長官記者会見要旨(平成24年5月17日)

会見日時等

平成24年5月17日(木) 14時00分~14時25分
於:気象庁会見室

発言要旨

 本日の会見は、はじめに5月6日に発生した竜巻災害についてお話しします。次に今後取り組みを予定している業務改善について3点お話しします。さらに、6月1日の気象記念日に「気象業務はいま」を刊行しますので、このことについてお話しさせていただきます。

 はじめに、竜巻災害についてお話しします。
 今月6日に関東から福島県の広い範囲で複数の竜巻が同時に発生し、茨城県つくば市や栃木県真岡市などの広い範囲で多数の民家等の損壊に加えて多くの方々が負傷され、つくば市ではお一人の方の尊い命が失われました。ここに、お亡くなりになられた方のご冥福をお祈りしますとともに、被災された方々にお見舞い申し上げます。さらに、東日本大震災によって地震被害にあわれた、あるいは避難されていた方々が、二重に災害に見舞われたとお聞きしており、重ねてお見舞い申し上げます。
 平成18年の宮崎県延岡市や北海道佐呂間町での竜巻災害を教訓として、気象庁では、気象ドップラーレーダーの整備を進めるとともに、竜巻等突風に関する予測技術の開発を進めて、平成20年3月に「竜巻注意情報」、平成22年5月に「竜巻発生確度ナウキャスト」の発表を開始しております。今回の竜巻発生当日は、各県に竜巻注意情報、あるいは「確度2」のナウキャストを発表しておりました。
 ご承知のように、竜巻は極めて局所的に短時間に発生する現象のため、それ自体を予測することが極めて困難であり、他の気象予報と比べて予測精度が低くなります。
 このため、5月6日の竜巻においても、様々な課題についてご指摘を頂いているところです。具体的には、第一には予測精度、第二には現在竜巻注意報は府県毎ですがこの発表区域の広さ、第三には自治体における伝達等の対策のあり方、第四には住民等の具体的な行動のあり方、さらには住民等の認知度など様々な課題があげられています。このため、これら課題について現状を検証して改善策を検討するため、すでにお知らせしたとおり「竜巻等突風予測情報改善検討会」を開催することにしました。この検討会では、気象学のみならず、風工学、災害情報、報道機関などの専門家の方々に加えて、関係省庁及び被災されたつくば市、真岡市の市長にもご参加いただきご意見を伺うことにしました。3回程度の議論を踏まえて7月末頃に改善方策をご提言いただきたいと考えております。
 この検討につきましては、内閣府が「竜巻等突風対策局長級会議」を設置し、政府全体での対策を検討し、7月末くらいに方向性を出すとのことですので、関係省庁と連携し、検討会での検討を進めていきたいと考えております。この局長級会議が本日午前中に内閣府において開催され、当庁からは次長が出席し、検討会の設置、竜巻の状況、情報発表の状況、さらに気象研究所の研究成果等について、報告したところです。今後とも検討会の進捗状況を報告し、ご意見をいただきたいと思っています。
 本日の会見後に、竜巻等突風について当庁の専門家から説明を行うと聞いています。記者の皆様には、竜巻等突風に関する観測・予測技術や情報の現状等をご理解いただき、報道を通して竜巻被害の防止・軽減にご協力をいただきますよう、この場を借りて私からお願いいたします。また、本日、明日と大気の不安定な状況が続いていますので、引き続き突風等の激しい気象現象への注意喚起について、記者の皆様方にもご協力をお願いします。

 次に、今後取り組む業務改善について、3点お話しします。

 最初に、スーパーコンピュータの更新についてです。
 大雨や台風情報の改善のため、気象ドップラーレーダーなど観測網の強化や予測技術の高度化を図っていますが、このうちスーパーコンピュータの更新についても期待しているところです。6月5日の運用開始を目途に、現在、最終的な調整作業を進めているところです。後日、運用開始日等が確定し次第、担当部局から報道発表いたします。この更新により、現在よりも処理能力が約30倍に向上しますので、数値予報モデルの精度向上を順次進めていく予定です。

