はじめに  平成23年3月11日に発生した「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」(東日本大震災)により、我が国は死者・行方不明者が2万人近くに及ぶ未曾有の被害に見舞われました。ここに、お亡くなりになられた方々のご冥福を心からお祈りするとともに、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。  東北地方太平洋沖地震では、東北地方から関東地方にかけて広い範囲で気象官署及び観測網も大きな被害を受けました。このため気象庁においても、業務の継続と復旧に向け努力いたしました。本年の「気象業務はいま2011」では、特集1として、東北地方太平洋沖地震への対応についてご紹介いたします。  東北地方太平洋沖地震は、我々が気象業務を推進していく上で、多くの重要な課題を浮き彫りにしました。特に地震・津波情報の発表については、気象庁として持ち得る技術や知見を投入したものの、地震の規模が余りにも大きく、十分に力が及ばなかったことも事実であり、地震規模の推定、津波警報の切替、緊急地震速報の精度低下など様々な課題を残しました。これらの課題に早急に対応するとともに教訓や経験を将来に活かし、気象業務を発展させていくことが、今後の我々の使命と考えております。  また本書では、特集2として、当庁が提供する様々な情報の基盤となる観測システムや観測機器について紹介するとともに、第1部で様々な気象情報や技術開発等の状況などを、第2部では昨年の気象災害や地震、火山活動、異常気象などを紹介しています。国民の皆様が、当庁の取り組みに関してより一層御理解いただき、当庁から提供する様々な情報を各分野で更に御活用いただくことを願っています。 平成23年12月26日 気象庁長官 羽鳥 光彦 特集1 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震 1 地震・津波の概要 (1)概要  平成23年3月11日14時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の地震が発生し、宮城県栗原市で震度7、宮城県、福島県、茨城県、栃木県の4県37市町村で震度6強を観測したほか、東日本を中心に北海道から九州地方にかけての広い範囲で震度6弱?1を観測しました。国内観測史上最大の地震であり、世界的に見ても1900年以降に発生した地震のなかで4番目に大きな地震となりました。  この地震(津波及び余震を含む)により、死者16,019人、行方不明3,805人、全壊家屋118,621棟などの甚大な被害を生じました(10月11日現在、総務省消防庁による)。  気象庁はこの地震を「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」(英語名:The 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake)と命名しました。  この地震に伴い、巨大な津波が発生しました。福島県相馬の津波観測施設で高さ9.3メートル以上、宮城県石巻市鮎川の津波観測施設で高さ8.6メートル以上など、東北地方から関東地方北部の太平洋側を中心に、非常に高い津波を観測しました。  また、この津波は太平洋全体に伝わり、南米チリでも2メートルを超える津波を観測するなど、太平洋沿岸諸国に影響しました。  気象庁は、地震波を最初に検知してから8.6秒後、宮城県、岩手県、福島県、秋田県および山形県に緊急地震速報(警報)を発表しました。  さらに、地震発生から約3分後の14時49分に岩手県、宮城県、福島県の沿岸に津波警報(大津波)を、北海道から九州にかけての太平洋沿岸と小笠原諸島に津波警報(津波)、津波注意報を発表しました。その後、津波警報、津波注意報の範囲を拡大する続報を順次発表し、3月12日03時20分には日本の全ての沿岸に対して津波警報、津波注意報を発表しました。 (2)地震活動の状況  「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」(マグニチュード9.0)は、東北・関東地方をのせた陸のプレートとその下に沈み込む太平洋プレートとの境界で発生した地震です。岩手県沖から茨城県沖までの広い領域で陸のプレートと太平洋プレートの間のすべりが生じ、最大で30メートル以上すべった領域がありました。  この地震の余震は、岩手県沖から茨城県沖の北北東−南南西方向に延びる長さ約500キロメートル、幅約200キロメートルの領域で発生しています。9月30日現在、最大余震は3月11日15時15分に発生したマグニチュード7.6の茨城県沖の地震(最大震度6強)で、この地震を含めてマグニチュード7.0以上の余震は6回、マグニチュード6.0以上は95回、マグニチュード5.0以上は566回発生しています。この余震活動に加えて、3月12日3時59分に長野県北部(マグニチュード6.7)、3月15日22時31分に静岡県東部(マグニチュード6.4)で最大震度6強を観測する地震が発生するなど、余震域の外側でも地震活動が高まりました。  気象庁は、3月13日から、余震活動の見通しについて、余震発生確率として発表しました。最大震度5強以上の余震が計算当日からの3日間に発生する確率は、当初70%と高い確率でした。その後次第に低くなりつつも依然として強い揺れとなるような余震が発生しています。引き続き定期的に、余震活動の見通しや防災上の留意事項等を発表しています(9月30日現在)。 (3)現地調査  気象庁では、全国各地で津波による被害や津波の到達状況および地震動による被害状況について現地調査を実施しました。  海岸付近での津波の痕跡調査では、岩手県沿岸で16メートル以上の津波があったことが確認されました。また、北海道から四国にいたる太平洋沿岸各地で数メートル以上の痕跡高が見られました。  なお、気象庁が実施した痕跡調査結果は、大学、研究機関等が行った痕跡調査結果とともに、土木学会が中心となって組織された「東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ」によりとりまとめられ、公表されています。  「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」により発生した巨大な津波は、東北地方の太平洋沿岸地区で多くの施設や家屋を流失するなど、各地で甚大な被害を及ぼしました。また、強い揺れが広範囲そして長時間にわたったことにより、地震動による被害が東日本の広い範囲で発生したほか、液状化による被害も発生しました。さらに、地震に伴い地盤沈下が生じた地域の沿岸部では、潮位が高くなる満潮の時間帯を中心に浸水被害も発生しています。 2 観測施設の被害と復旧・強化 (1)潮位・津波観測施設の復旧・強化  気象庁は、潮位・津波の観測のため、青森県から福島県にかけての東北地方の太平洋沿岸の八戸(青森県)、宮古、大船渡(岩手県)、鮎川(宮城県)、相馬、小名浜(福島県)に観測施設を設置しています。また、国土交通省港湾局、海上保安庁、国土地理院などの機関が、それぞれの行政目的のために設置した観測施設のデータも集め、津波や高潮などの監視を行っています。3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴う津波により施設が流失あるいは損傷を受けたのをはじめ、電話回線が不通となったことで、多くの施設の観測データが入手できない状態となり、津波の監視が困難となりました。また、広い範囲で停電となり、多くのところで一時バッテリによる稼働となりました。なお、一部の地域では停電が長期にわたりました。  気象庁は発災直後から緊急対応をとり、被災地域の施設について状況確認に努めるとともに、関係機関と連携して実況の監視が継続・復旧できるよう作業を進めました。停電でバッテリ稼働となった小名浜検潮所と茨城県の大洗津波観測施設については、数日おきに職員が現地に赴いてバッテリ交換を実施し、給電が再開されるまで観測を継続させました。また、八戸港の海面の状態を監視するためカメラを設置するとともに、第二管区海上保安本部の巡視船に海面の状況に変化があれば知らせてもらう等の措置を取りました。  さらに、被害を受けたものの局舎自体には大きな損傷がなかった大船渡検潮所及び国土交通省港湾局所属の仙台新港検潮所(宮城県)において、電源に太陽電池パネル及びバッテリを、データ伝送に衛星携帯回線を用いた臨時の施設を設置し、それぞれ3月下旬には津波の観測を再開しました。これにより、観測施設の被災によって観測の空白域となっていた岩手県及び宮城県における津波の監視が可能となりました。  また、現地の観測機器に残された津波の観測データの回収を行い、その記録を解析した津波の高さを発表しました。  被災地各県での津波の監視はもとより、地盤沈下した地域の夏の潮位の高い時期や高潮に対する潮位の監視のためにも、従来の観測地点の近傍に臨時の観測施設を設けることとし、各県及び沿岸市町村等の協力を受けて設置地点の選定を行うなど臨時の観測施設の設置を進め、7月29日までに順次潮位及び津波の観測を再開しました。これにより当庁の潮位・津波観測体制は被災前と同じ体制に復旧しました。  今回の震災による観測・監視の中断を教訓とし、長期停電に対応する非常用電源の長時間化、回線障害に対応する衛星回線を用いたバックアップ回線、観測装置を収納しているケース自体の強化など、施設の機能強化を含めた観測体制の強化を早急に行い、平成23年度末までに潮位・津波観測施設の完全復旧を実施することを進めています。  また、津波の実況をさらに早い段階で把握するため、東北地方の太平洋側沖合に海底津波計(ブイ式)を整備する計画です。この海底津波計(ブイ式)は、海底に設置する水圧計と衛星通信を行うための係留ブイで構成され、津波を検知すると直ちに観測データを気象庁本庁へ伝送する方式を検討しています。 (2)地震観測施設の復旧・強化  東日本大震災により、4か所の震度計が水没や液状化により使用できなくなりました。また東北地方を中心に長時間の停電が発生し、観測機器の停止や通信回線(地上回線)の機能停止により、翌日12日には東北地方において地震計19か所・震度計48か所の地震観測・震度観測データが取得できない状態となりました。その結果、余震による震度を十分に把握できなかったり、緊急地震速報の精度の低下が生じました。  このような状態は停電の回復とともに通信回線も含めて順次回復していきましたが、強い揺れを受けた震度計の設置環境で適切な震度観測を続けることができるかを確認するための現地観測点の設置環境調査や、長期間の停電でも観測が継続できるよう、緊急に地震計の予備電源(バッテリ)強化を実施しました。  また機器の障害等により情報発表が出来なくなった気象庁の震度計2か所・自治体の震度計4か所については、その代替として臨時の震度計を設置し(次表)、これらの市町村についての情報発表を再開しています。  以上のように地震計・震度計データが長時間得られなかったことに鑑み、震度計・地震計ともにバックアップ用電源については72時間持続するように強化し、通信回線については気象衛星ひまわりや通信衛星を用いたバックアップ回線の整備を進めています。さらに地震計50か所を新設するなど、地震観測の災害対応能力強化を図っています。 (3)気象観測施設の復旧・強化  今回の地震では、特に東北地方の太平洋沿岸部において多数のアメダス観測所が障害となりましたが、電力や通信回線の復旧に伴い、地震発生から3日後には約8割の観測所が復旧しました。津波等により観測施設そのものが被災したり、電力又は通信回線の復旧が当面見込めない観測所については、ソーラーパネルや携帯電話、衛星回線を活用した可搬型の気象計を職員が設置し、5月までにほぼ全ての地点で観測を再開しました。  また、地震により土砂災害や浸水の危険性が高まった地域の災害を防止し、復旧・復興活動の支援や住民へのきめ細かい気象情報の提供を行うため、臨時のアメダス観測所を設置して被災地の気象観測体制を強化しました。出水期前の6月には、岩手県、宮城県、福島県及び茨城県に合計9か所の雨量観測所を臨時に設置し、そのうち7 地点については、9月に気温、風向・風速の観測要素を追加しました。  このように地上気象観測網の復旧・強化に努める一方、地震や津波等の影響で大きな被害を受けた観測網を補完するため、気象業務法第6条第3項に基づき気象観測施設の設置の届出がされている株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモの毎時観測データについて、今回初めて同条第4項の規定に基づき気象庁への報告を求めることとしました。  気象庁では、この震災での経験を踏まえてより災害に強い観測網を構築するため、広域停電に備えた離島のアメダス観測所の非常電源の強化、きめ細かい降水の監視・予測に非常に有効なドップラーレーダー(秋田、長野、静岡及び名瀬)や大雨等の原因となる「湿った風の流れ」を監視するため地上から上空の風を連続的に観測するウィンドプロファイラ(仙台及び若松)の整備を実施する計画です。 3 被災地域、被災者向け気象情報の提供 (1)気象警報の暫定基準による運用  平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震とその後の余震の揺れの強かった地域では、地震による地盤の緩みによって、通常よりも土砂災害の起こりやすい状態となりました。また、河川堤防などの河川管理施設に地震や津波被害のあった地域では、通常よりも洪水による災害が起こりやすい状態に、防潮堤などの港湾管理施設の被害や地盤沈下のあった沿岸地域では、通常よりも高潮による災害が起こりやすい状態になりました。  このため、地震や津波によって以前より気象災害に弱くなった地域に対して、これまでの警報や注意報の基準を引き下げた暫定基準を設定し、当面の間(災害復旧等が進むまでの間)、この基準により運用しています。 (2)被災地支援 ア.ホームページによる情報提供  情報提供体制を強化するため、気象庁ホームページ内に特設ページ「東日本大震災 ?東北地方太平洋沖地震? 関連ポータルサイト」を開設し、地震回数表や余震の見通し、地震・震度・津波観測点の障害状況などの地震・津波関連資料の他、被災者・復旧担当者支援のための気象情報、輸送支援のための道路・空路・港湾に関連する気象等の情報や、気象警報・注意報、天気予報、雨の状況などへのリンクを一元的に掲載しました。  また、被災地に近い管区・地方気象台では、関係機関の救助・捜索等災害応急活動及び復旧活動等を支援するために、被災地周辺の気象に対するコメントや気象予想等を内容とした「災害時気象支援資料」を作成し、関係機関へ提供するとともに、管区・地方気象台ホームページに掲載しました。 イ.政府及び関係機関との連携 〔緊急災害対策本部・原子力災害対策本部〕  著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合で、当該災害に係る災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときは、内閣総理大臣は災害対策基本法に基づき、自身を本部長とする緊急災害対策本部を設置することができます。本地震では、同法制定後初めて緊急災害対策本部が設置されました。気象庁では、緊急災害対策本部において地震や津波に関する情報及び気象情報の解説等を行い、関連する資料を提供しました。  また、東北地方太平洋沖地震に起因する東京電力福島第一・第二原子力発電所の事故発生を受けて、原子力災害対策特別措置法に基づいて設置された原子力災害対策本部に対して、地震・津波に関する情報、余震の見通し、福島第一・第二原子力発電所付近の気象情報等の資料提供を行いました。 〔政府現地調査団・現地対策本部・現地対策連絡室〕  地震発生直後に宮城県、岩手県及び福島県に派遣された政府現地調査団に、気象庁本庁から各1名の職員を派遣しました。また、宮城県庁に設置された政府現地対策本部、岩手県庁及び福島県庁に設置された政府現地対策連絡室に気象庁本庁や地元の気象台から職員を派遣し、地震活動・余震活動の状況及び気象情報の解説を行うとともに、関係機関との情報共有と連携強化を図っています。  福島第一原子力発電所事故に対処するために、福島県庁に設置された原子力災害現地対策本部に対しても、仙台管区気象台等から職員を派遣し、地震活動・余震の状況及び気象情報等の解説を行い、警戒区域への一時帰宅等を支援するとともに関係機関との情報共有・連携強化を図っています。 〔都道府県への職員派遣・情報提供〕  地震発生を受けて、被災地である東北地方を中心に多くの都道府県において災害対策本部が設置される等、災害応急対応のための体制がとられました。各管区・地方気象台では、都道府県の災害対策本部等に職員を派遣して被害状況の情報収集及び関係機関との情報共有、気象の予想や地震活動の解説を実施した他、気象に関する資料を提供して災害応急対応を支援しました。 ウ.被災地向けの携帯電話向けコンテンツの充実  被災地においては、地盤沈下や防災施設の破損など、通常よりも災害が発生しやすい状況となり、復旧・復興作業が行われる現場では、防災に関する気象情報について随時に確認する必要性が大きくなりました。このような状況から、屋外で復旧・復興作業に従事する方の安全性を高めるため、次のように、携帯電話向けのコンテンツを充実しました。  復旧担当者に対して、最新の警報・注意報や気象情報について携帯電話へメール配信する機能を整備するとともに、県内の気象状況が変化したり気象の見通しが変わったりした場合などに、その状況をきめ細かくプッシュ型で提供する情報を開始しました。  また、作業現場で気象実況の確認が可能となるよう、防災情報提供センターの携帯用コンテンツにおいて、気象ナウキャスト及び潮位関連情報のコンテンツを追加しました。気象ナウキャストでは、降水、雷の活動度及び竜巻発生確度の分布について、潮位関連情報では、潮位の予測グラフ及び満潮・干潮時刻等について、携帯電話から確認できるようになりました。(防災情報提供センターについては、52ページコラム参照) エ.被災者・復旧担当者向け気象支援資料の提供  東北地方太平洋沖地震の被災者と被災地域の復興作業を支援するため、気象庁は、平成23年4月から被災地の市町村向けの気象資料の提供を始めました。  この資料は、天気予報などの内容を、対象となる市町村それぞれについてまとめたもので、1日3回(5時、11時、17時)提供しています。  資料1ページ(図の左側)中ほどの天気予報の内容は、20キロメートル格子・3時間毎の天気分布予報のデータから、各市町村に対応する格子の内容を抽出して表示したものです。夏場に向け、日中の最高気温予想値の表示を加えるなどの充実も図りました。資料2ページ(図の右側)の上半分には、分布予報について各県を含む広い地域で掲載しています。また地盤沈下の影響のある沿岸の市町村向けに、近隣港湾の潮位及び波浪の予想も示しています。  この資料は、気象庁ホームページの東北地方太平洋沖地震ポータルサイトからリンクしている、各県のページで見ることができます。福島県のページでは、福島第一・第二原子力発電所周辺の情報も掲載しています。この資料は、要点がわかりやすく伝わるよう、両面印刷すれば紙1枚となる形で提供し、コピーやFAXなどの利用も想定して白黒表示でも支障ない色使いとしています。 オ.捜索救難や復旧活動を任務とする小型航空機への支援  東北地方の空港を中心として、地震発生直後から、捜索や救難、復旧等を行うため小型航空機やヘリコプター等の飛行が急増するとともに、空港の運用時間を24時間として、緊急物資の輸送機などが常に離着陸できるよう対応した空港もありました。  航空機による活動が的確にかつ安全に行われるためには、捜索や救難等を行う地域や離着陸する空港やその周辺における気象状況や今後の予想が重要です。このため、各空港の航空気象官署では、捜索救難等の任務にあたる航空機に対して気象情報を提供しその活動を支援しました。特に、花巻、山形、福島の各空港の航空気象官署では、気象の観測や解説業務を24時間実施できるよう、他の気象官署から要員の派遣を含む体制の強化を図り、随時、的確な気象情報の提供を行いました。 コラム 放射性物質拡散のシミュレーションについて  気象庁は、世界気象機関(WMO)環境緊急対応地区特別気象センターの一つに指定されています。センターは、原子力事故により放射性物質の放出の影響が国境を越えて及ぶような場合に、緊急事態対応活動を支援するため、国際原子力機関(IAEA)からの要請を受け、IAEAが指定する計算条件により地球全体の放射性物質の拡散のシミュレーションを実施して、その結果をIAEAに提供することとなっています。  福島第一原子力発電所の事故では、気象庁は3月11日から5月23日まで40回以上の要請を受け、IAEAが仮定する放出条件に基づいたシミュレーションを行いました。 放射能調査研究への貢献  気象研究所では、放射能調査研究費によって長年行ってきた環境放射能分析の経験や、黄砂などの移流拡散モデルに関する知見を活かし、つくば市における放射性核種の分析や大気拡散シミュレーションを行い、政府全体の環境放射能行政に貢献しています。  6月から始まった科学技術戦略推進費による放射性物質のモニタリング調査(筑波大学など)に分析機関として参加し、地下水や河川水などの100を超えるサンプルの放射性核種分析や、風による土壌粒子の巻き上げ効果などの知見の提供を行いました。  また、関係府省が連携して進めている総合モニタリング計画の分析機関として、福島県の緊急時避難準備区域内にある井戸水や太平洋の外洋海域における海水の放射性核種分析を行ない、分析結果をとりまとめ機関に報告しました。 (3)被災した気象官署における緊急的な措置(予報業務の代行や機動的な観測の実施) ア.仙台航空測候所の被災後の業務及び復旧  仙台航空測候所は、仙台空港における気象観測や、仙台、青森、秋田、福島の各空港に対する飛行場予報や飛行場警報等の発表、大館能代空港における観測データの通報を行っています。  仙台空港は津波により甚大な被害を受け、仙台航空測候所で予報業務や観測業務等を実施することができなくなりました。このため、東京航空地方気象台では特別の体制を敷き、仙台航空測候所で行っていた予報業務を代行するとともに、気象庁本庁では、捜索救難や復旧の拠点となった空港に対する気象の情報の提供を行いました。また、新千歳航空測候所では、大館能代空港の観測データの通報業務を代行しました。このように、仙台航空測候所の業務を他官署で分担することで、捜索救難や復旧活動を行う利用者に対する情報提供を確実に実施することができました。  仙台航空測候所は、被災後6日目に観測機器の仮設置を行い、緊急輸送機の運航に向けた気象観測データの提供を再開しました。その後も業務が早期に再開できるよう、被災した機器の復旧作業を進め、観測、予報業務とも通常通り行えるまでに復旧し、4月13日には民間機の就航が一部で再開しました。 イ.海洋気象観測船を活用した機動的な余震調査  気象庁本庁及び気象研究所では、東北地方太平洋沖地震の本震後も非常に活発な余震活動が継続していたことから、この地震の全体像を解明するため、広範囲で発生している余震活動を詳細に調査し、震源断層の位置・形状を把握するため、海底地震計による余震観測を実施しました。  気象庁の2隻の海洋気象観測船(凌風丸、啓風丸)は、当初予定していた東シナ海などでの海洋観測の計画を変更し、当庁の海底地震観測に加えて、東北大学を始めとする大学関係機関等の自己浮上式観測装置の設置・回収についても、他関係機関の船舶と協力して実施しました。 ウ.海洋気象観測船による漂流型海洋気象ブイロボットの投入  気象庁は、救難活動を行う船舶等への支援のために、3月22日に海洋気象観測船「凌風丸」を三陸沖に緊急出動させ、自動的に波浪・気圧・水温を観測し、通信衛星経由で観測データを送信する「漂流型海洋気象ブイロボット」(漂流ブイ:下写真)を東北地方太平洋岸の小名浜沖、牡鹿半島沖、宮古沖(下図)に投入しました。この航海は、津波の影響による木材等の多量の漂流物を回避する必要があり、夜間は航行を見合わせるなど厳しい状況の中で行われました。 (4)高温注意情報の発表開始  気象庁では、日々の気温の観測や予報、気象情報の発表を通じて、熱中症対策を行っています。この夏、広く節電の取り組みがなされる中で、よりきめ細やかに、また、熱中症への注意を呼びかけるため「高温注意情報」の発表を開始しました。高温注意情報は、各予報区内で翌日または当日に最高気温がおおむね35℃以上になることが予想される場合に、情報文の中に各地の最高気温や気温が高くなる時間帯を示しながら、具体的な対策を含めて注意を呼びかけるものです。また、主な地点の気温予測グラフを新たに気象庁ホームページに掲載し、気温の推移や30℃以上になる期間を分かりやすく示しています。さらに、異常天候早期警戒情報(第1部参照)の中でも、平均気温が高くなることが予想される場合に熱中症への注意を呼びかけたり、日最高気温が35℃以上又は30℃以上を観測した全国のアメダスの地点数を気象庁ホームページに掲載するなど、気温に関する予測・観測情報の内容の充実を図りました。 コラム 得られた知見の国際的な共有  第16回世界気象会議(平成23年5月16日(月)から6月3日(金)にかけてスイス・ジュネーブで開催)の会期中に、東日本大震災への気象庁としての対応や、そこから得られた経験を各国気象機関に紹介し、各国の防災対応に活かすことを目的としたサイドイベントを開催しました。可搬型のアメダスや衛星通信回線の活用により観測システムを早期復旧したことや、空路への依存が支援物資の輸送等により増大し、関連する気象情報の提供を全国の気象官署が一丸となって対応したことなど、気象庁の様々な業務を継続させるために行った対応を紹介しました。また、地震の揺れの大きかった市町村に対する大雨警報・注意報の発表基準の引き下げ等、被災地の状況を考慮したきめ細やかな気象情報の提供に努めたことや、これらの情報が国際機関、外国の報道機関や被災地で活動する外国の緊急援助隊等にも活用されるよう英語版ポータルサイトを気象庁ホームページに設置したことなど、二次災害防止のために行った取り組みを紹介しました。このような震災に対する我が国の取り組みは、マルチハザード(脚注)対応の模範事例として、世界気象機関(WMO)事務局長及び各国から高く評価されました。一方、更なる防災・減災のために気象機関が果たす役割は依然として大きいことから、関連するWMOの計画を一層推進していくこととされました。 4 津波警報の改善に向けて  平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震による被害の甚大さを踏まえ、気象庁では、津波警報の改善に向けた取り組みを進めています。 (1)津波警報の改善に係る検討の経緯  気象庁は、当初地震の規模をマグニチュード7.9と推定し、地震発生3分後に津波警報の第1報として、岩手県、宮城県、福島県の予報区に対し「津波警報(大津波)」を発表し、その後、沖合のGPS波浪計や沿岸の検潮所での観測結果を基に津波警報の切り替えを行い、津波警報の対象地域を拡大するとともに予想される津波の高さを引き上げましたが、第1報で発表した地震の規模や津波の高さの予想は、実際の地震の規模や津波の高さを大きく下回るものでした。また、津波警報の第1報で発表した「予想される津波の高さ3m」、その後発表した津波の観測結果「第1波0.2m」等の情報が避難の遅れや中断につながった例があったと考えられること、停電等により津波警報切り替えの続報や津波の観測情報が住民等へ十分に伝わっていなかったこと等が明らかとなりました。  このような状況及び今回の津波による被害の甚大さを踏まえ、津波警報をどのように改善すべきかについて、有識者や防災関係機関等からご意見をいただくことを目的として、平成23年6月から9月にかけて「東北地方太平洋沖地震による津波被害を踏まえた津波警報改善に向けた勉強会」を開催しました。勉強会における指摘や提案等を踏まえ、9月には、気象庁において「東北地方太平洋沖地震による津波被害を踏まえた津波警報の改善の方向性について」(以下「津波警報改善の方向性について」)をとりまとめました。また、津波警報改善策のうち、その後検討するとした事項について、「津波警報の発表基準と情報文のあり方に関する検討会」を開催し、検討を進めています。 (2)津波警報改善の方向性及び今後の検討事項  「津波警報改善の方向性について」において提示した津波警報改善の方向性、及び「津波警報の発表基準と情報文のあり方に関する検討会」での検討事項の概要は以下のとおりです。 ア.基本方針  津波警報の第1報は、避難に要する時間をできるだけ確保できるよう、地震発生後3分程度以内の発表を目指す従来の方針は堅持するとともに、津波の波源(海底の地殻変動)の推定に不確定要素がある場合は、安全サイドに立った津波の推定に基づいて津波警報を発表し、その後、得られる地震・津波データや解析結果に基づき、より確度の高い警報に切り替えます。また、東北地方太平洋沖地震に関する聞き取り調査において、津波警報等を見聞きしていないケースが多かったことや、情報を待って避難が遅れることなど情報依存を避けるため、「強い揺れを感じたら自らの判断で避難する」ことが基本であることを周知徹底したうえで、警報を効果的に機能させることとします。 イ.具体的な改善策 @ 津波警報の分類  現在の津波警報・注意報は、「津波警報(大津波)」、「津波警報(津波)」、「津波注意報」に分類し、津波注意報は海中や海岸付近にいる人等への注意の呼びかけ、津波警報(津波)は陸域に対する警戒の呼びかけ、津波警報(大津波)の場合は陸域における厳重な警戒の呼びかけとして定着しており、国民の間に概ね受け入れられていることから引き続き用いることとします。なお、「津波警報(大津波)」については、「大津波警報」という名称が広く使われていることから、同名称の使用も可能とするよう検討するとともに、防災対応等を踏まえた分類の見直しについて検討します。 A 技術的な改善策  津波警報第1報発表の迅速性を確保するため、地震のマグニチュードの推定は3分程度で計算可能な気象庁マグニチュード(Mj)を用いることを基本としますが、マグニチュード8を超えるような巨大地震や津波地震の場合には、その規模を3分程度で正確に算出することは技術的に困難です。このため、推定した気象庁マグニチュード(Mj)の過小評価の可能性を速やかに認識できる監視・判定手法を導入し、地震が発生した海域で想定される最大マグニチュードを適用、ないしは同手法で得られるマグニチュードの概算値を用いて、安全サイドに立った津波警報の第1報を発表します。  その後、最新の地震・津波の観測データが明らかになり次第、高さの予測についてより確度の高い津波警報に更新します。具体的には、津波警報の迅速かつ適切な更新に必要なモーメントマグニチュード(Mw)を15分程度で迅速かつ安定的に求めるため、強震動まで測定できる広帯域地震計の活用を進めるとともに、モーメントマグニチュード(Mw)の迅速な推定以外の解析手法について技術開発を進めます。  