気象業務はいま 2015 はじめに  平成26年は、気象現象では、2月の関東甲信地方などの大雪、7月の台風第8号、「平成26年8月豪雨」、9月の北海道の大雨、12月の普段雪の少ない地域での大雪等により、甚大な災害が数多く発生しました。  地震・火山現象では、9月27日に御嶽山が噴火し、死者・行方不明者として戦後最悪の火山災害となり、そのほか桜島や口永良部島、阿蘇山等、活発な火山活動がありました。また、11月22日に長野県北部で震度6弱を観測する地震被害もありました。「東北地方太平洋沖地震」の余震活動も引き続き活発な状況です。  これらの災害により犠牲になられた方々とその御遺族の皆様に謹んで哀悼の意を表しますとともに、災害に遭われました皆様に心よりお見舞いを申し上げます。  このような状況を踏まえ、特集1「集中豪雨の実態と最新監視技術の動向」では、平成26年8月豪雨の気象状況等を解説し、集中豪雨をもたらす積乱雲の監視に関する研究、情報の活用方法を紹介しています。今後とも防災気象情報の活用への工夫とともに、防災気象情報を支える観測・予測技術の向上を図っていきます。  特集2「火山観測と火山防災の強化」では、昨年9月27日に発生した御嶽山の噴火の概要と気象庁の対応、火山噴火予知連絡会での評価・報告等についてとりまとめています。今後とも関係機関と連携・協力しながら、火山対策の一層の強化に努めてまいります。 多くの方々が本書に目を通され、気象業務への皆様のご理解が深まりますとともに、各分野で活用されることを期待します。 平成27年6月1日 気象庁長官 西出 則武 特集1 集中豪雨の実態と最新監視技術の動向 〜豪雨災害から身を守るため〜  平成26年(2014年)は、梅雨が明けた後も日本列島の各地で大雨が続き、特に7月30日から8月26日にかけては台風の接近なども重なり各地に甚大な被害をもたらしました。気象庁はこの一連の大雨を「平成26年8月豪雨」と命名しました。この豪雨の状況と要因、集中豪雨の監視・予測精度向上のための最新の研究、住民の皆様が災害から身を守るための情報の活用方法を紹介します。 (1)平成26年8月豪雨  7月31日から8月11日にかけて日本列島に台風第12号及び台風第11号が相次いで接近し、8月5日から26日にかけて前線が日本付近に停滞しました。また、7月30日から8月26日の期間を通じて、日本付近への暖かく湿った空気の流れ込みが継続しました。これらの影響により全国各地で幾度も大雨となりました。7月30日から8月26日までの総降水量は、四国地方の多いところで2000ミリ、九州地方や近畿地方の多いところで1000ミリを超え、その他の地方でも8月の月降水量平年値を大きく上回る大雨となりました。また、九州地方から東海地方にかけては、1時間に80ミリ以上の猛烈な雨をしばしば観測したほか、全国の20地点で1時間降水量のこれまでの記録を更新しました。  これらの大雨により、土砂災害、浸水害、河川の氾濫等が発生し、甚大な被害となりました。7月31日から8月11日にかけては、相次いで接近した台風第12号や台風第11号の影響で、山口県岩国市で発生した土砂災害や島根県出雲市及び徳島県美馬市で増水した川に流されるなどして死者6名の人的被害が、四国地方を中心に全国各地で7,000棟を超える住家被害が発生しました。また、8月15日から8月26日にかけては、前線の影響で、石川県羽咋市や兵庫県丹波市、北海道礼文町で発生した土砂災害などにより死者8名の人的被害が、京都府や兵庫県を中心に全国各地で8,000棟を超える住家被害が発生しました。さらに、8月19日から20日にかけては、広島県広島市で発生した土砂災害により、死者74名の人的被害が発生しました(被害状況は、消防白書、国土交通省の情報(「台風第12号・第11号の大雨等による被害状況等について」平成26年8月19日現在、「8月16日から続く大雨等による被害状況について」平成26年11月5日現在)による)。  各地の気象台は、大雨による重大な災害の発生のおそれが大きくなる度に、大雨等の各種警報や土砂災害警戒情報、記録的短時間大雨情報等の防災気象情報を発表して厳重な警戒を呼びかけたほか、自治体へ電話連絡(ホットライン)し、危険の切迫についての危機感や今後の見通しを直接解説しました。また気象庁本庁では、台風情報や、大雨、雷、突風に関する全般気象情報を順次発表し、大雨や洪水、暴風、高波、高潮に対する厳重な警戒を呼びかけました。特に、台風第11号の際には、事前に記者会見を行い台風接近に伴う大雨や暴風等に対して警戒を呼びかけるとともに、三重県に大雨特別警報を発表した直後にも記者会見を行い最大級の警戒を呼びかけました。 (2)8月の不順な天候の要因  平成26年の8月は西日本を中心に不順な天候となりました。西日本太平洋側で、1946年の統計開始以来、月降水量平年比が301%と最も多く、月間日照時間が54%と最も少ない記録となりました。  この不順な天候をもたらした要因として、①西日本を中心に南からの暖かく湿った空気が入りやすかったこと、②台風第12号と第11号が相次いで西日本に接近したこと、③前線が本州付近に停滞しやすかったことの3点があげられます。  1点目の南からの暖かく湿った空気の流入は、太平洋高気圧の勢力が関東の南東海上で強い一方、西日本への張り出しが弱かったことによるものと考えられます。このような気圧配置の持続や3点目の前線の停滞には、日本付近の上空の偏西風が平年と比べて南に偏りかつ南北に蛇行(日本の西側で南に、東側で北に蛇行)したことが関係しているものと考えられます。その背景としては、太平洋東部やインド洋東部で海面水温が高かったこと、熱帯大気に見られる対流活動の変動によって、インドからフィリピン付近にかけての広い範囲で積乱雲の発生が平年より少なかったことなどがあげられます。これらの現象の一つ一つは珍しいものではありませんが、平成26年8月は3つの要因が重なったことで、記録的な多雨や日照不足になったと考えられます。気象庁では、これらの要因等について気象学の専門家を含めた異常気象分析検討会を開催し、見解として発表しました。 (3)8月19日から20日にかけての広島県の大雨と土砂災害  広島市では8月20日の集中豪雨に伴い土砂災害が発生し、住宅地へ土砂が流れ込みました。  広島県付近では、前日の8月19日から、日本海に停滞する前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込んだため、大気の状態が不安定となっていました。特に20日明け方にかけて、広島市を中心とした狭い範囲に集中して猛烈な雨が降りました。広島市安佐北区三入では、これまでの記録を上回る大雨(最大1時間降水量が101.0ミリ、最大3時間降水量が217.5ミリ、最大24時間降水量が257.0ミリ)となりました。  広島地方気象台は、この大雨に対し、19日21時26分に大雨警報を、20日01時15分には広島県と共同で土砂災害警戒情報を発表して警戒を呼びかけるとともに、03時49分には記録的短時間大雨情報を発表して、一層厳重な警戒を呼びかけました。また、それらの内容を関係自治体に直接ホットラインで連絡し、危機感を伝えました。 (4)広島県での集中豪雨の発生要因の解明  平成26 年(2014年)8月20日の広島市を中心とした大雨について、気象研究所で調査した結果、主に次の要因により大雨となったことがわかりました。 ・繰り返し発生した積乱雲により積乱雲群が形成されたこと ・積乱雲群が複数連なった線状降水帯が同じ場所で数時間維持されたこと  この日、日本海上には前線が停滞しており、線状降水帯が発生した広島市は、前線の約300キロメートル南側で、その場所はこの前線を含み東シナ海から日本海上に伸びた幅約500キロメートルに及ぶ上空の湿った領域の南端に位置していました。このような位置関係は、梅雨期に大雨が発生する多くの事例(例えば、平成24年7月九州北部豪雨)と類似しています。このとき同時に広島市付近には、豊後水道上で蓄えられた大量の下層水蒸気(地上から上空1キロメートル付近までの水蒸気)が局所的に流入し、発生した線状降水帯の側面から水蒸気が継続的に供給されたため、次々と積乱雲が発生していました。このため、広島県と山口県の県境付近では3~5個程度の積乱雲で形成された積乱雲群が次々に作り出され、それらが広島市上空を通過することで同じ地域で線状降水帯が維持され、激しい大雨をもたらしました。  このような集中豪雨をもたらす線状降水帯の発生メカニズムは「バックビルディング」と呼ばれており、この線状降水帯が発生する時刻と場所を事前に予測することは難しいのが現状です。今後も同様のメカニズムで大雨をもたらす線状降水帯の調査を進め、発生条件を明らかにしていくことにより、大雨の予測精度向上を図っていきます。 (5)最新の技術による積乱雲の監視  集中豪雨をもたらす積乱雲や線状降水帯の生成や維持のメカニズムなど十分には解明されていないことが多くあります。気象庁はこの積乱雲を捉えるために、様々な監視技術の業務化や研究を進めています。 ア.新静止気象衛星「ひまわり8号」による積乱雲の監視  積乱雲は、ときには1万メートルを超える高さまで発達する雲で、局地的な大雨や雷、竜巻等の突風をもたらします。この積乱雲は、小さな積雲からわずか数十分で急激に発達してできることがあります。静止気象衛星「ひまわり」は宇宙から雲の観測を行いますが、これまで運用してきた「ひまわり7号」の30分間隔の観測では、発達した積乱雲の姿を捉えることはできても、積乱雲の発達の過程を克明に追跡することはできませんでした。  気象庁は、平成26年10月7日に新しい衛星「ひまわり8号」を打ち上げ、平成27年7月頃から観測データの利用を開始する予定です。この衛星は、観測する画像の種類が増えるだけでなく、日本付近を2.5分間隔で観測し、画像の分解能も2倍になることから、発達中の積雲をより詳細に観測することができるようになります。下の図は、運用開始前の「ひまわり8号」が試験的に2.5分間隔で観測した画像です。積雲が発達して積乱雲になる様子がよくわかります。このように、新しい衛星により、積乱雲の監視機能が強化されます。 イ.最新の観測機器による積乱雲の監視  気象レーダーは、積乱雲をはじめとした雨雲の観測・監視の基本的な手段として長年利用されてきました。近年、次世代の利用技術と言うべき新しい気象レーダーが提案され、気象研究所では次の2種類の観測・技術の実用化に向けた研究を進めるとともに、積乱雲の発生・発達に大きく影響する水蒸気量を詳細に把握するための最新機器の開発や既存観測網の高度利用の研究も進めています。 ①フェーズドアレイレーダーを用いた超高速観測による大気の状態の把握  局地的大雨や竜巻等の突風などの激しい現象をもたらす発達した積乱雲の内部には、激しい対流域が存在し、時々刻々変化しています。そのような変化の状況は、立体的な観測に時間を要する従来の気象レーダーで把握することは困難です。気象研究所では、格段に短い時間間隔で立体的な観測ができるフェーズドアレイレーダーという次世代の気象レーダーを用いて、積乱雲がもたらす激しい現象の探知・直前予測に関する技術開発を進めます。このレーダーは、従来の気象レーダーとは異なり、機械的に上下方向のアンテナの向きを変える必要がないため、最短10秒程度の時間間隔で立体的な観測を行い、積乱雲の変化を捉えることが可能となります。この技術を用いて、積乱雲の発生・発達・衰弱の兆候をより迅速に把握することで、災害をもたらす積乱雲の正確な発生・発達等の予測に役立つものと期待しています。 ②二重偏波レーダーによる積乱雲中の雹の把握  積乱雲の中では、上昇気流の強さや、雲内に取り込まれる水蒸気の量などの条件により、当初微小であった雲粒が、雨粒、小さな氷の粒(氷晶)、大きな氷の粒(あられや雹)などの様々な降水粒子に成長します。この降水粒子がやがて地上に落下する際、氷の粒であっても落下する途中で融ければ雨になります。しかし、大粒の雹が融けきれずに地上に達し、降雹被害をもたらすことがあります。雹として降るかどうかは、積乱雲中に大粒の雹を多量に生成する仕組みがあるか否かが鍵となります。  気象研究所では、観測精度の高い最新式の気象レーダーである固体素子二重偏波レーダーを用いて、雨滴の粒径分布を考慮した高精度の降水強度の推定と、降水粒子の種類(雨、雪、雹など)を区別する技術の開発をしています。二重偏波レーダーは、従来の気象レーダーが用いている水平方向に波の位相を持つ電波に加えて、垂直方向に波の位相を持つ電波も同時に発射・受信することが可能な装置です。これら二つの電波を用いることで、降水粒子の形状の情報が得られ、扁平な雨粒と球状の大きな氷粒(雹)を区別する事ができます。平成26年(2014年)6月24日の東京都三鷹市・調布市等に激しい降雹をもたらした積乱雲を解析した結果、雲内における雹の生成が地上での降雹の10~20分前であることを確認し、二重偏波レーダーによる降雹の直前予測の可能性を示すことができました。この気象レーダーが、降雹による被害をもたらす危険な積乱雲の監視に役立つことが期待されます。 ③積乱雲の発生・発達に大きく影響する水蒸気量に関する最新の研究動向  年のように気象災害をもたらす集中豪雨は積乱雲が同じ場所で次々と発生・発達を繰り返すことにより起こりますが、それには「(4)広島県での集中豪雨の発生要因の解明」に記されたように、大気下層の水蒸気の供給が深く関わっていることが、最新の研究で明らかになってきました。しかし、従来の観測手段では観測の密度に限りがあり、きめ細かく水蒸気の分布を捉えることが困難です。そこで、気象研究所では、①GPS等測位衛星の利用、②気象ドップラーレーダーの位相情報※1の利用、③新型ライダー※2の利用の研究を通して、水蒸気量の新しい観測手法の技術開発に取り組んでいます。これらが実用化されることによって、気象災害をもたらす集中豪雨の予測精度が向上するものと期待されています。技術開発の詳細については、第1部第2章第2節を参照ください。 ※1 位相情報:水蒸気の量などにより電波の速度が変化する原理を利用する情報。 ※2 ライダー:レーザー光を利用した測定装置。123ページを参照。 (6)気象災害から身を守るための情報の活用(気象庁ホームページの紹介)  気象庁が発表する様々な情報は、気象庁ホームページから入手することができます。ここでは、災害から身を守るために役立つ防災気象情報を紹介します。 ア.高解像度降水ナウキャスト  「高解像度降水ナウキャスト」は、降水分布の状況について、30分後までの予想を250メートル四方の細かさで、35分後から60分後までの予想を1キロメートル四方の細かさで提供するもので、雨の状況を詳細に把握することができます。  また、30分後までの「強い降水域」や、竜巻・落雷の危険が高まっている「竜巻発生確度2又は雷活動度4」の領域(P62、P63参照)を1枚の画像に重ねて表示することができます。  さらに、スマートフォンからアクセスした場合は、自動的にスマートフォン用ページが表示され、GPS機能によりボタン1つで現在地を中心とした表示ができます。  このほか、現在までの降雨量については、雨量計とレーダーを組み合わせた「解析雨量」で、1時間以上先に予想される降水域については「降水短時間予報」で、確認することができます。  次に、こうした降雨のデータを用いて作成・発表される土砂災害に関する防災気象情報について紹介します。 イ.土砂災害に関して気象庁が発表する防災気象情報  がけ崩れや土石流などの土砂災害は、建物に壊滅的な被害をもたらし一瞬のうちに尊い人命を奪ってしまう恐ろしい災害です。気象庁は気象状況から土砂災害の発生するおそれが高まったときに土砂災害警戒情報(都道府県と共同発表)や大雨警報・注意報を発表しています。 <土壌雨量指数について ~土砂災害警戒情報・大雨警報等の判断基準~>  大雨に伴って発生する土砂災害は、現在降っている雨だけでなく、それまでに降った雨が土壌中に貯まった水分量が深く関係しています。大量の雨が地中に浸み込むと、土砂災害の発生する危険度が高まります。気象庁は、土壌中の水分量を示す「土壌雨量指数」を算出し、土砂災害警戒情報及び大雨警報・注意報を発表する際の判断に用いています。土砂災害警戒情報の判断基準は、過去の土砂災害発生時の土壌雨量指数等をあらかじめ調査した上で定めており、この基準に到達した場合には、過去の土砂災害発生時に匹敵する極めて危険な状況になったことを意味します。 ①土砂災害警戒情報  土砂災害警戒情報は、大雨警報(土砂災害)の発表中、土砂災害発生の危険度がさらに高まったときに、市町村長の避難勧告等の判断に資するため、また、住民の自主避難の参考としていただくため、対象市町村を特定して警戒を呼びかける情報であり、都道府県と気象庁が共同で発表しています。  土砂災害警戒情報は、情報が発表され防災機関や住民に伝わり避難行動がとられるまでにかかる時間を確保できるよう、2時間先までの降雨による土壌雨量指数等の予想を用いて発表の判断をしています。実際に土砂災害警戒情報の基準に実況で到達した場合には、生命や身体に危害を及ぼす土砂災害が既に発生している可能性があるという極めて危険な状況となりますので、この状況に至るまでには避難行動を完了できるよう早めの避難を心がけることが重要です。  土砂災害警戒区域等にお住まいの方は、市町村からの避難に関する情報に留意するとともに、土砂災害警戒情報を自主避難の参考としてください。また、大雨警報(土砂災害)は、避難行動に支援を必要とする方の避難に要する時間を確保できるよう、土砂災害警戒情報の発表より前に発表することとしています。土砂災害警戒区域等にお住まいで避難行動に支援を必要とする方は大雨警報(土砂災害)が発表された時点で早期避難の検討を行うことが重要です。 ②土砂災害警戒 判定メッシュ情報  土砂災害警戒情報を補足する詳細な情報として土砂災害警戒判定メッシュ情報があります。この土砂災害警戒判定メッシュ情報は、5キロメートル四方の領域(メッシュ)ごとの土砂災害発生の危険度を5段階で判定した結果を表示します。  急傾斜地や渓流の付近など、土砂災害によって生命や身体に危害を生じるおそれがあると認められる場所は、都道府県が土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域等に指定しています。これらの区域等にお住まいの方は、自治体からの避難に関する情報に留意するとともに、土砂災害警戒情報や大雨警報(土砂災害)が発表されたときには「土砂災害警戒判定メッシュ情報」で自宅周辺の危険度の高まり(メッシュの色)を確認して早めの避難を心がけることが重要です。  土砂災害の被害を防ぐためには、一人ひとりが土砂災害から身を守れるように備えておくことが重要です。ここでは、3つのポイントを紹介します。 普段から地域の危険度を把握  国土交通省砂防部のホームページ(http://www.mlit.go.jp/river/sabo/link_dosya_kiken.html)を参照し、お住まいの場所が土砂災害からの避難が必要な土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域等に当たるかどうか、あらかじめ確認しておくことが重要です。 雨が降り出したら情報に注意  雨が降り出したら、市町村からの避難に関する情報に留意するとともに、土砂災害警戒情報、大雨警報・注意報にも注意することが必要です。また、「土砂災害警戒判定メッシュ情報」を使って、お住まいの場所の土砂災害発生の危険度の高まりを確認することも重要です。 早めの避難行動が重要  「土砂災害警戒判定メッシュ情報」において、土砂災害警戒情報や大雨警報の基準に到達した領域(メッシュ)では、土砂災害危険箇所・土砂災害警戒区域等の外の少しでも安全な場所へ避難することが重要です。周囲の状況や雨の降り方にも注意し、自治体からの避難に関する情報がなくても、危険を感じたら躊躇することなく自主避難することが大切です。避難をしようとしたときに、激しい雨や暴風のために屋外を移動することがかえって命に危険を及ぼす状況となっているなど、立ち退き避難ができない場合には、頑丈な建物の2階以上の、崖や沢筋からなるべく離れた部屋への待避などが有効となる場合があり、少しでも命が助かる可能性のある行動をとることが重要です。 コラム 地球温暖化と短時間強雨の増加  近年、日本では集中豪雨が頻繁に発生しているように感じますが、実際はどうなのでしょうか。また地球温暖化との関係はあるのでしょうか。 (1)近年の気温上昇と短時間強雨の増加傾向  IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書第1作業部会報告書(2013)では、昭和25年(1950年)以降、世界規模で寒い日が減少し、暑い日が増加した可能性が非常に高いことや、陸域での強い降水現象の回数が増加している地域は、減少している地域よりも多い可能性が高いことが示されています。また、このような気候の変化が観測されていることに人為的な影響が寄与している可能性も指摘されています。気象庁では、地球温暖化に関する普及啓発のほか、緩和や適応に係る施策の検討に資するため、長期的な気候の変化の監視や今後の予測に関する情報を提供しています。  日本の年平均気温(右上図)は年々の変動がみられますが、長期的には、100年あたり1.14℃の割合で上昇しています(信頼度水準99%で統計的に有意)。1990年代以降には、顕著な高温を記録した年が多くなっています。なお、この経年変化は、都市化などによる周辺環境の変化が少ないと考えられる15地点(網走、根室、寿都、山形、石巻、伏木、飯田、銚子、境、浜田、彦根、宮崎、多度津、名瀬、石垣島)の気象観測所のデータから求めています。  降水現象の変化の監視には、地域気象観測所(アメダス)の観測データも利用しています。アメダスは、約100年間の観測データが蓄積されている気象台等に比べると観測期間は短く、地球温暖化の影響を評価する場合には注意が必要ですが、観測地点数(約1,300)が多く面的に緻密であることから、局地的な短時間強雨や大雨の発生回数をより的確に捉えることができます。アメダスの多くは1970年代後半に観測が開始されています。右下の図によると1時間降水量が50ミリ以上(非常に激しい雨)の発生回数は、増加傾向が明瞭に現れています(信頼度水準95%で統計的に有意)。  このような短時間強雨の発生回数の増加傾向は、地球温暖化の影響として予測されている結果と整合的です。次頁の図は比較的長い期間の記録が残る国内92か所の気象観測地点における60年間(昭和26年(1951年)~平成22年(2010年))の資料から、降水の強さと気温の変化との長期的な関係を調べたもので、10分間降水量・1時間降水量それぞれについて年最大値と年平均気温の関係を、5年間ずつ平均してプロットしたものです。  この図から分かるように、気温の高い期間は降水量の年最大値が大きいという傾向があります。気温1℃の変化に対する10分間・1時間降水量の年最大値の増加率は7~9%であり、大気中に含まれうる水蒸気量(飽和水蒸気量)の増加率(6~7%)と同程度です(増加率の数値に若干の差がありますが,これは統計上有意な差ではありません)。この事実は,気温の上昇が強い降水の増加の一因であることを示唆します。ただ、大雨の頻度は気温だけで決まるわけではなく、水蒸気の流入のしやすさなど広域の大気循環の特徴やその変動の影響も考えられます。今後さらにデータを蓄積し,強雨と地球温暖化との関連をより詳しく評価していくことが必要です。 (2)日本の温暖化予測からみた将来の雨の降り方  気象庁では、地球温暖化に伴う日本付近の気候や、大雨や短時間強雨といった極端現象の変化を評価しています(地球温暖化予測情報第8巻)。評価には、日々の天気予報や防災気象情報の作成に用いている数値予報モデルをベースに気象研究所が開発した気候モデルを用いて21世紀末の予測と20世紀末の再現実験の結果を比較しました。  この結果によると、年平均気温が全国的に2.5~3.5℃上昇することや、現在ではまれな高温日がより高い頻度で発生することが予測されており、地球温暖化が今後も進行することを示すものとなっています。また、強雨による降水量や頻度については、地域・季節によって差はあるものの増加する傾向があります。右図の1時間降水量50ミリ以上の年間発生回数の将来気候と現在気候の差では、日本のほとんどの地域で増加することが示されており、地形的に強雨や大雨の降りやすい東日本から西日本の太平洋側でより多く増加する傾向が予想されています。なお、これらの長期間の変動を基に行う予測情報は、不確実性を十分に考慮することが大切なため、図に示された狭い地域の個々の値に着目するのではなく、例えば「西日本」「九州」など広い範囲の傾向を把握するために利用してください。 特集2 火山観測と火山防災の強化 (1)御嶽山の噴火災害を踏まえた気象庁の課題と対応 ア.御嶽山の噴火とその対応 ① 御嶽山の噴火の概要  長野県と岐阜県の県境にある御嶽山は、昭和54年(1979年)に有史以来始めて噴火し、その後、平成3年(1991年)、平成19年(2007年)に小規模な噴火が発生しました。いずれも噴火の形態は水蒸気噴火と呼ばれる、マグマの関与は間接的で火口直下に蓄えられていた高温高圧の地下水が爆発的に沸騰して火口から岩石などを噴出させるものでした。平成19年(2007年)以降は顕著な地震活動はなく噴煙の状況も火山灰の混じらない水蒸気が主体の白色噴煙のみという落ち着いた状況で推移していました。  平成26年(2014年)8月下旬に入り、火山性地震(体に感じない極めて小規模の地震)が発生し始め、9月10日、11日には一日の火山性地震発生回数が50回を越えました。9月12日以降は地震発生回数は減少していきました。気象庁は火山性地震が活発になった9月中旬以降、「火山の状況に関する解説情報」を3回発表し、関係者に今後の火山活動の推移に注意を促しました。その後の観測では、14日以降、低周波地震が時折発生しましたが、前回の平成19年(2007年)のごく小規模な噴火の前に観測された、火山性微動や山の膨らみが認められませんでした。これらの変化は、前回の噴火前の変化に比べて小さいものでした。噴火直前には、9月27日11時41分頃から火山性微動を観測しました。そして、同45分頃には傾斜計で、山側上がりの変化を、52分頃には、山側下がりの変化を観測し、噴火に至りました。  噴火に伴い、火砕流は火口列から南西方向に約2.5キロメートル、北西方向に約1.5キロメートル流下しました。また、気象レーダーの観測から、噴煙は火口縁から約7,000メートルの高さまで上がり、東に流れていったものと推定されています。  この噴火により、死者57名、行方不明者6名、負傷者69名(消防庁 平成26年10月23日現在)の人的被害が発生し、国内の噴火災害としては戦後最悪となりました(死者が発生した国内の噴火は平成3年(1991年)雲仙岳の噴火(死者・行方不明者43名)以来)。  噴火発生の翌日の28日に国土交通省中部地方整備局と陸上自衛隊の協力で実施した上空からの観測では、山頂南西側の北西から南東に伸びる火口列から活発な噴煙が上がっていることが確認され、また、赤外熱映像装置による観測でこの火口列付近に高温域があることを確認しました。噴火はこの火口列から発生したとみられ、大きな噴石が火口列から約1キロメートルの範囲に飛散していることを上空から確認しました。また、27日の噴火発生時に火砕流が流下した地獄谷付近では、樹木等が焦げたような痕跡は認められませんでした。この他、降灰の有無について自治体等に聞き取り調査を行った結果、御嶽山の西側の岐阜県下呂市萩原町から東側の山梨県笛吹市石和町にかけての範囲まで火山灰が運ばれていたことを確認しました。 ② 気象庁本庁の対応  気象庁は、9月27日12時00分に噴火に関する火山観測報、12時36分に火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)、13時35分に降灰予報等を順次発表しました。また、同27日から火山機動観測班を現地に派遣し、噴火の状況やガス観測、降灰調査を実施しました。さらに、噴火の状況や影響範囲等を確認するため、国土交通省中部地方整備局、陸上自衛隊、航空自衛隊の協力によりヘリコプターによる上空からの観測を10月16日までに8回実施しました。火山機動観測班は、平成27年(2015年)5月1日現在も2~3名の職員を現地に交代で派遣し、ガス観測等を継続しています。 ③ 長野・岐阜地方気象台の対応  長野地方気象台及び岐阜地方気象台は、関係機関の救助・捜索等の災害応急活動を支援するため、御嶽山頂付近(高度約3,000メートル)の風の予想と御嶽山周辺(長野県側、岐阜県側)の気象の予測を「災害時気象支援資料」として9月28日から関係機関へ提供するとともに、御嶽山周辺の地元の方々にも広く利用されることを目的に長野地方気象台・岐阜地方気象台ホームページに掲載しました。同資料は、救助・捜索機関の要望等を踏まえ、御嶽山の周辺市町村(王滝村、木曽町、高山市、下呂市)を対象とした支援資料の作成(9月30日~)、御嶽山山頂付近の気温の予測の追加(10月7日~)などの改善を順次図りました。平成27年5月1日現在も、気象支援資料の提供を続けています。 ④ 火山噴火予知連絡会での評価・検討  火山噴火予知連絡会※では、9月28日に御嶽山の火山活動について検討するため、臨時で火山噴火予知連絡会拡大幹事会を開催し、今後も同程度の噴火が発生し、火砕流を伴う可能性がある旨の見解を発表しました。また、10月23日には第130回火山噴火予知連絡会を開催し、御嶽山の火山活動は低下しつつあるが、今後も同程度の噴火の可能性があると評価しました。さらに、火山噴火予知連絡会の下に、御嶽山の火山活動評価のための各種観測計画等の検討及び総合的な調整、並びに観測の実施と情報共有を目的とした、御嶽山総合観測班(班長:名古屋大学大学院環境学研究科 山岡耕春教授)を設置することとしました。  また、火山噴火予知連絡会は、御嶽山の噴火災害を踏まえ、活火山の観測体制の強化について検討するため「火山観測体制等に関する検討会」(24ページ参照)を、わかりやすい火山情報の提供、火山活動に変化があった場合の情報伝達の方法を検討するため「火山情報の提供に関する検討会」(27ページ参照)を開催し、それぞれの検討会において、平成26年11月28日及び29日に緊急提言を、平成27年3月26日に最終報告を取りまとめました。  これらの検討状況については以下の気象庁ホームページにも掲載しています。 ・火山観測体制等に関する検討会ページ  http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/CCPVE/kentokai/kansoku.html ・火山情報の提供に関する検討会ページ  http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/CCPVE/kentokai/joho.html ※火山噴火予知連絡会:火山噴火予知計画(文部省測地学審議会の建議)により、関係機関の研究及び業務に関する成果及び情報の交換、火山現象についての総合的判断を行うこと等を目的として、昭和49年6月に設置(委員:学識経験者及び関係機関の専門家、事務局:気象庁) ⑤ 「火山登山者向けの情報提供ページ」の開設  気象庁では、気象庁が発表する最新の火山情報や自治体が作成する火山防災マップといった登山者等が安全確保に必要な情報を個々の火山毎にワンストップで入手できるよう、気象庁ホームページに「火山登山者向けの情報提供ページ」を新たに設け、10月10日から提供を始めました。 http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/activity_info/map_0.html コラム 防災対策上重要度の高い火山現象  火山は時として大きな災害を引き起こします。災害の要因となる主な火山現象には、溶岩流、火山灰、降灰後の土石流、火山ガス等様々なものがあります。特に、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流は、噴火に伴って発生して、短い時間で生命に危険が及ぶ可能性があります。このため、避難までの時間的猶予がほとんどなく、生命に対する危険性が高いため、防災対策上重要度の高い火山現象として位置付けられています。大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流により、過去に以下のような災害がありました。 ○大きな噴石による被害  阿蘇山(熊本県) 昭和33年(1958年)の活動  昭和33年6月24日に中岳第一火口が突然爆発しました。この噴火により、噴石が火口から1.2キロメートル離れた場所にある阿蘇山測候所まで達し、山腹一帯には多量の灰や砂が降りました。噴石の影響で、死者12名、負傷者28名の人的被害が発生しました。 ○火砕流による被害  雲仙岳(長崎県) 平成3年 (1991年)の活動  平成3年2月12日に屏風岩火口において噴火が発生し、3~5月には地獄跡火口と屏風岩火口で頻繁に小さな噴火が起こりました。5月12日からは山頂部で群発地震が観測されるようになって次第に増加し、5月20日に地獄跡火口に溶岩ドームが出現しました。この溶岩ドームが次第に成長し、24日に一部が崩れ落ちて火砕流が発生しました。以後火砕流が頻繁に発生し、6月3日の火砕流は地獄跡火口から約4.3キロメートル流下して、死者・行方不明者43名の人的被害が発生しました。 ○融雪型火山泥流による被害  十勝岳(北海道) 大正15年 (1926年)  大正15年5月24日16時18分頃に発生した噴火で、中央火口丘の北西部が破壊され、熱い岩屑なだれが積雪を溶かして大規模な融雪型火山泥流が発生しました。融雪型火山泥流は山麓に流れ下り、火口から約25キロメートル離れた上富良野村を中心に甚大な被害を及ぼし、死者・行方不明者144名、負傷者約200名の人的被害が発生しました。 イ.火山観測体制等に関する検討会のまとめと今後の取り組み  今回、御嶽山では、熱せられた地下水が一挙に水蒸気となって爆発する「水蒸気噴火」が発生しました。この噴火の予兆は乏しく、現在の火山学の知見では、このような水蒸気噴火の発生を予測することは困難です。  これについて、火山噴火予知連絡会では、水蒸気噴火の観測体制の強化を含め、活火山の観測体制の強化策を検討するべく、「火山観測体制等に関する検討会」(委員:学識経験者及び関係機関の専門家)を開催しました。同検討会は平成26年10月から平成27年3月まで6回開催され、「御嶽山の噴火災害を踏まえた活火山の観測体制の強化に関する緊急提言」を平成26年11月28日に、また、「御嶽山の噴火災害を踏まえた活火山の観測体制の強化に関する報告」を平成27年3月26日に取りまとめました。  「御嶽山の噴火災害を踏まえた活火山の観測体制の強化に関する緊急提言」では、緊急的に対処すべき事項として、以下のような観測体制の強化について提言がなされました。 ・水蒸気噴火の兆候をより早期に把握するため、火口付近への観測機器を設置する等の観測体制の強化 ・御嶽山の火山活動の推移を把握するための観測強化 ・常時監視が必要な火山※の見直し(八甲田山、十和田、弥陀ヶ原の追加) ※常時監視が必要な火山:平成21年6月、今後100年程度の中長期的な噴火の可能性及び社会的影響を踏まえ、「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された火山(平成27年5月現在47火山)。  また、「御嶽山の噴火災害を踏まえた活火山の観測体制の強化に関する報告」では、緊急提言に加え、  今後速やかに対処すべき事項として、以下のような提言がなされました。 (1)気象庁の監視・評価体制の改善と強化 ・火山活動や社会的条件を考慮した観測網の充実・維持 ・これまでに発生した事象の経験や学術研究の成果を最大限活用した火山活動の評価体制の強化 ・現地観測、地元との情報共有、⼤学との意⾒交換の実施体制の強化 (2)観測データの品質向上のための技術開発の推進と新たな観測技術の導入 ・気象庁及び大学・研究機関等による新たな監視・観測技術の開発 ・リモートセンシング等最新技術の利活⽤の推進 (3)調査研究の着実な推進 ・大学・研究機関等の連携による研究の推進 ・⾏政機関と大学・研究機関等の協⼒による学術的研究の戦略的な推進 (4)人材育成を含めた調査研究体制の強化に対する貢献 ・⼤学・研究機関等による優秀な⼈材育成への努⼒。気象庁等⽕⼭防災に関わる⾏政機関による、これら⽕⼭学の知識を有する⼈材の効果的な活⽤の積極的な実施、キャリアパスの確⽴ ・気象庁による大学等の観測点の保守・維持等への協⼒  気象庁では、これらの提言を踏まえ、必要な観測機器の整備や評価体制の強化を進め、火山観測体制の強化に取り組んで参ります。 コラム 火口付近の観測を増強する観測機器について  「火山観測体制等に関する検討会」における緊急提言(平成26年11月28日に取りまとめ)に基づき、火山観測体制の強化(24ページ参照)を図るため、今後、火山の火口付近に熱映像監視カメラ、火口監視カメラ、傾斜計、及び広帯域地震計を設置する予定です。また、水蒸気噴火の可能性がある火山の火口付近の熱・噴気の状態変化、火山体内の火山ガスや熱水の流動等による山体の変化を常時監視し、今回の水蒸気噴火の前には捉えられなかったわずかな予兆(先行現象)を検知するための観測施設も増強します。 ○熱映像監視カメラ  人の目では見えない赤外線を捉えることのできるカメラで、火口付近の表面温度分布を常時監視することにより、水蒸気噴火の先行現象や噴火現象を可能な限り早く捉えることを目的としています。 ○火口監視カメラ  火口付近に監視カメラを設置し、山麓からは確認できない火口付近で発生する噴気の状態変化を常時監視することにより、水蒸気噴火の先行現象や噴火現象を可能な限り早く捉えることを目的としています。 ○傾斜計  地下(10~30メートル)に設置したごく微小な傾斜変化を捉えるセンサーを用いて、火口直下の熱水や火山ガスによる山体の膨張に伴う傾斜変化を常時監視することにより、水蒸気噴火の先行現象や噴火現象に伴う傾斜変化を可能な限り早く捉えることを目的としています。 ○広帯域地震計  短い周期の揺れから、120秒程度の長い周期の揺れまで、人が感じることが出来ない非常にゆっくりした揺れも捉えることができる地震計です。火山体内の火山ガスの圧力変化や熱水の流動によって生じる長周期の振動を監視することにより、水蒸気噴火の先行現象や噴火に伴う振動を可能な限り早く捉えることを目的としています。 ウ.火山情報の提供に関する検討会のまとめと今後の取り組み  今回の御嶽山噴火災害では、火山活動の変化に関する情報提供についても、わかりやすさや伝達方法について、課題が指摘されました。  そのため、火山噴火予知連絡会では「火山情報の提供に関する検討会」(委員:学識経験者、自治体、登山・観光関係者及び報道機関)を開催し、「わかりやすい火山情報の提供」、「火山活動に変化があった場合の情報伝達の方法」について検討を行いました。検討会は平成26年10月から平成27年3月までに6回開催され、火山情報の提供に関する緊急提言を平成26年11月29日に、また、最終報告を平成27年3月26日に取りまとめました。  検討会では、「わかりやすい情報であったか」、「どのようにその情報を伝えたのか」、「火山防災に携わる地元関係機関と連携して具体的な防止対応を十分実施できたか」の3つの観点から検討を進め、最終報告を取りまとめました。 最終報告の主な点は以下のとおりです。 ①わかりやすい情報提供 ・噴火警報を発表する基準の公表 ・火山活動に変化があった場合、気象庁は、火山活動の状況とともに気象庁の対応状況等を記載し、臨時であることを明記したわかりやすい「火山の状況に関する解説情報」を発表 ・臨時の機動観測の適切な実施 ・噴火警戒レベル1におけるキーワード「平常」の表現を、「活火山であることに留意」との表現に変更 ・気象庁ホームページの充実 ・火山噴火の事実を迅速に伝える「噴火速報」の発表 ・観測データの急激な変化が噴火発生や噴火初期の変動を捉えたものであるかどうかを短時間で判別するためのデータ処理手法の改善など ②情報伝達手段の強化 ・地元自治体等の関係機関と連携し、登山者等に確実に最新の火山情報が伝わるよう、平素からの火山関係者との情報共有 ・携帯端末の活用を意識した情報内容とするとともに、具体的な伝達方法について関係する事業者との調整 ③気象庁と関係機関の連携強化 ・火山防災協議会における定期的な火山活動状況の情報共有 ・火山に登山するにあたっての知識や留意事項についての周知啓発活動 ・火山活動の推移、及びその推移に応じた気象庁の対応について、火山防災協議会を通じた関係機関との共有 ・気象庁の対応に応じた地元関係機関の防災対応の流れについて検討し、「火山防災対応手順」として関係者間で整理・共有 ・火山防災対応手順を参考にした防災対応を関係機関が連携して実施  気象庁では、これらの最終報告を踏まえ、火山情報の提供についての強化のため具体化する取り組みを進めて参ります。 コラム 御嶽山噴火時の国や関係機関の対応と今後の火山防災対策の推進に向けた取り組み(内閣府(防災担当))  平成26年(2014年)9月27日の御嶽山の噴火を受け、長野・岐阜両県や関係市町村が対策本部等を設置したほか、国においても先遣チームや政府調査団を派遣するとともに、災害対策基本法に基づき政府に「平成26年(2014年)御嶽山噴火非常災害対策本部」を設置し、その一環として、長野県庁に「平成26年(2014年)御嶽山噴火非常災害現地対策本部」を設置して、情報の共有と災害対策にあたりました。現地対策本部では、政府と自治体間の情報共有・調整が行われるとともに、政府の非常災害対策本部や火山専門家との連携、救助部隊の活動支援、降雨や火山ガスに対する活動基準の策定、居住地域への二次災害(降灰後の土石流等)防止のための対応等が行われました。  また、10月28日の非常災害対策本部では、「火山噴火に関して緊急的に行う被害防止対策」が決定されました。これを受けて、関係府省庁は関係機関と連携しながら、情報伝達手段や避難施設の整備状況に関する緊急調査、常時観測火山(47火山)全てにおける火山防災協議会の設置、登山者や旅行者に対する適切な情報提供と安全対策、火山観測体制の強化等、緊急的な対策を進めています。火山防災協議会については、平成27年3月に47火山全てに設置されました。  さらに、今回の御嶽山の噴火で明らかとなった教訓を今後の火山防災対策の更なる推進につなげるため、中央防災会議※の下に「火山防災対策推進ワーキンググループ」が設置されました。ワーキンググループでは、火山噴火予知連絡会などの関係検討会での議論も踏まえつつ、有識者や関係省庁による議論を経て、平成27年3月に「御嶽山噴火を踏まえた今後の火山防災対策の推進について(報告)」がとりまとめられました。この報告には、火山防災対策を推進するためのしくみ、火山監視・観測体制、火山防災情報の伝達の他、登山者等の安全確保のための退避壕等の整備などを組み合わせた火山噴火からの適切な避難方策、火山防災教育や火山に関する知識の普及、火山研究体制強化と火山専門家の育成についての提言がまとめられています。今後、これに基づき関係府省庁や地方公共団体、火山地域の関係者等が連携して火山防災対策を一層推進していく必要があります。(内閣府(防災担当)) 【参考】「火山防災対策推進ワーキンググループ」に関するホームページ(内閣府ホームページ) http://www.bousai.go.jp/kazan/suishinworking/index.html ※中央防災会議:災害対策基本法に基づいて内閣府に設置された防災に関する重要政策を決定する国の会議。防災基本計画の作成・実施推進、防災に関する重要事項の審議などを行う。内閣総理大臣、防災担当大臣をはじめとする全閣僚、指定公共機関の代表者、学識経験者により構成される。 コラム 連携した火山防災の対応 ―火山防災協議会について― (1)火山災害の軽減のために  内閣府は、火山噴火時等における効果的な避難体制など、火山防災対策の充実を図るため、平成20年(2008年)3月、「噴火時等の避難に係る火山防災体制の指針」をとりまとめました。この中で、市町村長は気象庁が発表する噴火警報(噴火警戒レベル)に応じた入山規制や避難勧告等の防災対応を行うこと、地元の関係機関で構成される火山防災協議会で、平常時から関係機関との共同検討を推進することなどが示されました。その後、国が策定する防災基本計画(中央防災会議が作成する政府の防災対策に関する基本的な計画)でも、火山防災協議会の設置等の体制の整備や平常時からの共同検討が定められました。  これを受けて、気象庁をはじめとする国の火山関係府省庁は、各火山周辺の地方公共団体等の防災関係機関に働きかけて火山防災協議会の設置や運営を推進し、火山災害から登山者や住民の生命を守るための取り組み(噴火シナリオ、火山ハザードマップ、噴火警戒レベル、避難計画、防災マップ、防災訓練等の作成や実施)を共同で進めています。 (2)火山防災協議会の役割  火山防災協議会は、都道府県、市町村、気象台、砂防部局及び火山専門家等の地元関係機関で構成されます。役割は、平常時には噴火警戒レベルに対応した「避難計画」(誰が・いつ・どこからどこへ・どのように避難するか等)の共同検討を進め、緊急時には避難対象地域の拡大等の助言を市町村長に対して行うことです。また、避難訓練の実施や避難計画の住民への周知も火山防災協議会で行われます。  火山防災協議会でのこうした共同検討は、地域の関係者の間で「顔の見える関係」(相手が決めることについてもお互いに意見を言い合える信頼関係)と「防災対応のイメージ共有」(噴火警戒レベルに応じた具体的な防災対応についての認識の共有)を確立することにつながり、噴火時等に関係機関が連携して避難計画に基づく防災対応を行うために不可欠となっています。 (3)火山防災協議会の設置や開催の推進の取り組み  火山防災対策の構築に向けた取り組みの更なる推進のため、内閣府をはじめとする関係機関は検討を重ねてきました。内閣府は、平成24年度に「噴火時等の具体的で実践的な避難計画策定の手引」、「火山防災マップ作成指針」を取りまとめ、平成25年度には「大規模火山災害対策への提言」を取りまとめるとともに、地方公共団体等に向けて「火山防災ポータルサイト」の運用を開始し、火山地域の地方公共団体の防災担当者が、火山防災に関する情報を収集、共有し、火山防災に関する知見を深めることができるようにしました。  このほか、火山防災の推進のため、全国の火山周辺の地方公共団体等の防災関係機関が集結する「火山防災協議会等連絡・連携会議」が平成24年12月に発足しました(内閣府、気象庁、国交省及び消防庁の共同事務局)。発足以降、毎年開催しており、平成26年11月には気象庁で開催しました(93機関156名が参加)。同会議は、個別の火山を越えた意見交換を通じて全国各地域の火山防災対策の取り組みや課題等を共有することにより、火山防災協議会の設置の促進や運営の活性化が期待されます。 (2)火山噴火に伴う被害軽減に資する降灰予報の高度化  火山噴火により噴出した火山灰は、上空の強い風により遠くまで運ばれて地上に降り積もります(降灰)。降灰は広い地域に、建物倒壊、交通障害、ライフラインや農林・水産業への被害、呼吸器系疾患などの大きな被害を及ぼすことがあります。気象庁は、降灰による被害を防止・軽減するため、噴煙の高さと上空の風から、今後の降灰の状況を予測する降灰予報を発表しています。 ア.降灰予報とその改善  これまでの降灰予報は降灰予想範囲を提供するもので、技術的な問題から降灰量の情報は含まれていませんでした。一方で、交通やライフライン、農作物、人体等に対する被害の程度は、降灰量ごとに異なり、とるべき対策も異なります。このことから、降灰の範囲だけでなく降灰量を予報することが防災上、重要な情報になります。  近年、降灰量の予測に向けた技術的な進展が図られつつあることから、気象庁は、降灰予報を防災情報としてより適切な内容とするため、降灰を経験している方々に対する降灰予報についてのニーズ調査や、噴火活動の活発な桜島をモデルケースとした新しい降灰予報の試験的な提供を進めてきました。また、平成24年度に有識者と関係機関から構成される「降灰予報の高度化に向けた検討会」を開催し、検討結果を「降灰予報の高度化に向けた提言」として取りまとめました。気象庁はこの提言を踏まえて、情報発表に必要なシステム整備を行い、平成27年(2015年)3月より「降灰量」や「風に流されて降る小さな噴石の落下範囲」の予測を含めた新しい降灰予報の運用を順次開始しました。 イ.新しい降灰予報  新しい降灰予報の特徴は以下のようなものです。 ① 噴火の前と後や時間経過に応じて求められる情報が異なることから、 ・噴火のおそれがある火山周辺の住民が計画的な対応行動をとれるようにするための「降灰予報(定時)」 ・火山近傍の住民が噴火後すぐに降り始める降灰や小さな噴石に対する対応行動をとれるようにするための「降灰予報(速報)」 ・火山から離れた地域の住民も含め降灰量に応じた適切な対応行動をとれるようにするための「降灰予報(詳細)」 の3種類の情報を発表します。 ② 「降灰予報(定時)」は、噴火警報を発表中で、想定される噴火により住民等に影響を及ぼす降灰が発生するおそれがある火山を対象として発表します。「降灰予報(速報)」及び「降灰予報(詳細)」は、予想される最大降灰量が基準値を超えた場合に発表します。「降灰予報(定時)」及び「降灰予報(速報)」については、風に流されて降る小さな噴石の落下範囲の予測も行います。 ③ 新しい降灰予報では、降灰量の状況や影響、必要な対応行動をわかりやすく利用者へ伝えるために、降灰量を降灰の厚さによって「多量」「やや多量」「少量」の3階級で表現します。 ④ 新しい降灰予報は、利用者の防災対応をよりきめ細かく支援することを目的として、従来の都道府県ごとの予報から市町村ごとの予報に変更して提供します。  降灰予報は、気象庁ホームページで提供するほか、テレビやラジオを通じて伝えられます。降灰が予想される場合に外出や車の運転を控えるよう心がけていただきたいと考えています。もし外出する際は傘やマスクを用いて火山灰をなるべく吸わない対策をとっていただくことが大切です。 トピックス トピックス1 観測機能を大幅に強化した静止気象衛星「ひまわり8号」  気象庁は、平成26年10月7日に新しい静止気象衛星「ひまわり8号」(以下「8号」という。)を打ち上げました。そして、平成27年7月頃から、「ひまわり7号」(以下「7号」という。)に替えて8号による観測を開始することを計画しています。  8号は世界最先端の次世代型の静止気象衛星で、7号に比べて観測機能が大幅に強化されています。  7号では30分ごとに観測を行っていますが、8号では10分ごとに東アジア・西太平洋地域の広い範囲を観測し、それと並行して日本域や台風付近などの領域を2.5分ごとに観測します。さらに、画像の分解能も2倍に向上します。これにより、台風や大雨をもたらす積乱雲の状況を、より詳細かつ早期に捉えることができます。  また、画像の種類は5種類から16種類に増加します。7号の画像はモノクロでしたが、8号では3種類の可視画像(赤・緑・青の3色の光を観測した画像)を合成することでカラー画像も作成でき、今まで区別できなかった黄砂と雲などがより明瞭に判別できるようになります。  そのほかにも、8号の観測データは、上空の火山灰、海面水温、流氷、積雪分布等の監視強化、数値予報の精度向上といった、幅広い分野で役立つものと期待されています。 トピックス2 台風第11号に伴う竜巻等の突風について  竜巻等の突風は、現象の規模が小さく継続時間も短いため、気象レーダーや地上気象観測ではその特徴を捉えることが困難です。このため、気象庁では、竜巻等の突風によるとみられる災害が発生した場合には、機動調査班(JMA-MOT)が現地調査を行い、突風の種類やその強さ(藤田スケール)、被害の幅及び長さ等を分析し公表しています。  平成26年(2014年)8月9日から10日にかけて、台風第11号が四国・近畿地方を通過し日本海を北上しました。JMA-MOTによる調査の結果、台風第11号の日本への接近に伴い、8月8日から10日にかけて、宮崎県、高知県、和歌山県、三重県、栃木県で計9個の竜巻等の突風の発生が確認されました。宮崎県では8日、9日と2日続けて突風が発生しました。また、9日には和歌山県から三重県の約50キロメートルの範囲で4個の竜巻等の突風が発生しました。さらに、10日には栃木県で2個の竜巻がほぼ同時に発生し、約17キロメートルにわたって大きな被害をもたらしました。台風に伴う竜巻は、平成25年(2013年)9月の台風第18号に伴い、和歌山県、三重県、埼玉県、群馬県、栃木県、宮城県でも発生しています。  竜巻は、台風から数百キロメートル離れた場所を中心に発生しやすい傾向があり、台風第11号の接近に伴い発生した竜巻等の突風にもその傾向が見られます。台風の接近まで時間がある場合や台風の予想進路から離れた地域でも、台風の接近に伴い突風が発生する可能性があるため注意が必要です。 トピックス3 地球温暖化の現状 (1)進む地球大気の昇温傾向 -平成26年(2014年)の世界の年平均気温が統計開始以来最も高くなりました-  気象庁では、明治24年(1891年)以降、世界各地から報告された地上気温データと海面水温データを用いて、世界の気温の長期的な変化を監視しています。  平成26年(2014年)の世界の年平均気温偏差(昭和56年(1981年)~平成22年(2010年)の30年平均値との差)は+0.27℃で、平成10年(1998年)の+0.22℃を超えて、統計を開始した明治24年(1891年)以降では最も高い値となりました。  世界の年平均気温は、長期的には100年あたり0.70℃の割合で上昇しています。特に、1990年代半ば以降は高温となる年が頻繁に現れており、上位10位に入るような高温は、全て1998年以降に記録されています(右上の図)。  地域別に見ると、平成26年(2014年)の年平均気温偏差は、陸域ではアジアやヨーロッパ、海域では北太平洋を中心に広い範囲で大きな正となりました(右下の図)。  また、月別では4月、5月、6月、8月、9月、10月、12月の月平均気温偏差、季節別では3~5月(春季)、6~8月(夏季)、9~11月(秋季)の季節平均気温偏差も、統計を開始した明治24年(1891年)以降で最も高い値となりました。  近年、世界で高温となる年が頻出している要因としては、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化の影響が考えられます。また、世界と日本の平均気温は、数年~数十年程度の時間規模で繰り返される自然変動の影響も受けて変動しており、平成26年(2014年)の世界の平均気温が高くなった要因の一つとして、夏にエルニーニョ現象が発生したことが考えられます。  なお、地球温暖化が進行しても、右上の図からわかるように単調に昇温し続けるわけではありません。また、下の図のようにどの地域でも一様に気温が高くなるわけではありません。  気象庁では、年別・季節別・月別の世界及び日本の平均気温に関する情報を、以下の気象庁ホームページに掲載しています。 http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/index.html (2)太平洋域の海洋酸性化 -もう一つの二酸化炭素問題-  海洋は、人間活動により排出された二酸化炭素の約三分の一を吸収することにより、大気中の二酸化炭素濃度の増加を抑制し、地球温暖化の進行を緩和しています。しかしながら、海洋に蓄積された二酸化炭素が増加してきたことにより、世界的に海洋が酸性化(=水素イオン濃度指数(pH)が低下)していることが明らかになってきました。海洋酸性化の進行は、海洋の生態系に大きな影響を与える可能性があり、水産業や観光産業など、経済活動への影響も懸念されます。また、海洋酸性化が進行すると、海洋の二酸化炭素吸収能力が低下し、地球温暖化を加速する可能性も指摘されています。  今回、気象庁による観測データに加え、国際的な観測データも取り入れ、太平洋域のpHの分布と長期変化傾向を解析しました(図)。その結果、1990年以降太平洋域のpHは約0.04(10年あたり0.016)低下しており、太平洋の広い海域で海洋酸性化が進行していることが分かりました。この低下速度は、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第5次評価報告書で今世紀末までに予測されているpHの低下速度に匹敵します。これらの情報は以下の気象庁ホームページに掲載しています。 http://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/shindan/a_3/pHpac/pH-pac.html コラム IPCC第5次評価報告書統合報告書がまとまりました  気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的に1988 年に設立された国連の組織で、平成26年(2014年)11月に最新の科学的知見を取りまとめた第5次評価報告書統合報告書を公表しました。本報告書は、「気候変動に関する国際連合枠組条約」などの地球温暖化対策のための様々な議論に、科学的根拠を与える重要な資料として利用されており気象庁は原稿執筆や最終取りまとめにおいて積極的な貢献を行ってきました。報告書は「観測された変化及びその要因」、「将来の気候変動、リスク及び影響」、「適応、緩和及び持続可能な開発に向けた将来経路」、「適応及び緩和」の4つの節に分けられています。特に「観測された変化及びその要因」の節では、気候システムに対する人間の影響は明瞭であり、近年の人為起源の温室効果ガスの排出量が史上最高になっていることや、近年の気候変動が人間及び自然システムに対し広範囲にわたる影響を及ぼしていることが結論づけられています。本報告書の政策決定者向け要約の日本語訳については、気象庁のほか、関係省庁が分担して作成しており、この資料は以下の気象庁ホームページに掲載しています。 http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/index.html トピックス4 特別警報の運用開始から1年を過ぎて  気象庁は、平成23年の東日本大震災や同年の台風第12号による紀伊半島の土砂災害等において、警報等の様々な情報が防災対応や住民自らの迅速な避難行動に十分には結びつかなかった教訓を踏まえ、平成25年8月30日に「特別警報」の運用を開始しました。この特別警報は、重大な災害の起こるおそれが著しく大きい場合に発表し、その危険性をわかりやすく住民や地方自治体等に伝えるもので、気象現象では、数十年に一度となる記録的な雨量や「伊勢湾台風」級の数十年に一度となる台風の強度などを基準として、発表の判断を行っています。 (1)特別警報の運用実績  運用を開始して1年以上が経過し、その間、気象現象では、平成25年9月の台風第18号による福井県、滋賀県及び京都府での大雨、平成26年7月の台風第8号による沖縄県の暴風、波浪、高潮及び大雨、同年8月の台風第11号による三重県での大雨、及び同年9月の大気不安定による北海道での大雨に対し、それぞれ特別警報を発表しました。  気象庁は、このように運用を開始した特別警報を防災対応に一層活用いただくため、いくつかの改善も実施してきました。例えば平成25年台風第18号に伴う大雨特別警報を受けて実施した市町村へのヒアリング調査において「特別警報の発表時に住民に対してどのように呼びかけるべきか分からない」というご意見があったことを踏まえ、特別警報の発表時に行う気象庁の記者会見において、異常事態であることをわかりやすく伝えるとともに、具体的な呼びかけの内容を記載した記者会見の資料を気象庁ホームページに掲載することとしました。また、住民への伝達をより確実なものとするため、特別警報を発表した際には、気象庁から直接、携帯電話端末で受け取れる緊急速報メールを配信することを予定しています。 (2)特別警報の評価と課題  実際に特別警報が発表された自治体や住民の評価として、例えば平成26年台風第8号で特別警報が発表された沖縄県では、「特別警報の発表により危機感が高まった」とした市町村が全体の8割を超えたことは、特別警報の発表が効果的に危機感を伝えたことを示しており、平成25年11月に全国の男女2,800人を対象として実施したアンケート調査でも、9割近くが特別警報を「大いに役立つ」又は「ある程度は役に立つ」と回答しています(「気象業務はいま2014」参照)。  一方で、いくつかの課題も明らかになっています。例えば、平成26年の台風第8号では、特別警報の基準を満たす強度(沖縄では910hPa)で接近・通過すると予想されたため、宮古島地方及び沖縄本島地方に暴風、波浪、高潮及び大雨の特別警報(大雨特別警報は沖縄本島地方のみ)を順次発表しました(右図参照)。結果として台風の強度は予想ほど発達せず予測精度の改善が課題となりました。また、台風が沖縄から遠ざかり、台風による特別警報の基準を満たさなくなったことから、順次、通常の警報・注意報に切り替え後、発達した新たな雨雲が沖縄本島地方にかかり、数十年に一度の大雨になると予想されたため、改めて大雨特別警報を発表しました。いったん警報・注意報に切り替えられた後にこのように特別警報が再度発表された地域の自治体や住民に戸惑いがあったとの指摘もあり、大雨特別警報に雨量に基づくものと台風の強度に基づくものの二つの基準があることについて、十分理解されていてないことが明らかになりました。  また、平成25年10月の伊豆大島や平成26年8月の広島市の大雨では、土砂災害により甚大な被害となりましたが、特別警報の基準を満たさなかったことから大雨特別警報の発表には至りませんでした。