気象審議会 第21号答申
21世紀における気象業務のあり方について(答申案)
平成12年5月

第3部 目次

  • 第3部 官民が連携した総合的な気象情報サービスの実現
    • 第1章 民間気象事業の振興と気象情報の利活用促進
      1. 民間気象事業の振興
        1. 気象庁が保有する気象情報の提供
        2. 民間における技術基盤の高度化に向けた支援
        3. 予報業務許可事業者の責務と気象予報士制度の充実
      2. 社会経済活動における気象情報の利用促進
        1. 国民生活における気象情報の利用促進
        2. 産業分野等における気象情報の利活用の促進
    • 第2章 気象業務における規制緩和等の当面の具体策
      1. 気象庁以外の者の行う気象観測の技術基準適合義務等
      2. 気象庁以外の者の行う予報業務の許可制度及び気象予報士制度
        1. 予報業務の許可制の必要性及びその運用
        2. 気象予報士制度
        3. 気象予報の予報区設定の自由化
        4. 1週間を超える長期の気象予報
        5. 観測値の収集要件の簡素化
      3. 国内外の気象機関、船舶、航空機向けの観測成果の無線通信による発表業務の許可制
      4. 気象測器検定制度のあり方
        1. 気象測器の検定について
        2. 気象測器の検定見直しの経緯
        3. 気象測器検定の見直しの方向性

第3部 官民が連携した総合的な気象情報サービスの実現

21世紀初頭には、官民が連携した多様な気象情報サービスが実現され、国民が必要な時に、必要な気象情報を、分かりやすく使いやすい形態で利用できる社会が構築されるものと考えられる。これにより、生命・財産を守るとともに、レジャー等の行動決定に活用するなど、快適な生活設計、幅広い国民生活の利便性向上に役立つこととなり、国民一人一人が、それぞれ必要とする情報を取捨選択し、豊かでゆとりのある生活が可能となる。

さらに、気象情報は国民生活の向上のほか、様々な社会経済活動に不可欠なものとなっており、農林水産業における生産の安定化、各種産業振興と企業活動の効率化、船舶の経済的運航等の社会経済活動への支援を強化する必要がある。

民間の気象事業の振興にあたっては、規制は必要最小限のものとし、また、気象庁保有の情報を公開することにより、民間の主体性により自由な発想による多様で利便性の高いサービスを実現する必要がある。

