長官会見要旨 (令和6年1月17日)

会見日時等

令和6年1月17日 14時00分~15時14分
於:気象庁記者会見室


発言要旨

 本日付で気象庁長官を拝命いたしました森でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず能登半島地震につきましては、1月1日に最大震度7を観測したマグニチュード7.6の地震により、甚大な被害が発生しております。お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された全ての方々に心よりお見舞いを申し上げます。
 能登半島地震につきましては、その後も活発な地震活動が続いているともに、雪や雨を伴うような寒い日が続いています。気象庁といたしましては、引き続き、きめ細かな防災気象情報の提供、あるいは丁寧な解説により、地元の自治体や被災者の皆様に寄り添った支援を実施していく必要があると考えております。私自ら気象庁の先頭に立って取り組んでまいりたいと考えております。
 さて、私が気象庁に入って35年余りが経ちましたので、それを踏まえて最近感じていることを少しだけお話したいと思います。私は気象庁の最大の特徴は、「技術官庁」であるとともに「防災官庁」でもあることと考えております。
 防災気象情報をはじめとする各種の気象情報は、最新の科学技術を駆使して作成・提供していくということが重要であり、このことは、まさに交通政策審議会の気象分科会の提言である「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」において、2030年に向けた達成目標が示されているところでございます。
 一方、防災官庁としては、技術が確立していない事象についても、利用者のニーズや国民の安全・安心といった観点で情報発表しなければならない場合があります。このようなケースとしては、例えば2つ挙げることができます。まず一つ目です。2011年の東北地方太平洋沖地震、いわゆる東日本大震災に際しては、津波警報のあり方が課題となりました。このため、地震の規模が正確にわからないような巨大地震の場合は、ひとまず津波警報の第一歩は「巨大」という表現を用いて非常事態であることをまず伝えるというような工夫をしたところです。2つ目は、一昨年1月のトンガの火山噴火による潮位変化の事例です。当時、潮位変化の原因は不明でしたが、これによる被害の発生がありうると判断したことから、当時私は地震火山部長でしたけども、緊急の対応として、津波の津波警報の枠組みを活用して津波警報・注意報を発表しました。その後、潮位変化の原因は、気圧波によるものと推察されて、外国で噴煙高度5万フィート、約1万5000m以上の大規模噴火が発生した場合には、その段階から気圧波等による潮位変化、これも「津波」と呼ぶことにしたところですが、その潮位変化の可能性に関する情報を発表していくことといたしました。
 これらのように、防災気象情報については、技術が確立していない事象についても柔軟に工夫をして改善に取り組むとともに、場面によっては、その場の判断で最善と考える形で迅速に情報を発表することが必要とされることもあり、これは気象庁が「技術官庁」のみならず、24時間365日、「防災官庁」としての責務を果たしていくことが求められていることを意味していると理解しております。
 一方、防災気象情報を効果的に活用いただくためには、自治体や国民の皆様に防災気象情報の精度等に関して平時からご理解いただくことも重要と考えています。また、民間事業も含めた気象業務の発展のためには、産学官の連携も不可欠と考えています。
 今後とも、防災業務にとどまらず、気象業務全体について気象庁が社会に一層貢献できるよう、報道機関の皆様のご協力もいただきつつ、日々取り組んでいきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。


質疑応答

Q:長官に就任された抱負として、在任中特に成し遂げたいことなどございましたらお聞かせください。
A:まずは能登半島地震への対応を前長官から引き継いだわけですけども、この取組を先頭に立って行っていくことが第一だと考えています。その他、この1年でまず浮かぶものといいますと、線状降水帯の予測精度の向上です。先ほどの話にも繋がりますが、線状降水帯の予測を一昨年度に始めたときには、十分な精度が正直ないだろうと思いながらもニーズの方が勝っているところもあって始めたところです。おかげさまで、昨年の予測については、1年だけでもちろん判断してはいけないのですが、一昨年よりは向上していますし、線状降水帯の発生について30分前倒して発表することも、ほぼうまくできました。今年の出水期には、半日前予測について、これまで地方単位であったものを県単位で発表しようというところですので、まず、この運用を確実に開始したいと考えています。それから運用開始は少し先になりますが、防災気象情報のあり方について見直しを検討しているところです。これについては有識者に入っていただいて、どのようにしたら警戒レベルの対応が的確になるか、どういう名称にした方がわかりやすいのかといったところについて検討いただいています。これらの方向性について、今年の前半くらいを目途に取りまとめができればと考えています。その他はさらに先の話になりますけども、次期静止気象衛星の打ち上げは令和10年度、運用開始は令和11年度を予定しておりますが、これも線状降水帯の予測精度向上に不可欠なものですので、既に製造には着手しているところですが、遅延がないよう着実に整備を進めてまいりたいと考えております。

