気象審議会 第21号答申
21世紀における気象業務のあり方について(答申案)
平成12年5月
第1部 目次
- 第1部 内外の諸情勢及び気象庁が行うべき気象業務
- 第1章 気象業務をとりまく内外の諸情勢
- 防災関係機関における災害対策・危機管理
- 多発する自然災害と災害形態の多様化
- 国・地方公共団体等における災害対策・危機管理
- 国民生活・社会経済活動に密着する気象情報
- 拡大する気象情報の利用
- 民間気象業務の役割及び今後の発展
- 地球環境問題等の現状と課題
- 科学的知見と課題
- 技術的課題と国際的な取り組み
- 地球科学・情報通信等における技術革新
- 自然現象の観測・予測技術の高度化
- 情報通信にかかわる技術革新
- 防災関係機関における災害対策・危機管理
- 第2章 気象庁が行うべき気象業務
- 背景
- 行政改革会議
- 中央省庁等改革基本法
- 中央省庁等改革の推進に関する方針
- 気象庁が行うべき気象業務
- 国の行うべき事務・事業の考え方
- 気象庁が国として提供すべき気象情報
- 背景
- 第1章 気象業務をとりまく内外の諸情勢
第1部 内外の諸情勢及び気象庁が行うべき気象業務
近年、気象業務をとりまく状況は大きく変化してきている。特に、21世紀を迎えるにあたり、気象庁はわが国における総合的な気象業務の健全な発達を図ることが求められている。気象庁は、
- 地震、火山噴火、台風、集中豪雨等の自然災害の頻発に対する国・地方公共団体等の災害対策、危機管理体制の強化
- 社会経済活動の多様化・国際化にともなう自然現象に対する社会の脆弱性の増大
- 民間気象事業の振興
- 地球環境問題の顕在化にともなう国内外における対策の強化
- 地球科学・情報通信等の技術革新
- 中央省庁等改革等を踏まえた気象庁の効率的な業務運営への要請
等の動向や展望に的確に対応し、今後の新たなニーズにも十分に応えうる基本的な方針のもとに気象業務を推進する必要がある。
第1章 気象業務をとりまく内外の諸情勢
21世紀初頭の中長期的な観点から推進すべき具体策を提言するにあたり、その前提として踏まえるべき、防災関係機関における災害対策・危機管理、民間気象事業の発展、地球環境問題、情報通信等の技術革新など内外の諸情勢について分析する。
- 防災関係機関における災害対策・危機管理
近年、都市化による災害への脆弱性増大など台風・集中豪雨、地震・火山等による自然災害の形態も多様化し、その続発が懸念されている。このため、関係行政機関、地方公共団体等では、災害防止・軽減に向けた対策・危機管理体制の強化が進められている。気象庁は、台風・集中豪雨、地震・火山等を確実に監視し、注意報・警報等の防災気象情報を的確に防災関係機関と国民に提供することが強く求められている。
- 多発する自然災害と災害形態の多様化
わが国は、過去に多くの自然災害を経験してきている。防災施設等の整備が進んだ今日においても、平成5年の北海道南西沖地震等により大きな津波被害を、平成7年の阪神・淡路大震災により戦後最大の地震被害をもたらしている。また、平成3~5年の雲仙岳の噴火による被害も記憶に新しいところであり、現在も有珠山の噴火活動が継続している。
気象災害による犠牲者の数は、災害対策の強化によりここ50余年の間に激減している。しかし、ここ数年を見ると、台風・集中豪雨等による洪水や土砂災害が短時間に広域的に出現したり、地下街の浸水等の新たな都市型災害が頻発する等、災害発生の形態も大きく変化し、気象災害に対して社会の脆弱性が増大してきている。
- 国・地方公共団体等における災害対策・危機管理
平成7年の阪神・淡路大震災発生後、政府や地方公共団体の初動対応が必ずしも迅速に行われなかったとの教訓を踏まえて、政府等において防災体制が強化されてきている。例えば、国においては平成7年の防災基本計画の抜本的な改定、平成10年の内閣安全保障・危機管理室の設置のほか、気象庁も含め、関係省庁では様々な施策が実施されてきている。
地方公共団体においても、都道府県を超える広域の災害が発生した場合の相互応援等の広域防災体制の確立とともに、最新の情報通信技術に基づく防災システムの構築が進められている。例えば、防災システムにより気象庁発表の注意報・警報等の防災気象情報を活用するとともに、自ら浸水等の被害予測や市町村毎のきめ細かな雨量や震度の観測を行ってきている。
