気象審議会 第21号答申
21世紀における気象業務のあり方について(答申案)
平成12年5月

第2部 目次

  • 第2部 気象庁が戦略的・計画的に取り組むべき中長期的重要課題
    • 第1章 個別分野における重要課題と実現方策
      1. 気象観測・予報業務に係わる分野の課題と実現方策
        1. 中長期的な目標
        2. 観測・予報の技術基盤の強化
        3. 防災気象情報の高度化
        4. 天気予報等の高度化
        5. 交通を支援する気象情報の充実
      2. 地震・津波・火山業務に係る分野の課題と実現方策
        1. 地震・津波・火山業務の基本的方向性
        2. 今後構ずべき具体的な方策
      3. 気候・地球環境業務にかかわる分野の課題と実現方策
        1. 気候業務の課題と実現方策
        2. 地球環境業務の課題と実現方策
    • 第2章 気象庁が国として求められる技術基盤の確立と技術開発体制の強化
      1. 技術基盤の確立及び観測・監視・予報技術の高度化に向けた基本的な考え方
        1. 技術基盤の確立
        2. 観測・監視・予測技術の高度化
      2. 気象業務におけるモデル開発等最重点課題についての開発方針
      3. 国内外の関係機関との連携・協力
    • 第3章 防災関係機関と連携・協力した総合的な防災業務の構築
      1. 防災気象情報のあり方
      2. 防災関係機関とのネットワーク化
        1. 防災関係機関との連携強化
        2. 観測成果等防災情報の共有化
        3. 防災ネットワークの構築
      3. メディアとの連携・協力と国民の理解向上
        1. メディアとの連携・協力による防災気象情報の国民への周知徹底
        2. 国民の理解向上
    • 第4章 気象業務における国際的な活動の基本的な方針
      1. 気象業務における国際協力の現状
        1. 気象業務における国際協力の意義
        2. 国際協力の体制と現状
      2. 国際的な活動を推進する基本的な考え方
        1. 世界気象機関(WMO)等の国際機関の活動や国際共同研究計画等への参加の推進
        2. アジア・太平洋地域の地域センター機能の拡充
        3. 開発途上国への支援の推進

第2部 気象庁が戦略的・計画的に取り組むべき中長期的重要課題

気象庁は、気象、地震・津波・火山、気候・地球環境等の業務について中長期的に戦略的・計画的に改善し、わが国の気象業務の技術基盤を確立し、防災気象情報等の提供に国として責任をもって対応すべきである。これら基盤のうえに気象庁は、わが国全体の気象業務に指導性を発揮し、国・地方公共団体等の防災機関、公共機関、大学、民間部門等との連携・協力の強化、国民の共通財産である気象情報を最大限有効に活用した災害防止の促進、生活の利便性向上等、公共の福祉の向上、国際協力の強力な推進が求められている。

第1章 個別分野における重要課題と実現方策

今後21世紀初頭の期間に、気象庁が中長期的に取り組むべき課題は、内外の諸情勢を踏まえて戦略的・計画的に設定される必要がある。

第1章では、気象業務を大きく3つの分野に分けて、それぞれの分野での業務をめぐる状況を総括し、重要課題を選定し、提言する。

  1. 気象観測・予報業務に係わる分野の課題と実現方策
    1. 中長期的な目標

      梅雨前線や台風等の激しい気象現象は、国民の生命財産に大きな被害をもたらし、さらに都市化・高齢化などの社会構造の変化や災害弱者の増加等によって、災害発生形態も変化してきている。このうち集中豪雨等の局地的に激しい現象は、低気圧や梅雨前線などの大規模な気象現象に伴い数十km程度の規模で集中的に現われる「メソ気象現象」と呼ばれる。

      1961年の梅雨前線豪雨や1967年の7月豪雨等1960年代にこうした局地的豪雨災害が多発する中で、これらの原因であるメソ気象現象に対する予測が社会から強く要請された。

      当時は、数値予報技術が黎明期にあり、その後20年近くの間、数値予報は、その主なターゲットを低気圧・前線など総観規模の気象現象に向け、開発が進められた。そのため、局地的豪雨については、今日まで、主にレーダー、アメダスなどによって実況を監視することにより対応してきている。この間、数値予報技術は着実に進歩し、1980年代に入って予報業務における不可欠な技術基盤となり、その後もさらにより高分解能・高精度の予測を目指して数値予報の技術開発が進められている。加えて、近年目覚しく計算機処理能力が向上しており、局地的豪雨の予測の実現が今後10年間の現実的な目標となっている。

      気象災害の一層の防止・軽減を図るためには、こうしたメソ気象現象の動向を数時間前から予報することが必要であり、気象庁は、特に以下を重点目標として業務の高度化を推進することが適当である。

      局地的豪雨や大雪をもたらすメソ気象現象を的確に予報するため、必要な観測網の構築及び数値予報モデルの開発等を進め、防災機関が適切な対応をとれるよう必要な精度・内容の防災気象情報を、十分な時間的余裕をもって発表する。

    2. 観測・予報の技術基盤の強化

      本節では、主としてメソ気象現象を予報するための適切な観測網の構築及びメソ数値予報技術の開発についての課題と実現方策をまとめた。

      • ア メソ気象現象の捕捉を目的とした気象観測網の構築

        メソ気象現象の予測精度を向上させるためには、それを立体的かつ的確に捕捉する観測網の構築が不可欠である。気象台等での観測、アメダスなどによりこれまで地上での観測は充実してきているが、立体的な観測は不十分であった。今後は、ウィンドプロファイラーの運用開始によって上空の風の連続的な変動を把握するとともに、気象レーダーにドップラー機能を付加する等既存の各観測システムの観測機能強化や航空機による気象観測資料、汎地球測位システム(GPS)等の活用を目指す必要がある。

        また、現在の静止気象衛星「ひまわり」の後継機である運輸多目的衛星では、大雨等をもたらす積乱雲等の監視が強化されるほか、台風の中心位置・強度や夜間の霧・下層雲の観測精度を向上させる計画である。この観測データを防災気象情報の精度向上に十分活用する必要がある。加えて、内外の宇宙開発機関で計画されている地球観測衛星による観測結果は、散乱計による海上風、放射計による水蒸気量等、数値予報モデルの初期値としても有効活用が可能なものが多く、技術開発を進め、積極的に活用する必要がある。

      • 数値予報技術の開発

        現在気象庁では、週間天気予報等のために全球数値予報モデルを、明日の予報のために領域モデルを、台風の進路予報のために台風モデルを運用しており、全球数値予報モデルは領域モデルや台風モデルに境界値を提供する等、相互に密接に関係している。これらのモデルは、それぞれ利用目的に応じて、引き続き改善を進める必要がある。また、予報モデルの初期値を改善するためのデータ同化技術の開発も、あわせて行う必要がある。

      1. メソ数値予報モデル

        防災気象情報の精度向上のためには、局地的豪雨や大雪等をもたらすメソ気象現象のより的確な予測が必要である。このため、現在の格子間隔20kmの領域モデルより高分解能で、モデルで取り扱う雲物理過程や雲と放射の相互作用等、物理法則の表現をより精密化したメソ数値予報モデルの開発を進める必要がある。短期的には10km程度の格子間隔のモデルを開発し、運用すべきである。さらに、降水現象のより一層の予測精度向上のため、積乱雲群等の予測を目標とした技術開発を行い、中長期的には数kmの格子間隔のモデル開発を目指すべきである。 こうしたモデル開発とあわせて、モデルの予測結果から予報区域毎の最大風速や最大雨量、大雨確率等、的確な防災気象情報を作成するための支援資料の開発・実用化も行う必要がある。