また、気象庁では、平成23年10月現在、全国で15台のGPS波浪計(国土交通省港湾局)と12台のケーブル式海底水圧計(気象庁、(独)海洋研究開発機構、東京大学地震研究所)を津波監視に活用しており、GPS波浪計については、東北地方太平洋沖地震において津波警報の更新に重要な役割を果たしました。今後、気象庁としても関係機関と連携し、沖合津波観測の強化とデータ利用等、関連技術の開発を図ります。  気象庁では、地震の規模を示すマグニチュードの計算方式として、気象庁マグニチュード(Mj)と、モーメントマグニチュード(Mw)のふたつの方式を使用しています。  気象庁マグニチュード(Mj)は、周期5秒程度までの強い揺れを観測する強震計で記録された地震波形の最大振幅の値を用いて計算する方式で、地震発生から3分程度で計算可能という点から速報性に優れています。しかし、マグニチュード8を超える巨大地震の場合、より長い周期の地震波は大きくなりますが、周期5秒程度までの地震波の大きさはほとんど変わらないため、気象庁マグニチュード(Mj)では地震本来の規模に比べて小さく見積もられ、正確に規模を推定できません。  一方、モーメントマグニチュード(Mw)は、地震による断層運動の大きさを的確に表すもので、広帯域地震計(より長周期の地震波も観測可能)により記録された周期数十秒以上の非常に長い周期の地震波も含めて解析し計算することから、巨大地震についても正確な規模の推定が可能であり、なおかつ地震の発震機構(逆断層か横ずれ断層かなど)も同時に推定可能という利点があります。しかし、10分程度の地震波形データを処理する必要があるため、モーメントマグニチュード(Mw)の推定には地震発生から15分程度を要します。 B 津波警報における高さ等の伝え方 ○ 津波の高さ予想の区分及び迅速な更新  津波の高さ予想区分は、きめ細かな防災対応を可能とするよう「0.5, 1, 2, 3, 4, 6, 8, 10m以上」の8段階としていますが、津波の予測精度に0.5?2倍程度の誤差があり、高さが高くなるほど誤差の幅も大きくなることや、現実的にとりうる防災対応の段階等を踏まえると、「?1m,1?2m,2?4m,4?8m,8m?」の5段階程度が妥当と考えられます。具体的には、津波の高さと被害状況等も踏まえて決定します。  地震規模の過小評価の可能性を検知し、当該海域で想定される最大のマグニチュードを適用するなどして津波警報の第1報を発表する場合は、地震規模推定の不確定性が大きいと考えられることや、通常の地震とは異なる非常事態であることを伝えるため、予想される高さの数値は発表せず、例えば「巨大な津波の恐れ」など定性的な表現とします。  なお、約15分後に求まるモーメントマグニチュード(Mw)や津波の観測結果に基づき更新を行う第2報以降の津波の高さ予想については、地震や津波の規模推定の不確定性は少ないことから、津波の高さ予想の区分に従って数値で発表します。 ○ 津波到達予想時刻の発表  津波到達予想時刻については、予報区の中で最も早く津波が到達する地点への到達予想時刻及び予報区内のいくつかの代表的な地点(検潮所等)への到達予想時刻を発表しており、比較的精度がよいことから従来通り発表します。ただし、津波の到達時刻は同じ予報区内でも数十分程度以上、場所によっては1時間以上の違いがあることがあり、このような津波の特徴について周知を図るとともに、伝え方について検討します。 ○ 津波観測データの発表  津波は何度も繰り返し来襲しますが、第1波が最大とは限らず、第2波、第3波など後続波がより大きくなることが多く、津波の第1波の観測値が小さいとき、今回の津波は小さいものとの誤解を与える恐れがあります。一方、津波が観測されたという事実を伝えることも重要です。第1波については、今後さらに大きな津波が来る可能性が高く、極めて危険な状態が続いていることが伝わるよう発表の方法を見直します。 (3)広報周知活動  津波警報も含め地震・津波に関わる広報周知活動について、国の防災関係機関、地方自治体、報道機関等と連携して、地震・津波による減災に向け、これまで以上に組織的に取り組みます。特に、気象庁本庁に加えて、全国の気象台が普及啓発活動を行うにあたっては、国の地方支分部局、地方自治体、報道機関に加えて、学校関係者や自主防災組織等と連携し、重点的かつ長期的な取り組みを行うこととします。特に、小中学校への津波防災教育の継続、地方自治体・自主防災組織等による津波防災行事の励行等に、各地の気象台等が地域的な利点を活かし、地震・津波に対する減災に向けて積極的に関わっていくこととします。 (4)津波警報等の伝達  津波警報を関係機関に確実に伝達するとともに、住民に警報が確実に行き渡るよう関係機関と連携し、電力、通信等インフラ施設や防災行政無線、全国瞬時警報システム(Jアラート)などの防災施設の耐震化及び非常時の業務継続能力の維持向上、携帯電話の一斉同報機能の活用等について、積極的に推進します。 (5)今後の取り組み  津波警報の改善策のうち、情報の伝え方、発表のあり方、防災対応とのリンクについて、報道機関や防災情報の専門家等、防災関係者より成る「津波警報の発表基準と情報文のあり方に関する検討会」ににおいて検討を進め、平成23年度内に結論を得ることとします。  また、中長期的には、近地用津波データベースの改善をはじめ、予測技術の向上に継続的に取り組むとともに、津波情報に潮位の高さを利用することに向けた調整・検討、津波地震への対策の検討を進めます。 特集2 気象情報を支える基盤的な観測  我が国は、その地理的条件から、発達した低気圧の通過による突風や大雨、梅雨前線や秋雨前線の停滞による局地的な集中豪雨、台風の来襲による強風や大雨、夏の激しい雷雨、冬の季節風による日本海側の大雪など、人的、物的に大きな災害をもたらす様々な気象現象が発生します。また、地震や津波による災害や火山活動による災害なども発生します。  気象庁は、こうした自然災害の防止・軽減に資するため、気象、地震・火山、海洋に関する警報や注意報などの気象情報を作成・発表しています。また、地球温暖化をはじめとした地球環境問題へ対応していくため、地球環境に関する情報を作成・発表しています。これらの情報は、気象衛星や気象レーダー、アメダス、船舶など、様々な観測手段からなる観測網を用いて、大気や海洋、陸域で起こる様々な現象を時間的かつ空間的に細かく正確に観測し、詳細に解析することによって作成・発表されています。  この特集では、各種の気象情報を支えている基盤的な観測網を取り上げ、どのような観測システムを用いて大気、海洋、陸域の様々な現象を日々監視しているのかご紹介します。 1 気象災害を防ぐための観測網 (1)台風災害を防ぐための観測網 ア.台風の特徴及びメカニズムなど  海面水温が高い熱帯の海上は高温多湿で上昇気流が起こりやすく積乱雲が頻繁に発生します。この積乱雲の発生を契機としてできる積乱雲群の渦が熱帯低気圧です。熱帯低気圧は、海面から供給される熱や水蒸気をエネルギー源として発生・発達し、中心気圧が下がるにつれて中心付近の風速が強くなります。熱帯低気圧のうち、北西太平洋域(赤道から北緯60度、東経100度から180度までに囲まれる区域)に存在し、最大風速がおよそ毎秒17メートル以上のものを台風と呼びます。台風が北上するにつれて冷たい空気と混ざりあうと徐々に弱まり、最大風速が台風に満たない熱帯低気圧となります。また、冷たい空気が台風の中心部まで入り込むと、熱帯低気圧の特徴である暖かい空気の塊が不明確になり、温帯低気圧に変わります。台風から変わった温帯低気圧は、しばしば再び発達して広い範囲に大雨や強風をもたらすことがあります。また、台風に満たない熱帯低気圧であっても、大雨や強風となることがあります。台風に伴う雨や風は一般的にその中心付近で強いですが、前線の近くなどでは、台風から離れている場所でも台風の影響をうけて大雨や強風をもたらすことがあります。このように台風が日本から離れている場合や、台風の時だけでなく熱帯低気圧や台風から変わった温帯低気圧の場合も大雨や強風などについて警戒が必要です。 イ.台風による災害の事例 【平成16年台風第23号】  平成16年台風第23号は、強い勢力で四国に上陸しました。この台風と前線の活動により、広い範囲で大雨や暴風、高波となったほか、高潮が発生し、死者95名、行方不明者3名、浸水家屋約55,000棟となるなど、大きな被害が発生しました。 ウ.台風災害を防ぐための観測  台風の監視・予測のためには、洋上域を含む広域の観測を行うことのできる気象衛星による観測、台風の発達や移動に重要な役割を果たす上空の気象状況を観測する高層気象観測、降雨を面的にとらえ台風の中心位置を精度良く観測する気象レーダーによる観測が特に重要です。以下では、これらの観測の概要について紹介します。 @気象衛星「ひまわり」による観測 ○「ひまわり」の概要  気象衛星「ひまわり」が登場するまでは、国内外の陸上・海上での観測や米空軍航空機による観測で台風の状況を把握していましたが、昭和53年(1978年)に正式運用を開始した我が国の静止気象衛星「ひまわり」により、洋上域での台風監視は新しい時代を迎えました。我が国を中心とした太平洋の広い範囲の台風の発生、発達、衰えの様子や進路を昼夜を問わずに把握することができるようになり、我が国のみならずアジア・太平洋域の国々の気象業務に多大な恩恵をもたらしています。  静止気象衛星「ひまわり」は、東経140度付近の赤道上空約35,800kmの静止軌道にあって地球の自転周期に合わせて周回しています。これにより、日本を含む東アジア・西太平洋地域を常時観測することができます。現在の「ひまわり」(6号と7号)は、 1種類の可視画像、4種類の赤外画像を撮像する機能を持ち、30分毎に全球と北半球を交互に観測しています。 ○台風の監視  台風は海上で発生し発達するため、陸に近づいてくるまでは、レーダーやアメダスなどによる地上からの観測が行えません。太平洋の広い範囲を観測できる「ひまわり」は、洋上の台風の発生・発達の監視に不可欠な観測手段です。 ○幅広い分野での利用  「ひまわり」が観測するデータは、台風の監視以外にも、集中豪雨等の監視、数値予報の初期値への利用、航空機や船舶の安全運航に資する情報の作成、気候・環境の監視など幅広く利用されています。また、アジア・太平洋を中心とした世界各国の気象機関でも最も重要な観測データの一つとして利用されています。 ○次期気象衛星ひまわり8号、9号  現在、製作を進めている次期気象衛星のひまわり8号、9号では、現衛星に比べて、可視画像は1キロメートルから0.5キロメートルへ、赤外画像では4キロメートルから2キロメートルへと水平分解能が向上し、観測間隔も約30分から約10分へと短縮します。さらに、観測画像の種類も5種類から16種類に増やします。  また、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して公共施設等の建設、維持管理、運営等を行うPFI(Private Finance Initiative)手法を、次期気象衛星の管制業務や観測データの受信業務に新たに導入し、これら業務の従事経験をもつ民間事業者に運用させることにより、安定的かつ効率的な運用を行います。 Aラジオゾンデによる高層気象観測  日々の天気の変化をもたらす低気圧などの気象は、主に、地上から十数キロメートル上空までの対流圏において発生しています。また、その上にある成層圏において発生する現象も、対流圏の気象に大きく関連しています。気象庁では、これら上空の気象をとらえるため、全国16地点で毎日決まった時刻(日本標準時09時、21時)に「ラジオゾンデ」という観測機器を気球に吊るして飛揚させ、地上から約30キロメートル上空までの気圧、気温、湿度及び風を観測しています。  台風などにより重大な災害をもたらす恐れがあると予想される場合には、1日2回(09時、21時)の定時以外の時刻にも臨時にラジオゾンデによる高層気象観測を実施します。  高層気象観測のデータは、天気の解析や予測に利用するだけでなく、航空機の安全な運航にも極めて重要なものとなっています。  また、近年は、気候問題への関心が高まり、高層気象観測のデータは気候変動の監視にも利用されるようになっています。 B気象レーダーによる台風の観測  台風が陸地に近づき、気象レーダーの観測範囲内に入ってくると、特徴的な渦巻き状の雨域が観測できるようになります。これを利用して、気象レーダーにより1時間ごとに台風の中心位置や移動速度を観測しています。  気象庁では、このほか地上や船舶による観測や気象衛星のデータを総合的に用いて、台風の位置、大きさ、強さなどを解析し、台風情報として発表しています。 (2)集中豪雨災害を防ぐための観測網 ア.集中豪雨の特徴及びメカニズムなど  強い雨が数時間、同じ場所に集中して降る大雨を集中豪雨とよんでいます。  地上付近に暖かく湿った空気が流れ込んだり、上空に冷たい空気が流れ込んだりすると、大気の状態が不安定になり積乱雲が発生・発達しやすくなります。  前線や低気圧の影響、地形の効果などにより水平方向数キロから十数キロの大きさの積乱雲が同じ場所で次々と発生・発達を繰り返すことで、強い雨が数時間にわたって降り続き、数百ミリの大雨をもたらし、重大な災害を起こすことがあります。最近では、平成22年10月に奄美市を中心に多いところで3日間の総降水量が800ミリを超える大雨となりました。 イ.集中豪雨による災害の事例 【平成16年新潟・福島豪雨】  梅雨前線の活動が活発となり平成16年7月13日に新潟県および福島県で集中豪雨となり、大雨による洪水や浸水、土砂災害が発生し、死者16名、浸水家屋約8,500棟の大きな被害となりました。 ウ.集中豪雨災害を防ぐための気象観測網 @レーダー気象観測 ○レーダー気象観測の概要  気象レーダー(次ページ左図)は、アンテナ(次ページ右図)を回転させながら電波を発射し、雨や雪によって反射された電波(エコー)を受信することにより、どの位置にどの程度の強さの降水があるかを把握し、半径数百キロメートルの広範囲内に存在する降水を観測するものです。また、気象ドップラーレーダーは、降水の強さに加え、戻ってきた電波の周波数のずれ(ドップラー効果)を利用して雨や雪の動きをとらえることによって風の向きや強さを観測することができます。  現在気象庁では全国20か所の気象レーダー(気象ドップラーレーダー:16か所、気象レーダー:4か所)によって降水の観測を行い、大雨の状況を監視し、大雨警報などの防災気象情報の的確な発表に利用しています。また、気象ドップラーレーダーによる風のデータは、数値予報や竜巻の発生予測にも用いられています(特集1(3)項「竜巻など突風災害を防ぐための観測」参照)。  気象庁のレーダーは、1キロメートル四方の分解能で降水の分布を観測しています。平成21年からは観測間隔を10分から5分へ短縮することによって、より高頻度にきめ細かなデータの提供が可能となり、集中豪雨の監視をより詳細に行えるようになりました。また、立体的な観測を行うことで、積乱雲の発達状況をとらえることができます。  気象レーダーで観測した上空の雨や風のデータなどは航空機の安全な運航のため、航空管制・運航管理にも利用されています。 Aウィンドプロファイラ観測 ○ウィンドプロファイラによる気象観測の概要  ウィンドプロファイラは地上から上空に向けて電波を発射し、気流の乱れや雨粒によって散乱してはね返ってきた電波を受信し、ドップラー効果を利用して上空の風向・風速を10分毎に300メートルの高度間隔で連続して観測します。気象条件によって観測データが得られる高度は変動しますが、晴天時には3?6キロメートル、曇天時や降雨時には7?9キロメートル程度までの上空の風向・風速が観測できます。 ○ウィンドプロファイラによる気象観測  ウィンドプロファイラで上空の風を連続的に観測し、豪雨や豪雪などの局地的な気象災害の要因である「湿った空気」の流れを観測することにより、数時間先の大雨の予測の精度向上に大きく寄与しています。また台風や前線に伴う強風などの監視にも役立てられています。  観測データから鉛直方向の風の変化(鉛直シアー)を知ることもできます。鉛直方向に風が大きく変化している所では乱気流が発生する可能性があるためこの情報を航空関係者に提供し、航空機の安全な運航に役立てています。 B地上気象観測 ○気象台や測候所での地上気象観測  地上気象観測は我々が生活する地表付近の気象を対象とした観測で100年以上にわたり行われてきました。これは観測点における大気の様々な現象を精度良く把握できる最も基本的な観測のひとつです。  全国約60か所の気象台・測候所などで、気圧、気温、湿度、風向、風速、降水量、積雪の深さ、降雪の深さ、日照時間、日射量、雲、視程、大気現象等の気象観測を行っています。雲、視程、大気現象(霧、竜巻、黄砂、雷など)などは観測者が目視、聴音によって観測していますが、その他は地上気象観測装置によって自動的に観測を行っています。  また、全国約90か所の特別地域気象観測所で、地上気象観測装置による自動観測を行っています。  これらの観測データは、天気予報の発表に利用されるほか、平年値などの統計、地球温暖化などの気候変動の監視や産業活動への気象等の影響調査や研究などでも活用されています。 地上気象観測装置は主に以下のような測器で構成されています。 風向風速計 風の吹いてくる方向とその速さ(m/s)を観測 日射計 太陽からの放射エネルギー(MJ/u)を観測 日照計 日光が地表を照射した時間(h)を観測 温度計 大気の温度である気温(℃)を観測 湿度計 蒸気圧とその時の気温における飽和水蒸気圧との比である相対湿度(%)を観測 雨量計 地表面に達した雨、雪などの降水の量(mm)を観測 感雨器 地表面に達した雨、雪などの降水の有無を観測 積雪計 自然に積もって地表面をおおっている雪の深さ(cm)を観測 気圧計 大気の圧力である気圧(hPa)を観測 ○地域気象観測システム(アメダス)  1970年代に気象観測データの自動集信を目的として開発されたのが「地域気象観測システム」で、アメダス(Automated Meteorological Data Acquisition Systemを略したAMeDAS)と呼んでいます。気象官署での観測を含め、全国約1,300か所の観測データを通信ネットワークを介して本庁に集め、周囲の観測データとの比較や統計的な処理などにより、観測データの誤りの有無等の品質チェックを実施したのち、全国の気象官署に配信し、気象台の発表する警報等の気象情報の発表に利用しています。また、民間気象業務支援センターを通じて報道機関、民間気象事業者、防災関係機関など観測データを提供しており、テレビや新聞などでの気象状況の解説や防災活動の基礎データとして活用されています。 コラム 5分間隔で発表する降水ナウキャストの提供を開始  気象庁では、急激に発達する局地的な大雨の監視等に活用するため、平成21年7月から、気象レーダーによる降水強度の観測を5分間隔で実施しています。  さらに、平成23年3月より、降水ナウキャストについて、これまでの10分間隔に加え、新たに5分間隔での発表を開始しました。新たな降水ナウキャストは、5分単位で60分先までの「降水強度」を予測します(下図の青と赤すべての時刻)。上図のように雨雲が急発達する場合、これまでは17時20分の予測に雨雲の発達を反映させていましたが、新たな降水ナウキャストでは、今までより5分早い17時15分の予測に雨雲の発達を反映させることができます。  また、予測対象をレーダー観測と同じ「降水強度」としたことや、レーダー観測による5分毎の雨雲の動きを基に移動速度を決めることから、実況経過から予測への流れをスムーズに見ることができます。  10分毎に60分先までの各「10分間降水量」を予測する既存の降水ナウキャスト(10分間降水量)も引き続き提供しています。 コラム 防災情報提供センター(国土交通省)  国土交通省では、気象庁を含む省内各部局等が保有する様々な防災情報を集約し、インターネットを通じてワンストップで国民の皆様へ提供するため、「防災情報提供センター」を開設しており、気象庁が運営を担当しています。  同センターホームページ(http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/)からは、国土交通省等が観測した雨量情報が一覧できる「リアルタイム雨量」、国土交通省のレーダーを統合した「リアルタイムレーダー」のコンテンツに加え、災害対応の情報及び河川、道路、気象、地震、火山、海洋などの各種の防災に関する情報を容易に入手することができます。  また、平成21年10月より、同センターの携帯端末向けホームページ (http://www.mlit.go.jp/saigai/bosaijoho/i-index.html)で気象警報等を提供しています。 (3)竜巻などの突風災害を防ぐための観測網 ア.竜巻の特徴及びメカニズムなど ○竜巻の特徴  竜巻は、積乱雲に伴って発生する激しい風の渦巻で、上空には漏斗(ろうと)状または柱状の雲(「漏斗雲」といいます)を伴うことがあります。竜巻は、寒冷前線の近傍や台風の接近時に多く発生しています。  竜巻の大きさは、直径数十から数百メートルと小さいため、レーダー等では現象そのものを直接観測することはできません。しかし、近年の研究により、強い竜巻は、雲の中に直径数キロメートルから十数キロメートルの小さな低気圧性の回転(メソサイクロン)を持つ、スーパーセルと呼ばれる非常に発達した積乱雲に伴って発生する場合が多いことがわかってきました。また、竜巻のほか、発達した積乱雲に伴って、ダウンバースト(積乱雲から吹き降ろす下降気流が地表に衝突して水平に吹き出すことで発生)などの激しい突風が発生することがあります。  気象庁では、気象ドップラーレーダーによるメソサイクロンの検出結果と数値予報データを利用して、竜巻などの激しい突風の発生可能性を予測する竜巻発生確度ナウキャストを提供しており(コラム参照)、竜巻などの激しい突風が発生する可能性が高まった場合には、「竜巻注意情報」を発表しています。 イ.竜巻による災害の事例  我が国で過去に発生した竜巻による被害の分布を見ると、竜巻は日本のどこでも発生していることがわかります。平成18年には、宮崎県延岡市や北海道佐呂間町などで竜巻による大きな被害が相次ぎました。特に、11月7日に北海道佐呂間町で発生した竜巻では、死者9名、負傷者31名、住宅損壊39棟に及ぶ甚大な被害が発生しています。 ウ.突風災害を防ぐための観測 @気象ドップラーレーダーによる観測 ◯風を観測する原理  気象ドップラーレーダーは、降水の位置や強さの他に、降水粒子の移動を電波のドップラー効果を用いて測定できます。  動いている降水粒子から反射されて戻ってくる電波は、送信した周波数からずれて受信されます。降水粒子がレーダーに近づくときには周波数が高くなり、逆に遠ざかるときには周波数が低くなります。この現象はドップラー効果と呼ばれ、この周波数の変化を利用することにより降水粒子のレーダービーム方向の速度(ドップラー速度)を求めることができます。 A突風現象の調査  平成18年9月に宮崎県延岡市で、また同年11月に北海道佐呂間町において発生した竜巻による甚大な被害を踏まえて、関係省庁は連携して竜巻等の突風による災害の軽減に重点を置いた取り組みを開始しました。  気象庁においては、各地で発生する突風事例を調査する体制を強化したほか、過去の突風現象の事例を再調査し、「竜巻等の突風データベース」として整備・公表しています。  突風調査においては、突風の発生後、速やかに地元の気象台職員が現地に赴き、目撃情報や風の向き・強さを示す被害痕跡等を丹念に調査し、突風の種類(竜巻、ダウンバースト等)や発生時刻、強さ等を推定することにしています。平成22年は、全国の24の都道府県で計44件の現地調査を実施しました。  突風調査の結果は、報道発表等で速やかに公表した後、気象庁ホームページの「竜巻等の突風データベース」にも掲載しています。 コラム 観測網の整備により提供が可能になった竜巻発生確度ナウキャスト  気象庁では、竜巻などの激しい突風の発生可能性を予測する竜巻発生確度ナウキャストを提供しています。これは、分布図形式で常時10分毎に提供する情報です。実際に竜巻などの激しい突風が今にも発生しやすい気象状況になった時には、各地の気象台が県などを対象に竜巻注意情報を発表します。  竜巻などの突風は規模が小さく、様々な観測網を利用しても発生状況を把握することはできません。しかし、竜巻発生確度ナウキャストでは、下図のようにメソサイクロンと突風危険指数という二種類のデータを総合的に解析することにより、突風が発生する可能性の高い地域を予測することができます。メソサイクロンは、気象ドップラーレーダーによる風の観測から検出することができます。突風危険指数とは、竜巻やダウンバーストの発生の可能性を示す指数であり、この計算にもレーダーによる雨雲の立体的な観測を利用しています。  気象ドップラーレーダーの観測網が全国的に整備されたことなどにより、竜巻などの激しい現象についてもリアルタイムな情報が提供できるようになりました。 (4)高潮・高波災害を防ぐための観測網 ア.高潮・高波の特徴及びメカニズムなど ○高潮  高潮は、台風や発達した低気圧の接近に伴い海面が異常に上昇し、海水が防潮堤を越えることで浸水等により沿岸の施設に被害をもたらします。高潮は主に2種類の気象要因で発生します。  一つめの要因は、気圧の低下に伴う「吸い上げ」です。台風や低気圧の中心付近では気圧が低いため、大気が海面を押し付ける力が弱くなり海面が上昇します。気圧が1ヘクトパスカル低くなると、海面は約1センチメートル上昇します。  二つめの要因は、風による「吹き寄せ」です。台風などで海から陸に向かって吹く強風により海水が海岸に吹き寄せられることで海面が上昇します。たとえば南に開いた湾の西側を台風が北上する場合には、南寄りの強風が吹き続けるために大きな高潮が発生することがあります。 ○高波  波は、海上で強風が長時間吹くことにより発達して高波となり、沿岸の施設や航行する船舶に被害を及ぼすことがあります。  また、台風接近時には、高潮によって潮位が上昇しているところへ、海岸に押し寄せた高波が乗り上げます。高潮だけでは海水が防潮堤を越えない場合でも、高波が重なると越えることがあります。特に高潮がピークとなる時間帯は浸水の危険が高まります。 イ.高潮・高波による災害の事例  平成21年台風第18号は、愛知県知多半島付近に上陸し本州を北東進しました。これに伴い、三河港では非常に大きな高潮が発生し、埠頭に置かれたコンテナが流されるなどの被害が発生しました。また、相模湾に面した三浦半島の海岸では、高潮と高波が重なり、護岸を越えた海水による浸水被害が発生しました。 ウ.高潮災害を防ぐための観測  気象庁では、高潮災害の防止・軽減に役立つ情報を発表するため、全国の検潮所で潮位の観測を実施しているほか、国土交通省港湾局、国土地理院、海上保安庁及び一部の地方自治体が観測した約190地点の潮位データをリアルタイムで収集しています。また、複雑な海岸地形を考慮した高潮予測モデルにより高潮の予測を行っています。これらの実況や予測をもとに、海岸管理者による防災対応や地域住民の避難活動が適時的確に行えるよう高潮警報・注意報等の防災情報を提供しています。 エ.高波災害を防ぐための観測  気象庁では、沿岸や外洋での波浪災害を防ぐために、全国6か所の沿岸波浪計及び漂流型海洋気象ブイロボットにより波浪の監視を行っています。 また、予想された風を用いた波浪予測モデルの結果をもとに、船舶の安全運航や沿岸域での防災活動のための波浪警報・注意報等の防災情報を提供しています。 コラム レーダー式沿岸波浪計  レーダー式沿岸波浪計は、陸上から発射し海面で反射した電波を捉え、波浪を観測します。従来の超音波式沿岸波浪計※で観測していた波高や周期の成分に加え、レーダー式沿岸波浪計は、波の来る方向も観測できます。これにより、その場所の風により発生している波と遠くから伝わってくるうねりの区別やこれらが合成されて波が高くなる様子などを詳細に観測することが可能となりました。  気象庁では、より詳細な波浪情報の提供を行うことができるよう、平成23年度中に超音波式沿岸波浪計をレーダー式沿岸波浪計に更新します。 ※:超音波式沿岸波浪計は、波による海面の上下動を海底から発射した超音波により測定します。 2 地震・火山災害を防ぐための観測網 (1)地震・津波による災害を防ぐための観測網 ア.地震・津波による災害  規模の大きい地震は主にプレートと呼ばれる岩盤の境界周辺で発生します。日本は複数のプレートの境界付近に位置しており、世界でも有数の地震国です。現在の日本の地震観測網では、体に揺れを感じない地震を含めて、1年間で12万以上もの地震を観測しています。また、規模の大きな地震が海域で起こると津波を伴う場合もあります。日本は今までに数々の地震や津波の災害を経験してきました。  「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」(マグニチュード7.3)では、初めて震度7を観測しました。この地震は、活断層の活動に伴うもので、都市の直下で発生したため、死者6,434人、行方不明者3人、負傷者43,792人、住家全壊104,906棟など、甚大な被害を受けました。  また、「平成5年(1993年)北海道南西沖地震」(マグニチュード7.8)の地震では、奥尻島で遡上高が最大約29メートルとなる津波が来襲しました。この地震では、主に津波により死者202人、行方不明者28人、負傷者323人などの被害を受けました。  このような地震や津波に伴う被害を軽減するため、気象庁では24時間体制で地震および津波を常に監視するとともに、迅速な情報発表に努めています。 イ.地震・津波を監視するための観測網 @気象庁の地震観測網  地面の揺れを検知し、震源の位置などを決定するには、地面の動きを正確に観測する必要があり、このために用いる機器が地震計です。  気象庁は、全国約240か所に地震計を展開し観測データをリアルタイムで収集し、24時間体制で地震活動を監視しています。地震発生時には、これらのデータを活用し、ただちに津波警報・注意報や津波情報、地震情報を発表します。  また、これらの地震計は、(独)防災科学技術研究所が設置している地震計とともに、緊急地震速報(地震動警報・予報)の発表に用いられています(一部の地震計を除く)。 A地震調査研究の推進とその成果の気象業務への活用  「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」(阪神・淡路大震災)を契機に制定された地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)により、政府の特別の機関として地震調査研究推進本部が設置されました。この地震調査研究推進本部が策定した「地震に関する基盤的調査観測計画」に基づいて、大学や(独)防災科学技術研究所などの関係機関の地震観測データが、平成9年より気象庁に集約されています。これらの集約したデータをもとに、気象庁では文部科学省と協力して、我が国やその周辺で発生する地震活動の把握に努めています。