特別警報は、最大級の警戒を呼びかけるものであることから、特に異常な現象を高い精度で予測することが重要であり、現在の予測技術においては例えば5キロメートル囲みの格子10箇所以上となる広域なエリアの大雨が予想された場合に大雨特別警報の発表が可能となっています。 (3)特別警報を含む防災気象情報の有効な利活用に向けて  特別警報の基準を満たさない現象であっても重大な災害が発生する場合があることはいうまでもありません。災害から身を守るためには、特別警報の発表を待つのではなく、危険の切迫度に応じ時間を追って段階的に発表される注意報、警報、及び土砂災害警戒情報などを活用して、早い段階から防災対応をとっていただくことが重要です。  自治体や住民の皆様に特別警報を含む防災気象情報が一層活用されるよう、日頃からの周知・広報の取り組みを進めます。また、大雨等を予測する技術向上の取り組みや、技術向上を踏まえた防災気象情報の改善の取り組みも引き続き進めてまいります。 トピックス5 大雪に対する取り組み  平成26年2月、本州の南海上を発達しながら進んだ低気圧(南岸低気圧)により、関東甲信地方を中心に各地で大雪となりました。気象庁では大雪の可能性はあるものの途中から雨に変わると予想していましたが、雪か雨かの分かれ目となるわずかな気温予測の違いから、事前の予想より雪として降る時間が長くなり、観測史上1位の積雪を更新する記録的な大雪となりました。普段、あまり雪が積もらない地域(少雪地)で大雪となったこともあり、各地でカーポートやビニールハウス等の倒壊が相次いだほか、大規模な交通障害や集落の孤立が発生するなど大きな被害となりました。また、平成26年12月には四国地方でまとまった降雪となり、車輌の立ち往生や集落の孤立が発生しました。  普段雪の少ない地域での大雪の経験も踏まえ、気象庁では大雪の可能性がある場合の情報提供の充実に取り組んでいます。まず、1~3日先に大雪のおそれがある際には、気象情報を発表し、気象状況の見通し等についてお知らせします。特に南岸低気圧がもたらす降水は雨と雪の境目の気温で降ることが多く、気温が1℃下がるだけで結果が大きく変わって大雪となることがあります。そのため、雪に対する備えに資するよう、特に少雪地等では、雨の予報であっても、予想より気温が低く経過すると大雪となる可能性があると判断した場合には、その旨の注意を呼びかけることとしています。  また、大雪やその後の雨の加重によってカーポートやビニールハウス等が倒壊するおそれがある場合には、気象情報の中で「カーポートなどの簡易な建築物や老朽化している建築物などは倒壊のおそれがあるため、近寄らないよう注意してください」「ビニールハウスは倒壊のおそれがあるので注意してください」等の具体的な文言を用いて注意を呼びかけます。これは、平成26年2月の関東甲信地方を中心とした大雪被害を踏まえ、国土交通省住宅局や農林水産省と気象庁との連携により実現したものです。  さらに、積雪の観測結果等から、異例の降雪(普段雪の少ない地域での大雪、極めて急速な積雪の増大等)となると判断した場合には「数十年に一度の大雪」等の言葉を用いた臨時の気象情報を発表し、緊迫した状況を伝えて警戒を呼びかけるとともに、状況に応じて緊急の記者会見を行い一層の警戒を呼びかけます。昨冬は「異例の降雪に対する国土交通省対策本部」(平成26年12月設置)において、関係各局が連携してドライバー等に対し車輌の立ち往生等への警戒を呼びかける緊急の本部発表を行うこととしており、12月31日から1月3日にかけての大雪と暴風雪を対象として、12月31日に緊急発表を行いました。  以上のような取り組みを進めるうえで最も重要なのは、技術的な基盤となる雪の予測精度の向上です。雪の予測精度の向上には、雪か雨かの分かれ目となるわずかな気温の違いや、雪雲からの降水の量を正確に把握・予測する技術が必要です。気象庁では、引き続き、降雪量の実況解析技術の開発、数値予報モデルの改良、及び予報官の技術力向上を着実に進めてまいります。  また、雪の観測データは、とりわけ少雪地では限りがあるため、自治体や消防等関係機関から雪の情報を入手し気象情報等の発表に活用しています。引き続き、新たな情報入手先の確保により、雪の実況監視の強化に努めています。 コラム 大雪に関する異常天候早期警戒情報 ~1週間前の事前対策に向けて~  強い冬型の気圧配置が続くと日本海側では連日雪が降り続き大雪となります。これには地球規模の偏西風の大きな蛇行が関係しているため、1週間程度前から予測できる場合があり、強い冬型の気圧配置に伴う大雪が予測された場合には、日本海側の地方を主な対象として「大雪に関する異常天候早期警戒情報」を発表します(下図)。この情報は、概ね1週間後からの7日間に降る雪の深さの合計が「かなり多く」*なる可能性が大きいことを伝えるものです。情報発表日から対象となる現象が現れるまでに1週間程度の猶予があるため、道路や屋根、農業施設等に既に積もっている雪の除排雪の実施や今後の除排雪計画の策定、耐雪対策の実施など、さまざまな雪害への事前対策に役立てることができます。 *「かなり多い」とは、統計的に10%の確率(その時期として10年に1回程度)でしか発生しない現象です。地域や時期により「かなり多い」降雪量は大きく異なります。 トピックス6 防災気象情報を避難に活用する取り組み  急傾斜地や渓流の付近、河川や海岸周辺の低地などでは、大雨・暴風・高潮などの激しい現象により土砂災害・水害・高潮災害等が発生しやすくなり、ときに生命や身体に危険が及ぶ状況となります。このため、自治体の公表しているハザードマップやお住まいの地域で過去に発生した災害の記録を参考に、それぞれの地域にどのような危険の可能性があり、命を守るためにはどのような避難行動をとる必要があるのか、日頃からしっかり認識しておくことが大切です。その上で、報道・ホームページ・自治体等を通じて提供される防災気象情報を活用し、自治体が発令する避難勧告等にご留意ください。ここでは、気象庁が時間を追って段階的に発表する気象情報、注意報、警報などを活用して早めの避難行動をとる方法について解説します。  台風や発達した低気圧など、水平規模が数百キロメートル以上の現象に伴う大雨・暴風・高潮については、精度の良い予測が可能なため、比較的早い段階から注意や警戒を呼びかける場合があります。1~3日程度先に災害に結びつくような激しい現象が予想されるときには、気象庁は警報・注意報に先立って「気象情報」を発表します。この段階では、土砂災害・水害・高潮災害等に備えて、避難場所や避難ルート、持ち出し品等の確認をしておくことが重要です。  災害に結びつくような激しい現象が予想される半日~数時間前には、気象庁は大雨などの「注意報」を発表します。この段階では、その後の危険の切迫度に応じて発表される警報等に留意していただくとともに、特に、夕方に発表されている大雨・洪水・高潮の「注意報」の中に、夜間に「警報発表の可能性がある」と記載されている場合、水害・高潮の浸水想定区域や土砂災害警戒区域等にお住まいの方は、早期避難を検討することが重要です。  災害に結びつくような激しい現象が予想される数時間~2時間程度前には、気象庁は「警報」を発表するようにしています。この段階になると、市町村から避難準備情報や避難勧告が発令される場合がありますので、まずはそれに従い、速やかに安全確保の行動をとることが重要です。  気象庁が段階的に発表するこれらの防災気象情報を市町村の避難勧告や住民の自主避難に活用する取り組みについては、内閣府において作成された「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」(平成26年9月改定)にも記載されています。このガイドラインでは、土砂災害・水害・高潮災害・津波災害によって、生命に危険が及び、避難行動が必要となるタイミング(判断基準)とエリア(対象区域)の考え方が具体的に示されています。 以下、避難行動をとる際に参考にしていただきたい事項を記載します。 <土砂災害> ・土砂災害警戒区域等にお住まいで避難行動に支援を必要とする方(高齢の方や障がいをお持ちの方)は、「大雨警報」が発表されたときには、「土砂災害警戒判定メッシュ情報」(16ページ参照)を活用して土砂災害発生の危険度の分布を確認していただき、荒れた天気となる前に土砂災害から命を守るための避難行動をとることが重要です。 ・大雨により過去の土砂災害発生時に匹敵するほどの極めて危険な状況になると予想されたときには、気象庁は都道府県と共同で「土砂災害警戒情報」を発表します。市町村から避難勧告等が発令された場合には、速やかに必要な避難行動をとることが重要です。 ・また、土砂災害警戒判定メッシュ情報で「予想で土砂災害警戒情報の基準に到達」となった領域内の土砂災害警戒区域等では、命に危険を及ぼす土砂災害がいつ発生してもおかしくない非常に危険な状況となっています。そのような区域にお住まいの方は、区域外の少しでも安全な場所へ避難することが重要です。このほか、数年に一度程度しか発生しないような短時間の大雨をお知らせする「記録的短時間大雨情報」が発表された場合にも同様に速やかな避難行動をとることが重要です。 ・そうした状況下でさらに土砂災害警戒判定メッシュ情報で「実況で土砂災害警戒情報の基準に到達」となった場合、土砂災害が発生する可能性が一層高まり、過去の土砂災害発生時に匹敵する極めて危険な状況(既に土砂災害が発生しているおそれがある状況)となっています。土砂災害警戒区域等にお住まいの方は、この段階までには避難を完了しておくことが重要です。市町村からの避難勧告等の発令がない場合であっても、少しでも危険を感じたら躊躇せず自主的に避難行動をとることも重要です。 <水害> ・水害の浸水想定区域にお住まいで避難行動に支援を必要とする方は、「洪水警報」や「はん濫警戒情報」が発表されたときには、命を守るための避難行動(自治体の公表している洪水ハザードマップに示された浸水の深さに応じて、建物からの立ち退き避難が必要か、建物の2階などへの移動で命の安全が確保できるかが異なります)をとることが基本です。 <高潮災害> ・高潮の浸水想定区域にお住まいの方は、「暴風警報」又は「高潮警報」(又は暴風特別警報又は高潮特別警報)が発表されたときには、警報や気象情報に記載されている予想最高潮位(高潮の高さ)を確認してください。 ・高潮災害から命を守るためには、予想最高潮位に応じた浸水想定区域の外へ速やかに避難することが基本です。「暴風警報」(又は暴風特別警報)は、暴風となる数時間前に暴風警戒期間を明示して発表しています。高潮の浸水想定区域だけでなく、水害の浸水想定区域や土砂災害警戒区域等にお住まいの方も、暴風警戒期間に留意し、暴風で屋外に避難できなくなる前の早めの避難が重要です。 コラム いつどこに避難すべきか考えておきましょう(内閣府(防災担当))  「避難勧告」が発令されたら、どのような行動をすればよいか、ご存じでしょうか? 大半の方々が小学校や公民館などの避難所に移動することを想像されると思います。実は、災害によって、時間によって、避難先が異なります。最近よく発生している土砂災害の場合は、命に関わるケースが多いため、土砂災害の危険のある区域(土砂災害警戒区域等)から少しでも離れたところに少しでも早く移動することが重要です。ただし、既に大雨で外を移動することが危険な場合は、自宅の中でもできるだけ山から離れた部屋(2階の崖や沢と反対側など)や近くのコンクリートで囲まれた堅牢な建物等に待機することが次善の策になります。  水害の場合は、自宅で想定される浸水の深さが2階以上にまでいくようなところや堤防に近いところであれば家にいる方が危険なため、浸水が想定される区域から少しでも離れたところに少しでも早く移動する必要があります。一方、浸水の深さが浅いところであれば、浸水している危険な中を避難するよりも自宅の2階以上に待機した方が命は助かります。このように、「避難行動」とは、自らの命を救うために行う行動であり、いつ、どのような情報をもとに、どのような行動をとるかについてあらかじめ決めておくことが重要です。  市町村が発令する避難勧告等の情報は、「災害が発生しそうだ」というアラート情報です。避難勧告が自宅のある地域に発令されれば、数分か数時間後に災害が発生するおそれが高い、という警告です。したがって、住民の皆さんは、避難勧告が発令されれば、その時点で最適な避難行動をすぐさま取るように心がけておくことが基本です。ただし、最近は事前の予測が困難な狭い範囲で急激に降る激しい雨が多発し、市町村の避難勧告の発令が間に合わないケースも見受けられます。雨の降り方や川の水位など、避難勧告に頼らずとも、危険な状況だと思えば、自らの判断で避難行動を取っていただくことが重要です。  このように、自宅がどの災害のおそれがあるのか、どの情報を見て、いつ、どこに避難すべきかについては建物毎に異なります。このため、内閣府のガイドラインでは、住所・建物毎に、各自が「災害・避難カード」を作成していただくことを提案しており、この「災害・避難カード」の普及・作成を通じて、全国各地の防災意識の一層の向上に寄与したいと考えています。 内閣府(防災担当) トピックス7 第3回国連防災世界会議への対応  平成27 年3 月14 日から18 日にかけて宮城県仙台市において開催された第3回国連防災世界会議は、グローバルな防災戦略を策定する国連主催の会議であり、本件会議には187の国連加盟国が参加し、首脳・閣僚級を含め6,500人以上、関連事業を含めると国内外から延べ15万人以上が参加した、日本で開催された史上最大級の国連関係の国際会議となりました(参加国数では過去最大)。  気象庁はこの第3回国連防災世界会議において、世界気象機関(WMO)や国連教育文化科学機関政府間海洋学委員会(UNESCO/IOC)等の国際機関と協力し、早期警報、巨大災害に関するワーキングセッションの共催、WMO 主催の早期警報シンポジウムへの協力、津波に関するパブリックフォーラムの主催、展示の実施等により、我が国の気象業務の価値・先進性のアピールや、気象業務の改善に向けた国際協力の推進に努めました。  特に巨大災害に関するワーキングセッション「巨大災害からの教訓」では、気象庁長官から震災を踏まえた津波警報の改善を各国に紹介するとともに、東日本大震災のような甚大な被害をもたらす自然災害は、発生頻度が非常に低いことから、その対応手順については、理念だけでは無く実際の災害時に有効に働くか否かが肝要であって、平常時の業務の積み重ねが重要であることを主張しました。更に、日本の気象庁では、気象や地震・火山、海洋など多くの分野を担当しており、このことが、例えば大きな地震が発生して地盤が緩んでいる時に、大雨警報の警報基準を下げる、といった総合的で臨機の対応を可能としていること、多様な自然災害に関する対応が整っていることを紹介し、他の国々でも参考にしていただきたい、ということを発言しました。 トピックス8 緊急地震速報に新手法の導入を決定  緊急地震速報は、平成19年10月に広く一般の皆様への提供を開始し、強い揺れの前の身の安全確保、機械・機器の制御等、地震災害の防止・軽減に役立てられています。  一方、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震では、緊急地震速報(警報)を発表した地域が実際に強く揺れた地域よりも狭い範囲にとどまりました(次頁の右図を参照)。また、その後の広域にわたる特に活発な余震活動が続いた期間では、予想震度が過大な緊急地震速報を発表する事例が相次ぎました。  これらを受けて気象庁では、緊急地震速報の精度向上のための技術的改善を計画しています。 (1)同時に複数の地震が発生した場合でも、別々の地震として震源を精度よく推定  ~パーティクルフィルタを用いた統合震源決定手法(IPF法)の導入~  右図は東北地方太平洋沖地震の翌日、福島県沖(M4.8)と長野県北部(M3.5)で相次いで地震が発生した際に観測された震度分布です。当時、緊急地震速報を発表するためのプログラムではこれらを1つの大きな地震(M6.9)による揺れであると自動的に判断し、過大な震度予測の緊急地震速報(警報)を発表しました。  このように複数の地震が同時に発生した場合でも別々の地震として処理し、震源を精度よく推定するために開発を進めているのがIPF法(Integrated Particle Filter法)です。IPF法では、地震の揺れの観測データから、「揺れ始めの時刻」「震源までの推定距離」「推定した震源の方向」「観測された振幅」など解析結果を総合的に判断して、一番確からしい震源の位置を推定します。  右図のケースの場合、IPF法を用いることにより、複数の場所で地震が発生したと判断し、それを基に各地の震度を適切に推定できることが確認できました。  このように、IPF法の導入により震源の推定精度が上がり、複数の地震がほぼ同時に発生した場合でも、それらを別々の地震として処理して震度を適切に推定できる可能性が高くなります。 (2)巨大地震発生の際に強く揺れる地域をより適切に予想  ~近傍で観測された揺れから震度予想をする手法(PLUM(プラム)法)の導入~  東北地方太平洋沖地震では、震源断層の破壊開始点で破壊が始まってから、約3分かけて北は三陸沖まで、南は茨城県の沖合まで断層の破壊が続き、その結果、東北地方だけでなく関東地方でも広い範囲で非常に強い揺れを観測しました。一方、緊急地震速報の現在の手法では、震源断層の破壊開始点が推定された段階で、その地点を震源と仮定して各地の震度を予想し、迅速に緊急地震速報(警報)を発表します。このため、東北地方太平洋沖地震の時の緊急地震速報(警報)の発表対象地域は、推定した震源(震源断層の破壊開始点)に比較的近い東北地方の一部にとどまりました。(上の図)  こうした状況を踏まえて開発を進めているのがPLUM法(Propagation of Local Undamped Motion法)です。PLUM法は「ある場所で強い揺れを観測したら、その周辺でも同じように強く揺れる」という考え方に基づき震度を予想する方法で、東北地方太平洋沖地震のような巨大地震の場合でも震源から離れた場所での強い揺れを適切に予想することができます。  ただし、その仕組み上、PLUM法により強い揺れを予測してから実際に強く揺れるまでの猶予時間はわずかです。このため、PLUM法を実際に運用する場合は、推定した地震の震源とマグニチュードから震度を推定する手法(IPF法など)と組み合わせて運用することで、迅速かつ確実に緊急地震速報を発表できるようになります。  気象庁では、これらの技術的改善について、実際に発生した地震による検証等を経て準備が整い次第、早ければ平成27年度から平成28年度にかけて運用を開始する予定です。あわせて、研究機関等が太平洋沖に整備している海底地震計などをさらに活用して緊急地震速報を迅速化するなどの取り組みを進めていきます。 トピックス9 長野県北部の地震について  平成26年(2014年)11月22日22時08分、長野県北部を震源とするマグニチュード6.7の地震が発生しました。この地震により、長野県で震度6弱を観測したほか、東北地方から中国地方の一部にかけての広い範囲で震度1以上を観測し、負傷者46人、住家全壊77棟などの被害が生じました(平成27年1月5日現在、総務省消防庁による)。  気象庁は、気象庁機動調査班(JMA-MOT)を派遣し、震度6弱~5弱を観測した震度観測点及びその周辺を中心に、地震動による被害状況の現地調査を行いました。調査の結果、長野県白馬村で多数の家屋の倒壊や道路の陥没、亀裂等の顕著な被害が確認されました。 (1)余震活動の状況  平成26年11月末までに、震度1以上を観測した余震は100回発生しましたが、活動は次第に低下しました。今回の地震の余震活動を、平成19年7月16日に発生した「平成19年(2007年)新潟県中越沖地震(M6.8)」や、平成23年(2011年)3月12日に発生した長野県北部の地震(M6.7)など、過去に内陸や沿岸で発生した同程度の規模の地震と比べると、余震活動は低調でした。 (2)活断層がずれ動いた地震  長野県北部から山梨県南部にかけては、南北に「糸魚川-静岡構造線活断層系」という活断層帯が延びています。今回の地震について、政府の地震調査研究推進本部の地震調査委員会は糸魚川-静岡構造線活断層系の一部である神城(かみしろ)断層が活動したと考えられると評価しました(コラム「神城断層」参照)。震源地付近の長野県白馬村では、地震を起こした断層の一部が約9キロメートルにわたって地表に現れました。 コラム 神城断層  地震調査研究推進本部(以下、地震本部、91ページ参照)では、M7 程度以上の規模の大きい地震が発生する可能性があり、社会的、経済的に大きな影響を与えると考えられる活断層帯を主要活断層帯として選定し、その調査や評価などを行っています。平成26年(2014年)11月22日に発生した長野県北部の地震について、地震本部の地震調査委員会は、翌日に開いた臨時会と翌月9日の定例会において、本震発生前後の地震活動と地殻変動の観測結果や地表地震断層の現地調査結果に基づき活断層との関係について「この震源域付近には糸魚川-静岡構造線活断層系の一部である神城断層が存在している。今回の地震は神城断層の一部とその北方延長が活動したと考えられる。」と評価しました。糸魚川-静岡構造線活断層系※は日本列島のほぼ中央部に位置し、北は長野県北部から南は山梨県南部に達する全長140~150kmの活断層系です。神城断層はこの活断層系の北部の区間のうち北側に位置しています(北部区間の南側に松本盆地東縁断層が分布しています)。糸魚川-静岡構造線活断層系(牛伏寺断層を含む区間)は、これまでの調査により平均活動間隔は約1千年、最新活動時期は約1200年前と評価されています。なお、糸魚川-静岡構造線活断層系については、近年いろいろな調査結果が出てきたため再評価のための議論が進められています。  今回の地震は、内陸で起きた規模の大きな地震でしたが、死者がなかったことは幸いでした。今回のような既知の活断層だけでなく、地表付近に活断層が確認されていない場所でも、その地下には活断層が存在して、将来地震を発生させる可能性があります。日頃から家屋の耐震化、家具類の固定、食糧備蓄などの地震に対する備えをしておくとともに、地域住民で助け合える地域づくりもあわせて推進することが大切です。 ※平成8年9月11日公表の長期評価に基づく トピックス10 東南アジアに対する気象レーダー分野の技術支援  頻繁に大雨災害に見舞われる東南アジアで被害を軽減するには、気象レーダーを活用した雨雲の監視と適切な警報・予報が有効です。これらの多くの国では、気象レーダーを整備・運用しています。気象レーダーの観測結果から電波の混信等によるノイズを軽減するなどの観測精度維持・向上の技術は、観測結果を定量的に活用する上で欠かせませんが、多くの国ではこのような処理を自ら行う技術の蓄積が不足しています。また、複数の気象レーダーを設置した場合、効率的な監視のためにはこれらの観測結果を統合された画像に合成する技術(レーダー合成)も必要です。近年、我が国を含む先進国に対するこのような技術移転・人材育成へのニーズが高まっています。  気象庁では、これまで長年培った技術を基に、東南アジア各国への気象レーダーに関する技術支援や人材育成の取り組みを進めています。気象庁は、既に多くの気象レーダーを運用しているタイ気象局の技術者を平成24年(2012年)から毎年日本へ招へいし、レーダー合成技術の移転に向けた指導を進めています。また、平成26年(2014年)2月から3月には、日・東南アジア諸国連合(ASEAN)統合基金(JAIF)を活用した、ASEAN7か国の気象局の技術者を対象とした気象レーダーに関する研修ワークショップがタイ・バンコクで開催され、日本より気象庁・国際協力機構(JICA)・大学・気象レーダーメーカーから講師を派遣して、気象レーダーの基礎理論、維持管理、活用に関するノウハウの伝授に努めました。さらに、毎年実施しているJICA集団研修「気象業務能力向上」では、気象レーダーの予報・警報への利活用に関する講義・実習を開発途上国の研修員に対して行っているほか、日本の無償資金協力により気象レーダーを供与するプロジェクトでは、設置に関する技術的助言を行うなど、東南アジアをはじめとする開発途上国で気象レーダーがより効果的に活用されるための取り組みを行っています。さらに、日本の優れた気象レーダーの技術が各国の防災能力の向上に資するよう、国土交通省・気象庁・総務省・国内気象レーダー製造事業者が共同で「気象・降水観測レーダー海外普及官民連絡会議」を開催し、各国への情報発信等に努めています。  これらの技術支援により各国の気象監視能力が向上することは、効果的な予報・警報の発表を通じて東南アジアでの大雨被害の軽減に貢献し、ひいては海外で活動する日系企業や在留邦人の安全確保、災害リスク軽減につながることが期待されます。 トピックス11 気象情報の産業利用促進のためのワークショップを開催  交通、電力、農業、食品や衣料品販売等様々な産業では気象等の現象の影響をうけており、気象情報が利用されています。効果的に気象情報を利用していただくためには、気象庁と気象情報の利用者をつなぎ、情報の翻訳や加工などを行う民間気象会社やコンサルタント会社等の役割が重要です。これらの方々には、気象情報の精度や特性、利用者のニーズなどを十分に理解していただく必要があります。そのためには情報共有や意見交換により相互理解を深めるとともに、気象庁が保有する気象情報の利用に関する技術の移転が重要となります。  このため、新たな取り組みとして、気象庁、一般財団法人気象業務支援センター、気象振興協議会の共催により、「気象情報の産業利用促進のためのワークショップ」(以下、「ワークショップ」)の第1回を2014年12月12日に、第2回を2015年3月2日に実施しました。  ワークショップには、民間気象会社の他、損保会社、コンサルタント会社、アパレル業界などの既に気象情報を先進的に活用している企業や関係省庁などの幅広い分野から出席いただきました。  今回の2回のワークショップでは、季節予報をテーマとして取り上げ、農業やアパレル業界、損保業界などにおける季節予報や温暖化予測データの活用事例や、当庁が行っている季節予報の産業利用促進のための取り組みなどを紹介しました。また、季節予報を活用した事業展開の可能性について意見交換を行い、季節予報は産業利用のポテンシャルが高く、少しの工夫・加工を施すことで企業活動の意思決定などに十分活用できる情報となりうることを認識いただけました。一方で、利用者のニーズと予測技術の隔たり、季節予報に関する専門家・専門知識の不足などが課題として挙げられ、利用者向けの普及・啓発のさらなる促進などの必要性が指摘されました。  今後は、今回のワークショップから得られた課題を整理しつつ、本ワークショップが当庁、民間気象会社、気象情報利用者のコミュニケーション・情報共有の場として、また、気象庁が保有する技術の移転などによる技術力の向上や人材育成を通じて気象情報の産業利用促進に資するものとなるよう、継続して開催していく予定です。 ワークショップ資料は気象庁ホームページに掲載しています。 http://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/srs_ws.html 第1部 気象業務の現状と今後 1章 国民の安全・安心を支える気象情報 1 気象の監視・予測 1 気象の警報、予報などの発表 ア.特別警報・警報・注意報などの防災気象情報  気象庁は、大雨や暴風などによって発生する災害の防止・軽減のため、特別警報・警報・注意報などの防災気象情報を発表しています。さらに、情報の内容や発表タイミングの改善に向け、常に防災関係機関や報道機関との間で調整を行い、効果的な防災活動の支援を行っています。 ○防災気象情報の種類と発表の流れ  都道府県や市町村等の自治体や国の防災関係機関が適切な防災対応をとることができるよう、また、住民の自主避難の判断に資するよう、発生のおそれがある気象災害の重大さや可能性に応じて特別警報・警報・注意報を発表します。また、災害に結びつくような激しい現象の発生する1日~数日前から気象情報を発表し、警報等の対象となる現象の経過、予想、防災上の留意点などを解説します。特別警報・警報・注意報及び気象情報には、以下のようなものがあります。  気象警報・注意報は、災害に結びつくような激しい現象が発生する概ね3~6時間前に発表を、そのうち短時間の強い雨に伴う大雨警報・注意報及び洪水警報・注意報については概ね2~3時間前に発表をすることとしています。また、夜間・早朝に警報発表の可能性がある場合には、夕方に注意報を発表し、警報を発表する可能性のある時間帯をその注意報の発表文中に、例えば「明け方までに警報に切り替える可能性がある」などと明示しています。なお、こうした猶予時間(リードタイム)は、警報・注意報が防災機関や住民に伝わり安全確保行動がとられるまでにかかる時間を考慮して設けていますが、現象の予想が難しい場合には、結果としてこうしたリードタイムが確保できない場合もあります。 ○気象等の特別警報・警報・注意報 気象等の特別警報・警報・注意報の種類 現在、気象等に関する特別警報は6種類、警報は7種類、注意報は16種類あります。  警報や注意報では、予想される気象状況や警戒すべき事項などを簡潔に記述しており、注意・警戒が必要な現象の開始・終了の時間帯、ピークの時間帯、雨量や潮位などの予想最大値を箇条書きで記述しています。また、注意報から警報に切り替える可能性が高いときには、前もって注意報の中で「○○(いつ)までに××警報に切り替える可能性がある」と明示することとしています。 警報等の発表区域と発表基準  特別警報・警報・注意報は、市町村長が行う避難勧告や住民が行う自主避難の判断を支援するため、市町村ごとに発表しています。過去に発生した災害とそのときの雨量や潮位等の関係を調べた上で、あらかじめ基準を定めて発表しています。そのうち、特別警報の基準は、数十年に一度という極めて希で異常な現象を対象としています。  また、大規模な地震の発生により地盤が脆弱となっている可能性の高い地域や、火山噴火により火山灰が堆積した地域、大雨等により大規模な土砂災害が発生した地域の周辺では、降雨に伴う災害が通常よりも起きやすくなりますので、都道府県などと協議の上で、大雨警報などの発表基準を暫定的に引き下げて運用することがあります。近年の例では、平成26年11月22日の長野県北部の地震、平成25年台風第26号等により、一部の市町村では大雨警報・注意報の基準を引き下げて運用しました。 ○大雨による土砂災害に関する防災気象情報 大雨に関する警報等の特徴  大雨に伴い警戒が必要な土砂災害や浸水害に対しては大雨の警報等を、洪水害に対しては洪水の警報等を発表します。さらに、大雨特別警報や大雨警報では、主に警戒を要する災害が標題からわかるよう「大雨特別警報(土砂災害)」、「大雨警報(浸水害)」のように発表しています。 