        また、短時間強雨による災害への迅速な対応を支援するため、具体策として、レーダー・アメダス解析雨量の高分解能化とともに、現在3時間までとしている豪雨等の短時間予報について、メソ数値予報技術を活用して予報時間の延長を早急に図る必要がある。

      2. 台風モデル

        台風の予測技術に関しては、台風モデル等の改良を進めて台風の中心気圧や最大風速の予測等、災害の規模に密接に関連する台風の強度予報を拡充する必要がある。また、安定的かつ高精度の台風進路予報の実施を目指して、台風の初期値作成に運輸多目的衛星等のデータを活用すべきである。さらに、台風による海水温の変化の影響等を取り込む台風モデルの開発や、既に季節予報等に導入されている多数の予測結果を用いて有用な予測情報を引き出すことのできるアンサンブル手法の導入の可能性を検討する必要がある。

        また、台風接近時等に沿岸地域に大きな災害をもたらす高潮・高波についても、数値モデルの高度化を図る必要がある。

      3. 全球数値予報モデル

        防災に関連した数値予報技術(メソ数値予報モデル、台風モデル)の改善に加え、週間天気予報・航空気象・海上予報等への利用や、気候モデル等あらゆる数値予報モデルの基盤である全球数値予報モデルの一層の精度向上を図るため、物理過程の改善等の技術開発が必要である。特に、週間天気予報の後半の精度の低下等を改善するためにアンサンブル手法を早期に導入し、併せて確率表現による予測資料の利活用技術の開発等を行う必要がある。

      4. データ同化技術

        数値予報の精度向上には、高分解能化や物理過程の改善等モデル本体の改善とともに、モデルの初期値を改善することが必要である。このため、従来からの観測データの利用に加えて、衛星やウィンドプロファイラー等のリモートセンシングにより連続観測されたデータを最大限有効に活用する。高度な4次元データ同化技術を導入する必要がある。

    3. 防災気象情報の高度化

      防災気象情報に対して、防災機関からはそれぞれの機関における

      防災目的、担当範囲及び対応の推移に応じて、「いつ、どこで、何が、どの程度」発生すると予測しているのかを適切に伝えること

      が求められている。このため、気象庁は、防災気象情報について、観測・予測技術の高度化と合わせて、防災関係機関と連携・協力しつつ、以下のとおり具体策を講じる必要がある。

      1. 災害対応を勘案した頻度・タイミングでの発表

        防災気象情報は、防災機関における人員配備・施設の事前確認等の週末を含む数日前からの対応、態勢配備の判断等の発災数時間前の対応、避難等の発災直前の対応等、多様な対応に対して、必要な時間的余裕を確保できるような内容と発表のタイミングとすることが必要である。

      2. 対象地域を絞り込んだ発表

        現在注意報及び警報の予報区については、予測技術等を踏まえて府県を複数の領域に分割している。具体的な防災活動を行う各市町村が警戒等の要否を的確に判断できるように、予測技術の高度化に合わせて予報区の細分化を進める必要がある。

      3. 防災活動に直結する防災気象情報の発表

        現在大雨に伴う土砂災害のおそれを判断するための情報の一つとして、降水が土壌中にどの程度蓄えられているかを把握する指数が開発され、最大風速・雨量等に関する防災気象情報のための支援資料の開発が進められている。災害のおそれをより分かり易く把握できるこうした指数等を実用化し、防災気象情報に具体的な気象災害のおそれを表わす量的な指数を示す必要がある。また、過去の顕著な災害をもたらした台風等の風、雨、高潮などについての類似性を強調すること等により、防災活動に直結する警報等の防災気象情報を発表する必要がある。

        また、気象災害は、社会構造や社会経済活動の変化に対応して時代を追って変化してきていることから、注意報の対象とする現象等について、気象災害の動向及び気象監視・予測技術の高度化等を踏まえて、不断の見直しを行う必要がある。

      4. 国の危機管理体制・広域的な応援に対応した気象情報の発表

        平成7年の阪神・淡路大震災や平成10年の栃木県北部の記録的集中豪雨等の経験を踏まえて構築された国の危機管理体制や都道府県等が連携した広域的な応援体制を一層効果的なものとするため、これらの体制に対応して広域を対象とした大雨等に関する気象情報の発表を行う必要がある。

        また、近年の情報通信技術の急速な進展に対応して、防災関係機関と連携・協力し、住民に対して分かり易い防災気象情報を迅速かつ確実に伝わる情報伝達のルートを確保することが必要である。

        さらに、災害をもたらす気象現象、災害特性は地域において大きな差がある。このため、気象庁は、メソ数値予報モデル等の予測技術の高度化による技術基盤の構築と同時に、気象台等における集中豪雨等の現象の急激な変化や局地的な地域特性に即応できる監視機能と防災機関との連携・協力を強化する必要がある。

        なお、地震・火山業務も含めた防災機関と連携・協力した防災業務の構築に向けた情報やデータの相互交換、災害発生時の対応、共同業務の実施等について基本的な考え方を、第3章で取りまとめる。

    4. 天気予報等の高度化

      天気予報等の気象情報については、防災利用に供するほか、あまねく国民が享受すべき基盤的共有財産として、その精度向上等、充実を図る必要がある。

      また、利用者の視点に沿った使いやすい天気予報等の提供を行うとともに、分かり易く、使い易いことや多彩なニーズに対応できるものであることが必要である。

      以上を踏まえ、天気予報等の改善に向けて、以下の各事項に取り組む必要がある。

      1. 天気予報等の充実

        気象庁は防災利用に供するため天気予報等について、予報要素の拡大、時系列予報の予報期間の延長等を図る必要がある。

      2. 週間天気予報の充実

        国民生活に広く利用されるようになり、農業政策・水資源管理等でもその重要性が高くなっている週間天気予報に対して、予報 精度の向上が強く要望されている。特に、数日以降先の予報精度の向上、予報の内容充実と精度情報の付加のために必要な技術開発を進める必要がある。

      3. 民間気象事業者に対する支援

        社会からの増大する天気予報に対するニーズへの対応については、民間事業者による自由な事業展開に大きな期待が寄せられている。気象庁は、民間の予報業務に対する規制緩和、数値予報資料等の各種気象情報の提供、気象予報士制度の充実等必要な支援措置をとる必要がある。その具体策については、第3部で後述する。

    5. 交通を支援する気象情報の充実

      国民生活を支える交通分野の中でも特に航空機・船舶の安全かつ効率的な運航のためには、国境を越えた気象情報が重要であり、これまでも気象庁は世界気象機関や国際民間航空機関等の国際的な枠組みのもとでこれらの情報提供の改善に努めてきている。近年、これらの分野では輸送量の拡大が進み、気象情報による支援が益々重要となっている。このため、気象庁は、以下の事項に取り組む必要がある。