Q:能登半島地震に関連してですが、津波データの欠測や震度速報の誤発表などもありましたが、それについての受け止めと対応についてお聞かせください。
A:先ほどの東日本大震災の話にも繋がりますが、大きな災害があると教訓というのができて、それに対応していくことになります。気象庁では、東日本大震災等の過去の災害の経験も踏まえて、災害時にも気象、地震、津波等の観測を維持するため、観測施設のバッテリーの強化、衛星通信を用いたバックアップ回線の整備、可搬型の観測機器の整備といった強化を行ってきました。今般の地震によって津波や地震等の観測施設に障害が発生したことから、気象庁機動調査班(JMA-MOT)として職員を現地に派遣し、バッテリーの交換や可搬型の観測機の設置などにより観測網の復旧・維持に努めており、事前の準備と発災後の迅速な対応が一定程度機能したと考えております。例えば津波観測点に関しては、観測データが欠測となった輪島港について、港湾局と連携して可搬型の津波観測装置を設置し、さらに潮位の観測も可能となるように機動型の津波観測装置の設置を行ったところです。また、地震計や震度計については、舳倉島や珠洲の地震観測点に職員を派遣して、観測維持の対応を取るとともに、震度観測点に問題がないか、震度5強以上が観測された観測点は全て調査しました。81地点を対象に点検・調査を進め、80地点は完了したと聞いています。残っているのは珠洲市大谷町ですが、なかなかたどり着けないため1か所だけ残っている状況です。一方で11日に調査した3地点で設置環境に異常が認められましたので、この3地点については速やかに地震情報への活用を停止する対応を取ったところです。
 それから1日の23時05分に発表した震度速報において、最大震度7と誤った情報を発表したことによって混乱を生じさせてしまったということがございました。これについては私からもお詫び申し上げます。本件につきましては、直後の調査及び対応により、同様の現象は起こらないようにするとともに、より詳細な確認等を進めているところでございます。
 その他、地元を支援するための措置等をとっているところであり、例えば気象庁のホームページにポータルサイトを立ち上げて、市町村単位の天気を載せているところです。こうした取組が被災地での避難、救助捜索活動、避難生活支援等の一助となっているのではないかと考えているところです。
 今後とも関係省庁・機関と連携しながら、しっかりと対応を進めていきたいと考えております。

Q:震度速報の誤発表の件ですが、加藤管理課長の会見では原因は調査中ということでしたが、現時点ではどうでしょうか?
A:当時何が起こっていたのかということですけれども、16時10分のマグニチュード7.6の地震で震度7が観測されました。その情報は地震のシステムのメモリ上に残してありました。これはわざと残すように従来はしてあって、何かあったら、過去の地震情報を引用して次の情報を出したい場合もありますので、メモリ上に残しておいたということです。ただそれが何らかの理由で悪さをして、そこから意図しない引用がなされて震度7の震度速報が流れたということです。ですから、そういうことが再発しないよう、メモリ上に残さないようにする措置をしました。メモリ上に残っていた震度7の震度速報の情報をメモリ上から落とすとともに、それ以降も当然、震度情報は次々出ていったわけですけども、それを1回1回クリアして残さないようにする運用を今も続けています。ただ、元々はメモリ上にあっても大丈夫なはずだったもので起こっていますので、何らかのプログラム上の不具合があると考えられます。いわゆるバグというものですけれども、これについてはどこにバグがあるのかを調査中ですので、それを確認した上で不具合を直したいと思います。ただ、運用中のプログラムですので、慎重に行わないと、直したつもりが別な悪さをする恐れもあります。ですので、そこは慎重に進めていきたいと考えています。