土砂災害警戒情報  土砂災害警戒情報は、大雨警報(土砂災害)が発表されている状況で、土砂災害発生の危険度がさらに高まったときに、市町村長による避難勧告等の災害応急対応に活用いただけるよう、また、住民の自主避難の参考となるよう、対象となる市町村を特定して警戒を呼びかける防災情報で、都道府県と気象庁が共同で発表しています。大雨に伴って発生する土砂災害には、現在降っている雨だけでなく、これまでに降った雨による土壌中の水分量が深く関係しており、土砂災害警戒情報、大雨警報(土砂災害)及び大雨注意報を発表する判断基準には、降った雨による土壌中の水分量を示す「土壌雨量指数」を用いています。大雨によって土壌雨量指数等が土砂災害警戒情報の基準を超えると、過去に土砂災害が発生した状況に匹敵する非常に危険な状況になったことを意味します。そこで、土砂災害警戒情報は、情報が発表され防災機関や住民に伝わり避難行動がとられるまでにかかる時間を確保するよう、2時間先までの降雨による土壌雨量指数等の予想を用いて発表の判断をしています。 土砂災害警戒判定メッシュ情報  土砂災害警戒判定メッシュ情報は、土砂災害警戒情報を補足する情報です。5キロメートル四方の領域(メッシュ)ごとに、土砂災害発生の危険度を5段階に判定した結果を表示しています。避難にかかる時間を考慮して、危険度の判定には2時間先までの土壌雨量指数等の予想を用いています。土砂災害警戒情報や大雨警報(土砂災害)が発表されたときには、土砂災害警戒判定メッシュ情報を確認することにより、対象市町村内で土砂災害発生の危険度が高まっている詳細な領域を把握することができます。周囲の状況や雨の降り方にも注意し、自治体からの避難に関する情報がなくても、危険を感じたら躊躇することなく自主避難することが大切です。  土砂災害は、建物に壊滅的な被害をもたらし一瞬のうちに尊い人命を奪ってしまう恐ろしい災害です。急傾斜地や渓流の付近など、土砂災害によって生命や身体に危害を及ぼすおそれがあると認められる場所は、都道府県によって土砂災害危険箇所や土砂災害警戒区域等に指定されています。これらの区域等にお住まいの方は、自治体からの避難に関する情報に留意するとともに、土砂災害警戒情報や大雨警報(土砂災害)の発表状況に注意することが必要です。また、土砂災害警戒判定メッシュ情報において大雨警報や土砂災害警戒情報の基準に到達しているなど土砂災害発生の危険度が高まっている領域にお住まいの方は、土砂災害危険箇所・土砂災害警戒区域等の外の少しでも安全な場所への早めの避難が重要です。 ○指定河川洪水予報  防災上重要な河川について、河川の増水や氾濫に対する水防活動の判断や住民の避難行動の参考となるように、国が管理する河川は国土交通省水管理・国土保全局と気象庁が、都道府県が管理する河川は都道府県と気象庁が、共同で河川を指定した洪水予報を発表しています。  気象庁は気象(降雨、融雪など)の予測、国土交通省や都道府県は水文状況(河川の水位または流量)の予測を担当して、緊密な連携のもとで洪水予報を行っています。洪水予報の標題は、洪水の危険度の高い順からそれぞれ「はん濫発生情報」「はん濫危険情報」「はん濫警戒情報」「はん濫注意情報」を河川名の後につなげたものです。また、洪水の危険度と水位を対応させて数値化した水位危険度レベルを情報に記載するなど、わかりやすい情報を目指しています。 ○高潮警報・暴風警報等  台風や低気圧等による異常な海面の上昇により高潮による災害の起こるおそれがあると予想したときには、対象となる市町村を特定して高潮警報等(特別警報・警報・注意報)を発表しています。高潮警報等では、市町村長による避難勧告の発令範囲の判断に資するよう、予想される最高潮位(高潮の高さ)の標高を明示しています。  高潮災害で生命に危険が及ぶ範囲は高潮の高さによって大きく異なります。自治体のハザードマップなどで潮位(標高)に応じた浸水範囲など危険な箇所をあらかじめご確認ください。高潮の浸水想定区域にお住まいの方は、台風や低気圧等の接近が予想されているときには、自治体からの避難に関する情報とともに高潮警報及び暴風警報等の発表に注意し、高潮警報等に記載された予想最高潮位(高潮の高さ)を自主避難の参考にしてください。また、夕方に発表中の高潮注意報に明け方までに警報発表の可能性があると記載されている場合には、高潮注意報に記載された予想最高潮位(高潮の高さ)を確認の上で早めの避難を検討することが重要です。  ただし、台風や低気圧等による暴風が吹き始めると、屋外は危険となり避難場所への避難ができなくなります。このため、避難にかかる時間を確保するよう、暴風の数時間前に暴風警報(又は暴風特別警報)を発表しています。暴風に警戒が必要な時間帯は暴風警報の中で明示しています。高潮災害に限らず、水害の浸水想定区域や土砂災害警戒区域等にお住まいの方も、暴風で外出が困難となる前に、暴風警報を活用して早めの避難が重要です。 ○台風情報  台風がいつ頃どこに接近するかをお知らせするのが「台風情報」です。この情報は、様々な防災対策に利用できるよう、台風が我が国に近づくにつれてきめ細かく頻繁に発表します。  気象庁は台風を常時監視しており、通常は3時間ごとに台風の中心位置、進行方向と速度、大きさ、強さの実況と最大3日先までの予報を、観測時刻の約50分後に発表します。予報では、台風の中心が70%の確率で進む範囲(予報円)と、台風の中心が予報円内に進んだ場合に暴風域(平均風速が毎秒25メートル以上の領域)に入るおそれのある範囲(暴風警戒域)を示します。更に、3日先以降も台風であると予想される場合には5日先までの進路予報を6時間ごとに行い、観測時刻から約90分後に発表します。  台風の勢力を示す目安として、風速をもとにして台風の「大きさ」と「強さ」を表現します。「大きさ」は平均風速が毎秒15メートル以上の強風の範囲(強風域)、「強さ」は最大風速を基準にしてそれぞれ表現を使い分けています。  台風が我が国に近づき、被害のおそれが出てきた場合には、上記の情報に加えて、台風の実況と1時間後の推定値を1時間ごとに、24時間先までの3時間刻みの予報を3時間ごとに発表します。また、72時間先までの「暴風域に入る確率」を各地域の時間変化のグラフ(3時間刻み)と日本周辺の分布図で示して6時間ごとに発表します。 ○(全般・地方・府県)気象情報  低気圧や前線などの災害に結びつくような激しい気象現象について、現象の経過、予想、防災上の留意点などを「気象情報」(「大雨に関する気象情報」など)として発表します。これらの情報では、図表を用いて最も注意すべき点を分かりやすく示す図形式での発表も行っています。また、少雨、高温、低温や日照不足など、長期間にわたり社会的に大きな影響を及ぼす天候の状況についても「気象情報」(「高温に関する気象情報」など)として発表します。 ○記録的短時間大雨情報  現在の降雨がその地域にとって希な激しい現象であることを周知するため、数年に一度しか発生しないような短時間の大雨を観測した場合に「記録的短時間大雨情報」を府県気象情報として発表します。 ○雨の実況と予測情報(解析雨量、降水短時間予報、高解像度降水ナウキャスト)  「解析雨量」は、雨量分布を把握できるように、気象レーダー観測で得られた雨の分布を、アメダスなどの雨量計で観測された実際の雨量で補正し、1時間雨量の分布を1キロメートル四方の細かさで解析し、30分間隔で発表します。  「降水短時間予報」は、目先数時間に予想される雨量分布を把握できるように解析雨量をもとに、雨域の移動、地形による雨雲の発達・衰弱や数値予報の予測雨量などを考慮して、6時間先までの各1時間雨量を1キロメートル四方の細かさで予測し、30分間隔で発表します。  さらに、極めて短時間に変化する雨にも対応するため、より即時的にきめ細かな予測情報を提供するのが「高解像度降水ナウキャスト」です。5分ごとの降水量と降水の強さの分布を250m四方の細かさ(30分先まで。35分から60分先までは1km四方単位)で予測するもので、情報は5分間隔で更新されます。高解像度降水ナウキャストの解析・予測には全国20カ所の気象ドップラーレーダーのデータに加え、気象庁・国土交通省・地方自治体が保有する全国約10,000カ所の雨量計の観測データ、ウィンドプロファイラやラジオゾンデの高層観測データ、国土交通省XRAIN(XバンドMPレーダネットワーク)のデータも活用しています。また、最新の技術を用いて降水域の内部を立体的に解析することにより精度向上を図っています。 ○積乱雲に伴う激しい気象現象に関する情報 竜巻発生確度ナウキャストと竜巻注意情報  積乱雲に伴う竜巻などの激しい突風から身の安全を確保していただくための気象情報として、「竜巻発生確度ナウキャスト」及び「竜巻注意情報」を発表しています。「竜巻発生確度ナウキャスト」は、気象ドップラーレーダーの観測などを基に、竜巻などの激しい突風が発生する可能性の程度を10キロメートル格子単位で解析し、その1時間後(10~60分先)までの予測を行うもので、10分ごとに発表します。「竜巻発生確度ナウキャスト」を利用することにより、竜巻などが発生する可能性の高い地域や刻々と変わる状況を詳細に把握することができます。  「竜巻注意情報」は、竜巻発生確度ナウキャストで発生確度2が現れた地域(概ね県単位)に発表しているほか、目撃情報が得られて竜巻の継続や新たな竜巻の発生するおそれが高い状態が続くと判断した場合にも発表しています。竜巻注意情報が発表されたときには、情報の発表から1時間程度は竜巻などの激しい突風に対する注意が必要です。 雷ナウキャスト  落雷による被害を防ぐための気象情報として、「雷ナウキャスト」を発表しています。「雷ナウキャスト」は、雷監視システムによる雷放電の検知及びレーダー観測などを基に、雷の激しさや雷の可能性を1キロメートル格子単位で解析し、その1時間後(10分~60分先)までの予測を行うもので、10分ごとに発表します。雷の激しさや雷の発生可能性は、活動度1~4で表します。このうち活動度2~4となったときには、既に積乱雲が発達しており、いつ落雷があってもおかしくない状況です。屋外にいる人は建物の中に移動するなど安全の確保に努めてください。 イ.天気予報、週間天気予報、季節予報  天気は、日々の生活と密接にかかわっています。例えば、今日は傘を持って行った方がよいかとか、週末に予定している旅行はどんな服装をすればよいかといった時に、天気予報が役に立ちます。 ○天気予報  天気予報には、「府県天気予報」、「地方天気分布予報」、「地域時系列予報」の三つの種類があります。「府県天気予報」は、今日から明後日までの一日ごとの天気をおおまかに把握するのに適しています。「地方天気分布予報」は、天気などの面的な分布が一目でわかるので、例えば府県天気予報で「曇り時々雨」となっていた場合、雨がどの地域でいつごろ降るのかといったことを把握するのに適しています。「地域時系列予報」は、ある地域の天気や気温、風の時間ごとの移り変わりを知るのに便利な予報です。 ○週間天気予報  週間天気予報は、発表日の翌日から1週間先までの毎日の天気、最高・最低気温、降水確率を、1日2回、11時と17時に発表しています。週間天気予報では、今日や明日に比べてさらに先を予報するので予報を適中させることが難しくなります。このため、天気については信頼度を、気温については予測範囲をあわせて示しています。信頼度は、3日目以降の降水の有無について、「予報が適中しやすい」ことと「予報が変わりにくい」ことを表し、予報の確度が高いほうから順にA、B、Cの3段階で表現します。気温の予測範囲は、「24℃~27℃」のように予想される気温の範囲を示しており、実際の気温がこの気温の範囲に入る確率はおよそ80%です。これらの情報によって、例えば同じ晴れ時々曇りという予報でも、どれくらいの確度の予報かを知ることができます。 ○季節予報  季節予報には、予報期間別に、2週間程度先までを予報する異常天候早期警戒情報、1か月先までを予報する1か月予報、3か月先までを予報する3か月予報、6か月先までを予報する暖・寒候期予報があり、予報区単位で予報しています。このうち「異常天候早期警戒情報」は、2週間程度先までの7日間平均気温や7日間降雪量が平年から大きく隔たる可能性が高いと予測した場合に発表されます。また、1か月、3か月、暖・寒候期予報は、それぞれの期間について、平均的な気温や降水量などを、3つの階級(「低い(少ない)」、「平年並」、「高い(多い)」)に分け、それぞれの階級が出現する可能性を確率で表現しています。なお、それぞれの予報の内容と発表日時は表のとおりです。また地方季節予報で用いる予報区分は図のとおりです。 ウ.船舶の安全などのための情報  船舶の運航には、台風や発達中の低気圧などによる荒天時の安全性のほか、海上輸送における経済性や定時性などの確保が求められます。  このため、日本近海や外洋を航行する船舶向けに、海上における風向・風速、波の高さ、海面水温、海流などの予報や強風・濃霧・着氷などの警報を、通信衛星(インマルサット)による衛星放送、ナブテックス無線放送、NHKラジオ(漁業気象通報)などにより提供しています。さらに、これまで文字情報でお伝えしていた気象現象の空間的な分布や推移を分かりやすい分布図形式で示した「地方海上分布予報」を平成27年(2015年)3月から新たに提供開始しました。 ○日本近海に関する情報  日本の沿岸から300海里(およそ560キロメートル)以内を12に分けた海域ごとに、低気圧などに関する情報とともに、天気や風向・風速、波の高さなどの予報、強風・濃霧・着氷などの警報を発表しています。これらの予報や警報などは、地方海上予報や地方海上警報として、ナブテックス無線放送(英文・和文放送)によって日本近海を航行する船舶に提供しています。ナブテックス無線放送では、これらの予報や警報に加えて、津波や火山現象に関する予報や警報も提供しています。  主に日本近海で操業する漁船向けには、台風、高・低気圧、前線などの実況と予想、陸上や海上における気象の実況情報を、漁業気象通報としてNHKラジオを通じて提供しています。また、天気概況や気象の実況情報、海上予報・警報などを、漁業無線気象通報として漁業用海岸局を通じて提供しています。  また、地方海上予報・警報の内容の詳細なイメージを補足する情報として24時間先までの風、波、視程(霧)、着氷の分布予想を図形式にした地方海上分布予報を気象庁ホームページに掲載しています。  さらに、海上の警報の内容も記述した実況天気図や、海上の悪天(強風・濃霧・海氷・着氷)の予想も記述した予想天気図(海上悪天24時間予想図、同48時間予想図)、台風(120時間先までの進路予報及び72時間先までの強度予報)、波浪、海面水温、海流、海氷などの実況や予想などの図情報を、短波放送による気象庁気象無線模写通報(JMH)により提供しています。 ○外洋に関する情報  「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)に基づき、気象庁の責任分担海域である北西太平洋(概ね赤道から北緯60度、東経100度から180度に囲まれる海域)を対象に、緯度・経度で地域を明示して、低気圧や台風に関する情報とともに海上の強風・暴風や濃霧の警報を、通信衛星(インマルサット)を介して、セーフティネット気象予報警報(無線英文放送)として船舶関係者向けに提供しています。 エ.その他の情報 ○光化学スモッグなどの被害軽減に寄与するための情報提供  気象庁は、晴れて日射が強く、風が弱いなど、光化学スモッグなどの大気汚染に関連する気象状況を都道府県に通報するとともに、光化学スモッグが発生しやすい気象状況が予想される場合には「スモッグ気象情報」や翌日を対象とした「全般スモッグ気象情報」を広く一般に発表しています。また、環境省と共同で光化学スモッグに関連する情報をホームページで提供しています。 ○熱中症についての注意喚起  一般的な注意事項として熱中症も含めた高温時における健康管理への注意を呼びかけることを目的として、高温注意情報、異常天候早期警戒情報や日々の天気概況、気象情報の中でも、熱中症への注意の呼びかけを盛り込んで発表しています。 2 気象の観測・監視と情報の発表 ア.地上気象観測  気象台や測候所では気圧、気温、湿度、風向・風速、降水量、日照時間などの地上気象観測を行っています。また、集中豪雨等の局地的な気象の把握を目的として、これらの気象官署を含めた全国各地の約1,300か所で、自動観測を行うアメダス(地域気象観測システム)として、降水量を観測しています。このうち約840か所では、降水量に加えて、気温、風向・風速、日照時間の観測を、また、豪雪地帯などの約320か所では積雪の深さの観測を行っています。 イ.レーダー気象観測  全国20か所の気象レーダーによって降水の観測を行い、大雨警報などの気象情報の発表に利用しています。気象レーダーは、パラボラアンテナから電波を発射し、雨などによって反射された電波を受信することにより、どの位置にどの程度の強さの降水があるかを把握することができます。各地のレーダーの観測結果を組み合わせることにより、日本の陸域とその近海における降水の分布と強さを5分ごとに観測しています。また、降水の分布と強さに加え、反射された電波のドップラー効果を利用して風で流される雨粒や雪の動きを観測できる機能も備えており、集中豪雨や竜巻などの突風をもたらす積乱雲内部の高度15キロメートルまでの詳細な風の分布の把握を行っています。 ウ.高層気象観測  低気圧などの大気の諸現象は、主に、地上から十数キロメートル上空までの対流圏において発生しています。また、その上にある成層圏において発生する現象も、対流圏の気象現象に大きく関連しています。気象庁では、これら上空の気象現象を捉えるため、全国16地点で毎日決まった時刻(日本標準時09時、21時)に「ラジオゾンデ」という観測機器を気球に吊るして飛揚させ、地上から約30キロメートル上空までの気圧(高度)、気温、湿度及び風について観測しています。  高層気象観測資料は、天気予報のほかに航空機の運航管理などにも利用されています。また、近年は、地球温暖化をはじめとした気候問題への関心が高まり、高層気象観測の観測資料は対流圏や成層圏の気温変化の監視など気候分野においても重要な役割を果たしています。 エ.ウィンドプロファイラ観測  ウィンドプロファイラは地上から上空に向けて電波を発射し、気流の乱れや雨粒によって散乱してはね返ってきた電波を受信し、ドップラー効果を利用して上空の風向・風速を10分毎に300メートルの高度間隔で連続して観測します。気象条件によって観測データが得られる高度は変動しますが、最大12キロメートル程度までの上空の風向・風速が観測できます。ウィンドプロファイラで得られる観測データは、数値予報に利用されるほか、実況監視にも利用されており、局地的大雨や突風等の解析や予測に必要不可欠なものとなっています。 コラム 40歳を迎えたアメダス  アメダスで観測された降水量や気温などの観測データは、警報・注意報などの防災気象情報に欠かせない基礎情報であるとともに、テレビの天気予報コーナーなどでも広く親しまれています。  アメダスは、正式名称「地域気象観測システム」の英名Automated Meteorological Data Acquisition Systemの略称です。前身となる区内気象観測(委託による有人気象観測)業務を引き継いで、日本全国に設置された無人の自動気象観測所からリアルタイムに観測データを収集する画期的なシステムとして、昭和49年(1974年)11月1日に運用を開始しました。昨年(平成26年(2014年))の同日には満40歳を迎えたことになります。  運用開始当初は、全国923地点の降水量のデータのみでしたが、順次「気象計」と呼ばれる観測装置が整備され、現在と同じ約1,300地点の観測網が完成したのは、スタートから約4年後の昭和54年(1979年)3月のことでした。  初代のシステムではデータ収集に公衆電話回線を利用しており、そのため災害が発生して被災地に電話が集中し回線が輻輳すると、データ集信率が落ちるということもありました。また、観測データも現代のようなディスプレイ表示ではなく、紙に印刷出力されるという運用でした。  その後のシステム更新・高度化を通じて、データ集配信の信頼性・安定性は向上し、また、数値形式でデータを配信し、Webで様々なスタイルで表示・利用するなど、データの利便性向上が図られています。また、最大瞬間風速の観測開始(平成20年(2008年))など、観測強化も図られてきました。  気象庁では、今後も24時間365日、我が国の基盤的気象観測網である「アメダス」による信頼性の高い高品質なデータの収集・配信に努めてまいります。 コラム 「東京」の気象観測地点の変更について  平成26年(2014年)12月2日、気象庁は「東京」の気象観測地点を千代田区大手町から北の丸公園に変更しました。これに伴い、天気予報や気象情報などで発表する「東京」の気温、降水量等も、新しい地点での観測に基づいた値となっています。  「東京」の気象観測地点の変更は、明治初期からの140年にわたる気象観測の歴史において、今回で4回目です。「東京」での観測は明治8年(1875年)に当時の赤坂区溜池葵町(現在の港区虎ノ門)で開始された後、数回の変更を経て、昭和39年(1964年)から千代田区大手町(気象庁本庁構内)で行われてきました。  今回の変更は、気象庁本庁の移転計画に伴って50年ぶりに行われたもので、観測に適した環境を長期的に維持しつつ、過去100年以上にわたり近接地域で行ってきた観測の連続性を継続できる地点として、北の丸公園が選定されました。  なお、観測施設の周辺環境の違いにより、観測要素によっては地点変更の前後で観測値の傾向に差があります。このため、地点変更に合わせ、「東京」の気温等の平年値を新しい気象観測地点に適した値へと更新しました(右下図)。最高気温にはほとんど違いはありませんが、最低気温については、年平均で約1.4℃低くなる傾向があります。 オ.静止気象衛星観測  気象庁は、現在まで35年以上にわたって、静止気象衛星「ひまわり」による観測を続けてきました。平成27年(2015年)7月頃からは、「ひまわり7号」に替えて「ひまわり8号」による観測を開始する計画です(トピックス1「観測機能を大幅に強化した静止気象衛星「ひまわり8号」」参照)。  静止気象衛星の最大の利点は、同じ地域を常に観測できるという点です。東経140度付近の赤道上空約35,800キロメートルの静止軌道上にあることで、地球の自転周期に合わせて周回することとなり、日本を含む東アジア・西太平洋地域の広い範囲を、24時間常時観測することができます。特に、観測地点が少ない海上の台風を監視するために不可欠な観測手段となっています。  台風は海面水温の高い海上で発達する傾向があるため、台風を監視する際には海面水温の状況を把握することが重要です。下の図のように、「ひまわり」画像を処理することにより海面水温を算出することができます。  下の図の「ひまわり」画像では、オホーツク海に白い流氷(矢印部分や知床半島から国後島にかけての白い領域)が見られます。連続的に観測した画像を解析することで、流氷の動きを捉えることができます。図の例では、流氷がオホーツク海を南下して、北海道に向かっている様子が分かります。  このほかにも、衛星観測データは上空の風向・風速の算出、上空の黄砂や火山灰の監視などに幅広く利用されています。また、「ひまわり」の観測データは、アジア・太平洋を中心とした世界各国の気象機関でも利用されています。  「ひまわり」にはデータを中継する通信機能もあり、国内外の離島などに設置された観測装置の気象データや潮位(津波)データ、国内主要地点の震度データなどの収集に活用されています。  「ひまわり8号」では、「ひまわり7号」より短い時間間隔で高い分解能の画像を撮影でき、画像の種類も増えるため、台風の状況や大雨・突風をもたらす積乱雲の状況を、より詳細かつ早期に捉えることができると期待されています。気象庁では、この新しい衛星で得られる観測データの利用技術についても開発を進めているところです(第1部第2章第2節2「新しい静止気象衛星「ひまわり8号」の観測データ利用技術の開発(127ページ)」参照) カ.潮位・波浪観測  気象庁では、高潮・副振動・異常潮位及び高波等による沿岸の施設等への被害の防止・軽減のため、全国各地で潮位(潮汐)と波浪の観測を行っています。潮位の観測は検潮所や津波観測点の観測装置、波浪の観測は沿岸波浪計、ブイ、観測船を使用して行っています。また、他機関の観測データも活用してきめ細かい実況の監視に努めています。  一方、スーパーコンピュータを用いた高潮モデルや波浪モデルにより、それぞれ潮位や波浪の予測値を計算しています。これらの資料と実況監視データを用いて、各地の気象台では、高潮特別警報・高潮警報・高潮注意報、波浪特別警報・波浪警報・波浪注意報、気象情報や潮位情報を発表し、沿岸域での浸水等の被害や船舶の海難事故に対する注意・警戒を呼びかけています。 3 異常気象などの監視・予測 ア.異常気象の監視  気象庁では、原則として「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節等)において30年間に1回以下の頻度で発生する現象」を異常気象としています。  気象庁では、世界中から収集した観測データ等をもとに、我が国や世界各地で発生する異常気象を監視して、極端な高温・低温や大雨・少雨などが観測された地域や気象災害について、週ごとや月ごと、季節ごとにとりまとめて発表しています。また、社会的に大きな影響をもたらした異常気象が発生した場合は、特徴と要因、見通しをまとめた情報を随時発表し、気象庁ホームページでも公表しています。例えば、平成26年は、北米の顕著な寒波や米国南西部の少雨に関する情報等を発表しました。  我が国への影響が大きな異常気象が発生した場合は、異常気象分析検討会(写真)を開催し、大学・研究機関等の第一線の研究者の協力を得て最新の科学的知見に基づいた分析を行い、異常気象の発生要因等に関する見解を迅速に発表します。例えば、平成26年は、西日本を中心に記録的な多雨・寡照となった8月の不順な天候に関する臨時の異常気象分析検討会を9月3日に開催し、分析結果を発表しました(9ページの特集1(2)を参照)。 イ.エルニーニョ・ラニーニャ現象の監視と予測  エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の中央部から南米ペルー沿岸にかけての広い海域で、海面水温が平年より高い状態が、数年おきに半年から一年半程度続く現象です。一方、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象をラニーニャ現象と呼びます。エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、日本を含む世界の様々な地域で多雨・少雨・高温・低温など、通常とは異なる天候が現れやすくなります。また、西太平洋熱帯域やインド洋熱帯域の海面水温の状態が日本や世界の天候に影響を与えていることが、近年明らかになってきました。  気象庁では、エルニーニョ・ラニーニャ現象や、西太平洋熱帯域・インド洋熱帯域の海洋変動に関する最新の状況と6か月先までの見通しを、「エルニーニョ監視速報」として毎月10日頃に発表しています。 4 気象庁の基盤情報システムとインターネットを通じた情報提供  気象庁では、国内外の関係機関から気象などの観測データを収集し、これを解析、予測することで、特別警報・警報・注意報などの防災気象情報を作成し、防災関係機関や報道機関を通して広く国民に伝達しています。観測データの収集や情報伝達、解析や予測には気象資料総合処理システム(COSMETS)を使用しています。気象資料総合処理システムは解析や予測を担うスーパーコンピュータシステムと通信機能を担う気象情報伝送処理システムの2つのシステムで構成されています。スーパーコンピュータシステムは、世界各地の観測データ、気象衛星(ひまわり)の観測データなどを使って気圧や気温など大気の状態を詳しく解析し、さらに解析結果から物理法則に基づくモデル計算により大気の今後の変化を予測します。気象情報伝送処理システムは、最新の地上・高層気象観測や気象レーダー観測のデータ、沿岸波浪計や潮位計、船舶などによる海洋観測のデータ、震度観測データなどのほか、都道府県などが行う雨量観測や震度観測などのデータを収集しています。また、世界の気象機関が協力して運用する全球通信システム(GTS)の通信中枢として関係国と観測データの交換を行っています。これらの観測データ、解析・予測の情報、地震・津波や火山に関する情報を、国内の気象官署や防災関係機関、外国の気象機関などに提供するとともに、民間気象業務支援センターを通じて民間の気象事業者や報道機関などに提供しています。各気象台との情報伝達経路となる国内の基盤通信網の2重化に加え、東日本と西日本にそれぞれ中枢を持つ気象情報伝送処理システムの相互バックアップ機能により、大規模災害時にも安定して各種観測データの収集や予報、防災情報などの伝達を継続できるように信頼性の向上を図っています。 ○世界気象機関(WMO)情報システム(WIS)  世界気象機関(WMO)情報システム(WIS:WMO Information System)は、気象に関するデータやプロダクトなどの情報を国際的に効率よく交換・提供するために、WMOが構築・展開を進める情報基盤です。WISでは、従来の基盤情報網である全球通信システム(GTS)により即時的に交換される観測データ等に加え、気象衛星や気候データ等の様々な気象情報のカタログを整備することでデータの検索やアクセスを容易としており、ビッグデータである気象情報の有効活用を行っています。  WISは、中核となる全球情報システムセンター(GISC:Global Information System Centre)、各種気象情報を提供するデータ収集作成センター(DCPC:Data Collection or Production Centre)、各国気象局など(NC:National Centre)から構成されます。  世界中のデータやカタログの管理・交換を行うGISCは、気象庁を含め世界に15か所配置され、責任域国を分担してWMO各地区をカバーしています。気象庁は、このGISCと8つのDCPCの運用を、世界に先駆けて平成23(2011)年8月から開始しました。  気象庁は、GISC東京として、GISC間でのデータやカタログの管理・交換を行うとともに、責任域国であるアジア地域(第Ⅱ地区)のカンボジア、タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス及び台風などで連携の強い南西太平洋地域(第Ⅴ地区)のフィリピンに対し、WISを通じた気象業務の支援を積極的に行い、気象災害の軽減等に貢献しています。 ○気象庁ホームページ  気象庁ホームページ*では、気象庁の組織や制度の概要、広報誌などの行政情報をはじめ、気象の知識などの情報を提供するとともに、天気予報や気象警報・注意報、地震、津波などの防災情報を掲載しています。