      1. 航空気象情報
        • 航空機自動気象観測データ、操縦士報告等を利用した、飛行中の航空機に重大な影響を及ぼす乱気流域についての情報の充実
        • 航空機の離着陸に影響を及ぼす悪天現象について、自動観測による実況監視の強化とともに、悪天現象の時系列予報及び発生確率予測の発表
        • 個々の空港における関係機関とのネットワーク化や協議会等による連携を強化し、図情報等の分かり易い情報の迅速・確実な提供
      2. 船舶向け気象情報
        • 船舶の安全運航にとって最も重要である台風の予報について、より高精度の進路予報とともに、中心気圧や最大風速など新たに定量的な台風の強度についての予報
        • 船舶の安全確保に不可欠な強風・波浪・霧等の悪天情報について、現在の24時間から1週間程度先までへの延長
        • 今後の情報通信技術の発展を踏まえ、きめ細かく分かり易い気象情報を、衛星通信など最新の情報通信システムに適合して使い易く提供することについての検討
        • 民間気象事業者が主体的に活動を強化してきている船舶の経済運航等の分野について、これら活動を引き続き支援するため数値予報モデル、波浪モデルによる資料提供の充実
  2. 地震・津波・火山業務に係る分野の課題と実現方策
    1. 地震・津波・火山業務の基本的方向性

      地震は突発的・瞬間的な現象であり、いわゆる「東海地震」を除き、一般に地震発生の場所・時期・規模を特定するような予知・予測は困難である。また、火山現象については、適切な観測体制により差し迫った火山活動の高まりの把握ができ、火山によっては噴火時期をかなりの確度で予測できる場合もあるが、噴火の様式・規模、活動の推移を正確に予測することは容易ではない。さらに、群発地震や火山現象は、極めて長期間にわたり災害発生の危険性が継続する場合がある。このように、地震・火山現象は、気象等他の現象とは異なる特質を持っており、災害後の応急対策等危機管理のためには、発生した現象をより早い時点で速報すること及び地震・火山現象の推移を的確に把握・診断し、防災対策に資する情報を随時・適時に提供することが不可欠である。また、地震等の予知・予測技術も含め、地震・火山現象に関する調査研究の実施を推進することも必要である。

      地震・津波・火山業務における近年の技術の改良、業務の改善は目覚しいものがあるものの、発生した現象に関する更に高精度、高品質の情報の提供が気象庁に求められている。

      このような状況に鑑み、今後の10年程度の間に気象庁は、以下を重点目標として業務の充実・高度化を推進することが適当である

      地震・津波・火山現象による被害を最小限にとどめるため、危機管理に即応した、利用し易い(わかり易い)防災情報を発表する。

    2. 今後構ずべき具体的な方策

      具体的な方策と策定するに当たり、以下の点を基本方針とすべきである。

      1. 気象庁は、地震・津波・火山現象に関する防災情報を24時間体制で提供するわが国唯一の責任機関として、引続き一元的に防災機関・国民に情報提供する体制を堅持するとともに、その精度の向上・内容の充実を図ること。
      2. 地震・津波の監視にあたっては、今後も国・地方公共団体等関係機関との連携を図りつつ、効果的・効率的な監視機能の整備を図る必要があること。火山現象の監視にあたっては、火山の活動の程度に応じて基盤的な監視体制を維持・拡充しつつ、関係機関との観測データの共有化等、連携促進を図ること
      3. 現象を把握・診断するための技術開発及び予測・予知技術の高度化・精緻化を進めること。
      4. 世界でも屈指の地震・津波・火山に関する観測・監視技術を持つわが国が、近隣諸国に対してこのような現象に対する情報を発信する等、国際的な対応をも視野に入れた情報提供体制の整備を進めること。

      以上の基本方針に基づいて、今後、気象庁が講ずべき具体的方策を以下に提起する。

      • 地震に関する情報の充実
        1. ナウキャスト地震情報の提供

          震源の近傍で地震を捉え、被害をもたらす主要動が到達する前にその到達予想時刻や推定される震度等を伝えることができれば、予防措置等を取ることによって被害を未然に防ぐことが可能と考えられる(このような内容を持つ情報を「ナウキャスト地震情報」と呼ぶこととする。)。気象庁は、ナウキャスト地震情報を提供するために必要な地震波の処理技術を確立するとともに、想定されるナウキャスト地震情報の利用者の利用形態を十分に把握し、その形態に適した伝達手段を検討する必要がある。また、利用者等に対し、この情報の効果的な利用のための技術指導を行うことも必要である。

        2. 面的震度分布情報の提供

          発災後の応急対策を効果的に実施するためには初動体制の早期確立が必要である。震度情報は防災関係機関が地震時における初動体制確立の“きっかけ”として利用する等、極めて重要な情報として位置付けられている。防災機関のより迅速かつ的確な初動体制の確立に資するため、面的な震度分布を推計し、その結果を提供する具体的技術について早急に検討する必要がある。また、これに併せて、気象庁は引続き地方公共団体の震度データを収集・活用する体制の拡充・維持に努める必要がある。

        3. 地震・地殻活動の把握・診断

          これまでは単に発生した現象の速報及び解説に終始してきたが、今後は、過去の事例と比較しつつ、地震活動とそれに関連する地殻変動とを精度よく把握し、地震・地殻活動の異常の程度を診断できるようになることが望ましい。さらに将来的には、地震活動と地殻変動の相互の関連性から地震活動の推移の見通しまで言及できるようになることが望ましい。

        4. 余震情報の活用の促進

          規模の大きな地震に引続き発生する余震については、統計的手法を用いた確率的な推定結果を発表することとしているが、余震情報を効果的に活用し得るよう、説明を充実させる必要がある。

        5. 東海地震予知の確度向上

          東海地震は、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界の固着した部分(固着域)がすべることにより発生するとされている。東海地震の発生を事前に予知するためには、固着域の前兆的すべりを正確に捕捉することが極めて重要である。このため、気象庁は、関係機関との連携のもとに各種観測データの集中を進めており、今後、これらのデータ解析により、詳細な地殻構造モデルの構築とともに、固着域周辺での地震活動等、地殻の状態変化を注意深く監視することが必要である。また、固着域の前兆的すべりを監視するため、地殻歪の時間的変化を予想する3次元のシミュレーションモデルを開発する必要がある。

      • 津波予報の改善
        1. 津波予測技術の改善

          津波予測については、平成11年4月の数値計算技術の導入により技術革新を見たが、津波波源については、なお過去の経験等に基づく最も蓋然性の高いものを仮定しており、実際に発生する現象と乖離することもあり得る。今後は、地震波形の解析に基づく震源断層の形状と変位分布の推定技術及び検潮記録の解析に基づく津波波源推定技術の開発を進め、波源の推定精度の向上を図り、より精度の高い津波予測を行う必要がある。また、計算機の処理速度の高速化に対応して、津波波源が更新される都度、津波予測計算を実施する手法を導入することを検討する必要がある。

        2. 太平洋域内で発生する津波については、太平洋津波警報センターを核とした各国の協力体制のもとに、太平洋全域に影響を及ぼす津波に関する情報の交換体制が確立しているが、太平洋の一部地域や日本海等の沿海に被害が生じるような津波の予測情報については、交換する体制が整っていない。このため、地域的な津波情報発信拠点を気象庁に望む声が上がっている。

          気象庁は北西太平洋域における津波センター的機能を整備し、太平洋津波警報センターとの役割分担を明確にしつつ、津波災害の軽減のため適時的確な情報発信を行う必要がある。これには域内の関係諸国とのより一層緊密な地震・検潮データの交換が不可欠であり、気象庁がリーダーシップを取りながら、近隣諸国との連携を進める必要がある。

      • 火山に関する情報の充実、監視・診断体制の強化
        1. 火山に関する情報の充実(火山活動の診断技術の開発)