Q:今年の春に、南海トラフの地震防災対策の推進基本計画が10年ぶりに改定される予定です。内閣府のワーキンググループが作業を進めていて、前回の計画にはなかった「半割れ」のケースでの被害量を推計する見込みとなっています。半割れの場合に後発地震への警戒を促す臨時情報の役割は大きくなると思うのですが、直近の国のアンケート調査では、被害想定地域でも「臨時情報について知っている」と答えた人が3割に満たないという結果でした。復旧啓発に努めるとしつつもなかなか周知が進んでいない状況ですが、どこに課題があって今後どのように取り組むべきと考えているか教えてください。
A:南海トラフ沿いでは、巨大地震の発生が切迫しているとされており、気象庁では南海トラフ地震の発生可能性が平常時と比べて相対的に高まったと評価された場合等に、「南海トラフ地震臨時情報」を発表することにしています。この情報はこれまでに一度も発表したことはなく、昨年12月に公表された内閣府による調査では、南海トラフ地震防災対策推進地域において、「南海トラフ地震臨時情報を知っている」との回答は約29%にとどまっているとの結果であったことは承知しております。気象庁では、これまでも関係機関と連携しながら、南海トラフ地震臨時情報の普及啓発活動を進めてきたところですけれども、今般の調査結果を重く受け止め、オンライン講演会の開催のほか、内閣府等と連携してマンガ冊子の配布、SNSによる情報発信、ホームページでの解説の充実、気象台を通じて行う自治体等への解説、地域の避難訓練や防災研修の機会を活用した普及啓発等、あらゆる場面を通じて、今後も全力で情報に関する普及啓発の取組に努めてまいりたいと考えています。
 一度も発表したことがないという観点で言えば、日本海溝・千島海溝沿いの地震に関する「北海道・三陸沖後発地震注意情報」も同様の課題を持っていますので、これと合わせて普及啓発に努めてまいりたいと思います。なお普及啓発という意味では報道の皆様にも協力いただけると大変ありがたいですので、引き続きお力を貸していただければと思います。

Q:能登半島地震について、今後どのくらいの期間どのような揺れや津波に注意が必要か、改めて伺います。
A:1月1日に発生しましたマグニチュード7.6の地震から2週間あまりが経過しまして、地震の発生数自体は増減を繰り返しながら、大局的には緩やかに減少している状況にございます。ただ、過去の地震、例えば熊本地震などと比較しても、地震の回数は多く推移しているところです。またマグニチュード7.6の地震の発生前と比較すると依然として地震活動は活発な状態と言えます。ですので、15日の地震調査委員会の報道発表と一緒に気象庁も報道発表しましたけれども、今後2、3週間程度、最大震度5強程度以上の地震に注意していただきたいと考えています。最大震度6弱以上の地震についても、マグニチュード7.6の地震発生直後に比べると低くなってきているものの、依然として発生する可能性があります。過去に起こった日本海側の地震では、昭和39年(1964年)の新潟地震、昭和58年(1983年)の日本海中部地震、平成5年(1993年)の北海道南西沖地震の際には、最大の地震の約1か月後に大きな規模の地震が発生しているという事実がございます。
 また、能登半島での地震、これはもう数年前から続いているところですけども、昨年12月までと比べて地震活動の範囲が広がっていますので、これまでより広い範囲で強い揺れを観測しています。海底で規模の大きな地震が発生した場合は津波に注意する必要があります。1月1日に発生したマグニチュード7.6の地震で揺れの強かった地域では、家屋の倒壊や土砂災害などの危険性が高まっていますので、復旧活動などを行う場合には、今後の地震活動であるとか、降雨・降雪の状況に十分注意し、やむを得ない事情がない限り、危険な場所には立ち入らないなど、身の安全を図るよう心がけていただきたいと思います。

Q:1月1日の能登半島地震の初動の対応、そしてこの2週間の対応への評価を教えていただけますでしょうか。
A:初動としては、緊急地震速報、最大震度7の観測、大津波警報の発表、この流れについては概ね問題なく発表できたと考えています。それから、津波警報や津波注意報への切り替えや解除についても、津波の実際の状況を見ながらにはなりましたので一定の時間を要しましたけれども、最終的には若干の海面変動は残るとの留保をつけた形で適切なタイミングで解除ができたと考えています。その後地震活動の状況についても、日々、適切に発表できてきていると思います。地震の発生直後には「地震発生から1週間程度、最大震度7程度の地震に注意」、その1週間後の8日には「今後1か月程度、最大震度5強程度以上の地震に注意」、さらに1週間後の15日には「今後2~3週間程度、最大震度5強程度以上の地震に注意」というように、今後の地震についてどのようなことが考えられるかというに点ついても、しっかりと情報は出せていると考えています。

