場合は、その旨もあわせてお知らせします。緊急地震速報により、強い揺れの前に、自らの身を守ったり、列車のスピードを落としたり、工場等で機械制御を行ったりして、被害の軽減が図られています。気象庁は、最大震度5弱以上の揺れを予想した際には、震度4以上の揺れが予想される地域に対し、地震動特別警報(震度6弱以上の揺れが予想される場合)・地震動警報に相当する緊急地震速報(警報)を発表し、強い揺れに警戒する必要があることをテレビ・ラジオ・携帯電話等を通じてお知らせします。また、マグニチュードが3.5以上又は最大予測震度が3以上である場合等には、緊急地震速報(予報)を発表します。民間の予報業務許可事業者は、緊急地震速報(予報)の震源やマグニチュードを用いて、特定の地点の主要動の到達時刻や震度を予報し、ユーザーに対して専用端末等を通じ、音声や文字等で強く揺れることを知らせたり、制御信号を発して機械を自動制御したりするといった個別のサービスを行っています。 イ.地震情報  気象庁は、観測した地震波形などのデータから推定した震源の位置、マグニチュードや観測した震度などの情報を迅速に発表しています。地震発生の約1分半後に震度3以上を観測した地域をお知らせする「震度速報」のほか、震源の位置やマグニチュード、各地域や各市町村で観測された震度などをお知らせする「震源・震度に関する情報」など、観測データを基に順次詳細な情報を発表します。震度の情報はテレビやラジオなどで報道されるだけでなく、防災関係機関の初動対応や災害応急対策の基準としての役割があります。そのため、震度の観測においては地面の揺れを的確に観測できるよう検定に合格した震度計を使用し、設置方法等にも基準を設けています。また、地方公共団体の震度計についても同様の基準を満たすよう、地方気象台が技術的なアドバイスを行っています。さらに、高層ビル等における地震後の防災対応等に資するため、観測された長周期地震動階級などをお知らせする「長周期地震動に関する観測情報」を、気象庁ホームページで平成25年3月から試行的に提供しています。 情報の種類発表基準内容震度速報・震度3以上地震発生約1分半後に、震度3以上を観測した地域名(全国を188地域に区分)と地震の揺れの検知時刻を速報震源に関する情報・震度3以上  (津波警報・注意報を発表した場合は発表しない)「津波の心配ない」又は「若干の海面変動があるかもしれないが被害の心配はない」旨を付加して、地震の発生場所(震源)やその規模(マグニチュード)を発表震源・震度に関する情報※1・震度3以上※2 ・津波警報・注意報発表時 ・若干の海面変動がある場合 ・緊急地震速報(警報)発表時地震の発生場所(震源)やその規模(マグニチュード)、震度3以上の地域名と市町村毎の観測した震度を発表 震度5弱以上と考えられる地域で、震度を入手していない地点がある場合は、その市町村名を発表各地の震度に関する情報※1・震度1以上震度1以上を観測した地点のほか、地震の発生場所(震源)やその規模(マグニチュード)を発表 震度5弱以上と考えられる地域で、震度を入手していない地点がある場合は、その地点名を発表 ※地震が多数発生した場合には、震度3以上についてのみ発表し、震度2以下の地震については、その発生回数を「その他の情報(地震回数に関する情報)」で発表その他の情報・顕著な地震の震源要素を更新した場合や地震が多発した場合など顕著な地震の震源要素更新のお知らせや地震が多発した場合の震度1以上を観測した地震回数情報等を発表推計震度 分布図・震度5弱以上観測した各地の震度データをもとに、1キロメートル四方ごとに推計した震度(震度4以上)を図情報として発表遠地地震に 関する情報・国外で発生した地震について以下のいずれかを満たした場合等 ○マグニチュード7.0以上 ○都市部など著しい被害が発生する可能性がある地域で規模の大きな地震を観測した場合地震の発生時刻、発生場所(震源)やその規模(マグニチュード)を概ね30分以内に発表 日本や国外への津波の影響に関しても記述して発表 (2)津波に関する情報  気象庁は、地震により発生した津波が日本沿岸に到達するおそれがある場合には津波警報等を発表するとともに、津波の到達予想時刻や予想される津波の高さを津波情報として発表します。また、気象庁や関係機関が沿岸及び沖合に設置した約410か所の観測施設のデータを活用して津波を監視し、津波が観測されるとその観測結果を津波情報として発表します。 ○津波警報・注意報、津波予報、津波情報  海域で規模の大きな地震が発生し、地殻変動によって海底面が大きく持ち上がったり下がったりすることで、津波が発生します。気象庁は、陸域で浸水などの重大な災害が起こるおそれのある津波が予想される場合には「津波警報」(高さ1~3メートル)を、より甚大な災害となるおそれがある場合は特別警報に位置付けている「大津波警報」(高さ3メートル超)を、海の中や海岸、河口付近で災害が起こるおそれのある津波が予想される場合には「津波注意報」(高さ0.2~1メートル)を全国66に分けた津波予報区単位で発表します。なお、地震発生後、津波が予想されるものの災害が起こるおそれがない場合には、「津波予報」(若干の海面変動、0.2メートル未満)を発表します。  ただし、マグニチュード8を超えるような巨大地震が発生した場合は、地震発生から数分程度では地震の規模を精度よく求めることができないため、その海域における最大級の津波を想定して津波警報の第1報を発表します。このとき、非常事態であることを簡潔に伝えるため、予想される津波の高さを「巨大」(大津波警報の場合)、「高い」(津波警報の場合)という言葉で発表します。このような表現を用いた場合でも、地震発生から15分ほどで地震の規模を精度よく把握し、それに基づき予想される津波の高さを数値で示す津波警報を発表しなおします。  津波警報等の発表後、沖合で津波を観測した場合には、間もなく沿岸に津波が到達する可能性が高いことから、その観測点における第一波の到達時刻、最大の高さなどの観測値に加え、その観測値から推定される沿岸での津波の到達時刻や高さの予想を津波情報(沖合の津波観測に関する情報)で発表します。  また、沿岸で津波を観測した場合には、観測した事実を速やかに知らせるため、第一波の到達時刻、最大の高さなどの観測値を津波情報(津波観測に関する情報)で発表します。 種 類解 説発表される津波の高さ数値での発表巨大地震の場合の定性的な表現大津波警報※3メートルを超える津波が予想されますので、厳重に警戒してください。10メートル超 10メートル 5メートル巨大津波警報高いところで3メートル程度の津波が予想されますので、警戒してください。3メートル高い津波注意報高いところで1メートル程度の津波が予想されますので、注意してください。1メートル(表記しない) 情報の種類内 容津波到達予想時刻・予想される津波の高さに関する情報各津波予報区の津波の到達予想時刻や予想される津波の高さを発表します。各地の満潮時刻・津波到達予想時刻に関する情報主な地点の満潮時刻・津波の到達予想時刻を発表します。津波観測に関する情報沿岸で観測した津波の時刻や高さを発表します。 ただし、大きな津波が予想されているなかで、観測された津波の高さが予想よりも十分に低い場合は、数値ではなく「観測中」という言葉で発表して、津波が到達中であることを伝えます。沖合の津波観測に関する情報沖合で観測した津波の時刻や高さ、及び沖合の観測値から推定される沿岸での津波の到達時刻や高さを津波予報区単位で発表します。 ただし、沿岸からはるかに離れた沖合の観測点では、津波予報区との対応付けがむずかしいため、沿岸での推定値は発表しません。また、大きな津波が予想されているなかで、観測された津波の高さが予想よりも十分に低い場合は、数値ではなく観測値については「観測中」、推定値については「推定中」という言葉で発表して、津波が到達中であることを伝えます。 予想される海面の状況内 容津波が予想されないとき津波の心配なしの旨を地震情報に含めて発表します。0.2メートル未満の海面変動が予想されたとき高いところでも0.2メートル未満の海面変動のため被害の心配はなく、特段の防災対応の必要がない旨を発表します。津波注意報解除後も海面変動が継続するとき津波に伴う海面変動が観測されており、今後も継続する可能性が高いため、海に入っての作業や釣り、海水浴などに際しては十分な留意が必要である旨を発表します。 ■沖合津波観測に関する情報の充実  気象庁では、地震により津波が発生すると予想される場合には、津波警報を速やかに発表するとともに、沿岸や沖合の潮位データを監視して、津波の実況を津波情報としてお知らせします。さらに、観測データに基づいて津波警報の切替えや解除等の判断を行っています。  近年、沖合での津波や波浪の観測を行う海底津波計※1やGPS波浪計※2の設置が進み、北海道から関東地方や三重県から高知県にかけての沖合には世界でも例を見ない高密度な津波観測網が展開されています。沖合の津波観測データについては、沿岸に到達する前に津波を観測できる可能性があり、防災上の効果が大きいことから、気象庁では、これらをリアルタイムで入手し、津波警報・注意報の更新や「沖合の津波観測に関する情報」(平成25 年3 月運用開始)の発表に活用しています。平成30年2月現在、GPS波浪計18地点及び海底津波計216地点の観測データを活用し、沖合での津波監視を行っています。実際に、平成28年11月22日の福島県沖の地震では、これらの観測データを用いて沿岸に津波が到達する約20分前に津波を検知できました。気象庁では、これら沖合の津波観測データを新しい津波予測手法(tFISH)※3にも取り込む計画です。tFISHとは、沖合で観測された津波波形データから津波の発生場所と大きさを推定し、その結果を元に、あらかじめ計算しておいた理論的な津波波形を合成することで、沿岸での津波を精度よく予測する手法です。沖合の津波観測データをtFISHで活用することにより、津波警報・注意報のより迅速・適切な更新が期待されます。  気象庁は今後も関係機関の協力をいただきながら、迅速かつ的確な津波警報・注意報の更新や津波情報の提供に努めてまいります。 (3)南海トラフ全域の地震活動・東海地域とその周辺の地殻変動の監視と情報提供  南海トラフ地震は、駿河湾から日向灘沖までの南海トラフ沿いのプレート境界で概ね100~150年間隔で繰り返し発生してきた大規模地震です。前回の昭和東南海地震(1944年)及び昭和南海地震(1946年)が起きてから70年以上が経過した現在では、次の南海トラフ地震発生の切迫性が高まってきていると考えられています。  南海トラフ地震がひとたび発生すると、広い範囲で強い揺れと高い津波が発生し、甚大な被害が発生すると予測されています。中央防災会議では、科学的に想定しうる最大規模の南海トラフ巨大地震について、震度分布と津波高の推計結果に基づく、被害想定を実施しています。  なお、南海トラフ地震の過去事例を見ると、その発生過程には多様性があることが知られています。過去には、宝永地震(1707年)のように駿河湾から四国沖にかけての領域で同時に地震が発生したり、隣接する領域で時間差をおいて地震が続発したりしています。安政東海地震(1854年)では32時間後に安政南海地震(1854年)が発生し、昭和東南海地震では2年後に昭和南海地震が発生するなど、隣接する領域で地震が続発する時間差にもバラツキがあります。  現在の科学的知見では、地震の発生を確度高く予測することは困難ですが、南海トラフ地震については、プレート境界で発生する地震活動や地殻変動など、プレート境界の固着状態に普段と異なる変化を示唆する現象を検知することができれば、地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まっていることを評価することが可能であると考えられています。  気象庁は、南海トラフ地震発生の可能性の高まりを評価し、国民の防災・減災行動に役立てるため、関係機関の協力を得て、南海トラフ全域の地震活動や東海地域とその周辺の地殻変動の観測データを収集し、24時間体制で監視しています。  南海トラフ沿いで異常な現象が観測された場合には、まず、南海トラフ地震との関連性について調査を開始したこと及び有識者から助言いただくため「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」を開催する旨を「南海トラフ地震に関連する情報(臨時)」でお知らせします。その後、南海トラフ地震発生の可能性について評価した結果を改めて「南海トラフ地震に関連する情報(臨時)」でお知らせします。 (4)地震調査研究の推進とその成果の気象業務への活用  「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」(阪神・淡路大震災)を契機に制定された地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)により、地震に関する調査研究を一元的に推進するため、総理府(現在は文部科学省)の特別の機関として地震調査研究推進本部(通称:地震本部)が設置されました。  また、同法に基づき、気象庁は、文部科学省と協力して、平成9年より地域地震情報センターとして大学や国立研究開発法人防災科学技術研究所等の関係機関からの地震観測データを収集・処理しています。  これらの収集・処理されたデータは、地震本部の下に設置されている地震調査委員会で行われる各種の地震活動評価や、大学など関係機関での地震調査研究に活用されるだけでなく、気象庁の地震情報等の防災気象業務にも活用され、多方面で防災・減災に役立てられています。 2節 火山の監視と情報発表 (1)火山の監視 ア.111活火山と火山監視・警報センター  我が国には火山噴火予知連絡会により選定された111の活火山があります。気象庁では、本庁(東京)に設置された「火山監視・警報センター」及び札幌・仙台・福岡の各管区気象台に設置された「地域火山監視・警報センター」(両者をまとめ、以下「火山監視・警報センター」という)において、これらの活火山の火山活動を監視しています。111の活火山のうち、今後100年程度の期間の噴火の可能性及び社会的影響を踏まえ「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある火山」として平成21年6月に火山噴火予知連絡会によって選定された47火山及び平成26年11月の同連絡会の検討会で追加すべきとされた八甲田山、十和田、弥陀ヶ原について、噴火の前兆を捉えて噴火警報等を的確に発表するために、観測施設(地震計、傾斜計、空振計、GNSS観測装置及び監視カメラ)を整備し、関係機関(大学等研究機関や自治体・防災機関等)からのデータ提供も受け、火山活動を24時間体制で常時観測・監視しています。  また、50火山以外の火山も含めて、火山監視・警報センターが火山機動観測として現地に出向いて計画的に現地調査を行っており、火山活動に高まりが見られた場合には、必要に応じて現象をより詳細に把握するため観測体制を強化します。例えば、平成27年に箱根山の火山活動が活発化したことに伴い、大涌谷に遠望カメラを増設したり、空振計を増設したりして、観測体制を強化しました。  火山監視・警報センターは、全国の活火山について、観測・監視の成果に基づき、火山活動の評価を行い、噴火発生が予想された場合には「警戒が必要な範囲」(この範囲に入った場合には生命に危険が及ぶ)を明示して噴火警報を発表しています。 イ.火山活動を捉えるための観測網  火山噴火の前には、マグマや高温高圧の水蒸気が地表付近まで上昇するため、普段は見られない様々な現象(地震の群発、火山性微動の発生、地殻変動、噴気温度の上昇、噴煙や火山ガスの増加など)が起きます。こうした現象は先行現象と呼ばれます。  高感度の観測機器を用いて火山現象に応じた適切な監視・観測をすることで、先行現象を捉えることができる場合があります。 ○震動観測(地震計による火山性地震や火山性微動の観測)  震動観測は、地震計により、火山体内部で発生する微小な地震(火山性地震や火山性微動)を捉えるものです。マグマの移動や、それに伴う岩石の破壊、マグマに溶け込んでいる気体の発泡などにより発生すると考えられています。 ○空振観測(空振計による音波観測)  空振観測は、火山の爆発的噴火などで生じる空気の振動をとらえるものです。天候不良等により監視カメラで火山の状況を監視できない場合でも、地震計による地震記録や空振計による空振記録等より、噴火の発生と規模をいち早く検知することができます。 ○地殻変動観測(傾斜計、GNSS等による地殻変動観測)  地殻変動観測は、地下のマグマの活動等に伴って生じる地盤の傾斜変化や山体の膨張・収縮を観測するものです。傾斜計では火山周辺で発生するごく微小な傾斜変化をとらえることができます。また、GNSS観測装置では、複数のGNSS観測装置を組み合わせて2点間の距離の伸縮を計測することで火山周辺の地殻の変形を検出することができます。いずれも地下のマグマ溜まりの膨張や収縮を知り、火山活動を評価するための重要な手段となります。 ○監視カメラによる観測  監視カメラにより、定まった地点から、噴煙の高さ、色、噴出物(火山灰、噴石など)、火映などの発光現象等を観測しています。気象庁では、星明かりの下でも観測ができる高感度の監視カメラを設置しています。 ウ.現地調査  気象庁では、火山活動に変化がある場合は、現地に機動観測班を派遣し、火山機動観測を行うことにより、火山活動の正確な把握に努めています。また、全国の111の活火山について、平常時から計画的に現地に赴き、臨時のGNSS観測、熱や火山ガスなど陸上からの観測やヘリコプターによる上空からの観測等を実施し、継続的な火山活動の把握・評価に努めています。 ○熱観測  赤外熱映像装置を用いて火口周辺の地表面温度分布を観測することにより、温度の高まりなど熱活動の状態を把握します。 ○上空からの観測  関係機関の協力により、ヘリコプター等を用いてカメラや赤外熱映像装置により、地上からでは近づけない火口内の様子(温度分布や噴煙の状況)や噴出物分布を上空から詳しく調査・把握し、火山活動の評価に活用します。 ○火山ガス観測  火口から放出される火山ガスには、水蒸気、二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素など様々な成分が含まれています。気象庁では、小型紫外線スペクトロメータ(COMPUSS)という装置を用いて火山ガス(二酸化硫黄)の放出量を観測し、火山活動の評価に活用します。 ○噴出物調査  噴火が発生した場合には、噴火の規模や特徴等を把握するため、大学等研究機関と協力して降灰や噴出物の調査を行い、火山活動の評価に活用します。 (2)災害を引き起こす主な火山現象  火山は活動すると時として大きな災害を引き起こします。災害の要因となる主な火山現象には、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流、溶岩流、小さな噴石・火山灰、土石流、火山ガス等があります。特に、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流は、噴火に伴って発生し、避難までの時間的猶予がほとんどなく、生命に対する危険性が高いため、防災対策上重要度の高い火山現象として位置付けられており、噴火警報や避難計画を活用した事前の避難が必要です。 ・大きな噴石 爆発的な噴火によって火口から吹き飛ばされる大きな岩石等(概ね50センチメートル以上の 岩石)は、風の影響を受けずに弾道を描いて飛散して短時間で落下し、建物の屋根を打ち破るほどの破壊力を持っています。大きな噴石による被害は火口周辺の概ね2~4キロメートル以内に限られますが、過去、登山者等が死傷する災害が発生しており、噴火警報等を活用した事前の入山規制や避難が必要です。 ・火砕流 高温の火山灰や岩塊、空気や水蒸気が一体となって急速に山体を流下する現象です。規模の大きな噴煙柱や溶岩ドームの崩壊などにより発生します。大規模な場合は地形の起伏にかかわらず広範囲に広がり、通過域を焼失させる極めて恐ろしい火山現象です。流下速度は時速数十から百数十キロメートル、温度は数百℃にも達します。火砕流から身を守ることは不可能で、噴火警報等を活用した事前の避難が必要です。 ・融雪型火山泥流 積雪期の火山において噴火に伴う火砕流等の熱によって斜面の雪が融かされて大量の水が発生し、周辺の土砂や岩石を巻き込みながら高速で流下する現象です。流下速度は時速60キロメートルを超えることもあり、谷筋や沢沿いをはるか遠方まで一気に流下し、大規模な災害を引き起こしやすい火山現象です。積雪期の噴火時等には融雪型火山泥流の発生を確認する前にあらかじめ避難が必要です。 ・溶岩流 マグマが火口から噴出して高温の液体のまま地表を流れ下るものです。地形や溶岩の温度・組成にもよりますが、流下速度は比較的遅く基本的に徒歩による避難が可能です。 ・小さな噴石・火山灰 噴火により噴出した小さな固形物で、粒径が小さいほど遠くまで風に流されて降下します。小さな噴石は10キロメートル以上遠方まで運ばれ降下する場合もありますが、噴出してから地面に降下するまでに数分~十数分かかることから、火山の風下側で爆発的噴火に気付いたら屋内等に退避することで身を守れます。火山灰は、時には数十から数百キロメートル以上運ばれて広域に降下・堆積し、農作物の被害、交通障害、家屋倒壊、航空機のエンジントラブルなど広く社会生活に深刻な影響を及ぼします。 ・火山ガス 火山地域ではマグマに溶けている水蒸気や二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素等の様々な成分が気体となって放出されます。ガスの成分によっては人体に悪影響を及ぼし、死亡事故も発生しています。 (3)噴火警報と噴火予報  気象庁は、噴火災害軽減のため、全国111の活火山を対象として、観測・監視・評価の結果に基づき噴火警報を発表しています。噴火警報は、噴火に伴って発生し生命に危険を及ぼす火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等、発生から短時間で火口周辺や居住地域に到達し、避難までの時間的猶予がほとんどない現象)の発生やその危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)を明示して発表します。  例えば、「警戒が必要な範囲」が火口周辺に限られる場合は「噴火警報(火口周辺)」、「警戒が必要な範囲」が居住地域まで及ぶ場合は「噴火警報(居住地域)」として発表し、海底火山については「噴火警報(周辺海域)」として発表します。「噴火警報(居住地域)」は特別警報に位置付けられています。  これらの噴火警報は、気象庁ホームページで掲載するほか、報道機関、都道府県等の関係機関を通じて住民等に直ちに周知されます。  また、噴火警報を解除する場合等には「噴火予報」を発表します。 (4)噴火警戒レベル ア.噴火警戒レベルの考え方  噴火警戒レベルは、内閣府が平成18年から開催した「火山情報等に対応した火山防災対策検討会」の報告に基づき、火山活動の状況に応じた「警戒が必要な範囲」と防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分した指標で、平成19年12月から運用が開始されたものです。地元の自治体や関係機関で構成される火山防災協議会で火山活動に応じた「とるべき防災対応」が定められた火山で運用が開始され、市町村・都道府県の「地域防災計画」にも定められます。  噴火警戒レベルを付した噴火警報・噴火予報により、市町村等の防災機関では、合意された範囲に対して迅速に入山規制や避難勧告等の防災対応をとることができ、噴火災害の軽減につながることが期待されます。 イ.噴火警戒レベルの設定と改善  平成27年12月に施行された活動火山対策特別措置法の一部改正により、全ての常時監視火山の周辺地域では、火山防災協議会の設置が義務付けられました。平成30年3月現在、39火山で噴火警戒レベルの運用が行われており、気象庁では、地元自治体等での具体的な避難計画の策定への助言を通じて、噴火警戒レベルの設定と改善を地元の火山防災協議会と共同で進めていきます。 (5)降灰と火山ガスの予報  噴火警報等で扱う火山現象以外にも、火山現象に関する予報として降灰予報と火山ガス予報を発表しています。 予報の種類内 容降灰予報「降灰量」及び「風に流されて降る小さな噴石の落下範囲」を予測して、内容や発表タイミングの異なる3種類の情報(「降灰予報(定時)」「降灰予報(速報)」「降灰予報(詳細)」)に分けて発表する。降灰量は降灰の厚さによって「多量」、「やや多量」、「少量」の3階級で表現する。火山ガス予報居住地域に長期間影響するような多量の火山ガスの放出がある場合に、火山ガスの濃度が高まる可能性のある地域を発表する。 (6)火山現象に関する情報  噴火警報や上記の予報のほか、火山現象に関する情報を発表することにより、火山活動の状況等をお知らせしています。 