第1章 民間気象事業の振興と気象情報の利活用促進

  1. 民間気象事業の振興
    • 気象庁が保有する気象情報の提供
      • 今後の技術革新にともなう新たな気象情報の提供
        気象庁が保有する観測・解析・予報等の成果及びこれらの作成過程で得られる数値予報資料や解説資料等の気象情報については、これまでも民間気象業務支援センターを通じて提供してきている。これらの気象庁の保有する気象情報は、民間における予報等の多様な気象業務実施の基盤となるものであり、その質と技術力の向上を図るためには、引き続き積極的に公開し、提供することが不可欠である。
        特に、現在気象庁で業務化に向けて技術開発が進められいるメソ数値予報モデルについては、その格子点資料が民間におけるきめ細かな局地予報や付加価値情報の作成に大きく貢献するものと考えられる。さらに、週間天気予報や季節予報にかかわる新しい数値予報資料、世界各国で発生する異常気象の動向等の情報は、民間における各種産業向けの気象情報作成のための基礎的な資料として期待されていることから、気象庁は、それらの情報の公開と提供体制の充実に努める必要がある。
        また、これらの気象情報は、民間における即時的な予報業務への利用だけでなく、民間における予報技術の開発、環境影響評価業務、大学等における研究開発、小・中・高等学校の理科教育等にも基盤的な情報となっていることから、気象庁は、その適正な管理と提供に努める必要がある。
      • 民間気象業務支援センターの活用
        気象庁は、これら気象情報の提供にあたっては、引き続き、気象業務法で定められた民間気象業務支援センター(以下、「支援センター」と呼ぶ。)を活用して実施することが適当である。支援センターの行う情報提供業務は、開始以来5年を経て順調に実施されているが、今後の支援センターにおける配信システムの更新にあたっては、情報通信等の技術革新に適合したものとする必要がある。また、次期システムは、気象庁から提供される気象情報を加工して提供したり、データベースの構築が可能となるような近代化・高度化された情報提供システムにすることも必要である。気象庁は、支援センターの配信システムの高度化に向けて一層の指導・支援を行うことが必要である。また、支援センター業務が利用者による応分の負担により運営されるものであることから、利用者の総意が的確に反映されるよう適切な指導を行うことが必要である。
    • 民間における技術基盤の高度化に向けた支援
      • 民間に対する気象庁の技術移転
        数値予報等、気象庁による予測技術の高度化に伴い、数値予報資料等の利用のための技術移転が民間における気象業務の技術基盤の確保と高度化のため益々必要となってきている。このためには、気象予報士に対して最新技術の移転を図ることが民間気象事業者の技術基盤を人材面から確保するための方策として不可欠である。今後の具体策については、次節に述べる。
      • 産官学共同による技術開発と新しい技術情報の流通
        情報通信等の技術革新、予報技術の専門分化、気象情報の利用者の拡大が進む中では、一事業者が全ての関連する技術開発を行うことは困難であり、民間気象事業者間はもちろん、情報通信事業者、気象情報の利用者である各種産業の企業等も含めた分野横断的な連携・協力に基づく技術開発体制の確立が益々重要になってくるものと考えられる。また、大学等研究機関の協力を得ることも重要である。特に、今後の新たな情報通信技術に対応するためのソフト・コンテンツ開発等においては、産官学が共同で技術基盤を確立することにより、それぞれの利益につながる分野は多いものと考えられる。このため、個別事業者等の主体性を相互に尊重したうえで、それらを促進するための協議会等の体制を構築することも意義のあることである。また、こうした協議会等を通して、気象業務にかかわる最新の技術情報を流通させることが民間気象事業の振興に必要である。当該情報の流通にあたっては、最新の情報通信等の技術を踏まえてデータベース化・ネットワーク化し、利用者の応分の負担に基づき、民間により自主的に構築・運営されることが望まれる。その際、産官学の意見を十分に調整・反映すると同時に、個別事業者・研究者等の活動や知的所有権への十分な配慮が必要である。
      気象庁は、民間からの求めに応じ、こうした技術開発体制の確立と技術情報の流通に向けた支援を積極的に行う必要がある。
    • 予報業務許可事業者の責務と気象予報士制度の充実
      • 予報業務許可事業者の責務
        気象庁以外の者が行う予報業務に対する許可制度は、民間気象事業者における予報の品質(精度と内容)を確保することにより、社会的な混乱を回避する等、大きな役割を果たしてきている。今後も必要最小限の規制として、本許可制度を維持していくべきと考えられる。その運用にあたっての気象庁に対する個別の提言は、次章にとりまとめた。
        予報業務許可事業者は、引き続き、国民からの信頼を維持するため、その予報の発表に際しては、
        • 気象庁発表の防災気象情報との不整合を起こすことのないよう十分に配慮するとともに、気象庁発表の防災気象情報を利用者に迅速かつ正しく伝えるよう努めること、
        • 利用者に対し、その予報に関する責任の所在を明示するとともに、利用者が予報の品質を判断できるよう予報精度の評価結果等の提供に努めること
        等が必要である。
    • 民間気象事業における中核的技術者としての気象予報士の育成

      気象予報士は、民間気象事業における中核的な技術者として定着してきている。気象の解析・予報等に関する技術は急速に進歩しており、気象予報士に対して、気象業務に関連する最新の技術についての指導・啓発活動、技術研修・再教育等を行う体制の整備が必要である。