防災は国・地方公共団体だけで実施することは困難であり、電力・ガス等のライフライン関連事業者等民間との連携・協力も進んできている。国民への情報の周知において主要な役割を果たしている報道機関でも、台風や大雨等の状況を常時テロップで伝えるなど、災害報道を強化してきている。さらに、BSデジタル放送の開始により災害報道のあり方も大きく変ろうとしている。
このような中で、気象庁は関係機関等の災害対策がより効果的となるよう情報の質を高め、迅速・的確な発表を行うとともに、これら関係機関等と連携・協力してより総合的な防災業務を構築することが求められている。
- 多発する自然災害と災害形態の多様化
- 国民生活・社会経済活動に密着する気象情報
国民生活の利便性向上、農業生産、食料・水資源の安定、その他各種産業活動等、様々な社会経済活動において気象情報へのニーズが多様化している。特に、気象情報の信頼性向上にともない、きめ細かな気象サービスへの期待が高まり、民間気象事業者等による多様なサービスが展開されてきている。
- 拡大する気象情報の利用
- ア 国民生活と気象情報
天気予報等の精度の向上にともない、気象情報は通勤・通学、家事、レジャー等の日々の生活に不可欠なものとなっている。テレビ、ラジオに加え、CATV、ファクシミリ、インターネット、衛星放送等の情報通信手段の発達・普及により、これらの高機能なメディアの特性を十分に活かして、個々の家庭でも「欲しい時に欲しい情報」が入手できる時代となっている。今後、情報通信等の技術革新とともに、国民生活と気象情報がさらに密接なものとなるであろう。
また、気象情報の内容や提供手段が今後益々高度化・多様化するものと考えられるが、受け手である国民が正しく理解し行動の判断材料として利用するためには、情報の質や内容の改善に加えて気象知識の普及も大きな課題となる。
- イ 社会経済活動と気象情報の有効活用
気象情報は、運輸、農業、食料、水資源、電力、その他各種産業活動と密接にかかわっており、船舶の経済運航、水稲の管理、渇水対策、電力の安定供給などに利用されてきている。近年は、農業関係団体や電力事業者が、民間気象事業者等の協力を得て、自らの観測成果や予報を取り入れた作物生産や電力供給のための管理システムを開発し、活用している事例も見られる。また、その他の企業活動でも気象情報への期待度は大きく、生産、流通、建設等のリスク回避、コスト削減の手段として気象情報が注目されている。さらに、異常気象等の気象状況に応じてリスク回避するための金融派生商品の活用が始まるなど、気象情報の活用は一層拡大し、さらに高まっていくであろう。
- ア 国民生活と気象情報
- 民間気象業務の役割及び今後の発展
- ア 民間気象業務を巡る経緯と現状
平成4年3月の気象審議会答申第18号を受け、平成5年5月に気象業務法の一部が改正され、 気象予報士制度、民間気象業務支援センター制度等の民間気象事業推進策が導入されるとともに、
- 気象庁発表の予報のテレビ等における解説業務の自由化
- 一般向け天気予報(局地)の許可
- 許可基準の明確化、申請書類の簡略化、事務処理の迅速化
等の予報業務許可制度等の見直しが行われた。
民間気象業務支援センター制度については、(財)気象業務支援センターが、気象庁長官の指定を受け、気象庁が収集した気象観測データや数値予報資料等を配信する業務を行っている。
現在、民間気象事業者は、気象庁から提供される数値予報資料等を活用することにより、以下のような事業を展開している。
- テレビ等のマスメディアによる分かりやすい情報の提供
- 企業等への個別情報の提供
- 新しい情報メディアによる気象情報の提供
- イ 民間気象業務の今後の発展
民間気象業務は、近年の予報技術力の向上や情報通信の発展により様々な分野で気象情報サービスを提供しており、その役割はますます重要となっている。
また、情報通信技術の急激な発達と相まって、個人レベルにおいても、一方向的な情報提供を受けるだけではなく、自らの判断で必要とする情報を取捨選択するようになる等、国民各層のニーズがより多様化・個別化してきている。
