長官会見要旨(令和6年3月21日)

会見日時等

令和6年3月21日 14時00分~14時40分

於:気象庁記者会見室

発言要旨

 私から3点お話させていただきます。
 1点目は、本日09時08分頃に発生した茨城県南部の地震についてです。この地震では、栃木県の下野市と埼玉県の加須市で震度5弱を観測しました。過去の事例では、大地震発生後に同程度の地震が発生した割合は1~2割あることから、揺れの強かった地域では、地震発生から1週間程度、最大震度5弱程度の地震に注意してください。特に今後2~3日程度は、規模の大きな地震が発生することが多くあります。
 2点目は、新潟県における津波観測体制の強化についてです。政府の地震調査委員会において、今回の能登半島地震の活動域及びその周辺で津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているところです。また、能登半島地震による津波の現地調査の結果、高い津波の痕跡高や浸水高が確認されたこと、迅速な設置が可能な地点であることも考慮をしたうえで、気象庁では、上越市の直江津港および佐渡市の小木港に、津波や潮位の観測が可能となる観測装置を3月26日に設置することとしました。観測データの確認後、津波・潮位の監視への活用を開始しましたら速やかにお知らせいたします。
 3点目は、新しい海洋気象観測船「凌風丸」についてです。3月1日に、新しい海洋気象観測船「凌風丸」が全ての建造工程を終えて、造船会社のジャパンマリンユナイテッド株式会社から気象庁に引き渡されました。凌風丸は1937年(昭和12年)に竣工したⅠ世から数えて、これでⅣ世となります。凌風丸Ⅳ世は、Ⅲ世の老朽化に伴って、その後継として建造を続けてきましたが、こうして無事竣工を迎えたことを喜ばしく思っているところです。実は、私自身も35年前の新採用の時、当時の函館海洋気象台において高風丸という観測船に乗船して海洋気象観測業務に従事しておりました。引渡式で新しい船を拝見しましたが、当時のことが思い出され、感慨深いものがありました。
 これまで凌風丸は、もう1隻の海洋気象観測船「啓風丸」とともに、長年にわたって北西太平洋域で海洋気象観測を継続することで、海洋環境や気候変動の監視にとって非常に貴重な観測データを世界に提供してまいりました。さらに線状降水帯の予測精度向上に資するため、令和3年度からは、出水期の日本近海における洋上の水蒸気観測を開始しました。
 近年、気候変動や異常気象への社会的な関心が高まる中、この新しい凌風丸の役割はますます重要なものになると考えています。そのような期待に応えられるよう、新しい凌風丸と啓風丸を計画的に運用し、海洋気象観測を着実に継続できるよう乗組員にも指示したところです。
 現在、凌風丸は港区のお台場に停泊し、4月下旬からの本格的な海洋気象観測に向けて調整や準備をしているところです。出港の前に、記者クラブの皆様方にもぜひ新しい船をご覧いただきたいと考えておりますので、準備が整い次第、改めてお知らせいたします。
 私からは以上でございます。

質疑応答

Q:今ご発言のありました新潟県での津波観測体制強化について、今回新たに開設された意義について改めてお願いします。

A:能登半島地震に関連した地震調査委員会の評価によりますと、能登半島地震の活動域お及びその周辺で津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているところです。1月1日の地震では能登半島の津波観測装置が被害を受けましたので、これについては石川県の輪島港と飯田港に津波観測装置を設置したところです。指摘では、活動域及びその周辺ということがありますので、1日の地震による津波の調査をしたところ、新潟県でも直江津港の付近で5.8mの遡上高、佐渡市の羽茂港で3.8mの浸水高が確認されました。そういった点も考慮して直江津港と小木港に津波観測装置を設置することとしました。地震が起きた場合にはリアルタイムに津波の高さを計測・公表できるようになりますので、迅速な避難や防災対応に資すると期待しています。もちろん、津波の恐れがあった段階で津波警報を発表しますので、まずはそれで直ちに避難していただくことが前提ではあります。