情報の種類内 容噴火速報常時観測火山を対象に噴火の発生事実を迅速に発表する情報。火山の状況に関する解説情報火山性地震や微動の回数、噴火等の状況や警戒事項について定期又は臨時に解説する情報。火山活動に変化があった場合、臨時の情報であることを明記して発表する。火山活動解説資料地図や図表を用いて、火山活動の状況や警戒事項について定期又は臨時に解説する資料。週間火山概況過去1週間の火山活動の状況や警戒事項を取りまとめた資料。月間火山概況前月1ヶ月間の火山活動の状況や警戒事項を取りまとめた資料。噴火に関する火山観測報噴火が発生した時に、発生時刻や噴煙高度等をお知らせする情報。 (7)火山噴火予知連絡会  火山噴火予知連絡会は、「火山噴火予知計画」(文部省測地学審議会(現文部科学省科学技術・学術審議会測地学分科会)の建議)の一環として計画を円滑に推進するため、昭和49年に発足した組織です。連絡会は、火山噴火予知に関する研究成果や情報の交換や、各火山の観測資料を検討して火山活動についての総合的判断、噴火予知に関する研究及び観測体制を整備するための検討を行っています。  連絡会は、学識経験者や関係機関の専門家から構成され、事務局は気象庁が担当しています。  定例会を年3回開催し、全国の火山活動について総合的に検討を行うほか、火山噴火などの異常時には、気象庁長官の招集による幹事会や臨時部会を開催し、火山活動の総合判断を行うほか、火山の活動評価に関する資料の収集・解析を行うため、機動的な総合観測班を設置し現地に派遣します。 3章 地球環境の監視・予測 異常気象などの監視と情報発表 (1)異常気象の監視  気象庁は、世界中から収集した観測データなどをもとに、我が国や世界各地で発生する異常気象を常に監視し、週・月・季節ごとに、極端な 高温・低温や多雨・少雨などが観測された地域や気象災害をとりまとめた情報を発表しています。 また、社会的に大きな影響をもたらす異常気象が発生した場合は、その特徴と要因、見通しを まとめた情報を随時発表しています。  なお、気象庁では、原則として「ある場所 (地域)・ある時期(週、月、季節等)において30年間に1回以下の頻度で発生する現象」を異常気象としています。  さらに、我が国への影響が大きな異常気象が発生した場合は、異常気象分析検討会を開催します。異常気象分析検討会では、大学・研究機関等の第一線の研究者の協力を得て、最新の科学的知見に基づいた分析を行い、異常気象の発生要因等に関する見解を迅速に発表します。 (2)エルニーニョ/ラニーニャ現象等の監視と予測  エルニーニョ現象は、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象です。逆に、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象はラニーニャ現象と呼ばれ、それぞれ数年おきに発生します。エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、日本を含む世界の様々な地域で多雨・少雨・高温・低温など、通常とは異なる天候が現れやすくなります。また、西太平洋熱帯域やインド洋熱帯域の海面水温の状態も日本や世界の天候に影響を与えます。  気象庁では、エルニーニョ/ラニーニャ現象、西太平洋熱帯域とインド洋熱帯域における海洋変動に関する最新の状況と6か月先までの見通しを、「エルニーニョ監視速報」として毎月10日頃に発表しています。 ■四半世紀を迎えたエルニーニョ/ラニーニャ現象の監視・予測  1982~1983年に大規模なエルニーニョ現象が発生し、世界各地で大雨や干ばつが発生した際、海洋の観測網は十分ではなく、研究者も気象機関もエルニーニョ現象の発生とその影響に気づかなかった教訓から、海洋の監視・予測への取組が世界的に進められました。気象庁も季節予報の精度向上や異常気象による災害の防止を目的に、エルニーニョ/ラニーニャ現象の監視・予測体制を平成4年(1992年)に構築してエルニーニョ監視速報の発表を開始し、情報の内容充実を図りながら、四半世紀を迎えました。  これらの現象や西太平洋・インド洋の熱帯域の海洋変動は大気との相互作用を通して世界の天候に影響を及ぼしており、日本の季節予報にとって重要な因子です。海洋の変動にはこのほかにインド洋ダイポールモード現象等のさまざまな変動や数年より長い時間規模の変動があり、研究が進められていますが、これらの変動を含めて精度よく予測できれば、日本の季節予報の精度向上につながる可能性があります。今後、これらの変動の理解を一層進めるとともに、予測モデルの更なる高解像度化等を行い、海洋変動の予測精度の向上を図っていきます。 2 節 地球温暖化問題への対応  気象庁では、地球温暖化をはじめ気候変動に係わる問題に対処するため、気候変動に関する監視・予測情報を発表しています。  気候変動の監視情報には、世界の平均気温の長期的な変化や、日本国内の猛暑日や大雨などの極端現象の長期的な変化、大気中や海洋中の二酸化炭素濃度の長期的な変化などに関する情報があります。これらの監視には、全世界の千数百か所の観測所における観測データ、気象官署やアメダスの観測データ、海洋観測船や航空機、衛星などによる観測データを用いています。このような大気や海洋の監視情報は、「気候変動監視レポート」として毎年公表しています。  気候変動の予測情報には、地球温暖化予測情報があります。これは、地球温暖化の原因である二酸化炭素などの温室効果ガスの増加に伴って、将来の気候がどのように変化するのかを数値シミュレーションモデルを用いて予測した情報です。気象庁では、最新の数値シミュレーションモデルを用いた予測結果を「地球温暖化予測情報」として数年ごとに公表しています。  気象庁は、これらの業務を通じて、我が国における地球温暖化対策の推進や、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書などに貢献しています。 ■気候講演会「高校生と考える、地球温暖化とわたしたちの未来」の開催  平成30年1月27日(土)に、高校生と共に地球温暖化した未来の社会を生活の目線から考えるイベントを、気象庁本庁にて行いました。当日はまず、午後1時から高校生19人を対象とし、「50年後の生活を探ってみよう」と題した、地球温暖化を軸に将来の生活を考えるワークショップを行いました。さらにその後、ここで出たアイデアについて、パネルディスカッションを通じて高校生と専門家が議論を交わしました。高校生のユニークなアイデアに触発され、専門家からも自由なコメントがなされ、また、壇上の高校生だけではなく、客席の高校生からも次々と発言があるなど、議論の展開は白熱したものとなりました。こうした自由かつフラットな雰囲気により、会場では聴講者も含めて地球温暖化についてそれぞれが我が事として考える雰囲気が醸成されました。  気象庁は、今後もより効果的な普及啓発を目指し、改善を続けていくとともに、我が国の地球温暖化対策の基礎となる観測・監視・予測及びその知見の提供を続けて参ります。 3 節 海洋の監視と診断 (1)海洋の監視  地球表面の7割を占める海洋は、人間の社会経済活動に伴い排出される二酸化炭素の約3分の1を吸収するとともに、大量の熱や二酸化炭素を蓄えています。そのため、海洋は大気中の二酸化炭素濃度の増加や、それにより引き起こされる地球温暖化の進行など地球環境や気候変動に大きな影響を及ぼしています。また、海洋の二酸化炭素濃度が増加することで海洋の酸性化が進み、海洋の生態系への影響、ひいては水産業等の経済活動への大きな影響が懸念されています。  気象庁は、世界気象機関(WMO)やユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)等による国際的な協力体制の下、海洋がどれだけの二酸化炭素を吸収しているか、気候変動にどれだけ影響を与えているかを調べるため、日本周辺海域及び北西太平洋で海洋気象観測船や中層フロートなどによって海洋の観測を実施しています。  海洋気象観測船は、北西太平洋全体の主要な海流を横切るように設定された観測線に沿って、海面から海底までの海流や水温、塩分、二酸化炭素などの温室効果ガスや関連する化学物質(酸素、栄養塩(植物プランクトンが育つための栄養となるリン酸塩、硝酸塩、ケイ酸塩など))の高精度な観測を実施しています。  中層フロートは、海面から深さ2,000メートル付近までの水温・塩分の鉛直分布を自動的に観測する機器です。WMO、IOCや各国の関係機関の連携により、中層フロートを全世界の海洋に常時約3,000台稼働させ、全世界の海洋の状況をリアルタイムで監視するとともに、地球温暖化をはじめとする気候変動の実況把握とその予測精度向上を目指す「アルゴ計画」が推進されており、気象庁は、文部科学省などの関係省庁と連携して中層フロートによる観測を実施しています。 (2)海洋の健康診断表  気象庁では、海洋気象観測船等による観測データに加え、地球観測衛星等の観測データを収集し、それらを基に解析した結果を、「海洋の健康診断表」として、気象庁ホームページで公表しています。この中で、地球温暖化に伴う海洋の変化や、海域ごとの海水温、海面水位、海流、海氷、海洋汚染の状態、変動の要因及び今後の推移の見通しについて、グラフや分布図を用いてわかりやすく解説しています。平成29年度には、北極域・南極域の海氷分布図の更新頻度を年2回から月1回とし、また、全世界の海洋酸性化の監視情報を提供開始しました。また、12年ぶりの黒潮大蛇行となったことから、気象庁の海流図や観測船による観測結果、海上保安庁の黒潮の解析結果などの情報を集めた「黒潮の大蛇行関連ポータルサイト」を開設しました。 ■世界中で「海洋酸性化」が進行  海洋は人間活動により排出された二酸化炭素を吸収・蓄積しています。そのため、世界中で海洋酸性化が進行しています。海洋酸性化の進行により、サンゴやプランクトン等の海洋生態系が大きな影響を受けることが懸念されています。  気象庁は、海洋気象観測船(凌風丸・啓風丸)の観測データをはじめとした世界中で集められた観測データを用いて、世界ではじめて、全世界の海洋酸性化の監視情報を定期的に発表することにしました。今回の結果では、1990年以降2016年までに、全世界で平均した表面海水中の水素イオン濃度指数(pH)は約0.05(10年あたり0.018)低下しており、世界中で海洋酸性化が進行していることが分かりました。  今後も、気象庁ホームページ「海洋の健康診断表」を通じて最新の情報を提供していきます。 (海洋の健康診断表:https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/shindan/index.html) 4 節 環境気象情報の発表 (1)オゾン層・紫外線の監視と予測  上空のオゾン層は、太陽からの有害な紫外線を吸収し、地上の生物を保護しています。気象庁は、国内及び南極昭和基地のオゾン層・紫外線の観測結果や、地球観測衛星のデータ等を解析して、オゾン層・紫外線の毎年の状況や長期変化傾向を監視しています。これらの観測・解析の成果は、気象庁ホームページで公表しており、オゾン層保護の取り組みなどに活用されています。  また、毎日の生活の中で紫外線対策を効果的に行えるように、気象庁ホームページにおいて、現在の紫外線の強さ(紫外線解析値)を毎時間提供し、当日または翌日の紫外線の強さ(紫外線予測値)を毎日提供しています。紫外線の強さは、有害紫外線の人体への影響度を示す指標(UVインデックス)を用いています。 (2)黄砂の監視と予測  黄砂は、ユーラシア大陸の黄土高原やゴビ砂漠などで風によって上空高く舞い上がった無数の細かな砂じんが、上空の風に乗って日本へ飛来する現象で、春に多く見られます。黄砂が発生すると、洗濯物や車が汚れるといった一般生活への影響があるほか、まれに交通障害の原因となり、全国的に大きな影響を与える場合もあります。  気象庁では、黄砂が日本の各地で広く観測され、その状態が継続すると予測される場合には「黄砂に関する気象情報」を発表して注意を呼びかけています。また、気象庁ホームページには黄砂の観測結果や今後の見通しを毎日掲載しています。これら気象庁の提供する黄砂に関する情報は、環境省と気象庁が共同で運用する「黄砂情報提供ホームページ」(https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/kosateikyou/kosa.html)でも確認することができます。 (3)ヒートアイランド現象の監視・実態把握  都市化の進んでいる東京、大阪、名古屋などの大都市圏では、都市の中心部の気温が周辺の郊外部に比べて高くなっており、「ヒートアイランド現象」と呼ばれています。都市化の進展に伴って、ヒートアイランド現象は顕著になりつつあり、熱中症等の健康への被害や、感染症を媒介する蚊の越冬といった生態系の変化が懸念されています。  気象庁では、都市気候モデルを用いたシミュレーションによって、水平距離2キロメートルごとの気温や風の分布の解析を行っています。解析の成果は、最高・最低気温や熱帯夜日数の観測値の経年変化などとともに、「ヒートアイランド監視報告」としてまとめ、平成16年度(2004年度)から公表しています。平成29年度(2017年度)は、「ヒートアイランド監視報告2016」を刊行し、関東、近畿、東海地方の三大都市圏を対象として、2016年8月のヒートアイランド現象による平均気温の上昇の実態等を示しました。 ■地球環境の鍵を握る南極へ、第60次南極観測隊を派遣  我が国は、国際地球観測年(IGY)を契機に昭和31(1956)年度から国家事業として南極地域観測統合推進本部(事務局:文部省(当時))の下で南極に観測隊を派遣しています。昭和32(1957)年1月に、リュツオ・ホルム湾東岸、南極大陸氷縁から西に4kmのオングル島に昭和基地(南緯69度00分、東経39度35分)を設立してから、一時中断はあるものの観測活動を継続的に実施し、この秋には第60次観測隊が出発します。  南極観測事業は国立極地研究所を中核として研究、観測を実施していますが、気象庁はそのなかで基本観測とよばれる気象観測を担当し、第1次隊から毎年職員を派遣しています。現在越冬中の第59次隊では、地上気象観測(観測員による1日8回の目視観測)、高層気象観測(1日2回のゾンデ飛揚)、気候観測を目的としたオゾンや日射・放射等の観測を、一年を通じて5名の隊員で実施しています。これらの観測は世界気象機関(WMO)の国際観測網の一翼を担っており、得られた観測データはGTS(全球通信システム)回線により即時的に各国の気象機関に送られ、日々の気象予報に利用されています。  南極での気象観測は、地球環境の監視という面でとても重要ですが、非常に過酷かつ特殊な状況で観測を行わなくてはなりません。観測に用いる気球が凍結して破裂することを防ぐため、気球に油を染みこませることや、オゾンの観測に必要な太陽が昇らない極夜の時に、代わりに月を利用して観測をすることは、南極での気象観測ならではの工夫です。こうした工夫を施しつつ、過酷な環境での観測を行う隊員たちの不断の努力により、これまで長きにわたり南極での観測が続けられました。  平成29(2017)年1月には、昭和基地開設60周年を迎えましたが、この60年余に渡って蓄積された高精度な観測データは、地球環境の研究にとって極めて貴重なものであり、地球温暖化やオゾンホール等の地球環境問題の解明と予測の基礎データとして利用されています。  第59次隊までで日本国内から1832名(うち女性41名)の隊員が派遣されており、このうち気象庁の職員が273名(うち女性6名)を占めています。今年出発する第60次隊も、これまでの隊が継続してきた観測を引き継ぎ、地球環境の監視にとって重要な南極での気象観測に貢献していきます。 5 節 地磁気観測  気象庁は、地球環境の変動を監視するために、茨城県石岡市柿岡に地磁気観測所をおき、女満別(北海道網走郡大空町)、鹿屋(鹿児島県鹿屋市)、父島(東京都小笠原村)の計4地点で定常的な地磁気の観測を行っています。柿岡では1913年以来、高い精度の地磁気観測を続けており、東アジア・西太平洋地域を代表する重要な観測所のひとつとなっています。観測成果は、太陽と地球を取り巻く環境の監視、航空機及び船舶の安全運航の確保、無線通信障害の警報、火山噴火予知等に利活用されています。  現在、方位磁針の指す向きは、東京付近で真北から約7度西にずれていますが、伊能忠敬が地図を作製した200年ほど前はほぼ真北を向いていました。このような長期的な変化は永年変化と呼ばれ、地球内部の対流に起因しています。地磁気の大きさの分布は一様ではなく、また、地磁気の強弱は地表に到達する宇宙線の増減につながるなど、地磁気観測は地球環境に与える影響監視のためのひとつの手段となっています。  地磁気は短時間の間にも常に変化しており、太陽表面の爆発に伴って地磁気が激しく変化する磁気嵐などは、電波通信や送電システムの障害、人工衛星の運用トラブルなど社会生活に影響を与えるため、磁気嵐や地磁気活動状況等の情報を公開し、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)が行う「宇宙天気予報」の精度向上に貢献しています。  また、火山を構成する岩石は磁気を帯びています。山体内部の温度上昇や圧力増加等により、その磁気は変化する性質があります。この性質を利用し、草津白根山等の活動的火山で地磁気の観測を行って火山活動状況の変化を監視し、その観測成果を関係機関に提供しています。 4章 交通の安全などのための取組 1節 航空の安全などのための情報  航空機が出発する前に立てる飛行計画では、目的空港の天候から空中での待機や代替空港への着陸の可能性を判断し、燃料の搭載量を決定します。また、上空の風や悪天域の予想から、飛行中乱気流による揺れの少ない高度や場所、燃料が節約できる高度や航空路、到着予定時刻などを決定します。  このように、航空機の運航においては、空港での離着陸時を含めて気象の影響を常に受けています。このため、その安全性、快適性、定時性及び経済性の確保には、気象情報が重要な役割を担っています。気象庁は、国際民間航空機関(ICAO)や世界気象機関(WMO)が定める国際的な統一基準に基づいて国際航空のための気象業務を行うとともに、国内航空のための独自の気象業務も実施しています。 (1)空港の気象状況に関する情報  航空機の離着陸には、風や視程(見通せる距離)、積乱雲(雷雲)などの気象状況が大きく影響します。気象庁では、全国81空港において気象観測を行い、その成果を管制塔にいる航空管制官や航空会社の運航管理者・パイロットなどの航空関係者へ迅速に提供しています。また一部の空港では、この観測の全てを自動で行っています。  東京や成田などの国内の主要な9空港では、空港気象ドップラーレーダーにより、雷雨の時などに発生する大気下層の風の急変域(低層ウィンドシアー)を監視しています。  さらに、東京・成田・関西の各国際空港においては、空港気象ドップラーライダーを設置して、降水を伴わない場合の低層ウィンドシアーや、離着陸時に影響する建物・地形による滑走路付近の風の乱れを観測しています。低層ウィンドシアーは、離着陸する航空機の安全に影響することから、これらが観測された場合は、低層ウィンドシアー情報として直ちに管制官を通じてパイロットへ伝達されます。  また、雷監視システムにより雷が発する電波を受信し、その位置、発生時刻などを求めて情報を作成しています。作成した情報は航空関係者などに直ちに提供されます。 (2)空港の予報・警報に関する情報  航空機の飛行計画を立てる際には、出発地の空港、目的地の空港、そして天候不良など何らかの理由で目的地の空港に着陸できない場合に着陸する代替空港の気象情報が必要となります。このため気象庁は、空港の風や雲の量・高さ、視程(見通せる距離)、天気などの詳細な30時間先までの「飛行場予報」を、国際定期便などが運航している37空港を対象として発表しています。飛行場予報は航空関係者へ提供され、航空機材の運用計画や地上作業員の安全確保などに利用されています。また、飛行場予報を発表している空港において、強風や大雪などにより地上の航空機や空港施設及びその業務に悪影響を及ぼすおそれがある場合は、「飛行場警報」を発表し、航空関係者に対して警戒を促します。  このほか、航空関係者に対して、各空港や航空路上の気象状況や今後の予想について解説などを行っています。 (3)上空の気象状況に関する情報 ア.空域の気象情報  飛行中の乱気流や火山灰との遭遇、機体への落雷や着氷の発生は、航空機の運航の安全性と快適性に大きく影響します。気象庁は、このような大気現象について日本や北西太平洋上空の監視を行い、雷電、台風、乱気流、着氷及び火山灰の拡散状況などに関する観測・予測情報を「シグメット情報」として随時発表しています。また、約6時間先のジェット気流の位置や悪天域を図によって示した「国内悪天予想図」や、悪天の実況を解説した「国内悪天解析図」を提供して、運航の支援を行っています。  さらに、平成26年(2014年)から、小型機の安全と効率的な運航の支援を主な目的として、下層空域の悪天を対象とした「下層悪天予想図」の提供を行っています。 イ.航空路火山灰情報  火山灰は、航空機のエンジンに吸い込まれるとエンジンが停止したり、機体前面に衝突すると操縦席の風防ガラスが擦りガラス状になり視界が利かなくなったり、飛行場に堆積すると離着陸ができなくなったりするなど、航空機へ多様な影響を与えます。気象庁は、航空機の安全な運航を確保するために、東京航空路火山灰情報センターを運営し(3章 国際民間航空機関(ICAO)を通じた世界への貢献を参照)、火山噴火と火山灰の監視を行い、火山灰に関する観測・予測情報を「航空路火山灰情報(テキストと図情報)」として発表しています。 ■空域気象情報に関する東南アジア5か国との国際協力枠組み  平成30年(2018年)3月、気象庁は東南アジア5か国(ラオス、ミャンマー、フィリピン、タイ及びベトナム)の航空気象情報発表機関と東京都内で長官級会合を開催し、牧野国土交通副大臣のほか、国土交通省航空局及び国際民間航空機関(ICAO)アジア太平洋地域事務所からの立ち会いの下、「空域気象情報に関する国際協力枠組み」の発足及び同年4月からの同枠組みに基づくシグメット情報の発表について、共同声明を発表しました。この枠組みにおいて気象庁は、シグメット情報作成のための支援情報・ツールや情報の整合性を確保するための調整の場を提供するなど、継続的な技術支援を行います。  本枠組みの発足により、東南アジア空域における気象情報が質・量ともに向上し、増大する東南アジア路線の航空機運航の安全性はもちろん、快適性、定時性、経済性等の向上につながると期待されます。 (4)航空気象情報を支える技術 ア.数値予報モデルを用いた精度向上  訪日外国人旅行者数を大幅に増やし、また、2020年東京オリンピック・パラリンピックを円滑に開催するため、首都圏空港の機能拡大が計画されています。これにより、首都圏空域における航空交通量はますます増加していきます。このような状況下で、もし予期しない強い横風や雷雨などの悪天によって着陸ができなくなる事態が発生した場合、たちまち多数の航空機が空中で待機したり引き返したりすることとなり、航空機の流れを円滑に保つことが極めて困難になります。このため気象庁は、緻密な数値予報モデル(局地モデル)を利用して、飛行場予報や空域の気象情報の精度向上に取り組んでいます。今後も、航空機の安全で効率的な運航により役立つよう、航空気象情報の更なる高度化を図ります。 イ.気象衛星データによる火山灰監視の高度化  東京航空路火山灰情報センターでは、静止気象衛星ひまわりの衛星画像を利用して火山灰の監視を行っています。ひまわり8号・9号は、これまでの静止気象衛星と比べ、高解像度・高頻度の観測が可能となり、観測画像の種類も増加しました。これらの新しい観測データを活用し、より迅速で的確な情報発表を目指していきます。 (5)航空交通管理に必要な気象情報  日本の空の交通を計画的に管理する業務を行っている航空局航空交通管理センター(福岡市)では、管制官と同じ運用室で、気象庁の航空交通気象センターの予報官が、管制官などに対して航空交通管理のために必要な気象情報の提供や解説を行っています。また、東京国際空港及び新千歳空港においても、航空交通気象センターの予報官が、首都圏周辺及び新千歳空港周辺の空域のより詳細な気象情報の提供を行っています。 (6)ISO9001 品質マネジメントシステムの導入  気象庁では、国際民間航空機関(ICAO)や世界気象機関(WMO)からの求めにより、航空機の安全及び経済的運航のため、航空気象部門にISO9001に基づく品質マネジメントシステムを導入しています。これにより、継続的に適時適切な航空気象情報の提供に努め、利用者の満足度向上を目指した活動を行っています。 