長官会見要旨 (令和5年12月20日)

会見日時等

令和5年12月20日 14時00分~14時26分
於:気象庁記者会見室


発言要旨

 冒頭私から3点述べさせていただきます。

 今年最後の会見となりますので、この1年についての所感を述べたいと思います。
 毎年のように大きな災害が発生している中、今年も6月初めの西日本から東日本の太平洋側での大雨、6月末以降の梅雨前線による大雨、8月の台風第6号と第7号、9月の台風第13号による大雨等により、各地で被害が発生いたしました。また、5月には石川県能登地方で最大震度6強を観測する地震が発生しました。これらの災害に際して、気象庁は持てる技術を最大限に活用し、できる限り防災気象情報を適時に提供するよう努めたところです。加えて、各地の気象台においては、JETT(気象庁防災対応支援チーム)の派遣やホットラインなどを通じ、自治体の防災対応を積極的に支援いたしました。

 線状降水帯に関する情報について、今年5月に「顕著な大雨に関する気象情報」を最大30分程度前倒しして発表する運用を開始しました。これにより、線状降水帯による大雨災害発生の危険度が急激に高まっている状況であることを、従来より早くお知らせすることができたものと考えております。また線状降水帯による大雨の半日前からの呼びかけについては、数字だけを比較すると、昨年より予測精度が上がりましたが、事前に呼びかけることが難しい事例もまだ多く、予測技術の更なる向上が必要であることを改めて認識しました。来年は県単位で線状降水帯による大雨の半日前からの呼びかけを開始する予定です。線状降水帯予測スーパーコンピュータを用い、18時間先までの2kmメッシュの数値予報モデルの予測結果を活用するなど、運用開始に向けて技術的な準備を進めてまいります。

 また地震に関しては、2月には「緊急地震速報」の発表基準への長周期地震動階級の追加、9月には「緊急地震速報」の予測手法のIPF法への一本化を実施し、情報の改善を行いました。

 さて、今年は記録的な高温の1年でもありました。今年の日本の平均気温が1898年以降の126年間で最も高くなること、また日本付近の海面水温も、1908年以降の116年間で最も高くなることが確実です。世界的に見ても、今年は地球全体の平均気温が最高を記録する見込みであり、ご承知の通り、グテーレス国連事務総長は、今年7月に、「地球沸騰の時代が到来した」という言葉で強い危機感を訴えました。

 折しも、気候変動対策を議論する国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(通称COP28)が11月30日から12月13日までアラブ首長国連邦で開催され、岸田総理が首脳級会合「世界気候行動サミット」に参加し、多様な道筋のもとで全ての国がネット・ゼロという共通の目標に向けて取り組むべきことを改めて訴えるなど、地球温暖化対策を進めることが我が国はもちろん、世界全体の喫緊の課題となっていることを実感しております。気象庁といたしましては、引き続き、地球温暖化の対策に資する気候変動の監視・予測について情報発信していくとともに、周知・啓発活動に努めてまいります。

 この1年、気象庁の技術力は着実に向上しているという手応えを感じる一方、まだまだ改善すべき課題も多いということを改めて認識いたしました。来年も大学や研究機関などと連携した技術力向上や、自治体や報道機関を含めた関係機関と協力した地域防災力の向上に努めてまいります。

 私からは以上です。

質疑応答

Q:今の挨拶の中で、今年、防災気象情報の提供を最大限できるよう努めたというお話がありましたけれども、振り返ってみて、どのくらいのレベルのことができたと感じていらっしゃいますか。
A:線状降水帯が発生したことをお知らせする「顕著な大雨に関する気象情報」を、昨年より30分程度早めて前倒し発表するということを今年実施しました。これについては、ほとんどの事例で実際に前倒し発表ができておりまして、危険な状態を少しでも早くお伝えするということができたと思っておりますし、自治体からも評価の声があったと聞いております。技術的には、大きくというよりは、少しずつ着実に伸びていると思っておりまして、この取組を引き続き着実に進めていきたいと思います。