Q:気象庁は、津波情報や防災気象情報など各種情報の見直しを同時並行で進めています。変更されるのは情報の内容や体系など多岐に及ぶところであり、これらの整理についてどのように進んでいくことを長官は期待していますか。また、意見がまとまった後には、情報の受け手である国民や、地域の防災を担う自治体への丁寧な説明が欠かせません。実際の運用に落とし込むにあたり、どのような課題があると感じていますか。

A:2か月前の就任会見の際に、気象庁は技術官庁であるとともに防災官庁であると申し上げました。気象庁の発表する防災気象情報については、課題や技術の進展等を踏まえて不断の見直し・改善を行っていく必要があります。これらの情報は、住民の避難行動の判断、自治体や各防災機関の防災対応に密接に結びつくものですので、有識者の意見も聞きながら、受け手側の立場に立ったわかりやすい情報となるように整理していくことが重要な観点だと考えています。また、情報の内容や体系の見直しに当たっては、有識者会議での意見がまとまった後も、実運用に先立ち、情報の受け手の方々に適切に情報を活用いただけるよう、共通の理解を得るということが重要です。このため、自治体や防災関係機関へ丁寧に事前の説明を行うとともに、住民が自発的に防災気象情報を活用することで的確な避難行動をとっていただけるよう、普及啓発に努めてまいります。

Q:千葉で2月下旬から続いているスロースリップと地震の多発について、国民的関心が高まっています。この地震への注意は必要ですが、一方で予想だにしないところで地震が起こるということも繰り返されてきました。千葉も含め、全国の方々に対し、地震に関して呼びかけたいことがあればお願いします。

A:2月26日の23時頃から千葉県東方沖を中心にまとまった地震活動が継続しています。今朝09時までに震度1以上を観測した地震は47回発生しています。内訳は震度1が22回、震度2が14回、震度3が7回、震度4が4回となっています。
 今回の地震活動は、フィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生したゆっくりすべりに伴うものです。3月11日に開催された政府の地震調査委員会では「この付近では、過去にも数年に一度程度の頻度でゆっくりすべりを伴う地震活動が観測されており、今回も同様の現象と考えられる。このような現象は、これまでに、1996年、2002年、2007年、2011年、2014年、2018年に見られており、1週間から数か月間程度地震活動が継続することがある。また、2007年には最大震度5弱を観測している。過去の地震活動を踏まえると、今後も引き続き地震が発生し震度5弱程度の強い揺れが観測される可能性があるため、強い揺れに注意が必要である」との評価がなされているところです。
 気象庁では、この地域の地震活動について引き続き注意深く監視しているところです。また、今日も茨城県南部の地震がありましたけれども、日本はどこでも地震が起こりうるという地勢にありますので、地震への日頃の備えを確認いただくとともに、強い揺れが発生した場合には身の安全を図るようお願いします。

Q:新潟の津波観測体制の強化について伺います。機動型の観測装置を設置するということですので、臨時の観測点という理解でよろしいでしょうか。その場合、いつまで設置する予定なのでしょうか。

A:佐渡島の小木港については国土地理院の潮位観測点が既にありますので、可搬型の津波観測装置を設置します。一方で、直江津港は観測点がありませんので、津波と潮位の両方を観測できる機動型の観測装置を設置します。これらの観測装置は、何かあったときに速やかに設置することを目的としています。恒久的なものではありませんが、取り外す時期については今の段階で決めているわけではありません。当面設置することになるかと思います。

Q:今後、同じ場所に恒久的に観測できる津波計を設置する可能性はあるのでしょうか。

A:全国的な津波観測網のあり方ということで今後検討したいと考えています。

Q:新潟県の沿岸には国土交通省港湾局と国土地理院が設置した津波観測計はありますが、気象庁の津波観測計はありません。このことが、今回、新潟に設置するという判断に影響したのでしょうか。