気象庁にデータを集約する観測点数の増加に伴い、小さい地震の震源も求まるようになり、詳細な地震活動の把握が可能となりました。気象庁では、これらの結果を気象庁が発表する地震に関する情報に活用するとともに、地震調査研究を推進するため、地震活動の評価を行っている地震調査研究推進本部地震調査委員会や、大学など関係機関へ提供しています。 B震度観測網  気象庁では震度計を、平成3年(1991年)に世界に先駆けて導入しました。その後、平成7年(1995年)の阪神・淡路大震災の経験等から、震度観測の定義や震度階級の見直しを検討した結果、それまでは体感でおこなっていた震度観測を平成8年(1996年)4月から全て震度計で実施するとともに、同年10月からは震度階級を震度0から震度7までの10段階(震度5及び震度6はそれぞれ5弱、5強及び6弱、6強に分割)としました。  震度計の導入により、地震発生から震度情報の発表までに要する時間が、導入前の10分以上から1分半程度まで大幅に短縮されました。また、震度計は、地方公共団体における地震時の防災対応に必要な機器として展開される等、急速に普及し、平成23年10月現在では国・地方公共団体及び防災科学技術研究所あわせて約4,300地点で震度観測が行われています。気象庁は、これらのデータを気象庁の発表する地震情報に活用しています。 C津波観測網  気象庁では、津波が伴う可能性のある規模の大きな地震が発生した場合には、沿岸の津波の状況を常時監視しています。その監視に用いられるのが津波計や潮位計です。気象庁は、全国約80か所に津波観測施設を設置しているほか、関係機関が設置している観測施設からのデータも活用し、全国約190か所で津波の監視を行っています。さらに、沖合での津波を観測するため、国土交通省港湾局が整備したGPS波浪計も利用しています。 コラム エリアメールによる情報の提供  平成22年(2010年)2月27日にチリ中部沿岸を震源とする地震により、「平成5年(1993年)北海道南西沖地震」以来、17年ぶりに津波警報(大津波)が発表されました。  津波警報(大津波)が発表された沿岸の市町村の一つである気仙沼市では、平成22年4月1日からエリアメールを活用した情報提供の取り組みが進められています。エリアメールとは携帯電話利用者がいる場所の災害・避難情報などを受信することができるNTTドコモのサービスで、気仙沼市では津波警報・注意報が発表された場合、市内の携帯電話に情報をすみやかに提供します。また、津波警報・注意報以外にも、避難勧告・指示の情報や土砂災害警戒情報などもエリアメールで提供しています。  気仙沼市総務部危機管理課の佐藤健一課長は、「このシステムの導入により、防災行政無線の聞こえにくい難聴世帯や、沖合いの小型漁船等、観光客などの情報取得困難者への対応も可能となりました。しかし、いざという時に備え、住民がどのようにして独自に情報を取れるのか、そして、その情報を生かした避難のあり方、身の守り方ということを考えておくことも必要と考えています。気象庁には、今後ともきめの細かい住民の視点に立った情報を発表して頂くとともに、緊急地震速報のように、エリアメール等と連携した津波警報等の発表についても進めて頂きたい。」とおっしゃっていました。 D東海地震予知と地殻変動観測網  東海地震は、駿河湾から静岡県の内陸部を震源域としていつ発生してもおかしくないと考えられる大規模な地震で、現在、科学的な直前予知の可能性がある唯一の地震と考えられています。  東海地震の予知は「前兆すべり」を捉えることで行います。地震は地下の岩盤の破壊を伴う急激なずれ(断層運動)により発生しますが、プレート境界付近で発生する東海地震は、断層運動の前に断層面の一部が徐々にずれ始めると考えられています。このずれ始まりが「前兆すべり」で、これに伴う地盤の伸縮(地殻変動)をひずみ計などで捉えます。  東海地域等には、大規模な地震の直前の前兆を捉えるため、関係機関の協力を得て、地震、地殻変動(地殻岩石ひずみ・伸縮・傾斜・GPS)、潮位、地下水などの観測データを気象庁本庁に伝送し、24時間監視しています。 質問箱 地震は予知できるの?  地震の予知とは、地震の発生時期、場所、大きさ(マグニチュード)を地震の発生前に科学的な根拠に基づき予測することです。  現在の地震学では、地震予知は実用段階ではなく研究段階のものと考えられています。  その中で、東海地震については、現在日本で唯一、短期直前予知ができる可能性がある地震と考えられます。その根拠としては、@予想震源域の周辺に精度の高い観測網が整備されていること、A科学的に根拠のある前兆現象(前兆すべり)を伴う可能性があると考えられること、さらに、B捉えられた異常な現象が前兆現象(前兆すべり)であるか否かを科学的に判断するための基準があることの3つが挙げられます。  ただし、東海地震についても発生日時を指定した予知を行うことはできませんし、前兆現象である前兆すべりが急激に進んだ場合や小さい場合には短期直前予知ができない場合があります。 「○月×日に大地震が起こる」という話を耳にすることがありますが、発生日時を指定した情報は根拠のない話ですのでご注意ください。 前兆すべりとは?  東海地震はプレート(地球表面を覆う厚さ数十?百キロメートル程度の岩石の層)同士の境界で起こる地震です。プレート境界の一部は普段は強くくっついています。  東海地震の前にはこの領域の一部が少しずつすべり始め、最終的に急激に大きくずれて強い揺れを発生させ東海地震となると考えられています。  この少しずつすべり始める現象が前兆すべりです。  前兆すべりを捉えようと、ひずみ計等の観測測器を東海地域に展開し、気象庁において24時間監視しています。 (2)火山噴火による災害を防ぐための観測網 ア.火山噴火による災害  日本には110の活火山(質問箱「活火山とは」参照)があり、世界でも有数の火山国です。火山噴火に伴う現象は、火砕流、火山泥流、降下火砕物(噴石、火山灰等)等、その様式や規模は多様で、また、火山噴火による災害は長期化しやすいという特徴があります。昔から、噴火活動によってたびたび火山災害が発生し、私たちに被害をもたらしてきました。  平成12年(2000年)3月に有珠山で始まった噴火では、最大で周辺住民15,000人が避難生活を強いられました。火口から噴出した熱水による火山泥流により橋の流出や建物の倒壊が発生したほか、噴石(用語集参照)等により家屋に被害が出ました。しかし、気象庁からの防災情報等に基づき事前の避難が徹底していたため、幸い一人の犠牲者も出さずに済みました。  また、三宅島では平成12年(2000年)から火山活動が活発化し、噴火後に発生した多量の火山ガスの放出により、全島民が約4年半におよぶ長期の避難生活を強いられました。平成17年(2005年)に全島避難は解除されましたが、今も火山ガスの放出が続いています。  さらに、平成23年(2011年)に発生した霧島山(新燃岳)の噴火では、10km以上遠方まで風に流されて降下する噴石(こぶし大)による太陽光パネルや自動車ガラスの破損、空振(用語集参照)による窓ガラスの破損、大量の降灰による農作物等の被害が発生しました。 イ.火山活動を捉えるための観測網  火山噴火による被害を最小限に食い止めるためには、火山活動を正確に把握し、活動の異常をいち早く検知することが必要です。気象庁では、関係機関の協力を得ながら、火山周辺に配置した地震計、傾斜計、空振計、GPS観測装置及び遠望カメラ(次ページ)による観測データ等をもとに、気象庁本庁(東京)及び札幌・仙台・福岡の各管区気象台に設置した「火山監視・情報センター」において全国の活火山の活動を監視し、観測・監視の結果に基づき、噴火警報等を迅速に発表しています。  地震計は火山体内部で発生する微小な地震を、傾斜計は火山周辺で発生するごく微小な傾斜変化をとらえるものです。空振計は、火山の爆発的噴火などで生じる空気の振動をとらえるもので、天候不良等により遠望カメラで火山の状況を監視できない場合でも、噴火発生とその規模をいち早く検知できることが期待されます。GPS観測装置は、他の複数のGPSと組み合わせることで火山周辺の地殻の変形を検出することができ、傾斜計とともに地下のマグマの挙動を推定し、噴火の前兆をいち早くとらえるための重要な手段となります。遠望カメラは、星明かりの下でも観測ができる高感度の機器を用いています。 @新たな火山観測施設の整備  平成21年2月、火山噴火予知連絡会は、今後100年程度以内に噴火が発生する可能性及び社会的影響を踏まえ、火山防災のため監視・観測体制の充実等が必要として、47火山を選定しました(下表)。  これを受け、気象庁は、これら47火山すべてに新たな観測施設(地震計、傾斜計、空振計、GPS観測装置及び遠望カメラ)を整備しました。新たに整備した地震計・傾斜計は、一部の観測点を除き、地上の雑音を避けるため深さ約100mの孔井の底に設置し、高感度な観測が可能となりました。  新たに整備した観測施設も活用し、気象庁は、大学等関係機関のデータの分岐も受け47火山全ての火山活動を24時間体制で常時観測・監視しており、観測結果に基づき、噴火警報・噴火予報や火山活動解説資料等の発表を行っています。 A火山機動観測  気象庁では、火山活動に特段の変化が見られた場合など必要に応じて火山機動観測班を派遣し、火山活動の正確な把握に努めています。  また、24時間体制で常時観測・監視を行っている47火山以外の活火山も含め、火山機動観測班が平常時から計画的に現地に赴き、臨時のGPS観測、熱やガスなど現地での各種観測、ヘリコプター(関係機関協力)による上空からの観測等を実施し、継続的な火山活動把握に努めています。 質問箱 活火山とは?  かつては、噴火している火山や噴気がみられる火山など、現在活動している火山を「活火山」と呼び、噴火記録はあるが現在活動を休んでいる火山を「休火山」、噴火記録のない火山を「死火山」と呼んでいた時代がありました。しかし、火山の活動の寿命は長く、数百年程度の休止期間はほんのつかの間の眠りでしかないということから、噴火記録のある火山や今後噴火する可能性のある火山を全て「活火山」と分類する考え方が1950年代から国際的に広まり、1960年代からは気象庁も噴火の記録のある火山をすべて活火山と呼ぶことにしました。昭和50年(1975年)には火山噴火予知連絡会が「噴火の記録のある火山及び現在活発な噴気活動のある火山」を活火山と定義して77火山を選定しました。  この77火山は主として噴火記録がある火山が選ばれていましたが、噴火記録の有無は人為的な要素に左右される一方、歴史記録がなくても火山噴出物の調査から比較的新しい噴火の証拠が見出されることも多くなり、平成3年(1991年)には、火山噴火予知連絡会が活火山を「過去およそ2000年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定め、83火山を選定し、その後、平成8年(1996年)にはさらに3火山が追加され、活火山の数は86火山となりました。  しかし、数千年にわたって活動を休止した後に活動を再開した事例もあり、近年の火山学の発展に伴い、国際的にも1万年以内に噴火した火山を活火山と呼ぶようになってきたことから、火山噴火予知連絡会では平成15年(2003年)に「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」を活火山と定義し直し、気象庁もこの定義を用いています。この定義に基づき、活火山の数は108となりましたが、平成23年(2011年)6月にはさらに2火山が選定され、活火山の数は現在110になっています。  日本を代表する火山である富士山は、300年以上噴火はなく、噴気もみられませんが、将来噴火が起こる可能性がある活火山なのです。 3 航空気象観測  航空機の安全な離着陸には、風や視程(見通せる距離)、積乱雲(雷雲)などの気象状況が大きく影響します。このため気象庁では、全国の81か所の空港において気象状況を監視し、管制塔にいる航空管制官やパイロット、航空会社の運航管理者などの航空関係者へ、それらの結果を迅速に通報しています。 (1)航空機の安全な運航のための観測網 ア.主な観測種目  航空気象観測には、気象現象の推移を常に注意し、航空機の運航に影響がある気象現象の発生を確実に観測するため、30分ごとまたは1時間ごとの定時観測と次の3種類の特別観測があります。 ・気象現象の重要な変化を認めた時に行う特別観測 ・管制官や民間航空会社等から照会があった時に行う照会特別観測 ・空港または空港周辺で航空機の事故が発生した時に行う事故特別観測 また、航空気象観測の主な観測種目は ・風(離着陸の方向や離着陸時の航空機の速度を決めるため) ・視程及び滑走路視距離(空港周辺の見通しや滑走路上で見通せる距離を把握するため) ・大気現象(雷雨やあられ等、航空機の運航に支障となる現象を把握するため) ・雲(操縦士が空港及び滑走路を視認できる高度を把握するため) ・気温及び露点温度(エンジンの推力を求め、機体重量を調整するため) ・気圧(気圧から高度を知るため) などで、これらは航空機の離着陸を安全に行うための重要な観測種目です。  航空気象観測は、地上気象観測でも使用している風向風速計、温度計などの観測測器を用いて行うほか、雲の高さを測るシーロメーター(雲高測定器)や滑走路上の視程(操縦室のパイロットが滑走路上で見通せる距離)を測る滑走路視距離観測装置といった航空気象に特有の観測装置を使っての自動観測、目視による観測を組み合わせて行っています。自動観測のデータについては、当該空港だけでなく全国各空港内の航空関係者にリアルタイムで提供されています。 イ.空港気象ドップラーレーダーと空港気象ドップラーライダー  積乱雲下等に発生する風の急変域(ウィンドシアー)は、航空機の飛行に大きな影響を与える場合があり、航空路や空港での観測や予測が重要です。特に大気下層(低層)で発生するウィンドシアーは、離着陸する航空機にとって非常に危険な現象であるため、両装置によりきめ細かい観測を行いデータを提供しています。両装置が観測しているウィンドシアーはマイクロバースト(積乱雲中の冷気塊が急速に下降し地表付近で弾けるように発散する現象)とシアーライン(風が急変する場所が線状に形成される現象)の2種類で、空港気象ドップラーレーダーと空港気象ドップラーライダーにより検出されたウィンドシアーの結果は直ちに管制官へ伝えられ、ウィンドシアー情報としてパイロットへ伝達されています。  また、ウィンドシアー情報以外のデータについても、各空港内の航空関係者にリアルタイムで提供されています。  このための観測として、国内の主要な9空港(成田国際、東京国際、関西国際、中部国際、新千歳、大阪国際、福岡、鹿児島、那覇)では空港気象ドップラーレーダーにより、空港を中心とする半径約100km以内の空域における降水の強さと分布、降水域における気流の乱れの強さの他、積乱雲下等に発生する低層ウィンドシアー(半径60キロメートル以内に発生するシアーラインと半径20キロメートル以内に発生するマイクロバースト)を観測しています。  空港気象ドップラーレーダーが降水域における気流の乱れの強さを観測しているのに対し、空港気象ドップラーライダーはレーザー光を空中に発射し、空港及びその周辺の大気中のエーロゾル(大気浮遊粒子)の動きをとらえた散乱光から、降水がない時の気流の乱れの強さを観測しています。平成18年度には東京国際空港に、平成19年度には成田国際空港に、平成22年度には関西国際空港に整備し、空港ドップラーレーダーと合わせることにより、降水の有無に関わらず気流の乱れの強さ及び空港周辺の低層ウィンドシアーの観測を行っています。 ウ.雷監視システム  落雷は、ときに空港の滑走路に穴をあけて空港施設に被害をもたらしたり、飛行中の航空機に落雷し機体に損傷を与えたりするなど、航空機の安全な運航に支障を与える可能性がある現象です。雷監視システムは、雷の発生状況を的確にとらえ、航空機の運航の安全や空港で働く人々の安全を守ることを目的に整備・運用しています。  雷監視システムは、雷により発生する電磁波を検出し、その位置、発生時刻、落雷電流のピーク値、落雷電流極性等を標定する装置です。雷監視システムは、気象庁本庁に整備された中央処理局及び全国30の空港に整備された検知局により構成されています。このシステムで観測された結果は、直ちに航空局機関や航空会社に提供され、空港内施設の避雷対策、地上作業等の中断・再開及び航空機の離着陸、上空での待機等の的確な判断のために用いられています。 4 地球温暖化及びオゾン層等の監視のための観測網 (1)地球温暖化及び温暖化影響の監視のための観測網  気象庁では、国内3地点の地上観測所と2隻の海洋気象観測船により温室効果ガスの観測を実施しています。これらに加え平成23年(2011年)からは、航空機を用いた上空の温室効果ガスの観測を開始しました。また、太陽光の吸収・散乱、雲への作用により地球温暖化に影響を与えるエーロゾルの観測を国内3地点で、地球表面における太陽及び大気・雲からの放射エネルギーである日射放射観測を国内5地点でそれぞれ実施しています。 ア.地上及び航空機での温室効果ガスの観測  地上での温室効果ガスの観測では、綾里(岩手県)、南鳥島(東京都)及び与那国島(沖縄県)の3地点で温室効果ガスである二酸化炭素及びメタン、これらの濃度に影響を及ぼす一酸化炭素及び大気汚染物質でもある地上オゾンの濃度を観測しています。さらに綾里では、微量ながら強い温室効果を示す一酸化二窒素及びハロカーボン類(四塩化炭素及び1,1,1−トリクロロエタン)と、オゾン層破壊物質であるフロン類(フロン11、フロン12及びフロン113)の濃度も観測しています。  また、平成23(2011)年からは、航空機による北西太平洋上空の温室効果ガス等(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素及び一酸化炭素)の観測を開始しました(トピックス5参照)。  これらの観測は、大気中における温室効果ガスの濃度の増加や分布、広い範囲での大気汚染物質の分布の状況をより正確に把握することに役立っています。 イ.海洋の温室効果ガス等の観測  地球の表面の7割を占める海洋は、人類の社会経済活動に伴い排出される二酸化炭素の約3分の1を吸収し、大気中の二酸化炭素濃度の増加や、それにより引き起こされる地球温暖化の進行に大きな影響を及ぼします。また、海洋は大量の二酸化炭素や熱を蓄えているため、地球環境や気候変動にも大きな影響を及ぼしています。  広大な海洋を効果的・効率的に観測するために、世界気象機関(WMO)やユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)等の枠組みの下、国際的に連携して海洋観測が実施されています。海洋の二酸化炭素については、「国際海洋炭素調整計画」(IOCCP)と呼ばれる継続的な高精度の二酸化炭素観測網を構築する計画があります。海洋の二酸化炭素の観測には海水を化学分析する必要があるため、海水の採取装置と分析設備の揃った海洋観測船が必要となります。気象庁では平成22年から、海洋気象観測船2隻(凌風丸、啓風丸)により海洋の観測体制を強化し、この計画に参加しています。  このような国際的な協力体制の下、気象庁は、海洋がどれだけの二酸化炭素を吸収しているか、また海洋が気候変動にどれだけ影響を与えているかを調べるため、日本周辺海域及び北西太平洋で海洋気象観測船や中層フロートなどによって海洋の観測を実施しています。  海洋気象観測船では、北西太平洋全体の主要な海流を横切るように設定された観測線に沿って、海面から海底直上までの海流や水温、塩分、二酸化炭素などの温室効果ガスや関連する化学物質(酸素、栄養塩(植物プランクトンが育つための栄養となるリン酸塩、硝酸塩、ケイ酸塩など))の高精度な観測を実施しています。  中層フロートは、海面から深さ2,000メートル付近までの水温・塩分の鉛直分布を自動的に観測する機器です。WMO、IOC等の国際機関や各国の関係機関の連携により、中層フロートを全世界の海洋に常時約3,000台稼働させ、全世界の海洋の状況をリアルタイムで監視するとともに、地球温暖化をはじめとする気候変動の実況把握とその予測精度向上を目指す「アルゴ計画」が推進されており、気象庁は、文部科学省などの関係省庁と連携して中層フロートによる観測を実施しています。 コラム 二酸化炭素分布情報の活用  地球温暖化に関する予測の精度を高めるためには、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの空間的・時間的分布の情報が不可欠です。このため気象庁では、世界各地の陸上や海上などで観測された二酸化炭素濃度の観測値を用いて、シミュレーションモデルを用いて地球の様々な地域における濃度分布を解析した結果を、平成21年(2009年)2月から、世界の二酸化炭素分布情報として気象庁ホームページに公開しています。  二酸化炭素分布情報は、地球温暖化に関する理解を高め、地球温暖化対策の立案・実施に役立てられるだけではなく、地球温暖化に関する研究に貢献することが期待されます。  国立環境研究所では、平成21年(2009年)1月に打ち上げられた「いぶき」(GOSAT)の観測データを二酸化炭素分布情報と比較する研究を計画しています。衛星による近赤外の観測値から得られる二酸化炭素濃度は地上から上空までの平均濃度です。地表面だけではなく、高度方向に変化する二酸化炭素濃度分布の提供が望まれます。地上から上空までの二酸化炭素濃度分布が提供されることで、衛星データから解析された二酸化炭素濃度を比較できるようになるほか、地上、航空機、衛星による観測値をもとにモデル計算した結果と比較することも可能になります。  また、今後打ち上げられる温室効果ガス観測衛星の観測結果や、多くの機関の二酸化炭素解析結果との比較を通じて、地球温暖化の不確実性の低減に不可欠な炭素循環の解明に役立つことが期待されます。 ウ.エーロゾルの観測  エーロゾルとは、火山灰、黄砂、海塩粒子、すすなど、大気中に浮遊する半径0.001?10マイクロメートル(1マイクロメートルは千分の1ミリメートル)程度のごく小さなちりのことです。エーロゾルは太陽光を散乱・吸収して地表に届く日射量を減衰させ、また雲の凝結核として働くことで雲粒の数や大きさなどを変化させるため、気候に大きな影響を及ぼしています。  気象庁は、エーロゾルの状況を把握するため綾里(岩手県)、南鳥島(東京都)、与那国島(沖縄県)の国内3地点でサンフォトメータによるエーロゾル光学的厚さ(エーロゾルによる大気の濁り具合)の観測を行っています。  エーロゾルによる大気の濁り具合を表すエーロゾル光学的厚さは値が大きいほどエーロゾルが多いことを示します。下の例では、エーロゾル光学的厚さが春に大きく、冬に小さくなっています。これは春に黄砂などが飛来してエーロゾルが多くなるためと考えられています。また、平成15年(2003年)5月にはシベリアの森林火災の煙、平成18年(2006年)の春には大規模な黄砂の影響でエーロゾル光学的厚さが特に大きくなりました。 エ.日射放射観測  気象庁では、平成22年3月31日から札幌、つくば(高層気象台)、福岡、石垣島、南鳥島の5地点において、精密な日射放射(直達日射、散乱日射、下向き赤外放射の3要素)観測を開始し、気候変動の監視や温暖化予測の不確実性の低減に取り組んでいます。  温暖化の将来予測を行うため、世界中の研究機関等が気候モデルを開発しています。しかし、モデルによる予測には不確実性が含まれているため、各国の予測結果にはばらつきが見られます。不確実性の原因の一つとして、エーロゾルや温室効果ガス等の増減が、気温を変化させるエネルギー源である日射放射に及ぼす効果について十分解明されていないことが挙げられます。  日射放射が日変化する例として、平成22年11月2日のつくばの状況を示します。  朝は快晴で大気も清浄だったため、太陽の方向から直接地表に届く直達日射は順調に増加しましたが、10時頃から薄い雲がかかり始め、直達日射は急激に減少しました。  一方、大気分子や雲粒、エーロゾルなどで散乱されて太陽の方向以外から地表に届く散乱日射は、薄い雲がかかり始めた10時頃から急激に増加しました。また、大気や雲などがその温度に応じて放出する赤外放射は、雲がかかってきた影響で増加しています。その後、13時頃から、厚い雲に覆われ始めたため散乱日射は減少しました。 (2)オゾン層の状況の監視等のための観測網  高度10?50キロメートルにオゾンの多い層がありオゾン層と呼んでいます。オゾン層は生物に有害な紫外線の多くを吸収する役割を果たしています。しかし、人工物質のフロンなどによりオゾン層が地球規模で破壊され、地上に到達する紫外線の増加による健康や生態系への悪影響が懸念されています。  気象庁は、昭和32年(1957年)にオゾン層の観測を開始し、現在は、札幌、つくば、那覇、南鳥島、南極昭和基地で実施しています。また、平成2年(1990年)から順次、南鳥島を除くオゾン層観測地点で紫外線の観測を開始しました。 ア.オゾン層の観測 @分光光度計による観測  太陽から地上に到達する紫外線のうち、オゾンに吸収されやすい波長の紫外線とオゾンに吸収されにくい波長の紫外線の強度を測定することにより、地上から大気上端までのオゾン量(オゾン全量)を観測します。 Aオゾンゾンデ観測  気球に吊した観測器(オゾンゾンデ)により上空のオゾン量を直接測定し、オゾンの鉛直分布を詳細に知ることができます。 イ.紫外線の観測 @分光光度計による観測  生物に有害なUV-B域を中心に、波長毎の紫外線量を観測します。 (3)南極での観測  南極は、地球上の人間活動が活発な地域から最も離れた場所で、気候変動や地球環境を監視するための様々な観測を行うために最適な場所です。日本の南極地域観測は、地球規模の現象解明のため国際地球観測年(IGY)の国際的な共同観測計画の一環として、昭和31年(1956年)以降、観測隊を派遣して実施しています。  日本の観測隊は南極大陸の氷縁から約4キロメートル離れた東オングル島に昭和基地を開設(南緯69度00分、東経39度35分)し、海底や地表から宇宙まで広範囲にわたって、様々な観測をしています。  気象庁は、現在では毎年5人の越冬隊員を派遣し、基本観測・定常観測部門の気象観測を担っています。地上、高層、オゾン、日射・放射観測の方法などは国内と同様に、測器や隊員の目視により行っています。これまで、極寒地の基礎的な質の高いデータを継続して取得し、昭和57年(1982年)には世界で初めて上空のオゾン量の減少(オゾンホール)を発見しました。これらの観測データは、国際的にも大変貴重であり、地球環境問題を解明するさまざまな研究の基礎資料となっています。  また、気象観測以外にも、研究観測部門に越冬隊員を適宜派遣してオーロラや地磁気などの観測を行っています。  南極で得られた気象観測データは、即時に通信回線で気象庁に送られ、さらに世界の国々に配信され、日々の気象予測、オゾン層を含む気候変動の監視や様々な研究などに利用されています。  昭和基地では、夏期間(12?2月)は白夜となり太陽が沈まず、冬期間(6?8月)は極夜となり太陽が現れない時期があります。また、強風と高い地吹雪で著しく視界が悪くなるブリザードになると、観測器械に着雪したり、内部に雪が入り込んだりして正しい観測ができなくなります。観測器械が故障した場合には、隊員が自ら修理しなければなりません。このため、観測測器の維持管理には細心の注意を払っています。 コラム オゾンホールの発見  南極では毎年春先(9月ころ)に、オゾン量の少ない領域が発生しています。このオゾン量の減少は、第23次南極地域観測隊(昭和57年(1982年))に参加した当庁職員の忠鉢繁博士が世界で初めて発見しました。当初は、オゾン観測は太陽の光だけを使って観測していましたので、太陽が出ない冬の観測データがありませんでした。忠鉢博士は、太陽が出なくても観測できないだろうかと考え、月の光による観測を試みました。得られた結果はそれまで観測されていたオゾン量に比べて著しく低く、器械の障害が疑われました。その後衛星観測データでもオゾン量が減少していることが分かり、当時の観測データが正しかったことが証明されました。  現在では、オゾン量の少ない領域はオゾンホールと呼ばれ、フロンガスなどの人工的な物質が発生の原因と考えられており、地球環境問題のひとつとして広く一般に知られるようになりました。 トピックス トピックス1:市町村を対象とした気象警報・注意報の発表について  平成22年(2010年)5月27日から、市町村の防災担当者や住民に、より効果的に警戒を呼びかけることができるよう、市町村を対象とした警報・注意報の発表を開始しました。  対象地域を従来の375地域から1777地域(平成22年5月27日現在)と細かくしたことにより、大雨警報の発表回数は1割ほど増えていますが、対象となる市町村を特定できるようになったため、大雨警報を発表した市町村数は以前の方式と比較して概ね3?4割減少し、また警報の継続時間も短くなっています。市町村を対象とした警報・注意報としたことにより、警戒・注意が必要な地域及び時間帯が市町村毎に明確となり、市町村の防災担当者からは、「分かりやすくなり、より早く状況にあった体制をとることができるようになった」などの感想をいただいています。  気象庁では、市町村を対象とした気象警報・注意報を始めとした防災気象情報に関する調査を実施しました。その結果、特に市町村の防災担当者の方々は、市町村を対象とした気象警報・注意報に関して、以下のような評価や感想を持っていることが分かりました。 ●「従来の広い発表区域では地域により気象の状況が全く違うため市町村単位になって大変助かっている。警報に対して感じる危機感等が全く違うものになった。」、「分かりやすくなり、より早く状況にあった体制をとることができるようになった。」などの回答があった。 ●一方で「市町村ごとになってからは、大雨警報や注意報の発表後に雨がそれほど降らないと予想が外れたという印象を強く感じるようになった。」、「面積の大きな市町村については、更なる細分を検討してほしい」等の指摘もあった。 ●また、「大雨が降り終わった後の土砂災害に対する大雨警報の解除が遅い」という回答があり、一旦雨が降り止んだとしても、地盤の緩んだ状態が継続しているために、土砂災害への警戒が引き続き必要な場合は大雨警報を継続することについて、十分な理解が得られていない場合もあった。  気象庁では、この調査結果などを踏まえて、気象予測技術の一層の向上や適切なタイミングでの情報提供に努めるとともに、地盤の緩んだ状態が継続していることで、雨が降り止んだ後も土砂災害への警戒の必要性があることを訴えるなど、引き続き警報・注意報などの防災気象情報に対する周知広報や利用の促進に取り組んで行きたいと考えています。 トピックス2:気候変動や異常気象に対応するための気候情報とその利活用  地球温暖化の進行により、猛暑や大雨の発生頻度が増加する傾向にあります。このため、水資源、食料、エネルギー供給、流通・小売やレジャーにいたる様々な分野において、気候の変化や異常気象によるリスク(気候リスク)が増大すると考えられています。