Q:震度速報の誤報について追加で質問します。過去の情報をメモリに残す仕様になっているのは、それを引用して情報を出したい場合があるからとおっしゃっていたかと思うですけども、どういうケースの場合に引用して情報が出される場合があるのか、ご説明いただけますか。
A:(地震火山部)震度情報につきましては、自治体等の情報も含めて気象庁で発表しているところですけれども、そういった他機関のデータがそれぞれのタイミングで入ってくることがありますので、段階的に入ってくる情報についてある程度まとめて発表するときに、それまでの過去の情報等をうまく使って発表することがございます。

Q:過去の情報にプラスしてどんどん情報を盛り込んでいく際に、引用しながら情報を充実させていくというイメージで合っていますでしょうか?
A:(地震火山部)一例として申し上げたところとしては、そういった活用方法がございます。

Q:地震の数自体は減ってきているかと思いますが、昨日も震度5弱があるなど、大きい地震はそれなりに起きているという印象を持っています。こういう中で警戒を続けることで気が休まらない住民の方も多いのではと思う一方、逆に地震に慣れてしまい、避難行動に鈍さが出てしまうというリスクもあるのではとも思います。そういった点を踏まえて注意の呼びかけがあればお願いします。
A:おっしゃられた通り、地震は続いてはいるのだけども回数自体は減ってきていますので、安心感というのとは違うと思いますけど、ちょっとした緩みみたいなものは生じているかもしれません。先ほども申しましたけれども、一定の確率で大きな震動を伴う地震も生じますし、日本海側で過去に起きた大きな地震では、以前は余震と言っていましたけど、今は地震活動と申しますけれども、その後に起きた地震のうち一番大きな地震が約1か月後に起きているということがあります。ですから、過剰に恐れてはいけないと思うのですけれども、防災の担当者はよく「正しく恐れる」と言いますが、そういうところをきちんと伝えていくことが大事だと思います。それは自治体や報道機関の協力を得て行うこともあるかと思います。気象庁としては繰り返してお願いするしかないのかなと考えているところです。

Q:今回は寒冷地が被災したということで、地震情報だけでなく気象情報もポイントになったかと思います。気象庁として大気海洋部と地震火山部がどういった連携をして情報が届けられたかという点について、俯瞰的な評価をお願いできればと思います。
A:これは日本の気象庁の良いところだと思うのですけども、つまり、1つの省庁の中に大気海洋部門と地震火山部門の両方を持っていること。アメリカなどは別々です。それによって気象庁として情報発信する際に、どちらかだけを発信するというのではなく、両者をセットで必ず説明することを心がけています。例えば救援、支援活動においては地震活動だけなく天候が大きく影響しますので、災害対策本部会議などではこれらの情報を一体的にお伝えするようにしているところです。部は分かれていますが気象庁としては1つですので、一体的にきちんと情報が出されていると考えております。

Q:今日で阪神・淡路大震災から29年となりました。ご自身は気象庁に入られて5年ぐらいでのタイミングだったと思うのですけども、当時の状況を振り返って何かコメントがあればお願いできればと思います。
A:確かに私が入庁して7年目の時でした。阪神・淡路大震災が起きたとき、私は国土庁防災局、今の内閣府防災の地震担当をしていました。当時の対応というのは、大きく話題に取り上げられましたけど、政府としての初動に課題があると言われたところです。当時と比べて何が初動のところで変わったかなと思うと、例えば政府に緊急参集チームができました。全国で震度6弱以上、東京都23区で震度5強以上の地震が発生した場合は、緊急参集チームの関係省庁のメンバーは直ちに官邸に参集して協議を始めることになっています。直ちに集まれないと意味がないわけですから、今は危機管理の担当者は官邸あるいは霞が関近くの宿舎に入ることになっています。今回、1月1日の午後4時10分に能登半島地震が発生したわけですけども、私は気象防災監として4時半には官邸に着いていました。もちろん、関係省庁の方も集まって速やかに緊急参集チームの協議が開始されました。ですから、阪神・淡路大震災の教訓というのはいくつかあったわけですけども、今申し上げたような改善がなされて、今回の能登半島地震の対応にも生かされているなと感じているところです。

Q:この度のご就任おめでとうございます。まずは、気象庁に入ろうと思った動機について伺ってもよろしいですか。
A:私が気象庁に入りたいと思ったのは小学校の高学年のときです。私は生まれが北陸の福井県ですけども、そこで雪を見ながら育ち、子供の頃は雪が大好きだったので、しかも日本海側では降っても太平洋側ではあまり降らないと聞いたので、そこに興味をすごく持つようになりました。それで、小学校の高学年のときには天気図を書くようになり、福井の地方気象台に入りたいなと思って気象台に1回電話したことがあります。そしたら、気象台の職員から公務員試験を受けてくださいと言われたのを覚えています。それがきっかけでそのまま本当に気象庁に入ったということです。

