長官記者会見要旨(平成28年3月17日)

会見日時等

平成28年3月17日(木) 14時00分~14時18分
於:気象庁会見室


発言要旨

 本日は、気象衛星ひまわりなどを活用する数値予報システムの改良についてお話させていただきます。
 気象庁では、国内外の気象データを収集・分析して、日々の天気予報や、警報等をはじめとした防災気象情報を発表していますが、その技術基盤として、スーパーコンピュータシステムを用いて将来の大気の状態をシミュレーションする数値予報システムを運用しています。この数値予報システムにおいて、今般、三つの大きな改良を行いますので、ここで簡単に紹介させていただきます。詳しくはこの後担当より説明させます。

 まず一つ目の改良は、昨年7月に運用を開始した「ひまわり8号」の観測データを利用開始するものです。こちらのモニタには、左側にひまわり7号、右側にひまわり8号の雲画像から算出される上空の風のデータをそれぞれ動画で示しています。「ひまわり8号」では、高頻度・高解像度の観測を行っておりますので、この観測から推定される上空の風などのデータが飛躍的に増加している様子がご覧いただけると思います。これまで、このデータを現在運用中の数値予報システムで利用するための技術開発や検証等を行っており、台風の進路予報をはじめとする精度向上が確認されました。今般、所要の準備が整ったことから、本日9時(日本時間)を初期値とする数値予報から、このデータの利用を開始しました。

 二つ目の改良は、全球降水観測計画(GPM)の主衛星の観測データなどの利用開始です。このGPM主衛星による観測データの利用については、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同して調査と技術開発を進めてきたもので、同データ等の利用により、降水の予測などで精度の向上が確認されています。

 三つ目の改良は、数値予報モデルそのものの改良です。地球全体を対象に予測計算を行う全球モデルにおいて、地表面での放射や雲・降水に関係する対流などの計算をより精緻に行うように改良します。これにより、台風進路や降水の予測精度の向上を見込んでいます。この改良された全球モデルの導入は、先ほど申した二つ目の改良であるGPM主衛星観測データの利用とあわせて3月24日に開始する予定です。こちらのモニタには、昨年の台風第18号の進路予測と、降水の予測を示しています。黒い線が実際の台風が通った進路です。青い線が変更前の台風の進路予報、赤い線が変更した場合にどうなるかという予測ですが、3日後くらいまでの予測でかなり実際の進路と近い予測ができております。次は雨の予測ですが、これは解析雨量で、実際に降った雨、昨年の関東・東北豪雨の時のものですが、関東地方に南北に強い雨が降ったところが解析雨量で示されております。これを、記録的な大雨となる3日前の9月8日の時点で48時間後を予測した結果が下の二つの図で、左下が従前の変更前のもの、右下が変更後の予測結果です。見ていただくと一目瞭然だと思うのですが、従前のものでも関東地方に雨が降るという予測はできているのですが、変更後で見ますと、関東から東北地方にかけて南北に線上の降水域が予測されていることがご覧いただけると思います。これは、台風の進路予測精度の向上により、台風の周辺をまわって関東地方の南海上から流れ込む水蒸気の予測がより適切になったためと分析しています。

 気象庁では、今後とも、ひまわり8号等による新たな観測データの更なる活用や、数値予報モデルの改良等を着実に進め、予測精度の向上に努めてまいります。

 以上です。


主な質疑応答

Q 数値予報システムの改良ですが、改めて、改良されたことについての所感をお聞かせください。
A このような場で説明させていただくのは、少なくとも私にとっては初めての機会です。というのは、これだけの大幅な改善が見られるというのはなかなかないことで、一つにはひまわり8号の導入というのが大きいのですが、もう一つ、数値予報モデル自体の改良が非常に大幅で、今回、その成果が非常に大きいものです。数字で平均的にどのくらい台風の予測精度が上がるのかを客観的に数値で表すと、3日後の予想でおよそ10~20kmというもので、それが実感としてどれだけ良くなるのかはなかなかピンと来ないかもしれませんが、これだけの改善が見られるというのは、数字にしておそらく10%程度になると思うのですが、10%の改善というのは本当に大きな改善です。日々、開発担当者は色々な開発を行って、それぞれが少しずつの改善を行って、それらが積み重なって今の精度になっているのですが、台風で言いますと、今の3日後の予測の誤差が、かつては1日後の誤差だったりするが、それが長年の積み重ねにより、ここまで精度が上がってきたわけですが、今回その中でも非常に大きな改善だと思っています。なかなか台風では実感いただけないと申しましたが、例えば、今回降水の予測も改善が見られるのですが、こういった具体例を見ていただくと、これが役に立つのではないかというようにご覧いただけるのではないかと思います。最終的には、警報を出すといった判断は現場の予報官がこういったデータに基づいて判断するわけですが、こういう精度の向上によって、より早い段階から注意や警戒を呼びかけることができるようになると思いますし、自治体等の防災機関においては、それを用いて早め早めの防災行動を取っていただくことが今後できていくのではないかと期待しています。もう一つは、昨年の交通政策審議会気象分科会の提言がありましたが、その中で、警報級の現象になる可能性が夜半過ぎ等にある場合は、夕方の段階でそれを示すことも改善すべきだという話がありましたが、こういった予測精度の向上によって、それがさらに的確にできるようになるのではないかと期待しているところです。