これらの気候リスクへの適切な対処(気候リスク管理)のため、利用者ニーズに応じた季節予報等の気候情報の作成及び提供の重要性が高まっています。国際的にも、気候情報の利活用の拡大に向け、本年5?6月に開催された第16回世界気象会議において、「気候サービスのための世界的枠組み(GFCS)」(注)の構築に向けた議論が行われました。一方国内では、地球温暖化の影響に対応するための方策(適応策)の推進のため、関係府省において審議会・検討会等が開催されています。  このように、国内外で気候情報の利用拡大に向けた議論が進められる中、交通政策審議会気象分科会を開催し、気候変動や異常気象の影響を受ける分野における気候リスク管理に必要な気候情報のあり方と、効果的な利用方策について、有識者に審議いただいています。 (注)GFCS:気候サービスの提供者と水資源管理や農業等の分野における利用者間の連携強化を通じて、利用者が意思決定に活用しやすい気候情報の提供を実現するための枠組み コラム 異常天候早期警戒情報とその利用  気象庁は、天候の影響を受けやすい分野における天候リスク管理に活用頂くため、平成20年3月に「異常天候早期警戒情報」の提供を開始しました。これは、発表日の5日後から14日後の間の任意の7日間平均気温を対象に、「かなり高い」「かなり低い」となる可能性が高まった時に発表する情報です。  平成22年は春の天候不順、夏の異常な高温、秋の厳しい残暑など、平年からの隔たりが大きな天候が頻発したため、農作物に、低温障害や高温障害などの天候の悪影響が強く現れました。それらの影響を軽減するために国や地方自治体の農業行政機関により行われる農業技術指導では、下図の例のとおり異常天候早期警戒情報が利用されました。  気象庁では、異常天候早期警戒情報などの気候情報の更なる利用を推進するため、農業従事者の意思決定に活用しやすい情報の作成を目的として、(独)農業・食品産業技術総合研究機構東北農業研究センター、東北大学と共同で、平均気温の予測結果を水稲の冷害危険度などに翻訳する技術に関する研究開発に取り組んでいます。 トピックス3:地震・津波情報について (1)東海地震に関連する情報が変わりました  平成21年8月11日の駿河湾の地震の際に「東海地震観測情報」を発表しましたが、「東海地震が発生したと思った」などの誤解があり、情報内容に対する理解や分かりやすさ等についての課題が明らかとなりました。これらのことから、東海地震に関連する情報・知識の理解促進を図るための具体的な方策を検討するため、大学関係者、報道関係者及び行政関係者からなる「東海地震に関連する情報の理解促進のための検討会」を開催しました。  この検討会でアンケート調査による意見を踏まえ、「東海地震観測情報」の情報名称等について検討した結果、新たな名称として「東海地震に関連する調査情報」に変更することとなりました。また、情報を分かりやすくするために補足する言葉として、従来から周知・広報に用いている赤、黄、青の色を踏襲した「カラーレベル」を導入し、情報文中に記載します。  さらに、日頃馴染みのない情報が突然発表されると不安になることも考えられます。このため、毎月の定例の地震防災対策強化地域判定会(以下、「判定会」)において評価した「最近の東海地域とその周辺の地震・地殻活動」の調査結果を、この「東海地震に関連する調査情報」として発表し、情報に接する機会を増やすこととしました。  これら情報については、平成23年3月24日から運用を開始しました。 コラム 東海地震に関連する情報の周知について ○静岡県地震防災センター 地震防災アドバイザー 小澤邦雄 氏より  平成21年8月11日に駿河湾で最大震度6弱が記録される地震が発生し、静岡県中西部の住民には、8年ぶりの震度5以上の地震で、“スワッ!東海地震か!”と思った方がたくさんいたようです。  この地震では、初めて東海地震観測情報が出され、地震発生後に実施された東海地震の県民意識調査では、情報名そのものを全く知らなかったが28%、ほぼ同時期に行われた静岡地方気象台の自主防災組織関係者の調査でも、観測情報の発表を知らなかったが27%もいました。  県は、東海地震に関連する情報については、予知・注意・観測という3つの情報体系となった平成16年1月の前後から、周知に努めてきました。県が全世帯を対象に年数回発行しているコミュニケーション誌「自主防災」でも、平成21年8月までに8回も掲載しました。また、地震防災ガイドブックをはじめとする各種啓発パンフレットへの掲載や、各種出前講座で取り上げてきました。しかし、未認識28%には衝撃を受け、現実の数字に、反省させられました。  反省の第一は、注意情報による住民の対応のバラつきを憂慮するあまり、注意情報の周知に力点を置き過ぎていたのかなということです。第二は、東海地震が予知されずに突然発生するケースの対策を進めるあまり、予知関連情報の周知がおろそかになっていたのかなということです。更に第三は、気象台の調査で、観測情報を聞いて、既に発生したと思ったという人が16%もいたことに対する反省です。これら三点とも、これからも県民に、東海地震に対して正しい認識と防災知識を持ってもらう努力を継続する必要があることを物語ります。  今回、東海地震観測情報が名称変更する機会に、なお一層の努力をしていきたいと思います。 (注:「東海地震観測情報」は「東海地震に関連する調査情報」に名称変更されました) (2)津波による被害を減らしたい?津波に関する知識の普及への取り組み?  日本は過去から幾度となく津波による被害を受けてきました。これからも、その脅威がなくなることはありません。津波から命を守るためには、津波に対しての備えを十分にするとともに、的確な避難行動をとることが必要です。気象庁では、津波の恐ろしさと避難の重要性を理解してもらうため、津波に関する知識の普及に取り組んできました。 ア.津波防災シンポジウム「津波警報!!そのときあなたは?」の開催  平成23年3月10日に気象庁講堂で津波防災シンポジウムを開催しました。今回のシンポジウムは、日本でも水産業を中心に津波による被害を及ぼした平成22年2月末のチリ中部沿岸の地震から1年が経過したのを機に、津波の予測技術や津波警報の現状、津波からの避難の重要性などについて考えることを目的として開催しました。東北大学大学院工学研究科の今村文彦教授から、チリ中部沿岸の地震について津波被害の状況や津波の性質、避難者の行動等について解説していただくとともに、気象庁からは警報発表作業の実際と今後の遠地津波データベースの改善について説明しました。また、学識経験者や関係行政機関の担当者を交えたパネルディスカッションでは、パネリストから最新の津波対策の内容等を紹介いただくとともに、津波警報が発表された場合、どのように避難行動をとるべきかなどについて意見交換を行いました。来場者は約200人と盛況で、熱心にパネリストの意見に耳を傾けていました。  さらに、シンポジウムに先立ち2月から3月にかけて各地の気象官署で津波に関する知識の普及活動を行ったほか、気象科学館で「ミニ津波防災カフェ」の開催や全国の津波ハザードマップの展示を行うなど、少しでも多くの人に津波について知ってもらうよう取り組みました。 イ.津波展示装置の作成  津波の様子を実際に見て、その危険性を実感していただくとともに、避難時にどんな行動をとれば良いのかを理解していただくことを目的として、津波展示装置(津波シミュレーター)を作成しました。この津波展示装置は、  ・津波はいつも目にする波(波浪)とは異なり、陸や川を勢いよく遡上する  ・高台や津波避難ビル等の頑丈な建物に避難しないと津波に飲まれてしまう ということを目に見て実感していただけるように設計しています。また、津波警報発表のアナウンスなどとも連動することで、実際に津波警報が発表された場合には、どのような場所に避難するべきか理解しやすいように作成しました。  この津波展示装置は、気象庁の気象科学館で展示しています。 ウ.更なる取り組みの強化  現在、気象庁では「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」での津波被害を受け、津波警報の改善に向けて検討を進めており(特集1参照)、この中で地震・津波に関する広報周知活動において関係機関とともに連携し重点的に行うことが求められています。そこでは、気象庁の発表する情報を説明するだけではなく、強い揺れを感じたら自らの判断で避難すること、津波の高さは地形により複雑に変化すること、津波は繰り返し来襲し第2波、第3波の方が大きくなることが多いことなど、津波からの避難時において基本となる知識の周知・啓発にさらに積極的に取り組みます。また、これまで周知が十分ではなかった津波警報の留意点等についても十分周知を行いながら、津波警報の適切な利用を呼び掛けて行きます。  気象庁は、これまで以上に地震・津波防災に関する広報周知活動に取り組んでいきます。 トピックス4:近代火山観測100年  平成23年(2011年)は、近代火山観測が開始されてからちょうど100年にあたります。  明治44年(1911年)8月26日、長野県と群馬県の県境に位置し国内有数の活火山である浅間山において、当時の文部省震災予防調査会と長野県立長野測候所(現、長野地方気象台)の協力により、我が国最初の火山観測所である浅間火山観測所が創設されました。湯の平と呼ばれる浅間山中腹の標高約2,000メートルに建設された観測所では、地震計による常時観測を足がかりに、火山災害を軽減するための火山監視と火山現象の本質を究明するための基礎研究という、現在へ続く近代的な火山観測の第一歩が踏み出されました。  その後、浅間山の火山業務を引き継いだ軽井沢測候所や、それ以外の火山に同様な目的で創設された観測所や測候所が、気象台や大学の観測所等と観測調査を行い、我が国の火山学や噴火予知の発展に貢献すると共に、火山の動静を広く火山情報として知らせ、地域住民や登山者の安全確保に努めてきました。  しかし時代が進み、通信機器等の発達により、複数の火山の多種多様なデータが同時に収集できるようになりました。平成14年(2002年)には気象庁本庁や管区気象台に火山監視・情報センターが設置され、観測データの一元的な監視によって火山防災業務体制が強化され、測候所の役割は相対的に低下していきました。平成20年(2008年)には火山業務を地元自治体と連携して行うことを目的とした火山防災連絡事務所の設置を経て、火山監視を主目的に設置された測候所は平成21年(2009年)度までに無人化されました。  100年前に創設された浅間火山観測所の庁舎は、浅間山噴火に伴う噴石落下のため、昭和22年(1947年)に焼失していますが、観測所跡地には今でもコンクリートの地震計台が残っており、往時の姿を忍ばせています。  浅間山から開始された近代火山観測は、100年の時を経て飛躍的に発達し、現在国内47の火山で常時観測が行われています。気象庁では大学等の関係機関の協力を得ながら、我が国の火山防災の基盤的体制の確立を更に目指していきます。 トピックス5:陸・海・空からの温室効果ガスの観測・監視  将来の地球温暖化の状況を正確に予測するためには、その原因とされる人間活動により排出された温室効果ガスの全体像を詳細に把握することが必須です。気象庁は、陸域、海洋、大気など地球全体を循環する温室効果ガスの動向を監視するための観測体制を強化しています。 (1)地上及び上空での温室効果ガスの観測・監視  気象庁では、地上での温室効果ガスの観測に加え、温室効果ガスの循環の全体像をさらに明らかにするため、上空での観測を平成23年(2011年)から開始しました。  この観測では、北西太平洋上を飛行する航空機を用い、一定時間毎に機外の大気を手動ポンプで容器に採取して(右写真)持ち帰り、その大気を分析することで、上空の二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素など温室効果ガス濃度を測定します。 (2)海洋の温室効果ガスの観測・監視  海洋は、人間活動により排出された二酸化炭素の約3分の1を吸収する最大の吸収源であり、温暖化の進行に大きな影響を及ぼします。気象庁では、2隻の海洋気象観測船「凌風丸」と「啓風丸」により北西太平洋域の二酸化炭素観測を実施するとともに、国内外の政府・研究機関と連携して海洋の温室効果ガスの動向を監視しています(詳しくは特集2の「地球温暖化及び温暖化影響の監視のための観測網」を参照)。 (3)観測の成果の発表  温室効果ガスの観測データは、気象庁が運営する世界気象機関(WMO)温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)等を通じて国内外の政府・研究機関に提供され、各国の様々な機関・大学等が観測した温室効果ガスの観測データとともに、地球温暖化の調査・研究や対策の検討等に活用され、2013年から2014年に公開が予定されている気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書作成にも貢献します。また、気象庁は、温室効果ガスの観測データ及びこれを含め世界の観測データを解析した温室効果ガスに関する監視情報を、気象庁ホームページ(http://www.jma.go.jp)や各種の報告書で発表しています。図は、平成23年3月から気象庁ホームページの「海洋の健康診断表」(http://www.data.kishou.go.jp/shindan/)にて新たに提供を開始した大気−海洋間の二酸化炭素の交換量の情報です。 トピックス6:国際的な取り組み (1)アジア域の気象観測データの品質向上に向けて?国際ワークショップを開催?  短期予報、季節予報や気候監視は、世界各国からリアルタイムで送られてくる気象・気候の現場観測に大きく依存する一方、途上国からの観測データが通報されないこと、通報された観測データの品質に問題があること等が以前から指摘されています。このため、品質の高い気象・気候観測データの確保は、世界各国の気象機関に共通の課題であり、世界気象機関(WMO)は、観測の品質向上に向けた検討を進めています。平成20年(2008年)12月に開催されたWMO第U地区協会(アジア域)会合では、観測データの品質管理能力を強化するために、アジアの途上国の気象機関に対して支援を行うことを目的としたパイロットプロジェクトを推進することが決定し、我が国がその取りまとめ役を務めています。  このパイロットプロジェクトの一環として、平成22年(2010年)7月27日から30日まで、気象庁は、WMOとの共催で、アジア域の気象観測データの品質管理に関するワークショップを開催しました。このワークショップには、アジア域各国の気象機関の専門家20名とWMOの観測技術専門家等が参加し、アジア域の気象観測の品質向上のための課題を共有し、その解決方法について活発な議論が行われました。  ワークショップでの議論の結果、アジア域での気象観測データの品質管理に関する主な課題は、観測測器の校正及び保守管理、観測実施者の育成であることが明らかになり、気象庁が運営するWMO地区測器センター(RICつくば)の活動を一層促進することにより、途上国の気象機関職員等への研修を強化すること等が提言されました。  この提言を踏まえて、気象庁は、気象観測分野の国際的な取り組み、特にアジア域の各国気象機関への技術支援や地区測器センターといったWMOのアジア域での活動の一層の推進を図ることとしています。また、このワークショップの成果を世界各国の気象機関及び関連機関と共有するため、発表資料と最終報告書を、気象庁の英語版ホームページに掲載しました。 (2)松野太郎名誉教授が「世界気象機関IMO賞」を受賞?日本人で初めての受賞?  世界気象機関(WMO)は、平成22年(2010年)6月18日、松野太郎東京大学名誉教授・北海道大学名誉教授(現:海洋研究開発機構)に、「世界気象機関IMO賞」を授与することを決定しました。世界気象機関IMO賞は、WMOにおける最高の科学賞であり、気象学、気候学、水文学やそれに関連する分野の進展、並びにそれらの国際的な活動の推進において多大な貢献を成した科学者に贈られます。IMOとは、「国際気象機関」の略でWMOの前身にあたります。  松野教授の受賞は、昭和31年(1956年)の第1回から数えて57人目となり、日本人では初めての受賞です。松野教授は、特に大気力学の分野における研究の発展や、日本における気候研究の推進、さらに「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」やWMOを含む数多くの国際的な活動に貢献されてきました。今回の受賞は、これらの功績が評価されたものです。  平成23年(2011年)6月2日にスイス・ジュネーブにて、第16回世界気象会議(WMO総会)の会期中に授賞式と松野教授による記念講演が行われました。第16回世界気象会議に参加していた各国・地域からの代表による多くの称賛の声の中、賞状、メダル、副賞(1万スイスフラン)の目録が授与され、記念講演も大成功のうちに終了しました。 トピックス7:東京国際空港の新滑走路供用開始及び国際化に向けた取り組み  平成22年(2010年)10月21日、東京国際空港では4本目の滑走路(D滑走路)の供用が開始され、国際定期便が就航しました。気象庁は東京国際空港の新たなスタートに合わせて、気象観測、予報等を充実させてきました。 (1)気象観測情報の充実  4本目の滑走路には、両端に風向風速計を、西側の端に雲の高さを測定する器械(シーロメーター)と滑走路上の見通しを測定する器械(滑走路視距離観測装置)を整備し、刻々と変わる観測データを空港内の航空関係者へ提供しています。また、新しい滑走路に対して安全な離着陸ができるよう、2基目の空港気象ドップラーライダーを設置し、大気下層の風の急変域(ウィンドシアー(用語集参照))を観測しています。 (2)予報及び解説資料の充実  離陸する航空機向けとして、3時間毎に6時間先までの1時間刻みの空港の気温や気圧の予想を発表し、着陸する航空機向けとして、30分毎に2時間先までの空港の気象(風や天気、卓越視程、雲底の高さ)の重要な変化を予想し発表することにしました。  また、空港の風向や風速によって航空機が離着陸する滑走路の向きが変わります。航空機の離着陸の非常に多い東京国際空港では、4本ある滑走路を効率的に運用することが重要で、風の予測も含めた気象予想が非常に重要となります。これを支援するため、東京航空地方気象台では管制官や空港内の航空関係者に対し、電話などによる適宜適切な解説を行っています。 第1部 気象業務の現状と今後  気象庁は、気象・海洋や地震・火山などの自然現象を常に監視・予測し、的確な気象情報を提供することによって、自然災害の軽減、国民生活の向上、交通安全の確保、産業の発展などを実現することを任務としています。このため、気象庁は、常に最新の科学技術を駆使して気象業務の技術基盤を確立し、利用目的に応じた分かりやすい気象情報の作成・提供に努めています。また、世界的に先進的な気象機関として、世界各国の気象業務の発展に貢献するため、気象業務に関する国際協力も行っています。この第1 部では、気象庁のこれらの取り組みの現状と今後についてお伝えします。 第1章 国民の安全・安心を支える気象情報 1 気象の監視・予測 (1)気象の警報、予報などの発表  ア.大雨や暴風などの警報・注意報  気象庁は、大雨や暴風、高波などによって発生する災害の防止・軽減を目指し、警報や注意報などの防災気象情報を発表しています。さらに、情報の内容や発表タイミングの改善にむけ常に防災機関や報道機関との間で調整を行い、防災活動の効果的な支援を図っています。 @警報・注意報  都道府県や市町村等の自治体や国の防災関係機関が適切な防災対応が取れるよう、また、住民の自主避難等の判断に資するよう、大雨や暴風などの気象現象によって重大な災害が起こるおそれのある場合に、その旨を「警報」として発表し、災害が起こるおそれのある場合にその旨を「注意報」として発表しています。警報は7種類、注意報は16種類あります。  警報や注意報では、解除・継続を含む発表状況や警戒すべき事項、予想される気象状況、風速や波の高さなどに関する量的な予報事項などを簡潔に記述しています。特に、予想される気象状況については、現象の開始時刻、終了時刻、ピーク時刻、最大値などを箇条書きで記述しています。  注意報から警報に切り替える可能性が高いときには、前もって注意報の中で、「○○(いつ)までに××警報に切り替える可能性がある」と明示しています。 警報・注意報の発表区域と発表基準  警報や注意報は、市町村を対象に発表しています。また、災害の特性は地域によって異なるため、警報・注意報のそれぞれの種類や対象区域ごとに災害と雨量などの関係に基づき発表基準を定めています(例:1時間あたりの雨量が○○ミリ以上、平均風速が○○メートル以上など)。  大規模な地震の発生により地盤の強度が低下した地域や、火山噴火により火山灰が堆積した地域では、降雨に伴う土砂災害が通常よりも起きやすくなりますので、都道府県などの防災関係機関と調整の上、大雨警報などの発表基準を暫定的に引き下げて運用することがあります。 A土砂災害警戒情報  気象庁は、土砂災害から生命、財産を守るために、土砂災害の危険度が高まっていることを地方自治体や住民に知らせる情報として、都道府県と共同で土砂災害警戒情報を発表しています。  土砂災害警戒情報が発表されたときには、地方自治体には避難勧告等の住民の命を守る防災活動、住民には自主避難など土砂災害から身を守る行動をとっていただくことを期待しています。 B大雨、暴風、大雪などに関する情報 ・(全般・地方・府県)気象情報  大雨などの今後の見通しや、実況と防災活動に役立つと考えられる種々のコメントを「気象情報」(「大雨に関する気象情報」など)として発表します。これらの情報では、図表を用いてポイントを視覚的にわかりやすく示す図形式での発表も行っています。また、少雨、高温、低温や日照不足など、長期間にわたり社会的に影響の大きな天候の状況についても気象情報(「長期間の高温に関する気象情報」など)を発表します。 ・記録的短時間大雨情報  ここ数年間で経験したことのない大雨が短時間に降ったことを明示し、例を見ないような重大な災害の危険性が高まっていることを周知するため、数年に一度の猛烈な雨を観測した場合に「記録的短時間大雨情報」を府県気象情報として発表します。 ・雨の実況と予測情報(解析雨量、降水短時間予報、降水ナウキャスト)  「解析雨量」は、雨量分布の把握に利用します。気象レーダー観測で得られた雨の分布を、アメダスなどの雨量計で観測された実際の雨量で補正し、1時間雨量の分布を1キロメートル四方の細かさで解析します。30分間隔で発表します。  「降水短時間予報」は、目先数時間に予想される雨量分布の把握に利用します。解析雨量をもとに、雨域の移動、地形による雨雲の発達・衰弱や数値予報の予測雨量などを考慮して、6時間先までの各1時間雨量を1キロメートル四方の細かさで予測します。30分間隔で発表します。  さらに、極めて短時間に変化する雨にも対応するため、より即時的にきめ細かな予測情報を提供するのが「降水ナウキャスト」です。気象レーダー観測と同じ5分間隔で、1時間先までの5分毎の降水強度を、1キロメートル四方の細かさで予測します。 ・積乱雲に伴う激しい気象現象に関する情報 竜巻発生確度ナウキャストと竜巻注意情報  積乱雲に伴う竜巻などの激しい突風から身の安全を確保していただくための気象情報として、「竜巻発生確度ナウキャスト」及び「竜巻注意情報」を発表しています。  「竜巻発生確度ナウキャスト」は、気象ドップラーレーダーの観測などを基に、竜巻などの激しい突風が発生する可能性の程度を10キロメートル格子単位で解析し、その1時間後(10?60分先)までの予測を行うもので、10分ごとに更新して最新の情報を提供します。「竜巻発生確度ナウキャスト」を利用することにより、竜巻が発生する可能性の高い地域や刻々と変わる状況の変化を詳細に把握することができます。  竜巻発生確度ナウキャストで発生確度2が現れた県などには「竜巻注意情報」を発表します。この段階では既に竜巻が発生しやすい状況ですので、情報の発表から1時間程度は竜巻などの激しい突風に対する注意が必要です。 ・雷ナウキャスト  落雷による被害を防ぐための気象情報として、「雷ナウキャスト」を発表しています。  「雷ナウキャスト」は、雷監視システムによる雷放電の検知及びレーダー観測などを基に、雷の激しさや雷の可能性を1 キロメートル格子単位で解析し、その1 時間後(10分?60分先)までの予測を行うもので、10分毎に更新して最新の情報を提供します。 雷の激しさや雷の発生可能性は、活動度1?4で表します。このうち活動度2?4となったときには、既に積乱雲が発達しており、いつ落雷があってもおかしくない状況です。直ちに建物の中など安全な場所へ避難が必要です。 C指定河川洪水予報  防災上重要な河川について、河川の増水やはん濫に対する水防活動の判断や住民の避難行動の参考となるように、国が管理する河川は国土交通省水管理・国土保全局と気象庁が、都道府県が管理する河川は都道府県と気象庁が、共同して指定河川洪水予報を発表しています。気象庁は気象(降雨、融雪など)の予測、水管理・国土保全局や都道府県は水文状況(河川の水位または流量)の予測を担当して、緊密な連携のもとで洪水予報を行っています。  洪水予報の標題は、洪水の危険度の高い順からそれぞれ「はん濫発生情報」「はん濫危険情報」「はん濫警戒情報」「はん濫注意情報」を河川名の後に付加したものです。また、洪水の危険度と水位を対応させて数値化した水位危険度レベルを情報に記載し、わかりやすい情報を目指しています。 D台風情報  台風がいつ頃どこに接近するかをお知らせするのが「台風情報」です。この情報は、様々な防災対策に利用できるよう、台風がわが国に近づくにつれてきめ細かく頻繁に発表します。  気象庁は台風を常時監視し、台風の位置、大きさ、強さの実況解析と最大3日先までの予報を3時間ごとに行い、これらを観測時刻から約50分後に発表します。さらに、3日先に台風の勢力をもつと予報した台風を対象として台風の位置の5日先までの予報を6時間ごとに行い、観測時刻から約90分後に発表します。  台風の大きさは風速(10分間平均)が毎秒15メートル以上の強風が吹いている範囲(強風域)、台風の強さは最大風速(10分間平均)により分類されます。  台風の進路予報では、台風の中心が70%の確率でその中に進むと予想される区域(予報円)と台風が予報円内に進んだ場合に暴風域(風速が毎秒25メートル以上の領域)に入る可能性がある区域(暴風警戒域)を表示します。  台風が我が国から概ね300キロメートル以内に近づき、被害を及ぼす可能性がでてきた場合には、上記の情報に加えて、台風の解析結果と1時間後の推定値を1時間ごとに、24時間先までの3時間刻みの予報を3時間ごとに発表します。また、「暴風域に入る確率」を全国375の区域ごとの時間別(72時間先まで3時間刻みの各時間帯)と地図上の分布で示して6時間ごとに発表します。  また、24時間以内に台風になると予想した熱帯低気圧が北西太平洋域にある場合にも、台風の解析結果と24時間先までの予報を発表します。  イ.天気予報、週間天気予報、季節予報  天気は、日々の生活と密接にかかわっています。例えば、今日は傘を持って行った方がよいかとか、週末に予定している旅行はどんな服装をすればよいかといった時に、天気予報や週間天気予報等を上手に使っていただくと便利です。 @天気予報  今日から明後日までの天気予報には、「府県天気予報」、「地方天気分布予報」、「地域時系列予報」の三つの種類があります。  「府県天気予報」は一日の天気をおおまかに把握するのに適しています。  「地方天気分布予報」は、天気などの面的な分布が一目でわかるので、例えば府県天気予報で「曇り時々雨」となっていた場合、雨がどの地域でいつごろ降るのかといったことを把握するのに適しています。  「地域時系列予報」は、ある地域の天気や気温、風の時間ごとの移り変わりを知るのに便利な予報です。 A週間天気予報  週間天気予報は、発表日の翌日から一週間先までの毎日の天気、最高・最低気温、降水確率を、1日2回、11時と17時に発表しています。週間天気予報のような先の予報になると、今日や明日の予報に比べて予報を適中させることが難しくなります。このため週間天気予報では、天気については信頼度を、気温については予測範囲をあわせて示しています。信頼度は、3日目以降の降水の有無について、「予報が適中しやすい」ことと「予報が変わりにくい」ことを表し、予報の確度が高いほうから順にA、B、Cの3段階で表現します。気温の予測範囲は、「24℃?27℃」のように予想される気温の範囲を示しており、実際の気温がこの気温の範囲に入る確率はおよそ80%です。これらの情報によって、例えば同じ晴れ時々曇りという予報でも、どれくらいの確度の予報かを知ることができます。 B季節予報  季節予報には、予報期間別に、現在から2週間程度先までを予測する異常天候早期警戒情報、1か月先まで予測する1か月予報、3か月先までを予測する3か月予報、6か月先までを予報する暖・寒候期予報があり、それぞれの期間について、平均的な気温や降水量などを予報しています。平均的な気温や降水量などは、3つの階級(「低い(少ない)」、「平年並」、「高い(多い)」)に分け、それぞれの階級が出現する可能性を確率で表現しています。なお、「異常天候早期警戒情報」は、2週間程度先までの平年からの隔たりが大きな天候の可能性が高いと予測した場合に発表されます。それぞれの予報の内容と発表日時は表のとおりです。また季節予報で用いる予報区分は図の通りです。 ウ.船舶の安全などのための情報  船舶の運航には、台風や発達中の低気圧などによる荒天時の安全性のほか、海上輸送における経済性や定時性などの確保が求められます。  このため、日本近海や外洋を航行する船舶向けに、海上における風向・風速、波の高さ、海面水温、海流などの予報や強風・濃霧・着氷などの警報を、通信衛星(インマルサット)による衛星放送、ナブテックス無線放送、NHKラジオ(漁業気象通報)などにより提供しています。 @日本近海に関する情報  日本の沿岸から300海里(およそ560キロメートル)以内を12に分けた海域ごとに、低気圧などに関する情報とともに、天気や風向・風速、波の高さなどの予報、強風・濃霧・着氷などの警報を提供しています。これらの予報や警報などは、地方海上予報や地方海上警報として、ナブテックス無線放送(英文・和文放送)によって日本近海を航行する船舶に提供しています。なお、ナブテックス無線放送では、これらの予報や警報に加えて、津波や火山現象に関する予報や警報も提供しています。  主に日本近海で操業する漁船向けには、漁業気象通報として、台風、高・低気圧、前線などの実況と予想、陸上や海上における気象の実況情報を、NHKラジオを通じて提供しています。また、漁業無線気象通報として、天気概況や気象の実況情報、海上予報・警報などを、漁業用海岸局を通じて提供しています。  