          火山活動に関する情報は、火山災害対策における危機管理において極めて重要な情報であるが、これまで気象庁が発表してきた火山情報は、多くの場合、定性的な表現に留まっており、発生した火山現象が防災上どの程度危機的な状態であるかを理解することが容易でない。今後は、火山活動の危険性を多様な観測データを用いて総合的に把握・診断し、その結果を防災機関等に提供・解説することが必要である。このため、噴火に至る過程についての概念モデルを作成し、地殻変動等の観測データを用いて、火山活動を定量的に診断する手法を開発する必要がある。また、火山活動の程度を数値などのレベルで示す等、受け手に火山活動状況が分かり易いものとなるよう工夫すべきである。併せて、爆発的噴火等の災害をもたらす現象の速報性を高めるよう努める必要がある。

        2. 火山監視・診断体制の強化

          ①に述べた定量的な火山活動の診断に基づく火山に関する情報の充実のためには、観測データ等を迅速に収集し、その成果の速報及び診断を行う体制の構築が不可欠である。このためには、これまで火山毎に培ってきた火山監視のノウハウを結集・整理するとともに、火山活動に臨機応変に対応可能となるよう火山監視の効率化と機動性の向上を図る等、現在の気象庁の火山監視及び活動診断の体制を再構築する必要がある。これらの実現に当たっては、以下の事項に留意し、火山活動の監視・診断体制の強化が必要である。

          • 火山性震動の観測、GPS・傾斜計等による火山体の変形の観測、空振計等による爆発的噴火の検知等を基盤的な観測として位置付け、火山活動の程度に応じて観測体制の維持・強化を進めるとともに、関係機関の観測データ、調査結果等を地域毎に気象庁に集約するよう関係機関との調整を進める。(火山監視センター機能の構築
          • 防災上注意を要する活動レベルになった場合には、詳細な活動を把握するため、関係機関との有機的な連携のもとに、機動的に多様な観測を集中して実施する。
          • 多様な観測データ及び調査・研究の成果を踏まえた火山活動の総合的な診断のための専任の体制を構築・強化する。その際、関係機関等の研究者および有識者の知見を最大限活用する。
  3. 気候・地球環境業務にかかわる分野の課題と実現方策

    21世紀初頭における社会経済活動の興隆や環境保全への取り組みにあたって、これまで以上に気候及び地球環境に関する信頼性の高い情報への期待が高まるものとみられる。このような要望に応えるためには、国際的な連携・協力のもと、中長期的な観点から技術開発を着実に前進させ、情報提供の充実を図ることが必要である。

    1. 気候業務の課題と実現方策

      気象庁は、農業分野等からの強い要請により季節予報を実施してきている。さらに、近年、季節予報等気候予報に対するニーズは大きく、農業のみならず製造・流通・貿易等の産業活動、電力・水資源管理、金融活動等の広範な分野で大きな期待が寄せられている。国際的には、気候に関する科学的な知見の増大、社会経済的な関心の高まりとともに、米国・欧州等の先進諸国では、気候予報の高度化が国家的な戦略目標として位置づけられてきている。しかし、現在気候予報の精度は、必ずしも十分なものとはなっていない。

      しかしながら、今後10年程度の間に、気候モデルの高度化、気候変動の機構解明の進展、新たな海洋観測網の世界的な構築による海洋内部の観測の充実、地球観測衛星等による陸面・雪氷の観測の充実等が図られるものとみられる。気象庁は、多くの技術的な課題は抱えているものの、 進展する科学技術を利用し、また、新たな観測技術や予測技術に挑戦的に取り組み、さらに、内外の関係機関等と連携・協力して、季節予報の精度向上を図り、予報期間の延長を目指す必要がある。21世紀初頭の目標として以下のように設定することが適当である。

      季節予報の精度向上を図り、1年先までの気候予報の実現を目指す。

      気象庁は、大気大循環モデルによる1か月予報を実施し、さらに、海面水温予測モデル(エルニーニョ予測モデル)を開発し、東部太平洋赤道域の海面水温の予測を実施している。

      今後、季節予報の精度向上と1年先までの気候予報を実現するためには、内外の関係機関との連携・協力を進め、関連する観測データの収集強化、解析技術の高度化、気候モデルの高度化を図る必要がある。

      特に、地球規模の海洋データの収集強化、解析技術の高度化を図り、海洋モデルの高度化及び実況解析データの充実を図る必要がある。また、地球観測衛星等による陸面及び大気データの収集強化及び解析技術の高度化を図る必要がある。

      このような取り組みで得られる気候情報の利用を促進するためには、利用者の要望に適合した情報の作成に努めるべきである。そのほか、気候情報の利用の実態調査、利用法の開発・普及、民間気象事業者の活力の利用、国・地方公共団体との連携・協力、国民に対する気候情報に関する普及・啓発が必要である。

      • ア 地球規模の高度海洋監視システム(ARGO計画)による海洋データ収集強化・解析技術の高度化

        季節予報の精度向上には、気候モデルの構成要素である海洋モデルを高度化し、初期値として必要な実況監視データを充実させることが不可欠である。このためには、海洋表層・中層の観測データの収集を飛躍的に強化することが必要である。現在、国際的に各国が協力して世界の海洋に中層フロート(浮き沈みすることにより水温・塩分などを観測し、衛星経由でデータを送信する観測機器)を稠密に展開するARGO計画を進めているところである。我が国では、気象庁、科学技術庁等が中心となって、ミレニアム・プロジェクトの1つである「高度海洋監視システム(ARGO計画)の構築」として実施することとなった。このような取り組みを進展させ、海洋データの収集強化とデータ同化技術の高度化を行い、海洋モデルの高度化及び気候モデルの初期値の充実を図ることにより、気候予報精度の向上を目指すことが必要である。

      • イ 地球観測衛星等による陸面及び大気データの収集強化・解析 技術の高度化

        静止気象衛星ネットワークや米国海洋大気庁(NOAA)による極軌道衛星シリーズ等による地球規模の大気・陸面・海洋表面の観測データは、全地球を覆う連続で均質なデータを提供している。また、土壌水分、積雪、海氷分布等の気象以外の新しい要素の観測も可能なことから、気候系の観測・監視にも重要な役割を果たしている。特に、地球観測衛星の観測データについては、各国の衛星開発機関、世界的な調整機関である地球観測衛星委員会(CEOS)等と連携・協力し、研究面での利用に加えて、実用化の評価を行い、最大限有効活用し、データ同化技術の高度化を図る必要がある。さらに、衛星による観測技術の開発・改良にも継続的に貢献する必要がある。これらの取り組みを進展させ、大気・陸面モデルの高度化及び気候モデルの初期値の充実を図り、気候予報精度の向上を図る必要がある。

      • ウ 気候モデルの開発

        3か月、暖候期、寒候期の季節予報については、技術開発を進めるとともに、国内外における最新の科学的成果を利用し、気候モデルによる力学的手法を早期に実用化すべきである。特に、ア、イ項の技術開発を進め、大気モデルに加えて陸面及び海洋モデルの開発・改良を進める必要がある。

        現在の技術を踏まえ、海面水温予測モデル(エルニーニョ予測モデル)の予測した海面水温(太平洋赤道域の海洋を詳細に予測)を境界条件とした全球数値予報モデルを用い、季節予報を実施すべきである。このような力学的手法による気候予報の高度化を1~2年後に実施する必要がある。

        国内外の研究・開発の成果を導入しつつ、中・高緯度の海洋を詳細に予測する海洋モデル、陸面、海氷等を詳細に予測する陸面・海氷モデルの高度化を行い、気候モデルの高度化を図り、3か月、暖候期、寒候期の精度の高い季節予報を実施する必要がある。さらに気候モデルの高度化を推進し、3か月、暖候期、寒候期の季節予報の精度を飛躍的に向上させるともに、精度の確認等の技術的評価を踏まえ、中長期的に1年先までの気候予報の実現を目指すべきである。