Q:実際に気象庁に入ってみて、いい意味で自分の思いが更新されたり、全く違っていたと思ったりしたことがあればご紹介いただけますか。
A:先ほど気象庁は防災官庁でもあると申し上げましたけれども、子供の頃に気象庁が防災官庁だという意識はあまりなく、技術で生きている官庁だと思っていました。話が少しずれますが、昔、人から聞いたことがあるのは、一番好きなことを仕事に選ぶかどうかはよく考えた方がいいということ。仕事にすると、その仕事の苦しいところを見ないといけなくなる。だから一番好きなものは趣味に留めておいた方がいいっていうこと。逆に、その苦労をしてでも好きなものだったら何とかやれるのではないか。これは人によると思いますが、自分の場合はたまたま後者の方ということで、人によっては「やりがい」と言うのだと思うのですが、苦労してでもやっていけるというところを感じるようになったので、気象庁に入った後の仕事も何とかやりこなせてきたのだと思っています。

Q:入庁されて、まさに防災官庁だということを突きつけられたというところがあるかと思います。ご自身のキャリアを振り返って、これまでで防災官庁であることを一番深く突きつけられた経験についてご紹介ください。
A:1つは阪神・淡路大震災です。先ほども申し上げましたが、私は国土庁防災局にいたわけですけども、そのとき、地震に関する情報だけではなくて、二次災害の防止には気象の情報も大事というのがあって、その両方を気象庁が提供しているということ。また、必ずしも防災気象情報ではない部分になりますが、東日本大震災の時もそうだったと記憶していますが、地震の直後は朝から晩まで地震の番組になって通常の番組が無くなりました。でも天気予報は無くならない。天気予報は、防災情報だけではなく生活情報という意味もあると思うのですけれども、人々に密着しているという意味で気象庁を選んでよかったなと感じました。

Q:先ほどのお話の中で、正しく恐れることが大事であるとおっしゃいました。正しく恐れていただくためにどのように取り組んでいくのか、お願いします。
A:なかなか難しいことではあります。過剰に恐れると、能登半島地震でももう出ているかもしれませんが、風評という心配があります。それは正しく恐れることを超えた恐れ方をするからだと思います。その風評被害を完全になくすことは難しいかもしれませんが、減ずるためには色々な省庁が努力しないといけないところがあって、気象庁も努力しないといけない部分があるのではないかといったことも感じます。気象庁は科学技術に基づいて情報を出していく官庁です。ただ、科学技術に基づいた情報ではあるけれども、風評被害に配慮した情報の出し方はあるのではないかと思います。例えば、石川県においても北陸新幹線は金沢まで、今後は敦賀まで延伸されますけども、北陸新幹線は今通常どおり運行されています。石川県知事も被害のないところについては、お客様に来ていただきたいとの思いも持っていると伺っています。そういった意味では、例えば、能登半島地震に関する一連の地震活動について、毎日、震度いくつの地震が何回あったかを出していますけど、これは最大震度で出しています。昨日も震度5弱の地震ありましたけど、それが北陸全体のイメージになっているのではないか。金沢であるとか、富山であるとか、福井であるとか、そういう地点ごとに日別の地震の回数とか震度のデータを出してあげると、例えば金沢で見ると、1月1日のマグニチュード7.6の地震はさすがに揺れていますが、その後、5弱以上の地震はほとんどないと思います。このように科学技術に基づいた情報ではあるが、情報の出し方を工夫してあげると、気象庁も風評被害の懸念に対して貢献できる部分があるのではないかと思っています。もちろん、これは私が今思いついて喋ったものであって、気象庁としてそういう対応を取りますと決めているものではないことは、ご承知おきください。