      気象予報士資格は、予報業務を行うための最低限必要な資質の確認を行うものである。今後の民間における予報業務の多様化、気象予測技術の高度化や専門分化を踏まえると、気象予報士が担当する事業の専門分化が今まで以上に進むものと想定される。一方、民間における予報は、気象予報士の責任と判断により最終的に発表されるものであることから、気象予報士自らの自己研鑽が益々重要となってくる。

      前述の研修・再教育体制の整備にあたっては、これらの気象予報士の周辺環境を的確に反映したものとし、「気象予報士会」や関連する学会等の活動とも連携・協力することが必要である。また、気象予報士はテレビ、ラジオ等を通して直接国民に気象庁発表の天気予報等の気象情報を解説したり、その専門性から天気予報番組等で地球温暖化等の問題を説明することも多いことから、解説技術の研鑽も重要課題であることに配慮すべきである。

      こうした気象予報士の育成を目的とした研修等は、民間における気象業務の健全な発達を支援することを目的とする支援センターが中心となって実施することが適切であるが、気象庁は、民間からの要望に沿って、最新技術資料の作成・提供、研修講師の派遣等必要な協力と支援を行うことが必要である。

  2. 社会経済活動における気象情報の利用促進
    • 国民生活における気象情報の利用促進

      21世紀初頭には、情報通信事業者の役割は報道機関と同様に位置づけられるものと考えられる。気象情報を伝えることのできるメディアは益々多様化し、国民一人一人が全国的に地域差がなく、「欲しいときに欲しい形」で「きめ細かな気象情報」や「行楽情報等のコンテンツと一体化した付加価値気象情報」等がこれまで以上に容易に入手可能となるものと考えられる。

      気象庁は、報道機関、情報通信事業者等と協力して、多様な手段を活用して、引き続き、国民の共有財産として国民があまねく享受できるようなスタンダードな天気予報等の気象情報の提供に努める必要がある。

      他方、民間気象事業者は、新しいメディアを活用した気象情報の提供プログラムの作成や国民の多様なニーズに対応したコンテンツの作成・提供等の新しい気象情報サービスの展開による事業の拡大が期待される。

    • 国民生活における気象情報の利用促進

      近年、産業分野における気象情報への期待度は大きい。特に、天気予報や週間天気予報の精度向上を反映して、生産、流通等におけるリスク回避やコスト削減の手段として気象情報の実利用が進み、その活用に向けたニーズが一層高まっており、今後、民間気象事業は、これらに的確に対応していくことが望まれている。同時に、インターネットや衛星放送等の情報通信手段の発達・普及により、これらの高機能なメディアの特性を十分に活かした気象情報サービスの展開も大いに期待される。

      異常気象や気候予報等は、その精度・質の向上により国・地方公共団体の農業・食料・産業政策、水資源管理等での有効活用が可能であり、気象庁の技術基盤の構築に大きな期待がかかっている。民間でも異常気象や気候変動によるリスク回避に向けた新たなサービスが模索されている。

      また、産業界等における気象情報利用は、コスト削減や経済運航等により、効率的なエネルギー消費に貢献し、環境負荷の低減にもつながり得るものである。気象情報はこのような潜在能力も有しており、新規需要の創出や民間事業の発展がこのような環境問題の観点からも求められる。

      こうした気象情報の利用の高度化・拡大の条件が整いつつある一方で、民間気象事業者は大部分が小規模の事業者であるため、企業活動等に必要な気象情報に関するニーズを十分に把握できず、事業拡大が思うように進まないことも少なくない。また、産業界において必要な、気象情報の所在や費用対効果が明確にわからないため、その積極的活用が進んでいないとの調査結果もある。今後、民間気象事業の一層の発展を図るためには、企業活動における気象情報のニーズを踏まえた効果的な利用法を民間気象事業者と利用者である産業界とが共同して開発することにより、気象情報の活用場面は一層拡大されるものと考えられる。このため、気象情報の利活用の促進に向けて、産業界と民間気象事業者間の連携・協力を強化するための協議会等の設立とその積極的な活動が期待される。