さらに、海上の警報の内容も記述された実況天気図や、海上の悪天(強風・濃霧・海氷・着氷)の予想も記述された予想天気図(海上悪天24時間予想図、同48時間予想図)、台風(120時間先までの進路予報及び72時間先までの強度予報)、波浪、海面水温、海流、海氷などの実況や予想などの図情報を、短波による気象庁気象無線模写通報(JMH)により提供しています。 A外洋に関する情報  「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)に基づき、気象庁の責任分担海域である北西太平洋(概ね赤道から北緯60度、東経100度から180度に囲まれる海域)を対象に、緯度・経度で地域を明示して、低気圧や台風に関する情報とともに海上の強風・暴風や濃霧の警報を、通信衛星(インマルサット)を介して、セーフティネット気象予報警報(無線英文放送)として船舶関係者向けに提供しています。 B鉄道の安全運行、電力の安定供給などに寄与するための情報提供  気象庁は、鉄道の安全な運行や電力の安定供給に寄与するため、鉄道及び電力関係機関への情報提供を行っています。また、火災の発生しやすい気象状況になった場合、都道府県に対して火災気象通報を実施しています。 C光化学スモッグなどの被害軽減に寄与するための情報提供  晴れて日射が強く、風が弱いなど、当日又は翌日に光化学スモッグなどが発生しやすい気象状況が予測される場合に、大気汚染に関する気象状況を都道府県に通報し、広く一般にスモッグ気象情報や翌日を対象とした全般スモッグ気象情報を発表しています。また、環境省と共同で光化学スモッグに関連する情報をホームページで提供しています。 D熱中症についての注意喚起の実施  一般的な注意事項として熱中症も含めた高温時における健康管理への注意を呼びかけることを目的として、異常天候早期警戒情報や日々の天気概況、気象情報の中でも、熱中症への注意の呼びかけを盛り込んで発表しています。なお、平成23年度夏期は、広く節電の取り組みがなされる中で、よりきめ細やかに熱中症への注意を呼びかけるため高温注意情報を発表しました(詳細は特集1の3.(4)を参照)。 コラム 船舶と気象庁の協力による気象情報の充実  陸上に比べて観測点が少ない海上の気象観測データは、天気図等の作成や気候変動の調査にとても重要です。そのため、国連の専門機関である世界気象機関(WMO)では、世界中の船舶からの気象観測データの提供が欠かせないものであるとしています。気象庁では、洋上を航行する船舶の協力を得て、船舶が航海中に観測した気圧、気温、風向風速などの海上気象データの収集に努め、天気図の他、台風、波浪、海況などの気象情報の作成に活用しています。  2010年は、洋上を航海する船舶から約170万通の気象観測データの通報がありました。 <国土交通大臣・気象庁長官表彰>  長年にわたり海上気象の観測通報に貢献した船舶に対して、国土交通大臣や気象庁長官がその功績をたたえ表彰しています。  2010年度は、「泉州丸」(エム・オー・エル・エルエヌジー輸送株式会社)が国土交通大臣から表彰されました。 <「泉州丸」安部船長から>  本船が長期間継続して海上気象観測通報を行ったことが評価され誇りに思うとともに、今後の励みになります。船舶の安全・効率運航を実践するには、船長以下航海士が付近及び航路上の海象・気象を把握しておかなければならず、それには天気図を含む気象情報が必要です。そしてその気象情報の基となる海上気象観測・通報が重要であることを認識しています。また、若い航海士に対して、海上気象観測・通報の意義を理解させながら、育てていかなければならないと感じています。 コラム 平年値が更新されました  平年値は、その時々の気象(気温、降水量、日照時間等)や天候(冷夏、暖冬、少雨、多雨等)を評価する基準として利用されると共に、その地点の気候を表す値として用いられています。  国連の専門機関である世界気象機関(WMO)では、1961?1990年のように西暦年の1の位が1の年から続く30年間の平均値をもって平年値とすることとしています。日本や欧米等の気象機関では、気候変動や観測点の加除等を考慮して、30年間の平均値を10年ごとに更新しています。  気象庁では、2001年から1971?2000年の観測値による旧平年値(2000年平年値)を使用してきましたが、2011年5月からは、1981?2010年の観測値による現平年値(2010年平年値)の使用を開始しました。平年値の作成においては、単純に30年間の観測値を平均するだけでなく、観測方法の変更や観測所の移転に対応した補正等を行い、現在の観測方法や場所に合致した統計値を作成しています。  2010年平年値の年平均気温は、2000年平年値と比べ全国的に高く、特に東・西日本では0.2?0.4℃高くなっています。また、年降水量も東日本で増えた地点が多くなっています。  平年値を利用することにより、農業やエネルギー、水資源、土地利用等のさまざまな分野において、気候に適した計画や対策を立てることができます。 Eエルニーニョ・ラニーニャ現象の監視と予測  エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の中央部から南米ペルー沿岸にかけての広い海域で、海面水温が平年より高い状態が、数年おきに半年から一年半程度続く現象です。一方、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象をラニーニャ現象と呼びます。エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、日本を含む世界の様々な地域で多雨・少雨・高温・低温など、通常とは異なる天候が現れやすくなります。  また、西太平洋熱帯域やインド洋熱帯域の海面水温の状態が日本や世界の天候に影響を与えていることが、近年明らかになってきました。  気象庁では、エルニーニョ・ラニーニャ現象や、西太平洋熱帯域・インド洋熱帯域の海洋変動に関する最新の状況と6か月先までの見通しを、「エルニーニョ監視速報」として毎月10日頃に発表しています。 F異常気象の監視  異常気象とは、一般には過去に経験した現象から大きく外れた現象で、人が一生の間にまれにしか経験しないような気象現象をいいます。大雨や強風などの激しい数時間の気象から数か月も続く干ばつ、冷夏などの気候の異常も含まれます。気象庁では、原則として「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節)において30年間に1回以下の頻度で発生する現象」を異常気象としています。  気象庁では、世界中から収集した観測データ等をもとに、わが国や世界各地で発生する異常気象を監視して、極端な高温・低温や大雨・少雨などが観測された地域や気象災害について、週ごとや月ごと、季節ごとに取りまとめて発表しています。また、顕著な現象、社会的な影響が大きいと思われる現象については、随時かつ速やかに、よりくわしい情報を発表しています。  ヨーロッパ東部からロシア西部では、2010年6月下旬から8月中旬の長期にわたって、上空の偏西風が北側に蛇行し、その南側は暖かい高気圧に覆われました。このため、ロシア西部付近を中心に異常高温、異常少雨となりました。7月はモスクワを中心として広い範囲で高温となり(左図)、下旬にはモスクワの日最高気温はたびたび35℃に達しました(平年値:約23℃)。 (2)気象庁の情報基盤システム  気象庁では、国内外の関係機関から気象などの観測データを収集し、これを解析、予測することで、警報・注意報などの防災気象情報を作成し、防災関係機関や報道機関を通して広く国民に伝達しています。  観測データの収集や情報伝達、解析や予測には気象資料総合処理システム(COSMETS)を使用しています。気象資料総合処理システムは解析や予測を担うスーパーコンピュータシステムと通信機能を担う気象情報伝送処理システムの2つのシステムで構成されています。  スーパーコンピュータシステムは、世界各地の観測データ、気象衛星(ひまわり)の観測データなどを使って気圧や気温など大気の状態を詳しく解析し、さらに解析結果から物理法則に基づくモデル計算により大気の今後の変化を予測します。  気象情報伝送処理システムは、最新の地上・高層気象観測や気象レーダー観測のデータ、沿岸波浪計や潮位計、船舶などによる海洋観測のデータ、震度観測データなどのほか、都道府県などが行う雨量観測や震度観測などのデータを収集しています。また、世界の気象機関が協力して運用する全球通信システム(GTS)の通信中枢として関係国と観測データの交換を行っています。これらの観測データ、解析・予測の情報、地震・津波や火山に関する情報は、国内の気象官署や防災関係機関、外国の気象機関などに提供するとともに、民間気象業務支援センターを通じて民間の気象事業者や報道機関などに提供しています。 コラム データの安定的な配信のために  気象情報伝送処理システムは、気象庁本庁(東京)と大阪管区気象台(大阪)の2つのセンターシステムを持ち、相互バックアップ機能を有しています。また、情報伝達経路となる国内基盤通信網も2重化しており、大規模災害時にも安定して各種観測データの収集や予報、防災情報などの伝達を継続できるように信頼性の向上を図っています。  気象庁本庁と大阪管区気象台は、互いに連携してバックアップ体制をとっており、いずれかのセンターシステムが停止した場合においても情報伝達への影響が最小となるよう非常時対応訓練を定期的に行い、万一の事態に備えています。 ○気象庁ホームページ  気象庁ホームページ(http://www.jma.go.jp/jma/index.html)では、気象庁の組織や制度の概要、広報誌などの行政情報をはじめ、気象の知識などの情報を提供するとともに、天気予報や気象警報・注意報、地震、津波などの防災情報を掲載しています。平成22年度は、1日当たり平均約1,000万ページビューのアクセスがありました。  また、過去の気象データを検索できるページや、過去の地震データを検索できる「震度データベース検索」なども公開しており、過去データの検索サイトとしても充実してきております。さらに、顕著な災害の発生時には、地震の回数・今後の見通しや雨の状況・今後の見通しなどの情報をはじめ、被災地の気象警報・注意報、天気予報などへのリンクを一元的にまとめ、被災者・復旧担当者支援のための情報として、気象庁ホームページに特設ページを開設し掲載しています。 コラム アンサンブル予報について  天気予報の基盤技術となっている数値予報は、現在の大気の状態を出発点(初期値)として、未来の状態を計算する技術です。初期値は観測データをもとに作成されますが、データの数が限られるとともに観測するときに誤差も伴うことから、それから得られる初期値にも誤差が含まれています。さらに、数値予報モデルを用いた予報の計算においても誤差が発生し、通常はより先の予報になるほど予報の誤差も大きくなっていきます。  気象庁では、数値予報の誤差が大きい数日よりも先の予報を行うために「アンサンブル予報」と呼ぶ手法を使用しています。アンサンブル予報では、あらかじめ誤差に相当する「ばらつき」を初期値に与えて多くの初期値を作成し、それぞれについて数値予報モデルを実行します。数値予報モデルを実行する際には、雲の取り扱いなど数値予報モデルの持つ誤差も一部考慮されます。こうして得られた多数の計算結果から、予報のおおよその傾向を調べたり、数値予報のばらつきの程度を予報の信頼度として利用することができます。アンサンブル予報では多数の予報計算を行うため、高速なスーパーコンピュータが必要になります。  下図に、アンサンブル予報による台風進路予報の例を示します。予報初期において「ばらつき」は非常に小さいものの、予報時間とともに徐々に拡大し、日本に接近する頃には関東の東海上から東海まで、広くばらついいていることがわかります。このアンサンブル予報は、週間天気予報、台風情報や季節予報などのもとになる数値予報技術として利用されています。 2 地震・津波と火山に関する情報 (1)地震・津波に関する情報の発表と伝達  地震による災害には、主に、地震時の揺れ(地震動)によるものと、地震に伴って発生する津波によるものとがあります。これらの災害を軽減するため、気象庁は、地震と津波を24時間体制で監視し、その発生時には、予測や観測結果の情報を迅速に発表します。地震発生直後の地震及び津波の情報は、防災関係機関の初動対応などに活用されています。 ア.地震に関する情報 @緊急地震速報(地震動警報・予報)  緊急地震速報は、地震の発生直後に、震源に近い地震計でとらえた観測データを解析して震源や地震の規模(マグニチュード)を直ちに推定し、これに基づいて各地での主要動の到達時刻や震度を予測し、可能な限り素早く知らせる地震動の予報及び警報のことです。強い揺れの前に、自らの身を守ったり、列車のスピードを落としたり、あるいは工場等で機械制御を行ったりして、被害の軽減を図ります。震度5弱以上の揺れを予測した際には、震度4以上の揺れが予想される地域に対し、緊急地震速報(警報)を発表し、テレビ・ラジオ・携帯電話等を通じてお知らせします。また、民間の予報業務許可事業者は専用端末等を開発し、利用者の希望する個別の地点の地震動の予報を音声や文字等でお知らせするサービスを行っています。 A観測結果を解析した情報  気象庁は、観測した地震波形などのデータから推定した震源の位置、マグニチュードや観測した震度(揺れの強さ)などの情報を迅速に発表しています。地震発生の約1分半後には、震度3以上が観測されている地域を示す「震度速報」を、その後、震源の位置や震度3以上を観測した市町村名など、観測データの収集にあわせて詳細な情報を発表します。  震度の情報はテレビやラジオなどで報道されるほか、防災関係機関の初動対応の基準や災害応急対策の基準として活用されています。 イ.津波に関する情報 @津波警報・津波注意報、津波予報、津波情報  地震と同時に発生する地殻変動によって海底面が大きく持ち上がったり下がったりすると、津波が発生します。気象庁は、海域で規模の大きな地震が発生し、重大な災害が起こるおそれのある大きな津波(高さ1メートル以上)が予想される場合には津波警報を、高さ0.5メートル程度で災害の起こるおそれのある津波が予想される場合には津波注意報を発表します。津波警報・注意報を発表した場合、津波の到達予想時刻・予想される津波の高さに関する情報なども発表します。さらに、沿岸で津波を観測した場合には、第一波の到着時刻、最大の高さなどを、津波観測に関する情報で発表します。  また、地震発生後、津波が予想されなかったり、予想されても災害が起こるおそれがない0.2メートル未満の高さの場合には、津波予報(若干の海面変動)を発表します。 ウ.地震防災対策強化地域判定会?東海地震予知のために?  気象庁は、東海地震の発生を予知し、国民の防災・減災行動に役立てるため、関係機関の協力を得て、東海地域とその周辺に展開された地震計やひずみ計などのデータを収集し、地震の前兆現象となる地震と地殻変動を24時間体制で監視しています。この観測データに異常が現れた場合、それが大規模な地震に結びつく前兆現象であるかどうかを緊急に判断するため、地震予知の専門学者で構成される地震防災対策強化地域判定会(以下、「判定会」)を開催し、異常現象が大規模な地震の前兆であるかの検討を行うことにしています。  委員が、緊急にデータの異常を判定するためには、普段からデータの変動状況を把握しておく必要があります。このため、毎月1回、定例の判定会を開催しています。 ◎ 判定会委員(平成23年1月1日現在) 会長 阿部勝征(東京大学名誉教授) 委員 島崎邦彦(東京大学名誉教授) 委員 吉井敏尅(日本大学文理学部教授) 委員 加藤照之(東京大学地震研究所教授) 委員 平田 直(東京大学地震研究所教授) 委員 吉田明夫(神奈川県温泉地学研究所長) 関係機関 国土地理院 独立行政法人防災科学技術研究所 独立行政法人産業技術総合研究所 (2)火山の監視と防災情報 ア.火山の監視  我が国には110の活火山があります(平成23年10月現在)。  気象庁では、このうち火山噴火予知連絡会(後述)によって選定された47火山については、関係機関の協力も得ながら、地震計、地形の変化を観測する傾斜計(用語集参照)、遠望カメラ及びGPS観測装置などによる常時観測体制を整備しており、気象庁本庁(東京)及び札幌・仙台・福岡の各管区気象台に設置された火山監視・情報センターにおいて24時間体制で火山活動を監視しています。また、各センターの火山機動観測班が、その他の火山を含めて計画的な調査観測を行っており、火山活動に特段の高まりが見られた場合には、必要に応じて現象をより詳細に把握するために観測体制を強化します。 イ.噴火警報・噴火予報  気象庁は、観測結果に基づき、噴火発生に伴って短時間で火口周辺や居住地域に到達し生命に危険が及ぶ火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等)の発生やその拡大が予想される場合に、警戒が必要な範囲(影響範囲)を付して噴火警報を発表します。警戒が必要な範囲に居住地域が含まれる場合は「噴火警報(居住地域)」、含まれない場合は「噴火警報(火口周辺)」(略称は「火口周辺警報」)として発表し、海底火山については「噴火警報(周辺海域)」として発表します。これらの噴火警報は、都道府県等の関係機関に通知されると直ちに住民等に周知されるとともに、必要な防災対応がとられます。噴火警報を解除する場合等には「噴火予報」を発表します。 ウ.噴火警戒レベル  噴火警戒レベルは、避難、避難準備、入山規制など、噴火時等にとるべき防災対応を踏まえて火山活動の状況を5段階に区分したもので、それぞれにキーワード(避難、避難準備、入山規制等)を設定して具体的な防災行動を分かりやすく表現したものです。噴火警戒レベルは、地元の自治体や関係機関等により構成される火山防災協議会において防災対応(避難指示・避難勧告、避難準備情報、道路規制等)について共同で検討を行い、市町村の地域防災計画等に噴火警戒レベルに応じた防災対応やその対象範囲などが定められた火山に導入されています。噴火警戒レベルが運用されている火山では、特にレベルを引き上げる噴火警報の発表時には、地元の市町村が迅速かつ確実に避難勧告等の対応をとることができ、噴火災害の軽減につながることが期待されます。  噴火警戒レベルは、火山噴火予知連絡会によって火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要とされた47火山のうち29火山に導入されており、これらの火山に対しては噴火警戒レベルを付して噴火警報等を発表しています。今後、そのほかの火山についても火山防災協議会において噴火警戒レベル導入に向けて共同検討を進めていきます。 エ.その他の火山現象に関する予報  噴火警報・噴火予報で扱う火山現象以外にも、火山現象に関する予報として降灰予報と火山ガス予報を発表しています。 オ.火山現象に関する情報  上記の警報・予報のほか、火山現象に関する情報を発表することにより、火山活動の状況等を周知しています。 カ.火山噴火予知連絡会  気象庁は、学識経験者や関係機関の専門家からなる火山噴火予知連絡会の事務局を担当しています。定例・臨時に開催される連絡会では、火山活動に関する総合的な評価が行われます。気象庁は、その評価結果を噴火警報等の発表に活用しています。 3 地球環境に関する情報 (1)地球温暖化問題への対応 ア.気温や海面水位の監視と地球温暖化に伴う気候などの将来予測  気象庁では、気温や海面水位の長期的な変化傾向を監視して、地球温暖化の現状に関する情報を発表しています。また、将来の気候を数値モデルによってシミュレーションを行い、地球温暖化に伴う気候の変化に関する予測情報を発表しています。  世界の平均気温については、全世界に展開する観測所の観測データや海面水温データを収集して、長期的な変化傾向を監視しています。また、日本国内の観測点のうち、都市化の影響が少なく、特定の地域に偏らないように選定された17か所の観測データをもとに、日本の年平均気温の長期的な変化傾向を監視しています。  さらに、海面水位については、潮位や地盤変動の観測から得られたデータに加え、海洋気象観測船で観測した水温・塩分のデータや、人工衛星から観測された海面高度データをもとに、海洋の数値モデルも活用して海面水位の変動の実態を分析して、地球温暖化による海面水位の上昇について情報を発表する計画です。  気候変化の予測については、今後の世界の社会・経済動向に関する想定から算出した温室効果ガス排出量の将来変化シナリオに基づいて、日本周辺の気候をきめ細かくシミュレーションができる気候モデルを用い、21世紀末頃における我が国の気温や降水量などの変化を計算しています。得られた予測結果は、「地球温暖化予測情報」として発表し、地球温暖化による影響の評価や適応策の検討に活用されています。  また、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、気候変動に関して、数年ごとに最新の科学的知見を取りまとめた評価報告書を発表しており、これらの成果は、IPCCが平成25?26年(2013?14年)に公表する予定の「第5次評価報告書」にも貢献する予定です。 (2)環境気象情報の発表  気象庁では、オゾン層保護に資するための情報のほか、黄砂や紫外線対策に役立つ情報の提供を行っています。 ア.オゾン層・紫外線の監視と予測  気象庁は、自ら実施している国内及び南極昭和基地のオゾン層・紫外線の観測結果に加え、収集した地球観測衛星データ等も利用して、オゾン層破壊の実態を調査解析しています。  これらの観測・解析の成果は、気象庁ホームページで公表するほか、オゾンや紫外線の長期変化傾向などの調査結果を加え「オゾン層観測報告」として毎年刊行され、オゾン層保護対策などの資料として活用されています。  また、毎日の生活の中での紫外線対策を効果的に行えるように、有害紫外線の人体への影響度を示す指標であるUVインデックスを用いた紫外線の翌日までの予測情報を気象庁ホームページで毎日発表しています。 イ.黄砂の監視と予測  黄砂は、ユーラシア大陸の黄土高原やゴビ砂漠などで風によって上空高く舞い上げられた無数の細かな砂じんが、上空の風に乗って日本へ飛来するもので、主に春に見られます。黄砂が飛来すると、洗濯物や車が汚れるといった一般生活への影響があるほか、濃度が高くなるとまれに交通障害の原因となる場合があります。  気象庁では、平成16年1月から、黄砂が日本の広域に渡って観測され、その状態が継続すると予測される場合、「黄砂に関する気象情報」を発表して注意を呼びかけています。また、気象庁ホームページでは毎日の黄砂の観測・予測結果を掲載しています。なお、平成20年4月に環境省と共同で「黄砂情報提供ホームページ」を開設し、黄砂に関する観測から予測まで即時的な情報を簡単に取得できるようにしました。 ウ.ヒートアイランド現象の監視・実態把握  都市化の進んでいる東京や大阪などの大都市圏を中心に、都市の中心部の気温が周辺の郊外部に比べて高くなる「ヒートアイランド現象」が生じています。ヒートアイランド現象による大都市圏での夏季の著しい高温は、熱中症の増加や光化学オキシダント生成の助長などを通じて人々の健康への被害を増大させるほか、局地的豪雨の発生との関連性が懸念されています。  気象庁では、都市気候モデルを用いたシミュレーションによって、水平距離4キロメートルごとの気温や風の分布の解析を行っています。解析の成果は、最高・最低気温や熱帯夜(日最低気温25℃以上)日数の観測値の経年変化などとともに、「ヒートアイランド監視報告」として平成16年度(2004年度)から公表しています。これまでに、関東、東海、近畿地方の三大都市圏及び九州地方北部を対象として都市化の影響による気温上昇の様子や気温分布に大きな影響を与える都市上空の風の鉛直構造などを示しました。 (3)海洋の監視と診断 ア.海洋の健康診断表  気象庁では、海洋の情報をとりまとめて「海洋の健康診断表」として定期的に気象庁ホームページで発表しています。この中では、地球温暖化に伴う海洋の変化や、海域ごとの海水温、海面水位、海流、海氷、海洋汚染の状態、変動の要因、今後の推移の見通しについて、グラフや分布図などを用いてわかりやすく解説しています。平成22年度には日本近海の診断範囲を拡大し、関東沖の情報を追加しました。 コラム 潮位の副振動(あびき)に備えて  九州西岸では、主に冬から春先にかけて、数分から数十分の周期で潮位が大きく変動する副振動(あびき)という現象がみられます。この現象が発生すると、係留小型船舶の流出、港湾施設の破損、低地への浸水などの被害をもたらすことがあります。あびきの発生を予測することは難しいため、気象台では潮位を常に監視し、急な潮位の変動を観測した際には直ちに「副振動に関する潮位情報」を発表して関係機関に伝えます。  こうした潮位情報がどのように活用されているのか、特に大きな副振動が発生する長崎港において、海上交通の安全確保の業務を担っている長崎海上保安部交通課吉村安全係長にお尋ねしました。 ○長崎海洋保安部交通課 吉村安全係長より  長崎港では“副振動等対策実施基準”が定められ、気象台から副振動に関する潮位情報が発表され災害の発生が予想される場合、長崎海上保安部は港則法に基づき勧告を行い、被害の発生を防いでいます。勧告等の情報は専用FAXやメールなどを用いて海事関係者に伝達され、港湾工事や船の荷役作業の見合せなど作業員の安全確保、タンカーと油槽所をつなぐパイプラインの破損防止等の安全対策、造船所のドック入り作業時や係留船の異常な動きによる事故の防止などに活用されています。 コラム 海氷情報……海難防止をはじめ観光や野生動物の生態調査に利用  札幌管区気象台では、オホーツク海の海氷が北海道に近づく12月下旬から4月下旬にかけて「北海道地方海氷情報」を発表しています。この情報は海難防止などを目的とし、海氷分布の実況と一週間程度の予想を記述していますが、海氷が冬の観光資源としても注目されていることや、ワシやアザラシ等の野生動物の生態にも影響を及ぼしていることから、観光や学術の分野でも活用されています。 ○利用者の声:斜里町立知床博物館 中川 元(はじめ)館長  「オホーツク海の周辺やサハリンから北海道に越冬のために渡ってくるワシ類の調査資料として、1980年代から海氷情報を利用しています。これまでの調査では、オホーツク海の海氷分布や、オホーツク海に流入する河川や沿岸湖沼の結氷状況が、ワシ類の越冬開始時期や生息分布に深く関係しているとの結果が得られています。また、来館者(観光客や研究者)への情報提供として、展示ブースの一角に『北海道地方海氷情報』を掲示しています。」 4 航空の安全などのための情報  航空機の運航においては、空港での離着陸時を含めて気象の影響を常に受けているため、その安全性、快適性、定時性及び経済性の確保には、気象情報が重要な役割を担っています。気象庁は、国際民間航空機関(ICAO)や世界気象機関(WMO)が定める国際的な統一基準に基づいて国際航空のための気象業務を行うとともに、国内航空のための独自の気象業務も実施しています。 (1)空港の予報・警報に関する情報  航空機の飛行計画を立てる際、出発前に、出発地の空港、目的地の空港、そして天候不良など何らかの理由で目的地の空港に着陸できない場合の代替空港の気象情報が必要となります。このため気象庁は、空港の風や雲の量・高さ、視程(見通せる距離)、天気などの詳細な予報(飛行場予報)を27時間先まで、国際定期便などが運航している36空港に対して発表しています。飛行場予報は、国内外の航空会社の運航管理者・パイロットをはじめとする航空関係者へ提供し、運航計画などに利用されています。また、飛行場予報を発表している空港に対しては、強風や大雪などにより地上の航空機や空港施設及び業務に悪影響を及ぼすおそれがある場合、「飛行場警報」を適宜発表し、航空関係者に対して警戒を促しています。  このほか、各空港では、航空管制官やパイロットなどの航空関係者に対して、気象状況や今後の予想について解説などを行っています。 (2)上空の気象状況に関する情報  飛行中の乱気流や火山灰との遭遇、機体への落雷や着氷の発生は、航空機の運航の安全性と快適性に大きく影響します。  気象庁は、このような大気現象について日本や北西太平洋上空の監視を行い、雷電、台風、乱気流、着氷及び火山の噴煙に関する観測・予測情報を「シグメット情報」として随時発表しています。また、約6時間先のジェット気流の位置や悪天域を図によって示した「国内悪天予想図」や、悪天の実況を解説した「国内悪天解析図」を定期的に提供して、運航計画の支援を行っています。  平成22年(2010年)4月、アイスランドにある火山が噴火し、その火山灰がヨーロッパ各地に広がることが予想されたことから、約1週間にわたって航空機の飛行が制限され、約10万便の航空機が欠航しました。日本は世界有数の火山国であり、桜島など、空港の近くに活発に活動する火山が存在する例もあります。そのため、航空機の安全な運航を確保するうえで、火山の情報は大変重要です。気象庁は国際民間航空機関(ICAO)からの指定を受けて、東京航空路火山灰情報センター(VAAC)を運営しています。同センターでは、東アジア及び北西太平洋における火山噴煙の状況を監視し、火山灰の分布に関する観測・予測情報(航空路火山灰情報)を国内外の航空関係者に提供しています。 (3)航空関係者に利用される航空気象情報  気象庁は、空港内などで業務を行っている航空関係者に対して、飛行場の気象観測の結果や予報、上空の風や気温、悪天の予想図などの気象情報を、提供しています。空港の観測値や予報などの航空気象情報は、国内外の航空関係者に提供しているほか、主要な空港や空域の気象情報は、飛行中の航空機に対して、短波放送や国土交通省航空局の無線通信(対空通信)などを通じて提供しています。  また、日本の空の交通を計画的に管理する業務を行っている航空局航空交通管理センター(福岡市)では、管制官と同じ運用室で、気象庁の航空交通気象センターの予報官が、管制官などに対して航空交通管理のために必要な気象情報の提供や解説を行っています。 (4)より精度の高い予測を目指して  東京国際空港では平成22年(2010年)10月21日から4本目の滑走路の供用が開始されました。今後、関東空域における航空交通量は年々増加することが見込まれています。このような状況下で、もし東京国際空港が強い横風や雷雨などの悪天によって着陸ができなくなるような気象状態となった場合、多数の航空機が空中で待機することとなり、航空機の円滑な運航を保つことが極めて困難になることが予想されます。このため気象庁は、東京国際空港などの飛行場予報の精度向上を図るべく、飛行場の予報に適した緻密な数値予報モデル(用語集参照)の開発に平成20年度から取り組んできました。この技術開発の成果は、平成24年に運用を開始する航空予報用スーパーコンピュータに取り込まれ、細かい地形を表現することができるため、風や気温、降水などの予測精度向上が期待されます。 (5)ISO9001品質マネジメントシステムの導入  航空気象業務は、国際民間航空機関(ICAO)や世界気象機関(WMO)による国際的な要求事項や利用者からの要求事項を満たした気象観測や予報などを行う必要があります。