Q:能登半島地震の特徴として家屋の倒壊や地盤の隆起量が多かったことが指摘されていますけども、長官として今回の地震の特徴はどういったところにあるとお考えでしょうか。
A:能登半島地震は、我々の命名上は1月1日の地震だけを指すのではなく、一連の地震を能登半島地震と命名しています。この一連の地震は活動期間が長いということが、まず特徴だと思っています。2020年の12月から活発になって2021年の7月頃からさらに活発になったところです。その中で去年の5月5日に震度6強の地震が1回発生しましたが、昨年12月までの地震活動は、能登半島北部の概ね30キロ四方の範囲内でした。ところが、1月1日の地震では活動範囲が一気に広がって、北東から南西に150キロぐらいの活動域を持つようになりました。これは元々長い期間活動していて、さらに活動域がここで広がったという特徴があります。これについては能登半島の沿岸にある複数の活断層が関連した可能性があると15日の地震調査委員会では評価されていますが、その辺が特徴だと考えますので、地震調査委員会でも評価を継続していくと考えますけれども、気象庁としても活動域が広がったということを念頭に置きつつ、監視を引き続きしっかりやってまいりたいと考えております。

Q:阪神・淡路大震災の対応に当たられた経験があるということで、当時は自衛隊の初動対応が遅かったという指摘があったかと思います。今回の能登半島地震でも自衛隊の救助が遅いのではないかという指摘があります。今回の地震で官邸で対応された身として、この意見についてどのようにお考えでしょうか
A:気象庁の所管の部分ではありませんので、私が直接コメントできる立場ではないと思っています。自衛隊の活動については県知事の要請を踏まえてというところもあるかと思います。その辺のタイミングがどうだったか私は把握しておりません。

Q:能登半島地震の発生から2週間ちょっとというこのタイミングでの長官交代については、どのようにお考えでしょうか?
A:私の人事を私が判断することはありませんので、私がコメントする立場にはないと考えています。本日付の発令については、昨日、国土交通大臣が閣議後の定例記者会見の中でおっしゃられたことで、その大臣の発言をそのまま申し上げると、「地震発生から2週間以上が経過し、地震の頻度は低下してきていること等から」と大臣は話されていたところです。あと私から申し上げられることは、1月1日の地震発生以降、緊急参集チームとしても活動しましたけど、大林前長官と一緒に気象庁として的確な業務遂行が図られるように取り組んできたところですし、今後とも気象庁の先頭に立って取組を推進してまいりたいと考えております。

Q:先ほどの震度速報の誤報の件で確認です。対策としてメモリ上に過去の地震の情報を残さないようにするということですが、これによって、情報の出し方ですとかスピード、内容やクオリティに影響や変化というのが起きうるものでしょうか。
A:メモリ上に残さなくなったということは、引用したい場合は1回1回データを呼び出さないといけないことになります。その呼び出しにかかる時間がどの程度かというところで、その時間が有意なものでなければ、情報発表の遅延という問題にはならないと理解しています。
A:(地震火山部)今長官が申し上げましたとおり、現在の運用におきましては情報発表等に遅延は生じませんし、現場の職員もそれに対応できるように直後から訓練をして対応しております。

Q:ただ、作業としては若干煩雑になるのは否めないところですか。
A:(地震火山部)煩雑というよりは、1ステップ入れるという形のものだけでございます。

Q:能登半島地震について、2020年12月から活発化する中で、気象庁の呼びかけが十分だったかということと、こういった群発地震においての呼びかけの課題等が浮かび上がっていましたらお願いします。
A:2020年12月からずっと続いていましたので、その活動に関する情報は、地元に対しては金沢の地方気象台のホームページにおいて定期的かつ継続的に載せてきていたところです。また大学等でシンポジウムや講演会があれば気象台も積極的に参画して、今後も地震活動は続くと考えられる、あるいは、大きな地震が起これば津波を伴う可能性があるということを説明してきたところです。地震が継続していましたので、地震に対する注意の呼びかけについても継続的に行うことができていたと考えています。

Q:能登半島地震に関連して津波観測点がいくつか欠測しました。輪島港は港湾局の観測点ですが、1.2m以上という数字で止まってしまっています。一方、専門家などの現地調査では3mや5mといった津波があったのではないかとの調査結果も出ています。気象庁は大津波警報を発表しましたが、結果としてどの程度の津波が来ていたのかなかなかわからない状況が今も続いているということについての受け止めをお願いします。また、大津波警報や津波警報を気象庁が発表したとき、国民にどう受け止めてほしいか、どういう避難行動に繋げてほしいか改めてお願します。
A:今回の津波については様々な機関で調査がなされていて、輪島寄りのところは隆起したことによって、それが防波堤になったという見方もされています。一方、富山湾側は隆起していないため大きな津波が来たのだろうと言われています。これについてはいくつかの調査機関でまさに調査が進められていまして、土木学会が中心となっているグループに気象庁も参加していますので、結果がまとまりましたら発表したいと考えています。それから津波警報ですが、津波警報を発表した段階では、地盤の変化を併せて確認することは今の技術では困難なところです。気象庁としては、地震の位置とマグニチュードによって津波警報の必要があるかどうかを判断するわけですが、とにかく、津波警報や大津波警報が出たら直ちに避難していただく、もうそれしかないと考えていますので、我々としても普及啓発の取組を続けていきたいと考えています。