2 節 船舶の安全などのための情報  船舶の運航には、台風や発達中の低気圧などによる荒天時での安全性の確保のほか、海上輸送における経済性や定時性などの確保が求められるため、気象の情報が欠かせません。このため、国際的な取組として「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)に基づき、世界各国が協力して船舶の安全な航行を図るための気象情報の提供を行っています。気象庁は日本近海に加えて北西太平洋などを担当しており、海上予報、海上警報などを発表しています。これらの情報は、テレビやラジオ、インターネットのほか、外洋の船舶に提供するための通信手段として無線や通信衛星(インマルサット)による衛星放送などにより、さまざまな機関と協力して提供しています。 (1)沿岸防災のための情報  気象庁では、高潮・副振動・異常潮位・高波等による沿岸の施設等への被害の防止・軽減のため、全国各地で潮位(潮汐)と波浪の観測を行っています。潮位の観測は検潮所や津波観測点の観測装置、波浪の観測は沿岸波浪計、ブイ、観測船を使用して行っています。また、他機関の観測データも活用してきめ細かい実況の監視に努めています。  一方、スーパーコンピュータを用いた高潮モデルや波浪モデルにより、それぞれ潮位や波浪の予測値を計算しています。これらの資料と実況監視データを用いて、各地の気象台では、高潮特別警報・高潮警報・高潮注意報、波浪特別警報・波浪警報・波浪注意報、気象情報や潮位情報を発表し、沿岸域での浸水等の被害や船舶の海難事故に対する注意・警戒を呼びかけています。 (2)日本近海を対象とした情報  日本の近海については、沿岸から300海里(およそ560キロメートル)以内を12の地方海上予報区に分け、さらにそれぞれの海域を複数に細分した海域を対象に、地方海上予報・警報を発表しています。また、津波や火山現象に関する予報や警報も提供しています。  日本近海で操業する漁船向けには、台風、高気圧、低気圧、前線などの実況と予想、気象の実況情報を、NHKラジオを通じて提供しています(ラジオ天気図とも呼ばれています)。また、漁業用海岸局を通じて、天気概況や気象実況、海上予報・警報などを無線通信で提供しています。  これらの海上予報・警報を補足する情報として地方海上分布予報があります。24 時間先まで6時間ごとの風、波、霧、着氷、天気の分布の予想図を提供しており、気象庁ホームページから見ることができます。 (3)外洋を対象とした情報  気象庁は北西太平洋など(概ね赤道から北緯60 度、東経100 度から180 度に囲まれる海域)を対象として、低気圧や台風に関する情報や、海上の強風・暴風や濃霧の警報を、通信衛星(インマルサット)を介して、セーフティネット気象予報警報(無線英文放送)として船舶関係者向けに提供しています。  この他に、低気圧や台風などの位置や海上警報の内容を掲載した実況天気図、海上の悪天(強風・濃霧・海氷・着氷)の予想を掲載した予想天気図や、台風、波浪、海面水温、海流、海氷などの実況図や予想図を提供しています。これらは、短波の無線FAX放送による気象庁気象無線模写通報(JMH)で提供しているほか、気象庁ホームページからも閲覧することができます。中でも実況天気図や予想天気図は、テレビなどにおける気象解説にも用いられており、広く親しまれています。 (4)航空気象情報を支える技術 ア.数値予報モデルを用いた精度向上  訪日外国人旅行者数を大幅に増やし、また、2020年東京オリンピック・パラリンピックを円滑に開催するため、首都圏空港の機能拡大が計画されています。これにより、首都圏空域における航空交通量はますます増加していきます。このような状況下で、もし予期しない強い横風や雷雨などの悪天によって着陸ができなくなる事態が発生した場合、たちまち多数の航空機が空中で待機したり引き返したりすることとなり、航空機の流れを円滑に保つことが極めて困難になります。このため気象庁は、緻密な数値予報モデル(局地モデル)を利用して、飛行場予報や空域の気象情報の精度向上に取り組んでいます。今後も、航空機の安全で効率的な運航により役立つよう、航空気象情報の更なる高度化を図ります。 イ.気象衛星データによる火山灰監視の高度化  東京航空路火山灰情報センターでは、静止気象衛星ひまわりの衛星画像を利用して火山灰の監視を行っています。ひまわり8号・9号は、これまでの静止気象衛星と比べ、高解像度・高頻度の観測が可能となり、観測画像の種類も増加しました。これらの新しい観測データを活用し、より迅速で的確な情報発表を目指していきます。 (5)航空交通管理に必要な気象情報  日本の空の交通を計画的に管理する業務を行っている航空局航空交通管理センター(福岡市)では、管制官と同じ運用室で、気象庁の航空交通気象センターの予報官が、管制官などに対して航空交通管理のために必要な気象情報の提供や解説を行っています。また、東京国際空港及び新千歳空港においても、航空交通気象センターの予報官が、首都圏周辺及び新千歳空港周辺の空域のより詳細な気象情報の提供を行っています。 (6)ISO9001 品質マネジメントシステムの導入  気象庁では、国際民間航空機関(ICAO)や世界気象機関(WMO)からの求めにより、航空機の安全及び経済的運航のため、航空気象部門にISO9001に基づく品質マネジメントシステムを導入しています。これにより、継続的に適時適切な航空気象情報の提供に努め、利用者の満足度向上を目指した活動を行っています。 (2)日本近海を対象とした情報  日本の近海については、沿岸から300海里(およそ560キロメートル)以内を12の地方海上予報区に分け、さらにそれぞれの海域を複数に細分した海域を対象に、地方海上予報・警報を発表しています。また、津波や火山現象に関する予報や警報も提供しています。  日本近海で操業する漁船向けには、台風、高気圧、低気圧、前線などの実況と予想、気象の実況情報を、NHKラジオを通じて提供しています(ラジオ天気図とも呼ばれています)。また、漁業用海岸局を通じて、天気概況や気象実況、海上予報・警報などを無線通信で提供しています。  これらの海上予報・警報を補足する情報として地方海上分布予報があります。24 時間先まで6時間ごとの風、波、霧、着氷、天気の分布の予想図を提供しており、気象庁ホームページから見ることができます。 (3)外洋を対象とした情報  気象庁は北西太平洋など(概ね赤道から北緯60 度、東経100 度から180 度に囲まれる海域)を対象として、低気圧や台風に関する情報や、海上の強風・暴風や濃霧の警報を、通信衛星(インマルサット)を介して、セーフティネット気象予報警報(無線英文放送)として船舶関係者向けに提供しています。  この他に、低気圧や台風などの位置や海上警報の内容を掲載した実況天気図、海上の悪天(強風・濃霧・海氷・着氷)の予想を掲載した予想天気図や、台風、波浪、海面水温、海流、海氷などの実況図や予想図を提供しています。これらは、短波の無線FAX放送による気象庁気象無線模写通報(JMH)で提供しているほか、気象庁ホームページからも閲覧することができます。中でも実況天気図や予想天気図は、テレビなどにおける気象解説にも用いられており、広く親しまれています。 5章 産業の興隆などのための取組 1節 生産性向上に向けた取組 (1)はじめに  IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、人工知能、ロボット・センサーの技術的ブレークスルーを活用する「第4次産業革命」により、社会的課題の解決や、消費者の潜在的ニーズを呼び起こす、新たなビジネスの創出が期待されています。  「日本再興戦略2016」では、この「第4次産業革命」を最大の鍵として、新たな価値の提供や社会的課題の対応により、潜在需要を開花させるとともに、人口減少社会での供給制約を克服する「生産性革命」を強力に推進することとしています。国土交通省においても、2016年を「生産性革命元年」と位置づけ、社会全体の生産性向上に繋がる施策を推進しており、国土交通省の「生産性革命プロジェクト」のひとつとして、「気象ビジネス市場の創出」が選定されました。  気象庁では、産業界と気象サービスのマッチングや気象データの高度利用を進める上での課題解決を行う「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」を立ち上げ、利用者にとって使い勝手のよい気象情報の提供や気象サービスを支援する環境整備など、新たな気象ビジネス市場の創出・活性化を促進する取組を進めることとしております。  また、「未来投資戦略2017」では、「Society5.0に向けた横割課題 ― 公共データのオープン化の促進 ― 」として、産学官による「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」等を通じ、電力、観光、流通、保険、農業をはじめとする多くの産業分野での気象情報の利活用を促進し、新たな気象ビジネスを強力に創出するため、基盤的な気象観測・予測データの公開を進めています。 (2)産業界での気象データの活用状況 ア.ビッグデータ化する気象データ  気象庁は、日々自然現象の観測を行い、観測データの収集を行い、データ解析による監視・予測を行い、情報の作成・提供を行っています。気象データは、アメダス、天気予報、警報・注意報など、個々の容量は小さいが日本全国に広がりデータの種類や数が多いものや、気象衛星データや数値予報データなど、面的・立体的(メッシュ状・3次元)な広がりを持ち、近年の気象観測・予測技術の高度化に伴い、より高頻度・高解像度なデータで容量が大きいものがあります。  例えば気象衛星については、2015年7月より運用している静止気象衛星「ひまわり8号」は、従来の「ひまわり7号」に比べて、搭載されたカメラのバンド数がひまわり7号の5バンドから16バンドに増加したほか、観測間隔も従来の30分毎から10分毎(日本域は2.5分毎)に高頻度化し、水平分解能も従来の2倍に増加しており、世界最高水準の観測機能を有しています。そのデータ量は1日分で数百GBに達し、従来に比べて飛躍的に増加しています。  これらのデータは、機械判読に適した形式(XML形式、CSV形式等)や国際ルールに基づいた形式(BUFR形式、GRIB形式等)で提供しており、データ自体は無償で、商用利用や二次配布に制限を設けていません。気象データは、オープン化された公的データであるとともに、まさにビッグデータと言えます。 イ.先端技術を用いた気象データの活用事例  近年のAI、IoT、ビッグデータ解析技術の発展により、多種多量なデータをリアルタイムで収集・蓄積・分析することが可能となってきており、利用者個々のニーズに即したサービスの提供や業務運営の効率化等により、新産業の創出や生産性の飛躍的向上等が期待されています。  また、気象は、個人の日々の行動や農業、製造、交通等の各種社会経済活動に大きく影響を与えていること、物理法則に基づいた予測可能性があること、さらに、そのデータはオープン化されたビッグデータであり、多様な現象を分析する際の基盤的データとして活用する可能性があること、などの特徴があります。  近年、気象データを、POSデータ、SNSデータ、位置データ、農業関連データ等の多様なデータと組み合わせて分析することにより、生産・供給管理や需要予測等を行い、生産・製造・物流・販売等のサービス全体のプロセスの最適化を目指す取組が進み始めており、このような取組が今後さらに拡大していくことが期待されています。 ウ.気象データの活用状況と課題  上記のようなことを背景として、気象データの流通量は年々増加しています。平成27年版情報通信白書(総務省)における我が国企業のデータ流通量の推計においても、気象データの流通量は年々増加していることが示されています。  一方で、同白書において、企業等が分析に活用しているデータの種類を調査した結果によると、気象データを活用している企業の割合は1.3%と、その割合が小さいことが分かりました。  気象データは、前述のように先端技術や他データと組み合わせた活用による生産性向上の潜在力はあると 考えられるものの、実際には使われてない「ダークデータ」ともいうべき状況にあると言えます。気象庁では、この課題を克服するためには、産業界が求める気象データを活用したビジネス支援サービスの提供や、IoT・AI技術等を駆使し、気象データを高度利用した産業活動を実現する対話・連携を促進することが重要と考え、国土交通省生産性革命プロジェクト「気象ビジネス市場の創出」を通じた取組等を進めています。 (3)気象データの利活用促進による社会の生産性向上に向けた取組の推進 ア.国土交通省生産性革命プロジェクト「気象ビジネス市場の創出」  国土交通省では、我が国が人口減少時代を迎える中、経済成長の実現に向け、関係部局の緊密な連携の下に、生産性革命に資する国土交通省の施策を強力かつ総合的に推進するため、「国土交通省生産性革命本部」を設置し、省を挙げて「社会のベース」、「産業別」、「未来型」の3つの分野の生産性向上に取り組み、我が国経済の持続的で力強い成長に貢献しています。  気象庁は、ビッグデータの一つである気象データを分析している企業の割合が低い状況を、社会経済活動の生産性を高めることができる伸び代と捉え、「気象ビジネス市場の創出」として課題解決に向けた取組を実施し、新たな気象ビジネス市場の創出・活性化を強力に推進していきます。 ① 基盤的気象データのオープン化・高度化  気象データを活用した新たなビジネスを作り出す過程において、各企業が商品・サービス等を開発する際には、まずは気象データに触れて、理解することが必要となります。これまでも、気象庁には手軽に気象データに接することができる環境や、気象データの解説資料の提供に関する要望が多く寄せられていました。  そこで気象庁は、気象情報利用促進を図るため、2017年3月に、気象庁ホームページに「気象データ高度利用ポータルサイト」を開設しました。本ページでは、気象庁が提供する各種情報を整理した「気象庁情報カタログ」や、気象庁が提供する情報の技術的な解説資料である「配信に関する技術情報」を提供し、発表後のデータを利用者が容易に取得できるよう、気象警報や天気予報をはじめとするXMLフォーマットの気象データを逐次掲載するとともに、Atomフィードで更新情報も掲載しています。また、アメダス観測データや1か月予報に関する気温予測データをCSV形式で取得できるようにしているほか、数値予報データのファイル形式等を確認して頂く為にサンプルデータの掲載も行っています。さらに、気象庁の気象観測地点の位置情報や、気象庁がこれまで関連団体と取り組んできた気候リスク評価に関する調査・研究の結果についても公開しています。  後述する「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」の取組等を通じて利用者の意見を把握しつつ、上記取組の更なる改善や新たなデータの提供などの基盤的データのオープン化・高度化の取組を進めていきます。 ② 「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」の取組等を通じた、気象とビジネスが連携した気象データ 活用の促進  産学官関係者の対話・連携の強化を図り、新たな気象ビジネスの創出を実現するため、2017年3月に、気象事業者に加えて、情報通信、農業、小売、金融等の関係する産業や先端技術に知見のある学識経験者等を構成員とした「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」(以下、WXBC)が設立されました。会員数は、設立当初は215、 2018年3月には300を越えるなど順調に増えています。  WXBCでは、二つのワーキンググループ(WG)を設置しました(WXBC新規気象ビジネス創出WG、WXBC人材育成WG)。WXBC新規気象ビジネスWGでは、IoT・AI等の先端技術を活用した先進的なビジネスモデルを創出するため、気象衛星・レーダー等の技術的進歩に対応した新しい気象情報の利活用を促進し、世界最高水準の気象ビジネスへの展開に向けた取り組みを、WXBC人材育成WGでは、気象情報高度利用ビジネスを推進するための、継続的な情報改善や人材育成などの環境整備を実施しています。  WXBC新規気象ビジネス創出WGでは、気象データ利用の先端事例の創出を目指し、気象データの利活用促進に繋がるよう気象データを用いたアイデアコンテストの開催、気象データがビジネスに有効に活用できることをビジネス側に伝えるための気象データのビジネス活用事例集の作成、気象データを用いた実証実験等に取り組んでいます。  WXBC人材育成WGでは、ビジネス発想力・気象データ理解力向上を目標に、気象データに関する概要や利活用方法のセミナーを、東京をはじめ、札幌・仙台・名古屋・大阪・福岡・那覇でも開催し、気象データの情報・知見、気象ビジネス事例の共有に取り組んでいます。また、IT活用力向上を目指して、「気象データ分析チャレンジ!」と題して、気象データでとオープンデータを掛け合わせてデータ分析を行う勉強会も開催しました。  また、産学官関係者が一堂に会する対話の場を設け、気象事業者と産業界のマッチングを図るものとして、「気象ビジネスフォーラム」を開催しています。この第2回会合(第2回気象ビジネスフォーラム)を2018年2月13日に開催しました。WXBC会長の東京大学 越塚登 教授による基調講演、岐阜大学大学院 吉野純 准教授によるWXBCの活動に関する講演のほか、アイデアコンテストにおけるWXBC会長賞の表彰式、パネルディスカッション等を含めたシンポジウムが行われました。会場では、WXBC会員企業等による気象に関する取組・サービスを紹介するビジネスマッチングイベントも開かれました。第2回気象ビジネスフォーラムへの当日参加者は約300名にのぼり、会場は熱気に包まれました。 イ.民間気象事業者等に対する支援  気象庁は、自らが保有する観測・解析・予報等の成果及びこれらの作成過程で得られる数値予報資料や解説資料等の気象情報を、民間気象業務支援センターを通じて、気象サービスを提供する民間の事業者(以下、民間気象事業者)等へ提供しています。これら、気象庁の保有する気象情報は、民間気象事業者が行なう予報業務の基礎資料となるほか、個別企業や個人のニーズに対応した情報に加工されることによって、産業界の多様な活動や社会サービスの基盤としても活用されています。  また、気象庁による数値予報等の予測技術の高度化に伴う新たな気象情報等が民間気象事業者に更に活用されるよう、気象庁では、民間気象事業者を対象に最新の技術や気象情報について解説する講習会を開催しています。 (4)今後の取組に向けて  気象データは、既に様々な分野において利用が進んでいますが、今後のICTの発達等により、益々その重要性は増し、一層利用が拡大していくことが期待されます。また、国土交通省では2018年を生産性革命「深化の年」としています。気象庁は、気象データの高度利用の拡大による産業活動の創出と活性化を一層推進するため、WXBCの活動が発展するよう支援するとともに、利用者との対話・連携を通じて、気象データのこれまで以上に利用しやすい形での提供と、利用しやすい環境の整備に取り組んでいきます。 2 節 民間の気象事業  気象等の現象は、交通、電力、農業、食品や衣料品販売等様々な産業に影響を与え、国民の生活に密接にかかわっており、国民及び産業界には気象情報に対する幅広いニーズが存在しています。このような個々のニーズに応えるため、民間気象事業者が活躍しています。また、近年では、高速インターネットやスマートフォンをはじめとする携帯端末の普及等、情報通信技術の目覚ましい発展と相まって、多くの国民が、情報を一方的に受けるだけでなく、自らの判断で必要とする情報を入手できるようになってきました。このようなニーズは、今後、より多様化・個別化することが見込まれることから、民間気象事業者の役割はますます重要になっています。  ここでは、民間気象事業者による適切な気象サービスの提供を支える、予報業務の許可制度や気象予報士制度について解説します。 (1)予報業務の許可制度  民間気象事業者のサービスは、創意工夫により様々な取組がなされていますが、サービスを利用する国民の側からみると、その精度や提供主体の技術力について判断することは困難です。このため、民間気象事業者が、気象や波浪、地震・火山等の現象の予報業務を行おうとする場合には、警報等の防災気象情報との整合性や、国民の期待する「正確な気象情報の提供」を確保できるよう、気象庁長官の許可が必要です。 (2)気象予報士制度  予報の精度は、現象の予想をどのような方法で行うかに左右されます。気象や波浪等の現象の予想には、数値予報資料の解釈など高度な技術を要することから、民間気象事業者が気象などの予報業務を行う際には気象予報士に現象の予想を行わせることが義務付けられており、これにより民間が行う予報の一定の技術水準を担保しています。国家資格である気象予報士になるためには、業務に必要な知識及び技能について試験を行う気象予報士試験に合格し、気象庁長官の登録を受ける必要があります。気象予報士には平成30年4月1日現在、10,134人が登録されています。また、気象予報士は、民間気象事業者が行う予報業務の中核となる技術者としてだけでなく、報道等を通じた解説や防災関係者・一般住民を対象とした講演会等、様々な場面で防災知識の普及・啓発にも貢献しています。  なお、地震動と火山現象、津波の予報業務を行うときは、技術上の基準に適合した手法で現象の予想を行うことを義務づけることにより、予報の一定の技術水準を担保しています。 6章 地域の防災力向上への取組  気象庁では、全国の気象台で、気象や地震などの観測・監視、予報・警報などの防災気象情報の発表・提供、解説などを行っています。その発信した情報などを防災・減災に繋げるためには、わかりやすい内容で適時に発信するとともに、情報の意味や意図が理解され十分に活用されるよう、「伝わる」「使われる」ための取組が極めて重要です。  このため、関係機関と連携協力し、防災の最前線に立つ市町村等への支援、実際の防災行動を行う住民等への普及啓発に取り組んでいます。  これらの取組は、巻頭の特集「地域における気象防災の強化に向けた取組」におけるように、今後、強化していきます。 1節 地方公共団体の防災対策の支援  全国の気象台では、防災の最前線に立つ市町村等に対し、緊急時の防災判断に防災気象情報を的確に活用してもらうために、都道府県等と連携するなどして様々な取組を推進しています。  平時には、市町村が防災に関する計画や避難勧告等の発令基準を定める際に、防災気象情報の活用方法について個別にアドバイスを行ったり、地方公共団体の防災担当者に対する説明会や研修などで情報の活用について積極的に説明を行ったりしています。また、気象台長が管轄内の市町村長を定期的に訪問するなど、いざという時に的確な対応ができるよう信頼関係の構築に努めています。  さらに災害発生後には、顕著現象発生当時の対応について気象台と市町村等が共に振り返りを行うなどにより、防災・減災のための取組の内容を不断に見直すこととしています。 (1)大雨時の地方公共団体への協力  台風の接近など災害が発生するおそれがある場合には、地方公共団体等の防災関係機関に対して気象状況の説明を行い、事態の推移によっては電話等で気象状況や今後の見通しを積極的に伝え、地方公共団体の災害対策本部に気象台から直接出向いて説明するなど、気象台が持つ危機感を常に共有することで適切な防災対応につながるよう地方公共団体を支援しています。 (2)地震・津波・火山災害時の地方公共団体への協力  地震・津波の防災対応は、地震発生と同時に突然始まるため、事前の準備が最も重要です。そのため緊急時において気象庁の発表する防災情報が地方公共団体の防災判断に的確に活用されるよう、平常時において前述の防災情報の活用方法についてアドバイスを行うことなどに加えて、地方公共団体が行う総合防災訓練への参加、資料の提供や地震津波の知見に関する助言等の協力に取り組んでいます。また、地域防災計画、津波避難計画への助言も積極的に取り組んでいます。また、火山の防災対応についても、平常時には地元の火山防災協議会や避難訓練への参画等地域の取組に協力しています。  その上で地震発生時には、地方公共団体や防災機関が行う防災対応を支援するため、速やかに地震や津波の情報を発表するほか、最大震度が4以上の地震が発生した場合あるいは津波注意報以上を発表した場合には、地震の概要や津波警報等の発表状況等、地震活動の状況把握に役立つ図表をまとめた地震解説資料(速報版)を地震発生から30分程度を目処に提供しています。さらに最大震度が5弱以上あるいは津波注意報以上を発表した場合等には、地震や津波のより詳しい状況等をまとめた地震解説資料(詳細版)を地震発生から1~2時間を目処に提供しています。その後、津波の推移や地震活動の状況に応じて、適時その続報を提供しています。