        なお、気候モデルの開発は単に気候分野だけに資するものではなく、気候モデルの構成要素である海洋モデルの高度化は、黒潮の動向の詳細な把握等、海況の監視や予報の改善にも貢献するものである。 

      • エ 国内及び国際協力の推進

        世界気象機関(WMO)は各国の気候に関する予測・情報サービス活動を支援するため、気候情報・予測サービス計画(CLIPS)を推進しており、この中で地域気候センターの設立が必要になっている。東アジア地域における技術支援等の面での気象庁の実績を踏まえ、アジア太平洋諸国に、気候予測プロダクト等の予報支援資料の提供、技術支援・技術移転等を行うアジア太平洋気候センターの設立に貢献する必要がある。

        気候に係わる観測、データ収集、気候モデルの開発等は、二国間協力を含め、国内外の諸計画・機関・大学等との連携・協力が必要である。気候モデルは世界的に見ても研究・開発段階にあることから、引き続き国内外の大学や関係機関との連携・協力や、ARGO計画を始め世界気候研究計画(WCRP)、全球海洋観測システム(GOOS)、全球気候観測システム(GCOS)等への参画を通して、気候モデルの進歩に貢献するとともに、得られた成果を活用する必要がある。

      • オ 産学官の連携・協力による気候情報の利用の促進

        気候情報の利用する分野は多岐にわたっていることから、すべての利用目的に適合した気候情報の提供を気象庁のみが実施することは困難である。気象庁が基盤的情報を提供する役割を担い、その価値を高めるためには、民間気象事業者や産業界が個別ニーズに応じたきめ細かな解説や付加価値を持つ情報サービスを実現することが適切かつ効率的である。このため、気象庁は、これまで以上に積極的かつ効率的な方法で気候情報を提供するとともに、情報の質について、十分な理解を得るための周知を図る必要がある。当面、気象庁が実施している全球数値予報モデルによる1か月予報に関する資料の公表、同資料の利用方法の解説等に着手する必要がある。

        気候情報の多様な活用の実現には、産業界、民間気象事業者のほか、社会・経済分野の専門家等の知見が不可欠であり、これら産学官との連携・協力体制を強化する必要がある。

    2. 地球環境業務の課題と実現方策

      21世紀は「環境の世紀」といわれるように、これまで以上に環境問題が重視され、人類の生存基盤に危機をもたらす状況を回避するための施策が強化される時代となる。特に、地球温暖化、オゾン層破壊等の地球環境問題について、国、地方公共団体、事業者、国民が防止対策に取り組むうえで、気象庁には、信頼性の高い科学的な監視・評価あるいは予測に関する情報の提供が求められている。また、地球温暖化に伴い、異常高温等、異常気象の増加が懸念されており、国内外で発生する異常気象等の動向に関する情報の充実が求められている。 「気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)」の第3回締約国会議(1997年)において京都議定書が採択され、先進国が行うべき温室効果ガスの排出削減目標が設定された。各国は目標の達成に向けて政策・措置を立案し、地球温暖化防止に向けた取り組みを進めている。このような取り組みを効果的・効率的に進めるには、地球温暖化の科学的理解に基づく予測の信頼性を更に向上させる必要がある。

      このような展望に基づき、今後10年程度の間に気象庁は、地球環境業務の重点目標を、以下のとおり設定することが適当である。

      地球温暖化、オゾン層破壊に関する信頼性の高い監視・予測情報の提供

      地球温暖化、オゾン層破壊に関する信頼性の高い監視・予測情報を提供するためには、国内外の多くの大学や関係機関と広範・多岐にわたる分野での連携・協力を推進する必要がある。

      • ア 気候変動、温室効果ガス・オゾン等に関する観測・データ収集の強化・解析技術の高度化

        地球温暖化の監視・予測の信頼性を向上させるためには、10年から数 10年スケールの気候の自然的変動に関する知見が必要である。この問題は現在、世界気候研究計画(WCRP)の副計画である気候の変動性と予測可能性に関する研究(CLIVAR)の重要なテーマの1つとなっており、この計画への積極的な参加を通じて、地球温暖化の実態把握に努める必要がある。また、地球温暖化に伴いその増加が懸念されている異常気象等による災害の防止、軽減、緊急対応に役立たせるため、国内外の気候の実況監視を充実させ、迅速な情報提供を図る必要がある。

        世界気象機関(WMO)は、人間活動の拡大に伴う大気組成の変化による気候変動に対処するため、温室効果ガス・オゾン層等の動向を把握する組織的な観測網を基盤とした全球大気監視(GAW)計画を推進している。この計画を支える技術基盤として、温室効果ガス、エーロゾル、オゾン、紫外域日射等の観測データを集中的に管理するデータセンター、データの品質を評価し、向上させる品質保証科学センターを、日本を始め各国の協力のもと設置している。気象庁は、GAW計画に協力し、温室効果ガス、オゾン層等の観測・監視を継続するとともに、観測・監視技術の動向に即してリモートセンシング技術の積極的な導入を図り、向上させる必要がある。また、数値モデルによるデータ同化等の解析手法は限られた観測データを有効に活用する有力な手段であることから、温室効果ガス、エーロゾル、オゾン、紫外域日射等のデータ同化モデルの開発・実用化を進め、これにより得られる適切な監視・解析情報を国内外に提供していく必要がある。さらに、このモデル開発のためには、既存の観測データのみならず、3次元的なデータが有効である。このため、民間航空機を利用した観測により得られるデータ、今後計画されているADEOS-IIを始めとする地球観測衛星により得られるデータの活用を一層進める必要がある。

      • イ 地球温暖化予測技術の高度化

        気候変動の科学的解明等を進展させ、地球温暖化予測モデルによる50、100年先までの地球温暖化予測の信頼性の向上を図るとともに、国内の地球温暖化防止対策に必要な地域規模の温暖化を予測するモデルを開発する必要がある。

        気象庁は、1995年から、地球温暖化防止対策に役立てることを目的として、地球温暖化に関する監視結果及び気象研究所が開発した気候モデルを用いた温室効果ガスの様々な増加シナリオに対する50、100年後までの地球規模の温暖化予測結果を国内外の行政機関・研究機関等に提供している。今後は、これに加え、わが国に影響する台風や梅雨、日本海側の降雪等の種々の現象について、地球温暖化による変化の情報が必要となっている。このため、地域規模の温暖化を表現できる地域温暖化予測モデルの開発を行い、我が国の将来の温暖化に伴う気温や降水の変化等について予測内容の向上を図る必要がある。

        さらに、地球温暖化対策にかかわる政策担当者や研究者等の要請に適った情報とするため、地球温暖化予測モデルの改良を進め、信頼性の高い予測情報を国内関係機関や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)等の国際機関へ提供する必要がある。また、広く国民への普及・啓発を図るため、情報の提供体制を強化するとともに、報道機関等と協力し、その利用促進を図る必要がある。

      • ウ 国内及び国際協力の推進

        気象庁は、温室効果ガス等に関する世界的なデータセンターである「WMO温室効果ガス世界資料センター」及びアジア・南西太平洋地域の観測データの品質維持・向上を図る「WMO品質保証科学センター」を運営し、着実な成果をあげてきている。今後とも、「WMO温室効果ガス世界資料センター」は、国内外の関係機関の保有する観測データの収集・管理に努め、データ流通の促進を図る必要がある。また、「WMO品質保証科学センター」は、国内外の観測所との連携・協力により、観測実務担当者を対象とした研修、セミナー等を行い、観測所の観測技術の向上を図り、観測データの品質向上に努める必要がある。