平成26年は、1日当たり約1,600万ページビュー、台風第19号が上陸した10月13日には過去最高の5,800万ページビューのアクセスがありました。 * http://www.jma.go.jp/jma/index.html ○防災情報提供センター  国土交通省は、省内の各部局等が保有する様々な防災情報を集約して、インターネットを通じて国民の皆様へ一つのホームページから提供するため、「防災情報提供センター」というウェブサイト(http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/)を運用しており、その運営は気象庁が担当しています。  このウェブサイトからは、国土交通省の各部局等や都道府県などの雨量情報を一覧できる「リアルタイム雨量」や国土交通省内の各レーダーそれぞれの長所を生かして統合した「リアルタイムレーダー」をはじめ、河川、道路、気象、地震、火山、海洋などの各種の災害・防災情報を容易に入手することができます。  また、携帯端末向けのホームページ(http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/i-index.html)では、屋外などパソコンが使えないような場所でも、気象警報、竜巻や降水のナウキャスト情報などの気象情報のほか、津波警報や潮位情報等の防災情報を入手できるようにしています。 2 地震・津波と火山に関する情報 1 地震・津波に関する情報の発表と伝達  地震による災害には、主に地震の揺れ(地震動)によるものと、地震に伴って発生する津波によるものとがあります。これらの災害を軽減するため、気象庁は、地震と津波を24時間体制で監視し、その発生時には、予測や観測結果の情報を迅速に発表します。地震発生直後の地震及び津波の情報は、防災関係機関の初動対応などに活用されています。 ア.地震に関する情報  気象庁は、全国約300か所に設置した地震計や国立研究開発法人防災科学技術研究所等の関係機関の地震計のデータを集約して、地震の発生を24時間体制で監視しています。また、地面の揺れの強さを測る震度計を全国約670か所に設置し、地震発生時には、これらの震度計及び地方公共団体や国立研究開発法人防災科学技術研究所が設置した震度計のデータを集約(全国で合計約4,400か所)しています。気象庁は、これらのデータを基に地震発生時には次の情報を発表しています。 ① 緊急地震速報(地震動特別警報・地震動警報・地震動予報)  緊急地震速報は、地震の発生直後に震源に近い地震計でとらえた観測データを解析して、震源や地震の規模(マグニチュード)を直ちに推定し、これに基づいて各地での主要動の到達時刻や震度を予測し、可能な限り素早く知らせる情報です。強い揺れの前に、自らの身を守ったり、列車のスピードを落としたり、工場等で機械制御を行ったりして、被害の軽減が図られています。最大震度5弱以上の揺れを予想した際には、震度4以上の揺れが予想される地域に対し、地震動特別警報(震度6弱以上の揺れが予想される場合)・地震動警報に相当する緊急地震速報(警報)を発表し、強い揺れに警戒する必要があることをテレビ・ラジオ・携帯電話等を通じてお知らせします。また、マグニチュードが3.5以上又は最大予測震度が3以上である場合等には、緊急地震速報(予報)を発表します。民間の予報業務許可事業者は、緊急地震速報(予報)の震源やマグニチュードを用いて、特定の地点の主要動の到達時刻や震度を予報し、ユーザーに対して専用端末等を通じ、音声や文字等で知らせたり、機械を制御する信号を発したりする個別のサービスを行っています。 ② 観測した結果を整理した情報  気象庁は、観測した地震波形などのデータから推定した震源の位置、マグニチュードや観測した震度(揺れの強さ)などの情報を迅速に発表しています。地震発生の約1分半後には、震度3以上が観測されている地域を示す「震度速報」を、その後、震源の位置や震度3以上を観測した市町村名など、観測データの収集にあわせて詳細な情報を発表します。震度の情報はテレビやラジオなどで報道される他、防災関係機関の初動対応の基準や災害応急対策の基準として活用されています。 イ.津波に関する情報  気象庁は、地震により日本沿岸に津波が到達するおそれがある場合には津波警報等を発表するとともに、津波の到達予想時刻や予想される津波の高さを津波情報で発表します。また、気象庁や関係機関が沿岸及び沖合に設置した約230か所の津波観測施設のデータを活用して津波を監視し、津波が観測されると津波情報等で観測結果を発表します。沖合の津波観測施設については、ケーブル式海底津波計やGPS波浪計に加え、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の後に気象庁が整備したブイ式海底津波計を活用しています。 ① 大津波警報・津波警報・注意報、津波予報、津波情報  海域で規模の大きな地震が発生し、地震と同時に発生する地殻変動によって海底面が大きく持ち上がったり下がったりすると、津波が発生します。気象庁は、陸域へ浸水するなど重大な災害が起こるおそれのある津波が予想される場合には「津波警報」(高さ1~3メートル)を、より甚大な災害となるおそれがある場合は特別警報に位置づけられている「大津波警報」(高さ3メートル超)を、海の中や海岸、河口付近で災害の起こるおそれのある津波が予想される場合には「津波注意報」(高さ0.2~1メートル)をそれぞれの津波予報区に発表します。なお、地震発生後、津波が予想されても災害が起こるおそれがない0.2メートル未満の高さの場合には、「津波予報」(若干の海面変動)を発表します。  ただし、マグニチュード8を超えるような巨大地震が発生した場合は、地震発生から数分程度では地震の規模を正確に求めることができないため、その海域における最大級の津波を想定して津波警報の第1報を発表します。このとき、非常事態であることを簡潔に伝えるため、予想される津波の高さを「巨大」(大津波警報の場合)、「高い」(津波警報の場合)という言葉で発表します。このような表現を用いた場合でも、地震発生から15分ほどで正確な地震の規模を把握し、それに基づき津波警報を更新し、予想される津波の高さを数値で発表しなおします。  津波警報等の発表後、沖合で津波を観測した場合には、もう間もなく沿岸に津波が到達する可能性が高いことから、その観測点における第一波の到達時刻、最大の高さなどの観測値に加え、その観測値から推定される沿岸での津波の到達時刻や高さの予想を「沖合の津波観測に関する情報」で発表します。  また、沿岸で津波を観測した場合には、観測した事実をすみやかに知らせるため、第一波の到着時刻、最大の高さなどの観測値を「津波観測に関する情報」で発表します。 コラム 長周期地震動に備える  東日本大震災の時に、東京で超高層ビルが大きくゆっくり揺れ続けている映像をご覧になった方も多いと思います。これは「長周期地震動」という地震の揺れによるものです。  長周期地震動とは、ゆっくり繰り返す長い周期の揺れのことです。マグニチュードの大きい地震ほど長周期の揺れの影響が大きくなります。長周期地震動は、高層ビルの固有周期(揺れやすい周期)と一致しやすく、木造家屋や低層の建物ではほとんど揺れを感じないのに、高層ビルは共振して大きく長く揺れる場合があります。長周期地震動で高層ビルが大きく揺れると、低層階よりも高層階で揺れが大きくなります。高層ビルが大きく揺れることで、室内の家具類が転倒・移動し、凶器になります。また、エレベータが故障することもあります。  東日本大震災の時は、東京都内の超高層ビルの中には10分以上にわたり大きく揺れたものもありました。また、長周期地震動は短い周期の波に比べて減衰しにくいため遠くまで伝わります。東日本大震災では、震源から700km以上離れた大阪市の超高層ビルでも内装材や防火扉が破損するなどの被害が出ました。  以下のような事前の対策は、ビル等における長周期地震動による大きな揺れに対しても有効です。  家具や什器の固定を行い、転倒を防止するように努めましょう。  停電や断水に備え、水や食糧、簡易トイレ等を十分に備蓄しておきましょう。  怪我に備え、救急用品を事前に準備し、使い方を練習しておきましょう。  気象庁では、地震発生後、震度の情報を発表していますが、震度は地表面付近の比較的周期の短い揺れを対象とした指標で、高層ビルの高層階における長周期の揺れの程度を表現するのに十分ではないことから、概ね14、15階建以上の高層ビルを対象として、4つの階級に区分した揺れの大きさの指標である「長周期地震動階級」を新たに導入し、平成25年3月から気象庁ホームページ上で「長周期地震動に関する観測情報」の発表を試行的に開始しました。  地震が発生したら、高層階では消防や救急による救護が低層階より時間を要する可能性もありますので、協力して応急救護を行う等の共助を行いましょう。 ウ.東海地域の地震・地殻変動の監視と情報提供  東海地震は、駿河湾から静岡県の内陸部を震源域とし、いつ発生してもおかしくないと考えられている大規模な地震で、現在、科学的な直前予知の可能性がある地震と考えられています。東海地震は陸側のプレート(地球表面を覆う厚さ数十~百キロメートル程度の岩石の層)とフィリピン海プレートの境界で起こる地震です。プレート境界には普段は強くくっついている領域があります。東海地震の前にはこの領域の一部が少しずつすべり始め、最終的に急激に大きくずれて強い揺れを発生させ東海地震になると考えられています。この少しずつすべり始める現象を「前兆すべり(プレスリップ)」といいます。東海地震の予知は、この前兆すべりに伴う地盤の伸び縮み(地殻変動)を捉えることで行います。気象庁は、東海地震の発生を予知し、国民の防災・減災行動に役立てるため、関係機関の協力を得て、東海地域とその周辺に展開された地震計やひずみ計などのデータを収集し、この地域の地震と地殻変動を24時間体制で監視しています。  気象庁は、観測データに異常が現れた場合、地震学等の専門家から構成される地震防災対策強化地域判定会(判定会)を開催し、東海地震に結びつくかどうかを3段階からなる「東海地震に関連する情報」で発表します。防災機関等はこの情報内容に応じた段階的な防災対応をとります。  ただし、前兆すべりの規模が小さい場合などには、前兆現象を捉えることができず、上記の情報を発表できないまま東海地震が発生する可能性もあります。 質問箱 地震は予知できるのですか?  我々の足元がいつ揺れるのか?ということは古くから人々の関心事です。科学技術の進歩によって、「揺れ」の予測である緊急地震速報は実用化されました。しかし、揺れの発生原因である「どの断層が、いつ、どのくらいずれるか」の予測、つまり「地震予知」は、これまでさまざまな研究が続けられていますが、残念ながら実用的な手法が確立されるには至っていません。皆さんも週刊誌などで、「○○地方で△月ごろマグニチュード×の地震が起きる」、あるいは「地震予知は不可能である」というまったく正反対の主張が飛び交っていることをご覧になったことがあると思います。  例えば、「ある観測データに異常があった。来週○○地方で地震が起きる」と言っている人がいるとします。このような予知手法の妥当性を確かめるには単に予知内容の当たりはずれだけではなく、「ある観測データに異常があったのに、○○地方では地震が起きなかった」、「あるデータに異常がなかったのに○○地方で地震が起きた」、「ある観測データに異常がなく、○○地方では地震も起きなかった」という全ての事例について調べる必要があります。また、予知内容の評価の仕方にも注意が必要で、「東日本のどこかで来年マグニチュード6の地震が起きる」、あるいは「関東地方で8月にマグニチュード7の地震が起きると言ったが、実際のマグニチュードは4.8だった」、「8月に起きるといっていた地震が12月に起きた」等のように、予知された地震の場所、時期、規模のどれか一つでも曖昧に扱われることがあれば、予知は一見当たったように見えてしまいます。これらは科学的な地震予知とは言えません。日本は地震活動が大変活発な地域ですが、被害をもたらすような巨大な地震は、ある対象地域に注目すれば数百年から数千年に一度という、人間の社会生活と比較すればきわめて頻度の少ない現象です。比較的長く行われている地震や地殻変動の観測すら、近代的なリアルタイム観測が始まってから数十年ほどしかたっていません。気象庁は現在「東海地震に関連する情報」に加え、伊豆半島東部地域で40回以上繰り返し発生している群発地震の解析に基づいた「伊豆東部の地震活動の見通しに関する情報」のような限られた地域に対して地震予知に関わる情報を発表していますが、これらを含め、「どの断層がずれるのか」、「いつ断層がずれるのか?」、あるいは「断層がどこまでずれるのか?」については分からないことが多く残っています。そもそも地震の前に普段と違う現象を見聞きしたというだけで、その現象が一足飛びに大地震の発生と関連づけられるわけではありません。地震予知手法の確立には数多くの観測事例の蓄積に基づく科学的な検証が必要なのです。 コラム 8年ぶりに発生した長期的ゆっくりすべり  2013年はじめ頃より、静岡県西部から愛知県東部に設置してあるGNSS観測装置やひずみ計に、浜名湖付近で「長期的ゆっくりすべり」と呼ばれる現象が発生した可能性を示す地殻変動が観測されました。  東海地域の陸側のプレートとフィリピン海プレートの境界には、東海地震の想定震源域と呼ばれる強くくっついている領域があると考えられています。フィリピン海プレートの沈み込みに伴いこの想定震源域にはひずみが溜まり、限界に達するとすべり始め、最終的に急激に大きくずれ動き強い揺れを発生させます。しかし、プレート境界の想定震源域より深い部分では、揺れを発生させず陸側のプレートが沈み込む方向とは逆方向に数年間に渡り年間数センチメートルのスピードでゆっくりずれ動く現象が、繰り返し発生している事が判ってきました。この現象が「長期的ゆっくりすべり」です。なお、東海地震の前兆現象と考えられる「前兆すべり」とは現象の継続時間、ずれ動くスピードの増加、規模等が異なる現象です。  この「長期的ゆっくりすべり」は、東海地域のほかに紀伊水道、四国、豊後水道や日向灘でも発生していると考えられています。東海地域では、2000年秋頃から2005年夏頃に発生しており、今回は約8年ぶりに発生した事となります。また、1980年から1982年頃、1989年から1990年頃にも発生したとみられており、これまでの経験から東海地震に直ちに結び付く現象ではないと考えられています。  しかし、「長期的ゆっくりすべり」も東海地震と同様にプレート境界で発生する現象であることから、なんらかの影響を与えていることは十分考えられます。このため、東海地震に備えるべく気象庁では関係機関の協力を得ながら、「長期的ゆっくりすべり」も含め、プレート境界の状況について常に注意深く監視しています。 エ.地震調査研究の推進とその成果の気象業務への活用  「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」(阪神・淡路大震災)を契機に制定された地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)により、政府の特別の機関として地震調査研究推進本部が文部科学省に設置されました。この地震調査研究推進本部が策定した「地震に関する基盤的調査観測計画」に基づいて、気象庁は文部科学省と協力して、平成9年より大学や国立研究開発法人防災科学技術研究所などの関係機関から提供された地震観測データを処理することにより、日本やその周辺で発生する地震活動の詳細な把握が可能となりました。  気象庁では、これらの結果を地震情報に活用するとともに、地震調査研究を推進するため、地震活動の評価を行っている地震調査研究推進本部地震調査委員会や大学など関係機関へ提供しています。 コラム 全国地震動予測地図  地震調査研究推進本部の地震調査委員会では、活断層で発生する地震と海溝型地震の長期的な発生確率を評価するとともに、いくつかの震源断層を対象に強震動を予測し、これらを組み合わせた地震動予測を行い、全国を概観した地震動予測地図として公表してきました。  この全国地震動予測地図については、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震が発生し、確率論的地震動予測地図について解決すべき多くの課題が指摘されたことなどにより、公表を見送り、その作成手法の基本的な枠組みの有効性を確かめるとともに、指摘された課題の検討を行ってきました。それらの検討を踏まえて作成したモデルに基づいた確率論的地震動予測地図が、「今後の地震動ハザード評価に関する検討~2011年・2012年における検討結果~」、「今後の地震動ハザード評価に関する検討~2013年における検討結果~」として、それぞれ2012年、2013年に公表されました。  平成26年(2014年)も引き続き課題の検討を行うとともに、モデルの作成を行ってきました。その結果、これまでに行った検討結果を踏まえた確率論的地震動予測地図の作成が完了したため、震源断層を特定した地震動予測地図も含めて「全国地震動予測地図2014年版~全国の地震動ハザードを概観して~」(2014年版)として平成26年12月に公表しました。 (ホームページ:http://www.jishin.go.jp/main/chousa/14_yosokuchizu/index.htm) 2 火山の監視と防災情報 ア.火山の監視 ① 110活火山と火山監視・情報センター  我が国には110の活火山があります。気象庁では、本庁(東京)及び札幌・仙台・福岡の各管区気象台に設置された「火山監視・情報センター」において、これらの活火山の火山活動を監視しています。110の活火山のうち、今後100年程度の期間の噴火の可能性及び社会的影響を踏まえ「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として火山噴火予知連絡会によって選定された47火山については、噴火の前兆を捉えて噴火警報等を適確に発表するために、観測施設(地震計、傾斜計、空振計、GNSS観測装置及び遠望カメラ)を整備し、関係機関(大学等研究機関や自治体・防災機関等)からのデータ提供も受け、火山活動を24時間体制で常時観測・監視しています。  また、47火山以外の火山も含めて、各センターの「火山機動観測班」が現地に出向き計画的に現地調査を行っており、火山活動に高まりが見られた場合には、必要に応じて現象をより詳細に把握するために観測体制を強化しています。特に噴気活動の活発化・拡大がみられている弥陀ヶ原(富山県)や地震活動が活発化した八甲田山(青森県)については、現地に臨時の地震計などを設置、同じく地震活動が活発化した十和田(青森県、秋田県)では、周辺の地震計を利用して火山活動を24時間体制で監視しています(平成27年5月現在)。全国の活火山について、観測・監視の成果を用いて火山活動の評価を行い、噴火の発生が予想された場合には「警戒が必要な範囲」(この範囲に入った場合には生命に危険が及ぶ)を明示して噴火警報を発表しています。 ② 火山活動を捉えるための観測網  火山噴火の前には、マグマや高温高圧の水蒸気が地表付近まで上昇するため、普段は見られない様々な現象(地震の群発、火山性微動の発生、地殻変動、噴気温度の上昇、噴煙や火山ガスの増加など)が起きます。  これらの噴火に先行する現象をとらえられるよう高感度の観測機器を用いて火山現象に応じた適切な監視・観測をしています。 ○震動観測(地震計による火山性地震や火山性微動の観測)  震動観測は、地震計により、火山体内部で発生する微小な地震(火山性地震や火山性微動)をとらえるものです。 ○空振観測(空振計による音波観測)  空振観測は、火山の爆発的噴火などで生じる空気の振動をとらえるものです。天候不良等により遠望カメラで火山の状況を監視できない場合でも、地震記録や空振記録等を分析することにより、噴火の発生と規模をいち早く検知することができます。 ○地殻変動観測(傾斜計、GNSS等による地殻変動観測)  地殻変動観測は、地下のマグマの活動等に伴って生じる地盤の傾斜変化や山体の膨張・収縮を観測するものです。傾斜計では火山周辺で発生するごく微小な傾斜変化をとらえることができ、また、GNSS観測装置では、他のGNSS観測装置と組み合わせることで火山周辺の地殻の変形を検出することができます。いずれも地下のマグマ溜まりの膨張や収縮を知り、火山活動の推移を予想(評価)するための重要な手段となります。 ○遠望観測(遠望カメラ等による観測)  遠望観測は、定まった地点から火山を遠望し、噴煙の高さ、色、噴出物(火山灰、噴石など)、火映などの発光現象等を観測するものです。星明かりの下でも観測ができる高感度の遠望カメラを設置しています。 ③ 現地調査  気象庁では、噴火時等には必要に応じて火山機動観測班を派遣して観測を行い、火山活動の正確な把握に努めています。また、24時間体制で監視している47火山以外の活火山も含め、火山機動観測班が平常時から計画的に現地に赴き、臨時のGNSS観測、熱やガスなど陸上からの観測やヘリコプター(関係機関の協力)による上空からの観測等を実施し、継続的な火山活動把握・評価に努めています。 ○熱観測  赤外熱映像装置を用いて火口周辺の地表面温度分布を観測することにより、マグマや高温の火山ガスなどの活動状態を把握することができます。 ○上空からの観測  関係機関の協力により、カメラや赤外熱映像装置を用いて、地上からでは近づけない火口内の様子(温度分布や噴煙の状況)や噴出物分布を詳しく調査・把握し、火山活動の評価に活用します。 ○火山ガス観測  火口から放出される火山ガスには、水蒸気、二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素など様々な成分が含まれています。気象庁では、小型紫外線スペクトロメータ(COMPUSS)という装置を用いて二酸化硫黄の放出量を観測し、火山活動の評価に活用します。 ○噴出物調査  噴火が発生した場合には、噴火の規模や特徴等を把握するため、大学等研究機関と協力して降灰や噴出物の調査を行い、火山活動の評価に活用します。 イ.災害を引き起こす主な火山現象  火山は時として大きな災害を引き起こします。災害の要因となる主な火山現象には、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流、溶岩流、小さな噴石・火山灰、土石流、火山ガス等があります。特に、大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流は、噴火に伴って発生し、避難までの時間的猶予がほとんどなく、生命に対する危険性が高いため、防災対策上重要度の高い火山現象として位置付けられており、噴火警報や避難計画を活用した事前の避難が必要です。 大きな噴石  爆発的な噴火によって火口から吹き飛ばされる大きな噴石は、風の影響を受けずに弾道を描いて飛散して短時間で落下し、建物の屋根を打ち破るほどの破壊力を持っています。大きな噴石による被害は火口周辺の概ね2~4キロメートル以内に限られますが、これまで登山者等が死傷する災害が発生しており、噴火警報等を活用した事前の入山規制や避難が必要です。 火砕流  高温の火山灰や岩塊、空気や水蒸気が一体となって急速に山体を流下する現象です。規模の大きな噴煙柱や溶岩ドームの崩壊などにより発生します。大規模な場合は地形の起伏にかかわらず広範囲に広がり、通過域を焼失させる極めて恐ろしい火山現象です。流下速度は時速数十から百数十キロメートルに達し、温度も非常に高温になるため、火砕流から身を守ることは不可能です。噴火警報等を活用した事前の避難が必要です。 融雪型火山泥流  積雪期の火山において噴火に伴う火砕流等の熱によって斜面の雪が融かされて大量の水が発生し、周辺の土砂や岩石を巻き込みながら高速で流下する現象です。流下速度は時速60キロメートルを超えることもあり、谷筋や沢沿いをはるか遠方まで一気に流下し、大規模な災害を引き起こしやすい火山現象です。積雪期の噴火時等には融雪型火山泥流の発生を確認する前にあらかじめ避難が必要です。 溶岩流  マグマが火口から噴出して高温のまま地表を流れ下るものです。地形や溶岩の温度・組成にもよりますが、流下速度は比較的遅く基本的に徒歩による避難が可能です。 小さな噴石・火山灰  噴火により噴出した小さな固形物で、粒径が小さいほど遠くまで風に流されて降下します。小さな噴石は10キロメートル以上遠方まで運ばれ降下する場合もありますが、噴出してから地面に降下するまでに数分~十数分かかることから、火山の風下側で爆発的噴火に気付いたら屋内等に退避することで身を守ることができます。火山灰は、時には数十から数百キロメートル以上運ばれて広域に降下・堆積し、農作物の被害、交通障害、家屋倒壊、航空機のエンジントラブルなど広く社会生活に深刻な影響を及ぼします。 火山ガス  火山地域ではマグマに溶けている水蒸気や二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素等の様々な成分が気体となって放出されます。火山ガスは人体に悪影響を及ぼし、死亡事故も発生しています。 ウ.噴火警報 ① 噴火警報の対象範囲  気象庁は、噴火災害軽減のため、全国110の活火山を対象として、観測・監視・評価の結果に基づき噴火警報を発表しています。噴火警報は、噴火に伴って発生し生命に危険を及ぼす火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等、発生から短時間で火口周辺や居住地域に到達し、避難までの時間的猶予がほとんどない現象)の発生やその危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」(生命に危険を及ぼす範囲)を明示して発表します。 ② 噴火警報の名称  噴火警報は、「警戒が必要な範囲」が火口周辺に限られる場合は「噴火警報(火口周辺)」(又は「火口周辺警報」)、「警戒が必要な範囲」が居住地域まで及ぶ場合は「噴火警報(居住地域)」(又は「噴火警報」)として発表し、海底火山については「噴火警報(周辺海域)」として発表します。  これらの噴火警報は、報道機関、都道府県等の関係機関に通知されると直ちに住民等に周知されます。  噴火警報を解除する場合等には「噴火予報」を発表します。なお、「警戒が必要な範囲」が居住地域まで及ぶ場合に発表する「噴火警報(居住地域)」は特別警報として位置づけられています。 エ.噴火警戒レベル ① 「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災対応」  噴火警戒レベルは、火山活動の状況に応じた「警戒が必要な範囲」と防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分した指標を用いて、噴火警報・噴火予報で発表されます。地元の火山防災協議会等での共同検討を経て、市町村・都道府県は噴火警戒レベルに応じた「とるべき防災対応」を「地域防災計画」に定めます。  市町村等の防災機関では、合意された警戒が必要な範囲に対して迅速に入山規制や避難勧告等の防災対応をとることができ、噴火災害の軽減につながることが期待されます。 ② 噴火警戒レベルの設定と改善  噴火警戒レベルは内閣府の「火山情報等に対応した火山防災対策検討会」の結果を踏まえ、平成19年12月に16火山で運用開始されて以降、平成27年4月現在、30火山に運用を拡大してきました。  気象庁では、今後も常時観測を行う47火山を中心に、火山防災の進捗に向けた取り組みを踏まえ、具体的な避難計画の策定を通じて、噴火警戒レベルの設定と改善を地元の関係機関と共同で進めていきます。 オ.降灰と火山ガスの予報  噴火警報等で扱う火山現象以外にも、火山現象に関する予報として降灰予報と火山ガス予報を発表しています。 カ.火山現象に関する情報  噴火警報や上記の予報のほか、火山現象に関する情報を発表することにより、火山活動の状況等をお知らせしています(平成27年5月現在)。 キ.火山噴火予知連絡会  火山噴火予知連絡会(以下「連絡会」)は、「火山噴火予知計画」(文部省測地学審議会の建議)の一環として計画を円滑に推進するため、昭和49年に設けられた組織です。連絡会は、火山噴火予知に関する研究成果や情報の交換や、各火山の観測資料を検討して火山活動についての総合的判断、噴火予知に関する研究および観測体制を整備するための検討を行うための会議です。連絡会は学識経験者や関係機関の専門家から構成され、事務局は気象庁が担当しています。  定例会を年3回開催し、全国の火山活動について総合的に検討を行うほか、火山噴火などの異常時には、気象庁長官の招集による幹事会や臨時部会を開催し、火山活動の総合判断を行うほか、火山の活動評価に関する資料の収集・解析を行うため、機動的な総合観測班を設置し現地に派遣します。 3 地球環境に関する情報 1 地球温暖化問題への対応 ア.気温や海面水位の監視と地球温暖化に伴う気候などの将来予測  気象庁では、気温や海面水位の長期的な変化傾向を監視して、地球温暖化の現状に関する情報を提供しています。また、将来の気候を数値モデルによって予測し、地球温暖化に伴う気候の変化に関する予測情報を提供しています。  世界の平均気温については、全世界の千数百か所の観測所における観測データや海面水温データを収集して、長期的な変化傾向を監視しています。また、日本国内の気象庁の観測点のうち、都市化の影響が少なく、特定の地域に偏らないように選定した15か所の観測データをもとに、日本の年平均気温の長期的な変化傾向を監視しています。  さらに、海面水位については、潮位や地盤変動の観測から得られたデータに加え、海洋気象観測船で観測した水温・塩分のデータや、人工衛星から観測された海面高度データをもとに、海洋の数値モデルも活用して海面水位の変動の実態を分析して、地球温暖化による海面水位の上昇について情報を発表する計画です。  気候変化の予測については、今後の世界の社会・経済の動向に関する想定から算出した温室効果ガス排出量の将来変化シナリオに基づいて、日本周辺の気候をきめ細かくシミュレーションできる気候モデルを用い、21世紀末頃における我が国の気温や降水量などの変化を計算しています。得られた予測結果は、地球温暖化予測情報として作成しており、平成25年(2013年)3月に「地球温暖化予測情報第8巻」を発表しました。  気象庁は、これらの業務を通じて、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が平成25~26年(2013~14年)に公表した第5次評価報告書にも貢献しています。 2 環境気象情報の発表  気象庁では、オゾン層保護に資する情報のほか、黄砂や紫外線対策に役立つ情報の提供を行っています。 ア.