また、状況に応じ、地方公共団体へ直接電話をかけたり災害対策本部等へ気象台職員を派遣したりして、警戒すべき事項等の詳しい解説を行っています。  火山防災においては、異常時には、気象庁から迅速な噴火警報等の発表、あるいは詳細な火山解説資料の発表を行い、そして火山の活動状況に応じ職員を現地に派遣・駐在して現地観測体制の強化を図ります。 2 節 住民への安全知識の普及啓発 (1)地域防災力アップ支援プロジェクト  気象庁では、これまでも住民等を対象とした出前講座や講演会、リーフレットやDVDの作成・配布など、様々な普及啓発活動に取り組んできました。平成23年3月の東日本大震災などの近年の災害をきっかけとして、住民等への自助・共助意識の啓発や防災教育の重要性が政府の有識者会議などで報告されています。このことを踏まえ気象庁では、様々な機関と連携・協力しながら、安全知識の理解や気象情報の利活用をより効果的に推進するための様々な取り組みを「地域防災力アップ支援プロジェクト」として進めています。  気象庁では、今後も地方公共団体や関係機関と連携しながら、気象や地震などの自然現象に対して住民自らの判断で的確な防災行動がとれるような防災意識の醸成を目指し、また、防災意識社会が構築できるよう、安全知識の普及啓発に取り組んでいきます。 (2)より効果的な取り組みへの発展に向けて  気象庁では、「地域防災力アップ支援プロジェクト」として全国の気象台で進めている数ある取り組みの中で、多くの官署で参考となる取り組みについて発表し、防災・教育・報道・広報の各専門家から助言や講評などをいただくための「ミーティング」を平成24年度から実施しており、平成29年度は平成30年2月6日に開催しました。 【専門家(五十音順、敬称略)】   広報分野 (株)電通PR 戦略コンサルティング部        エグゼクティブ・アドバイザー 花上 憲司   防災分野 神戸学院大学現代社会学部 客員教授 松山 雅洋   教育分野 東京都板橋区教育委員会安全教育専門員/鎌倉女子大学 講師 矢崎 良明  ミーティングでは「市教育委員会と連携した防災教育の展開」、「『先生が主役!』を推進する防災教育支援」、「聴覚障害者の豊かな生活に向けた普及啓発」、「地元の人々との交流から始まった火山防災教育」、「学校防災教育授業への参画」、及び「PDCAを意識した自治体との防災普及戦略」の6事例について、取り組みを実施している気象台から概要、工夫した点などのアピールポイント、成果や課題、今後の展開などについて発表を行いました。  専門家からは、「手話通訳者には事前に解説をつけた専門用語の資料を渡しておくと良い」、「過去にどのような災害があったかという知識を持つことも重要であり、その点も盛り込むと良い」、「教員養成大学への支援は大変ありがたい。全国の気象台で取り組んでもらいたい」、「その地域のニーズに合ったものにも取り組んでもらいたい」、「もっと報道機関への働きかけにより広く社会に伝えてもらいたい」、「ワークショップの前段に津波の知識を学ぶ部分を加えると、より学習効果が上がることが期待できる」など多くのご助言やご指導をいただきました。これら助言を踏まえ、今後のより効果的な取組への発展や新たな展開に繋げていきます。 (3)関係機関と連携・協力した普及啓発の取組  気象庁と日本赤十字社は、相互に協力してそれぞれが行う防災教育をはじめとする安全知識の普及啓発を一層充実し、継続的な活動とするため、平成26年3月に「防災教育の普及等の協力に関する協定」を締結しています。これにより気象庁と日本赤十字社との連携だけでなく、全国の気象台と日本赤十字社の各都道府県支部が連携して様々な普及啓発活動を行っています。  また、平成22年度に日本気象予報士会との連携事業「防災プロジェクト」を立ち上げ、日本気象予報士会が出前講座等で使用する資料の作成支援や資料作成の基礎となる気象庁の最新技術や取り組みについて情報提供を行い、日本気象予報士会の普及啓発活動を支援しています。 (4)気象庁ワークショップ「経験したことのない大雨 その時どうする?」  災害から身を守るためには、気象台から発表する警報や注意報等といった防災情報のタイミングや意味等を体系的に理解し、積極的に入手して利活用することが必要です。また、自宅周辺にある危険箇所の有無や住居の構造、家族構成等によっても必要な対応が異なるため、それぞれの状況に応じて、災害から身を守るための行動のシミュレーションを事前に行うことが有効です。  このため気象庁では、グループワーク等のコミュニケーションを活用し、深い理解を導くための能動的な学習プログラム「気象庁ワークショップ『経験したことのない大雨 その時どうする?』」(以下ワークショップ)を開発し、これを用いた普及啓発活動を全国の気象台で実施しています。  このワークショップでは、参加者は大雨による災害の種類と危険性、気象台から発表される防災情報の意味や発表のタイミング、入手方法、身近に潜む危険を知ることの大切さなどの安全知識のレクチャーを受けた後、数人のグループに分かれ仮想の街で大雨が降り続く中、気象台が発表する防災情報を活用してグループ毎に違う状況(周辺地形、住居構造、家族構成等)に応じた安全行動についてシミュレートし、話し合ってまとめます。  平成29年度は、各地の気象台のほか、学校や大学、日本赤十字社・日本気象予報士会等の団体等によって自主的に開催され、全国で約100回のワークショップが開催されました。参加者から「日頃、大雨の中での避難はかえって危険ではないかと感じていたが、「どのタイミングで」という設定はとても参考になった」、「避難情報の具体的な例が現実的な災害を想定できて役に立った」などの感想が聞かれ、アンケート結果からはワークショップに参加する前後で安全知識や防災対応力が向上するなど効果が認められています。  このワークショップの運営マニュアルやワークショップで使用する資料一式は気象庁ホームページでも公開されており、自由にご利用いただけます。(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jma-ws/) 第2部 気象業務を高度化するための研究・技術開発 1章 大気・海洋に関する数値予報技術 1節 数値予報とは  数値予報とは、計算機(コンピュータ)を用いて地球大気や海洋・陸地の状態の変化を数値シミュレーションによって予測するものです。具体的には、最初に地球大気や海洋・陸地を細かい格子に分割し、世界中から送られてくる観測データに基づき、それぞれの格子に、ある時刻の気温、風などの気象要素や海面水温・地面温度などの値を割り当てます。次に、こうして求めた「今」の状態から、物理学や化学の法則に基づいてそれぞれの値の時間変化を計算することで「将来」の状態を予測します。この計算に用いるコンピュータプログラムを「数値予報モデル」と呼んでいます。  数値予報を日々の予報作業で利用するためには、複雑かつ膨大な計算を短時間に行う必要があることから、高速なコンピュータ(スーパーコンピュータ)を活用しています。気象庁は昭和34年(1959年)にわが国の官公庁として初めて科学計算用の大型コンピュータを導入し、数値予報業務を開始しました。その後、数値予報技術や気象学などの進歩とコンピュータの技術革新によって高精度できめ細かな予報が可能となり、今日では数値予報は気象業務の基盤となっています。 2 節 数値予報モデルの現状 (1)全球モデル、メソモデル、局地モデル  気象庁では予測対象にあわせて複数の数値予報モデルを運用しています。「全球モデル」は、地球全体を対象領域として大気の状態を予測する数値予報モデルで、明後日までの府県天気予報、台風予報、週間天気予報や1か月予報、航空機や船舶向けなどの予報に利用しています。「メソモデル」及び「局地モデル」は、全球モデルより計算を行う格子を細かくし、日本周辺を対象として大雨や暴風などの災害をもたらす現象の予測を行う数値予報モデルで、警報・注意報など防災気象情報や、飛行場予報・悪天予想図など航空機の安全運航のための気象情報の作成などに利用しています。 (2)季節予報モデルと長期再解析  1か月を超える時間スケールの予報では、大気の変動と海洋の変動は互いの影響を強く受けます。このため、3か月予報、暖候期予報、寒候期予報やエルニーニョ現象を予測する「季節予報モデル」には、大気と海洋の変動を一体として予測する大気海洋結合モデルを使用しています。  また、異常気象の分析を含めた気候の監視や季節予報をより的確に行うためには、過去の気候も出来るだけ正確に把握しておく必要があります。このため、過去数十年にわたって蓄積した観測データを、最新の数値予報技術により分析する「長期再解析」にて過去の気候データを作成し、気候の監視や季節予報に活用しています。長期再解析JRA-55では昭和33年(1958年)以降の気候データを作成し、平成26年(2014年)から利用しています。 (3)海に関する数値モデル  海洋の様々な現象を把握・予測するために、「波浪モデル」、「高潮モデル」、「海況モデル」、「海氷モデル」といった各種のモデルが使われています。「波浪モデル」は、海上の風の予測値を用いて、海上における波の発達・減衰やうねりの伝播などを予測し、高波時に発表される波浪警報・ 注意報や、毎日の波浪予報、船舶向けの波浪図などに利用しています。「高潮モデル」は、台風の接近時などに海面気圧の変化と海上の風の予測値から潮位の上昇量を予測し、高潮災害が危惧される場合に、高潮警報・注意報が発表されます。「海況モデル」は、黒潮や親潮等の日本周辺の海流や海水温の状態を予測し、 海面水温・海流1か月予報の発表、また水産業等でも使用されています。「海氷モデル」は、オホーツク海南部の1週間先までの海氷密接度の分布を予測して海氷予報や船舶向けの海氷予想図に利用し、海氷の範囲等を発表しています。 (4)物質輸送モデル  大気中の物質の変化や移動などを数式で表した物質輸送モデルを用いて地球環境や気候に影響する二酸化炭素、黄砂、紫外線などの監視と予測を行っています。「二酸化炭素輸送モデル」は、二酸化炭素の世界の大気中の分布状況を図示する情報の作成に利用されています。「黄砂予測モデル」は、大陸などでの黄砂の舞い上がり、風による移動、雨などによる地上への降下を考慮して、大気中の黄砂の量や分布を予測し、黄砂情報の作成に利用しています。「化学輸送モデル」は、オゾンやその変化にかかわる物質の風による移動、地上への降下、化学物質や光による反応を通じた変化などを考慮して、上空や地上付近のオゾン濃度を予測し、紫外線情報や(全般)スモッグ気象情報の作成に利用しています。 ■エ-ロゾルの再解析データセット(JRAero)を開発  エーロゾル(大気中の微小な塵等の大気浮遊粒子)は、地球の放射収支や雲・降水過程に影響することによって気候変動や天候に大きな影響を与えるほか、呼吸器疾患などの健康へのリスクも議論されています。エーロゾルのこのような影響を精度良く評価するためには、その時間・空間的な分布を正確に再現する必要があります。しかしながら、エーロゾルは発生源が多岐にわたることや、その濃度分布変動の大きさなどから、これまで正確なエーロゾル分布の再現は困難でした。気象研究所と九州大学は、気象庁の黄砂予測などに用いられている全球エーロゾルモデル(MASINGAR)に、新たなデータ同化手法を開発・導入しました。これにより、衛星観測から得られたデータを組み込むことできるようになり、高精度かつ欠損のない過去5年分のエーロゾル再解析データセット(JRAero)を作成しました(右図)。下図は東南アジア森林火災の例です。衛星データを取り込むことで、従来のモデルでのシミュレーション結果より火災起源エーロゾルを詳細に再現することに成功しました。  JRAeroには、黄砂やPM2.5等の地上付近重量濃度、エーロゾルの光学的厚さ(大気の濁り具合で値が大きいほどエーロゾルが多いことを示す)、地上・海上への沈着量分布などが含まれています。JRAeroは、気候・天候影響への定量的な評価、疫学研究を通じた健康影響調査、海洋生物循環に代表される生態影響の評価など、エーロゾルに関する様々な研究に広く活用され、各分野の問題点の解決とフィードバックによりJRAeroの精度向上をもたらすことが期待されます。また、本研究で開発したデータ同化技術は、気象庁が行う黄砂予測にも今後適用される予定であり、視程の悪化による交通機関への影響や、洗濯物や車の汚れなど、日々の生活に影響を与える黄砂の予測精度向上が期待されます。 3 節 数値予報の技術開発と精度向上  防災気象情報の的確な提供や天気予報の精度向上のためには、その基盤となる数値予報技術の向上が不可欠です。数値予報は、コンピュータの性能向上を背景に、数値予報モデルの開発改良によってたゆまぬ進歩を遂げてきました。気象庁では、最新の科学技術を取り入れ、数値予報のさらなる精度向上を図る取組を続けています。  その一つは、規模の小さい現象を予測するためにモデルの計算を行う格子の間隔を細かくすること(高解像度化)と、下図に示すような大気、海洋、陸地で発生する様々な過程をより正確に再現する改良です。高解像度化によって計算量が大きく増えるため計算に要する時間が長くなりますが、その一方で、防災気象情報や天気予報で計算結果を用いるためには、所定の時間内に計算を終了させる必要があります。このため、膨大な計算を高速化する方法や、様々な過程を精度良くかつ効率的に計算する方法の開発に取り組んでいます。更には、これらの過程はお互いに影響を及ぼし合っているため、それぞれの過程自体を精度良く扱うだけでなく、それらの相互作用についても考慮し、数値予報モデル全体として予測精度を向上させるための取組みも行っています。  さらに、世界中から様々な観測データを集めて「今」の大気の状態を精度よく数値予報モデルに取り込むためのデータ同化技術の高度化も併せて行っています。特に、ひまわりをはじめとする気象観測衛星や地球観測衛星などの人工衛星、航空機、ウィンドプロファイラ、ドップラーレーダーなどから刻々と送られてくるデータをより有効に利用する手法の開発・改良に重点的に取り組んでいます。 4 節 地球温暖化予測  気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、5~7年おきに、気候変動に関する3つの作業部会(1:自然科学的根拠、2:影響・適応・脆弱性、3:緩和)で、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行い、その結果を評価報告書としてとりまとめています。これらの報告書は、国内外の地球温暖化対策に科学的根拠を与える重要な資料となっており、平成25~26年(2013~2014年)に最新であるIPCC第5次評価報告書が公表されました。次の第6次評価サイクルでは、ホーセン・リー議長をはじめとする新体制の下、各作業部会の報告書のアウトラインや執筆者が決定し、平成33~34年(2021~2022年)の報告書公表に向けて現在活動中です。世界の研究機関ではこのIPCCの活動にとって必要な地球温暖化予測の情報を提供するために、最新の気候モデルによる予測実験を実施しています。  気象研究所では、大気モデルと海洋モデルを結合した気候モデルに、エーロゾル、オゾンや炭素の循環を表現するモデルを組み合わせた地球システムモデルを開発しています。IPCC第6次評価報告書に向けてモデルの改良を終え、過去から現在に至る歴史再現実験や21世紀末までの将来予測実験を開始しています。  また、アジアをはじめとした地域的な気候表現をさらに高精度化したモデル実験をもとに、台風の発生頻度や降水現象の将来変化などの研究を進めて、アジア各国の研究者による地球温暖化研究に貢献します。さらに、日本域の詳細な地球温暖化予測を可能とする高解像度の地域気候モデルを開発し、温暖化に伴う地域気候の将来変化を予測することにより、我が国の政府機関や地方公共団体などによる温暖化への適応策策定や立案に貢献していきます。 ■地球温暖化により猛烈な台風が増える?内陸の豪雪が増える?  将来のさらなる地球温暖化に備えるための適応策を考えるうえで、気候変動の予測結果にどのくらい信頼性があるのかを知ることが必要です。しかし、台風や豪雪などの発生頻度の低い事象(極端事象)の将来予測は、シミュレーションの年数の少なさから、その信頼性は十分とは言えませんでした。  気象研究所を含む多数の国内研究機関が実施した大規模(約5000年分)のシミュレーションによりd4PDF(database for Policy Decision making for Future climate change)と呼ばれるデータベースが完成し、極端事象の将来予測について信頼性の高い結果を得ることができました。d4PDFは、将来の高潮や洪水に対する防災研究、農業や自然環境への影響評価研究等、様々な極端事象の将来変化を解明する研究に活用されています。ここでは、地球温暖化が最悪のシナリオで進行した場合の、21世紀末における台風と日本の豪雪の変化について紹介します。  まず、台風に関しては、全世界での発生数は現在よりも減るものの、個々の台風は強まることと、日本の南海上からハワイ周辺およびメキシコの西海上にかけて、猛烈な台風は現在よりも高い頻度で現れる可能性が高いことが分かりました(次頁上図)。海面水温の上昇や大気中の水蒸気量の増加、大気循環の変化などがこれらの変化に影響していると考えられています。  次に降雪に関しては、ひと冬を通した総降雪量は、北海道内陸部の一部を除いて全国的に減少します(次頁下図左)。一方、10年に1度の頻度で発生する強い日降雪(豪雪)は、本州や北海道の内陸部で増加する結果が得られました(次頁下図右)。21世紀末においても冬季の気温が0℃を下回るこれらの地域では、地球温暖化に伴う大気中の水蒸気の増加などの理由で、現在は稀にしか発生しない豪雪がより高頻度で発生する可能性が高いと考えられます。  今回の台風や日本の豪雪についての将来の見通しが、国民生活の安全性を高める施策決定に役立つことが期待されます。 2章 新しい観測・予測技術 1節 スーパーコンピュータシステムの更新  気象庁では、より高精度の気象予測を行うために、第10世代となるスーパーコンピュータシステムを2018年6月から運用します。このスーパーコンピュータは、気象計算のプログラムを従来に比べて10倍の速度で処理できるようになります。1959年に運用を開始した初代スーパーコンピュータと比較すると1兆倍以上の理論演算性能(18PFLOPS※1)をもち、一般的なパソコン(100GFLOPS※2)を約18万台合わせた性能に相当します。  気象庁では、この計算能力を利用して、数値予報や衛星データ処理を引き続き実施するとともに、以下に記す大雨や台風の予測技術の向上に向けた改良を行うことを計画しています。 ※1 PFLOPS:1秒間に1000兆回演算が出来る性能  ※2 GFLOPS:1秒間に10億回演算が出来る性能 (1)降水短時間予報の15時間先までの延長  気象庁では、6時間先までの1時間降水量を約1キロメートル四方で予測する「降水短時間予報」を提供しています。平成30年6月からは、従来の予測に加えて、7時間先から15時間先までの1時間降水量の予測を、約5キロメートル四方で提供開始する予定です。  これにより、夜間から明け方にかけての台風等による大雨の予報を前日夕方の時点で降水量分布図として提供できるようになります。ただし、急に発達する積乱雲など現象の予想が難しい場合もありますので留意してください。 (2)台風強度予報の5日先までの延長  気象庁では、より早い段階での防災対応に資するため、現在3日先まで発表している台風の強度予報(中心気圧、最大風速、最大瞬間風速、暴風警戒域の予報)を平成30年度末までに5日先まで延長する予定です。これにより、例えば4日先や5日先に台風が日本へ接近することが予想される場合、台風の接近が見込まれる地域では、台風の強さの情報もあわせて参照することで、より早い段階から効果的な防災対応が可能となります。 (3)メソアンサンブル予報システムの導入  数値予報では、実際の大気の状態を、様々な観測データを利用してコンピュータ上に可能な限り正確に再現し、これを出発点(初期値)として将来の大気の状態を予測します。しかし、実際の大気状態と初期値との間には誤差があり、その誤差は予測時間と共に増大します。このような性質があることから、初期値等にわずかな「ずれ」を与えて複数の予報をしたときに結果が互いにどれだけ異なってくるかを見ることで、予測の信頼度を推定しようとする手法を「アンサンブル予報」といいます。  メソアンサンブル予報システムは、メソモデルで行うアンサンブル予報のシステムです。これにより、例えば大雨や暴風など災害をもたらす激しい気象現象が発生する可能性について、一つのメソモデルの予測結果では把握できなくても、複数の予測結果を用いることによって、早い段階で把握することができるようになります。また、これまでは予測が困難であった、可能性の低い激しい気象現象を想定できるようになります。  気象庁では、平成31年6月を目途に本システムの運用を開始する予定です。 2 節 鉄道の安全運行のための突風探知アルゴリズムの開発  竜巻等突風は破壊的な力を伴うため、被災前に対策を取ることは重要な課題です。例えば鉄道に対しても災害や輸送障害をもたらす可能性があり、突風に対する的確な情報の提供が求められています。しかし、突風は小規模で短時間に生じるため、それらを的確に捉え、予告的な情報を提供することには、大きな技術的困難がありました。  気象研究所は、突風そのものをリアルタイムかつ直接的に把握し、それに基づいた情報提供をすることにより、突風災害の防止及びその軽減に大きく寄与することを目指し、広範囲の風を面的にかつ短い時間間隔で連続的に計測することが可能な小型ドップラーレーダーによる突風探知アルゴリズムを東日本旅客鉄道株式会社と共同で開発しました。このアルゴリズムは概ね、突風をもたらす可能性のある渦のパターンを探知、探知された渦を時間的に追跡して渦の強さと移動速度を算出、探知された渦がもたらすと考えられる最大風速と予測進路を算出、で構成されます。  本アルゴリズムは、突風が線路を通過する前に列車を運行停止させるための情報として、平成29年(2017年)12月19日から、東日本旅客鉄道株式会社により山形県庄内地域を対象とした運転規制に活用されています。今後は冬季日本海側の突風だけではなく、様々な地域や季節の竜巻に広く適用できるより高い汎用性を目指します。  また、今回開発した突風探知アルゴリズムは、将来型気象レーダーとして期待されているフェーズドアレイレーダー※の観測データを用いる高度なアルゴリズムに発展させる計画です。これらアルゴリズムの汎用化や発展は、鉄道のみならず、突風の影響を受けやすい様々な産業での実用化につながるものと期待されます。さらに本アルゴリズム開発を通じて得られた、突風に関する学術的知見やレーダーデータ処理に関わるノウハウを活用することにより、気象庁の竜巻等突風に関する監視予測技術及び防災気象情報の高度化への寄与も期待されます。 ※フェーズドアレイレーダー:超高速3次元スキャンレーダー。従来のレーダーで機械的に行ってきたアンテナの上下方向のスキャンを電子的に行うことで、最短10秒で全天3次元観測が可能とした気象レーダー。 3 節 水中グライダーによる高解像度海洋観測技術の開発  気象研究所では、大気中の二酸化炭素濃度に大きな影響を及ぼす海の物質循環の実態を明らかにするために、水中グライダー(以下、グライダー)による海洋観測を開始しました。グライダーは、海面から水深1000メートル付近まで、潜航と浮上を数時間おきに繰り返しながら、海中を時速1キロメートルほどの速さでゆっくり進み、水温、塩分、酸素、植物プランクトン(クロロフィル)などのデータを何か月にも亘って高い分解能で取得できる自律航行型の水中ロボットです。海面に浮上した時に、船や陸との間で衛星電話回線を利用して双方向に通信し、グライダーの進路や潜航深度を変更したり、グライダーから最新の観測データを受信することもできます。グライダーは、これらの優れた特長によって、水温分布などをモニターしつつ、観測したい海域に向けて自動航行しながら観測することができます。  こうした特長のおかげで、グライダーによる観測は、自動観測装置として世界的に展開されている中層フロートでは困難な、海の内部の熱や二酸化炭素の輸送に重要な働きがあると考えられる数十キロメートルから数百キロメートルの渦の構造の観測に有効です。春から夏にかけて植物プランクトンが増殖し、光合成によって酸素が増えてゆく様子なども、海流で遠くに流されることなく、詳しく調べることができます。  気象研究所では、グライダーによる観測技術を確立することで、さまざまな要素の正確な観測データを得られる観測船や、中層フロート等の観測ネットワークなどと合わせて、海の内部の調査を進めていきます。これにより、海の内部の水温、塩分だけでなく、中層フロートでは観測できなかった酸素などの構造も詳しく把握し、気候変動予測に利用する地球システムモデルの検証に役立つ物理現象や物質循環の理解などに役立てることを目指しています。 