        現在は、観測データの収集・管理を基本として大気環境の観測が行われているが、今後は、大気環境の監視・評価の充実に重点を移した取り組みが求められており、観測データの解析技術の高度化が必要である。気象庁は、GAW計画推進の重要な中核である「全球大気監視解析センター」として、信頼性の高い監視・評価情報を国内外の関係機関に提供し、地球環境分野における国際貢献を推進する必要がある。

第2章 気象庁が国として求められる技術基盤の確立と技術開発体制の強化

気象業務は、自然現象の解明といった基礎科学から、そのモデル化等の応用技術、シミュレーションや情報提供に必要な情報処理・通信技術など、広範な要素技術のうえに成り立っている。このような科学技術に立脚する気象業務の高度化に向けて、引き続き気象庁は最新の技術的な成果を的確に取り入れ、常に業務と研究の密接な連係により業務の高度化を進め、わが国の気象業務の中核として、国際的な側面も含め確固たる基盤を堅持すると同時に、その高度化に努める必要がある。

  1. 技術基盤の確立及び観測・監視・予報技術の高度化に向けた基本的な考え方
    1. 技術基盤の確立

      気象・地震・津波等の観測・監視網・情報通信網の構築や改善にあたって、気象庁は、次の点に特に配慮する必要がある。

      1. 最新の情報通信・処理、遠隔探査等の観測技術の成果を取り入れ、対象となる現象を的確に把握、予測でき、また、費用対効果比の高いシステムとすること。特に、地球観測衛星等による観測については、データの利用技術の高度化を図り、その有効性等について評価を行うこと。
      2. 気象庁のシステムに障害等が発生した場合には国内外の災害対策や社会経済活動に多大な影響を与えることから、防災気象情報を重点として、危機管理・セキュリティー対策を講じたシステムとすること。
      3. 気象庁のシステムは防災関係機関、報道機関、民間事業者等とも結ばれ全国的なネットワークを構成していることから、ネットワーク全体の機能が効果的に働くよう配慮すること。
    2. 観測・監視・予測技術の高度化

      気象庁は、上記技術基盤のうえに、自然現象の的確な監視・予報等を行うため、次の方針のもと研究及び技術開発を推進し、社会的な要請に適った最善の成果を生むよう努める必要がある。

      1. 気象業務にかかわる技術は要素技術が多岐にわたり総合科学技術としての色彩が強いことから、他機関・大学とも連携しつつ、体系的・組織的に推進すること。
      2. 気象業務にかかわる研究及び技術開発は、その性質から短期間では大きな成果が得られないものが多く、中長期的な視点に立って戦略的・計画的に推進すること。
      3. 気象業務にかかわる研究及び技術開発は、研究と実務との密接な連係のもと行われる必要があり、相互にフィードバックを図り、一体的に推進すること。
      4. 研究及び技術開発の進捗状況と成果について適切に評価し、必要な見直しを行うこと。
  2. 気象業務におけるモデル開発等最重点課題についての開発方針

    気象業務の高度化に求められる技術は多岐にわたっている。その中で気象庁が特に組織的に重点を置くべき課題として、数値予報モデルに代表される気象、海洋、地震・津波等の数値シミュレーション技術の開発(以下、「モデル開発」と総称する。)がある。

    現在の気象予報は、数値予報モデル等の技術基盤のうえに成り立っている。さらに、先に提言した気象業務の中長期的な重要課題である、局地的集中豪雨や気候の予報、地球温暖化等の地球環境の予測、地震活動や火山活動等の診断においても、モデル開発が最も大きな課題となっている。国際的にみても、欧米先進国の気象機関で、まさに国家的戦略として全球数値予報モデルや気候モデルの開発が精力的に進められている。わが国では、気象庁が先導的にモデル開発を進め、全球数値予報モデル等で国際的にも高い評価を得てきている。今後とも、モデル開発における世界の一翼を担い、わが国の気象業務のみならず開発途上国への支援も含め、世界的な気象業務の発達に貢献することが必要である。

    このため、ここでは今後の気象業務にかかわる研究及び技術開発の中で最重要課題であるモデル開発について、そのあるべき方向性を提言する。

    数値予報技術を発展させてきた気象庁は、モデル開発について、国内の中核として関係機関・大学と連携・協力しつつ、下記モデルについて体系的・組織的に、さらに中長期的な計画のもと開発を推進することが不可欠である。

    1. 全球数値予報モデル:メソ数値予報モデル、気候モデル等、全てのモデルの開発及び運用の中核的な基盤技術である。天気予報・週間天気予報、台風予報、海上予報、航空予報等に活用され、その格子点資料は、民間気象業務に不可欠である。
    2. メソ数値予報モデル:集中豪雨等の局地的に激しい気象(「メソ気象現象」と呼ぶ。)の予報の精度向上に不可欠である。その格子点資料は、民間気象事業者による局地予報等に大きく貢献することが期待される
    3. 気候モデル: 1年先までの気候予報の実現や地球温暖化予測に不可欠である。
    4. 地殻活動モデル:地震発生及び火山噴火のプロセスの予測等地震・地殻活動や火山活動の診断のために不可欠である。

    以上のモデル開発にあたっては、予測のために不可欠な初期値を与える観測データのデータ同化技術を始めとする解析・利用技術についても、下記に重点をおいて一体的に研究開発すべきである。

    1. メソ気象現象の的確な予報に向けた、ドップラーレーダー、ウィンドプロファイラー、汎地球測位システム(GPS)等次世代の国内観測網のデータ利用技術
    2. 全球数値予報モデルや気候モデルの予測精度向上に向けた、
      • 運輸多目的衛星等の静止気象衛星も含めた世界気象機関(WMO)の全球気象監視網による気象・海洋データの更なる効果的な利用技術
      • 日・米・欧州の宇宙開発関係機関による、技術開発及び調査研究を主な目的とした地球観測衛星の大気、海洋、陸面等のデータの有効活用のための技術
      • 海洋の中層フロート等、新たな観測システムからのデータの利用技術
    3. 地殻活動モデルの構築に向けた、地殻岩石歪計、汎地球測位システム(GPS)観測、地球観測衛星から得られた地殻変動データ等の利用技術

    さらに気象庁は、上記モデル開発の推進とともに、数値予報モデル等の応用技術についても、研究開発を促進する必要がある。具体的には、下記のとおりである。

    1. 有害物質や火山灰の移流拡散モデル
    2. 波浪・高潮の予報のためのモデル、漂流物質の移流拡散モデル
    3. 津波予報の高度化に向けた津波シミュレーション技術及び即時的な震源断層解析技術・津波波源推定技術等
  3. 国内外の関係機関との連携・協力

    気象学、地震学等の地球科学にかかわる研究や技術開発は、国内外の大学、研究機関等でも科学技術の発展や環境政策等、それぞれの目標に向けて精力的に進められている。気象庁は、本答申で提言した研究及び技術開発を進めるにあたり、国内外の関係機関と連携・協力しつつ、最新の成果を積極的に活用すると同時に、わが国全体、さらには世界的な気象業務の技術基盤の構築や科学技術の発展に貢献すべきである。

    このため、気象庁は、気象業務の中核機関として国内をリードし、自らの技術基盤を強固にするために戦略的に研究及び技術開発等を推進することは当然として、研究・技術開発で国内外の大学・研究機関等と、気象情報の利用等で防災機関・公共機関・民間等と連携・協力する必要がある。具体的な連携方策は次のとおりである。