      気象庁は、こうした活動に対して、これまで行ってきた気象情報の活用方法等に関する調査結果等を積極的に公開する等、民間からの要請に応じた適切な協力・支援を行うことが必要である。

第2章 気象業務における規制緩和等の当面の具体策

平成10年6月に制定された中央省庁等改革基本法における気象庁関連事項は、今後の気象業務のあり方と密接に関連しており、これら関連事項に係る対応策の検討を進めた。ここでは、民間気象事業者等への規制の緩和及び気象測器検定制度の見直し等の方向性を提言する。

  1. 気象庁以外の者の行う気象観測の技術基準適合義務等

    正確な気象情報を作成するためには、気象業務の基本となる観測の精度が確保されることが必要である。このため、気象庁では、基幹的な観測網を自ら構築し、精緻かつ厳密な基準に従い、精度の高い気象測器を用いて観測を行っている。

    気象庁以外の者の行う観測は、基本的にはそれらの者の自由に任せるべきである。しかし、政府機関や地方公共団体の行う観測、観測成果を防災目的又は発表目的に利用する観測等、影響が広範囲に及ぶものについては、その公共性と気象庁の発表する情報との整合性も図る観点から、その観測精度を維持する必要がある。

    このため、降水量・気温・風速・風向など基本的な気象要素に限り、一定の技術上の基準に従って観測を行わなければならないものとしている。

    また、観測精度の維持を図るため、これらの者が観測施設を設置した場合には、その旨を気象庁長官に届け出させるとともに、気象庁長官は、これらの者に対し、観測方法についての助言、指導等を行っている。

    この他、観測成果の相互利用によって、気象業務の効果的な遂行、気象に関する観測網の確立を図るため、気象庁長官は、上記の届出を行った者に対し、気象の観測の成果を報告することを求めることができることとしている。

    気象業務の健全な発達、効率的遂行等の観点からは、これらの気象庁以外の者の行う公共性の高い観測の技術基準適合義務及び観測施設の設置の際の届出制度は、引き続き維持することが適当である。

    一方、これら気象庁以外の者は、それぞれの必要性に応じて、観測を行っていることを踏まえ、現行でも観測の技術基準は、気象庁自らが行う観測に比較して緩やかなものとなっている。しかし、気象観測に関する規制の緩和の観点から、さらに、技術基準に従うべき観測種目の必要最小限化等を図る必要があるほか、届出事務手続きについても、引き続き、簡素化に向けた見直しに努める必要がある。

    また、観測者の自主性をより重視する方向で、観測に関する指導・支援のための所要のガイドラインを提示することが適当である。

  2. 気象庁以外の者の行う予報業務の許可制度及び気象予報士制度
    1. 予報業務の許可制の必要性及びその運用

      近年の社会経済活動の発展、国民生活の豊かさの向上と生活様式の多様化、新しい情報通信時代の到来等に伴い、気象情報に寄せられる国民の期待とニーズはますます増大している。

      一方、こうした役割を持つ気象等の予報業務については、

      1. 近年の予報精度の向上に伴い、国民の予報に対する信頼性が向上していることから、不正確な予報が流布することによる被害は従来に増して社会経済活動の広範囲に及ぶこと、
      2. 予報等を利用する国民の側からみると、その精度及び提供主体の能力について的確に判断することが困難であること、
      3. 一度発表された気象情報は、即時に流通することから、不正確な情報が流通した場合、後から訂正を行ったとしても、事後的な回復は困難であること、

