長官会見要旨 (令和5年11月15日)

会見日時等

令和5年11月15日 14時00分~14時17分
於:気象庁記者会見室


発言要旨

 冒頭私から3点述べさせていただきます。

 1点目は、補正予算案についてです。令和5年度の補正予算案には、「線状降水帯・台風等の予測精度向上等に向けた取組の強化」と「地震・火山観測体制の強化」の2つを柱とした予算を計上しております。
 今年の夏も線状降水帯や台風などによる大雨が発生し、大きな被害をもたらしました。このような被害を軽減するため、線状降水帯に関する情報はこれまでも改善を進めてきましたが、引き続き予測精度を向上させ、現状では広域で発表している半日前からの予測を来年には県単位とするなど、今後も段階的に情報改善を進めてまいります。
 このため、線状降水帯の予測精度向上の切り札ともいえる次期静止気象衛星の整備を着実に進めます。さらに、アメダスへの湿度観測の追加、二重偏波気象レーダーの整備に加え、災害が発生した自治体との「振り返り」を通じた気象防災アドバイザーの活用促進などに必要な経費を計上しております。
 また、切迫する南海トラフ地震等の大規模地震や、いつ起こるかわからない火山災害の防止軽減に資するためには、地震や火山の観測体制を維持・強化することが重要です。このため、火山監視情報システムの更新、東南海ケーブル式常時海底地震観測システムの修理、観測施設の整備などに必要な経費を計上しております。補正予算が成立次第、こうしたことについて、気象庁の総力を挙げて取り組んでまいります。

 2点目は、雪のシーズンへの備えについてです。10月21日には北海道の旭川などで初雪を観測し、11月11日には北海道の広い範囲で大雪となりました。これから本格的な雪のシーズンを迎えることとなります。最新の予報によると、この冬はエルニーニョ現象等の影響により、日本付近では偏西風が北に蛇行するため、寒気の南下が弱く、気温が全国的に高くなる見込みです。また冬型の気圧配置が弱いため、日本海側の冬の降雪量は少ない傾向となる見込みです。
 一方で、一時的に強い寒気が入り、大雪となる可能性もあります。注意報や警報、「顕著な大雪に関する気象情報」等、段階的に発表する防災気象情報にご留意いただき、大雪や風雪への万全の対策・対応をとっていただきたいと考えております。

 3点目は、来月12月16日土曜日に開催する「巨大地震対策オンライン講演会」についてです。この講演会では、巨大地震に伴い発生が懸念される津波や長周期地震動のメカニズムとその対策について、第一線の専門家に解説いただくとともに、日本海溝・千島海溝沿いや南海トラフ沿いで想定される巨大地震に対する被害軽減の取組や、地震・津波に関する情報について、自治体の方や当庁より紹介をいたします。
 この講演会はオンラインで開催し、また後日アーカイブの配信も行います。今年は甚大な被害をもたらした関東大震災から100年に当たり、また、開催当日は「北海道・三陸沖後発地震注意情報」の運用開始からちょうど1年を迎える日でもあります。この機会に多くの方にご参加・ご視聴いただき、地震や津波への備えに役立てていただきたいと考えております。報道機関の皆様にも周知へのご協力をよろしくお願いいたします。

 私からは以上です。

質疑応答

Q:線状降水帯の半日前予測について、来年から県単位で発表される予定になっていると承知しております。運用開始に向けた現在の準備状況についてお尋ねします。
A:ご質問いただきましたとおり、半日前からの線状降水帯による大雨の可能性の呼びかけについては、来年度より県単位で行うことを予定しております。これまでの呼びかけでは、主に5kmメッシュの数値予報モデルの結果を情報発表に活用しておりましたが、線状降水帯予測スーパーコンピュータの導入などにより、それよりも分解能が高い2kmメッシュのモデルの予測時間を今年度末には10時間から18時間に延長し、その結果も情報発表に活用できるようにするなど、予測精度向上の取組を進めております。現在、運用開始に向けて技術的な検証も進めているところです。準備が整いましたら報道の皆様にもご説明したいと思っております。

Q:去年から続く防災気象情報の検討会の関係でお尋ねします。過去の調査などで気象に関する情報が多い、わからないと感じてしまう人が一定数存在していると認識をしておりますが、その点についてどのようにお考えでしょうか。また改善に向けて検討が進められていると存じておりますが、どのような情報のあり方が望ましいとお考えでしょうか。
A:防災気象情報については、これまで数々の自然災害の経験や技術の進展を踏まえて、情報の充実や伝え方の改善を進めてきたところですが、一方で、ご指摘いただきましたとおり、情報の数が多すぎるとか、名称がわかりにくいなどと言った指摘がなされており、気象庁としても情報の整理、改善が必要と考えております。このため、現在、気象庁と国土交通省水管理・国土保全局が共同で「防災気象情報に関する検討会」を開催し、議論を進めているところです。
 昨年9月にまとめられました検討会の中間取りまとめにおいて、防災気象情報は、単に観測の成果や予測をお知らせするだけではなく、それに基づき「いま何が起きているのか」、「今後どうなるのか」、「いつからいつまでが危険なのか」といったことを迅速に伝えることで、情報の受け手の主体的な判断や対応を支援する役割を持つものと整理されました。この考えを基本に、特に警戒レベル相当情報については、防災対応が必要な状況であることをシンプルにわかりやすく伝えるものとしていくことが必要であると考えています。今後、防災気象情報に関する検討会の場で議論を深めていきたいと考えています。