3章 地震・津波、火山に関する技術開発 1節 地震災害軽減のための技術開発  気象研究所では、将来、巨大地震が発生すると懸念されている南海トラフ周辺の、プレート境界における深部低周波地震やゆっくりしたすべり(ゆっくりすべり)(図)などの様々な現象に対する検知・解析能力を高めるための研究を行っています。また、大地震が発生した際に、その地震の規模やすべり範囲を早期に推定することにより、的確な災害対策に貢献する研究を行っています。  気象研究所では、緊急地震速報をより早く、より正確に発表するための新しい手法として、地震の揺れが伝わってくる様子(揺れの分布)からまだ揺れていない場所での揺れを予測する方法の更なる高度化を進めています。さらに、高層ビルが大きく揺れる原因となる長周期の地震動にも対応できるよう研究を行っています。 2 節 津波災害軽減のための技術開発  気象研究所では、津波警報等更新の精度向上を図るために、沖合でいち早く観測された津波波形データを使って沿岸に押し寄せる津波を即座に精度よく予測するための手法の開発や、日本から遠く離れた外国で発生した津波(遠地津波)に対する津波警報等を適切なタイミングで解除するための津波の減衰過程の研究に取り組んでいます。また、過去には、明治三陸地震津波に代表されるような津波地震や、山体崩壊で岩石のなだれが海へ突入したことによる津波により、甚大な被害が発生しました。このような、通常の地震に伴う津波とは異なる現象に関する解析や対策についてシミュレーションも用いて(図)研究を行っています。 3 節 火山の監視・予測のための技術開発  気象研究所では、火山活動の監視・予測技術の高度化のために、気象レーダーを用いた噴火による噴煙の観測技術の開発を進めています。平成28年(2016年)10月8日の阿蘇山の噴火では、噴き上げられた噴煙は高度10キロメートル以上まで到達し、広範囲に降灰や降礫(こうれき)が観測されました。  噴火発生時、この噴煙は気象庁の気象レーダーによって捉えられ、噴煙が周囲の風に流され四国上空を通過する様子が確認されました。この噴火事例では、気象レーダーによって噴煙の流される方向や高さを把握することができ、噴煙の検知の可能性が改めて示されました。  また、気象研究所では、噴火による火山灰(礫)の拡散予測のための数値予報モデル(拡散モデル)の開発・改良も進めています。この予測では、日々の天気予報等のために数値予報モデルで計算されている結果を用いて、火山灰(礫)がどのように風で流されるかをスーパーコンピュータを用いて計算します。上述の阿蘇山の噴火の事例では、深夜の噴火であり、また気象条件も悪く噴煙の様子をカメラ等では捉えることができず、火山灰(礫)の拡散予測が困難な事例でしたが、気象レーダー観測の結果を用いると、火山灰(礫)が上空の風によって流される様子を精度良く再現することができました(右図)。  気象研究所では、今後も引き続き、レーダーを活用した噴煙監視技術や火山灰・火山礫の拡散モデルの開発・改良を進め、降灰の予測や大気中の火山灰の予測の精度をさらに高めるための研究に取り組んでいきます。 4章 大学や研究機関と連携した研究・技術開発  数値予報モデルをはじめとした気象や海洋、地震・火山・津波の監視・予測の技術を向上させるためには、各分野の最先端の知見や研究成果を活用することが必要です。このため気象庁は、国内の大学・研究機関や、諸外国の気象機関などとも情報や意見の交換を行いながら研究・技術開発を進めています。  国内の大学や研究機関とは、気象や海洋、地震・火山・津波のそれぞれの分野で合計160余りの共同研究を実施しています。いくつかの共同研究の成果は気象庁で活用されており、例えば、緊急地震速報の実用化も共同研究の成果のひとつです。  気象の分野の研究に関しては、日本気象学会との間で「気象研究コンソーシアム」という研究の枠組みを設けて、気象研究の発展、気象研究分野の人材育成及び気象業務の予測精度の向上を図っています(コラム「気象研究コンソーシアム」参照)。数値予報モデル開発に関しては、気象予測や数値シミュレーションのための数値予報モデルを利用する研究者に、気象庁が実際の予報に用いているモデルを貸与し、数値予報技術を用いた研究を促進しています。また、「気象庁数値モデル研究会」を開催し、大学や研究機関の研究者との交流を図っています。平成29年5月には「数値モデルによる積乱雲とその効果の表現」をテーマとした第10回気象庁数値モデル研究会を、日本気象学会とメソ気象研究連絡会の合同で実施しました。更に、平成29年からは大学等研究機関の専門家による「数値予報モデル開発懇談会」を開催し(7月・12月)、一層の連携強化を図っています(トピックスⅣ-1「オールジャパンでの数値予報モデル開発」参照)。  気候の分野では、猛暑や豪雪等の社会・経済に大きな影響を与える異常気象が発生した場合に、その発生要因について最新の科学的知見に基づく分析結果を発表するため、大学や研究機関の専門家と連携して分析を行う「異常気象分析検討会」を運営しています。平成30年3月には、強い寒気の影響で低温や大雪となった平成30年冬の天候について、検討会でその要因を分析し、見解を報道発表しました。 ■気象研究コンソーシアム  近年の気象研究において、様々な観測データの数値予報モデルへの利用や、アンサンブル手法による予測可能性など、高度にシステム化された研究が行われるようになりました。更なる気象学の発展のためには、大学、国立研究開発法人などの各研究機関と気象現業システムを持つ気象庁が連携して研究を進めていくことが不可欠です。  このような背景のもと、我が国における気象研究の発展、大学等における気象研究分野の人材育成及び気象庁の気象業務の予測精度の向上を目的とし、気象庁と公益社団法人日本気象学会との枠組みである気象研究コンソーシアムを実施しています。本コンソーシアム参加メンバーには、気象庁の数値予報による解析・予測データや気象衛星による観測に基づくデータ等を提供しています。現在、気象・気候分野における予測技術の開発や、現象の解明のための約50の研究課題が行われ、気象庁の業務の改善に反映されて国民の皆様により精度の高い気象情報を届けることや、気象学の将来を担う最先端の研究・業務に精通した人材を育成することが期待されています。  平成29年5月の気象学会春季大会では、専門分科会「気象庁データを利用した気象研究の現状と展望」を開催し、特に現業数値予報の現状と今後、諸外国におけるデータの利活用、オープンデータなど幅広く議論し、気象庁データが拓く新しい気象研究について展望しました。  更に、数値予報モデル開発における大学等研究機関との連携でも、気象研究コンソーシアムが期待されています(トピックスⅣ-1「オールジャパンでの数値予報モデル開発」参照)。 第3部 気象業務の国際協力と世界への貢献  「大気には国境がない」と言われるように、大気現象は国境に関係なく動いています。精度の良い天気予報とそれに基づく的確な警報・注意報の発表のためには、世界の気象観測データや技術情報の相互交換が不可欠です。気象分野のみならず、気候や海洋、地震・津波、火山分野においても、国境を超えて影響する気候変動や自然災害等への対応のためには国際協力が重要です。このため、気象庁は、世界気象機関(WMO)等の国際機関を中心として世界各国の関連機関と連携しているほか、近隣諸国との協力関係を構築しています。 1章 世界気象機関(WMO)を通じた世界への貢献  WMOは、世界の気象業務の調和的発展を目標として設立された国際連合の専門機関の一つです。世界気象会議(全構成員が出席)を4年毎に開催し、向こう4年間の予算や事業計画を審議するほか、執行理事会(世界気象会議で選出された37名が出席)を毎年開催し、事業計画実施の調整・管理に関する検討を行っています。我が国は昭和28年(1953年)の加盟以来、アジア地区における気象情報サービスの要として中心的な役割を果たしてきており、歴代気象庁長官は執行理事としてWMOの運営に参画しています。国際的なセンター業務を数多く担当するほか、気象庁の多くの専門家が専門委員会や地区協会の活動に貢献しています。  世界の国々が効率的な気象業務を行うためには、統一された方法による大気や海洋の観測、データの迅速な交換、高度なデータ処理に基づく気象情報の作成・提供が必要です。  例えば、気象庁はアジア地区を担当する地区測器センターに指名されており、各国の観測データの品質が保たれるよう、基準となる気象測器の管理や、気象測器の比較校正の支援及び保守等の指導を行っています。この活動は、各国における観測技術の向上に寄与するだけでなく、品質の良い観測データを得ることによって、気象庁が行う天気予報等の精度向上につながるものです。  観測データ等を国際的に迅速に交換するためには、全世界的な気象通信ネットワークが不可欠です。気象庁は、全球情報システムセンター(GISC東京)及びアジア地区通信中枢(RTH東京)として様々な気象・気候データを確実に流通させ、東アジア地域におけるデータ交換の中継を担っています。また、世界各国との技術協力や主に東南アジア地域を対象とした技術支援を通じて気象通信技術の高度化を推進し、観測データ等の効率的な国際交換・提供に貢献しています。  こうして収集した世界の観測データ等を活用して気象庁が作成したプロダクトは、再び気象通信ネットワークを通じて各国に提供され、各国が行う気象予測や防災活動のために利用されています。気象庁が、北西太平洋域の熱帯低気圧に関する地区特別気象センター(RSMC東京)として提供する情報もその一つです。責任領域内の熱帯低気圧について、解析や予報、予報の根拠、数値予測の情報等をリアルタイムに提供することで、同領域内の各国が行う解析・予報を支援しています。このほか、地区気候センター(Tokyo Climate Center)として、アジア太平洋地域における気候関連業務に関する技術協力を行うとともに、気候情報に関する研修セミナーの開催を通じて人材育成支援を行っています。 ■台風委員会年次会合を28年ぶりに日本で開催  台風委員会は、北西太平洋域の台風による災害の防止・軽減を目的として、世界気象機関(WMO)等の支援の下に設置されている国際地域機関で、日本を含む14の国・地域が加盟しています。我が国は、他の加盟国・地域に対して台風の解析・予報結果の提供、ひまわり8/9号による各種プロダクトの提供、台風予報官に対する研修などにより、台風委員会における様々な活動に貢献しています。  平成29年2月21日~24日の日程で、同委員会の第49回年次会合が横浜市で開催され、加盟国・地域から気象・水文・防災に関する政府機関職員など約100名が参加しました。同会合を日本が主催するのは平成元年の第22回会合以来28年ぶりとなります。  会合冒頭の開会式では根本幸典国土交通大臣政務官(当時)が主催国政府を代表して挨拶を行い、日本が北西太平洋域の台風災害防止・軽減に引き続き取り組んでいくことを述べるとともに、開会宣言を行いました。また、ペッテリ・ターラスWMO事務局長は、日本の主催に対する謝意を示すとともに、台風委員会の活動に対するWMOの今後の継続的な支援を表明しました。  開会式に引き続いて議事に進み、冒頭で橋田気象庁長官が台風委員会議長に選出され、次回会合までのおよそ1年間その任にあたることになりました。その後、台風に関する最新の研究・技術開発の成果などに関する科学講演が行われました。気象庁からは、日本における「新たなステージ」に対応した防災気象情報の改善を中心に、最近の取り組みについて紹介しました。参加者からは多くの質問が寄せられ、日本の防災気象情報に対する関心の高さがうかがえました。  2日目以降は、台風委員会で取り組んでいる様々なプロジェクトや気象・水文・防災等の各作業部会に関する活動報告と2017年の活動計画や予算の承認が行われました。さらに、台風委員会の新しい戦略計画(2017-2021)の策定に関して幅広い議論が交わされ、日本は米国と協力してその草案を作成するなど議論をリードしました。日本代表団による採択直前までの議場内外での関係者との調整が実り、戦略計画は最終日に採択され会合は終了しました。  気象庁では、引き続き台風委員会の活動に積極的に関与し、北西太平洋域の台風による災害の防止・軽減に貢献していきます。  このように、WMOの枠組みの下で行う国際協力は、世界の観測データ等を確実に入手して精度の良い天気予報等を行い、我が国の防災に資すると同時に、開発途上国等の気象業務サービスの向上を支援することによって、海外で活動する日系企業や在外邦人の安全確保にも貢献しています。 2章 国連教育科学文化機関(UNESCO)を通じた世界への貢献  UNESCO政府間海洋学委員会(IOC)は、世界気象機関(WMO)とも協力し、各国の海洋に関する科学計画の調整を行っています。気象庁は、海洋・津波分野での技術的貢献をしています。 (1)北東アジア地域海洋観測システム地域リアルタイムデータベース  日・中・韓・露が協力し、北東アジア域の海洋、海上気象データの収集、解析、提供を行っています。 (2)津波の警報に関する国際協力  北西太平洋における地震を監視し、津波を発生させるおそれのある大きな地震が発生すると、地震や津波に関する情報を速やかに周辺各国に通知するとともに、各国からの情報を収集して国内の津波防災情報に役立てています。 3章 国際民間航空機関(ICAO)を通じた世界への貢献  ICAOは国連の専門機関の一つであり、国際民間航空業務の健全な発達のために設立されました。気象庁は、ICAOが主催する航空気象に関する会合に積極的に参加し、航空気象業務の国際的な統一基準の策定や高度化に向けた検討に参画しています。また、ICAO の指定を受けて、東京航空路火山灰情報センター、熱帯低気圧情報センター等の国際的なセンター業務を担当し、世界の航空機の安全運航に貢献しています。 4章 国際的な技術開発・研究計画との連携  気象業務の充実・改善のためには、数値予報モデルの開発・改良に代表される技術開発が不可欠です。気象庁は、各国と協力して様々な国際的な研究計画を進めています。  地球温暖化問題については、昭和63年(1988年)に設立された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の活動に対し、気候モデルによる地球温暖化予測をはじめとする研究成果が評価報告書に盛り込まれる等、積極的に貢献しています。 5章 開発途上国への人材育成支援・技術協力について  気象庁は、開発途上国の気象機関等に対し、上で述べたWMOの他、政府開発援助、二国間協力等の枠組みを通じて専門家の派遣や研修等を実施しており、気象、海洋、地震・火山などの様々な分野における人材育成支援・技術協力活動を行っています。  こうした活動のうち、国際協力機構(JICA)課題別研修の一つである「気象業務能力向上」コースでは、アジア、アフリカ、南米などの気象機関の職員を毎年8名程度、約3か月間にわたって気象庁にて受け入れ、気象庁職員が講師となり、気象業務に直結する技術の習得及び研修成果の現地での普及を目的として、講義・実習を行っています。受講者数は、研修を開始した昭和48年度以降、計76か国341名にのぼり、その多くは帰国後、母国の気象業務の発展に主導的な役割を果たしています。  また、平成27年度から29年度にかけて、世界最先端の気象衛星「ひまわり8号」の観測データをより効率的に利用して気象現象等の監視・予測及び防災活動に役立ててもらえるよう、WMO・JICAと連携して途上国20か国にひまわり受信環境を整備しました。併せて、気象庁専門家を現地気象局に派遣してデータ利用に関する研修を実施し、衛星画像等表示解析ソフトの使い方、実例を用いた気象衛星画像解析など、時間の許す限り講義や実習を行いました。本研修はどの気象機関からも歓迎され、「また研修に来てほしい」との要望も多く寄せられました。  このほか、大雨による洪水や土砂災害等の被害が多く見られる東南アジア地域を中心に、気象レーダー利用に関する技術支援を行っています。平成30年2月には、WMO及び東南アジア諸国連合(ASEAN)と連携して、「気象レーダーデータ利用に関する研修ワークショップ」をタイで開催しました。東南アジアでは、気象レーダーを十分に気象現象の監視等に利用する技術を持たない気象機関が多いことから、気象庁をはじめとした我が国の専門家が講師となって、地域内10か国の気象機関から参加した30名に対してレーダーデータの精度向上技術等に関する研修を行いました。  気象庁では、様々な活動を通じて各国気象機関との協力関係を強化しながら、世界の気象防災の推進に貢献しています。 第4 部 最近の気象・地震・火山・地球環境 1章 気象災害、台風など 1節 平成29 年(2017 年)のまとめ  平成29年は、梅雨前線が日本付近に停滞した影響で、6月から7月にかけて各地で大雨となりました。特に、7月5日から6日にかけては、対馬海峡付近に停滞した梅雨前線の影響等で、九州北部地方で記録的な大雨となりました。気象庁では、九州北部地方で発生したこの豪雨について「平成29年7月九州北部豪雨」と命名しました。  9月には、九州、四国、本州へ上陸した台風第18号や日本付近に停滞した前線の影響で、沖縄・奄美から西日本、北海道を中心に大雨や暴風となりました。10月には、台風第21号が静岡県掛川市付近に超大型・強い勢力で上陸し、西日本から北日本の広い範囲で大雨や暴風となりました。 2 節 平成29 年(2017 年)の主な気象災害 ・平成29年7月九州北部豪雨及び6月7日から7月27日にかけての梅雨前線等による大雨  6月7日から7月27日にかけて、日本付近に停滞した梅雨前線の活動が断続的に活発となり、また、台風第3号が7月1日から5日にかけて日本に接近・上陸し、各地で大雨となりました。  6月19日頃から21日頃にかけては梅雨前線上を低気圧が東に進み、近畿地方の多いところで日降水量が400ミリを超えるなど、西日本を中心に大雨となりました。また、6月29日頃から7月6日頃にかけて、梅雨前線の活動が活発となり、台風第3号が日本に上陸し、これらの影響で九州から東北地方で大雨や暴風となりました。特に7月5日から6日にかけては、停滞した梅雨前線に向かって暖かく非常に湿った空気が流れ込んだ影響等で、線状降水帯が形成・維持されました。このため、猛烈な雨が同じ場所で降り続き、期間中の最大1時間降水量が福岡県朝倉市朝倉で129.5ミリに、また、降り始めからの降水量は、福岡県朝倉市朝倉で586.0ミリ、大分県日田市日田で402.5ミリ、中国地方でも300ミリを超えるなど、記録的な大雨となりました。その後、7月22日頃から23日頃にかけては、梅雨前線が北陸地方から東北地方に停滞し、東北地方の多いところで日降水量が200ミリを超える大雨となりました。  このほか、6月29日に福岡県で、7月7日に鹿児島県で、7月16日から18日にかけて関東地方で、7月27日に沖縄県で竜巻等の突風が発生しました。  これらの大雨等の影響で、土砂災害や河川の氾濫、浸水害等が発生し、甚大な被害となりました。特に、平成29年7月九州北部豪雨により、福岡県朝倉市を流れる赤谷川等の中小河川の氾濫のほか、土砂災害や浸水害等が相次いで発生するなど、6月30日頃からの梅雨前線による大雨や台風第3号による大雨による人的被害は死者42名、行方不明者2名となりました。また、7月22日頃からの梅雨前線による大雨では、東北地方を中心に河川の氾濫や浸水害等が発生し、雄物川やその支川等が氾濫した秋田県等で住家浸水などの被害が発生しました。(※) ※被害状況は以下の情報による。 ○内閣府 6月30日からの梅雨前線に伴う大雨及び平成29年台風第3号による被害状況等について(平成30年1月17日12時00分現在) 7月22日からの梅雨前線に伴う大雨による被害状況等について(平成29年8月9日18時00分現在) ○国土交通省 6月30日からの梅雨前線に伴う大雨及び台風第3号による被害状況等について(平成30年1月17日11時00分現在現在) 7月22日からの梅雨前線に伴う大雨による被害状況等について(平成29年8月9日16時00分現在) ○消防庁 平成29年6月30日からの梅雨前線に伴う大雨及び台風第3号の被害状況及び消防機関等の対応状況等について(平成30年1月22日16時00分現在) 平成29年7月22日からの梅雨前線に伴う大雨による被害状況等について(平成30年2月13日16時00分現在) ・平成29年台風第18号及び前線による9月13日から9月19日にかけての大雨及び暴風  平成29年台風第18号は、9月13日から14日にかけて宮古島付近を北上した後、東シナ海で進路を北東に変えました。台風は、17日11時半頃に鹿児島県薩摩半島を通過し、同日12時頃、鹿児島県垂水市付近に上陸した後、同日16時半頃に高知県西部に再上陸し、更に同日22時頃に兵庫県明石市付近に再上陸しました。台風はその後日本海に抜け、18日3時に佐渡島付近で温帯低気圧となりました。  台風第18号や台風から変わった温帯低気圧、日本付近に停滞した前線の影響で、西日本から北日本にかけて猛烈な雨を観測し、降り始めからの降水量が、宮崎県宮崎市田野では618.5ミリを観測するなど、沖縄・奄美や西日本で500ミリを超える大雨となりました。また、沖縄・奄美や西日本では風速30メートルを超える猛烈な風を観測したところがあり、沖縄地方から北海道地方に至る広い範囲で風速20メートル以上の非常に強い風を観測しました。このほか、この期間中に、宮崎県や高知県、北日本で竜巻等の突風が発生しました。  このため、河川の氾濫や浸水害、土砂災害等が発生し、人的被害は死者5名となりました。また、大分県をはじめ西日本を中心に住家浸水などの被害が発生したほか、全国各地で停電や通信設備等のライフラインへの被害、鉄道の運休や航空機・船舶の欠航等の交通障害が発生しました。(※) ※被害状況は以下の情報による。 ○内閣府 平成29年台風第18号による被害状況等について(平成29年9月22日18時00分現在) ○国土交通省 台風第18号による被害状況について(平成29年9月22日16時00分現在) ○消防庁 平成29年台風第18号による被害及び消防機関等の対応状況等について(平成30年2月13日16時00分現在) ・平成29年台風第21号及び前線による10月20日から10月23日にかけての大雨及び暴風  平成29年台風第21号は、10月21日から22日にかけて日本の南を北上し、その後、四国沖を北東に進みました。台風は、23日3時頃に静岡県掛川市付近に超大型・強い勢力で上陸した後、関東地方を北東へ進み、23日9時に日本の東で温帯低気圧となりました。  台風第21号や台風から変わった温帯低気圧、日本付近に停滞した前線の影響により、西日本から東日本、東北地方の広い範囲で大雨となりました。特に近畿地方や東海地方で、降り始めからの降水量が500ミリを超え、和歌山県新宮市新宮では48時間の降水量が888.5ミリを観測し、観測史上1位の値を更新するなど、記録的な大雨となりました。また、西日本や東日本、北海道地方で風速30メートル以上の猛烈な風を観測したところがあり、沖縄地方から北海道地方に至る広い範囲で風速20メートル以上の非常に強い風を観測しました。  このため、西日本から北日本にかけての広い範囲で、河川の氾濫や浸水害、土砂災害が発生し、人的被害は死者8名となりました。また、近畿地方や東海地方を中心に住家浸水などの被害が発生したほか、全国各地で停電や通信設備等のライフラインへの被害、鉄道の運休や航空機・船舶の欠航等の交通障害が発生しました。(※) ※被害状況は以下の情報による。 ○内閣府 平成29年台風21号による被害状況等について(平成29年11月6日16時00分現在) ○国土交通省 台風第21号による被害状況について(平成29年11月6日12時00分現在) ○消防庁 平成29年台風第21号による被害及び消防機関等の対応状況等について(平成30年2月14日18時00分現在) 3 節 平成29 年(2017 年)の台風  平成29年(2017年)の台風の発生数は平年並の27個(平年値25.6個)でした。7月には8個(平年値3.6個)の台風が発生し、台風の統計を開始した昭和26年(1951年)以降、7月の発生数としては昭和46年(1971年)と並び最多となりました。そのほかの月は平年並か少なめの発生数となり、年間の発生数としては平年並となりました。  日本への接近数は平年より少ない8個(平年値11.4個)でした。上陸数は、平年値2.7個より多い4個(第3 号、第5 号、第18 号、第21号)でした。 ■平成29年(2017年)の台風の特徴  平成29年(2017年)の台風の特徴は以下の通りです。  7月は、南シナ海からフィリピンの東海上にかけてと南鳥島の東海上で海面水温が平年よりも高かったことなどにより対流活動が活発となり、多くの台風が発生しました(左下図)。そのうち、南鳥島の東海上で発生した台風第5号は、長い期間をかけて日本の南東~南海上を移動したあと和歌山県に上陸し、奄美地方や近畿地方を中心に西日本・東日本の広い範囲に大雨をもたらしました。