オゾン層・紫外線の監視と予測  気象庁は、自ら実施している国内及び南極昭和基地のオゾン層・紫外線の観測結果に加え、収集した地球観測衛星のデータ等も利用して、オゾン層破壊の実態を調査解析しています。これらの観測・解析の成果は、オゾンや紫外線の長期変化傾向などの調査結果も含め気象庁ホームページで公表しており、オゾン層保護対策などの資料として活用されています。  また、毎日の生活の中での紫外線対策を効果的に行えるように、有害紫外線の人体への影響度を示す指標であるUVインデックスを用いた紫外線の翌日までの予測情報を気象庁ホームページで毎日発表しています。 イ.黄砂の監視と予測  黄砂は、ユーラシア大陸の黄土高原やゴビ砂漠などで風によって上空高く舞い上がった無数の細かな砂じんが上空の風に乗って日本へ飛来する現象で、春に多く見られます。黄砂が飛来すると、洗濯物や車が汚れるといった一般生活への影響があるほか、濃度が高くなるとまれに交通障害の原因となる場合があります。  気象庁では、黄砂が日本の広域にわたって観測され、その状態が継続すると予測される場合には「黄砂に関する気象情報」を発表して注意を呼びかけています。また、気象庁ホームページには毎日の黄砂の観測・予測結果を掲載しています。なお、環境省と共同で「黄砂情報提供ホームページ」を運用し、黄砂に関する観測から予測まで即時的な情報を簡単に取得できるようにしています。 ウ.ヒートアイランド現象の監視・実態把握  都市化の進んでいる東京や大阪などの大都市圏では、都市の中心部の気温が周辺の郊外部に比べて高くなっており、「ヒートアイランド現象」として知られています。ヒートアイランド現象による大都市圏での夏季の著しい高温は、熱中症の増加や光化学オキシダント生成の助長などを通じて人々の健康への被害を増大させることが懸念されています。  気象庁では、都市気候モデルを用いたシミュレーションによって、水平距離2キロメートルごとの気温や風の分布の解析を行っています。解析の成果は、最高・最低気温や熱帯夜日数の観測値の経年変化などとともに、「ヒートアイランド監視報告」として平成16年度(2004年度)から公表しています。平成25年度は、関東、東海、近畿地方の三大都市圏を対象に、都市化による8月平均気温への寄与として評価したヒートアイランドの強さが年によって変動すること等を示しました。 3 海洋の監視と診断 ア.海洋の監視  地球表面の7割を占める海洋は、人間の社会経済活動に伴い排出される二酸化炭素の約3分の1を吸収するとともに、大量の熱や二酸化炭素を蓄えています。そのため、海洋は大気中の二酸化炭素濃度の増加や、それにより引き起こされる地球温暖化の進行など地球環境や気候変動に大きな影響を及ぼしています。また、海洋の二酸化炭素濃度が増加することで海洋の酸性化が進み、海洋の生態系への影響、ひいては水産業等の経済活動への大きな影響が懸念されています。  気象庁は、世界気象機関(WMO)やユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)等による国際的な協力体制の下、海洋がどれだけの二酸化炭素を吸収しているか、気候変動にどれだけ影響を与えているかを調べるため、日本周辺海域及び北西太平洋で海洋気象観測船や中層フロートなどによって海洋の観測を実施しています。  海洋気象観測船は、北西太平洋全体の主要な海流を横切るように設定された観測線に沿って、海面から海底までの海流や水温、塩分、二酸化炭素などの温室効果ガスや関連する化学物質(酸素、栄養塩(植物プランクトンが育つための栄養となるリン酸塩、硝酸塩、ケイ酸塩など))の高精度な観測を実施しています。  中層フロートは、海面から深さ2,000メートル付近までの水温・塩分の鉛直分布を自動的に観測する機器です。WMO、IOCや各国の関係機関の連携により、中層フロートを全世界の海洋に常時約3,000台稼働させ、全世界の海洋の状況をリアルタイムで監視するとともに、地球温暖化をはじめとする気候変動の実況把握とその予測精度向上を目指す「アルゴ計画」が推進されており、気象庁は、文部科学省などの関係省庁と連携して中層フロートによる観測を実施しています。 イ.海洋の健康診断表  気象庁では、海洋気象観測船等による観測データに加え、地球観測衛星等の観測データを収集し、それらをもとに解析した結果を、「海洋の健康診断表」として、気象庁ホームページで公表しています。この中で、地球温暖化に伴う海洋の変化や、海域ごとの海水温、海面水位、海流、海氷、海洋汚染の状態、変動の要因及び今後の推移の見通しについて、グラフや分布図を用いてわかりやすく解説しています。平成26年度には、太平洋域の表面海水中のpHの長期変化傾向に関する情報提供を開始しました。 コラム 気象庁ホームページ 「海洋の健康診断表」ページが使いやすくなりました  気象庁では、観測船や海に浮かぶブイ、そして衛星などから得られた観測データをもとに、海洋の諸現象についての様々な解析や予測を行って得られた結果を気象庁ホームページで「海洋の健康診断表」(以下「診断表」という。)として気象庁ホームページから発表しています。この「診断表」の内容は、私たちが人間ドックなどを受けたときと同じで、海洋の「今の状態」、「いつもとの違い、その原因と影響」、「今後の見通し」といった健康状態を診断してわかりやすく解説しています。まさに専門医が下す海洋の健康診断です。  この「診断表」について、「わかりやすく」「使いやすく」との観点で平成26年5月にトップページの構成を大幅に見直しました。今回のリニューアルのポイントは以下のとおりとなっています。  知りたい情報にすぐに辿り着くために、項目別及び海域別からのアクセスを基本とした。 トピックスを最上部に配置し、社会的影響の大きい海洋の諸現象についての解説にアクセスしやすくした。  より利用しやすく、見たい情報に辿り着きやすくなった診断表を使って、釣りやダイビング、サーフィン、海水浴など余暇にマリンレジャーを楽しむ方も計画を立てる際や最終判断に迷った時などにぜひ活用してください。 海洋の健康診断表URL:http://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/shindan/index.html または、「海洋の健康診断表」で検索 4 航空の安全などのための情報  航空機の運航においては、空港での離着陸時を含めて気象の影響を常に受けているため、その安全性、快適性、定時性及び経済性の確保には、気象情報が重要な役割を担っています。気象庁は、国際民間航空機関(ICAO)や世界気象機関(WMO)が定める国際的な統一基準に基づいて国際航空のための気象業務を行うとともに、国内航空のための独自の気象業務も実施しています。  航空機は、出発空港から目的空港への飛行計画を立てるとき、目的空港の天候から空中での待機や代替空港への着陸の可能性を判断し、燃料の搭載量を決定します。また、上空の風の予想や悪天の予想図から、飛行中乱気流による揺れの少ない高度や場所、燃料が節約できる高度や航空路、到着予定時刻などを決定します。気象庁が提供する各種情報がこうした判断に使われています。 1 空港の気象状況等に関する情報  航空機の離着陸には、風や視程(見通せる距離)、積乱雲(雷雲)などの気象状況が大きく影響します。気象庁では、全国81空港において、1時間又は30分ごとに定時観測を行い、また気象状況を監視し、それらの情報を管制塔にいる航空管制官や航空会社の運航管理者・パイロットをはじめとする航空関係者へ迅速に通報しています。東京や成田などの国内の主要な9空港では、空港気象ドップラーレーダーにより、雷雨の時などに発生する大気下層の風の急変域(ウィンドシアー)を監視しています。また、東京・成田・関西の各国際空港においては空港気象ドップラーライダーを設置して、降水を伴わない場合の低層のウィンドシアーや、離着陸時に影響する建物・地形による滑走路付近の風の乱れを観測しています。これらにより、離着陸する航空機の安全に影響する低層のウィンドシアーが観測された場合は、ウィンドシアー情報として直ちに管制官を通じてパイロットへ伝達されます。  また、雷監視システムにより雷が発する電波を受信し、その位置、発生時刻などを求めて情報を作成しています。作成した情報は航空会社などに直ちに提供されます。 2 空港の予報・警報に関する情報  航空機の飛行計画を立てる際、出発前に、出発地の空港、目的地の空港、そして天候不良など何らかの理由で目的地の空港に着陸できない場合の代替空港の気象情報が必要となります。このため気象庁は、空港の風や雲の量・高さ、視程(見通せる距離)、天気などの詳細な予報(飛行場予報)を30時間先まで、国際定期便などが運航している37空港に対して発表しています。飛行場予報は、国内外の航空会社の運航管理者・パイロットをはじめとする航空関係者へ提供し、運航計画などに利用されています。また、飛行場予報を発表している空港において、強風や大雪などにより地上の航空機や空港施設及び業務に悪影響を及ぼすおそれがある場合、「飛行場警報」を適宜発表し、航空関係者に対して警戒を促しています。  このほか、航空管制官やパイロットなどの航空関係者に対して、各空港や航空路上の気象状況や今後の予想について口頭で解説などを行っています。 3 上空の気象状況に関する情報 ア.空域の気象情報  飛行中の乱気流や火山灰との遭遇、機体への落雷や着氷の発生は、航空機の運航の安全性と快適性に大きく影響します。気象庁は、このような大気現象について日本や北西太平洋上空の監視を行い、雷電、台風、乱気流、着氷及び火山の噴煙に関する観測・予測情報を「シグメット情報」として随時発表しています。また、約6時間先のジェット気流の位置や悪天域を図によって示した「国内悪天予想図」や、悪天の実況を解説した「国内悪天解析図」を提供して、運航計画の支援を行っています。  さらに、平成26年(2014年)には、小型機の安全と効率的な運航の支援を主な目的として、下層空域の悪天を対象とした「下層悪天予想図」の提供を開始しました。 イ.航空路火山灰情報  火山灰は、航空機のエンジンに吸い込まれるとエンジンが停止したり、機体前面に衝突すると操縦席の風防ガラスが擦りガラス状になり視界が利かなくなったり、飛行場に堆積すると離着陸ができなくなるなど、航空機への影響は多岐にわたります。このため航空機の安全な運航を確保するうえで、火山灰の情報は大変重要です。  気象庁は国際民間航空機関(ICAO)からの指定を受けて、東京航空路火山灰情報センター(東京VAAC)を運営しています。同センターでは、東アジア及び北西太平洋における火山噴煙の状況を監視し、火山灰の分布に関する観測・予測情報(航空路火山灰情報)を国内外の航空関係者に提供しています。 4 航空関係者に利用される航空気象情報  気象庁は、空港内などで業務を行っている航空関係者に対して、空港の気象観測の結果や予報、上空の風や気温、悪天の予想図などの気象情報を提供しています。空港の観測値や予報などの航空気象情報は、国内外の航空関係者に提供しているほか、主要な空港や空域の気象情報は、飛行中の航空機に対して、短波放送や国土交通省航空局の無線通信(対空通信)などを通じて提供しています。また、日本の空の交通を計画的に管理する業務を行っている航空局航空交通管理センター(福岡市)では、管制官と同じ運用室で、気象庁の航空交通気象センターの予報官が、管制官などに対して航空交通管理のために必要な気象情報の提供や解説を行っています。さらに、平成26年(2014年)に、航空交通気象センター首都圏班を東京国際空港内に設置し、過密化する首都圏周辺の空域に関する詳細な気象情報の提供を開始しました。 5 より精度の高い予測を目指して  東京国際空港では、平成22年(2010年)に新滑走路の供用及び国際定期便の運航がそれぞれ開始され、首都圏空域における航空機の交通量は、ますます増加しています。  ひとたび東京国際空港が強風や雷雨、積雪などによって着陸ができなくなるような気象状態となった場合、多数の航空機が空中で待機することとなり、日本全体の航空機の運航に影響を及ぼすため、航空関係者からは、これまで以上に詳細で精度の高い気象情報が求められています。このため気象庁は、平成20年度から首都圏空域など交通量が過密な空域の気象情報のさらなる高度化を図る目的で、より緻密な数値予報モデル(第2章参照)の開発に取り組んできました。この技術開発の成果を、平成24年から運用を開始した航空気象予報用スーパーコンピュータに取り込み、首都圏空域を中心とした領域を対象にこれまでより詳細な気象情報の提供を開始しました。今後は対象領域を日本全体に拡大するなど、更なる高度化を図ります。 6 ISO9001品質マネジメントシステムの導入  航空気象業務は、国際民間航空機関(ICAO)や世界気象機関(WMO)による国際的な要求事項や利用者からの要求事項を満たした気象観測や予報などを行う必要があります。このため、気象庁では平成22年(2010年)4月から航空気象部門にISO9001に基づく品質マネジメントシステムを導入して、航空気象情報の適時適切な提供を継続するとともに、利用者の満足度向上を目指した活動を行っています。 5 民間の気象事業  気象等の現象は、国民の生活に密接にかかわっており、交通、電力、農業、食品や衣料品販売等様々な産業に影響を与え、国民及び産業界には気象情報に対する幅広いニーズが存在しています。このような個々のニーズに応えるため、民間気象事業者では幅広い気象サービスの提供を行っています。また、近年では、高速インターネットやスマートフォンをはじめとする携帯端末の普及等、情報通信技術の目覚ましい発展と相まって、多くの国民が、情報を一方的に受けるだけでなく、自らの判断で必要とする情報を入手できるようになってきました。このような情報通信技術の進展に伴い、国民及び産業界のニーズは、今後、より多様化・個別化することが見込まれることから、民間気象事業者の役割はますます重要になっています。  ここでは、民間気象事業者による適切な気象サービスの提供を支える、予報業務の許可制度や気象予報士制度について解説するとともに、民間気象事業者の活動を支援するために気象庁が行なっている取り組みについて紹介します。 ○予報業務の許可制度  民間気象事業者のサービスは、創意工夫により様々な取り組みがなされていますが、サービスを利用する国民の側からみると、その精度や提供主体の技術力について判断することは困難です。このため、民間気象事業者が、気象や波浪、地震・火山等の現象の予報業務を行おうとする場合には、警報等の防災気象情報との整合性や、国民の期待する「正確な気象情報の提供」を確保できるよう、気象庁長官の許可が必要です。 ○気象予報士制度  予報の精度は、現象の予想をどのような方法で行うかに左右されます。気象や波浪等の現象の予想には、数値予報資料の解釈など高度な技術を要することから、民間気象事業者が気象などの予報業務を行う際には気象予報士に現象の予想を行わせることが義務付けられており、これにより民間が行う予報の一定の技術水準を担保しています。国家資格である気象予報士になるためには、業務に必要な知識及び技能について試験を行う気象予報士試験に合格し、気象庁長官の登録を受ける必要があります。気象予報士には平成27年4月1日現在、9,326人が登録されています。また、気象予報士は、民間気象事業者が行う予報業務の中核となる技術者としてだけでなく、報道等を通じた解説や防災関係者・一般住民を対象とした講演会等、様々な場面で防災知識の普及・啓発にも貢献しています。  なお、地震動と火山現象、津波の予報業務を行うときは、技術上の基準に適合した手法で現象の予想を行うことを義務づけることにより、予報の一定の技術水準を担保しています。 ○民間気象事業者等に対する支援  気象庁は、自らが保有する観測・解析・予報等の成果及びこれらの作成過程で得られる数値予報資料や解説資料等の気象情報を、民間気象業務支援センターを通じて民間気象事業者等へ提供しています。これら、気象庁の保有する気象情報は、民間気象事業者が行う予報業務の基礎資料となるほか、個別企業や個人のニーズに対応した情報に加工されることによって、産業界の多様な活動や社会サービスの基盤として活用されています。また、数値予報等、気象庁による予測技術の高度化に伴い、民間気象事業者の技術の高度化も益々必要となっていることから、気象庁では、民間気象事業者を対象に最新の技術や気象情報について解説する講習会の開催のほか、民間気象業務支援センターや(一社)日本気象予報士会が行う講習会等への講師派遣などの協力・支援を行っています。 6 地域の防災力向上への取り組み 1 気象台による自治体支援の取り組み  気象庁では、全国の気象台で、気象や地震などの観測・監視、予報・警報や情報の発表・提供、解説などを行っています。  大雨、津波などにより災害の発生が予想される場合、気象台が発表する警報などの防災情報が自治体などの関係機関に迅速かつ確実に伝わることはもとより、情報の受け手がその意味を正しく理解して避難勧告等の発令を適時・的確に判断するなど、適切な防災対応につなげることが被害の軽減のために非常に重要です。  各地の気象台では、自治体が防災に関する計画や避難勧告等の発令基準を定める際に、防災情報の活用方法について個別にアドバイスを行ったり、自治体などの防災担当者に対する説明会や研修などで情報の活用について積極的に説明を行っています。また、大雨等により災害の発生が危惧される場合には、自治体などの防災関係機関に対して気象状況の事前説明や、事態の推移によっては自治体に直接連絡して気象状況や今後の見通しを積極的に伝えるなど、気象台が持つ危機感を共有していただけるよう取り組んでいます。 2 住民への安全知識の普及啓発・気象情報の利活用推進に関する取り組み ア.「地域防災力アップ支援プロジェクト」  気象庁では、これまでも住民等を対象とした出前講座や講演会、リーフレットやDVDの作成・配布など、様々な普及啓発活動に取り組んできました。平成23年3月の東日本大震災などの近年の災害をきっかけとして、住民等への自助・共助意識の啓発や防災教育の重要性が政府の有識者会議などで報告されています。このことを踏まえ気象庁では、様々な機関と連携・協力しながら、安全知識の理解や気象情報の利活用をより効果的に推進するための様々な取り組みを「地域防災力アップ支援プロジェクト」として進めています。  気象庁では、今後も関係機関と連携しながら、気象や地震などの自然現象に対して住民自らの判断で的確な防災行動がとれるような風土・文化が醸成されることを目指して、安全知識の普及啓発に取り組んでいきます。 コラム 「関係機関と連携した普及啓発」取り組み例 安全知識の普及啓発に向けた気象庁との取り組み 一般社団法人 日本気象予報士会 代表理事・会長 酒井 重典  日本気象予報士会は現在、約3,300名の気象予報士で構成されています。本会は、平成22年度から気象庁と共同で、「局地的大雨からの被害軽減に向けた取り組み(通称:防災プロジェクト)」を全国で展開し、これまでに約250件の防災出前講座を実施してきました。さらに、気象庁が平成26年度に作成したワークショップ「経験したことのない大雨 その時どうする?」の運営協力も各地で行っています。また、平成15年から気象庁内の気象科学館において、土曜日・日曜日・祝日に案内員のボランティアを行っています。その他、夏休みに全国の気象台で開催しているお天気フェアに会員が参加し、気象実験や気象クイズで来場者との交流を図っています。  本会は、今後もこれらの取り組みを全国で継続し、更なる発展を目指していくことで、安全知識の普及啓発を図り、会の活動目的の一つである社会貢献に寄与していきたいと考えています。 コラム 「地域防災力アップ支援プロジェクト」取り組み例 「防災教育モデル実践事業」で学校の防災力を上げる~鹿児島地方気象台との連携~ 鹿児島大学地域防災教育研究センター 教育部門長 特任教授 岩船 昌起  様々な自然災害が頻発する南九州から南西諸島における防災力の向上のため、本センターでは、災害調査研究以外にも、地域と連携して防災教育や災害警戒避難対応等に取り組んでいます。鹿児島地方気象台とは諸会議等での協同を通じて“顔がみえる関係”にあり、鹿児島県教育委員会「防災教育モデル実践事業」(文部科学省「実践的防災教育総合支援事業」委託)では、平成24・25年度に霧島市と志布志市、平成26年度に奄美市と東串良町に共に赴き、モデル校で地震・津波・火山噴火・豪雨・山地崩壊等による災害の解説や警戒避難対応への助言を行い、かつ地域住民向けのシンポジウムを開催しました。本事業を通じて、モデル校の児童・生徒や教職員の防災意識が高まり、保護者や地域住民も避難訓練に積極的に参加する等、学区全体での“災害への備え”が強化されています。今後、諸機関と連携して事業を継続推進し、鹿児島県全学校の防災力の向上を目指します。 イ.より効果的な取り組みへの発展に向けて  気象庁では、「地域防災力アップ支援プロジェクト」として全国の気象台で進めている数ある取り組みの中で、多くの官署で参考となる取り組みについて発表し、防災・教育・報道・広報の各専門家から助言や講評などをいただくための「ミーティング」を平成24年度から実施しており、平成26年度は平成27年1月20日に開催しました。 【専門家(五十音順、敬称略)】   防災分野 静岡県 危機管理監兼危機管理部長 岩田 孝仁   報道分野 時事通信社 解説委員 中川 和之   広報分野 (株)電通PR コミュニケーションデザイン局アドバイザリー委員室        エグゼクティブ・アドバイザー 花上 憲司   教育分野 東京都板橋区教育委員会 学校防災・安全教育専門員        鎌倉女子大学 講師 矢崎 良明  ミーティングでは「民間団体と連携した気象庁ワークショップの利用拡大」「広域機関と連携した地域防災力の向上」「ケーブルテレビとの連携」など8例について、取り組みを実施している気象台から概要、工夫した点などのアピールポイント、成果や課題、今後の取り組み展開などについて発表を行いました。  専門家からは、「毎回、取り組みが深くなってきており、活動の積み重ねで効果が表れてきている」、「気象庁が全国で防災に取り組んでいることは本当に心強い」、「多くの団体と結びつく相乗効果により良い連携関係が表れている」といった評価のほか、「特定の学校の教師や生徒だけでなく、横のつながりを活用して地域に広がるように進めることが重要」、「取り組みを行うだけでなく地域に広がるためにはマスコミなどを活用した情報発信が大事」、「メディアを活用した取り組みはそれだけで終わらせず、地域防災力アップに相乗効果を持たせるような活動と組み合わせることが有効」など多くの助言をいただきました。これら助言を踏まえ、今後のより効果的な取り組みへの発展や新たな展開に繋げていきます。 ウ.気象庁ワークショップ 「経験したことのない大雨 その時どうする?」 災害から身を守るためには、気象台から発表する警報や注意報等といった防災情報のタイミングや意味等を体系的に理解し、積極的に入手して利活用することが必要です。また、自宅周辺にある危険箇所の有無や住居の構造、家族構成等によっても必要な対応が異なるため、それぞれの状況に応じて、災害から身を守るための行動のシミュレーションを行うことが有効です。  気象庁では、グループ内での議論を中心としたコミュニケーションを活用し、深い理解を導くための能動的な手法として「気象庁ワークショップ 今まで経験したことのない大雨そのときどうする?」(以下「ワークショップ」という。)を開発し、学校や自主防災組織等で実施いただくための運営マニュアルをホームページ※で公開して普及を図っており、平成27年3月にはより使いやすいように改訂を行いました。  参加者は大雨による災害の種類と危険性、気象台から発表される防災情報の意味や発表のタイミング、入手方法、安全知識等のレクチャーを受けた後、数人のグループに分かれ仮想の街で大雨が降り続く中、気象台が発表する防災情報を活用してグループ毎に違う状況(周辺地形、住居構造、家族構成等)に応じた安全行動について話し合ってまとめます。  平成26年度は、各地の気象台に加えて、学校や教育委員会、日本赤十字社・日本気象予報士会等の団体、地方公共施設等によって自主的に開催され、全国で50回以上のワークショップが開催されました。参加者から「日頃の準備と家族の話し合いが必要と痛感した」、「ワークショップの経験から早めの行動を鉄則として今後に活かしたい」などの感想が聞かれ、アンケート結果からはワークショップに参加する前後で安全知識や防災対応力が向上するなど効果が認められました。  一つの地域にとって大規模な災害がおきる程の大雨の発生頻度は多くありませんが、発生した時には甚大な被害を伴うため、今後も各地の気象台や学校、自治体等での実施拡大を図り、長期的な取り組みとして地域防災力のアップを支援することとしています。 ※ http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jma-ws/manual.html コラム 気象庁ワークショップ 「経験したことのない大雨 その時どうする?」〜学校での気象庁ワークショップの活用と効果〜 東京学芸大学附属高等学校 教諭 田中 義洋  高校ではなかなかグループでの議論は成立しにくいものです。しかし、気象庁ワークショップを活用すると、具体的な場面で考えていくため、お互いに意見を出しやすく、自然と活発な議論に発展していきます。また、このワークショップを経験すると、生活している地域の特性や万一の際の備えなどを考えていくようになります。まさに、生徒の防災力を高めるには最適な方法です。そして、保護者を巻き込めば、大人を含めて、地域ぐるみで防災力を向上することができます。しかも、詳細なシナリオ、ワークシート、進行の仕方など、必要な物すべてがパッケージ化されていますので、教員一人で容易にワークショップを実施できます。理科の授業でも、総合的な学習の時間でも、実践可能です。現在、話題になっているアクティブ・ラーニングを具現化する教材ともいえます。全国の多くの学校で実践され、防災意識を高めるきっかけとなることを期待しています。 コラム 防災啓発ビデオ「急な大雨・雷・竜巻から身を守ろう!」  積乱雲は「急な大雨」「雷」「竜巻」などの激しい現象を引き起こし、これらの現象によって毎年のように死傷事故が起きています。このことから、気象庁では、これらの現象から身を守る方法を知っていただくため、防災啓発ビデオ「急な大雨・雷・竜巻から身を守ろう!」を公開しています。  ビデオは、「これはあぶない!被害編」(6分)と「これなら安全!解説編」(12分)の2部構成となっています。  「被害編」では、晴天に油断した子供達が突然の落雷や竜巻などに次々と巻き込まれてしまいます。ビデオを視聴することで、なぜ子供達は危険な目にあってしまったのかを考えるきっかけを提供します。  また、「解決編」では、被害編と同じドラマを再現しながら、積乱雲が近づいてきたサインがどこにあったのか、どうすれば身を守れるのかをCG博士が実験映像とともに解説します。  本ビデオは気象庁ホームページ※で公開しているほか、各地の気象台によるDVDの貸出も行っていますので、皆様のご家庭や地域、学校などで是非ご活用ください。 ※ http://www.jma.go.jp/jma/kishou/fukyu_portal/index.html コラム 地震による被害を軽減するため ~「阪神・淡路大震災から20年」特設サイトを開設~  地震による被害を軽減するためには、地震が発生した際に、状況を正しく判断し、的確な防災行動をとることが重要です。  気象庁では、阪神・淡路大震災の発生から20年を機に、当時を振り返り、今後の地震に適切に備えていただくために必要な防災知識等をまとめた特設サイト「阪神・淡路大震災から20年」※を開設しました。  特設サイトでは、当時の状況を伝える情報として、震度等の観測データや余震回数、気象庁が伝えた情報、被害状況の写真、調査報告書等を掲載しています。  さらに、緊急地震速報や津波警報など各種情報の利活用方法など、地震に備える知識に関する情報もご覧になれます。皆様が地震対策を考えていただく際に、この特設サイトをご活用ください。 ※http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/1995_01_17_hyogonanbu/index.html 2章 気象業務を高度化するための研究・技術開発 1 大気・海洋の予測を支える数値予報技術 1 数値予報とは  警報・注意報や各種の天気予報では、目先の大気の状態から明日・明後日やさらに先の大気の状態を予測する必要があります。大気や海洋の現象は物理や化学の法則に基づいて起きていますので、この法則を用いて「今」の大気などの状態から「将来」を予測することが原理的には可能です。この手法は「数値予報」と呼ばれ、気象庁の予報業務の根幹をなす技術となっています。数値予報は、大気や海洋・地表面での様々な振る舞いを物理や化学の法則で表現したコンピュータのプログラムを必要とします。このプログラムを「数値予報モデル」といい、予測の精度を向上させるため開発や改良が進められてきました。また、数値予報モデルを予報業務に使うには、膨大な計算を短時間に処理する必要があり、このため気象庁では昭和34年(1959年)に我が国の官公庁として初めて科学計算用のスーパーコンピュータを導入し、以来、常に世界最高レベルのコンピュータに更新しています。数値予報モデルは、予測する期間の長さや対象領域などに応じて様々な種類がありますが、いずれも、大気や海洋を水平方向・鉛直方向に格子状に区切り、それぞれの格子での気温や風、湿度などの将来の状況を予測します。 2 数値予報モデルの現状 ○全球モデル、メソモデル、局地モデル  気象庁で運用している数値予報モデルにはいくつかありますが、このうち主なものとしてまず「全球モデル」があります。「全球モデル」は、地球全体を対象領域として大気の状態を予測する数値予報モデルです。気象庁では、全球モデルを、短期予報(明日・明後日の予報)、週間天気予報や1か月予報、航空路や海上予報など地球上の広い領域を対象とする予報に利用しています。一般に予報時間が長くなるとともに誤差が大きくなります。このため週間天気予報や1か月予報では、「アンサンブル予報」という手法を用いて複数の予報を計算し、確率による予報なども行っています。「メソモデル」は、日本周辺を対象として大雨や暴風などの災害をもたらす積乱雲の集団などの現象の予測を行う数値予報モデルで、警報・注意報など防災気象情報の作成や降水短時間予報、飛行場予報などに利用しています。メソモデルでは、計算を行う格子を細かくし、積乱雲の集団に伴う上昇気流や、水蒸気の凝結、雨や雪・あられなど降水粒子の発生・落下など雲の中で発生する現象を精密に取り扱っています。そして「局地モデル」では、メソモデルよりも格子をさらに細かくすることで、地形をよりきめ細かく取り扱うことや、個々の積乱雲を表現することも可能となり、風や気温、及び積乱雲に伴う雷や短時間の強い雨などの予測精度を向上させています。