Q 課題というのはありますか。
A 課題というのは、この数値予報モデルやそれに用いるデータ等、やるべきことはまだまだたくさんとあると思います。詳細は、この後担当から聞いていただきたいのですが、色々な課題を抱えながら、それを計画的に手分けして検討し開発していますので、それが、例えば今回のように新たな衛星のデータが得られれば、それを導入していかに精度を上げる工夫をするか、あとはスーパーコンピュータの性能が上がれば、それでできることもまた広がりますので、先ほども申しましたが、色々な、対流や放射等の難しいところも出てきますが、これまでは計算機の能力の上限で、どうしても近似して、つまりモデルを簡略化して、計算できる範囲内で今まで取り組んでいたものを、コンピュータの能力が上がれば、それに応じた改善をする、精緻な計算をするというものが、課題は山積していますので、今後もこれは続けていかなければいけない、これで終わりではないということです。

Q 地震予知を標榜する技術についてお伺いしたいのですが、気象庁はホームページ等で、かねて東海地震以外は科学的に予知できないと喧伝されていて、しかもそういった予知については注意を促してきているわけですが、最近になって大手携帯電話会社がそういった怪しい情報を発信する会社と提携することになりまして、地震学者の間から結構懸念が高まっているのですが、そういった地震を所管する省庁として長官はどのようにお考えかお伺いしたいのですが。
A そのような話があることは当然承知しておりまして、一般論で申し訳ありませんが、どのような手法で地震予知に取り組んで、それが科学的に妥当かどうかというのは、よく検証していただかないといけないと思います。先ほど、こちらの方で説明したモデルの改善というのも、かなりの長い期間、実際のデータで検証して、その成果をしっかり確認した上で、このように導入するということを我々やっておりますので、それと同じようにしっかりと実際のデータで科学的に客観的に検証していただくことが一番重要だと思いますので、そのように取り組んでいただければと思います。

Q 科学的に客観的に、査読も受けていないような形で出ているものに関して、予知ができるという誤解を社会に与えることによって、地震防災行政にも好ましくない影響があるのではないかと思うのですが、気象庁としてそういったものに注意を促すとかそういったアクションは取れるのでしょうか。
A 今具体的に気象庁としてアクションを取るかどうかということは考えておりませんが、ご案内のように、地震学会あるいは地震学者の方々が注意喚起し、その会社に対して科学的な検証をするようにというご意見を差し上げていると聞いていますので、その結果を見守りたいと思います。

Q 来年度の予算が年度内成立見通しとなって、気象庁の火山関係の業務で大幅に増員となりますが、その準備状況についてお聞かせいただけないでしょうか。
A 具体的に何人増員予定というのは予算が計上されてご案内かと思いますが、それが実際に通った場合に、例えば人員であれば80名という大幅な人員増ですので、それをどう配置するか、確保するかというところで具体的な検討を進めております。もう一つ、既に先取りしてやっていることとしては、予算とは違うのですが、今年度内の取り組みとして、気象研究所に火山でドクターを取られた方を既に3名採用し、さらにあと2人採用するという取り組みを準備しているところです。80名の実際のところについても、過去これまで火山業務を経験しているけれども、今は火山業務以外に就いている方も含めて、採用含めて、最大限の火山経験者を張り付けるということと、あとは研修を大幅に増強する予定でありまして、
(地震火山部担当:例えば、新たに火山の予報官のための研修も導入する予定です)火山関係の研修を何種類か増やして、全員が受ける研修や、今紹介のあった火山担当予報官の研修でありますとか、そういうものを活用して、実際の火山業務に就く職員の底上げと言いますか、専門性を高める研修計画を策定して準備しているところです。

Q 最初からフル稼働というわけにはいかないかもしれないですけれども、研修の他に、非常に専門性の高い方々を採用できているのでしょうか。
A 先ほども申しましたように、少なくとも研究所では火山でドクターを取った方を5人、既に3人採用できていて、さらに2人採用手続きをやっているところです。年度内に5人の火山のドクターを採用するということになっています。あと、噴火予知連等の検討会の提言の中にもあったのですが、火山の高い専門知識を持つ方、元教授クラス等の力も借りるべきというのもありまして、気象庁参与という形で、非常勤の職員として5人参画していただくよう準備をしているところです。

Q また数値予報の話に戻るのですが、数値予報モデルが大幅に改良されるというところで、一般の国民にはなかなか理解しづらい部分もあるかと思うのですが、一般の情報の受け手にとって、どういった面が良くなって、どういうことが今後できるようになっていくようになるのでしょうか。
A なかなか実際の身近なところで示すのが難しくて、こういう事例で示すことになるのですが、今の予測技術で言うと、いくつか計算してみると、こういう線状の降水帯になるということが現れる場合もあったり、全然違ったりという、結構難しいところがあるのですが、今回のモデルの改善によって、線状降水帯のような激しい雨の降り方が、これまでよりも精度が上がると非常に期待しています。台風は、先ほど申しましたように、3日後で200数十kmのところが、10~20km誤差が小さくなるという、平均するとどうしてもそのような数字になるのですが、その結果が、この例で言うとかなりドラスティックに降水の予測精度に関わってくるということですので、気象庁が今後発表する警報でありますとか情報の精度や信頼度に非常に貢献すると思っていますので、これまで以上に、気象庁が段階的に発表する防災気象情報をより有効に活用していただけるようにお願いしたいと思います。


(以上)

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