台風期間が長かったのは、上空の渦や別の台風との相互作用、日本付近の偏西風が北に蛇行していたことなどにより、ゆっくりとした速度で複雑な経路を辿ったためと考えられます(右下図)。  10月には台風第21号が超大型の勢力で静岡県に上陸し、広い範囲に暴風をもたらすとともに、近畿地方を中心に西日本から東日本、東北地方の広い範囲で大雨となりました。この時期に上陸したのは、台風が日本の南海上にあった頃に、日本の東で上空の高気圧が強まり台風を北上させる流れとなったためと考えられます。  また、秋に発生したとみられるラニーニャ現象により、秋以降、通常よりもフィリピンに近い海域で台風が発生しやすい状況となり、平均発生位置は平年より西となりました。発生位置が西寄りで陸に近く、台風の勢力のまま長い距離を移動できない台風が多くなり、平均の台風期間は平年よりも短くなりました。 2章 天候、異常気象など 1節 日本の天候  2017年(平成29 年)は、梅雨の時期に「平成29年7月九州北部豪雨」など記録的な大雨となった所がありました。8月は北・東日本太平洋側で、10月は北~西日本で曇りや雨の日が多く、不順な天候となりました。沖縄・奄美では、夏から秋にかけて顕著な高温が持続しました。  年平均気温は沖縄・奄美ではかなり高く、北・東・西日本では平年並でした。  年降水量は、北・東日本日本海側と西日本太平洋側で多かった一方、沖縄・奄美では少なくなりました。北・東日本太平洋側と西日本日本海側では平年並でした。  年間日照時間は、東日本太平洋側と西日本日本海側でかなり多く、北日本と東日本日本海側、西日本太平洋側では多くなりました。沖縄・奄美では平年並でした。 2017年(平成29年)の各季節の特徴は以下のとおりです。 ①冬(2016年12月~2017年2月)は、日本付近への寒気の南下が弱かったため気温の高い日が多く、全国的に暖冬でした。ただし、一時的に強い寒気が南下することがあり、12月前半は北日本中心に、1月中旬~下旬前半は全国で、2月上旬後半~中旬前半は西日本中心にそれぞれ低温となり、気温の変動が大きくなりました。また、西日本日本海側では1月中旬~下旬前半と2月上旬後半~中旬前半に大雪となり、交通障害や農業施設被害などが発生しました。 ②春(3~5月)は、日本の南で高気圧の勢力が強く日本の北の低気圧に向かって暖かい空気が流れ込みやすかったことや、晴れて気温の上昇した日が多かったため、春の平均気温は北・東・西日本で高くなりました。ただし、西日本と沖縄・奄美は3月に大陸からの冷たい空気が流れ込んだため、気温の低い時期もありました。本州付近は大陸からの高気圧に覆われて晴れた日が多かったため、北・東・西日本では春の降水量が少なく、日照時間が多くなりました。特に、北・東日本日本海側では降水量がかなり少なく、東日本と西日本日本海側では春の日照時間がかなり多くなりました。 ③夏(6~8月)は、本州付近では7月を中心に西よりの暖かい空気が流れ込みやすく、また高気圧に覆われやすかった時期もあり、東・西日本の夏の平均気温は高くなりました。沖縄・奄美は太平洋高気圧に覆われて晴れた日が多かったため、夏の平均気温はかなり高くなりました。特に8月の月平均気温は、平年差+1.4℃と1946年の統計開始以来第1位の高温となりました。梅雨前線の活動が活発となった時期があり、7月5~6日には「平成29年7月九州北部豪雨」が発生しました。また、湿った気流や上空の寒気などの影響で各地でしばしば大雨となりました。北・東日本太平洋側では、8月上~中旬を中心にオホーツク海高気圧による北東からの冷たく湿った気流の影響を受けやすかったため不順な天候となり、北・東日本太平洋側の8 月の月間日照時間はかなり少なくなりました。 ④秋(9~11月)は、太平洋高気圧の縁を回って南から暖かい空気が流れ込みやすかった沖縄・奄美では気温がかなり高くなりました。特に、9月の月平均気温は平年差+1.3℃と1946年の統計開始以来2014年と並び第1位タイの高温となり、8月に続き2か月続けて記録的な高温となりました。一方、偏西風の南への蛇行に伴って10月中旬や11月中旬以降を中心に大陸から強い寒気が流れ込んだ北日本では気温が低くなりました。9~10月は日本の南東海上で太平洋高気圧の勢力が強く、南から暖かく湿った空気が流れ込んで西日本付近に停滞する秋雨前線の活動が活発になったため広い範囲で大雨となり、特に10月は北・東・西日本では顕著な多雨・寡照となりました。西日本では、月降水量が太平洋側で平年比334%、日本海側で平年比332%となり、いずれも1946年の統計開始以来10月としては最も多くなりました。また、9月には台風第18号が、10月には台風第21号、第22号が日本に接近あるいは上陸しました。これらにより、秋の降水量は全国的に多く、特に西日本と東日本太平洋側でかなり多くなりました。     2 節 世界の主な異常気象  平成29年(2017年)は、エルニーニョ現象の影響を大きく受けて異常高温が頻発した2016年ほどではないものの、世界各地で異常高温が発生しました(図中①③⑦⑨⑩⑫⑬⑭⑱⑲⑳㉓㉔㉕)。サウジアラビア及びその周辺では4~11月の8か月間異常高温が継続しました(図中⑩)。サウジアラビア南部のジーザーンでは7~11月の5か月平均気温が33.3℃(平年差+1.4℃)でした。このほか、オーストラリア東部、モーリシャスからモザンビーク北東部、西アフリカ南部及びその周辺、米国南西部からメキシコ、インド南部からスリランカでは異常高温が発生した月が6か月以上にのぼりました。  ヨーロッパ北東部では4、9~10、12月に異常多雨となりました(図中⑪)。ラトビア西部のリエパヤでは9~10月の2か月降水量が358mm(平年比242%)、ウクライナのキエフでは12月の月降水量が129mm(平年比312%)でした。また、イベリア半島から北アフリカ北西部では、3~5、9、11月に異常少雨となりました(図中⑬)。アルジェリア北東部のコンスタンティーヌでは3~5月の3か月降水量が32mm(平年比21%)、同国北部のジェルファでは11月の月降水量が3mm(平年比12%)でした。  コロンビア南西部からペルー(図中㉒)では、2~4月の大雨によって土砂災害等が発生し、計420人以上が死亡したと伝えられました(コロンビア政府、ペルー政府)。米国南東部からカリブ海諸国(図中㉑)では、8~9月に3つのハリケーン「HARVEY」、「IRMA」、「MARIA」が接近・上陸し、計190人以上が死亡したと伝えられました(米国政府、欧州委員会)。ベトナム(図中⑤)では、9~11月に台風第19号、台風第23号、台風第25号や熱帯低気圧による大雨の影響で、計190人以上が死亡したと伝えられたほか(ベトナム政府)、フィリピン(図中④)では、12月に台風第26号と台風第27号による大雨の影響で、200人以上が死亡したと伝えられました(フィリピン政府)。  なお、災害の記述は、米国国際開発庁海外災害援助局とルーベンカトリック大学災害疫学研究所(ベルギー)が共同で運用する災害データベース(EM-DAT)や各国の政府機関、国連機関の発表等に基づき、人的被害や経済的損失の大きさ、地理的広がりを考慮して取り上げています。 3 節 世界と日本の平均気温  平成29年(2017年)の世界の年平均気温偏差は+0.38℃で、統計を開始した明治24年(1891年)以降で3番目に高い値となりました。また、平成29年(2017年)は、世界の平均気温を上昇させる傾向があるエルニーニョ現象が発生していない年の中では最も高い年でした。世界の年平均気温は、長期的には100年あたり0.73℃の割合で上昇しています。  平成29年(2017年)の日本の年平均気温偏差は+0.26℃で、統計を開始した明治31年(1898年)以降で14番目に高い値でした。日本の年平均気温は、長期的には100年あたり1.19℃の割合で上昇しており、特に1990年代以降、高温となる年が多くなっています。 4 節 大雨・短時間強雨  国内51観測地点における明治34年(1901年)~平成29年(2017年)の117年間の観測値によると、日降水量100mm以上及び200mm以上の大雨の年間日数は長期的に増加しています。  全国約1,300地点のアメダスによる昭和51年(1976年)~平成29年(2017年)の42年間の観測値によると、1時間降水量(毎正時における前1時間降水量)50mm以上及び80mm以上の短時間強雨の年間発生回数は増加しています。1時間降水量50mm以上の場合、統計期間の最初の10年間(昭和51年(1976年)~昭和60年(1985年))平均では1000地点あたり約174回でしたが、最近の10年間(平成20年(2008年)~平成29年(2017年))平均では約238回と約1.4倍に増加しています。ただし、大雨や短時間強雨の発生回数は年々変動が大きく、それに対してアメダスの観測期間は比較的短いことから、長期変化傾向を確実に捉えるためには今後のデータの蓄積が必要です。 5 節 大気中の二酸化炭素  二酸化炭素は、化石燃料の消費や森林破壊といった人間活動から生じ、地球温暖化への影響が最も大きな温室効果ガスです。大気中の二酸化炭素の世界平均濃度は工業化(18世紀後半)以前は280 ppm程度でしたが、人間活動により増加を続け、平成28年(2016年)には工業化前の1.5倍ほどの403.3 ppmに達しました。国内も同様であり、綾里(岩手県大船渡市)では観測開始からのおよそ30年間で二酸化炭素濃度は50 ppm以上増加し、平成28年(2016年)には年平均濃度が407.2 ppmとなりました。世界各地の観測データを緯度20度ごとに平均した二酸化炭素濃度のこれまでの変化を見ると、化石燃料が多く消費されている北半球で南半球より全般的に濃度が高くなっています。また植物の光合成活動などが原因で起こる季節による濃度変動も森林の多い北半球で大きくなっています。 6 節 その他の温室効果ガス  二酸化炭素の他に地球温暖化に影響を及ぼす温室効果ガスとして、メタン、一酸化二窒素があります。これらも人間活動に伴い増加しており、大気中の濃度は工業化前の2.6倍、1.2倍にそれぞれ達しています。  また、エアコンや冷蔵庫で空気を冷却するために使われてきたクロロフルオロカーボン類(いわゆるフロン類:CFC-11、CFC-12、CFC-113など)には、オゾン層を破壊する性質とともに強い温室効果があります。これらは生産や使用の規制により大気中の濃度が近年減少傾向にあります。一方、フロン類の代わりとして使用されているハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC-22など)やハイドロフルオロカーボン類(HFC-134aなど)は、オゾン層を破壊しにくい(あるいは破壊しない)ものの、いずれも強力な温室効果ガスで、これらの大気中の濃度は増加を続けています。 7 節 海面水温  平成29年(2017年)の世界の年平均海面水温の平年差(昭和56年(1981年)~平成22年(2010年)までの30 年平均値からの差)は+0.26℃で、統計を開始した明治24年(1891年)以降ではエルニーニョ現象が発生していた平成28年(2016年)、平成27年(2015年)に次いで3番目に高い値となり、エルニーニョ現象が発生していない年の最も高い値(これまでは平成25年(2013年)の+0.13℃)となりました。世界の年平均海面水温は、数年から数十年に及ぶ時間規模の海洋・大気の変動や地球温暖化等の影響が重なりながら変化していますが、長期的には100 年あたり+0.54℃の割合で上昇しています。数年から数十年の時間規模では、1970年代半ばから2000 年前後にかけて顕著な上昇が見られた後、2010年代前半までは停滞していましたが、平成26年(2014年)から平成28年(2016年)まで3年連続で統計開始以降の最高記録を更新しました。この記録更新には、平成26年(2014年)から平成28年(2016年)にかけて発生したエルニーニョ現象も影響したと考えられます。  平成29年の日本近海の海面水温は、日本海、東シナ海を中心に平年より高く、後半は、日本の南、父島近海、南鳥島近海でも平年より高くなりました。7月は、日本近海のほぼ全域で、8月は、北海道近海、三陸沖を除く日本近海のほぼ全域で平年より高く、広い範囲でかなり高くなりました。沖縄諸島近海では7月から10月にかけて平年よりかなり高い状態が続いていました。種子島から都井岬沖では4~6月に、黒潮の小蛇行に伴う下層の冷水の影響で平年より低い海域がみられました。東海沖では10月以降、黒潮の大蛇行に伴う下層の冷水の影響で平年より低くなり、東海沖ではかなり低い海域もみられました。福島県沖から三陸沿岸では、9~11月にかけて台風による強風や下層の冷水の影響で平年より低くなりました。北海道の近海では、1~6月、10月、11月にかなり低い海域がみられました。 8 節 海洋中の二酸化炭素  海洋は、人間活動により放出された二酸化炭素の約3分の1を吸収していると見積もられており、地球温暖化の進行を緩和しています。気象庁の海洋気象観測船「凌風丸」と「啓風丸」は、昭和59年(1984年)から30年以上にわたって北西太平洋で表面海水中と大気中の二酸化炭素濃度を観測しています。東経137度線に沿った日本の南から赤道域までの海域においては、毎年冬季(1~2月)に表面海水中の二酸化炭素濃度が大気中の濃度より低いことが観測されており、海洋が大気中の二酸化炭素を吸収しています。また、北緯7度から33度で平均した二酸化炭素濃度は、昭和59年(1984年)から平成29年(2017年)まででみて、大気中で1年に1.9ppm、表面海水中で1年に1.7ppmの割合で増加しています。 9 節 オホーツク海の海氷  平成29年(2017年)から平成30年(2018年)のオホーツク海の海氷面積は、12月の終わりから3月の初めまで平年より小さく推移しましたが、シーズンの最大海氷域面積は112.41万平方キロメートルで平年の96%でした。  オホーツク海南部では海氷域は平年と同程度の広がりとなりました。網走では流氷初日(海岸から流氷が観測された最初の日)は平年より7日遅い1月28日、流氷接岸初日は平年と同じ2月2日、海明け(海氷の占める割合が5割以下になり船舶の航行が可能になった最初の日)は平年より6日早い3月14日、流氷終日は平年より11日早い3月31日でした。稚内では流氷初日は平年より7日早い2月6日、流氷終日は平年より33日早い2月7日でした。釧路では流氷は観測されませんでした。  オホーツク海の海氷域面積は年ごとに大きく変動していますが、最大海氷域面積は昭和46年(1971年)の統計開始以来、10年当たり6.9万平方キロメートル(オホーツク海の全面積の4.4%に相当)の割合で減少しています。 3章 地震活動 1節 日本及びその周辺の地震活動  平成29年(2017年)に震度5弱以上を観測した地震は8回(平成28年は33回)、震度1以上を観測した地震は2,025回(平成28年は6,587回)でした。国内で被害を伴った地震は5回(平成28年は7*回)でした。日本及びその周辺で発生した地震でマグニチュード6.0以上の地震は9回(平成28年は27回)でした。また、日本で津波を観測した地震はありませんでした(平成28年は2回)。  主な地震活動は下図及び次ページの表のとおりです。 *2016年4月14日以降に、熊本県から大分県にかけて発生した一連の地震活動(「平成28年(2016年)熊本地震」)により生じた被害については1回として扱った。 2 節 世界の地震活動  平成29年(2017年)に発生したマグニチュード7.0以上または死者(行方不明者を含む)を伴った地震は17回でした。また、マグニチュード8.0以上の地震は1回でした。最も規模の大きかった地震は、9月8日にメキシコで発生したMw8.1(気象庁による)の地震でした。海外の地震により日本で津波を観測した地震はありませんでした。  主な地震活動は表のとおりです。 4章 火山活動  平成29年(2017年)の日本の主な火山活動は以下のとおりです。そのほかの最新の火山活動のとりまとめについては、気象庁ホームページに掲載している火山活動解説資料をご覧ください(https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/monthly_v-act_doc/monthly_vact.phpまたは、「気象庁火山活動解説資料」を検索)。 ○北海道駒ヶ岳(北海道)  11月26日に山頂の浅い所を震源とする規模の小さな地震が増加し、翌日以降は減少したものの、増加する前の状態には戻っていません。この地震増加時にその他の観測データに異常はなく、その後の12月の現地調査でも特段の変化は認められませんでした。 ○秋田駒ヶ岳(岩手県、秋田県)  9月14日に、男女岳の北西約1km付近を震源とする火山性地震を227回観測し(日別地震回数は観測開始以降最多)、5月と12月にも火山性地震の一時的な増加がみられましたが、その他の観測データには特段の変化は認められませんでした。  3月から11月にかけての上空からの観測(岩手県及び東北地方整備局の協力)と第二管区海上保安本部が上空から撮影した映像では、女岳の山頂付近で以前からの地熱域が引き続き確認されました。 ○草津白根山(群馬県)  東京工業大学によると、湯釜の湖水に含まれる火山活動の活発な状態を示す成分の濃度が、2017年に入って低下傾向に転じていることが確認されました。また、火山性地震は少ない状態で、全磁力連続観測でも地下の温度低下を示す変化が継続しました。これらのことから、山頂火口から1kmの範囲に影響を及ぼす噴火の可能性は低くなったと考えられ、6月7日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。  一方、湯釜火口の北から北東内壁及び水釜火口の北から北東側の斜面の熱活動と、北側噴気地帯の噴気活動については、いずれも以前からの活発な状態が継続しました。 ○浅間山(長野県、群馬県)  山頂火口からの噴煙は白色で火口縁上概ね800m以下で経過し、夜間に微弱な火映が時々観測されました。2月及び11月の上空からの観測(それぞれ群馬県及び陸上自衛隊の協力)では、11月に火口底の高温領域の縮小が認められました。一方、山頂火口からの火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は、3月までは1日あたり3,000トンを越えることがあり、その後も500~1,000トンと多い状態で経過しています。山頂火口直下のごく浅い所を震源とする火山性地震は概ねやや多い状態で経過し、火山性微動は時々発生しました。塩野山観測点の傾斜計では、2016年12月頃からみられている北または北西上がりの緩やかな変化が継続しました。GNSS連続観測でも、浅間山の西部の一部の基線でわずかな伸びが断続的にみられました。これらの活動状況から、噴火警戒レベル2(火口周辺規制)を継続しました。 ○焼岳(長野県、岐阜県)  8月9日から10日にかけて、空振を伴う低周波地震が発生し、その時間帯に監視カメラ(焼岳の北北西約4km、北陸地方整備局が設置)で、普段は噴気がみられない黒谷火口(山頂西側400m付近)から白色の噴気が100m程度まで上がるのを観測しました。8月27日の信州大学の調査で黒谷火口内で弱い噴気と土砂が噴出された跡が確認され、また8月29日から9月1日にかけての現地調査では、北峰南斜面等での噴気の温度が前回(2016年7月)と比べてやや上昇していました。その後も10月までは黒谷火口で弱い噴気が時々観測されました。 ○御嶽山(岐阜県、長野県)  噴煙活動や山頂直下付近の地震活動は緩やかな低下傾向が続きました。7月の山頂付近の現地調査でも、高温領域の広がりや、噴煙・火山ガスの増加は認められませんでした。これらのことから、火山活動は静穏化の傾向が続いているとの判断で、8月21日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。  一方、7月及び9月の現地調査では、2014年に噴火が発生した火口列の一部の噴気孔で、引き続き噴気が勢いよく噴出していることが確認されました。 ○白山(石川県、岐阜県、福井県)  11月29日に山頂付近を震源とする火山性地震が多発し、1日あたりの地震回数は370回に達しました(2005年12月1日の観測開始以来最多)。最大の地震はマグニチュード2.8で、白山市白峰で震度1を観測しました。この地震活動のほかにも、3月、4月及び10月に、山頂付近を震源とする微小な地震がまとまって発生しました。監視カメラでは山頂部に噴気は認められませんでした。 ○西之島(東京都)  4月20日に海上保安庁が実施した上空からの観測で、火砕丘の山頂火口からの噴火が確認され、同日、火口周辺警報(入山危険)を発表しました。地震計及び空振計の観測(東京大学地震研究所による)と、気象衛星ひまわりによる熱の観測で、4月18日に噴火が発生し19日には溶岩の流出が顕著になったと推定されています。その後、断続的な噴火の発生と溶岩流出が確認されましたが、山頂火口での噴火は8月11日を最後に、また溶岩流先端の高温域も8月24日を最後に認められなくなりました(海上保安庁、第三管区海上保安本部、海上自衛隊及び気象庁による)。 ○硫黄島(東京都)  火山性地震は概ねやや多い状態で経過し、地殻変動は隆起傾向が続きました。2月と8月の現地調査で(海上自衛隊の協力)、8月に阿蘇台陥没孔で北側約60mにわたり泥の噴出した跡が確認されました。 ○阿蘇山(熊本県)  噴火は2016年10月8日を最後に観測されず、2月には火山活動は低下して火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候は認められなくなったため、2月7日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。  噴煙は白色で概ね600m以下で経過し、中岳第一火口の湯だまり量は4月以降は火口底の10割で、土砂噴出は認められませんでした。火山性地震は、7月頃から次第に増加しその後は多い状態で経過しました。火山性微動の振幅は概ね小さな状態で、阿蘇山に特有の孤立型微動は概ねやや少ない状態で経過しました。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は、4月中旬まではやや少ない状態でしたが、その後は増減を繰り返しながらやや多い状態で経過しました。 ○霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺)(宮崎県、鹿児島県)  以前から熱異常域の拡大や噴気の量の増加が認められている中で、2016年12月12日に火山性地震の増加と火山性微動及び傾斜変動が観測され、噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。その後、地震は少なく火山性微動と傾斜変動もみられず、1月11日の現地調査と上空からの観測(九州地方整備局の協力)で噴気や熱異常域に大きな変化はなかったことから、13日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。  4月25日から硫黄山南西観測点で傾斜変動が観測され、5月8日の東京大学地震研究所の現地調査で硫黄山火口内で噴出物が確認されました。小規模な噴火のおそれがあり5月9日に噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。6月以降も活発な噴気活動や傾斜変動が続き、二酸化硫黄の放出量は1日あたり数トン~20トンで、7月中旬以降は噴気が稜線上300m以上に上がりました。9月5日に火山性地震の一時的な増加と傾斜変動が観測されましたが、9月中旬以降は噴気の高さは概ね稜線上100m以下で、10月下旬の現地調査では火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は検出限界未満となり、火口内及び周辺の熱異常域に縮小が認められました。傾斜変動も概ね停滞していました。これらのことから、10月31日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。  12月17日から21日にかけて火山性地震が一時的にやや増加し、22日には浅い低周波地震も発生しました。硫黄山火口内の熱異常域の高まりは継続し、活発な噴気域も継続しています。なお、硫黄山火口周辺での噴気活動の拡大は過去に活動がみられていた領域に限定されています。  広域のGNSS連続観測では、2017年7月頃から霧島山を挟む基線での伸びが継続し、霧島山の深い場所でマグマの蓄積が続いていると考えられます。 ○霧島山(新燃岳)(宮崎県、鹿児島県)  以前から続いていた火口内の溶岩のわずかな膨張が2016年夏頃から停滞し、他の観測データと現地調査による火口内の状況に特段の変化がみられないことを確認して、5月26日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)へ引き下げました。  