局地モデルは、航空機の安全運航のための気象情報や防災気象情報の作成、降水短時間予報に利用しています。 ○季節予報モデルと長期再解析  1か月を超える時間スケールでは、大気の変動はエルニーニョ・ラニーニャ現象のような海洋の変動の影響を強く受け、逆に海洋の変動は大気の影響を受けます。このため、3か月予報、暖・寒候期予報やエルニーニョ現象の予測には、大気と海洋を一体として予測する大気海洋結合モデルを使用しています。  異常気象の分析を含めた気候の監視や季節予報を的確に行うためには、過去の気候を出来るだけ正確に把握しておく必要があります。この目的で、過去数十年にわたって蓄積した観測データを、最新の数値予報技術を用いて解析し直す「長期再解析」により、過去の気候を再現する高精度の気候データを作成し、気候の監視や季節予報に活用しています。平成18年に完了した長期再解析JRA-25(1979年以降の解析)に替わるものとして、その後の新たな技術を取り込み、1958年にまでさかのぼって計算を行う長期再解析JRA-55を新たに作成し、平成26年から利用しています。 ○海に関する数値モデル  気象庁では海洋の様々な現象を予測するために、「波浪モデル」、「高潮モデル」、「海況モデル」及び「海氷モデル」を運用しています。  「波浪モデル」は、海上の風の予測値を用いて、海上の様々な場所での波の発達・減衰やうねりの伝播などを予測し、高波時に発表される波浪警報・注意報や、波浪予報などに利用しています。「高潮モデル」は、台風などによる海面気圧と海上の風の予測値から潮位の上昇量を予測し、この結果をもとに浸水災害がおこるおそれのある場合に、高潮警報・注意報を発表しています。「海況モデル」は、黒潮や親潮に代表される日本周辺の海流や海水温の状態を予測し、海面水温・海流1か月予報に使用しています。「海氷モデル」は、オホーツク海南部の1週間先までの海氷密接度の分布を予測し、海氷予報や船舶向けの海氷予想図に利用しています。 ○物質輸送モデル  気象庁では、大気中の物質の挙動を数式化した物質輸送モデルを用いて地球環境や気候に影響する黄砂、オゾン、二酸化炭素などの監視と予測を行っています。「黄砂予測モデル」は、黄砂発生域での黄砂の舞い上がり、風による輸送・拡散、雨などによる地上への降下を考慮して、大気中の黄砂の量や分布を予測し、黄砂情報に利用しています。「化学輸送モデル」は、オゾンやその生成・消滅にかかわる物質の風による輸送・拡散、雨などによる地上への降下、化学反応や光化学反応による生成・変質・消滅などの過程を考慮して、成層圏及び対流圏のオゾン濃度を予測し、紫外線情報・全般スモッグ気象情報に利用しています。また、東アジア対象の「領域大気汚染気象予測モデル」をスモッグ気象情報に、「二酸化炭素輸送モデル」を過去30年間の大気中の二酸化炭素分布情報の作成に利用しています。 3 数値予報の技術開発と精度向上  高い精度の防災気象情報や天気予報を作成するためには、その基礎となる数値予報技術の向上が不可欠です。  数値予報は、1で述べたスーパーコンピュータの性能向上を背景に、数値予報モデルの開発改良によって目覚ましい進歩を遂げてきました。下図は、過去約20年間の全球モデルの予測誤差(北半球5日予測の精度)の変化です。数値予報モデルの予測誤差が3分の2に減少するなど、予測精度は大きく向上していることがわかります。この間、モデルの分解能の向上や物理過程の改良、初期値を作成する技術の改善、気象衛星などによる新たな観測データの利用開始など、多くの技術の進展がありました。気象庁では、数値予報のさらなる精度向上を図るため、次のような開発課題への取り組みを続けています。  予測技術の観点からは、規模の小さい大気現象を予測するために計算を行う格子の間隔を細かくすること(高解像度化)が必要です。しかし、格子の間隔を細かくすると計算量が大きく増えるため、計算に要する時間が長くなります。一方で、防災気象情報や天気予報で用いる資料とするためには、所定の時間内に計算を終了させる必要があります。このため、膨大な数の格子での計算を高速化する方法や、大気中の雨や雲の状態を精度良くかつ効率的に計算する方法の開発に取り組んでいます。  また、数か月以上先の予測には、大気だけでなく海洋の影響が大きくなることから、大気と海洋を同時に取り扱う数値予報モデルの開発・改良を進めています。  さらに、世界中から様々な観測データを集めて「今」の大気の状態を精度よくコンピュータの中に再現するための技術(これを「データ同化技術」と言います。用語集参照)の開発も併せて行っています。特に、気象観測衛星をはじめとする人工衛星、航空機、ウィンドプロファイラ、ドップラーレーダーなどから刻々と送られてくるデータをより有効に利用する手法の開発・改良に重点的に取り組んでいます。  数値予報は、気象の警報・注意報や天気予報を発表するうえで、今や欠かせない存在となっています。数値予報がこのような気象業務の根幹をなす技術となったのは、先に述べたように、気象学の進歩により現象のメカニズム解明が進んだことや、スーパーコンピュータの性能が大幅に向上したことに加え、気象庁が、計算技術やモデルの改良といった数値予報技術の開発に精力的に取組んできた成果です。今後も、我が国で培ってきた優れた技術を発展させ、数値予報の精度向上、気象情報の改善に役立てていく必要があります。  現在、気象庁では目的に応じた様々な数値予報モデルを運用しています。しかし、それぞれのモデルに用いられる技術は日々進化し高度化していきますので、モデルの運用や改良を効率的・効果的に行うためには、モデル間で共通する課題はできるだけまとめて解決することが必要です。例えば、モデルの技術基盤を共通化することができれば開発にかかる資源を集中させることができ、そこでえられた最新の開発成果を様々な目的の数値予報モデルに効果的に反映させることや、モデルを共通化することが可能になります。このような「基盤モデル」の構築、そして、明日、明後日の天気予報から季節予報まで、様々な時間スケールの現象をひとつのモデルで予測する、いわゆる「シームレス」なモデル開発に向けた取り組みも続けています。  スーパーコンピュータの性能も日進月歩で向上しています。将来はさらに分解能が高く計算量の多い数値予報モデルを業務的に使うことができると見込まれています。モデルの分解能を高めることにより実現できる数値予報技術のひとつに、積乱雲の再現があります。積乱雲の集団は台風をはじめとする熱帯域の気象擾乱の発生・発達、アジアモンスーンに伴う梅雨前線の活動に重要な役割を果たしています。このため、熱帯域やアジアモンスーン領域を含む全球モデルを、積乱雲を再現できるよう高解像度化することにより、例えば2週間以上先の台風の発生や強度、熱帯域やアジアモンスーンの変動、及びその影響としての日本付近の大気の状態がより的確に予測出来るようになることが期待されます。積乱雲を再現できる高解像度の全球モデルについては現在研究が進められており、気象庁では、計算コストや業務的に使用する場合の安定性、大気現象の表現の的確さなど様々な観点から、その導入に関する調査を進めています。 4 地球温暖化予測  IPCC第5次評価報告書は、平成26年(2014年)秋までに順次公表されましたが、これに向けて地球温暖化予測実験や、予測の不確実性の低減、その要因の理解をめざした研究が世界中で行われてきました。  気象研究所でも、最新の大気モデルと海洋モデルを結合して新たに開発した気候モデルに、これまでの気候モデルで扱ってこなかったエーロゾル、オゾン、陸域生態系及び海洋生物の効果を表現するモデルを組み合わせた地球システムモデルを開発しました。このモデルを用いた温暖化予測実験の結果や、海洋観測データを同化した10~30年先の近未来予測の結果は、IPCC第5次評価報告書に貢献しました。アジアをはじめとした地域的な気候表現をさらに高精度にするモデル開発をおこなっており、温暖化への中期的な適応策に資することが期待されます。  さらに、日本の詳細な温暖化予測を可能とする高解像度の地域気候モデルを開発し、温暖化予測を通じて我が国の温暖化対策へ貢献していきます。 2 新しい観測・予報技術 1 水蒸気量の時間・空間分布を把握する手法の開発  集中豪雨をもたらす積乱雲の発生・発達には、大気下層(地表面から数百メートルの範囲)における水蒸気の供給メカニズムが密接に関連していることが、最新の研究により判明してきました。大気下層の水蒸気量の時間・空間分布を観測することにより、気象災害をもたらす集中豪雨の予測精度の向上が期待されています。 ア.GPS(全球測位システム)等測位衛星による水蒸気解析の高度化  米国のGPSに代表される測位衛星群から送信される電波が地上の受信機までに届く時間は、大気中の水蒸気や気温、気圧により変化します。この性質を利用し、電波が送信されてから受信されるまでに要する時間と衛星軌道の情報等を用いることで、受信機の上空にある水蒸気量を算出することができます。気象庁では、国土地理院が地殻変動の監視等のための電子基準点として全国約1,200地点に設置した受信機のデータを用いて、水蒸気量の解析を行い、天気予報に利用しています。  周囲を海に囲まれている日本列島では、海上から流入する大量の水蒸気によって集中豪雨が発生しやすく、これにより甚大な気象災害がもたらされていることから、海上の水蒸気量の把握は重要な課題です。気象研究所では、GPSに加え、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の準天頂衛星やロシアのGLONASS衛星を利用し、海洋気象観測船に設置した測位衛星の受信機を用いて高精度に海上の水蒸気量を解析する手法を開発しています。  また、日本の真上だけでなく、それぞれの衛星に向けた方向の水蒸気量の情報を活用することにより、観測点周囲の水蒸気量の分布を従来よりも詳細に解析する手法を開発しました。この手法により、平成24年(2012年)5月6日につくば市に甚大な被害をもたらした竜巻の親雲周辺では、数キロメートルという狭い範囲で大きく水蒸気量が変化している様子を解析することができました(下図)。こうした狭い範囲内での水蒸気量の顕著な変化は、積乱雲内の活発な上昇流、下降流の存在を反映していると考えられ、災害をもたらす積乱雲の監視に貢献することが期待されます。 イ.気象ドップラーレーダーの電波の位相情報を利用した水蒸気量の把握手法の開発  気象研究所では、気象ドップラーレーダーから発射し、ビル等の固定物に反射して戻ってきた電波がもつ情報から、大気下層における水蒸気量の空間分布を把握する手法の開発を進めています。気象ドップラーレーダーは、雨や雪の粒により反射された電波を利用して、雨や雪の強さやその移動速度を観測するものです。これまでは、ビルなどの固定物により反射された電波は、雨や雪の観測に悪影響を及ぼすノイズであると考えられていました。しかしながら、電波の経路上にある大気中の水蒸気などの影響によって電波の進行速度がわずかに遅れる性質があり、レーダーとの距離が不変であるビルなどの固定物から反射してきた電波を用いると電波の遅れを精度よく求めることができるため、これを用いて水蒸気量の空間分布が求められるという利点があることがわかりました。多くの固定物があれば高分解能な水蒸気量分布を得ることができ、局地的大雨の発生予測への活用が期待できます。 ウ.ライダーによる水蒸気量を把握する手法の開発  ライダーは、レーザー光を利用した測定装置で、大気下層の水蒸気の鉛直分布を連続的に観測することができる新たな測器として注目されています。  水蒸気を観測するライダーには、大きく分けて2つの種類があります。ひとつは、大気中に1つの波長のレーザー光を放射し、窒素と水蒸気の分子に衝突して散乱される際に生じる分子固有の波長の光(ラマン散乱光)を利用した「ラマンライダー」と呼ばれる方法で、もう一つは水蒸気に吸収されやすいレーザー光と吸収されにくいレーザー光の2つの波長のレーザー光を用い、水蒸気による光の吸収の差を利用する「差分吸収ライダー」と呼ばれる方法です。ラマンライダーは、基礎的な技術は確立してはいますが、十分な性能を得るためには大型の装置となること、散乱される光が微弱なために日中の観測可能高度が夜間よりも低下すること、定期的に校正が必要となることなどの課題があります。一方、差分吸収ライダーは、ラマンライダーのような課題はありませんが、現状では送信光を生成するレーザーに求められる技術水準が高く、定常的な観測に耐えうるレーザーの開発に比較的長い時間がかかると考えられます。  気象研究所では、ラマンライダーの小型化を進めて研究観測が可能な装置を製作し、この装置を用いた観測と数値予報モデルとを組み合わせ、下層水蒸気が局地的な豪雨の予測を向上させることを実証するための研究を行っています。差分吸収ライダーについては、ピーク出力は低いが長期間安定した出力光が得られる小型のレーザー光源を用いて、十分な高度分解能を確保できる新しい方式のライダーの研究開発に取り組みます。新しい方式のライダーは、ラマンライダーの課題を解消できるだけでなく、これまでに開発されてきている差分吸収ライダーと比べても小型化やコストダウンができる可能性があり、現業観測により適した装置の開発につながると期待されています。 2 新しい静止気象衛星「ひまわり8号」の観測データ利用技術の開発  気象庁は、現行の静止気象衛星「ひまわり7号」の後継機として、「ひまわり8号」を平成26年10月に打ち上げました。同衛星は、平成27年7月頃から運用を開始する予定です。「ひまわり8号」に搭載した高性能のカメラは、これまで以上に、大気や地表面から放出される様々な波長の光や赤外線を捉えることができるようになります。また、衛星から見える地球の全範囲を10分ごと、日本域やあらかじめ指定された領域を2.5分ごとの高い頻度で撮影することが可能となり、画像の分解能も2倍に向上します。気象庁では、この新しい衛星観測画像を、気象の実況監視、数値予報、気候・環境監視等で利用するための技術開発を続けています。  その一例として、上空の風の分布をよりきめ細かく精度良く算出するための技術開発があります。「ひまわり」は静止軌道上に位置しているため、同一領域の大気の状態を連続して観測することができます。雲の移動は風によって引き起こされるため、連続した衛星画像から雲の移動量を解析することで、上空の風向・風速を算出することができます。この風の分布は、気象の観測所が存在しない地域や海上においても雲があれば算出できるため、数値予報における重要なデータとなっています。「ひまわり8号」の高頻度・高分解能・多波長の画像を活用すれば、上空の風について「ひまわり7号」よりも高い頻度、高い密度、多様な高度、高い精度で算出することができるようになります。下に示す例では、「ひまわり7号」(左図)で上空の風が算出できない所でも、「ひまわり8号」(右図)では算出可能になっていることが分かります。「ひまわり8号」から求めた上空の風の分布の活用により、数値予報の精度向上が期待されています。 3 地震・津波、火山に関する技術開発 1 地震災害軽減のための技術開発  気象研究所では、緊急地震速報を、より早く、より正確に発表するための技術開発を行っています。現在運用している方法は、一旦震源に立ち戻って地震の発生位置と規模(マグニチュード)を推定し、それに基づいて各地の震度を予測する方法ですが、新しい方法として、地震の揺れが伝わってくる様子(揺れの分布)からまだ揺れていない場所での揺れを予測する方法を開発しています。さらに、長周期の地震動にも対応できるよう研究を行っています(図)。  また、地震の規模などを大地震発生直後にできるだけ正確に把握するため、震度分布などから地震の規模や震源域の広がりを推定する手法や、地震データと地殻変動データを組み合わせて地震の規模、断層面の向きやすべり量を推定する手法の開発を行っています。 2 津波警報・注意報の発表・解除に関する技術開発  津波警報・注意報の発表や解除の精度を向上させるためには、津波の発生源をより精度よく推定するとともに、津波が時間とともに広がり、やがて減衰する様子を詳細に把握することが必要です。また、東北地方太平洋沖地震による津波観測データの解析により、GPS波浪計や、更に沖合に設置している海底津波計のデータが、沿岸に到来する津波を精度よく予測する上で極めて重要であることが確認され、現在沖合津波観測網の拡充が進められています。  これらを踏まえ、気象研究所では、津波警報の更新の精度の向上を図るために、沖合でいち早く観測された津波波形データを使って沿岸に押し寄せる津波を即座に精度よく予測するための手法の開発を行っています。また、日本から遠く離れた外国で発生した津波(遠地津波)に関する大津波警報・津波警報及び注意報を適切なタイミングで解除するため、津波の減衰過程の研究にも取り組んでいます。 3 火山の監視・予測のための技術開発  平成26年(2014年)9月の御嶽山の噴火では、噴き上げられた噴煙の様子が長野レーダーなど、7台の気象レーダーによって捉えられました。これら気象レーダーのデータをもとに詳細な解析を行ったところ、噴煙の広がりや高さが時々刻々と変化していく状況を把握することができ、レーダーによる噴煙の検知の可能性が改めて示されました。  また、火山灰や小さな噴石(火山礫)の分布を数値予報モデルを応用して予測する手法の改良も進めています。平成23年(2011年)1月の新燃岳噴火の事例では、北西からの強い季節風に伴い寒気が流れ込む状況で、風向・風速が時間や高さによって変化していたため、拡散予測が難しい気象条件でした。しかし、このような条件下でも、現在開発中の最新の拡散モデルと、気象レーダーによる時々刻々変化する噴煙の高さの観測データを用いることで、各地の降灰量を精度よく推定できることが分かりました。  気象研究所では、今後も引き続き、気象衛星やレーダーを活用した噴煙監視方法や火山灰・火山礫の拡散モデルの改良を進めることで、平成27年(2015年)3月から運用開始した量的降灰予報(これまでの降灰の範囲の予報に、降灰量の予報を追加したもの)の精度をさらに高めるための研究に取り組んでいきます。 4 大学や研究機関と連携した研究・技術開発  数値予報モデルをはじめとした気象や海洋、地震・火山・津波の監視・予測の技術を向上させるためには、各分野の最先端の知見や研究成果を活用することが必要です。このため気象庁は、国内の大学や研究機関はもとより、諸外国の気象機関などと情報交換や意見交換を行い、研究・技術開発を進めています。  国内の大学や研究機関とは、気象や海洋、地震・火山・津波のそれぞれの分野で合計130余りの共同研究を実施しています。いくつかの共同研究の成果は気象庁で活用されており、例えば、緊急地震速報の実用化も共同研究の成果のひとつです。  気象の分野については、日本気象学会との間で「気象研究コンソーシアム」という研究の枠組みを設けています。「気象研究コンソーシアム」は、気象庁の予測データや気象衛星データを研究者に提供することにより、大学や研究機関における気象研究を促進し、それにより、わが国における気象研究の発展、気象研究分野の人材育成及び気象予測技術の改善を図ろうとするものです。この枠組みのもとで、30余りの研究課題が取り組まれており、気象・気候の予測技術の開発や、現象の解明のための研究が行われています。  数値予報モデル開発に関しては、気象予測や数値シミュレーションのための数値予報モデルを利用する研究者に、気象庁が実際の予報に用いているモデルを貸与し、数値予報技術を用いた研究を促進しています。また、「気象庁数値モデル研究会」を開催し、大学や研究機関の研究者との交流を図っています。平成27年3月に開催した第8回気象庁数値モデル研究会では、多くの専門家の参加により、数値予報を用いた衛星観測シミュレーションやデータ同化手法について議論を行いました。  気候の分野では、猛暑や豪雪等の社会・経済に大きな影響を与える異常気象が発生した場合に、その発生要因について最新の科学的知見に基づく分析結果を発表するため、大学や研究機関の専門家と連携して分析を行う「異常気象分析検討会」を設置しています。最近では、「平成26年8月豪雨」が発生するなど西日本を中心に記録的な多雨・寡照となった平成26年8月の不順な天候について、検討会でその要因を分析し、見解をまとめました。 3章 気象業務の国際協力と世界への貢献  日々の天気予報や警報・注意報の的確な発表のためには、全世界の気象観測データや技術情報の相互交換など国際的な協力が不可欠です。気象庁を含む世界各国の気象機関は、世界気象機関(WMO)等の国際機関を中心とした連携体制や、近隣諸国との協力関係を構築しています。 1 世界気象機関(WMO)を通じた世界への貢献  WMOは、世界中の気象等の観測とデータの収集、配布を促進し、また気象や気候の情報を改善させることなどを任務として活動している国際連合の専門機関の一つです。気象庁は、WMOの構成員として、国際会議への専門家の派遣、国際的なセンター業務を担当するなど、活発に活動しています。 2 国連教育科学文化機関(UNESCO)を通じた世界への貢献  UNESCO政府間海洋学委員会(IOC)は、世界気象機関(WMO)とも協力し、各国の海洋に関する科学計画の調整を行っています。気象庁は、海洋・津波分野での技術的貢献をしています。 1 北東アジア地域海洋観測システム地域リアルタイムデータベース  日・中・韓・露が協力し、北東アジア域の海洋、海上気象データの収集、解析、提供を行っています。 2 津波の警報に関する国際協力  北西太平洋で発生した地震によって起きた津波情報を各国に提供するとともに、各国からの情報を収集して国内の津波防災情報に役立てています。 3 国際民間航空機関(ICAO)を通じた世界への貢献  ICAOは国連の専門機関の一つであり、国際民間航空の健全な発達のために設立されました。気象庁は、ICAOが主催する航空気象に関する会合に積極的に参加し、航空気象業務の国際的な統一基準の策定や高度化に向けた検討に参画しています。また、ICAOの指定を受けて、東京航空路火山灰情報センター、熱帯低気圧情報センター等の国際的なセンター業務を担当し、世界の航空機の安全運航に貢献しています。 4 国際的な技術開発・研究計画との連携  気象業務の充実・改善のためには、数値予報モデルの開発・改良に代表される技術開発が不可欠です。気象庁は、各国と協力して様々な国際的な研究計画を進めています。  とりわけ地球温暖化問題については、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の活動に対し、昭和63年(1988年)の設立以来、気象研究所の研究者が評価報告書の執筆者として参画しているほか、気候モデルによる地球温暖化予測をはじめとする研究成果が評価報告書に盛り込まれる等、積極的に貢献しています。 5 開発途上国への人材育成支援・技術協力について  開発途上国の国家気象機関の技術向上のための支援は、その国の防災活動の強化につながる重要な活動であるだけでなく、精度ある観測データが地球全体で充実することを通じて、日本国内の予報精度の向上にもつながります。  気象庁は、開発途上国の国家気象機関の職員を対象に、気象業務の改善のための集団研修を国際協力機構(JICA)とともに40年以上にわたって実施してきました。研修生の多くは現在、世界各国の気象機関において指導的な立場で活躍しています。また、WMOや各国個別の要請に応じて、気象等の観測、解析、予報に関する分野で気象庁職員を専門家として派遣し、また、各国国家気象機関等から研修生を受け入れています。 第2部 最近の気象・地震・火山・地球環境の状況 1 気象災害、台風など 1 平成26年(2014年)のまとめ  平成26年(2014年)は、2月には、発達した低気圧の影響で、関東甲信地方や東北地方を中心に大雪、北日本では暴風雪となったほか、7月には、台風第8号及び梅雨前線の影響で、沖縄地方を中心に大雨となり、台風から離れた地域でも局地的に猛烈な雨が降ったところがありました。また、7月末から8月にかけて、台風第12号、台風第11号、前線及び暖かく非常に湿った空気の影響で「平成26年8月豪雨」と命名した豪雨が発生したほか、9月には、大気不安定の影響で北海道で大雨となりました。 2 平成26年(2014年)の主な気象災害  発達した低気圧による大雪及び暴風雪  2月13日に発生した低気圧が、前線を伴って、発達しながら本州の南岸を北東へ進み、16日には三陸沖に達しました。その後、低気圧はさらに発達しながら北海道の東海上に進み、19日にかけて千島近海でほとんど停滞しました。  この低気圧の影響で、西日本から北日本にかけての太平洋側を中心に広い範囲で降雪となりました。特に、関東甲信地方及び東北地方では、14日夜から15日を中心に降雪が強まり、記録的な大雪となったところがありました。また、15日から19日にかけて、北日本を中心に大雪や暴風雪となりました。  2月13日から19日までの最深積雪は、山梨県甲府市甲府で114cm、群馬県前橋市前橋で73cm、埼玉県熊谷市熊谷で62cmとなるなど、統計期間が10年以上の観測地点のうち、北日本と関東甲信地方の18地点で、最深積雪の観測値が統計開始以来の観測史上1位を更新しました。山梨県甲府市甲府や群馬県前橋市前橋では、年最深積雪の平年値の7倍を超える積雪となりました。  この大雪と暴風雪により、落雪や倒壊した構造物の下敷きになるなどして、岩手県、秋田県、群馬県、埼玉県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、宮崎県であわせて死者26名となったほか、九州から北海道にかけての広い範囲で住家損壊等が発生しました。また、停電、水道被害、電話の不通、道路の通行不能、鉄道の運休、航空機の欠航等の交通障害が発生したほか、ビニールハウスの倒壊や農作物の損傷などの農業被害も発生しました。特に関東甲信地方を中心に、道路への積雪や雪崩等による車両の立ち往生や、交通の途絶による集落の孤立が、複数の都県にわたって発生しました。(被害状況は、平成26年3月6日19時現在の非常災害対策本部の情報による) 台風第8号及び梅雨前線による大雨及び暴風  7月4日3時にマリアナ諸島付近で発生した台風第8号は、8日には大型で非常に強い勢力で沖縄本島と宮古島の間を北上しました。その後、九州の西海上で進路を東寄りに変え、10日7時前、鹿児島県阿久根市付近に上陸しました。台風第8号は、本州南岸を東に進み、11日9時に福島県沖で温帯低気圧に変わりました。また、梅雨前線が6日から11日にかけて、西日本から北日本に徐々に北上しました。  この間、沖縄本島地方では記録的な大雨となったほか、台風周辺の湿った南風と梅雨前線の影響で、台風から離れた地域でも局地的に猛烈な雨が降ったところがありました。また、台風の接近に伴い、沖縄・奄美や九州南部を中心に暴風となり、沖縄地方では猛烈な風を観測したところがありました。  7月6日から11日までの総降水量は、宮崎県えびの市えびので535.0mm、鹿児島県さつま町紫尾山で471.5mm、沖縄県名護市名護で457.5mmとなるなど、沖縄地方や九州地方、東海地方で400mmを超えました。最大1時間降水量は、沖縄県読谷村読谷で96.5mmを観測するなど、沖縄地方や九州地方、四国地方で、1時間に80mm以上の猛烈な雨を観測したところがありました。また、統計期間が10年以上の観測地点のうち、最大1時間降水量について4地点、最大3時間降水量について8地点、最大24時間降水量について5地点で、この大雨による観測値が統計開始以来の観測史上1位を更新しました。  7月6日から11日の間の最大風速は、沖縄県渡嘉敷村渡嘉敷で35.3m/s、愛媛県伊方町瀬戸で27.1m/sを観測するなど、沖縄地方で猛烈な風を観測したほか、九州南部・奄美地方から伊豆諸島にかけての太平洋側を中心に非常に強い風を観測しました。  この台風第8号及び梅雨前線により、土砂災害、浸水害、河川の氾濫等が発生し、長野県の土砂災害による死者1名など、愛媛県、長野県及び福島県で合わせて死者3名となりました。また、沖縄県や新潟県、山形県で合わせて浸水家屋1,000棟以上の被害となるなど、各地で床上・床下浸水や、土砂災害による家屋損壊等の住家被害が生じました。さらに、停電、電話の不通、水道被害、鉄道の運休、航空機・フェリーの欠航等の交通障害が発生したほか、沖縄県では防波堤の倒壊・破損等の被害が生じました。(被害状況は、平成26年7月22日現在の内閣府の情報及び平成26年7月14日現在の国土交通省の情報による) 平成26年8月豪雨  7月31日から8月11日にかけて、台風第12号及び台風第11号が相次いで日本列島に接近し、8月5日から26日にかけて、前線が日本付近に停滞しました。また、7月30日から8月26日の期間を通じて、日本付近への暖かく非常に湿った空気の流れ込みが継続しました。  これらの台風や前線等の影響で全国各地で連日大雨となりました。また、台風第12号、第11号が接近・上陸した沖縄・奄美や西日本を中心に暴風となりました。  7月30日から8月26日までの総降水量は、高知県香美市繁藤で2377.5mm、和歌山県古座川町西川で1172.0mm、宮崎県えびの市えびので1141.5mmとなるなど、九州地方や四国地方、近畿地方で総降水量1000mmを超える大雨となりました。最大1時間降水量は広島県広島市三入で101.0mmを観測するなど、九州地方から東海地方にかけて、1時間に80mm以上の猛烈な雨を観測したところがありました。また、統計期間が10年以上の観測地点のうち、最大1時間降水量について20地点、最大3時間降水量について25地点、最大24時間降水量について26地点、最大48時間降水量について33地点、最大72時間降水量について22地点で、この大雨による観測値が統計開始以来の観測史上1位を更新しました。  台風第12号が接近した7月31日から8月1日の間の最大風速は、鹿児島県奄美市笠利で29.7m/s、沖縄県うるま市宮城島で24.3m/sなど、沖縄・奄美で非常に強い風を観測しました。また、台風第11号が接近・上陸した8月6日から11日の間の最大風速は、高知県室戸市室戸岬で42.1m/s、和歌山県和歌山市友ケ島で36.6m/s、沖縄県北大東村北大東で32.3m/sを観測するなど、沖縄地方や四国地方、近畿地方で猛烈な風を観測したほか、九州南部・奄美地方から東海地方を中心に非常に強い風を観測しました。  この大雨や暴風等により、土砂災害、浸水害、河川の氾濫等が発生し、甚大な被害となりました。台風第12号や台風第11号では、徳島県、山口県、島根県、和歌山県及び愛知県で死者6名の人的被害となり、四国地方を中心に全国各地で7,000棟を超える住家被害が生じました。また、8月15日頃からの前線による大雨では、福岡県、兵庫県、京都府、石川県、北海道で合わせて死者8名の人的被害となり、京都府や兵庫県を中心に、全国各地で8,000棟を超える住家被害が生じました。さらに、8月19日から20日にかけては、広島県広島市で発生した土砂災害により、死者74名の人的被害が生じました。