 二つ目は、今年の高温注意情報等の運用についてです。
 昨年夏は、東日本大震災後の電力不足を契機として、熱中症対策の一環として、北海道や沖縄県を除く地域で高温注意情報を発表しました。昨年の実施状況を分析したところ、多くの自治体等でこの情報を熱中症対策に活用いただいております。さらに、報道等でも多く取り上げて頂き国民への注意喚起にご利用いただいているとのことで、改めて感謝しているところです。
 このため、今年は、北海道や沖縄県とも調整のうえ対象地域を全国に広げ、高温注意情報等の発表を行います。本日、報道発表資料を配っておりますので、詳細はそちらを参照願います。また、昨年と同様に気象庁のホームページに熱中症に関するポータルサイトを設けて、注意喚起を行っていきたいと思っております。
 次に、熱中症対策についての関係省庁との連携ですが、昨年と同様、節電の普及啓発に関わる内閣官房及び資源エネルギー庁、熱中症対策に関わる環境省、厚生労働省、文部科学省及び消防庁の4省庁と連携して施策を進めていきたいと考えております。さらに、都道府県の健康保険部局等との更なる連携を進め、効果的な施策とするよう努めたいと考えております。

 三つ目は、津波警報の改善についてです。
 昨日報道発表しておりますが、東北地方太平洋沖地震を教訓として改善を進めています津波警報について、新たな情報文の形式や運用開始時期についてお知らせしたところです。
 報道各社をはじめ関係機関におかれましては、津波警報等の伝達のためのシステム等における準備とその周知啓発についてご協力をよろしくお願いいたします。

 最後の話題は、6月1日の気象記念日についてです。
 例年この時期に、気象庁では、気象業務のこの一年の動きや今後について、防災機関や国民の皆様の理解を深めるために、「気象業務はいま」という冊子を刊行しています。今年も「気象業務はいま2012」を刊行します。
 今年の特集としましては、二つのテーマをあげています。
 一つ目の特集は、「命を守るための避難と防災情報」と題しまして、昨年の東北地方太平洋沖地震とそれに伴う巨大津波、台風第12号及び新潟・福島豪雨を対象として、災害時における住民の避難行動に警報等の防災情報が果たした役割について、現地調査等をもとに検証するとともに、避難の判断に活用できる防災情報を災害別に紹介しております。
 また、二つ目の特集は、「津波警報改善に向けた取り組み」と題しまして、東北地方太平洋沖地震を教訓として検討を進めてきた津波警報の改善について、これまでの検討の経緯とそれらを踏まえた改善策について紹介しております。
 本冊子が、国民の皆様や関係機関の気象業務についての理解促進につながることを期待しております。

 最後に、余震への注意のお願いです。
 東北地方太平洋沖地震の余震については、一年が経過して次第に少なくなってきましたが、今後もまれに大きな余震が発生し、さらに津波が発生する可能性もあります。周辺地域の地震活動についても活発ですので、引き続き、余震等への注意をお願いします。


主な質疑応答

Q 竜巻に関しては、予測は難しく、注意情報を出しても適中率が非常に低いという中で検討会を立ち上げましたが、どのような改善ができるとお考えでしょうか。
A 改善の方向性については、予測技術的に難しいこともありますが、検討を頂きたい幾つかのポイントについて触れたいと思います。
 最初に、監視・予測技術の高度化についてです。これは、非常に難しい問題ですが、解決すべき最も大きな課題と認識しております。短期的に解決すべき点については、気象庁の現状の技術を紹介して、気象学の先生方にご指摘をいただいて、少しでも改善できる策があるかどうかについて検討したいと思っています。さらに、中長期的な観点でどう取り組むべきか、技術開発の方向性はどうあるべきかについて、ご意見をいただきたいと思っています。
 第二には、情報の発表、伝達のあり方についてです。例えばつくば市、真岡市などでは、予測精度や発表区域が広過ぎることから住民への伝達で大変苦労されているということを聞いております。発表区域自体を狭めるということは現在の技術や竜巻の特徴などから当面は困難とは考えますが、この点につきましても、市長さん等のご意見を踏まえながら、例えば、分布図として発表しているナウキャストを利用することも含めて、検討していくことになると思っています。
 第三には、情報の利活用の促進についてです。竜巻注意情報の適中率は昨年1%で、運用開始後の平均でも5から10%程度の適中率と低くなっていますが、例えばアメダスで瞬間風速20m/sの風が吹くかどうかで評価しますと平均的には20%から30%、今年の場合は40%の適中率になります。この瞬間風速20m/sの現象は、それ相応の被害につながる風ですので、こういった点も十分周知することも有効と思います。竜巻注意情報によって注意喚起する被害の様態を、例えば、5月7日には雹(ひょう)が降ったように、密接する現象として突風だけでなく雹(ひょう)、雷がありますので、これら激しい気象現象全体について竜巻注意情報の活用によりどのように改善していくかという点も重要になると思っています。
 さらには、気象庁が発表する情報は、前日あたりから気象情報を、当日に雷注意報、最終的には竜巻注意情報といった形で、時間を追って発表していきますので、単に竜巻注意情報だけに目を向けるのではなくて、時系列的な情報の流れ全体について周知し、それを住民の方に如何に利用していただくかということについても検討できればと思っております。
 最後に、局地的な現象ということで、積乱雲が接近した際には、自らが判断して行動するという自助が重要ですので、気象庁の情報とあわせて自助による避難行動等によって、身を守っていただくことが重要と思っております。
 以上、いくつか述べましたが、検討会ではこういった点で様々なご意見をいただいて、最終的にはご提言をいただきたいと考えております。