Q:今月初めに、遠地地震や海外で発生した火山の大規模噴火によって津波注意報を発表したり、津波の影響が日本にあるかどうか判断がつくまでにかなり時間を要したりするケースがありました。地震の揺れを体に感じることなく、あるいは震動がゼロであっても津波注意報が発表されたり津波が観測されたりという事例が今年はいくつかありました。そういったものに対して改めて防災上のメッセージがありましたらお聞かせください。
A:遠地地震や海外の大規模噴火の場合には、日本国内で地震の揺れを感じないにもかかわらず、津波が観測される場合があります。気象庁では遠地地震や海外の大規模噴火に対しては「遠地地震に関する情報」を発表し、国内や国外への津波の影響についてお知らせしています。この情報で「日本への津波の有無については調査中」とされた場合については、その後の情報に注意していただきたいと思います。
 地震や大規模噴火の発生場所が遠方の場合、津波の到達に時間がかかるため、津波の心配がないということがわかるまでに長い時間を要することになります。また、大規模噴火によって生成される気圧波に励起される津波の場合は、津波の伝播する距離が長くなるほど津波が高くなるという性質もあるため、途中の経路で津波が観測されていなくても日本付近で津波が観測される可能性もあることから、津波の恐れがないと言えるまでには、さらに長い時間を要します。
 11月20日のパプアニューギニアのウラウン火山の噴火や12月3日のインドネシアのマラピ火山の噴火では、結果的に津波は発生しませんでしたが、津波の心配がないとわかるまでに長時間を要することについてご理解いただいて、それまでの間は情報に注意していただくようお願いしたいと思います。
 一方、12月2日のフィリピン諸島ミンダナオの地震に関しては、震源がこれらの火山の噴火と比べると比較的日本に近く、津波が到達するまでの猶予が短いことから、まず津波注意報を発表して津波に対して注意を呼び掛けてから「遠地地震に関する情報」を発表しました。また10月の鳥島近海の地震のように、震度情報等を発表することなく、突然、潮位の観測値をもとに津波警報や津波注意報を発表することもあります。
 この他、日本近海の地震であっても、震度があまり大きくないにも関わらず高い津波を伴う、いわゆる津波地震と呼ばれる地震の例もございます。
 このようなこともあるということについてご理解いただき、地震の揺れを感じなかったり、強い揺れでなかったとしても、「津波注意報」を見聞きした場合には海辺から離れる、「津波警報」の場合にはより高い安全な場所へ避難するなど、直ちに適切な避難行動を取っていただくようお願いいたします。またその後は「津波注意報」が解除されるまでは、海岸に近づかないようにお願いします。

Q:今年は、フィリピンの遠地地震やインドネシアの大規模噴火、10月の鳥島近海の地震の例も、結果的には想定された津波注意報レベルの範囲内に実際に観測された津波の高さは収まったわけですけれども、専門家の一部からは、国内で強い揺れを伴わずに津波が観測される場合、津波の高さは大したことがないといった受け止めが定着化するのではといった懸念の声も上がっています。この点についての受け止めはいかがでしょうか。
A:先月から今月にかけての事例では、12月2日のフィリピン諸島ミンダナオの地震により八丈島で最大0.4mの津波を観測しましたが、ご指摘のとおり、津波の高さ1m以下の津波注意報の範囲内となりました。しかしながら、過去には1960年のチリ地震津波など大きな被害をもたらすような津波の来襲もありました。最近の事例だけにとらわれず、過去の津波被害も念頭に置いていただき、津波警報・注意報を見聞きした場合には、直ちに適切な避難行動をとっていただくようお願いしたいと思います。

Q:今月16日で運用開始から1年となった「北海道・三陸沖後発地震注意情報」について伺います。NHKが対象地域に住む1000人の方にアンケート調査を行ったところ、7割の方が情報の名称について「聞いたことがない」と回答しました。また、「聞いたことがある」と答えた方でも半数近くが、どのように行動して良いか「知らない」と回答しました。この情報の周知が進んでおらず、また理解も十分進んでいない現状が見えたと思っております。この情報の課題についてどのように受け止めていらっしゃいますか。
A:「北海道・三陸沖後発地震注意情報」に関しましては、この1年間、関係機関等と連携して、様々な媒体により周知について取り組んでまいりました。情報が浸透していないという今回の調査結果については重く受け止めるとともに、これまで一度も発表されたことがない情報の普及啓発の難しさを改めて痛感しております。引き続き、日本海溝・千島海溝で発生する巨大地震により、お住まいの地域にどのような被害が想定されているのかということと併せて、この情報のことを知っていただくことが大変重要だと考えております。気象庁では、オンライン講演会の開催のほか、内閣府等と連携したマンガ冊子の配布、SNSによる情報発信、ホームページでの解説の充実、気象台を通じて行う自治体等への解説、地域の避難訓練や防災研修の機会を活用した普及啓発等、運用開始2年目も引き続き全力で情報に関する普及啓発の取組に努めてまいります。また「気象庁X(旧twitter)」や「気象庁防災情報X」でもタイムリーに情報発信をしておりますので、ぜひご登録をお願いしたいと思います。被害が想定される地域の住民の皆様に向けて、今後も引き続き関係機関と連携した周知啓発を強化していきたいと思っております。