これらの多種、多様なニーズに対応するため、民間気象事業者等による、インターネット、デジタル放送等の最新の情報通信技術を活用した気象情報サービスの提供に大きな期待が寄せられている。
このため、気象庁は、民間の予報業務等に対する規制緩和や情報提供の充実を進める等、民間気象事業の振興を図ることが一層求められている。
- ア 民間気象業務を巡る経緯と現状
- 地球環境問題等の現状と課題
地球環境問題や世界各地で発生する異常気象への対応が国際的に大きな課題となっている。このため、地球温暖化等の解明・予測や気候予報の精度向上などに大きな期待が寄せられている。
- 科学的知見と課題
二酸化炭素等の温室効果ガスの人為的な増加にともなう地球温暖化問題は、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」により科学的評価が行われ、これに基づき「気候変動に関する国際連合枠組条約」が1994年に発効している。同条約により温室効果ガスの排出削減に向けた国際的な取り組みが検討されているが、同条約を的確に遂行するために、地球温暖化問題の科学的理解とそれに基づく予測をより確かなものとすることが求められている。特に、IPCC第2次評価報告書(1995)は、「現在の気候に二酸化炭素等の増加による人為的影響が現れていることが示唆される」、また、「100年後には地上気温は世界全体で1℃から3.5℃程度上昇する」などとしている。しかし、今後の異常気象や地域的な気候変動の見通しについては依然として不確実な部分を残しているとしている。
情報通信・運輸交通等の発達にともない社会経済活動がグローバル化するなか、一国で発生する異常気象が直ちに世界各国の社会経済活動に大きな影響をもたらす時代となっている。このような異常気象の動向と地球温暖化問題とのかかわりが今後の大きな課題とされている。
以上の状況を踏まえ、21世紀初頭の中長期的な重要課題として、次の事項があげられる。
- 地球温暖化に伴う全地球的な影響については、地上気温、海面水位等の見通しが得られつつある。我が国の対応策などの策定にあたっては、日本周辺地域でのより詳細かつ高精度な数十年から百年程度先までの地球温暖化予測の情報が必要とされている。
- 世界各国で発生する異常気象等の動向について監視し、情報の発表を行うとともに、地球温暖化とのかかわりを解明する必要がある。
- 1年程度先までの気候予報を実現することも大きな課題となっている。
このような課題を解決し、的確な気候情報を提供することは、食料の安定供給、適正な水資源管理等、社会経済活動により一層貢献することとなる。このため、先進諸国では、国家的な戦略として、世界的な異常気象の監視強化や気候予報の実現にむけた取り組みが進められている。開発途上国では、異常気象に対する脆弱性が大きく、その対策について先進諸国からの支援が求められている。
なお、オゾン層破壊については、破壊物質の規制強化が進んだものの、オゾン量の回復は21世紀半ば以降となる見通しである。極域のほか中低緯度への影響も懸念されており、引き続き観測・研究を行うことが必要である。さらに、酸性雨、砂漠化、海洋汚染等といった課題についても、人類全体の重要課題として科学的解明と対策が急がれている。
- 技術的課題と国際的な取り組み
地球温暖化や世界各地で発生する異常気象は、全地球的規模で、大気だけでなく、海洋、雪氷、陸面等が複雑にからみあって出現している。このため、未解明な点が多く、21世紀初頭においても中長期的な観点からの観測、解析、現象解明、モデル開発等、技術基盤の確立が最も重要な課題であると考えられる。
地球環境問題等に対応するため世界気象機関(WMO)は、関係国際機関の連携と、世界各国の気象機関等の協力を得て、先導的な国際的観測・監視・研究等にかかわる諸計画を推進している。その成果は、オゾン層保護や地球温暖化防止に向けた国際的な条約等の枠組み作りに大きく貢献している。
先進国の一員であるわが国に対して、引き続き国際的な諸計画に積極的に参画し、地球環境問題等の解決に向けて貢献することが内外から強く求められている。