      という特性を有している。

      気象庁以外の者が行う予報業務については、

      1. 気象庁が発表する注意報・警報等の防災気象情報との整合性を確保すること、
      2. 国民の期待する「正確な気象情報の提供」を確保すること、

      が極めて重要であるが、前述のような特性を有していることから、これを全く自由にすることは適当ではない。

      そのため、許可制度の下、気象庁以外の者が予報業務を行おうとする場合に、あらかじめ気象庁長官がその者の技術的能力等を事前にチェックすることが必要である。

      気象庁以外の者が行う個々の予報内容を事前にチェックすることは、およそ現実的ではないことから、あらかじめ、予報業務を行おうとする者について、技術的能力等を審査することにより、それらの発表する予報の精度が担保される必要がある。このため、今後とも必要最小限の規制として、予報業務の許可制を維持することが適当である。

      気象庁は、許可制度の運用にあたっては、数値モデルを利用した予報技術が確立していると認められる予報分野に係るものを積極的に許可していくべきである。

    2. 気象予報士制度

      予報の精度は、「現象の予想」をどのような方法で行うかに左右される。「現象の予想」には、数値予報資料の利用など高度な技能を要することから、気象庁以外の者が行う予報の精度を人的な面から担保するため、気象予報士制度が設けられている。この制度は、民間予報業務における中核的な技術者を確保する制度として定着してきており、今後とも維持する必要がある。

    3. 気象予報の予報区設定の自由化

      平成7年には、気象審議会答申第18号及び気象業務法の一部改正を受け、「当面、局地、すなわち市町村程度の範囲の区域又はそれより狭い区域」である局地のみを対象として、気象予報について一般向け予報の許可が行われるようになった。これは利用する地域に限定した局地的な予測情報に対するニーズが大きく、民間部門の活躍が最も期待されたこと、平成8年3月の計算機システムの更新による格子間隔20㎞の数値予報モデルの運用開始を踏まえ、技術的に確立した分野から一般向け予報を開放することが妥当であったこと等の理由によるものである。

      最近では、(財)気象業務支援センターを通じ、数値予報資料とともに、気象庁発表の予報・警報等防災気象情報を理解するうえで不可欠な防災上の留意事項などをとりまとめた解説資料も積極的に提供していることから、民間気象事業者の予報技術が向上してきている。

      平成7年以降、これらの気象庁から提供される数値予報資料等の民間気象事業者における利用技術も向上しており、予報区設定を自由化し、多様なニーズに対応可能とすることにより、民間気象事業の振興を図る必要がある。

      これにより、市場原理に従った民間の創意工夫が刺激され、民間気象事業者のサービス内容の拡充などにより、身近で、分かりやすい気象情報サービスが提供されるであろう。

    4. 1週間を超える長期の気象予報

      気象庁は、1週間を超える長期の予報である季節予報として、1か月予報、3か月予報、暖候期予報及び寒候期予報を発表している。これらは、農業等の産業を始めとする社会的要請を受け、行われてきたものであるが、現在でも1か月予報を除き、必ずしも予報精度は利用者が期待する水準には達していない。

      しかしながら、社会の高度情報化・国際化にともなって、季節予報を含む気候情報へのニーズは一層高まっているため、国内外の気象機関や研究機関では、気候予報のための数値予報モデルの開発が精力的に進められており、精度向上の見通しが開けつつある。

      そのうち、1か月予報は、平成8年から導入された数値予報技術を活用したアンサンブル予報により予報精度が向上し、さらに、平成12年度末に予定している計算機更新により予報精度が利用者の期待に応えるものと考えられる。

      したがって、気象庁は、このような技術開発の成果を踏まえ、1か月予報について許可することが適当である。

      また、気象庁は、(財)気象業務支援センターのオンラインデータ配信システム等の数値予報資料提供体制の充実やアンサンブル予報技術の移転のための気象予報士の研修など資質向上体制の構築に向け、関係者を交えた検討を行う必要がある。

      1か月を超える長期の予報についても、気象庁は、予報精度の向上に向けて、必要な予報技術の開発を進め、それにより精度が向上したものから積極的に予報業務の許可を行い、民間気象事業の振興を図るべきである。 