その後、国土地理院によるGNSS連続観測結果では霧島山を挟む基線で7月頃から伸びの傾向が続きました。9月23日頃から火口直下付近を震源とする火山性地震が増加し、10月4日から振幅も次第に大きくなり、小規模な噴火の可能性があるとの判断で10月5日に噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。9日に火山性微動と傾斜変動が発生し、11日05時34分頃に小規模な噴火が発生しました(新燃岳の噴火は2011年9月7日以来)。火山性微動と傾斜変動は継続し噴火活動が活発化する可能性があるとの判断で、11日11時05分に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から3(入山規制)に引き上げました。噴煙は火口縁上2,000mまで上がり、降灰は宮崎県宮崎市、都城市、小林市、高原町で確認されました(聞き取り調査)。噴火は13日16時頃に一度停止した後、14日08時23分に再開し、噴煙は火口縁上2,300mまで上がりました。14日の降灰は、新燃岳周辺から北東側の高原町、小林市、西都市、新富町、西米良村、日向市、美郷町で確認されました(聞き取り調査)。15日には火山ガス(二酸化硫黄)の放出量が1日あたり11,000トンと急増し、さらに噴火が活発になる可能性があるとの判断で、15日19時00分に噴火警戒レベル3(入山規制)の警戒が必要な範囲を火口から概ね3kmに拡大しました。16日以降、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は減少し、噴火は17日の00時30分頃に停止したとみられます。これらの噴火で火口外に飛散する大きな噴石や火砕流は確認されていません。一方、低周波地震は引き続き発生していたことから、大きな噴石が火口から概ね2kmまで、火砕流が概ね1kmまで達する噴火は発生する可能性があるとの判断で、31日に噴火警戒レベル3(入山規制)の警戒が必要な範囲を火口から概ね2kmに縮小しました。  火山性地震はその後は概ね少ない状態ですが、11月25日から29日にかけて継続時間の短い振幅の小さな火山性微動が時々発生し、29日から12月4日にかけて、火山性地震が一時的に増加しました。10月23日の上空からの観測(九州地方整備局の協力)では、火口内で噴火に伴う新たな噴出物の堆積と、複数個所から上がる白色噴煙を確認しました。  広域のGNSS連続観測では、2017年7月頃から霧島山を挟む基線での伸びが継続し、霧島山の深い場所でマグマの蓄積が続いていると考えられます。  2018年3月1日11時頃に再び噴火が発生し、6日から12日にかけて爆発的噴火が断続的に発生しました。6日から9日にかけて溶岩が噴出し、10日には爆発的噴火に伴い大きな噴石が火口から1.8kmまで達するなど噴火活動が活発化しましたが、その後噴火活動は低下傾向にあります(3月15日現在)。 ○桜島(鹿児島県)  2016年7月26日の昭和火口の爆発的噴火の後、しばらく噴火はありませんでしたが、南岳山頂火口では3月から、また昭和火口では4月から噴火活動が再開しました。  昭和火口では、4月26日の噴火以降10月中旬頃まで活発な噴火活動が継続し、特に8月中旬以降は活発な状況でした。年間の噴火は394回(2016年:142回)、このうち爆発的噴火は77回(2016年:47回)で、5月2日の噴火では、桜島の西側から北西側の鹿児島市から日置市及びいちき串木野市にかけての広い範囲で降灰を確認し、9月29日と10月1日の爆発的噴火では大きな噴石が4合目まで達しました。  南岳山頂火口では、3月25日の噴火で小規模な火砕流が南側へ約1,100m流下しました。噴火活動はその後、5月、8月~11月には活発な状態で経過しました。年間の噴火は12回(2016年:11回)、このうち爆発的噴火は4回(2016年:なし)で、大きな噴石が最大で5合目まで達しました。  火山性地震の年回数は7,295回で、前年(1,656回)に比べ増加しました。8か月ぶりの噴火が発生した3月頃や、噴火回数の多かった8月及び9月頃に地震回数の増加がみられました。火山性微動の継続時間の年合計は約290時間で、前年(約32時間)に比べ増加しました。桜島島内の傾斜計、伸縮計による観測では、8月中旬以降の噴火活動の活発化に関連するとみられる変化や、11月13日の爆発的噴火に関連するとみられる山体の膨張、収縮の変化が捉えられました。GNSS連続観測では、姶良カルデラ(鹿児島湾奥部)の地下深部の膨張が続いています。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は3月まで少ない状況でしたが、3月25日の南岳山頂火口の噴火以降はやや増加し、7月中旬以降は概ね1,000トンで、12月は1,000~1,800トンとさらに増加しました。鹿児島県の降灰量観測データをもとに解析した2017年の総降灰量は、約91万トン(2016年:約87万トン)でした。  これらの活動状況から、噴火警戒レベル3(入山規制)を継続しました。 ○薩摩硫黄島(鹿児島県)  1月1日から火山性地震が増加し、小規模な噴火の可能性があるとの判断で、5日に噴火警戒レベルを1(活火山であることに留意)から2(火口周辺規制)に引き上げました。7日から9日にかけて一時的に火山性地震の日回数が50回以上となりましたが、下旬からは徐々に減少し、2月5日以降は少ない状態で経過しました。地殻変動観測では特段の変化は認められず、1月から2月にかけての現地調査では、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量はやや少ない状態で、1月5日及び2月21日の上空からの観測(鹿児島県の協力)では、噴煙や熱異常域に特段の変化は認められませんでした。これらのことから、2月24日に噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)に引き下げました。 ○口永良部島(鹿児島県)  新岳火口の噴煙活動は白色で概ね火口縁上500m以下の高さで経過しました(最高:900m)。期間中に山麓から実施した現地調査、古岳山頂付近からの新岳の現地調査、及び12月14日の上空からの観測(海上自衛隊第1航空群の協力)では、火口周辺の地形や噴気及び熱異常域には特段の変化は認められませんでした。  火山性地震は、10月までは概ね少ない状態で経過しましたが、11月以降は概ね多い状態となり、年回数は1,527回と昨年(435回)より増加しました。微小な火山性地震も6月頃から多い状態で経過しており、火山活動がやや高まった状態であると考えられます。火山ガス(二酸化硫黄)の放出量は、1日あたり30~500トンで2014年8月の噴火前(1日あたり概ね100トン以下)よりもやや多い状態で経過しています。4月以降は、1日あたり400トン以上が時々観測されるなど、わずかに増加しています(東京大学大学院理学系研究科、京都大学防災研究所、産業技術総合研究所、屋久島町及び気象庁による観測)。これらの活動状況から、噴火警戒レベル3(入山規制)を継続しました。 ○諏訪之瀬島(鹿児島県)  御岳火口では引き続き噴火が時々発生し、爆発的噴火は32回(2016年:77回)で、活発な火山活動が継続しました。火口付近に飛散する大きな噴石を時々確認しました。8月3日の噴火では噴煙が火口縁上2,800mまで上がりました(2003年の観測開始以降の最高、前年の最高2,700m)。概ね年間を通して夜間に高感度の監視カメラで火映を観測し、12月8日の集落(御岳の南南西約4km)での現地調査で肉眼でも火映を確認しました。十島村役場諏訪之瀬島出張所によると、集落や切石港(御岳の南約3.5km)で降灰を確認した日数は9日(2016年:20日)でした。12月14日の上空からの観測(海上自衛隊第1航空隊の協力)では、火口周辺の状況に特段の変化は認められませんでした(前回:2016年5月31日)。これらの活動状況から、噴火警戒レベル2(火口周辺規制)を継続しました。 ■海洋気象観測船「啓風丸」で観測された西之島の火山活動  火山活動の解明には火山表面で発生する現象を観測することが有用です。また、火山活動の評価には、火山の火口から放出される噴煙に含まれる様々な成分の火山ガスのうち地下のマグマと強い関係がある二酸化硫黄の量を測定するが重要です。  小笠原諸島の活火山西之島では、平成25年(2013年)11月から活発な噴火活動が継続しました。この噴火により噴出した膨大な量の溶岩によって、新たな陸地を形成しその面積は約3平方キロメートルにも拡大し高さは130メートルを超えましたが、平成29年(2017年)8月頃には活動を停止しました。  西之島は人が住まないため電気も通信線もないうえ、活発な噴火が続くため観測装置を設置して監視することも困難です。そこで、活躍するのが船舶です。気象研究所では気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」を用いて、西之島の専門的な観測を断続的に実施しています。  平成29年5月の観測では3つの特徴的な噴火のタイプであることがわかりました。具体的には、1時間に1回程度大きな音と空気の振動を伴って発生する爆発的な噴火(ブルカノ式噴火)、1分に1回程度灼熱した溶岩の塊を噴き飛ばすやや弱い噴火(ストロンボリ式噴火)、しずしずと流れ出る溶岩流です。上図左は、西之島を夜間の撮影で捉えたストロンボリ式噴火と溶岩流の様子です。上図右は、温度分布を測定することができる特殊なカメラ(熱赤外カメラ)で撮影した西之島の様子です。山頂からの噴煙や飛び散る噴石、山頂近くから流れ出して海岸に流入する溶岩流の温度が高いことがわかります。  また、断続的に二酸化硫黄を観測したところ、噴火の停止期間には検出されず、噴火期間中には1日あたり400~900トンもの量が放出されていることがわかりました(下図)。この二酸化硫黄の量は、我が国で長期的に活発な噴火活動が続いている桜島(鹿児島県)の最近の量と同じレベルでした。  これら撮影や二酸化硫黄の定量的評価の他にも、火山で発生する地震活動を捉えるために観測船で海底地震計を海底に沈めて臨時観測を行うなど、様々な手法で更なる火山活動の解明を試みています。こうした成果は、離島火山が噴火した際の火山監視手法として、今後活用されることが期待されます。 5章 黄砂、紫外線など 1節 黄砂  気象庁では、国内59か所(平成30年(2018年)3月31日現在)の気象台や測候所で、職員が上空の状態を目で確認して黄砂を観測しています。平成29年(2017年)の黄砂観測日数(国内のいずれかの気象台や測候所で黄砂現象を観測した日数)は3日でした(平年は24.2日)。黄砂観測日数はその年の黄砂の頻度を表す指標のひとつですが、年ごとの変動が大きく、長期的に増減しているのかどうか確実に知るためにはもっと観測データを蓄積することが必要です。  日本への黄砂の飛来は、例年3月~5月に集中しています。この時期は、①東アジアの砂漠域のような黄砂の発生源となっている地域で地面を覆う積雪がなくなる一方、まだ植物が芽吹いていないため乾燥した地面がむき出しで、砂じんが舞い上がりやすいこと、②大量の砂じんを舞い上げ、運ぶ強風の原因となる低気圧が通りやすい季節であることから、黄砂が多く飛来します。この時期以外にも、黄砂の発生源となっている地域が乾燥していて上空の風が日本へ向いて吹いているなどの条件がそろえば、日本に黄砂が飛来します。  平成29年(2017年)は4月まで国内で黄砂が観測されず、5月に初めて観測されました。1月から4月まで観測されなかったのは、統計を開始した昭和42年(1967年)以降初めてのことでした。 2 節 オゾン層・紫外線  上空に存在するオゾンは、フロン等による大規模なオゾン層破壊の影響で、1980年代から1990年代半ばにかけて世界的に大きく減少しました。その後は、国際的なオゾン層保護の取り組みにより、わずかに回復しています。国内でも、つくばなどの地点で地上から上空までのオゾンの総量(オゾン全量)を観測していますが、同様な傾向が見られます。また、オゾン層破壊の指標である南極オゾンホールの2017年の面積は、成層圏の気温が例年より高くオゾン層破壊が進まなかったため、最近10年間の平均よりも小さい状態が続き、最大面積(1,878万平方キロメートル(南極大陸の約1.4倍))は1988年以来の小さな値でした。  紫外線の人体への影響度を示す紅斑(こうはん)紫外線量は、国内では観測を開始した1990年代初めから緩やかに増加しています。一般に、上空のオゾン量が減少すると地表に到達する紫外線は増加しますが、この期間、国内ではオゾン量は減少していません。大気中の微粒子が減少して紫外線が地上に到達しやすかったり雲が少ない天候が多かったことなどが紅斑紫外線量の増加の原因と考えられています。 3 節 日射と赤外放射  気象庁では、日射と赤外放射について地球環境や気候への影響を把握するため国内5地点(札幌、つくば、福岡、南鳥島、石垣島)で精密な日射放射観測を行い、全天日射、直達日射、散乱日射および下向き赤外放射の経年変化を監視しています。  世界の多くの地域における全天日射量は、1960年頃から1980年代後半まで減少し、1980年代後半から2000年頃まで急激に増加し、その後は大きな変化が見られないという傾向が報告されています。  日本における変化傾向(国内5地点平均)を見ると、1970年代後半から1990年頃にかけて急激に減少し、1990年頃から2000年代初めにかけて急激に増加し、その後は大きな変化は見られません。これは、世界的な変化傾向とほぼ整合しています。 CLIPS(Climate Information and Prediction Services)  気候情報・予測サービス計画。世界気象機関(WMO)の世界気候計画(WCP)の事業計画の一つで、過去の気候資料や気候実況監視情報、気候予測情報を社会・経済の各分野で有効利用し、社会・経済・環境保護等の活動に資することを目指しているもの。 COSMETS(Computer System for Meteorological Services)  気象資料総合処理システム。国内外の気象などの観測データを集信し、大気の状態を解析・予測し、その結果を国内外に配信する総合的な電子計算機システム。気象資料の編集・中継などの通信処理、端末でのデータ利用のための業務処理をするための気象情報伝送処理システム(アデス)と、解析・予測をするためのスーパーコンピュータシステムから構成されている。 DCPC(Data Collection or Production Centre)  データ収集作成センター。WMO情報システム(WIS)において、気象に関する各種データの収集や資料の作成を行う。 EPOS(Earthquake Phenomena Observation System)  地震活動等総合監視システム。気象庁本庁及び大阪管区気象台において日本全国における地震や津波の観測データをリアルタイムで監視し、緊急地震速報、津波警報・注意報、南海トラフ地震に関連する情報や地震・津波に関する情報等を防災機関、報道機関等に迅速に発表するシステム。気象庁本庁では、東海・南関東地域の地殻変動観測データの監視も行っている。 GAW(Global Atmosphere Watch)  全球大気監視。温室効果ガス、オゾン層、エーロゾル、酸性雨など地球環境に関わる大気成分について、地球規模で高精度に観測し、科学的な情報を提供することを目的に、世界気象機関(WMO)が平成元年(1989年)に開始した国際観測計画。 GDPFS(Global Data Processing and Forecasting System)  全球データ処理・予報システム。世界気象機関(WMO)の世界気象監視(WWW)計画の下で、WMO加盟国の利用に供するために気象の解析、予報資料を作成する体制。 GFCS(Global Framework for Climate Services)  気候サービスのための世界的枠組み。気候変動への適応策をはじめとするあらゆるレベルの政策や意思決定に気候情報を活用し社会が気候リスク(気候によって影響を受ける可能性)を適切に管理し対応できるようにすることを目指す枠組み。世界気象機関(WMO)等が推進している。 GISC(Global Information System Centre)  全球情報システムセンター。WMO情報システム(WIS)において世界の気象通信網の中核をなし、気象に関する各種データの交換や資料の管理を行う。気象庁はWMOからの指名を受け、世界に先駆けて平成23年8月から運用を開始した。 GNSS(Global Navigation Satellite System(s))  GPS(GPSの項を参照)をはじめとする衛星測位システム全般を示す呼称。 GOOS(Global Ocean Observing System)  全球海洋観測システム。全世界の海洋の環境や変動を監視してその予測を可能にするための長期的で系統的な海洋観測システムを構築する国際的な計画。国連教育科学文化機関(ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)、世界気象機関(WMO)などが共同で推進している。 GOS(Global Observing System)  全球観測システム。世界気象機関(WMO)の世界気象監視(WWW)計画の下で展開されている地球規模の観測網。地上気象観測所、高層気象観測所、船舶、ブイ、航空機、気象衛星などから構成される。 GPS(Global Positioning System)  全地球測位システム。人工衛星を用いて位置を決定するシステムで、一般にはカーナビゲーションシステムへの利用でなじみ深い。高い精度での位置決定が可能なGPSを用いることにより、地震あるいは火山現象などに伴う地殻変動の観測やラジオゾンデによる高層観測に利用している。また、大気中の水蒸気により電波の遅延が生じることを利用して、このシステムから得られる水蒸気に関する情報を数値予報に活用している。 GPV(Grid Point Value:格子点値)  数値予報の計算結果を、大気中の仮想的な東西・南北・高さで表した座標(立体的な格子)に割り当てた、気温、気圧、風等の大気状態(物理量)。コンピュータで気象状態の画像表示や応用処理に適したデータの形態である。数値予報の計算もこのような立体的な格子上で物理量の予測を行う。 GTS(Global Telecommunication System)  全球通信システム。世界気象機関(WMO)の世界気象監視(WWW)計画の下で、気象資料の国際的な交換、配信を行うために構築された全世界的な気象通信ネットワーク。 ICAO(International Civil Aviation Organization)  国際民間航空機関。昭和19年(1944年)の国際民間航空条約(シカゴ条約)に基づいて設立された、民間航空に関する国際連合の専門機関の一つ。 ICG/PTWS (Intergovernmental Coordination Group for the Pacific Tsunami Warning and Mitigation System)  太平洋津波警戒・減災システムのための政府間調整グループ。昭和35年のチリ地震により発生した津波が太平洋全域に甚大な被害を与えたことを契機として、太平洋において発生する地震や津波に関する情報を各国が交換・共有することにより太平洋諸国の津波防災体制を強化することを目的として設立された、IOC(次項参照)の下部組織のひとつ。昭和40年に太平洋津波警報組織国際調整グループ(ICG/ITSU)として設立され、平成17年10月に現在の名称へ変更された。平成30年4月現在、太平洋周辺の46の国又は地域が参加している。 IOC(Intergovernmental Oceanographic Commission)  政府間海洋学委員会。昭和35年(1960年)、国連教育科学文化機関(ユネスコ)内に設立された機関。海洋と沿岸域の性質と資源に関する知識を深め、その知識を加盟国における海洋環境の管理と持続可能な開発、保護及び政策決定プロセスに適用するために、国際協力を推進し、関連の研究やサービス及び能力開発のプログラムを調整している。 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)  気候変動に関する政府間パネル。世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により、昭和63年(1988年)に設立された。各国の科学者や専門家で組織され、気候変動の(1)自然科学的根拠、(2)脆弱性・影響・適応策、(3)緩和策の評価を行い、報告書をとりまとめている。その報告書の内容は、地球温暖化に関する条約交渉の際などに、共通認識の情報として取り扱われている。 LIDEN(Lightning Detection Network System)  雷監視システム。雷により発生する電波を受信し、その位置、発生時刻等の情報を作成するシステム。 NEAR-GOOS (North-East Asian Regional Global Ocean Observing System)  北東アジア地域海洋観測システム。全球海洋観測システム(GOOS)の北東アジア地域プロジェクトであり、参加各国が行った海洋観測のデータなどを即時的に国際交換するためのデータベースを運用している。日本、中国、韓国、ロシアが参加している。 WINDAS(Wind Profiler Network and Data Acquisition System)  局地的気象監視システム。全国33か所に設置した無人のウィンドプロファイラ観測局とこれを制御しデータを自動的に収集する中央監視局で構成するシステム。 WIS (WMO Information System)  WMO情報システム。従来の全球通信システム(GTS)による即時性・確実性が必要なデータ交換の効率化を進めるのに加え、各国国家センターに対して各種資料を効率良く検索・取得できるようにするために統一した情報カタログを整備・提供する統合気象情報通信網。中核をなす全球情報システムセンター(GISC)、データ収集作成センター(DCPC)、各国国家センター(NC)から構成される。 WMO(World Meteorological Organization)  世界気象機関。世界の気象事業の調和的発展を目標とした国際計画の推進・調整を行うため、昭和25年(1950年)に世界気象機関条約に基づいて設立され、翌昭和26年(1951年)に国際連合の専門機関となった。平成30年(2018年)4月1日現在、185か国と6領域が構成員として加盟している(日本は昭和28年(1953年)に加盟)。事務局本部はスイスのジュネーブに置かれている。 WWW(World Weather Watch(Programme))  世界気象監視。世界気象機関(WMO)の中核をなす計画であり、世界各国において気象業務の遂行のため必要となる気象データ・プロダクトを的確に入手できることを目的とする。全世界的な気象観測網(全球観測システム:GOS)、通信網(全球通信システム:GTS)、データ処理システム(全球データ処理・予報システム:GDPFS)の整備強化がこの計画の根幹となっている。 アデス  気象庁本庁及び大阪管区気象台に設置された気象情報伝送処理システム。気象資料の編集・中継などの通信処理、端末でのデータ利用のための業務処理を行っている。 アメダス(AMeDAS:Automated Meteorological Data Acquisition System)  全国約1,300か所に設置した無人の観測所で、気温や降水量などを自動的に観測するシステム。アメダスはこのシステム(地域気象観測システム)の英語名の頭字語である。 アルゴ計画  世界気象機関(WMO)及び国連教育科学文化機関(ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)などの協力の下、国際的な枠組みにより、世界の海洋を常時観測するシステムとして中層フロート(チの項を参照)を全世界の海洋に約3,000台投入して、気候に大きく影響する海洋の状況をリアルタイムに把握することを目的として実施されている。アルゴとは、ギリシャ神話に出てくる船の名前(Argo)にちなんだもの。 アンサンブル手法  初期値に含まれる誤差や数値予報モデルが完全ではないことにより生じる、予測結果の不確実性に関する情報を、多数の予測計算から抽出する方法。初期値の誤差を考慮する手法を「初期値アンサンブル手法」、数値予報モデルの不完全性を考慮する手法を「モデルアンサンブル手法」と呼ぶ。気象庁では初期値アンサンブル手法とモデルアンサンブル手法の両方を用いている。 