また、停電、電話の不通、水道被害のほか、鉄道の運休、航空機・フェリーの欠航等の交通障害が発生しました。(被害状況は、非常災害対策本部及び内閣府の情報(平成26年11月6日現在)、国土交通省の情報(台風第12号・第11号について平成26年8月19日現在、8月16日から続く大雨等について平成26年11月5日現在)による)  7月30日から8月26日にかけて各地に甚大な被害をもたらした大雨について、気象庁は「平成26年8月豪雨」と命名しました。 大気不安定による北海道の大雨  9月9日から12日にかけて、上空の寒気の影響で大気の状態が非常に不安定となったため、雷を伴って猛烈な雨が降りました。特に北海道では記録的な大雨となったところがありました。  9月9日から12日までの総降水量は、北海道千歳市支笏湖畔で380.0mmとなるなど、9月の月降水量の平年値を上回る大雨となったほか、最大1時間降水量が北海道苫小牧市苫小牧で100.0mmとなるなど、猛烈な雨を観測しました。  この大雨の影響により、北海道石狩地方や胆振地方を中心に土砂災害や住家浸水等が発生しました。また、停電、水道被害のほか、道路の通行不能や鉄道の運休、航空機の欠航等の交通障害が発生しました。(被害状況は、平成26年9月16日17時30分現在の北海道の情報による) 3 平成26年(2014年)の台風  平成26年(2014年)の台風の発生数は平年より少ない23個(平年値25.6個)でした。日本への接近数は平年並の12個(平年値11.4個)でした。上陸数は平成16年(2004年)に10個上陸した後は3個以下で推移していましたが、平成26年(2014年)は台風第8号、第11号、第18号、第19号の4個(平年値2.7個)と平年を上回りました。 2 天候、異常気象など 1 日本の天候  平成26年(2014年)は、全国的に、気温の高い日が続く時期があったものの、気温の低い時期もあり、年平均気温は平年並となりました。北日本と東日本では、春と秋を中心に、移動性高気圧に覆われて晴れる日が多かったため、年間日照時間が多く、かなり多くなったところもありましたが、低気圧や台風によるまとまった降水が度々あったため、年降水量も平年を上回りました。一方で、西日本では、夏に台風や前線等の影響で曇りや雨の日が多かったため、年間日照時間が少なく、年降水量は平年を上回りました。また、大きな災害をもたらした天候として、2月の関東甲信地方における記録的な大雪と7月末から8月にかけての全国的な大雨(平成26年8月豪雨と命名)が挙げられます。  平成26年(2014年)の各季節の特徴は以下のとおりです。 ① 冬(平成25年12月~平成26年2月)は、気温は全国的に周期的に変動しましたが、東日本と沖縄・奄美では寒気に覆われることが多く、冬の平均気温は低くなりました。一方で、上空の強い寒気の南下は一時的だったことから、日本海側の降雪量は平年を下回ったところが多く、特に北陸地方の平地では平年を大きく下回りました。また、2月には低気圧が発達しながら日本の南岸を通過したため、太平洋側では広範囲で大雪となり、関東甲信地方を中心に過去の最深積雪の記録を大幅に上回る記録的な大雪となり、人的被害とともに農業施設や社会設備にも大きな被害が発生しました。 ② 春は、沖縄・奄美を除いて、移動性高気圧に覆われる日が多く、春の日照時間は、東日本日本海側、東日本太平洋側、西日本日本海側では、統計を開始した昭和21年以降最も多くなりました。また、春の降水量は、北日本日本海側と西日本では少なくなりました。東・西日本では、寒気が南下して低温となる時期もありましたが、南から暖かい空気が流れ込んで、気温が平年を大幅に上回る時期があったことから、春の平均気温は高くなりました。沖縄・奄美では、冷涼な高気圧や寒気の影響を受けて気温の低い日が多く、春の平均気温は低くなりました。 ③ 夏は、梅雨の時期(6月から7月半ばにかけて)は、前線の活動が本州付近では弱く、降水量も少ないところが多くなりました。一方で、7月末から8月にかけては、太平洋高気圧の本州付近への張り出しが弱く、2つの台風と前線や湿った気流の影響で広い範囲で大雨となり、各地で洪水や土砂崩れ、広島県では土石流による甚大な災害が発生しました(「平成26年8月豪雨」と命名)。西日本では、夏の平均気温が平成15年以来11年ぶりに低く、冷夏となり、日照時間もかなり少なく、不順な夏となりました。一方で、日本の東海上で高気圧が強く、高気圧周辺の南からの暖かい空気が流れ込んだ影響で、北日本と東日本の夏の平均気温は高く、5年連続の暑夏となりました。 ④ 秋は、北日本から東日本にかけて、移動性高気圧に覆われる日が多く、秋の日照時間は、東日本日本海側と東北地方では統計を開始した昭和21年以降最も多くなりました。北日本と東日本では、平成22年から4年連続で秋の平均気温が高い年が続いていましたが、9月を中心に大陸からの冷たい空気を伴った高気圧に覆われる日が多かったため、秋の平均気温は5年ぶりに平年並となりました。沖縄・奄美では、太平洋高気圧の勢力が平年より強かったため、9月に記録的な高温となるなど、秋の平均気温がかなり高くなりました。また、秋の降水量はかなり少なく、先島諸島では渇水が深刻化しました。 2 世界の主な異常気象  日本では7月30日から8月26日にかけて各地で大雨に見舞われ(「平成26年8月豪雨」)、土砂災害などにより全国で80人以上が亡くなりました(図中①)。アフガニスタン北部では4~6月に洪水や地すべりが発生し、死亡者数は750人を超えました(同⑧)。また、インド、ネパール、パキスタンでも7~9月を中心に洪水や地すべりが発生し、夏のモンスーン期間中の死亡者数がそれぞれ1,000人以上、250人以上、360人以上となるなど(同⑦)、各地で大雨により大きな気象災害が発生しました。  マレーシアからインドネシア、アフリカ西部、マダガスカル北部及びその周辺、カリブ海周辺など低緯度域の各地では、年の後半に異常高温を多く観測しました(同⑥⑫⑬⑱)。  米国中西部及びその周辺で1~3月、7月、11月に異常低温となり(同⑮)、一方、米国南西部からメキシコ北西部にかけてはほぼ1年を通して異常高温となりました(同⑰)。米国のミシガン州デトロイトでは1~3月の3か月平均気温が-5.8℃(平年差-4.9℃)、カリフォルニア州サンフランシスコでは2014年の年平均気温が16.7℃(平年差+2.2℃)でした。また、米国南西部では前年(2013年)から引き続く干ばつにより、森林火災や農業被害が伝えられました(同⑯)。カリフォルニア州ロサンゼルスの2014年の年降水量は213mm(平年比66%)でした(2013年の年降水量は95mm(平年比30%))。  なお、災害の記述は、米国国際開発庁海外災害援助局とルーベンカトリック大学災害疫学研究所(ベルギー)の災害データベース(EM-DAT)や各国の政府機関・国連機関の発表等に基づいています。 3 平均気温  平成26年(2014年)の世界の年平均気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)の昭和56年(1981年)~平成22年(2010年)の30年平均を基準とした偏差(図の注参照)は+0.27℃(20 世紀平均を基準とした偏差は+0.63℃)で、明治24年(1891年)以降、最も高い値となりました。世界の年平均気温は、長期的には100年当たり約0.70℃の割合で上昇しており、特に1990年代半ば以降、高温となる年が頻出しています。  平成26年の日本の年平均気温の昭和56年(1981年)~平成22年(2010年)の30年平均を基準とした偏差は+0.14℃(20世紀平均を基準とした偏差は+0.74℃)で、明治31年(1898年)以降、18番目に高い値となりました。日本の年平均気温は、長期的には100年当たり約1.14℃の割合で上昇しており、特に1990年代以降、高温となる年が頻出しています。 4 海面水温  平成26年(2014年)の世界の年平均海面水温の平年差(昭和56年(1981年)~平成22年(2010年)までの30年平均値からの差)は+0.20℃で、統計を開始した明治24年(1891年)以降、最も高い値となりました。世界の年平均海面水温は、数年から数十年に及ぶ時間スケールの海洋・大気の変動や地球温暖化等の影響が重なりながら変化していますが、長期的には100年あたり0.51℃の割合で上昇しています。数年から数十年の時間スケールでは、1970年代半ばから2000年前後にかけて顕著な上昇が見られた後、近年は停滞しています。2014年に統計開始以降最も高い値となったことから、近年の停滞が終息するかどうか注目されています。  平成23年(2011年)春にラニーニャ現象が終息した後、エルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生しない状態が続いていましたが、平成26年(2014年)には太平洋赤道域の中部から東部にかけてのエルニーニョ監視海域の海面水温が春から基準値より高い値で推移し、夏から冬にかけてエルニーニョ現象が発生しました。世界の年平均海面水温の平年差の最高記録更新には、このエルニーニョ現象の発生も寄与していたと考えられます。  日本近海の海面水温は、1~2月は東海沖で、2~3月は沖縄の南で平年よりかなり低くなりました。3~5月は日本の東から南の広い範囲で平年より低く、4~5月の北緯35度以南では平年よりかなり低い海域が広がりました。6~7月は北緯28~33度で平年より低く、日本海、日本の東では高くなりました。8月は、父島近海、南鳥島近海、北海道東方で平年よりかなり高く、東シナ海北部では平年より低くなりました。9月は東海沖、関東南東方では平年より低く、北緯30度以南では平年よりかなり高くなりましたが、10月には北緯35度以南の広い範囲で平年よりかなり低くなりました。 5 大気中の二酸化炭素  二酸化炭素は、各種の温室効果ガスの中で地球温暖化に最も大きな影響を与えます。大気中の二酸化炭素の濃度は、工業化(18世紀後半)以前の過去約2000年間は278ppm程度でしたが、その後の産業活動などによる化石燃料の消費や森林破壊などの人間活動に伴って、世界的に増加の一途をたどっています。年ごとの増加量には変動があるものの、世界平均の二酸化炭素濃度は平成15年(2003年)から平成25年(2013年)までの10年間では、1年あたり2.1ppm増加しています。平成25年(2013年)の世界平均の二酸化炭素濃度は396.0ppmでした。緯度帯別の二酸化炭素月平均濃度の経年変化を見ると、北半球の中・高緯度帯の方が南半球よりも大きな季節変動をしており、また年平均濃度も高くなっています。これは、二酸化炭素の吸収源(森林など)・放出源(化石燃料消費など)がどちらも北半球に多く存在するためです。  気象庁は二酸化炭素をはじめとする様々な温室効果ガスの濃度を観測するとともに、世界気象機関(WMO)温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)を運営し、世界中で観測された温室効果ガスのデータを収集・解析しています。 6 温室効果ガスとしてのハロカーボン類  クロロフルオロカーボン類のCFC-11,12,113について、温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)が収集した世界各地の観測所の観測結果を平均した経年変化図。ppt(ピーピーティー)は1兆分の1を意味します(体積比)。  冷媒や溶剤として20世紀中ごろから大量に生産・消費されたハロカーボン類は強い温室効果を持っています。大気中の濃度はとても低いものの、物質によっては同濃度の二酸化炭素の数千倍の温室効果をもたらします。その中でもクロロフルオロカーボン類(CFCs、いわゆるフロン)はオゾン層破壊の性質も合わせ持っており、国際条約(「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」:1987年採択)による規制のため現在は生産されていません。綾里(岩手県)や世界各地の観測結果からは規制の成果が見られ、大気中の濃度は近年ゆるやかに減少しています。 7 海洋中の二酸化炭素  海洋は、人間活動により放出された二酸化炭素の約3分の1を吸収していると見積もられており、地球温暖化の進行を緩和しています。気象庁の海洋気象観測船「凌風丸」と「啓風丸」は、昭和59年(1984年)から30年以上にわたって北西太平洋で表面海水中と大気中の二酸化炭素濃度を観測しています。東経137度線に沿った日本の南から赤道域までの海域においては、毎年冬季(1~2月)に表面海水中の二酸化炭素濃度が大気中の濃度より低いことが観測されており、海洋が大気中の二酸化炭素を吸収しています。また、北緯7度から33度で平均した二酸化炭素濃度は、昭和59年(1984年)から平成26年(2014年)まででみて、大気中で1年に1.8ppm、表面海水中で1年に1.6ppmの割合で増加しています。 8 オホーツク海の海氷  オホーツク海の海氷域面積は、平成26年(2014年)12月以降おおむね平年より小さく推移し、シーズンの最大海氷域面積は昭和46年(1971年)の統計開始以来最も小さい67.48万平方キロメートルで、平年の58%でした。  一方、オホーツク海南部では海氷域はほぼ平年より早く南下し、網走の流氷初日(海岸から流氷が観測された最初の日)は平年より9日早い1月12日、流氷接岸初日は平年より14日早い1月19日でした。また、網走の海明け(海氷の占める割合が5割以下になり船舶の航行が可能になった最初の日)は平年より17日早い3月3日、流氷終日は平年より34日早い3月8日で、昭和21年(1946年)の統計開始以来最も早い記録となりました。なお、稚内と釧路では流氷が観測されませんでした。  オホーツク海の海氷域面積は年ごとに大きく変動していますが、最大海氷域面積は昭和46年(1971年)の統計開始以来、10年当たり6.0万平方キロメートル(オホーツク海の全面積の3.8%に相当)の割合で緩やかに減少しています。 3 地震活動 1 日本およびその周辺の地震活動  平成26年(2014年)に震度5弱以上を観測した地震は9回(平成25年は12回)、震度1以上を観測した地震は2,052回(平成25年は2,387回)でした。11月22日に発生した長野県北部の地震をはじめ、国内で被害を伴った地震は7回(平成25年は10回)でした。また、日本及びその周辺で発生した地震でマグニチュード6.0以上の地震は15回(平成25年は20回)でした。  主な地震活動は下図及び次ページの表のとおりです。 2 世界の地震活動  平成26年(2014年)に発生したマグニチュード7.0以上または死者(行方不明者を含む)を伴った地震は26回(平成25年は28回)でした。また、マグニチュード8.0以上の地震は1回(平成25年も1回)でした。最も規模の大きかった地震は、4月2日にチリ北部沿岸で発生したMw8.1の地震でした。海外の地震により日本で津波を観測した地震は2回、4月2日にチリ北部沿岸で発生したMw8.1の地震、6月24日にアリューシャン列島ラット諸島で発生したMw7.9の地震でした。  主な地震活動は表のとおりです。 4 火山活動  平成26年(2014年)の日本の主な火山活動は以下のとおりです。なお、平成27年に入り噴火警戒レベル等を変更した火山は、平成27年5月6日現在の状況も掲載しています。そのほかの最新の火山活動のとりまとめについては、気象庁HPに掲載している火山活動解説資料をご覧ください(http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/monthly_v-act_doc/monthly_vact.htm、または、「気象庁火山活動解説資料」を検索)。 ○雌阿寒岳(北海道)  火山活動は概ね静穏に経過しており、火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候は認められません。全磁力連続観測によると、ポンマチネシリ96-1火口南側の地下で温度の上がった状態が継続している可能性があります。 ○十勝岳(北海道)  十勝岳では、ここ数年、山体浅部の膨張や大正火口の噴煙量増加及び地震増加、火山性微動の発生、発光現象などが観測されており、火山活動が徐々に高まってきています。また、平成26年7月頃から、62-2火口に近い観測点で山体浅部の膨張を示すと考えられる地殻変動の変化率が大きくなっており、膨張がさらに浅い領域にまで及んでいる可能性があります。このため、今後、ごく小規模な噴火の発生する可能性が高まっていると判断し、12月16日14時00分に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを1(平常※)から2(火口周辺規制)に引き上げました。なお、平成27年2月24日には、火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候は認められなくなったため、噴火警戒レベルを1に引き下げました。 ○八甲田山(青森県)  「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」以降増加していた八甲田山周辺の地震は、平成26年2月頃から少ない状況で経過しました。平成25年(2013年)4月から7月にかけて増加した大岳山頂直下の地震活動は、低調ながら継続しています。GNSS連続観測では、火山活動によると考えられる変化は認められませんでした。 ○十和田(青森県、秋田県)  平成26年1月に一時的に中湖付近の深さ4~7㎞を震源とする地震活動が活発になりましたが、2月以降は概ね低調に経過しました。 ○蔵王山(宮城県、山形県)  火山性微動が16回発生した他、深部低周波地震が増加した状況が継続しています。火山性微動に対応した傾斜変動も観測され、8月以降、火山活動の高まりがみられています。10月の山形大学による調査では、御釜の東側湖面の一部に白濁が確認されました。なお、平成27年4月7日から御釜付近が震源とみられる火山性地震が増加し、今後、小規模な噴火が発生する可能性があることから、4月13日に火口周辺警報を発表し、噴火予報(平常※)から火口周辺警報(火口周辺危険)に引き上げました。 ○吾妻山(福島県)  12月12日06時21分頃に継続時間(約35分)の長い火山性微動が発生し、火山性微動発生後、火山性地震が増加しました。傾斜計では、火山性微動発生と同時に火口方向上がりの変動がみられました。このことから、吾妻山の火山活動は活発化しており、今後、小規模な噴火が発生する可能性があると判断し、12日15時00分に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを1(平常※)から2(火口周辺規制)に引き上げました。  火山性地震は、10月以降、やや多い状況で経過していましたが、12月7日からは増減を繰り返しながら多い状況で推移しています。震源はこれまでと同様に大穴火口直下付近の浅い所と推定されます。GNSS連続観測では、9月頃から一切経山南山腹観測点(大穴火口の北約500メートル)が関係する基線で緩やかな変化がみられており、一切経山付近の膨張を示唆している可能性が考えられます。 ○草津白根山(群馬県)  3月上旬から湯釜付近及びその南側を震源とする火山性地震が増加し、GNSS連続観測によると湯釜付近の膨張を示す変動が認められています。湯釜火口内の北壁等では熱活動の活発な状態が継続しており、5月頃からは湯釜近傍地下の温度上昇を示すと考えられる全磁力変化がみられました。また、東京工業大学によると、北側噴気地帯のガス成分にも活動活発化を示す変化がみられています。以上のことから、小規模な噴火の発生する可能性が高まっていると判断し、6月3日に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを1(平常※)から2(火口周辺規制)に引き上げました。 ○御嶽山(岐阜県、長野県)  9月27日11時52分頃、御嶽山で噴火が発生しました。火砕流は南西方向に約2.5キロメートル流下しました。気象レーダーの観測によると、噴煙は東に流れ、その高度は火口縁上約7,000メートルと推定されています。このため、同日に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを1(平常※)から3(入山規制)に引き上げました。また、28日に火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)を切り替え、火砕流への警戒を追加しました。御嶽山で噴火が発生したのは平成19年(2007年)以来です。なお、その後火山活動が低下してきていることから、平成27年1月19日、3月31日に火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)を切り替え、規制範囲を順次縮小しています。 ○箱根山(神奈川県、静岡県)  平成26年の火山活動は静穏に推移しました。平成27年4月26日から大涌谷付近を震源とする火山性地震が増加しており、5月5日には箱根湯本で震度1を観測する地震が3回発生しました。また傾斜計で地震活動に関連するとみられる変動が観測されていること、現地調査で大涌谷温泉施設で蒸気が勢いよく噴出していることを確認し、大涌谷周辺に影響を及ぼす小規模な噴火が発生する可能性があるとみられることから、5月6日に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを1(平常※)から2(火口周辺規制)へ引き上げました(平成27年5月6日現在)。 ○伊豆大島(東京都)  7月下旬に、島北部を震源とする火山性地震が増加しました。この期間に震度1以上を観測する地震が17回発生し、最大の地震は7月28日17時05分に発生したマグニチュード3.7の地震で、島内で最大震度3を観測しました。また、8月16日及び9月3日に三原山付近を震源とする火山性地震があり、島内で震度1を観測し、10月24日及び同月29日から30日にかけて、伊豆大島の西部を震源とする火山性地震が増加しました。 ○三宅島(東京都)  山頂火口からの二酸化硫黄放出量は、平成26年は1日当たり200~400トンと、やや少量の火山ガス放出が継続しました。火山性地震は少ない状態で経過しました。 ○硫黄島(東京都)  地震活動は、一時的な火山性地震の増加や火山性微動の発生はみられましたが、概ね低調に経過しました。GNSS連続観測によると、地殻変動は平成26年(2014年)2月下旬頃から隆起の傾向、9月頃から停滞の傾向がみられていましたが、12月上旬頃から再び隆起の傾向となりました。島の南部では南向きの変動がみられています。その他の観測データに特段の異常は認められません。 ○西之島(東京都)  平成25年(2013年)11月20日に海上自衛隊及び海上保安庁により南東海上での噴火が確認された西之島では、噴火による噴石等の堆積や溶岩の流出が継続し、引き続き島の拡大が確認されています。今後も噴火が続くおそれがあるため、6月3日に火口周辺警報を発表し、火口周辺警報(火口周辺危険)から火口周辺警報(入山危険)に引き上げました。また、6月11日に火口周辺警報(入山危険)及び海上警報を切り替え、警戒が必要な範囲を西之島の中心から概ね6キロメートル以内と明示しました。なお、平成27年2月24日に火口周辺警報(入山危険)を切り替えて、警戒が必要な範囲を島の中心から概ね4キロメートルに縮小しました。 ○阿蘇山(熊本県)  平成25年(2013年)12月20日から火山活動が高まった状態となり、平成26年1月13日から2月19日まで、中岳第一火口でごく小規模な噴火が時々発生しました。それ以降、火山活動は低下したことから、3月12日に噴火予報を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(平常※)に引き下げました。  7月17日には、中岳第一火口内の湯だまりが消失しているのを確認しました(湯だまりの消失は平成5年(1993年)2月25日以来)。8月下旬から孤立型微動や火山性地震が次第に増加し、中岳第一火口底の温度も、8月27日には498℃と高くなるなど、火口内の熱活動も高まった状態となりました。  8月30日には、中岳第一火口の噴火を確認したことから、中岳第一火口の火山活動は高まった状態になっていると判断し、8月30日09時40分に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを1(平常※)から2(火口周辺規制)に引き上げました。11月25日以降、断続的に噴火しました。 ○霧島山(新燃岳)(宮崎県、鹿児島県)  新燃岳では、噴火は発生しませんでした。火山性地震は少ない状態で経過しました。火口内の溶岩の状態には、特段の変化は認められませんでした。GNSS連続観測結果によると、新燃岳の北西数キロメートルの地下深くにあると考えられるマグマだまりの膨張は、平成23年(2011年)12月以降鈍化・停滞していましたが、平成25年(2013年)12月頃から伸びの傾向が見られます。二酸化硫黄の放出量は、検出限界以下の量になっています。 ○霧島山(えびの高原(硫黄山)周辺)(宮崎県、鹿児島県)  平成25年(2013年)12月以降、韓国岳付近、韓国岳北東側、硫黄山付近で火山性地震が時々発生しました。平成26年(2014年)8月20日に、硫黄山付近を震源とする継続時間約7分の火山性微動が発生しました。微動の発生に伴い傾斜計で硫黄山の北西が隆起するような変動が観測されました。  これらのことから、えびの高原(硫黄山)周辺では火山活動が高まっており、噴気や火山ガスなどが噴出し、今後の状況によっては小規模な噴火が発生する可能性があると判断し、10月24日に火口周辺警報(火口周辺危険)を発表しました。なお、平成27年5月1日には、噴火の兆候は認められなくなったため、噴火警戒レベルを1(平常※)に引き下げました。 ○桜島(鹿児島県)  昭和火口では爆発的噴火が平成26年は450回発生し、大きな噴石が3合目(昭和火口から1,300~1,800メートル)まで達する等、活発な噴火活動が継続しました。小さな噴石(火山れき)が山麓まで降下する噴火が3回発生し、このうち10月6日の爆発的噴火では、鹿児島市有村町(昭和火口から南側約2.8キロメートル)で最大約3.5センチメートルの小さな噴石が確認されました。  南岳山頂火口では、11月7日に小規模な噴火が発生し、その他の期間もごく小規模な噴火が発生しました。 ○口永良部島(鹿児島県)  8月3日12時24分頃、新岳火口で噴火が発生しました。灰色の噴煙が火口縁上800メートル以上まで上がり、北に流れました。また、山頂火口から数百メートルの範囲に大きな噴石が飛散しました。新岳で噴火が発生したのは昭和55年(1980年)9月以来です。このため、8月3日12時50分に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを1(平常※)から3(入山規制)に引き上げました。  産業技術総合研究所が噴出した火山灰を分析したところ、新鮮なガラス質粒子が少量含まれていることから、今回の噴火にはマグマが関与したと考えられています。今後、マグマが関与した噴火が発生した場合、火砕流が発生する可能性があることから、8月7日10時00分に火口周辺警報(噴火警戒レベル3、入山規制)を切り替え、警戒が必要な範囲を拡大しました。  火山ガス観測では、二酸化硫黄の1日あたりの放出量は、8月3日の噴火以降増加し、12月には1000~1900トンと多い状態となっています。 ※レベル1の「平常」というキーワードは、「活火山であることに留意」に変わる予定です。 ○諏訪之瀬島(鹿児島県)  御岳では、噴火活動は活発な状態で経過し、爆発的噴火は平成26年は49回発生しました。 5 黄砂、紫外線など 1 黄砂  気象庁では、国内60か所(平成27年(2015年)4月1日現在)の気象台や測候所で、職員が目視により大気現象として黄砂を観測しています。統計を開始した昭和42年(1967年)から平成26年(2014年)までに黄砂観測日数が最も多かったのは、平成14年(2002年)の47日です。平成26年(2014年)の黄砂観測日数は10日(平年は24.2日)でした。黄砂観測日数は、昭和42年(1967年)から平成26年(2014年)の統計期間では増加傾向が見られますが、年ごとの変動が大きく、長期的な変化傾向を確実に捉えるには今後の観測データの蓄積が必要です。  日本への黄砂の飛来は、例年3月~5月に集中しています。この時期は、①黄砂発生源となっている地域で砂を覆う積雪がなくなる一方、まだ植物が芽吹いていないため乾燥した裸地となっており、砂じんが舞い上がりやすい状態であること、②砂を舞い上げ、運ぶ強風の原因となる低気圧が通る頻度の高い季節であることから、黄砂が多く飛来します。この時期以外にも、黄砂発生源が乾燥していて上空の風が日本へ向いて吹いているなどの条件がそろえば、日本に黄砂が飛来します。  平成26年(2014年)は、2月から4月にかけては黄砂が観測されませんでしたが、5月末から6月はじめにかけて大規模な黄砂が飛来したため、5月と6月の月別黄砂観測日数は平年を上回りました。 2 オゾン層・紫外線  成層圏のオゾン量は1980年代を中心に札幌、つくばで減少が進みましたが、1990年代半ば以降、那覇も含め緩やかな増加傾向がみられます。南極域では、1980年代初め頃からオゾンホールが観測されています。平成26年(2014年)のオゾンホールは、8月に発生した後、10月1日にこの年の最大面積となる2,340万平方キロメートル(南極大陸の面積の約1.7倍)にまで広がり、12月上旬に消滅しました。大規模なオゾンホールの発生は、毎年継続しています。国内の紫外線量は、紫外線観測を開始した1990年代はじめから緩やかな増加傾向がみられます。一般にオゾン量が減少すると地表に到達する紫外線量が増加しますが、この期間、国内ではオゾン量の減少は観測されていません。紫外線を散乱・吸収する大気中の微粒子の減少や天候の変化(雲量の減少)などが紫外線量の増加の原因と考えられています。 3 日射・赤外放射  気象庁では、日射と赤外放射について地球環境や気候への影響を把握するため国内5地点(札幌、つくば、福岡、南鳥島、石垣島)で精密な日射放射観測を行い、全天日射、直達日射、散乱日射および下向き赤外放射の経年変化を監視しています。  世界の多くの地域における全天日射量は、1960年頃から1980年代後半まで減少し、1980年代後半から2000年頃まで急激に増加し、その後は大きな変化が見られないという傾向が報告されています。  日本における変化傾向(国内5地点平均)を見ると、1970年代後半から1990年頃にかけて急激に減少し、1990年頃から2000年代初めにかけて急激に増加し、その後は大きな変化は見られません。これは、世界的な変化傾向とほぼ整合しています。