地球温暖化の要因である二酸化炭素濃度は着実に増加しており、異常気象等への影響も懸念されている。気象庁は、わが国の気象機関として、国際協力のもと中長期的観点から監視・研究等を進める必要がある。得られた成果は、科学的に全てが解明されたものでなくとも、精度等の情報の質に留意して活用した場合には地球環境問題や異常気象対策にとって極めて重要な情報であることから、その時点における最善の情報として積極的に公表して行くべきである。
- 科学的知見と課題
- 地球科学・情報通信等における技術革新
気象庁は、常に最新の地球科学・情報通信等の技術をとりいれつつ、観測、数値予報等の技術を発展させ、天気予報、台風予報、地震・津波・火山情報等の的確な発表により国民の信頼を得てきている。
情報通信技術の発展は、社会構造自体への大きな変革をもたらすと予想されている。関係機関とのネットワーク化の促進や気象情報の周知・伝達手段の拡大等は、21世紀初頭の気象業務を考えるうえで最も重要な要素の一つである。
- 自然現象の観測・予測技術の高度化
- ア 観測技術
気象観測の分野では、ドップラーレーダー、ウィンドプロファイラー等の次世代の遠隔観測技術が実用化され、集中豪雨、乱気流等激しい気象現象の監視や予警報の精度向上に大きな役割を果たすことが期待されている。また、海洋観測の分野でも、中層までの水温・塩分等を自動観測する装置等が開発され、全世界の海洋を連続的に観測することによって気候予報の精度向上に貢献するものと期待されている。
衛星による地球観測は、静止気象衛星「ひまわり」に代表されるように地球規模の自然現象の観測・監視や研究において画期的な成果をもたらしている。特に、「ひまわり」は台風等の監視・予報に威力を発揮するとともに、アジア・太平洋諸国に画像が配信され大きな国際貢献を果たしてきている。
極軌道の地球観測衛星については、地球環境問題等の調査研究を主な目的として宇宙開発事業団(NASDA)、米国航空宇宙局(NASA)及び欧州宇宙機構(ESA)等が開発し、打ち上げを行い、観測データを世界各国の研究機関・大学等に公開している。さらに、地球環境問題等の調査研究に長期間の継続的な観測が必要であることから、これら宇宙開発機関では相互に連携・協力し、21世紀初頭10年程度の間は、大気、海洋、陸面等の主要要素をほぼ連続的に観測する計画を立てている。
- イ 予測技術
自然現象の科学的解明の進展や情報通信・データ処理技術の飛躍的な発達により、数値予報モデルやデータ同化技術に代表される気象、海洋、地震・津波等の数値シミュレーション技術が目覚ましく発展している。特に、数値予報モデルは、数十年にわたる開発の成果として、短期的な天気予報や台風の進路予報等に飛躍的な精度の向上をもたらしている。国際的にも、気象庁を始め米国・欧州等の先進国の気象機関等で数値予報モデルの開発が進められ、さらには気候予報や地球温暖化問題の解明に向けた気候モデルの開発が精力的に進められている。
- ア 観測技術
- 情報通信にかかわる技術革新
- 情報通信技術の革新
近年の情報通信関連技術の発展は目覚しいものがある。例えば、コンピュータの演算処理速度の高速化、光ケーブル・衛星通信等による通信回線の高速化・大容量化、インターネットや携帯電話等の爆発的な普及などがあげられる。さらに、情報通信の超高速化・大容量化に対応した次世代インターネット等の技術開発がわが国を始め先進諸国で進められている。また、わが国が最も進んでいる分野であるデジタル情報家電は、一般の家庭にまで普及し、急激な利用拡大が期待されている。
なお、情報化の進展とともに、情報ネットワークにおける危機管理、セキュリティー等の対策が内外において大きな課題となっている。気象業務においても、防災業務を中心として社会に与える影響が大きく、危機管理等の対策が重要である。
- 放送と通信の融合
放送においても、本年にはBSデジタル放送が開始され、さらに地上波放送やCATVについてもデジタル化が進められようとしている。このようなデジタル化技術により、きめ細かなデータの放送、多チャンネル化、双方向化が可能となる。これらにより「欲しい時に欲しい情報」が入手可能となり、市町村単位の局地的な天気予報、市町村単位の震度情報等きめ細かな気象情報が安定的に入手可能となるであろう。特に、デジタル放送は防災面で画期的なメディアとして働く能力があり、本年の放送開始を目指して番組コンテンツの開発が進められている。