Q:専門家からも、情報を受け取ったらどう行動したら良いのか、行動のところまで踏み込んだ伝え方が大事との声を聞きます。南海トラフ地震臨時情報のように事前避難が求められる情報と、一方で、事前避難まで求めないという今回の情報と、長官も先ほどおっしゃいましたけれども、浸透させる難しさというものがあると思います。これについて、今後どのように浸透させていきたいとお考えなのか、改めて教えていただけますか。
A:例えば、津波警報は「即座に逃げてください」という情報で、情報と防災対応が1対1です。一方で、「北海道・三陸沖後発地震情報」は、出したからといって必ずしも後発地震が起こるわけではない、逆に確率から言うと起きない可能性の方が高いが、通常よりは巨大地震が起こる可能性が高まっていることをお知らせするという、極めて不確実性が高い情報です。また防災対応についても、すぐ逃げるということではなくて、1週間程度は地震への備えを再確認するといった比較的長期間にわたって対策をとっていただくということがあります。切迫感のある情報ではないですし、我が事感が掴みづらいということもあるかもしれません。お住まいの地域が日本海溝・千島海溝の地震によりどういう被害を受ける可能性があるのかということを知った上で、日頃からの対策をとっていただく、その上でこの情報が出たときの対応を考えていただく、そのような形で普及啓発について関係機関とも連携しながら進めていきたいと思っております。また、実際に情報を発表する場合には、単に情報発表するだけではなく、内閣府と気象庁が合同で記者会見を開き、情報の意味することについて丁寧に説明を行いたいと思っております。普及啓発の取組等に関しましては、NHKにも今回取り上げていただきましたが、報道機関の皆様にも是非とも引き続きご協力をお願いしたいと思っております。

Q:明日から日本海側を中心に大雪が警戒されていますけれども、改めて注意点や警戒点をお願いします。
A:西日本では明日21日から22日にかけて、北日本と東日本では、21日から23日頃にかけて、日本海側を中心に大雪となる見込みです。特に西日本では、今季初めて平地も含めて積雪となり、大雪となる可能性があります。特に雪道に慣れていないドライバーの方は極力運転を控えていただくのが良いかと思いますし、やむを得ず運転をする場合には、必ず冬用タイヤを装着していただくとか、チェーンを携行して早めに装着していただくことを徹底していただきたいと思います。

Q:防災気象情報の再構築に関連して、複雑化している情報をシンプルにしていくという方向で話が進んでいるところだと思いますが、その一方で線状降水帯の予測については技術の向上とともに地方単位の予測から県単位の予測になっていく、より細かくより充実させていくという方向で進められているものと思います。これらはある意味ジレンマというか背反する部分もあるのではないでしょうか。シンプルでわかりやすくしたいけれども、技術の向上とともに情報は細かく増えていく・・・。ジレンマと呼べるかどうかも含めて、どのように捉えていらっしゃるのか所感をお願いします。
A:避難情報については、警戒レベルが導入されて、令和3年度から現在の体系、例えばレベル4は避難指示といった体系に移行しました。今年で3シーズン目だったと思います。それに対応するような形で、気象庁の大雨警報・洪水警報といったものについては避難のレベルに相当する情報として整理したわけですが、無理やり当てはめている部分もあって若干わかりにくかったり、矛盾があったりすることはご承知のとおりかと思います。これまでの検討会の議論では、避難に直結する情報についてはレベル化してよりシンプルに伝えていく、もう一つ、その背景を丁寧に説明する情報については、現在様々な名前で情報が出ていますが、ある程度統一的な形で情報を出していく方向を取っていくものと思っております。先般の検討会では、避難のレベルに紐づけられるようなものについてはシンプルでわかりやすい情報体系に整理するという道筋をつけていただいたものと思っています。情報の名称をどうするかということも含めて、これからさらに議論いただくわけですが、シンプルな情報に加えて、その情報の背景となる気象状況、それが台風なのか線状降水帯なのかといったことを解説する情報についても改善できないか検討いただこうと思っています。

Q:先ほどの話の中で、線状降水帯の半日程度前からの呼びかけについて、来年に県単位での発表を目指すということですが、対象エリアを絞り込むことによって予測の不確実性が増すという部分はどうしても避けられないと思います。ある程度広い範囲の降水域が、ある県にはかかるけれども隣の県にはかからないということが成立するとは思えません。対象エリアとして名前の出ていない県にそれなりの雨が降ることが予想される場合に、防災上のメッセージとしてどのような発信をしていくのか何かお考えはあるでしょうか。つまり、県単位にすることによってしっかり受け手にメッセージとして届く反面、そうではない部分については何か欠落してしまうようなことがひょっとしたらあるのかもしれませんので、そのあたりをどのように対応していくのかお考えがあれば教えてください。
A:線状降水帯の半日前予測の情報については、結果として線状降水帯の定義には合致しなかった場合でもかなりの大雨になることがありますので、大雨災害への危機感のレベルを一段上げてほしいというメッセージになっています。逆にそれが線状降水帯というキーワードを使わなかったら大したことないと思われるのでは、との危惧については私もそのように思います。ただ現時点では、通常の大雨対応を一歩上げていただくという意味でのプラスの効果を重視して線状降水帯の半日前の呼びかけを行っています。来年は地域を絞ることになりますが、本当にピンポイントで一つの県に出せるかというと必ずしもそうではなくて、例えば、東北地方のように南北に長い地域では、南部には線状降水帯がかかるが北部にはかからないといったことが想定されます。そういった意味での絞り込み、より絞り込んで呼びかけるということを目指したいと思っています。また、線状降水帯のキーワードがなかったからといって安心ではないということについてもしっかりお伝えしていきたいと思っています。情報を出すということはメリットとデメリットの両面があります。メリットの方を有効に活用してデメリットを抑えるというような形で情報の発信を工夫していきたいと思います。

(以上)

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