このため、気象庁では平成22年4月から航空気象部門にISO9001に基づく品質マネジメントシステムを導入して、航空気象情報の適時適切な提供を継続するとともに、利用者の満足度向上を目指した活動を行っています。 コラム 航空会社・航空局の協力による航空気象情報の充実  飛行中のパイロットにとって、乱気流を避けることは乗客・乗員の安全を確保するうえで極めて重要な情報です。  パイロットによる乱気流などの報告は、航空局の航空管制官や航空会社の運航管理者などが無線通信などによって受けており、すべて気象庁に通報されてきます。乱気流については、揺れていないという報告も入れると一日3,000通以上通報されており、パイロットによる報告はいわば「空のアメダス」のような役割を担っています。気象庁が発表する乱気流などの観測・予測情報は、航空局や航空会社から必要に応じてパイロットへ無線通信などを通じて伝達され、航空機の安全な運航に役立っています。 <「日本航空株式会社」運航管理者から>  航空機は大気中を運動することから、常に気象との関わりを持っています。従って、大空を飛行する航空機の運航にとって「気象」は必要かつ不可欠な存在です。また、通常の生活を営む上ではさほど問題にならない程度の風の変化や雲の高さの変化なども航空機を運航する上では、離着陸に影響を及ぼしたり、機体に揺れを発生させたりする場合がありますので、より詳細な気象の監視が必要となります。  弊社では一日約700便の航空機の運航を東京のオペレーションコントロールセンターで管理していますが、一便一便の飛行計画を立てる際には空港の気象状況に加え、航路上の気象状況や揺れなどの悪天要素を的確に把握し、状況変化の推移を予想することが重要です。また、飛行中の航空機に対しては、乱気流による揺れの影響を最小限にとどめる、或いは的確に対処できるよう常に最新の気象情報や状態を監視するなどして安全で快適な運航の実現に努めています。  こうした際には、気象庁の観測情報や予報情報をフルに活用しています。特に近年は詳細かつ精緻な航空気象用の数値予報データなども提供され、気象状況を把握し、予想する場合などに大変役立っています。 5 民間の気象事業  気象等の現象は、交通、食品、衣料等様々な産業に影響を与え、国民の生活に密接にかかわっています。一方、インターネット、デジタル放送、携帯端末、高速通信回線等、情報通信技術の目覚ましい発展と相まって、多くの国民が、既製品的な情報を一方的に受けるだけでなく、自らの判断で必要とする情報を取捨選択できる環境が整ってきました。  国民のニーズは、今後、より多様化・個別化することが見込まれることから、民間気象事業者による、最新の情報通信技術を活用した幅広いニーズに対応した気象サービスの提供が欠かせません。  気象庁は、国民が安心して民間気象事業者の予報を利用できるよう予報業務の許可制度、気象予報士制度を設けるとともに、このような民間気象事業者の活動を支えるため、受益者負担の原則の下、民間気象業務支援センターを通じて、気象庁が保有する情報の提供及び支援を行っています。 (1)予報業務の許可制度  民間気象事業者のサービスは、創意工夫により様々な取り組みがなされていますが、サービスを利用する国民の側からみると、その精度や提供主体の技術力について判断することは困難です。  このため、気象庁では、民間気象事業者が、気象や波浪、地震・火山等の現象を予報する場合には、警報等の防災気象情報との整合性や、国民の期待する「正確な気象情報の提供」を確保できるよう、あらかじめ気象庁長官がその者の予報業務に必要な要員(気象予報士等)及び施設等が備わっていることを確認する「予報業務許可制度」を設けています。 (2)気象予報士制度  予報の精度は、現象の予想をどのような方法で行うかに左右されます。気象や波浪等の現象の予想には、数値予報資料の解釈など高度な技能を要することから、民間気象事業者が気象などの予報を行う際には気象予報士に予測を行わせることを義務付けており、これにより予測の精度を担保しています。気象予報士は、予測資料や観測の成果を適切に利用し、現象の予想を的確に行う技術があると気象庁長官が認める国家資格で、平成23年11月1日現在、8,258人が登録されています。また、気象予報士は、民間気象事業者が行う予報業務の中核的となる技術者だけでなく、報道等を通じた解説や防災関係者・一般住民を対象とした講演会等、様々な場面で防災知識の普及・啓発に貢献しています。  なお、地震動と火山の現象の予想には、気象予報士ではなく、気象庁長官の定める技術基準を満たすことで、民間気象事業者が行う予報の精度を担保しています。 (3)民間事業者等に対する支援  気象庁が保有する観測・解析・予報等の成果及びこれらの作成過程で得られる数値予報資料や解説資料等の気象情報を、受益者負担の原則の下、民間気象業務支援センターを通じて民間事業者等へ提供しています。これら、気象庁の保有する気象情報は、民間事業者における多様な活動の基盤となっています。  また、数値予報等、気象庁による予測技術の高度化に伴い、予報業務を行う民間気象事業者の技術基盤の確保と高度化が益々必要となっていることから、気象庁では、予報業務を行う民間気象事業者を対象とした講習会を開催する他、民間気象業務支援センターや?日本気象予報士会が行う講習会等に講師を派遣するなど必要な協力と支援を行っています。 第2章 気象業務を高度化するための研究開発 1 大気・海洋の予測を支える数値予報技術 (1)数値予報とは  警報・注意報や各種の天気予報の発表にあたっては、将来の大気の状態を予測する必要があります。大気や海洋の温度や流れなどの状態は、様々な物理や化学の法則(下図参照)に従って変化していますので、これらの法則を定式化してコンピュータで計算することで、大気などの「今」の状態から「将来」を予測することができます。この手法は「数値予報」と呼ばれ、気象庁の予報業務の根幹をなす技術となっています。  数値予報のためのコンピュータのプログラムを「数値予報モデル」と呼びます。数値予報モデルには、予測する期間や対象領域に応じた様々な種類があります(本項「(3)数値予報モデルの現状」参照)。いずれのモデルも、大気や海洋を水平方向・鉛直方向に格子状に区切り、それぞれの格子での気温や風、湿度などの将来の状況を予測します。  気象庁は、予測精度の向上のため、数値予報モデルの開発・改良の不断の努力を重ねています。また、数値予報のための膨大な計算を短時間に処理するため気象庁では昭和34年(1959年)に我が国の官公庁として初めて科学計算用のコンピュータを導入したのをはじめ、常に世界最高レベルのコンピュータを導入してきました。 (2)数値予報の技術開発と精度向上  きめ細かく、高い精度の防災気象情報や天気予報を作成するためには、その基礎となる数値予報の精度向上が不可欠です。  細かい現象の予測には、計算を行う格子の間隔(分解能)を細かくすることが必要です。このため、膨大な数の格子での計算を高速化する方法や、大気中の雨や雲の状態をより精度良く予測するため、雲が発生する過程などの計算方法(物理過程)の開発に取り組んでいます。  また、数か月以上先の予測には、大気だけでなく海洋の影響及び大気と海洋の相互作用の効果が大きくなることから、大気と海洋を同時に取り扱う数値予報モデルが必要となります。  さらに、世界中から様々な観測データを集めて「今」の大気の状態を精度よく解析するためのデータ同化技術の開発も併せて行っています。特に、人工衛星、航空機、ウィンドプロファイラ、ドップラーレーダーなどから刻々と送られてくる観測時刻の異なるデータをより有効に利用する手法(4次元変分法)の開発改良に重点的に取り組んでいます。  スーパーコンピュータの性能向上や数値予報モデルの開発改良がすすみ、数値予報の精度は目覚ましい進歩をとげてきました。気象庁は、数値予報モデルの分解能の向上や物理過程の改良、4次元変分法の導入などデータ同化技術の改善、新たな観測データの利用開始など、多くの技術開発を行ってきました。その結果、数値予報の誤差はこの15年間で3分の2に激減するなど、飛躍的に精度が向上しました。全球モデルは世界の主要国が開発・運用し、その精度を互いに競い合っていますが、その中で気象庁は世界のトップグループに入っています。 (3)数値予報モデルの現状 ●全球モデル  「全球モデル」は、地球全体を対象として大気の状態を予測する数値予報モデルです。気象庁では、全球モデルを、短期予報(明日・明後日の予報)、週間天気予報や季節予報、航空路や海上予報など地球上の広い領域を対象とする予報に利用しています。  週間天気予報や季節予報では、予測時間が長くなるとともに予測誤差が大きくなり、断定的な予報が困難になります。この対策として、初期値に人工的にわずかなゆらぎを加えるなどして多くの予測を行う「アンサンブル予報」という手法を使用しています。 ●メソモデル  「メソモデル」は、日本周辺などの限られた領域を対象として、大雨や暴風などの災害をもたらす比較的小さな現象の予測を行う数値予報モデルで、警報・注意報など防災気象情報の作成や降水短時間予報、飛行場予報などに利用しています。メソモデルでは、計算を行う格子を細かくし、積乱雲に伴う上昇気流や、水蒸気の凝結、雨や雪・あられなど降水粒子の発生・落下など雲の中で発生する現象を精密に取り扱っています。 ●季節予報モデル  1か月予報や異常天候早期警戒情報には、気象庁全球大気モデルをもとにした数値予報モデルが使用されています。一方、1か月を超える時間スケールでは、エルニーニョ・ラニーニャ現象等のように大気のみならず、海洋変動の予測も必要となるため、大気と海洋を一体として予測する大気海洋結合モデルを用いており、3か月・暖寒候期予報やエルニーニョ予測に利用されています。 ●波浪モデルと高潮モデル  「波浪モデル」は、気象モデルで予測された海上風を用いて波浪の予測を行うモデルです。予測結果は、船舶の安全航行や海岸の安全を目的として、波浪警報・注意報などの防災気象情報や、波浪予報などに利用されています。また「高潮モデル」は、台風などによって発生する高潮を予測するモデルで、予測結果は、沿岸における浸水災害の可能性の判断や、高潮警報・注意報の発表に利用されています。 ●物質輸送モデル  地球環境や気候に影響する二酸化炭素やオゾン、健康に影響する黄砂などの監視と予測のため、これらの物質の、風による移動・拡散、雨などによる地上への降下・沈着、化学反応や光化学反応による生成・変質・消滅などの過程をモデル化し、大気モデルに組み込んだ「物質輸送モデル」や「化学輸送モデル」を利用しています。 (4)地球温暖化予測の研究開発  気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(2007年)では、23の気候モデルによって行われた、20世紀の気候変化再現実験と温暖化予測実験の結果が大きく寄与しました。しかし、当時のほとんどの気候モデルは、エーロゾルや炭素循環の変化を直接扱うものではなく、これらの影響は個別に評価されてきたことが、予測の大きな不確実性の要因となってきました。  そこで不確実性の低減や理解のため、これまで気候モデルでは扱ってこなかった様々な過程を包括的に扱う「地球システムモデル」によって温暖化予測を行う取り組みが世界中でなされています。  気象研究所でも、最新の大気モデルと海洋モデルを結合して新たに開発した気候モデルに、エーロゾル、オゾン、陸域生態系及び海洋生物の効果を表現するモデルを組み合わせた地球システムモデルを開発しました。現在このモデルを用いた温暖化予測実験が行われており、IPCC第5次評価報告書に貢献することが期待されています。また、日本の詳細な温暖化予測を可能とする高解像度の地域気候モデルを開発し、気象庁の温暖化予測を通じて日本域の温暖化対策への貢献が期待されています。 2 これからの観測・予測技術 (1)Kuバンドレーダーなどを用いた局地的大雨の解明  短時間に急激に発達し、局所的大雨をもたらす積乱雲及びそれに伴う強雨・突風現象をいち早く発見し、迅速で的確な防災情報を発表するためには、積乱雲の発生・発達の仕組みに関する知識や降水等に関する観測・監視技術の向上が必要となります。  このため気象研究所では、降水の強さ、風、雨滴・氷粒の区別や形状等を、10メートル程度の分解能で1?2分ごとに立体的に観測できるKuバンド(15ギガヘルツ帯)レーダーや、探知範囲の広いCバンド(5ギガヘルツ帯)二重偏波ドップラーレーダーを用いた観測を行うなど、積乱雲の発生・発達や局地的大雨の発生する仕組みの解明に向けた研究に取り組んでいます。 (2)今後の数値予報技術  気象庁では現在、航空機の安全運航や気象災害の防止に役立てることを目的として、水平分解能2キロメートルの数値予報モデル「局地モデル」の開発に取り組んでいます。このモデルでは、細かい地形や積乱雲をより適切に表現することができるため、風や気温、強い降水等の予測精度向上が期待されます。  平成22年台風9号が関東地方に接近した際のモデルによる予測の違いを下図に示します。このときは、千葉県北東部から静岡県東部に至る関東の広い範囲で強い雨が観測されましたが、メソモデル(水平分解能5キロメートル)よりも局地モデルの方が、より実際に近い降水を予測していることがわかります。  また、局地モデルでも大雨の発生場所や時間を的確に予想するのは難しいので、数値予報の結果だけでなく観測データも用いて、一刻も早く予警報を発表できるための大雨予測技術の確立に向けた調査研究も行っています。 コラム THORPEX(ソルペックス)  世界気象機関(WMO)は、顕著現象の機構解明や、1日先から2週間先までの予報精度向上を目的とした「観測システム研究・予測可能性実験計画(THORPEX)」を十年計画で実施しており、気象庁も積極的に参加しています。  その大きな活動に、気象庁が各国と協力して2008年に実施した「THORPEX太平洋アジア地域観測計画」があります。これは、台風周辺で航空機や観測船、気象衛星等による特別観測を集中的に行い、予報へのインパクトを見るもので、このような観測データを加えると、台風の進路予報の精度が高まる場合があることが実証されました。  また、各国が行うアンサンブル予報の結果を持ち寄り、より精度の高い予報作りに取り組む「THORPEX双方向グランド全球アンサンブル」も実施されています。気象庁も予測データを提供するとともに、これらのデータから台風予測信頼度情報の作成や利用について研究しています。  気象庁では、信頼性の高い予測情報を作るための研究を世界各国と協力して行っています。 コラム Kuバンドレーダー  気象レーダーによる観測結果は、気象庁ホームページやテレビの気象情報を通じて提供されるほか、天気予報や降水・雷・竜巻発生確度ナウキャストといった情報の作成に利用されるなど、今や欠くことのできない気象観測データの一つとなっています。  気象庁では、Cバンド(周波数5ギガヘルツ(GHz)帯の呼称)の周波数帯の電波を使った気象レーダーを全国20か所に配備・運用し、日本全国をくまなく観測しています。  一方、近年頻発した局地的な短時間大雨等による災害を受けて、局地的大雨の発生時に見られる降水の特徴について詳細な解析を行い、気象レーダー観測や気象予報の技術向上に反映させることが求められています。  このため、気象研究所ではCバンドよりも周波数の高いKuバンド(周波数15ギガヘルツ(GHz)帯の呼称)のレーダーであるKuバンドレーダーを使用して、局地的大雨を発生させる積乱雲の詳細な発生・発達・衰弱過程を調べる基礎的研究に取り組んでいます。  Kuバンドレーダーは、雨による電波の減衰が強いため、探知範囲が狭いという短所がありますが、Cバンドレーダーに比べて、1桁以上高い分解能を持ち、短時間で3次元的な観測が可能であるという特徴があり、積乱雲による局地的大雨の特徴や前兆を詳しく調べることができます。全国をくまなく観測するためのCバンドのレーダーと近距離を高い分解能で高速に観測ができるKuバンドレーダーの両者の長所を活かすことで、局地的大雨の観測及び予測技術の向上に資すると期待されています。 3 地震・津波・火山に関する技術開発 (1)地震の実態を即時的に把握するための技術開発  大きな地震による被害や津波の状況をより正確かつ速やかに把握し、防災活動を迅速に立ち上げるためには、地震断層の広がりや、大きな破壊の発生位置など、その地震の実態をいち早く知る必要があります。従来これらの地震の実態の把握には、数時間以上の調査が必要でしたが、気象研究所では、地震波を用いて20分以内で把握するための技術開発を行っています。図は「平成15年(2003年)十勝沖地震」の大きな破壊が発生した場所を推定したものです。 (2)津波警報・注意報の発表・解除に関する技術開発  津波警報・注意報の発表や解除の精度を向上させるためには、津波の発生源をより精度よく推定するとともに、津波が時間とともに減衰する様子を詳細に把握することが重要です。また、沖合で実際に観測された津波データを活用することも重要です。  気象研究所では、巨大地震の発生により津波が発生するメカニズムを調査したり、津波の減衰の仕方を経験的・理論的に予測する手法を開発しています。また、沖合のGPS波浪計や、さらに沖合の海底津波計のデータを津波予測に活用するため、沖合と沿岸の津波の高さの関係の経験則や、沖合の観測波形データに基づいた数値計算により、沿岸における津波の波高・到来時刻を予測する研究を行っています。 (3)火山灰の監視・予測のための技術開発  火山の噴火により引き起こされる災害の一つに火山灰による災害があります。大気中を漂う火山灰は航空機の運航に支障を与えるばかりか、健康、農業、産業、交通など私たちの生活に影響を及ぼすことがあります。時には数千メートルの高さまで立ち昇る噴煙からもたらされる火山灰は、その時の風や雨といった気象状況により火口から遠く離れたところに到達することがあります。このため火山灰の振る舞いを予測するには、噴火の規模や火山灰雲の広がりを正確に捉えることと、精度よい気象予測がポイントになります。  平成21年(2009年)2月2日1時51分に発生した浅間山の噴火では、関東地方南部まで降灰が確認されましたが、実際に降灰が確認されたのは、降灰予報よりも広い地域にわたっていました。この噴火に伴う火山灰雲は、レーダーやひまわり6号で捉えられており、これらの観測データを活用することにより、降灰量の予測が改善することが期待されています。  気象庁は、降灰予報の精度向上や降灰量の予測に向けて、気象衛星やレーダーを活用した噴煙監視方法や、数値予報を応用した火山灰拡散モデルの技術開発を行っています。 4 開かれた研究体制?大学・研究機関と連携した技術開発?  数値予報モデル開発の精度を向上させるためには、最先端の知見や研究成果を活用することが必要です。このため気象庁は、国内の大学や研究機関はもとより諸外国の気象機関などとも常に意見交換を重ねて技術開発に努めています。  中でも全球モデルは、天気予報や季節予報だけでなく、気候研究や地球温暖化研究など幅広く用いられていることから、モデルの開発や性能評価を天気予報と気候予測の両方の立場から取り組む「シームレス化」が世界の流れとなっています。また、モデル開発はスーパーコンピュータや計算科学の進展と表裏一体であり、日本のみならず世界のスーパーコンピュータ計画には、必ずと言ってよいほど気象モデルの開発プロジェクトが関係しています。また、数値予報の精度向上のためには、衛星観測等を含む観測システムネットワークによって予測精度の向上をどの程度達成できるかを見極めることが重要です。このため、世界中の数値予報機関と衛星運用機関との連携が深められており、気象庁もこれらの連携活動に積極的に参加しています。  気象庁では、気象分野の研究発展と人材育成を図るため、大学等の研究機関と約90件の共同研究を実施しているほか、日本気象学会との間で「気象研究コンソーシアム」を実施しています。「気象研究コンソーシアム」の枠組みでは、気象庁が研究者に提供した予測データや気象衛星データで、突風や豪雨、雪氷災害の予測、熱帯気象、大気中の粒子や微量ガス成分の気候への影響等の研究が行われ、その成果は、気象庁が発表する予報や黄砂・紫外線情報等の精度向上に活用されています。また地震・津波分野においても、共同研究の成果が、緊急地震速報の実用化等の新たな情報として結実しています。 コラム 大学との共同研究で予報精度向上  気象庁は、京都大学防災研究所との共同研究の成果を1か月予報の精度向上に結び付けることに成功しました。  1か月予報などでは、初期値に人工的にわずかなゆらぎ(初期摂動)を加えた多くの予測(アンサンブル予測)を行い、予測値のばらつき具合から、確率情報を作成しています。初期摂動の与え方が予測の信頼性を左右するのですが、以前は日本の天候に大きく影響する熱帯大気の特性を取り入れた摂動をつくるのは困難でした。  気象庁は、平成17年から京都大学防災研究所の向川均教授のグループと共同で、プログラムの改良や熱帯域の予測結果の解析を行い、初期摂動を作る手法の改良に成功しました。  その成果は、平成19年3月には1か月予報業務に取り入れられ、特に熱帯地域を中心とする予報精度の向上に大きく寄与しました。  共同研究をリードした向川教授は「これは現実の大気現象の解析が研究成果につながった好事例。共同研究が気象庁の業務に応用できて大変うれしい。」と述べています。 コラム 天気予報と太陽光発電 (産業技術総合研究所太陽光発電工学研究センター研究員大関崇氏より)  天気予報と太陽光発電、これまで関係がありそうでなかった両者ですが、二つの技術が将来のエネルギーネットワークの中で大きな役割を果たそうとしています。太陽光発電は、地球温暖化、エネルギーセキュリティ、そして国際経済を支える技術として将来のエネルギー供給源の一翼を担うことが期待されています。我が国では、経済産業省や環境省の各種ロードマップにおいて将来のエネルギーネットワークを描いていますが、太陽光発電への期待は大きく非常に高い導入目標が掲げられています。現在、約3GWの太陽光発電が導入されていますが、2020年には現状の約10倍(28GW)、2030年には約20倍(53GW)が具体的な目標値です。  しかしながら、火力発電所など一般の発電設備の多くが出力を制御できるのに対し、太陽光発電は、季節・時間・天候などにより出力が大きく変動します。そのため、太陽光発電を大量に導入した場合、電力会社が現状調整している発電と消費のバランスを保つことが困難になることが予想されており、大量導入が出来なくなる可能性があります。太陽光発電の変動にあわせてエネルギーネットワークを制御するためには、一定の精度で太陽光発電の発電量を“事前に予測すること”が重要になります。ここでの“事前の予測”とは、前日に約1時間ごとの発電量を予測することになります。そこで、必要となるのが天気予報に利用する技術となります。  天気予報を行うための技術により気象パラメータを予測し、それらを用いて太陽光発電の発電量予測を行う技術が期待されています。平成22年度より新エネルギー・産業技術総合開発機構のプロジェクトにおいて、産業技術総合研究所、気象庁気象研究所、日本気象協会、岐阜大学、東京大学の共同にて広域エリアの太陽光発電システムの発電量予測技術の研究開発が進められています。 第3章 気象業務の国際協力と世界への貢献  日々の天気予報や警報・注意報の的確な発表のためには、全世界の気象観測データや技術情報の相互交換など国際的な協力が不可欠です。我が国の気象庁を含む世界各国の気象機関は、世界気象機関(WMO)等の国際機関を中心とした連携体制や、近隣諸国との協力関係を構築しています。 1 世界気象機関(WMO)を通じた世界への貢献  世界気象機関(WMO)は、世界中の気象等の観測とデータの収集、配布を促進し、また気象や気候の情報を改善させることなどを任務として活動している国際連合の専門機関です。気象庁は、WMOと協力して、国際会議開催やWMO事務局への専門家の派遣、国際的なセンター業務を担当するなど、活発に活動しています。 2 国連教育科学文化機関(UNESCO)を通じた世界への貢献  UNESCO政府間海洋学委員会(IOC)は、世界気象機関(WMO)とも協力し各国の海洋に関する科学計画の調整を行っています。気象庁は、海洋・津波分野での技術的貢献をしています。 ・北東アジア地域海洋観測システム地域リアルタイムデータベース  日・中・韓・露が協力し、北東アジア域の海洋、海上気象データの収集、解析、提供を行っています。 ・津波の警報に関する国際協力  北西太平洋で発生した地震によって起きた津波情報を各国に提供するとともに、各国からの情報を収集して国内の津波防災情報に役立てています。 3 国際民間航空機関(ICAO)を通じた世界への貢献  ICAOは国連の専門機関の一つであり、国際民間航空の健全な発達のために設立されました。ICAOは、航空機の利用のための気象情報の標準化に取り組んできています。気象庁は、ICAO標準のもと、航空機の安全のための気象情報の提供を行うなど、世界の航空機の安全のために貢献しています。 4 国際的な技術開発・研究計画への貢献  気象業務の充実・改善のためには、数値予報モデルの開発・改良に代表される技術開発が不可欠です。我が国は、各国と協力して様々な国際的な研究計画を進めています。  とりわけ地球温暖化問題については、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の活動に対し、昭和63年(1988年)の設立以来、気候モデルによる地球温暖化予測結果の提供に加えて、気象研究所の研究者が評価報告書の執筆者として参加する等、積極的に貢献しています。 5 人材育成支援・技術協力について  開発途上国の気象機関の気象関連の技術向上への支援は、その国の防災活動の強化につながる重要な活動であるとともに、日本国内の予報を良くしていくためにも重要です。  気象庁は、途上国の国家気象機関の職員を対象に、気象業務の改善のための集団研修を国際協力機構(JICA)とともに30年以上にわたり実施してきました。研修生の多くは現在、世界各国の気象機関において指導的な立場で活躍しています。また、WMOや各国個別の要請に応じて、気象等の観測、解析、予報に関する分野で専門家の派遣や研修員の受け入れを行っています。 コラム アジア太平洋気候センター  アジア太平洋気候センター(Tokyo Climate Center:TCC)は、アジア太平洋地域の気象機関の気候業務を支援するため、インターネット等を通じて様々な気候情報を提供するとともに、研修などによる人材育成支援を行っており、世界気象機関(WMO)の地域気候センター(RCC)の役割を担っています。  提供している気候情報は、季節予報や温暖化に関する情報、世界の異常天候の監視情報、上空の大気の流れについての資料、エルニーニョ現象の監視予測情報など多岐にわたり、それらに加え、各国気象機関が自国に必要な資料を作成できるコンピュータツールの提供も行っています。  人材育成支援については、毎年十数か国を招いて、気象庁が提供している資料の利用方法や季節予報の手法等についての研修を実施するとともに、依頼に応じて専門家を派遣して現地研修も行っています。研修を受けた各国気象機関では、気象庁が提供している資料を積極的に利用して自国で必要な気候情報を作成するなど、研修で得た知見を生かして気候業務の向上を図っており、国民生活の向上に寄与しています。 第2部 最近の気象・地震・火山・地球環境の状況 1 気象災害、台風など ○平成22年(2010年)のまとめ  平成22年(2010年)は、6月中旬から7月中旬にかけて日本付近に停滞した梅雨前線の影響により各地で大雨となったほか、10月下旬には前線の影響で鹿児島県奄美地方を中心に記録的な大雨となりました。また、台風第9号とそれから変わった熱帯低気圧によって、東海地方および関東甲信地方で大雨となりました。 ○平成22年の主な気象災害 梅雨前線による大雨  6月11日から7月19日にかけて日本付近に停滞した梅雨前線の影響により、各地で大雨となりました。  6月11日から6月23日にかけて梅雨前線が九州の南海上から関東の東海上に停滞しました。このため九州地方や近畿地方を中心に大雨となりました。6月24日から7月1日にかけて梅雨前線が本州南岸から次第に北上し対馬海峡から山陰沖に停滞しました。その後、梅雨前線は九州の南海上まで南下しました。このため、九州地方や四国地方を中心に大雨となりました。7月2日から7月9日にかけて、梅雨前線が対馬海峡から次第に南下して、九州の南海上から関東の東海上に停滞しました。このため、九州地方や近畿地方を中心に大雨となりました。7月10日から7月19日にかけて梅雨前線が九州の南海上から次第に北上し、九州北部から東北南部に停滞しました。その後、梅雨前線はさらに北上し山陰沖から東北北部に停滞しました。このため、九州地方、中国地方、四国地方、東海および北海道地方を中心に大雨となりました。  特に、7月10日から16日にかけて、本州付近に停滞した梅雨前線に向かって南から非常に湿った空気が流れ込み、前線の活動が活発となり、西日本から東日本にかけて大雨となりました。この期間の雨量は、佐賀県佐賀市北山(ホクザン)で613.5ミリと600ミリを超えたほか、福岡県、佐賀県、長崎県、山口県、広島県、高知県、岐阜県、長野県で500ミリを超えました。福岡県北九州市小倉南区頂吉(カグメヨシ)や広島県呉市呉(クレ)など多くの地点で7月の月降水量平年値を上回りました。24時間降水量では、岐阜県加茂郡八百津町伽藍(ガラン)で15日23時30分までに観測史上1位となる239.0ミリとなったほか、広島県、島根県、福岡県でも観測史上1位を更新した地点がありました。また、1時間降水量では、徳島県海部郡美波町日和佐(ヒワサ)で13日19時23分までに108.5ミリ、岐阜県多治見市多治見(タジミ)で15日19時12分までに83.5ミリの猛烈な雨が降り観測史上1位を更新したほか、広島県庄原市庄原(ショウバラ)では16日17時43分までに観測史上1位を更新する64.0ミリとなるなど、西日本から東日本の広い範囲で非常に激しい雨が降りました。  この期間の大雨により、全国で死者16名、行方不明者5名となったほか、浸水家屋が約7,500棟に上り、また、土砂災害が約580件発生するなど、各地で大きな被害が発生しました。(被害状況は、内閣府(平成22年9月16日現在)による) 台風第9号および熱帯低気圧による大雨  9月4日9時に南大東島の南で発生した台風第9号は、発達しながら西に進み、沖縄本島の南西海上で進路を北寄りに変え、5日は東シナ海を北上しました。6日には九州の西海上で進路を北東に変え、7日には対馬海峡をとおって山陰沖を東北東に進みました。8日には福井県敦賀市付近に上陸して東に進み、12時に熱帯低気圧に変わりました。台風第9号から変わった熱帯低気圧はその後、関東南部を東に進んで、9日には関東の東海上へ達しました。  台風第9号および熱帯低気圧の影響により、9月4日から9日にかけて南西諸島から北日本の広い範囲で大雨となりました。