A:そういうことではありません。津波観測装置の配置に関する基本的な考え方として、各津波予報区には最低1つの津波観測装置を置くことにしています。これは気象庁の装置に限定されるわけではなく、他機関のものでも活用させていただけるものは活用しています。今回の能登半島地震も契機の一つとして、全国的な津波観測網のあり方について検討したいと考えています。

Q:全国的な津波観測網について検討したいということですが、今回の新潟の2か所以外に日本海側の沿岸、北陸の沿岸でさらに観測点を増やす可能性はあるのでしょうか。

A:検討してみないと何とも言えませんが、地震や津波については様々な調査研究が常になされており、新しい知見も出てきていますので、これらを拾い直してみた上で、全体を考えたいと思っています。

Q:具体的な設置予定が今現在あるわけではないということですか。

A:はい。現時点ではありません。

Q:総務省消防庁と国交省が、能登半島地震を踏まえた救助、消火活動のあり方に関する検討会を立ち上げました。その中では、輪島市の大規模火災を踏まえて津波警報発表中の消火・救助活動のあり方が議論されています。委員の1人からは住民避難とは別に、消防や救助者が活動・判断できるようなきめ細かい津波警報が必要なのではないかとの声も上がっていたとのことです。解像度の高い解説情報というのは正直難しいのが現状かと思いますが、この課題についての所感についてお願いします。

A:今例示されたようなご意見があったことは承知していますが、それは少し別な議論のような気がいたします。これまでも自治体には気象台からきめ細かな解説を行っておりますので、津波警報の継続の見通し等について自治体の目線で解説することは可能ですし、そういったところを強化するということはあるかと思います。検討会は今後も継続されると聞いておりますので、有効な方策として考えられるものがあれば対応していきたいと考えています。

Q:今話題となった消防庁の検討会には気象庁もオブザーバーとして参加していると思いますが、今後、どのようスタンスで議論に加わっていくのでしょうか。

A:気象庁はオブザーバーとして参加しています。気象庁には、能登半島地震の際に津波に関してどのような情報を発表し、また、火災も発生しましたので気象の影響の可能性について解説して欲しいとの依頼がありましたので、1回目はその説明をしたと承知しています。ですので、基本的には地震の発生当時の状況や現在の情報体系についてご質問があればお答えをするという立場で参加していると理解しています。

Q:東日本大震災では、救助や消火活動をしていた消防職員や消防団員が津波で200人以上亡くなられました。これ契機に3.11以降は、大津波警報が発表されたら消防の人であっても安全確保が大原則になったと認識しています。ですので、その原則を見直すことに繋がるかもしれない今回の議論は、消防側にとってはかなり勇気のいることであると思います。気象庁としては、住民向けとは別の警報を出すことは難しいと思いますが、警報が出ている中で救助や消火にあたる人たちに対してどのような支援があり得るのか、気象庁として検討する余地はあるのでしょうか。

A:気象庁は津波警報等の情報を担っていますので、津波警報等の改善に繋がるものであれば、気象庁で例えば有識者を入れて検討するということはあると思います。しかし、今、消防庁と国土交通省で議論されているものは、津波警報等の改善を求められているものかというと、そこは違うのではないかと思います。お話にもあったとおり、東日本大震災では消防団員の方も相当数の方がお亡くなりになられましたが、救命救助にたずさわる方々や地元住民を守ろうとする方々も命を持っている人間ですので、避難すべきときには避難していただく。これはもう、気象庁は最優先でお願いしたいことです。東日本大震災を受けて津波警報のあり方を検討した結果、大きい津波が来るときは「巨大」としか発表しないこととしたのはご存知だと思うのですけれども、とにかく命の安全を守っていただきたいという観点ですので、今、津波警報を改善するための検討会が必要とは考えておりません。確かに消防庁の立場からの別な観点もありますので、協力できるものについては協力していきたいと考えています。

