長官記者会見要旨(平成28年2月18日)

会見日時等

平成28年2月18日(木) 14時00分~14時12分
於:気象庁会見室


発言要旨

 本日は、来月の11日で5周年を迎えます東日本大震災に関してお話しさせていただきます。
 東日本大震災では、東日本を襲った津波、地震により多くの尊い命が失われました。犠牲になられた方々とご遺族の方に改めてお悔やみを申し上げます。
 気象庁では東日本大震災を教訓にこの5年間で、さまざまな情報の改善に取り組んでまいりましたので、その点についてお話しさせていただきます。

 まず、津波警報について、マグニチュード8を超える巨大地震にも的確に発表できるよう、地震観測網の強化や沖合津波観測網の強化、そして津波警報の内容の見直しを実施し、平成25年3月7日から新しい津波警報の運用を開始しました。また、近年の沖合津波観測網の整備を踏まえ、これらの観測データを収集し、津波観測情報の迅速な発表や津波警報等の早期更新への活用を進めています。さらに、これら沖合の津波観測データから、より精度の高い津波高を予測する新たな手法の導入に取り組んでいるところです。
 緊急地震速報については、東北地方太平洋沖地震直後には、余震が多発したため適切に発表できない事例がありました。このことから、地震発生直後から処理方法を見直す等の改善を図りました。今後も新たな手法の導入を順次進め、引き続き、精度向上に努めてまいります。
 これらの技術的改善による情報の精度向上とあわせて、地震が発生した際に自発的に対応行動を取っていただけるよう周知、広報活動を継続して取り組んでまいります。国民の皆様には、強い揺れを感じたら「慌てず、まず身の安全を図る」、また、津波に備えて「より高いところを目指して逃げる」などを意識していただくとともに、日頃から避難経路や自宅等の危険について点検や確認をお願いしたいと思います。

 以上です。


主な質疑応答

Q 東日本大震災から5年ということですが、改めて長官として5年を迎える前に一言いただきたいのですが。
A 先ほど、犠牲になられた方へのお悔やみを申し上げましたが、昨年も感じたことですが、ご遺族の方々の心の傷はこの5年ではまだ癒えていないだろうと思います。そういうことを、我々気象庁としては心にしっかりと刻みながら、今申しましたような趣旨の改善に努めていく必要があると感じています。

Q 東日本大震災から5年ということで、津波警報等、改善してこられたところがあると思いますが、今後改善に向けて取り組んでいきたいことを教えていただけますか。
A 防災情報というのは精度が命ですが、それでも予測ですから精度に幅がありますが、それをいかに縮めていくかが我々に課された大きな課題だと思っています。先ほど申しましたように、沖合の津波観測網が充実していく途上にありますが、そのデータを取り込んで処理する態勢は、新しい第5世代のEPOSの導入というところで受け入れ態勢はできております。これを、データが入ってくるにしたがってこれを活用して、今までは地震の場所と深さとマグニチュードから津波を予測していたわけで、それは今後も続けるべきもので、これより早いものはないのですが、先ほど申しましたのは、沖合の津波計が面的に整備されることになりますと、それを用いて波源域、つまり地震によって海底がどの程度隆起したか沈降したかというところを直接推定するという手法が今後期待されるところです。これは一見易しそうなのですが、なかなか地震が起こった直後に、地震で揺れている中での津波計のデータをどう処理するか、というところもありますし、海底と海面が同時に昇降していますから、すぐには変化が出てこない、といったいろいろな技術的な難しさはまだ残っているのですが、研究中ではありますが、そういうところをまず解決しながら、精度向上に努めてまいりたいと思います。先ほども申しましたが、地震による推定の方が早いのですが、続報として精度の高い予測値、実測値もそうですが、そういうものを提供することによって、情報全体の信頼度・精度の向上を図っていきたいと思います。
 緊急地震速報については、先ほど申しましたが、新たな手法として既に地震火山部の方から今後の計画を以前ご説明していますが、IPF法とPLUM法というものがありまして、そのうちの一つはどうしても時間が掛かります。まだ技術開発も含めて、関係機関との協力も含めて必要な業務になりますが、これを着実に進めていきたいと思っています。