以上の情報通信技術の革新により、21世紀初頭には日本全国どこでも地域差がなく、多様で、きめ細かな気象情報を利用する環境が整備され、益々その利用が拡大するものと考えられる。
- 情報通信技術の革新
- 自然現象の観測・予測技術の高度化
- 拡大する気象情報の利用
第2章 気象庁が行うべき気象業務
今般の行政改革により、新しい行財政等のシステムが検討されてきた。この中で、気象庁は、わが国全体の気象業務の健全な発達を図るため、引き続き国の機関として、気象情報を発表するとともに、必要な観測・監視体制の構築・維持に更に努めることが求められている。
- 背景
- 行政改革会議
21世紀にふさわしい、新しい行財政、社会経済等のシステムを創出するため、平成8年11月に設置された行政改革会議においては、21世紀における国家機能の在り方、それを踏まえた中央省庁等の再編の在り方及び官邸機能の強化のための具体的方策について調査・審議を進め、平成13年1月に新体制への移行開始を目指す行政改革会議最終報告を平成9年12月にとりまとめた。
気象庁については、行政改革会議最終報告では、以下のとおり記述されている。
- 現行の気象庁を継続する。
- 気象庁が行う天気予報等の社会経済活動に必要な気象情報の提供(無償)の範囲は、公的な責任として必要なものに限定する。
- 民間気象業者に対する規制(気象予報業務の許可、気象予報士の業務独占、気象測器の検定等)については、社会に対し広範な影響を及ぼすものに限定するなど必要最小限のものとし、規制緩和を進める。また、検定等については、民間の主体性にゆだねる。
- 中央省庁等改革基本法
行政改革会議最終報告の趣旨にのっとって行われる諸改革について、その基本方針を定めるとともに、その推進を目的とした中央省庁等改革基本法(以下「基本法」という。)が、平成10年6月に成立した。
気象庁については、基本法第22条に、以下のとおり規定されている。
気象庁が行う気象情報の提供は国が行う必要があるものに限定するとともに、気象業務を行う民間事業者に対する規制は必要最小限のものとし、また、気象測器に対する検定等の機能は民間の主体性にゆだねること。
- 中央省庁等改革の推進に関する方針
新たな各省設置法等の制定と併せて、平成11年4月27日に策定された「中央省庁等改革の推進に関する方針」のうち「国の行政組織等の減量、効率化等に関する基本的計画」が閣議決定されており、気象庁については、以下のとおり記述されている。
気象庁は、気象業務を行う民間事業者の負担軽減に努めるとともに、気象測器検定に関して、一定の能力を有する民間の機器検査を受けたものについては、国の検査を省略できる新制度を導入することによる減量、効率化を図る。
- 行政改革会議
- 気象庁が行うべき気象業務
- 国の行うべき事務・事業の考え方
国が実施している事務・事業については、行政改革会議最終報告で、事務・事業の民営化、民間移譲を行うとともに、それが困難な事務・事業であっても、政策の企画立案機能と実施機能の分離という基本的な考え方に立って、実施機能については、実施庁及び独立行政法人を活用し、その自律的、効率的な運営の徹底を図る等、その実施主体について所要の見直しを行うものとされている。
この場合、
- 民間の主体にゆだねることが可能なものは、極力、民間の主体にゆだねる。
- 一方、専ら強度の公権力の行使に当たるなど、国の行政機関が直接実施すべき事務・事業については、国が実施の主体となって実施する。
と整理し、かつ
- 国が実施している事務・事業の中で、上記のいずれにも該当せず、国自らが主体となって直接実施しなければならないものではないが、民間の主体にゆだねた場合には、当該事業が必ずしも実施されるという保証がなく、実施されないときには、国民生活や社会経済の安定等に著しい支障を生ずるものについては、その公共的性格にかんがみ、独立行政法人を設けて、その実施を行わせることにより、事業の確実・適正な実施を確保する。
としている。
また、次の3つの類型に該当するものは、国が自ら主体となって直接実施しなければならない事務・事業とされている。
- 私人の権利義務に直接かつ強度の制限等を及ぼす公権力の行使に当たる事務・事業