Q:今朝の茨城県南部の地震について、千葉県で続いている地震との関連性あるのでしょうか。

A:関東の地下ではプレートが複雑に沈み込んでいますので、茨城県南部はもともと地震が起こりやすい場所ではあります。今回の地震はメカニズム的に見ても千葉県の地震と違ってスロースリップは関連していないと見ています。もし何らかの関連がありそうだというのであれば、学識経験者等から政府の地震調査委員会に報告があるとは思いますが、気象庁としては、両者の地震が直接関連しているとは現時点では考えておりません。

Q:それは距離が離れているからでしょうか。

A:はい、距離も離れていますし、地震のメカニズムも違います。

Q:海洋気象観測の重要性は非常に高い一方で、コスト的な問題もあって船を増やすわけにもいきませんし、運用期間を伸ばすわけにもいきません。このような制約の中で海洋気象観測をさらに充実させていくためには、どんなことが重要になってくると思いますか。

A:総合的な観測網をどう考えるかが大事だと思います。例えば、静止気象衛星は同じ場所を常に観測していて、赤外画像や可視画像、海面の水温などが得られますので、海洋を広域に観測する場合は静止気象衛星が有用です。しかし、衛星はリモートセンシング技術を用いていますので、実測値が得られるわけではありませんし、そもそも海の中の様子は観測できません。ですので、海洋気象観測船やアルゴフロート等の直接観測ができる機器と、静止気象衛星のようなリモートセンシング技術のメリットを総合的に活用して海洋気象観測を行うことが大事だと考えています。

Q:民間船舶やJAMSTEC等との連携や協力も一層重要となりますでしょうか。

A:これまでも相当数の観測データをいただいていますので、今後もぜひお願いしたいと思います。最近では線状降水帯の予測に必要な海上の水蒸気観測で民間船舶の協力もいただいているところです。まさにご指摘のとおりです。

Q:内閣府で能登半島地震の検証チームが立ち上りました。政府としての対応が議論されることになりますが、自治体との連携が一つの視点になっていると理解しています。気象庁は正式なメンバーではないようですが、検証チームへの協力等についてのお考えはありますか。

A:検証チームで検証していくものの一つに、今回の能登半島地震に際しての初動、気象庁からどのように情報が出て、それをもとに政府がどう行動して、それが自治体にどう役に立ったのか。課題の有無を含めて検証されるものと考えています。気象庁としても検証チームに対して協力していくところがあると考えております。

Q:正式なメンバーとしてではなくということでしょうか。

A:正式メンバーの定義の問題ですが、国土交通省の一員として関わる場合は、気象庁はメンバーとしては見えなくなります。

Q:来週26日に、気象庁の目視観測は東京と大阪以外で全国的に終了します。明治時代から続いてきた観測体制が大きく変わる一つの節目であると理解しています。今回の目視観測の切り替えについてどのように考えていますか。

A:人材育成の観点、つまり10種類の雲の形など気象庁職員として基本的なことを学ぶという点において目視観測は意味があると考えています。一方で、目視観測の弱点は、観測者の主観が入ってしまうことです。観測した人によって結果が違うということも出てきますので、客観化や自動化ができるものについては極力自動化していくことも大事です。東京と大阪の目視観測は残りますので、引き続き、人材育成の一環というところもありますけども、継続をしていきたいと考えています。なお、これによって予測精度が落ちるようなことはありません。

Q:自動化できることは自動化していくとことですが、背景として人手不足の問題などがあるのでしょうか。

A:技術を伴った職員は気象庁の財産です。自動化できる部分は自動化を行い、その時々で優先度の高い業務へ職員を再配置してまいります。典型的な例として地域防災があり、職員でなければできない業務に重みを移していくという考えはあります。職員の専門技術を最大限に活用し、自動化と人材配置の最適化をしつつ、必要に応じて増員を要請し、気象庁の業務を継続的に改善していきたいと考えています。

(以上)