Q 沖合の津波観測網なのですが、S-netをどの程度整備されていくのかにもよるのでしょうけれど、いつ頃から気象庁として取り込んでことになるのでしょうか。
A データとしては使えるようになったものから順次取り入れていくことになると思いますが、そのデータを使って、津波の波源域の推定というのは、先ほど申しましたように、まだ技術的に研究すべき分野が残っていると承知していますので、それについてはまだ、いつから、というのはなかなか申し上げにくい状況にあります。

Q この春から、とかはどうでしょうか。
A そんな早い段階にはまだ無理だと、私はそう思っています。

Q 長官としての印象を伺いたいのですが、東日本大震災から5年ということで、先ほど、それまでの取り組み等をお話しいただいたのですが、起きた当時は、国のあり方や国に形が変わったという声もあったわけです。そういった中で、気象庁としても、気象庁の業務とか姿勢に対して、あの震災で何か転機になったのではないかな、というような印象というのは正直なところいかがでしょうか。
A 難しいご質問ですが、私の個人的な当時のインパクトと言いますか、地震を長くやってきた者にとって、あの地震は非常に大きな衝撃がありました。それは私だけではなく、気象庁の職員皆そう感じたと思います。とにかく、できることからどんどん手を付けていかなければいけないという思いで、皆この5年間頑張ってきたのだと思います。あのときよく言われたのが、“想定外”という言葉を言ってはいけない、確かにそうなのですが、当時は私の正直なところで言いますと、南海トラフの地震、同様なマグニチュード8を大きく超える地震になる可能性があるということで、それに向けて、技術的にできていないことを、なんとかできるようにしていこうという思いは皆あったと思います。東日本大震災には残念ながら間に合わなかったのですが、次は間に合わないということにはならないようにやっていくべきだと思いますし、気象庁職員皆そういう思いで、研究者も含めて取り組んでいると思います。

Q 津波警報なのですが、新しくなってから、まだ実際に“巨大”とか、そういう表現の発表はまだないかと思いますが、今後そのような津波が観測されるような地震が実際に起きた場合に、それに向けてどのようなお気持ちで気象庁としては取り組んでいらっしゃるのでしょうか。
A 気持ちと言いますか、5年前も振り返っていただくと、言ってはいけない“想定外”の非常に大きな地震が起こったにも関わらず、結果的には過小評価となりましたが、約3分で津波警報を発表するということはしっかりできたわけです。もう一度振り返っていただくと、その3分というタイミング、震源とマグニチュードを決めた時点というのは2分後くらいだと思うのですが、例えば東京でいうと非常に激しく揺れていた中です。あの警報は実際は大阪から出しました。東京と大阪はデュアルでやっていて、両方とも結果が正しい場合には、その月の当番である大阪が発表したということになります。大阪も含めて非常に強い揺れがまだ続いている中で、3分で出せたというのは私はまずそのときの担当者を褒めたいと思います。これが次、言い方が“巨大”になるとか新しい内容になったとしても、まずそれを確実に、巨大な地震が起こったときにちゃんと対処できる、ということが大事で、これは心構えだけでは多分できないことだと思います。実際なぜ彼らができたのかというと、日本が地震国であるが故にですが、気象庁では年間2000回程度の有感地震に対して地震情報を発表しています。これは、結果的に有感にならなかった同程度の地震も含めると同じ作業を1万回くらい年間やっており、各担当者はかなり熟練しているわけです。どんなに揺れていてもできたわけですから。こういうことが非常に大事だと思います。今後も日々の地震情報の提供作業を通じて、しっかりと作業に習熟し、どんな場合においてもちゃんと定められた手順でしっかりと冷静に判断して警報を発表するということが大事ですので、それを日々繰り返しやってもらいたいと思っています。


(以上)

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