Q 高温注意情報に関して、今年度も行う理由は、都道府県等に活用されている実態からでしょうか。
A 節電の状況も引き続きありますし、都道府県等の利用状況等を踏まえて、今年度も実施すると判断しております。

Q 高温注意情報の有用性という観点でお話しいただきたいのですが、つい最近も熱中症の方が出ていて、特別に猛暑という予報ではありませんがこの夏の見通しも含めて、情報を一体どのように使っていただきたいかお聞きします。
A この夏は、季節予報では平年並み、あるいは、やや気温が高い予報になっていますが、日々の天気という観点では通常の場合でも夏の高気圧に覆われれば気温が急上昇します。このため、高温注意情報が発表された場合には、例えば、十分な水分を補給する、あるいは、適度な冷房をとるなど、熱中症対策をとっていただきたいと思っております。
 また、東北から関東にかけての被災地では、仮設住宅にお住まいの方々が厳しい生活を余儀なくされていますので、特に被災地においては、気象庁の情報も活用していただきながら、熱中症対策に十分な注意をお願いしたいと思っています。

Q 竜巻注意情報に関して、短期的に予測技術を高度化させることはなかなか難しいというお話でしたが、捕捉率を上げようとすると適中率が下がるし、適中率を上げると捕捉率が下がるという状況になると思うのですが、長官としてはどっちを重視していくべきとお考えでしょうか。
A どちらも重要だと思います。見逃しも良くないし、適中率が低いのも良くないので、全体として適中率が上がった上で、同時に捕捉率も上がるという技術ができればと思っています。竜巻が発生したかどうかだけの適中率ですとかなり低くなりますが、竜巻だけでなくその他の突風、雹(ひょう)、あるいは雷などの激しい気象現象が同様な気象条件で起こるということもありますので、そういう現象まで含めますとかなりの適中率、捕捉率になるのではないかと思います。これらの実態も調査して、今後、気象庁が情報発表したときに、竜巻だけではなく他の激しい気象現象についてもどのように注意喚起していくのかについても検討していきたいと思います。

Q 今のお話で、20m/s超えの突風というときは、適中率が40%を超えているとの話でしたが、名前として、竜巻注意情報という名前がはたしてふさわしいのかどうか、その点についてお伺いします。
A この点は、是非とも検討会で検討いただきたいと思います。
 今回の場合を見ても、竜巻という名前がついていますが、現象としては巨大な積乱雲に伴う様々な現象が発生していますので、このことについて住民の方に注意喚起する時にどのような名前が良いのかという点もご議論いただきたいと思います。

Q 今の情報に関しては、各自治体によっては、これまで聞き流していたところもあるという現状もあるのですが、住民、自治体にとってどういった情報であるべきかについてお伺いします。
A お答えするのがなかなか難しい質問です。例えば、関東平野の夏場は、積乱雲が発達し、雷が鳴る、雹(ひょう)が降る、激しく雨が降るということは、ありふれた状況ですが、現在は、社会構造的に気象に強くなっているということで、激しい気象現象に対して住民はあまり注意しなくなっているというところもあるかと思います。このため、自治体等と連携して、そういう激しい気象現象についてどう注意喚起できるのかを検討し、それによって様々な災害が軽減できるのではないかと思っています。
 例えば、外で作業等をしていて雷に打たれるとか、局地的な大雨で災害が起こるというのは、日常起こりうることですので、そういう観点からも各自治体における情報の住民への伝達のありようについても検討会でご議論いただきたいと思います。

Q つまりは、発表するからには積極的に自治体から住民に伝えるべき情報であるということでしょうか。
A 住民に伝えるべき情報であるべきと考えています。



(以上)

このページのトップへ