    1. 気象業務にかかわる技術は多岐にわたる要素技術の上に成り立っており、国内の先導的・中核的機関として、大学、研究機関等との連携・協力体制を強化する。(例、モデル開発、地球観測衛星等観測データの解析・利用技術の開発 等)
    2. 地震・火山業務については、地震調査研究推進本部が策定した研究計画、測地学審議会が建議した地震予知・噴火予知に関する研究計画における気象庁の役割を十分に果たしつつ、これらの研究計画等に基づく関係研究機関の研究成果を防災気象情報作成技術に積極的に適用する。

    なお、当然のことながら、国際的な共同研究への参画等、世界気象機関(WMO)等国際的な連携・協力の強化も、併せて行う必要がある

第3章 防災関係機関と連携・協力した総合的な防災業務の構築

自然災害の防止・軽減は、国・地方公共団体等の防災関係機関の密接な連携・協力により適切な措置がとられ、さらに防災情報に対する国民の適切な理解と対応があってはじめて有効に機能するものとなる。このような防災対策は、気象庁、防災関係機関及び国民の三者の共同事業であり、これらの連携・協力があってはじめて最大の効果をあげるものである。

このため、国、地方公共団体、報道機関等の連携を強化し、国民への適時適切な防災気象情報を提供することにより、生命・財産の確保および災害に強い安全な社会の構築が望まれる。

  1. 防災気象情報のあり方

    気象注意報・警報、地震・津波情報、火山情報等の具体的な改善策については、防災関係機関等からの要請や技術的な展望を踏まえて、第2部第1章で提言した。ここでは、今後の防災業務の指針とするため、防災気象情報全体のあり方について基本的な考え方をとりまとめた。

    気象庁が発表する注意報・警報、台風予報、地震・津波・火山情報等の防災気象情報は、防災関係機関の対応を支援し、また、国民への警戒や注意を喚起するものである。このため、防災気象情報は、

    • 受け取った防災機関が気象等の状況や見通し、さらには想定される被害を短時間に判断し、必要な対策を実施できること
    • 受け取った国民が気象等の状況や見通し、さらには災害の切迫度や危険度を容易に判断できること

    等が求められる。

    自然現象とそれにともなう災害は、様々な時間的・空間的な規模で出現していることから、防災気象情報は

    • 現象と想定される被害等の状況を的確に表現する「分かり易さ」と「きめ細かさ」があること
    • 国や地方公共団体等の防災機関における防災対策や危機管理における「利用目的に適った」内容やタイミングであること(例、都道府県等の災害対応や広域応援体制)
    • 国民への注意喚起として適正な内容やタイミングであること
    • 「迅速・確実」に提供すること

    が必要である。

    また、利用し易さの観点から、最新の情報処理技術等を活用し、画像情報等を提供することも必要である。

  2. 防災関係機関とのネットワーク化

    気象、地震等の災害対策は、気象庁と防災関係機関の共同業務と言えるものである。現在、防災関係機関で、洪水、土砂災害、津波、高潮等のハザードマップを活用した防災対策が進められており、それらの活動と連動した防災気象情報を発表するため、気象庁は、次のとおり防災関係機関と連携・協力し、防災業務体制を構築する必要がある。

    1. 防災関係機関との連携強化

      気象庁は、防災気象情報の効果を高めるため、防災気象情報の改善とともに、以下のとおり防災関係機関との連携を強化する必要がある。

      1. 地方気象台等において、都道府県等の防災関係機関と常日頃から防災知識の共有化を目的とした情報交換や共同した防災訓練等を行うこと。
      2. 大規模な災害が予想される場合や地震・火山噴火による発災後は、地方気象台等の専門職員を派遣し、気象・地震等の状況や見通しを直接解説し、当該機関における災害対策に対して助言すること。
      3. 防災機関における防災情報システムや観測システムの導入等を踏まえ、これらシステムや気象等の観測にかかわる技術移転や助言、ハザードマップ・災害ポテンシャル等にかかわる防災情報の共同開発を行うこと。

      避難勧告等の災害対策は、気象庁発表の防災気象情報等を重要な判断材料として最終的には地方公共団体の責任において住民に対して行われるものである。したがって、地方公共団体と住民の両者が受け取った情報から正しい共通認識を持つことが重要である。この点については、最近の大雨や高潮災害でも、その重要性が再確認されているところであり、関係省庁・地方公共団体でも様々な取り組みが開始されようとしている。気象庁は防災気象情報の改善を進めるとともに、防災にかかわる知識の共有化に向けても、地方公共団体等の関連施策に対して積極的に協力する必要がある。

    2. 観測成果等防災情報の共有化

      震度、雨量等の観測は、気象庁のみならず、気象庁以外の国、地方公共団体等でも独自の目的をもって実施されており、一部にはデータの公開も進められている。このような観測データが気象庁発表の防災気象情報と有機的に結びつき、相互に効果を最大限高め、更に社会的な混乱を回避するためには、観測の技術基準の統一や相互交換等について、引き続き気象庁が対応すべきである。

      また、地方公共団体等は、その対策のために時間的・空間的にきめ細かな防災気象情報(例えば、市区町村単位の情報等)を求めている。地方公共団体等による観測データは、このようなきめ細かな情報作成のために極めて有効であり、気象庁はこれを積極的に活用し、防災気象情報の一部として発表し、地方公共団体等に提供、還元することにより、観測成果の共有化の効果を更に高めるべきである。

      また、近年の集中豪雨等による災害を踏まえて、都道府県や関係省庁に住民等からの発見者通報や災害にかかわる情報提供の意義が再認識されている。気象庁は、防災気象情報を発信する立場から、これら防災関係機関と連携・協力して、住民等からの情報の有効活用にも配慮すべきである。

    3. 防災ネットワークの構築

      防災関係機関では衛星通信・放送や移動体通信を活用した防災情報システムの導入が進み、気象庁発表の防災気象情報が瞬時のうちに災害対策関係者に伝達される仕組みの普及が進んでいる。気象庁は、防災気象情報の効果を最大限に高めるため、引き続きこれら関係機関の情報システムとのネットワーク化を促進することが必要である。

      このため、気象庁は自らのシステムの構築にあたって、汎用ソフトの積極的な活用、共通ソフトの開発等関係機関の負担軽減にも配慮すべきである。共通ソフトの開発等の具体化にあたって、気象庁は、関係機関との共同開発を進める必要がある。

  3. メディアとの連携・協力と国民の理解向上
    1. メディアとの連携・協力による防災気象情報の国民への周知徹底

      防災気象情報の国民への周知には、テレビ・ラジオ・新聞等のマスメディアに負うところが極めて大きい。このため、気象庁は引き続き報道機関との連携・協力を強化する必要があるが、その際、衛星放送(BS)や地上波によるデジタル放送時代に適合する防災気象情報の発表に十分に配慮する必要がある。

      また、情報技術革命により、家庭や勤務先、さらには交通機関での移動中等、どこでも好きな場所で防災気象情報を受けとったり、欲しい情報を欲しいときに入手できる時代が実現しつつある。これらの活動は、報道機関に加え、民間の気象事業者や情報通信事業者による事業として拡大してきている。今後放送と通信の融合などが叫ばれるなか、最新のメディアに対応した情報提供は引き続きこれら民間の活力に負うところが極めて大きく、気象庁は、情報提供の強化等により一層の支援を行っていく必要がある。