    5. 観測値の収集要件の簡素化

      予報業務を行う者が、予報精度を確認することができるよう、原則として予報を行う最小単位の対象区域ごとに、その区域内の少なくとも1カ所以上の地点の観測値を収集することとしている。

      平成7年以降の民間気象事業者における予報業務の実績、気象庁が平成12年度末に予定している計算機更新後の格子間隔10㎞のメソ数値予報モデルの運用開始等を踏まえると、観測値の収集要件については、急峻な山岳地域の気象予報を行う場合等必要最小限のものにするなど、民間の予報業務がより弾力的に運用できるよう見直しを行う必要がある。

  3. 国内外の気象機関、船舶、航空機向けの観測成果の無線通信による発表業務の許可制

    気象庁は、国際的な責務・貢献の観点から、気象、地象、津波、高潮及び波浪についての航空機及び船舶の利用に適合した予報及び警報を行うとともに、国内外の気象機関、船舶又は航空機において受信されることを目的として、観測の成果、予警報事項等の気象情報を無線通信により発表している。

    国内外の気象機関、船舶、航空機に利用されることを目的として無線通信により発表される観測成果は、国内外の気象機関が予報等の気象業務を遂行したり、船舶又は航空機が自己の判断で航路を決定したりする際の前提となるものである。

    しかし、当該観測成果を受信する側では、その精度を即時に確かめるすべがないため、不正確な情報が無線通信により発表された場合、気象機関における気象業務の遂行と船舶又は航空機の航行の安全に支障を来すおそれがあるなど、その及ぼす影響はきわめて大きい。

    そのため、気象庁は、「気象庁以外の者で、その行った気象の観測の成果を国内外の気象機関、船舶又は航空機において受信されることを目的とする無線通信により発表する業務を行おうとするもの」について、許可制により、その技術能力を事前に審査することとしている。

    この必要性は、現時点では変わらないと考えられるので、引き続き、許可制を維持することが適当である。

  4. 気象測器検定制度のあり方
    1. 気象測器の検定について

      気象の観測は、原則として自由であるが、観測の成果が政府機関又は地方公共団体の行政活動や災害の防止に活用される等、特に公共性の高い気象の観測に限り、その精度を確保するため、一定の技術上の基準に従って観測を行わなければならないとされている。また、気象の観測の精度は、使用する気象測器に大きく左右されることから、特に公共性の高い観測に使用する気象測器は、その精度を確保するため、検定を受けなければならないとされている。

      このため、気象測器の検定では、当該気象測器が所要の種類、構造及び器差の技術基準に適合するかどうか検査し、合否の判定を行っている。

      なお、民間の負担軽減・国の事務の簡素化の観点から型式証明制度を設けており、型式証明を受けた型式の気象測器は、検定の際に、種類、構造の検査を行わないことができるとされている。

      国際的には、世界気象機関(WMO)において、気象観測の標準化をその任務の一つとするとともに、気象観測の精度確保の観点から、観測に使用する測器等について技術的なガイドラインを作成し、加盟各国に提示しており、気象庁としても、このガイドラインにのっとり、我が国の気象  測器の精度維持を図っている。

    2. 気象測器の検定見直しの経緯

      中央省庁等改革基本法において、「気象業務を行う民間事業者に対する規制は必要最小限のものとし、また、気象測器に対する検定等の機能は民間の主体性にゆだねること。」と規定している(第22条第10号)。

      また、平成11年4月に閣議決定された「国の行政組織等の減量、効率化等に関する基本的計画」において、「気象庁は、気象業務を行う民間事業者の負担軽減に努めるとともに、気象測器検定に関して、一定の能力を有する民間の機器検査を受けたものについては、国の検査を省略でき  る新制度を導入することによる減量、効率化を図る。」としている。