Q:大規模噴火のときには、潮位変化の可能性について注意の呼びかけが出されるようになりました。長官が地震火山部長の時代に噴煙高度1万5000m以上でこの呼びかけを行うことが決まったかと思います。ただ、結果として、津波が来ないときもあるかと思います。注意喚起がなされているとき場合の社会的影響はやはり大きいと思いますし、この情報について今後どうしていくかお考えをお願いします。
A:事例が多くない中でどうしていくべきかというところだと思います。一昨年のトンガの火山噴火の際に起きたこと、あれを踏まえて、基本的に大規模噴火じゃないと起こらないだろうという考え方がありますので、有識者の先生方にも入って検討いただき、大規模噴火による気圧波で潮位変化が起こる可能性はどのくらいの規模の噴火からなのだろうということで、事例が少ない中で、閾値として5万フィート(約1万5000m)としたところです。ただ、今ご指摘があったとおり、実は潮位変化が無かったというものが多くあることも事実です。ただ、安全サイドに立つと、現段階では今の基準で運用していくのだろうと思います。一定の事例が溜まってくれば、もう少し閾値を変えていいのではないかいった検討はありうると考えています。

Q:年末から年始にかけてWMOやEUの気象情報機関のコペルニクス気候変動サービス等が、2023年の地球の平均気温が過去最高であって、しかも今までに比べて飛び抜けて高いという結果を出しています。こうしたことを踏まえて、急速に深刻化する気候変動に対する長官の危機感、またこれにどのように対応していくのか語っていただければと思います。
A:地震、火山噴火、豪雨といったものは人命に直結しますので、これには対処しないといけないということはどの国でもすぐイメージできるものだと思います。一方、気候変動は直ちに人命に関わるのか言われると、そうでないというところもありますので、国によって対応が異なったりします。ただ、気候変動というものは徐々に進んでいくものでありますけど、一旦進んでしまうと取り戻すのが非常に困難であるという特徴も持っています。このことは、長期的に見れば人命に関わってくるっていうこともありうるということです。さらに、気候変動が進むと異常気象が増えるということも言われています。個々の異常気象が気候変動のせいかどうかを判断するのは難しいですが、異常気象が増えることになれば、それはまさに災害によって命に直結する事案が増えるということにもなりかねないということであります。ですので、気候変動問題については、昨年末にCOP28もありましたけども、我が国からは岸田総理が会合に出席して、多様な道筋の下で全ての国がネット・ゼロという共通の目標を向けて取り組むべきことを改めて訴えました。気象庁も政府の一員として、科学技術に基づいて大気や海洋に関する情報を提供してまいります。これまでも「日本の気候変動2020」を公表しましたし、その改訂版である「日本の気候変動2025」の公表に向けて作業をしております。また、「気候変動監視レポート」も毎年公表しております。引き続き、政府の政策の一環として、さらには国際的に貢献できる形で取り組んでいきたいと考えております。

Q:今回の人事ですが、1週間の延期ということで異例の人事であったと受け止めています。この1週間、ご自身が気象防災監に留まり、大林長官が長官であり続けた防災対応における意味について、どのように感じていらっしゃいましたか。
A:この1週間、大林前長官と一緒に観測施設の復旧等に精力的に取り組むことができたと考えています。例えば輪島港に機動型の津波観測装置を取り付けることができましたし、停電の影響でバッテリー運用となっていた観測点ではバッテリー交換を定期的に行いました。そういう意味で、大林前長官と一緒にこの1週間、気象庁として最大限の措置を講ずることができたと考えています。あと、私個人としては、人事が延期になった当初、長官交代がどのぐらい先になるかというのはもちろんわからなかったわけですけれども、防災官庁の長官になるということの責務について、地震対応を踏まえて改めて認識した1週間であったということは言えると思っています。