特に、9月8日には、神奈川県山北町や静岡県小山町付近で、解析雨量により、1時間に100ミリ以上の猛烈な雨が観測されたほか、日降水量が神奈川県足柄上郡山北町丹沢湖(タンザワコ)で495.5ミリ、静岡県静岡市葵区井川(イカワ)で224.5ミリなど、関東甲信地方でところにより400ミリ、また、東海地方ではところにより200ミリを超えたほか、近畿地方の一部で100ミリを超える大雨となりました。解析雨量では、静岡県小山町や神奈川県山北町付近で、9月9日0時までの24時間に600ミリを超える記録的な大雨が観測されました。  この大雨により、浸水家屋が430棟に上り、また、土砂災害が41件発生するなど、関東甲信地方および東海地方で大きな被害が発生しました(被害状況は、神奈川県(平成22年9月16日現在)、静岡県(平成22年9月16日現在)、国土交通省(平成22年9月16日現在)による)。 コラム 台風第9号および熱帯低気圧による大雨?静岡県小山町の対応?  静岡県駿東郡小山町では、多数の住家や道路に被害を出しながら人的被害はありませんでした。小山町では、大雨警報発表(8時32分)を受けて職員の事前配備体制に入り、その後、記録的短時間大雨情報や土砂災害警戒情報の発表(10時35分)を受け、町議会の開催中でしたが、小山町防災監は土砂災害の危険性が非常に高いと判断し、議会に出席中の町長へ災害対策本部設置を具申、町長と議会で話し合い、議会を中断して災害対策本部を設置しました(11時7分)。その後、降雨や水位の状況、消防団や住民からの情報等を踏まえながら、地域単位で避難勧告等を発令しました。また、河川のはん濫等により孤立した集落が発生したことから、14時47分には県に自衛隊の災害派遣を要請するなどの対応を行いました。  小山町防災監は、災害派遣の指揮の経験もあるほか小山町の気象特性(西部から大雨となり、やがて中心部のある役場周辺が大雨となる)も熟知しておられました。さらに、9月1日に防災監の指揮のもと防災訓練を行ったばかりだったため、職員等の行動は迅速であったとのことです。このため、気象庁からの情報や住民等からの情報を踏まえて、早め早めの防災対応を実施することが出来た、とのことでした。  気象庁では、各地の気象台と自治体等との間で、平時からのコミュニケーションを取ることが必要であると考えています。これからも、地域の安全・安心を守るため、各地の地方気象台では、積極的に自治体の支援をして参ります。 前線による大雨  10月18日から21日にかけて、前線が奄美地方に停滞し、南シナ海にあった台風第13号の東側で非常に湿った空気が前線付近に流れ込んだため、大気の状態が不安定となり、奄美地方では、所により期間降水量が800ミリを超える記録的な大雨となりました。  24時間降水量では、鹿児島県奄美市名瀬(ナゼ)で20日23時20分までに648.0ミリとなり、昭和51年(1976年)の統計開始以来最大を記録しました。また、20日の日降水量は、名瀬(ナゼ)で622.0ミリとなり、明治36年(1903年)5月29日に観測した547.1ミリを超え、明治29年(1896年)の観測開始以来最大を記録しました。なお、解析雨量では、20日0時から24時までの24時間に700ミリを超える雨量となりました。  1時間降水量では、鹿児島県大島郡瀬戸内町古仁屋(コニヤ)で20日13時05分までに89.5ミリの猛烈な雨が、鹿児島県奄美市名瀬(ナゼ)で20日16時41分までに78.5ミリの非常に激しい雨が降りました。また、解析雨量では、20日11時30分までと13時までのそれぞれ1時間に奄美市付近と大和村付近で、また、20日15時までの1時間に奄美市付近と瀬戸内町付近で、いずれも120ミリ以上の猛烈な雨となりました。  この大雨による死者は、鹿児島県奄美市で2名、鹿児島県大島郡龍郷町で1名となりました。また、奄美地方では、家屋の浸水や土砂災害が多数発生しました。その他、停電、断水が発生し、交通機関にも大きな影響が出ました。(被害の状況は内閣府などによる(平成22年10月24日現在))。 コラム 前線による大雨?奄美大島の大雨:地方気象台等の対応?  鹿児島地方気象台や名瀬測候所では、10月19日から25日にかけて、気象警報・注意報、府県気象情報、記録的短時間大雨情報を、また、鹿児島地方気象台と鹿児島県が共同で土砂災害警戒情報を発表し、厳重な警戒を呼び掛けました。特に名瀬測候所では、20日には、府県気象情報において「10月の月降水量の平年値を大幅に超えています」、「過去、例を見ない猛烈な大雨」、「土砂災害に最大限に警戒してください」などの表現で、大雨が予想される市町村に対して、土砂災害、河川のはん濫、低地の浸水等に最大級の警戒を呼びかけました。さらに、様々な気象情報の提供だけではなく、名瀬測候所では、担当課長が土砂災害の危険性が高まった市町村に直接電話をし、一層の警戒の呼びかけを行いました。また、大雨等の見通しについて市町村へ解説資料を送付し注意喚起を行い、気象状況に関する市町村からの問い合わせに対応しました。  鹿児島県や地元市町村では災害対策本部を設置しました。これらの本部へも気象台職員を派遣し、大雨の状況や見通しを解説し、注意・警戒を呼びかけました。また、奄美大島では、鹿児島県現地対策合同本部(大島支庁に設置)や、内閣府職員及び関係省庁職員で構成する政府現地連絡対策室が設置され、ここでも福岡管区気象台、鹿児島地方気象台および名瀬測候所の職員を派遣し、気象解説等を実施しました。  さらに、鹿児島地方気象台は、防災関係機関の災害復旧活動を支援するため、被災地の雨量予測等の気象情報を提供しました。 ○平成22年(2010年)の台風のまとめ  平成22年(2010年)に発生した台風は14個(平年25.6個)で、台風の統計を開始した昭和26年(1951年)以降で最少だった平成10年(1998年)の16個を下回りました。特に、フィリピンの東方海上での発生が少なくなっており、北緯20度以南、東経120度以東での発生数は5個(平年15.2個)と昭和26年(1951年)以降で最少だった平成10年(1998年)の4個に次いで少なくなっています。 2 天候、異常気象など ○日本の天候(平成21/22年冬?平成22/23年冬)  全国的に5月までは気温の変動が大きかったが、6月以降は高温となることが多かったため、年平均気温は全国で高く、北日本ではかなり高くなりました。また、年降水量は西日本日本海側を除き多く、年間日照時間は、北日本と沖縄・奄美でかなり少なくなりました。夏(6月?8月)は全国的に気温が高く、長期間にわたる気温観測データが存在し、都市化の影響の少ない17地点の気象台などで平均した日本の夏の平均気温は、1898年以降の113年間で第1位の高い記録となりました。 平成22年(2010年)の各季節、梅雨、台風の特徴は以下のとおりです。 @冬(平成21年12月?平成22年2月)の平均気温は北日本を除き高くなりましたが、強い寒気が流れ込み気温が平年を大幅に下回った時期もあるなど気温の変動が大きくなりました。寒気の影響を受けた時期には大雪となった地方もあり、東日本の日本海側を中心に2005/2006年冬以来の大雪となりました。 A春(3月?5月)は、暖かい空気が流れ込んで気温が平年を大幅に上回った時期と、寒気が南下し気温が平年を大幅に下回った時期があるなど、全国的に気温の変動が大きくなりました。強い寒気が流れ込んだ4月中旬には、17日に関東甲信地方から東北地方南部にかけての広い範囲で降雪を観測し、東京などでは41年前の1969年に観測した最も遅い降雪の記録に並びました。 B多くの地方で平年に比べ梅雨入りが遅く、梅雨明けが早くなりました。梅雨期間中の梅雨前線の活動は活発で、7月中旬には東・西日本で記録的な大雨となったところがあり、各地で被害が発生しました。梅雨の時期の降水量が少ない地方はありませんでした。 C夏(6月?8月)は、北日本から西日本にかけて顕著に気温が高くなり、全国の17地点で平均した日本の夏の平均気温は、1898年以降の113年間で第1位の高い記録となりました。特に、強い太平洋高気圧に覆われることが多かった8月の気温が高く、全国154地点のうち77地点で月平均気温の高い記録を更新しました。 D秋(9月?11月)の平均気温は沖縄・奄美を除いて高くなりました。特に9月は上・中旬を中心に日本の南で太平洋高気圧の勢力が強く、西日本と東日本太平洋側の広い範囲で最高気温が35℃以上となる猛暑日になる日があるなど、全国的に残暑が厳しくなりました。 E年間の台風発生数は14個(平年25.6個)で、1998年の16個を下回り1951年の統計開始以来の最少を記録しました。接近数は7個(平年は11.4個)、上陸数は2個(平年2.7個)とどちらも平年を下回りました。 コラム 平成22年(2010年)夏の猛暑 (1)天候の状況  平成22年(2010年)夏(6?8月)の日本の平均気温は、統計を開始した明治31年(1898年)以降の過去113年間で最も高くなりました。また、全国の気象台・測候所等で観測した平成22年夏の平均気温は、154地点中55地点で統計開始以来の高い記録を更新しました。梅雨明け以降の盛夏期においては、猛暑日(日最高気温が35℃以上の日)、真夏日(日最高気温が30℃以上の日)、及び日最低気温25℃以上の日数は、いずれも全国的に平年を上回ったところが多くなりました。熊谷(埼玉県)、富山、大分など11地点で夏の猛暑日日数の最大値を更新したほか、11地点で夏の真夏日日数の最大値を更新し、48地点で夏の日最低気温25℃以上の日数の最大値を更新しました。 (2)高温をもたらした大気の流れの特徴と要因  夏の記録的な高温に関する要因分析を行うため、気象庁は平成22年9月3日に学識経験者を交えた異常気象分析検討会を開催し、この高温をもたらした大気の流れの特徴と要因を次の3つにまとめました。 @エルニーニョ現象終了後の昇温効果とラニーニャ現象が発生した影響により、北半球中緯度対流圏の気温が非常に高くなりました。また、北半球中緯度対流圏の気温は長期的に上昇しており、これには地球温暖化が関係している可能性が考えられます。 Aインド洋の海面水温が高かったことやラニーニャ現象の影響により、インド洋及びその周辺海域の広い領域で対流活動(積乱雲の活動)が平年より活発となり、日本付近は勢力の強い太平洋高気圧の影響を受けやすくなりました。 B冷涼なオホーツク海高気圧の形成が例年と比べて少なかったことや日本の東海上の高気圧が強かったこと等により、オホーツク海高気圧の影響をほとんど受けませんでした。 ○世界の主な異常気象  パキスタンでは6?9月に異常多雨(図中G)で1960人以上、中国中部では8月に大雨(図中C)で1760人以上、タイ、ベトナムでは10月に異常多雨(図中D)で160人以上が死亡するなど、各地で気象災害が発生しました。また、ラニーニャ現象1の影響を受け、オーストラリア東部は12月に異常多雨(図中Q)となり、各地で洪水が発生しました(災害の記述は、米国国際開発庁海外災害援助局とルーベンカトリック大学災害疫学研究所(ベルギー)の災害データベース(EM-DAT)や国連の報道機関(IRIN)、各国の政府機関の発表等に基づいています。)  ロシア西部及びその周辺では、6?8月に異常高温・少雨となりました(図中I)。東南アジア(図中E)、中東?アフリカ西部(図中J)、マダガスカル及びその周辺(図中K)、北米東部及びその周辺(図中L)、南米北部(図中O)では、1年を通じ、たびたび異常高温となりました。  また、北極振動2の影響で、西シベリア及びその周辺(図中@)、モンゴル及びその周辺(図中A)、ヨーロッパ(図中H)、米国南東部及びその周辺(図中M)で、冬を中心に異常低温となりました。 1.ラニーニャ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸にかけての広い海域で海面水温が平年に比べて低くなり、その状態が1年程度続く現象。ひとたびラニーニャ現象が発生すると、世界中で異常気象が起こりやすい。 2.北極振動とは、北極域の寒気が強弱を繰り返す現象であり、北極地方の気圧が平年より高く、中緯度地帯の気圧が平年より低い「負の位相」と、逆の「正の位相」がある。負の位相時には北極域の寒気が中緯度に流れ込みやすくなり、中緯度では低温になりやすい。 ○平均気温  平成22年(2010年)の世界の年平均気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)の1981?2010年平均基準における偏差(図の注参照)は+0.19℃(20世紀平均基準における偏差は+0.56℃)で、明治24年(1891年)以降、2番目に高い値となりました。世界の年平均気温は、長期的には100年当たり約0.68℃の割合で上昇しており、特に1990年代半ば以降、高温となる年が頻出しています。  平成22年の日本の年平均気温の1981?2010年平均基準における偏差は+0.63℃(20世紀平均基準における偏差は+1.23℃)で、明治31年(1898年)以来、4番目に高い値となりました。日本の年平均気温は、長期的には100年当たり約1.15℃の割合で上昇しており、特に1990年代以降、高温となる年が頻出しています。 ○海面水温  平成22年(2010年)の世界の年平均海面水温の平年差(昭和56年(1981年)?平成22年(2010年)までの30年平均値からの差)は平成21年(2009年)と同じく+0.13℃で、統計を開始した明治24年(1891年)以降では、1998年の+0.14℃に次ぐ2番目に高い値となりました。世界の年平均海面水温は、数年から数十年に及ぶ時間スケールの海洋・大気の変動や地球温暖化等の影響が重なりながら変化していますが、長期的には100年あたり0.51℃の割合で上昇しており、特に1990年代後半からは高温となる年が頻出しています。  太平洋赤道域の中部から東部にかけてのエルニーニョ監視海域の海面水温は、春から秋にかけて急速に低下しました。このことは平成21年(2009年)夏に発生したエルニーニョ現象が平成22年(2010年)春に終息し、同年(2010年)夏にはラニーニャ現象が発生したことを示しています。  日本近海では、1月から6月にかけて平年より低い海域がありましたが、7月以降は広い範囲で平年より高くなり、特に8月と9月には、かなり高くなりました。  次項の図「日本近海の海面水温の2010年8月の状況」図中の青枠で囲った海域で平均した8月と9月の海面水温は、それぞれ27.4℃と26.6℃で、これらの平年からの差は、それぞれ+1.0℃と+1.1℃でした。この8月の海面水温は1985年以降*で最も高くなりました。 *人工衛星による観測資料が利用できる期間 ○オホーツク海の海氷  オホーツク海の海氷域面積は、平成22年(2010年)12月から平成23年(2011年)3月までは平年より小さく推移しました。シーズンの最大海氷域面積は94.54万平方キロメートルで平年の81%でした。 流氷の日本への接近時期は平年並で、網走の流氷初日(海岸から流氷が観測された最初の日)は平年より2日早い1月19日で、稚内、釧路では流氷は観測されませんでした。また、網走の海明け(海氷の占める割合が5割以下になり船舶の航行が可能になった最初の日)は平年より27日早く過去3番目に早い2月21日で、流氷終日(海岸から流氷が観測された最後の日)は平年より30日早い3月12日で、昭和21年(1946年)の統計開始以来最も早い記録となりました。  オホーツク海の海氷域面積は年ごとに大きく変動していますが、最大海氷域面積は昭和46年(1971年)の統計開始以来、緩やかに減少しており、10年当たり6.0万平方キロメートル(オホーツク海の全面積の3.8%に相当)減少しています。 3 地震活動 ○日本およびその周辺の地震活動  平成22年(2010年)に震度5弱以上を観測した地震は5回(平成21年は4回)、震度1以上を観測した地震は1,313回(平成21年は1,631回)でした。国内で被害を伴った地震は11回(海外で発生した地震による津波の被害も含む、平成21年は6回)でした。また、日本及びその周辺で発生した地震でマグニチュード6.0以上の地震は18回(平成21年は17回)でした。 ○世界の地震活動  平成22年(2010年)に発生したマグニチュード7.0以上または死者(行方不明者を含む)を伴った地震は39回(平成21年は33回)でした。また、マグニチュード8.0以上の地震は1回でした。 4 火山活動  平成22年(2010年)の日本の主な火山活動は以下のとおりです。 吾妻山(福島県)  大穴火口の噴気活動はやや高い状態で経過しました。噴気孔周辺では硫黄の燃焼が確認されました。 伊豆大島(東京都)  7月から10月にかけて、島内及び西方海域で地震の増加が断続的にみられました。 三宅島(東京都)  4月10日、4月11日、7月4日及び7月21日に、山頂火口でごく小規模な噴火が6回発生しました。二酸化硫黄放出量は1日あたり1,000?2,000トンと依然として多量の火山ガスの放出が続きました。 硫黄島(東京都)  独立行政法人防災科学技術研究所の地震観測によると、地震活動は8月頃から以前より増加した状態で、9月下旬には地震活動が一時的にやや活発となりました。国土地理院の観測によると、島内の地殻変動が引き続き認められました。 福徳岡ノ場(東京都)  第三管区海上保安本部によると、2月3日に小規模な海底噴火が発生しました。それ以外の期間にも、海上保安庁海洋情報部、第三管区海上保安本部、海上自衛隊及び気象庁の観測によれば、付近の海面に火山活動によるとみられる変色水等が確認されました。 霧島山(宮崎県・鹿児島県)  新燃岳で3月から7月にかけて小規模?ごく小規模な噴火が7回発生しました。7月10日の噴火では、低温と推定されるごく小規模な火砕サージが発生しました。(平成23年の活動については、コラムを参照) 桜島(鹿児島県)  昭和火口では、爆発的噴火を含む噴火が年間を通じて発生しました。特に、1月から4月にかけては、月爆発回数が100回以上となるなど活発な状態でした。年間の爆発的噴火の発生回数は896回となり、南岳山頂火口の爆発回数を含めたこれまでの記録(平成21年(2009年)の548回)を更新しました。また、火砕流は6回発生しました。南岳山頂火口では噴火は発生しませんでした。(平成23年の活動については、コラムを参照) 薩摩硫黄島(鹿児島県)  噴煙活動はやや高い状態が続き、火山性地震は9月上旬までやや多い状態で経過しました。 諏訪之瀬島(鹿児島県)  爆発的噴火を含む小規模な噴火が年間を通して発生するなど、噴火活動は活発な状態で経過しました。 コラム 霧島山(新燃岳)噴火と気象庁・気象台の活動  霧島山(新燃岳)では、平成23年1月19日から噴火が始まり、26日には多量の火山灰等を放出する本格的なマグマ噴火が発生、火口底に溶岩が出現、爆発的噴火を繰り返す等、活発な活動が続いています。新燃岳のマグマ噴火は、約300年ぶりの出来事でした。  気象庁は、平成23年1月16日、噴石に対して警戒が必要な範囲をそれまでの「火口から概ね1キロメートル」から「火口から概ね2キロメートル」に拡大する旨の噴火警報を発表し、噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から3(入山規制)に引き上げました。さらに、人工衛星による観測結果から、28日に確認された火口内の溶岩が30日には火口内をほぼ満たしていることが分かり、この溶岩の崩落等によって発生する火砕流の影響範囲を踏まえて警戒が必要な範囲を「火口から概ね3キロメートル」に拡大する噴火警報を31日に発表しました。また、2月1日に発生した爆発的噴火によって大きな噴石が火口から約3.2キロメートルの地点まで飛散したことから警戒が必要な範囲を「火口から概ね4キロメートル」の範囲に拡大する噴火警報を発表しました(いずれも噴火警戒レベル3(入山規制)が継続)。その後、噴火は時々発生したものの、規模は小さくなり発生頻度も少なくなったことから、3月22日、警戒が必要な範囲を「火口から概ね3キロメートル」の範囲に縮小する噴火警報を発表しています。  政府は、1月26日以降の噴火活動を受けて2月7日、噴火活動がさらに活発化した場合に備え、内閣府・消防庁・国交省・気象庁等の関係府省庁職員により組織された「霧島山(新燃岳)噴火に関する政府支援チーム」を宮崎県庁に派遣しました。支援チームは、平成20年に関係府省庁によってとりまとめられた「噴火時等の避難に係る火山防災体制の指針」に基づき、地元の関係機関(県、市町、気象台、砂防部局、火山専門家等)が火山防災について共同で検討する火山防災協議会(霧島火山防災連絡会コアメンバー会議)を再構築した上で、住民の避難計画の策定支援を行うこととしました。  地元の気象台は、市町が避難計画を策定するために必要な「噴火シナリオ」(噴火に伴う現象と影響範囲の推移について時間的に順を追って説明したもの)を示し、噴火警戒レベル4(避難準備)及び5(避難)の噴火警報が発表されるような噴火活動の詳細について具体的な解説を行い、防災対応のイメージを関係機関と共有しました。火山防災協議会での協議の結果、噴火警戒レベル4(避難準備)又は5(避難)が発表された時に警戒が必要な範囲(避難対象地域)として既存の火山防災マップに表示された範囲が設定されました。この避難対象地域について関係機関が共通認識を確立した上で、地元の市町(霧島市及び高原町)が中心となって避難計画の共同検討が進められています。  霧島山(新燃岳)の火山防災に限らず、気象庁及び地元の気象台は、火山防災協議会の枠組みを活用して、関係機関が登山者や住民の避難(噴火警戒レベルや避難計画)について平常時から共同で検討し、防災対応のイメージを確実に共有することで噴火時等の対応をより円滑に実施できる体制を推進しています。 コラム 桜島の火山活動  平成18年(2006年)6月に噴火活動を再開した桜島南岳東斜面の昭和火口は、平成21年(2009年)に入り次第に活発化し、南岳山頂火口の爆発回数を含めた年間爆発回数が548回となり昭和30年(1955年)の観測開始以来最多だった昭和60年(1985年)の474回を超えました。  平成22年(2010年)に入っても火山活動は引き続き活発で、特に1月から4月にかけては、爆発的噴火(※)が月100回以上と頻発し、火山灰の噴出量も増えるなど一段と活発化しました。9月30日に活動が一時小康状態となったため、噴火警戒レベルを3(入山規制)から2(火口周辺規制)に引き下げましたが、その後の活発化を受け、10月13日に再び噴火警戒レベルを3に引き上げました。年間の爆発回数は896回に達し、平成21年(2009年)を大きく上回って年間最多回数を更新しました。平成23年(2011年)の爆発回数は3月までに255回に達し、前年に匹敵する活発な噴火活動が続いています。  桜島の北にある姶良カルデラ(鹿児島湾奥部)の地下深部では、マグマの蓄積が長期にわたり継続していることが、国土地理院のGPS連続観測で捉えられています。そこから桜島直下へのマグマ供給量の増加が、現在の噴火の多い状態をもたらしていると推定されます。 ※爆発的噴火は噴火の一形態であり、桜島では、爆発地震を伴い、爆発音、体感空振、噴石の火口外への飛散、または気象台や島内の空振計で一定基準以上の空振のいずれかを観測した場合に爆発的噴火としています。 5 温室効果ガス、黄砂、紫外線など  気象庁は自ら二酸化炭素等温室効果ガスの観測を行うとともに、世界気象機関(WMO)温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)を運営し、世界中で観測された温室効果ガスの観測データを収集・解析しています。地球温暖化に対して適切な対策を取るためには、温室効果ガスの濃度がどのように変化しているかを正確に把握するための解析や研究が不可欠です。 ○大気中の二酸化炭素  二酸化炭素は、各種の温室効果ガスの中で地球温暖化に最も大きな影響を与えます。大気中の二酸化炭素の濃度は、産業革命(18 世紀後半)以前の過去約2000年間は280 ppm程度でしたが、その後の産業活動などによる化石燃料の消費や森林破壊などの人間活動に伴って、その濃度は世界的に増加の一途をたどっています。年々の増加量には変動があるものの、世界平均の二酸化炭素濃度は平成11年(1999年)から平成21年(2009年)までの10年間で1年あたり約1.9 ppm増加しています。平成21年(2009年)の世界平均の二酸化炭素濃度は386.8ppmでした。  緯度帯別の二酸化炭素平均濃度の経年変化を見ると、相対的に北半球の中・高緯度帯では大きな季節変動を伴い年平均濃度が高く、南半球では季節変動が小さく年平均濃度も低くなっています。これは、二酸化炭素の吸収源・放出源ともに北半球に多く存在するためです。 ○ハロカーボン類  ハロカーボン類とは、塩素、臭素などのハロゲンを含む炭素化合物のことで、それらの多くは人工的に生産されたものです。そのうちクロロフルオロカーボン類(CFCs、いわゆるフロン)は、オゾン層破壊物質であるため、製造・排出などはすでに国際条約によって規制が行われていますが、一方で強い温室効果を持っていることでも知られています。  綾里(岩手県)での観測結果をはじめ温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)に報告された世界各地の観測結果では、地上付近の大気中のクロロフルオロカーボン類の濃度は、近年ほぼ横ばいかゆるやかに減少しており、国際条約を受けた規制による効果と考えられます。 ○海洋中の二酸化炭素  海洋は、人間活動により放出された二酸化炭素の約3分の1を吸収していると見積もられており、地球温暖化の進行を緩和しています。海洋気象観測船「凌風丸」「啓風丸」は20年以上にわたって毎年冬季(1?2月)に東経137度線に沿って日本の南から赤道域までの表面海水中と大気中の二酸化炭素濃度を観測しています。この海域においては、冬季に表面海水中の二酸化炭素濃度が大気中の濃度より低いことが観測されており、海洋が大気中の二酸化炭素を吸収しています。また、北緯7度から33度で平均した二酸化炭素濃度は、昭和59年(1984年)から平成23年(2011年)までの27年間に、大気中で1年に1.8ppm、表面海水中で1年に1.6ppmの割合で増加しています。 ○黄砂  黄砂の日本への飛来は例年2月?5月に集中しています。この時期は、@黄砂発生源となっている地域で、砂を覆う積雪がなくなる一方、まだ植物が芽吹いていないため乾燥した裸地となっており、砂じんが舞い上がりやすい状態であること、A砂を舞い上げ、運ぶ強風の原因となる低気圧が通ることが多い季節であること、から黄砂が多く飛来します。この時期以外にも、黄砂発生源が乾燥していて上空の風が日本へ向いて吹いているなどの条件が揃えば日本に黄砂が飛来します。  平成21年(2009年)は10月及び12月に、平成22年(2010年)は11月及び12月に日本で黄砂を観測しました。特に、平成22年12月3日には西日本や沖縄・奄美を中心に30か所で黄砂を観測し、12月の1日当たりの黄砂観測地点数が過去最多となりました。  気象庁では、国内61か所(平成23年10月1日現在)の気象台や測候所等で、職員が目視により大気現象として黄砂を観測しています。統計を開始した昭和42年(1967年)から平成22年(2010年)までに黄砂観測日数が最も多かったのは、平成14年(2002年)の47日です。平成22年(2010年)の黄砂観測日数は41日(平年は24.2日)でした。  平成12年(2000年)以降は、黄砂観測日数が30日を超える年が多くなっていますが、年々変動が大きく、長期的な傾向は必ずしも明瞭ではありません。 ○オゾン層・紫外線  成層圏のオゾン量は1980年代を中心に札幌、つくばで減少が進みましたが、1990年代半ば以降、那覇も含め、ほとんど変化していないか、緩やかな増加傾向がみられます。  南極域では、1980年代初め頃から、南極の春季を中心に成層圏のオゾン量が極端に少なくなるオゾンホールと呼ばれる現象が観測されています。平成22年(2010年)のオゾンホールは、8月に発生した後、9月25 日にこの年の最大面積となる2,190万平方キロメートル(南極大陸の面積の約1.6倍)にまで広がり、その後解消しました。大規模なオゾンホールの発生は、毎年継続しています。  札幌、つくば、那覇の紫外線量は、紫外線観測を開始した1990年代はじめ以降、長期的に緩やかな増加傾向があります。一般にオゾン量が減少すると地表に到達する紫外線が増加しますが、この期間、国内ではオゾン量の減少は観測されていません。紫外線を散乱・吸収する大気中の微粒子の減少や天候の変化(雲量の減少)などが紫外線量の増加の原因と考えられています。 用語集 C CLIPS(Climate Information and Prediction Services)  気候情報・予測サービス計画。世界気象機関(WMO)の世界気候計画(WCP)の事業計画の一つで、過去の気候資料や気候実況監視情報、気候予測情報を社会・経済の各分野で有効利用し、社会・経済・環境保護等の活動に資することを目指しているもの。 COSMETS(Computer System for Meteorological Services)  気象資料総合処理システム。国内外の気象などの観測データを集信し、大気の状態を解析・予測し、その結果を国内外に配信する総合的な電子計算機システム。気象資料の編集・中継などの通信処理、端末でのデータ利用のための業務処理をするための気象情報伝送処理システム(アデス)と、解析・予測をするためのスーパーコンピュータシステムから構成されている。 E EPOS(Earthquake Phenomena Observation System)  地震活動等総合監視システム。気象庁本庁及び大阪管区気象台において日本全国における地震や津波の観測データをリアルタイムで監視し、緊急地震速報、津波警報・注意報や地震・津波に関する情報等を防災機関、報道機関等に迅速に提供するシステム。気象庁本庁では、東海・南関東地域の地殻変動観測データの監視も行っている。 G GAW(Global Atmosphere Watch)  全球大気監視。温室効果ガス、オゾン層、エーロゾル、酸性雨など地球環境に関わる大気成分について、地球規模で高精度に観測し、科学的な情報を提供することを目的に、世界気象機関(WMO)が平成元年(1989年)に開始した国際観測計画。 GCOS(Global Climate Observing System)  全球気候観測システム。気候系の監視、気候変動の検出や影響評価等の実施に必要な気候関連データや情報を収集し、幅広く利用できるようにするため、様々な観測システムやネットワークを国際的に調整するシステムとして1992年に設立された。世界気象機関(WMO)、国連教育科学文化機関(UNESCO)政府間海洋学委員会(IOC)、国連環境計画(UNEP)、国際科学会議(ICSU)が共同支援機関である。 GDPFS(Global Data Processing and Forecasting System)  全球データ処理・予報システム。世界気象機関(WMO)の世界気象監視(WWW)計画の下で、WMO加盟国の利用に供するために気象の解析、予報資料を作成する体制。 