      また、気象庁は、今後の防災気象情報の改善において、高齢者等の災害弱者や情報技術革命に伴う情報利用格差の拡大にも配慮するとともに、その周知には、報道機関、情報通信事業者等との協力を進める必要がある。

    2. 国民の理解向上

      防災気象情報の有効活用を進めるためには、国民一人一人の気象、地震、津波、火山、海洋等の諸現象及びそれに伴う災害への理解も不可欠である。そのため、気象庁は防災関係機関、報道機関等と連携・協力し、気象知識等の広報・普及に努め、国民の理解を深める必要がある。

      なお、テレビ等での台風予報や注意報・警報等の解説に気象予報士が重要な役割を果たしてきている。解説に求められる防災気象情報の補完資料の充実、気象予報士の資質向上に向けた研修等、気象庁は、引き続きその活動を支援していく必要がある。

第4章 気象業務における国際的な活動の基本的な方針

  1. 気象業務における国際協力の現状
    1. 気象業務における国際協力の意義

      気象業務は国境を越えた自然現象を対象としており、歴史的にも各国の気象機関は国際的な協力体制を築き、気象や海洋の観測の実施やデータの交換等、全世界的なネットワークを運用してきている。こうした国際協力体制への参加は、我が国の気象業務を遂行するための基本的要件であり、我が国のみならず、世界の気象業務を発展させ、人類の福祉向上に寄与するものである。

      特に、近年の情報通信・運輸交通等の発達、経済活動のグローバル化、異常気象や地球温暖化等の地球規模の問題の顕在化に対応して、気象庁は、これまで以上に気象、海洋、地震・火山等にかかわる国際的な活動を強化し、国際的な協力体制を維持・発展させる必要がある。

    2. 国際協力の体制と現状

      気象分野の国際協力の体制は、①各国の気象機関、気象関係の研究機関及び大学等の参加、②気象データ等の国際交換や参加機関間の技術交流や研究交流、③参加機関の国際協力を調整するための組織やメカニズム等で構成されている。

      世界気象機関(WMO)、ユネスコ政府間海洋委員会(IOC)や国際科学会議(ICSU)等、様々な国際機関や組織が気象業務に関連する国際協力のために組織されている。なかでも各国の国家気象機関が参加するWMOは、気象分野の国際協力体制の中核的な機関として、気象、気候、水文及び関連する科学分野における全世界的な観測、通信及びデータ処理のネットワークの構築とオペレーショナルな気象業務の実施のための国際調整及び研究・技術開発業務等の国際調整を行う組織として機能してきている。

      気象分野では、各国の気象機関が等しい立場で国際協力に参加し、その体制を維持・発展させることが望ましい。しかし、現状の各国の対応能力をみると、政治や経済の状態により国毎に大きな格差が存在している。また、近年における社会経済活動のグローバル化の流れは、先進国と開発途上国の格差をより拡大する方向にある。気象分野でも、観測、通信、データ処理に関する技術がめざましく発達するなかで、財政的、技術的に対応できる先進国と対応が遅れがちな開発途上国の間で、技術的な格差は益々広がる傾向にある。

      一方、開発途上国の観測データ等は我が国だけではなく世界各国の気象業務に不可欠であることを考えると、観測等の気象分野の全世界的なネットワークを維持・発展させるための国際協調・協力が必要である。

      国毎の格差への対応方策として、開発途上国への直接的な支援活動とともに、先進国気象機関が世界的あるいは地域的なセンター機能を受け持ち、ここで作成された数値予報等のプロダクト等を開発途上国の気象情報発表業務の利用に供する体制を強化することが効果的、効率的な支援として重要性を増してきている。これにより、開発途上国の気象機関は、全球的な気象観測ネットワークの一部として自国が負担する気象観測等に資源を優先的に振り向けるとともに、プロダクトの形で観測データに対するフィードバックを受け取ることが可能となる。このような形で開発途上国における気象業務の向上を支援するために、パーソナルコンピュータやワークステーション上で数値予報の格子点資料(GPV)を処理したり、メソ数値予報モデルを運用するための技術移転を積極的に進める必要がある。

  2. 国際的な活動を推進する基本的な考え方

    気象庁は、欧州・米国と並び、気象観測、気象通信、予測技術等の分野において先進的な技術基盤を確立し、世界的に指導的な立場にある。

    気象庁は、我が国及び世界各国の気象業務の発展のために、WMO等の国際機関を介するアプローチと二国間協力の枠組みによるアプローチを連携させつつ、以下の基本的な方針に従い国際的な活動を推進する必要がある。

    1. 世界気象機関(WMO)等の国際機関の活動や国際共同研究計画等への参加の推進

      気象、気候、水文や関連する自然科学や観測・通信・情報処理等の技術は、各国の国家気象機関及び気象分野の全世界的なネットワークを支える基盤である。我が国の気象業務がこれらの科学や技術分野の発展に適切に対応していくためには、最新の国際的動向を把握すること、また逆に我が国の成果を国際的に還元することが必要である。特に、数値予報システムの開発や衛星を含む統合的な観測システムの構築のように、関連する科学や技術の分野がより広範になりつつある課題に対応するためには、国際的な交流や協力が益々重要となっている。

      また、気象分野の全世界的なネットワークの運営の面でも、大気・海洋・地震・火山の観測、監視体制の強化、各国の実情を踏まえた世界の気象情報の秩序ある交換体制の構築等のために、国際的な役割分担の議論に参加し、我が国としての責務に応える必要がある。

      そのために、情報・技術の交換や専門家の交流を、これら国際機関や各国気象機関との間で積極的に推進することが必要である。

    2. アジア・太平洋地域の地域センター機能の拡充

      気象庁は、アジア・太平洋諸国を中心とする地域の中核的な国家気象機関として、台風、気象通信、数値予報プロダクトの提供等の地域的なセンター機能を担い、静止気象衛星によるアジア太平洋域の国と地域への雲画像の配信、太平洋台風センターからの北西太平洋域における熱帯低気圧情報の関係国気象機関への提供、地域通信中枢としてアジア域の気象通信の中継、温室効果ガスの観測・監視、気候変動に関する予測情報の提供、地震観測・津波予報に関する情報の国際交換等を行ってきている。

      アジア・太平洋諸国を中心とする地域は、地理的にも我が国に隣接し、いまなお支援を求める開発途上国が多くあるため、気象庁は、経済活動のグローバル化による先進国との格差が拡大するなか、引き続き当該地域の気象分野の地域的なセンター機能を維持・強化させる必要がある。特に、自然災害への対応能力の向上や農業生産等の経済活動を支援する観点から、北西太平洋域津波センターやアジア太平洋気候センター等の機能の構築により、当該地域への津波情報、数値予報プロダクト、季節予報プロダクトの作成・提供能力を拡充する必要がある。

      また、単に情報の提供にとどまらず、観測・解析に関わる技術移転及び必要なソフトウェアの提供、気象衛星資料・数値予報資料・気候情報等の利用に関する研修等をセンター機能の一環として、計画的、組織的に実施する必要がある。

    3. 開発途上国への支援の推進

      開発途上国における気象業務は、国により様々な発展段階にある。我が国は、各国の気象業務の現状に促して、支援対象国のみならず我が国や世界の気象業務への裨益効果も考慮しつつ、世界、とりわけアジア・太平洋諸国を中心とする国々の気象業務の近代化のために、関連する国際機関や援助機関との密接な連携のもと、技術移転や人材育成等の支援活動を積極的に行う必要がある。

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