異常潮位  高潮や津波とは異なり、比較的長期間(1週間から3か月程度)継続して、潮位が平常より数十センチメートル程度高く(もしくは低く)なる現象。原因は、気圧配置・海水温・海流の変動など多岐にわたり、これらが複合して発生すると考えられている。 ウィンドシアー(wind shear)  大気中の2地点で風の強さや向きが異なる状態のことで、風の空間的な急変域をいう。航空機の飛行に大きな影響を与える場合があり、航空路や空港での観測や予測が重要とされている。 ウィンドプロファイラ(wind profiler)  電波を地上から上空に向けて発射し、主に乱流に起因する空気屈折率の不均一によって後方に散乱された電波を受信し、処理することにより、観測点上空の風向・風速を測定するレーダー。 エーロゾル(aerosol)  大気中に浮遊している固体あるいは液体の微粒子。地表や海洋から舞い上がるものや、工業活動によって排出される煤煙などがある。太陽光の吸収・散乱や雲の生成などに影響する。 エルニーニョ現象  太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象で、数年おきに発生する。ひとたびエルニーニョ現象が発生すると、日本を含め世界中で異常な天候が起こると考えられている。 オゾンホール(ozone hole)  フロンガスなどのオゾン層破壊物質の排出により、1980年代初めから南極域で春季にあたる9、10月頃を中心に成層圏のオゾン量の顕著な減少が観測されるようになり、この現象は、南極大陸を中心にオゾン層に穴のあいたような状態となることからオゾンホールと呼ばれている。 温室効果ガス  地表面から放出される赤外線を吸収して大気を暖める効果(温室効果)をもつ気体(ガス)の総称。水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などがある。このうち、水蒸気を除くガスは人間活動に伴って増加しており、地球温暖化の原因物質として知られている。 海溝型地震  太平洋側の千島海溝や日本海溝、南海トラフ等では、海洋のプレートが陸のプレートの下に沈み込んでいる。陸のプレートが海洋プレートに引きずり込まれることにより、プレート境界には徐々にひずみが蓄積していく。これが限界に達すると、プレート境界が急激にずれて地震が発生する。これら海溝に近いところで発生する地震を海溝型地震と呼ぶ。 解析雨量  アメダスや自治体等の雨量計による正確な雨量観測と気象レーダーによる広範囲にわたる面的な雨の分布・強さの観測とのそれぞれの長所を組み合わせて、より精度が高い、面的な雨量を1キロメートル格子で解析したもの。 海洋酸性化  大気中に放出された二酸化炭素を海洋が吸収することにより、海洋の水素イオン濃度指数(pH)が長期間にわたって低下する現象。現在の海水は弱アルカリ性(海面においてはpH約8.1)を示しているが、二酸化炭素は水に溶けると酸性としての性質を示し、pHを低下させる。大気中の二酸化炭素濃度は増加し続けていることから、海洋はさらに多くの二酸化炭素を吸収することになるため、より酸性側になることが懸念されている。 海流  海洋のほぼ決まった場所をほぼ定常的に流れる大規模な流れ。代表的なものに日本の南岸を流れる黒潮や北大西洋のメキシコ湾流がある。 火映  赤熱した溶岩や高温のガス等が、噴煙や雲に映って明るく見える現象のこと。活動が活発化した火山では夜間に見ることができる。 火砕流  火山灰や岩塊、空気や水蒸気が一体となって急速に山体を流下する現象。火砕流の速度は時速数十キロメートルからときには百キロメートル以上に達し、温度は数百℃に達することもある。大規模な場合は地形の起伏に関わらず広範に広がり、埋没・破壊・焼失などの被害を引き起す。火砕流が発生してからの避難は困難なため、事前の避難が必要である。 火山ガス  火山活動に伴い火口等から噴出する気体。噴火前になると、マグマの上昇に伴い噴出量の増加等が観測されることがある。火山ガスには人体に有害なものがあるが、それらは空気より重いため凹地に溜まりやすく、中には無色無臭のものもあり危険に気づきにくいこともあるので注意が必要である。高濃度の火山ガスを吸い込むと死に至ることもある。 火山性微動  マグマの活動に起因する連続した地面の震動であり、火山活動が活発化した時や火山が噴火した際に多く観測される。 火山噴火予知連絡会  火山噴火予知計画(昭和48年文部省測地学審議会(現文部科学省科学技術・学術審議会測地学分科会)建議)により、関係機関の研究及び業務に関する成果及び情報の交換、火山現象についての総合的判断を行うこと等を目的として、昭和49年に設置された。この連絡会は、学識経験者及び関係機関の専門家から構成されており、気象庁が事務局を担当している。 火山礫(れき)  噴火によって噴出される噴石や火山灰などの固形状の物質は大きさによって分類されており、そのうちの一つ。直径が2~64ミリメートルのものを指す。なお、直径が64ミリメートルより大きいものを「火山岩塊」、2ミリメートルより小さいものを「火山灰」と呼んでいる。 ガストフロント  積雲や積乱雲から吹き出した冷気の先端と周囲の空気との境界を指し、前線状の構造を持つ。降水域から周囲に広がることが多く、数10キロメートルあるいはそれ以上離れた地点まで進行する場合がある。地上では、突風と風向の急変、気温の急下降と気圧の急上昇が観測される。 活火山  火山噴火予知連絡会では、平成15年(2003年)に活火山を「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義した。現在、日本には111の活火山がある。 気候モデル  気候を形成する大気、海洋、陸面などの諸因子を数値モデル化し(それぞれ大気大循環モデル、海洋大循環モデル、陸面モデルという)、これらを組み合わせコンピュータで計算して気候を予測する数値予報モデル。 気象防災アドバイザー  気象庁が平成29年度に実施した「気象防災アドバイザー育成研修」を受講した気象の専門家のこと。気象防災アドバイザー育成研修では、我が国の防災制度や地方公共団体の防災対応、最新の防災気象情報の実践的な活用方法等の研修を行った。気象防災アドバイザーには、地方公共団体における防災の現場での活動のほか、地域の防災イベントでの講演等、多様な場面での活躍が期待される。 気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC:Weather Business Consortium)  産業界における気象データの利活用を一層推進するとともに、IoT・AI技術を駆使し、気象データを高度利用した我が国における産業活動を創出・活性化するため、平成29年3月7日に産学官連携で設立された。事務局は気象庁が担っている。 緊急地震速報  地震波は主に2種類の波があり、速いスピード(秒速約7km)で伝わる波をP波、伝わるスピードは遅い(秒速約4km)が揺れは強い波をS波という。緊急地震速報は、P波とS波の伝わる速度の差を利用して、震源に近いところにある地震計がP波を検知すると、震源の位置や地震の規模、震度等を瞬時に計算して予想し、S波が伝わってくる前に強い揺れが来ることをお知らせするもの。また、観測点に揺れが到達し、周辺地域に強い揺れが来ることが予想される場合は、その旨あわせてお知らせする。 空振  爆発により発生する空気の振動現象。火山の噴火、火砕流の流下などに伴い発生する。 クロロフルオロカーボン類(chlorofluorocarbons)  塩素、フッ素、炭素からなる化合物で、オゾン破壊の程度の高い物質。代表的なものとしてCFC-11、CFC-12などがある。フロンともいう。 傾斜計  地盤の傾きを測定する機器で、地震や火山活動に伴う地殻変動の監視に用いる。 黄砂  アジア域の砂漠地帯(ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠)や黄土高原などから舞い上げられた砂塵が、上空の強い風によって東方へ輸送され、徐々に降下する現象。日本における黄砂現象は、春先から初夏にかけて観測されることが多く、空が黄褐色に煙ることにより、一般にもよく知られた現象である。現象が著しいときは、視程の悪化により交通機関へ影響を与える場合がある。 自己浮上式海底地震計  海底に設置する地震計で、記録装置とともに船舶などから投下し海底に沈めて、一定期間の観測終了後に海面上に浮上させ回収する方式のもの。データを記録できる期間は数か月程度で、継続的な監視のための常時観測には向かないが、ケーブル式海底地震計より安価で、機動的な調査のための観測に用いられる。 地震計  地震動を計測する機器。複数の観測点における、地震波が到達した時刻や地震波の振幅などから、地震の発生場所、深さ、規模(マグニチュード)が推定できる。 地震動  地震波が地表に到達したときの地面の揺れ。 地震波  地下で生じる岩盤の破壊は、ある面(断層)を境に互いがずれるように起こる。これを断層運動といい、それに伴い地震波が生じる。地震波は、地球の内部を伝わる縦波(P波)と横波(S波)、地球の表面に沿って伝わる波(表面波)に大別できる。 準天頂衛星システム  日本の衛星測位システム。英語名Quasi-Zenith Satellite System(略称はQZSS)。GPS等他のGNSS衛星に比べ、日本周辺では長時間高仰角に配置するため、都市部や山間部等視野の限られた場所での測位精度の向上が期待される。 震源  断層運動の際に、岩石の破壊(ずれ)が始まり地震波を発生させた最初の地点。震源域は、断層運動により地震波を発生させた領域全体を指し、断層運動によって生じた岩石の破壊面とほぼ同じである。震源域の長さ(差し渡し)は、マグニチュード7の地震で数十キロメートル程度、マグニチュード8では100キロメートルを超えることがある。 震度  地震動の強さを表す尺度であり、地表での揺れの程度を意味する。震度は揺れの強い方から「7」、「6強」、「6弱」、「5強」、「5弱」、「4」、「3」、「2」、「1」、「0」の10段階の階級で表現する。一般に、地震の震源域に近い場所ほど震度は大きく、またマグニチュードが大きい地震のときほど、各地の震度は大きくなる。 震度計  地震動を計測し、観測地点における震度(計測震度)を自動的に算出する機器。計測震度の算出には、計測した地震動の加速度の振幅や周期等を用いる。 深部低周波地震(微動)  深さ約30km~40kmで発生する、周波数の低い(周期の長い)波が卓越する地震のことを言う(P波やS波が明瞭でなく震動が継続するものは「深部低周波微動」と呼ばれる)。長野県南部~日向灘にかけてのプレート境界では、深部低周波地震(微動)が見られる。 スーパーコンピュータシステム  数値予報モデル等による解析・予測および静止気象衛星(ひまわり)に代表される衛星データ処理に用いるスーパーコンピュータを中核としたシステム。 数値予報  物理の法則に基づき、将来の気温、気圧、風などの大気や海洋の状態を数値として予測する技術。この計算には、膨大な演算処理が必要であるため、スーパーコンピュータが使われる。計算に用いられるプログラムを数値予報モデルと呼ぶ。 静止気象衛星  赤道上空約35,800キロメートルの高さにあって、地球の自転と同一周期で地球を周回しながら、常に地球上の同じ場所の気象観測を行う衛星。我が国の「ひまわり」のほか、米国のGOES、欧州のMETEOSATなどが運用されている。 静止気象衛星「ひまわり」(Himawari)  気象庁の運用する静止気象衛星「ひまわり」8号及び9号を指す。従来の「ひまわり」という和名の愛称を受け継ぎ、8号及び9号から英名も「Himawari-8」「Himawari-9」とした。「ひまわり」8号及び9号の気象観測機能は、「ひまわり」6号及び7号と比べ、画像分解能が向上、観測間隔が短縮、画像の種類が増加し、防災のための監視機能を強化すると共に、気候変動や地球環境の監視機能も強化する。8号を平成26年(2014年)に、9号を平成28年(2016年)に打ち上げ、2機あわせて15年間の観測を行う。 成層圏  対流圏と中間圏の間にある大気圏。昭和36年(1961年)に世界気象機関(WMO)は、「対流圏界面(高さ6~18キロメートル)と成層圏界面(50~55キロメートル)との間にあり、一般に気温が高さとともに高くなる領域」と定義した。 世界気象機関  →WMO(World Meteorological Organization)参照 全磁力  ある場所における地磁気の大きさのこと。鉱物が持つ磁力は、温度や応力によって変化するので、全磁力の変化は地下の温度、応力状態の変動を示唆する。火山体内部で温度が上昇すると北側の観測点で全磁力値が増加し、南側で減少する。 台風  北西太平洋または南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速がおよそ毎秒17メートル以上のもの。 ダウンバースト  積雲や積乱雲から生じる強い下降気流を指し、地面に衝突し周囲に吹き出す突風を生じる。地上では、発散性の突風のほか強雨・雹とともに露点温度の下降を伴うことがある。被害域は円または楕円状となることが多い。また、強い低層ウィンドシアーを起こす現象の一つであり、航空機の離着陸に大きな影響を与える。周囲への吹き出しが4キロメートル未満のものをマイクロバースト、4キロメートル以上のものをマクロバーストとも呼ぶ。 高潮  台風や発達した低気圧などに伴う気圧降下による海面の吸い上げ効果と風による海水の吹き寄せ効果のため、海面が異常に上昇する現象。 竜巻  積雲や積乱雲に伴って発生する鉛直軸を持つ激しい渦巻きで、漏斗状または柱状の雲や、陸上では巻き上がる砂塵、海上では水柱を伴うことがある。地上では、収束性や回転性を持つ突風や気圧降下が観測され、被害域は帯状・線状となることが多い。 地磁気永年変化  主に地球内部の鉄やニッケルの対流の変化によって生じる数年から数十年以上の緩やかな時間変化。数万年から数十万年ごとに地磁気の南北が逆転している。 中層フロート(アルゴフロート)  海面から深さ2,000メートルまでの間を自動的に浮き沈みしながら水温・塩分を観測し、そのデータを人工衛星経由にて通報する観測機器。アルゴ計画(アの項を参照)において主要な観測機器として用いられている。中層フロートから通報されたデータは、直ちに気象データ交換のための全球通信システム(GTS)を通じて国際的に交換され、海水温予測やエルニーニョ現象の監視・予測などの気象・海洋業務に利用されている。 潮位  基準面から測った海面の高さで、波浪など短周期の変動を除去したもの。 長周期地震動  大きな地震が発生したときに生じる、周期が長い揺れ。長周期地震動により、高層ビルは大きく長時間揺れ続ける。また、長周期地震動は遠くまで伝わりやすい性質があり、地震が発生した場所から数百km離れたところでも大きく長く揺れることがある。長周期地震動による大きな揺れにより、家具類が倒れたり・落ちたりする危険に加え、大きく移動したりする危険がある。 長周期地震動階級  長周期地震動の揺れの大きさの指標で、高層ビルの高層階における人の行動の困難さの程度や家具類等の移動・転倒などの被害の程度から区分したもの。揺れの大きい方から「階級4」、「階級3」、「階級2」、「階級1」の4段階で表現する。 津波  海底下の浅いところで大きな地震が起きると、海底が持ち上がったり下がったりする。その結果、周辺の広い範囲にある海水全体が短時間に急激に持ち上がったり下がったりし、それにより発生した海面の変動が波として周囲に広がっていく現象。津波が陸地に近づき水深が浅くなると、速度は遅くなるとともに、津波の高さは急速に高くなる。 津波地震早期検知網  津波の発生の有無を即座に判定するための地震観測網。各観測点からの地震波形データは本庁及び大阪管区気象台に伝送され、地震の位置・規模を迅速に推定することにより津波の有無の判定を行っている。 データ同化技術  気象台などが行う地上気象観測や高層気象観測のように、ある決まった時刻に行われる観測に加えて、衛星観測のように特に観測時刻が定まっていない観測など、様々な観測データを数値予報の「初期値」(予測計算を開始する時刻の気温や風速などの大気の状態を表す物理的な数値)として活用するための手法。 東海地震  過去の大規模な地震の発生間隔などから、駿河湾から静岡県の内陸部のフィリピン海プレートと陸のプレートの境界を震源域として、いつ発生してもおかしくないと考えられているマグニチュード8クラスの海溝型地震。日本で唯一、防災対策に結びつけられる短期直前予知の可能性があるとされてきた。ただし、現在の科学的知見によれば、東海地震についても、地震の発生を確度高く予測することは困難であると考えられている。 南海トラフ地震  駿河湾から日向灘沖にかけての南海トラフ沿いのプレート境界を震源域として発生する大規模な地震。概ね100~150年間隔で繰り返し発生しており、昭和東南海地震(1944年)及び昭和南海地震(1946年)が起きてから70年以上が経過した現在では、次の南海トラフ地震発生の切迫性が高まってきていると考えられている。発生する地震の震源域には多様性があると考えられており、従来想定されてきた東海地震の震源域も含まれる。 南海トラフ地震に関連する情報  南海トラフ全域を対象として、異常な現象を観測した場合や南海トラフ地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まっていると評価した場合等に発表する情報。 南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会  気象庁が南海トラフ全域を対象として地震発生の可能性を評価するにあたって、有識者から助言いただくために開催する。学識経験者(現在は6名)から構成され、異常な現象を観測した際に開催する臨時の会合と、毎月開催する定例の会合がある。 熱帯低気圧  熱帯又は亜熱帯地方に発生する低気圧のうち、最大風速がおよそ毎秒17メートル未満で台風に満たないもの。台風も含めて熱帯、亜熱帯地方に発生する低気圧の総称として用いることもある。 ハザードマップ(hazard map)  ある災害に対する危険な地区が記入されている地図。火山噴火、地すべり、山崩れ、洪水、高潮、土石流、なだれなどの現象に対して、それぞれ作成されている。 波浪  海面の波のうち、風によって引き起こされるものの総称。その場所で吹いている風によって起った「風浪」と、他の場所で風によって生じた波がその場所まで伝わって来た「うねり」がある。 ひずみ計  地下の岩盤の伸び・縮みを非常に高感度で観測する装置。気象庁では、南海トラフ地震発生の可能性が相対的に高まったと評価されるようなプレート間の固着状態の変化を示唆する地殻変動を捉えることを目的として、地下数百メートル程度の深さに円筒形のセンサーを埋設し、周囲の岩盤から受ける力によって変形する様子を極めて高い精度で検出し、監視している。センサーには、変形による体積の変化を測定する体積ひずみ計と、水平面内の方位ごとの変形の量も測定できる多成分ひずみ計がある。 ヒートアイランド現象(heat island phenomenon)  人工的な熱の排出や、人工的な地表面及び建築物の増加により、都市の気温が周囲よりも高い状態になる現象。等温線が都市を丸く取り囲んで、気温分布が島のような形になることから、このように呼ばれる。 プレート  地球表面を覆う厚さ数10キロメートルから100キロメートル程度の固い岩石の層。地球表面は大小合わせて十数枚のプレートで覆われており、日本周辺は、太平洋プレート、フィリピン海プレート、北米プレート、ユーラシアプレートの4枚のプレートが接する境界に位置している。 プレートテクトニクス(plate tectonics)  地震活動、火山活動、地殻変動などの地球表面の地学現象を、地球表面を覆っている複数のプレートの相対的な運動から生じるものとして統一的に説明・解明する学説。 噴火警戒レベル  火山活動の状況に応じた「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)と、防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分した指標で、噴火警報、噴火予報で発表する。各火山の地元都道府県等が設置する火山防災協議会で共同検討を行い、火山活動の状況に応じた避難開始時期・対象地域が設定された火山で運用を開始している。平成19年12月1日から順次運用を開始。 噴火警報  火山現象に関する警報。噴火に伴って、生命に危険を及ぼす火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等の避難に時間的猶予がほとんどない現象)の発生やその危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」を明示して発表する。 噴火速報  登山者等、火山の周辺に立ち入る人々に対して、噴火の発生を知らせる情報のこと。火山が噴火したことを端的にいち早く伝え、身を守る行動をとっていただくために発表する。 噴石  噴火に伴って火口から噴出する石は、その大きさや形状等により「火山岩塊」、「火山れき」、「火山弾」等に区分される。気象庁では、防災情報で住民等に伝える際には、これらを総称して「噴石」という用語を用いている。噴石は、時には火口から数キロメートル程度まで飛散することがあり、落下の衝撃で人が死傷したり、家屋・車・道路などが被害を受けることがある。 マグニチュード(magnitude)  地震(断層運動)の規模の尺度。一般にMという記号で表され、観測された地震波をもとに算出される。Mの値が1大きくなると地震のエネルギーは約30倍になる。 民間気象業務支援センター  気象庁は、予報業務許可事業者その他民間における気象業務の健全な発達を支援し及び産業、交通その他の社会活動における気象情報の利用促進を図るため、「民間気象業務支援センター」を指定できることになっている。現在、(一財)気象業務支援センターが気象庁長官よりその指定を受けている。 有害紫外線  紫外線の中でも特に、波長280~315ナノメートル*の紫外線(B領域紫外線、UV-B)は、オゾンによる吸収が大きいことからオゾン層の破壊の影響を最も強く受け、かつ、生物にとって有害であることから、一般に有害紫外線と呼ばれている。オゾン層破壊に伴い、地上に到達する有害紫外線量の増加による皮膚がん、白内障など健康被害の増加が懸念されている。  *:1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1(10億分の1メートル) 余震  比較的大きな地震(本震)が発生した後、その近くで続発するより小さな地震。震源が浅い大きな地震は、ほとんどの場合、余震を伴う。余震の数は本震直後に多く、時間とともに次第に少なくなる。大きな余震による揺れは、場所によっては本震の揺れと同じ程度になることがある。壊れかけた家や崖などに注意する必要がある。なお、気象庁では、さらに規模の大きな地震についての注意を怠ることのないよう、防災上の呼びかけにおいては「余震」ではなく「地震」という言葉を使用する。 4次元変分法  数値予報モデルが短時間(例えば3時間程度)に予測する、風、気温、降水量などの様々な物理量と、地上の様々な場所や時刻に実際に観測される物理量との差が最小になるようにするデータ同化技術。空間(3次元)の観測値の分布に加えて、時間的な分布も考慮されることから4次元と称される。 ライダー(lidar : Light Detection and Ranging)、ドップラーライダー  レーザー光の短いパルスを大気中に発射し、雲、エーロゾル、大気分子からの散乱光を受信することによりそれらの濃度の高度分布を遠隔測定する装置のことをいう。レーザーレーダーとも呼ばれる。また、ドップラー効果を利用して上空の風の情報を得る機能を備えた装置をドップラーライダーという。 ラジオゾンデ(radiosonde)  センサーと無線発信器を一体とした気象測器のこと。水素又はヘリウムを詰めた気球に吊して上空に飛揚し、気圧・気温・湿度・風など大気の状態の測定に使用する。 ラニーニャ現象  エルニーニョ現象(エの項を参照)とは逆に、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より低くなり、その状態が1年程度続く現象で、数年おきに発生する。ひとたびラニーニャ現象が発生すると、日本を含め世界中で異常な天候が起こると考えられている。 レーダー(radar:Radio Detection and Ranging)、ドップラーレーダー  パルス状の電波を大気中に発射し、雨粒や雪からの反射波を受信することにより降水の水平分布や高度などを遠隔測定する装置のことをいう。また、降水の分布や強さなどの観測に加え、電波のドップ ラー効果を利用して上空の風の情報を得る機能を備えたレーダーをドップラーレーダーという。