GEOSS(Global Earth Observation System of Systems)  全球地球観測システム。50以上の国並びに欧州委員会・世界気象機関(WMO)・国連教育科学文化機関及び国連環境計画等の40以上の国際機関が参加する、人工衛星観測と地上気象観測を組み合わせた複数の観測システムからなる地球観測のためのシステム。気象・気候分野のみならず、生物多様性の保護、持続可能な土地利用管理、エネルギー資源開発等といった成果をも目的としている。 GOOS(Global Ocean Observing System)  全球海洋観測システム。全世界の海洋の環境や変動を監視してその予測を可能にするための長期的で系統的な海洋観測システムを構築する国際的な計画。国連教育科学文化機関(ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)、世界気象機関(WMO)などが共同で推進している。 GOS(Global Observing System)  全球観測システム。世界気象機関(WMO)の世界気象監視(WWW)計画の下で展開されている地球規模の観測網。地上気象観測所、高層気象観測所、船舶、ブイ、航空機、気象衛星などから構成される。 GPS(Global Positioning System)  汎地球測位システム。人工衛星を用いて位置を決定するシステムで、一般にはカーナビゲーションシステムへの利用でなじみ深い。高い精度での位置決定が可能なGPSを用いることにより、地震あるいは火山現象などに伴う地殻変動の観測やラジオゾンデによる高層観測に利用することが可能である。また、最近では、水蒸気により電波の遅延が生じることを利用して、このシステムから大気中の水蒸気分布を推定することも行われている。 GPV (Grid Point Value:格子点値)  数値予報の計算結果を、大気中の仮想的な東西・南北・高さで表した座標(立体的な格子)に割り当てた、気温、気圧、風等の大気状態(物理量)。コンピュータで気象状態の画像表示や応用処理に適したデータの形態である。数値予報の計算もこのような立体的な格子上で物理量の予測を行う。 GTS(Global Telecommunication System)  全球通信システム。世界気象機関(WMO)の世界気象監視(WWW)計画の下で、気象資料の国際的な交換、配信を行うために構築された全世界的な気象通信ネットワーク。 I ICAO(International Civil Aviation Organization)  国際民間航空機関。昭和19年(1944年)の国際民間航空条約(シカゴ条約)に基づいて設立された、民間航空に関する国際連合の専門機関の一つ。 ICG/PTWS (Intergovernmental Coordination Group for the Pacific Tsunami Warning and Mitigation System)  太平洋津波警戒・減災システムのための政府間調整グループ。昭和35年のチリ地震により発生した津波が太平洋全域に甚大な被害を与えたことを契機として、太平洋において発生する地震や津波に関する情報を各国が交換・共有することにより太平洋諸国の津波防災体制を強化することを目的として設立された、IOC(次項参照)の下部組織のひとつ。昭和40年に太平洋津波警報組織国際調整グループ(ICG/ITSU)として設立され、平成17年10月に現在の名称へ変更された。太平洋周辺の32の国又は地域が参加している。 IOC(Intergovernmental Oceanographic Commission)  政府間海洋学委員会。昭和35年(1960年)、国連教育科学文化機関(ユネスコ)内に設立された機関。海洋と沿岸域の性質と資源に関する知識を深め、その知識を加盟国における海洋環境の管理と持続可能な開発、保護及び政策決定プロセスに適用するために、国際協力を推進し、関連の研究やサービス及び能力開発のプログラムを調整している。 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)  気候変動に関する政府間パネル。世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により、昭和63年(1988年)に設立された。各国の科学者や専門家で組織され、気候変動の(1)自然科学的根拠、(2)脆弱性・影響・適応策、(3)緩和策の評価を行い、報告書をとりまとめている。その報告書の内容は、地球温暖化に関する条約交渉の際などに、共通認識の情報として取り扱われている。 L LIDEN(Lightning Detection Network System)  雷監視システム。雷により発生する電波を受信し、その位置、発生時刻等の情報を作成するシステム。 N NEAR-GOOS(North-East Asian Regional Global Ocean Observing System)  北東アジア地域海洋観測システム。全球海洋観測システム(GOOS)の北東アジア地域プロジェクトであり、参加各国が行った海洋観測のデータなどを即時的に国際交換するためのデータベースを運用している。日本、中国、韓国、ロシアが参加している。 W WINDAS(Wind Profiler Network and Data Acquisition System)  局地的気象監視システム。全国31か所に設置した無人のウィンドプロファイラ観測局とこれを制御しデータを自動的に収集する中央監視局で構成するシステム。 WMO(World Meteorological Organization)  世界気象機関。世界の気象事業の調和的発展を目標とした国際計画の推進・調整を行うため、昭和25年(1950年)に世界気象機関条約に基づいて設立され、翌昭和26年(1951年)に国際連合の専門機関となった。平成23年(2011年)9月30日現在、183か国と6領域が構成員として加盟している(日本は昭和28年(1953年)に加盟)。事務局本部はスイスのジュネーブに置かれている。 WWW(World Weather Watch(Programme))  世界気象監視計画。世界気象機関(WMO)の中核をなす計画であり、世界各国において気象業務の遂行のため必要となる気象データ・プロダクトを的確に入手できることを目的とする。全世界的な気象観測網(全球観測システム:GOS)、通信網(全球通信システム:GTS)、データ処理システム(全球データ処理・予報システム:GDPFS)の整備強化がこの計画の根幹となっている。 ア アジア太平洋気候センター  アジア太平洋地域の各国気象機関に対し、基盤的な気候情報の提供や気候予測に関する技術移転を行うことを目的として、平成14年(2002年)4月に気象庁内に設置されたセンター。これらの活動を通じて、同地域内において異常気象による災害の軽減や、農業をはじめとする各種産業の振興に、気候情報が有効に利用されることを目指している。 アデス  気象庁本庁及び大阪管区気象台に設置された気象情報伝送処理システム。気象資料の編集・中継などの通信処理、端末でのデータ利用のための業務処理を行っている。 アメダス(AMeDAS:Automated Meteorological Data Acquisition System)  全国約1,300か所に設置した無人の観測所で、気温や降水量などを自動的に観測するシステム。アメダスはこのシステム(地域気象観測システム)の英語名の頭字語である。 アルゴ計画  世界気象機関(WMO)及び国連教育科学文化機関(ユネスコ)政府間海洋学委員会(IOC)などの協力の下、国際的な枠組みにより、世界の海洋を常時観測するシステムとして中層フロート(チの項を参照)を全世界の海洋に約3,000台投入して、気候に大きく影響する海洋の状況をリアルタイムに把握することを目的として実施されている。アルゴとは、ギリシャ神話に出てくる船の名前(Argo)にちなんだもの。 アンサンブル手法  初期値に含まれる誤差や数値予報モデルが完全ではないことにより生じる、予測結果の不確実性に関する情報を、多数の予測計算から抽出する方法。初期値の誤差を考慮する手法を「初期値アンサンブル手法」、数値予報モデルの不完全性を考慮する手法を「モデルアンサンブル手法」と呼ぶ。気象庁では初期値アンサンブル手法とモデルアンサンブル手法の両方を用いている。 イ 異常潮位  高潮や津波とは異なり、比較的長期間(1週間から3か月程度)継続して、潮位が平常より数十センチメートル程度高く(もしくは低く)なる現象。原因は、気圧配置・海水温・海流の変動など多岐にわたり、これらが複合して発生すると考えられている。 ウ ウィンドシアー(wind shear)  大気中の2地点で風の強さや向きが異なる状態のことで、風の空間的な急変域をいう。航空機の飛行に大きな影響を与える場合があり、航空路や空港での観測や予測が重要とされている。 ウィンドプロファイラ(wind profiler)  電波を地上から上空に向けて発射し、主に乱流に起因する空気屈折率の不均一によって後方に散乱された電波を受信し、処理することにより、観測点上空の風向・風速を測定するレーダー。 運輸多目的衛星(MTSAT:Multi-functional Transport Satellite)  航空管制のための機能と気象観測のための機能を併せ持つ国土交通省の多目的静止衛星。愛称は「ひまわり」。平成17年(2005年)2月に新1号(ひまわり6号)、平成18年(2006年)2月に新2号(ひまわり7号)が打ち上げられた。気象観測の面では、赤外センサーのチャンネル数の増加や雲画像取得回数の増加など、「ひまわり5号」と比べて観測機能の強化が図られている。 エ エーロゾル(aerosol)  大気中に浮遊している固体あるいは液体の微粒子。地表や海洋から舞い上がるものや、工業活動によって排出される煤煙などがある。太陽光の吸収・散乱や雲の生成などに影響する。 エルニーニョ現象(El Nin?o)  南米のペルー沖から中部太平洋赤道域にかけて、2?7年おきに海面水温が平年に比べて1?2℃、時には2?5℃も高くなり、半年?1年半程度継続する現象。これに伴って世界各地で異常気象が発生する可能性が高い。 オ オゾンホール(ozone hole)  フロンガスなどのオゾン層破壊物質の排出により、1980年代初めから南極域で春季にあたる9、10月頃を中心に成層圏のオゾン量の顕著な減少が観測されるようになり、この現象は、南極大陸を中心にオゾン層に穴のあいたような状態となることからオゾンホールと呼ばれている。 温室効果ガス  地表面から放出される赤外線を吸収して大気を暖める効果(温室効果)をもつ気体(ガス)の総称。水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などがある。このうち、水蒸気を除くガスは人間活動に伴って増加しており、地球温暖化の原因物質として知られている。 カ 海溝型地震  太平洋側の千島海溝や日本海溝、南海トラフ等では、海洋のプレートが陸のプレートの下に沈み込んでいる。陸のプレートが海洋プレートに引きずり込まれることにより、プレート境界には徐々にひずみが蓄積していく。これが限界に達すると、プレート境界が急激にずれて地震が発生する。これら海溝に近いところで発生する地震を海溝型地震と呼ぶ。 解析雨量  アメダスや自治体等の雨量計による正確な雨量観測と気象レーダーによる広範囲にわたる面的な雨の分布・強さの観測とのそれぞれの長所を組み合わせて、より精度が高い、面的な雨量を1キロメートル格子で解析したもの。 海流  海洋のほぼ決まった場所をほぼ定常的に流れる大規模な流れ。代表的なものに日本の南岸を流れる黒潮や北大西洋のメキシコ湾流がある。 火砕流  高温の火山灰や岩塊や気体が一体となって急速に山体を流下する現象。火砕流の速度は時速数十キロメートルからときには百キロメートル以上に達し、温度は数百℃に達することもある。大規模な場合は地形の起伏に関わらず広範に広がり、埋没・破壊・焼失などの被害を引き起す。火砕流が発生してからの避難は困難なため、事前の避難が必要である。 火山ガス  火山活動に伴い火口等から噴出する気体。噴火前になると、マグマの上昇に伴い噴出量の増加等が観測されることがある。火山ガスには人体に有害なものがあるが、それらは空気より重いため凹地に溜まりやすく、中には無色無臭のものもあり危険に気づきにくいこともあるので注意が必要である。 高濃度の火山ガスを吸い込むと死に至ることもある。 火山性微動  マグマの活動に起因する連続した地面の震動であり、火山活動が活発化した時や火山が噴火した際に多く観測される。 火山噴火予知連絡会  火山噴火予知計画(昭和48年文部省測地学審議会(現文部科学省科学技術・学術審議会測地学分 科会)建議)により、関係機関の研究及び業務に関する成果及び情報の交換、火山現象についての総合的判断を行うこと等を目的として、昭和49年に設置された。この連絡会は、学識経験者及び関係機関の専門家から構成されており、気象庁が事務局を担当している。 火山礫(れき)  噴火によって噴出される噴石や火山灰などの固形状の物質は大きさによって分類されており、そのうちの一つ。直径が2?64ミリメートルのものを指す。なお、直径が64ミリメートルより大きいものを「火山岩塊」、2ミリメートルより小さいものを「火山灰」と呼んでいる。 ガストフロント  積雲や積乱雲から吹き出した冷気の先端と周囲の空気との境界を指し、前線状の構造を持つ。降水域から周囲に広がることが多く、数10キロメートルあるいはそれ以上離れた地点まで進行する場合がある。地上では、突風と風向の急変、気温の急下降と気圧の急上昇が観測される。 活火山  火山噴火予知連絡会では、平成15年(2003年)に活火山を「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義した。現在、日本には110の活火山がある。 キ 気候モデル  気候を形成する大気、海洋、陸面などの諸因子を数値モデル化し(それぞれ大気大循環モデル、海洋大循環モデル、陸面モデルという。)、これらを組み合わせコンピュータで計算して気候を予測する数値予報モデル。 緊急地震速報  地震波には、比較的早く到達するP波(初期微動)と、遅れて到着し主要な破壊現象を引き起こすS波(主要動)がある。緊急地震速報とは、震源近傍の観測点のP波の観測データを処理することにより、震源からある程度離れた地域においてS波が到達する前に、地震の発生、震源の速報、主要動の到達時刻、その予測される震度などについて被害の軽減・防止を目的として可能な限り即時的に発表する情報のこと。 ク 空振  爆発により発生する空気の振動現象。火山の噴火、火砕流の流下などに伴い発生する。 クロロフルオロカーボン類(chlorofluorocarbons)  塩素、フッ素、炭素からなる化合物で、オゾン破壊の程度の高い物質。代表的なものとしてCFC-11、CFC-12などがある。フロンともいう。 ケ 傾斜計  地盤の傾きを測定する機器で、地震や火山活動に伴う地殻変動の監視に用いる。 コ 黄砂  アジア域の砂漠地帯(ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠)や黄土高原などから舞い上げられた砂塵が、上空の強い風によって東方へ輸送され、徐々に降下する現象。日本における黄砂現象は、春先から初夏にかけて観測されることが多く、空が黄褐色に煙ることにより、一般にもよく知られた現象である。現象が著しいときは、視程の悪化により交通機関へ影響を与える場合がある。 シ 自己浮上式海底地震計  海底に設置する地震計で、記録装置とともに船舶などから投下し海底に沈めて、一定期間の観測終了後に海面上に浮上させ回収する方式のもの。データを記録できる期間は数か月程度で、継続的な監視のための常時観測には向かないが、ケーブル式海底地震計より安価で、機動的な調査のための観測に用いられる。 地震計  地震動を計測する機器。複数の観測点における、地震波が到達した時刻や地震波の振幅などから、地震の発生場所、深さ、規模(マグニチュード)が推定できる。 地震動  地震波が地表に到達したときの地面の揺れ。 地震波  地下で生じる岩盤の破壊は、ある面(断層)を境に互いがずれるように起こる。これを断層運動といい、それに伴い地震波が生じる。地震波は、地球の内部を伝わる縦波(P波)と横波(S波)、地球の表面に沿って伝わる波(表面波)に大別できる。 地震防災対策強化地域判定会  地震防災対策強化地域*に係る大規模な地震**の発生のおそれの有無につき判定するために組織され、学識経験者(現在は6名)から構成される。気象庁は、東海地域の観測データに基準以上の異常が現れた場合、同会を開催し、委員の意見を踏まえ、「東海地震注意情報」発表する。さらに異常な観測データが前兆すべりによるものと判定され、東海地震の発生のおそれがあると認めた場合に、気象庁長官はその旨を内閣総理大臣に報告する。報告を受けた内閣総理大臣は閣議に諮った後「警戒宣言」を発令する。(東海地震に関連する情報発表の流れについてはトピック3の図参照) *:大規模地震対策特別措置法の規定に基づき内閣総理大臣が指定する。 **:現在は東海地震を対象としている。 震源  断層運動の際に、岩石の破壊(ずれ)が始まり地震波を発生させた最初の地点。震源域は、断層運動により地震波を発生させた領域全体を指し、断層運動によって生じた岩石の破壊面とほぼ同じである。震源域の長さ(差し渡し)は、マグニチュード7の地震で数十キロメートル程度、マグニチュード8では100キロメートルを超えることがある。 震度  地震動の強さを表す尺度であり、地表での揺れの程度を意味する。震度は揺れの強い方から「7」、「6強」、「6弱」、「5強」、「5弱」、「4」、「3」、「2」、「1」、「0」の10段階の階級で表現する。一般に、地震の震源域に近い場所ほど震度は大きく、またマグニチュードが大きい地震のときほど、各地の震度は大きくなる。 震度計  地震動を計測し、観測地点における震度(計測震度)を自動的に算出する機器。計測震度の算出には、計測した地震動の加速度の振幅や周期等を用いる。 ス スーパーコンピュータシステム  数値予報モデル等による解析・予測および静止気象衛星(ひまわり)に代表される衛星データ処理に用いるスーパーコンピュータを中核としたシステム。。 水蒸気爆発  マグマから伝わった熱により火山体内の地下水が加熱され生じた高圧の水蒸気によって起こる噴火である。 数値予報  物理の法則に基づき、将来の気温、気圧、風などの大気や海洋の状態を数値として予測する技術。この計算には、膨大な演算処理が必要であるため、スーパーコンピュータが使われる。計算に用いられるプログラムを数値予報モデルと呼ぶ。 セ 静止気象衛星  赤道上空約35,800キロメートルの高さにあって、地球の自転と同一周期で地球を周回しながら、常に地球上の同じ場所の気象観測を行う衛星。我が国の「ひまわり」のほか、米国のGOES、欧州のMETEOSATなどが運用されている。 静止地球環境観測衛星(Himawari)  ひまわり7号の後継となる静止気象衛星で、「ひまわり」8号及び9号を指す。従来の「ひまわり」という和名の愛称を受け継ぎ、8号及び9号から英名も「Himawari-8」「Himawari-9」とした。「ひまわり」8号及び9号の気象観測機能は、「ひまわり」6号及び7号と比べ、画像分解能が向上、観測間隔が短縮、画像の種類が増加し、防災のための監視機能を強化すると共に、気候変動や地球環境の監視機能も強化する。8号は平成26年(2014年)に、9号は平成28年(2016年)に打ち上げ、2機あわせて14年間の観測を行う予定。 成層圏  対流圏と中間圏の間にある大気圏。昭和36年(1961年)に世界気象機関(WMO)は、「対流圏界面(高さ6?18キロメートル)と成層圏界面(50?55キロメートル)との間にあり、一般に気温が高さとともに高くなる領域」と定義した。 世界気象機関  →WMO (World Meteorological Organization)参照 前兆すべり  地震は、まずゆっくりとしたすべりで始まり、やがて急激な断層運動となり、地震発生に至ると考えられている。この地震発生の前段階における断層のゆっくりした動きを前兆すべり(プレスリップ)と呼ぶ。 タ 台風  北西太平洋または南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速がおよそ毎秒17メートル以上のもの。 ダウンバースト  積雲や積乱雲から生じる強い下降気流を指し、地面に衝突し周囲に吹き出す突風を生じる。地上では、発散性の突風のほか強雨・雹とともに露点温度の下降を伴うことがある。被害域は円または楕円状となることが多い。また、強い低層ウィンドシアーを起こす現象の一つであり、航空機の離着陸に大きな影響を与える。周囲への吹き出しが4キロメートル未満のものをマイクロバースト、4キロメートル以上のものをマクロバーストとも呼ぶ。 高潮  台風や発達した低気圧などに伴う気圧降下による海面の吸い上げ効果と風による海水の吹き寄せ効 果のため、海面が異常に上昇する現象。 竜巻  積雲や積乱雲に伴って発生する鉛直軸を持つ激しい渦巻きで、漏斗状または柱状の雲や、陸上では巻き上がる砂塵、海上では水柱を伴うことがある。地上では、収束性や回転性を持つ突風や気圧降下が観測され、被害域は帯状・線状となることが多い。 チ 中層フロート(アルゴフロート)  海面から深さ2,000メートルまでの間を自動的に浮き沈みしながら水温・塩分を観測し、そのデータを人工衛星経由にて通報する観測機器。アルゴ計画(アの項を参照)において主要な観測機器として用いられている。中層フロートから通報されたデータは、直ちに気象データ交換のための全球通信システム(GTS)を通じて国際的に交換され、海水温予測やエルニーニョ現象の監視・予測などの気象・海洋業務に利用されている。 潮位  基準面から測った海面の高さで、波浪など短周期の変動を除去したもの。 ツ 津波  海底下の浅いところで大きな地震が起きると、海底が持ち上がったり下がったりする。その結果、周辺の広い範囲にある海水全体が短時間に急激に持ち上がったり下がったりし、それにより発生した海面の変動が波として周囲に広がっていく現象。津波が陸地に近づき水深が浅くなると、速度は遅く なるとともに、津波の高さは急速に高くなる。 津波地震早期検知網  津波の発生の有無を即座に判定するための地震観測網。各観測点からの地震波形データは本庁、各管区気象台および沖縄気象台に伝送され、地震の位置・規模を迅速に推定することにより津波の有無の判定を行っている。 テ データ同化技術  気象台などが行う地上気象観測や高層気象観測のように、ある決まった時刻に行われる観測に加えて、衛星観測のように特に観測時刻が定まっていない観測など、様々な観測データを数値予報の「初期値」(予測計算を開始する時刻の気温や風速などの大気の状態を表す物理的な数値)として活用するための手法。 ト 東海地震  過去の大規模な地震の発生間隔などから、駿河湾から静岡県の内陸部のフィリピン海プレートと陸のプレートの境界を震源域として、いつ発生してもおかしくないと考えられているマグニチュード8クラスの海溝型地震で、現在日本で唯一、防災対策に結びつけられる短期直前予知の可能性がある地震。 東南海地震及び南海地震  過去の大規模な地震の発生間隔などから、紀伊半島沖から四国沖付近のフィリピン海プレートと陸のプレートの境界を震源域として、今世紀前半にも発生する可能性が高いとされるマグニチュード8を超える海溝型地震。 ネ 熱帯低気圧  熱帯又は亜熱帯地方に発生する低気圧のうち、最大風速が毎秒17.2メートル未満で台風に満たないもの。台風も含めて熱帯、亜熱帯地方に発生する低気圧の総称として用いることもある。 ハ ハザードマップ(hazard map)  ある災害に対する危険な地区が記入されている地図。火山噴火、地すべり、山崩れ、洪水、高潮、土石流、なだれなどの現象に対して、それぞれ作成されている。 波浪  海面の波のうち、風によって引き起こされるものの総称。その場所で吹いている風によって起った 「風浪」と、他の場所で風によって生じた波がその場所まで伝わって来た「うねり」がある。 ヒ ひずみ計  地下の岩盤の伸び・縮みを非常に高感度で観測する装置。気象庁では、東海地震の短期的な前兆と考えられる地殻変動を捉えることを目的として、地下数百メートル程度の深さに円筒形のセンサーを埋設し、周囲の岩盤から受ける力によって変形する様子を極めて高い精度で検出し、監視している。センサーには、変形による体積の変化を測定する体積ひずみ計と、水平面内の方位ごとの変形の量も測定できる多成分ひずみ計がある。 非静力学モデル  低気圧や前線などの気象現象を予測するための数値予報モデルでは、大気の鉛直方向の運動を水平の気流の流れから間接的に求めているが、メソモデル(メの項を参照)が扱う気象現象では鉛直方向の大気の運動が相対的に大きくなってくる。このため、鉛直の大気の運動(上昇気流・下降気流)を直接計算する必要があり、この計算を取り入れた数値予報モデルを「非静力学モデル」という。 ヒートアイランド(heat island)  人工的な熱の排出や、人工的な地表面及び建築物の増加により、都市の気温が周囲よりも高い状態になる現象。等温線が都市を丸く取り囲んで、気温分布が島のような形になることから、このように呼ばれる。 フ 藤田スケール  藤田スケールとは、竜巻やダウンバーストなどの風速を、建物などの被害状況から簡便に推定する ために、シカゴ大学の藤田哲也により昭和46年(1971年)に考案された風速の尺度。竜巻やダウンバーストなどは現象が局地的なため、風速計で風速を観測できることがほとんどないことから、このような現象における強い風を推測する尺度として世界的に用いられている。藤田スケールは「Fスケール」とも呼ばれ、F0からF5の6段階に区分されている。過去に日本で発生した竜巻のうちで最もFスケールの大きかったものはF3。 プレート  地球表面を覆う厚さ数10キロメートルから100キロメートル程度の固い岩石の層。地球表面は大小合わせて十数枚のプレートで覆われており、日本周辺は、太平洋プレート、フィリピン海プレート、北米プレート、ユーラシアプレートの4枚のプレートが接する境界に位置している。 プレートテクトニクス(plate tectonics)  地震活動、火山活動、地殻変動などの地球表面の地学現象を、地球表面を覆っている複数のプレートの相対的な運動から生じるものとして統一的に説明・解明する学説。 噴火警戒レベル  火山の噴火時等にとるべき防災対応を踏まえ、火山活動の状況を5段階に区分したもので、噴火警報等で発表する。平成19年12月1日から導入し、平成23年4月現在29火山で運用している。 噴火警報等  火山現象に関する警報及び予報。噴火警報は噴火に伴って生命に危険のおよぶ火山現象の発生が予想される場合に発表される。対象地域を居住地域及びそれより火口側とする場合は「噴火警報」、居住地域より火口側を対象とする場合は「火口周辺警報」の略称を用いる。 噴石  噴火に伴って火口から噴出する石は、その大きさや形状等により「火山岩塊」、「火山れき」、「火山弾」等に区分される。気象庁では、防災情報で住民等に伝える際には、これらを総称して「噴石」という用語を用いている。噴石は、時には火口から数キロメートル程度まで飛散することがあり、落下の衝撃で人が死傷したり、家屋・車・道路などが被害を受けることがある。 マ マグニチュード(magnitude)  地震(断層運動)の規模の尺度。一般にMという記号で表され、観測された地震波をもとに算出される。Mの値が1大きくなると地震のエネルギーは約30倍になる。 ミ 民間気象業務支援センター  気象庁は、予報業務許可事業者その他民間における気象業務の健全な発達を支援し及び産業、交通その他の社会活動における気象情報の利用促進を図るため、「民間気象業務支援センター」を指定できることになっている。  平成23年9月30日現在、(財)気象業務支援センターが気象庁長官よりその指定を受けている。 メ メソモデル (メソ数値予報モデル、meso-scale numerical weather prediction model)  低気圧や梅雨前線などの大規模な現象に伴い、大雨などをもたらす数十キロメートル程度の空間規模の気象現象(メソ気象現象)の予測を目的とした、水平分解能が数キロメートル?10キロメートルの数値予報モデル。 ユ 有害紫外線  紫外線の中でも特に、波長280?315ナノメートル(注)の紫外線(B領域紫外線、UV-B)は、オゾンによる吸収が大きいことからオゾン層の破壊の影響を最も強く受け、かつ、生物にとって有害であることから、一般に有害紫外線と呼ばれている。オゾン層破壊に伴い、地上に到達する有害紫外線量の増加による皮膚がん、白内障など健康被害の増加が懸念されている。 注:1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1(10億分の1メートル) ヨ 余震  比較的大きな地震(本震)が発生した後、その近くで続発するより小さな地震。震源が浅い大きな地震は、ほとんどの場合、余震を伴う。余震の数は本震直後に多く、時間とともに次第に少なくなる。大きな余震による揺れは、場所によっては本震の揺れと同じ程度になることがある。壊れかけた家や崖などに注意する必要がある。 4次元変分法  数値予報モデルが短時間(例えば3時間程度)に予測する、風、気温、降水量などの様々な物理量と、地上の様々な場所や時刻に実際に観測される物理量との差が最小になるようにするデータ同化技術。空間(3次元)の観測値の分布に加えて、時間的な分布も考慮されることから4次元と称される。 ラ ライダー (lidar : Light Detection and Ranging)、ドップラーライダー  レーザー光の短いパルスを大気中に発射し、雲、エーロゾル、大気分子からの散乱光を受信することによりそれらの濃度の高度分布を遠隔測定する装置のことをいう。レーザーレーダーとも呼ばれる。また、ドップラー効果を利用して上空の風の情報を得る機能を備えた装置をドップラーライダーという。 ラジオゾンデ(radiosonde)  センサーと無線発信器を一体とした気象測器のこと。水素又はヘリウムを詰めた気球に吊して上空に飛揚し、気圧・気温・湿度・風など大気の状態の測定に使用する。 ラニーニャ現象(La Nin?a)  エルニーニョ現象(エの項を参照)とは逆に、南米のペルー沖から中部太平洋赤道域にかけて海面水温が平年より低くなり、半年?1年半程度継続する現象。これに伴って世界各地で異常気象が発生する可能性が高い。 レ レーダー(radar:Radio Detection and Ranging)、ドップラーレーダー  パルス状の電波を大気中に発射し、雨粒や雪からの反射波を受信することにより降水の水平分布や高度などを遠隔測定する装置のことをいう。また、降水の分布や強さなどの観測に加え、電波のドップラー効果を利用して上空の風の情報を得る機能を備えたレーダーをドップラーレーダーという。