      さらに、平成12年3月に閣議決定された「規制緩和推進3か年計画(再改定)」において、「気象測器の検定については、一定の能力を有する民間(営利法人を含む。)の検査を受けたものについて国の検査を省略できる新制度の導入を図るとともに、現行の検定の実施方法について民間の負担軽減を図る観点から見直しを行う。」としている。

      これらを踏まえ、当審議会は、規制の緩和、民間能力の活用、民間の負担軽減、国の事務の簡素化を図る観点から、気象測器の検定について検討を行った結果、今後の気象測器の検定については、次項に述べる方向で見直しを行うべきである。その際、現行制度が50年近くにわたり、中小零細な企業が多い気象測器市場において、気象測器の精度を効率的に確保することに貢献してきたことも考慮することが望ましい。

      その際、現行制度が50年近くにわたり、中小零細な企業が多い気象測器市場において、気象測器の精度を効率的に確保することに貢献してきたことも考慮することが望ましい。

    3. 気象測器検定の見直しの方向性
      1. 種類、構造及び器差の検査について

        特に公共性の高い気象の観測について、様々な観測環境においても正確かつ安定的な気象データを収集するためには、当該気象測器が適切な測定原理に基づいていること、安定した測定が可能であること、かつ、その構造が所要の耐久性を有していること等の基本的性能を有していることが不可欠である。

        そのため、気象測器の検定では、まず、当該気象測器が基本的性能を有しているか否かを確認するため、種類及び構造の検査を行っている。

        この検査を適確に行うには、気象測器が使用される厳しい観測環境や、そのような観測環境にさらされながらも安定的に観測を継続するために気象測器に要求される構造等についての技術的知見が必要である。

        一方、気象測器の表す量と真実の量の差を示す器差の程度は、気象測器の精度に直結するため、特に公共性の高い観測に使用される気象測器が正確な値を指し示すか否かを判断する器差の検査は、一定の検査設備、要員及び正しい手順に基づいて行うことが必要である。

      2. 指定代行機関制度の導入について

        近年、一般的な機器の検査の分野では民間検査サービスが提供されてきている。高度複雑化する経済社会の中で、国の事務の簡素化を図る観点からは、気象測器の検定についても、民間の技術力を活用し、効率的な制度としていくことが必要である。

        そのため、「規制緩和推進3か年計画(再改定)」を踏まえ、気象測器の検定について、公正かつ中立であり、かつ、一定の技術能力を有する者を指定し、その者に気象測器の検定業務を行わせる指定代行機関制度の導入を行うことが適当であり、そのための具体的な検討を行う必要がある。この場合、業務実施における公正・中立性が確保される場合には、公益法人に限らず、指定を受けられることとすることが望ましい。

    4. 検定の実施方法の見直しによる民間負担の軽減

      すでに、民間の負担軽減、国の事務の簡素化の観点から、型式証明制度を設けているが、「規制緩和推進3か年計画(再改定)」を踏まえ、さらに民間の負担軽減を図る観点からは、型式証明を受けた型式の気象測器の検定において、気象測器の実機の提出を不要とするなど、検定の実施方法についても見直しを行う必要がある。型式証明を受けた型式の気象測器の器差の検査について、一定の要件のもと、民間事業者の社内検査データを活用する等、具体的な見直しを行う必要がある。

    5. その他

      近年の気象測器の製造技術の進歩及び社会情勢の変化を踏まえ、民間の負担軽減の観点から、気象測器の検定の有効期間のより一層の弾力化を図るための方策について、具体的に検討することが必要である。

      今後、気象測器の保守、点検等気象測器の精度維持に、気象測器の使用者(観測者)の果たす役割が大きくなるものと考えられる。

      そのため、観測者による気象測器の自主的な保守、点検等をより適切に行いやすくするためのガイドラインを作成・提示するとともに、観測者に対し観測に関する技術指導を行うなどの所要の措置が必要である。

      この他、気象測器及び気象の観測の技術基準に関して、引き続き、適時に見直しを行い、民間の負担軽減、国の事務の簡素化に努めていくことが望ましい。

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