Q:長官交代が1週間先送りとなった間に防災対応として特にやれたのは、気象庁のインフラの修理とか再確認ということなのでしょうか。
A:もちろん、停電してバッテリーで運用しているところは復電しない限り最終的な復旧はしないわけですが、この1週間、今後の観測を安定的かつ継続的に行うための体制は確保できたと考えています。

Q:地震から2週間経ちました。復旧復興の道半ばというところで長官が変わられましたが、大林前長官からの引き継ぎとして印象深いものがあればご紹介ください。
A:大林前長官は、退任の間際まで地震の対応をされたということになります。それで道半ばとまでは言わないのかもしれないですけど、そういうところで私に引き継いだわけですので、今後のところはよろしく頼むというようなことはございました。

Q:震度速報の誤報についてですが、直後の会見では、現状でのチェック体制というのもあった中でどうしてこういうことが起きたのかわからないというようなお話もありましたけれども、新たに何かわかっているところがあれば教えてください。
A:あの会見の段階では、メモリ上に残っているものから引用されて情報が出ているところの確認が取れていませんでした。しかし、誤った情報を出してしまったわけですから、これはもう速やかに謝罪をしないといけないということで、23時台に起きた誤報でしたが、午前0時には記者会見したと記憶しています。何が起こったのか良くわかっていない状況で記者会見していますので、その段階では、原因的なところについての言及ができなかったのだろうと考えています

Q:プログラム上のバグが原因ではないかというお話もありましたので、念のため確認ですけども、人的ミスではなく完全にプログラム側の問題と推察されるということでしょうか。
A:そのように考えています。

Q:冒頭の発言の中で、今回の地震の対応を先頭に立って進めていきたいというお話もございました。阪神・淡路大震災などを経験されているというお話もありましたが、ご自身のこれまでの経歴や専門性などを生かして、どういうことを先頭に立って推し進めていきたいか改めてお願いします。
A:自分の経歴は気象庁では珍しいのではないかと思います。それは、畑がないということです。気象庁に限ったことではないのかもしれませんが、いわゆる技術屋で入った人というのは、何かの得意分野を持っていることが多い。地震火山分野でいきますとか気候変動分野でいきますとか。一方で私の場合は、気象庁に入ったときは海洋気象観測船に3年乗りました。その後、地震火山の分野に行き、さらに、ひまわり8号を打ち上げたときの気象衛星課長もさせていただきました。ですので、気象庁の業務をほぼ網羅的に経験させていただいたと思っています。先ほど、大気海洋と地震火山が一つになっている省庁だというお話もしましたけど、そういうことも含めて、気象庁全体の業務、それからその業務の中で抱えている懸案事項は何なのかというところを総合的に広い視点で捉えた上で判断していきたいと考えています。

Q:福井県のご出身だということでお聞きします。3年間も群発地震が続いて、去年の5月に大きな地震があって、よりによって元日に大地震と津波が来て、なおかつ真冬の寒い最中ということで、地元の方からすると、もうこんなことがあっていいのだろうかといった感情になると思います。自然災害は、そのようなことも関係なく起きるわけですけれども、このままこの辺りに住み続けていいのだろうかという思いを感じている方もかなりいらっしゃると思います。気象庁長官として、故郷への思いをお願いします。
A:私は北陸の福井出身ですけども、そういう意味で、今回の地震について、地元も含めた形で大変胸が痛いというふうに思っています。北陸の冬というのは非常に厳しいので、今被災者の方々が厳しい環境下に置かれていることは容易に想像がつきますので、そこは改めて心よりお見舞いを申し上げます。住み続けて良いのかということについては、個々の方の判断がありますので、そこはそうだと思うのですけれども、先ほども申し上げた風評というものはそれによって外の人が来なくなるとか観光客が来なくなることだと思いますので、そこに住んでいて良いのかというのは、風評とはまた違う意味だと思います。ただ共通するのは、先ほど申し上げたように「正しく恐れる」ということです。その中で、最終的にはもうそれぞれの方が判断していかないといけないと思います。気象庁としては、科学技術に基づいた情報ではあるけれども、地元の方々のお気持ちに寄り添った形で情報を出していくことが大事だと思っています。今は寒さ対策ですが、一方で仮設住宅の建設が進められていると伺っています。そういう意味では、避難生活が長くなる方もいらっしゃると考えますので、季節が変わっていったら、暑さ対策であるとか、大雨への警戒であるとか、そういったところに配慮しながら、気象庁として情報提供等に取り組んでいくことが大事ではないかと考えております。

(以上)

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