- その性質上、国が自らの名において行うのでなければ成立しない事務・事業
- 災害等国の重大な危機管理に直結し、直接国の責任において実施することが必要な事務・事業
- 気象庁が国として提供すべき気象情報
上記の考え方を踏まえ、総合的な気象業務の健全な発達を図り、気象業務の目的である災害の予防、交通の安全の確保、産業の興隆等公共の福祉を増進するため、気象庁は引き続き国の機関として、次のとおり防災及び国際的な業務を基本として、気象情報を発表すべきである。
- 注意報・警報等の防災気象情報
国、地方公共団体、企業、国民等が防災対応を行うために必要な、気象、地震、火山、津波、高潮、波浪、洪水等に関する情報
(例 気象等の注意報・警報、台風情報、地震・津波情報、火山情報、これらを補完し又は一体的に提供されることにより防災効果を高める大雨等の気象情報 等)
- 国際的な責務・貢献として作成・発表する気象情報
条約等の国際的取り決めや国際的な連携・協力により行う監視・予測等に関する情報
(例 船舶・航空機向け情報、オゾン層に関する情報、地球温暖化に関する情報 等)
気象庁は、上記①及び②の情報については、国の機関として責任を持って作成・発表して行くべきである。
また、次の③及び④については、上記の①及び②の業務を実施するに当たり必要な基盤を活用することによって、効率的に作成・発表できることから、引き続き国の機関としても実施することが適当である。
なお、気象情報に対する国民・社会からの多様化かつ増大するニーズに的確に応える観点から、これらの③及び④の情報の作成・発表については、積極的に民間活力の導入を図るべきである。
- 注意報・警報等の防災気象情報
- 国の政策等に必要な基盤的情報
農業、食糧、水資源管理、環境等の重要課題に密接に関わる情報であって、必ずしも国自らが行わなければならないものではないが、その性質上、中長期的な技術開発や先行投資が必要となるなど、民間では対応が困難なもの
(例 異常気象等に関する気候情報、季節予報 等)
- あまねく国民が享受すべき共有財産としての性格を有する気象情報
我が国全体の社会経済活動、国民生活の安定等の観点から、あまねく国民が享受すべき共有財産としての性格を有する情報であって、防災気象情報等と密接又は一体不可分な関係を有していることから、これらの業務の一環として効率的に作成・提供することが可能であるもの
(例 天気予報、週間天気予報 等)
-
自然災害から国民の生命・財産を守るために発表される防災気象情報については、社会的な混乱回避等のため、気象庁が国として一元的に発表してきている。
「重大な災害の起こるおそれのある旨を警告して行う予報」(気象業務法第2条)である警報や、「災害が起こるおそれがある場合に、その旨を注意して行う予報」(気象業務法施行令第4条)である注意報は、いずれも想定される災害の規模は異なるものの、災害の起こるおそれのある旨を伝えることを前提としており、引き続き、気象庁が一元的に発表することが適当である。
また、気象庁は、数値予報技術の高度化等による予測精度の向上等を進め、それらの成果を踏まえ、防災気象情報を一層的確に発表するため、注意報・警報の発表区域・基準等について所要の改善を進める必要がある。同時に、防災気象情報の効果を最大限に発揮するためには、国、地方公共団体、報道機関等の連携を強化する必要がある。
さらに、防災気象情報の有効活用を進めるためには、国民一人一人の気象、地震、津波、火山、海洋等の諸現象及びそれに伴う災害への理解の促進も必要不可欠である。
気象庁は、前述の気象情報を作成・発表するため、以下の観測・監視体制の構築・維持に更に努める必要がある。
- 世界気象機関(WMO)等との協力に基づく、気象、海洋、地震・津波等についての全世界的な観測網・情報通信網
(例 地上気象・高層気象観測網、気象衛星観測網、全球気象通信網 等)
- 我が国において防災気象情報を的確に発表するための基幹的な観測網・情報システム
(例 気象資料総合処理システム、アメダス、気象レーダー、静止気象衛星、気象資料伝送網、緊急防災情報ネットワーク、震度観測網、津波地震早期検知網、地震活動等総合監視システム、地震津波監視システム 等)
- 国の行うべき事務・事業の考え方