Q:この秋は、台風の接近も比較的少なく、雨が少なかったように感じます。西日本ではダムの水位の低下や取水制限など若干水不足の心配も出てきていますが、これについて原因なども含めて長官のご見解をお聞きします。
A:中国・四国地方では、今年の総降水量で見ると、11月中旬時点で概ね平年並に推移している状況ですが、松山では9月と10月の2か月連続で月降水量の少ない記録を更新するなど、9月以降の降水量は少ない状況となっております。この要因といたしましては、9月は偏西風が北に偏って流れる一方、10月はその偏西風が南に蛇行したということで、この偏西風と関係する秋雨前線の影響を本州付近では受けにくかったということ、また、台風の本土への接近が少なかったことが影響したと考えております。
 今後は16日から17日頃に低気圧や前線に向かって湿った空気が流れ込むため、中国・四国地方も雨を予想しております。また、先週の11月9日に発表した最新の1か月予報では、向こう1か月の降水量は、これらの地域では「平年並か少ない」と予想しておりますが、降水の予測については最新の気象情報をご利用いただきたいと思います。また、国土交通省のホームページには渇水状況に関する情報も掲載されておりますので、必要に応じてご利用いただきたいと思います。

Q:台風のお話をされましたが、幸い、この秋は台風の接近が少なくてよかったという声もありますが、台風の数についてはいかがでしょうか?
A:今年の11月15日までの台風の発生数は16個となっておりまして、平年の25.1個に比べて少ない状況であります。また接近数も平年の11.7個に対して今年は9個、上陸数も平年の3個に対して今年は1個と、いずれも少ない状況で推移しています。台風が少ない原因については明確な理由はわかっていませんが、南シナ海からフィリピン付近まで広がる気圧の谷であるモンスーントラフが平年より弱くなり、この付近の対流活動が不活発となったということが要因の一つと考えております。

Q:世界気象機関やNOAA(アメリカ海洋大気庁)などが、今のままでいくと今年は地球の平均気温が史上最も高くなるのではないかとの見通しを出していますが、これについてコメントしていただければ。
A:現時点では明確には言えませんが、今年のこれまでの状況、特に夏から9月頃にかけての高温ベースを考えますと、日本においても世界においても非常に高い気温である1年になるということは十分予測されるところです。これは当然、気候変動の影響を受けているという中で、年々の変動が重なって起きているということだと思いますが、気候変動に関して言いますと、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書において、「人為起源の気候変動は、既に世界中の全ての地域において多くの気象と気候の極端現象に影響を及ぼしている。このことは、自然と人々に対し広範な悪影響及び関連する損失と損害をもたらしている」、「地球温暖化が更に進行するごとに極端現象の変化が更に拡大し続ける」というような評価もされているところでございまして、こういった気候変動の影響が表れているということを示すものであろうと考えます。気候変動に関する対応は、我が国としても世界全体としても重要であると考えております。気象庁といたしましても、気候変動に関する情報発信や普及啓発などを関係省庁と連携して進めまして、気候変動に関する諸課題への対応に貢献してまいりたいと思っております。

Q:今月末からCOP28(国連気候変動枠組条約第28 回締約国会議)が始まりますが、条約の事務局が出した報告でも今のNDC(温室効果ガスの排出削減目標)をそのまま続けていくと、その目標には全く到達しない、今の状況というのは、対策は色々やっているけれども赤ちゃんの一歩、小さな歩みぐらいの効果しかないというようなコメントもしています。そういう中で開かれるCOPに対しての期待や希望がありましたら教えていただければと思います。
A:気象庁では、文部科学省とともに「日本の気候変動に2020」を公表しておりまして、その中では、例えばパリ協定が達成された世界とそれを達成することができずにこのまま温室効果ガスの排出が続いている世界、これらを対比するような形でどのようなことが起こるのかということを解説した資料を作成しております。これをご覧いただくとかなり明瞭なメッセージになっているかと思うのですが、少なくともパリ協定が達成できないような事態になると、相当な悪影響があるということが予測をされているところでございます。こういった科学的な成果を活用して、これからの地球をどうしていくのかということを真剣に議論していく必要があると思っています。

(以上)

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